(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】液晶組成物、液晶表示素子の製造方法、及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20250708BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20250708BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
G02F1/1337 520
G02F1/13 500
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2022541742
(86)(22)【出願日】2021-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2021029199
(87)【国際公開番号】W WO2022030602
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2024-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2020134149
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【氏名又は名称】小森 幸子
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一世
(72)【発明者】
【氏名】野田 尚宏
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/072498(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004433(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
G02F 1/13
C08G 73/10
C08F 2/00
C08F 2/44
C08F 265/10
C09K 19/38
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶及び下記式(A)で表されるラジカル重合性化合物を含有する液晶組成物を、ラジカル発生膜に接触させた状態で、前記ラジカル重合性化合物を重合反応させるステップを含む、液晶表示素子の製造方法。
【化1】
(式(A)中、Mはラジカル重合可能な重合性基を表し、R
1
およびR
2
はそれぞれ独立して単結合、または結合基が挿入されていてもよい炭素数1~6のアルキレン基を表し、
R
3
は単結合、または炭素数1~6の直鎖アルキレン基を表し、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、X
1およびX
2
は水素原
子を表し、R
1X
1とR
2X
2とR
1X
1およびR
2X
2に結合する炭素原子とは一緒になって環を形成していてもよい。ただし、R
1X
1、R
2X
2およびR
3の合計炭素数は1以上である。)
【請求項2】
前記式(A)中のMが以下の構造から選ばれる、請求項1に記載の液晶表示素子の製造方法。
【化2】
(式中、*は結合部位を示す。R
bは炭素数2~8の直鎖アルキル基を表し、Eは単結合、-O-、-NR
c-、-S-、エステル結合及びアミド結合から選ばれる結合基を表す。R
cは水素原子、または炭素数1~4のアルキル基を表す。R
dは水素原子、または炭素数1~6のアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記ラジカル発生膜が一軸配向処理されたラジカル発生膜である、請求項1
または2のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項4】
前記重合反応させるステップが無電界条件下で行われる、請求項1~
3のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項5】
前記ラジカル発生膜が、ラジカル重合を誘発する有機基が固定化されて成る膜である、請求項1~
4のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項6】
前記ラジカル発生膜が、ラジカルを発生する有機基を有する化合物と重合体とを含有する組成物を塗布、および硬化して膜を形成することにより、前記ラジカルを発生する有機基を前記膜中に固定化させて得られる、請求項1~
4のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項7】
前記ラジカル発生膜が、ラジカル重合を誘発する有機基を含有する重合体から成る、請求項1~
4のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項8】
前記ラジカル重合を誘発する有機基を含有する重合体が、ラジカル重合を誘発する有機基を含有するジアミンを含むジアミン成分を用いて得られるポリイミド前駆体、ポリイミド、ポリウレアおよびポリアミドから選ばれる少なくとも一種の重合体である、請求項
7に記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項9】
前記ラジカル重合を誘発する有機基が下記式[X-1]~[X-18]、[W]、[Y]、または[Z]で表される有機基である、請求項
8に記載の液晶表示素子の製造方法。
【化3】
(式[X-1]~[X-18]中、*は結合部位を示し、S
1、およびS
2はそれぞれ独立して-O-、-NR-、または-S-を表し、Rは水素原子、または炭素数1~10のアルキル基を表す(前記炭素数1~10のアルキル基のうち、炭素数2~10のアルキル基の-CH
2-基の一部は酸素原子に置き換わっていてもよい。ただし、S
2RまたはNRにおいて、前記アルキル基の-CH
2-基の一部が酸素原子に置き換わっている場合、前記酸素原子は、S
2またはNには、直接結合していない。)。R
1、およびR
2はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【化4】
(式[W]、[Y]、および[Z]中、*は結合部位を示し、Arは有機基及び/又はハロゲン原子を置換基として有しても良いフェニレン、ナフチレン、及びビフェニリレンからなる群より選ばれる芳香族炭化水素基を示し、R
9及びR
10は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数1~10のアルコキシ基を表し、R
9とR
10がアルキル基の場合、末端で互いに結合し環構造を形成していても良い。Qは下記のいずれかの構造を表す。
【化5】
(式中、R
11は-CH
2-、-NR-、-O-、又は-S-を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、*は結合部位を示す。)。S
3は単結合、-O-、-NR-(Rは水素原子または炭素数1~14のアルキル基を表す。)、または-S-を表す。R
12は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数1~10のアルコキシ基を表す。)
【請求項10】
前記ラジカル重合を誘発する有機基を含有するジアミンが下記式(6)、下記式(7)、または下記式(7’)で表される構造を有するジアミンである、請求項
8または
9に記載の液晶表示素子の製造方法。
【化6】
(式(6)中、R
6は単結合、-CH
2-、-O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-NH-、-CH
2O-、-N(CH
3)-、-CON(CH
3)-、又は-N(CH
3)CO-を表し、
R
7は単結合、又は非置換もしくはフッ素原子によって置換されている炭素数1~20のアルキレン基を表し、当該アルキレン基の任意の-CH
2-又は-CF
2-の1以上は、それぞれ独立に-CH=CH-、二価の炭素環、および二価の複素環から選ばれる基で置き換えられていてもよく、さらに、次に挙げるいずれかの基、すなわち、-O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、又は-NH-が互いに隣り合わないことを条件に、これらの基で置き換えられていてもよい;
R
8は、下記式[X-1]~[X-18]から選択される式で表されるラジカル重合反応性基を表す。
【化7】
(式[X-1]~[X-18]中、*は結合部位を示し、S
1、およびS
2はそれぞれ独立して-O-、-NR-、または-S-を表し、Rは水素原子、または炭素数1~10のアルキル基を表す(前記炭素数1~10のアルキル基のうち、炭素数2~10のアルキル基の-CH
2-基の一部は酸素原子に置き換わっていてもよい。ただし、S
2RまたはNRにおいて、前記アルキル基の-CH
2-基の一部が酸素原子に置き換わっている場合、前記酸素原子は、S
2またはNには、直接結合していない。)。R
1、およびR
2はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基を表す。))
【化8】
【化9】
(式(7)及び(7’)中、T
1及びT
2は、それぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-NH-、-CH
2O-、-N(CH
3)-、-CON(CH
3)-、又は-N(CH
3)CO-であり、
Sは単結合、又は非置換もしくはフッ素原子によって置換されている炭素数1~20のアルキレン基を表し、当該アルキレン基の任意の-CH
2-又は-CF
2-の1以上は、それぞれ独立に-CH=CH-、二価の炭素環、および二価の複素環から選ばれる基で置き換えられていてもよく、さらに、次に挙げるいずれかの基、すなわち、-O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、又は-NH-が互いに隣り合わないことを条件に、これらの基で置き換えられていてもよく、
Eは、単結合、-O-、-C(CH
3)
2-、-NH-、-CO-、-NHCO-、-COO-、-(CH
2)
m-、-SO
2-、-O-(CH
2)
m-O-、-O-C(CH
3)
2-、-CO-(CH
2)
m-、-NH-(CH
2)
m-、-SO
2-(CH
2)
m-、-CONH-(CH
2)
m-、-CONH-(CH
2)
m-NHCO-、または-COO-(CH
2)
m-OCO-であり、mは1~8の整数であり、
Jは下記式[W]、[Y]及び[Z]から選ばれる式で表される有機基である。
【化10】
(式[W]、[Y]、および[Z]中、*はT
2との結合箇所を表し、Arは有機基及び/又はハロゲン原子を置換基として有しても良いフェニレン、ナフチレン、及びビフェニリレンからなる群より選ばれる芳香族炭化水素基を示し、R
9及びR
10は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数1~10のアルコキシ基を表し、Qは下記のいずれかの構造を表す。
【化11】
(式中、R
11は-CH
2-、-NR-、-O-、又は-S-を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、*は結合部位を示す。)。S
3は単結合、-O-、-NR-(Rは水素原子または炭素数1~14のアルキル基を表す。)、または-S-を表す。R
12は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数1~10のアルコキシ基を表す。))式(7’)中、qはそれぞれ独立に0又は1であり、少なくとも1つのqは1であり、pは1~2の整数を表す。)
【請求項11】
前記ラジカル発生膜を有する第一基板と、ラジカル発生膜を有していてもよい第二基板とを用意するステップ、
前記第一基板における前記ラジカル発生膜が前記第二基板に対向するように、前記第一基板および前記第二基板を対向配置するステップ、
前記第一基板と前記第二基板との間に、前記液晶組成物を充填するステップ、および
前記重合反応させるステップ、
を含む、請求項1~
10のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項12】
前記第二基板がラジカル発生膜を有しない第二基板である、請求項
11に記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項13】
前記第二基板が、一軸配向性を有する液晶配向膜がコーティングされた基板である、請求項
11に記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項14】
前記一軸配向性を有する液晶配向膜が水平配向用の液晶配向膜である、請求項
13に記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項15】
前記第一基板および前記第二基板のいずれか一方が櫛歯電極を有する基板である、請求項
11~
14のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
【請求項16】
液晶及び下記式(A)で表されるラジカル重合性化合物を含有することを特徴とする液晶組成物。
【化12】
(式(A)中、Mはラジカル重合可能な重合性基を表し、R
1
およびR
2
はそれぞれ独立して単結合、または結合基が挿入されていてもよい炭素数1~6のアルキレン基を表し、
R
3
は単結合、または炭素数1~6の直鎖アルキレン基を表し、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、X
1およびX
2
は水素原
子を表し、R
1X
1とR
2X
2とR
1X
1およびR
2X
2に結合する炭素原子とは一緒になって環を形成していてもよい。ただし、R
1X
1、R
2X
2およびR
3の合計炭素数は1以上である。)
【請求項17】
前記式(A)中のMが以下の構造から選ばれる、請求項
16に記載の液晶組成物。
【化13】
(式中、*は結合部位を示す。R
bは炭素数2~8の直鎖アルキル基を表し、Eは単結合、-O-、-NR
c-、-S-、エステル結合及びアミド結合から選ばれる結合基を表す。R
cは水素原子、または炭素数1~4のアルキル基を表す。R
dは水素原子、または炭素数1~6のアルキル基を表す。)
【請求項18】
第一基板、前記第一基板に対向して配置された第二基板、および前記第一基板と前記第二基板との間に充填された液晶を有し、
前記液晶及び下記式(A)で表されるラジカル重合性化合物を含有する液晶組成物を、ラジカル発生膜を有する前記第一基板の前記ラジカル発生膜に接触させた状態で、前記ラジカル重合性化合物を重合反応させてなる、ことを特徴とする液晶表示素子。
【化14】
(式(A)中、Mはラジカル重合可能な重合性基を表し、R
1
およびR
2
はそれぞれ独立して単結合、または結合基が挿入されていてもよい炭素数1~6のアルキレン基を表し、
R
3
は単結合、または炭素数1~6の直鎖アルキレン基を表し、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、X
1およびX
2
は水素原
子を表し、R
1X
1とR
2X
2とR
1X
1およびR
2X
2に結合する炭素原子とは一緒になって環を形成していてもよい。ただし、R
1X
1、R
2X
2およびR
3の合計炭素数は1以上である。)
【請求項19】
前記第一基板および前記第二基板のいずれか一方が櫛歯電極を有する基板である、請求項
18に記載の液晶表示素子。
【請求項20】
低電圧駆動横電界液晶表示素子である、請求項
18または
19に記載の液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価な手法かつ複雑な工程を含まない手法にて、弱アンカリング膜を製造することが可能であり、かつポリマーによる液晶層の安定化技術を応用した、液晶表示素子の製造方法、及び、更なる低電圧駆動を実現するための液晶表示素子、並びにそれらに利用可能な液晶組成物、及びラジカル重合性化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、コンピュータ及びテレビのディスプレイなどには液晶表示素子が広く用いられている。液晶表示素子は薄型、軽量、低消費電力などの特性を有しており、今後はVR(Virtual Reality)や超高精細のディスプレイ等、更なるコンテンツへの応用が期待されている。液晶ディスプレイの表示方式には、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、VA(Vertical Alignment)など様々な表示モードが提案されているが、すべてのモードには液晶を所望の配向状態に誘導する膜(液晶配向膜)が使用されている。
【0003】
特にタブレットPCやスマートフォン、スマートTV等のタッチパネルを具備した製品には、タッチしても表示が乱れにくいIPSモードが好まれており、近年ではコントラスト向上や視野角特性の向上の点でFFS(Frindge Field Switching)を用いた液晶表示素子や、光配向を用いた非接触技術を用いた技術が用いられるようになってきた。
【0004】
しかしながら、FFSはIPSに比べ基板の製造コストが大きく、Vcomシフトと呼ばれるFFSモード特有の表示不良が発生する課題がある。また光配向に関しては、ラビング法に比べ、製造できる素子の大きさを大きくできる点や表示特性を大きく向上できるというメリットがあるが、光配向の原理上の課題(分解型であれば分解物由来の表示不良、異性化型であれば配向力不足による焼き付き等)が挙げられる。それらの課題を解決するために液晶表示素子メーカーや液晶配向膜メーカーは種々工夫を行っているのが現状である。
【0005】
一方で、近年弱アンカリングというものを利用したIPSモードが提案されており、この手法を用いることで従来のIPSモードに比べてコントラスト向上や大幅な低電圧駆動が可能になるという報告がされている(特許文献1参照)。
【0006】
具体的には、片側の基板には強いアンカリングエネルギーを有する液晶配向膜を用い、一方の横電界を発生させる方の電極を具備した基板側には一切液晶の配向規制力を有さなくなるような処理を施し、それらを用いてIPSモードの液晶表示素子を作る方法である。
【0007】
近年では、濃厚ポリマーブラシ等を用いて弱状態を作り出す、弱アンカリングIPSモードの技術提案がなされている(特許文献2参照)。この技術によりコントラスト比の大幅な向上や駆動電圧の大幅な低下を実現している。
【0008】
一方で、応答速度特に電圧OFF時の応答速度が著しく低下する課題がある。これは駆動電圧が低くなるため、通常の駆動方式に比べ弱い電界で応答させることによる影響と、配向膜のアンカリング力が極めて小さいが故に、液晶の復元に時間がかかってしまうことに起因する。
【0009】
これを解決する方法として、画素電極上のみ弱アンカリングにする手法が提案されている(特許文献3参照)。これにより輝度の向上と応答速度の両立が可能になることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4053530号公報
【文献】特開2013-231757号公報
【文献】特開2017-211566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
IPS櫛歯電極の電極上のみ弱アンカリングにすることで駆動時の応答速度遅延が抑制される一方で、電極上のみ弱アンカリングの状態にするためには非常に細かな領域に異なる材料を塗り分けする等の難しい技術を用意する必要があり、実際の工業化には大きな課題となることが考えられる。
【0012】
これらとは別の方法で、セルギャップを狭くすることによる応答速度の改善が検討されている。通常、液晶表示素子はセルギャップが狭くなるほど応答速度が速くなる傾向にある。しかし、その反面、透過率が低下してしまう問題がある。これを解決するには複屈折率差(Δn)の大きな液晶の使用が挙げられる。セルギャップDとΔnの積(リタデーション)が300nm~400nm(測定波長550nm)となるように設定することで、透過率の低下を解決できる。しかしながら、Δnを大きくする場合、基本的にはそのパラメーターだけを変えることはできず、Δε(誘電率異方性)や弾性係数等のパラメーターも変わるため、液晶の基礎物性が大きく変化することが考えられる。例えば弱アンカリング配向のような場合、液晶が垂直方向に配向してしまうようなケースが発生する可能性等も考えられる。よって、ΔnやΔε等のパラメーターが変化しても安定した弱アンカリング特性が得られることが重要課題となる。
【0013】
このような技術的課題を解決できればパネルメーカーとしても大きなコストメリットとなり、バッテリーの消費抑制や画質の向上等にもメリットとなることが考えられる。
