(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-29
(45)【発行日】2025-08-06
(54)【発明の名称】上気道粘膜の線毛運動活性化剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/9068 20060101AFI20250730BHJP
A61K 36/17 20060101ALI20250730BHJP
A61K 36/26 20060101ALI20250730BHJP
A61K 36/484 20060101ALI20250730BHJP
A61K 36/54 20060101ALI20250730BHJP
A61K 36/65 20060101ALI20250730BHJP
A61K 36/79 20060101ALI20250730BHJP
A61K 36/8888 20060101ALI20250730BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250730BHJP
【FI】
A61K36/9068
A61K36/17
A61K36/26
A61K36/484
A61K36/54
A61K36/65
A61K36/79
A61K36/8888
A61P43/00 107
(21)【出願番号】P 2020211314
(22)【出願日】2020-12-21
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】大森 公貴
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107744589(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105596350(CN,A)
【文献】特開2004-002408(JP,A)
【文献】日本東洋医学雑誌,2018年,Vol. 69, No. 3,pp. 291-294
【文献】治療学,2006年,Vol. 40、No. 4,pp. 65-68
【文献】Progress in Medicine,1996年,Vol. 16,pp. 1691-1695
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小青竜湯エキスを含有
し、体力虚弱者に適用される、上気道粘膜の線毛運動活性化剤。
【請求項2】
鼻水を伴わない状態の対象に適用される、請求項
1に記載の上気道粘膜の線毛運動活性化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上気道粘膜の線毛運動活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス及び細菌等の病原体は、体内に入り込むことで感染症を引き起こす。新しい病原体の出現は新しい感染症を引き起こし、有効な治療法及びワクチンが確立されていない段階では、病原体に対する防御こそ最善の対策となる。
【0003】
とりわけ、肺感染症を引き起こす病原体に対する防御においては、口や鼻から吸い込んだ病原体を肺に到達しないよう、咽喉から肺に至る気道(下気道)の内壁を覆う粘膜及び線毛の機能が重視されている。このため、気道粘膜における線毛運動を活性化する成分が研究されている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、気道粘膜上皮細胞の線毛運動に対する補中益気湯の効果が報告されている。非特許文献2には、清肺湯による去痰作用が、気管支での気道液の分泌を促進し、粘度の高い痰やタバコや排気ガスなどの汚れを排出するとともに、線毛の運動を活発にして、痰と一緒に汚れを排出することが報告されている。
【0005】
繊毛は、咽喉から肺に至る気道(下気道)だけでなく、鼻腔粘膜にも存在している。鼻腔粘膜に侵入した異物は繊毛の機能により輸送され、喉へ排泄される。非特許文献3には、鼻腔粘液繊毛クリアランスの低下が高齢者の特徴として認められることが報告されており、非特許文献4には、鼻粘膜粘液繊毛輸送機能が、喫煙者が非喫煙者に比して低下していることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「気道粘膜上皮細胞の線毛運動に対する補中益気湯の効果」、Japan Society for Bronchology, 17(5):385-389, 1995
【文献】“清肺湯Navi 清肺湯の研究結果”、[online]、2013年、小林製薬株式会社、[令和2年12月5日検索]、インターネット<URL: https://www.seihaito.jp/mechanism/>
【文献】Management of community-acquired pneumonia in older adults. Ther Adv Infect Dis.2014;2:3-16.
