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特許7710267樹脂組成物、並びに接着フィルム、積層基板、電子部品、及び半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-10
(45)【発行日】2025-07-18
(54)【発明の名称】樹脂組成物、並びに接着フィルム、積層基板、電子部品、及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20250711BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20250711BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20250711BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250711BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20250711BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20250711BHJP
   C09J 4/00 20060101ALI20250711BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20250711BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20250711BHJP
   C09J 109/00 20060101ALI20250711BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250711BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20250711BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20250711BHJP
【FI】
C08L101/02
C08L9/00
C08L53/02
C08K3/013
C08K5/14
C09J7/35
C09J4/00
C09J11/04
C09J11/08
C09J109/00
B32B27/00 104
B32B27/34
H05K1/03 610P
H05K1/03 610R
H05K1/03 650
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2024558190
(86)(22)【出願日】2024-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2024003967
(87)【国際公開番号】W WO2024185371
(87)【国際公開日】2024-09-12
【審査請求日】2024-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2023033944
(32)【優先日】2023-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真樹
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/060046(WO,A1)
【文献】特開2011-225639(JP,A)
【文献】国際公開第2014/024678(WO,A1)
【文献】特開2011-068713(JP,A)
【文献】国際公開第2022/163505(WO,A1)
【文献】特開2018-001632(JP,A)
【文献】国際公開第2021/024679(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/010431(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/026829(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09J 4/00
C09J 7/35
C09J 11/00-11/08
C09J 109/00
B32B 27/00-27/42
H05K 1/03
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビニルベンジル基、マレイミド基の少なくともいずれか一方を有する熱硬化性樹脂と、
(B)1,2ビニル基を有するブタジエン骨格を有する化合物と、
(C)熱可塑性エラストマー成分と、を含み、
前記(B)成分の数平均分子量が、1000~10000であり、
前記(C)熱可塑性エラストマー成分が、1,2ビニル基を有するブタジエン骨格を有する化合物である場合、その数平均分子量は10,000を超え、1,000,000以下のものであり、
前記(A)成分100質量部に対し、前記(B)成分を10~200質量部含む、樹脂組成物(但し、未硬化のセミIPN型複合体と、ラジカル反応開始剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、未硬化のセミIPN型複合体が、ポリフェニレンエーテルと、側鎖に1,2-ビニル基を有する1,2-ブタジエン単位を分子中に40%以上含有し、かつ化学変性されていないブタジエンポリマー及び架橋剤から形成されるプレポリマーと、が相容化した未硬化のセミIPN型複合体であり、ラジカル反応開始剤がジアルキルパーオキサイド系ラジカル反応開始剤及びハイドロパーオキサイド系ラジカル反応開始剤を含む樹脂組成物を除く)。
【請求項2】
(A)ビニルベンジル基、マレイミド基の少なくともいずれか一方を有する熱硬化性樹脂と、
(B)1,2ビニル基を有するブタジエン骨格を有する化合物と、を含み、
前記(B)成分の数平均分子量が、1000~10000であり、
前記(B)成分が、(B2)スチレン-ブタジエンブロック共重合体を含み、
前記(A)成分100質量部に対し、前記(B)成分を10~200質量部含む、樹脂組成物(但し、未硬化のセミIPN型複合体と、ラジカル反応開始剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、未硬化のセミIPN型複合体が、ポリフェニレンエーテルと、側鎖に1,2-ビニル基を有する1,2-ブタジエン単位を分子中に40%以上含有し、かつ化学変性されていないブタジエンポリマー及び架橋剤から形成されるプレポリマーと、が相容化した未硬化のセミIPN型複合体であり、ラジカル反応開始剤がジアルキルパーオキサイド系ラジカル反応開始剤及びハイドロパーオキサイド系ラジカル反応開始剤を含む樹脂組成物を除く)。
【請求項3】
前記樹脂組成物の最低溶融粘度が、40,000Pa・s未満である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)成分が、末端にビニルベンジル基を有し、ポリフェニレン骨格を有する熱硬化性樹脂である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)成分が、スチレン骨格を有する化合物である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)成分が、スチレン-ブタジエンブロック共重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(B)成分が、下記構造式(1)で示されるスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、又はその水添物である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【化1】
(但し、前記構造式(1)中、m、o、p、qはそれぞれ独立に正の整数であり、nは0又は正の整数であり、o:p:q=1~20:60~98:1~20の関係を満たし、且つ、m:n=100:0~80:20の関係を満たす。)
【請求項8】
前記(B)成分のブタジエン骨格中に1,2ビニル構造が5~95質量%である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、(D)反応促進剤成分を含む、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記(D)成分が有機過酸化物である、請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
さらに、(E)無機フィラーを含む、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
樹脂組成物中の不揮発成分100質量%中に、前記(E)成分を50質量%以上含む、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記(A)成分と前記(B)成分の合計100質量部に対して、前記(E)成分を200質量部以上含む、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記樹脂組成物の最低溶融温度が、200℃未満である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物からなる接着フィルム。
【請求項16】
層間絶縁用である請求項15に記載の接着フィルム。
【請求項17】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を含む、積層基板。
【請求項18】
請求項16に記載の層間絶縁用の接着フィルムの硬化物を含む、積層基板。
【請求項19】
請求項18に記載の積層基板を含む、電子部品。
【請求項20】
請求項18に記載の積層基板を含む、半導体装置。
【請求項21】
