(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-09
(45)【発行日】2025-07-17
(54)【発明の名称】半導体レーザ
(51)【国際特許分類】
H01S 5/12 20210101AFI20250710BHJP
【FI】
H01S5/12
(21)【出願番号】P 2023526743
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2021022054
(87)【国際公開番号】W WO2022259448
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】NTT株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】相原 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】松尾 慎治
(72)【発明者】
【氏名】開 達郎
(72)【発明者】
【氏名】土澤 泰
【審査官】佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-171173(JP,A)
【文献】国際公開第2020/145128(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/005700(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成された第1クラッド層と、
前記第1クラッド層の上に、導波方向に延在するコア形状に形成された活性層と、
前記活性層を挾んで前記活性層に接して形成されたp型半導体層およびn型半導体層と、
前記活性層の上に形成された
誘電体からなる第2クラッド層と、
前記p型半導体層および前記n型半導体層に接続するp電極およびn電極と
を備え、
共振器内に回折格子を備える半導体レーザであって、
前記回折格子は、前記共振器の前記第2クラッド層の側に形成され、かつ、前記共振器のコアと前記第2クラッド層との間の境界領域より離れて形成され
、
前記活性層と光結合可能な状態で前記第1クラッド層または前記第2クラッド層に埋め込まれて、前記活性層に沿って延在するコア形状に形成された光結合層をさらに備え、
前記回折格子は、前記第2クラッド層に埋め込まれて形成されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項2】
請求項
1記載の半導体レーザにおいて、
前記回折格子は、前記活性層と前記光結合層との間に形成されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項3】
請求項
1記載の半導体レーザにおいて、
前記回折格子は、前記光結合層の前記活性層が形成されていない側に形成されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項4】
請求項
1~
3のいずれか1項に記載の半導体レーザにおいて、
前記回折格子は、導波方向に前記光結合層と同じ幅に形成されていることを特徴とする半導体レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットなどにおける通信トラフィックの増加に伴い、光ファイバ伝送の高速・大容量化が求められている。この要求に対し、コヒーレント光通信技術およびデジタル信号処理技術を利用したデジタルコヒーレント通信技術の開発が進展し、100Gシステムが実用化されている。このような通信システムでは、送信用および受信用局発光源として、単一モードの半導体レーザが必要とされる。
【0003】
単一モード化のための光共振器の代表的な構造として、λ/4位相シフトを有する回折格子が用いられてきた。この構造では、共振器内に設けられる回折格子の一部に形成された位相シフタにより位相反転させ、ブラッグ波長における単一モード発振を可能とする。このレーザは、λ/4シフトDFB(Distributed Feedback)レーザと呼ばれ、すでに実用化されている。また、伝送距離の長延化および伝送容量の拡大に向けては、DFBレーザの高光出力化および狭線幅化が求められる。
【0004】
DFBレーザの高光出力化および狭線幅化のためには、DFBレーザの長尺化が有効である。しかしながら、DFBレーザの長尺化は、次の2つの問題により制限される。
【0005】
第1に、DFBレーザを長尺化すると、空間的ホールバーニングの影響により発振モードが不安定になるという問題がある。DFBレーザを長尺化すると、位相シフト領域に光が強く局在する。この強い光の局在領域では、キャリアが多く消費されることからキャリア密度が低下する。このように、レーザ内の光強度分布により、共振器内にキャリア分布が発生する現象を空間ホールバーニングと呼ぶ。キャリア密度の変化は、屈折率の変化をもたらす。これにより、共振器内部で屈折率に分布が発生する。屈折率の分布は、光共振器の反射率の低下やモード選択性の低下につながり、レーザの発振モードが不安定になる。
【0006】
第2に、DFBレーザを長尺化すると、共振器としての反射率が増加し、共振器内部での損失の影響を受けやすくなり、外部量子効率が低下するという問題がある。この問題により、結果として、高光出力化が制限される。
