(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】細胞外小胞内部タンパク質の検出方法および細胞外小胞膜透過処理剤
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/00 20060101AFI20250708BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20250708BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20250708BHJP
C12N 5/07 20100101ALN20250708BHJP
【FI】
C12Q1/00
G01N33/53 D
G01N33/543 515F
G01N33/543 541A
C12N5/07
(21)【出願番号】P 2021567629
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048510
(87)【国際公開番号】W WO2021132489
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2019238075
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019238071
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 泰之
(72)【発明者】
【氏名】大竹 則久
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-530755(JP,A)
【文献】国際公開第2019/222708(WO,A2)
【文献】特開2017-063716(JP,A)
【文献】特開2017-129584(JP,A)
【文献】特表2019-511917(JP,A)
【文献】国際公開第2016/186215(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/00-3/00
C12N 1/00-15/00
G01N 33/48-33/98
G01N 35/00-37/00
G01N 1/00- 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を検出する方法であって、
(A)細胞外小胞の表面に存在する細胞外小胞特異的マーカーと結合可能な
物質を固定化された担体を用いて、細胞外小胞を捕捉する工程、
(B)膜透過処理剤を用いて、前記担体に捕捉された細胞外小胞を膜透過処理する工程、および
(C)細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を検出可能な試薬を、膜透過処理した細胞外小胞に導入する工程
を含み、
前記工程(B)が、前記特定タンパク質を前記細胞外小胞の外部に漏出させず、かつ該細胞外小胞の内部に前記試薬を導入可能となるように実施され、
前記膜透過処理剤が、界面活性剤および/または有機溶媒であり、
前記界面活性剤が、下記(a)から(c)のいずれかであり:
(a)0.05~0.5%(w/v)デオキシコール酸塩
(b)0.01~1%(w/v)グリココール酸塩
(c)0.01~0.1%(w/v)SDS
前記有機溶媒が、下記(a)または(b)である、方法:
(a)20~60%(v/v)エタノール
(b)20~70%(v/v)アセトン。
【請求項2】
前記工程(A)の後、および/または、前記工程(B)の後に、さらに、夾雑物を除去する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(C)の後に、さらに、導入された前記試薬を利用して前記特定タンパク質を検出する工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記担体が、磁性粒子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
細胞外小胞の膜透過処理剤であって、
界面活性剤および/または有機溶媒を含み、
細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を該細胞外小胞の外部に漏出させず、かつ細
胞外小胞の内部に含まれる特定タンパク質を検出可能な試薬を細胞外小胞の内部に導入可能となるように細胞外小胞を膜透過処理できることを特徴とし、
前記界面活性剤が、下記(a)から(c)のいずれかであり:
(a)0.05~0.5%(w/v)デオキシコール酸塩
(b)0.01~1%(w/v)グリココール酸塩
(c)0.01~0.1%(w/v)SDS
前記有機溶媒が、下記(a)または(b)である、膜透過処理剤:
(a)20~60%(v/v)エタノール
(b)20~70%(v/v)アセトン。
【請求項6】
細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質の検出キットであって、
細胞外小胞表面に存在する細胞外小胞特異的マーカーと結合可能な磁性粒子と、請求項5に記載の膜透過処理剤と、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を検出可能な試薬とを含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を簡便かつ精度よく検出する方法および同方法に用いることができる膜透過処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血液などの体液や、細胞の培養液などには、当該体液や培養液に含まれる細胞から分泌される、細胞外小胞が含まれていることが知られている。当該細胞外小胞は生体内の細胞間コミュニケーションの媒介役としての機能、がん等の疾患や生理現象との関連性が近年報告されており、生理学的な機能の解明や疾患検査への応用に向けた研究が進められている。
【0003】
エクソソームやアポトーシス小胞などに代表される細胞外小胞は、脂質二重膜で覆われたコロイド状の粒子であり、これまで膜表面のタンパク質を標的とした細胞外小胞の検出法が報告されている(特許文献1)。
【0004】
細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質の検出法として、デオキシコール酸ナトリウムとラウロイルサルコシン酸とを含む界面活性剤で膜透過し、細胞外小胞内部から漏出させたタンパク質を質量分析計で検出する方法が報告されている(特許文献2)。また細胞外小胞を磁性粒子で濃縮し、細胞外小胞の膜を可溶化させた後、細胞外小胞の内部から漏出させた特定タンパク質をウエスタンブロッティングで検出する方法が報告されている(特許文献3)。しかしながら、これら文献に記載の検出法は煩雑であり、かつ細胞外小胞外部に漏出させてから検出しているため、高精度な検出も困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2012-508577号公報
【文献】WO2015/182580
【文献】WO2016/186215
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を簡便かつ精度よく検出する方法および同方法に用いることができる膜透過処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の膜透過処理剤を用いることにより、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を細胞外小胞の外部に漏出させずに、特定タンパク質を検出可能な試薬を細胞外小胞の内部に導入可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、以下の通り例示できる。
[1]
細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を検出する方法であって、
(A)細胞外小胞の表面に存在する細胞外小胞特異的マーカーと結合可能な担体を用いて、細胞外小胞を捕捉する工程、
(B)膜透過処理剤を用いて、前記担体に捕捉された細胞外小胞を膜透過処理する工程、および
(C)細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を検出可能な試薬を、膜透過処理した細胞外小胞に導入する工程
を含み、
前記工程(B)が、前記特定タンパク質を前記細胞外小胞の外部に漏出させず、かつ該細胞外小胞の内部に前記試薬を導入可能となるように実施される、方法。
[2]
前記工程(A)の後、および/または、前記工程(B)の後に、さらに、夾雑物を除去する工程を含む、前記方法。
[3]
前記工程(C)の後に、さらに、導入された前記試薬を利用して前記特定タンパク質を検出する工程を含む、前記方法。
[4]
前記膜透過処理剤が、界面活性剤および/または有機溶媒である、前記方法。
[5]
前記界面活性剤が、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、または非イオン界面活性剤である、前記方法。
[6]
前記界面活性剤が、デオキシコール酸塩、グリココール酸塩、SDS、サポニン、Triton X-100、またはCTABである、前記方法。
[7]
前記界面活性剤が、下記(a)から(f)のいずれかである、前記方法。
(a)0.05~0.5%(w/v)デオキシコール酸塩
(b)0.01~1%(w/v)グリココール酸塩
(c)0.01~0.1%(w/v)SDS
(d)0.1~2%(w/v)サポニン
(e)0.005~0.5%(w/v)Triton X-100
(f)0.002~0.2%(w/v)CTAB
[8]
前記界面活性剤が、下記(a)から(c)のいずれかである、前記方法。
(a)0.05~0.5%(w/v)デオキシコール酸塩
(b)0.01~1%(w/v)グリココール酸塩
(c)0.01~0.1%(w/v)SDS
[9]
前記有機溶媒が、エタノールおよび/またはアセトンである、前記方法。
[10]
前記有機溶媒が、下記(a)または(b)である、前記方法。
(a)20~60%(v/v)エタノール
(b)20~70%(v/v)アセトン
[11]
前記担体が、磁性粒子である、前記方法。
[12]
細胞外小胞の膜透過処理剤であって、
界面活性剤および/または有機溶媒を含み、
細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を該細胞外小胞の外部に漏出させず、かつ細胞外小胞の内部に含まれる特定タンパク質を検出可能な試薬を細胞外小胞の内部に導入可能となるように細胞外小胞を膜透過処理できることを特徴とする、膜透過処理剤。
[13]
前記界面活性剤が、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、または非イオン界面活性剤である、前記膜透過処理剤。
[14]
前記界面活性剤が、デオキシコール酸塩、グリココール酸塩、SDS、サポニン、Triton X-100、およびCTABからなる群より選択される1種またはそれ以上の成分である、前記膜透過処理剤。
[15]
前記界面活性剤が、下記(a)から(f)のいずれかである、前記膜透過処理剤。
(a)0.05~0.5%(w/v)デオキシコール酸塩
(b)0.01~1%(w/v)グリココール酸塩
(c)0.01~0.1%(w/v)SDS