請求項19に記載の電子部品を含む、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、並びに接着フィルム、積層基板、電子部品、及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末、通信基地局、先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driving Assistant System)などの通信電子機器に対して、通信速度の高速化、通信の大容量化が進んでおり、高周波信号を使用する5G通信網の構築が進んでいる。更に6G通信など、より高周波信号の使用検討も盛んになってきている。これらの高周波通信には電子基板が欠かせない部品となっている。
【0003】
一方、一般的な基板材料(例えば、FR-4)は、高周波通信において電気信号の伝送損失が大きいことがある。このため、伝送損失が小さい基板材料の開発が行われている。ここで、「FR-4」とは、「Flame Retardant Type 4」の略で、ガラス繊維の布にエポキシ樹脂をしみ込ませ熱硬化処理を施した材料のことである。基板材料の伝送損失を減らすには、基板材料に用いられる銅張積層板や、層間絶縁用の接着フィルムの誘電率、誘電正接を下げることが必要である。以下、「層間絶縁用の接着フィルム」を、単に「層間接着フィルム」ということがある。
【0004】
また、これらの高周波通信に用いられる基板については、軽量化、小型化のため、多層化して高集積することも必要となってくる。
【0005】
例えば、高周波用成形材料として、ポリフェニレンエーテルと、1,2ビニル構造を有するスチレン-ブタジエンブロック共重合体を含む、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示されたポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、低誘電特性でありながら耐熱性や耐水性を改善することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2021/024679号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高周波信号を処理する基板用の接着フィルムに関し、例えば、樹脂組成物中にシリカフィラーなどの無機フィラーを高充填する場合、その溶融粘度が高くなり、基板への埋め込み性が悪くなるという問題があった。例えば、溶融粘度が高いと、基板と基板を積層接着させる際に配線パターンなどへの埋込が困難になってしまう。
【0008】
特許文献1には、層間接着フィルムに求められる流動性(別言すれば、基板への埋め込み性)に関して一切言及されていない。また、特許文献1で評価されているポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、メタクリル変性ポリフェニレンエーテルのみである。
【0009】
高周波通信での使用を見据えた樹脂組成物として、低誘電特性でありながら基板への埋め込み性が良好な樹脂組成物の開発が切望されている。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明は、低誘電特性でありながら基板への埋め込み性が良好な樹脂組成物を提供する。更に、本発明は、このような樹脂組成物を用いた接着フィルム、積層基板、電子部品、及び半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下に示す樹脂組成物、並びに接着フィルム、積層基板、電子部品、及び半導体装置が提供される。
【0012】
[1] (A)ビニルベンジル基、マレイミド基の少なくともいずれか一方を有する熱硬化性樹脂と、
(B)1,2ビニル基を有するブタジエン骨格を有する化合物と、
(C)熱可塑性エラストマー成分と、を含み、
前記(B)成分の数平均分子量が、1000~10000であり、
前記(C)熱可塑性エラストマー成分が、1,2ビニル基を有するブタジエン骨格を有する化合物である場合、その数平均分子量は10,000を超え、1,000,000以下のものであり、
前記(A)成分100質量部に対し、前記(B)成分を10~200質量部含む、樹脂組成物(但し、未硬化のセミIPN型複合体と、ラジカル反応開始剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、未硬化のセミIPN型複合体が、ポリフェニレンエーテルと、側鎖に1,2-ビニル基を有する1,2-ブタジエン単位を分子中に40%以上含有し、かつ化学変性されていないブタジエンポリマー及び架橋剤から形成されるプレポリマーと、が相容化した未硬化のセミIPN型複合体であり、ラジカル反応開始剤がジアルキルパーオキサイド系ラジカル反応開始剤及びハイドロパーオキサイド系ラジカル反応開始剤を含む樹脂組成物を除く)。
[2] (A)ビニルベンジル基、マレイミド基の少なくともいずれか一方を有する熱硬化性樹脂と、
(B)1,2ビニル基を有するブタジエン骨格を有する化合物と、を含み、
前記(B)成分の数平均分子量が、1000~10000であり、
前記(B)成分が、(B2)スチレン-ブタジエンブロック共重合体を含み、
前記(A)成分100質量部に対し、前記(B)成分を10~200質量部含む、樹脂組成物(但し、未硬化のセミIPN型複合体と、ラジカル反応開始剤とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、未硬化のセミIPN型複合体が、ポリフェニレンエーテルと、側鎖に1,2-ビニル基を有する1,2-ブタジエン単位を分子中に40%以上含有し、かつ化学変性されていないブタジエンポリマー及び架橋剤から形成されるプレポリマーと、が相容化した未硬化のセミIPN型複合体であり、ラジカル反応開始剤がジアルキルパーオキサイド系ラジカル反応開始剤及びハイドロパーオキサイド系ラジカル反応開始剤を含む樹脂組成物を除く)。
【0013】
] 前記樹脂組成物の最低溶融粘度が、40,000Pa・s未満である、前記[1]に記載の樹脂組成物。
【0014】
] 前記(A)成分が、末端にビニルベンジル基を有し、ポリフェニレン骨格を有する熱硬化性樹脂である、前記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0015】
] 前記(B)成分が、スチレン骨格を有する化合物である、前記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0016】
] 前記(B)成分が、スチレン-ブタジエンブロック共重合体である、前記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0017】
] 前記(B)成分が、下記構造式(1)で示されるスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、又はその水添物である、前記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0018】
【化1】
(但し、前記構造式(1)中、m、o、p、qはそれぞれ独立に正の整数であり、nは0又は正の整数であり、o:p:q=1~20:60~98:1~20の関係を満たし、且つ、m:n=100:0~80:20の関係を満たす。)
【0019】
] 前記(B)成分のブタジエン骨格中に1,2ビニル構造が5~95質量%である、前記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0021】
[9] さらに、(D)反応促進剤成分を含む、前記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0022】
[10] 前記(D)成分が有機過酸化物である、前記[9]に記載の樹脂組成物。
【0023】
[11] さらに、(E)無機フィラーを含む、前記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0024】
[12] 樹脂組成物中の不揮発成分100質量%中に、前記(E)成分を50質量%以上含む、前記[11]に記載の樹脂組成物。
【0025】
[13] 前記(A)成分と前記(B)成分の合計100質量部に対して、前記(E)成分を200質量部以上含む、前記[11]に記載の樹脂組成物。
【0027】
14] 前記樹脂組成物の最低溶融温度が、200℃未満である、前記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0028】
15前記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物からなる接着フィルム。
16] 前記[15]に記載の樹脂組成物からなる層間絶縁用の接着フィルム。
【0029】
17] 前記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物を含む、積層基板。
[18] 前記[16]に記載の層間絶縁用の接着フィルムの硬化物を含む、積層基板。
【0030】
19] 前記[18]に記載の積層基板を含む、電子部品。
【0031】
[20] 前記[18]に記載の積層基板含む、半導体装置。
[21] 前記[19]に記載の電子部品を含む、半導体装置
【発明の効果】
【0032】
本発明の樹脂組成物は、誘電特性に優れ、且つ基板への埋め込み性にも優れるという効果を奏するものである。特に、(A)成分としてビニルベンジル基、マレイミド基の少なくともいずれか一方を有する熱硬化性樹脂を含むことにより、最低溶融粘度を低くすることができる。即ち、上述した(A)成分としての熱硬化性樹脂は結合エネルギーが高いことから反応が緩やかに進むため、その結果として最低溶融粘度が下がるものと考えられる。また、本発明の樹脂組成物は、熱硬化後において、優れた誘電特性、接着性、熱膨張係数、耐熱信頼性を有するものとなる。また、(B)成分としての1,2ビニル基を有するブタジエン骨格を有する化合物は、数平均分子量が1000~10000であることから、流動性及び熱膨張係数を好適な値とすることができる。
