(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】ペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20250708BHJP
H10K 30/86 20230101ALI20250708BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20250708BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/86
H10K30/40
(21)【出願番号】P 2020568075
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2020000966
(87)【国際公開番号】W WO2020153180
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2019009563
(32)【優先日】2019-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 峻
(72)【発明者】
【氏名】前田 真一
(72)【発明者】
【氏名】藤原 隆
(72)【発明者】
【氏名】下位 裕子
(72)【発明者】
【氏名】王 胖胖
(72)【発明者】
【氏名】八尋 正幸
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-505542(JP,A)
【文献】特開2015-191916(JP,A)
【文献】特開2017-183351(JP,A)
【文献】特開2013-091711(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109065726(CN,A)
【文献】国際公開第2017/077883(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/176662(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-30/89
H10K 39/00-39/38
C08K 5/541
C08L 65/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、該陽極上に形成された正孔捕集層と、該正孔捕集層上に形成された活性層とを有する逆積層型のペロブスカイト光電変換素子であって、
上記正孔捕集層が、
導電性ポリマーからなる電荷輸送性物質と、有機シラン化合物と、溶媒とを含み、
上記導電性ポリマーが、PEDOT-PSSであり、
上記有機シラン化合物が、テトラアルコキシシランであり、
上記溶媒が、水
と、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノールおよび1-メトキシ-2-プロパノールからなる群より選ばれる少なくとも1種
とを含む高溶解性溶媒を含むことを特徴とするペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物から得られる薄膜であり、
上記活性層が、ペロブスカイト半導体化合物を含むペロブスカイト光電変換素子。
【請求項2】
上記テトラアルコキシシランが、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランおよびテトライソプロポキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のペロブスカイト光電変換素子。
【請求項3】
請求項1または2記載のペロブスカイト光電変換素子を備える太陽電池。
【請求項4】
陽極と、該陽極上に形成された正孔捕集層と、該正孔捕集層上に形成された活性層とを有する逆積層型のペロブスカイト光電変換素子の正孔捕集層を形成するためのペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物であって、
導電性ポリマーからなる電荷輸送性物質と、有機シラン化合物と、溶媒とを含み、
上記導電性ポリマーが、PEDOT-PSSであり、
上記有機シラン化合物が、テトラアルコキシシランであり、
上記溶媒が、水
と、エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノールおよび1-メトキシ-2-プロパノールからなる群より選ばれる少なくとも1種
とを含む高溶解性溶媒を含むことを特徴とするペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物。
【請求項5】
上記テトラアルコキシシランが、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランおよびテトライソプロポキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項4記載のペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物。
【請求項6】
上記有機シラン化合物の配合量が、上記導電性ポリマーに対し、質量比で0.1~10倍である請求項4または5記載のペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物。
【請求項7】
固形分濃度が、0.1~20.0質量%である請求項4~6のいずれか1項記載のペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物。
【請求項8】
上記ペロブスカイト光電変換素子が、太陽電池である請求項4~7のいずれか1項記載の電荷輸送性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子素子、特に、有機光電変換素子は、有機半導体を用いて光エネルギーを電気エネルギーに変換するデバイスであり、例えば有機太陽電池が挙げられる。
有機太陽電池は、活性層や電荷輸送性物質に有機物を使用した太陽電池素子であり、M.グレッツェルによって開発された色素増感太陽電池と、C.W.タンによって開発された有機薄膜太陽電池とがよく知られている(非特許文献1,2)。
いずれも軽量・薄膜で、フレキシブル化可能である点、ロール・トゥ・ロールでの生産が可能である点など、現在主流の無機系太陽電池とは異なる特長を持っていることから、新たな市場形成が期待されている。
【0003】
その一方で、近年、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物(以下、「ペロブスカイト半導体化合物」という。)として金属ハロゲン化物を用いた太陽電池が、比較的高い光電変換効率を達成できるとの研究成果が報告され、注目を集めている。例えば、特許文献1には、ペロブスカイト半導体化合物を含有する活性層を備えた光電変換素子および太陽電池が記載されている。
【0004】
