(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-08
(45)【発行日】2025-07-16
(54)【発明の名称】生分解性に優れた表裏係合型面ファスナー
(51)【国際特許分類】
A44B 18/00 20060101AFI20250709BHJP
【FI】
A44B18/00
(21)【出願番号】P 2021574087
(86)(22)【出願日】2021-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2021002937
(87)【国際公開番号】W WO2021153642
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2020012189
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 宣広
(72)【発明者】
【氏名】井出 潤也
(72)【発明者】
【氏名】小野 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 佳克
【審査官】岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-124494(JP,A)
【文献】特開平06-038811(JP,A)
【文献】特表2006-527634(JP,A)
【文献】特開2017-113391(JP,A)
【文献】特開2005-111140(JP,A)
【文献】特開2011-026538(JP,A)
【文献】特開2015-048445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体およびその表面から突出する複数の雄型係合素子を有し、該基体および該雄型係合素子がともにポリブチレンサクシネート(A)を含み、以下の条件(1)を満足している雄型成形面ファスナー層(I)、ならびに、ポリブチレンサクシネート(A)からなる繊維から形成され、その片面には該雄型係合素子と係合可能な複数の繊維ループを有し、さらに以下の条件(2)を満足している繊維層(II)からなり、
融着により雄型成形面ファスナー層(I)の該基体に繊維層(II)の繊維が直接接合されている生分解性表裏係合型面ファスナー。
(1)複数の雄型係合素子が列をなして並んでおり、各雄型係合素子は、基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状を有し、高さが1.2mm以下であるか、あるいは、各雄型係合素子は、基体表面から立ち上がり、その途中で列方向の前後に分かれる二股形状を有し、高さが0.6mm以下であること、
(2)繊維層(II)の繊維ループが存在している面と雄型成形面ファスナー層(I)の雄型係合素子が突出している面が表裏の関係にあり、
繊維層(II)が部分的に熱圧着により溶融フィルム化されており、かつその溶融フィルム化された箇所で基体裏面に繊維層(II)が直接接合されていること、
【請求項2】
繊維層(II)が不織布層であり、この不織布層が、太さ1.0~4.0デシテックスの繊維からなる細繊維層(II―1)と太さ6~20デシテックスの繊維からなる太繊維層(II―2)からなり、細繊維層(II―1)と太繊維層(II―2)の合計目付が20~200g/m2であり、さらに細繊維層(II―1)が雄型成形面ファスナー層(I)側となるように基体裏面に接合されている請求項1に記載の生分解性表裏係合型面ファスナー。
【請求項3】
太繊維層(II―2)を構成する繊維が捲縮を有しており、かつ太繊維層(II―2)と細繊維層(II―1)が絡合により不織布層として一体化されている請求項2に記載の生分解性表裏係合型面ファスナー。
【請求項4】
繊維層(II)が、ポリブチレンサクシネートからなるフィラメントが集束したマルチフィラメント糸から形成されているトリコット編地である請求項1~3のいずれかに記載の生分解性表裏係合型面ファスナー。
【請求項5】
ポリブチレンサクシネートからなるフィラメントが集束したマルチフィラメント糸の破断伸度が50~100%である請求項4に記載の生分解性表裏係合型面ファスナー。
【請求項6】
雄型係合素子の列が、基体から盛り上がる畝の上に形成されている請求項1~5のいずれかに記載の生分解性表裏係合型面ファスナー。
【請求項7】
雄型成形面ファスナー層(I)を形成しているポリブチレンサクシネート(A)には澱粉(B)が添加されており、ポリブチレンサクシネート(A)が連続相、澱粉(B)が分散相となっている請求項1~6のいずれかに記載の生分解性表裏係合型面ファスナー。
【請求項8】
澱粉(B)が変性澱粉を含み、かつ澱粉(B)の45質量%以上がアミロース系澱粉である請求項7に記載の生分解性表裏係合型面ファスナー。
【請求項9】
分散相に、ポリビニルアルコール(C)が混合されている請求項7または8に記載の生分解性表裏係合型面ファスナー。
【請求項10】
雄型成形面ファスナー層(I)を構成するポリブチレンサクシネート(A)と澱粉(B)とポリビニルアルコール(C)の合計質量に対するポリブチレンサクシネート(A)の質量割合が45~90%である請求項9に記載の生分解性表裏係合型面ファスナー。
【請求項11】
変性澱粉が、ヒドロキシアルキル基を含有するエーテル化澱粉である請求項
8に記載の生分解性表裏係合型面ファスナー。
【請求項12】
分散相中にクレイが混合されている請求項7~11のいずれかに記載の生分解性表裏係合型面ファスナー。
【請求項13】
分散相が、澱粉(B)の質量に対して3~30%の水分を含んでいる請求項7~12のいずれかに記載の生分解性表裏係合型面ファスナー。
【請求項14】
分散相に飽和脂肪酸またはその金属塩が添加されている請求項7~13のいずれかに記載の生分解性表裏係合型面ファスナー。
【請求項15】
連続相にセルロースの微細粉末が添加されている請求項7~14のいずれかに記載の生分解性表裏係合型面ファスナー。
【請求項16】
請求項1~15のいずれかに記載の生分解性表裏係合型面ファスナーからなるテープであって、テープ長さ方向に平行に係合素子の列が存在している、農林水産業用の縛り用または結束用のテープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雄型係合素子を有する成形面ファスナー層と、それに接合された、該雄型係合素子と係合可能な繊維ループを表面に有する繊維層とからなり、該雄型係合素子を有する面と該繊維ループを有する面が表裏の関係にある表裏係合型面ファスナーであって、使用後に廃棄された場合に成形面ファスナー層と繊維層が共に短期間で自然に分解し、その結果、環境破壊をもたらすことがない表裏係合型面ファスナー、およびこのような表裏係合型面ファスナーを用いた農林水産業用の縛り用または結束用のテープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、棒状体や線状体を結束する結束用テープとして、あるいは袋の開口部等を縛り付ける縛り用テープとして、表面に雄型係合素子を有する雄型面ファスナーテープの裏面にループ状係合素子を有するループ面ファスナーテープを接着剤や粘着剤等により貼り付けたものが広く用いられている。そして、これら雄型面ファスナーテープの裏面にループ面ファスナーテープを貼り付けた結束用テープや縛り用テープを結束対象物や縛り付け対象物に巻き付け、テープの端部同士を重ね合わせて表面の雄型係合素子と裏面のループ状係合素子を係合させることにより簡単に結束や締め付けができることとなる。そして、このようなテープは、特に農林水産業用の縛り用テープとしてあるいは結束用テープとして広く用いられている。
【0003】
近年、プラスチック製品が使用後に自然界に廃棄されると、分解されることなく自然界に蓄積されて環境汚染をもたらすことから、自然環境を汚染しない生分解性の樹脂からなる製品が求められている。面ファスナーを用いた結束用テープや縛り用テープの分野においても、特に農林水産業や土木建築や使い捨て用品等の分野に用いられる製品は、使用後に自然環境中に廃棄された場合には比較的短期間で分解してしまう、いわゆる生分解性を有することが求められている。
【0004】
従来、一般的に使用されている面ファスナーとしては、織物基布の表面に太いモノフィラメントからなるフック状やキノコ状の雄型係合素子を存在させた雄型面ファスナー、あるいは織物基布の表面にマルチフィラメント糸からなるループ状係合素子を存在させたループ面ファスナーが一般的である。このような織物製面ファスナーの場合には、織物基布の表面から雄型係合素子やループ状係合素子が係合剥離の際に引き抜かれないように織物基布の裏面にはポリウレタンやアクリル樹脂からなるバックコート接着剤層(バックコート層と称す)が付与されている。このような織物基布や係合素子を構成する繊維が生分解性を有するものであったとしても、バックコート層が生分解性を殆ど有しないことから、面ファスナーは生分解し難いものとなる。しかも織物基布の裏面は生分解性を有しないバックコート層により覆われていることから、裏面からの生分解性が生じず、織物基布の生分解性も長期間を要するものとなる。
【0005】
このような織物製面ファスナーの生分解性の問題点を解消して、面ファスナー全体が生分解性の要求を叶える面ファスナーとして、特許文献1には、ポリブチレンサクシネートまたはポリエチレンアジペートを主体とする生分解性樹脂からなる射出成形や押出成形等で製造した成形面ファスナーが提案されている。このような成形面ファスナーは、基体とその表面から突出する雄型係合素子を同時に成形して製造されるものであることから、裏面にバックコート層を付与する必要がなく、上記した生分解性の問題点は解消できることとなる。
【0006】
このようにポリブチレンサクシネートやポリエチレンアジペ―トなどからなる成形面ファスナーは生分解性を有するため、環境汚染を防ぐことができることとなる。しかし、当該成型面ファスナーは、実際には自然環境中での分解速度が遅く、例えば土中に廃棄された場合、これら樹脂製の成形面ファスナーは、1年経過後においても、成形面ファスナーの形態を保持したままであり、社会が求めている速やかに分解を生じて環境汚染を防止するという要求には必ずしも合致するものではない。
【0007】
また、このような表面側の雄型成形面ファスナーの裏面側に一体化するループ面ファスナーは雄型成形面ファスナーのように成形では製造できないため、織物製のものとならざるを得ない。この織物製のループ面ファスナーは、その裏面にループ状係合素子が係合剥離の際に引き抜かれることを阻止するためにバックコート層が付与される必要がある。さらに、このバックコート層を雄型成形面ファスナーの裏面に接合するためには、接着剤や粘着剤が必要となる。このバックコート層及び接合するための接着剤層や粘着剤層が生分解性を有しないことから、農林水産業用の結束用テープや縛り用テープに使用できるような生分解性の表裏係合型面ファスナーは得られないこととなる。