【0033】
また、本発明の接着フィルムは、本発明の樹脂組成物からなるものであり、誘電特性に優れ、且つ埋め込み性にも優れるという効果を奏する。更に、本発明の積層基板、電子部品、及び半導体装置は、本発明の樹脂組成物又は接着フィルムの硬化物を含むものであり、これまでに説明した本発明の効果を享受するものである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0035】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物の第一実施形態は、(A)ビニルベンジル基、マレイミド基の少なくともいずれか一方を有する熱硬化性樹脂と、(B)1,2ビニル基を有するブタジエン骨格を有する化合物と、を含む、樹脂組成物である。以下、(A)ビニルベンジル基、マレイミド基の少なくともいずれか一方を有する熱硬化性樹脂を、(A)成分ということがある。同様に、(B)1,2ビニル基を有するブタジエン骨格を有する化合物を、(B)成分ということがある。そして、本実施形態の樹脂組成物は、(B)成分の数平均分子量が、1000~10000である。
【0036】
本実施形態の樹脂組成物は、誘電特性に優れ、且つ基板への埋め込み性も良好である。特に、(A)成分としてビニルベンジル基、マレイミド基の少なくともいずれか一方を有する熱硬化性樹脂を含むことにより、最低溶融粘度を低くすることができる。即ち、上述した(A)成分としての熱硬化性樹脂は結合エネルギーが高いことから反応が緩やかに進むため、その結果として最低溶融粘度が下がるものと考えられる。また、本発明の樹脂組成物は、熱硬化後において、優れた誘電特性、接着性、熱膨張係数、耐熱信頼性を有するものとなる。また、(B)成分としての1,2ビニル基を有するブタジエン骨格を有する化合物は、数平均分子量が1000~10000であることから、流動性及び熱膨張係数を好適な値とすることができる。
【0037】
なお、本実施形態の樹脂組成物は、上述した(A)成分及び(B)成分に加えて、(C)熱可塑性エラストマー成分、(D)反応促進剤成分、(E)無機フィラーなどの他の成分を含んでいてもよい。以下、上述した各成分を、適宜、(C)成分~(E)成分ということがある。勿論、本実施形態の樹脂組成物は、(C)成分以外の更にその他の樹脂成分を含んでいてもよい。
【0038】
〔(A)成分〕
(A)成分は、ビニルベンジル基、マレイミド基の少なくともいずれか一方を有する熱硬化性樹脂である。(A)成分を含むことにより、最低溶融粘度を低くすることができる。即ち、ビニルベンジル基、マレイミド基の少なくともいずれか一方を有する熱硬化性樹脂は結合エネルギーが高いことから反応が緩やかに進むため、その結果として最低溶融粘度が下がるものと考えられる。一方で、例えばメタクリロイル基を有する熱硬化性樹脂は結合エネルギーが低いことで反応が急激に進むため、その結果として最低溶融粘度が上昇するものと推定される。
【0039】
(A)成分のビニルベンジル基を有する熱硬化性樹脂は、例えば、その末端にビニルベンジル基を有する熱硬化性樹脂を挙げることができる。このような熱硬化性樹脂として、末端にビニルベンジル基を有し、ポリフェニレン骨格を有する熱硬化性樹脂を挙げることができる。
【0040】
末端にビニルベンジル基を有し、ポリフェニレン骨格を有する熱硬化性樹脂は、例えば、下記一般式(2)で示される構造の化合物を挙げることができる。
【0041】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【0042】
上記一般式(2)中、-(O-X-O)-は、上記構造式(3)又は(4)で表される。
【0043】
構造式(3)中、R、R、R、R、及びRは、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基であり、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。R、R、及びRは、水素原子又は炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基であり、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0044】
構造式(4)中、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、水素原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基であり、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。-A-は、炭素数20以下の直鎖状、分岐状または環状の2価の炭化水素基である。
【0045】
また、一般式(2)中、-(Y-O)-は、上記構造式(5)で表される。-(Y-O)-では、1種類の構造又は2種類以上の構造が、ランダムに配列している。構造式(5)中、R18及びR19は、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基であり、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。R20及びR21は、水素原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基であり、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0046】
また、一般式(2)中、a及びbは、0~100の整数である。a及びbの少なくともいずれか一方は、0でない。
【0047】
構造式(4)における-A-としては、例えば、メチレン、エチリデン、1-メチルエチリデン、1,1-プロピリデン、1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)、1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)、シクロヘキシリデン、フェニルメチレン、ナフチルメチレン、及び1-フェニルエチリデン等の、2価の有機基が挙げられる。ただし、構造式(4)における-A-は、これらに限定されない。
【0048】
一般式(2)で示される化合物としては、R、R、R、R、R、R18、及びR19が炭素数3以下のアルキル基であり、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R20、及びR21が水素原子又は炭素数3以下のアルキル基であるものが好ましい。特に、構造式(3)又は構造式(4)で表される-(O-X-O)-が、下記構造式(6)、構造式(7)、又は構造式(8)で表される化合物であることがより好ましい。また、同様に、特に、構造式(5)で表される-(Y-O)-が、下記構造式(9)又は構造式(10)で表される化合物であるか、或いは、構造式(9)で表される化合物と構造式(10)で表される化合物とがランダムに配列した構造であることがより好ましい。
【0049】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0050】
一般式(2)で示される化合物の製造方法は、特に限定されない。例えば、一般式(2)で示される化合物は、以下の方法によって製造することができる。まず、2官能フェノール化合物と1官能フェノール化合物とを酸化カップリングさせることによって、2官能フェニレンエーテルオリゴマーを得る。次に、得られた2官能フェニレンエーテルオリゴマーの末端フェノール性水酸基を、ビニルベンジルエーテル化する。このようにして、一般式(2)で示される化合物を製造することができる。
【0051】
一般式(2)で示される化合物の数平均分子量は、1,000~3,000であることが好ましく、1,000~2,500であることが更に好ましく、1,000~2,000であることが特に好ましい。一般式(2)で示される化合物の数平均分子量を上記数値範囲とすることにより、溶解性、低誘電、流動性、耐熱性により優れたものとなる。例えば、数平均分子量が1,000以上であれば、樹脂組成物を塗膜状にした際に、べたつきが生じ難い。また、数平均分子量が3,000以下であれば、樹脂組成物における溶剤への溶解性の低下を有効に抑制できる。また、数平均分子量が上記数値範囲にある化合物を(A)成分として用いることにより、樹脂組成物における高周波での電気特性、及び硬化性が向上する。ここで、上記した数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、標準ポリスチレンによる検量線を用いた値とする。
【0052】
(A)成分は、一般式(2)で示される化合物を単独で用いてもよいし、一般式(2)で示される化合物の2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0053】
(A)成分の末端にビニルベンジル基を有する熱硬化性樹脂として、三菱ガス化学社製の商品名「OPE2St-2200」及び「OPE2St-1200」が挙げられる。
【0054】
また、(A)成分のマレイミド基を有する熱硬化性樹脂は、例えば、その末端にマレイミド基を有する熱硬化性樹脂を挙げることができる。
【0055】
(A)成分として用いられる末端にマレイミド基を有する熱硬化性樹脂は、例えば、下記一般式(11)で表される分子中に1個以上のマレイミド基を含有する化合物とすることができる。モノマレイミド化合物やポリマレイミド化合物が好適に使用でき、下記一般式(11)、(12)、(13)、(14)又は(15)に示されている。
【0056】
【化11】
(但し、上記一般式(11)中、R31は、r価の脂肪族性、脂環式、芳香族性、複素環式のいずれかである一価又は多価の有機基である。Xa及びXbは、水素原子、ハロゲン原子及び脂肪族性の有機基から選ばれた同一又は異なっていてもよい一価の原子又は有機基である。なお、rは1以上の整数を示す。)
【0057】
