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特許7720002無線通信方法、無線通信システム、及び送信装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-30
(45)【発行日】2025-08-07
(54)【発明の名称】無線通信方法、無線通信システム、及び送信装置
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/26 20060101AFI20250731BHJP
【FI】
H04L27/26 200
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023576287
(86)(22)【出願日】2022-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2022002671
(87)【国際公開番号】W WO2023144887
(87)【国際公開日】2023-08-03
【審査請求日】2024-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】NTT株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】福園 隼人
(72)【発明者】
【氏名】宮城 利文
(72)【発明者】
【氏名】鬼沢 武
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-194732(JP,A)
【文献】特開2005-341054(JP,A)
【文献】特表2011-524146(JP,A)
【文献】Adriana LIPOVAC et al.,“BER Based OFDM PAPR Estimation”,2018 26th International Conference on Software, Telecommunications and Computer Networks (SoftCOM),2018年09月,p.1-6,DOI: 10.23919/SOFTCOM.2018.8555780
【文献】Yanhui Duan et al.,A New SLM Method with Feedback Searching for Uplink SC-FDMA System,2012 8th International Conference on Wireless Communications, Networking and Mobile Computing,2012年09月23日
【文献】Seung Hee Han et al.,An overview of peak-to-average power ratio reduction techniques for multicarrier transmission,IEEE Wireless Communications,2005年04月18日
【文献】F.S. Alharbi et al.,A combined SLM and closed-loop QO-STBC for PAPR mitigation in MIMO-OFDM transmission,2008 16th European Signal Processing Conference,2008年08月29日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/26
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信装置と受信装置との間で無線通信を行う無線通信方法であって、
送信データのサブキャリア毎の位相シフト量を決定する位相シフト量決定処理と、
前記送信データを変調すると共に、前記サブキャリア毎に前記位相シフト量に従って位相を更にシフトする変調処理と、
前記変調処理後の前記送信データに対してプリコーディングを行うプリコーディング処理と、
前記プリコーディング処理後の前記送信データを前記送信装置から前記受信装置に送信する送信処理と
を含み、
予め用意された複数種類の位相シフトパターンは、それぞれ異なる前記位相シフト量を定義し、
前記位相シフト量決定処理は、
前記複数種類の位相シフトパターンの中から、前記プリコーディング処理後の前記送信データのPAPR(Peak to Average Power Ratio)が最小となる1つ、あるいは、前記受信装置における前記送信データの受信品質が最高となる1つを選択することと、
前記選択された位相シフトパターンに従って、前記サブキャリア毎の前記位相シフト量を決定することと
を含み、
前記無線通信方法は、更に、前記選択された位相シフトパターンを示すインデックス信号を前記送信データに付加する信号付加処理を更に含み、
前記位相シフト量決定処理及び前記信号付加処理は、フレームあるいはスロットである所定のデータ単位で行われ、