【0007】
これら問題の解決策として、DFBレーザの長尺化に伴い回折格子の結合係数を低下させることが有効である。すなわち、回折格子の結合係数を低下させることで、DFBレーザを長尺化させつつ共振器としての反射率を一定に保ち、上記問題が回避できる。
【0008】
一般に、回折格子は、半導体レーザを構成するIII-V族化合物半導体からなる活性層の一部に、周期的な凹凸を形成することでなされる(非特許文献1参照)。この凹凸の変化が小さければ、回折格子の結合係数は低下する。
【0009】
しかしながら、回折格子の形成においては、極めて微細な加工が必要であり、凹凸の変化を小さくすることには限界がある。すなわち、結合係数の低減には限界があり、それに伴いDFBレーザの長尺化には限界がある。例えば、結合係数を20cm-1にするための回折格子における凹凸の変化は、5nm以下と極めて小さく、製造上難しいことは明らかである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】S. Matsuo et al., "Directly modulated buried heterostructure DFB laser on SiO2/Si substrate fabricated by regrowth of InP using bonded active layer", Optics Express, vol. 22, no. 10, pp. 12139-12147, 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、DFBレーザの高光出力および狭線幅化に向けては、DFBレーザの長尺化が有効であるが、従来の技術では、DFBレーザの長尺化が、容易に実施できないという問題があった。
【0012】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、DFBレーザの長尺化が容易に実施できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る半導体レーザは、基板の上に形成された第1クラッド層と、第1クラッド層の上に、導波方向に延在するコア形状に形成された活性層と、活性層を挾んで活性層に接して形成されたp型半導体層およびn型半導体層と、活性層の上に形成された第2クラッド層と、p型半導体層およびn型半導体層に接続するp電極およびn電極とを備え、共振器内に回折格子を備える半導体レーザであって、回折格子は、共振器の第1クラッド層の側または第2クラッド層の側に形成され、かつ、共振器のコアと第1クラッド層または第2クラッド層との境界領域より離れて形成されている。
【0014】
また、半導体レーザの製造方法は、上述した半導体レーザの製造方法であって、回折格子と共振器との間の層の厚さを制御することで、回折格子と共振器との間隔を制御する。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、回折格子を、共振器のコアと第1クラッド層または第2クラッド層との境界領域より離して形成したので、DFBレーザの長尺化が容易に実施できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る半導体レーザの構成を示す断面図である。
【
図2A】
図2Aは、従来のDFBレーザの構成を示す断面図である。
【
図2B】
図2Bは、従来のDFBレーザの構成を示す断面図である。
【
図3A】
図3Aは、
図2Aを用いて説明した従来のDFBレーザにおける回折格子の結合係数の計算結果を示す特性図である。
【
図3B】
図3Bは、
図2Bを用いて説明した従来のDFBレーザにおける回折格子の結合係数の計算結果を示す特性図である。
【
図3C】
図3Cは、本発明の実施の形態に係る半導体レーザにおける回折格子の結合係数の計算結果を示す特性図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の実施の形態に係る他の半導体レーザの構成を示す断面図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の実施の形態に係る他の半導体レーザの構成を示す断面図である。
【
図4C】
図4Cは、本発明の実施の形態に係る他の半導体レーザの構成を示す断面図である。
【
図4D】
図4Dは、本発明の実施の形態に係る他の半導体レーザの構成を示す断面図である。
【
図4E】
図4Eは、本発明の実施の形態に係る他の半導体レーザの構成を示す断面図である。
【
図5A】
図5Aは、光結合層を有する構造において、光結合層の上面に直接溝を形成して回折格子を形成した場合の回折格子の結合係数の計算結果を示す特性図である。
【
図5B】
図5Bは、光結合層を有する構造において、光結合層の側面に直接溝を形成して回折格子を形成した場合の回折格子の結合係数の計算結果を示す特性図である。
【
図5C】
図5Cは、光結合層111を有する構造における回折格子110dの結合係数の計算結果を示す特性図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の実施の形態に係る半導体レーザの製造方法を説明する途中工程の半導体レーザの状態を示す断面図である。
