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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-04
(45)【発行日】2025-07-14
(54)【発明の名称】プロピレン樹脂組成物、および、成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20250707BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20250707BHJP
   C08L 23/08 20250101ALI20250707BHJP
【FI】
C08L23/10
C08K7/14
C08L23/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2025025275
(22)【出願日】2025-02-19
【審査請求日】2025-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2024184291
(32)【優先日】2024-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】袋田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 知也
(72)【発明者】
【氏名】亀尾 幸司
【審査官】藤原 研司
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系重合体と、無機成分と、を含み、
プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、
600℃で60分加熱したときの灰分の量が0.01質量%以上25質量%以下であり、
前記灰分を金属メッシュ(目開き0.026mm)で2回ろ過したときの灰分ろ過残渣成分の量が0.003質量%以上0.100質量%以下であり、
前記無機成分としてガラス繊維を含み、該ガラス繊維の含有量が、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、0.005質量%以上0.100質量%以下である、プロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
前記プロピレン系重合体の含有量が、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、75.000質量%以上99.995質量%以下である、請求項1に記載のプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
前記灰分の量に対する前記灰分ろ過残渣成分の量の比が、0.00012以上1以下である、請求項1に記載のプロピレン樹脂組成物。
【請求項4】
前記プロピレン系重合体としてヘテロファジックプロピレン重合材料を含む、請求項1に記載のプロピレン樹脂組成物。
【請求項5】
前記プロピレン系重合体としてリサイクルヘテロファジックプロピレン重合材料を含む、請求項1に記載のプロピレン樹脂組成物。
【請求項6】
エチレン-α-オレフィン共重合体をさらに含む、請求項1に記載のプロピレン樹脂組成物。
【請求項7】
前記エチレン-α-オレフィン共重合体の含有量が、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、1質量%以上40質量%以下である、請求項6に記載のプロピレン樹脂組成物。
【請求項8】
前記エチレン-α-オレフィン共重合体としてリサイクルエチレン-α-オレフィン共重合体を含む、請求項6に記載のプロピレン樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一つに記載のプロピレン樹脂組成物を含む、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン樹脂組成物、および、該プロピレン樹脂組成物を含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、良好な成形加工性を有すると共に、剛性、耐熱性等に優れることから、自動車用部品(例えば、バンパー等の外装部品、ドアトリム、インスツルメントパネル、エアバッグカバー等の内装部品等)、家庭用電気製品の筐体等に広く用いられている。
【0003】
近年、廃プラスチックをプラスチック製品の原料として再利用するマテリアルリサイクルへの要望が高まっており、例えば、特許文献1では、ポリプロピレン系樹脂と、無機充填材と、を含む延伸シートが、環境負荷を低減でき、リサイクルに最適であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2023/127973号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車用部品用途の一つであるエアバッグカバーには、ティアラインと呼ばれる薄肉構造が溝状に設けられており、エアバッグの膨張力によりティアライン部のみが開裂し、エアバッグが展開する構造となっている。しかしながら、従来のプロピレン樹脂組成物を含む成形体は、引き裂き強度が比較的大きいため、ティアライン部の開裂性が十分であると言えない。また、成形体には、表面が平滑であることも求められる。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、引き裂き強度が比較的小さく、かつ、表面が比較的平滑な成形体を得ることが可能なプロピレン樹脂組成物、および、該プロピレン樹脂組成物を含む成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るプロピレン樹脂組成物は、プロピレン系重合体と、無機成分と、を含み、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、600℃で60分加熱したときの灰分の量が0.01質量%以上25質量%以下であり、前記灰分を金属メッシュ(目開き0.026mm)で2回ろ過したときの灰分ろ過残渣成分の量が0.003質量%以上0.100質量%以下であり、前記無機成分としてガラス繊維を含み、該ガラス繊維の含有量が、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、0.005質量%以上0.100質量%以下である。
【0008】
本発明に係る成形体は、上述のプロピレン樹脂組成物を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、引き裂き強度が比較的小さく、かつ、表面が比較的平滑な成形体を得ることが可能なプロピレン樹脂組成物、および、該プロピレン樹脂組成物を含む成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
[プロピレン樹脂組成物]
本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物は、プロピレン系重合体と、無機成分と、を含む。
【0012】
<プロピレン系重合体>
プロピレン系重合体は、プロピレンに由来する単量体単位を50質量%以上含む重合体である。プロピレン系重合体としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンとプロピレン以外の単量体とのランダム共重合体、ヘテロファジックプロピレン重合材料等が挙げられる。本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物は、成形体の剛性および耐衝撃性を向上させる観点から、好ましくは、プロピレン系重合体としてヘテロファジックプロピレン重合材料を含む。本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物は、プロピレン系重合体を1種のみ含有してもよく、2種以上含有してもよい。
【0013】
プロピレン系重合体のアイソタクチックペンタッド分率は、好ましくは0.961以上であり、より好ましくは0.965以上であり、さらに好ましくは0.968以上である。また、プロピレン系重合体のアイソタクチックペンタッド分率は、好ましくは1.000以下であり、より好ましくは0.995以下である。
【0014】
なお、アイソタクチックペンタッド分率とは、ペンタッド単位での、アイソタクチック分率を意味する。すなわち、アイソタクチックペンタッド分率は、ペンタッド単位でみたときに、プロピレンに由来する単量体単位が5個連続してメソ結合した構造の含有割合を示す。なお、対象の成分が共重合体である場合には、プロピレンに由来する単量体単位の連鎖について測定される値をいう。
【0015】
アイソタクチックペンタッド分率は、13C-NMRスペクトルで測定される値である。具体的には、13C-NMRスペクトルによって得られるメチル炭素領域の全吸収ピークの面積に対するmmmmピークの面積の比を、アイソタクチックペンタッド分率とする。なお、13C-NMRスペクトルによるアイソタクチックペンタッド分率の測定方法は、例えば、A.ZambelliらによるMacromolecules,6,925(1973)に記載されている。ただし、13C-スペクトルによって得られる吸収ピークの帰属は、Macromolecules,8,687(1975)の記載に基づくものとする。