前記信号付加処理は、前記インデックス信号を前記所定のデータ単位の先頭または末尾に付加する
無線通信方法。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信方法であって、
前記位相シフト量は、前記送信データの2以上のサブキャリア間で異なっている
無線通信方法。
【請求項3】
請求項2に記載の無線通信方法であって、
前記位相シフト量は、前記送信データの前記2以上のサブキャリア間で一定量ずつ異なっている
無線通信方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の無線通信方法であって、
前記送信装置から送信された前記送信データを前記受信装置において受信データとして受信する処理と、
前記インデックス信号で示される前記選択された位相シフトパターンに基づいて前記受信データの復調を行う復調処理と
を更に含む
無線通信方法。
【請求項5】
送信装置と、
受信装置と
を備え、
前記送信装置は、
送信データのサブキャリア毎の位相シフト量を決定する位相シフト量決定処理と、
前記送信データを変調すると共に、前記サブキャリア毎に前記位相シフト量に従って位相を更にシフトする変調処理と、
前記変調処理後の前記送信データに対してプリコーディングを行うプリコーディング処理と、
前記プリコーディング処理後の前記送信データを前記受信装置に送信する送信処理と
を実行し、
予め用意された複数種類の位相シフトパターンは、それぞれ異なる前記位相シフト量を定義し、
前記位相シフト量決定処理は、
前記複数種類の位相シフトパターンの中から、前記プリコーディング処理後の前記送信データのPAPR(Peak to Average Power Ratio)が最小となる1つ、あるいは、前記受信装置における前記送信データの受信品質が最高となる1つを選択することと、
前記選択された位相シフトパターンに従って、前記サブキャリア毎の前記位相シフト量を決定することと
を含み、
前記送信装置は、更に、前記選択された位相シフトパターンを示すインデックス信号を前記送信データに付加する信号付加処理を実行し、
前記位相シフト量決定処理及び前記信号付加処理は、フレームあるいはスロットである所定のデータ単位で行われ、
前記信号付加処理は、前記インデックス信号を前記所定のデータ単位の先頭または末尾に付加する
無線通信システム。
【請求項6】
請求項に記載の無線通信システムであって、
前記受信装置は、
前記送信装置から送信された前記送信データを受信データとして受信し、
前記インデックス信号で示される前記選択された位相シフトパターンに基づいて前記受信データの復調を行う
無線通信システム。
【請求項7】
受信装置と無線通信を行う送信装置であって、
送信データのサブキャリア毎の位相シフト量を決定する位相シフト量決定部と、
前記送信データを変調すると共に、前記サブキャリア毎に前記位相シフト量に従って位相を更にシフトする変調部と、
変調後の前記送信データに対してプリコーディングを行うプリコーディング部と、
前記プリコーディング後の前記送信データを前記受信装置に送信する送信部と
を備え、
予め用意された複数種類の位相シフトパターンは、それぞれ異なる前記位相シフト量を定義し、
前記位相シフト量決定部は、
前記複数種類の位相シフトパターンの中から、前記プリコーディング後の前記送信データのPAPR(Peak to Average Power Ratio)が最小となる1つ、あるいは、前記受信装置における前記送信データの受信品質が最高となる1つを選択し、
前記選択された位相シフトパターンに従って、前記サブキャリア毎の前記位相シフト量を決定し、
前記送信装置は、更に、前記選択された位相シフトパターンを示すインデックス信号を前記送信データに付加する信号付加部を備え、
前記位相シフト量決定部及び前記信号付加部による処理は、フレームあるいはスロットである所定のデータ単位で行われ、
前記信号付加部は、前記インデックス信号を前記所定のデータ単位の先頭または末尾に付加する
送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信技術に関する。特に、本発明は、送信側において送信データに対してプリコーディングを行う無線通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信において送信側が送信データに対してプリコーディングを行う場合がある。例えば、周波数選択性フェージング環境下で広帯域伝送を行う場合に、プリコーディングによりチャネル等化が行われる。他の例として、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)システムでは、プリコーディングによりストリーム分離が行われる。
【0003】
送信側においてプリコーディングが行われる場合、信号重畳によりPAPR(Peak to Average Power Ratio:ピーク電力対平均電力比)が増大する。送信信号はアンテナから送信される前に電力増幅器によって増幅されるが、PAPRの高い信号が電力増幅器に入力されると、電力増幅器の非線形特性の影響を受け、非線形歪みが発生するおそれがある。送信信号の非線形歪みが発生すると、誤りの多い通信となるおそれがある。