【0014】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、狭セルギャップ化において、プレチルト角が発生せず安定的に弱アンカリング横電界液晶表示素子が作製でき、低駆動電圧化とOff時の応答速度も速くすることが同時に実現でき、加えて高温時においてもVHR(電圧保持率)の低下が少ない横電界液晶表示素子が製造可能な液晶表示素子の製造方法、及び当該液晶表示素子、並びにそれらに利用可能な液晶組成物、及びラジカル重合性化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決する為、鋭意検討を行った結果、上記の課題を解決出来ることを見出し、以下の要旨を有する本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 液晶及び下記式(A)で表されるラジカル重合性化合物を含有する液晶組成物を、ラジカル発生膜に接触させた状態で、前記ラジカル重合性化合物を重合反応させるステップを含む、液晶表示素子の製造方法。
【化1】
(式(A)中、Mはラジカル重合可能な重合性基を表し、R
1~R
3はそれぞれ独立して単結合、または結合基が挿入されていてもよい炭素数1~6のアルキレン基を表し、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、X
1およびX
2はそれぞれ独立して水素原子、または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、R
1X
1とR
2X
2とR
1X
1およびR
2X
2に結合する炭素原子とは一緒になって環を形成していてもよい。ただし、R
1X
1、R
2X
2およびR
3の合計炭素数は1以上である。)
[2] 前記式(A)中、R
3が炭素数1~6の直鎖アルキレン基であり、X
1およびX
2が水素原子である[1]に記載の液晶表示素子の製造方法。
[3] 前記式(A)中のMが以下の構造から選ばれる、[1]または[2]に記載の液晶表示素子の製造方法。
【化2】
(式中、*は結合部位を示す。R
bは炭素数2~8の直鎖アルキル基を表し、Eは単結合、-O-、-NR
c-、-S-、エステル結合及びアミド結合から選ばれる結合基を表す。R
cは水素原子、または炭素数1~4のアルキル基を表す。R
dは水素原子、または炭素数1~6のアルキル基を表す。)
[4] 前記ラジカル発生膜が一軸配向処理されたラジカル発生膜である、[1]~[3]のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
[5] 前記重合反応させるステップが無電界条件下で行われる、[1]~[4]のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
[6] 前記ラジカル発生膜が、ラジカル重合を誘発する有機基が固定化されて成る膜である、[1]~[5]のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
[7] 前記ラジカル発生膜が、ラジカルを発生する有機基を有する化合物と重合体とを含有する組成物を塗布、および硬化して膜を形成することにより、前記ラジカルを発生する有機基を前記膜中に固定化させて得られる、[1]~[5]のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
[8] 前記ラジカル発生膜が、ラジカル重合を誘発する有機基を含有する重合体から成る、[1]~[5]のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
[9] 前記ラジカル重合を誘発する有機基を含有する重合体が、ラジカル重合を誘発する有機基を含有するジアミンを含むジアミン成分を用いて得られるポリイミド前駆体、ポリイミド、ポリウレアおよびポリアミドから選ばれる少なくとも一種の重合体である、[8]に記載の液晶表示素子の製造方法。
[10] 前記ラジカル重合を誘発する有機基が下記式[X-1]~[X-18]、[W]、[Y]、または[Z]で表される有機基である、[9]に記載の液晶表示素子の製造方法。
【化3】
(式[X-1]~[X-18]中、*は結合部位を示し、S
1、およびS
2はそれぞれ独立して-O-、-NR-、または-S-を表し、Rは水素原子、または炭素数1~10のアルキル基を表す(前記炭素数1~10のアルキル基のうち、炭素数2~10のアルキル基の-CH
2-基の一部は酸素原子に置き換わっていてもよい。ただし、S
2RまたはNRにおいて、前記アルキル基の-CH
2-基の一部が酸素原子に置き換わっている場合、前記酸素原子は、S
2またはNには、直接結合していない。)。R
1、およびR
2はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【化4】
(式[W]、[Y]、および[Z]中、*は結合部位を示し、Arは有機基及び/又はハロゲン原子を置換基として有しても良いフェニレン、ナフチレン、及びビフェニリレンからなる群より選ばれる芳香族炭化水素基を示し、R
9及びR
10は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数1~10のアルコキシ基を表し、R
9とR
10がアルキル基の場合、末端で互いに結合し環構造を形成していても良い。Qは下記のいずれかの構造を表す。
【化5】
(式中、R
11は-CH
2-、-NR-、-O-、又は-S-を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、*は結合部位を示す。)。S
3は単結合、-O-、-NR-(Rは水素原子または炭素数1~14のアルキル基を表す。)、または-S-を表す。R
12は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数1~10のアルコキシ基を表す。)
[11] 前記ラジカル重合を誘発する有機基を含有するジアミンが下記式(6)、下記式(7)、または下記式(7’)で表される構造を有するジアミンである、[9]または[10]に記載の液晶表示素子の製造方法。
【化6】
(式(6)中、R
6は単結合、-CH
2-、-O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-NH-、-CH
2O-、-N(CH
3)-、-CON(CH
3)-、又は-N(CH
3)CO-を表し、
R
7は単結合、又は非置換もしくはフッ素原子によって置換されている炭素数1~20のアルキレン基を表し、当該アルキレン基の任意の-CH
2-又は-CF
2-の1以上は、それぞれ独立に-CH=CH-、二価の炭素環、および二価の複素環から選ばれる基で置き換えられていてもよく、さらに、次に挙げるいずれかの基、すなわち、-O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、又は-NH-が互いに隣り合わないことを条件に、これらの基で置き換えられていてもよい;
R
8は、下記式[X-1]~[X-18]から選択される式で表されるラジカル重合反応性基を表す。
【化7】
(式[X-1]~[X-18]中、*は結合部位を示し、S
1、およびS
2はそれぞれ独立して-O-、-NR-、または-S-を表し、Rは水素原子、または炭素数1~10のアルキル基を表す(前記炭素数1~10のアルキル基のうち、炭素数2~10のアルキル基の-CH
2-基の一部は酸素原子に置き換わっていてもよい。ただし、S
2RまたはNRにおいて、前記アルキル基の-CH
2-基の一部が酸素原子に置き換わっている場合、前記酸素原子は、S
2またはNには、直接結合していない。)。R
1、およびR
2はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基を表す。))
【化8】
【化9】
(式(7)及び(7’)中、T
1及びT
2は、それぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-NH-、-CH
2O-、-N(CH
3)-、-CON(CH
3)-、又は-N(CH
3)CO-であり、
Sは単結合、又は非置換もしくはフッ素原子によって置換されている炭素数1~20のアルキレン基を表し、当該アルキレン基の任意の-CH
2-又は-CF
2-の1以上は、それぞれ独立に-CH=CH-、二価の炭素環、および二価の複素環から選ばれる基で置き換えられていてもよく、さらに、次に挙げるいずれかの基、すなわち、-O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、又は-NH-が互いに隣り合わないことを条件に、これらの基で置き換えられていてもよく、
Eは、単結合、-O-、-C(CH
3)
2-、-NH-、-CO-、-NHCO-、-COO-、-(CH
2)
m-、-SO
2-、-O-(CH
2)
m-O-、-O-C(CH
3)
2-、-CO-(CH
2)
m-、-NH-(CH
2)
m-、-SO
2-(CH
2)
m-、-CONH-(CH
2)
m-、-CONH-(CH
2)
m-NHCO-、または-COO-(CH
2)
m-OCO-であり、mは1~8の整数であり、
Jは下記式[W]、[Y]及び[Z]から選ばれる式で表される有機基である。
【化10】
(式[W]、[Y]、および[Z]中、*はT
2との結合箇所を表し、Arは有機基及び/又はハロゲン原子を置換基として有しても良いフェニレン、ナフチレン、及びビフェニリレンからなる群より選ばれる芳香族炭化水素基を示し、R
9及びR
10は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数1~10のアルコキシ基を表し、Qは下記のいずれかの構造を表す。
【化11】
(式中、R
11は-CH
2-、-NR-、-O-、又は-S-を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、*は結合部位を示す。)。S
3は単結合、-O-、-NR-(Rは水素原子または炭素数1~14のアルキル基を表す。)、または-S-を表す。R
12は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数1~10のアルコキシ基を表す。))式(7’)中、qはそれぞれ独立に0又は1であり、少なくとも1つのqは1であり、pは1~2の整数を表す。)
[12] 前記ラジカル発生膜を有する第一基板と、ラジカル発生膜を有していてもよい第二基板とを用意するステップ、
前記第一基板における前記ラジカル発生膜が前記第二基板に対向するように、前記第一基板および前記第二基板を対向配置するステップ、
前記第一基板と前記第二基板との間に、前記液晶組成物を充填するステップ、および
前記重合反応させるステップ、
を含む、[1]~[11]のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
[13] 前記第二基板がラジカル発生膜を有しない第二基板である、[12]に記載の液晶表示素子の製造方法。
[14] 前記第二基板が、一軸配向性を有する液晶配向膜がコーティングされた基板である、[12]に記載の液晶表示素子の製造方法。
[15] 前記一軸配向性を有する液晶配向膜が水平配向用の液晶配向膜である、[14]に記載の液晶表示素子の製造方法。
[16] 前記第一基板および前記第二基板のいずれか一方が櫛歯電極を有する基板である、[12]~[15]のいずれかに記載の液晶表示素子の製造方法。
[17] 液晶及び下記式(A)で表されるラジカル重合性化合物を含有することを特徴とする液晶組成物。
【化12】
(式(A)中、Mはラジカル重合可能な重合性基を表し、R
1~R
3はそれぞれ独立して単結合、または結合基が挿入されていてもよい炭素数1~6のアルキレン基を表し、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、X
1およびX
2はそれぞれ独立して水素原子、または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、R
1X
1とR
2X
2とR
1X
1およびR
2X
2に結合する炭素原子とは一緒になって環を形成していてもよい。ただし、R
1X
1、R
2X
2およびR
3の合計炭素数は1以上である。)
[18] 前記式(A)中、R
3が炭素数1~6の直鎖アルキレン基であり、X
1およびX
2が水素原子である[17]に記載の液晶組成物。
[19] 前記式(A)中のMが以下の構造から選ばれる、[17]または[18]に記載の液晶組成物。
【化13】
(式中、*は結合部位を示す。R
bは炭素数2~8の直鎖アルキル基を表し、Eは単結合、-O-、-NR
c-、-S-、エステル結合及びアミド結合から選ばれる結合基を表す。R
cは水素原子、または炭素数1~4のアルキル基を表す。R
dは水素原子、または炭素数1~6のアルキル基を表す。)
[20] 第一基板、前記第一基板に対向して配置された第二基板、および前記第一基板と前記第二基板との間に充填された液晶を有し、
前記液晶及び下記式(A)で表されるラジカル重合性化合物を含有する液晶組成物を、ラジカル発生膜を有する前記第一基板の前記ラジカル発生膜に接触させた状態で、前記ラジカル重合性化合物を重合反応させてなる、ことを特徴とする液晶表示素子。
【化14】
(式(A)中、Mはラジカル重合可能な重合性基を表し、R
1~R
3はそれぞれ独立して単結合、または結合基が挿入されていてもよい炭素数1~6のアルキレン基を表し、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、X
1およびX
2はそれぞれ独立して水素原子、または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、R
1X
1とR
2X
2とR
1X
1およびR
2X
2に結合する炭素原子とは一緒になって環を形成していてもよい。ただし、R
1X
1、R
2X
2およびR
3の合計炭素数は1以上である。)
[21] 前記第一基板および前記第二基板のいずれか一方が櫛歯電極を有する基板である、[20]に記載の液晶表示素子。
[22] 低電圧駆動横電界液晶表示素子である、[20]または[21]に記載の液晶表示素子。
[23] 下記式(A)で表されることを特徴とするラジカル重合性化合物。
【化15】
(式(A)中、M、R
1、R
2、R
3、X
1、X
2、およびArは以下の(i)~(v)の組合せのいずれかである。)
(i) Mが下記構造(C)であり、R
1X
1が1-ペンチル基であり、R
2が単結合であり
、X
2が水素原子であり、R
3が単結合であり、Arがフェニル基である組合せ。
(ii) Mが下記構造(B)であり、R
1X
1が1-プロピル基であり、R
2が単結合であり
、X
2が水素原子であり、R
3が単結合であり、Arがフェニル基である組合せ。
(iii) Mが下記構造(C)であり、R
1X
1がエチル基であり、R
2X
2がエチル基であり
、R
3が1,2-エチレン基であり、Arがフェニル基である組合せ。
(iv) Mが下記構造(C)であり、R
1X
1が1-プロピル基であり、R
2が単結合であり、X
2が水素原子であり
、R
3が1,2-エチレン基であり、Arがフェニル基である組合せ。
(v) Mが下記構造(D)であり、R
1が単結合であり、X
1が水素原子であり
、R
2が単結合であり、X
2が水素原子であり
、R
3が1,2-エチレン基であり、Arがフェニル基である組合せ。
【化16】
(構造(B)、構造(C)及び構造(D)中、*は結合部位を示す。)
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、狭セルギャップ化において、プレチルト角が発生せず安定的に弱アンカリング横電界液晶表示素子が作製でき、低駆動電圧化とOff時の応答速度も速くすることが同時に実現でき、加えて高温時においてもVHRの低下が少ない横電界液晶表示素子が製造可能な液晶表示素子の製造方法、及び当該液晶表示素子、並びにそれらに利用可能な液晶組成物、及びラジカル重合性化合物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の横電界液晶表示素子の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の横電界液晶表示素子の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、弱アンカリング膜形成に伴うプレチルト角の発現等が抑制でき、狭セルギャップ化においても安定的に高信頼な弱アンカリング横電界液晶表示素子を作製可能な添加剤(特定構造のラジカル重合性化合物)を利用するものである。例えば、液晶及び特定構造のラジカル重合性化合物を含有する液晶組成物を、ラジカル発生膜を有する第一基板と、液晶配向膜を有する第二基板との間に有するセルを用意するステップ、及び前記セルに、前記ラジカル重合性化合物を重合反応させるのに十分なエネルギーを与えるステップを含む、弱アンカリング横電界液晶表示素子の製造方法である。好ましくは、ラビング又は光配向により配向処理されたラジカル発生膜を有する第一基板と、ラジカル発生膜を有しない液晶配向膜を有する第二基板とを用意するステップ、それぞれの基板が対向するようにセルを作成するステップ、および、第一基板と第二基板との間に、液晶及び特定構造のラジカル重合性化合物を含有する液晶組成物を充填するステップを含む液晶セルの製造方法である。例えば、片方の基板に配向処理されたラジカル発生膜を有しており、もう一方の基板に一軸配向処理された液晶配向膜を有し、どちらか一方の基板が液晶を駆動させるための櫛歯電極を有する基板である、低電圧駆動横電界液晶表示素子の作成方法である。
【0020】
本発明において「弱アンカリング膜」とは、面内方向における液晶分子の配向規制力が全く無いか、あったとしても液晶同士の分子間力よりも弱く、この膜のみでは液晶分子をいずれの方向にも一軸配向させない膜をいう。また、この弱アンカリング膜は、固体膜に限定されず固体表面を覆う液体膜も含まれる。通常、液晶表示素子には液晶分子の配向を規制する膜、すなわち液晶配向膜を対で用いて液晶を配向させるが、この弱アンカリング膜と液晶配向膜を対で用いた場合も液晶を配向させることが出来る。これは、液晶配向膜の配向規制力が液晶分子同士の分子間力によって液晶層の厚み方向にも伝達し、結果として弱アンカリング膜に近接する液晶分子も配向するからである。よって液晶配向膜に水平配向用の液晶配向膜を用いた場合においては液晶セル内全体で水平配向状態を作り出すことが出来る。水平配向とは液晶分子の長軸が液晶配向膜面に対してほぼ平行に配列している状態をいい、数度程度の傾斜配向も水平配向の範疇に含まれる。
【0021】
本願の出願人は、液晶及びラジカル重合性化合物を含有する液晶組成物を、ラジカル発生膜に接触させた状態で、前記ラジカル重合性化合物を重合反応させるのに十分なエネルギーを与えるステップを含む、ゼロ面アンカリング膜の製造方法を提案している(国際公開第2019/004433号の請求項1参照)。国際公開第2019/004433号の〔0077〕~〔0086〕には、当該提案に用いるラジカル重合性化合物が例示されている。
本発明者らは、上記提案の技術を利用し、狭セルギャップ化において、プレチルト角が発生せず安定的に弱アンカリング横電界液晶表示素子が作製でき、低駆動電圧化とOff時の応答速度も速くすることが同時に実現でき、加えて高温時においてもVHRの低下が少ない横電界液晶表示素子を作製するために鋭意検討を行った。その結果、ラジカル重合性化合物の中でも特定構造のラジカル重合性化合物を用いることで、狭セルギャップ化において、プレチルト角が発生せず安定的に弱アンカリング横電界液晶表示素子が作製でき、低駆動電圧化とOff時の応答速度も速くすることが同時に実現でき、加えて高温時においてもVHRの低下が少ない横電界液晶表示素子が製造可能になることを見出した。
ここで、特定構造のラジカル重合性化合物は、下記式(A)で表される。
【化17】
(式(A)中、Mはラジカル重合可能な重合性基を表し、R
1~R
3はそれぞれ独立して単結合、または結合基が挿入されていてもよい炭素数1~6のアルキレン基を表し、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、X
1およびX
2はそれぞれ独立して水素原子、または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、R
1X
1とR
2X
2とR
1X
1およびR
2X
2に結合する炭素原子とは一緒になって環を形成していてもよい。ただし、R
1X
1、R
2X
2およびR
3の合計炭素数は1以上である。)
【0022】
