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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-07
(45)【発行日】2025-07-15
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/04 20060101AFI20250708BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20250708BHJP
【FI】
B01D63/04
B01D65/02 520
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021092594
(22)【出願日】2021-06-01
(65)【公開番号】P2022184640
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】松本 一樹
(72)【発明者】
【氏名】竹下 俊光
(72)【発明者】
【氏名】薮野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】村田 周和
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-217580(JP,A)
【文献】特開昭59-147603(JP,A)
【文献】特開平06-178917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 63/04
B01D 65/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材が内部に固定されるとともに内部空間を形成するハウジングと、
それぞれ複数の中空糸膜を有し、前記複数の中空糸膜の上端が前記固定部材に固定された状態で前記内部空間に配置される複数の中空糸膜束と、
前記内部空間に前記複数の中空糸膜束を洗浄するための気体を供給する気体供給部と、
前記複数の中空糸膜束のそれぞれに個別に設けられる抑制部材と、を備え、
前記抑制部材はそれぞれ、上端が前記固定部材から離間した状態で前記ハウジングの側面に固定されており、対応する中空糸膜束内において、前記気体供給部から前記内部空間内に供給された気体によって、前記複数の中空糸膜が揺動することを許容しつつ、前記複数の中空糸膜の下端が舞い上がることを抑制するように構成されている、中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記抑制部材はそれぞれ、複数の網目を有し、対応する中空糸膜束の側面を覆うように上下方向に延びる網状体によって構成されており、
前記抑制部材の下端はそれぞれ、対応する中空糸膜束内で揺動する前記複数の中空糸膜の下端が舞い上がることを抑制可能であるとともに、前記複数の中空糸膜の下端が前記網目に入り込むことを抑制可能な位置に位置している、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記抑制部材はそれぞれ、前記複数の中空糸膜束間に間隙が形成されるように中空糸膜束間を仕切る機能を有している、請求項1又は2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記気体供給部は、前記中空糸膜束の下側の位置に配置され、前記中空糸膜束の径方向に広がった形状を有し、前記径方向に間隔を空けて複数の散気用通気孔が形成された散気部材を含み、
前記散気部材は、
前記中空糸膜束の径方向に広がった形状を有し、前記散気用通気孔が前記径方向に間隔を空けて複数形成された板状の本体部と、
一方端が前記本体部の下面に接続されると共に他方端側に気体の受け口が形成された筒形状を有し、前記筒内に収容された気体を前記散気用通気孔へ導くための分散孔が形成された気体受け部と、を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記気体受け部は、前記一方端から前記他方端に向かって内径が広がる形状を有する、請求項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記散気用通気孔は、前記本体部において前記径方向に間隔を空けた複数の円周上に配置され、
前記各円周上における前記散気用通気孔の数は、前記中空糸膜束の個数の倍数であることを満たす、請求項4又は5に記載の中空糸膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の中空糸膜を備えた中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中の不純物を除去する水処理において、束状の複数の中空糸膜を有する中空糸膜モジュールが用いられている。水処理の濾過工程では、中空糸膜モジュールに設けられた原水入口を通じて原水(濾過前の水)がモジュール内に供給され、膜を通過した濾過水がモジュールに設けられた濾過水出口を通じてモジュール外に排出される。
【0003】
中空糸膜モジュールでは、水処理の濾過工程が行われると、水中から除去された物質(浮遊汚濁物質(SS:Suspended Solids))が膜表面に堆積する。このように、膜表面に堆積した浮遊汚濁物質を効率的に除去することは重要な課題の一つである。
【0004】
一般に、浮遊汚濁物質の除去は、いわゆる逆洗(逆圧洗浄)によって行われる。逆洗工程では、膜表面に付着した浮遊汚濁物質を膜から浮かせるために、濾過工程とは逆方向の流体の流れがモジュール内に形成される。すなわち、濾過水出口を通じて気体や液体などの流体がモジュール内に供給され、膜を内側から外側に通過した流体が原水入口を通じてモジュール外に排出される。
【0005】
このように、逆洗工程が行われることによって膜表面から部分的に浮いた状態となった浮遊汚濁物質は、その後、バブリング工程が行われることによって膜表面から剥がれ落とされる。このバブリング工程では、モジュール内に水が充填された状態で洗浄用気体が供給され、供給された洗浄用気体の気泡によって膜が揺らされることで、膜表面の浮遊汚濁物質が剥がれ落ちる。
【0006】
バブリング工程において、膜表面に堆積した浮遊汚濁物質をより効果的に除去するためには、中空糸膜を強く揺動させることが必要となる。一方で、過剰な揺動が生じてしまうと、中空糸膜同士の接触による擦過、中空糸膜における固定部付近での折れ、中空糸膜同士の絡みなどが生じ、安定運転が困難になる。下記特許文献1には、バブリング工程において中空糸膜を適度に揺動させるための構成を備えた中空糸膜モジュールが開示されている。
【0007】
下記特許文献1の中空糸膜モジュールでは、複数の中空糸膜が上端において束状に固定された中空糸膜束の全体を覆うようにネット状物が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平9-262441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1では、中空糸膜モジュールを構成する全ての中空糸膜が1つの中空糸膜束として束ねられており、この1つの中空糸膜束の全体がネット状物で覆われている。この場合、バブリング工程において全ての中空糸膜の揺動が同一のネット状物によって規制されるため、膜表面に付着した浮遊汚濁物質を効果的に除去することができない。また、中空糸膜束の全体をネット状物で覆う構造では、バブリング工程において揺動することによって中空糸膜の下端がネット状物の網目に入り込んでしまう虞がある。この場合、中空糸膜がネット状物と絡み合ってしまい、中空糸膜が損傷するなどの問題が生じてしまう。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、バブリング工程において中空糸膜の膜表面に付着した浮遊汚濁物質を効果的に除去しつつ、中空糸膜の絡みや損傷などを抑制可能な中空糸膜モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一局面に係る中空糸膜モジュールは、固定部材が内部に固定されるとともに内部空間を形成するハウジングと、それぞれ複数の中空糸膜を有し、前記複数の中空糸膜の上端が前記固定部材に固定された状態で前記内部空間に配置される複数の中空糸膜束と、前記内部空間に前記複数の中空糸膜束を洗浄するための気体を供給する気体供給部と、前記複数の中空糸膜束のそれぞれに個別に設けられる抑制部材と、を備える。前記抑制部材はそれぞれ、上端が前記固定部材から離間した状態で前記ハウジングの側面に固定されており、対応する中空糸膜束内において、前記気体供給部から前記内部空間内に供給された気体によって、前記複数の中空糸膜が揺動することを許容しつつ、前記複数の中空糸膜の下端が舞い上がることを抑制するように構成されている。