【0004】
非特許文献1は、広帯域シングルキャリアMIMOシステムにおいてPAPRを削減する技術を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】栗山他,「可変タップ長FIRビーム形成を用いた広帯域シングルキャリアMIMOシステムにおけるPAPR削減(PAPR Reduction on Wideband Single-Carrier MIMO Systems with Variable Tap-Length FIR Beamforming)」,電子情報通信学会通信ソサイエティ大会, B-5-70, 2021年9月.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、無線通信において送信側が送信データに対してプリコーディングを行う場合、PAPRが増大する。
【0007】
本発明の1つの目的は、無線通信において送信側が送信データに対してプリコーディングを行う場合のPAPRを低減することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の観点は、送信装置と受信装置との間で無線通信を行う無線通信方法に関連する。
無線通信方法は、
送信データのサブキャリア毎の位相シフト量を決定する位相シフト量決定処理と、
送信データを変調すると共に、サブキャリア毎に位相シフト量に従って位相を更にシフトする変調処理と、
変調処理後の送信データに対してプリコーディングを行うプリコーディング処理と、
プリコーディング処理後の送信データを送信装置から受信装置に送信する送信処理と
を含む。
予め用意された複数種類の位相シフトパターンは、それぞれ異なる位相シフト量を定義する。
位相シフト量決定処理は、
複数種類の位相シフトパターンの中から、プリコーディング処理後の送信データのPAPRが最小となる1つ、あるいは、受信装置における送信データの受信品質が最高となる1つを選択することと、
選択された位相シフトパターンに従って、サブキャリア毎の位相シフト量を決定することと
を含む。
【0009】
第2の観点は、無線通信システムに関連する。
無線通信システムは、送信装置と受信装置とを備える。
送信装置は、
送信データのサブキャリア毎の位相シフト量を決定する位相シフト量決定処理と、
送信データを変調すると共に、サブキャリア毎に位相シフト量に従って位相を更にシフトする変調処理と、
変調処理後の送信データに対してプリコーディングを行うプリコーディング処理と、
プリコーディング処理後の送信データを受信装置に送信する送信処理と
を実行するように構成される。
予め用意された複数種類の位相シフトパターンは、それぞれ異なる位相シフト量を定義する。
位相シフト量決定処理は、
複数種類の位相シフトパターンの中から、プリコーディング処理後の送信データのPAPRが最小となる1つ、あるいは、受信装置における送信データの受信品質が最高となる1つを選択することと、
選択された位相シフトパターンに従って、サブキャリア毎の位相シフト量を決定することと
を含む。
【0010】
第3の観点は、受信装置と無線通信を行う送信装置に関連する。
送信装置は、
送信データのサブキャリア毎の位相シフト量を決定する位相シフト量決定部と、
送信データを変調すると共に、サブキャリア毎に位相シフト量に従って位相を更にシフトする変調部と、
変調処理後の送信データに対してプリコーディングを行うプリコーディング部と、
プリコーディング処理後の送信データを受信装置に送信する送信部と
を備える。
予め用意された複数種類の位相シフトパターンは、それぞれ異なる位相シフト量を定義する。
位相シフト量決定部は、複数種類の位相シフトパターンの中から、プリコーディング処理後の送信データのPAPRが最小となる1つ、あるいは、受信装置における送信データの受信品質が最高となる1つを選択する。
そして、位相シフト量決定部は、選択された位相シフトパターンに従って、サブキャリア毎の位相シフト量を決定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、無線通信において送信側が送信データに対してプリコーディングを行う場合のPAPRを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る無線通信システムの構成を概略的に示す概念図である。
図2】プリコーディングを行う送信装置の基本的な構成例を示すブロック図である。
図3】増幅部の増幅特性を説明するための概念図である。
図4】コンスタレーションの歪みを説明するための概念図である。
図5】実施の形態に係る位相シフトの基本を説明するための概念図である。
図6】実施の形態に係る位相シフトの概要を説明するための概念図である。
図7】実施の形態に係る位相シフトパターンの一例を説明するための概念図である。