本発明の液晶表示素子の製造方法においては、液晶及び式(A)で表されるラジカル重合性化合物を含有する液晶組成物を、ラジカル発生膜に接触させた状態で、ラジカル重合性化合物を重合反応させるステップを含む。このステップにおいては、ラジカル発生膜により発生したラジカルを利用したラジカル重合性化合物の重合反応によって、ラジカル発生膜の表面に変化が生じ、弱アンカリング膜が得られていると、本発明者らは推測している。しかし、かかるステップによるラジカル発生膜の表面の変化が、ラジカル発生膜自体の変化であるのか、それともラジカル発生膜上にラジカル重合性化合物の重合層が形成されていることによる変化であるのかは、確認が困難である。そのため、かかるステップによる結果物を特定するには至っていない。
【0023】
本発明においては、上記ステップを行うことで、狭セルギャップ化において、プレチルト角が発生せず安定的に弱アンカリング横電界液晶表示素子が作製でき、低駆動電圧化とOff時の応答速度も速くすることが同時に実現でき、加えて高温時においてもVHRの低下が少ない横電界液晶表示素子が製造可能となる。式(A)で表されるラジカル重合性化合物がそのことにどのように寄与しているかについて、本発明者らは以下のように考えている。
式(A)で表されるラジカル重合性化合物のMは、ラジカル重合性化合物のラジカル重合に寄与する。そのことにより、弱アンカリング膜が形成でき、低駆動電圧化が実現できる。
また、式(A)で表されるラジカル重合性化合物のAr(置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基)は、プレチルト角の発生の抑制、応答速度の改善、及び高温時の高VHRに寄与していると、本発明者らは推測している。
また、式(A)において、MとArとが近すぎず、MとArと間にある程度の大きさの基〔-C(R1X1)(R2X2)R3-〕があることが、応答速度を更に早くする効果があるものと、本発明者らは推測している。
なお、本明細書において狭セルギャップとは、3.5μm以下のセルギャップを意味する。
【0024】
[ラジカル発生膜形成組成物]
本発明に用いるラジカル発生膜を形成するためのラジカル発生膜形成組成物は、成分として、重合体を含有し、ラジカルを発生しうる基を含有する。その際、当該組成物は、ラジカルを発生しうる基が結合した重合体を含有するものであってもよいし、ラジカルを発生しうる基を有する化合物と、ベース樹脂となる重合体との組成物であってもよい。このような組成物を塗布、硬化して膜を形成することにより、ラジカルを発生しうる基が膜中に固定化されたラジカル発生膜を得ることができる。ラジカルを発生しうる基は、ラジカル重合を誘発する有機基であることが好ましい。
【0025】
そのような、ラジカル重合を誘発する有機基としては下記式[X-1]~[X-18]、[W]、[Y]、[Z]で表される有機基が挙げられる。
【化18】
(式[X-1]~[X-18]中、*は結合部位を示し、S
1、およびS
2はそれぞれ独立して-O-、-NR-、または-S-を表し、Rは水素原子、または炭素数1~10のアルキル基を表す(前記炭素数1~10のアルキル基のうち、炭素数2~10のアルキル基の-CH
2-基の一部は酸素原子に置き換わっていてもよい。ただし、S
2RまたはNRにおいて、前記アルキル基の-CH
2-基の一部が酸素原子に置き換わっている場合、前記酸素原子は、S
2またはNには、直接結合していない。)。R
1、およびR
2はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【化19】
(式[W]、[Y]、および[Z]中、*は結合部位を示し、Arは有機基及び/又はハロゲン原子を置換基として有しても良いフェニレン、ナフチレン、及びビフェニリレンからなる群より選ばれる芳香族炭化水素基を示し、R
9及びR
10は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数1~10のアルコキシ基を表し、R
9とR
10がアルキル基の場合、末端で互いに結合し環構造を形成していても良い。Qは下記のいずれかの構造を表す。
【化20】
(式中、R
11は-CH
2-、-NR-、-O-、又は-S-を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、*は結合部位を示す。)。S
3は単結合、-O-、-NR-(Rは水素原子または炭素数1~14のアルキル基を表す。)、または-S-を表す。R
12は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数1~10のアルコキシ基を表す。)
【0026】
重合体としては、ポリイミド前駆体、ポリイミド、ポリウレア、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、及びポリオルガノシロキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体が好ましい。
【0027】
本発明に用いるラジカル発生膜を得るために、前記ラジカル重合を誘発する有機基を有する重合体を用いる場合、ラジカルを発生しうる基を有する重合体を得るには、モノマー成分として、メタクリル基、アクリル基、ビニル基、アリル基、クマリン基、スチリル基及びシンナモイル基から選択される少なくとも一種を含む光反応性の側鎖を有するモノマーや、紫外線照射により分解し、ラジカルを発生する部位を側鎖に有するモノマーを用いて製造することが好ましい。一方で、ラジカルを発生するモノマーはそれ自体が自発的に重合をしてしまうなどの問題点が考えられ、不安定化合物となってしまうため、合成のしやすさの点ではラジカル発生部位を有するジアミンから誘導される重合体が好ましく、ポリアミック酸やポリアミック酸エステル等のポリイミド前駆体、ポリイミド、ポリウレア、ポリアミドなどがより好ましい。
【0028】
ラジカル重合を誘発する有機基を含有する重合体は、ラジカル重合を誘発する有機基を含有するジアミンを含むジアミン成分を用いて得られるポリイミド前駆体、ポリイミド、ポリウレアおよびポリアミドから選ばれる少なくとも一種の重合体であることが好ましい。
そのようなラジカル重合を誘発する有機基を含有するジアミンは、具体的には、例えば、ラジカルを発生し重合可能な側鎖を有するジアミンであり、下記の式(6)で表される構造を有するジアミンを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【化21】
(式(6)中、R
6は単結合、-CH
2-、-O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-NH-、-CH
2O-、-N(CH
3)-、-CON(CH
3)-、又は-N(CH
3)CO-を表し、
R
7は単結合、又は非置換もしくはフッ素原子によって置換されている炭素数1~20のアルキレン基を表し、当該アルキレン基の任意の-CH
2-又は-CF
2-の1以上は、それぞれ独立に-CH=CH-、二価の炭素環、および二価の複素環から選ばれる基で置き換えられていてもよく、さらに、次に挙げるいずれかの基、すなわち、-O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、又は-NH-が互いに隣り合わないことを条件に、これらの基で置き換えられていてもよい;
R
8は、下記式[X-1]~[X-18]から選択される式で表されるラジカル重合反応性基を表す。
【化22】
(式[X-1]~[X-18]中、*は結合部位を示し、S
1、およびS
2はそれぞれ独立して-O-、-NR-、または-S-を表し、Rは水素原子、または炭素数1~10のアルキル基を表す(前記炭素数1~10のアルキル基のうち、炭素数2~10のアルキル基の-CH
2-基の一部は酸素原子に置き換わっていてもよい。ただし、S
2RまたはNRにおいて、前記アルキル基の-CH
2-基の一部が酸素原子に置き換わっている場合、前記酸素原子は、S
2またはNには、直接結合していない。)。R
1、およびR
2はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基を表す。))
【0029】
式(6)における二つのアミノ基(-NH2)の結合位置は限定されない。具体的には、側鎖の結合基に対して、ベンゼン環上の2,3の位置、2,4の位置、2,5の位置、2,6の位置、3,4の位置、3,5の位置が挙げられる。なかでも、ポリアミック酸を合成する際の反応性の観点から、2,4の位置、2,5の位置、又は3,5の位置が好ましい。ジアミンを合成する際の容易性も加味すると、2,4の位置、又は3,5の位置がより好ましい。
【0030】
メタクリル基、アクリル基、ビニル基、アリル基、クマリル基、スチリル基及びシンナモイル基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む光反応性基を有するジアミンとしては、具体的には、以下のような化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【化23】
(式中、J
1は単結合、-O-、-COO-、-NHCO-、及び-NH-より選ばれる結合基であり、J
2は単結合、又は非置換もしくはフッ素原子によって置換されている炭素数1~20のアルキレン基を表す。)
【0031】
ラジカル重合を誘発する有機基を含有するジアミンのうち、紫外線照射により分解してラジカルを発生する部位を側鎖として有するジアミンは、下記の式(7)又は式(7’)で表される構造を有するジアミンを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【化24】
【化25】
(式(7)及び(7’)中、T
1及びT
2は、それぞれ独立に、単結合、-O-、-S-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、-NH-、-CH
2O-、-N(CH
3)-、-CON(CH
3)-、又は-N(CH
3)CO-であり、
Sは単結合、又は非置換もしくはフッ素原子によって置換されている炭素数1~20のアルキレン基を表し、当該アルキレン基の任意の-CH
2-又は-CF
2-の1以上は、それぞれ独立に-CH=CH-、二価の炭素環、および二価の複素環から選ばれる基で置き換えられていてもよく、さらに、次に挙げるいずれかの基、すなわち、-O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-CONH-、又は-NH-が互いに隣り合わないことを条件に、これらの基で置き換えられていてもよく、
Eは、単結合、-O-、-C(CH
3)
2-、-NH-、-CO-、-NHCO-、-COO-、-(CH
2)
m-、-SO
2-、-O-(CH
2)
m-O-、-O-C(CH
3)
2-、-CO-(CH
2)
m-、-NH-(CH
2)
m-、-SO
2-(CH
2)
m-、-CONH-(CH
2)
m-、-CONH-(CH
2)
m-NHCO-、または-COO-(CH
2)
m-OCO-であり、mは1~8の整数であり、
Jは下記式[W]、[Y]及び[Z]から選ばれる式で表される有機基であり、
【化26】
(式[W]、[Y]、および[Z]中、*はT
2との結合箇所を表し、Arは有機基及び/又はハロゲン原子を置換基として有しても良いフェニレン、ナフチレン、及びビフェニリレンからなる群より選ばれる芳香族炭化水素基を示し、R
9及びR
10は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数1~10のアルコキシ基を表し、Qは下記のいずれかの構造を表す。
【化27】
(式中、R
11は-CH
2-、-NR-、-O-、又は-S-を表し、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、*は結合部位を示す。)。S
3は単結合、-O-、-NR-(Rは水素原子または炭素数1~14のアルキル基を表す。)、または-S-を表す。R
12は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基又は炭素数1~10のアルコキシ基を表す。))式(7’)中、qはそれぞれ独立に0又は1であり、少なくとも1つのqは1であり、pは1~2の整数を表す。)
【0032】
上記式(7)における二つのアミノ基(-NH2)の結合位置は限定されない。具体的には、側鎖の結合基に対して、ベンゼン環上の2,3の位置、2,4の位置、2,5の位置、2,6の位置、3,4の位置、3,5の位置が挙げられる。なかでも、ポリアミック酸を合成する際の反応性の観点から、2,4の位置、2,5の位置、又は3,5の位置が好ましい。
【0033】
特に合成の容易さ、汎用性の高さ、特性などの点を鑑みて、下記式で表される構造が最も好ましいが、これらに限定されない。
【化28】
(式中、nは2~8の整数である。)
【0034】
式(7)及び式(7’)で表されるジアミンにおいては特に合成の容易さ、汎用性の高さ、特性などの点を鑑みて、下記式で表される構造が最も好ましいが、これらに限定されない。
【化29】
(式中、nは2~8の整数であり、Eは、単結合、-O-、-C(CH
3)
2-、-NH-、-CO-、-NHCO-、-CONH-、-COO-、-OCO-、-(CH
2)
m-、-SO
2-、-O-(CH
2)
m-O-、-O-C(CH
3)
2-、-C(CH
3)
2-O-、-CO-(CH
2)
m-、-(CH
2)
m-CO-、-NH-(CH
2)
m-、-(CH
2)
m-NH-、-SO
2-(CH
2)
m-、-(CH
2)
m-SO
2-、-CONH-(CH
2)
m-、-(CH
2)
m-NHCO-、-CONH-(CH
2)
m-NHCO-または-COO-(CH
2)
m-OCO-であり、mは1~8の整数である。)
【0035】
上記のジアミンは、ラジカル発生膜とした際の液晶配向性、重合反応における感度、電圧保持特性、蓄積電荷などの特性に応じて、1種類又は2種類以上を混合して使用することもできる。
【0036】
このようなラジカル重合を誘発する有機基を含有するジアミンは、ラジカル発生膜形成組成物に含有させる重合体の合成に用いるジアミン成分全体の5~50モル%となる量を用いることが好ましく、より好ましくは10~40モル%であり、特に好ましくは15~30モル%である。
【0037】
なお、本発明のラジカル発生膜に用いる重合体をジアミンから得る場合、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記ラジカル重合を誘発する有機基を含有するジアミン以外の、その他のジアミンをジアミン成分として併用することができる。具体的には、p-フェニレンジアミン、2,3,5,6-テトラメチル-p-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノフェノール、2,4-ジアミノフェノール、3,5-ジアミノフェノール、3,5-ジアミノベンジルアルコール、2,4-ジアミノベンジルアルコール、4,6-ジアミノレゾルシノール、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジカルボキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジフルオロ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、3,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジアミノビフェニル、2,3’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2’-ジアミノジフェニルメタン、2,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2’-ジアミノジフェニルエーテル、2,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-スルホニルジアニリン、3,3’-スルホニルジアニリン、ビス(4-アミノフェニル)シラン、ビス(3-アミノフェニル)シラン、ジメチル-ビス(4-アミノフェニル)シラン、ジメチル-ビス(3-アミノフェニル)シラン、4,4’-チオジアニリン、3,3’-チオジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、3,3’-ジアミノジフェニルアミン、3,4’-ジアミノジフェニルアミン、2,2’-ジアミノジフェニルアミン、2,3’-ジアミノジフェニルアミン、N-メチル(4,4’-ジアミノジフェニル)アミン、N-メチル(3,3’-ジアミノジフェニル)アミン、N-メチル(3,4’-ジアミノジフェニル)アミン、N-メチル(2,2’-ジアミノジフェニル)アミン、N-メチル(2,3’-ジアミノジフェニル)アミン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、2,2’-ジアミノベンゾフェノン、2,3’-ジアミノベンゾフェノン、1,4-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、1,6-ジアミノナフタレン、1,7-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、2,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,7-ジアミノナフタレン、1,2-ビス(4-アミノフェニル)エタン、1,2-ビス(3-アミノフェニル)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,3-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ブタン、1,4-ビス(3-アミノフェニル)ブタン、ビス(3,5-ジエチル-4-アミノフェニル)メタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、3,4’-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、3,4’-[1,3-フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、3,3’-[1,4-フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、3,3’-[1,3-フェニレンビス(メチレン)]ジアニリン、1,4-フェニレンビス[(4-アミノフェニル)メタノン]、1,4-フェニレンビス[(3-アミノフェニル)メタノン]、1,3-フェニレンビス[(4-アミノフェニル)メタノン]、1,3-フェニレンビス[(3-アミノフェニル)メタノン]、1,4-フェニレンビス(4-アミノベンゾエート)、1,4-フェニレンビス(3-アミノベンゾエート)、1,3-フェニレンビス(4-アミノベンゾエート)、1,3-フェニレンビス(3-アミノベンゾエート)、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、ビス(3-アミノフェニル)テレフタレート、ビス(4-アミノフェニル)イソフタレート、ビス(3-アミノフェニル)イソフタレート、N,N’-(1,4-フェニレン)ビス(4-アミノベンズアミド)、N,N’-(1,3-フェニレン)ビス(4-アミノベンズアミド)、N,N’-(1,4-フェニレン)ビス(3-アミノベンズアミド)、N,N’-(1,3-フェニレン)ビス(3-アミノベンズアミド)、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’-ビス(3-アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)イソフタルアミド、N,N’-ビス(3-アミノフェニル)イソフタルアミド、9,10-ビス(4-アミノフェニル)アントラセン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(3-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(3-アミノ-4-メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2’-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2’-ビス(3-アミノ-4-メチルフェニル)プロパン、トランス-1,4-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,5-ジアミノ安息香酸、ビス(4-アミノフェノキシ)メタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ブタン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ブタン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,5-ビス(3-アミノフェノキシ)ペンタン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)へキサン、1,6-ビス(3-アミノフェノキシ)へキサン、1,7-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘプタン、1,7-ビス(3-アミノフェノキシ)ヘプタン、1,8-ビス(4-アミノフェノキシ)オクタン、1,8-ビス(3-アミノフェノキシ)オクタン、1,9-ビス(4-アミノフェノキシ)ノナン、1,9-ビス(3-アミノフェノキシ)ノナン、1,10-ビス(4-アミノフェノキシ)デカン、1,10-ビス(3-アミノフェノキシ)デカン、1,11-ビス(4-アミノフェノキシ)ウンデカン、1,11-ビス(3-アミノフェノキシ)ウンデカン、1,12-ビス(4-アミノフェノキシ)ドデカン、1,12-ビス(3-アミノフェノキシ)ドデカンなどの芳香族ジアミン;ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタンなどの脂環式ジアミン;1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノへキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンなどの脂肪族ジアミン;1,3-ビス[2-(p-アミノフェニル)エチル]ウレア、1,3-ビス[2-(p-アミノフェニル)エチル]-1-tert-ブトキシカルボニルウレア等のウレア構造を有するジアミン;N-p-アミノフェニル-4-p-アミノフェニル(tert-ブトキシカルボニル)アミノメチルピペリジン等の含窒素不飽和複素環構造を有するジアミン;N-tert-ブトキシカルボニル-N-(2-(4-アミノフェニル)エチル)-N-(4-アミノベンジル)アミン等のN-Boc基(Bocはtert-ブトキシカルボニル基を表す)を有するジアミン等が挙げられる。