【0008】
また、雄型成形面ファスナーの裏面に接合するループ面ファスナーとして、バックコート層や接着剤層や粘着剤層を有しない、生分解性の繊維製面ファスナーが得られたとしても、表面層側の雄型成形面ファスナーは生分解速度が遅く、結局、表裏係合型の面ファスナーは表面側の雄型成形面ファスナーの生分解速度に支配され、生分解に長期の時間を要することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、使用後に廃棄された場合に、表面側の雄型成形面ファスナーおよび裏面側のループを有する繊維層がともに速やかに生分解し、さらに表面側の雄型成形面ファスナー層と裏面側のループを有する繊維層との間には、生分解性を妨げる接着剤層や粘着剤層やバックコート層が存在していない表裏係合型面ファスナーを提供することを目的としており、そして好ましくは表面側の雄型成形面ファスナーは、成形の際に雄型係合素子が折れたり、基体に裂け目が生じたりすることがなく、使用中は高い係合力が得られることとなる表裏係合型面ファスナーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、基体およびその表面から突出する複数の雄型係合素子を有し、該基体および該雄型係合素子がともにポリブチレンサクシネート(A)を含み、以下の条件(1)を満足している雄型成形面ファスナー層(I)、ならびに、ポリブチレンサクシネート(A)からなる繊維から形成され、その片面には該雄型係合素子と係合可能な複数の繊維ループを有し、さらに以下の条件(2)を満足している繊維層(II)からなり、融着により雄型成形面ファスナー層(I)の該基体に繊維層(II)が直接接合されている生分解性表裏係合型面ファスナーである。
(1)複数の雄型係合素子が列をなして並んでおり、各雄型係合素子は、基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に近づく方向を向いている形状を有し、高さが1.2mm以下であるか、あるいは、各雄型係合素子は、基体表面から立ち上がり、その途中で列方向の前後に分かれる二股形状を有し、高さが0.6mm以下であること、
(2)繊維層(II)の繊維ループが存在している面と雄型成形面ファスナー層(I)の雄型係合素子が突出している面が表裏の関係にあること、
【0012】
そして、本発明において好ましくは、繊維層(II)が不織布層であり、この不織布層が、太さ1.0~4.0 デシテックスの繊維からなる細繊維層(II―1)と太さ6~20デシテックスの繊維からなる太繊維層(II―2)からなり、細繊維層(II―1)と太繊維層(II―2)の合計目付が20~200 g/m2であり、さらに細繊維層(II―1)が雄型成形面ファスナー層(I)側となるように基体裏面に接合されている場合であり、またこのような繊維層(II)が不織布層である場合において、好ましくは太繊維層(II―2)を構成する繊維が捲縮を有しており、かつ太繊維層(II―2)と細繊維層(II―1)が絡合により不織布層(II)として一体化されている場合である。
【0013】
また本発明において、好ましくは前記繊維層(II)が、ポリブチレンサクシネートからなるフィラメントが集束したマルチフィラメント糸から形成されているトリコット編地からなる層である場合であり、そしてこのような場合において、好ましくはこのようなトリコット編地を構成しているポリブチレンサクシネート製のマルチフィラメント糸の破断伸度が50~100%である場合である。
【0014】
更に本発明において、好ましくは、繊維層(II)が部分的に熱圧着により溶融フィルム化されており、かつその溶融フィルム化された箇所で基体裏面に繊維層(II)が直接接合されている場合であり、また雄型係合素子の列が、基体から盛り上がる畝の上に形成されている場合である。
そして、好ましくは、雄型成形面ファスナー層(I)を形成しているポリブチレンサクシネート(A)には澱粉(B)が添加されており、ポリブチレンサクシネート(A)が連続相、澱粉(B)が分散相となっている場合であり、また澱粉(B)が変性澱粉を含み、かつ澱粉(B)の45質量%以上がアミロース系澱粉である場合であり、また上記分散相に、ポリビニルアルコール(C)が混合されている場合であり、また雄型成形面ファスナー層(I)を構成するポリブチレンサクシネート(A)と澱粉(B)とポリビニルアルコール(C)の合計質量に対するポリブチレンサクシネート(A)の質量割合が45~90%である場合である。
【0015】
さらに、本発明において好ましくは、変性澱粉が、ヒドロキシアルキル基を含有するエーテル化澱粉である場合であり、分散相中にクレイが混合されている場合あり、分散相が、(B)の質量に対して3~30%の水分を含んでいる場合であり、また分散相に飽和脂肪酸またはその金属塩が添加されている場合であり、連続相にセルロースの微細粉末が添加されている場合である。
【0016】
そして、本発明は、これらの生分解性表裏係合型面ファスナーからなるテープであって、テープ長さ方向に平行に係合素子の列が存在している、農林水産業用の縛り用または結束用のテープの発明である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の表裏係合型面ファスナーでは、表面側を形成する雄型成形面ファスナー層(I)の雄型係合素子が通常の成形面ファスナーのものより小型であり、それにより生分解速度が早まり、かつそのような小型の雄型係合素子が列をなして並んでいることにより結束テープや縛りテープとして求められる強い係合力が得られることとなる。さらに好ましくは雄型成形面ファスナーを形成する生分解樹脂であるポリブチレンサクシネートには澱粉が混合されており、この澱粉がポリブチレンサクシネートの生分解速度をより加速する。
【0018】
そしてこのような雄型成形面ファスナー層(I)に接合されている繊維ループを有する繊維層(II)は、表面側の雄型成形面ファスナーと同一の生分解性の樹脂であるポリブチレンサクシネートからなる繊維製の層であり、しかもその繊維ループが存在している面が、雄型係合素子が存在している面と表裏の関係となるように、ポリブチレンサクシネート製の雄型成形面ファスナー層(I)に直接接合されており、これにより雄型成形面ファスナー層(I)と繊維層(II)が共に容易に生分解されることとなる。そして好ましくは、該雄型成形面ファスナー層(I)の裏面にこのようなポリブチレンサクシネート製の繊維層(II)を、雄型係合素子が存在している面と繊維ループが存在している面が背中合わせとなるように重ね合わせて部分的に熱圧着されていることにより、雄型成形面ファスナー層(I)への接合と、繊維層(II)の形状の保持と、雄型係合素子と係合可能な繊維ループの繊維層からの耐引き抜き性が同時に得られている。
【0019】
しかも生分解性を妨げる接着剤などが一切存在せずに、接合性に優れる同一樹脂による強固な接合が達成できている。そして、繊維層(II)を形成するポリブチレンサクシネートには澱粉が実質的に含まれていないことから、繊維の強度が高く、その結果、高い係合力が得られている。しかも、繊維層(II)は繊維から形成されていることから、雄型成形面ファスナー層(I)のように生分解に長期間を要することがない。そのため、繊維層(II,)と、表面側を形成している、澱粉を加えて生分解速度を高めた雄型成形面ファスナー層(I)との間で、分解に要する時間に大きな差を生じないこととなる。さらに雄型係合素子が存在している面と繊維ループが存在している面が背中合わせとなるように接合されている場合には、雄型成形面ファスナー層(I)の裏面は、好ましくは繊維層(II)で覆われているが、自然界に廃棄された場合には、生分解性樹脂を分解する菌が繊維層(II)を容易に通過して雄型成形面ファスナー層(I)の裏面側からも生分解が進むこととなり、分解に要する時間が短縮されることとなる。
【0020】
さらに、本発明において、雄型成形面ファスナー層(I)の成形材料として、ポリブチレンサクシネート(A)を連続相、澱粉(B)を分散相とする樹脂混合物である場合や、その分散相にはポリビニルアルコール(C)が混合されている場合や、澱粉(B)が変性澱粉を含み、かつ澱粉(B)の45質量%以上がアミロース系澱粉である樹脂混合物が用いられている場合には、ポリブチレンサクシネート単独あるいはポリブチレンサクシネートに澱粉のみが添加されている場合と比べて樹脂混合物の分解速度が一層速くなる。そのため、当該雄型成形面ファスナー層(I)が使用後に自然界に廃棄された場合には、速やかに分解を生じて、自然界に戻っていくこととなり、環境汚染や環境破壊をより一層防ぐことができる。
【0021】
さらに、本発明に使用する雄型成形面ファスナー層(I)は、金型表面に溶融させた樹脂をシート状に流すとともに、金型表面に空けた雄型係合素子形状のキャビティに溶融させた樹脂材料を圧入し、冷却後にキャビティから引き抜くとともに金型表面からシートを剥がすことにより雄型係合素子を表面に有する雄型成形面ファスナーを製造する、いわゆる引き抜き成形により得られる雄型成形面ファスナー層(I)である場合が好ましい。この場合には、成形樹脂がポリブチレンサクシネートに澱粉を混合した混合物であると、キャビティからの引き抜きの際に雄型係合素子がその途中で折れたり、途中で裂け目が入るという現象や、雄型成形面ファスナー層(I)を金型から剥離する際に基体に裂け目が生じ易い。雄型係合素子が途中で折れたり基体に裂け目が生じた場合には、雄型成形面ファスナー層(I)の商品価値が大きく低下するとともに係合力が低下することとなる。しかしながら、上記したような澱粉とポリビニルアルコールを含有する樹脂混合物を用いることにより、キャビティから雄型係合素子を引き抜いて面ファスナーを成形する際に、雄型係合素子がその途中で折れ易いという問題点や金型表面から面ファスナーの基体シートを剥離する際に裂け目が入り易いという問題点が解消できることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の生分解性表裏係合型面ファスナーの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明の生分解性表裏係合型面ファスナーの他の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】本発明の生分解性表裏係合型面ファスナーの一例の裏面側の熱融着状態を模式的に表す図である。
【
図4】本発明の生分解性表裏係合型面ファスナーの他の一例の裏面側の熱融着状態を模式的に表す図である。
【
図5】本発明の生分解性表裏係合型面ファスナーの他の一例を模式的に示す接合部近辺の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の生分解性表裏係合型面ファスナーの一例の一部を拡大して模式的に示した斜視図である。基体(1)の表面から複数(多数)の雄型係合素子(2)が立ち上がっている。これら基体(1)と雄型係合素子(2)とによって雄型成形面ファスナー層(I)が構成されている。そして、