(d)0.1~2%(w/v)サポニン
(e)0.005~0.5%(w/v)Triton X-100
(f)0.002~0.2%(w/v)CTAB
[16]
前記界面活性剤が、下記(a)から(c)のいずれかである、前記膜透過処理剤。
(a)0.05~0.5%(w/v)デオキシコール酸塩
(b)0.01~1%(w/v)グリココール酸塩
(c)0.01~0.1%(w/v)SDS
[17]
前記有機溶媒が、エタノールおよび/またはアセトンである、前記膜透過処理剤。
[18]
前記有機溶媒が、下記(a)または(b)である、前記膜透過処理剤。
(a)20~60%(v/v)エタノール
(b)20~70%(v/v)アセトン
[19]
細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質の検出キットであって、
細胞外小胞表面に存在する細胞外小胞特異的マーカーと結合可能な磁性粒子と、前記膜透過処理剤と、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を検出可能な試薬とを含む、キット。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】比較例8のウエスタンブロッティングの結果を示す図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
<1>本発明の方法
本発明の方法は、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を検出する方法である。
【0012】
本発明の方法は、
膜透過処理剤を用いて、細胞外小胞を膜透過処理する工程(以下、単に「膜透過工程」とも表記)と、
細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を検出可能な試薬を、膜透過処理した細胞外小胞に導入する工程(以下、単に「導入工程」とも表記)と
を含んでいてよい。
【0013】
細胞外小胞の表面に存在する細胞外小胞特異的マーカーを、以下、単に「小胞特異的マーカー」とも表記する。特定タンパク質を検出可能な試薬を、以下、単に「検出試薬」とも表記する。
【0014】
「細胞外小胞」とは、能動的/受動的に関わらず細胞から放出された、直径1nmから1μmの脂質で覆われた小胞のことをいう。細胞外小胞の一例として、エクソソーム、マイクロベシクル、エクトソーム、メンブレンパーティクル、エクソソーム様小胞、アポトーシス小胞が挙げられる(Nature Reviews,9,2009,581-593)。一般的に細胞外小胞は細胞と異なる組成の脂質やタンパク質で構成されていると報告されている(BioScience,65,2015,783-797)。
【0015】
細胞外小胞の由来は、特に限定されない。細胞外小胞の由来としては、例えば、体液、菌体懸濁液、細胞培養後の培養液や培養上清、組織細胞の破砕液が挙げられる。細胞外小胞の由来としては、中でも、体液や細胞培養後の培養上清が好ましい。体液の例として、全血、血清、血漿、血液成分、各種血球、血餅、血小板等の血液組成成分や、尿、精液、母乳、汗、間質液、間質性リンパ液、骨髄液、組織液、唾液、胃液、関節液、胸水、胆汁、腹水、羊水が挙げられる。体液としては、中でも、血液組成成分が好ましい。血液組成成分等の体液は、クエン酸、ヘパリン、EDTA等の抗凝固剤で処理したものでもよい。
【0016】
本発明の方法は、膜透過工程の前に、細胞外小胞を捕捉する工程(以下、単に「捕捉工程」とも表記)を含んでいてもよい。「細胞外小胞の捕捉」は、「細胞外小胞の回収」と代替可能に用いられてもよい。捕捉工程は、例えば、細胞外小胞の表面に存在する細胞外小胞特異的マーカーと結合可能な担体を用いて実施することができる。すなわち、膜透過工程に供される細胞外小胞は、例えば、前記担体に捕捉された細胞外小胞であってよい。
【0017】
すなわち、本発明の方法は、具体的には、例えば、
細胞外小胞の表面に存在する細胞外小胞特異的マーカーと結合可能な担体を用いて、細胞外小胞を捕捉する工程と、
膜透過処理剤を用いて、前記担体に捕捉された細胞外小胞を膜透過させる工程と、
細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を検出可能な試薬を、膜透過させた細胞外小胞に導入する工程と
を含んでいてよい。
【0018】
捕捉工程で用いる担体は、例えば、小胞特異的マーカーと特異的に結合可能な物質を基材に固定化することで得られる。
【0019】
基材は、水不溶性物質であれば特に限定されない。基材は、親水性であってもよく、疎水性であってもよい。基材として、具体的には、例えば、アガロース系、デキストラン系、キトサン系、セルロース系等の多糖類、ポリアクリルアミド系、ポリビニルアルコール系、ポリビニルピロリドン系、ポリアクリロニトリル系、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、ポリスチレン系、アクリル酸エステル系、メタクリル酸エステル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリ4-フッ化エチレン系、エチレン-酢酸ビニル共重合体系、ポリアミド系、ポリカーボネート系、ポリフッ化ビニリデン系、ポリビニルホルマール系、ポリアリレート系、ポリエーテルスルホン系等の有機合成高分子、ガラス系、チタン系、活性炭系、アルミナ、シリカ、ヒドロキシアパタイト等の各種セラミックス系、酸化鉄、金等の金属系の無機物など、本技術分野で通常用いられる公知の材料を特別の限定なく使用できる。また、基材の形状は、特に限定されない。基材として、具体的には、例えば、粒子状、繊維状、中空糸状、膜状、平板状など、公知の形状のものを用いることができる。基材の形状としては、中でも、表面積が大きい点、均一かつ効率的に標的細胞に結合できる点、細胞に物理的な損傷を与えにくい点、損傷が生じにくい点、均一な担体が得やすい点などから、粒子状が好ましい。粒子の形状は、特に限定されない。粒子としては、中でも、取扱いが簡便な点、細胞外小胞に物理的な損傷を与えにくい点、粒子の損傷が生じにくい点、均一な粒子を得やすい点などから、球形(真球のみならずほぼ球状を含む)の粒子が好ましい。さらに、粒子としては、外部磁場の印加により、簡便、短時間かつ高精度に回収できる点で、磁性粒子が特に好ましい。磁性粒子としては、磁性体を含ませて製造した粒子が挙げられる。
【0020】
小胞特異的マーカーは、細胞外小胞の表面に特異的に存在する物質であれば、特に限定されない。小胞特異的マーカーとしては、細胞外小胞の表面に存在し、かつ抗原性を有する物質や、細胞外小胞の表面に存在し、かつ特定の受容体に対して認識性を有する物質が挙げられる。小胞特異的マーカーとして、具体的には、タンパク質、糖鎖、核酸、脂質が挙げられる。例えば、細胞外小胞がエクソソームである場合の、細胞外小胞の表面に存在し、かつ抗原性を有する物質の例として、CD9、CD63、CD81等のテトラスパニン類;MHC(Major Histocompatibility Complex)I、MHCII等の抗原提示関連タンパク質;インテグリン、ICAM-1(InterCellular Adhesion Molecule 1)、EpCAM(Epithelial Cell Adhesion Molecule)などの接着分子;EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)vIII、TGF(Transforming Growth Factor)-βなどのサイトカイン/サイトカイン受容体、酵素類があげられる。また、例えば、細胞外小胞がエクソソームである場合の、細胞外小胞の表面に存在し、かつ特定の受容体に対して認識性を有する物質の例として、ホスファチジルセリンなどの脂質が例示できる。
【0021】
小胞特異的マーカーと特異的に結合可能な物質の一例として、細胞外小胞表面特異的に有するタンパク質に対する抗体や、細胞外小胞表面特異的に有する糖鎖と特異的に結合可能なレクチンや、細胞外小胞表面特異的に有するタンパク質または核酸と結合可能なアプタマーや、細胞外小胞表面特異的に有する脂質に対する受容体があげられる。小胞特異的マーカーと特異的に結合可能な物質としては、中でも、細胞外小胞表面特異的に有するタンパク質に対する抗体が好ましい。なお、小胞特異的マーカーと特異的に結合可能な物質として、細胞外小胞の放出元の特定臓器または特定細胞由来の膜表面マーカーと特異的に結合可能な物質を用いると、当該特定臓器または特定細胞から放出された細胞外小胞を特異的に捕捉できる。小胞特異的マーカーと特異的に結合可能な物質の基材への固定化方法としては、共有結合、静電相互作用、疎水性相互作用、配位結合などがあげられる。小胞特異的マーカーと特異的に結合可能な物質の基材への固定化方法としては、中でも、強固な修飾方法である共有結合が好ましい。
【0022】
膜透過工程は、膜透過処理剤を用いて、細胞外小胞を膜透過処理する工程である。「細胞外小胞の膜透過処理」とは、細胞外小胞の膜透過性を高める処理を意味してよく、具体的には、検出試薬に対する細胞外小胞の膜透過性を高める処理を意味してよい。
【0023】
膜透過工程は、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を細胞外小胞の外部に漏出させず、且つ細胞外小胞の内部に検出試薬を導入可能となるように実施される。具体的には、膜透過工程では、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質が細胞外小胞の外部に漏出せず、かつ検出試薬を細胞外小胞内部へ導入可能なサイズの膜透過孔を形成させてよい。膜透過孔のサイズが小さいと検出試薬が細胞外小胞内部に入ることができず、また、膜透過孔のサイズが大きいと細胞外小胞内部に存在するタンパク質が漏出するため、いずれの場合も細胞外小胞内部に存在するタンパク質を精度よく検出することが困難となる。「特定タンパク質が細胞外小胞の外部に漏出しない」とは、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質が、検出試薬で精度よく検出できるだけの量で前記小胞内部に残存していることを意味する。「特定タンパク質が細胞外小胞の外部に漏出しない」とは、具体的には、例えば、膜透過工程の実施後に細胞外小胞内部に残存する特定タンパク質の量(例えば、分子数)が、膜透過工程の実施前に細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質の量(例えば、分子数)の、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上であることを意味してもよい。
【0024】
膜透過処理剤は、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を細胞外小胞の外部に漏出させず、且つ細胞外小胞の内部に検出試薬を導入可能となるように膜透過工程を実施できるものであれば、特に限定されない。膜透過処理剤は、具体的には、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質が当該小胞の外部に漏出せず、かつ検出試薬を当該小胞内部へ導入可能なサイズの膜透過孔を形成できるものであってよい。膜透過処理剤としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