【0038】
上記その他のジアミンは、ラジカル発生膜とした際の液晶配向性、重合反応における感度、電圧保持特性、蓄積電荷などの特性に応じて、1種類又は2種類以上を混合して使用することもできる。
【0039】
重合体がポリアミック酸である場合の合成で、上記のジアミン成分と反応させるテトラカルボン酸二無水物は特に限定されない。具体的には、ピロメリット酸、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸、1,2,5,6-アントラセンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン、2,3,4,5-ピリジンテトラカルボン酸、2,6-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ピリジン、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸、1,3-ジフェニル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、オキシジフタルテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,3,4-テトラメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロヘプタンテトラカルボン酸、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸、3,4-ジカルボキシ-1-シクロへキシルコハク酸、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸、3,4-ジカルボキシ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフタレンコハク酸、ビシクロ[3,3,0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸、ビシクロ[4,3,0]ノナン-2,4,7,9-テトラカルボン酸、ビシクロ[4,4,0]デカン-2,4,7,9-テトラカルボン酸、ビシクロ[4,4,0]デカン-2,4,8,10-テトラカルボン酸、トリシクロ[6.3.0.0<2,6>]ウンデカン-3,5,9,11-テトラカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドリナフタレン-1,2-ジカルボン酸、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロへキサン-1,2-ジカルボン酸、テトラシクロ[6,2,1,1,0<2,7>]ドデカ-4,5,9,10-テトラカルボン酸、3,5,6-トリカルボキシノルボルナン-2:3,5:6ジカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸等のテトラカルボン酸の二無水物が挙げられる。
【0040】
勿論、テトラカルボン酸二無水物も、ラジカル発生膜とした際の液晶配向性、重合反応における感度、電圧保持特性、蓄積電荷などの特性に応じて、1種類又は2種類以上併用してもよい。
【0041】
重合体がポリアミック酸エステルである場合の合成で、上記のジアミン成分と反応させるテトラカルボン酸ジアルキルエステルの構造は特に限定されないが、その具体例を以下に挙げる。
【0042】
脂肪族テトラカルボン酸ジエステルの具体的な例としては1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、1,2-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、1,2,3,4-テトラメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸ジアルキルエステル、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、3,4-ジカルボキシ-1-シクロヘキシルコハク酸ジアルキルエステル、3,4-ジカルボキシ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフタレンコハク酸ジアルキルエステル、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、ビシクロ[3,3,0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸ジアルキルエステル、3,3’,4,4’-ジシクロヘキシルテトラカルボン酸ジアルキルエステル、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸ジアルキルエステル、シス-3,7-ジブチルシクロオクタ-1,5-ジエン-1,2,5,6-テトラカルボン酸ジアルキルエステル、トリシクロ[4.2.1.0<2,5>]ノナン-3,4,7,8-テトラカルボン酸-3,4:7,8-ジアルキルエステル、ヘキサシクロ[6.6.0.1<2,7>.0<3,6>.1<9,14>.0<10,13>]ヘキサデカン-4,5,11,12-テトラカルボン酸-4,5:11,12-ジアルキルエステル、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンー1,2-ジカルボンジアルキルエステルなどが挙げられる。
【0043】
芳香族テトラカルボン酸ジアルキルエステルとしては、ピロメリット酸ジアルキルエステル、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ジアルキルエステル、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸ジアルキルエステル、2,3,3’,4-ビフェニルテトラカルボン酸ジアルキルエステル、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテルジアルキルエステル、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホンジアルキルエステル、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸ジアルキルエステルなどが挙げられる。
【0044】
重合体がポリウレアである場合の合成で、上記のジアミン成分と反応させるジイソシアネートに関しては、特に限定はせず、入手性等に応じて使用することができる。ジイソシアネートの具体的構造を以下に示す。
【化30】
式中R
2、およびR
3は炭素数1~10の脂肪族炭化水素基を表す。
【0045】
K-1~K-5に示す脂肪族ジイソシアネートは、反応性は劣るが溶媒溶解性を向上させるメリットがあり、K-6~K-13に示すような芳香族ジイソシアネートは反応性に富み耐熱性を向上させる効果があるが、溶媒溶解性を低下させる欠点が挙げられる。汎用性や特性面においてはK-1、K-7、K-8、K-9、K-10が好ましく、電気特性の観点ではK-12、液晶配向性の観点ではK-13が好ましい。ジイソシアネートは2種以上を併用して使用することもでき、得たい特性に応じて種々適用するのが好ましい。
【0046】
また、一部のジイソシアネートを上記で説明したテトラカルボン酸二無水物に置き換えることもでき、ポリアミック酸とポリウレアの共重合体のような形で使用しても良く、化学イミド化によってポリイミドとポリウレアの共重合体のような形で使用しても良い。
【0047】
重合体がポリアミドである場合の合成で、反応させるジカルボン酸の構造は特に限定されないが、あえて具体例を以下に挙げれば以下のとおりである。脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、蓚酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ムコン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジエチルコハク酸、アゼライイン酸、セバシン酸およびスベリン酸等のジカルボン酸を挙げることができる。
【0048】
脂環式系のジカルボン酸としては、1,1-シクロプロパンジカルボン酸、1,2-シクロプロパンジカルボン酸、1,1-シクロブタンジカルボン酸、1,2-シクロブタンジカルボン酸、1,3-シクロブタンジカルボン酸、3,4-ジフェニル-1,2-シクロブタンジカルボン酸、2,4-ジフェニル-1,3-シクロブタンジカルボン酸、1-シクロブテン-1,2-ジカルボン酸、1-シクロブテン-3,4-ジカルボン酸、1,1-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,1-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-(2-ノルボルネン)ジカルボン酸、ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3-ジカルボン酸、2,5-ジオキソ-1,4-ビシクロ[2.2.2]オクタンジカルボン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、4,8-ジオキソ-1,3-アダマンタンジカルボン酸、2,6-スピロ[3.3]ヘプタンジカルボン酸、1,3-アダマンタン二酢酸、カンファー酸等を挙げることができる。
【0049】
芳香族ジカルボン酸としては、o-フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-tert-ブチルイソフタル酸、5-アミノイソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、2,5-ジメチルテレフタル酸、テトラメチルテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-アントラセンジカルボン酸、1,4-アントラキノンジカルボン酸、2,5-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、1,5-ビフェニレンジカルボン酸、4,4”-ターフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルプロパンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルヘキサフルオロプロパンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ビベンジルジカルボン酸、4,4’-スチルベンジカルボン酸、4,4’-トランジカルボン酸、4,4’-カルボニル二安息香酸、4,4’-スルホニル二安息香酸、4,4’-ジチオ二安息香酸、p-フェニレン二酢酸、3,3’-p-フェニレンジプロピオン酸、4-カルボキシ桂皮酸、p-フェニレンジアクリル酸、3,3’-[4,4’-(メチレンジ-p-フェニレン)]ジプロピオン酸、4,4’-[4,4’-(オキシジ-p-フェニレン)]ジプロピオン酸、4,4’-[4,4’-(オキシジ-p-フェニレン)]二酪酸、(イソプロピリデンジ-p-フェニレンジオキシ)二酪酸、ビス(p-カルボキシフェニル)ジメチルシラン等のジカルボン酸を挙げることができる。
【0050】
複素環を含むジカルボン酸としては、1,5-(9-オキソフルオレン)ジカルボン酸、3,4-フランジカルボン酸、4,5-チアゾールジカルボン酸、2-フェニル-4,5-チアゾールジカルボン酸、1,2,5-チアジアゾール-3,4-ジカルボン酸、1,2,5-オキサジアゾール-3,4-ジカルボン酸、2,3-ピリジンジカルボン酸、2,4-ピリジンジカルボン酸、2,5-ピリジンジカルボン酸、2,6-ピリジンジカルボン酸、3,4-ピリジンジカルボン酸、3,5-ピリジンジカルボン酸等を挙げることができる。
【0051】
上記の各種ジカルボン酸は酸ジハライドあるいは無水の構造のものであってもよい。これらのジカルボン酸類は、特に直線的な構造のポリアミドを与えることが可能なジカルボン酸類であることが液晶分子の配向性を保つ上から好ましい。これらの中でも、テレフタル酸、イソテレフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルプロパンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルヘキサフルオロプロパンジカルボン酸、2,2-ビス(フェニル)プロパンジカルボン酸、4、4-ターフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ピリジンジカルボン酸またはこれらの酸ジハライド等が好ましく用いられる。これらの化合物には異性体が存在するものもあるが、それらを含む混合物であってもよい。また、2種以上の化合物を併用してもよい。なお、本発明に使用するジカルボン酸類は、上記の例示化合物に限定されるものではない。
【0052】
原料であるジアミン(「ジアミン成分」とも記載する)と原料であるテトラカルボン酸二無水物(「テトラカルボン酸二無水物成分」とも記載する)、テトラカルボン酸ジエステル、ジイソシアネート及びジカルボン酸から選ばれる成分との反応により、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリウレア、ポリアミドを得るにあたっては、公知の合成手法を用いることができる。一般的には、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分、テトラカルボン酸ジエステル、ジイソシアネート及びジカルボン酸から選ばれる一種以上の成分とを、有機溶媒中で反応させる方法である。
【0053】
ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分との反応は、有機溶媒中で比較的容易に進行し、かつ副生成物が発生しない点で有利である。
【0054】
上記反応に用いる有機溶媒としては、生成した重合体が溶解するものであれば特に限定されない。さらに、重合体が溶解しない有機溶媒であっても、生成した重合体が析出しない範囲で、上記溶媒に混合して使用してもよい。なお、有機溶媒中の水分は、重合反応を阻害し、さらには生成した重合体を加水分解させる原因となるので、有機溶媒は脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
【0055】
有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N-メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、イソプロピルアルコール、メトキシメチルペンタノール、ジペンテン、エチルアミルケトン、メチルノニルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、メチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトール、エチルカルビトール、エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール-tert-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノプロピルエーテル、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、トリプロピレングリコールメチルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジイソプロピルエーテル、エチルイソブチルエーテル、ジイソブチレン、アミルアセテート、ブチルブチレート、ブチルエーテル、ジイソブチルケトン、メチルシクロへキセン、プロピルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオキサン、n-へキサン、n-ペンタン、n-オクタン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸メチルエチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、ジグライム、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、2-エチル-1-ヘキサノール等が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で使用しても、混合して使用してもよい。
【0056】
ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とを有機溶媒中で反応させる際には、ジアミン成分を有機溶媒に分散あるいは溶解させた溶液を撹拌し、テトラカルボン酸二無水物成分をそのまま、又は有機溶媒に分散あるいは溶解させて添加する方法、逆にテトラカルボン酸二無水物成分を有機溶媒に分散あるいは溶解させた溶液にジアミン成分を添加する方法、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを交互に添加する方法などが挙げられ、これらのいずれの方法を用いてもよい。また、ジアミン成分又はテトラカルボン酸二無水物成分が複数種の化合物からなる場合は、あらかじめ混合した状態で反応させてもよく、個別に順次反応させてもよく、さらに個別に反応させた低分子量体を混合反応させ高分子量体としてもよい。
【0057】
ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とを反応させる際の温度は、任意の温度を選択することができ、例えば、-20~100℃、好ましくは-5~80℃の範囲である。また、反応は任意の濃度で行うことができ、例えば、反応液に対してジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分との合計量が1~50質量%、好ましくは5~30質量%である。
【0058】
上記の重合反応における、ジアミン成分の合計モル数に対するテトラカルボン酸二無水物成分の合計モル数の比率は、得ようとするポリアミック酸の分子量に応じて任意の値を選択することができる。通常の重縮合反応と同様に、このモル比が1.0に近いほど生成するポリアミック酸の分子量は大きくなる。好ましい範囲としては、0.8~1.2である。
【0059】
本発明に用いられる重合体を合成する方法は、上記の手法に限定されず、ポリアミック酸を合成する場合は、一般的なポリアミック酸の合成方法と同様に、上記のテトラカルボン酸二無水物に代えて、対応する構造のテトラカルボン酸又はテトラカルボン酸ジハライドなどのテトラカルボン酸誘導体を用い、公知の方法で反応させることでも対応するポリアミック酸を得ることができる。また、ポリウレアを合成する場合は、ジアミンとジイソシアネートとを反応させればよい。ポリアミック酸エステルまたはポリアミドを製造する際には、ジアミンと、テトラカルボン酸ジエステル及びジカルボン酸から選ばれる成分を、公知の縮合剤の存在下で、又は、公知の方法で酸ハライドに誘導したのちに、ジアミンと反応させればよい。
【0060】
