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特許7712008情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-14
(45)【発行日】2025-07-23
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A01M 7/00 20060101AFI20250715BHJP
   G06T 7/64 20170101ALI20250715BHJP
   G06V 20/17 20220101ALI20250715BHJP
【FI】
A01M7/00 H
G06T7/64
G06V20/17
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2025006271
(22)【出願日】2025-01-16
【審査請求日】2025-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2024042777
(32)【優先日】2024-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 <資 料> 公開論文ウェブサイトでの公開日 2024年2月13日 ウェブサイトのアドレス https://www.mdpi.com/2077-0472/14/2/299
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】官 森林
(72)【発明者】
【氏名】高橋 仁康
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特許第6948917(JP,B2)
【文献】特開2023-64970(JP,A)
【文献】特開2023-35175(JP,A)
【文献】特表2024-519053(JP,A)
【文献】特許第6431395(JP,B2)
【文献】特許第6621140(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無人航空機に搭載されたカメラによって、圃場の上空の異なる位置から前記圃場を撮像した複数の空撮画像を取得する取得部と、
前記複数の空撮画像から、前記圃場の表面の高低差を表す高低差マップを生成する生成部と、
前記高低差マップに基づいて、前記圃場のうち、農薬を散布する散布位置および前記散布位置に対応する散布量を算出する算出部と、を備える、
情報処理装置。
【請求項2】
前記生成部は、前記複数の空撮画像から、前記圃場の表面を表すDSM(digital surface model)モデルを生成し、前記DSMモデルによって示される前記表面の各位置の標高値の平均値を算出し、前記表面の各位置の標高値から前記平均値を減算して前記高低差を求めることによって、前記高低差マップを生成する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記高低差マップによって示される各位置の前記高低差のうち、閾値に対応する高低差を基準として、所定値以上低い高低差に対応する位置を、前記散布位置として決定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記閾値は、前記圃場への入水時に前記圃場の水面高さを表す高低差である、
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記算出部は、前記高低差マップによって示される各位置の前記高低差を複数のレベルに分類し、前記複数のレベルに応じた前記散布量を算出する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記圃場のうち、前記散布位置および前記散布量を示した散布指示マップを前記無人航空機に出力する出力部を更に備える、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記出力部は、前記圃場を所定サイズのメッシュに分割し、分割した各メッシュに含まれる前記散布位置および前記散布量の代表値を決定し、決定した前記散布位置および前記散布量の代表値を前記散布指示マップとして出力する、