【文献】「Technetium 99m によるヒト鼻腔粘液繊毛機能測定法」、日本鼻科学会会誌、第4群、基礎IV、p.54-59、1982年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上気道粘膜(特に鼻腔)は常に外界と通じているため、病原体に対する防御における最前線であるといえる。従って、上気道粘膜の繊毛を活性化させることが、病原体に対する防御においてより一層重要であるといえる。昨今、セルフメディケーションによる自身の健康管理や疾病予防の意識向上から、漢方を利用する人が増加しているが、上気道粘膜の線毛運動を活性化させることが知られている漢方はいまだ存在しない。
【0008】
そこで、本発明は、上気道粘膜の線毛運動を活性化できる新たな漢方薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、カッコンと、マオウと、タイソウと、ショウキョウ及び/又はカンキョウと、ケイヒと、シャクヤクと、ハンゲと、カンゾウとからなる8種の生薬のうち6種以上を含有する漢方のエキスに、上気道粘膜の線毛運動を活性化できる効果があることを予期せず見出した。本発明は、この知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (i)カッコン、(ii)マオウ、(iii)タイソウ、(iv)ショウキョウ及び/又はカンキョウ、(v)ケイヒ、(vi)シャクヤク、(vii)ハンゲ、並びに(viii)カンゾウからなる8種の生薬のうち6種以上を含有する漢方のエキスを含有する、上気道粘膜の線毛運動活性化剤。
項2. 前記漢方が、小青竜湯及び/又は葛根湯である、項1に記載の上気道粘膜の線毛運動活性化剤。
項3. 体力虚弱者に適用される、項1又は2に記載の上気道粘膜の線毛運動活性化剤。
項4. 体力充実者に適用される、項1又は2に記載の上気道粘膜の線毛運動活性化剤。
項5. 鼻水を伴わない状態の対象に適用される、項1~3のいずれかに記載の上気道粘膜の線毛運動活性化剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上気道粘膜の線毛運動を活性化できる新たな医薬品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】体力充実者群に対する小青竜湯エキスの服用前後におけるサッカリンタイムを示す。
【
図2】虚弱体質者群に対する小青竜湯エキスの服用前後におけるサッカリンタイムを示す。
【
図3】虚弱体質者群に対する葛根湯エキスの服用前後におけるサッカリンタイムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤は、所定の8種の生薬のうち6種以上を含有する漢方のエキスを含有することを特徴とする。以下、本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤について詳述する。
【0014】
有効成分
本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤は、(i)カッコン、(ii)マオウ、(iii)タイソウ、(iv)ショウキョウ及び/又はカンキョウ、(v)ケイヒ、(vi)シャクヤク、(vii)ハンゲ、並びに(viii)カンゾウからなる8種の生薬のうち6種以上を含有する漢方のエキスを有効成分として含有する。
【0015】
カッコン(葛根)は、マメ科(Leguminosae)のクズ Puerarialobata Ohwiの周皮を除いた根であり、生薬(日本薬局方)として解熱鎮痛消炎薬等の用途に使用される。カッコン末については、日本粉末薬品株式会社、株式会社栃本天海堂等から商業的に入手可能である。
【0016】
マオウ(麻黄)は、マオウ科(Ephedraceae)のEphedra sinica Stapf、Ephedra intermedia Schrenk et C.A. Meyer又はEphedra equisetina Bungeの地上茎であり、生薬(日本薬局方)として、気管支拡張薬、鼻炎用薬、解熱鎮痛消炎薬等の用途に使用される。マオウ末については、日本粉末薬品株式会社、株式会社栃本天海堂等から商業的に入手可能である。
【0017】
タイソウ(大棗)は、クロウメモドキ科(Rhamnaceae)のナツメZizyphus jujuba Miller var. inermis Rehderの果実であり、生薬(日本薬局方)として、かぜ薬、鎮痛鎮痙薬、健胃消化薬、止瀉整腸薬、精神神経用薬等の用途に使用される。タイソウ末については、高砂薬業株式会社、株式会社栃本天海堂等から商業的に入手可能である。
【0018】
ショウキョウ(生姜)は、ショウガ科(Zingiberaceae)のショウガ Zingiber officinale Roscoeの根茎で、ときに周皮を除いたものであり、生薬(日本薬局方)として、芳香健胃等の用途に使用される。ショウキョウ末については、日本粉末薬品株式会社、高砂薬業株式会社、株式会社栃本天海堂等から商業的に入手可能である。カンキョウ(乾姜)は、ショウガ科(Zingiberaceae)のショウガ Zingiber officinale Roscoeの根茎を湯通し又は蒸したものであり、生薬(日本薬局方)として、熱性薬、補性薬の用途に使用される。カンキョウ末については、日本粉末薬品株式会社、高砂薬業株式会社、株式会社栃本天海堂等から商業的に入手可能である。