しかしながら、ペロブスカイト半導体化合物を活性層に用いた光電変換素子において、当該活性層に組み合わせられる他の層の条件によっては素子の安定性が低下する場合があり、さらなる改善が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【0006】
【文献】Nature, vol.353, 737-740(1991)
【文献】Appl. Phys. Lett., Vol.48, 183-185 (1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ペロブスカイト光電変換素子の正孔捕集層として好適に使用し得、高い変換効率(PCE)と優れた安定性とを兼ね備えたペロブスカイト光電変換素子を与え得る電荷輸送性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、導電性ポリマーからなる電荷輸送性物質と、有機シラン化合物と、溶媒とを含む組成物を、ペロブスカイト光電変換素子の正孔捕集層に用いることで、高いPCEと優れた安定性とを兼ね備えたペロブスカイト光電変換素子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 導電性ポリマーからなる電荷輸送性物質と、有機シラン化合物と、溶媒とを含むことを特徴とするペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物、
2. 上記導電性ポリマーが、p型共役ホモポリマーである1のペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物、
3. 上記導電性ポリマーが、ポリチオフェン誘導体である1または2のペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物、
4. 上記導電性ポリマーが、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体である1~3のいずれかのペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物、
【化1】
(式中、R
1およびR
2は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、-O-[Z-O]
p-R
e、またはスルホン酸基であり、またはR
1およびR
2が結合して形成される-O-Y-O-であり、Yは、エーテル結合を含んでいてもよく、スルホン酸基で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、Zは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、pは、1以上であり、R
eは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基である。)
5. 上記有機シラン化合物が、アルコキシシランである1~4のいずれかのペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物、
6. 上記アルコキシシランが、トリアルコキシシランおよびテトラアルコキシシランから選ばれる少なくとも1種を含む5のペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物、
7. 上記電荷輸送性組成物が、ペロブスカイト光電変換素子の正孔捕集層用である1~6のいずれかのペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物、
8. 上記ペロブスカイト光電変換素子が、太陽電池である7の電荷輸送性組成物、
9. 1~6のいずれかのペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物から得られる薄膜、
10. 上記薄膜が、ペロブスカイト光電変換素子の正孔捕集層である9の薄膜、
11. 9または10の薄膜を備えるペロブスカイト光電変換素子、
12. 10の正孔捕集層と、それに接するように設けられた活性層とを有し、この活性層が、ペロブスカイト半導体化合物を含むペロブスカイト光電変換素子、
13. 一対の電極と、上記一対の電極間に設けられた活性層と、上記活性層と上記電極との間に設けられた正孔捕集層と、を有するペロブスカイト光電変換素子であって、
上記活性層が、ペロブスカイト半導体化合物を含むものであり、上記正孔捕集層が、10の薄膜であるペロブスカイト光電変換素子、
14. 11~13のいずれかのペロブスカイト光電変換素子を備える太陽電池
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物は、ペロブスカイト光電変換素子の正孔捕集層の形成に好適に採用することができ、当該組成物を用いて得られる薄膜を正孔捕集層として用いた場合に高いPCEと優れた安定性とを兼ね備えたペロブスカイト光電変換素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明のペロブスカイト光電変換素子用電荷輸送性組成物は、導電性ポリマーからなる電荷輸送性物質と、有機シラン化合物と、溶媒とを含む。
【0012】
本発明において、上記導電性ポリマーとしては、作製した光電変換素子に高いPCEを発揮させる観点から、p型共役ホモポリマーが好ましく、ポリチオフェン誘導体がより好ましく、下記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体がより一層好ましい。
【0013】
【0014】
式(1)において、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、炭素数1~40のフルオロアルコキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、-O-[Z-O]p-Re、またはスルホン酸基であり、またはR1およびR2が結合して形成される-O-Y-O-であり、Yは、エーテル結合を含んでいてもよく、スルホン酸基で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、Zは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~40のアルキレン基であり、pは、1以上の整数であり、Reは、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基である。
【0015】
炭素数1~40のアルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコサニル基、ベヘニル基、トリアコンチル基、およびテトラコンチル基等が挙げられるが、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましい。
【0016】