【0012】
この中空糸膜モジュールによれば、中空糸膜モジュールを構成する中空糸膜は上端が固定部材に固定された状態で複数の中空糸膜束に分けられており、それら複数の中空糸膜束のそれぞれに個別に抑制部材が設けられている。これにより、各中空糸膜束は、抑制部材によって互いに独立した状態となる。このため、気体供給部による洗浄用気体の供給に応じたバブリング工程においては、互いに独立した状態の中空糸膜束内で複数の中空糸膜が揺動する。これにより、膜表面に付着した浮遊汚濁物質が剥がれ落とされるが、この際、抑制部材によって各中空糸膜束が互いに独立した状態となっているため、各中空糸膜束内で複数の中空糸膜の膜表面から剥がれ落とされた浮遊汚濁物質を、中空糸膜束間を通して排出することができる。これにより、各中空糸膜束内において中空糸膜の膜表面に付着した浮遊汚濁物質を効果的に除去することができる。しかも、抑制部材によって各中空糸膜束が互いに独立した状態となることにより、互いに異なる中空糸膜束に属する中空糸膜同士の干渉が抑制される。これにより、中空糸膜束間において中空糸膜同士が絡み合うことを抑制することができるとともに、それに伴う中空糸膜の損傷を抑制することができる。
【0013】
また、各中空糸膜束を独立した状態とする抑制部材は、中空糸膜束内において、複数の中空糸膜が揺動することを許容しつつ、複数の中空糸膜の下端が舞い上がることを抑制するように構成されている。このように、抑制部材が中空糸膜束内における複数の中空糸膜の下端の舞い上がりを抑制することにより、中空糸膜束内における複数の中空糸膜の過剰な動きが制限される。このため、同一の中空糸膜束に属する中空糸膜同士が絡み合うなどの中空糸膜相互の過干渉を抑制することができるとともに、それに伴う中空糸膜の損傷を抑制することができる。
【0014】
上記の中空糸膜モジュールにおいて、前記抑制部材はそれぞれ、複数の網目を有し、対応する中空糸膜束の側面を覆うように上下方向に延びる網状体によって構成されていてもよい。この場合、前記抑制部材の下端はそれぞれ、対応する中空糸膜束内で揺動する前記複数の中空糸膜の下端が舞い上がることを抑制可能であるとともに、前記複数の中空糸膜の下端が前記網目に入り込むことを抑制可能な位置に位置している。
【0015】
この態様では、中空糸膜束の側面を覆う網状体によって構成される抑制部材の下端は、中空糸膜束内で揺動する複数の中空糸膜の下端が舞い上がることを抑制可能であるとともに、複数の中空糸膜の下端が網目に入り込むことを抑制可能な位置に位置している。抑制部材が中空糸膜束内における複数の中空糸膜の下端の舞い上がりを抑制することによって、中空糸膜束内において中空糸膜同士が絡み合うことを抑制することができる。更に、中空糸膜の下端が抑制部材の網目に入り込むことを抑制可能なように抑制部材の下端の位置を設定することにより、中空糸膜が抑制部材と絡み合うことを規制することができる。これにより、中空糸膜に損傷が生じることを抑制することができる。
【0016】
上記の中空糸膜モジュールにおいて、前記抑制部材の上端はそれぞれ、前記固定部材に固定されており、前記抑制部材の上下方向の長さはそれぞれ、下記式(1)を満たすように設定される構成であってもよい。
0.7≦L1/L2≦1.0 ・・・(1)
【0017】
上記式(1)中、「L1」は抑制部材の上下方向の長さを示し、「L2」は中空糸膜の有効長を示す。
【0018】
この態様では、中空糸膜束の側面を覆う網状体によって構成される抑制部材の上下方向の長さは、上記式(1)を満たすように設定される。抑制部材の長さが上記式(1)の左辺「0.7≦L1/L2」を満たすように設定されることにより、抑制部材の下端を、複数の中空糸膜の下端が舞い上がることを抑制可能な位置に位置させることができる。一方、抑制部材の長さが上記式(1)の右辺「L1/L2≦1.0」を満たすように設定されることにより、抑制部材の下端を、複数の中空糸膜の下端が抑制部材の網目に入り込むことを抑制可能な位置に位置させることができる。
【0019】
上記の中空糸膜モジュールにおいて、前記抑制部材はそれぞれ、前記複数の中空糸膜束間に間隙が形成されるように中空糸膜束間を仕切る機能を有している構成であってもよい。
【0020】
この態様では、抑制部材によって各中空糸膜束間に間隙が形成されるので、バブリング工程における各中空糸膜束内での複数の中空糸膜の揺動に応じて剥がれ落とされた浮遊汚濁物質を、各中空糸膜束間の間隙を通して排出することができる。これにより、中空糸膜の膜表面に付着した浮遊汚濁物質の除去効果をより高めることができる。
【0021】
上記の中空糸膜モジュールにおいて、前記気体供給部は、前記中空糸膜束の下側の位置に配置され、前記中空糸膜束の径方向に広がった形状を有し、前記径方向に間隔を空けて複数の散気用通気孔が形成された散気部材を含む構成であってもよい。この場合、前記散気部材は、前記中空糸膜束の径方向に広がった形状を有し、前記散気用通気孔が前記径方向に間隔を空けて複数形成された板状の本体部と、一方端が前記本体部の下面に接続されると共に他方端側に気体の受け口が形成された筒形状を有し、前記筒内に収容された気体を前記散気用通気孔へ導くための分散孔が形成された気体受け部と、を含む。
【0022】
また、上記の中空糸膜モジュールにおいて、前記気体受け部は、前記一方端から前記他方端に向かって内径が広がる形状を有する構成であってもよい。
【0023】
また、上記の中空糸膜モジュールにおいて、前記散気用通気孔は、前記本体部において前記径方向に間隔を空けた複数の円周上に配置され、前記各円周上における前記散気用通気孔の数は、前記中空糸膜束の個数の倍数であることを満たす構成であってもよい。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、バブリング工程において中空糸膜の膜表面に付着した浮遊汚濁物質を効果的に除去しつつ、中空糸膜の絡みや損傷などを抑制可能な中空糸膜モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る濾過装置の構成を示す模式図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る中空糸膜モジュールの構成を示す図である。
図3】中空糸膜モジュールに備えられた散気部材の平面構造を示す図である。
図4図3中の線分IV-IVに沿った散気部材の断面構造を示す図である。
図5図2中の線分V-Vに沿った導水管の断面構造を示す図である。
図6図2中の領域VIにおける導水管の拡大図である。
図7】中空糸膜モジュールにおける中空糸膜束ごとに抑制部材が設けられた状態を示す斜視図である。
図8】中空糸膜モジュールにおける中空糸膜束ごとに抑制部材が設けられた状態を上方から見た図である。
図9】濾過装置の基本的な運転プログラムを示す図である。
図10】本発明の第2実施形態に係る中空糸膜モジュールにおける中空糸膜束ごとに抑制部材が設けられた状態を示す斜視図である。
図11】本発明の第3実施形態に係る中空糸膜モジュールにおける中空糸膜束ごとに抑制部材が設けられた状態を示す斜視図である。
