IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産化学工業株式会社の特許一覧

特許7711699炭素系焼成体及びその錯体並びに該炭素系焼成体を用いた燃料電池
<>
  • 特許-炭素系焼成体及びその錯体並びに該炭素系焼成体を用いた燃料電池 図1
  • 特許-炭素系焼成体及びその錯体並びに該炭素系焼成体を用いた燃料電池 図2
  • 特許-炭素系焼成体及びその錯体並びに該炭素系焼成体を用いた燃料電池 図3
  • 特許-炭素系焼成体及びその錯体並びに該炭素系焼成体を用いた燃料電池 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-14
(45)【発行日】2025-07-23
(54)【発明の名称】炭素系焼成体及びその錯体並びに該炭素系焼成体を用いた燃料電池
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20250715BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20250715BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20250715BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20250715BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20250715BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20250715BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20250715BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20250715BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20250715BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20250715BHJP
   H01M 8/1016 20160101ALI20250715BHJP
   H01M 8/1067 20160101ALI20250715BHJP
【FI】
C01B32/05
B01J23/42 M
B01J23/63 M
B01J37/08
C01B32/168
H01B1/06 A
H01M4/88 C
H01M4/90 M
H01M4/96 B
H01M8/10 101
H01M8/1016
H01M8/1067
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022528820
(86)(22)【出願日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2021020651
(87)【国際公開番号】W WO2021246362
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2024-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2020097936
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020146758
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021007385
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】近藤 章一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 博和
(72)【発明者】
【氏名】菊池 隆正
(72)【発明者】
【氏名】志賀 紀仁
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109768280(CN,A)
【文献】特開2004-311431(JP,A)
【文献】特開2006-172817(JP,A)
【文献】特開2003-226510(JP,A)
【文献】特表2020-501301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
B01J 21/00 - 38/74
H01B 1/06
H01M 4/88
H01M 4/90
H01M 4/96
H01M 8/10
H01M 8/1016
H01M 8/1067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との混合物の炭素系焼成体であって、
前記フェノール性水酸基を有する芳香族化合物が、単環式又は縮合多環式の芳香族化合物であって、1個以上のフェノール性水酸基を有する化合物である炭素系焼成体
【請求項2】
フェノール性水酸基を有する芳香族化合物が2~6個のフェノール性水酸基を有する芳香族化合物である請求項1の炭素系焼成体。
【請求項3】
導電性を有する炭素材料が、ケッチェンブラック、ケッチェンブラックEC及びカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の炭素系焼成体。
【請求項4】
フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の融解液又は有機溶媒溶液と導電性を有する炭素材料との混合物を得る工程を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素系焼成体の製造方法であって、
前記フェノール性水酸基を有する芳香族化合物が、単環式又は縮合多環式の芳香族化合物であって、1個以上のフェノール性水酸基を有する化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素系焼成体の製造方法
【請求項5】
(工程1)フェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との混合物を得る工程、及び
(工程2)工程1で得られた混合物を、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の融点以上の温度で焼成する工程
を有する、請求項4に記載の炭素系焼成体の製造方法。
【請求項6】
(工程1)フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の有機溶媒溶液と導電性を有する炭素材料との混合物を得る工程、及び
(工程2)工程1で得られた混合物を、150℃~600℃の温度範囲で焼成する工程を有する、請求項4に記載の炭素系焼成体の製造方法。
【請求項7】
希土類金属イオンが前記焼成体の置換基と錯形成している、請求項1~3のいずれか1項に記載の焼成体と希土類金属イオンとの錯体。
【請求項8】
前記希土類金属イオンの金属種が、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項7の錯体。
【請求項9】
前記焼成体の置換基が、導電性を有する炭素材料由来の水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ホルミル基、スルホン酸基、オキシスルホン酸基、カルボン酸無水物構造、クロメン構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造並びにフェノール性水酸基を有する芳香族化合物由来の水酸基からなる群から選択される少なくとも1種である請求項7又は8に記載の錯体。
【請求項10】
希土類金属化合物と請求項1~3のいずれか1項に記載の焼成体とを溶媒中で反応させる請求項7~9のいずれか1項に記載の錯体の製造方法。
【請求項11】
前記希土類金属化合物が、CeBr、CeCl・7HO、CeF、CeF、CeI、EuBr・xHO、EuCl、EuCl、EuCl・6HO、EuF、EuI、NdBr、NdCl、NdCl・6HO、NdF、NdI、NdI、SmBr、SmCl、SmCl・6HO、SmI、SmI、Ce(NH(NO、Ce(NO・6HO、Nd(NO・6HO、Ce(CHCO・xHO、Ce(C・xHO、Eu(CHCO・xHO、CeO、Eu、Nd、Sm、Sc、(CeO)(ZrO)及びサマリウムトリイソプロポキシドからなる群から選択される少なくとも1種である請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
希土類金属化合物と請求項1~3のいずれか1項に記載の焼成体との混合物を焼成する請求項7~9のいずれか1項に記載の錯体の製造方法。
【請求項13】
前記希土類金属化合物が、Ce(CHCO・xHO、Ce(C・xHO、Eu(CHCO・xHO、Gd(CHCO・xHO、Gd(C・xHO、La(CHCO・xHO、La(C・xHO、Tb(CHCO・xHO、Yb(C・4HO、セリウムトリイソプロポキシド、サマリウムトリイソプロポキシド、トリス(アセチルアセトナト)セリウム(III)及びトリス(アセチルアセトナト)サマリウム(III)からなる群から選択される少なくとも1種である請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
固体高分子形燃料電池の触媒層における電解質、触媒層における触媒担体及び固体電解質膜における電解質の少なくとも1種である請求項1~3のいずれか1項に記載の焼成体又は請求項7~9のいずれか1項に記載の錯体。
【請求項15】
請求項1~3のいずれか1項記載の焼成体及び請求項7~9のいずれか1項に記載の錯体からなる群から選択される少なくとも1種と、金属触媒とを含有する組成物。
【請求項16】
固体高分子形燃料電池の触媒層用である請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
請求項15に記載の組成物を有する固体高分子形燃料電池用触媒層。
【請求項18】
固体電解質膜、ガス拡散層及び請求項17に記載の固体高分子形燃料電池用触媒層を有する膜電極接合体。
【請求項19】
固体電解質膜の厚さが10~100μmである請求項18に記載の膜電極接合体。
【請求項20】
請求項18又は19に記載の膜電極接合体を有する固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素系焼成体及びその錯体並びに該焼成体を用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料のカーボンブラックは、無定形炭素質からなるサブミクロンの微粒子であり、ゴム補強剤、樹脂着色剤、印刷インキ、塗料、電極材料等の用途がある(非特許文献1)。カーボンブラックにおいて、少ない添加量で導電性を付与できるカーボンブラックは導電性カーボンブラックと呼ばれており、その製造法や原料により、例えばアセチレンブラック、オイルファーネスブラック、バルカン、ケッチェンブラック、ケッチェンブラックEC等の種類が知られている(非特許文献2)。
【0003】
炭素材料のカーボンブラックは、高温にて製造や賦活処理が行われるため、カーボンブラック表面上の官能基の一部が脱離して黒鉛化が進行することで高い導電性を獲得していることが知られている(非特許文献3)。
【0004】
炭素材料のカーボンナノチューブは、炭素同位体のsp炭素で構成される円筒状の六角網面で構成されており、単層及び多層のものが存在する。例えば、工業規模で製造及び販売されているカーボンナノチューブとしては、気相成長炭素繊維のカーボンナノチューブが知られており、導電性に優れている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】炭素材料学会編、新・炭素材料入門、「2.8 カーボンブラック」、株式会社リアライズ理工センター、1996年、129-135ページ
【文献】炭素材料学会連載講座編集委員会編、カーボン材料実験技術(製造・合成編)、[第3章3-3 導電性カーボンブラック「ケッチェンブラックEC」]、2013年、173-179ページ
【文献】炭素材料学会連載講座編集委員会編、カーボン材料実験技術(製造・合成編)、「第3章3-1 カーボンブラック」、2013年、156-167ページ