膜透過処理剤の一例として、界面活性剤や有機溶媒が挙げられる。膜透過処理剤としては、界面活性剤が好ましい。膜透過処理剤としては、特に、少なくとも界面活性剤を用いてよく、さらに特には、界面活性剤と有機溶媒を併用してもよい。
【0026】
界面活性剤の例としては、陽イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤があげられる。陽イオン界面活性剤としては、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、セチルピリジニウムブロミド(CPB)、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド(DOTAC)、ナトリウムペルフルオロノナノエート(SPFN)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(HDTMA)があげられる。非イオン界面活性剤としては、Triton X-100(商品名)やサポニンがあげられる。陰イオン界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩(SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)等)、胆汁酸もしくは胆汁酸塩(コール酸ナトリウム等のコール酸塩、デオキシコール酸ナトリウム等のデオキシコール酸塩、グリココール酸ナトリウム等のグリココール酸塩、ケノデオキシコール酸ナトリウム等のケノデオキシコール酸塩、リトコール酸ナトリウム等のリトコール酸塩、グリコリトコール酸ナトリウム等のグリコリトコール酸塩、タウロリトコール酸ナトリウム等のタウロリトコール酸塩等)や、ラウリルスルホコハク酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムがあげられる。界面活性剤としては、中でも、細胞外小胞内部の特定タンパク質を精度よく検出できる点で、陰イオン界面活性剤が好ましい。陰イオン界面活性剤としては、中でも、タンパク質変性能を有さない点で、胆汁酸または胆汁酸塩が好ましい。界面活性剤としては、特に、デオキシコール酸塩(デオキシコール酸ナトリウム等)、グリココール酸塩(グリココール酸ナトリウム等)、SDS、サポニン、Triton X-100、CTABが挙げられる。界面活性剤として、さらに特には、デオキシコール酸塩(デオキシコール酸ナトリウム等)、グリココール酸塩(グリココール酸ナトリウム等)、SDSが挙げられる。
【0027】
有機溶媒の例としては、エタノール、メタノールなどのアルコールや、アセトンがあげられる。有機溶媒としては、特に、エタノールやアセトンが挙げられる。
【0028】
膜透過処理剤の濃度は、膜透過処理剤の種類や膜透過処理する細胞外小胞の量等の諸条件に応じて、適宜設定できる。膜透過処理剤は、例えば、膜透過処理剤を所定の濃度で含有する水溶液の形態で使用してよい。膜透過処理剤を含有する水溶液は、例えば、膜透過処理剤を水や水性緩衝液等の水性媒体で希釈することにより調製できる。「膜透過処理剤の濃度」とは、特記しない限り、細胞外小胞と接触する膜透過処理剤の濃度を意味してよい。
【0029】
膜透過処理剤として界面活性剤を用いる場合、界面活性剤の濃度は、界面活性剤の限界ミセル濃度や膜透過処理する細胞外小胞の量等の諸条件に応じて、適宜設定できる。界面活性剤の濃度は、例えば、0.002%(w/v)以上、0.005%(w/v)以上、0.01%(w/v)以上、0.02%(w/v)以上、0.05%(w/v)以上、または0.1%(w/v)以上であってもよく、2%(w/v)以下、1%(w/v)以下、0.5%(w/v)以下、0.2%(w/v)以下、または0.1%(w/v)以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。
【0030】
界面活性剤の濃度としては、特に、下記(a)から(f)が挙げられる。すなわち、界面活性剤は、例えば、下記(a)から(f)のいずれかであってよい。界面活性剤は、具体的には、例えば、下記(a)から(f)のいずれかを含有する水溶液であってよい。
(a)0.05~0.5%(w/v)デオキシコール酸塩
(b)0.01~1%(w/v)グリココール酸塩
(c)0.01~0.1%(w/v)SDS
(d)0.1~2%(w/v)サポニン
(e)0.005~0.5%(w/v)Triton X-100
(f)0.002~0.2%(w/v)CTAB
【0031】
界面活性剤の濃度として、さらに特には、下記(a)から(c)が挙げられる。すなわち、界面活性剤は、例えば、下記(a)から(c)のいずれかであってよい。界面活性剤は、具体的には、例えば、下記(a)から(c)のいずれかを含有する水溶液であってよい。
(a)0.05~0.5%(w/v)デオキシコール酸塩
(b)0.01~1%(w/v)グリココール酸塩
(c)0.01~0.1%(w/v)SDS
【0032】
膜透過処理剤として有機溶媒を用い、且つ担体として粒子を用いる場合、有機溶媒は当該粒子懸濁液内での分散安定性を低下させることがあり、分散安定性低下に伴う粒子の凝集が発生すると、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質検出能が大幅に低下する。一方、有機溶媒の添加濃度が低いと、膜透過の効果が十分に発揮できないため、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質検出能が向上しない。したがって膜透過処理剤として有機溶媒を用いるときは、粒子の凝集が発生せず、かつ膜透過の効果を発揮する濃度で有機溶媒を用いるのが好ましい。有機溶媒の濃度は、例えば、5%(v/v)以上、10%(v/v)以上、20%(v/v)以上、または30%(v/v)以上であってもよく、90%(v/v)以下、80%(v/v)以下、70%(v/v)以下、60%(v/v)以下、または50%(v/v)以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。
【0033】
有機溶媒としてエタノールを用いる場合、エタノールの濃度は、例えば、5%(v/v)以上、10%(v/v)以上、20%(v/v)以上、または30%(v/v)以上であってもよく、70%(v/v)以下、60%(v/v)以下、または50%(v/v)以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。エタノールの濃度は、具体的には、例えば、5~70%(v/v)が好ましく、20~60%(v/v)がより好ましく、30~50%(v/v)がさらにより好ましい。有機溶媒としてアセトンを用いる場合、アセトンの濃度は、例えば、5%(v/v)以上、10%(v/v)以上、20%(v/v)以上、または30%(v/v)以上であってもよく、90%(v/v)以下、80%(v/v)以下、または70%(v/v)以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。アセトンの濃度は、具体的には、例えば、5~80%(v/v)が好ましく、20~70%(v/v)がより好ましく、30~70%(v/v)がさらにより好ましい。
【0034】
有機溶媒の濃度としては、特に、下記(a)や(b)が挙げられる。すなわち、有機溶媒は、例えば、下記(a)または(b)であってよい。有機溶媒は、具体的には、例えば、下記(a)または(b)を含有する水溶液であってよい。
(a)20~60%(v/v)エタノール
(b)20~70%(v/v)アセトン
【0035】
本発明の方法は、さらに、細胞外小胞を固定化する工程(以下、単に「固定化工程」とも表記)を含んでいてもよい。「細胞外小胞を固定化」とは、例えば、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質の固定化を意味してよい。固定化工程は、細胞外小胞を固定化する試薬(以下、単に「固定化処理剤」ともいう)を用いて実施できる。固定化処理剤としては、前述した有機溶媒や、ホルムアルデヒド、イミダゾリジニル尿素などのホルムアルデヒドドナー化合物(加水分解を受けることでホルムアルデヒドを放出可能な化合物)、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド類が例示できる。
【0036】
本発明の方法が固定化工程を含む場合、固定化工程は、例えば、膜透過工程と同時に実施してよい。固定化工程と膜透過工程とを同時に実施する例として、細胞外小胞に界面活性剤と有機溶媒を組み合わせて作用させる態様があげられる。言い換えると、膜透過処理剤として界面活性剤と有機溶媒を併用することにより、固定化工程と膜透過工程とを同時に実施することができる。界面活性剤と有機溶媒は、具体的には、界面活性剤と有機溶媒を含有する混合液の形態で使用してよい。界面活性剤と有機溶媒の濃度は、それぞれ、上記例示した濃度であってよい。界面活性剤は、膜透過処理剤として機能し得る。しかしながら、界面活性剤のみを用いて膜透過工程を実施する場合、高濃度の界面活性剤を用いると、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質の漏出が発生し、以て特定タンパク質の精度よい検出が困難となるおそれがある。有機溶媒は、膜透過処理剤としての機能に加えて、タンパク質を不溶化する固定化処理剤としての機能も有し得る。しかしながら、有機溶媒のみを用いて固定化工程および膜透過工程を実施する場合、高濃度の有機溶媒を用いると、担体として用いた粒子の凝集が発生し、以て特定タンパク質の精度よい検出が困難となるおそれがある。また、有機溶媒のみを用いて固定化工程および膜透過工程を実施する場合、低濃度の有機溶媒を用いると、膜透過工程が不十分となり、以て特定タンパク質の精度よい検出が困難となるおそれがある。一方、界面活性剤と有機溶媒との混合液を細胞外小胞に作用させると、有機溶媒が有する固定化処理剤としての機能により、細胞外小胞に含まれる特定タンパク質の不溶化が起こるため特定タンパク質の漏出を抑制できるとともに、有機溶媒および界面活性剤が有する膜透過処理剤としての機能により、細胞外小胞の膜透過処理が進行する。
【0037】
本発明の方法は、さらに、抗原を賦活化処理する工程(以下、単に「賦活化工程」とも表記)を含んでいてもよい。「抗原の賦活化処理」とは、例えば、特定タンパク質の抗原性を回復させる処理を意味してよい。特定タンパク質の抗原性は、例えば、抗原決定基の立体障害またはマスキングにより低下し得る。抗原決定基の立体障害またはマスキングは、例えば、固定化工程を実施する場合に起こり得る。特定タンパク質の抗原性の低下により、例えば、特定タンパク質と検出試薬の結合性が低下し得る。よって、賦活化工程を実施することにより、例えば、低下した特定タンパク質と検出試薬の結合性が回復し、以て検出試薬による特定タンパク質の高感度な検出が可能となり得る。賦活化工程は、導入工程の実施前に実施すればよい。賦活化工程は、例えば、固定化工程の実施後に実施してよい。また、賦活化工程は、例えば、固定化工程を実施しない場合に実施してもよい。賦活化処理方法として、熱処理法やタンパク質分解酵素処理法が挙げられ、抗原の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。熱処理法としては、マイクロ波照射、オートクレーブ、恒温槽、電気圧力鍋等を用いた加熱方法が例示できる。タンパク質分解酵素処理法としては、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、プロテイナーゼKなどのタンパク質のアミノ酸を切断可能な酵素による処理が例示できる。