また、上記ポリアミック酸を閉環(イミド化)させることによりポリイミドを得ることができる。なお、本明細書でいうイミド化率とは、テトラカルボン酸二無水物由来のイミド基とカルボキシ基との合計量に占めるイミド基の割合のことである。ポリイミドにおいては、イミド化率は必ずしも100%である必要はなく、用途や目的に応じて任意に調整できる。本発明におけるポリイミドのイミド化率は、電圧保持率を高くできることから、30%以上であることが好ましく、一方、白化特性の、すなわち、ワニス中での重合体の析出を抑制する観点から、80%以下が好ましい。
【0061】
上記したポリアミック酸をイミド化させてポリイミドとする方法としては、ポリアミック酸の溶液をそのまま加熱する熱イミド化、ポリアミック酸の溶液に触媒を添加する触媒イミド化が挙げられる。
ポリアミック酸を溶液中で熱イミド化させる場合の温度は、通常100~400℃、好ましくは120~250℃であり、イミド化反応により生成する水を系外に除きながら行うことが好ましい。
【0062】
ポリアミック酸の触媒イミド化は、ポリアミック酸の溶液に、塩基性触媒と酸無水物とを添加し、通常-20~250℃、好ましくは0~180℃で撹拌することにより行うことができる。塩基性触媒の量は、アミック酸基の通常0.5~30モル倍、好ましくは2~20モル倍であり、酸無水物の量は、アミック酸基の通常1~50モル倍、好ましくは3~30モル倍である。塩基性触媒としては、ピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミンなどを挙げることができ、中でもピリジンは反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。酸無水物としては、無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などを挙げることができるが、中でも無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるので好ましい。触媒イミド化によるイミド化率は、触媒量と反応温度、反応時間などを調節することにより制御することができる。
【0063】
重合体の反応溶液から、生成した重合体を回収する場合には、反応溶液を貧溶媒に投入して沈殿させればよい。沈殿生成に用いる貧溶媒としては、メタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼン、水などを挙げることができる。貧溶媒に投入して沈殿させたポリマーは、濾過して回収した後、常圧あるいは減圧下で、常温あるいは加熱して乾燥することができる。また、沈殿回収した重合体を、有機溶媒に再溶解させ、再沈殿回収する操作を2~10回繰り返すと、重合体中の不純物を少なくすることができる。この際の貧溶媒として、例えば、アルコール類、ケトン類、炭化水素などが挙げられ、これらの内から選ばれる3種類以上の貧溶媒を用いると、より一層精製の効率が上がるので好ましい。
【0064】
また、前記ラジカル発生膜が、ラジカル重合を誘発する有機基を含有する重合体から成る場合、本発明に用いるラジカル発生膜形成組成物は、ラジカル重合を誘発する有機基を含有する重合体以外の他の重合体を含有していてもよい。その際、重合体全成分中における、他の重合体の含有量は5~95質量%が好ましく、より好ましくは30~70質量%である。
【0065】
ラジカル発生膜形成組成物が有する重合体の分子量は、ラジカル発生膜を塗布して得られるラジカル発生膜の強度、塗膜形成時の作業性、塗膜の均一性等を考慮した場合、GPC(Gel Permeation Chromatography)法で測定した重量平均分子量で、5,000~1,000,000が好ましく、より好ましくは、10,000~150,000である。
【0066】
本発明に用いるラジカル発生膜を、ラジカルを発生する基を有する化合物と重合体との組成物を塗布、硬化して膜を形成することにより膜中に固定化させて得る場合の重合体としては、上記の製造方法に準じて製造されるポリイミド前駆体、及びポリイミド、ポリウレア、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどからなる群から選ばれる重合体であって、上記ラジカル重合を誘発する有機基を含有するジアミンが、ラジカル発生膜形成組成物に含有させる重合体の合成に用いるジアミン成分全体の0モル%であるジアミン成分を用いて得られる少なくとも1種の重合体を用いてもよい。その際に添加するラジカルを発生する基を有する化合物としては、以下のものが挙げられる。
【0067】
熱でラジカルを発生する化合物としては、分解温度以上に加熱することにより、ラジカルを発生させる化合物である。このようなラジカル熱重合開始剤としては、例えば、ケトンパーオキサイド類(メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等)、ジアシルパーオキサイド類(アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等)、ハイドロパーオキサイド類(過酸化水素、tert-ブチルハイドパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等)、ジアルキルパーオキサイド類(ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド等)、パーオキシケタール類(ジブチルパーオキシシクロヘキサン等)、アルキルパーエステル類(パーオキシネオデカン酸-tert-ブチルエステル、パーオキシピバリン酸-tert-ブチルエステル、パーオキシ2-エチルシクロヘキサン酸-tert-アミルエステル等)、過硫酸塩類(過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等)、アゾ系化合物(アゾビスイソブチロニトリル、および2,2’-ジ(2-ヒドロキシエチル)アゾビスイソブチロニトリル等)が挙げられる。このようなラジカル熱重合開始剤は、1種を単独で使用することもできるし、あるいは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0068】
光でラジカルを発生する化合物としては、ラジカル重合を光照射によって開始する化合物であれば特に限定されない。このようなラジカル光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、イソプロピルキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-エチルアントラキノン、アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-4’-イソプロピルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、カンファーキノン、ベンズアントロン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4,4’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4,4’-トリ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2-(4’-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(3’,4’-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2’,4’-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2’-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4’-ペンチルオキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、4-[p-N,N-ジ(エトキシカルボニルメチル)]-2,6-ジ(トリクロロメチル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(2’-クロロフェニル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(4’-メトキシフェニル)-s-トリアジン、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズオキサゾール、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、2-(o-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス(4-エトキシカルボニルフェニル)-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2,4-ジクロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’ビス(2,4-ジブロモフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、3-(2-メチル-2-ジメチルアミノプロピオニル)カルバゾール、3,6-ビス(2-メチル-2-モルホリノプロピオニル)-9-n-ドデシルカルバゾール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ヘキシルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ジ(メトキシカルボニル)-4,4’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4’-ジ(メトキシカルボニル)-4,3’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4,4’-ジ(メトキシカルボニル)-3,3’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2-(3-メチル-3H-ベンゾチアゾール-2-イリデン)-1-ナフタレン-2-イル-エタノン、又は2-(3-メチル-1,3-ベンゾチアゾール-2(3H)-イリデン)-1-(2-ベンゾイル)エタノン等を挙げることができる。これらの化合物は単独で使用してもよく、2つ以上を混合して使用することもできる。
【0069】
なお、前記ラジカル発生膜が、ラジカル重合を誘発する有機基を含有する重合体から成る場合であっても、エネルギーを与えた際にラジカル重合を促進する目的で、上記のラジカルを発生する基を有する化合物を含有させてもよい。
【0070】
ラジカル発生膜形成組成物は、重合体成分、必要に応じてラジカル発生剤その他の含有成分を溶解又は分散する有機溶媒を含有することができる。そのような有機溶媒に特に限定はなく、例えば、上記のポリアミック酸の合成で例示したような有機溶媒を挙げることができる。中でも、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、N-エチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等は、溶解性の観点から好ましい。特に、N-メチル-2-ピロリドン又はN-エチル-2-ピロリドンが好ましいが、2種類以上の混合溶媒を用いてもよい。
【0071】
また、塗膜の均一性や平滑性を向上させる溶媒を、ラジカル発生膜形成組成物の含有成分の溶解性が高い有機溶媒に混合して使用すると好ましい。
【0072】
塗膜の均一性や平滑性を向上させる溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコール、メトキシメチルペンタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)、メチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトール、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール-tert-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノプロピルエーテル、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、トリプロピレングリコールメチルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジイソプロピルエーテル、エチルイソブチルエーテル、ジイソブチレン、アミルアセテート、ブチルブチレート、ブチルエーテル、ジイソブチルケトン、メチルシクロへキセン、プロピルエーテル、ジヘキシルエーテル、n-へキサン、n-ペンタン、n-オクタン、ジエチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n-プロピル、乳酸n-ブチル、乳酸イソアミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸メチルエチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-ブトキシ-2-プロパノール、1-フェノキシ-2-プロパノール、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート、プロピレングリコール-1-モノエチルエーテル-2-アセテート、ジプロピレングリコール、2-(2-エトキシプロポキシ)プロパノール、2-エチル-1-ヘキサノールなどが挙げられる。これらの溶媒は複数種類を混合してもよい。これらの溶媒を用いる場合は、ラジカル発生膜形成組成物に含まれる溶媒全体の5~80質量%であることが好ましく、より好ましくは20~60質量%である。
【0073】
ラジカル発生膜形成組成物には、上記以外の成分を含有させてもよい。その例としては、ラジカル発生膜形成組成物を塗布した際の膜厚均一性や表面平滑性を向上させる化合物、ラジカル発生膜形成組成物と基板との密着性を向上させる化合物、ラジカル発生膜形成組成物の膜強度をさらに向上させる化合物などが挙げられる。
【0074】
膜厚の均一性や表面平滑性を向上させる化合物としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、ノ二オン系界面活性剤などが挙げられる。より具体的には、例えば、エフトップEF301、EF303、EF352(三菱マテリアル電子化成社製)、メガファックF171、F173、R-30(DIC社製)、フロラードFC430、FC431(スリーエム社製)、アサヒガードAG710、サーフロンS-382、SC101、SC102、SC103、SC104、SC105、SC106(AGC社製)などが挙げられる。これらの界面活性剤を使用する場合、その使用割合は、ラジカル発生膜形成組成物に含有される重合体の総量100質量部に対して、好ましくは0.01~2質量部、より好ましくは0.01~1質量部である。
【0075】
ラジカル発生膜形成組成物と基板との密着性を向上させる化合物の具体例としては、官能性シラン含有化合物やエポキシ基含有化合物などが挙げられる。例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-アミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N-エトキシカルボニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-エトキシカルボニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N-トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10-トリメトキシシリル-1,4,7-トリアザデカン、10-トリエトキシシリル-1,4,7-トリアザデカン、9-トリメトキシシリル-3,6-ジアザノニルアセテート、9-トリエトキシシリル-3,6-ジアザノニルアセテート、N-ベンジル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ベンジル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-ビス(オキシエチレン)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビス(オキシエチレン)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、2,2-ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3,5,6-テトラグリシジル-2,4-ヘキサンジオール、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4、4’-ジアミノジフェニルメタン、3-(N-アリル-N-グリシジル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(N,N-ジグリシジル)アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0076】
また、ラジカル発生膜の膜強度をさらに上げるためには、2,2’-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジヒドロキシメチルフェニル)プロパン、テトラ(メトキシメチル)ビスフェノール等のフェノール化合物を添加してもよい。これらの化合物を使用する場合は、ラジカル発生膜形成組成物に含有される重合体の総量100質量部に対して0.1~30質量部であることが好ましく、より好ましくは1~20質量部である。
【0077】
さらに、ラジカル発生膜形成組成物には、上記の他、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、ラジカル発生膜の誘電率や導電性などの電気特性を変化させる目的の誘電体や導電物質を添加してもよい。
【0078】
[ラジカル発生膜]
本発明のラジカル発生膜は、例えば、上記ラジカル発生膜形成組成物を用いて得られる。例えば、本発明に用いるラジカル発生膜形成組成物を、基板に塗布した後、乾燥・焼成を行うことで得られる硬化膜を、そのままラジカル発生膜として用いることもできる。また、この硬化膜をラビングや偏光又は特定の波長の光等を照射、イオンビーム等の処理にて配向処理を行うことができ、PSA用配向膜として液晶充填後の液晶表示素子にUVを照射することも可能である。
【0079】
ラジカル発生膜形成組成物を塗布する基板としては、透明性の高い基板であれば特に限定されないが、基板上に液晶を駆動するための透明電極が形成された基板が好ましい。
【0080】
具体例を挙げると、ガラス板、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート、ポリウレタン、ポリサルホン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、トリメチルペンテン、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、(メタ)アクリロニトリル、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロースなどのプラスチック板などに透明電極が形成された基板を挙げることができる。
【0081】
IPS方式の液晶表示素子に使用できる基板には、標準的なIPS櫛歯電極やPSAフィッシュボーン電極といった電極パターンやMVAのような突起パターンでも使用できる。
【0082】
また、TFT型の素子のような高機能素子においては、液晶駆動のための電極と基板の間にトランジスタの如き素子が形成されたものが用いられる。
【0083】
透過型の液晶表示素子を意図している場合は、上記の如き基板を用いることが一般的であるが、反射型の液晶表示素子を意図している場合では、片側の基板のみにならばシリコンウエハー等の不透明な基板も用いることが可能である。その際、基板に形成された電極には、光を反射するアルミニウムの如き材料を用いることもできる。
【0084】
ラジカル発生膜形成組成物の塗布方法としては、スピンコート法、印刷法、インクジェット法、スプレー法、ロールコート法などが挙げられるが、生産性の面から工業的には転写印刷法が広く用いられており、本発明でも好適に用いられる。
【0085】
ラジカル発生膜形成組成物を塗布した後の乾燥の工程は、必ずしも必要とされないが、塗布後から焼成までの時間が基板ごとに一定していない場合、又は塗布後ただちに焼成されない場合には、乾燥工程を含める方が好ましい。この乾燥は、基板の搬送等により塗膜形状が変形しない程度に溶媒が除去されていればよく、その乾燥手段については特に限定されない。例えば、温度40~150℃、好ましくは60~100℃のホットプレート上で、0.5~30分、好ましくは1~5分乾燥させる方法が挙げられる。