上記一般式(11)において、R31は、好ましくは、フェニル、アルキルフェニル、ジアルキルフェニル、アルコキシフェニル、ベンジル、ドデシル、アルキル、シクロアルキルである。また、Xa及びXbは、好ましくは、水素原子である。
【0058】
【化12】
(但し、上記一般式(12)中、R32は、脂肪族性、脂環式、芳香族性、複素環式のいずれかである一価又は二価の有機基である。また、sは、0又は1である。)
【0059】
上記一般式(12)において、sが0であり、R32が一価の基である場合、フェニル、アルキルフェニル、ジアルキルフェニル、アルコキシフェニル、ベンジル、ドデシル、アルキル、シクロアルキルであることが好ましい。また、上記一般式(12)において、sが1であり、R32が二価の基である場合、アルキレン、フルオレン、シクロへキシレン-アルキレン-シクロへキシレンであることが好ましい。
【0060】
【化13】
(但し、上記一般式(13)中、R33は、-C(Xc)-、-CO-、-O-、-S-、-SO-、又は連結する結合であり、それぞれ同一又は異なっていてもよい。Xcは、炭素数1~4のアルキル基、-CF、-OCH、-NH、ハロゲン原子又は水素原子を示し、それぞれ同一又は異なっていてもよい、なお、上記一般式(13)において、それぞれベンゼン環の置換位置は相互に独立である。また、t及びuは、0又は1~10の整数を示す。)
【0061】
一般式(11)又は(12)で示されるモノマレイミド化合物の具体例としては、N-フェニルマレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド、N-(4-メチルフェニル)マレイミド、N-(2,6-ジメチルフェニル)マレイミド、N-(2,6-ジエチルフェニル)マレイミド、N-(2-メトキシフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-ドデシルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
【0062】
一般式(13)又は(12)で表されるポリマレイミド化合物の具体例としては、1,2-ジマレイミドエタン、1,3-ジマレイミドプロパン、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-エチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、2,7-ジマレイミドフルオレン、N,N’-(1,3-フェニレン)ビスマレイミド、N,N’-(1,3-(4-メチルフェニレン))ビスマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)スルホン、ビス(4-マレイミドフェニル)スルフィド、ビス(4-マレイミドフェニル)エ-テル、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-(3-マレイミドフェノキシ)フェノキシ)ベンゼン、ビス(4-マレイミドフェニル)ケトン、2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(2-(3-マレイミドフェニル)プロピル)ベンゼン、1,3-ビス(1-(4-(3-マレイミドフェノキシ)フェニル)-1-プロピル)ベンゼン、ビス(マレイミドシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス[4-(3-マレイミドフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ビス(マレイミドフェニル)チオフェン、下記一般式(14)及び(15)等のような脂肪族性、脂環式、芳香族性及び複素環式のポリマレイミドなど(但し、各々異性体を含む)が挙げられる。
【0063】
【化14】
(但し、上記一般式(14)中、vは平均値で0~10である。)
【0064】
【化15】
(但し、上記一般式(15)中、wは平均値で0~10である。)
【0065】
プリント配線板としたときの耐湿性、耐熱性、破壊強度、金属箔引き剥がし強さ及び低熱膨張特性の観点からは、芳香族性のポリマレイミドが好ましい。その中でも、特に熱膨張係数を更に低める点では、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタンがより好ましく、破壊強度及び金属箔引き剥がし強さを更に高める点では、2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパンがより好ましい。
【0066】
また、接着フィルムとしたときの成形性を高める点では、緩やかな硬化反応となるモノマレイミドが好ましい。その中でもコストの点でN-フェニルマレイミドがより好ましい。そして、上記マレイミド化合物は単独でも、二種類以上を組み合わせて用いてもよく、又はこれら少なくとも一種以上のマレイミド化合物と一種以上の架橋剤とを併用して用いてもよい。
【0067】
マレイミド化合物とその他の架橋剤とを併用して用いる場合は、(A)成分中のマレイミド化合物の割合が50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上である。但し、他の架橋剤と併用して用いるよりも、マレイミド化合物を単独で用いるほうがより好ましい。
【0068】
また、(A)成分として用いられる末端にマレイミド基を有する熱硬化性樹脂は、例えば、下記一般式(16)で表されるマレイミド化合物であってもよい。
【0069】
【化16】
(但し、上記一般式(16)中、yは繰り返し数であり、1<y<5である。)
【0070】
一般式(16)で表されるマレイミド化合物中のGPC分析(RI)によるN,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-p-フェニレン)ビスマレイミドの含有量は通常90面積%以下であり、好ましくは10~80面積%、より好ましくは20~80面積%、更に好ましくは30~70面積%の範囲である。N,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-p-フェニレン)ビスマレイミドの含有量は90面積%以下であると、結晶性が低下するため溶剤溶解性が向上する。一方、N,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-p-フェニレン)ビスマレイミドの下限値は0面積%でも構わないが、10面積%以上であると反応性の低下が抑制できる。
【0071】
一般式(16)で表されるマレイミド化合物中のy=1のGPC分析(RI)による含有量は98面積%以下であることが好ましく、より好ましくは20~98面積%、更に好ましくは30~90面積%、特に好ましくは40~80面積%の範囲である。y=1の含有量が98面積%以下であると、耐熱性が良好となる。一方、y=1の下限値は0面積%でも構わないが、20面積%以上であると樹脂溶液の粘度が低下し、含浸性が良好となる。
【0072】
一般式(16)で表されるマレイミド化合物の軟化点は50~150℃であることが好ましく、より好ましくは80~120℃であり、更に好ましくは90~110℃、特に好ましくは95~100℃である。また、150℃での溶融粘度は0.05~100Pa・s、好ましくは0.1~40Pa・sである。
【0073】
一般式(16)で表されるマレイミド化合物は、下記一般式(17)で表される構造を有するときがより好ましい。一般式(16)においてマレイミド基が結合していないベンゼン環に対するプロピル基の置換位置がパラ位のときと比べて結晶性が低下するからである。
【0074】
【化17】
(但し、上記一般式(17)中、yは繰り返し数であり、1<y<5である。)
【0075】
これまでに説明した(A)成分としてのマレイミド化合物の数平均分子量は、400~3,000であることが好ましく、700~2500であることがより好ましい。マレイミド化合物の数平均分子量を上記数値範囲とすることにより、溶解性、低誘電、流動性、耐熱性により優れたものとなる。ここで、上記したマレイミド化合物の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、標準ポリスチレンによる検量線を用いた値とする。
【0076】
(A)成分としてのマレイミド化合物は、これまでに説明したマレイミド化合物を単独で用いてもよいし、2種以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
(A)成分のマレイミド基を有する熱硬化性樹脂として、ケイ・アイ化成社製のマレイミド樹脂(商品名「BMI70」)、及び日本化薬社製のマレイミド樹脂(商品名「MIR-5000-60T」)が挙げられる。
【0078】
〔(B)成分〕
(B)成分は、1,2ビニル基を有するブタジエン骨格を有する化合物である。(B)成分を含むことにより、接着性を向上させることができる。特に、1,2ビニル基を有するブタジエン含有樹脂は、スチレンとの共重合体やブロック共重合体の構造とすることで、より優れた接着性が実現される。また、(B)成分としての1,2ビニル基を有するブタジエン骨格を有する化合物は、数平均分子量が1000~10000である。このような数平均分子量とすることで、流動性及び熱膨張係数を良好なものとすることができる。ここで、(B)成分としての化合物の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、標準ポリスチレンによる検量線を用いた値とする。
【0079】
(B)成分としての化合物は、例えば、以下のような(B1)成分、(B2)成分、(B3)成分を挙げることができる。
【0080】
(B1)成分とは、1,2ビニル基を有するブタジエンコポリマーである。例えば、このような(B1)成分を用いることで、単量体の使用量を減じることが可能で、例えば、単量体を用いずとも好適な硬化体を得ることができる。一方で、1,2ビニル基を有するブタジエンコポリマーは、スチレン骨格を有していないため、密着性(特に、粗化面(M面)のピール強度)が弱くなる傾向がある。このようなブタジエンコポリマーは、1,2ビニル基を有し、その数平均分子量が1000~10000であれば特に限定はない。