請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記算出部は、前記圃場の表面の高低差に基づいて、前記圃場から窪地領域を抽出し、抽出した前記窪地領域を前記散布位置として決定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記算出部は、前記圃場の各位置に所定幅のスライディングウィンドウを順次当てはめ、前記スライディングウィンドウに含まれる各位置のピクセル値から最小値を減算し、減算値が所定値以下となる位置を、前記窪地領域として決定する、
請求項8に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記圃場は稲栽培用の田畑であり、
前記農薬は、スクミリンゴガイを防除の対象とするものである、
請求項1から9のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項11】
コンピュータが、
無人航空機に搭載されたカメラによって、圃場の上空の異なる位置から前記圃場を撮像した複数の空撮画像を取得し、
前記複数の空撮画像から、前記圃場の表面の高低差を表す高低差マップを生成し、
前記高低差マップに基づいて、前記圃場のうち、農薬を散布する散布位置および前記散布位置に対応する散布量を算出する、
情報処理方法。
【請求項12】
コンピュータに、
無人航空機に搭載されたカメラによって、圃場の上空の異なる位置から前記圃場を撮像した複数の空撮画像を取得させ、
前記複数の空撮画像から、前記圃場の表面の高低差を表す高低差マップを生成させ、
前記高低差マップに基づいて、前記圃場のうち、農薬を散布する散布位置および前記散布位置に対応する散布量を算出させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無人航空機によって圃場の空撮画像を取得し、取得した空撮画像に基づいて、圃場への農薬散布を計画する技術が知られている。例えば、特許文献1には、圃場の空撮画像に基づいて、作物に発生している病気の進行具合を判断し、進行具合が後期である場合には、農薬散布を対応策として決定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第7387195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術は、病気の進行具合に応じて、農薬の散布濃度を決定するものである。一方、近年、スクミリンゴガイによる水稲被害が顕在化しているが、スクミリンゴガイによる食害は、水田圃場の水深4センチメートルより深い箇所に集中しやすい傾向がある。その点について、従来技術は、スクミリンゴガイの分布密度に関係なく、圃場全体で農薬の均一散布を実施するものであり、農薬散布に伴うコストは増加する一方、作業効率は低下するものであった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、圃場への農薬散布に伴うコストを抑えつつ、作業効率を向上することができる、情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る情報処理装置は、無人航空機に搭載されたカメラによって、圃場の上空の異なる位置から前記圃場を撮像した複数の空撮画像を取得する取得部と、前記複数の空撮画像から、前記圃場の表面の高低差を表す高低差マップを生成する生成部と、前記高低差マップに基づいて、前記圃場のうち、農薬を散布する散布位置および前記散布位置に対応する散布量を算出する算出部と、を備えるものである。
【0007】
前記生成部は、前記複数の空撮画像から、前記圃場の表面を表すDSM(digital surface model)モデルを生成し、前記DSMモデルによって示される前記表面の各位置の標高値の平均値を算出し、前記表面の各位置の標高値から前記平均値を減算して前記高低差を求めることによって、前記高低差マップを生成してもよい。
【0008】
前記算出部は、前記高低差マップによって示される各位置の前記高低差のうち、閾値に対応する高低差を基準として、所定値以上低い高低差に対応する位置を、前記散布位置として決定してもよい。
【0009】
前記閾値は、前記圃場への入水時に前記圃場の水面高さを表す高低差であってもよい。
【0010】
前記算出部は、前記高低差マップによって示される各位置の前記高低差を複数のレベルに分類し、前記複数のレベルに応じた前記散布量を算出してもよい。
【0011】
前記圃場のうち、前記散布位置および前記散布量を示した散布指示マップを前記無人航空機に出力する出力部を更に備えてもよい。
【0012】