【
図6B】
図6Bは、本発明の実施の形態に係る半導体レーザの製造方法を説明する途中工程の半導体レーザの状態を示す断面図である。
【
図6C】
図6Cは、本発明の実施の形態に係る半導体レーザの製造方法を説明する途中工程の半導体レーザの状態を示す断面図である。
【
図6D】
図6Dは、本発明の実施の形態に係る半導体レーザの製造方法を説明する途中工程の半導体レーザの状態を示す断面図である。
【
図6E】
図6Eは、本発明の実施の形態に係る半導体レーザの製造方法を説明する途中工程の半導体レーザの状態を示す断面図である。
【
図6F】
図6Fは、本発明の実施の形態に係る半導体レーザの製造方法を説明する途中工程の半導体レーザの状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る半導体レーザについて
図1を参照して説明する。この半導体レーザは、基板101の上に、導波方向に延在するコア形状に形成された活性層103を備え、共振器内に回折格子110を備えるDFB(Distributed Feedback)レーザである。
【0018】
この半導体レーザは、まず、基板101の上に第1クラッド層102が形成され、第1クラッド層102の上に、活性層103を備える。基板101は、例えば、Siから構成され、第1クラッド層102は、例えば、酸化シリコンから構成されている。また、活性層103を挾んで活性層103に接して形成されたp型半導体層104およびn型半導体層105を備える。また、活性層103の上に形成された第2クラッド層106と、p型半導体層104およびn型半導体層105に接続するp電極107およびn電極108とを備える。
【0019】
この例では、p型半導体層104およびn型半導体層105は、例えば、InPからなる半導体層121に不純物を導入することで形成されている。また、p型半導体層104とn型半導体層105との間において、活性層103は、半導体層121に埋め込まれて形成されている。
【0020】
上述した構成に加え、実施の形態に係る半導体レーザは、回折格子110が、共振器の第1クラッド層102の側または第2クラッド層106の側に形成され、かつ、共振器のコアと第1クラッド層102または第2クラッド層106との境界領域より離れて形成されている。実施の形態に係る半導体レーザは、回折格子110が、厚さ方向(積層方向)に、第1クラッド層102または第2クラッド層106の中に配置される。この例では、回折格子110が、共振器の第2クラッド層106の側に形成され、かつ共振器のコアとなる活性層103と第1クラッド層102との境界領域より離れて形成されている。境界領域とは、例えば、第2クラッド層106と活性層103との間の領域である。
【0021】
ここで、従来の横方向電流注入型のDFBレーザについて、
図2Aを参照して説明する。従来のDFBレーザは、
図1を用いて説明した半導体レーザとほぼ同様の構成を備える、横方向電流注入型のDFBレーザである(非特許文献1参照)。従来のDFBレーザは、共振器内の回折格子310が、活性層103と第2クラッド層106との境界領域に形成されている。
図2Aに示す例では、回折格子310は、半導体層121と第2クラッド層106との界面に形成されている。回折格子310は、活性層103の上部において、半導体層121に形成された、導波方向に配列される周期的な溝より構成されている。また、
図2Bに示すように、半導体層121の上に接して形成したSiNの層に形成された周期的な溝より、回折格子310aとする構成もある。
【0022】
次に、上述した各半導体レーザ(DFBレーザ)における、各々の回折格子の結合係数について、計算した結果を
図3A,
図3B,
図3Cに示す。
図3Aは、
図2Aを用いて説明した従来のDFBレーザにおける計算結果である。
図3Bは、
図2Bを用いて説明した従来のDFBレーザにおける計算結果である。
図3Cは、
図1を用いて説明した実施の形態に係る半導体レーザにおける計算結果である。
【0023】
例えば、
図3Aに示すように、半導体層121に溝を形成して回折格子310とする場合、回折格子310の溝の深さ(depth)が、僅か10nmであっても結合係数(kappa)は360cm
-1と大きな値となる。この場合、安定的な単一モードを実現するためには、DFB長としては50μm程度となり、高光出力および狭線幅は実現できない。
【0024】
また、
図3Bに示すように、半導体層121の上に接して形成したSiNの層に回折格子310aを形成する
図2Bの場合、
図2Aの構成に比較して低い結合係数が実現できる。この構成では、窒化シリコンの層の厚さが、回折格子310aの溝深さとなるが、例えば回折格子310aの溝の深さ(thickness)が10nmのとき、結合係数は75cm
-1となる。しかしながらこの場合においても、安定的な単一モードを実現するためには、DFB長としては240μm程度が限度となり、同様に高光出力および狭線幅は望めない。
【0025】
これらに対し、実施の形態によれば、
図3Cに示すように、より小さな結合係数を実現することができる。
図3Cでは、横軸に、活性層103と回折格子110との空間的な間隔(gap)を取っている。
図3Cに示すように、活性層103と回折格子110との間隔を大きくすることで、結合係数は0cm
-1に近づきながら減少することが分かる。