図1に示すように、雄型係合素子(2)は曲がっている方向(
図1に示す手前の列の雄型係合素子は
図1に示すQの方向に曲がっている)と同一の方向に複数の雄型係合素子が列をなして並んでおり、さらに1列単位であるいは複数列単位で(
図1では1列単位で)曲がっている方向が逆(すなわち
図1に示すPの方向)となっている。そして、雄型係合素子(2)は、根元から先端部に行くに従って細くなっており、かつ途中から徐々に曲がり、先端部は基板(1)に僅かに近づく方向を向いている(以下、この形状を波型と称すことがある)。そして、雄型成形面ファスナー層の裏面には、繊維層(5)が接合一体化されており、雄型係合素子が存在している面と繊維ループが存在している面が背中合わせとなるように接合されている。
【0024】
図2は、本発明の生分解性表裏係合型面ファスナーの他の一例の一部を拡大して模式的に示した斜視図であり、基体(1)の表面から多数の雄型係合素子(3)が立ち上がっている。これら基体(1)と雄型係合素子(2)とによって雄型成形面ファスナー層(I)が構成されている。そして、この場合も、複数の雄型係合素子(3)は列をなして並んでおり、各雄型係合素子(3)は、その途中で列方向(
図2で示すQの方向)の前後に分かれる二股形状を有し、二股に分かれた先端部は基体(1)に僅かに近づく方向を向いている(以下、この形状をY字型と称することがある)。そして、雄型成形面ファスナー層の裏面には、
図1の場合と同様に、繊維層(5)が、雄型係合素子が存在している面と繊維ループが存在している面が背中合わせとなるように接合一体化されている。
【0025】
このような波型あるいはY字型の雄型成形面ファスナーは、波型あるいはY字型のキャビティを表面に多数有する金属ロールの表面を、溶融させた樹脂でシート状に覆うと同時に該キャビティにも溶融させた同樹脂を圧入させ、そして、該樹脂が固化した後に金属ロール表面から同樹脂のシートを剥がすと共に該キャビティからも引き抜くことにより得られる。
【0026】
金型のキャビティから引き抜いて雄型成形面ファスナー層(I)を製造する方法として、本発明のように波型あるいはY字型のキャビティから引き抜いて、波型あるいはY字型の係合素子を直ちに製造する方法の他に、金型面から垂直にまっすぐに伸びるキャビティから垂直に伸びる棒状体を引き抜き、そして棒状体の頂部を加熱して押し曲げて波型係合素子を製造する方法もある。この方法の場合には、確かに、引き抜き時に係合素子の途中で折れる可能性が少ないが、その反面、キャビティから引き抜き後に加熱して先端を曲げる工程が必要となり、さらに得られる雄型成形面ファスナーは、雄型係合素子が揃っておらず、Y字型のキャビティを表面に多数有する金属ロールと比較すると見栄えの点で劣る。
【0027】
本発明を構成する雄型成形面ファスナー層(I)を形成している樹脂は、前記したように、ポリブチレンサクシネート(A)を必須成分としており、好ましくはこの必須成分にさらに澱粉(B)やポリビニルアルコール(C)が混合されている。
そして、本発明において、雄型成形面ファスナー層(I)の基体および該雄型係合素子がともにポリブチレンサクシネートを含むということは、ポリブチレンサクシネート単独あるいはポリブチレンサクシネートを40質量%以上含有する樹脂混合物、好ましくは45質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上、よりさらに好ましくは65質量%以上含有する樹脂混合物であることを意味する。ここで、樹脂混合物には、雄型成形面ファスナー層(I)を構成する総ての成分が含まれる。ポリブチレンサクシネートは、雄型成形面ファスナー層(I)の構成成分中における最も含有量の多い成分であることが好ましい。
【0028】
このうち、ポリブチレンサクシネート(A)は、1,4-ブタンジオールとコハク酸から合成される脂肪族ポリエステル系の樹脂であって、生分解性の樹脂として広く一般に市販されており、本発明ではそれらを使用することができる。もちろん、上記原料以外のモノマーが少量ならば共重合されていてもよく、また各種安定剤や顔料、染料等が添加されていてもよい。
【0029】
生分解性樹脂としては、ポリブチレンサクシネートの他に、ポリ乳酸やポリエチレンアジペ―トやポリカプロラクトン等が代表例として挙げられるが、澱粉やポリビニルアルコールとの親和性、成形性等の点で、本発明ではポリブチレンサクシネートが用いられる。もちろん、ポリブチレンサクシネート以外の生分解性樹脂等が少量ならば添加されていてもよい。
【0030】
また本発明の成形材料の好適な添加樹脂の一つとして用いられる澱粉(B)は、変性澱粉を含んでいるのが好ましい。より好ましくは澱粉の全量が変性澱粉である。変性澱粉としては、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉および架橋澱粉からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0031】
澱粉としては、キャッサバ、トウモロコシ、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、豆、ハス、小麦、コメ、オート麦等に由来する澱粉が挙げられる。中でもトウモロコシやキャッサバに由来する澱粉が好ましく、高アミロースのトウモロコシに由来する澱粉がさらに好ましい。澱粉は単独または2種以上の混合物であってよい。これらの澱粉を変性して変性澱粉とする。なお、これら澱粉の大半はアミロペクチンを主成分とするものであり、アミロースを主成分とする澱粉はわずかである。本発明の一態様として規定されるアミロース量、すなわち、澱粉(B)の45質量%以上がアミロース系澱粉であるという条件を満足するためには、澱粉として特定のもの、すなわち高アミロースのものを選択する必要がある。
【0032】
変性澱粉のうちエーテル化澱粉としては、メチルエーテル化澱粉で代表されるアルキルエーテル化澱粉、カルボキシメチルエーテル化澱粉で代表されるカルボキシアルキルエーテル化澱粉、炭素原子数が2~6個であるヒドロキシアルキル基を有するエーテル化澱粉で代表されるヒドロキシアルキルエーテル化澱粉等が好適例として挙げられる。また、アリルエーテル化澱粉等も用いることができる。
【0033】
またエステル化澱粉としては、酢酸等のカルボン酸由来の構造単位を有するエステル化澱粉、マレイン酸無水物、フタル酸無水物、オクテニルスクシン酸無水物等のジカルボン酸無水物由来の構造単位を有するエステル化澱粉、硝酸、リン酸等の無機酸由来の構造単位を有するエステル化澱粉、尿素リン酸エステル化澱粉等が挙げられる。他の例としては、キサントゲン酸エステル化澱粉、アセト酢酸エステル化澱粉等が挙げられる。
【0034】
カチオン化澱粉としては、澱粉と2-ジエチルアミノエチルクロライドとの反応物、澱粉と2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドとの反応物等が挙げられる。また架橋澱粉としては、ホルムアルデヒド架橋澱粉、エピクロルヒドリン架橋澱粉、リン酸架橋澱粉、アクロレイン架橋澱粉等が挙げられる。
【0035】
これら変性澱粉の中で、本発明において特に好ましいものとして、炭素原子数が2~6個であるヒドロキシアルキル基を有するエーテル化澱粉が挙げられ、なかでも澱粉にプロピレンオキサイドを反応させることにより変性したヒドロキシプロピル基を含有するエーテル化澱粉が本発明の効果を達成する上で最も好ましい。
【0036】
そして、本発明において、澱粉(B)の45質量%以上がアミロース系澱粉であることが好ましい。アミロース系澱粉の割合が45質量%以上の場合には、金型のキャビティから係合素子を引き抜く際に、係合素子が途中から折れたり、あるいは基体層や係合素子に裂け目が入ったりすることが良好に防止される。より好ましくは、アミロース系澱粉の割合が50質量%以上の場合であり、さらに好ましくはアミロース系澱粉の割合が55質量%以上の場合である。
【0037】
なお、本発明において澱粉(B)は、前述したように、全量が変性澱粉である場合が好ましいが、その場合には、変性澱粉に占めるアミロース由来変性澱粉の質量割合をアミロース系澱粉の割合と本発明では称している。
本発明では、それ以外に未変性の澱粉を含んでいてもよく、そのような場合には、本発明で言うアミロース系澱粉の割合とは、変性澱粉と未変性澱粉の合計質量に占める、変性澱粉由来アミロースと未変性澱粉中のアミロースの合計質量の割合を意味している。
【0038】
したがって、変性澱粉として高アミロースのものを用い、未変性澱粉として低アミロースのものを用い、あるいはその逆の組み合わせを用い、それらの合計量としてアミロースの割合が45質量%以上となるようにしてもよい。このような未変性澱粉を含んでいる場合であっても、より好ましくは、アミロース系澱粉の割合が50質量%以上の場合であり、さらに好ましくはアミロース系澱粉の割合が55質量%以上の場合である。
【0039】
なお、自然界に存在する澱粉のアミロース系澱粉の含有量は通常90質量%を超えるものは殆どなく、したがって、本発明においてもアミロース系澱粉の割合は、通常90質量%以下となる。
【0040】
本発明の雄型成形面ファスナー層(I)を形成している樹脂が澱粉(B)を含んでいる場合には、前記したようにポリビニルアルコール(C)が混合されているのが好ましい。ポリビニルアルコールとしては、好ましくは鹸化度が85~99.8モル%のものが用いられ、特に鹸化度が99.0~99.8モル%の完全鹸化の未変性ポリビニルアルコールが、引き抜き成形時の係合素子の折れや基板シートの裂けの発生を高度に阻止できることからより好ましい。
【0041】
本発明において、雄型成形面ファスナーを形成する原料であるポリブチレンサクシネート(A)に澱粉(B)が添加されている場合には、ポリブチレンサクシネート(A)が連続相、澱粉(B)が分散相とするのが好ましく、さらにこのようなポリブチレンサクシネート(A)と澱粉(B)の混合系にポリビニルアルコール(C)が混合されている場合には、ポリビニルアルコール(C)は澱粉(B)層に含まれることが、澱粉(B)が添加されていることによる問題点を解消できることから好ましい。
【0042】
ポリブチレンサクシネート(A)が連続相で澱粉(B)が分散相となっていることにより、引き抜き成形時の係合素子の折れや基板シートの裂けの発生を高度に阻止できる。ポリブチレンサクシネート(A)を連続相とし、澱粉(B)を分散相とするためには、ポリブチレンサクシネート(A)と澱粉(B)とポリビニルアルコール(C)の合計質量に対するポリブチレンサクシネート(A)の割合を45質量%以上とすればよく、好ましくは50質量%以上である。
【0043】