【文献】炭素材料学会連載講座編集委員会編、カーボン材料実験技術(製造・合成編)、[第2章2-3 気相成長炭素繊維の製造法と用途、2013年、87-91ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
導電性を有する炭素材料は、例えば、導電性カーボンブラックの場合は、その表面官能基と欠損部分とを、高温の焼成にて減少させることで導電性を向上させているため、カーボンブラックの表面官能基の量は少ない。また、炭素材料のカーボンナノチューブは、sp炭素で構成されているため、カーボンナノチューブ表面上の官能基は、チューブのエッジ部位や僅かな欠損部位に集中しており、その存在量は僅かである。
【0007】
よって、カーボンブラック及びカーボンナノチューブの表面官能基を通じての別機能付与や機能の増強といった改善を、元来の導電性の機能を劣化させることなく行うことは、有機合成手法等で化学修飾や、別材料をカーボンブラック表面に吸着にて導入する方法等を通じて可能であるが、実用に意義を持つ改善を行うことは難しかった。例えば、化学修飾の場合は、導入できる官能基の量は、もともとの導電性を有する炭素材料の表面の官能基の存在量が少ないため限界があり、sp炭素で構成されている表面に、共有結合を用いて、別官能基を導入することは、導入量によるが、本来持っていた導電性の機能低下になることも多かった。また、導電性を有する炭素材料表面に別材料を吸着する方法は、物理吸着であるため、吸着が容易に解けてしまい、材料の特性を保てず低下させることが多かった。
【0008】
本発明は、導電性を有する炭素材料を原料にして、その導電性を保持及び/又は向上させた安定な形態を得て、燃料電池の触媒層に使用した際に、発電特性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが検討を重ねた結果、従来の導電性を有する炭素材料とフェノール性水酸基を有する芳香族化合物との混合物を、焼成する反応を行うことで、新規の焼成体を得て、この焼成体が、例えば、燃料電池の触媒層の電解質及び/又は触媒担体並びに固体電解質膜の電解質として用いられると、触媒層にてプロトン伝導性、電子伝導性、水輸送及びガス透過性を向上させ、優れた発電特性を奏することを見出した。
【0010】
本発明者らが検討を重ねた結果、従来の導電性を有する炭素材料とフェノール性水酸基を有する芳香族化合物との混合物を、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の融点以上で焼成して複合化する製造方法、または導電性を有する炭素材料とフェノール性水酸基を有する芳香族化合物の有機溶媒溶液との混合物を経た後、特定の温度で焼成して複合化する製造方法、により得られた焼成体が、例えば、燃料電池の触媒層の電解質及び/又は触媒担体並びに固体電解質膜の電解質として用いられると、触媒層にてプロトン伝導性、電子伝導性、水輸送及びガス透過性を向上させ、優れた発電特性を奏することを見出した。
【0011】
さらに本発明者らが検討を重ねた結果、上記の焼成体に希土類の金属イオンを導入する反応を行うことで、希土類金属イオンと焼成体との錯体を得て、この錯体がプロトン伝導性、及び電子伝導性を向上させ、優れた発電特性を奏することを見出した。
【0012】
本発明は、例えば以下の[1]~[20]である。
[1]フェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との混合物の炭素系焼成体。
[2]フェノール性水酸基を有する芳香族化合物が2~6個のフェノール性水酸基を有する芳香族化合物である[1]の炭素系焼成体。
[3]導電性を有する炭素材料が、ケッチェンブラック、ケッチェンブラックEC及びカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1種である[1]又は[2]の炭素系焼成体。
[4]フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の融解液又は有機溶媒溶液と導電性を有する炭素材料との混合物を得る工程を有する、[1]~[3]のいずれかの炭素系焼成体の製造方法。
[5](工程1)フェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との混合物を得る工程、及び
(工程2)工程1で得られた混合物を、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の融点以上の温度で焼成する工程
を有する、[4]の炭素系焼成体の製造方法。
[6](工程1)フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の有機溶媒溶液と導電性を有する炭素材料との混合物を得る工程、及び
(工程2)工程1で得られた混合物を、150℃~600℃の温度範囲で焼成する工程を有する、[4]の炭素系焼成体の製造方法。
[7]希土類金属イオンが前記焼成体の置換基と錯形成している、[1]~[3]のいずれかの焼成体と希土類金属イオンとの錯体。
[8]前記希土類金属イオンの金属種が、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウムからなる群から選択される少なくとも1種である[7]の錯体。
[9]前記焼成体の置換基が、導電性を有する炭素材料由来の水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ホルミル基、スルホン酸基、オキシスルホン酸基、カルボン酸無水物構造、クロメン構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造並びにフェノール性水酸基を有する芳香族化合物由来の水酸基からなる群から選択される少なくとも1種である[7]又は[8]の錯体。
[10] 希土類金属化合物と請求項1~3のいずれか1項に記載の焼成体とを溶媒中で反応させる[7]~[9]のいずれかの錯体の製造方法。
[11]前記希土類金属化合物が、CeBr、CeCl・7HO、CeF、CeF、CeI、EuBr・xHO、EuCl、EuCl、EuCl・6HO、EuF、EuI、NdBr、NdCl、NdCl・6HO、NdF、NdI、NdI、SmBr、SmCl、SmCl・6HO、SmI、SmI、Ce(NH(NO、Ce(NO・6HO、Nd(NO・6HO、Ce(CHCO・xHO、Ce(C・xHO、Eu(CHCO・xHO、CeO、Eu、Nd、Sm、Sc、(CeO)(ZrO)及びサマリウムトリイソプロポキシドからなる群から選択される少なくとも1種である[10]の製造方法。
[12]希土類金属化合物と[1]~[3]のいずれかの焼成体との混合物を焼成する[7]~[9]のいずれかの錯体の製造方法。
[13]前記希土類金属化合物が、Ce(CHCO・xHO、Ce(C・xHO、Eu(CHCO・xHO、Gd(CHCO・xHO、Gd(C・xHO、La(CHCO・xHO、La(C・xHO、Tb(CHCO・xHO、Yb(C・4HO、セリウムトリイソプロポキシド、サマリウムトリイソプロポキシド、トリス(アセチルアセトナト)セリウム(III)及びトリス(アセチルアセトナト)サマリウム(III)からなる群から選択される少なくとも1種である[12]の製造方法。
[14]固体高分子形燃料電池の触媒層における電解質、触媒層における触媒担体及び固体電解質膜における電解質の少なくとも1種である[1]~[3]のいずれかの焼成体又は[7]~[9]のいずれかの錯体。
[15][1]~[3]のいずれかの焼成体及び[7]~[9]のいずれかの錯体からなる群から選択される少なくとも1種と、金属触媒とを含有する組成物。
[16]固体高分子形燃料電池の触媒層用である[15]の組成物。
[17][15]の組成物を有する固体高分子形燃料電池用触媒層。
[18]固体電解質膜、ガス拡散層及び[17]の固体高分子形燃料電池用触媒層を有する膜電極接合体。
[19]固体電解質膜の厚さが10~100μmである[18]の膜電極接合体。
[20][18]又は[19]の膜電極接合体を有する固体高分子形燃料電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明の炭素系焼成体及び錯体は、導電性を有する炭素材料を原料の一部にした安定な形態であって、燃料電池の触媒層に使用した際に、発電特性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】固体高分子形燃料電池の構成を模式的に示す断面図
図2】焼成体(1)のIR測定のチャート
図3】ケッチェンブラックEC(EC300J)のIR測定のチャート
図4】焼成体(7)のIR測定のチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書における「n-」はノルマル、「s-」はセカンダリー、「t-」はターシャリーを意味し、「o-」はオルト、「m-」はメタ、「p-」はパラを意味する。
【0016】
<<焼成体>>
本発明は、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との混合物の炭素系焼成体に関する。
【0017】
<フェノール性水酸基を有する芳香族化合物>
フェノール性水酸基を有する芳香族化合物としては、単環式又は縮合多環式の芳香族化合物であって、1個以上のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられる。
【0018】
これらの中でも、1~6個のフェノール性水酸基を有する単環式の芳香族化合物である、1~6価フェノール類が挙げられる。
単環式の芳香族化合物であり、1個のフェノール性水酸基を有するフェノール類としては、例えば、フェノール、エチルフェノール、p-t-ブチルフェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、チモール、メシトール、ブソイドクメノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ペンタメチルフェノール、o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、カピコール、o-アリルフェノール、アノール、ジエチルスチルベストロール、p-(メチルチオ)フェノール、o-アミノフェノール、m-アミノフェノール、p-アミノフェノール、o-(メチルアミノ)フェノール、m-(メチルアミノ)フェノール、p-(メチルアミノ)フェノール、m-(ジメチルアミノ)フェノール、o-アニリノフェノール、m-アニリノフェノール、p-アニリノフェノール、2-アミノ-p-クレゾール、3-アミノ-o-クレゾール、3-アミノ-p-クレゾール、4-アミノ-o-クレゾール、4-アミノ-p-クレゾール、5-アミノ-o-クレゾール、6-アミノ-m-クレゾール、2,4-ジアミノフェノール又は2,4,6-トリアミノフェノール等が挙げられる。
【0019】
単環式の芳香族化合物であり、2個のフェノール性水酸基を有するフェノール類としては、例えば、カテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、3,4-トルエンジオール、2,5-トルエンジオール、3,5-トルエンジオール、2,4-トルエンジオール、ウルシオール、p-キシレン-2,6-ジオール、m-キシレン-4,6-ジオール、p-キシレン-2,5-ジオール又は2-イソプロピル-5-メチルヒドロキノン等が挙げられる。
【0020】
単環式の芳香族化合物であり、3個のフェノール性水酸基を有するフェノール類としては、例えば、ピロガロール、1,2,4-ベンゼントリオール、フロログルシノール、2-メチルフロログルシノール、m-キシレン-2,4,6-トリオール又は2,4,6-トリメチルフロログルシノール等が挙げられる。
【0021】
単環式の芳香族化合物であり、4個のフェノール性水酸基を有するフェノール類としては、例えば、1,2,3,5-ベンゼンテトラオール又は1,2,4,5-ベンゼンテトラオール等が挙げられる。
単環式の芳香族化合物であり、6個のフェノール性水酸基を有するフェノール類としては、例えば、ヘキサヒドロキシベンゼンが挙げられる。
【0022】
フェノール性水酸基を有する単環式の芳香族化合物としては、良好な発電特性を得る観点から、2~6個のフェノール性水酸基を有する単環式の芳香族化合物である2~6価フェノール類が好ましく、3~6個のフェノール性水酸基を有する単環式の芳香族化合物である3~6価フェノール類がより好ましく、3個のフェノール性水酸基を有する単環式の芳香族化合物である3価フェノール類がさらに好ましく、下記式(I)で表されるフロログルシノールが特に好ましい。