【0016】
プロピレン系重合体のアイソタクチックペンタッド分率は、触媒、ドナー、重合条件等を適切に選択することにより、上記の範囲に調整することができる。また、市販品から、適宜、所望のアイソタクチックペンタッド分率を有するプロピレン系重合体を入手することもできる。
【0017】
プロピレン系重合体の含有量は、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、好ましくは75.000質量%以上であり、より好ましくは80.000質量%以上である。また、プロピレン系重合体の含有量は、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、好ましくは99.995質量%以下であり、より好ましくは99.900質量%以下である。
【0018】
(プロピレン単独重合体)
プロピレン単独重合体は、極限粘度数([η])が、プロピレン樹脂組成物の溶融時の流動性および成形体の靭性を向上させる観点から、好ましくは0.10dL/g以上4.00dL/g以下であり、より好ましくは0.50dL/g以上3.00dL/g以下であり、さらに好ましくは0.70dL/g以上2.00dL/g以下である。
【0019】
なお、本明細書において、極限粘度数(単位:dL/g)は、以下の方法によって、テトラリンを溶媒として用いて、温度135℃で測定される値である。
【0020】
ウベローデ型粘度計を用いて濃度0.1g/dL、0.2g/dLおよび0.5g/dLの3点について還元粘度を測定する。還元粘度を濃度に対しプロットし、濃度をゼロに外挿する外挿法により、極限粘度数を求める。外挿法による極限粘度数の計算方法は、例えば、「高分子溶液、高分子実験学11」(1982年共立出版株式会社刊)第491頁に記載されている。
【0021】
プロピレン単独重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは4.0以上である。プロピレン単独重合体の分子量分布は、好ましくは15.0以下であり、より好ましくは10.0以下である。プロピレン単独重合体の分子量分布は、好ましくは3.0以上15.0以下であり、より好ましくは4.0以上10.0以下である。
【0022】
なお、本明細書において、分子量分布は、下記条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を用いて算出される、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)を意味する。
装置:東ソー株式会社製 HLC-8121 GPC/HT
分離カラム:東ソー株式会社製 GMHHR-H(S)HT 3本
測定温度:140℃
キャリア:オルトジクロロベンゼン
流量:1.0mL/分
試料濃度:約1mg/mL
試料注入量:400μL
検出器:示差屈折
検量線作成方法:標準ポリスチレンを使用
【0023】
プロピレン単独重合体は、例えば、重合触媒を用いてプロピレンを重合する重合工程を行うことにより製造できる。
【0024】
重合触媒としては、例えば、チーグラー型触媒;チーグラー・ナッタ型触媒;シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属の化合物およびアルキルアルミノキサンを含む触媒;シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属の化合物、当該遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成する化合物および有機アルミニウム化合物を含む触媒;並びに無機粒子(シリカ、粘土鉱物等)に、触媒成分(シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属の化合物、イオン性の錯体を形成する化合物、有機アルミニウム化合物等)を担持して、変性させた触媒等が挙げられる。
【0025】
前記重合触媒としては、例えば、特開昭61-218606号公報、特開平5-194685号公報、特開平7-216017号公報、特開平9-316147号公報、特開平10-212319号公報、特開2004-182981号公報、特開2010-168545号公報、特開2011-246699号公報等に記載の触媒等が挙げられる。
【0026】
また、前記重合触媒の存在下でプロピレンを予備重合させて得られた重合体を、重合触媒として用いることもできる。
【0027】
重合方法としては、例えば、バルク重合、溶液重合、気相重合等が挙げられる。ここで、バルク重合とは、重合温度において液状のオレフィンを媒体として重合を行う方法をいう。溶液重合とは、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の不活性炭化水素溶媒中で重合を行う方法をいう。また、気相重合とは、気体状態の単量体を媒体として、その媒体中で気体状態の単量体を重合する方法をいう。
【0028】
重合方式としては、例えば、バッチ式、連続式およびこれらの組み合わせが挙げられる。重合方式は、複数の重合反応槽を直列に連結させた多段式であってもよい。
【0029】
重合方法は、工業的および経済的に優れる観点から、好ましくは、連続式の気相重合法、または、バルク重合法と気相重合法とを連続的に行うバルク-気相重合法である。
【0030】
重合工程における各種条件(重合温度、重合圧力、単量体濃度、触媒投入量、重合時間等の重合条件)は、目的とする重合体の分子構造に応じて、適宜決定すればよい。
【0031】
プロピレン単独重合体の製造方法では、重合工程の前または後に他の工程が実施されてもよい。例えば、重合工程の後、重合体中に含まれる残留溶媒、製造時に副生する超低分子量のオリゴマー等を除去するために、必要に応じて重合体を、重合体が融解する温度以下の温度で乾燥してもよい。乾燥方法としては、例えば、特開昭55-75410号公報、特許第2565753号公報等に記載の方法等が挙げられる。
【0032】
(プロピレンとプロピレン以外の単量体とのランダム共重合体)
プロピレンとプロピレン以外の単量体とのランダム共重合体は、プロピレンに由来する単量体単位とプロピレン以外の単量体に由来する単量体単位とを含有する。前記ランダム共重合体は、該共重合体の全質量100質量%に対して、好ましくは、プロピレン以外の単量体に由来する単量体単位を0.01質量%以上20質量%以下含有する。
【0033】
プロピレン以外の単量体としては、例えば、エチレン、炭素原子数4~12のα-オレフィン等が挙げられる。本明細書において、α-オレフィンは、α位に炭素-炭素不飽和二重結合を有する脂肪族不飽和炭化水素である。炭素原子数4~12のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン等が挙げられる。
【0034】
プロピレン以外の単量体は、好ましくは、エチレンおよび炭素原子数4~10のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種であり、より好ましくは、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセンおよび1-オクテンからなる群より選択される少なくとも一種であり、さらに好ましくは、エチレンおよび1-ブテンからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0035】
プロピレンとプロピレン以外の単量体とのランダム共重合体としては、例えば、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-1-ヘキセンランダム共重合体、プロピレン-1-オクテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-1-オクテンランダム共重合体等が挙げられる。
【0036】
プロピレンとプロピレン以外の単量体とのランダム共重合体は、極限粘度数([η])が、プロピレン樹脂組成物の溶融時の流動性を向上させる観点から、好ましくは、0.10dL/g以上4.00dL/g以下であり、より好ましくは0.50dL/g以上3.00dL/g以下であり、さらに好ましくは、0.70dL/g以上2.00dL/g以下である。
【0037】
プロピレンとプロピレン以外の単量体とのランダム重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは4.0以上である。プロピレンとプロピレン以外の単量体とのランダム重合体の分子量分布は、好ましくは10.0以下であり、より好ましくは7.0以下である。プロピレンとプロピレン以外の単量体とのランダム重合体の分子量分布は、好ましくは3.0以上10.0以下であり、より好ましくは4.0以上7.0以下である。
【0038】