【0081】
(B1)成分としては、日本曹達社製の1,2-ポリブタジエンホモポリマー(商品名「B-3000」、「B-1000」)や、部分水添された商品名「BI-3015」が挙げられる。
【0082】
(B2)成分とは、1,2ビニル構造を有するスチレン-ブタジエンブロック共重合体である。例えば、このような(B2)成分を用いることで、ピール強度を向上させ、且つ熱膨張係数を低減させることができる。
【0083】
(B2)成分は、ブタジエンブロックとスチレンブロックとを含むブロック共重合体である。スチレンブロックは、スチレンを重合したブロックであり、ブタジエンブロックはブタジエンを重合したブロックである。このようなスチレン-ブタジエンブロック共重合体は、1,2ビニル基を有し、その数平均分子量が1000~10000であれば特に限定はない。ブタジエンブロックは、下記式(18)で表される1,2結合構造のみ、又は、式(18)で表される1,2結合構造と式(19)で表される1,4結合構造からなる。
【0084】
【化18】
【0085】
(B2)成分の1,2ビニル構造を有するスチレン-ブタジエンブロック共重合体に含まれる、式(18)で表される1,2結合構造と、式(19)で表される1,4結合構造のモル比は、80:20~100:0であるのが好ましい。
【0086】
(B2)成分中のスチレンブロックとブタジエンブロックの重量比は、特に限定されないが、10:90~80:20、10:90~70:30、10:90~60:40、10:90~50:50、20:80~80:20、30:70~80:20、40:60~80:20などを挙げることができる。これらのうち、10:90~80:20、10:90~70:30、10:90~60:40、10:90~50:50であるのが好ましく、10:90~50:50であることがより好ましい。
【0087】
(B2)成分は、下記構造式(1)で示されるスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、又はその水添物であることが好ましい。
【0088】
【化19】
(但し、上記構造式(1)中、m、o、p、qはそれぞれ独立に正の整数であり、nは0又は正の整数であり、o:p:q=1~20:60~98:1~20の関係を満たし、且つ、m:n=100:0~80:20の関係を満たす。)
【0089】
上記構造式(1)で示されるようなスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体を(B)成分として用いることにより、ピール強度を向上させ、且つ熱膨張係数を低減させることができる。
【0090】
(B2)成分の製造方法は特に限定されないが、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体は、特開平6-192502号公報、特表2000-514122号公報、特開2007-302901号公報などに記載された方法及びそれに準ずる方法により製造することができる。
【0091】
(B2)成分としては、日本曹達社製の商品名「1,2-SBS-L42」及び「1,2-H-SBS-L」が挙げられる。
【0092】
(B3)成分は、1,2ビニル基を有するスチレン-ブタジエンコポリマーである。このようなスチレン-ブタジエンコポリマーは、1,2ビニル基を有し、その数平均分子量が1000~10000であれば特に限定はない。このようなスチレン-ブタジエンコポリマーは疎水的であり、極性基が少ない。そのため、樹脂組成物に添加することで低誘電特性を良化することができる。更に、比較的分子量が小さいことによって、疎水的骨格でありながら、トルエンなどの非極性有機溶媒だけでなく、メチルエチルケトンなどの極性有機溶媒にも高い溶解性を示す。そのため、樹脂組成物とする際に各種溶媒に溶解しやすく、溶媒に溶解させて樹脂ワニスとした場合にワニス安定性に優れるという利点がある。一方で、(B3)成分は、ブロック共重合体ではなく、ランダムコポリマーのため、密着性(光沢面(S面)のピール強度)が弱い傾向がある。即ち、フェニル基が並んでいないと、平面での強度が発現し難くなると推測される。
【0093】
また、スチレン-ブタジエンコポリマーは液状であることにより、樹脂組成物の可撓性が向上し、半硬化状態にした際の樹脂組成物のハンドリング性(粉落ち等)が向上するという利点もある。
【0094】
(B3)成分は、特に、分子中に架橋性の1,2-ビニルを有するスチレン-ブタジエンコポリマーであることが好ましく、それにより、主鎖に1,4-結合を多く有する一般的なスチレン-ブタジエンポリマーと比べて反応性を有する。また、数平均分子量が10000以下と低いため、スチレン-ブタジエンコポリマー中の1,2-ビニル基の反応性もより高くなると考えられる。それらのことから、硬化反応に寄与し、樹脂がブリードすることなく成形した後の外観に優れると考えられる。
【0095】
より具体的には、(B3)成分として、例えば、下記式(20)に示す構造を有するスチレン-ブタジエンコポリマー等が挙げられる。
【0096】
【化20】
【0097】
上記式(20)はスチレン-ブタジエンコポリマーの一例であるが、上記式(20)中、dは1,2ビニル基、eはスチレン基、fは1,4-結合をそれぞれ示している。
【0098】
1,2ビニル基を有する構造単位として、例えば、下記式(21)の構造単位等が挙げられる。また、1,4-結合を有する構造単位としては、例えば、下記式(22)の構造単位等が挙げられる。更に、スチレン基として、例えば、下記式(23)の構造単位等が挙げられる。
【0099】
【化21】
【0100】
【化22】
【0101】
【化23】
【0102】
1,2-ビニル基を有するスチレン-ブタジエンコポリマーとしては、式(21)の構造単位の繰り返し構造と、式(23)の構造単位の繰り返し構造を有しているものが好ましい。更に、式(22)構造単位の繰り返し構造を含んでもよい。
【0103】
(B3)成分のスチレン-ブタジエンコポリマーにおいて、その分子中のスチレン含有量が50質量%以下であり、ブタジエン含有量が50質量%以上であることが好ましく、更には、スチレン含有量が20~50質量%、ブタジエン含有量が50~80質量%であることがより好ましい。すなわち、上記式(20)で示すd、e、fの関係はそれぞれ:
e/(d+e+f)=20~50%
(d+f)/(d+e+f)=50~80%
となることが好ましい。スチレン含有量が上記範囲にあることにより、高Tg、密着性などにバランスよく優れた樹脂組成物を得ることができると考えられる。また、ブタジエン含有量が上記範囲にあることにより確実に樹脂組成物の弾性率を低減でき、ひいては積層板にした際の面方向の熱膨張係数を低減することができると考えられる。面方向の熱膨張係数が低減できれば、パッケージ基板などにおいて基板の反りを低減することができる。スチレン-ブタジエンコポリマー中のスチレン及びブタジエン含有量は、例えば、核磁気共鳴分光法(NMR)によって測定することができる。
【0104】
(B3)成分のスチレン-ブタジエンコポリマーとしては、例えば、CRAY VALLEY社製の商品名「Ricon181」及び「Ricon100」が挙げられる。
【0105】
(B)成分としての化合物は、スチレン骨格を有する化合物であることが好ましく、例えば、これまでに説明した(B1)成分、(B2)成分及び(B3)成分のうちでは、熱膨張係数、密着強度、耐熱信頼性の観点から、(B2)成分の1,2ビニル構造を有するスチレン-ブタジエンブロック共重合体がより好ましい。
【0106】
(B)成分の数平均分子量は、1000~10000であれば特に制限はないが、例えば、好ましくは1000~8000であり、更に好ましくは1000~5000であり、特に好ましくは3500~5000である。なお、樹脂組成物からなるフィルムにおける数平均分子量を測定する際には、例えば、当該フィルムを溶剤に溶かし、溶剤に溶かした成分中の数平均分子量を測定すればよい。
【0107】
また、(B)成分としての化合物は、そのブタジエン骨格中に1,2ビニル構造が5~95質量%であることが好ましく、10~95質量%であることが更に好ましく、20~95質量%であることが特に好ましい。ブタジエン骨格中の1,2ビニル構造を上記数値範囲とすることで、最低溶融粘度を下げる点で利点がある。例えば、このような化合物として、1,2ビニル構造を5~95質量%含むブタジエン樹脂が挙げられる。1,2ビニル構造の含有比率は、FT-IR、NMRなどによって測定することができる。
【0108】
(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、10~200質量部であることが好ましい。このように構成することによって、(A)成分との反応により耐熱性、耐薬品性の点で利点がある。なお、特に限定されることはないが、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、15~190質量部であることがより好ましく、20~100質量部であることが更に好ましい。
【0109】
〔(C)成分〕
(C)成分は、熱可塑性エラストマー成分である。熱可塑性エラストマー成分としては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマーや水添スチレン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。ここで、水添スチレン系熱可塑性エラストマーとは、水素添加されたスチレン系熱可塑性エラストマーのことであり、水添スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレンブロックコポリマー(一部水添、SBBS)や、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロックコポリマー(完全水添、SEBS)が挙げられる。水添スチレン系熱可塑性エラストマーを用いることで、誘電特性を向上させることができる。なお、(C)成分がスチレン系熱可塑性エラストマーである場合、(C)成分のスチレン比率は10~50%であることが好ましく、15~40%であることがより好ましく、20~35%であることが更に好ましい。(C)成分のスチレン比率を上記数値範囲とすることにより成膜性や作業性に優れる。