【0023】
【化1】
【0024】
縮合多環式の芳香族化合物としては、ナフタレン、アズレン、ヘプタレン、ビフェニレン、アセナフチレン、フルオレン、フェナレン、フェナントレン、アントラセン、アセアントリレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、テトラセン、ペリレン、ペンタセン、ピセン又はコロネン等が挙げられ、良好な発電特性を得る観点から、ナフタレン、アントラセン及びトリフェニレンが好ましい。
【0025】
フェノール性水酸基を有する縮合多環式の芳香族化合物としては、例えば、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,4-ジヒドロキシナフタレン、2,5-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,3,8-トリヒドロキシナフタレン、9,10-ジヒドロキシアントラセン又は2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン等が挙げられ、好ましくは、2~6個のフェノール性水酸基を有する縮合多環式の芳香族化合物が挙げられ、より好ましくは2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,3,8-トリヒドロキシナフタレン、9,10-ジヒドロキシアントラセン及び2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレンが挙げられ、さらに好ましくは、下記式(II)で表される2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレンが挙げられる。
【0026】
【化2】
【0027】
フェノール性水酸基を有する芳香族化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
<導電性を有する炭素材料>
導電性を有する炭素材料(以下「炭素材料」ともいう。)としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、ケッチェンブラックEC、チャンネルブラック、オイルファーネスブラック、バルカン、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、黒鉛化ブラック、酸化ブラック等が挙げられ、導電性が良好であることから、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ケッチェンブラックECが好ましく、ケッチェンブラック、ケッチェンブラックECがより好ましい。カーボンブラックは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。カーボンブラックは表面処理されたものであってもよい。
【0029】
カーボンナノチューブとしては、例えば、気相成長法、触媒気相成長法、触媒的化学気相成長法、化学気相成長法、スーパー増殖法、触媒炭素蒸着法、アーク放電法、レーザー蒸発法などにより得られる単層ナノチューブ、多層カーボンナノチューブが挙げられ、これらは、針状、コイル状、チューブ状の形態など任意の形態をとることができる。カーボンナノチューブのチューブに関しては、炭素六角網面のグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、グラファイトの1枚面を3層以上に巻いた多層カーボンナノチューブ(マルチウォールカーボンナノチューブ)、グラファイトの1枚面を1層に巻いた単層カーボンナノチューブ(シングルウォールカーボンナノチューブ:SWNT)、グラファイトの1枚面を2層に巻いた2層カーボンナノチューブ(ダブルウォールカーボンナノチューブ:DWNT)、気相成長炭素繊維(VGCF、昭和電工社製の登録商標)等が挙げられる。具体的には、TC-2010、TC-2020、TC-3210L、TC-1210LN等のTCシリーズ(戸田工業(株)製)、スパーグロース法CNT(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構製)、eDIPS-CNT(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構製)、SWNTシリーズ((株)名城ナノカーボン製:商品名)、VGCF、VGCF-H、VGCF-X等のVGCF(登録商標)シリーズ(昭和電工(株)製:登録商標)、FloTubeシリーズ(CNano Technology社製:商品名)、AMC(宇部興産(株)製:商品名)、NANOCYL NC7000シリーズ(Nanocyl S.A.社製:商品名)、Baytubes(Bayer社製:商品名)、GRAPHISTRENGTH(アルケマ社製:商品名)、MWNT7(保土谷化学工業(株)製:商品名)、ハイペリオンCNT(Hypeprion Catalysis International社製:商品名)等が挙げられる。TC-2010、TC-2020、TC-3210L、TC-1210LN等のTCシリーズ、VGCF、VGCF-H、VGCF-X等のVGCF(登録商標)シリーズが好ましい。
【0030】
カーボンナノチューブは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。カーボンナノチューブは表面処理されたものであってもよい。更には、カーボンブラックとカーボンナノチューブとを組み合わせて用いてもよい。
導電性を有する炭素材料としては、ケッチェンブラック、ケッチェンブラックEC及びカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1種が特に好ましい。
【0031】
導電性を有する炭素材料は、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ホルミル基、スルホン酸基、オキシスルホン酸基、カルボン酸無水物構造、クロメン構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有することが好ましく、水酸基、カルボキシル基、ホルミル基、カルボン酸無水物構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有していることがより好ましく、水酸基、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有していることが更に好ましい。
【0032】
<<炭素系焼成体の製造方法>>
本発明の炭素系焼成体の製造方法は、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の融解液又は有機溶媒溶液と導電性を有する炭素材料との混合物を得る工程を有する、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との混合物の炭素系焼成体の製造方法である。
【0033】
炭素系焼成体の製造方法は、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物が、焼成温度よりも低い融点を有し、焼成温度では分解しない場合は、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の融解液と導電性を有する炭素材料とを接触させる工程及びフェノール性水酸基を有する芳香族化合物の有機溶媒溶液と導電性を有する炭素材料とを接触させる工程の両方を有していてもよい。
【0034】
炭素系焼成体の製造方法は、このような工程を有することで、焼成温度における焼成の前に、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物が、融解液又は有機溶媒溶液の状態で炭素材料に接する。この状態は、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物が分子レベルで炭素材料に接しており、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物と炭素材料とがなんらかの相互作用を生じていることも考えられる。
【0035】
炭素系焼成体の製造方法は、好ましくは以下の製造方法1又は製造方法2である。
<製造方法1>
(工程1)フェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との混合物を得る工程、及び
(工程2)工程1で得られた混合物を、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の融点以上の温度で焼成する工程
を有するフェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との混合物の炭素系焼成体の製造方法。
【0036】
<製造方法2>
(工程1)フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の有機溶媒溶液と導電性を有する炭素材料との混合物を得る工程、及び
(工程2)工程1で得られた混合物を、150℃~600℃の温度範囲で焼成する工程
を有するフェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との混合物の炭素系焼成体の製造方法。
【0037】
フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の融解液と導電性を有する炭素材料との混合物を得る工程は、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物が融点以上の温度に晒されればよいので、製造方法1及び2において、焼成のための昇温工程として工程1と工程2の間に存在するか、工程2で行われてもよい。
フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の有機溶媒溶液と導電性を有する炭素材料との混合物を得る工程は、製造方法2において、工程1である。
【0038】
フェノール性水酸基を有する芳香族化合物が、焼成温度よりも低い融点を有し、焼成温度では分解しない場合は、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の融解液と導電性を有する炭素材料との混合物を得る工程を有することが好ましく、製造方法1及び製造方法2のいずれも好ましく選択され、製造方法1がより好ましく選択される。
フェノール性水酸基を有する芳香族化合物が、例えば300℃以上といった高融点である場合、焼成温度よりも高い融点を有する場合、又は融点を有さない場合は、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の有機溶媒溶液と導電性を有する炭素材料との混合物を得る工程を有することが好ましく、製造方法2が好ましく選択される。
【0039】
(1)製造方法1
製造方法1の工程1において、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との質量比は、0.1:1~5:1が好ましく、0.2:1~2:1がより好ましく、0.5:1~1:1がさらに好ましい。質量比が上記範囲にあると、導電性を有する炭素材料の導電性を損なうことなく、良好な発電特性を得る観点から好ましい。
【0040】
製造方法1において、工程1の混合方法としては、一般的な混合方法を採用でき、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いた混合方法を挙げることができる。
【0041】
製造方法1において、工程2の焼成温度としては、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の融点以上であり、かつフェノール性水酸基を有する芳香族化合物が分解する温度未満であることが好ましく、150~600℃がより好ましく、180~500℃がさらに好ましく、200~450℃が最も好ましい。このような温度範囲とすることにより、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との反応が十分に進む。
【0042】
焼成は焼成温度にて、好ましくは1~10時間、より好ましくは1~5時間行う。焼成は、不活性ガス下行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0043】