但し、ポリブチレンサクシネート(A)の割合があまりに高く、澱粉(B)の割合が低すぎる場合には、生分解速度が遅くなり、使用後に自然界に廃棄された場合に分解に長時間を要し、自然界に戻っていくのに時間が掛かることとなる。成形面ファスナーの雄型係合素子を小型とすることによりこの問題点はかなり軽減できることとなるが、好ましくは澱粉(B)やポリビニルアルコール(C)が添加されている場合であり、ポリブチレンサクシネート(A)と澱粉(B)とポリビニルアルコール(C)の合計質量に対するポリブチレンサクシネート(A)の割合の上限値としては90質量%が好ましい。そしてより好適値としては、ポリブチレンサクシネート(A)の割合が上記合計量の45~90質量%、より好ましくは55~85質量%、さらに好ましくは60~85質量%、よりさらに好ましくは70~85質量%の範囲である場合である。
澱粉(B)の含有量は、ポリブチレンサクシネート(A)100質量部に対して、好ましくは10~90質量部である。10質量部以上であると、生分解性がより促進される。90質量部以下であると、使用中により高い係合力が得られる。当該観点から、より好ましくは20~90質量部、さらに好ましくは30~90質量部、よりさらに好ましくは30~80質量部、よりさらに好ましくは30~60質量部、よりさらに好ましくは30~40質量部である。
【0044】
また、本発明において、澱粉(B)とポリビニルアルコール(C)の合計質量に占めるポリビニルアルコール(C)の質量としては、0.5~75質量%が好ましく、0.5質量%以上の場合には、引き抜き成形時の係合素子の折れの発生を阻止することができ、75質量%以下である場合には、生分解速度が速くなり、使用後に自然界に廃棄された場合に短時間で分解し、自然界に戻っていくのに時間を要しない。より好ましくは、1~50質量%の範囲である。
【0045】
本発明において、引き抜き成形時の係合素子の折れや基体シートの裂けの発生を阻止する上で、分散相中にはクレイが混合されているのが好ましい。クレイとしては、合成または天然の層状ケイ酸塩粘土、例えばモンモリロナイト、ベントナイト、バイデライト、雲母(マイカ)、ヘクトライト、サポナイト、ノントロナイト、ソーコナイト、バーミキュライト、レディカイト、マガダイト、ケニヤアイト、スチーブンサイト、ヴォルコンスコイト等が挙げられ、さらにこれらクレイを変性したものでもよい。これらクレイの雄型成形面ファスナー相(I)の構成成分の総量中における添加量としては0.1~5質量%、より好ましくは0.5~2質量%の範囲である。
【0046】
さらに本発明において、引き抜き成形時の係合素子の折れや基体シートの裂けの発生を阻止する上で、分散相には、飽和脂肪酸またはその金属塩が添加されているのが好ましい。このような飽和脂肪酸またはその金属塩が添加されていることにより、澱粉分子間の滑りが良くなり、その結果、引き抜き成形時の係合素子の折れや基体シートの裂けを防ぐことができることとなる。
【0047】
添加する具体的な飽和脂肪酸またはその金属塩として、炭素原子数が12~22個である脂肪酸とその金属塩が挙げられ、例えばステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、リノレイン酸、ベヘニン酸、およびこれら酸のナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩等が挙げられる。これら飽和脂肪酸またはその金属塩の添加量としては分散相を構成する樹脂全量に対して0.01~5質量%の範囲である。また、飽和脂肪酸またはその金属塩の添加量は、雄型成形面ファスナー層(I)の総量に対して0.01~5質量%の範囲である。
【0048】
また本発明において、雄型成形面ファスナー層(I)の分散相が澱粉(B)の質量に対して3~30%の水分を含んでいるのが、引き抜き成形時の係合素子の折れの発生を阻止する上で好ましい。より好ましくは、5~20質量%、より好ましくは10~20質量%、更に好ましくは11~18質量%の水分を含んでいる場合である。
【0049】
さらに本発明において、連続相または分散相には、生分解速度を向上させ、かつ雄型係合素子や基体が割れたり、裂け目が入るのを阻止するために、セルロースのナノ粉末が添加されているのが好ましく、具体的には、直径3~30nmで長さ0.5~10μmのセルロースナノ粉末を、雄型成形面ファスナー層(I)を形成している樹脂に対して0.5~10質量%添加するのが好ましい。より好ましくは1~10質量%、さらに好ましくは2~8質量%である。セルロースのナノ粉末は、未変性のものであっても、あるいは変性したもので良い。
【0050】
このように本発明を構成する雄型成形面ファスナー層(I)は、ポリブチレンサクシネート(A)を必須成分として、好適成分として、澱粉(B)、さらにポリビニルアルコール(C)を含有するものであるが、これら(A)と(B)と(C)を混合する方法としては、雄型成形面ファスナーを成形する際に同時に混合する方法や、雄型成形面ファスナーの成形に先立ってこれら3成分を同時にブレンドしてペレット化しておく方法などもあるが、好ましくは(B)と(C)を予め溶融混合し、更にクレイや飽和脂肪酸またはその金属塩や水分等を加えてペレット化しておき、そしてこのペレットとセルロースナノ粉末をブレンドした(A)のペレットを混合して溶融し、面ファスナーの成形に供する方法であり、この方法を用いると強度等の物性値の高い雄型成形面ファスナーが得られる。
【0051】
この際、(B)と(C)からなるペレットと(A)のペレットを溶融混合して一旦ペレット化し、このペレットを面ファスナーの成形に供しても、あるいは(B)と(C)からなるペレットと(A)のペレットを直接、雄型成形面ファスナーの成形に供して、成形と同時に混合する方法を用いてもよい。
【0052】
そして、(B)と(C)を予め溶融混合してペレット化する具体的方法として、(B)および(C)を加熱溶融しながら混合する工程(a)、溶融した混合物をダイから押出す工程(b)および押出された溶融物を冷却および乾燥する工程(c)を順次行う方法が好適に用いられる。
【0053】
これら工程のうち、工程(a)は、通常、押出機を用いて行う。押出機中では、スクリューにより各成分にせん断応力を与え、そしてバレルへの外部熱の適用により加熱しながら(B)と(C)を均質に混合する。押出機としては、1軸または2軸スクリュー押出機を用いることができ、2軸スクリュー押出機を用いる場合には、共回転または逆回転のいずれであってもよい。スクリュー直径としては、例えば20~150mm、押出機長さ(L)とスクリュー直径(D)の比L/D比としては、20~50がそれぞれ好ましい。また、スクリューの回転速度としては、80rpm以上が好ましく、より好ましくは100rpm以上である。また、押出圧力としては、5バール(0.5MPa)以上が好ましく、より好ましくは10バール(1.0MPa)以上である。そして、(B)、(C)および他の成分は、それぞれ直接、押出機中へ導入することができるし、またこれらの各成分をミキサーにより予備混合したものを押出機中へ導入してもよい。
【0054】
前記工程(a)は、120~180℃の範囲で行うのが好ましく、より好ましくは160~180℃の温度である。120℃以上の温度を用いることにより、成分(C)粒子の粗大化を抑えて、適度の粒径の分散状態とすることができる。この工程により、成分(B)は、澱粉粒子が破砕され、ゲル化される。この澱粉粒子の破砕とゲル化により成形物の強度等の物性値が向上する。
【0055】
工程(a)において、押出機の比較的初期段階において水を導入してもよく、例えば上記加熱温度に達する前の100℃以下のときに水を導入することもでき、さらに上記加熱温度に到達した後に水を導入してもよい。成分(B)は、水分、熱およびせん断応力の組み合わせにより、ゼラチン(ゲル)化される。また、水を導入することにより、成分(C)を溶解し、(B)と(C)からなる樹脂混合物を軟化させ、モジュラスおよび脆性を低下させることができ、その結果、雄型成形面ファスナーの強度等の物性を高めることができる。
【0056】
工程(a)で加熱溶融した成分(B)と(C)の混合物は、発泡を防止するため、好ましくは85~120℃、より好ましくは100~120℃の温度に低下させながら、ダイの方へ混合物を押し進めるのがよい。また、バレルから排気することにより発泡を防止すると共に水分を除去することもできる。押出機中の滞留時間は、温度プロファイルやスクリュー速度に応じて設定可能であり、好ましくは1~2.5分の間である。
【0057】
溶融した混合物を押出す工程(b)では、押出機中を押し進められてきた溶融混合物をダイから押出す。ダイの温度としては、85~120℃が好ましく、より好ましくは90~110℃の温度である。工程(b)で押出された混合物中の含水量としては、10~50質量%の範囲が好ましく、より好ましくは20~40質量%、さらに好ましくは22~40質量%、最も好ましくは25~35質量%である。そして、溶融物を複数穴のストランドノズルから押出す。
【0058】
次の、ノズルから押出された溶融物を冷却および乾燥する工程(c)では、ストランドノズルから押出されたストランドを回転カッターで切断することでストランドをペレット形状とする。その際に、ペレットの膠着を防ぐために、振動を定期的もしくは定常的に与え、そして、熱風、脱湿空気、赤外線ヒーター等によりペレット中の水分を除去するのが好ましい。
【0059】
このようにして得られた成分(B)と成分(C)からなる樹脂混合物のペレットは、成分(A)のペレットとブレンドされて溶融され、ペレット化され、あるいはペレット化されることなく、直接、雄型成形面ファスナーの成形に供される。その際に、水分を添加して溶融してもよい。
【0060】
次に、このような樹脂や樹脂混合物を用いて本発明を構成する雄型成形面ファスナー層(I)の製造方法について説明する。
具体的な方法としては、雄型係合素子形状のキャビティを表面に多数設けた金属ロールの表面に該樹脂または該樹脂混合物の溶融物をシート状に流すとともに該キャビティ内に該樹脂または該樹脂混合物の溶融物を圧入させ、固化後に金属ロール面から剥がすと同時にキャビティからも引き抜いて、表面に雄型係合素子を多数有するシートを製造する方法が用いられる。
【0061】
より詳細に説明すると、雄型係合素子が波型である場合には、その波型係合素子形状を外円周上に彫った厚さ0.2~0.5mmのリング状金型、そのような形状に彫っていない金属製リング、上記波型係合素子形状と逆の方向に曲がっている波型係合素子の形状を外円周上に彫った厚さ0.2~0.5mmのリング状金型、そのような形状に彫っていない金属製リングを順々に重ね合わせることにより、その外周表面に波型係合素子形状のキャビティおよび逆方向に曲がっている波型係合素子のキャビティの列を多数有する金型ロールを用意する。
【0062】
また、雄型係合素子がY字型である場合には、そのようなY字型形状を外円周上に彫った厚さ0.2~0.5mmのリング状金型、そのような形状に彫っていない金属製リングを順々に重ね合わせることにより、その外周表面にY字型係合素子のキャビティの列を多数有する金型ロールを用意する。