前記出力部は、前記圃場を所定サイズのメッシュに分割し、分割した各メッシュに含まれる前記散布位置および前記散布量の代表値を決定し、決定した前記散布位置および前記散布量の代表値を前記散布指示マップとして出力してもよい。
【0013】
前記圃場は稲栽培用の田畑であり、前記農薬は、スクミリンゴガイを防除の対象とするものであってもよい。
【0014】
本発明の一態様に係る情報処理方法は、コンピュータが、無人航空機に搭載されたカメラによって、圃場の上空の異なる位置から前記圃場を撮像した複数の空撮画像を取得し、前記複数の空撮画像から、前記圃場の表面の高低差を表す高低差マップを生成し、前記高低差マップに基づいて、前記圃場のうち、農薬を散布する散布位置および前記散布位置に対応する散布量を算出するものである。
【0015】
本発明の一態様に係るプログラムは、コンピュータに、無人航空機に搭載されたカメラによって、圃場の上空の異なる位置から前記圃場を撮像した複数の空撮画像を取得させ、前記複数の空撮画像から、前記圃場の表面の高低差を表す高低差マップを生成させ、前記高低差マップに基づいて、前記圃場のうち、農薬を散布する散布位置および前記散布位置に対応する散布量を算出させるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、圃場への農薬散布に伴うコストを抑えつつ、作業効率を向上することができる、情報処理装置、情報処理方法、およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る情報処理装置100の使用環境および構成の一例を示す図である。
図2】生成部120によって生成される高低差マップ150Aの一例を示す図である。
図3】算出部130によって算出されるヒストグラム分布150Bの一例を示す図である。
図4】出力部140によって出力される散布指示マップ150Cの一例を示す図である。
図5】生成部120によって生成される高低差マップ150Aの別の例を示す図である。
図6】算出部130によって算出されるヒストグラム分布150Bの別の例を示す図である。
図7】出力部140によって出力される散布指示マップ150Cの別の例を示す図である。
図8】情報処理装置100が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図9】窪地領域を検出する対象となる傾斜地上の圃場Fの空撮画像の一例を示す図である。
図10】窪地領域を検出する対象となる傾斜地上の圃場Fの高低差マップ150Aの一例を示す図である。
図11】高低差マップ150Aからスライディングウィンドウを用いて窪地領域を検出する方法を説明するための図である。
図12】傾斜地上の圃場Fから検出された窪地領域の一例を示す図である。
図13】第2実施形態に係る算出部130が窪地領域を検出する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図14】第2実施形態に係る情報処理装置100が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[概要]
以下、図面を参照し、本発明の実施形態に係る情報処理装置100について説明する。図1は、情報処理装置100の使用環境および構成の一例を示す図である。情報処理装置100は、例えば、飛行体10と、中継装置20と、端末装置30と協働して動作する。
【0019】
飛行体10は、撮像装置として、例えば、カメラ12が取り付けられたドローン(無人航空機)である。飛行体10は、カメラ12と合わせて、RTK(Real-Time Kinematics)法による相対測位を行うRTK機能を搭載するものとする。飛行体10は、稲が生育する圃場Fの上空を飛行し、カメラ12によって上空の異なる位置から圃場Fを撮像するとともに、RTK機能を用いて、撮像時の飛行体10の経度、緯度、高度情報(以下、位置情報)を取得する。この場合、飛行体10は、搭載するソフトウェアによってプログラムされた規定のルートを飛行して圃場Fを撮像してもよいし、例えば、中継装置20によって手動操縦されてもよい。飛行体10は、カメラ12によって撮像された複数の空撮画像を、当該空撮画像の位置情報と合わせて、飛行体10に搭載されるメモリカードに保存するかまたは中継装置20に送信する。飛行体10は「無人航空機」の一例である。なお、本実施形態において、圃場Fは稲栽培用の田畑(水田圃場)であり、飛行体10は、入水前の圃場Fを撮像するものとする。
【0020】