【0038】
本発明の方法は、さらに、夾雑物を除去する工程(以下、単に「除去工程」とも表記)を含んでいてもよい。「夾雑物」とは、担体に捕捉されていない物質を意味してよい。夾雑物としては、細胞外小胞以外の物質が挙げられる。また、夾雑物には、担体に捕捉されていない細胞外小胞も包含されてよい。除去工程は、例えば、捕捉工程の後、および/または膜透過工程の後に実施してよい。除去工程を実施すると、前記担体に捕捉された細胞外小胞の濃縮画分を、夾雑物を除去した状態で、導入工程および後述する検出工程に供せる点で好ましい。夾雑物の除去は、例えば、担体と夾雑物との物理学的または化学的性質の差に基づき実施できる。物理学的または化学的性質の差に基づく除去の一例として、比重差、沈降速度差、粒子径差、誘電率差に基づく除去があげられる。なお、担体を磁性粒子とすると、外部磁場の印加により、細胞外小胞を結合した担体(磁性粒子)と夾雑物とを、簡便、短時間かつ高精度に分離できるため、除去工程を簡便、短時間かつ高精度に実施できる。
【0039】
導入工程は、膜透過処理した細胞外小胞に検出試薬を導入する工程である。検出試薬は、例えば、膜透過工程の実施により形成された膜透過孔から細胞外小胞に導入されてよい。検出試薬は、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を検出可能なものであれば、特に限定されない。
【0040】
特定タンパク質は、細胞外小胞の内部(すなわち、細胞外小胞を構成する脂質二重膜より内側)に存在するタンパク質であれば、特に限定されない。特定タンパク質の例として、アクチン、チューブリン、GAPDH(GlycerAldehyde-3-Phosphate DeHydrogenase)などの多くの細胞由来のエクソソームに共通する内部タンパク質や、ESCRT(Endosomal Sorting Complex Required for Transport)-III、ALIX(Apoptosis-Linked gene 2-Interacting protein X)、Syntenin、Tsg101などのエンドソームのソーティングタンパク質や、HSP70、HSP90などの熱ショックタンパク質、RAB、Annexinなど膜輸送と融合に関わるタンパク質があげられる。
【0041】
なお、細胞外小胞内部に含まれる、細胞外小胞の放出元の特定臓器または特定細胞特異的に発現するタンパク質を、特定タンパク質としてもよい。当該タンパク質を特定タンパク質として検出することで、特定臓器または特定細胞から分泌された細胞外小胞を精度よく検出できる。さらに、捕捉工程を放出元の特定臓器または特定細胞由来の膜表面マーカーと特異的に結合可能な物質を固定化した担体を用いて実施すると、特定臓器または特定細胞から分泌された細胞外小胞をさらに精度よく検出できる。
【0042】
導入工程で導入する試薬の例として、特定タンパク質と特異的に結合可能な抗体やアプタマーがあげられる。抗体やアプタマーは、いずれも、適宜、標識物質で修飾されていてよい。標識物質は、直接的に検出するためのものであってもよく、間接的に検出するためのものであってもよい。標識物質としては、色素、酵素、放射性物質が挙げられる。色素としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリスリン(PE)、Alexa Fluor(商品名)等の蛍光物質が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼやホースラディッシュペルオキシダーゼが挙げられる。例えば、前記標識物質として蛍光色素などの色素を用い、当該色素に基づき直接検出してもよいが、前記標識物質として酵素を用い、当該酵素と反応して発色する基質を添加することで検出すると、高感度に特定タンパク質を検出できる点で好ましい。抗体またはアプタマーと標識物質との結合態様は、特に制限されない。抗体またはアプタマーは標識物質と直接結合していてもよく、そうでなくてもよい。例えば、抗体は、標識物質と化学結合等により直接結合していてもよく、標識物質と結合した二次抗体(標識二次抗体)と結合することによって間接的に標識物質と結合していてもよい。また、例えば、抗体にビオチンを修飾した場合、アビジンを修飾した酵素を用いて抗体を間接標識してもよい。
【0043】
導入された検出試薬を利用して特定タンパク質を検出することができる。すなわち、本発明の方法は、さらに、導入された検出試薬を利用して特定タンパク質を検出する工程(以下、単に「検出工程」とも表記)を含んでいてもよい。
【0044】
検出は、常法に従って実施できる。検出方法は、検出試薬の種類等の諸条件に応じて、適宜選択できる。例えば、検出試薬が特定タンパク質に対して特異的に結合可能な抗体である場合、検出方法としては、免疫測定法である、酵素免疫測定法(EIA)、酵素イムノメトリックアッセイ法(ELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、放射線免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法が挙げられる。検出方法としては、中でも、簡便に感度よく抗体を検出できる点から、ELISA法が好ましい。ELISA法としては、競合法やサンドイッチ法が挙げられる。
【0045】
以下、検出工程をサンドイッチELISA法で実施する場合の、本発明の方法の一例を
図1を用いて説明する。
【0046】
(1)細胞外小胞10を含む懸濁液と、細胞外小胞10の膜表面に存在する小胞特異的マーカーに対する抗体30を固定化した磁性粒子20とを、96ウェルプレートのウェル100内に入れ、細胞外小胞10を磁性粒子20に捕捉させる(捕捉工程)。
【0047】
(2)磁性粒子20に捕捉されない細胞外小胞10を除去した後、膜透過処理剤を用いて、粒子表面に捕捉された細胞外小胞を膜透過処理する(膜透過処理した細胞外小胞11)(膜透過工程)。
【0048】
(3)(不図示)膜透過処理した細胞外小胞11にブロッキング試薬を添加する。
【0049】
(4)ブロッキング試薬を除去後、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質と特異的に結合可能な酵素標識抗体を含む検出試薬を、膜透過処理した細胞外小胞に導入する(標識された細胞外小胞12)(導入工程)。(2)の膜透過工程により、前記酵素標識抗体は膜透過処理した細胞外小胞内部に導入できる一方、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質は漏出しないため、前記酵素標識抗体は前記特定タンパク質に十分量結合できる。また、(3)で添加したブロッキング試薬により、前記酵素標識抗体などによる非特異吸着も抑制されている。
【0050】
(5)標識された細胞外小胞12に、基質40を添加する。細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質に結合した抗体に修飾されている酵素と基質40との反応50により、光学的に検出可能な生成物41が生成する。例えば、標識酵素としてペルオキシダーゼを用いた場合、基質40としてはTMB(テトラメチルベンジジン)などを用いてよい。
【0051】
(6)酵素反応を止める試薬を添加後、ウェル100の底部に磁石200を近接させることで磁性粒子20をウェル底部に引き寄せた後、磁性粒子20を実質的に含まないよう、生成物41が含まれる溶液(上清)を回収する。
【0052】
(7)(6)で回収した溶液を、磁性粒子の入っていないウェル100に入れ、検出器300により生成物41の吸光度を測定することで、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質の量を検出する(検出工程)。
【0053】
<2>本発明の膜透過処理剤
本発明の膜透過処理剤は、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質を細胞外小胞の外部に漏出させず、且つ細胞外小胞の内部に検出試薬を導入可能となるように細胞外小胞を膜透過処理できることを特徴とする、膜透過処理剤である。
【0054】
本発明の膜透過処理剤は、膜透過処理剤として機能する成分(以下、単に「膜透過処理成分」とも表記)を含む。本発明の膜透過処理剤は、例えば、膜透過処理成分からなるものであってもよく、膜透過処理成分に加えて他の成分を含んでいてもよい。本発明の膜透過処理剤は、1種の膜透過処理成分を含んでいてもよく、2種またはそれ以上の膜透過処理成分を含んでいてもよい。
【0055】
本発明の膜透過処理剤に含まれる膜透過処理成分(例えば、種類や濃度)については、本発明の方法における膜透過処理剤についての記載を準用できる。
【0056】
すなわち、本発明の膜透過処理剤は、例えば、界面活性剤および/または有機溶媒を含んでいてよい。本発明の膜透過処理剤は、特に、少なくとも界面活性剤を含んでいてよく、さらに特には、界面活性剤と有機溶媒を含んでいてもよい。界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤が好ましい。界面活性剤としては、特に、デオキシコール酸塩(デオキシコール酸ナトリウム等)、グリココール酸塩(グリココール酸ナトリウム等)、SDS、サポニン、Triton X-100、CTABが挙げられる。界面活性剤として、さらに特には、デオキシコール酸塩(デオキシコール酸ナトリウム等)、グリココール酸塩(グリココール酸ナトリウム等)、SDSが挙げられる。有機溶媒としては、特に、エタノールやアセトンが挙げられる。
【0057】
本発明の膜透過処理剤に含まれる界面活性剤は、例えば、下記(a)から(f)のいずれかであってよい。本発明の膜透過処理剤に含まれる界面活性剤は、具体的には、例えば、下記(a)から(f)のいずれかを含有する水溶液であってよい。
(a)0.05~0.5%(w/v)デオキシコール酸塩
(b)0.01~1%(w/v)グリココール酸塩
(c)0.01~0.1%(w/v)SDS
(d)0.1~2%(w/v)サポニン
(e)0.005~0.5%(w/v)Triton X-100
(f)0.002~0.2%(w/v)CTAB
【0058】
本発明の膜透過処理剤に含まれる界面活性剤は、例えば、下記(a)から(c)のいずれかであってよい。本発明の膜透過処理剤に含まれる界面活性剤は、具体的には、例えば、下記(a)から(c)のいずれかを含有する水溶液であってよい。
(a)0.05~0.5%(w/v)デオキシコール酸塩
(b)0.01~1%(w/v)グリココール酸塩
(c)0.01~0.1%(w/v)SDS
【0059】
本発明の膜透過処理剤に含まれる有機溶媒は、例えば、下記(a)または(b)であってよい。有機溶媒は、具体的には、例えば、下記(a)または(b)を含有する水溶液であってよい。
(a)20~60%(v/v)エタノール
(b)20~70%(v/v)アセトン
【0060】
本発明の膜透過処理剤は、例えば、本発明の方法を実施するために利用することができ、具体的には、本発明の方法の膜透過工程を実施するために利用することができる。すなわち、本発明の膜透過処理剤は、例えば、本発明の方法における膜透過処理剤として利用することができ、具体的には、本発明の方法の膜透過工程における膜透過処理剤として利用することができる。