プロピレンとプロピレン以外の単量体とのランダム共重合体は、例えば、上述のプロピレン単独重合体の製造において使用できる重合触媒、重合方法、重合方式、および、重合条件に従って、プロピレンおよびプロピレン以外の単量体を重合することにより製造できる。
【0039】
(ヘテロファジックプロピレン重合材料)
ヘテロファジックプロピレン重合材料は、プロピレンに由来する単量体単位を80質量%以上含有する重合体I(ただし、該重合体Iの全質量を100質量%とする。)と、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種のα-オレフィンに由来する単量体単位とプロピレンに由来する単量体単位とを含有する重合体IIと、を含む混合物である。
【0040】
ヘテロファジックプロピレン重合材料は、例えば、重合体Iを重合する第1の重合工程と、重合体IIを重合する第2の重合工程を実施することにより製造することができる。これらの重合工程は、上述のプロピレン単独重合体の製造において使用できる重合触媒、重合方法、重合方式、および、重合条件に従って実施することができる。
【0041】
ヘテロファジックプロピレン重合材料は、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量100質量%に対して、ヘテロファジックプロピレン重合材料に含まれる重合体Iと重合体IIとの合計が100質量%であってもよい。
【0042】
上述したように、重合体Iは、プロピレンに由来する単量体単位を80質量%以上含有する(ただし、重合体Iの全質量を100質量%とする)。重合体Iは、例えば、プロピレン単独重合体であってもよく、プロピレン以外の単量体に由来する単量体単位を含んでいてもよい。重合体Iが、プロピレン以外の単量体に由来する単量体単位を含む場合、この含有量は、重合体Iの全質量100質量%に対して、例えば、0.01質量%以上20質量%未満であってもよい。
【0043】
プロピレン以外の単量体としては、例えば、エチレンおよび炭素原子数4以上のα-オレフィンが挙げられる。炭素原子数4以上のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン等が挙げられる。
【0044】
プロピレン以外の単量体は、好ましくは、エチレンおよび炭素原子数4~10のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種であり、より好ましくは、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセンおよび1-オクテンからなる群より選択される少なくとも一種であり、さらに好ましくは、エチレンおよび1-ブテンからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0045】
プロピレン以外の単量体に由来する単量体単位を含む重合体Iとしては、例えば、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体等が挙げられる。
【0046】
重合体Iは、成形体の寸法安定性を良好にする観点から、好ましくは、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、または、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体であり、より好ましくは、プロピレン単独重合体である。
【0047】
重合体Iのアイソタクチックペンタッド分率は、好ましくは1.000以下であり、例えば、0.998以下であってもよく、0.995以下であってもよく、0.990以下であってもよく、0.985以下であってもよい。アイソタクチックペンタッド分率の下限は特に限定されないが、例えば、0.900以上であってもよく、0.925以上であってもよく、0.930以上であってもよく、0.961以上であってもよく、0.965以上であってもよく、0.968以上であってもよい。
【0048】
重合体Iの含有量は、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量100質量%に対して、好ましくは50質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは60質量%以上95質量%以下である。
【0049】
上述したように、重合体IIは、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種のα-オレフィンに由来する単量体単位とプロピレンに由来する単量体単位とを含有する。炭素原子数4~12のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン等が挙げられる。
【0050】
重合体IIは、好ましくは、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種のα-オレフィンに由来する単量体単位を30質量%以上含有し、かつ、プロピレンに由来する単量体単位を含有する(ただし、重合体IIの全質量を100質量%とする)。
【0051】
重合体IIにおいて、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種のα-オレフィンに由来する単量体単位の含有量は、30質量%以上70質量%以下であってもよく、35質量%以上60質量%以下であってもよい(ただし、重合体IIの全質量を100質量%とする)。
【0052】
重合体IIにおいて、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種のα-オレフィンは、好ましくは、エチレンおよび炭素原子数4~10のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種であり、より好ましくは、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンおよび1-デセンからなる群より選択される少なくとも一種であり、さらに好ましくは、エチレンおよび1-ブテンからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0053】
重合体IIとしては、例えば、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-デセン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-1-デセン共重合体等が挙げられる。これらの中でも、重合体IIは、好ましくは、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、または、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体であり、より好ましくは、プロピレン-エチレン共重合体である。
【0054】
重合体IIの含有量は、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量100質量%に対して、好ましくは1質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上40質量%以下である。
【0055】
ヘテロファジックプロピレン重合材料において、エチレンおよび炭素原子数4~12のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種のα-オレフィンに由来する単量体単位の含有量は、0.3質量%以上35質量%以下であってよく、0.7質量%以上24質量%以下であってもよい(ただし、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量を100質量%とする)。
【0056】
ヘテロファジックプロピレン重合材料中のキシレン不溶成分(CXIS成分)の含有量は、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量100質量%に対して、好ましくは50質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは60質量%以上95質量%以下である。
【0057】
ヘテロファジックプロピレン重合材料中のキシレン可溶成分(CXS成分)の含有量は、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量100質量%に対して、好ましくは1質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上40質量%以下である。
【0058】
なお、本明細書において、キシレン不溶成分(CXIS成分)は、重合体に含まれるp-キシレンに不溶な成分であって、下記方法により得られる固形物を意味する:
重合体約2gを、沸騰しているp-キシレン中で2時間溶解して溶液を得、次いで、該溶液を20℃まで冷却することにより、固形物を析出させる方法。
【0059】
また、本明細書において、キシレン可溶成分(CXS成分)は、重合体中の「CXIS成分」以外の成分を意味する。
【0060】