【0019】
ケイヒ(桂皮)は、クスノキ科(Lauraceae)のケイCinnamomum cassia Blum又はその他同属植物の太い幹の樹皮を剥いだものであり、生薬(日本薬局方)として芳香性健胃薬等の用途に使用される。ケイヒ末については、日本粉末薬品株式会社、株式会社栃本天海堂等から商業的に入手可能である。
【0020】
シャクヤク(芍薬)は、ボタン科(Paeoniaceae)のシャクヤクPaeonia lactiflora Pallas又はその他近縁植物の根であり、生薬(日本薬局方)として、鎮痛鎮痙薬(胃腸薬)、婦人薬、冷え症用薬、風邪薬等の用途に使用される。なお、シャクヤクは、生薬名(日本薬局方)でもあるとともに植物名でもある。シャクヤク末については、丸善製薬株式会社、三國株式会社、一丸ファルコス株式会社等から商業的に入手可能である。
【0021】
ハンゲ(半夏)は、サトイモ科(Araceae)のカラスビシャクPinellia ternata Breitenbachのコルク層を除いた塊茎であり、生薬(日本薬局方)として、健胃消化薬、鎮吐薬等の用途に使用される。ハンゲ末については、高砂薬業株式会社、株式会社栃本天海堂等から商業的に入手可能である。
【0022】
カンゾウ(甘草)は、マメ科(Leguminosae)のGlycyrrhiza uralensis Fischer又は Glycyrrhiza glabra Linneの根及びストロンで,ときには周皮を除いたもの(皮去りカンゾウ)であり、生薬(日本薬局方)として胃潰瘍薬等の用途に使用される。カンゾウ末については、日本粉末薬品株式会社、高砂薬業株式会社、株式会社栃本天海堂等から商業的に入手可能である。
【0023】
上記の8種の生薬のうち6種以上を含有する漢方としては特に限定されないが、具体的には、小青竜湯、葛根湯等が挙げられる。
【0024】
小青竜湯は、「傷寒論」及び「金匱要略」を原典とし、ハンゲ、マオウ、シャクヤク、ショウキョウ(カンキョウも可)、カンゾウ、ケイヒ、サイシン、ゴミシの8種からなる混合生薬である。
【0025】
本発明において、小青竜湯を構成する生薬の混合比については特に制限されないが、例えば、ハンゲ3~6重量部、マオウ1.5~3重量部、シャクヤク1.5~3重量部、ショウキョウ(カンキョウも可)1.5~3重量部、カンゾウ1.5~3重量部、ケイヒ1.5~3重量部、サイシン1.5~3重量部、及びゴミシ1.5~3重量部が挙げられる。
【0026】
本発明で使用される小青竜湯エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例としては、ハンゲ6.0重量部、マオウ3.0重量部、シャクヤク3.0重量部、カンキョウ3.0重量部、カンゾウ3.0重量部、ケイヒ3.0重量部、サイシン3.0重量部、ゴミシ3.0重量部の混合物が挙げられる。
【0027】
葛根湯は、「傷寒論」を原典とし、カッコン、カンゾウ、ケイヒ、シャクヤク、マオウ、ショウキョウ、及びタイソウの7種からなる混合生薬である。
【0028】
本発明において、葛根湯を構成する生薬の混合比については特に制限されないが、例えば、カッコン4~8重量部、カンゾウ3~4重量部、ケイヒ2~3重量部、シャクヤク2~3重量部、マオウ3~4重量部、ショウキョウ1~2重量部、及びタイソウ3~4重量部が挙げられる。
【0029】
本発明で使用させる葛根湯エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例としては、カッコン8重量部、カンゾウ2重量部、ケイヒ3重量部、シャクヤク3重量部、マオウ4重量部、ショウキョウ1重量部、及びタイソウ4重量部の混合物が挙げられる。
【0030】
上記の漢方エキスの他にも、カッコン、マオウ、タイソウ、ショウキョウ、ケイヒ、キョウニン、シャクヤク、ハンゲ、キキョウ、オウゴン、サイコ、及びカンゾウの12種からなる混合生薬のエキスも挙げられる。この混合生薬のエキスの製造に供される生薬調合物の好適な例としては、カッコン16重量部、マオウ14重量部、タイソウ10重量部、ショウキョウ6重量部、ケイヒ6重量部、キョウニン6重量部、シャクヤク7重量部、ハンゲ7重量部、キキョウ7重量部、オウゴン7重量部、サイコ9重量部、及びカンゾウ5重量部の混合物が挙げられる。
【0031】
上記の漢方のエキスの形態としては、流エキス、軟エキス等の液状のエキス、又は固形状の乾燥エキス末のいずれであってもよい。
【0032】
上記の漢方の液状のエキスは、上記の漢方に従った混合生薬を抽出処理し、得られた抽出液を必要に応じて濃縮することにより得ることができる。抽出処理に使用される抽出溶媒としては、特に限定されず、水又は含水エタノール、好ましくは水が挙げられる。また、上記の漢方の乾燥エキス末は、液状のエキスを乾燥処理することにより得ることができる。乾燥処理の方法としては特に限定されず、例えば、スプレードライ法や、エキスの濃度を高めた軟エキスに適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法等が挙げられる。
【0033】