(2)製造方法2
製造方法2の工程1において、有機溶媒溶液中のフェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との質量比は、0.1:1~5:1が好ましく、0.2:1~2:1がより好ましく、0.5:1~1:1がさらに好ましい。質量比が上記範囲にあると、導電性を有する炭素材料の導電性を損なうことなく、良好な発電特性を得る観点から好ましい。
【0044】
製造方法2において、工程1の混合方法としては、一般的な混合方法を採用でき、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いた混合方法を挙げることができる。
【0045】
有機溶媒としては、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物を溶解できればよく、実用上は0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上の溶解性を有し、乾燥による除去のしやすさの観点から沸点250℃以下の有機溶媒が好ましい。このような有機溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタンなどのエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、イソブタノール、n-ブタノールなどのアルコール類;n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1-メトキシ2-プロパノール)、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタートなどのグリコールエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類等の有機溶媒が挙げられ、これらの溶媒は、それぞれ単独で、または2種以上混合して用いることができる。これらの溶媒の中でも、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物との相溶性の観点から、アルコール類、グリコールエーテル類及びグリコール類が好ましい。
【0046】
有機溶媒は、工程1の後で工程2における焼成の前に、有機溶媒を乾燥させる工程を設け、除去することが好ましい。例えば均質な混合物を得るとともに有機溶媒を乾燥させるために、坩堝等の容器に入れて内容物を加熱撹拌しながら乾燥させる。このように加熱攪拌を行なうことにより、室温ではフェノール性水酸基を有する芳香族化合物の溶け残りが存在する場合でも、加熱攪拌下では溶け残りも有機溶媒に溶解することができる。乾燥温度としては、有機溶媒の沸点以上であればよく、かつフェノール性水酸基を有する芳香族化合物が融解又は分解する温度未満である。
【0047】
製造方法2において、工程2の焼成温度としては、150~600℃がより好ましく、180~500℃がさらに好ましく、200~450℃が最も好ましい。このような温度範囲とすることにより、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との反応が十分に進むとともに、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の分解を防ぐことができる。
【0048】
焼成は焼成温度にて、好ましくは1~10時間、より好ましくは1~5時間行う。焼成は、不活性ガス下行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0049】
<<希土類金属イオンが前記炭素系焼成体の置換基と錯形成している、前記炭素系焼成体と希土類金属イオンとの錯体>>
本発明の炭素系焼成体は、希土類金属イオンとともに、希土類金属イオンが前記炭素系焼成体の置換基と錯形成している、前記炭素系焼成体と希土類金属イオンとの錯体となる。
前記炭素系焼成体と希土類金属イオンとの錯体における希土類金属イオンの金属種としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム又は、ルテチウムが挙げられ、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム及びイッテルビウムであることが好ましく、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、サマリウム、ユウロピウム及びイッテルビウムがより好ましい。これらは、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0050】
前記炭素系焼成体と希土類金属イオンとの錯体において、前記炭素系焼成体の置換基と希土類金属イオンとは、錯形成している。
前記炭素系焼成体の置換基と希土類金属イオンとの錯体構造としては、導電性を有する炭素材料の表面及び炭素の欠損部分由来の置換基と希土類金属イオンとの錯体構造及びフェノール性水酸基を有する芳香族化合物由来の水酸基と希土類金属イオンとの錯体構造が挙げられる。これらは、いずれか一方の錯体構造であっても、両方の錯体構造であってもよい。
【0051】
より具体的には、前記焼成体の置換基が、導電性を有する炭素材料由来の水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ホルミル基、スルホン酸基、オキシスルホン酸基、カルボン酸無水物構造、クロメン構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造並びにフェノール性水酸基を有する芳香族化合物由来の水酸基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0052】
導電性を有する炭素材料の表面及び炭素の欠損部分由来の置換基と希土類金属イオンとの錯体構造としては、炭素材料由来の水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ホルミル基、スルホン酸基、オキシスルホン酸基、カルボン酸無水物構造、クロメン構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造からなる群から選択される少なくとも1種の置換基より、形式的に脱プロトンした一価のアニオンと希土類金属イオンとの結合が挙げられる。好ましくは、希土類金属イオンが-O-を介して、炭素材料の表面及び炭素の欠損部分の置換基と錯体構造を形成している。より好ましくは、その安定度が高まる理由より、希土類金属イオンが、炭素材料の表面との間で、-O-を介して、1個又はそれ以上の環状構造、即ちキレート環を形成した構造が挙げられる。
フェノール性水酸基を有する芳香族化合物由来の水酸基と希土類金属イオンとの錯体構造としては、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物から焼成により形成された下記式(A)で表される部分構造と希土類金属イオンとの錯体構造、例えば式(B)で表される部分構造が挙げられる。フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の少なくとも一部は、炭素系炭素系焼成体中で、下記式(A)で表される三次元重合体として含まれていることが好ましい。
【0053】
【化3】
【0054】
炭素系焼成体と希土類金属イオンとの錯体の製造方法としては、下記製造方法A及び製造方法Bが挙げられる。発電特性の観点から、製造方法Bが好ましい。
<炭素系焼成体と希土類金属イオンとの錯体の製造方法A>
製造方法Aは、下記工程1Aを含み、好ましくはさらに下記工程2Aを含む。
希土類金属イオンが前記炭素系焼成体の置換基と錯体構造を形成している、前記炭素系焼成体と希土類金属イオンとの錯体は、工程1Aにより製造できる。耐久性の観点からは、工程1Aの後に、工程2Aを行なうことが好ましい。
【0055】
[工程1A]
工程1Aでは、本発明の炭素系焼成体と希土類金属化合物とを反応させて、希土類金属イオンと本発明の炭素系焼成体の置換基との錯形成された、炭素系焼成体と希土類金属イオンとの錯体を得る。
工程1Aでは、炭素系焼成体と希土類金属化合物との反応は、炭素系焼成体と希土類金属化合物とを溶媒中で反応させる。
工程1Aの反応に用いられる炭素系焼成体の置換基は、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ホルミル基、スルホン酸基、オキシスルホン酸基、カルボン酸無水物構造、クロメン構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、水酸基、カルボキシル基、ホルミル基、カルボン酸無水物構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有していることがより好ましく、水酸基、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造から成る群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0056】
工程1Aに用いられる希土類金属化合物としては、
CeBr、CeCl・7HO、CeF、CeF、CeI
DyBr、DyBr・xHO、DyCl、DyCl・6HO、DyF、DyI
ErBr・xHO、ErCl、ErCl・6HO、ErF、ErI
EuBr・xHO、EuCl、EuCl、EuCl・6HO、EuF、EuI
GdBr、GdCl、GdCl・6HO、GdCl・xHO、GdF、GdI
HoBr、HoBr・xHO、HoCl、HoCl・6HO、HoF
LaBr・xHO、LaCl・7HO、LaCl・xHO、LaF、LaI
LuBr、LuCl、LuCl・6HO、LuF、LuI
NdBr、NdCl、NdCl・6HO、NdF、NdI、NdI
PrBr、PrBr・xHO、PrCl
SmBr、SmCl、SmCl・6HO、SmI、SmI
ScBr、ScCl、ScCl・6HO、ScF、ScI
TbBr、TbCl、TbCl・6HO、TbF、TbI
TmBr、TmCl、TmCl・6HO、TmF
YbBr、YbBr・xHO、YbCl、YbCl・6HO、YbF、YbI
YCl、YCl・6HO、YF、YI
Ce(NH(NO、Ce(NO・6HO、Dy(NH(NO、Er(NO・5HO、Er(NO・xHO、
Gd(NO・6HO、Ho(NO・5HO、La(NO・6HO、La(NO・xHO、Lu(NO・xHO、
Nd(NO・6HO、Pr(NO・6HO、Sm(NO・6HO、Tb(NO・5HO、Tb(NO・6HO、
Yb(NO・5HO、
Ce(CHCO・xHO、Eu(CHCO・xHO、
Gd(CHCO・xHO、La(CHCO・xHO、
Tb(CHCO・xHO、Yb(C・4H
CeO、Dy、Er、Eu、Gd、Ho、La、Lu、Nd
Pr、Pr11、Sm、Sc、Tb、Tb、Tm、Yb、Y
AlCeO、(CeO)(ZrO)等の他、希土類金属アルコキシド化合物、希土類金属アセチルアセトナト化合物等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0057】
希土類金属アルコキシド化合物の具体例としては、例えば希土類金属トリイソプロポキシドが挙げられる。希土類金属トリイソプロポキシドの具体例としては、スカンジウムトリイソプロポキシド、イットリウムトリイソプロポキシド、ランタントリイソプロポキシド、セリウムトリイソプロポキシド、プラセオジムトリイソプロポキシド、ネオジムトリイソプロポキシド、プロメチウムトリイソプロポキシド、サマリウムトリイソプロポキシド、ユウロビウムトリイソプロポキシド、ガドリニウムトリイソプロポキシド、テルビウムトリイソプロポキシド、ジスプロシウムトリイソプロポキシド、ホルミウムトリイソプロポキシド、エルビウムトリイソプロポキシド、ツリウムトリイソプロポキシド、イッテルビウムトリイソプロポキシド、ルテチウムトリイソプロポキシド等が挙げられる。