本実施形態において、ヘテロファジックプロピレン重合材料中のCXIS成分は、主として重合体Iから構成され、ヘテロファジックプロピレン重合材料中のCXS成分は、主として重合体IIから構成されると考えられる。
【0061】
ヘテロファジックプロピレン重合材料としては、例えば、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-1-ブテン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-1-ヘキセン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-1-デセン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-デセン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-ブテン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-ヘキセン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-デセン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-デセン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-ブテン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-ヘキセン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-デセン)重合材料、(プロピレン-1-ヘキセン)-(プロピレン-1-ヘキセン)重合材料、(プロピレン-1-ヘキセン)-(プロピレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン-1-ヘキセン)-(プロピレン-1-デセン)重合材料、(プロピレン-1-オクテン)-(プロピレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン-1-オクテン)-(プロピレン-1-デセン)重合材料等が挙げられる。
【0062】
ここで、「(プロピレン)-(プロピレン-エチレン)重合材料」との記載は、「重合体Iがプロピレン単独重合体であり、重合体IIがプロピレン-エチレン共重合体であるヘテロファジックプロピレン重合材料」を意味する。他の類似の表現においても同様である。
【0063】
ヘテロファジックプロピレン重合材料は、好ましくは、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)重合材料、または、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-ブテン)重合材料であり、より好ましくは、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン)重合材料である。
【0064】
重合体Iの極限粘度数([η]I)は、好ましくは0.10dL/g以上4.00dL/g以下であり、より好ましくは0.50dL/g以上3.00dL/g以下であり、さらに好ましくは0.70dL/g以上2.00dL/g以下である。
【0065】
重合体IIの極限粘度数([η]II)は、好ましくは1.00dL/g以上10.00dL/g以下であり、より好ましくは2.00dL/g以上10.00dL/g以下であり、さらに好ましくは2.00dL/g以上9.00dL/g以下である。
【0066】
また、重合体Iの極限粘度数([η]I)に対する重合体IIの極限粘度数([η]II)の比([η]II/[η]I)は、好ましくは1以上20以下であり、より好ましくは1以上10以下である。
【0067】
重合体Iの極限粘度数([η]I)の測定方法としては、例えば、重合体Iを重合する反応器から重合された重合体Iを抜き出し、当該重合体の極限粘度数を測定する方法が挙げられる。
【0068】
重合体IIの極限粘度数([η]II)は、例えば、ヘテロファジックプロピレン重合材料の極限粘度数([η]Total)、重合体Iの極限粘度数([η]I)、並びに、重合体IIおよび重合体Iの含有量を用いて、下記式(i)により算出できる。
【0069】
[η]II=([η]Total-[η]I×XI)/XII ・・・(i)
[η]Total:ヘテロファジックプロピレン重合材料の極限粘度数(dL/g)
[η]I:重合体Iの極限粘度数(dL/g)
XI:ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量に対する重合体Iの質量の比(重合体Iの質量/ヘテロファジックプロピレン重合材料の質量)
XII:ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量に対する重合体IIの質量の比(重合体IIの質量/ヘテロファジックプロピレン重合材料の質量)
【0070】
ここで、XIおよびXIIは、重合時の物質収支から求めることができる。
【0071】
なお、XIIは、重合体Iの融解熱量およびヘテロファジックプロピレン重合材料の融解熱量を測定し、下記式を用いて算出してもよい。
XII=1-(ΔHf)T/(ΔHf)P
(ΔHf)T:ヘテロファジックプロピレン重合材料の融解熱量(J/g)
(ΔHf)P:重合体Iの融解熱量(J/g)
【0072】
CXIS成分の極限粘度数([η]CXIS)は、好ましくは0.10dL/g以上4.00dL/g以下であり、より好ましくは0.50dL/g以上3.00dL/g以下であり、さらに好ましくは0.70dL/g以上2.00dL/g以下である。
【0073】
CXS成分の極限粘度数([η]CXS)は、好ましくは1.00dL/g以上10.00dL/g以下であり、より好ましくは2.00dL/g以上10.00dL/g以下であり、さらに好ましくは2.00dL/g以上9.00dL/g以下である。
【0074】
CXIS成分の極限粘度数([η]CXIS)に対するCXS成分の極限粘度数([η]CXS)の比([η]CXS/[η]CXIS)は、好ましくは1以上20以下であり、より好ましくは1以上10以下である。
【0075】
重合体Iの分子量分布(Mw(I)/Mn(I))は、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは4.0以上である。
【0076】
CXIS成分の分子量分布(Mw(CXIS)/Mn(CXIS))は、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは4.0以上である。
【0077】
プロピレン系重合体のメルトフローレート(MFR)は、プロピレン樹脂組成物の成形加工性を良好にする観点から、好ましくは0.1g/10分以上であり、より好ましくは1g/10分以上300g/10分以下である。プロピレン系重合体のメルトフローレート(MFR)は、5g/10分以上100g/10分以下であってもよく、10g/10分以上50g/10分以下であってもよい。
【0078】
なお、本明細書において、プロピレン系重合体のメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210-1995に規定された方法に従い、温度230℃、荷重2.16kgの条件で、A法により測定される。
【0079】
本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物は、プロピレン系重合体としてリサイクルヘテロファジックプロピレン重合材料を含んでいてもよい。リサイクルヘテロファジックプロピレン重合材料は、一旦、成形等の加工が施された後に、あるいは何らかの最終用途に使用された後に、回収工程を経て、再使用されるヘテロファジックプロピレン重合材料を意味する。他の「リサイクルxxx」も同様である。
【0080】
<無機成分>
無機成分としては、例えば、タルク、ガラス繊維、グラスウール、ロックウール、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、バリウム・フェライト、ストロンチウム・フェライト、酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸塩鉱物、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩基性硫酸マグネシウム、亜硫酸カルシウム、カーボンブラック、硫化カドミウム、石英紛、珪藻土、ホワイトカーボン、カオリンクレー、焼成クレー、マイカ、ベントナイト、ウォラストナイト、ゼオライト、ハイドロタルサイト、ドロマイト、バライト、石膏、チタン酸カリ等が挙げられる。本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物は、無機成分としてガラス繊維を含む。また、本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物は、一の態様において、無機成分としてタルクおよびガラス繊維を含む。
【0081】
(タルク)