図12】本発明の第4実施形態に係る中空糸膜モジュールにおける中空糸膜束ごとに抑制部材が設けられた状態を示す斜視図である。
図13】本発明の第5実施形態に係る中空糸膜モジュールにおける中空糸膜束ごとに抑制部材が設けられた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
(第1実施形態)
[濾過装置、中空糸膜モジュール]
まず、本発明の第1実施形態に係る中空糸膜モジュール10を備えた濾過装置1の構成について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、濾過装置1の構成を示す概略図である。図2は、中空糸膜モジュール10の構成を示す概略図である。
【0028】
濾過装置1は、外圧濾過式の中空糸膜モジュール10と、送液ポンプ20と、エアーコンプレッサー30と、これらを接続する配管及び当該配管に設けられた開閉バルブと、制御装置40と、を有する。中空糸膜モジュール10は、中空糸膜の外表面側に原液を供給し、内表面側から濾液を取り出す外圧濾過式のモジュールである。
【0029】
図2に示すように、中空糸膜モジュール10は、固定部材3が内部に固定されるとともに内部空間S1を形成するハウジング13と、前記内部空間S1に配置される複数の中空糸膜束15と、前記内部空間S1に原水を導入するための導水管(管部材)5と、前記内部空間S1に複数の中空糸膜束15を洗浄するための気体(洗浄用気体)を供給する気体供給部2と、複数の中空糸膜束15のそれぞれに個別に設けられる抑制部材100と、を備える。
【0030】
複数の中空糸膜束15はそれぞれ、複数の中空糸膜14を有し、当該複数の中空糸膜14の上端14Bが開口した状態で固定部材3に固定され、複数の中空糸膜14の下端14Aが1本ずつ固定されない状態で封止された片端フリータイプである。固定部材3は、複数の中空糸膜14の上端14Bを中空糸膜束15ごとに収束固定する。固定部材3は、中空糸膜14を濾過膜として機能させるため、ハウジング13内の空間を原水側の内部空間S1と濾液側の空間S2とに液密に仕切る。固定部材3には、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂が使用される。各中空糸膜束15と固定部材3との接着方法としては、遠心接着法、静置接着法などがある。
【0031】
中空糸膜14の素材としては、種々の材料を用いることができ、特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール及びポリエーテルスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種類を含んでいるのが好ましく、膜強度や耐薬品性の観点でポリフッ化ビニリデン(PVDF)がより好ましい。
【0032】
中空糸膜モジュール10は、外圧濾過式のものであり、膜分離処理の条件や要求される性能に応じて外圧全量濾過式又は外圧循環濾過式であってもよい。膜寿命の点では、濾過膜の表面洗浄を同時に行うことができる外圧循環濾過式が好ましく、設備の単純さ、設置コスト、運転コストの点では外圧全量濾過式が好ましい。
【0033】
中空糸膜モジュール10は、各中空糸膜束15を構成する中空糸膜14の本数の合計本数が多くなるに従いモジュール当たりの膜面積が高くなるため、濾過流量を高くして運転することができるが、一方で洗浄時における浮遊汚濁物質の排出効率が低下する。そのため、中空糸膜14の外径di(m)、中空糸膜14の合計本数n(本)及びハウジング13の断面積S(m)により計算される膜充填率100πndi/4S(%)が10~60%であることが好ましく、20~50%であることがより好ましい。
【0034】
ハウジング13は、上面13A及び下面13Cと、これらを接続する側面13Bと、を有する筒形状からなる。ハウジング13は複数の中空糸膜束15が収容される内部空間S1を有し、当該内部空間S1は中空糸膜14の長手方向(上下方向)の中央よりも上側部分が位置する上部空間S11と、中空糸膜14の長手方向の中央よりも下側部分が位置する下部空間S12と、に分けられる。
【0035】
ハウジング13の上面13Aには、濾液を取り出すための濾液配管51が接続され、当該濾液配管51には濾液出口52及び濾液側気体入口53が設けられている。側面13Bにおいて固定部材3の直下には、内部空間S1内の気体を系外に排出するための気体抜き口11が設けられている。気体抜き口11は、上部空間S11の開口部である。側面13Bにおいて下面13Cの真上には、内部空間S1内の液体を系外に排出するためのドレン抜き口12が設けられている。下面13Cの中央近傍には、内部空間S1内に気体を供給するための散気用気体入口7が設けられている。
【0036】
図1に示すように、気体抜き口11には気体抜き配管61が接続され、これを介してハウジング13内の気体が系外に排出される。気体抜き配管61には気体排出口バルブ62が設けられ、これを開くことでハウジング13内から気体が抜かれる。また、ドレン抜き口12にはドレン配管41が接続され、これを介してハウジング13内の液体が系外に排出される。ドレン配管41には原液排出口バルブ42が設けられ、これを開くことでハウジング13から液体が排出される。
【0037】
ハウジング13の材質としては、SUS、変性PPE、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ABS樹脂などが用いられる。ハウジング13の内面に固定部材3が接着固定されることにより、いわゆる一体型モジュールが構成されていてもよい。また、固定部材3の外周部にO-リングやパッキングなどが取り付けられ、固定部材3がハウジング13に対して着脱可能かつ液密に装着されていてもよい。この場合、固定部材3を取り外して各中空糸膜束15を交換し、ハウジング13を繰り返し使用することができる。
【0038】
図2に示すように、導水管5は、ハウジング13の下面13C中央を貫通すると共に上面13Aに向かって延びる姿勢で配置され、上端が固定部材3に接続されている。導水管5は、下端側に原液入口9が設けられ、かつ側面に導水管用気体入口8が設けられている。導水管5によれば、原液入口9から導入された濾過前の原水のみをハウジング13内に供給することができ、また導水管用気体入口8から導入された気体のみをハウジング13内に供給することができ、また原水及び気体の両方をハウジング13内に供給することができる。導水管5は、気体供給部2の一部を構成する。
【0039】
気体供給部2は、上記の導水管5と、散気部材4とを有する。散気部材4は、ハウジング13の下面13Cに設けられた散気用気体入口7からハウジング13内に供給された気体を、各中空糸膜束15の径方向に広がるように分散させるための部材である。散気部材4は、複数の中空糸膜束15よりも下側の位置に配置されており、中央部に導水管5が貫通している。導水管5及び散気部材4の詳細な構造については後述する。
【0040】
抑制部材100は、複数の中空糸膜束15のそれぞれに個別に設けられる。抑制部材100はそれぞれ、気体供給部2によりハウジング13の内部空間S1に気体が供給されている状態において、対応する中空糸膜束15内での複数の中空糸膜14の動きを制御する部材である。抑制部材100の詳細な構造については後述する。
【0041】
図1に示すように、送液ポンプ20は、原液導入配管21を介して導水管5の原液入口9に接続されている。原液導入配管21には、配管内における原水の流通及び遮断を切り替える原液導入バルブ22が設けられている。送液ポンプ20は、原液導入配管21を介して導水管5内に原水を供給する。
【0042】