【0061】
<3>本発明の検出キット
本発明の検出キットは、細胞外小胞内部に含まれる特定タンパク質の検出キットである。
【0062】
本発明の検出キットは、細胞外小胞の表面に存在する細胞外小胞特異的マーカーと結合可能な担体を含んでいてよい。本発明の検出キットに含まれる細胞外小胞の表面に存在する細胞外小胞特異的マーカーと結合可能な担体については、本発明の方法における細胞外小胞の表面に存在する細胞外小胞特異的マーカーと結合可能な担体についての記載を準用できる。本発明の検出キットに含まれる細胞外小胞の表面に存在する細胞外小胞特異的マーカーと結合可能な担体は、例えば、磁性粒子であってよい。
【0063】
本発明の検出キットは、本発明の膜透過処理剤を含んでいてよい。本発明の膜透過処理剤については上述の通りである。
【0064】
本発明の検出キットは、検出試薬を含んでいてよい。本発明の検出キットに含まれる検出試薬については、本発明の方法における検出試薬についての記載を準用できる。
【0065】
本発明の検出キットは、例えば、本発明の方法を実施するために利用することができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
実施例1
(1)ヒト胎児腎細胞(293T細胞)を、5%CO2環境下、細胞外小胞を除去した10%(v/v)FBS(ウシ胎児血清)を含むD-MEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)を用いて、37℃でコンフルエントになるまで培養後、培養上清(ロット番号1)を回収し、10000×gで30分間遠心分離した。得られた上清を100000×gで70分間遠心分離し、得られたペレットをPBS(Phosphate Buffered Saline)で懸濁することで、293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得た。
【0068】
(2)表面をカルボキシ基で修飾した粒子径2から3μmの磁性粒子(JSR社製)10%(w/v)懸濁液40μLに、0.5mgのEDC(1-Ethyl-3-(3-Dimethylaminopropyl) Carbodiimide)を含む水溶液を加え、1時間撹拌した。反応液を除去後、1mg/mLの抗CD9抗体(Frontier Institute社製)20μLを添加し、3時間撹拌した。反応液を除去後、非特異吸着を抑制するために3%(w/v)BSA(Bovine serum albumin)水溶液に浸すことで、抗CD9抗体結合磁性粒子懸濁液を得た。
【0069】
(3)(2)で得た2%(w/v)抗CD9抗体結合磁性粒子を含む懸濁液10μLと、(1)で得た細胞外小胞濃縮懸濁液5μLと、3%(w/v)BSAを含むPBS90μLとを、96ウェルプレートのウェル内で混合し、90分間撹拌した。撹拌後、96ウェルプレート下部に磁石を近接させ、プレート下部に前記磁性粒子を集積させた後、上清を除去し、PBSで3回洗浄した。
【0070】
(4)洗浄液を除去後、陰イオン活性剤であるデオキシコール酸ナトリウムを0.01%(w/v)、0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.2%(w/v)または0.5%(w/v)となるようPBSに溶かした水溶液を膜透過処理剤として、それぞれ100μL添加し、5分間撹拌した。(3)と同様に磁石を用いて上清を除去し、PBSで3回洗浄した。
【0071】
(5)洗浄液を除去後、3%(w/v)BSAを含むPBS90μLとFcR Blocking Reagent(Miltenyi Biotec社製)10μLとの混合液をブロッキング試薬として加え、10分間撹拌した。
【0072】
(6)ブロッキング試薬を除去後、2.5μg/mLビオチン修飾マウス由来抗ヒトALIX(Apoptosis-Linked gene 2-Interacting protein X、293T細胞から放出された細胞外小胞内部に存在するタンパク質)抗体(Santa Cruz社製)または2.5μg/mLビオチン修飾マウスコントロール抗体(マウスIsotype Control IgG、abcam社製)と、3%(w/v)BSAとを含むPBSを100μL加え、30分間撹拌した。(3)と同様に磁石を用いて上清を除去し、PBSで3回洗浄した。
【0073】
(7)洗浄液を除去後、HRP(Horseradish Peroxidase)を多価に結合させたストレプトアビジンを含むPBSを100μL加え、20分間撹拌した。(3)と同様に磁石を用いて上清を除去し、PBSで3回洗浄した。
【0074】
(8)洗浄液を除去後、発色基質であるTMB(テトラメチルベンジジン)を含む溶液を100μL加え、20分間撹拌した。撹拌後、酵素反応を停止するために1M塩酸を含む酸性水溶液100μLを添加した。
【0075】
(9)磁石を用いて上清を180μL回収し、新たな96ウェルプレートに移した後、プレートリーダー(Tecan社製)で波長450nmにおける吸光度を測定した。
【0076】
比較例1
実施例1(4)において、PBS100μLを添加した他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0077】
実施例1および比較例1の結果をまとめて表1に示す。膜透過工程でPBSを添加したとき(比較例1)は、細胞外小胞の膜透過が起きず、抗ALIX抗体とマウスコントロール抗体とで吸光度の差は確認できなかった(抗ALIX抗体:0.04、マウスコントロール抗体:0.03)。一方、膜透過工程でデオキシコール酸ナトリウムを少なくとも0.05%(w/v)以上含むPBSを添加したとき(実施例1)は、抗ALIX抗体とマウスコントロール抗体とで吸光度の差を確認できた。これはデオキシコール酸ナトリウムを添加することで、細胞外小胞の膜の少なくとも一部が可溶化され、抗ALIX抗体が細胞外小胞内部に入り、細胞外小胞内部に存在するALIXと結合でき、検出値(本明細書の実施例では吸光度値と同義)として得られたことを示している。マウスコントロール抗体はヒトの抗原を特異的に認識するIgGではない。デオキシコール酸ナトリウムを添加した系(実施例1)でも比較例1と同様の低い吸光度値(実施例1、比較例1ともに0.03)を示したことは、デオキシコール酸ナトリウムによる膜透過処理を行なっても非特異的なマウスIgGの結合が発生していないことを意味しており、実施例1の抗ALIX抗体を添加して得られた吸光度値が、マウスIgG特有の非特異吸着によるものでなく、細胞外小胞内部に存在するALIXを認識した抗ALIX抗体の量を反映していると言える。
【0078】
なおデオキシコール酸ナトリウムの含有濃度0.05%(w/v)から0.2%(w/v)の範囲で高い吸光度値を示したが、当該濃度域より外れると吸光度値は低下した。0.05%(w/v)より低い濃度では、膜透過工程が不十分なため、抗体が内部に入ることができず低い吸光度値となり、0.2%(w/v)より高い濃度では膜透過工程自体は十分であるが、細胞外小胞内部に含まれるALIXを含むタンパク質も当該小胞外部へ漏出してしまい、細胞外小胞内部に残存するタンパク量が減少したため吸光度値が低下したと推察される。
【0079】
【0080】
実施例2
実施例1(4)において、膜透過処理剤として非イオン界面活性剤であるTriton X-100(商品名)を0.001%(w/v)、0.005%(w/v)、0.01%(w/v)、0.05%(w/v)、0.1%(w/v)または0.5%(w/v)となるようPBSに溶かした水溶液を用いた他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0081】
実施例2の結果を表2に示す。マウスコントロール抗体での吸光度値がTriton X-100濃度に依存せず、かつ比較例1(表1)とほぼ同等の値(0.03から0.04)を示していることから、膜透過工程による非特異吸着は発生していないことがわかる。一方、膜透過工程で少なくとも0.01%(w/v)以上のTriton X-100を添加すると、抗ALIX抗体での吸光度値がマウスコントロール抗体での値よりも有意に高くなっていることから、非イオン界面活性剤においても細胞外小胞の膜を透過できることがわかる。なおTriton X-100の含有濃度0.01%(w/v)から0.1%(w/v)の範囲で高い吸光度値を示したが、当該範囲より外れると吸光度値は低下した。
【0082】
【0083】
実施例3
実施例1(4)において、膜透過処理剤として非イオン界面活性剤であるサポニンを0.01%(w/v)、0.1%(w/v)、0.25%(w/v)、1%(w/v)、2%(w/v)または10%(w/v)となるようPBSに溶かした水溶液を用いた他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0084】
実施例3の結果を表3に示す。デオキシコール酸ナトリウム(実施例1)やTriton X-100(実施例2)のときとは異なり、抗ALIX抗体での吸光度値は添加したサポニン含有濃度に依存して上昇した。またマウスコントロール抗体での吸光度値も、サポニン含有濃度が2%(w/v)以上となると当該濃度に依存して上昇しており、非特異的なマウスIgGの結合が発生していることがわかる。少なくともサポニン含有濃度0.1%(w/v)から1%(w/v)の範囲であれば、抗ALIX抗体での吸光度値がマウスコントロール抗体での値よりも有意に高く、かつ非特異結合によるマウスコントロール抗体での吸光度値上昇もみられないことから、本発明における膜透過処理剤として利用可能と判断できる。
【0085】
【0086】
実施例4
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号2)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、および実施例1(4)において、膜透過処理剤として陰イオン界面活性剤であるグリココール酸ナトリウムを0.01%(w/v)、0.05%(w/v)、0.08%(w/v)、0.1%(w/v)、0.2%(w/v)、0.3%(w/v)、0.4%(w/v)、0.5%(w/v)、0.6%(w/v)、0.8%(w/v)または1%(w/v)となるようPBSに溶かした水溶液を用いた他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0087】
比較例2
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号2)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、および実施例1(4)において、PBS100μLを添加した他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0088】
実施例4および比較例2の結果をまとめて表4に示す。マウスコントロール抗体での吸光度値がグリココール酸ナトリウム濃度に依存せず、かつ比較例2と同等の値(ともに0.02)を示していることから、膜透過工程による非特異吸着は発生していないことがわかる。一方、膜透過工程で少なくとも0.05%(w/v)以上のグリココール酸ナトリウムを添加すると、抗ALIX抗体での吸光度値がマウスコントロール抗体での値よりも有意に高くなっていることから、グリココール酸ナトリウムにおいても細胞外小胞の膜を透過できることがわかる。