タルクは、パイロフィライト型三層構造の結晶構造を有する含水ケイ酸マグネシウムである。
【0082】
タルクは、好ましくは、含水ケイ酸マグネシウムを粉砕したものであり、より好ましくは、含水ケイ酸マグネシウムの分子の結晶を単位層程度にまで微粉砕して得られた平板状の粒子である。
【0083】
タルクの平均粒子径は、好ましくは3μm以下である。ここで、タルクの平均粒子径とは、遠心沈降式粒度分布測定装置を用いて水またはアルコールである分散媒中に懸濁させて測定した篩下法の積分分布曲線から求めた50%相当粒子径D50のことを意味する。
【0084】
タルクは、無処理のまま使用してもよいし、プロピレン系重合体との界面接着性を向上させるために、または、プロピレン系重合体への分散性を向上させるために、公知の各種の界面活性剤で表面を処理して使用してもよい。界面活性剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩類等が挙げられる。
【0085】
タルクの含有量は、コストを抑えつつ、自動車材料、産業材等の良好な機械強度を得る観点から、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、0.1質量%以上50質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上30質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上25質量%以下である。
【0086】
(ガラス繊維)
ガラス繊維の材料は特に限定されず、任意のガラスを用いることができる。ガラス繊維の材料としては、例えば、Eガラス(無アルカリガラス)、Aガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス等が挙げられ、これらの中でも好ましくはEガラスである。ガラス繊維としては、任意の製造方法により製造されたものを用いることができる。
【0087】
ガラス繊維として、グラスウールを用いてもよいし、ガラスストランドを裁断して得られる、いわゆるチョップドストランドとよばれるガラス繊維を用いてもよい。プロピレン樹脂組成物を含む成形体の剛性の向上効果および衝撃強度の向上効果をより高める観点から、好ましくはチョップドストランドを用いる。ガラス繊維としては、市販品を用いることができる。
【0088】
ガラス繊維の平均繊維径は、3μm以上であってもよく、25μm以下であってもよい。ガラス繊維の平均繊維径は、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは8μm以上であり、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは16μm以下である。
【0089】
ガラス繊維の重量平均繊維長は、好ましくは100μm以上であり、より好ましくは200μm以上である。ガラス繊維の重量平均繊維長は、好ましくは2000μm以下であり、より好ましくは1000μm以下である。
【0090】
ガラス繊維のアスペクト比(重量平均繊維長/平均繊維径)は20以上であってもよく、60以下であってよい。ガラス繊維のアスペクト比は、好ましくは25以上であり、より好ましくは30以上であり、好ましくは58以下であり、より好ましくは55以下である。
【0091】
プロピレン樹脂組成物に含まれるガラス繊維の平均繊維径、重量平均繊維長、および、アスペクト比は、下記方法により測定できる。
【0092】
プロピレン樹脂組成物2gを、沸騰しているp-キシレン中で2時間溶解して、ガラス繊維を含む、キシレン不溶成分を得る。次いで、キシレン不溶成分中のガラス繊維を、マイクロスコープを用いて観察し、ガラス繊維200本の長さおよび径を測定する。ガラス繊維200本についての重量平均繊維長および平均繊維径を算出し、重量平均繊維長の平均繊維径に対する比を、プロピレン樹脂組成物に含まれるガラス繊維のアスペクト比とする。
【0093】
プロピレン樹脂組成物に含まれるガラス繊維は、二種以上の任意の比率の組み合わせのガラス繊維であってもよい。したがって、プロピレン樹脂組成物の原料となるガラス繊維として、一種単独のガラス繊維を用いてもよく、二種以上の任意の比率の組み合わせのガラス繊維を用いてもよい。
【0094】
ガラス繊維は、集束剤および/または表面処理剤により処理されたものであってもよい。ガラス繊維は、プロピレン系重合体への分散性の向上等の観点から、好ましくは、表面処理剤により表面処理がされている。表面処理剤としては、例えば、有機シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤、ジルコネートカップリング剤、シリコーン化合物、高級脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0095】
有機シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0096】
チタネートカップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル)チタネート等が挙げられる。
【0097】
アルミネートカップリング剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0098】
ジルコネートカップリング剤としては、例えば、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル)ブチル、ジ(トリデシル)ホスファイトジルコネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシトリネオデカノイルジルコネート等が挙げられる。
【0099】
前記シリコーン化合物としては、シリコーンオイル、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0100】
高級脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、カプリン酸、ラウリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸、リノール酸、ロジン酸、リノレン酸、ウンデカン酸、ウンデセン酸等が挙げられる。
【0101】
高級脂肪酸金属塩としては、例えば、炭素原子数が9個以上の脂肪酸(例、ステアリン酸、モンタン酸)のナトリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、高級脂肪酸金属塩は、好ましくは、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、モンタン酸カルシウム、または、モンタン酸ナトリウムである。
【0102】
脂肪酸エステルとしては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル等の多価アルコール脂肪酸エステル、アルファスルホ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0103】
前記表面処理剤の使用量は、特に制限されず、ガラス繊維100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上5質量部以下であり、より好ましくは0.1質量部以上3質量部以下である。
【0104】
ガラス繊維は、集束剤で処理されていてもよい。集束剤の処理により、ガラス繊維が結束し得る。集束剤としては、例えば、エポキシ系集束剤、芳香族ウレタン系集束剤、脂肪族ウレタン系集束剤、アクリル系集束剤、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系集束剤等が挙げられる。集束剤は、好ましくは、オレフィン系重合体Aとの溶融混練の温度において融解するものであり、より好ましくは、200℃以下で溶融するものである。
【0105】
ガラス繊維の含有量は、引き裂き強度が小さく、かつ、表面が平滑な成形体を得る観点から、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、0.005質量%以上0.100質量%以下であり、好ましくは、0.005質量%以上0.05質量%以下である。
【0106】
<エチレン-α-オレフィン共重合体>
本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物は、一態様として、エチレン-α-オレフィン共重合体をさらに含む。本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物は、エチレン-α-オレフィン共重合体としてリサイクルエチレン-α-オレフィン共重合体を含んでいてもよい。
【0107】
エチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレン-α-オレフィンランダム共重合体であってもよい。なお、エチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレンに由来する単量体単位と、炭素原子数4以上のα-オレフィンに由来する単量体単位と、を含有する共重合体であり、プロピレンに由来する単量体単位を実質的に含まないものを意味する。