中継装置20は、飛行体10を操作するとともに、飛行体10から送信された空撮画像を受信および表示するためのアプリケーションを搭載したタブレット端末などの端末装置である。中継装置20は、空撮画像をRGB画像として表示したり、受信した空撮画像および位置情報を、ネットワークNWを介して情報処理装置100に送信したりする。ネットワークNWは、例えば、LAN、WAN、インターネット回線などの任意のネットワークであり、有線でも無線でもよい。
【0021】
端末装置30は、例えば、パーソナルコンピュータやスマートフォン、タブレット端末などのコンピュータ装置である。端末装置30は、情報処理装置100とネットワークNWを介して通信し、後述する情報処理装置100の出力部140から受信した情報を表示する。
【0022】
情報処理装置100は、ウェブサーバなどのサーバ装置である。情報処理装置100は、中継装置20から複数の空撮画像および位置情報を受信し、後述する方法を用いて、複数の空撮画像と位置情報から、圃場Fの表面の高低差を表す高低差マップを生成し、生成した高低差マップに基づいて、圃場Fのうち、農薬を散布する散布位置、および当該散布位置に対応する散布量を算出する。ここで、農薬による防除対象とされる害虫は、例えば、水田に生息するスクミリンゴガイである。以下、情報処理装置100によって実行される処理の詳細について説明する。
【0023】
[機能構成]
情報処理装置100は、例えば、取得部110と、生成部120と、算出部130と、出力部140と、記憶装置150とを備える。取得部110と、生成部120と、算出部130と、出力部140のそれぞれは、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることでインストールされてもよい。記憶装置150は、例えば、生成部120によって生成される高低差マップ150A、算出部130によって算出されるヒストグラム分布150B、および出力部140によって出力される散布指示マップ150Cを記憶する。記憶装置150は、例えば、HDDやフラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)等である。
【0024】
取得部110は、飛行体10本体に搭載されるメモリカードから空撮画像および位置情報を読み取るか、又は、中継装置20から、飛行体10のカメラ12によって圃場Fの上空の異なる位置から圃場Fを撮像した複数の空撮画像および位置情報を受信する。取得部110は、複数の空撮画像および位置情報を取得すると、当該空撮画像および位置情報を生成部120に受け渡す。
【0025】
生成部120は、まず、取得部110から取得した空撮画像および位置情報に基づいて、既知の手法を用いて、圃場Fを表すオルソモザイク画像およびDSM(digital surface model)モデルを生成する。DSMモデルは、圃場Fの地表面と、地表面上にある地物表面の標高を含む三次元データであり、建物や樹木等の構造物の高さを含むものである。上述した通り、位置情報は、RTK機能による高精度な測位データであるため、GCP(ground control point)校正は不要であるが、飛行体10が、例えば、GNSS単独測位を行っている場合、GCP校正が必要となる。
【0026】
生成部120は、次に、生成したDSMモデルによって示される表面の各位置の標高値の平均値を算出し、表面の各位置の標高値から平均値を減算して高低差を求めることによって、高低差マップ150Aを生成する。図2は、生成部120によって生成される高低差マップ150Aの一例を示す図である。図2は、一例として、平均値を0cmとして設定し、求めた高低差を5cmごとの範囲に分類した高低差マップ150Aを表している。しかし、本発明は、そのような構成に限定されず、求めた高低差を任意の単位(メートル単位であってもよい)で分類することによって高低差マップ150Aを生成してもよい。
【0027】
また、図2は、一例として、高低差マップ150Aが5cmごとの等高線を表しているが、等高線は表示されなくともよい。圃場Fが稲栽培用の田畑である場合、高低差マップ150Aは、DSMモデルによって示される表面のうち、限界範囲(例えば、-20cmから+20cm)のみを対象としてもよい。その場合、限界範囲から逸脱する箇所については、畦畔又は進入路として、高低差マップ150Aの生成対象から除外することとなる。
【0028】
算出部130は、まず、高低差マップ150Aに基づいて、圃場Fの各位置の高低差の出現頻度を表すヒストグラム分布150Bを算出する。図3は、算出部130によって算出されるヒストグラム分布150Bの一例を示す図である。図3のグラフにおいて、横軸は高低差を表し、縦軸は出現密度を表す。図3において、点P1は、圃場Fへの入水完了時の水面高さと一致する高低差(特許請求の範囲における「閾値」の一例である)を表す。水面高さと一致する高低差は、例えば、ヒストグラム分布150Bの上位95%点又は97.5%点として事前に設定される。