希土類金属アセチルアセトナト化合物の具体例としては、トリス(アセチルアセトナト)スカンジウム(III)、トリス(アセチルアセトナト)イットリウムn水和物、トリス(アセチルアセトナト)ランタン(III)水和物、トリス(アセチルアセトナト)セリウム(III)、トリス(アセチルアセトナト)ネオジム(III)、トリス(アセチルアセトナト)プロメチウム(III)、トリス(アセチルアセトナト)サマリウム(III)、トリス(アセチルアセトナト)ユウロビウム(III)、トリス(アセチルアセトナト)ガドリニウム(III)、トリス(アセチルアセトナト)テルビウム(III)、トリス(アセチルアセトナト)ジスプロシウム(III)、トリス(アセチルアセトナト)ホルミウム(III)、トリス(アセチルアセトナト)エルビウム(III)、トリス(アセチルアセトナト)ツリウム(III)、トリス(アセチルアセトナト)イッテルビウム(III)、トリス(アセチルアセトナト)ルテチウム(III)等が挙げられ、これらは水和物の形態をとっていてもよい。
【0058】
工程1Aに用いられる希土類金属化合物としては、
CeBr、CeCl・7HO、CeF、CeF、CeI
EuBr・xHO、EuCl、EuCl、EuCl・6HO、EuF、EuI
NdBr、NdCl、NdCl・6HO、NdF、NdI、NdI
SmBr、SmCl、SmCl・6HO、SmI、SmI
Ce(NH(NO、Ce(NO・6HO、
Nd(NO・6HO、
Ce(CHCO・xHO、Ce(C・xHO、Eu(CHCO・xHO、
CeO、Eu、Nd
Sm、Sc、(CeO)(ZrO)及びサマリウムトリイソプロポキシドからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、
CeBr、CeCl・7HO、CeF、CeF、CeI、EuI、NdI、NdI、SmBr、SmCl、SmCl・6HO、SmI、SmI、Ce(NH(NO、Ce(NO・6HO、Ce(CHCO・xHO、Ce(C・xHO、Sm及びサマリウムトリイソプロポキシドからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0059】
工程1Aは、例えば、水素化ナトリウム、水素化リチウム、水酸化ナトリウム、1,8-ジアザビシクロ-5,4,0-ウンデカ-7-エン(DBU)、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、N-エチルメチルブチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジエチルベンジルアミン、トリベンジルアミン等の塩基下の存在下、行うこともできる。これらの中でも、水素化ナトリウム及び水素化リチウムが好ましい。
【0060】
工程1Aに用いられる溶媒としては、炭素系焼成体を分散でき、希土類金属化合物を溶解又は分散できる非水系溶媒であればよく、例えば、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、四塩化炭素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、イソオキサゾール、1,4-ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、アセトン、アセトニトリル、ニトロメタン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、スルホラン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン等が挙げられる。1,3-プロパンスルトンは、反応の対象であるが、溶媒を兼ねることができる。トルエン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-プロパンスルトンが好ましく、テトラヒドロフランがより好ましい。
【0061】
工程1Aの反応温度は、好ましくは-10~200℃、より好ましくは10~160℃、さらに好ましくは15~140℃である。
【0062】
工程1Aの反応時間は、好ましくは1~500時間、より好ましくは2~300時間、さらに好ましくは5~150時間である。
【0063】
[工程2A]
工程2Aでは、工程1Aで得られた炭素系焼成体と希土類金属との錯体を酸及び水にて洗浄を行なう。工程2Aを経た錯体は、燃料電池デバイスに使用する前に、洗浄により、反応する置換基や不純物を排除しているため、分解物が燃料電池デバイスを傷める事が極力減少できるため、耐久性に優れる。
工程2Aに用いられる酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、亜硫酸、亜硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸、乳酸、蓚酸、クエン酸、蟻酸等の有機酸等を用いて行うこともでき、燃料電池デバイスの観点から不純物が残りにくい硫酸が好ましい。
【0064】
<炭素系焼成体と希土類金属イオンとの錯体の製造方法B>
製造方法Bは、下記工程1Bを含み、好ましくはさらに下記工程2Bを含む。
希土類金属イオンが前記炭素系焼成体の置換基と錯体構造を形成している、前記炭素系焼成体と希土類金属イオンとの錯体は、工程1Bにより製造できる。必要に応じて、工程1Bの後に、工程2Bを行なっても良い。
【0065】
[工程1B]
工程1Bでは、本発明の炭素系焼成体と希土類金属化合物との混合物を焼成して、希土類金属イオンと炭素系焼成体の置換基との錯体構造が形成された、炭素系焼成体と希土類金属イオンとの錯体を得る。
【0066】
工程1Bの反応に用いられる炭素系焼成体の置換基は、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ホルミル基、スルホン酸基、オキシスルホン酸基、カルボン酸無水物構造、クロメン構造、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、水酸基、カルボキシル基、ホルミル基、カルボン酸無水物構造、ラクトン構造及びエステル構造からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有していることがより好ましく、水酸基、ラクトン構造、エステル構造及びエーテル構造から成る群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0067】
工程1Bに用いられる希土類金属化合物は、前記工程1Aに記載の化合物と同様の化合物が挙げられる。
【0068】
工程1Bに用いられる希土類金属化合物としては、
Ce(CHCO・xHO、Ce(C・xHO、Eu(CHCO・xHO、
Gd(CHCO・xHO、Gd(C・xHO、La(CHCO・xHO、La(C・xHO、
Tb(CHCO・xHO、Yb(C・4HO、
セリウムトリイソプロポキシド、サマリウムトリイソプロポキシド、
トリス(アセチルアセトナト)セリウム(III)及びトリス(アセチルアセトナト)サマリウム(III)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、
Ce(CHCO・xHO、Ce(C・xHO、サマリウムトリイソプロポキシド、トリス(アセチルアセトナト)セリウム(III)及びトリス(アセチルアセトナト)サマリウム(III)からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0069】
工程1Bの焼成温度は、好ましくは100~1000℃、より好ましくは150~600℃、さらに好ましくは200~500℃である。
【0070】
工程1Bの焼成時間は、好ましくは1~500時間、より好ましくは2~300時間、さらに好ましくは5~150時間である。
【0071】
工程1Bの焼成の雰囲気は、大気下及び不活性ガス下にて行うことができ、大気としては、空気が挙げられ、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。焼成の雰囲気は、不活性ガス下が好ましく、不活性ガスとしては窒素が好ましい。
【0072】
[工程2B]
[工程2A]と同様である。
【0073】
<炭素系焼成体及び錯体の用途>
炭素系焼成体及び錯体は、固体高分子形燃料電池の触媒層における電解質、触媒担体、及び固体電解質膜に使用でき、燃料電池の発電特性の向上させることができる。また、炭素系焼成体及び錯体は、水電解等の電極触媒の材料として触媒層に使用でき、燃料電池の発電水電解槽の電圧収支の性能を向上させることができる。燃料電池に使用される例を以下に述べる。
【0074】
<<固体高分子形燃料電池>>
図1は、固体高分子形燃料電池(以下、「燃料電池」ともいう。)の構成を模式的に示す断面図である。固体高分子形燃料電池100は、アノード触媒層103、カソード触媒層105及び両触媒層に挟持された固体電解質膜107を有し、各触媒層は外側にガス拡散層(Gas Diffusion Layer、以下「GDL」と略称する)101を有する。この構成を膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly、以下「MEA」と略称する)という。燃料電池は、通常、このMEAがセパレータ109に挟持されている。
【0075】
アノード触媒層103及びカソード触媒層105の少なくとも一方は、前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体を含む。さらには、固体電解質膜107も、前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体を含んでいてもよい。高電流駆動時における過電圧上昇抑制の観点からは、前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体は、少なくともカソード触媒層105に用いることが好ましい。
【0076】
前記炭素系焼成体及び前記錯体は、プロトン伝導性、電子伝導性、水輸送及びガス透過性を有するとともに、その構造から触媒を担持する機能も有する。したがって、燃料電池における触媒層における触媒担体、電解質及びその両者を兼ねたもの、固体電解質膜における電解質として用いることができる。
前記炭素系焼成体及び前記錯体の主要機能は、前記炭素系焼成体及び前記錯体の母体である炭素材料が既に有している電子伝導性、比表面積に加え、焼成後のフェノール性水酸基を有する芳香族化合物より付与されるフェノール性の水酸基によるプロトンの受け渡し効果、焼成後の炭素材料の凝集抑制とその効果に伴う触媒インクの分散安定性の向上、固体触媒の担持能力の向上、水の吸着脱離による水輸送の機能を持つと考えられ、更に炭素材料そのものが持つ空孔は、ガスの拡散の機能があると考えられる。
【0077】
アノード触媒層103及びカソード触媒層105は、前記炭素系焼成体及び前記錯体からなる群から選択される少なくとも1種並びに金属触媒を含む組成物を触媒インクとして調製した後、その触媒インクを目的の基材上に塗布して乾燥させて得られる。すなわち、アノード触媒層103及びカソード触媒層105は、金属触媒と、前記炭素系焼成体及び前記錯体からなる群から選択される少なくとも1種とを含有する組成物を有する。
【0078】
前記炭素系焼成体及び前記錯体は、電解質の1種であり、かつ触媒担体の1種であることが好ましい。前記炭素系焼成体及び前記錯体が、電解質と触媒担体とを兼ねることにより、従来プロトン伝導性を有さなかった触媒担体もプロトン伝導性を有することになり、燃料電池の電気特性の向上等が期待される。
【0079】
触媒担体に担持された触媒を電極触媒という。本明細書では、アノード触媒層103及びカソード触媒層105を、触媒層と略すことがある。
【0080】
触媒インクに含まれる金属触媒としては、特に制限なく公知の金属触媒を使用することができる。このようなアノード触媒層103及びカソード触媒層105に用いられる金属触媒の主要機能は電気化学反応を起こすことである。金属触媒としては、白金、白金と他の金属との合金、白金をシェル部とするコアシェル等の白金含有触媒;その他の金属触媒が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、触媒活性の点から、白金含有触媒が好ましい。例えば、カーボンブラックを触媒担体とする白金触媒TEC10E50E(田中貴金属工業株式会社製)等が挙げられる。
【0081】
白金と他の金属との合金において、白金と合金を構成する金属としては白金以外であれば特に制限されず、例えば、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、インジウム、スズ、アンチモン、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、金、鉛、ビスマス、ランタン、セリウム等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0082】