【0108】
エチレン-α-オレフィン共重合体は、該共重合体の全質量100質量%に対して、エチレンに由来する単量体単位の含有量、および、炭素原子数4以上のα-オレフィンに由来する単量体単位の含有量の合計が100質量%であってもよい。
【0109】
炭素原子数4以上のα-オレフィンとしては、例えば、炭素原子数4~12のα-オレフィンが挙げられる。炭素原子数4~12のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン等が挙げられる。炭素原子数4~12のα-オレフィンは、好ましくは、1-ブテン、1-ヘキセン、または、1-オクテンである。炭素原子数4~12のα-オレフィンは、ビニルシクロプロパン、ビニルシクロブタン等の環状構造を有するα-オレフィンであってもよい。
【0110】
エチレン-α-オレフィン共重合体としては、例えば、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-1-デセン共重合体、エチレン-(3-メチル-1-ブテン)共重合体、エチレンと環状構造を有するα-オレフィンとの共重合体等が挙げられる。
【0111】
エチレン-α-オレフィン共重合体において、炭素原子数4以上のα-オレフィンに由来する単量体単位の含有量は、エチレン-α-オレフィン共重合体の全質量100質量%に対して、好ましくは1質量%以上49質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上49質量%以下であり、さらに好ましくは24質量%以上49質量%以下である。
【0112】
エチレン-α-オレフィン共重合体の密度は、成形体の耐衝撃性の観点から、好ましくは0.850g/cm以上0.890g/cm以下であり、より好ましくは0.850g/cm以上0.880g/cm以下であり、さらに好ましくは0.850g/cm以上0.870g/cm以下である。
【0113】
エチレン-α-オレフィン共重合体の温度190℃、荷重2.16kgでのメルトフローレートは、好ましくは、0.1g/10分以上80g/10分以下である。エチレン-α-オレフィン共重合体のメルトフローレートは、JIS K7210-1995に規定された方法に従い、温度190℃、荷重2.16kgの条件で、A法により測定することができる。
【0114】
エチレン-α-オレフィン共重合体の含有量は、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上である。また、エチレン-α-オレフィン共重合体の含有量は、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。
【0115】
エチレン-α-オレフィン共重合体は、重合触媒を用いて、エチレンおよび炭素原子数4以上のα-オレフィンを重合することにより製造できる。
【0116】
重合触媒としては、例えば、メタロセン触媒に代表される均一系触媒、チーグラー・ナッタ型触媒等が挙げられる。
【0117】
均一系触媒としては、例えば、シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属の化合物およびアルキルアルミノキサンを含む触媒;シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属の化合物、当該遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成する化合物および有機アルミニウム化合物を含む触媒;並びに無機粒子(シリカ、粘土鉱物等)に、触媒成分(シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属の化合物、イオン性の錯体を形成する化合物、有機アルミニウム化合物等)を担持して変性させた触媒等が挙げられる。
【0118】
チーグラー・ナッタ型触媒としては、例えば、チタン含有固体状遷移金属成分と有機金属成分とを組み合わせた触媒等が挙げられる。
【0119】
エチレン-α-オレフィン共重合体としては、市販品を用いてもよい。市販のエチレン-α-オレフィン共重合体としては、例えば、ダウ・ケミカル日本株式会社製エンゲージ(登録商標)、三井化学株式会社製タフマー(登録商標)、株式会社プライムポリマー製ネオゼックス(登録商標)、ウルトゼックス(登録商標)、住友化学株式会社製エクセレンFX(登録商標)、スミカセン(登録商標)、エスプレンSPO(登録商標)等が挙げられる。
【0120】
本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物は、上記以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、有機充填材、熱可塑性樹脂(ポリスチレン類(例えばポリスチレン、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリ(α-メチルスチレン)、AS(アクリロニトリル/スチレン共重合)樹脂)、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合)樹脂、AAS(特殊アクリルゴム/アクリロニトリル/スチレン共重合)樹脂、ACS(アクリロニトリル/塩素化ポリエチレン/スチレン共重合)樹脂、ポリクロロプレン、塩素化ゴム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、エチレン/ビニルアルコール共重合樹脂、フッ素樹脂、ポリアセタール、グラフト化ポリフェニレンエーテル樹脂およびポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリエステル樹脂、ポリブタジエン、1,2-ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン/ブタジエン共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体、天然ゴム等)、エポキシ樹脂、ジアリルフタレートプリポリマー、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム、さらにはバイオ原料から抽出された植物由来のモノマーを重合して製造されるPLA樹脂(ポリ乳酸)、中和剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、造核剤、滑剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、加工助剤、有機系過酸化物、着色剤(無機顔料、有機顔料、顔料分散剤等)、発泡剤、発泡核剤、可塑剤、難燃剤、架橋剤、架橋助剤、高輝度化剤、抗菌剤、光拡散剤、光安定剤等が挙げられる。
【0121】
有機充填材としては、例えば、ポリエステル、芳香族ポリアミド、セルロース、ビニロン等が挙げられる。
【0122】
<灰分>
本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物は、引き裂き強度が小さく、かつ、表面が平滑な成形体を得る観点から、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、600℃で60分加熱したときの灰分の量が0.01質量%以上25質量%以下である。前記灰分の量は、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上である。また、前記灰分の量は、好ましくは22質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。
【0123】
灰分の量は以下の方法により求められる。まず、ルツボを、電気炉を用いて600℃で60分加熱し、ルツボを取り出してデシケーター中で60分冷却した後に精密天秤で秤量する。ペレットをルツボに30g秤量し、電気炉を用いて600℃で60分加熱し、完全灰化させる。次いで、ルツボをデシケーター中で1時間冷却した後に精密天秤で灰分の質量を0.01mg単位まで測定し、プロピレン樹脂組成物に対する灰分の量(質量%)を算出する。
【0124】
本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物において、灰分には、例えば、前記無機成分が含まれると考えられる。
【0125】
<灰分ろ過残渣成分>
本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物は、引き裂き強度が小さく、かつ、表面が平滑な成形体を得る観点から、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、前記灰分を金属メッシュ(目開き0.026mm)でろ過したときの灰分ろ過残渣成分の量が0.003質量%以上0.100質量%以下である。前記灰分ろ過残渣成分の量は、引き裂き強度が小さい成形体を得る観点から、好ましくは0.005質量%以上であり、より好ましくは0.007質量%以上である。また、前記灰分ろ過残渣成分の量は、表面が平滑な成形体を得る観点から、好ましくは0.090質量%以下であり、より好ましくは0.070質量%以下である。