【0029】
算出部130は、閾値を特定すると、次に、閾値に対応する高低差を基準として、4cm以上深い高低差に対応する位置を、農薬の散布位置として決定する。例えば、図2に示すグラフの場合、算出部130は、閾値として特定した点P1の高低差を基準として、4cm深い高低差P2を特定し、点P2以下の高低差に対応する位置を、散布位置として決定する。すなわち、図2に示すグラフの場合、点P2の左側に位置する高低差に対応する位置が農薬散布範囲として決定されることとなる。これは、スクミリンゴガイは、一般的に、水深4cm以下の位置において食害をもたらす傾向があることによる。4cmは、特許請求の範囲における「所定値」の一例である。
【0030】
出力部140は、圃場Fの散布位置および散布量を示した散布指示マップ150Cを、ネットワークNWを介して、飛行体10又は端末装置30に出力する。ここで、出力される散布指示マップ150Cのフォーマットは、例えば、シェープファイル(SHP)、GeoJSONなどのベクタ形式であってもよいし、GeoTiffなどのラスタファイル形式、又は一般農機に利用されるISOXML形式であってもよい。
【0031】
図4は、出力部140によって出力される散布指示マップ150Cの一例を示す図である。図4に示す散布指示マップ150Cは、一例として、出力部140が、圃場Fを表す領域を1mサイズのメッシュに分割し、各メッシュに含まれる複数の座標のうちの代表点に対応する位置の高低差に応じて、散布量を決定した場合を表している。この場合の代表点とは、ランダムに選択された点など任意の点であってよい。出力部140は、代表点の高低差が、図3に示したグラフの農薬散布範囲に属する場合(水深4cm以下の場合)、当該代表点を含むメッシュを、既定の散布量(図4では、例えば、40kg/ha)の農薬を散布する散布位置として決定する。一方、出力部140は、代表点の高低差が、図3に示したグラフの農薬散布範囲に属さない場合、当該代表点を含むメッシュを、既定の散布量の農薬を散布しない非散布位置として決定する。このように、スクミリンゴガイが食害をもたらす可能性が高い位置にのみ農薬を散布することにより、圃場への農薬散布に伴うコストを抑えつつ、作業効率を向上することができる。
【0032】
出力部140は、散布指示マップ150Cを、農薬を積載した飛行体10に送信し、飛行体10は、散布指示マップ150Cにしたがって、圃場Fに農薬を散布する。このとき、農薬を散布する圃場Fは、稲栽培用の田畑に入水を完了させた後の水田である。また、別の態様として、出力部140は、散布指示マップ150Cを端末装置30に送信し、端末装置30の利用者は、表示された散布指示マップ150Cの内容を確認してもよい。この場合、端末装置30は、利用者に、生成された散布指示マップ150Cの同意有無を確認させ、利用者が生成された散布指示マップ150Cに同意した場合、同意を示す情報を情報処理装置100に送信して、その後、散布指示マップ150Cが飛行体10に送信されてもよい。さらに別の態様として、端末装置30は、利用者に、生成された散布指示マップ150Cの編集を可能とさせ、利用者が編集後、散布指示マップ150Cを確定させた後に、確定された散布指示マップ150Cを情報処理装置100に送信してもよい。
【0033】
[散布量および散布位置の別の決定方法]
上記の説明では、水面高さと一致する高低差を基準として、4cm以上深い高低差に対応する位置を、農薬の散布位置として決定し、決定された散布位置に対して既定の散布量(40kg/ha)を散布している(すなわち、散布するか否かの2通りとなっている)。以下、農薬の散布量および散布位置決定の別の決定方法について説明する。
【0034】
図5は、生成部120によって生成される高低差マップ150Aの別の例を示す図である。図5は、図2と異なる圃場Fの領域を撮像した高低差マップ150Aであり、図2と同様に、平均値を0cmとして設定し、求めた高低差を5cmごとの範囲に分類したものである。
【0035】
