(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 5/147 20060101AFI20250708BHJP
G03G 5/06 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
G03G5/147 502
G03G5/147 503
G03G5/147 504
G03G5/06 312
G03G5/06 313
G03G5/06 314A
G03G5/06 319
(21)【出願番号】P 2022512573
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2021013646
(87)【国際公開番号】W WO2021201007
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2020064012
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 卓博
(72)【発明者】
【氏名】安藤 明
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-107004(JP,A)
【文献】特開2013-246364(JP,A)
【文献】特開2015-143776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/00-5/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電性支持体上に、感光層と、硬化性化合物が硬化してなる硬化物を含有する保護層とを順次備えた負帯電型電子写真感光体において、
前記硬化性化合物が、光硬化性化合物であり、
前記感光層が、正孔輸送材料(HTM)を含有し、
前記正孔輸送材料(HTM)は、HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差が3.60eV以下であり、且つ、前記HOMO準位が、真空準位を基準として-4.50eV以下にある化合物であり、
前記感光層が、さらに電子親和力が3.50eV以上であるラジカルアクセプター性化合物を含有し、
前記保護層が、さらに金属酸化物粒子を含有し、前記金属酸化物粒子がシランカップリング剤により表面処理されたものであることを特徴とする負帯電型電子写真感光体。
【請求項2】
導電性支持体上に、感光層と、硬化性化合物が硬化してなる硬化物を含有する保護層とを順次備えた負帯電型電子写真感光体において、
前記硬化性化合物が、光硬化性化合物であり、
前記感光層が、正孔輸送材料(HTM)を含有し、
前記正孔輸送材料(HTM)は、HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差が3.60eV以下であり、且つ、前記HOMO準位が、真空準位を基準として-4.50eV以下にある化合物であり、
前記感光層が、さらに電子輸送材料(ETM)を含有し、
前記保護層が、さらに金属酸化物粒子を含有し、前記金属酸化物粒子がシランカップリング剤により表面処理されたものであることを特徴とする負帯電型電子写真感光体。
【請求項3】
前記光硬化性化合物が、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の負帯電型電子写真感光体。
【請求項4】
前記保護層は、光硬化性化合物及び重合開始剤を含有する組成物から形成された層であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の負帯電型電子写真感光体。
【請求項5】
前記感光層は、電荷発生材料(CGM)を含有する電荷発生層(CGL)上に、正孔輸送材料(HTM)と、前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)とを含有する電荷輸送層(CTL)を積層してなる構成を備えた積層型感光層であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の負帯電型電子写真感光体。
【請求項6】
マルテンス硬度が270N/mm
2以上であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の負帯電型電子写真感光体。
【請求項7】
前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)は、ジフェノキノン構造又はジナフチルキノン構造を有する化合物であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の負帯電型電子写真感光体。
【請求項8】
前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)の含有量は、前記感光層の正孔輸送材料(HTM)の含有量100質量部に対して、0.1質量部から10質量部であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の負帯電型電子写真感光体。
【請求項9】
前記感光層の正孔輸送材料(HTM)は、トリフェニルアミン構造を有する化合物であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の負帯電型電子写真感光体。
【請求項10】
前記金属酸化物粒子のバンドギャップが、該感光層のHTMのHOMO準位とLUMO準位のエネルギー差より小さいことを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の負帯電型電子写真感光体。
【請求項11】
前記重合開始剤として光重合開始剤を含有し、前記光重合開始剤がアシルフォスフィンオキサイド系化合物を含む、請求項
4に記載の負帯電型電子写真感光体。
【請求項12】
前記重合開始剤として光重合開始剤を含有し、前記光重合開始剤がアシルフォスフィンオキサイド系化合物及び水素引き抜き型開始剤を含む、請求項
4に記載の負帯電型電子写真感光体。
【請求項13】
前記アシルフォスフィンオキサイド系化合物1質量部に対し、前記水素引き抜き型開始剤を0.1質量部以上5質量部以下含有する、請求項12に記載の負帯電型電子写真感光体。
【請求項14】
前記保護層は、紫外光又は/及び可視光の照射により硬化されてなる層であることを特徴とする請求項1乃至13の何れか1項に記載の負帯電型電子写真感光体。
【請求項15】
請求項1乃至14の何れか1項に記載の負帯電型電子写真感光体を具備するカートリッジ。
【請求項16】
請求項1乃至14の何れか1項に記載の負帯電型電子写真感光体を具備する画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンター等に用いられる電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンター及び複写機などでは、帯電した有機系感光体(OPC)ドラムに光を照射すると、その部分が除電されて静電潜像が生じ、静電潜像にトナーが付着することにより画像を得ることができる。このように電子写真技術を利用した機器において、感光体は基幹部材である。
【0003】
この種の有機系感光体は、材料選択の余地が大きく、感光体の特性を制御し易いことから、負電荷の発生と移動の機能を別々の化合物に分担させる“機能分離型の感光体”が主流となってきている。例えば、電荷発生材料(CGM)と電荷輸送材料(CTM)を同一層中に有する単層型の電子写真感光体(以下、単層型感光体という)と、電荷発生材料(CGM)を含有する電荷発生層と電荷輸送材料(CTM)を含有する電荷輸送層を積層してなる積層型の電子写真感光体(以下、積層型感光体という)とが知られている。また、感光体の帯電方式としては、感光体表面を負電荷に帯電させる負帯電方式と、感光体表面を正電荷に帯電させる正帯電方式が挙げられる。
現在実用化されている感光体の層構成と帯電方式の組み合わせとしては、“負帯電積層型感光体”と、“正帯電単層型感光体”とを挙げることができる。
【0004】
“負帯電積層型感光体”は、アルミニウム管等の導電性支持体上に、樹脂等からなる下引き層(UCL)を設け、その上に電荷発生材料(CGM)と樹脂などからなる電荷発生層(CGL)を設け、さらにその上に、正孔輸送材料(HTM)と樹脂などからなる電荷輸送層(CTL)を設けてなる構成を有するものが一般的である。
負帯電積層型感光体の場合、コロナ放電方式や接触方式で感光体の表面を負に帯電させた後、感光体を露光する。この光を電荷発生材料(CGM)が吸収して正孔と電子の電荷キャリアーが生成し、このうちの正孔すなわち正電荷キャリアーは、電荷輸送層(CTL)内を正孔輸送材料(HTM)を介して移動し、感光層表面に到達して表面電荷を中和する。他方、電荷発生材料(CGM)で生成した電子、すなわち負電荷キャリアーは、下引き層(UCL)を通過して導電性支持体に到達するようになる。このように、負帯電積層型感光体においては感光層中を主に移動するのは正孔であるため、感光層には、電荷輸送材料として正孔輸送材料のみを含有させるのが通常である。このとき、電子輸送材料等の正孔輸送能の小さな化合物をさらに添加すると、感光層中の正孔輸送材料の含有率が低下するため、電気特性が悪化する問題が生じる。また、バインダー樹脂の含有率も低下するため、耐摩耗性が低下する懸念もある。このため、特殊な場合を除いて、電子輸送材料を感光層に含有させることは行われてこなかった。
【0005】
一方で、“正帯電単層型感光体”は、アルミニウム管等の導電性支持体上に、樹脂等からなる下引き層(UCL)を設け、その上に電荷発生材料(CGM)、正孔輸送材料(HTM)及び電子輸送材料(ETM)と樹脂などからなる単層の感光層を設けてなる構成を有するものが一般的である(例えば特許文献1参照)。
このような正帯電単層型感光体の場合、コロナ放電方式や接触方式で感光体の表面を正に帯電させた後、感光体を露光する。この光を、感光層表面近傍の電荷発生材料(CGM)が吸収して正孔と電子の電荷キャリアーが生成し、このうちの電子すなわち負電荷キャリアーは感光層表面の表面電荷を中和する。他方、電荷発生材料(CGM)で生成した正孔、すなわち正電荷キャリアーは感光層や下引き層(UCL)を通過して導電性支持体に到達するようになる。
【0006】
いずれの感光体においても、感光体の表面電荷が中和され、周囲表面との電位差により静電潜像が形成され、その後、トナー(粉末着色樹脂インク)による潜像の可視化と、トナーの紙などへの転写・加熱溶融定着とを経てプリントが完成する。
【0007】
上述のように、電子写真感光体は、導電性支持体上に感光層を形成したものが基本構成であるが、耐摩耗性等の改良目的で、感光層上に保護層を設けることも行われている。
【0008】
例えば特許文献1には、最表面層として、バインダー樹脂として熱可塑性のアルコール可溶性樹脂と平均一次粒子径が0.1~3μm、且つ密度が3.0g/cm3以下のフィラーとを含有する表面保護層を感光層上に設ける旨が開示されている。
特許文献2には、トリメチロールプロパンアクリレート架橋体と、オルガノシリカ硬化膜と、熱又は光硬化型の架橋体を含有する組成物を、熱又は光硬化させて形成してなる架橋型表面層を、感光層上に設けることが記載されている。
さらに、特許文献3には、感光層の表面側に表面保護層を有しており、当該表面保護層は、ヒンダードアミン化合物、バインダー用重合性化合物、及び電荷輸送剤を含有する組成物を光硬化させてなる硬化物であるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-163984号公報
【文献】特開2008-26689号公報
【文献】特開2019-35856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らが検討を行ったところ、硬化樹脂系保護層を有する負帯電型感光体において、感光層が特定の正孔輸送材料(HTM)を含有すると、耐オゾン性や強露光特性の向上が期待できる一方で、電気特性が悪化する問題が発生することが分かった。
本発明者らがさらに検討を行ったところ、前記の電気特性悪化の問題は、保護層の硬化直後に加熱処理を施すことで改善されることが判明したが、一方で、加熱処理を施す場合、熱処理工程のためのスペースや加熱装置などを導入する必要があり、初期コストが高くなり、さらにはランニングコストも高くなるという新たな問題が発生した。
また、本発明者らの検討の結果、正帯電型感光体の場合は、硬化樹脂系保護層を設けたとしても、感光層が特定の正孔輸送材料(HTM)を含有する場合の前記問題は発生しなかった。
【0011】
本発明の目的は、硬化樹脂系保護層を有する負帯電型電子写真感光体において、感光層が特定の正孔輸送材料(HTM)を含有しながら、電気特性が良好となる負帯電型電子写真感光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、導電性支持体上に、感光層と、硬化性化合物が硬化してなる硬化物を含有する保護層(「硬化樹脂系保護層」とも称する)とを順次備えた負帯電型電子写真感光体において、前記硬化性化合物が、光硬化性化合物であり、前記感光層が、正孔輸送材料(HTM)を含有し、前記正孔輸送材料(HTM)は、HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差が3.60eV以下であり、且つ、前記HOMO準位が、真空準位を基準として-4.50eV以下にある化合物であり、前記感光層が、さらに電子親和力が3.50eV以上であるラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)を含有することを特徴とする負帯電型電子写真感光体を提案する。