【0126】
灰分ろ過残渣成分の量は、以下の方法により求められる。まず、金属メッシュ(株式会社三共金網製作所製:綾織500メッシュ、JIS-G3555で定義された標準線径0.025mmΦ、目開き0.026mm、空間率26%)を、精密天秤で質量を0.01mg単位まで測定する。前述の方法で得られた灰分全量を、乳鉢を用いて約1000gの加重で毎分約140回転の速度で120回転させてすり潰す。十分にすり潰されているかは、試料と同様に調整した溶液を、金属メッシュ(目開き0.850mm)でろ過して残渣が残らないことで確認する。その後、1g/100mlになるように調整したエタノールに入れ、超音波洗浄機にて10分間拡散した溶液を得る。得られた溶液を、灰分が凝集しない30秒以内のうちにすばやく、前述の金属メッシュでろ過したのち、金属メッシュ上を約50mLのエタノールで満遍なく洗い流して洗浄する。次に、得られたろ液を、再度前述の金属メッシュでろ過したのち、金属メッシュ上を約50mLのエタノールで満遍なく洗浄する。その後、約10mLのアセトンでリンスする。次に、ろ過した金属メッシュを50℃で30分真空乾燥し、乾燥後の金属メッシュの質量を0.01mg単位まで測定し、下式にて、ペレット仕込み量(30g)に対する灰分ろ過残渣成分の量(質量%)を算出する。
灰分ろ過残渣成分の量(質量%)=(ろ過後の金属メッシュ質量(g)-ろ過前の金属メッシュ質量(g))/仕込み量(g)×100
【0127】
本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物において、灰分ろ過残渣成分には、例えば、ガラス繊維が含まれると考えられる。
【0128】
本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物において、前記灰分の量に対する前記灰分ろ過残渣成分の量の比は、引き裂き強度が小さく、かつ、表面が平滑な成形体を得る観点から、好ましくは、0.00012以上1以下であり、より好ましくは、0.001以上1以下であり、さらに好ましくは、0.01以上1以下である。
【0129】
プロピレン樹脂組成物のメルトフローレート(MFR、温度230℃、荷重2.16kg)は、好ましくは1g/10分以上100g/10分以下であり、より好ましくは12g/10分以上70g/10分以下であり、さらに好ましくは15g/10分以上40g/10分以下である。プロピレン樹脂組成物のMFRは、成形加工性を向上させる観点から、好ましくは10g/10分以上である。プロピレン樹脂組成物のMFRは、得られる成形体の衝撃強度を向上させる観点から、好ましくは100g/10分以下である。
【0130】
プロピレン樹脂組成物の比重は、好ましくは1.30以下であり、より好ましくは1.20以下であり、さらに好ましくは1.10以下である。また、プロピレン樹脂組成物の比重は、好ましくは0.80以上であり、より好ましくは0.85以上であり、さらに好ましくは0.90以上である。なお、比重は、JIS K7112に記載のA法である水中置換法にて測定される。
【0131】
本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物は、プロピレン系重合体、無機成分、並びに、必要に応じて、エチレン-α-オレフィン共重合体、および、他の成分を溶融混練することにより得られる。
【0132】
溶融混練時の温度は、180℃以上であってもよく、180℃以上300℃以下であってもよく、180℃以上250℃以下であってもよい。
【0133】
溶融混練には、バンバリーミキサー、単軸押出機、二軸同方向回転押出機等を使用することができる。
【0134】
各原料成分の混練順序は、特に限定されるものではない。例えば、全成分を一括に混練してもよく、一部の成分を混練した後、得られた混練物と他の成分とを混練してもよい。
【0135】
本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物を製造する際、その他の任意の工程を含んでいてもよい。任意の工程としては、例えば、破砕工程、精製工程、ペレット形態への成形工程等が挙げられる。精製工程としては、例えば、水、水性および/または油性薬剤による洗浄、微生物処理、磁力選別、比重選別等が挙げられる。成形工程としては、特に限定されるものではなく、例えば、射出成形等が挙げられる。
【0136】
このようにして得られたプロピレン樹脂組成物の形状は、特に制限されるものではなく、例えば、ストランド状、シート状、平板状、または、ペレット状の形態であってもよい。ペレット状の樹脂組成物は、例えば、ストランド状の樹脂組成物を形成した後、これを適当な長さに裁断することにより製造できる。
【0137】
プロピレン樹脂組成物の成形加工性、および、成形体を製造する場合の生産安定性を向上させる観点から、成形体に成形加工する前のプロピレン樹脂組成物の形状は、好ましくは、長さが1~50mm程度のペレット状である。
【0138】
本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物は、プロピレン系重合体と、無機成分と、を含み、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、600℃で60分加熱したときの灰分の量が0.01質量%以上25質量%以下であり、前記灰分を金属メッシュ(目開き0.026mm)で2回ろ過したときの灰分ろ過残渣成分の量が0.003質量%以上0.100質量%以下であることにより、引き裂き強度が比較的小さく、かつ、表面が比較的平滑な成形体を得ることができる。また、本実施形態に係るプロピレン樹脂組成物は、易解体性に比較的優れた成形体を得ることができるため、該成形体を好適にリサイクルすることができる。
【0139】
<成形体>
本実施形態に係る成形体は、上述のプロピレン樹脂組成物を含む。すなわち、上述のプロピレン樹脂組成物は、成形して成形体を形成させるための材料として用いることができる。上述のプロピレン樹脂組成物は、好ましくは、射出成形用材料として用いることができる。以下、プロピレン樹脂組成物を射出成形用材料として用いて製造される射出成形体の一例について説明する。
【0140】
射出成形体は、射出成形法により製造できる。射出成形法としては、例えば、一般的な射出成形法、射出発泡成形法、超臨界射出発泡成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、ガスアシスト射出成形法、サンドイッチ成形法、サンドイッチ発泡成形法、インサート・アウトサート成形法等が挙げられる。射出成形体の形状は、特に限定されるものではない。
【0141】
射出成形体は、例えば、自動車材料用途、家電材料用途、コンテナー用途等に用いることができ、好ましくは、自動車内外装用途に用いることができる。自動車内外装部品としては、例えば、ドアトリム、ピラー、インストルメントパネル、バンパー、エアバッグカバー等が挙げられる。
【0142】
本実施形態に係る成形体は、上述のプロピレン樹脂組成物を含むことにより、引き裂き強度が比較的小さく、かつ、表面が比較的平滑である。また、本実施形態に係る成形体は、易解体性に比較的優れるため、好適にリサイクルすることができる。
【0143】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]プロピレン系重合体と、無機成分と、を含み、
プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、
600℃で60分加熱したときの灰分の量が0.01質量%以上25質量%以下であり、
前記灰分を金属メッシュ(目開き0.026mm)で2回ろ過したときの灰分ろ過残渣成分の量が0.003質量%以上0.100質量%以下であり、
前記無機成分としてガラス繊維を含み、該ガラス繊維の含有量が、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、0.005質量%以上0.100質量%以下である、プロピレン樹脂組成物。
[2]前記プロピレン系重合体の含有量が、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、75.000質量%以上99.995質量%以下である、[1]に記載のプロピレン樹脂組成物。
[3]前記灰分の量に対する前記灰分ろ過残渣成分の量の比が、0.00012以上1以下である、[1]または[2]に記載のプロピレン樹脂組成物。
[4]前記プロピレン系重合体としてヘテロファジックプロピレン重合材料を含む、[1]~[3]のいずれか一つに記載のプロピレン樹脂組成物。
[5]前記プロピレン系重合体としてリサイクルヘテロファジックプロピレン重合材料を含む、[1]~[4]のいずれか一つに記載のプロピレン樹脂組成物。
[6]エチレン-α-オレフィン共重合体をさらに含む、[1]~[5]のいずれか一つに記載のプロピレン樹脂組成物。
[7]前記エチレン-α-オレフィン共重合体の含有量が、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、1質量%以上40質量%以下である、[6]に記載のプロピレン樹脂組成物。