白金をシェル部とするコアシェルは、コア部が白金以外の金属からなり、シェル部が白金である。コア部に用いられる金属としては白金以外であれば特に制限されず、例えば、ニッケル、銅、パラジウム、銀、金、イリジウム、チタン、鉄、コバルト、ルテニウム、オスミウム、クロム、モリブデン、タングステンが挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0083】
触媒としては、白金含有触媒が好ましく用いられるが、これに限定されるものではなく、その他の金属触媒として、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム等の貴金属や、鉄、ニッケル、マンガン、コバルト、クロム、銅、亜鉛、モリブデン、タングステン、ゲルマニウム、スズ等の卑金属、これら貴金属と卑金属との合金、あるいは金属酸化物、金属錯体等の化合物を採用することもできる。これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0084】
触媒インクとして使用される組成物は、金属触媒及び前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体に加え、前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体以外の触媒担体、前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体以外の電解質、結着剤及び溶剤を含んでいてもよい。溶剤以外のこれらの成分は、金属触媒及び前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体と同様に、アノード触媒層103及びカソード触媒層105の少なくとも一方に含まれる。
【0085】
触媒インクとして使用される組成物において含まれていてもよい前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体以外の触媒担体としては、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、種々の炭素原子を含む材料を炭化し賦活処理した活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛、グラファイト化カーボンなどの炭素材料が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。前記のうち、比表面積が高く電子伝導性に優れることから、前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体以外の触媒担体としては、カーボンブラックが好ましい。触媒担体の主要機能は電子を伝導することである。更に触媒担体の主要機能としては、触媒担体の空孔によるガスと水の輸送が挙げられる。
【0086】
電極触媒における電子伝導性の低下を抑制するため、触媒層に触媒担体同士を結着する結着剤を用いることができ、結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)、アクイヴィオン(登録商標、ソルベイ株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)等のフッ素系スルホン酸ポリマーなどが挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0087】
触媒インクとして使用される組成物において含まれていてもよい前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体以外の電解質としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)、アクイヴィオン(登録商標、ソルベイ株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)等のフッ素系スルホン酸ポリマー、炭化水素系スルホン酸ポリマー、部分フッ素系導入型炭化水素系スルホン酸ポリマー等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体以外の電解質としては、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)、アクイヴィオン(登録商標、ソルベイ株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)等のパーフルオロ酸系高分子が好ましく、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)がより好ましい。電解質は、前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体を単独で用いることもできるし、前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体と上述した電解質とを混合して用いることもできる。触媒層における電解質の主要機能はプロトンを伝導することであるが、更に燃料ガスを通すことと水の輸送も同時に要求されている観点より、触媒インクとして使用される組成物における電解質は、前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体と共に、高電流領域での電圧特性の観点から、前記ナフィオン等のパーフルオロ酸系高分子を含むことが好ましい。前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体を含む触媒層は、固体電解質膜の材料であるフッ素系スルホン酸ポリマー、炭化水素系スルホン酸ポリマー、部分フッ素系導入型炭化水素系スルホン酸ポリマーといずれの材料も、触媒層の材料として使用することができ、フッ素系スルホン酸ポリマー及び部分フッ素系導入型炭化水素系スルホン酸ポリマーを使用することが好ましい。
【0088】
触媒インクとして使用される組成物に使用する溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。前記溶剤としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール及びイソブチルアルコールが好ましい。上述した溶剤のうち二種以上を混合して用いることもできる。インクの再凝集が抑制され塗布しやすく、更に触媒層中に溶剤が残留を抑制できる観点から、触媒インクに使用する溶剤としては、水、エタノール、1-プロパノール及び2-プロパノールがより好ましい。
【0089】
触媒インク中の各成分の含有量は、目的に応じて適宜調整されるが、触媒インクにて、溶剤の質量を除いた固形分の100質量%中、金属触媒は、14~44質量%が好ましく、24~34質量%がより好ましく、前記炭素系焼成体及び前記錯体からなる群から選択される少なくとも1種は、1~25質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましく、その他の電解質は、触媒インクに含まれる場合は、20~45質量%が好ましく、25~40質量%がより好ましく、その他の触媒担体は、触媒インクに含まれる場合は、20~55質量%が好ましく、25~45質量%がより好ましく、結着剤は、触媒インクに含まれる場合は、0~5質量%が好ましく、0~3質量%がより好ましい。電解質としても、結着剤としても挙げられている成分は、上記配合量では、電解質に含む。
触媒インクで使用する溶剤は、触媒インクの100質量%あたり、溶剤は、70~99質量%が好ましく、80~96質量%がより好ましい。
【0090】
触媒インクの組成を調整することで、電子伝導性の低下を抑制、プロトン伝導性の向上、ガスの拡散性の向上、水輸送の効率化、触媒層の機械強度の向上などの機能や性能を向上させることができる。
【0091】
触媒層103及び触媒層105の作製方法について説明する。前記触媒インクを調製した後、その触媒インクを目的の基材上に塗布して乾燥させて触媒層を作製する。目的の基材としては、例えば、固体電解質膜、GDL、フッ素樹脂から成るシート等が挙げられ、公知の製造方法により触媒層を作製できる。フッ素樹脂から成るシートに触媒インクを塗布した場合は、塗布した触媒層を固体電解質に転写する。フッ素樹脂から成るシートとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から成るシートが一般的である。
【0092】
前記触媒インクの組成の例として、例えば、金属触媒を白金とし、触媒担体をカーボンブラックとし、電解質を前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体並びにナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)とした触媒インクの組成、金属触媒を白金とし、触媒担体をカーボンブラックとし、電解質を前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体とした触媒インクの組成等が挙げられる。さらには、触媒を白金とし、触媒担体をカーボンブラック並びに前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体、又は前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体のみとし、電解質を前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体とした触媒インクの組成が挙げられる。このように、触媒担体の少なくとも一部を前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体とする触媒インクは、前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体と金属触媒とを含む触媒インクを解砕処理することにより製造され、金属触媒を担持した炭素系焼成体及び/又は前記錯体を含む触媒インクが得られる。
【0093】
前記解砕処理としては、例えば、乾式での解砕処理、湿式での解砕処理が挙げられる。乾式での解砕処理としては、ボールミル、遊星ミル、ピンミル、ジェットミル等が挙げられる。湿式での解砕処理としては、超音波ホモジナイザー、超音波分散機、ビーズミル、サンドグラインダー、ホモジナイザー、湿式ジェットミル等が挙げられる。このなかでも、好ましい解砕処理は、ボールミル、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、超音波分散機、ホモジナイザーであり、ビーズミル、超音波ホモジナイザー及び、超音波分散機が特に好ましい。湿式での解砕処理の際、用いる溶媒は特に限定しないが、前記触媒インクに使用する溶剤等を用いることができる。
【0094】
前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体は、前記触媒インクの調製時に使用して、膜電極接合体(MEA)を作成し単セルに組み込むことで、発電特性を得ることができる。
【0095】
触媒層における前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体使用量の割合は、下記の式にて算出する。なお、下記計算式において、電極触媒、炭素系焼成体及び/又は錯体、電解質及び結着剤の質量は、水分及び溶剤を差し引いた固形分質量を計算に用いた。また、下記計算式において、電解質、電極触媒は、本発明における炭素系焼成体及び/又は錯体を含まない。
【0096】
炭素系焼成体及び/又は錯体の割合(質量%)
=[炭素系焼成体及び/又は錯体(質量)/〔触媒層中の全質量(但し固形分質量)〕]×100(質量%)
=[炭素系焼成体及び/又は錯体(質量)/〔電極触媒(質量)+炭素系焼成体及び/又は錯体以外の電解質(質量)+結着剤(質量)+炭素系焼成体及び/又は錯体(質量)〕]×100(質量%)
炭素系焼成体及び/又は錯体の割合は、1~25%が好ましく、5~20%がより好ましい。
【0097】
触媒層が炭素系焼成体及び錯体以外の電解質を含む場合は、触媒層中の炭素系焼成体及び/又は錯体と炭素系焼成体及び錯体以外の電解質との質量比は、炭素系焼成体及び/又は錯体:炭素系焼成体及び錯体以外の電解質=1:1~1:10が好ましく、10:12~1:5がより好ましい。
【0098】