【0013】
即ち、本発明の要旨は、以下[1]~[13]に存する。
【0014】
[1]導電性支持体上に、感光層と、硬化性化合物が硬化してなる硬化物を含有する保護層とを順次備えた負帯電型電子写真感光体において、
前記硬化性化合物が、光硬化性化合物であり、
前記感光層が、正孔輸送材料(HTM)を含有し、
前記正孔輸送材料(HTM)は、HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差が3.60eV以下であり、且つ、前記HOMO準位が、真空準位を基準として-4.50eV以下にある化合物であり、
前記感光層が、さらに電子親和力が3.50eV以上であるラジカルアクセプター性化合物を含有することを特徴とする負帯電型電子写真感光体である。
【0015】
[2]導電性支持体上に、感光層と、硬化性化合物が硬化してなる硬化物を含有する保護層とを順次備えた負帯電型電子写真感光体において、
前記硬化性化合物が、光硬化性化合物であり、
前記感光層が、正孔輸送材料(HTM)を含有し、
前記正孔輸送材料(HTM)は、HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差が3.60eV以下であり、且つ、前記HOMO準位が、真空準位を基準として-4.50eV以下にある化合物であり、
前記感光層が、さらに電子輸送材料(ETM)を含有することを特徴とする負帯電型電子写真感光体である。
【0016】
[3]前記光硬化性化合物が、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する化合物であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の負帯電型電子写真感光体である。
[4]前記保護層は、光硬化性化合物及び重合開始剤を含有する組成物から形成された層であることを特徴とする[1]乃至[3]の何れかに記載の負帯電型電子写真感光体である。
[5]前記感光層は、電荷発生材料(CGM)を含有する電荷発生層(CGL)上に、正孔輸送材料(HTM)と、電子親和力が3.50eV以上であるラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)とを含有する電荷輸送層(CTL)を積層してなる構成を備えた積層型感光層であることを特徴とする[1]乃至[4]の何れかに記載の負帯電型電子写真感光体である。
[6]マルテンス硬度が270N/mm2以上であることを特徴とする[1]乃至[5]の何れかに記載の負帯電型電子写真感光体である。
【0017】
[7]前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)は、ジフェノキノン構造又はジナフチルキノン構造を有する化合物であることを特徴とする[1]乃至[6]の何れかに記載の負帯電型電子写真感光体である。
[8]前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)の含有量は、前記感光層の正孔輸送材料(HTM)の含有量100質量部に対して、0.1質量部から10質量部であることを特徴とする[1]乃至[7]の何れかに記載の負帯電型電子写真感光体である。
【0018】
[9]前記感光層の正孔輸送材料(HTM)は、トリフェニルアミン構造を有する化合物であることを特徴とする[1]乃至[8]の何れかに記載の負帯電型電子写真感光体である。
[10]前記保護層は、さらに金属酸化物粒子を含有し、該金属酸化物粒子のバンドギャップが、該感光層のHTMのHOMO準位とLUMO準位のエネルギー差より小さいことを特徴とする[1]乃至[9]の何れかに記載の負帯電型電子写真感光体である。
[11]前記保護層は、紫外光又は/及び可視光の照射により硬化されてなる層であることを特徴とする[1]乃至[10]の何れかに記載の負帯電型電子写真感光体である。
【0019】
[12][1]乃至[11]の何れかに記載の負帯電型電子写真感光体を具備するカートリッジである。
[13][1]乃至[11]の何れかに記載の負帯電型電子写真感光体を具備する画像形成装置である。
【発明の効果】
【0020】
導電性支持体上に、感光層と硬化樹脂系保護層とを順次備えた負帯電型電子写真感光体において、前記硬化性化合物が、光硬化性化合物であり、かつ、前記感光層が、所定の条件を満たす正孔輸送材料(HTM)を含有する場合、前記感光層がさらに、電子親和力が3.50eV以上であるラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)を含有することにより、電気特性を良好にできることが分かった。この際、所定の条件を満たす正孔輸送材料(HTM)とは、正孔輸送材料(HTM)が、HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差が3.60eV以下であり、且つ、HOMO準位が、真空準位を基準として-4.50eV以下にある化合物である場合である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一例に係る電子写真感光体を用いて構成することができる画像形成装置の構成例を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0023】
<<本電子写真感光体>>
本発明の実施形態の一例に係る電子写真感光体(「本電子写真感光体」又は「本感光体」と称する)は、導電性支持体上に、少なくとも正孔輸送材料(HTM)、及び、電子親和力が3.50eV以上であるラジカルアクセプター性化合物(以降、単に「前記ラジカルアクセプター性化合物」とも称する)又は電子輸送材料(ETM)を含有する感光層と、硬化性化合物が硬化してなる硬化物を含有する硬化樹脂系保護層(「本保護層」とも称する)とを順次備えた負帯電型電子写真感光体である。
本感光体は、感光層及び本保護層以外の層を有することは任意に可能である。
【0024】
本発明の感光体においては、導電性支持体とは反対側が、上側又は表面側となり、導電性支持体側が、下側又は裏面側となる。
【0025】
<感光層>
本感光体における感光層は、少なくとも正孔輸送材料(HTM)を含有し、さらに電子親和力が3.50eV以上であるラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)を含有すれば、電荷発生材料(CGM)及び正孔輸送材料(HTM)と、前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)とが同一層内に存在する単層型感光層であってもよいし、また、電荷発生層と電荷輸送層とに分離された積層型感光層であってもよい。中でも、次に説明する積層型感光層がより好ましい。
【0026】
<積層型感光層>
本感光体における積層型感光層として、電荷発生材料(CGM)を含有する電荷発生層(CGL)上に、正孔輸送材料(HTM)と前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)とを含有する電荷輸送層(CTL)を積層してなる構成を挙げることができる。この際、電荷発生層(CGL)及び電荷輸送層(CTL)以外の他の層を備えることも可能である。
【0027】
<電荷発生層(CGL)>
電荷発生層は、電荷発生材料(CGM)とバインダー樹脂を含有していればよい。
【0028】
(電荷発生材料(CGM))
電荷発生材料としては、セレン及びその合金、硫化カドミウム等の無機系光導電材料と、有機顔料等の有機系光導電材料とを挙げることができる。中でも、有機系光導電材料の方が好ましく、特に有機顔料が好ましい。
【0029】
有機顔料としては、例えば、フタロシアニン、アゾ、ジチオケトピロロピロール、スクアレン(スクアリリウム)、キナクリドン、インジゴ、ペリレン、多環キノン、アントアントロン、ベンズイミダゾール等を挙げることができる。これらの中でも、特にフタロシアニン又はアゾが好ましい。その中でも、フタロシアニンが最も好ましい。これらは何れも、化合物の骨格構造を示したものであり、それらの骨格構造をもつ化合物群すなわち誘導体を包含する。
電荷発生材料として有機顔料を使用する場合、通常はこれらの有機顔料の微粒子を、各種のバインダー樹脂で結着した分散層の形で使用する。
【0030】
上記フタロシアニンとしては、具体的には、無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、スズ、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム、アルミニウムなどの金属又はその酸化物、ハロゲン化物、水酸化物、アルコキシドなどの配位したフタロシアニン類の各結晶型を持ったもの、酸素原子等を架橋原子として用いたフタロシアニンダイマー類などを挙げることができる。特に、感度の高い結晶型であるX型、τ型無金属フタロシアニン、A型(別称β型)、B型(別称α型)、D型(別称Y型)等のチタニルフタロシアニン(別称:オキシチタニウムフタロシアニン)、バナジルフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、ヒドロキシインジウムフタロシアニン、II型等のクロロガリウムフタロシアニン、V型等のヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型、I型等のμ-オキソ-ガリウムフタロシアニン二量体、II型等のμ-オキソ-アルミニウムフタロシアニン二量体などが好適である。
【0031】
これらフタロシアニンの中でも、A型(別称β型)、B型(別称α型)、及び粉末X線回折の回折角2θ(±0.2゜)が27.1゜、もしくは27.3゜に明瞭なピークを示すことを特徴とするD型(Y型)チタニルフタロシアニン、II型クロロガリウムフタロシアニン、V型及び28.1゜にもっとも強いピークを有すること、また26.2゜にピークを持たず28.1゜に明瞭なピークを有し、かつ25.9゜の半値幅Wが0.1゜≦W≦0.4゜であることを特徴とするヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型μ-オキソ-ガリウムフタロシアニン二量体、X型無金属フタロシアニンが特に好ましい。
【0032】
フタロシアニンは、単一の化合物を用いてもよいし、幾つかの混合又は混晶状態のものを用いてもよい。ここでの混合又は混晶状態としては、それぞれの構成要素を後から混合したものを用いてもよいし、合成、顔料化、結晶化等のフタロシアニン化合物の製造・処理工程において混合状態を生じさせたものでもよい。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。混晶状態を生じさせるためには、特開平10-48859号公報記載のように、2種類の結晶を混合後に機械的に磨砕、不定形化した後に、溶剤処理によって特定の結晶状態に変換する方法を挙げることができる。
【0033】
電荷発生材料の粒子径は、通常1μm以下であり、好ましくは0.5μm以下である。
【0034】
(バインダー樹脂)
電荷発生層に用いるバインダー樹脂は、特に制限なく用いることができる。例えばポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂;ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、変性エーテル系ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、カゼイン;塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシ変性塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、カルボキシル変性塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体等の塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体;スチレン-ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体;スチレン-アルキッド樹脂、シリコン-アルキッド樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂や;ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルペリレン等の有機光導電性ポリマーなどを挙げることができる。これら樹脂の中でも、顔料の分散性、導電性支持体又は下引き層との接着性及び電荷輸送層との接着性の面から、ポリビニルアセタール樹脂又はポリ酢酸ビニル樹脂が好ましい。