炭素数1~40のフルオロアルキル基としては、上記炭素数1~40のアルキル基において少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換された基を挙げることができ、特に限定されないが、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、パーフルオロメチル基、1-フルオロエチル基、2-フルオロエチル基、1,2-ジフルオロエチル基、1,1-ジフルオロエチル基、2,2-ジフルオロエチル基、1,1,2-トリフルオロエチル基、1,2,2-トリフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,1,2,2-テトラフルオロエチル基、1,2,2,2-テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、1-フルオロプロピル基、2-フルオロプロピル基、3-フルオロプロピル基、1,1-ジフルオロプロピル基、1,2-ジフルオロプロピル基、1,3-ジフルオロプロピル基、2,2-ジフルオロプロピル基、2,3-ジフルオロプロピル基、3,3-ジフルオロプロピル基、1,1,2-トリフルオロプロピル基、1,1,3-トリフルオロプロピル基、1,2,3-トリフルオロプロピル基、1,3,3-トリフルオロプロピル基、2,2,3-トリフルオロプロピル基、2,3,3-トリフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、1,1,2,2-テトラフルオロプロピル基、1,1,2,3-テトラフルオロプロピル基、1,2,2,3-テトラフルオロプロピル基、1,3,3,3-テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基、2,3,3,3-テトラフルオロプロピル基、1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロピル基、1,2,2,3,3-ペンタフルオロプロピル基、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基およびパーフルオロオクチル基等が挙げられる。
【0017】
炭素数1~40のアルコキシ基としては、その中のアルキル基が直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、c-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペントキシ基、n-ヘキソキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-トリデシルオキシ基、n-テトラデシルオキシ基、n-ペンタデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基、n-ヘプタデシルオキシ基、n-オクタデシルオキシ基、n-ノナデシルオキシ基、およびn-エイコサニルオキシ基等が挙げられる。
【0018】
炭素数1~40のフルオロアルコキシ基としては、炭素原子上の少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルコキシ基であれば特に限定されないが、例えば、フルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、1-フルオロエトキシ基、2-フルオロエトキシ基、1,2-ジフルオロエトキシ基、1,1-ジフルオロエトキシ基、2,2-ジフルオロエトキシ基、1,1,2-トリフルオロエトキシ基、1,2,2-トリフルオロエトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基、1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ基、1,2,2,2-テトラフルオロエトキシ基、1,1,2,2,2-ペンタフルオロエトキシ基、1-フルオロプロポキシ基、2-フルオロプロポキシ基、3-フルオロプロポキシ基、1,1-ジフルオロプロポキシ基、1,2-ジフルオロプロポキシ基、1,3-ジフルオロプロポキシ基、2,2-ジフルオロプロポキシ基、2,3-ジフルオロプロポキシ基、3,3-ジフルオロプロポキシ基、1,1,2-トリフルオロプロポキシ基、1,1,3-トリフルオロプロポキシ基、1,2,3-トリフルオロプロポキシ基、1,3,3-トリフルオロプロポキシ基、2,2,3-トリフルオロプロポキシ基、2,3,3-トリフルオロプロポキシ基、3,3,3-トリフルオロプロポキシ基、1,1,2,2-テトラフルオロプロポキシ基、1,1,2,3-テトラフルオロプロポキシ基、1,2,2,3-テトラフルオロプロポキシ基、1,3,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、2,3,3,3-テトラフルオロプロポキシ基、1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロポキシ基、1,2,2,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ基、およびヘプタフルオロプロポキシ基等が挙げられる。
【0019】
炭素数1~40のアルキレン基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基、エイコサニレン基等が挙げられる。
【0020】
炭素数6~20のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、および9-フェナントリル基等が挙げられ、フェニル基、トリル基およびナフチル基が好ましい。
【0021】
炭素数6~20のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、アントラセノキシ基、ナフトキシ基、フェナントレノキシ基、およびフルオレノキシ基等が挙げられる。
【0022】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。
【0023】
上記式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体において、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のフルオロアルキル基、炭素数1~40のアルコキシ基、-O[C(RaRb)-C(RcRd)-O]p-Re、-ORf、もしくはスルホン酸基が、またはR1およびR2が結合して形成される-O-Y-O-であるものが好ましい。Ra~Rdは、互いに独立して、水素原子、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基を表す。Reは、上記と同様である。pは、1、2、または3が好ましい。Rfは、炭素数1~40のアルキル基、炭素数1~40のフルオロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基が好ましい。
【0024】