図8】実施の形態に係る信号付加処理を説明するための概念図である。
図9】実施の形態に係る位相シフトによる効果を説明するための概念図である。
図10】実施の形態に係る送信装置による処理を要約的に示すフローチャートである。
図11】実施の形態に係る送信装置の第1の構成例を示すブロック図である。
図12】実施の形態に係る送信装置の第2の構成例を示すブロック図である。
図13】実施の形態に係る受信装置の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
1.無線通信システムの概要
図1は、本実施の形態に係る無線通信システム1の構成を概略的に示す概念図である。無線通信システム1は、送信装置100と受信装置200を含んでいる。送信装置100と受信装置200は、無線通信を行う。無線通信システム1は、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)システムであってもよいし、SISO(Single-Input Single-Output)システムであってもよいし、その他であってもよい。無線通信システム1は、シングルキャリア伝送を行ってもよいし、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)等に基づくマルチキャリア伝送を行ってもよい。
【0015】
送信装置100は、送信データを受信装置200に送信する前に、送信データに対してプリコーディングを行う。プリコーディングは周知技術である。例えば、周波数選択性フェージング環境下で広帯域伝送を行う場合に、プリコーディングによりチャネル等化が行われる。他の例として、MIMOシステムでは、プリコーディングによりストリーム分離が行われる。
【0016】
図2は、プリコーディングを行う送信装置100の基本的な構成例を示すブロック図である。送信装置100は、変調部110、プリコーディング部120、D/A変換部130、及び増幅部140を含んでいる。
【0017】
変調部110は、送信装置100から受信装置200に送信される送信データ(送信信号)TD0を受け取る。変調部110は、送信データTD0を所定の変調方式で変調する「変調処理」を行う。所定の変調方式としては、QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、等が例示される。変調部110は、変調処理後の送信データTD1を出力する。
【0018】
プリコーディング部120は、変調処理後の送信データTD1を受け取る。プリコーディング部120は、送信データTD1に対してプリコーディングを行う「プリコーディング処理」を行う。プリコーディング処理に用いられるプリコーディングウェイト(プリコーディング行列)としては、様々な例が知られている。本実施の形態では、プリコーディングウェイトは特に限定されない。プリコーディング部120は、プリコーディング処理後の送信データTD2を出力する。
【0019】
D/A変換部130は、プリコーディング処理後の送信データTD2を受け取る。D/A変換部130は、送信データTD2をD/A変換し、送信データTD3を出力する。
【0020】
増幅部140は、D/A変換後の送信データTD3を受け取る。増幅部140は、電力増幅器を含んでおり、送信データTD3を増幅する「増幅処理」を行う。
【0021】
更に、増幅部140は、増幅処理後の送信データ(送信信号)TD4をアンテナを介して受信装置200に送信する「送信処理」を行う。増幅部140は、送信処理を行う「送信部」としても機能する。
【0022】
図3は、増幅部140の増幅特性を説明するための概念図である。横軸は入力信号電力を表し、縦軸は出力信号電力を表している。図3に示されるように、増幅特性は線形領域だけでなく非線形領域も含んでおり、入力信号電力が高くなると非線形特性の影響が強くなる。平均電力が線形領域に含まれるとしても、PAPR(Peak to Average Power Ratio:ピーク電力対平均電力比)の高い入力信号は、非線形特性の影響を受ける。その結果、送信データのコンスタレーションの歪みが発生するおそれがある。
【0023】
図4は、送信データのコンスタレーションの歪みを説明するための概念図である。ここでは、一例として、64QAMの場合の送信データのコンスタレーションが示されている。線形領域ではコンスタレーションには歪みが生じていない。しかしながら、非線形領域ではコンスタレーションには歪みが生じる。
【0024】
上述の通り、本実施の形態では、送信装置100(プリコーディング部120)が、送信データに対してプリコーディングを行う。信号重畳を伴うプリコーディングは、PAPRを増大させる傾向にある。そのため、PAPRの高い送信データ(送信信号)が増幅部140に入力され、非線形特性の影響を受け、非線形歪みが発生するおそれがある。送信データの非線形歪みが発生すると、誤りの多い通信となるおそれがある。
【0025】