【0063】
なお、上記説明では、波型係合素子形状のキャビティを有するリング状金型と逆の方向を向いている波型係合素子形状のキャビティを1枚単位で重ね合せる場合を説明したが、2枚以上の単位で重ね合わせてもよい。
【0064】
このような金属ロールは、その表面に、同ロール円周方向に曲がっている複数のキャビティが円周方向に列をなして並んでおり、更にそのような列が金属ロール幅方向に複数列存在しており、キャビティが波型の場合にはキャビティの曲がっている方向が1列単位であるいは複数列単位で逆となっている。
【0065】
その際に、該キャビティは、金属ロール面から先端部に行くに従って細くなっており、かつ途中から徐々に金属ロール円周方向に曲がり、先端部は金属ロール面に僅かに近づく方向を向いている(すなわち二股形状)。あるいは、その途中で列方向の前後に分かれる二股形状(すなわちY字形状)を有し、二股形状に分かれていても、その二股に分かれた後の合計細さが基体付け根から先端部に行くに従って細くなっており、その先端部は金属路ロール面に僅かに近づく方向を向いていることが好ましい。
【0066】
このようにキャビティが曲がっていることから、キャビティから冷却された雄型係合素子を引き抜く際に、係合素子が切断され易いこととなるが、前記したような樹脂混合物を用いることにより、このような係合素子の切断の発生を防ぐことができる。
【0067】
金属ロール表面に溶融した樹脂または樹脂混合物を流し成形する具体的な方法としては、この金属ロールと相対する位置に存在する別のドラムロールとの隙間に前記樹脂または樹脂混合物の溶融物を押し出し、圧迫することによりそのキャビティ内に同樹脂または樹脂混合物を充填させると共にロール表面に均一な厚さを有するシートを形成し、金型ロールが回転している間にロール内を常時循環させている冷媒によりキャビティ内の同樹脂または樹脂混合物を冷却固化させるとともに、得られる雄型成形面ファスナーの基体が均一厚さとなるように隙間調整したニップローラーにより引き延ばし、そして冷却されたシートを金型ロール表面から引き剥がすとともに、該キャビティから雄型係合素子を無理やり引き抜く。これにより、表面に多数の雄型係合素子が列をなして並んでいる雄型成形面ファスナー層(I)が得られる。
【0068】
このようにして得られる雄型成形面ファスナー層(I)は、次の(1)と(2)のいずれかを満足している。
(1)複数の雄型係合素子が列をなして並んでおり、各雄型係合素子は、基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に(僅かに)近づく方向を向いている形状を有し、さらに1列単位であるいは複数列単位で曲がっている方向が逆となっており、雄型係合素子の高さが1.2mm以下である。あるいは、
(2)複数の雄型係合素子が列をなして並んでおり、各雄型係合素子は、基体表面から立ち上がり、その途中で列方向の前後に分かれる二股形状を有し、二股に分かれた先端部は基体表面に(僅かに)近づく方向を向いている形状を有し、さらに雄型係合素子の高さが0.6mm以下である。
もちろん、上記(1)を満足する雄型係合素子と上記(2)を満足する雄型係合素子が並存していてもよい。
【0069】
なお、上記(1)や(2)の雄型係合素子の先端部が基体に僅かに近づく方向を向いている具体的な程度としては、雄型係合素子の先端部での下端部が、雄型係合素子の頂部での下端部よりも、雄型係合素子の高さの2~15%基体に近づいている程度が好ましい。これらの値は、任意に選んだ10本の雄型係合素子の平均値から算出した値である。
【0070】
本発明において、雄型係合素子の高さとしては、上記(1)の形状の場合には、1.2mm以下、好ましくは0.6~0.95mm、上記(2)の形状の場合には、0.6mm以下、好ましくは0.3~0.5mmであり、この高さは、通常の成形面ファスナー或いは織物系面ファスナーの雄型係合素子の高さよりもかなり低い。この低い高さが生分解速度の加速に極めて重要である。ただ、余りに低すぎると、係合力が低下するので、上記範囲が好ましい。
【0071】
上記(1)の形状であろうとも、あるいは上記(2)の形状であろうとも、雄型係合素子の太さは、雄型係合素子の付け根から先端部に行くほど細くなっているのが好ましい。ただ前記したリング状金型を用いる場合には、必然的に雄型係合素子の幅(すなわち、リング状金型の厚さ)は、雄型係合素子の付け根から先端部に至るまでほぼ同一となる。
【0072】
このような雄型係合素子が立ち上がるベースとなる基体は、厚さが0.1~0.3mmの範囲であることが生分解性と柔軟性と強度の点で好ましい。そしてこのような基体上に存在する雄型係合素子の密度としては、 60~180個/cm
2,特に 90~150個/cm
2の範囲が好ましい。そして、雄型成形面ファスナー層(I)では、このような雄型係合素子が、
図1に示すように雄型係合素子(2)の曲がっている方向と同一の方向(
図1に示すPまたはQの方向)に列をなして並んでいるか、あるいは
図2に示すように雄型係合素子(2)の途中で、
図2に示すQ方向である前後の二股に分かれ、分かれた夫々は離れる方向(
図2に示すQの方向)に延びる形状を有し、離れる方向と同一方向に列をなして並んでいる。
【0073】
さらに本発明の生分解性表裏係合型面ファスナーにおいて、表面側となる雄型成形面ファスナー層(I)は、
図1や
図2に示すように、雄型係合素子の列が、基体から盛り上がる畝(4)の上に形成されているのが、高い係合力と生分解性の点で好ましい。このような畝の上に形成されているようにするためには、係合素子用のリング状金型の径を、係合素子を有しないリング状金型の径よりもわずかに小さくする方法やリング状金型の中心をずらす方法等が用いられる。この場合、畝状盛り上がり部の高さとしては、雄型係合素子の高さの2~30%が好ましい。
【0074】
本発明を構成する雄型成形面ファスナー層(I)の基体に、繊維層(II)の繊維が融着により直接接合されている。また、繊維層(II)の繊維ループが存在している面と雄型成形面ファスナー層(I)の雄型係合素子が突出している面が表裏の関係にあり、好ましくは背中合わせとなっている。この繊維層(II)を構成する繊維は、澱粉を実質的に含まないポリブチレンサクシネートからなる。繊維ループは、該雄型成形面ファスナーの表面に存在している雄型係合素子と係合可能であり、当該繊維ループは複数存在している必要があり、好ましくは多数そんざいしている。
【0075】
この繊維層(II)を構成する繊維は、澱粉を実質的に含まないポリブチレンサクシネートからなる。澱粉を含んでいる場合には、得られる繊維の強度が低下し、さらに雄型係合素子と高い係合力が得られない。生分解性に関しては、澱粉を実質的に含んでいなくとも、形状が細い繊維であることから満足できる生分解速度が得られる。
ここで、「澱粉を実質的に含まない」とは、繊維層(II)中における澱粉の含有量が5質量%以下であることを意味し、好ましくは1質量%以下、例えば0質量%である。
繊維中におけるポリブチレンサクシネートの含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは99質量%であり、例えば100質量%である。
【0076】
繊維層(II)としては、表面の繊維ループが繊維層表面から実質的に引き抜かれ難い構造を作り易い不織布層やトリコット編地層が好適な層として挙げられる。繊維層(II)が通常の面ファスナーのように織物層である場合には、表面に存在している繊維ループが織物基布から引き抜かれないようにするための方法として、通常用いられているバックコート樹脂を塗布する方法が考えられるが、バックコート樹脂を裏面に塗布した場合には、前記したように、雄型成形面ファスナー層(I)と繊維層(II)との熱融着性が大きく損なわれることとなり、またバックコート樹脂層による生分解性への悪影響も生じることとなる。それに対して、不織布層やトリコット編地層の場合には、交絡処理や編地構造により繊維ループの耐引き抜き性が十分に確保でき、さらに雄型成形面ファスナー層(I)との熱融着処理によっても耐引き抜き性が高められているためバックコート樹脂を塗布する必要がないというメリットを有している。
【0077】
そして繊維層(II)が不織布層である場合には、太さ1.0~4.0 デシテックスのポリブチレンサクシネート繊維からなる細繊維層(II―1)と太さ6~20デシテックスのポリブチレンサクシネート繊維からなる太繊維層(II―2)からなり、(II―1)と(II―2)の合計目付が20~200g/m2であり、さらに(II―1)が(I)側となるように基体裏面に接合されている場合が好ましく、このような2層構造を有していることにより、表面側の雄型係合素子との係合性に優れ、かつ基体裏面との接合強力に優れ、さらに繊維層(II)の形態保持性に優れた生分解性表裏係合型面ファスナーが得られる。そして、繊維層(II)が不織布層である場合には、不織布層を構成する細繊維層(II―1)と太繊維層(II―2)の目付質量比としては80:20~20:80の範囲が好ましく、より好ましくは30:70~70:30の範囲である。
【0078】
そして、太繊維層(II―2)を構成するポリブチレンサクシネート繊維が機械捲縮や立体捲縮等の捲縮を有しており、かつ太繊維層(II―2)と細繊維層(II―1)が水流絡合やニードルパンチにより絡合により繊維層(II)として一体化されているのが雄型係合素子との係合性の点で好ましい。
さらに太繊維層(II―2)と細繊維層(II―1)を構成する繊維は、長繊維であっても、あるいは短繊維であってもよいが、捲縮性や絡合性、ひいては雄型係合素子との係合性を考慮すると繊維長20~100 mmの短繊維が好ましく、更に好ましくは25~70mmの短繊維である。
【0079】
また繊維層(II)としてトリコット編地層を用いると、係合力と係合剥離を繰り返した後の係合力保持性に優れたものが得られることから好ましい。トリコット編地としては、片面にマルチフィラメント糸からなるループパイル層を形成させたものが好適例として挙げられ、さらにループパイル層を針布等で起毛処理することにより、ループパイル層を構成しているマルチフィラメント糸をバラけさせて係合力をより高めたトリコット編地も好適である。
【0080】
そして、このようなトリコット編地を構成する糸は、ポリブチレンサクシネートからなるマルチフィラメント糸である。このようなマルチフィラメント糸としては、4~20デシテックスのフィラメントが8~20本集束したトータル太さが50~250デシテックスのマルチフィラメント糸が係合力と係合剥離を繰り返した後の係合力保持性の点で好ましい。そしてトリコット編地の目付としては50~500g/m2が好ましい。また、より係合力を高めるためには引っ張り強度のタテ/ヨコ比が0.5~2.0の編地が好ましく、より好ましくは、1.1~1.6の編地である。なお、ここで言うタテやヨコとは、トリコット編地ならばループが連続して編み上げられている方向がタテ方向となる。