本発明では、これらの中でも、R1およびR2が結合して形成される-O-Y-O-であるものがより好ましい。
【0025】
上記ポリチオフェン誘導体の好ましい態様としては、例えば、R1およびR2が結合して形成される-O-Y-O-である繰り返し単位を含有する態様が挙げられる。
【0026】
上記ポリチオフェン誘導体の更に別の好ましい態様としては、R1およびR2が、下記式(Y1)で表される基である繰り返し単位を含有する態様が挙げられる。
【0027】
【0028】
上記ポリチオフェン誘導体の好ましい具体例としては、例えば、下記式(1-1)で示される繰り返し単位を含むポリチオフェンを挙げることができる。
【0029】
【0030】
更に、上記ポリチオフェン誘導体は、ホモポリマーまたはコポリマー(統計的、ランダム、勾配、およびブロックコポリマーを含む)であってよい。モノマーAおよびモノマーBを含むポリマーとしては、ブロックコポリマーは、例えば、A-Bジブロックコポリマー、A-B-Aトリブロックコポリマー、および(AB)m-マルチブロックコポリマーを含む。ポリチオフェンは、他のタイプのモノマー(例えば、チエノチオフェン、セレノフェン、ピロール、フラン、テルロフェン、アニリン、アリールアミン、およびアリーレン(例えば、フェニレン、フェニレンビニレン、およびフルオレン等)等)から誘導される繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0031】
本発明において、ポリチオフェン誘導体における式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、繰り返し単位の総質量に対して50質量%超が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより一層好ましく、95質量%以上が更に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0032】
本発明において、重合に使用される出発モノマー化合物の純度に応じて、形成されるポリマーは、不純物から誘導される繰り返し単位を含有してもよい。本発明において、上記の「ホモポリマー」という用語は、1つのタイプのモノマーから誘導される繰り返し単位を含むポリマーを意味するものであるが、不純物から誘導される繰り返し単位を含有していてもよい。本発明において、上記ポリチオフェン誘導体は、基本的に全ての繰り返し単位が、上記式(1)で表される繰り返し単位であるホモポリマーであることが好ましく、上記式(1-1)で表される繰り返し単位であるホモポリマーであることがより好ましい。
【0033】
式(1)で表されるポリチオフェン誘導体の重量平均分子量は、約1,000~1,000,000が好ましく、約5,000~100,000がより好ましく、約10,000~約50,000がより一層好ましい。重量平均分子量を下限以上とすることで、良好な導電性が得られ、上限以下とすることで、溶媒に対する溶解性が向上する。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値である。
【0034】
なお、本発明の組成物において、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体は、単独で用いてもよく、2種以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
また、式(1)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体は、市販品を用いても、チオフェン誘導体などを出発原料とした公知の方法によって重合したものを用いてもよいが、いずれの場合も再沈殿やイオン交換等の方法により精製されたものを用いることが好ましい。精製したものを用いることで、当該化合物を含む組成物から得られた薄膜を備えたペロブスカイト光電変換素子の特性をより高めることができる。
【0035】
有機シラン化合物としては、アルコキシシランが好ましく、トリアルコキシシランおよびテトラアルコキシシランがより好ましい。上記アルコキシシランとしては、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。本発明では、これらの中でも、TEOS、テトラメトキシシラン、テトライソプロポキシシランを好適に使用し得る。これらの有機シラン化合物は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
有機シラン化合物の配合量は、上記導電性ポリマーに対し、また、後述する電子受容性ドーパント物質を含む場合は、導電性ポリマーおよび電子受容性ドーパント物質の総量に対し、質量比で0.1~10倍が好ましく、0.5~7倍がより好ましく、1.0~5倍がより一層好ましい。有機シラン化合物の配合量を上記範囲とすることで、得られる光電変換素子の安定性を向上させることができる。
【0037】
ペロブスカイト光電変換素子において、正孔捕集層のイオン化ポテンシャルは、活性層中におけるp型半導体材料(ペロブスカイト半導体材料)のイオン化ポテンシャルに近接した値であることが好ましい。その差の絶対値は、0~1eVが好ましく、0~0.5eVがより好ましく、0~0.2eVがより一層好ましい。したがって、本発明の電荷輸送性組成物には、これを用いて得られる電荷輸送性薄膜のイオン化ポテンシャルを調節することを目的として、電子受容性ドーパント物質を含んでいてもよい。電子受容性ドーパント物質としては、使用する少なくとも1種の溶媒に溶解するものであれば、特に限定されない。
【0038】
電子受容性ドーパント物質の具体例としては、塩化水素、硫酸、硝酸、リン酸等の無機強酸;塩化アルミニウム(III)(AlCl3)、四塩化チタン(IV)(TiCl4)、三臭化ホウ素(BBr3)、三フッ化ホウ素エーテル錯体(BF3・OEt2)、塩化鉄(III)(FeCl3)、塩化銅(II)(CuCl2)、五塩化アンチモン(V)(SbCl5)、五フッ化砒素(V)(AsF5)、五フッ化リン(PF5)、トリス(4-ブロモフェニル)アルミニウムヘキサクロロアンチモナート(TBPAH)等のルイス酸;ベンゼンスルホン酸、トシル酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、5-スルホサリチル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ならびにカンファスルホン酸等の有機強酸;7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)、ヨウ素等の有機酸化剤が挙げられ、これらの中でもポリスチレンスルホン酸が好ましい。これらはそれぞれ単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
なお、本発明の組成物には、本発明の目的を達成し得る限り、その他の添加剤を配合してもよい。
添加剤の種類としては、所望の効果に応じて公知のものから適宜選択して用いることができる。