これらのバインダー樹脂は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせで混合して用いてもよい。
【0035】
(その他の成分)
電荷発生層は、電荷発生材料及びバインダー樹脂のほかに、必要に応じて、他の成分を含有することができる。例えば成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させる目的で、公知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤、充填剤等の添加物を含有させてもよい。
【0036】
(配合比)
電荷発生層において、電荷発生材料の比率が高過ぎると、電荷発生材料の凝集等により塗布液の安定性が低下するおそれがある一方、電荷発生材料の比率が低過ぎると、感光体としての感度の低下を招くおそれがあるため、バインダー樹脂と電荷発生材料との配合比(質量)は、バインダー樹脂100質量部に対して、電荷発生材料を10質量部以上、中でも30質量部以上含有するのが好ましく、1000質量部以下、中でも500質量部以下の割合で含有するのが好ましい。なお、感度の観点からは、20質量部以下であるのが好ましく、中でも15質量部以下、その中でも10質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0037】
(層厚)
電荷発生層の厚さは、0.1μm以上であるのが好ましく、中でも0.15μm以上であるのがさらに好ましい。他方、10μm以下であるのが好ましく、中でも0.6μm以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
<電荷輸送層(CTL)>
電荷輸送層(CTL)は、正孔輸送材料(HTM)と、前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)と、バインダー樹脂とを含有していればよい。
【0039】
(正孔輸送材料(HTM))
感光層が含有する正孔輸送材料(HTM)は、HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差が3.60eV以下であり、且つ、HOMO準位が、真空準位を基準として-4.50eV以下にある化合物であるのが好ましい。
【0040】
前述したように、硬化樹脂系保護層を有する負帯電型感光体(「負帯電型OCL感光体」と称する)において、感光層が特定の正孔輸送材料(HTM)を含有すると、耐オゾン性や強露光特性の向上が期待できる一方で、電気特性が悪化する問題が発生した。この問題は、保護層の硬化直後に加熱処理を施すことで改善されることが判明した。しかしその一方で、加熱処理を施す場合、熱処理工程のためのスペースや加熱装置などを導入する必要があり、初期コストが高くなり、さらにはランニングコストも高くなるという新たな問題が発生した。
これに対し、感光層がさらに、前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)を含有する、すなわち、所定の正孔輸送材料(HTM)と前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)とを組み合わせて感光層に含有させることにより、電気特性を良好にできることが分かった。
かかる観点から、感光層が含有する正孔輸送材料(HTM)は、HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差が3.60eV以下であるのが好ましい。中でも、電気特性の観点から、3.50eV以下がより好ましく、3.40eV以下であるのが更に好ましい。前記エネルギー差が前記上限値以下であると、共役の広がりが大きく正孔移動度が高いため、電気特性が良好となる。一方、強露光特性の観点から、前記エネルギー差は3.10eV以上であるのが好ましく、3.20eV以上であるのがより好ましい。前記エネルギー差が前記下限値以上であると、蛍光灯の光の吸収を抑制することができる。
【0041】
但し、本発明者らが行ってきた試験結果から、正孔輸送材料(HTM)のHOMO準位が、真空準位を基準として-4.50eVより高い場合には、そもそも電気特性がそれほど低下しないことが分かった。そのため、このような正孔輸送材料(HTM)を含有する場合には、上述のように前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)を組み合わせて含有させる必要がない。
かかる観点から、感光層が含有する正孔輸送材料(HTM)は、HOMO準位が、真空準位を基準として-4.50eV以下であるのが好ましく、中でも-4.60eV以下、その中でも-4.65eV以下であるのがさらに好ましい。
【0042】
HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差が3.60eV以下であり、且つ、HOMO準位が、真空準位を基準として-4.50eV以下にある化合物としては、例えばカルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾフラン誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、或いはこれらの化合物からなる基を主鎖、もしくは側鎖に有する重合体等を挙げることができる。
これらの化合物の中から、上記のエネルギー準位(HOMO準位及びLUMO準位)に該当する化合物を適宜選択することができる。また、上記のエネルギー準位に該当する化合物を2種以上併用することもできる。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、上記のエネルギー準位には該当しない正孔輸送材料(HTM)を含有することもできる。
【0043】
本発明においてHOMOのエネルギーレベルE_homo、およびLUMOのエネルギーレベルE_lumoは密度半関数法の一種である、B3LYP(A.D.Becke,J.Chem.Phys.98,5648(1993),C.Lee,et.al.,Phys.Rev.B37,785(1988)及びB.Miehlich,et.al.,Chem.Phys.Lett.157,200(1989)参照)を用い構造最適化計算により安定構造を求めて得ることができる。
【0044】
この時、基底関数系として6-31Gに分極関数を加えた6-31G(d,p)を用いた(R.Ditchfield,et.al.,J.Chem.Phys.54,724(1971),W.J.Hehre,et.al.,J.Chem.Phys.56,2257(1972),P.C.Hariharan et.al.,Mol.Phys.27,209(1974),M.S.Gordon,Chem.Phys.Lett.76,163(1980),P.C.Hariharan et.al.,Theo.Chim.Acta28,213(1973),J.-P.Blaudeau,et.al.,J.Chem.Phys.107,5016(1997),M.M.Francl,et.al.,J.Chem.Phys.77,3654(1982),R.C.Binning Jr.et.al.,J.Comp.Chem.11,1206(1990),V.A.Rassolov,et.al.,J.Chem.Phys.109,1223(1998),及びV.A.Rassolov,et.al.,J.Comp.Chem.22,976(2001)を参照)。
本発明において6-31G(d,p)を用いたB3LYP計算をB3LYP/6-31G(d,p)と記述する。
【0045】
本発明では、B3LYP/6-31G(d,p)計算に用いたプログラムはGaussian03,Revision D.01(M.J.Frisch,et.al.,Gaussian,Inc.,Wallingford CT,2004.)である。
【0046】
正孔輸送材料(HTM)はホール移動度が高い材料であることが好ましく、この観点から、トリフェニルアミン構造を有する化合物であるのが好ましい。
【0047】
正孔輸送材料(HTM)として好適な例として、次に示す一般式で表される構造の何れかを有する化合物を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。また、何れか1種を単独で用いてもよいし、又、2種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
(電子輸送材料(ETM))
本感光体に用いることができる電子輸送材料(ETM)としては、例えば、2,4,7-トリニトロフルオレノン等の芳香族ニトロ化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、ジフェノキノン、ジナフチルキノン等のキノン化合物等の電子吸引性物質及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、或いはこれらの化合物からなる基を主鎖又は側鎖に有する重合体等を挙げることができる。但し、これらに限定するものではなく、公知の電子輸送材料が使用可能である。
以上の中でも、電気特性の観点から、電子輸送材料(ETM)は、ジフェノキノン構造又はジナフチルキノン構造を有する化合物が好ましい。その中でも、ジナフチルキノン構造を有する化合物が更に好ましい。
なお、上記の電子輸送材料は、何れか1種を単独で用いてもよいし、又、2種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
【0060】
本感光体に用いることができる電子輸送材料(ETM)の具体例として、特開2017-09765号公報の段落0043~0053に例示されている一般式(ET1)~(ET3)で示される化合物を例示することができる。
また、次に示す構造の何れかを有する化合物を挙げることができる。
但し、これらに限定するものではない。また、何れか1種を単独で用いてもよいし、又、2種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
感光層中の電子輸送材料(ETM)の含有量は、感光層中の正孔輸送材料(HTM)の含有量100質量部に対して0.1質量部以上であるのが好ましく、中でも0.3質量部以上、その中でも0.5質量部以上であるのがさらに好ましい。他方、10質量部以下であるのが好ましく、中でも7質量部以下、その中でも5質量部以下であるのがさらに好ましい。
感光層中の正孔輸送材料(HTM)の含有量は、電子輸送材料(ETM)1質量部に対して、10質量部以上であるのが好ましく、中でも30質量部以上、その中でも50質量部以上あるのが更に好ましい。他方、1000質量部以下、中でも300質量部以下、その中でも100質量部以下であるのが更に好ましい。
【0065】
感光体における電子輸送材料(ETM)と正孔輸送材料(HTM)の含有割合は、前記した感光層における電子輸送材料(ETM)と正孔輸送材料(HTM)の含有割合と同様である。
【0066】
電荷輸送層(CTL)における電子輸送材料(ETM)と正孔輸送材料(HTM)の含有割合は、前記した感光層における電子輸送材料(ETM)と正孔輸送材料(HTM)の含有割合と同様である。
【0067】
(ラジカルアクセプター性化合物)
「ラジカルアクセプター性化合物」とは、正孔輸送材料(HTM)からラジカルを受け取ることができる性質を持つ化合物のことを意味し、さらに具体的には、電子親和力が3.50eV以上の化合物を意味する。
ここで、電子親和力とは、ある物質が電子を1つ取り込んだときに生じるエネルギーのことを意味し、前述した密度半関数法の一種である、B3LYP(A.D.Becke,J.Chem.Phys.98,5648(1993),C.Lee,et.al.,Phys.Rev.B37,785(1988)及びB.Miehlich,et.al.,Chem.Phys.Lett.157,200(1989)参照)を用い構造最適化計算により安定構造を求めて得ることができる。電子親和力を求めるにあたり、基底関数系及び計算に用いるプログラムは、前述と同様のものを使用することができる。
【0068】
後述の通り、正孔輸送材料(HTM)だけでなく電子輸送材料(ETM)も感光層に含有させた場合、HTMよりもETMの方がラジカルになり易いため、HTMラジカルが発生しても、直ぐにHTMラジカルがETMから水素原子を引き抜き、HTMラジカルはHTMに変換されることにより、本発明の効果を発現する。この作用機序を勘案すれば、当該電子輸送材料(ETM)はすべて「ラジカルアクセプター性化合物」に包含されるものであり、当該電子輸送材料(ETM)の代わりに、「ラジカルアクセプター性化合物」を用いた場合も同様の作用機序により、本発明の効果を得ることができるものと考えられる。
【0069】
本発明の効果をより享受できることから、ラジカルアクセプター性化合物の電子親和力は、3.50eV以上が好ましく、3.70eV以上がより好ましく、3.80eV以上がさらに好ましい。他方、ラジカルアクセプター性化合物の電子親和力は、4.30eV以下が好ましく、4.10eV以下がより好ましく、4.00eV以下がさらに好ましく、3.90eV以下が特に好ましい。