固体電解質膜107の材料としては、前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)、アクイヴィオン(登録商標、ソルベイ株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)等のフッ素系スルホン酸ポリマー、炭化水素系スルホン酸ポリマー、部分フッ素系導入型炭化水素系スルホン酸ポリマー等が挙げられる。
【0099】
固体電解質膜107の膜厚としては、導電性、耐久性、ガスのクロスリークの観点から10~100μmが好ましく、20~60μmがより好ましい。
【0100】
ガス拡散層101としては、特に制限はないが、導電性を有する多孔質材料が好適に用いられており、このような材料としては、例えば炭素性の紙及び不織布、フェルト、不織布等が挙げられる。更にGDLには、撥水性樹脂とカーボン材料とを主成分とするコーティング層であるマイクロポーラス層(Micro Porous Layer、以下「MPL」と略称する)と呼ばれる層をコーティングした材料もあり、燃料電池の発電時の水輸送を効果的に行うことが報告されており、前記炭素系焼成体及び/又は前記錯体を含む触媒層は、このMPLを有するガス拡散層を使用することもできる。本発明中の発電試験では、このMPLを持つGDLである撥水性カーボンペーパーを使用した。
【実施例
【0101】
以下に、本発明の合成例および実施例を、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。合成例および実施例で用いた分析装置およびその条件は以下のとおりである。
【0102】
実施例、比較例において、IR測定は入射角30度のゲルマニウムATR法にて、装置名:Nicolet6700-Continiuum(Thermo社製)を用いて測定した。
【0103】
[実施例1:焼成体(1)の製造]
ケッチェンブラックEC(ライオン社製、EC300J、1.08g)とフロログルシノール(融点 220℃、東京化成工業社製、1.08g)とを乳鉢で混合した混合物(2.09g)をアルミナ坩堝に入れた。該坩堝を卓上ガス置換炉KDF-75(デンケン・ハイデンタル製)に設置し、窒素フローにて窒素雰囲気とした後、毎分3℃で昇温し、焼成温度250℃で2時間の焼成を行った。焼成後は、窒素雰囲気を維持した状態で室温まで冷却し、黒色の炭素系焼成体(1.91g、仕込み質量を100質量%とした場合91質量%に相当)を得た。この黒色の焼成体をメノウ乳鉢で粉砕して評価用試料とした。
【0104】
ゲルマニウムATR法によるIR測定を行った。図2に焼成体(1)のIR測定のチャート図を示す。
【0105】
対比のため、原料のケッチェンブラックEC(ライオン社製、EC300J)のIR測定も行った。図3にケッチェンブラックECのIR測定のチャート図を示す。
【0106】
図2図3を比較したところ、図2にIR測定のチャートには、ケッチェンブラックECのIR測定のチャートにはなかった新たなピークを確認した。図2において新たなピークは、矢印で示した。
【0107】
[実施例2:焼成体(2)の製造]
ケッチェンブラックEC(ライオン社製、EC300J、0.27g)と、フロログルシノール(東京化成工業社製、0.27g)を1-メトキシ2-プロパノール5.13gに溶解させた溶液5.67gとをアルミナ坩堝に入れた。120℃に設定したホットスターラー上にてテフロン(登録商標)撹拌子で内容物を撹拌しながら溶媒を揮発させた。最終的にホットスターラーを150℃に昇温して内容物を乾燥させた。次いで該坩堝を卓上ガス置換炉KDF-75(デンケン・ハイデンタル製)に設置し、窒素フローにて窒素雰囲気とした後、毎分3℃で昇温し、250℃で2時間の焼成を行った。焼成後は、窒素雰囲気を維持した状態で100℃以下に冷却した。アルミナ坩堝の内容物は黒色の炭素系焼成体であり、0.450g(仕込み量を100質量%とした場合、83質量%に相当)であった。この黒色の焼成体をメノウ製乳鉢で粉砕して評価用試料とした。
【0108】
[実施例3:焼成体(3)の製造]
ケッチェンブラックEC(ライオン社製、EC300J、0.27g)と、2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン(融点390℃超、富士フイルム和光純薬社製、0.27g)を1-メトキシ2-プロパノール13.23gに溶解させた溶液13.77gとをアルミナ坩堝に入れた。120℃に設定したホットスターラー上にてテフロン撹拌子で内容物を撹拌しながら溶媒を揮発させた。最終的にホットスターラーを160℃に昇温して内容物を乾燥させた。次いで該坩堝を卓上ガス置換炉KDF-75(デンケン・ハイデンタル製)に設置し、窒素フローにて窒素雰囲気とした後、毎分3℃で昇温し、350℃で2時間の焼成を行った。焼成後は、窒素雰囲気を維持した状態で100℃以下に冷却した。アルミナ坩堝の内容物は黒色の炭素系焼成体であり、0.478g(仕込み量を100質量%とした場合、88質量%に相当)であった。この黒色の焼成体をメノウ製乳鉢で粉砕して評価用試料とした。
【0109】
[実施例4:焼成体(4)の製造]
ケッチェンブラックEC(ライオン社製、EC300J、0.27g)と、2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン(富士フイルム和光純薬社製、0.27g)を1-メトキシ2-プロパノール13.23gに溶解させた溶液13.77gとをアルミナ坩堝に入れた。120℃に設定したホットスターラー上にてテフロン撹拌子で内容物を撹拌しながら溶媒を揮発させた。最終的にホットスターラーを160℃に昇温して内容物を乾燥させた。次いで該坩堝を卓上ガス置換炉KDF-75(デンケン・ハイデンタル製)に設置し、窒素フローにて窒素雰囲気とした後、毎分3℃で昇温し、400℃で2時間の焼成を行った。焼成後は、窒素雰囲気を維持した状態で100℃以下に冷却した。アルミナ坩堝の内容物は黒色の炭素系焼成体であり、0.450g(仕込み量を100質量%とした場合、83質量%に相当)であった。この黒色の焼成体をメノウ製乳鉢で粉砕して評価用試料とした。
【0110】
[実施例5:焼成体(5)の製造]
カーボンナノチューブ(昭和電工社製、VGCF(登録商標)-X、0.305g)と、2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン(富士フイルム和光純薬社製、0.300g)を1-メトキシ2-プロパノール14.095gに溶解させた溶液14.70gとをアルミナ坩堝に入れた。120℃に設定したホットスターラー上にてテフロン撹拌子で内容物を撹拌しながら溶媒を揮発させた。最終的にホットスターラーを160℃に昇温して内容物を乾燥させた。次いで該坩堝を卓上ガス置換炉KDF-75(デンケン・ハイデンタル製)に設置し、窒素フローにて窒素雰囲気とした後、毎分3℃で昇温し、400℃で2時間の焼成を行った。焼成後は、窒素雰囲気を維持した状態で100℃以下に冷却した。アルミナ坩堝の内容物は黒色の炭素系焼成体であり、0.518g(仕込み量を100質量%とした場合、86質量%に相当)であった。この黒色の焼成体をメノウ製乳鉢で粉砕して評価用試料とした。
【0111】
[比較例1:2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレンのみを焼成した焼成体(6)の製造]
原料に、2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン(東京化成工業社製、0.21g)のみを使用し、350℃の焼成温度に設定した以外は、実施例1と同じ方法で製造した。黒色の焼成物(0.18g、仕込み量を100質量%とした場合、86質量%に相当)を得た。
【0112】
以下の試験例で、発電試験は、以下の要領で行った。
<燃料電池の発電試験A>
作製したMEAを、1cmの電極面積を有する単セル(エフシー開発社製、JARI標準セル)に組み込んだ後、燃料電池の発電試験を行った。燃料電池評価システム(東陽テクニカ社製,AutoPEM)にて、温度80℃、相対湿度95%、1L/分の水素ガス及び2L/分の空気ガス流で評価を行い、電気化学測定システム(Bio-Logic社製、SP-300)を用いて行い電流密度と電圧とを測定した。また、開回路電圧(Open Circuit Voltage、以下「OCV」と略称する。)を測定した。なお、OCVは、単セルに電圧または電流を印加していない状態の電位である。
【0113】
[試験例1(焼成体(1)使用した発電試験)]
触媒インクを、白金担持カーボンである電極触媒(田中貴金属工業社製、白金含有量:46.5質量%、品名「TEC10E50E」)、焼成体(1)、ナフィオン分散溶液(和光純薬工業社製、品名「5% Nafion Dispersion Solution DE520 CS type」)及び2-プロパノール(和光純薬工業社製)を用いて調製した。ガラス製のバイアル瓶に、電極触媒、焼成体(1)、ナフィオン分散溶液、2-プロパノールを、この順番で加えた分散溶液を、アズワン社製の超音波洗浄器ASU-6を用いて、発振パワーをHighに設定して30分間、超音波を照射することで、触媒インクを調製した。
以下に触媒インク調製条件を記載する。
【0114】
触媒インク調製条件:
ナフィオン割合(質量%)
=[ナフィオン固形分(質量)/〔電極触媒(質量)+ナフィオン固形分(質量)+焼成体(質量)〕]×100(質量%)
を29質量%となるようにした。
【0115】
焼成体割合(質量%)
=[焼成体(質量)/電極触媒(質量)+ナフィオン固形分(質量)+焼成体(質量)〕]×100(質量%)
を16質量%となるようにした。具体的には、電極触媒の質量(27.5mg)にした場合は、ナフィオン分散溶液(294.8mg)、焼成体(8.0mg)、2-プロパノール(1mL)と設定した触媒インクとして調製した。ナフィオン分散溶液(294.8mg)は、ナフィオン固形分(14.7mg)に相当する。
【0116】
触媒インク塗布条件(デカールの作成):
触媒インクの塗布は、面積8cm×8cmで厚さ130μmのテフロンシートをターゲットした台及びアプリケーターを用いて、調製した触媒インクを全量用いることで、1cmあたりの白金量が0.2mgとなる触媒層がテフロンシートにのったデカールを作成した。該デカールののったシートを、面積1cm×1cmのデカールシートとして切り出した。アノード及びカソードの白金の目付量は、各々のデカールと転写後の質量差にて、0.2mgを確認した。
【0117】
MEAを作製する工程:
膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly、以下「MEA」と略称する)は、固体電解質膜、ガス拡散層(Gas Diffusion Layer、以下「GDL」と略称する)および触媒インクを使用したデカールにより作製した。GDLは、MPLを有するカーボンペーパー(SGLカーボンジャパン株式会社製、品名「28BC」)を用いた。
5cm×5cmの正方形に切り出したナフィオン212膜(登録商標、デュポン株式会社製、膜厚:50μm)を固体電解質膜として中央に設置し、その両面に触媒層がテフロンシートにのったデカール(面積1cm×1cm)を重ね合わせた後、上下盤温度134℃(試験例1、6~13、比較試験例4は132℃)、荷重0.6kN、圧着時間240秒(試験例1、6~13、比較試験例4は120秒)の条件で熱圧着して、テフロンシートを剥離して触媒被覆膜(Catalyst Coated Membrane、以下「CCM」と略称する)を作製した。アノード及びカソードの白金の目付量は、デカールと転写後の質量差にて確認した。
GDLは、カーボンペーパー(SGLカーボンジャパン式会社製、品名「28BC」、面積1cm×1cm)を用いて、MPL層側を固体電解質膜側にして、アノード側とカソード側の両方より重ね合わせた後、JARI標準セルを、トルクレンチで1Nmごとに4Nmまで締め付けて、GDLとCCMとを圧着した。
作製したMEAを用いて、燃料電池の発電試験Aを行った。電圧および電流密度の結果を表1に示す。OCVは0.954Vであった。
【0118】
[試験例2~5]
焼成体(1)の代わりに、試験例2では焼成体(2)を、試験例3では焼成体(3)を、試験例4では焼成体(4)を、試験例5では焼成体(5)を、触媒インク調製においてそれぞれ8.0mgを用いた以外は、試験例1と同様にして、MEAを作製した。作製したMEAを用いて、燃料電池の発電試験Aを行った。電圧および電流密度の結果を表1に示す。試験例2のOCVは0.967V、試験例3のOCVは0.980V、試験例4のOCVは0.983V、試験例5のOCVは0.985Vであった。
【0119】