【0110】
(C)成分の熱可塑性エラストマー成分は、特に限定されることはないが、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロックコポリマー(SEBS)であることが好ましい。(C)成分をスチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロックコポリマー(SEBS)とすることにより、耐熱性、及びフィルム性に優れたものとなる。
【0111】
(C)成分の熱可塑性エラストマー成分の数平均分子量は、特に限定されることはないが、例えば、10,000~1,000,000であることが好ましく、20,000~500,000であることが更に好ましく、20,000~200,000であることが特に好ましい。なお、(C)成分が、1,2ビニル基を有するブタジエン骨格を有する化合物である場合、(C)成分の数平均分子量は10,000を超えるものとする。
【0112】
(C)成分の含有量については特に制限はないが、例えば、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(C)成分を10~150質量部であることが好ましく、15~100質量部であることが更に好ましい。(C)成分の含有量がこの範囲であることにより、(C)成分を含有することによる効果である耐熱性、及びフィルム性がより優れたものとなる。
【0113】
〔(D)成分〕
(D)成分は、反応促進剤成分である。(D)成分としての反応促進剤成分は、(A)成分及び(B)成分の反応を促進させるための添加剤である。このような(D)成分を含むことにより、反応開始温度が低温側にシフトし、樹脂組成物の硬化が促進される。
【0114】
(D)成分の反応促進剤成分は、(A)成分及び(B)成分の反応を促進させるものであればよく、従来公知の反応促進剤成分を用いることができる。例えば、反応促進剤成分としては、有機過酸化物、無機過酸化物、アゾ系化合物を挙げることができる。(D)成分の反応促進剤成分としては、有機過酸化物が好ましい。
【0115】
有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、イソノナノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシドなどのジアシルパーオキサイド類;2,2-ジ(4,4-ジ-(ジ-tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパンなどのパーオキシケタール類;イソプロピルパージカーボネート、ジ-sec-ブチルパージカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパージカーボネート、ジ-1-メチルヘプチルパージカーボネート、ジ-3-メトキシブチルパージカーボネート、ジシクロヘキシルパージカーボネートなどのパーオキシジカーボネート類;tert-ブチルパーベンゾエート、tert-ブチルパーアセテート、tert-ブチルパー-2-エチルへキサノエート、tert-ブチルパーイソブチレート、tert-ブチルパーピバレート、tert-ブチルジパーアジペート、クミルパーネオデカノエート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサンなどのパーオキシエステル類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類;ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ジ-tert-ヘキシルパーオキサイド、ジ(2-tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルパーオキサイド類;クメンヒドロキシパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、p-メンタハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類等を使用することができる。使用される有機過酸化物に特に制限はないが、樹脂組成物を硬化させる際に、例えば、60~80℃程度の乾燥工程が必要となることが多いため、10時間半減期温度が100~140℃のものを用いることが好ましい。更に、10時間半減期温度は110~130℃のものがより好ましい。
【0116】
(D)成分の有機過酸化物としては、日本油脂社製の有機過酸化物、商品名「パークミルD」及び商品名「パーブチルC」等が挙げられる。(D)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0117】
また、(D)成分を含有する場合、(D)成分の含有量は、組成物中の樹脂成分100質量部に対して、0.1~5.0質量部であることが好ましく、0.5~3.0質量部であることが更に好ましい。このように構成することによって、耐熱性や接着性を良好に向上させることができる。
【0118】
〔(E)成分〕
(E)成分は、無機フィラーである。無機フィラーには、絶縁性と低熱膨張係数が求められる。無機フィラーとしては、一般的な無機フィラーを用いることができる。
例えば、無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、硫酸石灰、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、チタン酸カリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素等が挙げられる。無機フィラーは単独でも、2種以上併用してもよい。特に、絶縁性の点からは、シリカフィラー、アルミナフィラーが好ましい。また、誘電特性及び熱膨張係数の観点からは、シリカフィラーが好ましい。無機フィラーは、アクリル、メタクリル、スチリル、アミノ、エポキシ、ビニルから選ばれる1種以上の官能基を有するシランカップリング剤で表面処理されていてもよい。例えば、無機フィラーは、アミノシラン系カップリング剤、ウレイドシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、ビニルシラン系カップリング剤、スチリルシラン系カップリング剤、アクリレートシラン系カップリング剤、イソシアネートシラン系カップリング剤、スルフィドシラン系カップリング剤、オルガノシラザン化合物、チタネート系カップリング剤等の表面処理剤で表面処理してその耐熱性、耐湿性、分散性を向上させたものが好ましい。これらは1種又は2種以上組み合わせて使用してもよい。より好ましくは、表面処理したシリカフィラーの中でも、ビニルシラン系カップリング剤で表面処理されたシリカフィラーを用いることが好ましい。ビニルシラン系カップリング剤で表面処理されたシリカフィラーを用いることで、熱膨張係数を良好にすることができる。
【0119】
無機フィラーの形状は、特に限定されず、球状、りん片状、針状、不定形等が挙げられる。流動性の点から、球状が好ましい。平均粒子径は、0.1~10μmであることが好ましく、0.1~4μmであることが更に好ましい。無機フィラーの平均粒子径がこの範囲であることで、微細構造間への埋め込み性に優れる。平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって測定した、体積基準での粒度分布における積算値50%での粒径である。平均粒子径は、例えば、レーザー散乱回析法粒度分布測定装置:LS13320(ベックマンコールター社製、湿式)により測定できる。
【0120】
樹脂組成物に(E)成分を含有する場合には、樹脂組成物中の不揮発成分100質量%中に、(E)成分を50質量%以上含むことが好ましく、50~90質量%含むことがより好ましく、50~85質量%含むことが更に好ましい。また、(E)成分の含有量を、(A)成分と(B)成分の合計量に対する比率で規定した場合には、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(E)成分を200質量部以上含むことが好ましく、200~900質量部含むことがより好ましく、400~900質量部含むことが更に好ましい。このように構成することによって、熱膨張係数を良好にすることができる。
【0121】
〔その他の成分〕
本実施形態の樹脂組成物は、これまでに説明した(A)成分~(E)成分以外の成分を更に含んでいてもよい。例えば、その他の成分としては、溶剤、シランカップリング剤、難燃剤、顔料等の各種添加剤などを挙げることができる。また、(A)成分~(C)成分以外に、更にその他の化合物(例えば、その他の樹脂成分)を更に含んでいてもよい。その他の樹脂成分としては、例えば、基板への埋め込み性をさらに良好にする観点でイソシアヌル酸(ジアリル化イソシアヌル酸誘導体)が挙げられ、市販品としては四国化成工業社の商品名「L-DAIC」が挙げられる。
【0122】
〔樹脂組成物の特性〕
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、以下に示す特性を有していることが好ましい。樹脂組成物の最低溶融粘度が、40,000Pa・s未満であることが好ましい。このように構成することによって、基板への埋め込み性が極めて良好なものとなる。
【0123】