【0026】
従って、任意のDFB長を決め、決定したDFB長に合わせて最適な間隔を設定することで、回折格子110の反射率を上げすぎることなく、高光出力および狭線幅レーザが実現できる。例えば、間隔を300nmとすると結合係数は1cm-1となるため、DFB長としては10mmとすることが可能となる。この長さでは、従来よりも遥かに高光出力および狭線幅化が望める。
【0027】
【0028】
例えば、
図4Aに示すように、活性層103と光結合可能な状態で第1クラッド層102に埋め込まれて、活性層103に沿って延在するコア形状に形成された光結合層111をさらに備えることができる。この例では、回折格子110は、光結合層111が形成されていない側の第2クラッド層106に埋め込まれて形成されている。
【0029】
また例えば、
図4Bに示すように、回折格子110aは、光結合層111が形成される側の第1クラッド層102に埋め込まれて形成したものとすることができる。この例では、回折格子110aは、活性層103と光結合層111との間に形成されている。この場合、光結合層111および活性層103の両者(共振器)とクラッド層との境界領域より離れた箇所に、回折格子110aを配置する。光結合層111とクラッド層との境界領域は、光結合層111とクラッド層との界面となる。
【0030】
また例えば、
図4Cに示すように、回折格子110bは、光結合層111が形成される側の第2クラッド層106に埋め込まれて形成したものとすることができる。この例においても、回折格子110bは、活性層103と光結合層111との間に形成されている。
【0031】
また例えば、
図4Dに示すように、回折格子110cは、光結合層111が形成される側の第1クラッド層102に埋め込まれて形成し、回折格子110bは、光結合層111から見て、活性層103が形成されていない側に形成されたものとすることができる。また、
図4Eに示すように、回折格子110dは、光結合層111aが形成される側の第2クラッド層106に埋め込まれて形成し、回折格子110dは、光結合層111aから見て、活性層103が形成されていない側に形成されたものとすることができる。
【0032】
また、回折格子110,回折格子110a,回折格子110b,回折格子110c,回折格子110dは、導波方向に光結合層111と同じ幅に形成されたものとすることができる。
【0033】
上述したように、光結合層111を設けることで、活性層103と光結合層111とを合わせ、導波路モードとしてスーパーモードが形成される(参考文献)。このため、光結合層111の幅や厚さを調整することで、活性層103やp型半導体層104、n型半導体層105における光閉じ込めを自在に調整することができる。例えば、光結合層111の幅を広げ、光結合層111からなる光導波路の実効屈折率を、活性層103による光導波路(利得導波路)に対して相対的に高めると、光結合層111からなる光導波路への光閉じ込めが増大し、一方、活性層103やp型半導体層104、n型半導体層105への光閉じ込めは減少する。これは、光結合層111を備えない半導体レーザと比較して、光の吸収損失を低減させることができ、外部量子効率の増加に有効であることが知られている(参考文献)。
【0034】
以下では、
図4Eを用いて説明した光結合層111aを有する構造において、回折格子110dによる効果を
図5A,
図5B,
図5Cを参照して説明する。以下では、光結合層111aをSiNから構成した場合を例に説明する。なお、
図5Aは、実施の形態に係る半導体レーザの構成ではなく、光結合層の上面に直接溝を形成して回折格子を形成した場合の結果である。また、
図5Cは、実施の形態に係る半導体レーザの構成ではなく、光結合層の側面に直接溝を形成して回折格子を形成した場合の結果である。
図5Cが、
図4Eを用いて説明した光結合層111aを有する構造の計算結果である。
【0035】
図5Cに示すように、
図4Eを用いて説明した半導体レーザによれば、光結合層111aと第2クラッド層106との界面(境界領域)から離れた箇所に、回折格子110dを配置しているので、境界領域と回折格子110dとの間隔を大きくすることで、比較的低い結合係数が実現できることが分かる。すなわち、スーパーモード導波路を形成するDFBレーザにおいても前述と同じ効果が得られる。
【0036】
次に、本発明の実施の形態に係る半導体レーザの製造方法について、
図6A~
図6Fを参照して説明する。以下では、
図4Eを用いて説明した半導体レーザを例に、製造方法を説明する。
【0037】
まず、
図6Aに示すように、Siからなる基板101の上に、例えば、酸化シリコン(SiO
2)からなる第1クラッド層102を形成する。例えば、Siからなる基板101の表面を熱酸化することで、第1クラッド層102を形成することができる。次に、
図6Bに示すように、第1クラッド層102の上に、例えば、InPなどのIII-V族半導体などにより、半導体層121に埋め込まれた状態の活性層103、p型半導体層104、およびn型半導体層105を形成する(参考文献)。活性層103は、例えば、多重量子井戸構造とすることができる。
【0038】
次に、
図6Cに示すように、半導体層121の上に、第1誘電体層131、光結合層形成層132、第2誘電体層133,および回折格子形成層134を順次に形成する。例えば、第1誘電体層131および第2誘電体層133はSiO