本発明において、上記の漢方のエキスとしては、前述の方法で調製したエキスを使用してもよいし、市販されるものを使用してもよい。例えば、小青竜湯の軟エキスとして「小青竜湯エキス」(日本粉末薬品株式会社製)、小青竜湯の乾燥エキスとして、「小青竜湯乾燥エキス-A」、「小青竜湯エキス(27D・ATS)」(いずれも日本粉末薬品株式会社製)、「小青竜湯乾燥エキス-F」(アルプス薬品工業株式会社)等;葛根湯の乾燥エキスとして、「葛根湯エキス(17D・W)」、「葛根湯エキス(25D・AT)」、「葛根湯エキス(25D・AZ)」(いずれも日本粉末薬品株式会社製)、葛根湯の軟エキスとして、「葛根湯エキス-A(T)」(日本粉末薬品株式会社製)等が商品として知られており、商業的に入手することもできる。
【0034】
上記の漢方は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上記の漢方の中でも、上気道粘膜の線毛運動の活性化効果をより一層高める観点から、好ましくは小青竜湯及び葛根湯が挙げられ、より好ましくは小青竜湯が挙げられる。
【0036】
本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤において、上記漢方エキスの含有量としては、本発明の効果を奏する限り、特に限定されず、剤型等により異なりうるが、上記漢方エキスの乾燥エキス末量換算で、通常10~100重量%、好ましくは20~90重量%、より好ましくは40~80重量%が挙げられる。なお、本発明において、漢方の乾燥エキス末量換算とは、漢方の乾燥エキス末を使用する場合にはそれ自体の量であり、漢方の液状のエキスを使用する場合には、溶媒を除去した残量に換算した量である。また、漢方の乾燥エキス末が、製造時に添加される吸着剤等の添加剤を含む場合は、当該添加剤を除いた量である。
【0037】
その他の成分
本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤は、上記の漢方エキス単独からなるものであってもよく、製剤形態に応じた添加剤や基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、上気道粘膜の線毛運動活性化剤の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0038】
また、本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤は、上記の漢方エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類等に応じて適宜設定される。
【0039】
製剤形態
本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、トローチ剤、チュアブル剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、丸剤等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられ、好ましくは液状製剤が挙げられる。
【0040】
製造方法
本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤の製造方法は、上記生薬成分を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0041】
用途
本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤は、上気道粘膜の線毛運動、より具体的には鼻腔粘液線毛及び/又は喉粘膜の線毛の運動を活性化する目的で使用される。上気道粘膜の線毛運動を活性化することによって、ウイルス等の異物の排出力を高めるため、感染症予防の目的で用いることができる。
【0042】
本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤は、様々な体力分類に属する適用対象に用いることができる。つまり、本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤は、上記所定の漢方エキスの適用対象となっていなかった体力分類に属する人を含め、体力虚弱者、やや虚弱者、体力中等度者、比較的体力がある者、及び体力充実者のいずれに対しても用いることができる。これらの体力分類は、漢方の適応において当業者に用いられている判断基準である。
【0043】
上記の体力分類に属する人の中でも、上気道粘膜の線毛運動の活性化効果をより一層高める観点から、好ましくは体力虚弱者が挙げられる。体力虚弱者についてのより具体的な例としては、胃腸虚弱者、冷え症者、高齢者(具体的には65歳以上)等が挙げられる。
【0044】
本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤は、上述のように感染症予防の目的で用いることができるため、鼻水を伴わない状態の対象も好ましく適用される。
【0045】
本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤は、とりわけ、上気道粘膜の線毛運動機能が低下している対象に好ましく適用される。このような適用対象としては、喫煙者及び高齢者(具体的には65歳以上)等が挙げられる。