【0086】
上記の方法でラジカル発生膜形成組成物を塗布して形成される塗膜は、焼成して硬化膜とすることができる。その際、焼成温度は、通常100~350℃の任意の温度で行うことができるが、好ましくは140~300℃であり、より好ましくは150~230℃、更に好ましくは160~220℃である。焼成時間は通常5~240分の任意の時間で焼成を行うことができる。好ましくは10~90分であり、より好ましくは20~90分である。加熱は、通常公知の方法、例えば、ホットプレート、熱風循環オーブン、IR(赤外線)型オーブン、ベルト炉などを用いることができる。
【0087】
この硬化膜の厚みは必要に応じて選択することができるが、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上の場合、液晶表示素子の信頼性が向上するので好適である。また、硬化膜の厚みが好ましくは300nm以下、より好ましくは150nm以下の場合は、液晶表示素子の消費電力が極端に大きくならないので好適である。
【0088】
以上のようにしてラジカル発生膜を有する第一基板を得ることができるが、当該ラジカル発生膜に一軸配向処理を施すことができる。一軸配向処理を行う方法としては、光配向法、斜方蒸着法、ラビング、磁場による一軸配向処理等が挙げられる。
【0089】
一方向にラビング処理することによる配向処理を行う場合には、例えば、ラビング布が巻きつけられたラビングローラーを回転させながら、ラビング布と膜とが接触するように基板を移動させる。光配向法を用いる場合には、特定波長の偏光UVを膜全面に照射し、必要に応じて加熱することにより配向処理ができる。
櫛歯電極が形成されている本発明の第一基板の場合、液晶の電気的物性によって方向が選択されるが、正の誘電異方性を有する液晶を用いる場合において、ラビング方向は櫛歯電極の延びている方向とほぼ同一の方向とすることが好ましい。
【0090】
弱アンカリング部と強アンカリング部を作り出す工程として、フォトマスク等を介して任意のパターンにて放射線を照射する方法が挙げられる。これは予めラジカル発生膜に放射線を照射することによりラジカル発生部位を消失させ、弱アンカリング状態にならないようにする工程である。この工程を行う際の放射線として偏光又は特定の波長の光や、イオンビーム等が挙げられる。光ラジカル発生部位に該当する部分の吸光度が最も高くなる波長の光を照射することが特に好ましい。
【0091】
本発明の第二基板は、ラジカル発生膜を有していてもよいし、有していなくてもよい。第二基板は従来から知られている液晶配向膜を有する基板とすることが好ましい。
【0092】
本発明においては、第一基板が櫛歯電極を有する基板であり、第二基板が対向基板であってもよい。また、本発明においては、第二基板が櫛歯電極を有する基板であり、第一基板が対向基板であってもよい。
【0093】
<液晶セル>
本発明の液晶セルは、上記の方法により、基板にラジカル発生膜を形成した後、当該ラジカル発生膜を有する基板(第一基板)と、公知の液晶配向膜を有する基板(第二基板)とを、ラジカル発生膜と液晶配向膜とが向かい合うように配置し、スペーサーを挟んで、シール剤で固定し、液晶及びラジカル重合性化合物を含有する液晶組成物を注入して封止することにより得られる。その際、用いるスペーサーの大きさは通常1~30μmであるが、好ましくは2~10μmである。
【0094】
液晶及びラジカル重合性化合物を含有する液晶組成物を注入する方法は特に制限されず、作製した液晶セル内を減圧にした後、液晶と重合性化合物を含む混合物を注入する真空法、液晶と重合性化合物とを含む混合物を滴下した後に封止を行う滴下法などを挙げることができる。
【0095】
<ラジカル重合性化合物、及び液晶組成物>
本発明のラジカル重合性化合物は、下記式(A)で表される。
【化31】
(式(A)中、Mはラジカル重合可能な重合性基を表し、R
1~R
3はそれぞれ独立して単結合、または結合基が挿入されていてもよい炭素数1~6のアルキレン基を表し、Arは置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、X
1およびX
2はそれぞれ独立して水素原子、または置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、R
1X
1とR
2X
2とR
1X
1およびR
2X
2に結合する炭素原子とは一緒になって環を形成していてもよい。ただし、R
1X
1、R
2X
2およびR
3の合計炭素数は1以上である。)
【0096】
結合基が挿入されている炭素数1~6のアルキレン基とは、炭素数1~6のアルキレン基内の炭素-炭素間に結合基が挿入されている2価基、又は炭素数1~6のアルキレン基とそれに結合する炭素原子との間に結合基が挿入されている2価基を意味する。
結合基としては、例えば、炭素-炭素不飽和結合、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-又は-OCO-)、アミド結合(-CONH-又は-NHCO-)などが挙げられる。不飽和結合としては、例えば、炭素-炭素二重結合などが挙げられるが、炭素-炭素二重結合が挿入されている炭素数1~6のアルキレン基は、その末端にではなく、内部に炭素-炭素二重結合を有する方が好ましい。
結合基が挿入されていてもよい炭素数1~6のアルキレン基としては、例えば、炭素数1~6のアルキレン基、炭素数1~6のオキシアルキレン基などが挙げられる。炭素数1~6のオキシアルキレン基における酸素原子は、例えば、式(A)中のM、R1、R2、及びR3に結合する炭素原子と結合する。
炭素数1~6のアルキレン基は、直鎖アルキレン基であってもよいし、分岐アルキレン基であってもよいし、環状アルキレン基であってもよい。
【0097】
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のハロゲン化アルキル基、炭素数1~4のハロゲン化アルコキシ基などが挙げられる。ハロゲン化アルキル基、およびハロゲン化アルコキシ基におけるハロゲン化は、全ハロゲン化であってもよいし、一部のハロゲン化であってもよい。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子などが挙げられる。
【0098】
R1としては、例えば、単結合、炭素数1~6のアルキレン基などが挙げられる。炭素数1~6のアルキレン基としては、より具体的には炭素数1~6の直鎖アルキレン基が挙げられる。
R2としては、例えば、単結合、炭素数1~6のアルキレン基などが挙げられる。炭素数1~6のアルキレン基としては、より具体的には炭素数1~6の直鎖アルキレン基が挙げられる。
R3としては、例えば、単結合、炭素数1~6のアルキレン基などが挙げられる。炭素数1~6のアルキレン基としては、より具体的には炭素数1~6の直鎖アルキレン基が挙げられる。
X1としては、例えば、水素原子、フェニル基などが挙げられる。
X2としては、例えば、水素原子、フェニル基などが挙げられる。
Arは、例えば、フェニル基などが挙げられる。
【0099】
R1X1、R2X2およびR3の合計炭素数は1以上であれば、特に限定されないが、2以上であってもよい。
また、R1、R2、およびR3の合計炭素数は、例えば、18以下であってもよいし、15以下であってもよいし、10以下であってもよい。
また、X1及びX2が水素原子の場合、R1、R2、およびR3の合計炭素数は1以上であれば、特に限定されないが、2以上であってもよい。
なお、X1及びX2の少なくともいずれかが置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基の場合、R1、R2、およびR3の合計炭素数は0であってもよい。
【0100】
R1X1とR2X2とR1X1およびR2X2に結合する炭素原子とが一緒になって形成する環としては、例えば、結合基が挿入されていてもよい炭素数3~13の炭化水素環が挙げられる。結合基は、前述のとおりである。
【0101】
式(A)で表されるラジカル重合性化合物としては、例えば、下記式(A-1)~(A-3)で表されるラジカル重合性化合物が挙げられる。
【化32】
式中、Mはラジカル重合可能な重合性基を表し、
R
1~R
3はそれぞれ独立して単結合、または結合基が挿入されていてもよい炭素数1~6のアルキレン基を表し、
Ar、Ar
1およびAr
2はそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、
R
11およびR
12はそれぞれ独立して水素原子、または結合基が挿入されていてもよい炭素数1~6のアルキル基を表す。
式(A-1)中、R
11とR
12とR
11およびR
12に結合する炭素原子とは一緒になって環を形成していてもよい。
式(A-1)中、R
11、R
12およびR
3の合計炭素数は1以上であり、2以上であってもよい。また、合計炭素数は、18以下であってもよいし、15以下であってもよいし、10以下であってもよい。
式(A-2)中、R
1、R
12およびR
3の合計炭素数は、特に限定されず0であってもよい。合計炭素数は、例えば、18以下であってもよいし、15以下であってもよいし、10以下であってもよい。
式(A-3)中、R
1、R
2およびR
3の合計炭素数は、特に限定されず0であってもよい。合計炭素数は、例えば、18以下であってもよいし、15以下であってもよいし、10以下であってもよい。
なお、R
11は、R
1X
1においてX
1が水素原子の場合である。R
12は、R
2X
2においてX
2が水素原子の場合である。
【0102】
そして、前記ラジカル重合性化合物のラジカル重合可能な重合性基Mとしては以下の構造から選ばれる重合性基が好ましい。
【化33】
(式中、*は結合部位を示す。R
bは炭素数2~8の直鎖アルキル基を表し、Eは単結合、-O-、-NR
c-、-S-、エステル結合及びアミド結合から選ばれる結合基を表す。R
cは水素原子、または炭素数1~4のアルキル基を表す。R
dは水素原子、または炭素数1~6のアルキル基を表す。)
【0103】
式(A)及び式(A-1)に含まれるラジカル重合性化合物としては、例えば、以下のラジカル重合性化合物が挙げられる。
【化34】
【0104】
(i)Add-1は、式(A)において、Mが下記構造(C)であり、R
1X
1が1-ペンチル基であり、R
2が単結合であり
、X
2が水素原子であり、R
3が単結合であり、Arがフェニル基である組合せに該当する。
(ii)Add-3は、式(A)において、Mが下記構造(B)であり、R
1X
1が1-プロピル基であり、R
2が単結合であり
、X
2が水素原子であり、R
3が単結合であり、Arがフェニル基である組合せに該当する。
(iii)Add-6は、式(A)において、Mが下記構造(C)であり、R
1X
1がエチル基であり、R
2X
2がエチル基であり
、R
3が1,2-エチレン基であり、Arがフェニル基である組合せに該当する。
(iv)Add-8は、式(A)において、Mが下記構造(C)であり、R
1X
1が1-プロピル基であり、R
2が単結合であり、X
2が水素原子であり
、R
3が1,2-エチレン基であり、Arがフェニル基である組合せに該当する。
(v)Add-12は、式(A)において、Mが下記構造(D)であり、R
1が単結合であり、X
1が水素原子であり
、R
2が単結合であり、X
2が水素原子であり
、R
3が1,2-エチレン基であり、Arがフェニル基である組合せに該当する。
【化35】
(構造(B)、構造(C)及び構造(D)中、*は結合部位を示す。)
【0105】
液晶組成物は、液晶と、上記ラジカル重合性化合物とを少なくとも含有する。
液晶組成物中の上記ラジカル重合性化合物の含有量は、液晶とラジカル重合性化合物との合計質量に対して、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0106】
また、液晶組成物においては、上記ラジカル重合性化合物とは別に他の単官能のラジカル重合性基を有する化合物(以下、「他のラジカル重合性化合物」と称することがある)とを複数併用してもよい。
【0107】
他のラジカル重合性化合物は、有機ラジカルの存在下でラジカル重合を行うことが可能な不飽和結合を有するものであり、例えば、t-ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-オクチルメタクリレートなどのメタクリレート系モノマー;tert-ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-オクチルアクリレートなどのアクリレート系モノマー;スチレン、スチレン誘導体(例えば、o-、m-、p-メトキシスチレン、o-、m-、p-tert-ブトキシスチレン、o-、m-、p-クロロメチルスチレンなど)、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニルなど)、ビニルケトン類(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトンなど)、N-ビニル化合物(例えば、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピロール、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドールなど)、(メタ)アクリル酸誘導体(例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミドなど)、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプレン、フッ化ビニルなど)などのビニルモノマーが挙げられるが、これらに限定はしない。また、これらは、液晶と相溶性を有することが好ましい。
【0108】
また、他のラジカル重合性化合物としては、下記式(1)で表される化合物も好ましい。
【化36】
(式(1)中、R
aおよびR
bはそれぞれ独立に炭素数2~8の直鎖アルキル基を表し、Eは単結合、-O-、-NR
c-、-S-、エステル結合、およびアミド結合から選ばれる結合基を表す。R
cは水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【0109】
液晶組成物に含有されるラジカル重合性化合物のうち少なくとも一種は、液晶と相溶性を有する、一分子中に一個の重合性不飽和結合を有する化合物、すなわち、単官能のラジカル重合性基を有する化合物であることが好ましい。
【0110】
そして、前記式(1)で表されるラジカル重合性化合物としては式中Eがエステル結合(-C(=O)-O-または-O-C(=O)-で表される結合)のものが合成のしやすさや液晶への相溶性、重合反応性の観点で好ましく、具体的には以下のような構造で表される化合物が好ましいが、特に限定はしない。
【化37】
また、液晶組成物において、ラジカル重合性化合物を重合させて得られるポリマーのTgが100℃以下になるラジカル重合性化合物を含有することが好ましい。
【0111】
これらの各種ラジカル重合性モノマーは、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、これらは、液晶と相溶性を有することが好ましい。
【0112】
ラジカル重合性化合物を重合させて得られるポリマーは、そのTgを100℃以下とすることが好ましく、より好ましくは0℃以下である。
【0113】
なお、液晶とは一般に固体と液体の両方の性質を示す状態にある物質をいい、代表的な液晶相としてネマティック液晶とスメクティック液晶があるが、本発明において使用できる液晶は特に限定されない。一例を挙げれば4-ペンチル-4’-シアノビフェニルである。
【0114】
次に、この液晶とラジカル重合性化合物とを含む混合物(液晶組成物)が導入された液晶セルに当該ラジカル重合性化合物を重合反応させるのに十分なエネルギーを与える。これは、例えば、熱を加えるか、UV照射することにより実施することができ、当該ラジカル重合性化合物がその場で重合されることで、所望の特性が発現する。中でも配向性のパターニングが可能となり、更に短時間で重合反応させられる点で、UV照射が好ましい。
【0115】
またUV照射の際、加熱を行ってもよい。UV照射を行う際の加熱温度は、導入された液晶が液晶性を発現する温度範囲が好ましく、通常40℃以上であり、液晶の等方相に変わる温度未満での加熱が好ましい。
【0116】
ここで、UV照射する場合におけるUV照射波長は、反応する重合性化合物の反応量子収率の最も良い波長を選択することが好ましく、UVの照射量は、通常0.01~30J/cm2であるが、好ましくは、10J/cm2以下であり、UV照射量が少ないほうが、液晶ディスプレイを構成する部材の破壊からなる信頼性低下を抑制でき、かつUV照射時間を減らせることで製造上のタクトが向上するので好適である。
【0117】
また、UV照射ではなく、加熱のみで重合させる場合の加熱は、重合性化合物の反応する温度であって、液晶の分解温度未満となる温度範囲で行うことが好ましい。具体的には、100~150℃である。
【0118】
ラジカル重合性化合物を重合反応させるのに十分なエネルギーを与えるとき、電圧を印加しない、無電界状態であることが好ましい。
【0119】
<液晶表示素子>
このようにして得られた液晶セルを用いて液晶表示素子を作製することができる。
液晶表示素子は、例えば、第一基板、第一基板に対向して配置された第二基板、および第一基板と第二基板との間に充填された液晶を有する。そして、液晶表示素子は、液晶及び式(A)で表されるラジカル重合性化合物を含有する液晶組成物を、ラジカル発生膜を有する第一基板のラジカル発生膜に接触させた状態で、ラジカル重合性化合物を重合反応させてなる。
液晶表示素子は、例えば、液晶セルに必要に応じて反射電極、透明電極、λ/4板、偏光膜、カラーフィルター層等を常法に従って設けることにより反射型液晶表示素子とすることができる。また、液晶セルに必要に応じてバックライト、偏光板、λ/4板、透明電極、偏光膜、カラーフィルター層等を常法に従って設けることにより透過型液晶表示素子とすることができる。
【0120】
図1は、本発明の横電界液晶表示素子の一例を示す概略断面図であり、IPSモード液晶表示素子の例である。
図1に例示する横電界液晶表示素子1においては、液晶配向膜2cを具備する櫛歯電極基板2と液晶配向膜4aを具備する対向基板4との間に、液晶3が挟持されている。櫛歯電極基板2は、基材2aと、基材2a上に形成され、櫛歯状に配置された複数の線状電極2bと、基材2a上に線状電極2bを覆うように形成された液晶配向膜2cとを有している。対向基板4は、基材4bと、基材4b上に形成された液晶配向膜4aとを有している。液晶配向膜2cは、例えば、ラジカル発生膜を化学変化させて得られる弱アンカリング膜である。櫛型電極基板側の液晶配向膜は、例えば、ラジカル発生膜に、液晶とラジカル重合性化合物とを含有する液晶組成物を接触させた状態で、ラジカル重合性化合物を重合反応させて得られる。
この横電界液晶表示素子1においては、線状電極2bに電圧が印加されると、電気力線Lで示すように線状電極2b間で電界が発生する。
【0121】
図2は、本発明の横電界液晶表示素子の他の例を示す概略断面図であり、FFSモード液晶表示素子の例である。
図2に例示する横電界液晶表示素子1においては、液晶配向膜2hを具備する櫛歯電極基板2と液晶配向膜4aを具備する対向基板4との間に、液晶3が挟持されている。櫛歯電極基板2は、基材2dと、基材2d上に形成された面電極2eと、面電極2e上に形成された絶縁膜2fと、絶縁膜2f上に形成され、櫛歯状に配置された複数の線状電極2gと、絶縁膜2f上に線状電極2gを覆うように形成された液晶配向膜2hとを有している。対向基板4は、基材4bと、基材4b上に形成された液晶配向膜4aとを有している。液晶配向膜2hは、例えば、ラジカル発生膜を化学変化させて得られる弱アンカリング膜である。櫛型電極基板側の液晶配向膜は、例えば、ラジカル発生膜に、液晶とラジカル重合性化合物とを含有する液晶組成物を接触させた状態で、ラジカル重合性化合物を重合反応させて得られる。
この横電界液晶表示素子1においては、面電極2eおよび線状電極2gに電圧が印加されると、電気力線Lで示すように面電極2eおよび線状電極2g間で電界が発生する。
【実施例】
【0122】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定して解釈されるものではない。化合物の略号、及び各特性の測定方法は以下のとおりである。
【0123】
(ジアミン)
DA-1~DA-5:それぞれ、下記式(DA-1)~(DA-5)で表される化合物
【化38】
【0124】
(テトラカルボン酸二無水物)
TC-1~TC-3:それぞれ、下記式(TC-1)~(TC-3)で表される化合物
【化39】
【0125】
(添加剤)
Add-1~Add-12:それぞれ、下記式(Add-1)~(Add-12)で表される化合物
Add-C1~Add-C3:それぞれ、下記式(Add-C1)~(Add-C3)で表される化合物