樹脂組成物が(E)成分としての無機フィラーを含まない場合、樹脂組成物の最低溶融粘度は、10Pa・s以上、40,000Pa・s未満であることがより好ましく、100Pa・s以上、30,000Pa・s未満であることが更に好ましく、1,000Pa・s以上、10,000Pa・s未満であることが特に好ましい。なお、樹脂組成物中の不揮発成分100質量%中の(E)成分の含有割合が50質量%未満の場合においても、樹脂組成物の最低溶融粘度は、上述した場合と同様に10Pa・s以上、40,000Pa・s未満であることがより好ましく、100Pa・s以上、30,000Pa・s未満であることが更に好ましい。
【0124】
一方で、樹脂組成物中の不揮発成分100質量%中の(E)成分の含有割合が50質量%以上の場合は、樹脂組成物の最低溶融粘度は、100Pa・s以上、40,000Pa・s未満であることがより好ましく、1,000Pa・s以上、40,000Pa・s未満であることが更に好ましく、5,000Pa・s以上、30,000Pa・s未満であることが特に好ましい。
【0125】
樹脂組成物の最低溶融温度が、200℃未満であることが好ましく、80℃以上、200℃未満であることがより好ましく、100℃以上、180℃未満であることが更に好ましい。
【0126】
樹脂組成物の最低溶融粘度(Pa・s)及び最低溶融温度(℃)は、以下の方法によって測定することができる。まず、剥離処理されたPETフィルム上に、樹脂組成物を含む溶解液をナイフ方式で塗布する。その後、PETフィルム上の溶解液を、温度80℃で2分、100℃で2分、130℃で2分と連続的に乾燥させて、厚さ50μmの樹脂フィルムを作製する。このようにして作製した樹脂フィルムを、厚さが300μmになるように積層し、レオメータによる溶融粘度を測定する。その時の最低溶融粘度、最低溶融温度を読み取り、読み取った値を、樹脂組成物の最低溶融粘度(Pa・s)及び最低溶融温度(℃)とする。測定の条件は、直径5mmのパラレルプレートを用い、荷重50gf、ひずみ1%、周波数10Hz、5℃/minで50~200℃まで測定することとする。PETフィルム上に塗布する溶解液(樹脂組成物を含む溶解液)は、溶剤としてのトルエンに、樹脂組成物を構成する各成分を溶解させて調製することができる。この際、樹脂組成物が(E)成分としての無機フィラーを含まない場合は、溶解液中の固形分濃度が30質量%となるように溶解液を調製する。一方、樹脂組成物が(E)成分としての無機フィラーを含む場合は、溶解液中の固形分濃度が60質量%となるように各成分を溶解・分散させて溶解液を調製する。
【0127】
〔樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態の樹脂組成物は、慣用の方法により製造することができる。本実施形態の樹脂組成物は、これまでに説明した各成分を、例えば、ライカイ機、ポットミル、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサー等を用いて混合することで製造することができる。
【0128】
〔樹脂組成物の用途〕
本実施形態の樹脂組成物は、電子部品に使用する接着剤や接着フィルム用の樹脂組成物として好適に用いることができる。また、本実施形態の樹脂組成物は、多層配線基板用の層間接着用ボンディングシートや層間接着剤としても好適に用いることができる。特に、本実施形態の樹脂組成物は、層間絶縁用の接着フィルムとして好適に用いることができる。本実施形態の樹脂組成物を電子部品用の各種用途に用いる場合、接着対象となる電子部品については特に制限はなく、セラミック基板や有機基板などの各種プリント配線基板、半導体チップ、半導体装置等が挙げられる。また、本実施形態の樹脂組成物は、FO-WLP(ファンアウトウェハレベルパッケージ)の再配線層における誘電体層としても好適に用いることができる。
【0129】
本実施形態の樹脂組成物を用いた層間絶縁用の接着フィルムや層間接着剤などは、電子部品等を構成する積層基板や半導体装置において、樹脂組成物の硬化物として含まれる。このため、電子部品等を構成する積層基板や半導体装置においては、本実施形態の樹脂組成物の硬化物を含むことが好ましい。
【0130】
また、本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物の硬化物を用いたプリプレグや、樹脂組成物の硬化物を有する高周波向け電子部品として用いることもできる。
【実施例
【0131】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例において、部、%はことわりのない限り、質量部、質量%を示す。
【0132】
(実施例1~17、比較例1~7)
〔サンプル作製〕
各成分を下記表1~表4に示す配合割合(質量部)になるように計量配合した後、溶剤としてのトルエンにそれらを溶解させて、実施例1~17及び比較例1~7の樹脂組成物を含む溶解液を調製した。なお、溶解液においては、樹脂組成物が(E)成分としての無機フィラーを含まない場合は、溶解液中の固形分濃度が30質量%となるように溶解液を調製した。一方、樹脂組成物が(E)成分としての無機フィラーを含む場合は、溶解液中の固形分濃度が60質量%となるように各成分を溶解・分散させて溶解液を調製した。
【0133】
実施例1~17及び比較例1~7において樹脂組成物を含む溶解液の調製に使用した原料は以下の通りである。
【0134】
〔(A)成分〕
A1(1):三菱ガス化学社製、商品名「OPE2St-2200」、数平均分子量(Mn)=2200、末端にビニルベンジル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂。
A1(2):三菱ガス化学社製、商品名「OPE2St-1200」、数平均分子量(Mn)=1200、末端にビニルベンジル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂。
A2(1):ケイ・アイ化成社製、商品名「BMI70」、マレイミド樹脂。
A2(2):日本化薬社製、商品名「MIR-5000-60T」、マレイミド樹脂(固形分60%、トルエン溶解品)。
【0135】
〔(A’)成分〕
A1’:SABIC社製、商品名「SA-9000」、数平均分子量(Mn)=1700、末端にメタクリル基を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂。
【0136】
〔(B)成分〕
B1(1):日本曹達社製、商品名「B-1000」、数平均分子量(Mn)=1200、ブタジエン樹脂(1,2ビニル構造85%)。
B1(2):日本曹達社製、商品名「B-3000」、数平均分子量(Mn)=3200、ブタジエン樹脂(1,2ビニル構造92%)。
B1(3):日本曹達社製、商品名「BI-3015」、数平均分子量(Mn)=3200、ブタジエン樹脂(1,2ビニル構造7%)。
B2(1):日本曹達社製、商品名「1,2-SBS-L42」、数平均分子量(Mn)=4300、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン20%、1,2ビニル構造90%)。
B2(2):日本曹達社製、商品名「1,2-H-SBS-L」、数平均分子量(Mn)=4300、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン20%、1,2ビニル構造30%)。
B3:CRAY VALLEY社製、商品名「Ricon100」、数平均分子量(Mn)=4500、スチレン-ブタジエンコポリマー(1,2ビニル構造70%)。
【0137】
〔その他樹脂成分〕
四国化成工業社製、商品名「L-DAIC」、イソシアヌル酸(ジアリル化イソシアヌル酸誘導体)。
【0138】
〔(C)成分〕
C1:クレイトンポリマー社製、商品名「G1652」、数平均分子量(Mn):54,000、熱可塑性エラストマー(SEBS:スチレン30%)。
C2:旭化成社製、商品名「P1500」、数平均分子量(Mn):49,000、熱可塑性エラストマー(SBBS:スチレン30%)。
C3:ENEOSマテリアル社製、商品名「TR2003」、数平均分子量(Mn):100,000、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(スチレン43%)。
【0139】
〔(D)成分〕
D1:日本油脂社製、商品名「パークミルD」、有機過酸化物。
【0140】
〔(E)成分〕
E1:アドマテックス社製、商品名「20SV-C9」、シリカフィラー(平均粒子径2μm、ビニルシラン表面処理)。
E2:アドマテックス社製、商品名「SC4050SX」、シリカフィラー(平均粒子径1μm、アミノシラン表面処理)。
E3:デンカ社製、商品名「FB-3SDXHOL2」、シリカフィラー(平均粒子径3μm、ビニルシラン表面処理)。
【0141】
表1~表4の「樹脂成分合計(A+B+C+他樹脂)」の欄に、樹脂組成物の調製に用いた原料中の、(A)成分、(B)成分、(C)成分及びその他樹脂成分の合計量(質量部)を示す。表2~表3の「(A+B)の合計100質量部に対するフィラー量(質量部)」の欄に、樹脂組成物の調製に用いた(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対する(E)成分の比率(質量部)を示す。
【0142】
以上のようにして得られた実施例1~17及び比較例1~7の樹脂組成物を含む溶解液について、以下に示す方法で、「最低溶融粘度(Pa・s)」、及び「最低溶融温度(℃)」の測定を行った。結果を、表1~表4に示す。
【0143】
また、実施例6~17及び比較例3~7の樹脂組成物を含む溶解液について、以下に示す方法で、「銅箔ピール強度M(N/cm)」、及び「銅箔ピール強度S(N/cm)」の測定を行った。結果を、表2~表4に示す。
【0144】
更に、実施例6~8の樹脂組成物を含む溶解液について、「耐熱信頼性」の評価として、以下に示す方法で、「誘電率(ε)」及び「誘電正接(tanδ)」の評価並びに測定を行った。結果を、表4に示す。
【0145】
〔樹脂フィルムの作製〕
まず、剥離処理されたPETフィルム上に、樹脂組成物を含む溶解液をナイフ方式で塗布した。その後、PETフィルム上の溶解液を、温度80~130℃で乾燥させて、厚さ50~100μmの樹脂フィルムを作製した。
【0146】