エアーコンプレッサー30は、第1気体導入配管31を介して濾液側気体入口53に接続され、第2気体導入配管32を介して散気用気体入口7に接続され、第3気体導入配管33を介して導水管用気体入口8に接続されている。第1気体導入配管31には配管内における気体の流通及び遮断を切り替える第1気体導入バルブ34が設けられ、第2及び第3気体導入配管32,33にも同様に第2及び第3気体導入バルブ35,36が設けられている。このように、本実施形態では、導水管5に対する気体供給手段としての第3気体導入配管33及び第3気体導入バルブ36と、散気部材4に対する気体供給手段としての第2気体導入配管32及び第2気体導入バルブ35と、が別々に設けられている。
【0043】
制御装置40は、送液ポンプ20及びエアーコンプレッサー30の駆動を制御し、かつ各バルブの開閉動作を制御する。制御装置40は、例えばパーソナルコンピュータなどによって構成されている。制御装置40は、濾過プロセスにおいて順次実行される各工程(充水、濾過、逆洗、バブリング、排水など)のシーケンス情報が格納された記憶部と、当該シーケンス情報に従って各装置の駆動及びバルブの開閉を制御する制御部と、を有する。
【0044】
[散気部材、導水管]
次に、散気部材4及び導水管5の詳細な構造について、図2図5を参照して説明する。図3は、散気部材4の平面構造を示している。図4は、図3中の線分IV-IVに沿った散気部材4の断面構造を示している。図5は、図2中の線分V-Vに沿った導水管5の断面構造を示している。中空糸膜モジュール10では、ハウジング13の内部空間S1に中空糸膜14の洗浄用の気体(例えば空気)を分散させながら供給する気体供給部2が、散気部材4と導水管5とを有している。
【0045】
散気部材4は、各中空糸膜束15を構成する中空糸膜14の下端14Aよりも下側に配置されている。散気部材4は、各中空糸膜束15の径方向に広がった形状を有している。散気部材4には、ハウジング13内に気体を分散させるための複数の散気用通気孔43が径方向に間隔を空けて形成されている。
【0046】
散気部材4は、複数の散気用通気孔43が形成された円板状の本体部44と、本体部44の周縁部に接続された周壁部47と、本体部44の下面に接続された円筒状の気体受け部45と、を有し、これらが一体に形成されている。
【0047】
散気用通気孔43は、本体部44を厚み方向に貫通するように形成されている。散気用通気孔43は、本体部44の径方向及び周方向に互いに間隔を空けて形成されており、その一部は各中空糸膜束15よりも径方向外側に位置している。これにより、各中空糸膜束15に対して径方向に広い範囲で気体を分散させることができる。なお、図3に示すように、散気用通気孔43は、本体部44において径方向に間隔を空けた複数の円周上に配置されている。この場合、各円周上における散気用通気孔43の数は、中空糸膜束15の個数の倍数であることを満たすように設定されている。具体的には、各円周上における散気用通気孔43の数は、各中空糸膜束15に対応した散気用通気孔43の数が同じとなるように、中空糸膜束15の個数の倍数であることを満たすように設定されている。また本体部44には、導水管5が貫通する貫通孔44Aが中央に形成されている。なお、本体部44は、図3に示すような円板状のものに限定されず、種々の形状のものであってもよい。
【0048】
気体受け部45は、散気用気体入口7からハウジング13内に供給された気体を一時的に収容するための部分である。気体受け部45は、筒形状を有し、上端(一方端)が本体部44の下面に接続されると共に、下端(他方端)側に気体の受け口45Aが形成されている。本実施形態では、気体受け部45は、上端から下端に向かって内径が略一定となるように構成されている。なお、気体受け部45は、上端から下端に向かって内径が広がる形状を有するように構成されていてもよい。気体受け部45は、導水管5の外径よりも内径が大きく、導水管5の外周面との間の隙間において気体を収容する。
【0049】
気体受け部45は、散気用気体入口7よりも径方向外側に位置し、これにより散気用気体入口7からハウジング13内に供給された気体を筒内に収容することができる。また図2に示すように、気体受け部45の下端とハウジング13の下壁との間には隙間が形成されており、ハウジング13内の液体が当該隙間を流通することができる。これにより、ハウジング13の下部における液溜まりを防ぐことができる。
【0050】
気体受け部45の上端側の部位には、複数の分散孔46が周方向に間隔を空けて形成されている。分散孔46は、気体受け部45を貫通するように形成されている。分散孔46により、気体受け部45に収容された気体を当該気体受け部45よりも径方向外側へ逃がし、散気用通気孔43へ導くことができる。分散孔46は、周方向に等間隔で形成されていてもよいし、異なる間隔で形成されていてもよい。
【0051】
周壁部47は、本体部44の周縁部から下方に延びる筒形状を有する。周壁部47により、分散孔46から気体受け部45の外側に放出された気体が、本体部44よりも外側に広がることを抑制できる。これにより、散気用通気孔43から気体が分散される前において、本体部44の下面に気体を留めることができる。
【0052】
散気部材4によれば、バブリング工程において、散気用気体入口7からハウジング13内に供給された気体を気体受け部45により一時的に収容した後、分散孔46から外側へ逃がし、その後散気用通気孔43から下部空間S12に分散させることができる。つまり、本実施形態では、散気用通気孔43が、下部空間S12よりも下側の位置でハウジング13内に気体を分散させる下側気体供給部として機能する。
【0053】
導水管5は、ハウジング13の中心を上下方向に延びるように配置されている。導水管5は、円筒形状からなるが、特に限定されない。導水管5は、図2に示すように、散気部材4(本体部44)を貫通し、下端が任意のシール部材(図示しない)を介して原液導入配管21(図1)に固定されている。また導水管5の固定方法はこれに限られず、本体部44の上面よりも上方に突出する別配管が設けられ、当該突出部分が導水管5の内側に位置するように導水管5が本体部44の上面に載せられてもよい。
【0054】
導水管5において本体部44の上面よりも上側に突出した部位には、長手方向(上下方向)全体に亘って複数の管用通気孔54が間隔を空けて形成されている。より具体的には、導水管5において上部空間S11に位置する部位に複数の管用通気孔54が互いに間隔を空けて形成され、下部空間S12に位置する部位にも複数の管用通気孔54が互いに間隔を空けて形成されている。これらの管用通気孔54によって、バブリング用の気体(洗浄用気体)をハウジング13内に供給することができ、また中空糸膜14により濾過される原水をハウジング13内に供給することができる。なお、管用通気孔54は、長手方向に等間隔で形成されていてもよいし、異なる間隔で形成されていてもよい。また管用通気孔54は、円形状からなるが、特に限定されない。
【0055】
複数の管用通気孔54は、導水管5の長手方向においてそれぞれ同じ大きさで形成されている。管用通気孔54の内径は、バブリングの効果を高めるために30mm以下に設計されることが好ましい。また管用通気孔54の内径は、通水時の圧力損失を小さくするため、各孔からの原水の吐出流速の合計が4m/s以下となるように設計されることが好ましく、3m/s以下となるように設計されることがより好ましい。
【0056】
図2に示すように、導水管5の最上部に形成された管用通気孔54Aは気体抜き口11の下面11Aよりも上側に位置しており、上から2番目の管用通気孔54Bは当該下面11Aよりも下側に位置している。つまり、導水管5には、気体抜き口11の下面11Aを上下方向に挟む位置に管用通気孔54A,54Bが形成されている。
【0057】
図5に示すように、管用通気孔54は、導水管5の周方向において等間隔に4つ形成されている。本実施形態では、上部空間S11に位置する部位及び下部空間S12に位置する部位のいずれにおいても管用通気孔54が90°間隔で4つ形成されているが、その数や周方向の間隔は特に限定されない。また、上部空間S11に位置する部位と下部空間S12に位置する部位とで管用通気孔54の数や周方向の間隔が互いに異なっていてもよい。
【0058】