AD-1:下記式(AD-1)で表される化合物
【化40】
【化41】
【0126】
(溶媒)
THF:テトラヒドロフラン
CH2Cl2:ジクロロメタン
CHCl3:クロロホルム
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
BCS:ブチロセロソルブ
GBL:γ-ブチロラクトン
(反応試剤)
TEA:トリエチルアミン
DMAP:4-ジメチルアミノピリジン
(その他)
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
【0127】
<粘度測定>
ポリアミック酸溶液などの粘度は、E型粘度計TVE-22H(東機産業社製)を用い、サンプル量1.1mL(ミリリットル)、コーンロータTE-1(1°34’、R24)、温度25℃において測定した。
【0128】
<分子量の測定>
ポリイミド前駆体及びポリイミドなどの分子量は、常温ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置(GPC-101)(昭和電工社製)、カラム(GPC KD-803,GPC KD-805)(昭和電工社製)を用いて、以下のようにして測定した。
カラム温度:50℃
溶離液:N,N-ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム一水和物(LiBr・H2O)が30mmol/L(リットル)、リン酸・無水結晶(o-リン酸)が30mmol/L、テトラヒドロフラン(THF)が10mL/L)
流速:1.0mL/分
検量線作成用標準サンプル:TSK 標準ポリエチレンオキサイド(分子量;約900,000、150,000、100,000及び30,000)(東ソー社製)及びポリエチレングリコール(分子量;約12,000、4,000及び1,000)(ポリマーラボラトリー社製)。
【0129】
<イミド化率の測定>
ポリイミド粉末20mgをNMRサンプル管(草野科学社製 NMRサンプリングチューブスタンダード φ5)に入れ、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6、0.05質量%テトラメチルシラン(TMS)混合品)1.0mLを添加し、超音波をかけて完全に溶解させた。この溶液をフーリエ変換型超伝導核磁気共鳴装置(FT-NMR)「AVANCE III」(BRUKER製)にて500MHzのプロトンNMRを測定した。
化学イミド化率は、イミド化前後で変化しない構造に由来するプロトンを基準プロトンとして決め、このプロトンのピーク積算値と、9.5~10.0ppm付近に現れるアミック酸のNH基に由来するプロトンピーク積算値とを用い以下の式によって求めた。なお、式中、xはアミック酸のNH基由来のプロトンピーク積算値であり、yは基準プロトンのピーク積算値であり、αはポリアミック酸(イミド化率が0%)の場合におけるアミック酸のNH基のプロトン1個に対する基準プロトンの個数割合である。
イミド化率(%)=(1-α・x/y)×100
【0130】
<<合成例 弱アンカリングIPS用添加剤の合成>>
下記合成例に記載の生成物は1H-NMR分析により同定した(分析条件は下記の通り)。
装置:フーリエ変換型超伝導核磁気共鳴装置(FT-NMR)「AVANCE III」(BRUKER製)500MHz。
溶媒:CDCl3(重水素化クロロホルム)又はDMSO-d6(重水素化ジメチルスルホキシド)。
基準物質:テトラメチルシラン(TMS)(δ0.0 ppm for 1H)。
【0131】
<合成例1 Add-1(1-phenylhexyl methacrylate)の合成>
【化42】
【0132】
撹拌子を備えた500mL4つ口フラスコに、1-phenyl-1-hexanol(25.0g:0.140mol)、TEA(21.3g:0.210mol)、及びCH2Cl2(300mL)を秤量し溶解させた。この溶液を氷浴にて0℃に冷却した後、methacryloyl chloride(16.1g:0.155mol)を、内温を5℃以下に保ちながら静かに滴下し、室温に戻し18時間撹拌した。HPLCにて反応の終了を確認した後、この反応溶液に酢酸エチル(200mL)を加え、分液ロートを用いて炭酸カリウム10%水溶液(100mL)で3回、及び純水(100mL)で3回洗浄した。洗浄後、硫酸マグネシウムで脱水し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去を行うことで粗物を得た。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル=8/2(容量比))にて行い、溶媒留去と真空乾燥を行うことによりAdd-1(29.3g:収率82%、無色透明液体)を得た。1H-NMR測定により目的物であることを確認した。重合禁止剤としてBHT(0.01mol%分)を添加して使用した。
1H-NMR(500MHz) in DMSO-d6:7.35-7.27(5H)、6.01(1H)、5.75-5.72(1H)、5.69(1H)、1.90-1.85(3H)、1.79-1.85(2H)、1.25-1.18(6H)、0.83-0.82(3H)[ppm]
【0133】
<合成例2 Add-2(1-phenylbutyl methacrylate)の合成>
【化43】
【0134】
撹拌子を備えた500mL4つ口フラスコに1-phenyl-1-butanol(25.0g:0.166mol)、TEA(25.3g:0.250mol)、及びCH2Cl2(300mL)を秤量し溶解させた。この溶液を氷浴にて0℃に冷却した後、methacryloyl chloride(20.8g:0.199mol)を、内温を5℃以下に保ちながら静かに滴下し、室温に戻し18時間撹拌した。HPLCにて反応の終了を確認した後、この反応溶液に酢酸エチル(200mL)を加え、分液ロートを用いて炭酸カリウム10%水溶液(100mL)で3回、及び純水(100mL)で3回洗浄した。洗浄後、硫酸マグネシウムで脱水し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去を行うことで粗物を得た。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル=8/2(容量比))にて行い、溶媒留去と真空乾燥を行うことによりAdd-2(31.2g:収率86%、無色透明液体)を得た。1H-NMR測定により目的物であることを確認した。重合禁止剤としてBHT(0.01mol%分)を添加して使用した。
1H-NMR(500MHz) in DMSO-d6:7.36-7.28(5H)、6.12(1H)、5.77-5.74(1H)、5.69(1H)、1.90-1.87(3H)、1.76-1.73(2H)、1.37-1.29(2H)、0.88-0.84(3H)[ppm]
【0135】
<合成例3 Add-3(1-phenylbutyl acrylate)の合成>
【化44】
【0136】
撹拌子を備えた500mL4つ口フラスコに1-phenyl-1-butanol(25.0g:0.166mol)、TEA(25.3g:0.250mol)、及びTHF(300mL)を秤量し溶解させた。この溶液を氷浴にて0℃に冷却した後、acryloyl chloride(16.6g:0.183mol)を、内温を5℃以下に保ちながら静かに滴下し、室温に戻し18時間撹拌した。HPLCにて反応の終了を確認した後、この反応溶液に酢酸エチル(200mL)を加え、分液ロートを用いて炭酸カリウム10%水溶液(100mL)で3回、及び純水(100mL)で3回洗浄した。洗浄後、硫酸マグネシウムで脱水し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去を行うことで粗物を得た。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル=8/2(容量比))にて行い、溶媒留去と真空乾燥を行うことによりAdd-3(26.8g:収率79%、無色透明液体)を得た。1H-NMR測定により目的物であることを確認した。重合禁止剤としてBHT(0.01mol%分)を添加して使用した。
1H-NMR(500MHz) in DMSO-d6:7.36-7.28(5H)、6.38-6.34(1H)、6.24-6.19(1H)、5.96-5.94(1H)、5.79-5.76(1H)、1.89-1.85(2H)、1.77-1.74(2H)、1.37-1.22(1H)、0.89-0.86(3H)[ppm]
【0137】
<合成例4 Add-4(2-methyl-1-phenylpropan-2-yl methacrylate)の合成>
【化45】
【0138】
撹拌子を備えた500mL4つ口フラスコに2-methyl-1-phenyl-2-propanol(25.0g:0.166mol)、TEA(33.7g:0.333mol)、DMAP(2.0g:0.017mol)、及びCHCl3(300mL)を秤量し溶解させた。この溶液を氷浴にて0℃に冷却した後、methacryloyl chloride(26.0g:0.249mol)を静かに滴下し、0℃で30分間撹拌した後、70℃で18時間反応させた。HPLCにて反応終了を確認した後、この反応溶液に酢酸エチル(200mL)を加え、析出してきた塩を濾過にて除去し、分液ロートを用いて炭酸カリウム10%水溶液(100mL)で3回、及び純水(100mL)で3回洗浄した。洗浄後、硫酸マグネシウムで脱水し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去を行うことで粗物を得た。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル=9/1(容量比))にて行い、溶媒留去と真空乾燥を行うことによりAdd-4(21.6g:収率87%、無色透明液体)を得た。1H-NMR測定により目的物であることを確認した。重合禁止剤としてBHT(0.01mol%分)を添加して使用した。
1H-NMR(500MHz) in CDCl3:7.32-7.22(5H)、6.02(1H)、5.50(1H)、3.12(2H)、1.92(3H)、1.52(6H)[ppm]
【0139】
<合成例5 Add-5(2-methyl-4-phenylpropan-2-yl methacrylate)の合成>
【化46】
【0140】
撹拌子を備えた500mL4つ口フラスコに2-methyl-4-phenyl-2-butanol(25.0g:0.152mol)、TEA(30.8g:0.304mol)、DMAP(1.8g:0.015mol)、及びCHCl3(300mL)を秤量し溶解させた。この溶液を氷浴にて0℃に冷却した後、methacryloyl chloride(23.8g:0.228mol)を静かに滴下し、0℃で30分間撹拌した後、70℃で18時間反応させた。HPLCにて反応終了を確認した後、この反応溶液に酢酸エチル(200mL)を加え、析出してきた塩を濾過にて除去し、分液ロートを用いて炭酸カリウム10%水溶液(100mL)で3回、及び純水(100mL)で3回洗浄した。洗浄後、硫酸マグネシウムで脱水し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去を行うことで粗物を得た。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル=9/1(容量比))にて行い、溶媒留去と真空乾燥を行うことによりAdd-5(29.0g:収率82%、無色透明液体)を得た。1H-NMR測定により目的物であることを確認した。重合禁止剤としてBHT(0.01mol%分)を添加して使用した。
1H-NMR(500MHz) in CDCl3:7.32-7.19(5H)、6.05(1H)、5.52(1H)、2.71-2.68(2H)、2.14-2.11(2H)、1.95(3H)、1.58(6H)[ppm]
【0141】
<合成例6 Add-6(3-ethyl-1-phenylpentan-3-yl methacrylate)の合成>
【化47】
【0142】
(第1工程)
撹拌子を備えた1L4つ口フラスコにmethyl 3-phenylpropanoate(25.0g:0.152mol)及びTHF(500mL)を秤量し溶解させた。この溶液を氷浴にて0℃に冷却した後、ethylmagnesium bromide(3.0mol/L EthylEther溶液、107mL:0.320mol)を静かに滴下し、0℃で30分間撹拌した後、室温で6時間反応させた。HPLCにて反応終了を確認した後、再び氷浴にて0℃に冷却し、内温が10℃以上にならないように塩化アンモニウム10%水溶液(200mL)を少しずつ加えクエンチを行った。
この反応溶液をしばらく放置し、析出物を沈降させた後、デカンテーションにて上澄みを回収し、残渣を酢酸エチルにて洗浄し、同様にデカンテーションを数回行った。回収した溶液を合わせて、分液ロートを用いて純水(200mL)で3回、及び飽和食塩水(200mL)で1回洗浄を行い、無水硫酸マグネシウムで脱水し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去を行うことで粗物を得た。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/n-ヘキサン=5/5(容量比))にて行い、溶媒留去と真空乾燥を行うことによりAdd-6a(27.2g:収率93%、無色透明液体)を得た。1H-NMR測定により目的物であることを確認した。
1H-NMR(500MHz) in CDCl3:7.29-7.16(5H)、2.65-2.61(2H)、1.74-1.70(2H)、1.56-1.52(4H)、1.15(1H)、0.95-0.89(6H)[ppm]
【0143】
(第2工程)
撹拌子を備えた500mL4つ口フラスコにAdd-6a(25.0g:0.130mol)、TEA(26.3g:0.260mol)、DMAP(11.6g:0.013mol)、及びCHCl3(300mL)を秤量し溶解させた。この溶液を氷浴にて0℃に冷却した後、methacryloyl chloride(20.9g:0.195mol)を静かに滴下し、0℃で30分間撹拌した後、70℃で18時間反応させた。HPLCにて反応終了を確認した後、この反応溶液に酢酸エチル(200mL)を加え、析出してきた塩を濾過にて除去し、分液ロートを用いて炭酸カリウム10%水溶液(100mL)で3回、及び純水(100mL)で3回洗浄した。洗浄後、硫酸マグネシウムで脱水し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去を行うことで粗物を得た。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル=9/1(容量比))にて行い、溶媒留去と真空乾燥を行うことによりAdd-6(28.4g:収率84%、無色透明液体)を得た。1H-NMR測定により目的物であることを確認した。重合禁止剤としてBHT(0.01mol%分)を添加して使用した。
1H-NMR(500MHz) in CDCl3:7.28-7.16(5H)、6.04(1H)、5.48(1H)、2.59-2.55(2H)、2.17-2.13(2H)、2.01-1.90(4H+3H)、0.90-0.87(6H)[ppm]
【0144】
<合成例7 Add-7(2-methyl-4-phenylbutan-2-yl acrylate)の合成>
【化48】
【0145】
撹拌子を備えた500mL4つ口フラスコに2-methyl-4-phenyl-2-butanol(25.0g:0.152mol)、TEA(23.1g:0.228mol)、及びTHF(300mL)を秤量し溶解させた。この溶液を氷浴にて0℃に冷却した後、acryloyl chloride(16.5g:0.182mol)を、内温を5℃以下に保ちながら静かに滴下し、室温に戻し18時間撹拌した。HPLCにて反応の終了を確認した後、この反応溶液に酢酸エチル(200mL)を加え、分液ロートを用いて炭酸カリウム10%水溶液(100mL)で3回、及び純水(100mL)で3回洗浄した。洗浄後、硫酸マグネシウムで脱水し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去を行うことで粗物を得た。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル=9/1(容量比))にて行い、溶媒留去と真空乾燥を行うことによりAdd-7(29.9g:収率90%、無色透明液体)を得た。1H-NMR測定により目的物であることを確認した。重合禁止剤としてBHT(0.01mol%分)を添加して使用した。
1H-NMR(500MHz) in DMSO-d6:7.29-7.15(5H)、6.27-6.23(1H)、6.11-6.06(1H)、5.86-5.84(1H)、2.62-2.58(2H)、2.07-2.03(2H)、1.49(6H)[ppm]
【0146】
<合成例8 Add-8(1-phenylhexan-3-yl methacrylate)の合成>
【化49】
【0147】
(第1工程)
撹拌子を備えた500mL4つ口フラスコにhydrocinnamaldehyde(25.0g:0.186mol)及びTHF(300mL)を秤量し溶解させた。この溶液をドライアイス-メタノールバスにて-78℃に冷却した後、n-propylmagnesium bromide(1.5mol/L THF溶液、186mL:0.279mol)を、内温が-70℃以上にならないように滴下し、滴下終了後室温に戻し18時間撹拌した。HPLCにて反応の終了を確認した後、この反応溶液を0℃に冷却し、1規定塩酸水溶液(100mL)を加えクエンチを行った。この反応溶液に酢酸エチル(200mL)を加え、分液ロートを用いて純水(100mL)で3回洗浄した。洗浄後、硫酸マグネシウムで脱水し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去を行うことで粗物を得た。さらに真空乾燥を行うことによりAdd-8a(30.0g:収率89%、無色透明液体)を得た。
【0148】
(第2工程)
撹拌子を備えた500mL4つ口フラスコにAdd-8a(30.0g:0.168mol)、TEA(25.5g:0.252mol)、及びTHF(300mL)を秤量し溶解させた。この溶液を氷浴にて0℃に冷却した後、methacryloyl chloride(21.1g:0.201mol)を、内温を5℃以下に保ちながら静かに滴下し、室温に戻し18時間撹拌した。HPLCにて反応の終了を確認した後、この反応溶液に酢酸エチル(200mL)を加え、分液ロートを用いて炭酸カリウム10%水溶液(100mL)で3回、及び純水(100mL)で3回洗浄した。洗浄後、硫酸マグネシウムで脱水し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去を行うことで粗物を得た。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル=9/1(容量比))にて行い、溶媒留去と真空乾燥を行うことによりAdd-8(35.6g:収率86%、無色透明液体)を得た。1H-NMR測定により目的物であることを確認した。重合禁止剤としてBHT(0.01mol%分)を添加して使用した。
1H-NMR(500MHz) in DMSO-d6: 7.28-7.15(5H)、6.02(1H)、5.64(1H)、4.90-4.88(1H)、2.62-2.55(2H)、1.90-1.85(2H+3H)、1.59-1.54(2H)、1.30-1.28(2H)、0.88-0.86(3H)[ppm]
【0149】
<合成例9 Add-9(5-phenylpentyl methacrylate)の合成>
【化50】
【0150】
撹拌子を備えた500mL4つ口フラスコに5-phenyl-1-pentanol(25.0g:0.152mol)、TEA(23.1g:0.228mol)、及びTHF(300mL)を秤量し溶解させた。この溶液を氷浴にて0℃に冷却した後、methacryloyl chloride(19.1g:0.182mol)を、内温を5℃以下に保ちながら静かに滴下し、室温に戻し18時間撹拌した。HPLCにて反応の終了を確認した後、この反応溶液に酢酸エチル(200mL)を加え、分液ロートを用いて炭酸カリウム10%水溶液(100mL)で3回、及び純水(100mL)で3回洗浄した。洗浄後、硫酸マグネシウムで脱水し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去を行うことで粗物を得た。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル=8/2(容量比))にて行い、溶媒留去と真空乾燥を行うことによりAdd-9(31.8g:収率90%、無色透明液体)を得た。1H-NMR測定により目的物であることを確認した。重合禁止剤としてBHT(0.01mol%分)を添加して使用した。