【0070】
電子輸送材料(ETM)の代わりにラジカルアクセプター性化合物を用いる場合、好ましい態様は、前述の電子輸送材料(ETM)において好ましい態様を同様に適用することができる。
ラジカルアクセプター性化合物は、前述の電子輸送材料(ETM)の中から選択することができる。また、ETMとして例示した化合物以外の化合物を用いることも出来る。更には、ETMとして例示した化合物と、それ以外の化合物とを併用して用いることも出来る。
【0071】
(バインダー樹脂)
電荷輸送層のバインダー樹脂としては、例えばポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル重合体、およびその共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリエステルポリカーボネート、ポリスルホン、フェノキシ、エポキシ、シリコーン樹脂等の熱可塑性樹脂や種々の熱硬化性化合物などを挙げることができる。これら樹脂の中でも、感光体としての光減衰特性、機械強度の面から、ポリカーボネート樹脂またはポリアリレート樹脂が好ましい。
【0072】
バインダー樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、通常、5,000~300,000、好ましくは、10,000~200,000、さらに好ましくは、15,000~150,000、特に好ましくは20,000~80,000の範囲である。粘度平均分子量(Mv)が過度に小さい場合、感光体を形成する等の膜として得たときの機械的強度が低下する傾向がある。また、粘度平均分子量(Mv)が過度に大きい場合は、塗布液としての粘度が上昇し、適当な膜厚に塗布することが困難になる傾向がある。
【0073】
感光層を構成するバインダー樹脂と前記正孔輸送材料(HTM)との配合割合は、バインダー樹脂100質量部に対して正孔輸送材料(HTM)を20質量部以上の比率で配合するのが通常である。中でも、残留電位低減の観点からは、バインダー樹脂100質量部に対して正孔輸送材料(HTM)を30質量部以上の割合で配合することが好ましく、更に繰り返し使用した際の安定性や電荷移動度の観点からは、正孔輸送材料(HTM)を40質量部以上の割合で配合することがより好ましい。一方、感光層の熱安定性の観点からは、バインダー樹脂100質量部に対して正孔輸送材料(HTM)を200質量部以下の割合で配合することが好ましく、更に正孔輸送材料(HTM)とバインダー樹脂との相溶性の観点からは、正孔輸送材料(HTM)を150質量部以下の割合で配合することがより好ましく、ガラス転移温度の観点からは、120質量部以下の割合で配合することが特に好ましい。正孔輸送材料(HTM)を120質量部以下の割合で配合すると、感光層のガラス転移温度が上がり、耐リーク特性の向上が期待できる。
なお、電荷輸送層を構成するバインダー樹脂と前記正孔輸送材料(HTM)との配合割合は、前述した感光層を構成するバインダー樹脂と前記正孔輸送材料(HTM)との配合割合と同様である。
【0074】
感光層全体の質量に対する正孔輸送材料(HTM)の含有割合は、感光層100質量部に対して正孔輸送材料(HTM)を16質量部以上配合するのが通常である。中でも、残留電位低減の観点からは、感光層100質量部に対して正孔輸送材料(HTM)を22質量部以上配合することが好ましく、更に、繰り返し使用した際の安定性や電荷移動度の観点からは、28質量部以上配合することがより好ましい。一方、感光層の熱安定性の観点からは、感光層100質量部に対して正孔輸送材料(HTM)を68質量部以下配合することが好ましく、感光層の均一性の観点からは、59質量部以下配合することがより好ましく、ガラス転移温度の観点からは、53質量部以下配合することが特に好ましい。正孔輸送材料(HTM)を53質量部以下配合すると、感光層のガラス転移温度が上がり、耐リーク特性の向上が期待できる。
【0075】
電荷輸送層(CTL)において、バインダー樹脂と前記正孔輸送材料(HTM)との配合割合は、バインダー樹脂100質量部に対して正孔輸送材料(HTM)を20質量部以上の比率で配合するのが好ましい。中でも、残留電位低減の観点からは、バインダー樹脂100質量部に対して正孔輸送材料(HTM)を30質量部以上の割合で配合することがさらに好ましく、更に繰り返し使用した際の安定性や電荷移動度の観点からは、正孔輸送材料(HTM)を40質量部以上の割合で配合することがより好ましい。一方、感光層の熱安定性の観点からは、バインダー樹脂100質量部に対して正孔輸送材料(HTM)を200質量部以下の割合で配合することが好ましく、更に正孔輸送材料(HTM)とバインダー樹脂との相溶性の観点からは、正孔輸送材料(HTM)を150質量部以下の割合で配合することがより好ましく、ガラス転移温度の観点からは、120質量部以下の割合で配合することが特に好ましい。正孔輸送材料(HTM)を120質量部以下の割合で配合すると、感光層のガラス転移温度が上がり、耐リーク特性の向上が期待できる。
【0076】
(その他の成分)
電荷輸送層は、前記ラジカルアクセプター性化合物、電子輸送材料(ETM)及び正孔輸送材料(HTM)及びバインダー樹脂のほかに、必要に応じて他の成分を含有することができる。例えば成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させる目的で、公知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤、充填剤等の添加物を含有させてもよい。
【0077】
(層厚)
電荷輸送層の層厚は、特に制限するものではない。電気特性、画像安定性の観点、更には高解像度の観点から、5μm以上50μm以下であるのが好ましく、中でも10μm以上或いは35μm以下、その中でも15μm以上或いは25μm以下であるのがさらに好ましい。
【0078】
<単層型感光層>
本感光体における単層型感光層として、電荷発生材料(CGM)及び正孔輸送材料(HTM)と、前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)とが同一層内に存在する構成を挙げることができる。
単層型感光層の電荷発生材料(CGM)、正孔輸送材料(HTM)、前記ラジカルアクセプター性化合物及び電子輸送材料(ETM)はそれぞれ、積層型感光層と同様である。また、単層型感光層におけるそれぞれの含有量及び含有量比率も、積層型感光層と同様である。
【0079】
<各層の形成方法>
上記の各層は、含有させる物質を溶剤に溶解又は分散させて得られた塗布液を、導電性支持体上に浸漬塗布、スプレー塗布、ノズル塗布、バーコート、ロールコート、ブレード塗布等の公知の方法により、各層ごとに順次塗布・乾燥工程を繰り返すことにより形成することができる。但し、このような形成方法に限定するものではない。
【0080】
塗布液の作製に用いられる溶媒又は分散媒は、特に制限は無い。具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2-メトキシエタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ギ酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2-ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類、n-ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類等が挙げられる。また、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の組み合わせ及び種類で併用してもよい。
【0081】
溶媒又は分散媒の使用量は特に制限されない。各層の目的や選択した溶媒・分散媒の性質を考慮して、塗布液の固形分濃度や粘度等の物性が所望の範囲となるように適宜調整するのが好ましい。
塗布膜の乾燥は、室温における指触乾燥後、通常30℃以上、200℃以下の温度範囲で、1分から2時間の間、静止又は送風下で加熱乾燥させることが好ましい。また、加熱温度は一定であってもよく、乾燥時に温度を変更させながら加熱を行ってもよい。
【0082】
<本保護層>
本保護層は、硬化性化合物が硬化してなる硬化物を含有する層であるのが好ましい。
本保護層は、硬化性化合物及び重合開始剤を含有する組成物から形成することができる。中でも、硬化性化合物及び重合開始剤を含有する硬化性組成物を熱硬化又は光硬化させて形成するのが好ましく、その中でも紫外光又は/及び可視光の照射により光硬化させて形成するのがより好ましい。
【0083】
(硬化性組成物)
硬化性組成物の一例として、硬化性化合物及び重合開始剤、必要に応じて金属酸化物粒子、その他の材料を含有する組成物を挙げることができる。
【0084】
(硬化性化合物)
硬化性化合物としては、ラジカル重合性官能基を有するモノマー、オリゴマー又はポリマーが好ましい。中でも、架橋性を有する硬化性化合物、特に光硬化性化合物が好ましい。例えば、2個以上のラジカル重合性官能基を有する硬化性化合物を挙げることができる。ラジカル重合性官能基を1個有する化合物を併用することもできる。
ラジカル重合性官能基としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基等を挙げることができる。
【0085】
以下に、ラジカル重合性官能基を有する硬化性化合物として好ましい化合物を例示する。アクリロイル基またはメタクリロイル基を有するモノマーとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、EO変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、PO変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5,-テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、PO変性ビスフェノールAジアクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、デカンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、EO変性ビスフェノールAジメタクリレート、PO変性ビスフェノールAジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、デカンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート等が挙げられる。
【0086】
また、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有するオリゴマー、ポリマーとしては、例えばウレタンアクリレート、エステルアクリレート、アクリルアクリレート、エポキシアクリレート等を挙げることができる。その中でも、ウレタンアクリレート、エステルアクリレートが好ましく、ウレタンアクリレートがより好ましい。
【0087】
以上の化合物は、単独で用いることもできるし、又、2種類以上を併用することもできる。
【0088】
(重合開始剤)
重合開始剤には、熱重合開始剤、光重合開始剤等が含まれる。
熱重合開始剤としては、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの過酸化物系化合物、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス(イソ酪酸メチル)、2,2’-アゾビス(イソブチルアミジン塩酸塩)、4,4’-アゾビス-4-シアノ吉草酸などのアゾ系化合物を挙げることができる。
【0089】
光重合開始剤は、ラジカル発生機構の違いにより、直接開裂型と水素引き抜き型に分類できる。直接開裂型の光重合開始剤は、光エネルギーを吸収すると、分子内の共有結合の一部が開裂することでラジカルを発生する。一方、水素引き抜き型の光重合開始剤は、光エネルギーを吸収することで励起状態となった分子が、水素供与体から水素を引き抜くことでラジカルを発生する。
【0090】
直接開裂型の光重合開始剤としては、アセトフェノン、2-ベンゾイル-2-プロパノール、1-ベンゾイルシクロヘキサノール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルフォリノプロピオフェノン、などのアセトフェノン系またはケタール系化合物、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、O-トシルベンゾイン、などのベンゾインエーテル系化合物、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド、リチウムフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフォネート、などのアシルフォスフィンオキサイド系化合物を挙げることができる。
【0091】