2から構成することができるまた、光結合層形成層132および回折格子形成層134は、SiNから構成することができる。
【0039】
これらの層の形成において、半導体層121や活性層103などのすでに形成されているIII-V族化合物半導体の層を破壊しないように、500℃以下の低温条件で成膜などを実施する。例えば、上述した成膜方法として、電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いることができる。また、成膜における原料ガスは、重水素シランを用いることができる。これにより、通信波長帯における光吸収を抑制したSiNの層を形成することができる。
【0040】
なお、第1誘電体層131、光結合層形成層132、第2誘電体層133,および回折格子形成層134のいずれかは、厚さが100nm以下であれば、スパッタ法によって形成することができる。
【0041】
次に、公知のリソグラフィー技術により、回折格子形成層134の上に、回折格子形成用のマスクパターンを形成し、このマスクパターンを用いたドライエッチングにより回折格子形成層134をエッチング処理することで、
図6Dに示すように、第2誘電体層133の上に、回折格子層135を形成する。
【0042】
上述したエッチング処理では、第2誘電体層133の厚さ方向に、上面から一部もオーバーエッチングされる場合がある。ただし、後述するように、回折格子層135は、第2誘電体層133と同じ材料の層で埋め込まれるため、上述したオーバーエッチングの問題は回避される。従来の構成では、オーバーエッチングは生じれば、回折格子の溝深さが、設計値より大きくなり、形成される回折格子が、設計よりも大きな結合係数となり、低い結合係数の回折格子形成が困難となる。また、従来の構成では、浅い溝深さを形成しようとすると、エッチング時間を短くすることになるが、このような短時間の時間制御は困難である。これに対し、上述した実施の形態によれば、回折格子の溝の深さは、回折格子形成層の厚さにより決定され、オーバーエッチングにより、溝深さが変化するという問題が回避できることが特徴である。
【0043】
次に、回折格子層135、第2誘電体層133、光結合層形成層132、および厚さ方向に一部の第1誘電体層131をパターニングすることで、
図6Eに示すように、回折格子110dおよび光結合層111aを形成し、これらの間に第2誘電体層133aが挾まれたメサを形成する。例えば、回折格子層135の上にリソグラフィーによってメサ形状のマスクパターンを形成し、このマスクパターンを用いて上述した各層を一括でドライエッチングして加工することで、
図6Eに示す状態にすることができる。
【0044】
次に、回折格子110dおよび光結合層111aによるメサ部分を埋め込むように、第1誘電体層131および第2誘電体層133と同じ誘電体材料を堆積することで、
図6Fに示すように、第2クラッド層106を形成する。堆積した誘電体材料の層と、第2誘電体層133aおよび第1誘電体層131aが一体となって、第2クラッド層106となる。この後、各電極を形成することで、
図4Eに示す半導体レーザが得られる。
【0045】
厚さ方向に光結合層111aと回折格子110dとの間隔や、回折格子110dの溝深さは、第2誘電体層133や回折格子形成層134の厚さにより決定(制御)できる。この例において、第2誘電体層133が、回折格子110dと共振器との間の層となり、この厚さを制御することで、回折格子110dと共振器との間隔を制御することができる。従って、溝の深さをエッチング量やエッチング時間で決定する従来構造と比較して、実施の形態によれば、高精度かつ低い結合係数の回折格子による半導体レーザを作製することができる。
【0046】
また、第2誘電体層133や回折格子形成層134の厚さに加え、第1誘電体層131、光結合層形成層132、第2誘電体層133,および回折格子形成層134の屈折率を制御することでも、回折格子の結合係数を制御することができる。例えば、各層の形成(堆積)において、窒素および酸素を含む原料ガスの流量によって屈折率を制御することができ、結合係数の制御の自由度を上げられる。
【0047】
以上に説明したように、本発明によれば、回折格子を、共振器のコアと第1クラッド層または第2クラッド層との境界領域より離して形成し、第1クラッド層または第2クラッド層の中に配置されるようにしたので、回折格子の結合係数を、より容易に低くすることが可能となり、DFBレーザの長尺化が容易に実施できるようになる。
【0048】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【0049】
[参考文献]T. Aihara et al., "Membrane buried-heterostructure DFB laser with an optically coupled III-V/Si waveguide", Optics Express, vol. 27, no. 25, pp. 36438-36448, 2019.
【符号の説明】
【0050】
101…基板、102…第1クラッド層、103…活性層、104…p型半導体層、105…n型半導体層、106…第2クラッド層、107…p電極、108…n電極、110…回折格子、121…半導体層。