【0040】
電荷輸送性組成物の調製に用いる溶媒としては、導電性ポリマーおよび電子受容性ドーパント物質を良好に溶解し得る高溶解性溶媒を用いることができる。高溶解性溶媒は1種を単独で、または2種以上を混合して用いることができ、その使用量は、組成物に使用する溶媒全体に対して5~100質量%とすることができる。
【0041】
このような高溶解性溶媒としては、例えば、水;エタノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール系溶媒、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド系溶媒などの有機溶媒が挙げられる。
これらの中でも、水およびアルコール系溶媒から選ばれる少なくとも1種が好ましく、水、エタノール、2-プロパノールがより好ましい。
【0042】
電荷輸送性物質および電子受容性ドーパント物質は、いずれも上記溶媒に完全に溶解しているか、均一に分散している状態となっている。
【0043】
本発明の電荷輸送性組成物の固形分濃度は、組成物の粘度および表面張力等や、作製する薄膜の厚み等を勘案して適宜設定されるものであるが、通常、0.1~20.0質量%程度であり、好ましくは0.5~15.0質量%、より好ましくは1.0~10.0質量%である。なお、ここでいう固形分濃度の固形分とは、本発明の電荷輸送性組成物に含まれる溶媒以外の成分を意味する。
【0044】
また、電荷輸送性物質と電子受容性ドーパント物質の質量比も、発現する電荷輸送性、電荷輸送性物質等の種類を考慮して適宜設定されるものであるが、通常、電荷輸送性物質1に対し、電子受容性ドーパント物質0~10、好ましくは0.1~8.0、より好ましくは0.2~7.0である。
【0045】
そして、本発明において用いる電荷輸送性組成物の粘度は、作製する薄膜の厚み等や固形分濃度を考慮し、塗布方法に応じて適宜調節されるものであるが、通常25℃で0.1~50mPa・s程度である。
【0046】
本発明の電荷輸送性組成物を調製する際、固形分が溶媒に均一に溶解または分散する限り、電荷輸送性物質、有機シラン化合物、電子受容性ドーパント物質、溶媒等を任意の順序で混合することができる。すなわち、例えば、溶媒に導電性ポリマーとしてポリチオフェン誘導体を溶解させた後、その溶液に電子受容性ドーパント物質を溶解させる方法、溶媒に電子受容性ドーパント物質を溶解させた後、その溶液にポリチオフェン誘導体を溶解させる方法、ポリチオフェン誘導体と電子受容性ドーパント物質とを混合した後、その混合物を溶媒に投入して溶解させる方法のいずれも、固形分が溶媒に均一に溶解または分散する限り、採用することができる。
【0047】
また、通常、電荷輸送性組成物の調製は、常温、常圧の不活性ガス雰囲気下で行われるが、組成物中の化合物が分解したり、組成が大きく変化したりしない限り、大気雰囲気下(酸素存在下)で行ってもよく、加熱しながら行ってもよい。
【0048】
以上説明した電荷輸送性組成物を、逆積層型ペロブスカイト太陽電池の場合は陽極上に、順積層型ペロブスカイト太陽電池の場合は活性層上に塗布して焼成することで、本発明の正孔捕集層を形成できるが、本発明における好ましい態様としては逆積層型である。
塗布にあたっては、組成物の粘度と表面張力、所望する薄膜の厚さ等を考慮し、ドロップキャスト法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等)等といった各種ウェットプロセス法の中から最適なものを採用すればよい。
また、通常、塗布は、常温、常圧の不活性ガス雰囲気下で行われるが、組成物中の化合物が分解したり、組成が大きく変化したりしない限り、大気雰囲気下(酸素存在下)で行ってもよく、加熱しながら行ってもよい。
【0049】
膜厚は、特に限定されないが、いずれの場合も0.1~500nm程度が好ましく、更には1~100nm程度が好ましい。膜厚を変化させる方法としては、組成物中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の溶液量を変化させたりする等の方法がある。
【0050】
以下、本発明の電荷輸送性組成物を正孔捕集層形成用組成物として用いたペロブスカイト太陽電池の製造方法について説明するが、これらに限定されるものではない。
(1)逆積層型ペロブスカイト太陽電池[陽極層の形成]:透明基板の表面に陽極材料の層を形成し、透明電極を製造する工程
陽極材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)等の無機酸化物や、金、銀、アルミニウム等の金属、ポリチオフェン誘導体、ポリアニリン誘導体等の高電荷輸送性有機化合物を用いることができる。これらの中ではITOが最も好ましい。また、透明基板としては、ガラスあるいは透明樹脂からなる基板を用いることができる。
陽極材料の層(陽極層)の形成方法は、陽極材料の性質に応じて適宜選択される。通常、難溶性、難分散性昇華性材料の場合には真空蒸着法やスパッタ法等のドライプロセスが選択され、溶液材料あるいは分散液材料の場合には、組成物の粘度と表面張力、所望する薄膜の厚さ等を考慮し、上述した各種ウェットプロセス法の中から最適なものが採用される。
【0051】
また、市販の透明陽極基板を用いることもでき、この場合、素子の歩留りを向上させる観点からは、平滑化処理がされている基板を用いることが好ましい。市販の透明陽極基板を用いる場合、本発明のペロブスカイト太陽電池の製造方法は、陽極層を形成する工程を含まない。
ITO等の無機酸化物を陽極材料として用いて透明陽極基板を形成する場合、上層を積層する前に、洗剤、アルコール、純水等で洗浄してから使用することが好ましい。更に、使用直前にUVオゾン処理、酸素-プラズマ処理等の表面処理を施すことが好ましい。陽極材料が有機物を主成分とする場合、表面処理を行わなくともよい。
【0052】
[正孔捕集層の形成]:形成された陽極材料の層上に正孔捕集層を形成する工程
上記方法に従い、陽極材料の層上に、本発明の電荷輸送性組成物を用いて正孔捕集層を形成する。
【0053】
[活性層の形成]:形成された正孔捕集層上に活性層を形成する工程
本発明では、活性層として、ペロブスカイト半導体化合物を含有する活性層を用いる。
ペロブスカイト半導体化合物とは、ペロブスカイト構造を有する半導体化合物のことを指す。ペロブスカイト半導体化合物としては、公知の化合物を使用し得、特に制限されるものではないが、例えば、一般式A+M2+X-
3で表されるもの、または、一般式A+
2M2+X-
4で表されるものが挙げられる。ここで、A+は1価のカチオンを、M2+は2価のカチオンを、X-は1価のアニオンを表す。
【0054】
1価のカチオンA+としては、例えば、周期表第1族および第13族~第16族元素を含むカチオンが挙げられる。これらの中でも、セシウムイオン、ルビジウムイオン、置換基を有していてもよいアンモニウムイオン、または、置換基を有していてもよいホスホニウムイオンが好ましい。
【0055】