【0089】
なお高い吸光度値を示したグリココール酸ナトリウムの含有濃度は0.05%(w/v)から0.8%(w/v)と、同じ陰イオン界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウム(0.05%(w/v)から0.2%(w/v))よりも高値側である。これはデオキシコール酸ナトリウムと比較してグリココール酸ナトリウムの限界ミセル濃度が高い(デオキシコール酸ナトリウム:5mM、グリココール酸ナトリウム:13mM)ためと推察される。
【0090】
【0091】
実施例5
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号2)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、および実施例1(4)において、膜透過処理剤として陰イオン界面活性剤であるSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を0.01%(w/v)、0.02%(w/v)、0.1%(w/v)、0.2%(w/v)、0.5%(w/v)または1%(w/v)となるようPBSに溶かした水溶液を用いた他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0092】
実施例5の結果を表5に示す。マウスコントロール抗体での吸光度値がSDSに依存せず、かつ比較例2(表4)と同等の値(ともに0.02)を示していることから、膜透過工程による非特異吸着は発生していないことがわかる。一方、膜透過工程で0.02%(w/v)のSDSを添加すると、抗ALIX抗体での吸光度値がマウスコントロール抗体での値よりも有意に高くなっていることから、SDSにおいても細胞外小胞の膜を透過できることがわかる。
【0093】
なお高い吸光度値を示したSDSの含有濃度は0.02%(w/v)のみと、同じ陰イオン界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウム(0.05%(w/v)から0.2%(w/v))やグリココール酸ナトリウム(0.05%(w/v)から0.8%(w/v)と比較し、最適濃度範囲が狭い。これはSDSが有するタンパク質変性能がデオキシコール酸ナトリウムやグリココール酸ナトリウムと比較し高いためと推察される。
【0094】
【0095】
実施例6
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号3)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、および実施例1(4)において、膜透過処理剤として陽イオン界面活性剤であるCTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム)を0.001%(w/v)、0.002%(w/v)、0.01%(w/v)、0.05%(w/v)または0.2%(w/v)となるようPBSに溶かした水溶液を用いた他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0096】
比較例3
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号3)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、および実施例1(4)において、PBS100μLを添加した他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0097】
実施例6および比較例3の結果をまとめて表6に示す。マウスコントロール抗体での吸光度値がCTABに依存せず、かつ比較例3と同等の値(ともに0.02)を示していることから、膜透過工程による非特異吸着は発生していないことがわかる。一方、膜透過工程で少なくとも0.002%(w/v)のCTABを添加すると、抗ALIX抗体での吸光度値がマウスコントロール抗体での値よりも有意に高くなっていることから、陽イオン界面活性剤においても細胞外小胞の膜を透過できることがわかる。なおCTABの含有濃度0.002%(w/v)から0.05%(w/v)の範囲で高い吸光度値を示したが、当該範囲より外れると吸光度値は低下した。
【0098】
【0099】
実施例7
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号4)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、および実施例1(4)において、膜透過処理剤として以下の(a)から(g)のいずれかを含むようPBSに溶かした水溶液を用いた他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。なお(a)から(f)における添加濃度は、実施例1から6の結果より得られた、各界面活性剤の最適濃度である。
(a)0.02%(w/v)SDS
(b)0.5%(w/v)グリココール酸ナトリウム
(c)0.075%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム
(d)0.01%(w/v)CTAB
(e)0.25%(w/v)サポニン
(f)0.02%(w/v)Triton X-100
(g)95%(v/v)エタノール
【0100】
比較例4
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号4)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、および実施例1(4)において、PBS100μLを添加した他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0101】
比較例5
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号4)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、および実施例1(4)において、PBS100μLを添加後、超音波処理を5分間実施した他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0102】
実施例7ならびに比較例4および5の結果をまとめて表7に示す。同一ロットの細胞外小胞濃縮懸濁液を用い、かつ各界面活性剤の最適濃度で膜透過工程を行なった結果、陰イオン界面活性剤を用いたときの吸光度値((a)SDS:1.10、(b)グリココール酸ナトリウム:1.12、(c)デオキシコール酸ナトリウム:1.13)が、非イオン界面活性剤((e)サポニン:0.77、(f)Triton X-100:0.78)や陽イオン界面活性剤((d)CTAB:0.82)よりも高い値を示した。この結果より、界面活性剤の中でも陰イオン界面活性剤が他の界面活性剤よりも、細胞外小胞の膜透過性が良い点、および/または膜透過後の細胞外小胞内部に含まれるタンパク質の漏出を抑制できる点で、本発明で用いる膜透過処理剤として、より適していることを示している。
【0103】
有機溶媒であるエタノール(g)を用いても、抗ALIX抗体での吸光度値(0.28)がマウスコントロール抗体での値(0.04)よりも高くなっており、かつ比較例4における抗ALIX抗体での吸光度値(0.10)よりも高くなっていることから、細胞外小胞の膜を透過できることがわかる。しかしながら抗ALIX抗体での吸光度値は、界面活性剤を添加したときの値(0.77から1.13)より低かった。これはエタノール添加時に磁性粒子が凝集し、膜透過工程後の反応効率が低下したためと推察される。
【0104】
膜透過工程の代わりに超音波処理を行なった場合(比較例5)、抗ALIX抗体での吸光度値は0.25と比較例4(0.10)よりは高くなったが、界面活性剤を添加したときの値(0.77から1.13)よりは低かった。これは前記処理では細胞外小胞の膜破砕が十分ではなかった、および/または前記処理で細胞外小胞と磁性粒子との結合が外れたことが原因と推察される。
【0105】
【0106】
実施例8
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号4)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、および実施例1(4)を、洗浄液を除去後、固定化剤として1%(w/v)ホルムアルデヒドを含むPBSを100μL添加し、5分撹拌後、磁石を用いて上清を除去し、膜透過処理剤として0.075%(w/v)デオキシコール酸ナトリウムを含むPBS100μLを添加し、再度5分撹拌して実施した他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0107】
実施例9
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号4)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、および実施例1(4)において、固定化剤であるホルムアルデヒドと膜透過処理剤であるデオキシコール酸ナトリウムを(a)から(f)のいずれかの濃度となるようPBSに溶かした水溶液PBS100μLを添加した他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
(a)1%(w/v)ホルムアルデヒド+0.05%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム
(b)1%(w/v)ホルムアルデヒド+0.075%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム
(c)1%(w/v)ホルムアルデヒド+0.1%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム
(d)1%(w/v)ホルムアルデヒド+0.2%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム
(e)1%(w/v)ホルムアルデヒド+0.5%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム
(f)4%(w/v)ホルムアルデヒド+0.1%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム
【0108】
比較例6
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号4)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、および実施例1(4)において、1%(w/v)または4%(w/v)ホルムアルデヒドを含むPBS100μLを添加した他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0109】
実施例8および9ならびに比較例4および6の結果をまとめて表8に示す。固定化剤であるホルムアルデヒドを添加する工程(固定化工程)を加えても、抗ALIX抗体での吸光度値(0.47から1.05)がいずれもマウスコントロール抗体での値(0.04)よりも高くなっていることから、細胞外小胞の膜を透過できることがわかる(実施例8および9)。さらに前記固定化工程と、膜透過処理剤であるデオキシコール酸ナトリウムを添加する工程(膜透過工程)とを同時に行なう(実施例9(b))ことで、固定化工程の後に膜透過工程を行なうとき(実施例8)と比較し、抗ALIX抗体での吸光度値が向上していることがわかる。