図6は、図2中の領域VIにおける導水管5の拡大図である。導水管5における管用通気孔54の開孔率は、以下のように定義できる。図6の斜線部に示すように、最上部の管用通気孔54Aの中間高さ位置からその下の管用通気孔54Bの中間高さ位置までの範囲における導水管5の外周面の面積をS1とし、当該範囲の外周面に形成された全ての管用通気孔54A,54Bの合計の開孔面積をS2としたときに、管用通気孔の開孔率は、S2/S1×100、として定義できる。本実施形態では、当該開孔率が1%以上20%以下に設計されることが好ましい。
【0059】
導水管5によれば、管用通気孔54からハウジング13内に原水を供給できると共に、導水管用気体入口8から導入された気体を浮力により上昇させ、上部空間S11に位置する管用通気孔54A,54Bからハウジング13内に分散させることができる。つまり、本実施形態では、管用通気孔54A,54Bが、当該上部空間S11の位置でハウジング13内に気体を分散させる上側気体供給部として機能する。
【0060】
ハウジング13内に挿入された導水管5の長さは、中空糸膜モジュール10を嵩張らせないようにするため、中空糸膜14の長さの1~2倍であることが好ましく、1~1.5倍であることがより好ましい。
【0061】
導水管5の内径は、通水時の圧力損失を小さくするため、通水時の流束が4m/s以下となるように設計されることが好ましく、3m/s以下となるように設計されることがより好ましい。
【0062】
[抑制部材]
次に、抑制部材100の詳細な構造について、図2に加えて図7及び図8を参照して説明する。本実施形態に係る中空糸膜モジュール10では、中空糸膜モジュール10を構成する中空糸膜14は上端14Bが固定部材3に固定された状態で複数の中空糸膜束15に分けられている。複数の中空糸膜束15は、導水管5を取り囲むように周方向に互いに等間隔を空けてハウジング13の内部空間S1に配置されている。図8に示す例では、6つの中空糸膜束15が導水管5を取り囲むように配置されているが、中空糸膜束15の配置数は2以上の複数であれば特に限定されない。
【0063】
抑制部材100は、複数の中空糸膜束15のそれぞれに個別に設けられている。これにより、各中空糸膜束15は、抑制部材100によって互いに独立した状態となる。このため、気体供給部2によりハウジング13の内部空間S1に洗浄用の気体が供給されるバブリング工程においては、互いに独立した状態の中空糸膜束15内で複数の中空糸膜14が揺動する。
【0064】
各中空糸膜束15内において複数の中空糸膜14が揺動することにより膜表面に付着した浮遊汚濁物質が剥がれ落とされるが、この際、抑制部材100によって各中空糸膜束15が互いに独立した状態となっているため、各中空糸膜束15内で複数の中空糸膜14の膜表面から剥がれ落とされた浮遊汚濁物質を、中空糸膜束15間を通して排出することができる。これにより、各中空糸膜束15内において中空糸膜14の膜表面に付着した浮遊汚濁物質を効果的に除去することができる。しかも、抑制部材100によって各中空糸膜束15が互いに独立した状態となることにより、互いに異なる中空糸膜束15に属する中空糸膜14同士の干渉が抑制される。これにより、中空糸膜束15間において中空糸膜14同士が絡み合うことを抑制することができるとともに、それに伴う中空糸膜14の損傷を抑制することができる。
【0065】
また、各中空糸膜束15を独立した状態とする抑制部材100は、中空糸膜束15内において、複数の中空糸膜14が揺動することを許容しつつ、複数の中空糸膜14の下端14Aが舞い上がることを抑制するように構成されている。つまり、中空糸膜14の下端14Aが抑制部材100の下端100Aよりも上方側に位置する程度に中空糸膜14が曲がることが抑制される。抑制部材100が中空糸膜束15内における複数の中空糸膜14の下端14Aの舞い上がりを抑制することにより、中空糸膜束15内における複数の中空糸膜14の過剰な動きが制限される。このため、同一の中空糸膜束15に属する中空糸膜14同士が絡み合うなどの中空糸膜14相互の過干渉を抑制することができるとともに、それに伴う中空糸膜14の損傷を抑制することができる。
【0066】
また、抑制部材100はそれぞれ、複数の中空糸膜束15間に間隙が形成されるように中空糸膜束15間を仕切る機能を有している。このように抑制部材100によって各中空糸膜束15間に間隙が形成されることにより、バブリング工程における各中空糸膜束15内での複数の中空糸膜14の揺動に応じて剥がれ落とされた浮遊汚濁物質を、各中空糸膜束15間の間隙を通して排出することができる。これにより、中空糸膜14の膜表面に付着した浮遊汚濁物質の除去効果をより高めることができる。
【0067】
図7に示すように、抑制部材100はそれぞれ、複数の網目101を有し、対応する中空糸膜束15の側面を覆うように上下方向に延びる網状体によって構成されている。この場合、抑制部材100の素材としては、種々の材料を用いることができ、特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを例示することができる。網状体によって構成される抑制部材100は、網目101の形状の変形に応じた伸縮性を有する。抑制部材100は、バブリング工程において中空糸膜束15内で複数の中空糸膜14が揺動するときに、網目101の形状が変形して伸縮することにより、複数の中空糸膜14を適度に揺動させる。
【0068】
網状体によって構成される抑制部材100の下端100Aはそれぞれ、対応する中空糸膜束15内で揺動する複数の中空糸膜14の下端14Aが舞い上がることを抑制可能であるとともに複数の中空糸膜14の下端14Aが網目101に入り込むことを抑制可能な下端適正範囲内に位置している。前記下端適正範囲は、抑制部材100の下端100Aが中空糸膜14の上端14Bから下方に、中空糸膜14の有効長L2の0.7倍以上1.0倍以下の範囲で離間した範囲である。なお、中空糸膜14の有効長L2は、中空糸膜14においてハウジング13の内部空間S1に露出している部分の上下方向の長さである。
【0069】
抑制部材100が対応する中空糸膜束15内における複数の中空糸膜14の下端14Aの舞い上がりを抑制することによって、中空糸膜束15内において中空糸膜14同士が絡み合うことを抑制することができる。更に、中空糸膜14の下端14Aが抑制部材100の網目101に入り込むことを抑制可能なように抑制部材100の下端100Aの位置を設定することにより、中空糸膜14が抑制部材100と絡み合うことを規制することができる。これにより、中空糸膜14に損傷が生じることを抑制することができる。
【0070】
本実施形態では、網状体によって構成される抑制部材100の上端100Bはそれぞれ、対応する中空糸膜束15内の複数の中空糸膜14の上端14Bに固定されるとともに固定部材3に固定されている。具体的には、抑制部材100の上端100Bと、複数の中空糸膜14の上端14Bとは、上下方向の高さ位置が一致するように、固定部材3に固定されている。抑制部材100の上端100Bが固定部材3に固定されることにより、中空糸膜束15の側面を安定的に覆うことができる。
【0071】
網状体によって構成される抑制部材100の上下方向の長さL1はそれぞれ、下記式(1)を満たすように設定されることが好ましい。下記式(1)中、「L1」は抑制部材100の上下方向の長さを示し、「L2」は中空糸膜14の有効長を示す。
0.7≦L1/L2≦1.0 ・・・(1)
【0072】
抑制部材100の上下方向の長さL1が上記式(1)の左辺「0.7≦L1/L2」を満たすように設定されることにより、抑制部材100の下端100Aを、複数の中空糸膜14の下端14Aが舞い上がることを抑制可能な前記下端適正範囲内の位置に位置させることができる。一方、抑制部材100の上下方向の長さL1が上記式(1)の右辺「L1/L2≦1.0」を満たすように設定されることにより、抑制部材100の下端100Aを、複数の中空糸膜14の下端14Aが抑制部材100の網目101に入り込むことを抑制可能な前記下端適正範囲内の位置に位置させることができる。