算出部130は、図3で説明した同様の方法により、高低差マップ150Aに基づいて、圃場Fの各位置の高低差の出現頻度を表すヒストグラム分布150Bを算出する。図6は、算出部130によって算出されるヒストグラム分布150Bの別の例を示す図である。図6のグラフにおいて、横軸は高低差を表し、縦軸は出現密度を表す。図6に示す通り、算出部130は、高低差マップによって示される各位置の高低差を複数のレベル(例えば、-5cm未満、-5cm以上5cm未満、5cm以上)に分類し、複数のレベルに応じた散布量を算出する。例えば、図6の場合、算出部130は、-5cm未満の高低差の位置には40kg/haの散布量の農薬を散布することを決定し、-5cm以上5cm未満の高低差の位置には10kg/haの散布量の農薬を散布することを決定し、5cm以上の高低差の位置には、農薬を散布しないことを決定する。このように、算出部130は、散布位置に対して既定の散布量を散布するか否かの2通りではなく、複数のレベルの高低差に応じて、複数のレベルの散布量を散布位置に散布してもよい。
【0036】
図7は、出力部140によって出力される散布指示マップ150Cの別の例を示す図である。図7に示す散布指示マップ150Cも、図4に示したものと同様に、出力部140が、圃場Fを表す領域を1mサイズのメッシュに分割し、各メッシュに含まれる複数の点から選択された代表点に対応する位置の高低差に応じて、散布量を決定した場合を表している。図4の散布指示マップ150Cとは異なり、図7の散布指示マップ150Cは、圃場Fの領域の各位置の高低差のレベル分けに応じて、40kg/haの散布量の農薬を散布するか、10kg/haの散布量の農薬を散布するか、農薬を散布しないかを指示するものである。このように、スクミリンゴガイが食害をもたらす可能性の高さに応じて、農薬の散布量を複数のレベルに分けて決定することにより、圃場への農薬散布に伴うコストを抑えつつ、作業効率を向上することができる。
【0037】
なお、散布量の決定方法は、上記で説明した2つの方法によらず、少なくともスクミリンゴガイの食害傾向を考慮して、圃場Fの位置の高低差を入力変数とし、散布量を出力変数とする任意の計算式によって決定されればよい。その際には、カメラ12によって撮像された複数の空撮画像から算出された他の生育指数などのパラメータが考慮されてもよい。
【0038】
また、農薬の散布位置は、水深4cm以下の位置に限定されず、圃場Fの特性を考慮して、圃場Fの管理者によって事前に変更設定されてもよい。例えば、圃場Fが全体的に平坦な形状を有する場合、圃場Fの管理者は、所定値として3cmを設定し、算出部130は、水面高さと一致する高低差を基準として、3cm以上深い高低差に対応する位置を、農薬の散布位置として決定してもよい。
【0039】
[処理の流れ]
次に、図8を参照して、情報処理装置100が実行する処理の流れについて説明する。図8は、情報処理装置100が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。図8に示すフローチャートの処理は、稲栽培用の田畑である圃場Fへの入水前に実行されるものである。
【0040】
まず、取得部110は、圃場Fを撮像した複数の空撮画像および位置情報を取得する(ステップS100)。次に、生成部120は、取得した複数の空撮画像および位置情報に基づいて、圃場Fのオルソモザイク画像およびDSMモデルを生成する(ステップS102)。次に、算出部130は、DSMモデルの高低差の平均値を求め、圃場Fの各位置の標高値から平均値を減算することによって高低差マップ150Aを生成する(ステップS104)。
【0041】
次に、算出部130は、高低差マップ150Aからヒストグラム分布150Bを生成し、生成したヒストグラム分布150Bに基づいて、農薬の散布量および散布位置を決定する(ステップS106)。次に、出力部140は、圃場Fを所定メッシュサイズに分割し、各メッシュについて散布量を指示した散布指示マップ150Cを出力する(ステップS108)。これにより、本フローチャートの処理が終了する。
【0042】
なお、上記の実施形態では、一例として、圃場Fが稲栽培用の田畑であり、防除対象の害虫がスクミリンゴガイである場合について説明した。しかし、本発明は、そのような前提に限定されず、圃場Fは、畑作物・大豆等の湿害・病虫害の発生しやすい水田以外の耕作地であってもよい。さらに、上記の実施形態では、一例として、撮像対象となる圃場Fが水平地であることを前提としているが、圃場Fは傾斜地であってもよい。圃場Fが傾斜地である場合、傾斜地を基準面として相対高低差を計算することにより、本発明の原理はそのまま適用することができる。
【0043】