1H-NMR(500MHz) in DMSO-d6: 7.28-7.14(5H)、6.00(1H)、5.64(1H)、4.08(2H)、2.59-2.56(2H)、1.87(3H)、1.67-1.57(4H)、1.38-1.32(2H)[ppm]
【0151】
<合成例10 Add-11(3-methyl-1-phenylpentan-3-yl methacrylate)の合成>
【化51】
【0152】
撹拌子を備えた500mL4つ口フラスコに3-methyl-1-phenyl-3-pentanol(25.0g:0.140mol)、TEA(28.4g:0.280mol)、DMAP(1.4g:0.014mol)、及びCHCl3(300mL)を秤量し溶解させた。この溶液を氷浴にて0℃に冷却した後、methacryloyl chloride(22.0g:0.210mol)を静かに滴下し、0℃で30分間撹拌した後、70℃で18時間反応させた。HPLCにて反応終了を確認した後、この反応溶液に酢酸エチル(200mL)を加え、析出してきた塩を濾過にて除去し、分液ロートを用いて炭酸カリウム10%水溶液(100mL)で3回、及び純水(100mL)で3回洗浄した。洗浄後、硫酸マグネシウムで脱水し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去を行うことで粗物を得た。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル=9/1(容量比))にて行い、溶媒留去と真空乾燥を行うことによりAdd-11(26.6g:収率77%、無色透明液体)を得た。1H-NMR測定により目的物であることを確認した。重合禁止剤としてBHT(0.01mol%分)を添加して使用した。
1H-NMR(500MHz) in CDCl3:7.32-7.19(5H)
6.06(1H)、5.52(1H)、2.68-2.62(2H)
2.71-2.21(1H)、2.12-2.00(2H)、1.95(3H)
1.92-1.86(4H)、1.86(3H)、0.96-0.93(3H)[ppm]
【0153】
<合成例11 Add-12(N-(3-phenylpropyl)-N-propylacrylamide)の合成>
【化52】
【0154】
撹拌子を備えた500mL4つ口フラスコにN-(3-phenylpropyl)-N-propylamine(20.0g:0.113mol)、TEA(22.8g:0.226mol)、及びTHF(250mL)を秤量し溶解させた。この溶液を氷浴にて0℃に冷却した後、Acryloyl chloride(12.3g:0.136mol)を静かに滴下し、0℃で30分間撹拌した後、室温で18時間反応させた。HPLCにて反応終了を確認した後、この反応溶液に酢酸エチル(200mL)を加え、析出してきた塩を濾過にて除去し、分液ロートを用いて炭酸カリウム10%水溶液(100mL)で3回、及び純水(100mL)で3回洗浄した。洗浄後、硫酸マグネシウムで脱水し、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒留去を行うことで粗物を得た。精製はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン/酢酸エチル=9/1(容量比))にて行い、溶媒留去と真空乾燥を行うことによりAdd-12(18.2g:収率70%、無色透明液体)を得た。1H-NMR測定により目的物であることを確認した。重合禁止剤としてBHT(0.01mol%分)を添加して使用した。
1H-NMR(500MHz) in DMSO-d6: 7.27-7.18(5H)、6.74-6.66(1H)、6.15-6.10(1H)、5.65-5.62(1H)、3.39-3.20(4H)、2.55(2H)、1.80-1.78(2H)、1.49-1.48(2H)、0.89-0.78(3H)[ppm]
【0155】
<<ポリアミック酸・ポリイミドの合成>>
<合成例12>
メカニカルスターラー及び窒素導入管を備え付けた100mL四つ口フラスコに、DA-1(1.08g:10.00mmol)及びDA-3(3.30g:10.00mmol)を量り取り、NMP(24.9g)を加え、窒素雰囲気下で撹拌し溶解させた後、氷浴にて10℃以下を保ちながらTC-2(2.50g:10.00mmol)を加え、窒素雰囲気下50℃で6時間反応させた。室温に戻した後、TC-1(1.84g:9.40mmol)及びNMP(10.0g)を加え、室温で18時間反応させることにより、粘度が約1,120mPa・s、固形分濃度が20質量%のポリアミック酸溶液(PAA-1)を得た。このポリアミック酸の分子量は、数平均分子量:11,200、重量平均分子量:31,360であった。
撹拌子と窒素導入管を備え付けた300mLのナスフラスコに、上記で得られたポリアミック酸溶液(PAA-1)(40.0g)を量り取り、NMP(74.3g)を加え室温でしばらく撹拌した後、無水酢酸(5.61g:54.98mmol)及びピリジン(2.90g、36.65mmol)を加え、窒素雰囲気下室温で30分撹拌した後、窒素雰囲気下50℃で3時間反応させた。反応終了後、10℃以下に冷やしたメタノール(500mL)中に撹拌しながら反応溶液をゆっくり注ぎ固体を析出させ、10分間撹拌した。この沈殿物を濾過により分取し、再びメタノール(200mL)で30分間スラリー洗浄を計2回行い、固体を80℃で真空乾燥させることにより目的とするポリイミド粉末(SPI-1)(7.04g、収率88%)を得た。このポリイミドのイミド化率は57%、分子量は数平均分子量:10,400、重量平均分子量:29,120であった。
【0156】
<合成例13>
メカニカルスターラー及び窒素導入管を備え付けた100mL四つ口フラスコに、DA-2(3.42g:14.00mmol)及びDA-4(4.11g:6.00mmol)を量り取り、NMP(56.8g)を加え、窒素雰囲気下で撹拌し溶解させた後、氷浴にて10℃以下を保ちながらTC-3(4.26g:19.00mol)及びNMP(10.0g)を加え、室温で24時間反応させることにより、粘度が約680mPa・s、固形分濃度が15質量%のポリアミック酸溶液(PAA-2)を得た。このポリアミック酸の分子量は、数平均分子量:17,200、重量平均分子量:48,160であった。
【0157】
<合成例14>
メカニカルスターラー及び窒素導入管を備え付けた100mL四つ口フラスコに、DA-2(3.42g:14.00mmol)及びDA-5(1.55g:6.00mmol)を量り取り、NMP(42.0g)を加え、窒素雰囲気下で撹拌し溶解させた後、氷浴にて10℃以下を保ちながらTC-3(4.21g:18.8mmol)及びNMP(10.0g)を加え、室温で24時間反応させることにより、粘度が約710mPa・s、固形分濃度が15質量%のポリアミック酸溶液(PAA-3)を得た。このポリアミック酸の分子量は、数平均分子量:15,500、重量平均分子量:41,800であった。
【0158】
<<液晶配向剤の調製>>
<調製例1 ラジカル発生膜形成組成物AL-1の調製>
撹拌子を備えた50mL三角フラスコに、上記合成例12で得られたポリイミド粉末(SPI-1)を2.0g量り取り、NMP(18.0g)を加え室温で12時間撹拌して溶解させた。固体がすべて溶けたのを確認した後、NMP(8.0g)、BCS(12.0g)、及びAD-1(0.20g)を加え、室温で1時間撹拌することで、本発明で使用する液晶配向剤兼ラジカル発生膜形成組成物(AL-1)を得た。
【0159】
<調製例2 ラジカル発生膜形成組成物AL-2の調製>
撹拌子を備えた50mL三角フラスコに、上記合成例13で得られたポリアミック酸溶液(PAA-2)を15.0g量り取り、NMP(16.5g)及びBCS(13.5g)を加え、室温で1時間撹拌することで、本発明で使用する液晶配向剤兼ラジカル発生膜形成組成物(AL-2)を得た。
【0160】
<調製例3 液晶配向剤AL-3の調製>
撹拌子を備えた50mL三角フラスコに、上記合成例14で得られたポリアミック酸溶液(PAA-3)を15.0g量り取り、NMP(16.5g)及びBCS(13.5g)を加え、室温で1時間撹拌することで、本発明で使用する液晶配向剤(AL-3)を得た。
【0161】
<実施例1~24、比較例1~8>
<液晶表示素子の作成>
以下に、液晶配向性および電気光学応答を評価するための液晶セルの作製方法を示す。
初めに電極付きの基板を準備した。基板は、30mm×35mmの大きさで、厚さが0.7mmの無アルカリガラス基板である。基板上には電極幅が3μm、電極と電極の間隔が6μm、基板の長辺に対して10°の角度となるような櫛歯型パターンを備えたITO(Indium-Tin-Oxide)電極が形成され、画素を形成している。各画素のサイズは、縦10mmで横約5mmである。以後IPS基板と呼ぶ。
次に、上記の方法で得られたラジカル発生膜形成組成物AL-1、AL-2、及び液晶配向剤AL-3、並びに水平配向用の液晶配向剤であるSE-6414(日産化学社製)を孔径1.0μmのフィルターで濾過した後、準備された上記IPS基板と、裏面にITO膜が成膜されており、かつ高さ3.0μmの柱状のスペーサーを有するガラス基板(以後対向基板と呼ぶ)にスピンコート法にて塗布・成膜を行った。次いで、80℃のホットプレート上で80分乾燥後、230℃で20分焼成し、膜厚100nmの塗膜を得た。IPS基板側のポリイミド膜においては、櫛歯の方向に添う方向で配向処理を行い、対向基板側ポリイミド膜においては櫛歯電極と直交する方向に配向処理を行った。尚、配向処理においては、AL-1およびSE-6414においてはラビング法を用い、飯沼ゲージ社製ラビング装置、吉川化工社製ラビング布(YA-20R)、ラビングローラー(径10.0cm)、ステージ送り速度30mm/s、ローラー回転数700rpm、押し込み圧0.3mmにて行った。AL-2、AL-3においてはいずれもウシオ電機社製のUV露光装置を用い、消光比が約26:1の直線偏光UVを、254nmの波長を基準として照射量300mJ/cm2になるように偏光UVを照射し、230℃にて20分加熱することで行い配向処理を行った。
その後、上記2種類の基板を用いて、実施例の対象とする表示素子及び比較対象とする一部の表示素子(比較例2、3、4、6、7、8)に関してはIPS基板側にラジカル発生配向膜AL-1またはAL-2、対向基板側に液晶配向膜SE-6414またはAL-3を設けたもの同士の組み合わせにて作製したものを用い、比較対象とする一部の表示素子(比較例1及び比較例5)においては両方の基板にSE-6414またはAL-3を用いたものを使用した。それぞれの配向方向が平行になるように組み合わせ、液晶注入口を残して周囲をシールし、セルギャップが約3.0μmの空セルを作製した。この空セルに、上記合成例にて得られた(Add-1)~(Add-12)を2質量%添加した液晶混合物、および比較対象として無添加の液晶混合物または(Add-C1)~(Add-C3)を2質量%添加した液晶混合物を用い、それぞれ常温で真空注入した後、注入口を封止して、アンチパラレル配向の液晶セルとした。尚、使用した液晶混合物はLC-A(DIC社製、Δn:0.130、Δε:4.4)を用い、Add-10、Add-C1~Add-C3はそれぞれ東京化成から購入したものを使用した。
得られた液晶セルは、IPSモード液晶表示素子を構成する。その後、得られた液晶セルを120℃で10分加熱処理を行い、電圧を印加していない状態で東芝ライテック社製UV-FL照射装置を用いてUV(UVランプ:FLR40SUV32/A-1)を30分間照射して液晶表示素子を得た。
【0162】
<液晶配向性の評価>
偏光顕微鏡を用い、偏光版をクロスニコルに設定し、液晶セルの輝度が最も小さくなる状態で固定し、そこから1°液晶セルを回転させ、液晶の配向状態の観察を行った。ムラやドメイン等の配向不良が観察されない場合あるいは非常に軽微な場合は「良好」とし、明確に観察させた場合は「不良」と定義して評価を行った。
また、同偏光顕微鏡にフォトダイオードを取り付け、電流-電圧変換アンプを介してエレクトロメーターに接続し、クロスニコル下で輝度が最も小さくなる条件での電圧をモニターすることで黒輝度(V:a.u.)の測定を行った。
【0163】
<V-Tカーブの測定と駆動閾値電圧、最大輝度電圧、透過率評価>
光軸が合うように白色LEDバックライトと輝度計をセットし、その間に、輝度が最も小さくなるように偏光板を取り付けた液晶セル(液晶表示素子)をセットし、1V間隔で8Vまで電圧を印加し、電圧における輝度を測定することでV-Tカーブの測定を行った。得られたV-Tカーブから輝度が最大になる電圧(Vmax)の値を見積もった。また、電圧無印加の液晶セルを介して、パラレルニコル時の透過輝度を100%とし、V-Tカーブでの最大透過輝度を比較することにより最大透過率(Tmax)として見積もった。
【0164】
<応答時間(Ton、Toff)の測定>
上記V-Tカーブの測定で使用した装置を用い、輝度計をオシロスコープに接続し、最大輝度になる電圧を印加した際の応答速度(Ton)及び電圧を0Vに戻した際の応答速度(Toff)を測定した。
【0165】
<電圧保持率(VHR)の測定>
常温での電圧保持率の測定を行った。作成した液晶表示素子に、23℃の温度下で4Vの電圧を60μs間印加し、16.7ms後の電圧を測定することで、電圧がどのくらい保持できているかを電圧保持率として計算した。
また、高温での電圧保持率の測定を行った。作成した液晶表示素子に、70℃の温度下で1Vの電圧を60μs間印加し、1667ms後の電圧を測定することで、電圧がどのくらい保持できているかを電圧保持率として計算した。
なお、電圧保持率の測定には東陽テクニカ社製のVHR-1電圧保持率測定装置を使用した。
【0166】
<重合体の内容>
合成例11~合成例13で合成した重合体の組成を表1に示す。
【0167】
【0168】
<液晶配向剤またはラジカル発生膜形成組成物の内容>
調製例1~調製例3で調製した液晶配向剤またはラジカル発生膜形成組成物の組成を表2に示す。
【表2】
【0169】
<液晶セル内容(ラビング)>
ラビング法にて配向処理を行った液晶セルの実施例及び比較例の内容を表3に示す。
【0170】
【0171】
<特性評価結果>
ラビング法にて配向処理を行った液晶セルの特性評価結果を表4-1及び表4-2に示す。
【0172】
【0173】
【0174】
本発明のラジカル重合性化合物(Add-1)~(Add-12)を添加剤として用いた弱アンカリング液晶セルにおいて、配向状態及び黒輝度が良好で、Vmaxも比較例1の強アンカリング液晶セルと比べて大きく低下し、透過率が比較例1~3と比べて大きく向上していることが分かる。一方で、比較例2~3において、Add-C1又はAdd-C2を添加剤として使用した液晶表示素子はラビングの筋が多く確認され、黒輝度も悪く、複屈折が大きくなるような配向状態を示していた。また比較例2及び3は、比較例1の強アンカリング液晶セルと比べるとVmaxは低下しているが透過率は低下する挙動が確認された。これは弱アンカリング化に伴うプレチルト角の発生によるものであることが分かり、実施例1~12はプレチルト角がほぼ0°なのに対し、比較例2では約72°、比較例3では約83°と非常に大きなプレチルト角が発生していることがわかった。一方で応答速度に関しても実施例1~12の添加剤を用いたものは比較例1の強アンカリング液晶セルより応答速度は少し遅くなっているが、それでも許容の範囲であって早い応答速度を実現しており、比較例2、3よりも大きく改善していることが分かる。比較例4においては弱アンカリング特性が発現し、良好な配向状態を示したが、応答速度が遅く、VHRも悪い結果となっていた。上記実施例及び比較例において、LC-Aに代えて、液晶にメルク社製MLC-3019(Δn:0.104、Δε:9.9)を用いた場合は、比較例2~比較例3で使用したAdd-C1やAdd-C2を用いた場合においても良好な弱アンカリングIPS特性を得ることができるが、LC-AのようにΔnが大きな液晶やΔεが小さい液晶を使用すると良好な弱アンカリングIPSの特性が得られなくなる。これは、例えばセルギャップを狭くして(例えば、3.5μm以下にして)液晶表示素子を作製する場合には、比較例2~3で使用したような添加剤では対応ができないことを意味する。本発明の添加剤ではこのような大きなΔn及び小さなΔεの液晶を使用しても良好な弱アンカリングIPSの特性を得ることができ、セルギャップの狭小化による応答速度改善が可能になる。またVHRに関しても、特に高温下においては比較例1~4と比べても高く、本発明の添加剤を使用することで信頼性を改善することができることが分かった。
【0175】
<液晶セル内容(光配向)>
光配向法にて配向処理を行った液晶セルの実施例及び比較例の内容を表5に示す。
【0176】
【0177】
<特性評価結果>
光配向法にて配向処理を行った液晶セルの特性評価結果を表6に示す。
【0178】
【0179】
光配向法を用いて作製した弱アンカリングIPSにおいても、本発明のラジカル重合性化合物(Add-1)~(Add-12)を添加剤として用いた場合には、ラビング法を用いて作成した弱アンカリングIPSと同様の良好な特性が得られることを確認した。一方、比較例2~3で使用した(Add-C1)や(Add-C2)を用いるとドメインが発生し駆動出来ない状態になった。光配向の場合、ラビング法とは異なりプレチルト角の異方性が発現しないため、何等かの方法で比較的大きなプレチルト角が発生した場合、プレチルト角の方向が規定されずドメインとなってしまい、駆動しようとするとドメインの領域が電界によって拡大してしまうために駆動が出来なくなったと推測される。比較例8に関してはラビング法で作製したものと同様に応答速度とVHRが悪い結果となった。本発明の添加剤を用いると、光配向法を用いてもドメインは発生せず、良好な弱アンカリングIPS特性を得ることができるため、非常に有用であることが分かった。VHRに関してもラビング法同様に高温下でVHRが良好であることが分かり、本発明のラジカル重合性化合物を弱アンカリングIPSの添加剤として使用すると信頼性向上に効果があることが判明した。
【0180】
<調製例4 液晶配向剤AL-4の調製>
撹拌子を備えた50mL三角フラスコに、上記調製例2にて調製したラジカル発生膜形成組成物AL-2、及び上記調製例3にて調製した液晶配向剤AL-3をそれぞれ10.0gずつ量り取り、室温で1時間攪拌することで、ラジカル発生膜形成組成物(AL-4)を得た。
【0181】
<実施例25~36、比較例9、10>
実施例1において、IPS基板、及び対向基板に塗布する液晶配向剤又はラジカル発生膜形成組成物を、以下の表7に記載の液晶配向剤又はラジカル発生膜形成組成物に変更し、更に、液晶混合物の添加剤として、表7に記載の添加剤を用いた以外は、実施例1と同様にして、液晶セル、及び液晶表示素子を作成した。
【0182】
<液晶セル内容>
ラビング法にて配向処理を行った液晶セルの実施例及び比較例は、実施例25~28、及び比較例9である。
光配向法にて配向処理を行った液晶セルの実施例及び比較例は、実施例29~36、及び比較例10である。
【0183】
【0184】
<特性評価結果>
特性評価結果を表8に示す。
【表8】
【0185】
実施例25~36については対向基板上にラジカル発生膜形成組成物を塗布し、IPS基板に液晶配向膜を用いた液晶セルの内容である。実施例25~28はラビング法を用いて作製した液晶表示素子に関するものであり、実施例29~36は光配向法を用いて作製した液晶表示素子に関するものである。実施例29~36の内実施例33~36はラジカル発生膜形成組成物と強アンカリング液晶配向剤とを混合したAL-4を対向基板に用いた内容である。実施例25~36のいずれにおいても、IPS基板上にラジカル発生膜形成組成物を塗布したもの(例えば、実施例1、13など)と比べてややVmaxは高電圧化する傾向にあるが、比較例9及び10に示した従来の強アンカリング液晶セルよりは十分低くなっており、非常に高い透過率が得られた。応答速度に関しては前記実施例に示したIPS基板上にラジカル発生膜形成組成物を塗布したものと比べてTonとToffの差が小さくなっているのが分かる。加えてラジカル発生膜形成組成物と強アンカリング液晶配向剤とを混合したAL-4を用いることで高い透過率を維持した状態で早い応答速度が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明によれば、高Δn、低Δεの液晶を使用してもプレチルト角やドメインが発生せず、高いバックライト透過率、早い応答速度を実現できる横電界液晶表示素子を提供することができ、また良好な信頼性の液晶表示素子を得ることができる。よって本発明の方法で得られる液晶表示素子は、横電界駆動方式の液晶表示素子として有用である。
【符号の説明】
【0187】
1 横電界液晶表示素子
2 櫛歯電極基板
2a 基材
2b 線状電極
2c 液晶配向膜
2d 基材
2e 面電極
2f 絶縁膜
2g 線状電極
2h 液晶配向膜
3 液晶
4 対向基板
4a 液晶配向膜
4b 基材
L 電気力線