【0073】
[中空糸膜モジュールの洗浄方法]
次に、上記濾過装置1による濾過運転、及び当該運転中に実施される中空糸膜モジュール10の洗浄方法について、図9を参照して説明する。図9には、図1に示す濾過装置1の基本的な運転方法について、各工程とバルブの開閉状態との関係が示されている。図9中の丸印は、該当するバルブが開いていることを意味する。
【0074】
はじめに、充水工程(濾過前)が実施される。この工程では、濾過装置1の全バルブが閉じた状態から制御装置40によって原液導入バルブ22及び気体排出口バルブ62が開かれ、送液ポンプ20が作動する。これにより、送液ポンプ20から原液導入配管21を介して導水管5内に原水が導入され、管用通気孔54からハウジング13内に原水が供給される。これにより、ハウジング13の内部空間S1が充水される。
【0075】
次に、濾過工程が実施される。この工程では、気体抜き口11から原水が溢れた後、制御装置40によって濾液出口バルブ71が開かれ、かつ気体排出口バルブ62が閉じられる。そして、内部空間S1に満たされた原水が中空糸膜14の外表面側から壁面を通過して内表面側へ浸透し、濾液側の空間S2から濾液として取り出される。
【0076】
濾過時間の経過に伴って中空糸膜14の外表面には原水中の浮遊汚濁物質が付着し、これにより濾過能力が低下する。そのため、一定時間濾過が実施された後、以下に説明する中空糸膜モジュール10の洗浄方法を実施することにより、中空糸膜14の膜表面が洗浄される。
【0077】
まず、逆洗工程が実施される。この工程では、制御装置40によって原液排出口バルブ42及び第1気体導入バルブ34が開かれ、エアーコンプレッサー30を作動させる。これにより、濾液側気体入口53からハウジング13の濾液側の空間S2に気体(例えば空気)が導入され、当該気体によって濾液が加圧される。濾液は、中空糸膜14の内表面側から外表面側に押し出され、その結果内部空間S1の液体の一部がドレン抜き口12から系外に排出される。このようにして、中空糸膜14の逆洗が行われる。その後、濾液側圧抜きバルブ81を開くことにより、濾液側の空間S2の圧力を低下させる。
【0078】
次に、充水工程(下側バブリング前)が実施される。この工程では、上記逆洗工程において低下した内部空間S1内の液面を上昇させるため、制御装置40によって気体排出口バルブ62及び原液導入バルブ22が開かれ、送液ポンプ20を作動させる。これにより、内部空間S1内に液体が導入され、液面が上昇する。その後、送液ポンプ20を停止させ、原液導入バルブ22が閉じられ、液体の供給が停止される。
【0079】
次に、下側バブリング工程が実施される。この工程では、内部空間S1が充水された状態において、制御装置40によって第2気体導入バルブ35が開かれ、エアーコンプレッサー30が作動する。これにより、第2気体導入配管32を介して散気用気体入口7からハウジング13内に気体が供給される。そして、当該気体は、気体受け部45に収容された後、散気用通気孔43から下部空間S12へ分散される。そして、下部空間S12から上部空間S11まで上昇する気体によって、抑制部材100により互いに独立した状態の各中空糸膜束15内において複数の中空糸膜14が揺動し、その作用で膜表面に付着した浮遊汚濁物質が剥がれ落とされる。このように、下側バブリング工程では、複数の中空糸膜束15よりも下側の位置でハウジング13内に気体を分散させ、当該気体を上部空間S11まで上昇させることにより、下部空間S12及び上部空間S11の下側部分に位置する中空糸膜14が洗浄される。
【0080】
各中空糸膜束15内で複数の中空糸膜14の膜表面から剥がれ落とされた浮遊汚濁物質は、中空糸膜束15間の間隙を通じて排出される。これにより、各中空糸膜束15内において中空糸膜14の膜表面に付着した浮遊汚濁物質を効果的に除去することができる。しかも、抑制部材100によって各中空糸膜束15が互いに独立した状態となることにより、互いに異なる中空糸膜束15に属する中空糸膜14同士の干渉が抑制される。これにより、中空糸膜束15間において中空糸膜14同士が絡み合うことを抑制することができるとともに、それに伴う中空糸膜14の損傷を抑制することができる。
【0081】
また、抑制部材100が中空糸膜束15内における複数の中空糸膜14の下端14Aの舞い上がりを抑制することにより、中空糸膜束15内における複数の中空糸膜14の過剰な動きが制限される。このため、同一の中空糸膜束15に属する中空糸膜14同士が絡み合うなどの中空糸膜14相互の過干渉を抑制することができるとともに、それに伴う中空糸膜14の損傷を抑制することができる。更に、中空糸膜14の下端14Aが抑制部材100の網目101に入り込むことを抑制可能なように抑制部材100の下端100Aの位置を設定することにより、中空糸膜14が抑制部材100と絡み合うことを規制することができる。これにより、中空糸膜14に損傷が生じることを抑制することができる。
【0082】
次に、排水工程が実施される。この工程では、制御装置40によって第2気体導入バルブ35が閉じられると共に原液排出口バルブ42が開かれる。これにより、下側バブリング工程で膜表面から剥がれた浮遊汚濁物質を含む液体がドレン抜き口12を介して系外に排出される。
【0083】
次に、充水工程(上側バブリング前)が実施される。この工程では、気体排出口バルブ62及び原液導入バルブ22が開かれ、送液ポンプ20を作動させることにより、再び内部空間S1に液体が満たされる。
【0084】
次に、上側バブリング工程が実施される。この工程は、下側バブリング工程において洗浄が不十分であった中空糸膜14の上端14Bにおいて、膜表面に付着した浮遊汚濁物質をより確実に除去する目的で実施される。
【0085】
まず、制御装置40によって原液導入バルブ22が閉じられると共に第3気体導入バルブ36が開かれる。これにより、第3気体導入配管33を介して導水管用気体入口8から導水管5内に気体が導入される。そして、当該気体は、管内において浮力により上昇し、上部空間S11に位置する管用通気孔54A,54Bからハウジング13内に分散される。これにより、中空糸膜14の上端14B近傍を中心にバブリング洗浄することができ、下側バブリング工程では十分に除去できなった上端14B周辺の膜表面に付着した浮遊汚濁物質をより確実に除去することができる。このように、上側バブリング工程では、上部空間S11の位置でハウジング13内に気体を分散させることにより、中空糸膜14が洗浄される。
【0086】
また上側バブリング工程において、バブリング開始直後においては内部空間S1全体が充水されているため、最上部の管用通気孔54A及びその下の管用通気孔54Bから吐出される気体によってバブリング洗浄することができる。そして、バブリング開始から一定時間経過すると、気体抜き口11から気体を含んだ液体が排出され、内部空間S1の液面が下面11Aまで低下する。この状態においても、導水管5に供給される気体の浮力によって導水管5内の水を気体抜き口11の下面11Aよりも上側の管用通気孔54Aから気体と共に噴出させ、ハウジング13内の水を気体抜き口11の下面11Aよりも下側の管用通気孔54Bから導水管5内に流入させることができる。これにより、液体と気体の混合流体を気体抜き口11の下面11Aよりも上側の管用通気孔54Aから継続的に噴出させてバブリングすることができるため、中空糸膜14の上端14Bまで効果的に洗浄することができる。
【0087】
次に、排水工程が実施される。この工程では、第3気体導入バルブ36が閉じられると共に原液排出口バルブ42が開かれる。これにより、上側バブリング工程で膜表面から剥がれた浮遊汚濁物質を含む液体がドレン抜き口12から系外に排出される。以上のようにして中空糸膜モジュール10の洗浄が行われた後、濾過運転が再開される。
【0088】