【0081】
ただ、ポリブチレンサクシネートは結晶化速度が極めて遅く、そのため通常の溶融紡糸では十分な結晶成長が得られず、破断伸度が120~170%と極めて伸張性の大きいマルチフィラメント糸しか得られない。このような破断伸度の大きいマルチフィラメント糸を編工程に用いるとマルチフィラメント糸の大きな伸度のために工程中にトラブルを招き易く、さらに得られたトリコット編地も係合により繊維ループが容易に引き延ばされて、安定な係合を得ることが難しいと言う問題点を有している。したがって、このような破断伸度の大きいポリブチレンサクシネート製のマルチフィラメント糸を用いてトリコット編地を作製すると、トリコット編地を製造すること自体が難しく、さらに十分な係合力や係合力保持性を有するトリコット編地が得られない。
【0082】
以上のことから、破断伸度を低くしたポリブチレンサクシネート製マルチフィラメント糸が好ましいこととなる。具体的には通常のポリブチレンサクシネート製のマルチフィラメント糸よりも紡糸速度を遅くし、延伸倍率を高め、熱処理を十分に行い、あるいは結晶化促進剤を樹脂に添加するなどして、結晶化度を高めたポリブチレンサクシネート製のマルチフィラメント糸とすることが好ましい。そして、具体的には破断伸度が50~100%、特に55~85%であるポリブチレンサクシネート製マルチフィラメント糸が好ましい。
【0083】
このような繊維層(II)を雄型成形面ファスナー層(I)に、好ましくはその裏面に熱圧着することにより接合一体化する。具体的には、繊維層(II)が部分的に熱圧着により溶融フィルム化されており、かつその溶融フィルム化された箇所で基体層裏面に繊維層(II)が直接接合されているのが好ましい。ここで言う繊維層(II)が部分的に熱圧着されて溶融フィルム化されているとは、繊維層(II)の表面面積の10~40%が熱融着されて、その部分の繊維が融けてフィルム化されている状態であって、好ましくは繊維層表面に直径20mmの円を描いた場合に、そのいずれの円内にも融着されている箇所と融着されていない箇所の両者が混在している状態が好ましく、より好ましくは、直径15mmの円のいずれにも両者が存在している場合である。
また
図5に示すように、雄型成形面ファスナー層(I)の端部に繊維層(II)の端部を、雄型係合素子(2)が存在している面が表面側、繊維ループ(8)が存在している面が裏面側となるように重ね合せ、この重ね合わさった部分(6)を熱圧着して、雄型係合素子(2)が表面、そして雄型係合素子が存在している場所から離れた場所の裏面に繊維ループ(8)が存在してように(すなわち雄型係合素子が存在している場所と繊維ループが存在している場所が背中合わせではなく、重ね合わさった場所を挟んでそこからそれぞれが遠ざかる方向に延びている)両者を接合してもよい。
【0084】
具体的な接合一体化方法としては、ポリブチレンアジペ―トが溶融する温度に加熱された加熱エンボスロールと表面が冷却されてポリブチレンアジペ―トが溶融しない温度に保った冷却ロールの間に、繊維層(II)が加熱エンボスロール側となるように、雄型成形面ファスナー層(I)と繊維層(II)との重ね合わせ物を挿入して、接合一体化する。その際に、雄型成形面ファスナー層(I)の表面に存在している雄型係合素子が熱により押し潰されないように、冷却ロールの温度を充分に低く保っておくことが好ましく、また雄型係合素子をシリコンゴム等の耐熱性のエラストマー樹脂で覆っておき、一体化後に同樹脂を剥離する方法を用いるのも好ましい。
【0085】
図3および
図4は、本発明の生分解性表裏係合型面ファスナーの一例の裏面側の熱融着状態を模式的に表す図であるが、
図3のように、熱圧着部分(6)が繊維層(II)の表面に網目のように存在していても、あるいは
図4のように、非熱圧着部分(7)が円形として残り、周りを熱圧着部分(6)が囲っているような形状でも、更には熱圧着部分が非連続状態で繊維層(II)の表面に存在しているような形状でもよい。
【0086】
すなわち、繊維層(II)が不織布である場合には、その係合素子面側(すなわち非接合面側)を構成する殆どの繊維の両末端や中間部の2か所が熱圧着により固定され、固定されていない箇所が繊維ループを形成することとなり、特に(II)の表面に非熱圧着部分が盛り上がっているような状態となっているのが係合力の点で好ましい。もちろん、繊維層(II)がトリコット編地である場合には、繊維ループは編地構造により充分に固定されていることから、繊維ループを熱圧着により固定する必要性は低い。
【0087】
そして、この熱圧着され溶融フィルム化された部分で雄型成形面ファスナー層(I)と繊維層(II)は熱圧着一体化されている。なお本発明において、雄型成形面ファスナー層(I)の裏面全面に繊維層(II)が一体化されている必要はなく、端部等の必要な箇所だけに繊維層(II)が一体化されていてもよい。
そして、このような雄型成形面ファスナー層(I)の端部だけが繊維層(II)と一体化されているという形態のひとつとして、
図5に示すように、雄型成形面ファスナー層(I)からなるテープ状物と繊維層(II)からなるテープ状物を、それぞれの端部の接合部(6)だけが重なるように重ね合せ、かつ雄型成形面ファスナー層(I)の雄型係合素子(2)が存在している面が表面側、そして繊維層(II)の繊維ループ(8)が存在している面が裏面側であって、雄型係合素子(2)が存在している面と繊維ループ(8)が存在している面がそれぞれ接合部(6)から遠ざかる方向に延びているように雄型成形面ファスナー層(I)と繊維層(II)を重ね合せ、そして重ね合わせた部分(6)を熱圧着して両者を接合することにより得られる、雄型成形面ファスナー層(I)の端部と繊維層(II)の端部を繋ぎ合わせたものが挙げられる。
このような雄型成形面ファスナー層(I)と繊維層(II)の端部同士を繋ぎ合わせる際には、
図5に示すように、接合部(6)において、雄型成形面ファスナー層(I)の雄型係合素子(2)が存在している面の端部と繊維層(II)の繊維ループ(8)が存在している面の端部を重ね合せ、重ね合わせた部分(6)以外の雄型係合素子が存在している面と繊維ループが存在している面はそれぞれ重ね合わせた部分(6)から遠ざかる方向に延びているように置き、その状態で重ね合わせた部分(6)を熱圧着して接合する場合と、それとは逆の、雄型成形面ファスナー層(I)の雄型係合素子が存在している面の反対側の面(裏面)の端部と繊維層(II)の繊維ループが存在している面の反対側の面(裏面)の端部を重ね合せ、重ね合わせた部分以外の雄型係合素子が存在している面と繊維ループが存在している面はそれぞれ重ね合わせた箇所から遠ざかる方向に延びているように置き、その状態で重ね合わせた部分を熱圧着して接合する場合の2通りがあり、本発明では、どちらの場合であってよい。生産性の点からは、上記した前者の場合が、重ね合わせた部分(6)で雄型係合素子(2)と繊維ループ(8)が係合して重ね合わせた部分が固定され、固定された状態で接合できることから、接合状態が安定し、確実に接合できることから好ましい。
図5は、この前者の場合の接合後の状態を示したものである。
さらに本発明において、雄型成形面ファスナーの雄型係合素子が存在している部分から延びる雄型係合素子が存在していない基体層、あるいは繊維層(II)の繊維ループが存在している部分から延びる繊維ループが存在しない基体層を用いて、雄型係合素子が存在している面が表面側、繊維ループが存在している面が裏面側であって、かつ雄型係合素子が存在している場所の裏面から離れた場所に繊維ループが存在してように接合してもよい。
そして、このように係合素子が存在している部分から延びる係合素子が存在しない基体層を利用して接合する場合には、雄型成形面ファスナー層(I)の方だけが雄型係合素子が存在しない基体層を利している場合であっても、あるいは繊維層(II)の方だけが繊維ループが存在しない基体層を利用している場合であっても、さらには両方とも係合素子が存在しない基体層を利用している場合であってもよい。
上記したような端部同士を繋ぎ合わせたテープ状物や係合素子が存在している部分から延びる係合素子が存在しない基体層を利用して接合したテープ状物も、表面側には雄型係合素子、裏面側には繊維ループが存在しているため、例えば棒状物や電線等を束ねて、それに同テープ状物を係合素子が存在している面を外側になるように巻き付け、そして周回後のテープ状物の裏面を重ね合わせることにより、端部に存在している雄型成形面ファスナー層(I)の雄型係合素子ともう一方の端部に存在している繊維層(II)の繊維ループを係合することとなり、束ねた状態を保持する結束テープとして使用できる。
このような雄型成形面ファスナー層(I)と繊維層(II)の端部同士を繋ぎ合わせて使用する場合には、繊維層(II)は単独で引っ張り等に対する強度を有している必要があり、そのためには繊維層(II)として、表面に繊維ループを有している織編物が好ましい。
このように、本発明において、雄型係合素子が存在している面と繊維ループが存在している面は
図1や
図2のように基体を挟んで背中合わせになって存在している必要はなく、
図5のように位置をずらして存在していてもよい。好ましくは、生分解性が最も効果を発揮し易いことから、
図1や
図2に示すような、雄型係合素子が存在している面と繊維ループが存在している面は接合された基体を挟んで背中合わせの状態となって存在している場合である。
本発明の一態様に係る生分解性表裏係合型面ファスナーは、前述の各種の生分解性表裏係合型面ファスナーにおいて、雄型成形面ファスナー層(I)の基体のうち雄型係合素子が突出している表面と反対側の表面(Is)と、繊維層(II)のうち繊維ループを有する表面と反対側の表面(IIs)とが、融着により直接接合されており、表面(Is)の面積の好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、よりさらに好ましくは100%が前記表面(IIs)により直接覆われている。また、表面(IIs)の面積の好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、よりさらに好ましくは100%が前記表面(Is)により直接覆われていてもよい。
【0088】
このようにして得られた本発明の生分解性表裏係合型面ファスナーは、使用後に廃棄された場合に自然環境中で速やかに分解するため、環境破壊をもたらすことがない。したがって、使用後は自然環境中に廃棄されるような用途分野、例えば、農林漁業や土木建築等の分野に用いられる縛り用または結束用のテープとして適している。
【0089】