【0046】
用量・用法
本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤は、経口投与によって使用される。本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤の用量については、投与対象者の年齢、体質、症状の程度等に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒトに対して1日当たり、上記漢方のエキスの調製に用いられた生薬混合物中の(i)カッコン、(ii)マオウ、(iii)タイソウ、(iv)ショウキョウ及びカンキョウ、(v)ケイヒ、(vi)シャクヤク、(vii)ハンゲ、並びに(viii)カンゾウの総量(原生薬換算量)で、5~40g程度、好ましくは6.5~30g程度、より好ましくは8~28g程度となる量で、1日1~3回、好ましくは3回の頻度で服用すればよい。
【0047】
本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤の服用タイミングについては、特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよいが、食前(食事の30分前)又は食間(食後2時間後)が好ましい。また、本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤は即効性があるため、鼻腔内に異物が侵入し得る環境に晒される前、例えば他人と会う前又は外出前、より具体的には他人と会う又は外出の3~5時間前等に服用することもできる。また、本発明の上気道粘膜の線毛運動活性化剤の服用期間としては、例えば1~5日、好ましくは1~3日、さらに好ましくは1~2日が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
試験例1
(1)上気道粘膜の線毛運動活性化剤の調製
以下の2種類の上気道粘膜の線毛運動活性化剤を調製した。
(1-1)小青竜湯エキスを含む上気道粘膜の線毛運動活性化剤
原料生薬として、ハンゲ6.0g、マオウ3.0g、シャクヤク3.0g、カンキョウ3.0g、カンゾウ3.0g、ケイヒ3.0g、サイシン3.0g、ゴミシ3.0gの混合生薬を用いた。混合生薬を抽出器に入れ、精製水を加えた後、80~90℃で2時間かき混ぜながら抽出した後、ろ過した。得られたろ液を真空濃縮装置(温度:50~60℃)により濃縮し、この濃縮液に添加物を加え、小青竜湯エキス液剤(1日量、原生薬換算量で27g)を上気道粘膜の線毛運動活性化剤として得た。
【0050】
(1-2)葛根湯エキスを含む上気道粘膜の線毛運動活性化剤
原料生薬として、カッコン8.0g、カンゾウ2.0g、ケイヒ3.0g、シャクヤク3.0g、マオウ4.0g、ショウキョウ1.0g、タイソウ4.0gの混合生薬を用いた。混合生薬を抽出器に入れ、精製水を加えた後、80~90℃で2時間かき混ぜながら抽出した後、ろ過した。得られたろ液を真空濃縮装置(温度:50~60℃)により濃縮し、この濃縮液に、添加物を加え、葛根湯エキス液剤(1日量、原生薬換算量で25g)を上気道粘膜の線毛運動活性化剤として得た。
【0051】
(2)実験方法
(2-1)被験者
体力充実者及び虚弱体質者である成人男女を対象とした。体力充実者及び虚弱体質者はいずれも小青竜湯の適用対象とされていた体力分類に属しておらず、虚弱体質者は葛根湯の適用対象とされていた体力分類に属していない。虚弱体質者は、いずれも体力がなくて疲れやすく、胃腸虚弱で冷え性であった。また、いずれの被験者も、小青竜湯の適用対象とは異なり、鼻水を伴わない状態であった。被験者を、小青竜湯エキスを含む上気道粘膜の線毛運動活性化剤を服用する体力充実者群(男女5名)、小青竜湯エキスを含む上気道粘膜の線毛運動活性化剤を服用する虚弱体質者群(男女5名)、及び葛根湯エキスを含む上気道粘膜の線毛運動活性化剤を服用する虚弱体質者群(男女5名)の3群に群分けした。
【0052】
(2-2)投与方法
いずれの上気道粘膜の線毛運動活性化剤も、被験者に、食前に一日量の1/3用量を1回服用させた。試験期間中において、食事による大きな変動がないよう配慮させた。服用前と服用3時間後の時点でサッカリンテストを行った。サッカリンテストは、被験者を、室温25℃、湿度55%の試験室にて15分間馴化させ、馴化後、直径2mm程度のサッカリン粒を右鼻下鼻甲介付近(下鼻甲介前端から7~10mm)に付着させた後、30秒に1回嚥下を繰り返しながら、付着させた時点を0とした倍の、甘みを感じるまでの時間(サッカリンタイム)を計測することにより行った。
【0053】
小青竜湯エキスを服用した体力充実者群による結果を
図1に、小青竜湯エキスを服用した虚弱体質者群による結果を
図2に、及び葛根湯エキスを服用した虚弱体質者群による結果を
図3に示す。
図1~3に示すように、いずれの群においても、サッカリンタイムが早くなったため、上気道粘膜の線毛運動が活性化されたことが認められた。中でも、
図1と
図2との対比に示されるように、虚弱体質者において上気道粘膜の線毛運動の活性化効果がより一層高まっていた。