上側及び下側バブリング工程のいずれにおいても、気体の供給流量は12000NL/h以下であることが好ましく、1500~12000NL/hの範囲内であることが好ましい。下側バブリング工程では、気体の供給流量が過剰になると中空糸膜14同士が絡まり合って膜表面が傷付いてしまう虞がある。これに対し、本実施形態では、下側バブリング工程において、抑制部材100が中空糸膜束15ごとに中空糸膜14の過剰な揺動を抑制するため、下側バブリング工程における上限気体供給流量を増大させることができる。一般的には上側バブリング工程ではこのような問題が生じ難いため、上側バブリング工程では、下側バブリング工程よりも気体の供給流量を高く設定することがあるが、抑制部材100による前記効果により下側バブリング工程においても上側バブリング工程と同程度の流量で気体を供給することが可能となる。
【0089】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る中空糸膜モジュール10の構造について、図10を参照して説明する。第2実施形態に係る中空糸膜モジュール10は、基本的には上記第1実施形態の場合と同様の構成を備え、且つ同様の効果を奏するが、複数の中空糸膜束15のそれぞれに個別に設けられた抑制部材100の構造が上記第1実施形態と異なっている。
【0090】
第2実施形態に係る中空糸膜モジュール10において、抑制部材100はそれぞれ、上記第1実施形態の場合と同様に、複数の網目101を有し、対応する中空糸膜束15の側面を覆うように上下方向に延びる網状体によって構成されている。上記第1実施形態では抑制部材100の上端100Bが固定部材3に固定されていたが、第2実施形態では、抑制部材100の上端100Bは、中空糸膜14の上端14Bよりも下方に位置している。つまり、抑制部材100の上端100Bは、固定部材3から離間している。この場合、抑制部材100は、例えば、ハウジング13の側面13Bに接着固定される。
【0091】
抑制部材100の下端100Aは、上記第1実施形態の場合と同様に、対応する中空糸膜束15内で揺動する複数の中空糸膜14の下端14Aが舞い上がることを抑制可能であるとともに複数の中空糸膜14の下端14Aが網目101に入り込むことを抑制可能な前記下端適正範囲内に位置している。
【0092】
抑制部材100が対応する中空糸膜束15内における複数の中空糸膜14の下端14Aの舞い上がりを抑制することによって、中空糸膜束15内において中空糸膜14同士が絡み合うことを抑制することができる。更に、中空糸膜14の下端14Aが抑制部材100の網目101に入り込むことを抑制可能なように抑制部材100の下端100Aの位置を設定することにより、中空糸膜14が抑制部材100と絡み合うことを規制することができる。これにより、中空糸膜14に損傷が生じることを抑制することができる。
【0093】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る中空糸膜モジュール10の構造について、図11を参照して説明する。第3実施形態に係る中空糸膜モジュール10は、基本的には上記第1実施形態の場合と同様の構成を備え、且つ同様の効果を奏するが、複数の中空糸膜束15のそれぞれに個別に設けられた抑制部材100の構造が上記第1実施形態と異なっている。
【0094】
図11に示すように、第3実施形態の抑制部材100はそれぞれ、複数の貫通孔103が形成され、対応する中空糸膜束15の側面を覆うように上下方向に延びる筒体102によって構成されている。上記第1実施形態の抑制部材100は網状体によって構成されて網目101の形状の変形に応じた伸縮性を有していたが、第3実施形態の抑制部材100は、貫通孔103の形状が変形しない程度の剛性を有している。これにより、抑制部材100はそれぞれ、各中空糸膜束15をより確実に互いに独立した状態とすることができる。このため、バブリング工程においては、互いに異なる中空糸膜束15に属する中空糸膜14同士の干渉がより確実に抑制される。
【0095】
第3実施形態の抑制部材100の上端100Bは、対応する中空糸膜束15内の複数の中空糸膜14の上端14Bに固定されるとともに固定部材3に固定されている。また、抑制部材100の下端100Aは、上記第1実施形態の場合と同様に、対応する中空糸膜束15内で揺動する複数の中空糸膜14の下端14Aが舞い上がることを抑制可能であるとともに複数の中空糸膜14の下端14Aが貫通孔103に入り込むことを抑制可能な前記下端適正範囲内に位置している。
【0096】
抑制部材100が対応する中空糸膜束15内における複数の中空糸膜14の下端14Aの舞い上がりを抑制することによって、中空糸膜束15内において中空糸膜14同士が絡み合うことを抑制することができる。更に、中空糸膜14の下端14Aが抑制部材100の貫通孔103に入り込むことを抑制可能なように抑制部材100の下端100Aの位置を設定することにより、中空糸膜14が抑制部材100と絡み合うことを規制することができる。これにより、中空糸膜14に損傷が生じることを抑制することができる。
【0097】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る中空糸膜モジュール10の構造について、図12を参照して説明する。第4実施形態に係る中空糸膜モジュール10は、基本的には上記第1実施形態の場合と同様の構成を備え、且つ同様の効果を奏するが、複数の中空糸膜束15のそれぞれに個別に設けられた抑制部材100の構造が上記第1実施形態と異なっている。
【0098】
図12に示すように、第4実施形態の抑制部材100はそれぞれ、対応する中空糸膜束15の側面に巻回された螺旋状の紐状体によって構成されている。螺旋状の紐状体によって構成される抑制部材100は、中空糸膜束15の側面に巻回された状態で各中空糸膜束15を互いに独立した状態とする。これにより、バブリング工程においては、互いに異なる中空糸膜束15に属する中空糸膜14同士の干渉が抑制される。
【0099】
第4実施形態の抑制部材100の上端100Bは、対応する中空糸膜束15内における複数の中空糸膜14の上端14Bに固定されるとともに固定部材3に固定されている。また、抑制部材100の下端100Aは、上記第1実施形態の場合と同様に、対応する中空糸膜束15内で揺動する複数の中空糸膜14の下端14Aが舞い上がることを抑制可能であるとともに複数の中空糸膜14の下端14Aが抑制部材100に引っ掛かることを抑制可能な前記下端適正範囲内に位置している。
【0100】
抑制部材100が対応する中空糸膜束15内における複数の中空糸膜14の下端14Aの舞い上がりを抑制することによって、中空糸膜束15内において中空糸膜14同士が絡み合うことを抑制することができる。更に、中空糸膜14の下端14Aが抑制部材100に引っ掛かることを抑制可能なように抑制部材100の下端100Aの位置を設定することにより、中空糸膜14が抑制部材100と絡み合うことを規制することができる。これにより、中空糸膜14に損傷が生じることを抑制することができる。
【0101】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る中空糸膜モジュール10の構造について、図13を参照して説明する。第5実施形態に係る中空糸膜モジュール10は、基本的には上記第1実施形態の場合と同様の構成を備え、且つ同様の効果を奏するが、複数の中空糸膜束15のそれぞれに個別に設けられた抑制部材100の構造が上記第1実施形態と異なっている。
【0102】
図13に示すように、第5実施形態の抑制部材100はそれぞれ、対応する中空糸膜束15の側面に巻かれた複数の帯状体104によって構成されている。複数の帯状体104は、中空糸膜束15の上下方向において所定の間隔を空けて配置され、例えば、ハウジング13の側面13Bに接着固定される。複数の帯状体104によって構成される抑制部材100は、中空糸膜束15の側面に各帯状体104が巻かれた状態で各中空糸膜束15を互いに独立した状態とする。これにより、バブリング工程においては、互いに異なる中空糸膜束15に属する中空糸膜14同士の干渉が抑制される。
【0103】