【0110】
一方、固定化工程のみ行なったとき(比較例6)は、PBSのみを添加したとき(すなわち固定化工程も膜透過工程も行なわないとき、比較例4)と、抗ALIX抗体での吸光度値はほぼ同等であった(比較例4:0.10、比較例6:0.10から0.11)。
【0111】
なお実施例9では、デオキシコール酸ナトリウムの濃度を0.5%(w/v)まで増加させても、実施例1(表1)で発生した吸光度値の低下はなかった。これは固定化剤であるホルムアルデヒドを添加することで、細胞外小胞内部に含まれるタンパク質の漏出が抑制できたためと推察できる。また、デオキシコール酸ナトリウムの濃度を変えずに、ホルムアルデヒド濃度を4%(w/v)にすると、ホルムアルデヒド濃度1%(w/v)のときと比較して、高い検出値を示した(実施例9(c):0.85、実施例9(f):1.05)。この結果からも、固定化剤であるホルムアルデヒドによるタンパク質漏出の抑制効果が確認できる。
【0112】
【0113】
実施例10
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号4)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、ならびに実施例1(4)において、固定化剤および膜透過処理剤であるエタノールと膜透過処理剤であるデオキシコール酸ナトリウムを(a)から(h)のいずれかの濃度となるようPBSに溶かした水溶液100μLを添加した他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
(a)5%(v/v)エタノール+0.1%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム
(b)10%(v/v)エタノール+0.1%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム
(c)25%(v/v)エタノール+0.1%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム
(d)50%(v/v)エタノール+0.1%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム
(e)5%(v/v)エタノール
(f)10%(v/v)エタノール
(g)25%(v/v)エタノール
(h)50%(v/v)エタノール
【0114】
実施例10の結果を表9に示す。25%(v/v)エタノールまたは50%(v/v)エタノールと0.1%(w/v)デオキシコール酸ナトリウムとを組み合わせたとき(実施例10(c)および(d))、デオキシコール酸ナトリウム単独のとき(実施例7(c)、表7)と比較して、吸光度値が高くなった(実施例7(c):1.13、実施例10(c):1.58、実施例10(d):1.40)。一方、25%(v/v)エタノール単独(実施例10(g))では吸光度が0.16と十分な膜透過効果を示さなかった。このことから、エタノールによるタンパク質の不溶化(固定化工程)とデオキシコール酸ナトリウムによる膜透過(膜透過工程)とが同時に起こることで、細胞外小胞内部からのタンパク質の漏出が大幅に抑制され高い検出値(吸光度値)が得られたと推察される。
【0115】
【0116】
実施例11
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号5)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、ならびに実施例1(4)において、固定化剤および膜透過処理剤である40%(v/v)エタノール単独、または40%(v/v)エタノールと膜透過処理剤である0.0001%(w/v)、0.001%(w/v)、0.01%(w/v)、0.02%(w/v)、0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.2%(w/v)もしくは0.5%(w/v)デオキシコール酸ナトリウムとをPBSに溶かした水溶液100μLを添加した他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0117】
実施例11の結果を表10に示す。本実施例では、抗ALIX抗体での吸光度値(0.46から0.72)がいずれもマウスコントロール抗体での値(0.04)よりも高くなっていることから、細胞外小胞の膜透過が適切に行なわれていることがわかる。また40%(v/v)エタノールに、0.001%(w/v)から0.2%(w/v)のデオキシコール酸ナトリウムを添加したときは、40%(v/v)エタノール単独で固定化工程および膜透過工程を行なったとき(0.46)と比較し、抗ALIX抗体での吸光度値が向上(0.64から0.72)した。デオキシコール酸ナトリウムの濃度が0.2%(w/v)より高いとエタノールによるタンパク質の不溶化が十分でなく細胞外小胞内部から漏出したと推察される。
【0118】
実施例1(表1)に示すように、デオキシキコール酸ナトリウム単独で膜透過工程を行なったとき、0.01%(w/v)以下では細胞外小胞の膜透過がほとんどされていなかった(吸光度値0.05)。一方、本実施例では、40%(v/v)エタノールをさらに添加すると、0.01%(w/v)以下のデオキシキコール酸ナトリウムであっても、40%(v/v)エタノール単独で固定化工程および膜透過工程を行なったとき(0.46)と比較し、抗ALIX抗体での吸光度値が向上(0.001%(w/v)、0.01%(w/v)ともに0.70)した。このことから細胞外小胞の膜透過の効果がほとんど得られない界面活性剤の濃度域であっても、固定化剤および膜透過処理剤であるエタノールを添加することで、検出値(吸光度値)向上の可能性があることがわかる。
【0119】
【0120】
実施例12
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号6)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、ならびに実施例1(4)において、固定化剤および膜透過処理剤である40%(v/v)エタノールならびに膜透過処理剤である(a)から(c)のいずれかの界面活性剤を含むようにPBSに溶かした水溶液100μLを添加した他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
(a)0.1%(w/v) デオキシコール酸ナトリウム
(b)0.05%(w/v) Triton X-100
(c)0.01%(w/v) CTAB
【0121】
実施例12の結果を表11に示す。40%(w/v)エタノールと混合させる界面活性剤として、陰イオン界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウムを用いることで、Triton X-100(非イオン界面活性剤)やCTAB(陽イオン界面活性剤)を用いたときと比較(Triton X-100:0.63、CTAB:0.38)し、抗ALIX抗体での吸光度値が高かった(デオキシコール酸ナトリウム:0.82)。
【0122】
【0123】
実施例13
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号7)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、実施例1(3)において細胞外小胞濃縮懸濁液を0.5μL用いたこと、ならびに実施例1(4)において、固定化剤および膜透過処理剤であるエタノールを(a)から(g)のいずれかの濃度となるようPBSに溶かした水溶液100μLを添加したこと、実施例1(9)においてコロナ電気社製のプレートリーダーを用いた他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
(a)20%(v/v)エタノール
(b)30%(v/v)エタノール
(c)40%(v/v)エタノール
(d)50%(v/v)エタノール
(e)60%(v/v)エタノール
(f)70%(v/v)エタノール
(g)95%(v/v)エタノール
【0124】
比較例7
実施例13の固定化剤および膜透過処理剤として、PBSを用いた他は、実施例13と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0125】
実施例13および比較例7の結果をまとめて表12に示す。有機溶媒であるエタノールを用いることで、エタノール未添加と比較(比較例7:1.470)し、マウスコントロール抗体に対する抗ALIX抗体での吸光度の相対値が高かった(実施例13:1.472~3.408)。特に、エタノール濃度が30%~50%の範囲で相対値が高い結果(3.363~3.408)となった。エタノール濃度が低いと細胞外小胞の膜透過が十分でなく、エタノール濃度が高いと磁性粒子の分散安定性が下がり、最適な濃度範囲が存在する結果になったと推察される。
【0126】
【0127】
実施例14
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号7)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、実施例1(3)において細胞外小胞濃縮懸濁液を0.5μL用いたこと、ならびに実施例1(4)において、固定化剤および膜透過処理剤であるアセトンを(a)から(f)のいずれかの濃度となるようPBSに溶かした水溶液100μLを添加したこと、実施例1(9)においてコロナ電気社製のプレートリーダーを用いた他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
(a)20%(v/v)アセトン
(b)30%(v/v)アセトン
(c)40%(v/v)アセトン
(d)60%(v/v)アセトン
(e)70%(v/v)アセトン
(f)99%(v/v)アセトン
【0128】
実施例14の結果を表13に示す。有機溶媒である20%から70%のアセトンを用いることで、アセトン未添加と比較(比較例7:1.47)し、マウスコントロール抗体に対する抗ALIX抗体での吸光度の相対値が高かった(実施例14:2.75~3.75)。99%のアセトンを用いると96ウェルプレートが溶け、評価が困難となった。特に、アセトン濃度が30%~70%の範囲で相対値が高い結果(3.30~3.75)となった。アセトン濃度が低いと細胞外小胞の膜透過が十分でなく値が低下したと推察される。
【0129】
【0130】
実施例15
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号8)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、実施例1(3)において細胞外小胞濃縮懸濁液を0.5μL用いたこと、ならびに実施例1(4)において、固定化剤および/もしくは膜透過処理剤である(a)から(e)のいずれかの界面活性剤もしくは有機溶媒を含む水溶液100μLを添加したこと、実施例1(9)においてコロナ電気社製のプレートリーダーを用いた他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。なお(a)および(e)における添加濃度は、実施例1から6および13、14の結果より得られた、各界面活性剤もしくは有機溶媒の最適濃度である。