水素引き抜き型の光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、4-ベンゾイル安息香酸、2-ベンゾイル安息香酸、2-ベンゾイル安息香酸メチル、ベンゾイルぎ酸メチル、ベンジル、p-アニシル、2-ベンゾイルナフタレン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、1,4-ジベンゾイルベンゼン、などのベンゾフェノン系化合物、2-エチルアントラキノン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、などのアントラキノン系またはチオキサントン系化合物等を挙げることができる。その他の光重合開始剤としては、カンファーキノン、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム、アクリジン系化合物、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物、を挙げることができる。
【0092】
光重合開始剤は、効率的に光エネルギーを吸収してラジカルを発生させるために、光照射に用いられる光源の波長領域に、吸収波長を有することが好ましい。一方、最外層に含まれる化合物の内、光重合開始剤以外の成分が、この波長領域に吸収を持つ場合、光重合開始剤が十分な光エネルギーを吸収できず、ラジカル発生効率が低下する場合がある。一般的なバインダー樹脂や電荷輸送材料、金属酸化物粒子は、紫外域(UV)に吸収波長を有するため、光照射に用いる光源が紫外光(UV)である場合には特に、この効果が顕著である。このような不具合を防止する観点から、光重合開始剤の中でも比較的長波長側に吸収波長を有する、アシルフォスフィンオキサイド系化合物を含有することが好ましい。また、アシルフォスフィンオキサイド系化合物は、自己開裂により吸収波長領域が低波長側に変化する、フォトブリーチ効果を有するため、最外層内部まで光を透過させることができ、内部硬化性が良好である点からも好ましい。この場合、最外層表面の硬化性を補う観点から、水素引き抜き型開始剤を併用することがさらに好ましい。
アシルフォスフィンオキサイド系化合物に対する水素引き抜き型開始剤の含有割合は、特に限定されるものではない。表面硬化性を補う観点から、アシルフォスフィンオキサイド系化合物1質量部に対し、0.1質量部以上が好ましく、内部硬化性を維持する観点から、5質量部以下が好ましい。
【0093】
また、光重合促進効果を有するものを単独または上記光重合開始剤と併用して用いることもできる。例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2-ジメチルアミノ)エチル、4,4 ’-ジメチルアミノベンゾフェノンなどを挙げることができる。
【0094】
これらの重合開始剤は1種又は2種以上を混合して用いてもよい。重合開始剤の含有量は、ラジカル重合性を有する総含有物100質量部に対し、0.5~40質量部、好ましくは1~20質量部である。
【0095】
(金属酸化物粒子)
本保護層には、電荷輸送能を付与する観点及び機械的強度を向上させる観点から、金属酸化物粒子を含有させてもよい。
【0096】
金属酸化物粒子としては、通常、電子写真感光体に使用可能な如何なる金属酸化物粒子も使用することができる。金属酸化物粒子として、より具体的には、酸化チタン、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子を挙げることができる。金属酸化物粒子は、一種類の粒子のみを用いてもよいし、複数の種類の粒子を混合して用いてもよい。
これらの中でも、強露光特性の観点から、バンドギャップが、感光層のHTMのHOMO準位とLUMO準位のエネルギー差より小さい金属酸化物粒子が好ましい。前記エネルギー差が小さいと、正孔輸送材料(HTM)が吸収する波長を、添加量に応じてカットできることから、強露光特性が良好となる。かかる観点から、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムなどの金属酸化物粒子が好ましい。その中でも、酸化チタン粒子が特に好ましい。
【0097】
酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。また、これらの結晶状態の異なるものから、複数の結晶状態のものが含まれていてもよい。
【0098】
金属酸化物粒子は、その表面に種々の表面処理が施されたものであってもよい。例えば、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、またはステアリン酸、ポリオール、有機珪素化合物等の有機物による処理が施されたものでもよい。特に、酸化チタン粒子を用いる場合には、有機珪素化合物により表面処理されたものが好ましい。
当該有機珪素化合物としては、ジメチルポリシロキサン、メチル水素ポリシロキサン等のシリコーンオイル、メチルジメトキシシラン、ジフェニルジジメトキシシラン等のオルガノシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシラザン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等を挙げることができる。特に、最外層の機械的強度を向上させる観点から、連鎖重合性官能基を有する、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランが好ましい。
【0099】
なお、これらの表面処理された粒子の最表面はこのような処理剤で処理されている。該処理のその前に、酸化アルミニウム、酸化珪素または酸化ジルコニウム等の処理剤などで処理されていても構わない。
金属酸化物粒子は、一種類の粒子のみを用いてもよいし、複数の種類の粒子を混合して用いてもよい。
【0100】
使用する金属酸化物粒子は、通常、平均一次粒子径が500nm以下のものが好ましく用いられ、より好ましくは1nm~100nmのものが用いられ、さらに好ましくは5~50nmのものが用いられる。
この平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscope 以下、TEMとも称する)により直接観察される粒子の径の算術平均値によって求めることが可能である。
【0101】
本保護層中での金属酸化物粒子の含有量は、特に限定するものではない。例えば電気特性の観点からは、硬化性化合物100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは、20質量部以上、特に好ましくは30質量部以上である。また、表面抵抗を良好に保持する観点から、好ましくは300質量部以下、より好ましくは200質量部以下、特に好ましくは100質量部以下である。
【0102】
(その他の材料)
本保護層は、必要に応じて、他の材料を含んでいてもよい。他の材料としては、例えば安定剤(熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、分散剤、帯電防止剤、着色剤、潤滑剤などを挙げることができる。これらは適宜1種単独で、または2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いることができる。
【0103】
(硬化方法)
硬化方法としては、熱硬化、光硬化、電子線硬化、放射線硬化等いずれの方法でも可能であるが、安全性や省エネルギー性に優れる光硬化が好ましい。光硬化の中でも、メタルハライド光、LED光による硬化が好ましく、反応の制御性及び発熱を抑制できるLED光による硬化がより好ましい。LED光の波長としては、硬化速度の観点から、400nm以下が好ましく、385nm以下がより好ましい。
【0104】
(マルテンス硬度)
本保護層を設けることにより、本感光体のマルテンス硬度を270N/mm2以上、中でも300N/mm2以上、その中でも330N/mm2以上とすることができる。マルテンス硬度が270N/mm2以上であれば、実用上十分な耐摩耗性を備えることができる。
本発明において、感光体のマルテンス硬度とは、感光体の表面側から測定したマルテンス硬度を意味する。
【0105】
(弾性変形率)
本保護層を設けることにより、本感光体の弾性変形率を40%以上、中でも45%以上、その中でも50%以上とすることができる。弾性変形率が40%以上であれば、実用上十分な耐摩耗性と耐クリーニング性を備えることができる。
本発明において、感光体の弾性変形率とは、感光体の表面側から測定した弾性変形率を意味する。
【0106】
(本保護層の形成方法)
本保護層は、例えば硬化性化合物及び重合開始剤、必要に応じて金属酸化物粒子などを含有する硬化性組成物を、必要に応じて溶媒に溶解して塗布液とするか、または分散媒に分散して塗布液とし、該塗布液を塗布した後、硬化させて形成することができる。
【0107】
この際、本保護層の形成に用いる有機溶媒は、公知の有機溶媒を適宜選択して用いればよい。中でも、感光層に好適に用いられるポリカーボネート、ポリアリレートへの溶解性が低い、アルコール類を含有させることが好ましい。
【0108】
本保護層を形成する際の塗布方法としては、例えば、スプレー塗布法、スパイラル塗布法、リング塗布法、浸漬塗布法等を挙げることができる。但し、これらの方法に限定するものではない。
上記塗布法により塗布膜を形成した後、塗膜を乾燥させるのが好ましい。
【0109】
硬化組成物の硬化は、外部エネルギーとして、熱、光(例えば紫外光又は/及び可視光)、放射線などを硬化組成物に照射して硬化させることができる。
【0110】
熱のエネルギーを加える方法としては、空気、窒素などの気体、蒸気、或いは各種熱媒体、赤外線、電磁波を用い塗工表面側若しくは支持体側から加熱することによって行なわれる。加熱温度は100℃以上、170℃以下が好ましく、前記下限温度以上では、充分な反応速度となり、完全に反応が進行する。前記上限温度以下では、反応が均一に進行し最外層中に大きな歪みが発生するのを抑制できる。硬化反応を均一に進めるために、100℃未満の比較的低温で加熱後、さらに100℃以上に加温し反応を完結させる方法も有効である。
【0111】
光のエネルギーとしては、主に紫外光(UV)に発光波長をもつ高圧水銀灯やメタルハライドランプ、無電極ランプバルブ、発光ダイオードなどのUV照射光源が利用できる。硬化性化合物や光重合開始剤の吸収波長に合わせて、可視光光源の選択も可能である。
光照射量は、硬化性の観点から100mJ/cm2以上が好ましく、500mJ/cm2以上がさらに好ましく、1000mJ/cm2以上が特に好ましい。また、電気特性の観点から、20000mJ/cm2以下が好ましく、10000mJ/cm2以下がさらに好ましく、5000mJ/cm2以下が特に好ましい。
【0112】
放射線のエネルギーとしては電子線(EB)を用いるものを挙げることができる。
これらのエネルギーの中で、反応速度制御の容易さ、装置の簡便さ、ポッドライフの長さの観点から、光のエネルギーを用いたものが好ましい。
【0113】
<導電性支持体>
導電性支持体としては、その上に形成される層を支持し、導電性を示すものであれば、特に限定されない。導電性支持体としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や金属、カーボン、酸化錫などの導電性粉体を共存させて導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫合金)等の導電性材料をその表面に蒸着または塗布した樹脂、ガラス、紙等を主として使用する。形態としては、ドラム状、シート状、ベルト状などのものが用いられる。金属材料の導電性支持体の上に、導電性・表面性などの制御のためや欠陥被覆のため、適当な抵抗値を持つ導電性材料を塗布したものでもよい。
【0114】
導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いる場合、金属材料に陽極酸化被膜を施してから用いてもよい。
例えば、クロム酸、硫酸、シュウ酸、ホウ酸、スルファミン酸等の酸性浴中で、金属材料を陽極酸化処理することにより、金属材料表面に陽極酸化被膜が形成される。特に、硫酸中での陽極酸化処理がより良好な結果を与える。
【0115】
硫酸中での陽極酸化の場合、硫酸濃度は通常100g/l以上、300g/l以下、溶存アルミニウム濃度は通常2g/l以上、15g/l以下、液温は通常15℃以上、30℃以下、電解電圧は通常10V以上、20V以下、電流密度は通常0.5A/dm2以上、2A/dm2以下の範囲内に設定されるのが好ましいが、上記条件に限定されるものではない。
陽極酸化被膜の平均膜厚は、通常20μm以下、特に7μm以下とされることが好ましい。
【0116】
金属材料に陽極酸化被膜を施す場合、封孔処理を行うことが好ましい。封孔処理は、公知の方法で行うことができる。例えば、主成分としてフッ化ニッケルを含有する水溶液中に上記金属材料を浸漬させる低温封孔処理、または、主成分として酢酸ニッケルを含有する水溶液中に上記金属材料を浸漬させる高温封孔処理を施すことが好ましい。
【0117】