複数の帯状体104のうち最も下方に配置される帯状体104は、対応する中空糸膜束15内で揺動する複数の中空糸膜14の下端14Aが舞い上がることを抑制可能な前記下端適正範囲内に位置している。抑制部材100が対応する中空糸膜束15内における複数の中空糸膜14の下端14Aの舞い上がりを抑制することによって、中空糸膜束15内において中空糸膜14同士が絡み合うことを抑制することができる。
【0104】
[本発明の実施例]
次に、本発明をより具体的に示す実施例について説明する。
【0105】
(実施例1)
中空糸膜束15としては、膜面積が40mである片端フリータイプのものを使用した。中空糸膜14としては、ポリビニルアルコールにより親水化処理されたポリフッ化ビニリデン系樹脂からなり、平均孔径が0.02ミクロンであり、上下方向の長さ(有効長)L2が1035mmのものを使用した。
【0106】
抑制部材100としては、ポリプロピレンからなる網状体を使用した。網状体の上端は対応する中空糸膜束15内における複数の中空糸膜14の上端14Bに固定されるとともに固定部材3に固定し、網状体の上下方向の長さL1は725mmとした。この場合、網状体の下端は、中空糸膜14の下端14Aが舞い上がることを抑制可能であるとともに中空糸膜14の下端14Aが網目に入り込むことを抑制可能な下端適正範囲内に位置している。また、中空糸膜14の有効長L2に対する網状体の長さL1の比率(L1/L2)は「0.7」となる。
【0107】
導水管5としては、長さが1090.5mm、内径が48.6mmの円筒状のものを使用した。導水管5は、ハウジング13の中心に配置し、固定部材3により中空糸膜束15とともに固定した。この場合、複数の中空糸膜束15が導水管5を取り囲むように配置される。導水管5において、固定部材3から下方に70mm離れた位置から100mmの間隔で複数(合計36個)の管用通気孔54を形成した。管用通気孔54は、周方向に90°の間隔で形成し、孔径は10mmとした。
【0108】
散気部材4は、固定部材3から下方に1060.5mm離れた位置に取り付けた。散気部材4は、複数の散気用通気孔43が形成された円板状の本体部44と、気体受け部45と、周壁部47と、からなる。導水管5への気体供給口として導水管用気体入口8を設け、散気部材4の気体受け部45への気体供給口として散気用気体入口7を設けた。
【0109】
上記のように構成された中空糸膜モジュール10を使用し、清浄な水を原水として、外圧全濾過方式により流量4000L/hの条件で30秒定流量濾過を行った。そして、濾過運転後、中空糸膜モジュール10の濾液側から0.2MPaの圧縮空気により逆圧洗浄を実施し、その後バブリング洗浄を実施した。この操作を300回繰り返した。散気部材4側のバブリング用の空気(洗浄用気体)の流量は1500~12000NL/hの範囲で変化させた。導水管5側のバブリング用の空気(洗浄用気体)の流量は10000NL/hで一定とした。
【0110】
(実施例2)
上下方向の長さL1が932mmの網状体を使用したこと以外は実施例1と同様とした。この場合、網状体の下端は、前記下端適正範囲内に位置している。また、中空糸膜14の有効長L2に対する網状体の長さL1の比率(L1/L2)は、「0.9」となる。
【0111】
(実施例3)
上下方向の長さL1が1035mmの網状体を使用したこと以外は実施例1と同様とした。この場合、網状体の下端は、前記下端適正範囲内に位置している。また、中空糸膜14の有効長L2に対する網状体の長さL1の比率(L1/L2)は、「1.0」となる。
【0112】
(比較例1)
中空糸膜束15に対する網状体の設置を省略したこと以外は実施例1と同様とした。
【0113】
(比較例2)
上下方向の長さL1が518mmの網状体を使用したこと以外は実施例1と同様とした。この場合、網状体の下端は、前記下端適正範囲よりも上側に位置している。また、中空糸膜14の有効長L2に対する網状体の長さL1の比率(L1/L2)は、「0.5」となる。
【0114】
(比較例3)
上下方向の長さL1が1242mmの網状体を使用したこと以外は実施例1と同様とした。この場合、網状体の下端は、前記下端適正範囲よりも下側に位置している。また、中空糸膜14の有効長L2に対する網状体の長さL1の比率(L1/L2)は、「1.2」となる。
【0115】
上記の実施例1~3及び比較例1~3について、中空糸膜束15内での中空糸膜14同士の絡みや損傷の発生状況を目視にて評価した。その評価結果を表1に示す。表1中の「〇」は、中空糸膜束15内での中空糸膜14同士の絡みや損傷の発生がほとんどなく、安定した運転が可能であったことを示す。一方、表1中の「×」は、中空糸膜束15内での中空糸膜14同士の絡みや損傷の発生が顕著に確認でき、安定した運転を継続することが困難となったことを示す。
【0116】
【表1】
【0117】
表1の結果から明らかなように、実施例1~3では、散気部材4側の洗浄用気体の流量が1500~12000NL/hの範囲内において、中空糸膜束15内での中空糸膜14同士の絡みや損傷の発生が抑制されている。これは、網状体が中空糸膜束15内における複数の中空糸膜14の下端14Aの舞い上がりを抑制することにより、中空糸膜14の過剰な動きが制限されたためである。
【0118】
また、実施例1~3では、網状体の下端は、中空糸膜14の下端14Aが舞い上がることを抑制可能であるとともに中空糸膜14の下端14Aが網目に入り込むことを抑制可能な下端適正範囲内に位置している。これにより、中空糸膜14の網状体との絡み合いが規制され、中空糸膜14における損傷の発生が抑制されたと考えられる。
【0119】
一方、比較例1では、散気部材4側の洗浄用気体の流量が7000NL/h以上となる条件下において、中空糸膜束15内での中空糸膜14同士の絡みや損傷の発生が顕著に確認された。これは、比較例1では、網状体の設置が省略されているので、中空糸膜束15内における複数の中空糸膜14の過剰な動きが制限されず、複数の中空糸膜14の下端14Aに舞い上がりが生じたためである。
【0120】
また、比較例2では、散気部材4側の洗浄用気体の流量が10000NL/h以上となる条件下において、中空糸膜束15内での中空糸膜14同士の絡みや損傷の発生が顕著に確認された。これは、比較例2では、網状体の下端が、中空糸膜束15内での複数の中空糸膜14の下端14Aの舞い上がりを抑制可能な下端適正範囲よりも上側に位置しているためである。このため、比較例2では、散気部材4側の洗浄用気体の流量が10000NL/h以上となる条件下において、中空糸膜束15内における複数の中空糸膜14の下端14Aに舞い上がりが生じてしまい、これに伴って中空糸膜14同士に絡みや損傷が発生したと考えられる。
【0121】
また、比較例3では、散気部材4側の洗浄用気体の流量が1500~12000NL/hの範囲内において、中空糸膜束15内での中空糸膜14同士の絡みや損傷の発生が顕著に確認された。これは、比較例3では、網状体の下端が、中空糸膜14の下端14Aの網目101への入り込みを抑制可能な下端適正範囲よりも下側に位置して散気部材4に接触しているためである。このため、比較例3では、中空糸膜14が抑制部材100と絡み合ってしまい、中空糸膜14に損傷が生じた。
【0122】
以上の結果より、上記実施例1~3では、比較例1~3に比べて、バブリング工程における中空糸膜14の過剰な動きを制限し、中空糸膜14の膜表面に付着した浮遊汚濁物質の除去効果を確保しつつ、中空糸膜14同士の絡みや損傷を抑制することができることが分かった。
【0123】
今回開示された実施形態及び実施例は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0124】
2 気体供給部
4 散気部材
43 散気用通気孔
44 本体部
45 気体受け部
45A 受け口
46 分散孔
10 中空糸膜モジュール
13 ハウジング
14 中空糸膜
15 中空糸膜束
100 抑制部材
S1 内部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13