置換基を有していてもよいアンモニウムイオンとしては、例えば、第1級アンモニウムイオンまたは第2級アンモニウムイオンが挙げられる。上記置換基には特に制限はないが、アルキルアンモニウムイオンまたはアリールアンモニウムイオンが好ましい。特に、立体障害を避けるために、3次元の結晶構造となるモノアルキルアンモニウムイオンがより好ましい。上記アルキルアンモニウムイオンに含まれるアルキル基の炭素数は、1~30が好ましく、1~20がより好ましく、1~10が更に好ましい。上記アリールアンモニウムイオンに含まれるアリール基の炭素数は、6~30が好ましく、6~20がより好ましく、6~12が更に好ましい。
【0056】
1価のカチオンA+の具体例としては、メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、イソプロピルアンモニウムイオン、n-プロピルアンモニウムイオン、イソブチルアンモニウムイオン、n-ブチルアンモニウムイオン、t-ブチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、フェニルアンモニウムイオン、ベンジルアンモニウムイオン、フェネチルアンモニウムイオン、グアニジウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、アセトアミジニウムイオンおよびイミダゾリウムイオン等が挙げられる。上記カチオンA+は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
2価のカチオンM2+としては、2価の金属カチオンまたは半金属カチオンであることが好ましく、周期表第14族元素のカチオンがより一層好ましい。2価のカチオンMの具体例としては、鉛カチオン(Pb2+)、スズカチオン(Sn2+)、ゲルマニウムカチオン(Ge2+)等が挙げられる。本発明では、安定性に優れる光電変換素子を得る観点から、鉛カチオンを含むことが好ましい。上記カチオンM2+は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
1価のアニオンX-としては、ハロゲン化物イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナートイオン、チオシアン酸イオンおよび2,4-ペンタンジオナトイオン等が挙げられ、ハロゲン化物イオンが好ましい。上記アニオンX-は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
ハロゲン化物イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオン等が挙げられる。本発明においては、半導体のバンドギャップを広げすぎないようにする観点から、ヨウ化物イオンを含むことが好ましい。
【0060】
ペロブスカイト半導体化合物としては、例えば、有機-無機ペロブスカイト半導体化合物が好ましく、ハライド系有機-無機ペロブスカイト半導体化合物がより好ましい。ペロブスカイト半導体化合物の具体例としては、CH3NH3PbI3、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbCl3、CH3NH3SnI3、CH3NH3SnBr3、CH3NH3SnCl3、CH3NH3PbI(3-x)Clx、CH3NH3PbI(3-x)Brx、CH3NH3PbBr(3-x)Clx、CH3NH3Pb(1-y)SnyI3、CH3NH3Pb(1-y)SnyBr3、CH3NH3Pb(1-y)SnyCl3、CH3NH3Pb(1-y)SnyI(3-x)Clx、CH3NH3Pb(1-y)SnyI(3-x)Brx、CH3NH3Pb(1-y)SnyBr(3-x)Clx等が挙げられる。なお、xは0~3、yは0~1の任意の数を示す。
【0061】
光電変換効率を向上させる観点から、ペロブスカイト半導体化合物としては、1.0~3.5eVのエネルギーバンドギャップを有する半導体化合物を用いることが好ましい。
【0062】
活性層には、2種類以上のペロブスカイト半導体化合物を含有していてもよい。例えば、上記A+、M2+およびX-のうちの少なくとも1つが異なる2種類以上のペロブスカイト半導体化合物が活性層に含まれていてもよい。
【0063】
活性層におけるペロブスカイト半導体化合物の含有量は、良好な光電変換特性を得る観点から、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより一層好ましい。上限については、特に制限はないが、通常100質量%以下である。
【0064】
また、活性層は、必要に応じて、その他の添加物を含有していてもよい。本発明で使用できる添加物としては、例えば、界面活性剤、電荷付与剤、1,8-ジヨードオクタン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン等が挙げられる。
活性層におけるこれらの添加剤の含有量は、良好なPCEを得る観点から、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がより一層好ましい。下限については、特に制限はないが、通常0質量%以上である。
【0065】
活性層の形成方法も、上記と同様、組成物の粘度と表面張力、所望する薄膜の厚さ等を考慮し、上述した各種ウェットプロセス法の中から最適なものが採用される。
【0066】
[電子捕集層の形成]:形成された活性層上に電子捕集層を形成する工程
必要に応じて、電荷の移動を効率化すること等を目的として、活性層と陰極層の間に電子捕集層を形成してもよい。
電子捕集層を形成する材料としては、フラーレン類、酸化リチウム(Li2O)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al2O3)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化ストロンチウム(SrF2)、炭酸セシウム(Cs2CO3)、8-キノリノールリチウム塩(Liq)、8-キノリノールナトリウム塩(Naq)、バソクプロイン(BCP)、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BPhen)、ポリエチレンイミン(PEI)、エトキシ化ポリエチレンイミン(PEIE)等が挙げられる。
【0067】
フラーレン類としては、フラーレンおよびその誘導体が好ましいが、特に限定されるものではない。具体的には、C60、C70、C76、C78、C84等を基本骨格とするフラーレンおよびその誘導体が挙げられる。フラーレン誘導体は、フラーレン骨格における炭素原子が任意の官能基で修飾されていてもよく、この官能基同士が互いに結合して環を形成していてもよい。フラーレン誘導体には、フラーレン結合ポリマーが含まれる。溶媒に親和性の高い官能基を有し、溶媒への可溶性が高いフラーレン誘導体が好ましい。
【0068】