[8]前記エチレン-α-オレフィン共重合体としてリサイクルエチレン-α-オレフィン共重合体を含む、[6]または[7]に記載のプロピレン樹脂組成物。
[9][1]~[8]のいずれか一つに記載のプロピレン樹脂組成物を含む、成形体。
【実施例
【0144】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0145】
実施例および比較例では、以下の原料を使用した。
【0146】
成分A:プロピレン系重合体
成分Aとして下記(A-1)、(A-2)のプロピレン系重合体を準備した。
【0147】
(A-1)ヘテロファジックプロピレン重合材料
ヘテロファジックプロピレン重合材料を、特開2004-182981号公報の実施例1に記載の方法によって得られる重合触媒の存在下、気相重合法によって製造した。得られた成分A-1の物性は下記のとおりである。
【0148】
メルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重):31.5g/10分
(a)プロピレン単独重合体成分(P部)極限粘度:1.00dL/g
(b)プロピレン-エチレン共重合体成分(EP部)極限粘度:5.0dL/g
プロピレン-エチレン共重合体成分量:15.3質量%
エチレンに由来する単量体単位の含有量:40.8質量%
【0149】
(A-2)ヘテロファジックププロピレン重合材料
メルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重):67.0g/10分
(a)プロピレン単独重合体成分(P部)極限粘度:0.86dL/g
(b)プロピレン-エチレン共重合体成分(EP部)極限粘度:5.4dL/g
プロピレン-エチレン共重合体成分量:12.5質量%
エチレンに由来する単量体単位の含有量:38.7質量%
【0150】
成分B:エチレン-α-オレフィン共重合体
成分Bとして、下記(B-1)、(B-2)のエチレン-α-オレフィン共重合体を準備した。
【0151】
(B-1)エチレン-1-オクテン共重合体
ダウ・ケミカル社製「EG8180」
MFR(温度190℃、荷重2.16kg):0.5g/10分
密度:0.863g/cm
【0152】
(B-2)エチレン-1-オクテン共重合体
ダウ・ケミカル社製「EG8100」
MFR(温度190℃、荷重2.16kg):1.0g/10分
密度:0.870g/cm
【0153】
成分C:無機成分
成分Cとして、下記(C-1)、(C-2)、(C-3)の無機成分を準備した。
【0154】
(C-1)タルク
林化成製「MW UPN TT-H」
平均粒子径D50[L](レーザー回析法、50%相当粒子径):4.90μm
【0155】
(C-2)タルク
林化成製「JR51-7」
平均粒子径D50[L](レーザー回析法、50%相当粒子径):12.40μm
【0156】
(C-3)ガラス繊維(チョップドストランド)
日本電気硝子社製:ESC03T-480H
直径:10.5μm
繊維長:3.0mm
【0157】
成分D:その他添加剤
その他の任意好適な成分である成分Dとしては、以下の成分を用いた。成分Dの総量を表1~3に示す。
【0158】
堺化学工業社製「ステアリン酸カルシウム」(中和剤)
鈴木工業社製「カルテックLT」(中和剤)
住友化学社製「スミライザーGA80」(酸化防止剤)
ソンウォン社製「SONGNOX6260」(酸化防止剤)
BASF社製「IRGAFOS168」(酸化防止剤)
BASF社製「IRGANOX1010」(酸化防止剤)
住友化学社製「スミライザーTPM」(酸化防止剤)
住化ケムテックス社製「スミソーブ400」(紫外線吸収剤)
BASF社製「Tinuvin770DF」(光安定剤)
丸菱油化工業社製「デノンSL-12」(滑剤)
日油社製「アルフローH-50P」(滑剤)
【0159】
<灰分量の測定方法>
ルツボを、電気炉を用いて600℃で60分加熱し、ルツボを取り出してデシケーター中で60分冷却した後に精密天秤で秤量した。ペレットをルツボに30g秤量し、電気炉を用いて600℃で60分加熱し、完全灰化させた。次いで、ルツボをデシケーター中で1時間冷却した後に精密天秤で灰分の質量を0.01mg単位まで測定し、ペレットに対する灰分量(質量%)を算出した。
【0160】
<灰分ろ過残渣成分量の測定方法>
金属メッシュ(株式会社三共金網製作所製:綾織500メッシュ、JIS-G3555で定義された標準線径0.025mmΦ、目開き0.026mm、空間率26%)を、精密天秤で質量を0.01mg単位まで測定した。前述の方法で得られた灰分全量を、乳鉢を用いて1000gの加重で毎分140回転の速度で120回転させてすり潰した。十分にすり潰されているかは、試料と同様に調整した溶液を、金属メッシュ(目開き0.850mm)でろ過して残渣が残らないことで確認した。その後、1g/100mlになるように調整したエタノールに入れ、超音波洗浄機にて10分間拡散した溶液を得た。得られた溶液を、灰分が凝集しない30秒以内のうちにすばやく、前述の金属メッシュでろ過したのち、金属メッシュ上を約50mLのエタノールで満遍なく洗い流して洗浄した。次に、得られたろ液を、再度前述の金属メッシュでろ過したのち、金属メッシュ上を約50mLのエタノールで満遍なく洗浄した。その後、約10mLのアセトンでリンスした。次に、ろ過した金属メッシュを50℃で30分真空乾燥し、乾燥後の金属メッシュの質量を0.01mg単位まで測定し、下式にて、ペレット仕込み量(30g)に対する灰分ろ過残渣成分量(質量%)を算出した。
灰分ろ過残渣成分量(質量%)=(ろ過後の金属メッシュ質量(g)-ろ過前の金属メッシュ質量(g))/仕込み量(g)×100
【0161】
<実施例1~11および比較例1~4>
(プロピレン樹脂組成物の製造)
表1~3の組成の成分A~Dを、ヘンシェルミキサーまたはタンブラーで均一に予備混合した後、田辺プラスチックス株式会社製 単軸押出機V40-NSIII型(シリンダー内径40.0mm、スクリュー外径39.5mm、L/D=28)にて、シリンダー温度200℃、スクリュー回転数100rpm、スクリーンメッシュ100メッシュを用いた条件にて溶融混練し、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0162】
(引き裂き強度および表面粗さ評価用押出成形体の製造)
ペレット状のプロピレン樹脂組成物を以下の条件で押出成形して、引き裂き強度および表面粗さ評価用の厚さ50μmの押出成形体を製造した。押出成形体を製造する際、押出成形体表面に穴が空いた場合、加工安定性が悪い(加工安定性×)とした。
押出成形機:田辺プラスチックス株式会社製 単軸押出機VS20-14V型
シリンダー内径20mm、スクリュー外径19.8mm、L/D=26
シリンダー温度:230℃
スクリュー回転数:50rpm
スクリーンメッシュ:100メッシュ
Tダイ:幅100mm、リップ開度0.5mm
チルロール冷却温度:30℃
巻き取り速度:5m/分
【0163】
(引き裂き強度の評価)
前述の方法で得られた押出成形体から、引裂試験用 JIS K6252切込無し アングル型試験片用の打ち抜き型で打ち抜き、試験片を作成した。打ち抜き方向は、押出方向に対して垂直方向に長辺が向くように打ち抜いた。作成した試験片を以下の条件にて引き裂き強度の評価を行った。
引張試験機:エー・アンド・デイ株式会社製 テンシロン シングルコラム型材料試験機(STB-1225L)
チャック間距離:75mm
引張速度:200mm/分
【0164】
(表面粗さの評価)
前述の方法で得られた押出成形体の表面を以下の条件にてJIS-B0601:2001で定義された算術平均粗さ(Ra)の評価を行った。
測定器:東京精密株式会社製 サーフコム480A
測定子先端形状円錐型:60°
測定子先端半径:2μm
測定力:0.75mN
測定速度:0.3mm/秒
カットオフ値:0.8mm
評価長さ:5mm
【0165】
【表1】
【0166】
【表2】
【0167】
【表3】
【0168】
表1~3の結果から分かるように、本発明の構成要件をすべて満たす各実施例のプロピレン樹脂組成物は、引き裂き強度が比較的小さく、かつ、表面が比較的平滑な成形体を得ることできる。
【要約】
【課題】引き裂き強度が比較的小さく、かつ、表面が比較的平滑な成形体を得ることが可能なプロピレン樹脂組成物、および、該プロピレン樹脂組成物を含む成形体を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明に係るプロピレン樹脂組成物は、プロピレン系重合体と、無機成分と、を含み、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、600℃で60分加熱したときの灰分の量が0.01質量%以上25質量%以下であり、前記灰分を金属メッシュ(目開き0.026mm)で2回ろ過したときの灰分ろ過残渣成分の量が0.003質量%以上0.100質量%以下であり、前記無機成分としてガラス繊維を含み、該ガラス繊維の含有量が、プロピレン樹脂組成物の全質量100質量%に対して、0.005質量%以上0.100質量%以下である。
【選択図】 なし