具体的には、本発明の本発明の生分解性表裏係合型面ファスナーから、雄型係合素子の列方向が長さ方向となるように、かつ雄型係合素子と繊維ループの両方が存在するように、幅5mm~50mmで長さ50~500mmで、長さ/幅の比が8~100のテープ状に切り出し、このテープ状物を農林水産業用の縛り用または結束用のテープとして用いる。例えば、果実袋の開口部を縛り付ける縛りテープとして、収穫作物や花束の結束テープとして、苗木固定用テープ、農林業で用いられる仮固定用のテープとして使用できる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。これら実施例および比較例において、係合力はJIS L3416の方法に従い、得られた2枚の面ファスナーを用意し、一方の面ファスナーの表面側ともう一方の面ファスナーの裏面側を重ね合わせて、シアーとピールの両方を測定した。また生分解性は40℃の土中に埋設し、生分解性表裏係合型面ファスナーが分解されて雄型係合素子や基板シートが強度を失い、簡単にバラバラとなり面ファスナーの形態が消失するのに要する期間を測定した。なお裏面側の繊維層(II)は通常、表面側の雄型成形面ファスナー層(I)より速やかに生分解されてバラバラとなるが、雄型成形面ファスナー層(I)が繊維層(II)よりも急速に生分解される場合には、その旨を記した。
【0091】
実施例1
[成形用樹脂の準備]
ポリブチレンサクシネートとして三菱ケミカル社製のBio-PBSを50質量部、澱粉としてアミロース含有量80質量%のヒドロキシプロピルエーテル変性のトウモロコシ由来澱粉を43質量部、ポリビニルアルコールとしてデュポンケミカル社製Elvano71-30(ケン化度99.3%の完全鹸化ポリビニルアルコール)を1質量部、粘土としてジメチルジ(水素化獣脂)四級アンモニウムクロリドにより改質した天然モンモリロナイトを0.95質量部(澱粉に対して2.21質量%)、ステアリン酸を0.09質量部(澱粉に対して0.21質量%)、日本製紙株式会社製のセルロースナノ粉末を4.96質量部(澱粉に対して11.5質量%)用い、これら原料を以下の方法で混ぜ合わせた。
【0092】
具体的には、これら原料のうち、澱粉とポリビニルアルコールと粘土とステアリン酸と水は予めこれら原料だけでペレット化し、そして、このペレットと、セルロースナノ粉末を含有するポリブチレンサクシネートペレットをブレンドして溶融化して面ファスナーを成形する方法を用いた。すなわち、前記した工程(a)、工程(b)および工程(c)を順次行う方法を用い、そしてその際には、好適な条件として前記されている範囲内の条件を用い、さらにその際に粘土およびステアリン酸も混合してペレットしておき、それをポリブチレンサクシネートのペレットと雄型成形面ファスナーの成形時にブレンドする方法を用いた。さらに面ファスナーの成形時にも水を添加して、得られる雄型成形面ファスナー中の水分量を6質量部(澱粉に対して14.0質量%)とした。
【0093】
[成形用金型の準備]
金型として、波型形状の係合素子の形状を外円周上に彫った厚さ0.2mmで直径211.9mmのリング状金型、そのような形状を彫っていない外周面がフラットな厚さ0.3mmで直径212mmの金属製リング、上記波型形状の係合素子形状と逆の方向を向いている波型形状の係合素子形状を外円周上に彫った厚さ0.2mmで直径211.9mmのリング状金型、そのような形状を彫っていない外周面がフラットな厚さ0.3mmで直径212mmの金属製リングを順々に重ね合わせることにより、その外周表面に波型の係合素子形状のキャビティおよび逆方向を向いている波型の係合素子形状のキャビティを表面に多数有する幅120mmの金型ロールを用意した。
【0094】
[雄型成形面ファスナーの製造]
上記の金型ロールと相対する位置に存在する別のドラムロールとの隙間に原料をブレンドして溶融し、溶融物(温度:105℃)を押し出し、圧迫することによりそのキャビティ内に該溶融物を充填させると共にロール表面に均一な厚さを有するシートを形成し、金型ロールが回転している間にロール内に常時循環されている水によりキャビティ内の樹脂を冷却させたのち、基板厚さが0.20mmとなるように隙間調整したニップロールにより引き延ばすとともに冷却固化されたシートを金型ロール表面から引き剥がして、波型の係合素子を有する雄型成形面ファスナーを製造した。
【0095】
なお、この雄型成形面ファスナーでは、ポリブチレンサクシネートが連続相、澱粉が分散相となっていた。そしてこの雄型成形面ファスナーにおいて、複数の雄型係合素子が列をなして並んでおり、各雄型係合素子は、基体表面から立ち上がり、その途中から列方向に曲がり、その先端部は基体表面に僅かに近づく方向を向いている形状を有し、高さが0.8mmで、係合素子密度が136個/cm2であった。そして、雄型係合素子の列が、基体から盛り上がる高さ0.05mmの畝の上に形成されていた。
【0096】
そして、得られた雄型成形面ファスナーを成形する際の成形性(雄型係合素子が折れることなくキャビティから引き抜けるか、引き抜けてとしても途中で裂け目が入っていないか、基体層に裂け目等が入っていないか等)に関しては、全く問題がなかった。
【0097】
[不織布の製造]
ポリブチレンサクシネートからなる2.0デシテックスの太さを有する長さ51mmの機械捲縮付与繊維(引っ張り強度3.2g/dtex)からなる目付20g/m2の繊維ウエッブと、ポリブチレンサクシネートからなる10デシテックスの太さを有する長さ51mmの機械捲縮付与繊維(引っ張り強度3.5g/dtex)からなる目付100g/m2の繊維ウエッブを重ね合せ、両ウエッブを水流絡合させることにより不織布化した。
【0098】
[生分解性表裏係合型面ファスナーの製造]
前記雄型成形面ファスナーの裏面に前記不織布を、2.0デシテックスの繊維からなる面が雄型成形面ファスナーと接する面となるように重ね合わせ、そして、表面に格子状突起を有する加熱ロール(表面温度:100℃)と冷却ロール(表面温度:20℃)の間に不織布が加熱ロール側となるように挿入し、熱圧着させて、雄型成形面ファスナー層(I)の裏面に不織布層(II)を直接接合一体化した。裏面不織布層(II)の格子の大きさは1辺8mmの正方形であり、不織布層(II)の表面積の18%が熱圧着により溶融フィルム化されており、かつその溶融フィルム化された箇所で基体層裏面に不織布層(II)が直接接合されている状態であり、不織布層(II)の、雄型成形面ファスナー層(I)と接合されている面と反対側の面の表面には、該雄型係合素子と係合可能な繊維ループが多数存在し、その部分は熱圧着されている箇所よりも盛り上がっていた。
【0099】
このようにして得られた生分解性表裏係合型面ファスナーを2枚用意し、その表面と裏面を係合させて係合力を測定した結果、シアーは14.4N/cm2、ピールは1.43N/cmであり、いずれも、面ファスナーとして優れた係合力を有する物であることが分かった。さらに、得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの生分解性を測定するために、工場内の深さ2cmの土中に埋めて、2週間に一度の割合で、生分解の程度を観察したところ、22週で面ファスナー形状を保てない程度に雄型成形面ファスナー層(I)および不織布層(II)が、共にバラバラに分解されていることが分かった。
【0100】
この生分解性表裏係合型面ファスナーを、テープ長さ方向に平行に係合素子の列が長さ方向となるように、幅6mm長さ80mmのテープ状に切断し、このテープ状物を、ブドウの房を覆う袋の縛りテープとして使用したところ、使用後に畑に放置されたものでも、翌年にはテープ状物が殆ど見当たらず、生分解されて自然に戻ったものと推測された。
【0101】
実施例2
上記実施例1において、雄型成形面ファスナーの原料として、ポリブチレンサクシネートを70質量部、変性澱粉を25.8質量部、ポリビニルアルコールを0.6質量部、水分を3.6質量部(澱粉に対して14.0質量%)に変更し、クレイとステアリン酸の添加割合をそれぞれ0.57質量部及び0.052質量部(澱粉に対してそれぞれ2.2質量%、0.2質量%)添加し、それ以外は上記実施例1と同様に方法により、波型係合素子を有する雄型成形面ファスナーを製造した。成形する際の成形性に関しては実施例1のものと同様に何ら問題はなかった。
そして、この雄型成形面ファスナーの裏面に、上記実施例1と同様に方法により製造した不織布を重ね合せ、接合一体化した。
【0102】
このようにして得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの表面と裏面を係合させて係合力を測定した結果、シアーは15.7N/cm2、ピールは1.65N/cmであり、実施例1のものと同様に、面ファスナーとして優れた係合力を有していた。さらに、得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの生分解性を実施例1と同様に測定した結果、24週で面ファスナー形状を保てない程度に雄型成形面ファスナー層(I)および不織布層(II)が、共にバラバラに分解されていることが分かった。
【0103】
そして、この生分解性表裏係合型面ファスナーを、実施例1と同様にテープ状に切断し、ブドウの袋の縛りテープとして使用したところ、実施例1のものと同様に、回収し忘れた放置テープが翌年には殆ど見当たらず、生分解されて自然に戻ったものと推測された。
【0104】
比較例1
上記実施例1において、雄型成形面ファスナーの原料として、ポリブチレンサクシネートを19質量部、変性澱粉を68質量部、ポリビニルアルコールを2.5質量部、水分を8質量部(澱粉に対して11.8質量%)に変更し、クレイとステアリン酸の添加割合をそれぞれ1.84質量部及び0.27質量部(変性澱粉に対してそれぞれ2.7質量%、0.4質量%)添加し、それ以外は上記実施例1と同様に方法により、波型係合素子を有する雄型成形面ファスナーを製造した。この雄型成形面ファスナーでは、ポリブチレンサクシネートが分散相、澱粉が連続相となっており、成形面ファスナーでは、フック状係合素子の折れが多く見られ、さらに金型面からの面ファスナーの剥離が困難で、所々で面ファスナーの基体シートに裂けが生じた。
【0105】
また、このようにして得られた生分解性表裏係合型面ファスナー係合力を測定した結果、シアーは3.4N/cm2、ピールは0.51N/cmであり、実施例1のものよりはるかに低く、面ファスナーとしての実用性の点で問題を有する物であった。さらに、得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの生分解性を実施例1と同様に測定した結果、6週で雄型成形面ファスナー層(I)が面ファスナー形状を保てない程度にバラバラに分解されていることが分かり、余りにも生分解性速度が速く、一方、裏面側の不織布層(II)は6週間時点ではほとんどがまだ不織布形状を保っていた。
【0106】
実施例3
上記実施例1において、雄型成形面ファスナーの原料として、ポリブチレンサクシネートのみを用い、変性澱粉やポリビニルアルコールや水分やクレイやステアリン酸やセルロースナノ微粉末を使用せずに、実施例1と同様の形状に雄型成形面ファスナーを製造し、その裏面に実施例1と同様に不織布を接合一体化した。