フラーレン誘導体における官能基としては、例えば、水素原子、水酸基、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基等のアルキル基、ビニル基等のアルケニル基、シアノ基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基、チエニル基、ピリジル基等の芳香族複素環基等が挙げられる。具体的には、C60H36、C70H36等の水素化フラーレン、C60、C70等のオキサイドフラーレン、フラーレン金属錯体等が挙げられる。フラーレン誘導体としては、[6,6]-フェニルC61酪酸メチルエステル([60]PCBM)や[6,6]-フェニルC71酪酸メチルエステル([70]PCBM)を使用することがより好ましい。
【0069】
電子捕集層の形成方法も、上記と同様、電子捕集材料が難溶性昇華性材料の場合には上述した各種ドライプロセスが選択され、溶液材料あるいは分散液材料の場合には、組成物の粘度と表面張力、所望する薄膜の厚さ等を考慮し、上述した各種ウェットプロセス法の中から最適なものが採用される。
【0070】
[陰極層の形成]:形成された電子捕集層の上に陰極層を形成する工程
陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム-銀合金、アルミニウム-リチウム合金、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、バリウム、銀、金等の金属や、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)等の無機酸化物や、ポリチオフェン誘導体、ポリアニリン誘導体等の高電荷輸送性有機化合物が挙げられ、複数の陰極材料を積層したり、混合したりして使用することができる。
陰極層の形成方法も、上記と同様、陰極層材料が難溶性、難分散性昇華性材料の場合には上述した各種ドライプロセスが選択され、溶液材料あるいは分散液材料の場合には、組成物の粘度と表面張力、所望する薄膜の厚さ等を考慮し、上述した各種ウェットプロセス法の中から最適なものが採用される。
【0071】
[キャリアブロック層の形成]
必要に応じて、光電流の整流性をコントロールすること等を目的として、任意の層間にキャリアブロック層を設けてもよい。キャリアブロック層を設ける場合、通常、活性層と、正孔捕集層または陽極との間に電子ブロック層を、活性層と、電子捕集層または陰極との間に正孔ブロック層を挿入する場合が多いが、この限りではない。
正孔ブロック層を形成する材料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、バソクプロイン(BCP)、4,7-ジフェニル1,10-フェナントロリン(BPhen)等が挙げられる。
電子ブロック層を形成する材料としては、N,N′-ジ(1-ナフチル)-N,N′-ジフェニルベンジジン(α-NPD)、ポリ(トリアリールアミン)(PTAA)等のトリアリールアミン系材料等が挙げられる。
【0072】
キャリアブロック層の形成方法も、上記と同様、キャリアブロック層材料が難溶性、難分散性昇華性材料の場合には上述した各種ドライプロセスが選択され、溶液材料あるいは分散液材料の場合には、組成物の粘度と表面張力、所望する薄膜の厚さ等を考慮し、上述した各種ウェットプロセス法の中から最適なものが採用される。
【0073】
(2)順積層型ペロブスカイト太陽電池
[陰極層の形成]:透明基板の表面に陰極材料の層を形成し、透明陰極基板を製造する工程
陰極材料としては、上記逆積層型の陽極材料で例示したものに加え、フッ素ドープ酸化錫(FTO)が挙げられ、透明基板としては、上記逆積層型の陽極材料で例示したものが挙げられる。
陰極材料の層(陰極層)の形成方法も、難溶性、難分散性昇華性材料の場合には上述したドライプロセスが選択され、溶液材料あるいは分散液材料の場合には、組成物の粘度と表面張力、所望する薄膜の厚さ等を考慮し、上述した各種ウェットプロセス法の中から最適なものが採用される。
また、この場合も市販の透明陰極基板を好適に用いることができ、素子の歩留を向上させる観点からは、平滑化処理がされている基板を用いることが好ましい。市販の透明陰極基板を用いる場合、本発明のペロブスカイト太陽電池の製造方法は、陰極層を形成する工程を含まない。
無機酸化物を陰極材料として使用して透明陰極基板を形成する場合、逆積層型の陽極材料と同様の洗浄処理や、表面処理を施してもよい。
【0074】
[電子捕集層の形成]:形成された陰極上に電子捕集層を形成する工程
必要に応じて、電荷の移動を効率化すること等を目的として、活性層と陰極層の間に電子捕集層を形成してもよい。
電子捕集層を形成する材料としては、上記逆積層型の材料で例示したものに加え、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)等が挙げられる。
電子捕集層の形成方法も、難溶性、難分散性昇華性材料の場合には上述したドライプロセスが選択され、溶液材料あるいは分散液材料の場合には、組成物の粘度と表面張力、所望する薄膜の厚さ等を考慮し、上述した各種ウェットプロセス法の中から最適なものが採用される。また、無機酸化物の前駆体層をウェットプロセス(特にスピンコート法かスリットコート法)を用いて陰極上に形成し、焼成して無機酸化物の層を形成する方法を採用することもできる。
【0075】
[活性層の形成]:形成された電子捕集層上に活性層を形成する工程
活性層として、上述したペロブスカイト半導体化合物を含有する活性層を形成する。
活性層の形成方法も、上記逆積層型の活性層で説明した方法と同様である。
【0076】
[正孔捕集層の形成]:形成された活性層材料の層上に正孔捕集層を形成する工程
上記方法に従い、活性層材料の層上に、本発明の組成物を用いて正孔捕集層を形成する。
【0077】
[陽極層の形成]:形成された正孔捕集層の上に陽極層を形成する工程
陽極材料としては、上記逆積層型の陽極材料と同様のものが挙げられ、陽極層の形成方法としても、逆積層型の陰極層と同様である。
【0078】
[キャリアブロック層の形成]
逆積層型の素子と同様、必要に応じて、光電流の整流性をコントロールすること等を目的として、任意の層間にキャリアブロック層を設けてもよい。
正孔ブロック層を形成する材料および電子ブロック層を形成する材料としては、上記と同様のものが挙げられ、キャリアブロック層の形成方法も上記と同様である。
【0079】
上記で例示した方法によって作製されたペロブスカイト太陽電池素子は、大気による素子劣化を防ぐために、再度グローブボックス内に導入して窒素等の不活性ガス雰囲気下で封止操作を行い、封止された状態で太陽電池としての機能を発揮させたり、太陽電池特性の測定を行ったりすることができる。
封止法としては、端部にUV硬化樹脂を付着させた凹型ガラス基板を、不活性ガス雰囲気下、ペロブスカイト太陽電池素子の成膜面側に付着させ、UV照射によって樹脂を硬化させる方法や、真空下、スパッタリング等の手法によって膜封止タイプの封止を行う方法などが挙げられる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、使用した装置は以下のとおりである。