上記導電性支持体の表面は、平滑であってもよく、また特別な切削方法を用いたり、研磨処理を施したりすることにより、粗面化されていてもよい。また、支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものであってもよい。
なお、上記導電性支持体と感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のために、後述する下引き層を設けてもよい。
【0118】
<下引き層>
本感光体は、感光層と導電性支持体との間に下引き層を有していてもよい。
【0119】
下引き層としては、例えば、樹脂、樹脂に有機顔料や金属酸化物等の粒子を分散したもの等が用いられる。下引き層に用いる有機顔料の例としては、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料などを挙げることができる。中でも、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、具体的には、前述した電荷発生材料として用いる場合のフタロシアニン顔料やアゾ顔料を挙げることができる。
【0120】
下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子を挙げることができる。下引き層には、上記1種類の粒子のみを用いてもよく、複数の種類の粒子を任意の比率及び組み合わせで混合して用いてもよい。
【0121】
上記金属酸化物粒子の中でも、酸化チタンおよび酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。なお、酸化チタン粒子は、例えば、その表面が酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、またはステアリン酸、ポリオール、シリコーン等の有機物等によって処理されていてもよい。また酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。また複数の結晶状態のものが含まれていてもよい。
【0122】
下引き層に用いられる金属酸化物粒子の粒径としては、特に限定されない。下引き層の特性、および下引き層を形成するための溶液の安定性の面から、平均一次粒径として10nm以上であることが好ましく、また100nm以下、より好ましくは50nm以下である。
【0123】
ここで、下引き層は粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成することが望ましい。下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂;ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、変性エーテル系ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、カゼイン;塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシ変性塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、カルボキシル変性塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体等の塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体;スチレン-ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体;スチレン-アルキッド樹脂、シリコーン-アルキッド樹脂、フェノール-ホルミアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂や;ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルペリレン等の有機光導電性ポリマーの中から選択し、用いることができる。但し、これらポリマーに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよく、硬化剤とともに硬化した形でも使用してもよい。
中でも、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂当のポリビニルアセタール系樹脂や、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等が良好な分散性及び塗布性を示すことから好ましい。その中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミドが特に好ましい。
【0124】
上記バインダー樹脂に対する粒子の混合比は、任意に選ぶことができる。10質量%から500質量%の範囲で使用することが、分散液の安定性及び塗布性の面で好ましい。
【0125】
下引き層の膜厚は、任意に選ぶことができる。電子写真感光体の特性、および上記分散液の塗布性から通常0.1μm以上、20μm以下とすることが好ましい。また下引き層には、公知の酸化防止剤等を含んでいてもよい。
【0126】
<<本画像形成装置>>
本感光体を用いて画像形成装置(「本画像形成装置」)を構成することができる。
【0127】
図1に示すように、本画像形成装置は、本感光体1、帯電装置2、露光装置3及び現像装置4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置5、クリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。
本感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はない。
図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この本感光体1の外周面に沿って、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
【0128】
帯電装置2は、本感光体1を帯電させるもので、本感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。一般的な帯電装置としては、コロトロンやスコロトロン等の非接触のコロナ帯電装置、或いは電圧印加された帯電部材を感光体表面に接触させて帯電させる接触型帯電装置(直接型帯電装置)を挙げることができる。接触帯電装置の例としては、帯電ローラー、帯電ブラシ等を挙げることができる。なお、
図1では、帯電装置2の一例としてローラー型の帯電装置(帯電ローラー)を示している。
通常帯電ローラーは、樹脂、及び可塑剤等の添加剤を金属シャフトと一体成型して製造され、必要に応じて積層構造を取ることも有る。なお、帯電時に印可する電圧としては、直流電圧だけの場合、及び直流に交流を重畳させて用いることもできる。
【0129】
露光装置3は、本感光体1に露光を行って本感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe-Neレーザー等のレーザー、LED等を挙げることができる。
また、感光体内部露光方式によって露光を行うようにしてもよい。露光を行う際の光は任意である。例えば、波長が780nmの単色光、波長600nm~700nmのやや短波長寄りの単色光、波長380nm~500nmの短波長の単色光等で露光を行えばよい。
【0130】
トナーTの種類は任意であり、粉状トナーのほか、懸濁重合法や乳化重合法等を用いた重合トナー等を用いることができる。特に、重合トナーを用いる場合には径が4~8μm程度の小粒径のものが好ましく、また、トナーの粒子の形状も球形に近いものから棒状等の球形から外れたものまで様々に使用することができる。重合トナーは、帯電均一性、転写性に優れ、高画質化に好適に用いられる。
【0131】
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラー転写、ベルト転写等の静電転写法、圧力転写法、粘着転写法等、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が本感光体1に対向して配置された転写チャージャー、転写ローラー、転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、本感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙、媒体)Pに転写するものである。
【0132】
クリーニング装置6について特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラークリーナー、ブレードクリーナー等、任意のクリーニング装置を用いることができる。クリーニング装置6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。但し、感光体表面に残留するトナーが少ないか、ほとんど無い場合には、クリーニング装置6は無くても構わない。
【0133】
以上のように構成された電子写真装置では、次のようにして画像の記録が行われる。即ち、まず感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の電位(例えば600V)に帯電される。この際、直流電圧により帯電させてもよく、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
続いて、帯電された感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。そして、その感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行う。
【0134】
現像装置4は、供給ローラー43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性(ここでは感光体1の帯電電位と同極性であり、正極性)に摩擦帯電させ、現像ローラー44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる。
現像ローラー44に担持された帯電トナーTが感光体1の表面に接触すると、静電潜像に対応するトナー像が感光体1の感光面に形成される。そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される。この後、転写されずに感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニング装置6で除去される。
【0135】
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行うことができる構成としてもよい。
【0136】
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程等の工程を行うことができる構成としたり、オフセット印刷を行う構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
【0137】
<<本電子写真カートリッジ>>
本感光体1を、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5、クリーニング装置6及び定着装置7のうち1つ又は2つ以上と組み合わせて、一体型のカートリッジ(「本電子写真カートリッジ」と称する)として構成することができる。
【0138】
本電子写真カートリッジは、複写機やレーザービームプリンタ等の電子写真装置本体に対して着脱可能な構成とすることができる。その場合、例えば本感光体1やその他の部材が劣化した場合に、この電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することにより、画像形成装置の保守・管理が容易となる。
【0139】
<<語句の説明>>
本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0140】
本発明は、以下の実施例により更に説明されるが、実施例はいかなる方法でも本発明を限定することを意図するものではない。
【0141】
<下引き層塗布形成用分散液の調製>
[下引き層形成用塗布液P1]
平均一次粒子径40nmのルチル型白色酸化チタン(石原産業(株)製、製品名 TTO55N)と該酸化チタン100質量部に対して、メチルジメトキシシラン3質量部を、せん断力により、ミキサー内の温度が160℃に達するまでスーパーミキサーで攪拌して、表面処理を行った。
次に、この表面処理をした酸化チタン250gと、メタノール750gとを混合してなる原料スラリー1000gを、直径約50μmのジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー製 YTZ)を分散メディアとして、ミル容積約0.15Lの寿工業株式会社製ウルトラアペックスミル(UAM-015型)を用い、ロータ周速10m/秒、液流量6g/秒の循環状態で、28分間分散処理し、酸化チタンの分散液を作製した。