[比較試験例1~比較試験例3]
焼成体(1)の代わりに、比較試験例1では焼成体(6)を、比較試験例2ではケッチェンブラックECを、比較試験例3では焼成体(6)とケッチェンブラックEC(ライオン社製、EC300J)との同質量の物理混合物を、、触媒インク調製においてそれぞれ8.0mgを用いた以外は、試験例1と同様にして、MEAを作製した。作製したMEAを用いて、燃料電池の発電試験Aを行った。電圧および電流密度の結果を表1に示す。
比較試験例1のOCVは0.936V、比較試験例2のOCVは0.974V、比較試験例3のOCVは0.955Vであった。
【0120】
【表1】
【0121】
試験例1と添加する材料が異なる以外は、同じ条件にそろえた燃料電池の発電試験で実施した比較試験例1~3と発電特性を比較すると、試験例1~5の方が良い結果であった。
試験例1~5と比較試験例1及び2との比較より、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との組み合わせの焼成体を用いることにより、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物単独の焼成体および導電性を有する炭素材料単独よりも、優れた発電特性が得られることがわかる。
試験例1~5と比較試験例3との比較より、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物の焼成体と導電性を有する炭素材料との組み合わせよりも、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物と導電性を有する炭素材料との組み合わせの焼成体の方が優れた発電特性が得られることがわかる。
【0122】
試験例1~4と試験例5とを比較すると、導電性を有する炭素材料としてカーボンナノチューブを用いた場合は、電流密度が高くなった時に、ケッチェンブラックECを用いた場合よりも発電特性が優れることがわかる。
試験例1と試験例2とを比較すると、融点が220℃のフロログルシノールは、そのまま炭素材料と混合して焼成した場合と、溶媒に溶解してから炭素材料と混合して焼成した場合では、発電特性にほとんど差はなかった。
【0123】
以上の試験例1~5より、本発明の製造方法で得られた焼成体を用いた燃料電池は発電特性が良好である。今回の発電試験で電流密度が1.5(A/cm)の領域でも、電圧が0.3V以上を保てる事は、生成する水のはけが良く、燃料の酸素(空気)の拡散も上がっているためと考えられ、触媒層の水輸送、ガス透過性が向上されているということができる。また、本発明の焼成体は水酸基を有するため、プロトンの受け渡し効果が向上されているということができる。
【0124】
[比較例2:フロログルシノールのみを焼成した焼成体(7)の製造]
原料に、フロログルシノール(東京化成工業社製、2.0g)のみを使用した以外は、実施例1と同じ方法で製造した。黒色の焼成物(1.8g、仕込み量を100%とした場合、90%回収)を得た。
【0125】
ゲルマニウムATR法によるIR測定を行った。図4に焼成体(7)のIR測定のチャート図を示す。
【0126】
[実施例6:焼成体(8)の製造]
原料に、ケッチェンブラックEC(ライオン社製、EC300J、0.60g)とフロログルシノール(東京化成工業社製、1.80g)とを乳鉢で混合した混合物(2.34g)を使用した以外は、実施例1と同じ方法で製造した。黒色の焼成物(1.91g、仕込み量を100%とした場合、82%回収)を得た。
【0127】
[実施例7:焼成体(9)の製造]
原料に、ケッチェンブラックEC(ライオン社製、EC300J、1.80g)とフロログルシノール(東京化成工業社製、0.60g)とを乳鉢で混合した混合物(2.29g)を使用した以外は、実施例1と同じ方法で製造した。黒色の焼成物(2.15g、仕込み量を100%とした場合、94%回収)を得た。
【0128】
[実施例8:焼成体(10)の製造]
原料に、ケッチェンブラックEC(ライオン社製、EC300J、1.00g)と2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン(富士フイルム和光純薬社製、1.00g)とを乳鉢で混合した混合物(0.99g)を使用し、350℃の焼成温度に設定した以外は、実施例1と同じ方法で製造した。黒色の焼成物(0.87g、仕込み量を100%とした場合、88%回収)を得た。
【0129】
[実施例9:焼成体(11)の製造]
原料に、ケッチェンブラックEC(ライオン社製、EC300J、0.21g)と2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン(富士フイルム和光純薬社製、0.21g)とを乳鉢で混合した混合物(0.41g)を使用し、400℃の焼成温度に設定した以外は、実施例1と同じ方法で製造した。黒色の焼成物(0.35g、仕込み量を100%とした場合、85%回収)を得た。
【0130】
[比較例3:2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレンのみを焼成した焼成体(12)の製造]
原料に、2,3,6,7,10,11-ヘキサヒドロキシトリフェニレン(東京化成工業社製、0.21g)のみを使用し、350℃の焼成温度に設定した以外は、実施例1と同じ方法で製造した。黒色の焼成物(0.18g、仕込み量を100%とした場合、86%回収)を得た。
【0131】
[実施例10:焼成体(13)の製造]
原料に、カーボンナノチューブ(昭和電工社製、VGCF(登録商標)-X、0.32g)とフロログルシノール(富士フイルム和光純薬社製、0.32g)とを乳鉢で混合した混合物(0.63g)を使用した以外は、実施例1と同じ方法で製造した。黒色の焼成物(0.52g、仕込み量を100%とした場合、82%回収)を得た。
【0132】
[実施例11:焼成体(1)と希土類金属イオンとの錯体(A)の製造]
実施例1で製造した焼成体(1)(1.00g)、テトラヒドロフラン(50mL)、トリス(アセチルアセトナト)セリウム(III)三水和物(富士フイルムワコーケミカル社製、4.67g、9.50mmol)を、順次、反応容器に加えた。次に、水素化ナトリウム(240.0mg、10.0mmol)の粉体を分割して反応容器に加えた。反応混合物を70℃に設定したオイルバスに設置、24時間撹拌して反応を行った。反応終了後、室温である20~25℃にした後、イオン交換水(10mL)及び2mol/Lの硫酸(20mL)を、この順番で反応容器に加え、1時間撹拌した。次に、この反応混合物を、シリカ濾紙を装着した減圧濾過器にて濾過した後、2mol/Lの硫酸(10mL)にて、洗浄した。次に、濾液の水素イオン指数(pH)が中性になるまで、イオン交換水で洗浄した。この粗物をナスフラスコに加えた後、真空ポンプに接続したエバポレーターに設置して、バス温度90℃にて、恒量になるまで乾燥して、錯体(A)を黒色の固体として得た(1.792g)。
【0133】
[実施例12:焼成体(1)と希土類金属イオンとの錯体(B)の製造]
実施例1で製造した焼成体(1)(0.60g)、テトラヒドロフラン(30mL)、サマリウムトリイソプロポキシド(富士フイルム和光製薬社製、2.00g、6.10mmol)を、順次、反応容器に加えた。次に、水素化ナトリウム(240.0mg、10.0mmol)の粉体を分割して反応容器に加えた。反応混合物を70℃に設定したオイルバスに設置、24時間撹拌して反応を行った。反応終了後、室温である20~25℃にした後、イオン交換水(5mL)及び2mol/Lの硫酸(10mL)を、この順番で反応容器に加え、1時間撹拌した。次に、この反応混合物を、シリカ濾紙を装着した減圧濾過器にて濾過した後、2mol/Lの硫酸(5mL)にて、洗浄した。次に、濾液の水素イオン指数(pH)が中性になるまで、イオン交換水で洗浄した。この粗物をナスフラスコに加えた後、真空ポンプに接続したエバポレーターに設置して、バス温度90℃にて、恒量になるまで乾燥して、錯体(B)を黒色の固体として得た(0.779g)。
【0134】
[実施例13:焼成体(1)と希土類金属イオンとの錯体(C)の製造]
実施例1で製造した焼成体(1)(0.60g)、トリス(アセチルアセトナト)セリウム(III)三水和物(富士フイルムワコーケミカル社製、1.05g、2.12mmol)を乳鉢で混合した混合物(2.09g)をアルミナ坩堝に入れた。該坩堝を卓上ガス置換炉KDF-75(デンケン・ハイデンタル製)に設置し、窒素フローにて窒素雰囲気とした後、毎分13℃で昇温し、焼成温度400℃で1時間の焼成を行った。焼成後は、窒素雰囲気を維持した状態で室温まで冷却し、錯体(C)を黒色の焼成物(0.85g、仕込み重量を100%とした場合51%回収)として得た。
【0135】
[比較試験例4(焼成体(7))]
焼成体(1)の代わりに、比較例試験例4では焼成体(7)を触媒インク調製においてそれぞれ8.0mgを用いた以外は、試験例1と同様にして、MEAを作製した。作製したMEAを用いて、燃料電池の発電試験Aを行った。電圧および電流密度の結果を表2に示す。
比較試験例4のOCVは0.953Vであった。
【0136】
試験例1と添加する材料が異なる以外は、同じ条件にそろえた燃料電池の発電試験で実施した比較試験例4及び比較試験例2とで発電特性を比較すると、試験例1の方が良い結果であった。したがって、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物単独の焼成体及び導電性を有する炭素材料単独の焼成体よりも、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物及び導電性を有する炭素材料の混合物の焼成体の方が優れた発電特性を示すことがわかる。
【0137】
[試験例6]
試験例1で使用したナフィオン膜212(膜厚50μm)の代わりに、ナフィオン膜211(膜厚25μm)を使用した以外は、試験例1と同様にして、MEAを作製した。作製したMEAを用いて、燃料電池の発電試験Aを行った。電圧および電流密度の結果を表2に示す。OCVは0.972Vであった。
【0138】
試験例6では試験例1よりも薄いナフィオン膜を採用したことで、電解質膜でのプロトン伝導性が向上して更に発電特性が向上する事が分かった。
【0139】
【表2】
【0140】
[試験例7~11]
焼成体(1)の代わりに、試験例7では焼成体(8)を、試験例8では焼成体(9)を、試験例9では焼成体(10)を、試験例10では焼成体(11)を、試験例11では焼成体(13)を、触媒インク調製においてそれぞれ8.0mgを用いた以外は、試験例1と同様にして、MEAを作製した。作製したMEAを用いて、燃料電池の発電試験Aを行った。電圧および電流密度の結果を表3に示す。試験例7のOCVは0.971V、試験例8のOCVは0.950V、試験例9のOCVは0.988V、試験例10のOCVは0.981V、試験例11のOCVは9.651Vであった。
【0141】
【表3】
【0142】
[試験例12及び13]
焼成体(1)の代わりに、試験例12では錯体(B)を、試験例13では錯体(C)を用いた以外は、試験例1と同様にして、MEAを作製した。作製したMEAを用いて、燃料電池の発電試験Aを行った。電圧および電流密度の結果を表4に示す。試験例12のOCVは0.964V、試験例13のOCVは0.980Vであった。
【0143】
【表4】
【0144】
以上の試験例7~13より、本発明の焼成体、希土類金属と焼成体との錯体は、発電特性が良好である。今回の発電試験で電流密度が2~2.5(A/cm)の領域でも、電圧が0.2V以上を保てる事は、生成する水のはけが良く、燃料の酸素(空気)の拡散も上がっているためと考えられ、触媒層の水輸送、ガス透過性が向上されているということができる。また、本発明の焼成体及び錯体は水酸基を有するためのプロトンの受け渡し効果の向上や、本発明の錯体は希土類金属の錯体であるため、希土類金属の錯体の金属中心に、多数の水を配位させる効果により、プロトン伝導性を向上されているということができる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の焼成体及び錯体は、例えば、燃料電池用の電解質材料(例えば、触媒層に用いる電解質、触媒担体、及び固体電解質膜の電解質)として有用であり、燃料電池の発電特性の向上や高耐久化が期待される。
【符号の説明】
【0146】
100 燃料電池
101 ガス拡散層
103 アノード触媒層
105 カソード触媒層
107 固体電解質膜
109 セパレータ
図1
図2
図3
図4