以上の通り説明した本実施形態によれば、無人航空機に搭載されたカメラによって、圃場の上空の異なる位置から圃場を撮像した複数の空撮画像を取得し、複数の空撮画像から、圃場の表面の高低差を表す高低差マップを生成し、高低差マップに基づいて、圃場のうち、農薬を散布する散布位置および前記散布位置に対応する散布量を算出する。これにより、圃場への農薬散布に伴うコストを抑えつつ、作業効率を向上することができる。
【0044】
[第2実施形態]
上記で説明した実施形態は、DSMモデルの高低差の平均値を求め、圃場Fの各位置の標高値から平均値を減算することによって高低差マップ150Aを生成し、閾値から所定値以上低い高低差に対応する位置を農薬の散布位置として決定するものである。しかしながら、圃場Fの形状によっては(例えば、圃場Fが傾斜地である場合)、標高値が平均値よりも高い領域であっても、周囲の領域との段差等により、水が溜まりやすく、農薬を散布する必要がある場合がある。
【0045】
すなわち、圃場Fが傾斜地である場合、上記で説明した実施形態の手法では、本来、農薬を散布する必要がある窪地領域等を検出できない場合がある。例えば、サツマイモや野菜の栽培地は排水対策などが考慮され、傾斜面の圃場Fも多い。傾斜面でも水が溜まる窪地領域が存在すると、基腐病や茎根腐細菌病などの病害が発生しやすいため、傾斜面における窪地領域を検出し、農薬を散布する必要がある。第2実施形態は、このような課題に対処するものである。なお、以下で説明する手法は、傾斜地上の圃場Fに特に有効であるが、圃場Fが傾斜地上に無い場合であっても、窪地領域を検出することができる。
【0046】
図9は、窪地領域を検出する対象となる傾斜地上の圃場Fの空撮画像の一例を示す図である。図9において、点線によって囲まれる領域Rは、検出対象となる窪地領域を表す。図9は、左上から右下にかけて低くなる傾斜地上の圃場Fを表している。
【0047】
第1実施形態と同様に、飛行体10は、圃場Fの上空を飛行し、カメラ12によって上空の異なる位置から圃場Fを撮像し、当該空撮画像の位置情報と合わせて、中継装置20に送信する。中継装置20は、空撮画像をRGB画像として表示したり、受信した空撮画像および位置情報を、ネットワークNWを介して情報処理装置100に送信したりする。
【0048】
図10は、窪地領域を検出する対象となる傾斜地上の圃場Fの高低差マップ150Aの一例を示す図である。図10は、平均値を0mとして設定し、求めた高低差を0.2mごとの範囲に分類したものである。図10の場合、高低差マップ150Aの高低差は大部分の位置において0mを上回り、標高値が平均値よりも高い領域であることを表している(すなわち、この場合、上記の実施形態の手法では、窪地領域が検出できない場合がある)。
【0049】
第1実施形態と同様に、生成部120は、空撮画像を受信すると、当該空撮画像および位置情報に基づいて、既知の手法を用いて、圃場Fを表すオルソモザイク画像およびDSMモデルを生成する。生成部120は、次に、生成したDSMモデルによって示される表面の各位置の標高値の平均値を算出し、表面の各位置の標高値から平均値を減算して高低差を求めることによって、高低差マップ150Aを生成する。
【0050】
算出部130は、次に、高低差マップ150Aによって示される各位置に所定幅(例えば、3×3ピクセル)のスライディングウィンドウ(sliding window)を順次当てはめ、スライディングウィンドウに含まれる各位置のピクセル値(高低差)から最小値を減算し、減算値が所定値(例えば、5cm)以下となる位置を、窪地領域として決定する。
【0051】
図11は、高低差マップ150Aからスライディングウィンドウを用いて窪地領域を検出する方法を説明するための図である。図11は、算出部130が、3×3ピクセルのスライディングウィンドウを高低差マップ150Aに当てはめた例を表している。図11の場合、算出部130は、まず、スライディングウィンドウにおける最小値として、右下のピクセル値である2cmを特定する。次に、算出部130は、各ピクセルの値から2cmを減算し、減算値が所定値(例えば、5cm)以下となる位置を、窪地領域を構成するピクセルとして決定する。その結果、図11では、スライディングウィンドウのうち、右端の列のピクセルが窪地領域として決定される。
【0052】
なお、図11は、算出部130が、高低差マップ150Aを用いて圃場Fから窪地領域を決定する例を表しているが、本発明はそのような構成に限定されず、算出部130は、DSMモデルを用いて圃場Fから窪地領域を決定してもよい。その場合、算出部130は、DSMモデルによって示される圃場Fの各位置のピクセル値(標高値)から、スライディングウィンドウに含まれる最小値を減算し、減算値が所定値以下となる位置を、窪地領域として決定する。