この酸化チタン分散液と、予めメタノール/1-プロパノール/トルエンの混合溶媒に溶解したε-カプロラクタム/ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン/ヘキサメチレンジアミン/デカメチレンジカルボン酸/オクタデカメチレンジカルボン酸の組成モル比率が、60%/15%/5%/15%/5%である共重合ポリアミド溶液を撹拌混合した。その後、周波数25kHz,出力1200Wの超音波発信器による超音波分散処理を1時間行った。これを孔径5μmのPTFE製メンブレンフィルター(アドバンテック製 マイテックス LC)により濾過し、酸化チタン/共重合ポリアミドを質量比が3/1であり、メタノール/1-プロパノール/トルエンの混合溶媒の質量比が7/1/2であって、含有する固形分の濃度が18%の下引き層形成用塗布液P1を得た。
【0142】
[電荷発生層形成用塗布液Q1]
CuKα線により粉末X線スペクトルパターンにおいてブラッグ角(2θ±0.2゜)27.3゜に特徴的なピークを示すオキシチタニウムフタロシニアン10部と、ポリビニルアセタール樹脂(電気化学工業(株)製、商品名DK31)5部を1,2-ジメトキシエタン500部とを混合し、サンドグラインドミルで粉砕、分散処理を行い、電荷発生層形成用塗布液Q1を得た。
【0143】
[電荷輸送層形成用塗布液R1]
下記構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、下記構造式(B)で表される正孔輸送材料40部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R1を得た。
【0144】
構造式(A)は次のとおりである。
【0145】
【0146】
構造式(B)は次のとおりである。
【0147】
【0148】
[電荷輸送層形成用塗布液R2]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、構造式(B)で表される正孔輸送材料40部、下記構造式(C)で表される電子輸送材料1部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R2を得た。
なお、下記構造式(C)で表される電子輸送材料について、前述の方法で電子親和力を求めたところ、3.83eVであった。
【0149】
構造式(C)は次のとおりである。
【0150】
【0151】
[電荷輸送層形成用塗布液R3]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、下記構造式(D)で表される正孔輸送材料40部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R3を得た。
【0152】
構造式(D)は次のとおりである。
【0153】
【0154】
[電荷輸送層形成用塗布液R4]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、構造式(D)で表される正孔輸送材料40部、構造式(C)で表される電子輸送材料1部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R4を得た。
【0155】
[電荷輸送層形成用塗布液R5]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、下記構造式(E)で表される正孔輸送材料60部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度18.0%の電荷輸送層形成用塗布液R5を得た。
【0156】
構造式(E)は次のとおりである。
【0157】
【0158】
[電荷輸送層形成用塗布液R6]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、構造式(E)で表される正孔輸送材料60部、構造式(C)で表される電子輸送材料1部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度18.1%の電荷輸送層形成用塗布液R6を得た。
【0159】
[電荷輸送層形成用塗布液R7]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、下記構造式(F)で表される正孔輸送材料60部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度18.0%の電荷輸送層形成用塗布液R7を得た。
【0160】
構造式(F)は次のとおりである。
【0161】
【0162】
[電荷輸送層形成用塗布液R8]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、構造式(F)で表される正孔輸送材料60部、構造式(C)で表される電子輸送材料1部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度18.1%の電荷輸送層形成用塗布液R8を得た。
【0163】
[電荷輸送層形成用塗布液R9]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、下記構造式(G)で表される正孔輸送材料40部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R9を得た。
【0164】
構造式(G)は次のとおりである。
【0165】
【0166】
[電荷輸送層形成用塗布液R10]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、構造式(G)で表される正孔輸送材料40部、構造式(C)で表される電子輸送材料1部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R10を得た。
【0167】
[電荷輸送層形成用塗布液R11]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、下記構造式(H)で表される正孔輸送材料40部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R11を得た。
【0168】
構造式(H)は次のとおりである。
【0169】
【0170】
[電荷輸送層形成用塗布液R12]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、構造式(H)で表される正孔輸送材料40部、構造式(C)で表される電子輸送材料1部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R12を得た。
【0171】
[保護層形成用塗布液S1]
平均一次粒子径40nmのルチル型白色酸化チタン(石原産業(株)製、製品名 TTO55N)と該酸化チタン100質量部に対して、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン7質量部を、せん断力により、ミキサー内の温度が150℃に達するまでスーパーミキサーで攪拌して、表面処理を行った。次にこの表面処理をした酸化チタン250gと、メタノール750gとを混合してなる原料スラリー1000gを、直径約50μmのジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー製 YTZ)を分散メディアとして、ミル容積約0.15Lの寿工業株式会社製ウルトラアペックスミル(UAM-015型)を用い、ロータ周速9m/秒、液流量2.8g/秒の循環状態で、30分間分散処理し、酸化チタンの分散液を作製した。予めメタノール/1-プロパノール/トルエンの混合溶媒に溶解したウレタンアクリレートオリゴマー(三菱ケミカル(株)製 製品名UV6300B)と重合開始剤として、ベンゾフェノン及びOmnirad TPO H(2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド)と混合して、UV6300B/表面処理チタニア/ベンゾフェノン/Omnirad TPO H=100/55/1/2で、溶媒組成が、メタノール/1-プロパノール/トルエン=7/1/2で、固形分濃度が、18.0%の保護層形成用塗布液S1を得た。
【0172】
<比較例1>
下引き層形成用塗布液P1を、表面が切削加工された30mmφで、長さが248mmアルミニウム製シリンダーに浸漬塗布し、その乾燥膜厚が、1.5μmとなるように下引き層を設けた。下引き層上に電荷発生層形成用塗布液Q1を浸漬塗布し、その乾燥膜厚が0.3μmとなるようにして電荷発生層を設けた。電荷発生層上に電荷輸送層形成用塗布液R1を浸漬塗布し、その乾燥膜厚が20.0μmとなるように電荷輸送層を設けた。電荷輸送層上に保護層形成用塗布液S1をリング塗布し、室温下で20分間乾燥させた後、窒素雰囲気下(酸素濃度1%以下)で、感光体を60rpmで回転させながら、メタルハライドランプを、照度140mW/cm2で、2分間照射することにより、その硬化膜厚が、1.0μmの保護層を形成し、負帯電型感光体D1を作製した。
【0173】
<実施例1>
電荷輸送層形成用塗布液R1を電荷輸送層形成用塗布液R2に変更した以外は、負帯電型感光体D1と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D2とする。
【0174】
<比較例2>
電荷輸送層形成用塗布液R1を電荷輸送層形成用塗布液R3に変更した以外は、負帯電型感光体D1と同様にして作製した負帯電型感光体を感光体D3とする。
【0175】
<実施例2>
電荷輸送層形成用塗布液R1を電荷輸送層形成用塗布液R4に変更した以外は、負帯電型感光体D1と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D4とする。
【0176】
<比較例3>
電荷輸送層形成用塗布液R1を電荷輸送層形成用塗布液R5に変更した以外は、負帯電型感光体D1と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D5とする。
【0177】
<実施例3>
電荷輸送層形成用塗布液R1を電荷輸送層形成用塗布液R6に変更した以外は、負帯電型感光体D1と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D6とする。
【0178】
<参考例1>
電荷輸送層形成用塗布液R1を電荷輸送層形成用塗布液R7に変更した以外は、負帯電型感光体D1と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D7とする。
【0179】
<参考例2>
電荷輸送層形成用塗布液R1を電荷輸送層形成用塗布液R8に変更した以外は、負帯電型感光体D1と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D8とする。
【0180】
<参考例3>
電荷輸送層形成用塗布液R1を電荷輸送層形成用塗布液R9に変更した以外は、負帯電型感光体D1と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D9とする。
【0181】
<参考例4>
電荷輸送層形成用塗布液R1を電荷輸送層形成用塗布液R10に変更した以外は、負帯電型感光体D1と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D10とする。
【0182】
<参考例5>
電荷輸送層形成用塗布液R1を電荷輸送層形成用塗布液R11に変更した以外は、負帯電型感光体D1と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D11とする。
【0183】
<参考例6>
電荷輸送層形成用塗布液R1を電荷輸送層形成用塗布液R12に変更した以外は、負帯電型感光体D1と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D12とする。
【0184】
[正孔輸送材料(HTM)のHOMO準位、及び、HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差]
本実施例、比較例及び参考例で使用した正孔輸送材料(HTM)のHOMO準位、及び、HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差について、表-1に示す。
【0185】
【0186】
[電気特性の評価]
次に、これら負帯電型電子写真感光体D1~D12を2本ずつ作製し、それぞれ1本は、そのまま(加熱処理無し)、もう1本は、125℃で10分間の加熱処理し、感光体温度が室温に戻った後、電子写真学会標準に従って作製された電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社、404~405頁記載)に装着し、以下の手順に従って、帯電(マイナス極性)、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性の25℃/50%の環境下で評価を行なった。
感光体の初期表面電位が-700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを1.0μJ/cm2の強度で照射したときの60ミリ秒後の露光後表面電位(VL)を測定した(-V)。この電気特性を表-2及び表-3に示す。