【0107】
雄型成形面ファスナーの成形性に関しては、フック状係合素子の折れが所々観測され、また得られた面ファスナーの係合力を測定した結果、シアーは17.1N/cm2、ピールは1.71N/cmであり、係合力に関しては問題のないものであったが、得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの生分解性を実施例1と同様に測定した結果、表面側の雄型成形面ファスナー層(I)が、面ファスナー形状を保てない程度にバラバラに分解されるのに34週を要することが分かり、実施例1のものより生分解性の点で劣るものの、1年以内に完全に分解され、農林水産業用の縛り材として使用する上では致命的な問題とならないものであった。
【0108】
実施例4
上記実施例1において、原料は実施例1と同一であり、キャビティの形状を変えて、各雄型係合素子は、基体表面から立ち上がり、その途中で列方向の前後に分かれるY字型の二股形状を有し、その先端は基体表面に近づく形状を有し、高さが0.45mmであり、雄型係合素子の密度が147個/cm2である雄型成形面ファスナーを製造した。そして、この雄型成形面ファスナーの裏面に、上記実施例1と同様に方法により製造した不織布を重ね合せ、接合一体化した。
【0109】
このようにして得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの係合力を測定した結果、シアーは16.6N/cm2、ピールは2.70N/cmであり、実施例1のものと同様に、面ファスナーとして優れた係合力を有していた。さらに、得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの生分解性を実施例1と同様に測定した結果、22週で表面の雄型成形面ファスナー層(I)および裏面側の不織布層(II)が、共に面ファスナー形状を保てない程度にバラバラに分解されていることが分かった。
【0110】
そして、この生分解性表裏係合型面ファスナーを、実施例1と同様にテープ状に切断し、ブドウの袋の縛りテープとして使用したところ、実施例1のものと同様に、回収し忘れた放置テープが翌年には殆ど見当たらず、生分解されて自然に戻ったものと推測された。
【0111】
比較例2
上記実施例1において、雄型係合素子の高さが2.0mmで幅が0.3mmとなるようなキャビティを有するリング状金型に変更する以外は実施例1と同様の方法により、高さ1.8mmの波型係合素子を係合素子密度70個/cm2で有する雄型成形面ファスナーを製造した。そして、この雄型成形面ファスナーの裏面に、上記実施例1と同様に方法により製造した不織布を重ね合せ、接合一体化した。
【0112】
このようにして得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの係合力を測定した結果、シアーは17.8N/cm2、ピールは1.81N/cmであり、実施例1のものと同様に、面ファスナーとしては優れた係合力を有していた。しかしながら、得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの生分解性を実施例1と同様の方法で測定した結果、表面の雄型成形面ファスナー層(I)が生分解されるのに50週を要することが分かり、この比較例のものは、速やかに生分解するとは言えないものであった。高くて厚い雄型性係合素子が密集していることが原因である。
【0113】
比較例3
上記実施例3において、雄型係合素子の高さが1.0mmで幅が0.3mmとなるようなY字型キャビティを有するリング状金型に変更する以外は実施例3と同様の方法により、高さ1.0mmの波型係合素子を係合素子密度150個/cm2で有する雄型成形面ファスナーを製造した。そして、この雄型成形面ファスナーの裏面に、上記実施例1と同様に方法により製造した不織布を重ね合せ、接合一体化した。
【0114】
このようにして得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの係合力を測定した結果、シアーは18.2N/cm2、ピールは3.05N/cmであり、実施例1のものと同様に、面ファスナーとしては優れた係合力を有していた。しかしながら、得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの生分解性は、表面の雄型成形面ファスナー層(I)が生分解されるのに48週を要し、生分解性の遅いものであることが分かった。雄型係合素子が高くて厚く密集し、しかも雄型成形面ファスナーの表面を覆うようにY字形状に広がっていることが原因である。
【0115】
実施例5
上記実施例1において、雄型係合素子の高さが1.09mmで幅が0.25mmとなるようなキャビティを有するリング状金型に変更する以外は実施例1と同様の方法により、高さ1.06mmの波型係合素子を係合素子密度110個/cm2で有する雄型成形面ファスナーを製造した。そして、この雄型成形面ファスナーの裏面に、上記実施例1と同様に方法により製造した不織布を重ね合せ、接合一体化した。
【0116】
このようにして得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの係合力を測定した結果、シアーは20.3N/cm2、ピールは2.11N/cmであり、実施例1のものと同様に、面ファスナーとしては優れた係合力を有していた。そして、得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの生分解性は、表面の雄型成形面ファスナー層(I)が26週時点で生分解されてバラバラに分かれ、裏面の不織布層(II)はそれまでに完全に生分解されて不織布形状を有していなかった。このことから、この実施例のものは実施例1のものより僅かに劣るものの、速やかに生分解するものであった。
【0117】
実施例6
上記実施例3において、雄型係合素子の高さが0.42mmで幅が0.15mmとなるようなY字型キャビティを有するリング状金型に変更する以外は実施例3と同様の方法により、高さ0.45mmの波型係合素子を係合素子密度147個/cm2で有する雄型成形面ファスナーを製造した。そして、この雄型成形面ファスナーの裏面に、上記実施例1と同様に方法により製造した不織布を重ね合せ、接合一体化した。
【0118】
このようにして得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの係合力を測定した結果、シアーは17.7N/cm2、ピールは2.77N/cmであり、実施例1のものと同様に、面ファスナーとしては優れた係合力を有していた。そして得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの生分解性は、26週で表面の雄型成形面ファスナー層(I)および裏面の不織布層(II)がともに生分解されてバラバラに崩れるものであることが分かった。このことから、この実施例のものは適切な生分解性を有するものであることが分かった。
【0119】
実施例7
上記実施例1において、雄型成形面ファスナーの裏面側に接合する繊維層として、ポリブチレンサクシネートからなる8.8デシテックスのフィラメントが12本集束している破断伸度75%のマルチフィラメント糸(クラレ西条製)からなるトリコット編地の表面を起毛処理して繊維ループを表面に立ち上がらせた、片面が繊維ループで覆われた目付150g/m2のトリコット編地を用いる以外は実施例1と同様にして、生分解性表裏係合型面ファスナーを製造した。
【0120】
得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの表面と裏面を係合させて係合力を測定した結果、シアーは16.7N/cm2、ピールは1.68N/cmであり、面ファスナーとして優れた係合力を有していることが分かった。また係合剥離を30回繰り返したところ、シアーは16.1N/cm2、ピールは1.49N/cmであり、この点でも実施例1のものより優れた係合力保持性を有していることが分かった。そして、係合・剥離を50回繰り返したところ、トリコット編地から引き抜かれた繊維ループはさほど多くなく、トリコット編地の表面がそれによりランダムに盛り上がっているような見栄え上の問題点は見当たらなかった。
【0121】
さらに、この得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの生分解性を実施例1と同様に測定した結果、25週で面ファスナー形状を保てない程度に雄型成形面ファスナー層(I)およびトリコット編地層(II)が、共にバラバラに分解されていることが分かった。
【0122】
そして、この生分解性表裏係合型面ファスナーを、実施例1と同様にテープ状に切断し、ブドウの袋の縛りテープとして使用したところ、実施例1のものと同様に、地面に回収し忘れた放置テープが翌年には殆ど見当たらず、生分解されて自然に戻ったものと推測された。
【0123】
実施例8
上記実施例3において、雄型成形面ファスナーの裏面側に接する繊維層として、実施例7と同様のトリコット編地を用いる以外は実施例3と同様にして生分解性表裏係合型面ファスナーを製造した。
【0124】
得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの表面と裏面を係合させて係合力を測定した結果、シアーは19.8N/cm2、ピールは2.00N/cmであり、面ファスナーとして優れた係合力を有していることが分かった。また係合剥離を30回繰り返したところ、シアーは19.1N/cm2、ピールは1.79N/cmであり、この点でも実施例3のものより優れた係合力保持性を有していることが分かった。そして、係合・剥離を50回繰り返したところ、トリコット編地から引き抜かれた繊維ループはさほど多くなく、トリコット編地の表面がそれによりランダムに盛り上がっているような見栄え上の問題点は見当たらなかった。
【0125】
さらに、この得られた生分解性表裏係合型面ファスナーの生分解性を実施例3と同様に測定した結果、34週で面ファスナー形状を保てない程度に雄型成形面ファスナー層(I)およびトリコット編地層(II)が、共にバラバラに分解されていることが分かった。
【0126】
そして、この生分解性表裏係合型面ファスナーを、実施例3と同様にテープ状に切断し、ブドウの袋の縛りテープとして使用したところ、実施例3のものと同様に、地面に回収し忘れた放置テープが翌年には殆ど見当たらず、生分解されて自然に戻ったものと推測された。
【符号の説明】
【0127】
1:基体
2:波型の雄型係合素子
3:Y字型の雄型係合素子
4:畝状の盛り上がり
5:繊維層
6:繊維層が溶融フィルム化された箇所(接合部)
7:繊維層が溶融フィルム化されていない箇所
8:繊維ループ