(1)ソーラーシミュレータ:分光計器(株)製、OTENTOSUN-III
(2)ソースメジャーユニット:ケースレーインスツルメンツ(株)製、2401
(3)膜厚測定装置:Bulker社製、DEKTAK XT
(4)光電子分光装置:理研計器(株)製、AC-2
【0081】
[1]正孔捕集層用組成物の調製
[実施例1-1]
PEDOT-PSS(ヘレウス社製、型番AI4083、PEDOT:PSS=1:6、固形分濃度:1.3~1.7質量%)2,462mgをエタノール2,425mgに溶解し、TEOS(多摩化学工業(株)製)113mgを加えて、濃青色溶液を調製した。得られた濃青色液体を0.45μmのシリンジフィルターでろ過して、正孔捕集層用組成物A(固形分濃度:3.0質量%)を得た。
なお、上記固形分濃度は、PEDOT:PSSの固形分濃度を1.5質量%とし、TEOSの全量を固形分として計算した値である(以下、同様)。
【0082】
[実施例1-2]
TEOS量を80mgに変更した以外は、実施例1と同様にして正孔捕集層用組成物B(固形分濃度:2.3質量%)を得た。
【0083】
[実施例1-3]
TEOS量を60mgに変更した以外は、実施例1と同様にして正孔捕集層用組成物C(固形分濃度:1.9質量%)を得た。
【0084】
[実施例1-4]
TEOS量を30mgに変更した以外は、実施例1と同様にして正孔捕集層用組成物D(固形分濃度:1.3質量%)を得た。
【0085】
[2]ペロブスカイト太陽電池の作製と評価
[実施例2-1]
ヨウ化鉛(PbI2)とヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I)を、それぞれ1Mの濃度でジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解してペロブスカイト前駆体溶液を調製した。
一方、膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる正極が形成されたガラス基板の上に、スピンコート法により、正孔捕集層用組成物Aを塗布し、200℃でアニール処理することにより膜厚71nmの正孔捕集層Aを形成した。この正孔捕集層を形成した基板を、窒素で置換されたグローブボックス内に搬入した。そして、上記で調製した前駆体溶液を孔径0.45μmのフィルターを通して正孔捕集層Aの上に滴下し、基板を500rpmで10秒間回転させた後、6,000rpmで30秒間回転させてスピンコートすることにより、ペロブスカイト前駆体膜を製膜した。次に、脱酸素トルエン(第2溶媒)で満たした浸漬槽を、クールプレート上で25℃になるように温度調整した。この溶媒を攪拌しながら、該溶媒中にペロブスカイト前駆体膜を形成した基板を2分間浸漬した。その後、基板を取り出し、90℃のアニール処理を5分間行うことにより、ペロブスカイト膜を製造した。このペロブスカイト膜の上に、真空蒸着法にて、1×10-4Paの真空度で2層の有機層と電極を形成した。まず、ペロブスカイト膜の上に、フラーレン(C60)を30nmの厚さで蒸着し、その上に、BCPを10nmの厚さで蒸着することで2層の有機層を形成した。さらに、その上に、Agを100nmの厚さで蒸着して電極を形成した。得られた積層体(基板/ITO正極/正孔捕集層/ペロブスカイト膜/C60層/BCP層/Ag負極)をガラス封止管内に収容し、UV硬化樹脂で封止することにより太陽電池を得た。
【0086】
[実施例2-2]
正孔捕集層として正孔捕集層用組成物Bを用いた以外は、実施例2-1と同様の手順を用いて太陽電池を作製した。
【0087】
[実施例2-3]
正孔捕集層として正孔捕集層用組成物Cを用いた以外は、実施例2-1と同様の手順を用いて太陽電池を作製した。
【0088】
[実施例2-4]
正孔捕集層として正孔捕集層用組成物Dを用いた以外は、実施例2-1と同様の手順を用いて太陽電池を作製した。
【0089】
[比較例2-1]
正孔捕集層としてPEDOT-PSS(ヘレウス製、型番AI4083)を用いた以外は、実施例2-1と同様の手順を用いて太陽電池を作製した。
【0090】
[3]特性評価
上記実施例2-1~2-4および比較例2-1で作製したペロブスカイト太陽電池について、ソーラーシミュレータを用いて、AM1.5の疑似太陽光を100mW/cm2放射照度で照射し、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、曲線因子(FF)、PCEの評価を行った。結果を表1に示す。
なお、PCE〔%〕は、下式により算出した。
PCE〔%〕=Jsc〔mA/cm2〕×Voc〔V〕×FF÷入射光強度(100〔mW/cm2〕)×100
【0091】
【表1】
*PEDOT-PSSの固形分濃度を1.5質量%として算出した値である。
【0092】
表1の結果より、本発明の正孔捕集層用組成物を用いることで、非常に安定な特性を有するペロブスカイト太陽電池が得られることがわかる。
【0093】
[4]化学耐性評価用の正孔捕集層付き基板の作製
[実施例2-5]
膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる膜が形成されたガラス基板上に、スピンコート法により、正孔捕集層用組成物Aを塗布し、200℃でアニール処理することにより膜厚71nmの正孔捕集層を形成して、正孔捕集層付き基板を作製した。上記正孔捕集層付き基板は3枚作製した。
【0094】
[比較例2-2]
正孔捕集層形成用組成物としてPEDOT-PSS(ヘレウス社製、型番AI4083)を用いた以外は、実施例2-5と同様の手順で膜厚40nmの正孔捕集層を形成して、正孔捕集層付き基板を作製した。上記正孔捕集層付き基板は3枚作製した。
【0095】
[5]化学耐性の評価
上記で作製した正孔捕集層付き基板の正孔捕集層上に、ジメチルスルホキシド(DMSO)3mLを滴下し10秒間静置した後、6,000rpmで30秒間スピンコートすることで、DMSO液膜を形成した。その後、200℃で10分間乾燥することでDMSO処理基板を作製した。
次に、別の正孔捕集層付き基板の正孔捕集層上に、1Mの濃度に調整したヨウ化メチルアンモニウム(MAI)のDMSO溶液3mLを滴下し10秒間静置した後、6,000rpmで30秒間スピンコートすることで、MAI(DMSO)液膜を正孔捕集層上に形成した。さらに、DMSO3mLを滴下し10秒間静置した後、DMSO3mLを滴下しながら6,000rpmで30秒間スピンコートすることでリンス処理を行った。次に、200℃で10分間乾燥することでMAI(DMSO)処理基板を作製した。
DMSO処理基板、MAI(DMSO)処理基板および未処理基板について、光電子分光装置を用いて正孔捕集層のイオン化ポテンシャルを測定した。結果を表2に示す。
【0096】
【0097】
表2の結果より、比較例の組成物を用いて正孔捕集層を形成した場合は、MAIに曝されるとイオン化ポテンシャルが0.1eV以上浅くなるのに対して、正孔捕集層用組成物Aを用いて正孔捕集層を形成した場合は、イオン化ポテンシャルの変化が小さかった。DMSOに曝された場合においても同様の傾向がみられた。