【0187】
電気特性を測定後、これらのドラムを35℃/85%の環境下で、24時間放置後、室温に戻した後、再度上記の評価を行い、露光後表面電位(VL)を測定した(-V)。この特性を表-4及び表-5に示す。
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
[マルテンス硬度及び弾性変形率測定]
負帯電型感光体D1~D12(加熱処理無し)を、温度25℃、相対湿度50%の環境下で、微小硬度計(Fischer社製:FISCHERSCOPE HM2000)を用いて、負帯電型感光体の表面側から、下記測定条件で測定した。各サンプルのマルテンス硬度及び弾性変形率を表-6及び表-7に示す。
【0193】
(マルテンス硬度及び弾性変形率測定条件)
圧子:対面角136°のビッカース四角錐ダイヤモンド圧子
最大押し込み荷重:0.2mN
負荷所要時間:10秒
除荷所要時間:10秒
マルテンス硬度は、下記式より求められる。
マルテンス硬度(N/mm2)=最大押し込み荷重/最大押し込み荷重時のくぼみ面積
【0194】
【0195】
【0196】
[電荷輸送層形成用塗布液R13]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、構造式(B)で表される正孔輸送材料75部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R13を得た。
【0197】
[電荷輸送層形成用塗布液R14]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、構造式(B)で表される正孔輸送材料75部、構造式(C)で表される電子輸送材料5部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R14を得た。
【0198】
[電荷輸送層形成用塗布液R15]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、構造式(B)で表される正孔輸送材料75部、構造式(I)で表される電子輸送材料5部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R15を得た。
なお、下記構造式(I)で表される電子輸送材料について、前述の方法で電子親和力を求めたところ、3.97eVであった。
【0199】
構造式(I)は次のとおりである。
【0200】
【0201】
[電荷輸送層形成用塗布液R16]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、構造式(B)で表される正孔輸送材料75部、構造式(J)で表される電子輸送材料5部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R16を得た。
なお、下記構造式(J)で表される電子輸送材料について、前述の方法で電子親和力を求めたところ、3.60eVであった。
【0202】
構造式(J)は次のとおりである。
【0203】
【0204】
[電荷輸送層形成用塗布液R17]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、構造式(B)で表される正孔輸送材料75部、構造式(C)で表される電子輸送材料0.2部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R17を得た。
【0205】
[電荷輸送層形成用塗布液R18]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、構造式(B)で表される正孔輸送材料75部、構造式(C)で表される電子輸送材料0.5部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R18を得た。
【0206】
[電荷輸送層形成用塗布液R19]
構造式(A)で表されるポリアリレート樹脂(粘度平均分子量43,000)100部、構造式(B)で表される正孔輸送材料75部、構造式(C)で表される電子輸送材料1部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF社製 商品名Irg1076)4部、シリコーンオイル(信越シリコーン社製 商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン:トルエン=8/2の混合溶媒に溶解、撹拌混合することで、固形分濃度16.5%の電荷輸送層形成用塗布液R19を得た。
【0207】
<比較例4>
下引き層形成用塗布液P1を、表面が切削加工された30mmφで、長さが248mmアルミニウム製シリンダーに浸漬塗布し、その乾燥膜厚が、1.5μmとなるように下引き層を設けた。下引き層上に電荷発生層形成用塗布液Q1を浸漬塗布し、その乾燥膜厚が0.3μmとなるようにして電荷発生層を設けた。電荷発生層上に電荷輸送層形成用塗布液R13を浸漬塗布し、その乾燥膜厚が20.0μmとなるように電荷輸送層を設けた。電荷輸送層上に保護層形成用塗布液S1をリング塗布し、室温下で20分間乾燥させた後、窒素雰囲気下(酸素濃度1%以下)で、感光体を60rpmで回転させながら、メタルハライドランプを、照度140mW/cm2で、2分間照射することにより、その硬化膜厚が、3.0μmの保護層を形成し、負帯電型感光体D13を作製した。
【0208】
<実施例4>
電荷輸送層形成用塗布液R13を電荷輸送層形成用塗布液R14に変更した以外は、負帯電型感光体D13と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D14とする。
【0209】
<実施例5>
電荷輸送層形成用塗布液R13を電荷輸送層形成用塗布液R15に変更した以外は、負帯電型感光体D13と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D15とする。
【0210】
<実施例6>
電荷輸送層形成用塗布液R13を電荷輸送層形成用塗布液R16に変更した以外は、負帯電型感光体D13と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D16とする。
【0211】
<実施例7>
電荷輸送層形成用塗布液R13を電荷輸送層形成用塗布液R17に変更した以外は、負帯電型感光体D13と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D17とする。
【0212】
<実施例8>
電荷輸送層形成用塗布液R13を電荷輸送層形成用塗布液R18に変更した以外は、負帯電型感光体D13と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D18とする。
【0213】
<実施例9>
電荷輸送層形成用塗布液R13を電荷輸送層形成用塗布液R19に変更した以外は、負帯電型感光体D13と同様にして作製した感光体を負帯電型感光体D19とする。
【0214】
[電気特性の評価]
これら負帯電型電子写真感光体D13~D19を2本ずつ作製し、それぞれ1本は、そのまま(加熱処理無し)、もう1本は、125℃で10分間の加熱処理し、感光体温度が室温に戻った後、25℃/50%の環境下で、前述した方法で電気特性の評価を行った。結果を表-8に示す。
【0215】
上記の評価後、前記負帯電型電子写真感光体のうちD13,D17~D19については、35℃/85%の環境下で、24時間放置後、室温に戻した後、再度上記の評価を行った。結果を表-9に示す。
【0216】
【0217】
【0218】
(考察)
上記実施例及び本発明者らが行ってきた試験結果から、硬化樹脂系保護層を有する負帯電型OCL感光体においても、所定の正孔輸送材料(HTM)と、前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)とを組み合わせて感光層に含有させることにより、保護層を硬化した後に加熱処理を施さなくても、電気特性を高くすることができることが分かった。
その際、正孔輸送材料(HTM)は、HOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差が3.60eV以下であるのが好ましいことが分かった。
【0219】
また、正孔輸送材料(HTM)のHOMO準位が、真空準位を基準として-4.50eVより高い場合及び、HOMO準位とLUMO準位のエネルギー差が、3.60eV以上の場合には、そもそも電気特性が特段低下しないことも分かった。すなわち、所定の正孔輸送材料(HTM)と、前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)とを組み合わせて感光層に含有させる必要があるのは、当該正孔輸送材料(HTM)が、HOMO準位が真空準位を基準として-4.50eV以下且つ、HOMO準位とLUMO準位のエネルギー差が、3.60eV以下の場合であることが分かった。
【0220】
本発明はまた、1)バインダー樹脂と本願請求項1の条件を満足する構造式(B)のHTMだけの感光層、2)バインダー樹脂と構造式(C)のETMだけの感光層、3)バインダー樹脂と構造式(C)のETMと構造式(B)のHTMを含む感光層のいずれかを形成し、当該感光層上に硬化樹脂系保護層を設けて、ESR測定を行った。その結果、1)からは、本願請求項1の条件を満足する構造式(B)のHTMのラジカルと思われるスペクトルが得られ、2)び3)からは、構造式(C)のETMのラジカルと思われるスペクトルが得られた。この結果、少なくとも、本願請求項1の条件を満足するHTMよりもETMの方がラジカルになり易いことが分かった。
このような試験結果を踏まえると、正孔輸送材料(HTM)と前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)とを組み合わせて感光層に含有させた場合の作用機序を次のように考えることができる。
【0221】
硬化樹脂系保護層を形成する際、重合開始剤等によるラジカルの関与で、硬化が進むことが一般的である。そのため、ラジカルが、感光層の正孔輸送材料(HTM)にも伝搬し、HTMラジカルが生成しやすくなる。このHTMラジカルが、電荷のトラップサイトとなり、電気特性を悪化させていると考えられる。加熱により、電気特性が良くなるのは、加熱処理により、HTMラジカルが消失していくためと考えられる。
ここで、正孔輸送材料(HTM)だけでなく、前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)も感光層に含有させた場合、HTMよりもETMの方がラジカルになり易いため、HTMラジカルが発生しても、直ぐにHTMラジカルがETMから水素原子を引き抜き、HTMラジカルはHTMに変換されると考えられる。一方、ETMは、ETMラジカルに変換されると考えられる。しかしながら、本発明の検討の結果、この現象は、正孔輸送材料(HTM)のHOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差が3.60eV以下、且つ、前記HOMO準位が真空準位を基準として-4.50eV以下である場合にのみ起こると考えられる。この理由は、次のように推察される。
【0222】
正孔輸送材料(HTM)のHOMO準位とLUMO準位のエネルギー差が、3.60eV以上の場合は、そのHTMラジカルは不安定で、生成しにくい。また、正孔輸送材料(HTM)のHOMO準位が真空準位を基準として-4.50eV以上の場合は、HTMの元来のHOMO準位が浅いため、HTMラジカルが生成したとしても、前記HTMラジカルのHOMO準位が元来のHOMO準位より更に浅くはなりにくい。HTMラジカルのHOMO準位及びHTMの元来のHOMO準位がこのような関係にある場合、HTMラジカルは電荷のトラップサイトになりにくい。よって、このようなHTMの場合は、ETMを併用しなくても、電気特性が良好となると考えられる。
一方で、HOMO準位とLUMO準位のエネルギー差が3.60eV以下且つHOMO準位が真空準位を基準として-4.50eV以下の正孔輸送材料(HTM)の場合は、電荷のトラップサイトとなるHTMラジカルが生成しやすく、電荷のトラップサイトにもなりやすい。このため、生成したHTMラジカルを除去するために、ETMが必要となると考えられる。
よって、感光層が、正孔輸送材料(HTM)と前記ラジカルアクセプター性化合物又は電子輸送材料(ETM)とを含有し、正孔輸送材料(HTM)のHOMO準位とLUMO準位とのエネルギー差が3.60eV以下、且つ、前記HOMO準位が真空準位を基準として-4.50eV以下である場合には、電気特性に悪影響を与えるHTMラジカルが発生しないか、又は、発生してもすぐにETMラジカルに変化してしまうため、加熱処理をしなくても電気特性は良好になると考えることができる。
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なお、感光層のバインダー樹脂の種類を変えて上記実施例と同様の試験を行ってみたところ、同様の結果を得ることができた。