(a)0.075%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム
(b)0.02%(w/v)Triton X-100
(c)0.01%(w/v)CTAB
(d)40%(v/v)エタノール
(e)40%(v/v)アセトン
【0131】
実施例15の結果を表14に示す。有機溶媒を使用することで、界面活性剤(デオキシコール酸ナトリウム:2.72、Triton X-100:2.59、CTAB:1.49)と比較し、マウスコントロール抗体に対する抗ALIX抗体での吸光度の相対値が高かった(エタノール:7.56、アセトン:4.10)。界面活性剤では陰イオン界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウムの前記相対値が最も高く、有機溶媒ではエタノールの値が高い結果となった。
【0132】
【0133】
実施例16
実施例15の細胞外小胞懸濁液量として、2μL用いたこと、実施例15の抗体として、2.5μg/mLビオチン修飾マウス由来抗ヒトHSP70(Heat shock protein 70、293T細胞から放出された細胞外小胞内部に存在するタンパク質)抗体(StressMarq Biosciences社製)または2.5μg/mLビオチン修飾マウスコントロール抗体(マウスIsotype Control IgG、abcam社製)を用いた他は、実施例15と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0134】
実施例16の結果を表15に示す。有機溶媒を使用しても、界面活性剤(デオキシコール酸ナトリウム:2.46、Triton X-100:1.40、CTAB:1.66)と比較し、マウスコントロール抗体に対する抗ALIX抗体での吸光度の相対値はほとんど変わらなかった(エタノール:2.37、アセトン:1.95)。界面活性剤では陰イオン界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウムの前記相対値が最も高く、有機溶媒ではエタノールの値が高い結果となった。HSP70に対する本測定結果ならびにALIXに対する測定結果(実施例15)から、測定対象とする特定タンパクの種類にかかわらず、界面活性剤では陰イオン界面活性剤、有機溶媒ではエタノールを用いることで、感度高く測定できることがわかる。
【0135】
【0136】
比較例8
(1)実施例13と同様の細胞外小胞懸濁液(ロット番号7)を0.5μL(PBS4.5μLを添加しトータル5μLに調製)もしくは5μLに、ローディングバッファー(250mM Tris-HCl (pH6.8)、8% SDS、0.1%bromophenol blue、40% Glycerol、100 mM DTT)1.25μLを添加し、95℃で5分加熱し、細胞外小胞を膜透過し、前記小胞内部のタンパク質を可溶化させ、変性させた。
【0137】
(2)(1)で調製したサンプルをポリアクリルアミドゲル(カタログ番号:4561096、Bio-Rad社製)を用いて電気泳動(30mA、40分)することでタンパク質を分離した。
【0138】
(3)(2)のゲルで分離したタンパク質をPVDFメンブレン(カタログ番号:1704156、Bio-Rad社製)にトランスブロット Turbo 転写システム(Bio-Rad社製)を用いてブロッティングした。
【0139】
(4)(3)でブロッティングしたメンブレンを、Blocking One(ナカライテスク社製)を用いてブロッキング処理し、TBST(0.1% Tween 20含有Tris Buffered Saline)で20倍希釈したBlocking Oneおよび1μg/mLの抗ALIX抗体を含む溶液により、室温60分間浸漬した。
【0140】
(5)(4)のメンブレンをTBSTで洗浄後、TBSTで20倍希釈したBlocking Oneおよび1万倍希釈したHRP修飾ヤギ抗マウスIgG抗体(カタログ番号:31430、ThermoFisher社製)を含む溶液により、室温60分間浸漬した。
【0141】
(6)(5)のメンブレンをTBSTで洗浄後、SuperSignal West Pico PLUS Chemiluminescent Substrate(カタログ番号:34580、ThermoFisher社製)を用いて発色後に撮影し、ALIXのバンドを確認した。
【0142】
比較例8の結果を
図2に示す。細胞外小胞懸濁液量が0.5μLにおいて、実施例13の特にエタノール濃度が30%から50%の時(マウスコントロール抗体に対する抗ALIX抗体での吸光度の相対値:3.363~3.408)、細胞外小胞内部のALIXを感度良く検出できたのに対して、比較例16のウエスタンブロッティングの結果では、細胞外小胞懸濁液量が5μLではALIXに由来するバンドが確認できるが、0.5μLでは前記バンドは確認できなかった。
【0143】
細胞外小胞内部のタンパク質を漏出させた後にウエスタンブロッティングで検出をする特許文献3の方法では検出することのできない細胞外小胞の量であっても、本検出による細胞外小胞内部のタンパク質を漏出させず検出することで、感度高く検出することが可能であった。
【0144】
実施例17
(1)実施例1(1)と同様な方法で、培養上清のロットを替えて(ロット番号9)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得た。
【0145】
(2)(1)で得た細胞外小胞濃縮懸濁液0.5μLを用い、膜透過処理剤として40%(v/v)エタノールを含む水溶液100μLを用いた他は、実施例1(2)から(4)と同様な方法で細胞外小胞の膜透過処理を行った。
【0146】
(3)洗浄液を除去後、(a)から(c)の賦活化試薬100μLを添加し10分攪拌させ、実施例1(3)と同様に磁石を用いて上清を除去し、PBSで3回洗浄した後に、ブロッキング処理をした他は、実施例1(5)から(7)と同様な方法でHRP修飾ストレプトアビジンを結合した。
(a)PBS(賦活化試薬に対するコントロール)
(b)PBSにより50倍希釈したProteinase K(カタログ番号:9034、Takara社製)
(c)HistoReveal(abcam社製)
【0147】
(4)洗浄液を除去後、発色基質としてSuperSignal ELISA Pico Chemiluminescent Substrate(ThermoFisher社製)の基質反応液を150μL加え、5分以内にプレートリーダー(Tecan社製)で発光量を測定した。
【0148】
実施例18
実施例17(2)において、固定化剤および膜透過処理剤による処理において、1%もしくは4%(w/v)ホルムアルデヒドを含むPBSを100μL添加し、5分撹拌後、磁石を用いて上清を除去し、固定化剤および膜透過処理剤である40%(v/v)エタノールを含む水溶液100μLを添加し、再度5分撹拌して実施したこと、実施例17(3)の賦活化処理において、PBSもしくはPBSにより50倍希釈したProteinase Kの賦活化試薬100μLを用いた他は、実施例17と同様な方法で、発光量を測定した。
【0149】
実施例17および18の結果をまとめて表16に示す。実施例17では、賦活化試薬を添加することで、未添加(PBS:2.22)と比較し、マウスコントロール抗体に対する抗ALIX抗体での発光量の相対値は高かった(Proteinase K:6.36、HistoReveal:7.28)。この結果から、賦活化試薬を添加することで前記相対値が向上することがわかり、Proteinase Kもしくはトリプシンを含むHistoRevealどちらの酵素処理剤を用いても感度が向上した。特にマウスコントロール抗体における発光量が賦活化試薬を添加することで低下しており、非特異的な吸着の抑制に賦活化処理が寄与していることがわかる。
【0150】
実施例18において、ホルムアルデヒド添加量を増やすことで、ホルムアルデヒド未添加(実施例17:6.36)と比較して、賦活化処理を行うことで前記相対値が向上した(1%ホルムアルデヒド:7.57、4%ホルムアルデヒド:8.67)。一方、賦活化処理を行わなかった場合、ホルムアルデヒド添加量を増やしても、前記相対値はわずかに増加するにとどまった(PBS:2.22、4%ホルムアルデヒド:2.50)。ホルムアルデヒドはタンパク質を架橋することで細胞外小胞内部にタンパク質を保持することができるが、一方で前記架橋による抗体の認識部位がマスクされ、十分な反応性を示さなくなる。賦活化処理は前記架橋部を切断することで抗体が再度抗原に対して結合性を回復することを可能とするため、ホルムアルデヒド処理と賦活化処理を組み合わせて実施した際に、抗ALIX抗体における発光量が増加し、検出感度が向上したと推測される。
【0151】
【0152】
実施例19
実施例1(1)において、培養上清のロットを替えて(ロット番号7)293T細胞から放出された細胞外小胞濃縮懸濁液を得たこと、実施例1(3)において細胞外小胞濃縮懸濁液を0.5μL用いたこと、実施例1(4)において膜透過処理剤である0.075%(w/v) デオキシコール酸ナトリウムを含むようにPBSに溶かした水溶液100μLを添加したこと、ならびに実施例1(9)においてコロナ電気社製のプレートリーダーを用いた他は、実施例1と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0153】
比較例9
実施例19の膜透過処理剤に代えてPBSを用いた他は、実施例19と同様な方法で、TMBの発色を測定した。
【0154】
実施例19および比較例9の結果を表17に示す。細胞外小胞懸濁液量が0.5μLでもPBS(比較例9:1.21)と比較してデオキシコール酸ナトリウムによる膜透過処理で、マウスコントロール抗体に対する抗ALIX抗体での吸光度の相対値が高かった(実施例19:8.45)。一方、上述の通り、比較例8のウエスタンブロッティングの結果では、細胞外小胞懸濁液量が5μLではALIXに由来するバンドが確認できるが、0.5μLでは前記バンドは確認できなかった。
【0155】
細胞外小胞内部のタンパク質を漏出させた後にウエスタンブロッティングで検出をする特許文献3の方法では検出することのできない細胞外小胞の量であっても、本検出による細胞外小胞内部のタンパク質を漏出させず検出することで、感度高く検出することが可能であった。
【0156】
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明により、例えば、細胞外小胞の内部に含まれる特定のタンパク質を簡便かつ精度よく検出するための前記小胞の膜透過処理を実施することができる。また、本発明により、例えば、細胞外小胞の内部に含まれる特定のタンパク質を簡便かつ精度よく検出できる。したがって複数種の細胞外小胞の中から、特定の細胞外小胞の内部タンパク質を検出できる。本発明の方法は、細胞外小胞の生理学的な機能の解明だけでなく、体液を用いた疾患検査への応用にも期待できる。
【符号の説明】
【0158】
100:ウェル
200:磁石
300:検出器
10:細胞外小胞
11:膜透過した細胞外小胞
12:標識された細胞外小胞
20:磁性粒子
30:磁性粒子に固定化された抗体
40:基質
41:生成物
50:酵素反応