【0053】
図12は、傾斜地上の圃場Fから検出された窪地領域の一例を示す図である。図12は、図9に示した空撮画像から窪地領域を検出し、画像に重畳して窪地領域を描画している例を表している。図12に示す通り、領域Rが窪地領域として検出されている一方、非窪地である圃場F上の位置についても、部分的に窪地領域として検出されていることが分かる。そのため、算出部130は、窪地領域として決定されたピクセル群に対して、クラスタリングなどの手法を適用し、所定以上の面積を有する(すなわち、連続する)ピクセル群のみを窪地領域として決定してもよい。これにより、窪地領域として誤検出されたノイズを除去することができる。
【0054】
算出部130は、窪地領域として決定された各位置に対して同一の散布量を決定してもよいし、窪地領域として決定された各位置の高低差を複数のレベルに分類し、複数のレベルに応じた散布量を決定してもよい。
【0055】
[処理の流れ]
図13は、第2実施形態に係る算出部130が窪地領域を検出する処理の流れの一例を示すフローチャートである。図13に示すフローチャートの処理は、例えば、生成部120がDSMモデルを生成したタイミングで実行されるものである。
【0056】
まず、算出部130は、生成されたDSMモデルにガウスフィルター(Gaussian filter)などを適用して、DSMモデルのノイズを除去する(ステップS200)。次に、算出部130は、DSMモデルにスライディングウィンドウを順次当てはめて、局所的な最低点を検出する(ステップS202)。次に、算出部130は、ピクセル値から最低点を減算した減算値が所定値以下となるピクセルを、窪地領域を表すピクセル群として抽出する(ステップS204)。次に、算出部130は、抽出したピクセル群から、連続するピクセル群を窪地領域として決定する(ステップS206)。次に、算出部130は、決定された窪地領域に対する農薬の散布量を決定する(ステップS208)。
【0057】
図14は、第2実施形態に係る情報処理装置100が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、取得部110は、圃場Fを撮像した複数の空撮画像および位置情報を取得する(ステップS300)。次に、生成部120は、取得した複数の空撮画像および位置情報に基づいて、圃場Fのオルソモザイク画像およびDSMモデルを生成する(ステップS302)。次に、算出部130は、図13に示したフローチャートの流れにしたがって、連続する窪地領域を決定する(ステップS304)。
【0058】
次に、算出部130は、窪地領域と、それ以外の領域の散布量を決定する(ステップS306)。より具体的には、算出部130は、窪地領域に対しては、一定の散布量を決定し、それ以外の領域については、図5および図6を介して説明した方法によって散布量を決定してもよい。次に、出力部140は、圃場Fを所定メッシュサイズに分割し、各メッシュについて散布量を指示した散布指示マップ150Cを出力する(ステップS308)。これにより、本フローチャートの処理が終了する。
【0059】
以上の通り説明した第2実施形態によれば、圃場Fが傾斜地に位置し、標高値が高い場合であっても、圃場Fから農薬を散布すべき窪地領域を検出することができる。
【0060】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0061】
10 飛行体
12 カメラ
20 中継装置
30 端末装置
100 情報処理装置
110 取得部
120 生成部
130 算出部
140 出力部
150 記憶装置
【要約】
【課題】圃場への農薬散布に伴うコストを抑えつつ、作業効率を向上すること。
【解決手段】無人航空機に搭載されたカメラによって、圃場の上空の異なる位置から前記圃場を撮像した複数の空撮画像を取得する取得部と、前記複数の空撮画像から、前記圃場の表面の高低差を表す高低差マップを生成する生成部と、前記高低差マップに基づいて、前記圃場のうち、農薬を散布する散布位置および前記散布位置に対応する散布量を算出する算出部と、を備える、情報処理装置。
【選択図】図1
図1
図2
図3
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図5
図6
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図10
図11
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図14