〔最低溶融粘度(Pa・s)、最低溶融温度(℃)〕
作製した樹脂フィルムを、厚さが300μmになるように積層し、レオメータによる溶融粘度を測定した。その時の最低溶融粘度、最低溶融温度を読み取り、読み取った値を、樹脂組成物の最低溶融粘度(Pa・s)及び最低溶融温度(℃)とした。測定の条件は、直径5mmのパラレルプレートを用い、荷重50gf、ひずみ1%、周波数10Hz、5℃/minで50~200℃まで測定することとした。
【0147】
〔銅箔ピール強度M(N/cm)〕
作製した樹脂フィルムを、厚さ18μmの銅箔粗化面で挟み込み、200℃、60分、圧力1MPaで硬化させ、両面銅貼り板を作製した。作製した両面銅貼り板を1cm幅に切り出し、片面の銅箔を180度方向に引き剥がした時の強度を測定した。測定条件は、引張速度50mm/minとした。
【0148】
〔銅箔ピール強度S(N/cm)〕
作製した樹脂フィルムを、厚さ18μmの銅箔光沢面で挟み込み、200℃、60分、圧力1MPaで硬化させ、両面銅貼り板を作製した。作製した両面銅貼り板を1cm幅に切り出し、片面の銅箔を180度方向に引き剥がした時の強度を測定した。測定条件は、引張速度50mm/minとした。
【0149】
〔耐熱信頼性〕
作製した樹脂フィルムを、200℃、60分、圧力1MPaで硬化させて、耐熱信頼性評価用の試料を作製した。誘電体共振器法(SPDR法)にて、作製した試料の誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)を測定した。以上のようにして試験片作製後に測定された各値を、耐熱試験前の初期値とした。表4の「初期値」の欄に結果を示す。次に、試料を125℃に加熱されたオーブンに24時間入れ、その後、オーブンから試料を取り出して室温まで冷ました。室温まで冷ました試料について、上記した方法と同様にして、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)を測定した。このようにして測定された値を、耐熱試験後の測定値とし、表4の「125℃×24h後」の欄に示す。また、耐熱試験前後に測定された誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)の値について、耐熱試験後の測定値から初期値を差し引いた値を「初期値に対する変化量」として求めた。更に、「初期値に対する変化量」を初期値で除算した値の百分率を、「初期値に対する変化量(%)」として求めた。各結果を、表4に示す。誘電体共振器法による測定は、測定周波数を20GHzとした。
【0150】
また、実施例6~17及び比較例3~7のうちの一部の例について、以下に示す方法で、「熱膨張係数(ppm/K)」、「熱膨張係数(厚)(ppm/K)」、及び「はんだ熱耐」の評価及び測定を行った。また、実施例6~16及び比較例3~7について、上述した耐熱信頼性における誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)の初期値の測定を行った。更に、実施例9~16及び比較例3~7について、誘電体共振器法による測定周波数を10GHzに変更して、上述した耐熱信頼性における誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)の初期値の測定を行った。
【0151】
〔熱膨張係数(ppm/K)〕
作製した樹脂フィルムを、厚さが100μmになるように積層させ、温度200℃、60分、圧力1MPaで硬化させて、熱膨張係数を測定するための試料を作製した。作製した試料について、TMA(熱機械分析装置)の引張り法による測定を行い、90~100℃の平均熱膨張係数を読み値(即ち、熱膨張係数の測定値)とした。測定条件は、引張荷重2gf、20℃/minで230℃まで焼きなましした後、室温まで一旦戻し、その後、5℃/minで230℃まで測定した。測定した熱膨張係数は平面方向(即ちXY方向)の熱膨張係数である。
【0152】
〔熱膨張係数(厚)(ppm/K)〕
作製した樹脂フィルムを、厚さが約2mmになるように積層させ、温度200℃、60分、圧力1MPaで硬化させて、熱膨張係数(厚)を測定するための試料を作製した。作製した試料について、TMA(熱機械分析装置)の圧縮法による測定を行い、90~100℃の平均熱膨張係数を読み値(即ち、熱膨張係数(厚)の測定値)とした。測定条件は、圧縮荷重1gf、20℃/minで250℃まで焼きなましした後、室温まで一旦戻し、その後、5℃/minで250℃まで測定した。熱膨張係数は厚さ方向(即ちZ方向)の熱膨張係数である。
【0153】
〔はんだ耐熱〕
作製した接着フィルムの両面に銅箔を貼りあわせた後、2cm×2cmの正方形となるように切り出して試験片を作製した。作製した試験片を260、270、280、290、300℃に熱したはんだ浴に1分間浮かべて、その外観を目視にて確認した。外観に変化が見られないはんだ浴の温度(最高温度)を、はんだ耐熱の評価値とした。
【0154】
【表1】
【0155】
【表2】
【0156】
【表3】
【0157】
【表4】
【0158】
〔結果〕
表1に示すように、実施例1~5の樹脂組成物は、比較例2の樹脂組成物と比較して、最低溶融粘度が低く、最低溶融温度も低いものであった。なお、比較例1の樹脂組成物は、最低溶融粘度及び最低溶融温度の測定が不可能であった。
【0159】
表2~表3に示すように、実施例9~17の樹脂組成物は、比較例3~7の樹脂組成物と比較して、最低溶融粘度が極めて低いものであった。特に、実施例9~16及び比較例3~7の樹脂組成物は、(E)成分として無機フィラー(シリカフィラー)を含んでおり、比較例3~7の樹脂組成物は、最低溶融粘度が非常に高い値を示している。一方で、実施例9~16の樹脂組成物は、(A)成分としてビニルベンジル基、マレイミド基の少なくともいずれか一方を有する熱硬化性樹脂を含むため、最低溶融粘度の上昇が抑制されており、基板への埋め込み性に優れるものであった。
【0160】
また、実施例9~17の樹脂組成物は、銅箔ピール強度M(N/cm)及び銅箔ピール強度S(N/cm)についても良好な値を示し、優れた接着性を有するものであった。また、実施例9~16の樹脂組成物は、熱膨張係数及びはんだ耐熱においても良好な結果を示すものであった。例えば、実施例9~16の樹脂組成物の熱膨張係数(ppm/K)は、順次、102、123、46、50、56、44、50、55であった(単位は全てppm/K)。また、実施例9~16の樹脂組成物の熱膨張係数(厚)(ppm/K)は、順次、39、55、46、56、50、38、42、59であった(単位は全てppm/K)。
【0161】
実施例9~14の樹脂組成物は、測定周波数10GHzでの誘電率(ε)が、順次、3.05、3.12、3.10、3.10、2.89、3.06であり、誘電正接(tanδ)が、順次、0.0014、0.0015、0.0013、0.0011、0.0015、0.0014であった。実施例13~16の樹脂組成物は、測定周波数20GHzでの誘電率(ε)が、順次、3.01、3.08、3.07、3.09であり、誘電正接(tanδ)が、順次、0.0016、0.0015、0.0015、0.0013であった。また、実施例9~14の樹脂組成物は、はんだ耐熱の評価においても、300℃又は290℃と良好な値を示すものであった。
【0162】
実施例17の樹脂組成物は、その他樹脂成分を含まず、(A)成分と(B)成分を樹脂成分として含む樹脂組成物である。また、実施例17の樹脂組成物は、(E)成分としての無機フィラーも含んでいない。このような実施例17の樹脂組成物も、最低溶融粘度が低く、最低溶融温度も低いものであった。実施例17の樹脂組成物は、熱膨張係数(ppm/K)が102ppm/Kであり、熱膨張係数(厚)(ppm/K)が73ppm/Kであった。実施例17の樹脂組成物は、例えば、FO-WLP(ファンアウトウェハレベルパッケージ)の再配線層における誘電体層としても好適に用いることができる。
【0163】
一方で、比較例3~7の樹脂組成物は、熱膨張係数(ppm/K)が、順次、51、35、36、51、50であり、熱膨張係数(厚)(ppm/K)が、順次、37、47、29、37、64であった(単位は全てppm/K)。また、比較例3~7の樹脂組成物は、測定周波数10GHzでの誘電率(ε)が、順次、3.12、3.06、3.11、3.12、3.12であり、誘電正接(tanδ)が、順次、0.0014、0.0012、0.0013、0.0014、0.0019であった。また、比較例7の樹脂組成物は、はんだ耐熱の評価において、270℃と低い値を示すものであった。
【0164】
表4に示すように、実施例6の樹脂組成物は、(B)成分として、(B2)成分であるスチレン-ブタジエンブロック共重合体を用いたものである。実施例8の樹脂組成物は、(B)成分として、(B1)成分であるブタジエン樹脂を用いたものである。実施例7の樹脂組成物は、(B)成分として、(B3)成分であるスチレン-ブタジエンコポリマーを用いたものである。実施例6~8の樹脂組成物を比較した場合、(B2)成分であるスチレン-ブタジエンブロック共重合体を用いた実施例6の樹脂組成物は、その他の(B)成分と比較して、耐熱信頼性(tanδの変化率)が良好であり、また、電解銅箔のマット面(M面)に対するピール強度Mについても良好な結果を示すものであった。実施例6~8の樹脂組成物は、熱膨張係数(ppm/K)が、順次、149、146、154であり、熱膨張係数(厚)(ppm/K)が、順次、194、207、196であった(単位は全てppm/K)。
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明の樹脂組成物は、電子部品に使用する接着剤や接着フィルム用の樹脂組成物として用いることができる。また、多層配線基板用の層間接着用ボンディングシートや層間接着剤としても用いることができる。また、本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物の硬化物を用いたプリプレグや、樹脂組成物の硬化物を有する高周波向け電子部品として用いることもできる。