そこで、本実施の形態は、送信装置100が送信データに対してプリコーディングを行う場合のPAPRを低減することができる技術を提供する。本実施の形態は、PAPRを低減するために、以下に説明される「位相シフト」を導入する。
【0026】
2.位相シフトを利用したPAPR低減
図5は、本実施の形態に係る位相シフトの基本を説明するための概念図である。ここでは、一例として、変調方式が64QAMの場合が示されている。但し、変調方式は64QAMに限定されない。
【0027】
送信装置100(変調部110)は、送信データを所定の変調方式で変調する変調処理を行う。この変調処理において、送信装置100は、所定の変調方式で送信データを変調するだけでなく、更に送信データに位相シフトを加える。位相シフト量はθsである。つまり、変調処理において、送信装置100は、所定の変調方式で送信データを変調すると共に、位相シフト量θsに従って送信データの位相を更にシフトする。
【0028】
図6は、本実施の形態に係る位相シフトの概要を説明するための概念図である。送信装置100は、OFDM等に基づくマルチキャリア伝送を行う。本実施の形態によれば、送信データのサブキャリア毎に、位相シフト量θsが決定され、位相シフトが行われる。つまり、周波数方向のサブキャリア単位で位相シフト量θsが別々に決定され、サブキャリア毎に位相シフト量θsに従って位相シフトが行われる。
【0029】
また、本実施の形態によれば、サブキャリア毎の位相シフト量θsを定義する「位相シフトパターンPAT」が予め用意される。位相シフトパターンPATは、2以上のサブキャリア間で位相シフト量θsが異なるように、サブキャリア毎の位相シフト量θsを定義する。
【0030】
図7は、本実施の形態に係る位相シフトパターンPATの一例を説明するための概念図である。位相シフト処理は、所定のデータ単位(例:フレーム、スロット)で行われる。FFT(Fast Fourier Transform)により、周波数領域における送信データが得られる。位相シフト量θsは、サブキャリア毎に別々に決定される。具体的には、各サブキャリアSi(i=1,2,3・・・)の位相シフト量θsは、次の式(1)で表される。
【0031】
式(1):θs=(i-1)π/N
【0032】
ここで、パラメータNは、0以外の整数である。このように、図7に示される例では、位相シフト量θsは、サブキャリアSi間で順番に一定量(π/N)ずつ異なっている。
【0033】
更に、本実施の形態によれば、複数種類の位相シフトパターンPATが予め用意される。複数種類の位相シフトパターンPATは、それぞれ異なる位相シフト量θsを定義する。例えば、図7に示される例では、複数種類の位相シフトパターンPATは、それぞれ異なるパラメータN(例:N=4,6,8・・・)に基づいて位相シフト量θsを定義する。尚、複数種類の位相シフトパターンPATには、それぞれ異なるインデックスが与えられる。
【0034】
送信装置100は、複数種類の位相シフトパターンPATの中から1つを選択する。例えば、送信装置100は、複数種類の位相シフトパターンPATのそれぞれを用いて変調処理を行い、更に後段の処理を行う。そして、送信装置100は、プリコーディング部120によるプリコーディング処理後の送信データのPAPRを算出し、PAPRが最小となる1つを複数種類の位相シフトパターンPATの中から選択する。他の例として、送信装置100は、受信装置200から受信品質(例:BER(Bit Error Rate))の情報を取得し、受信品質が最高となる1つを複数種類の位相シフトパターンPATの中から選択してもよい。
【0035】
そして、送信装置100は、選択した1つの位相シフトパターンPATに従って、送信データのサブキャリア毎の位相シフト量θsを決定する。その後、送信装置100は、決定した位相シフト量θsに従って変調処理を行い、更に後段の処理を行う。
【0036】
図8は、本実施の形態に係る「信号付加処理」を説明するための概念図である。送信装置100は、選択した1つの位相シフトパターンPATを示すインデックス信号(制御信号)を送信データに付加する。より詳細には、送信装置100は、所定のデータ単位(例:フレーム、スロット)の先頭または末尾にインデックス信号を付加する。
【0037】
受信装置200は、送信装置100から送信された送信データを受信データとして受信する。受信装置200は、受信データに付加されているインデックス信号に基づいて、所定のデータ単位に適用されている位相シフトパターンPATを認識することができる。そして、受信装置200は、当該データ単位に適用されている位相シフトパターンPATを考慮して、受信データの復調を行う。すなわち、受信装置200は、受信データを復調する際、受信データのサブキャリア毎に位相シフト量θsだけ位相を戻す。
【0038】
図9は、本実施の形態に係る位相シフトによる効果を説明するための概念図である。図9に示されるように、位相シフトにより、コンスタレーションにおけるシンボル系列の分布(シンボル分布)が円形に近づく。ピーク電力となるシンボル位相がずれるため、プリコーディングによる信号重畳時にピーク電力が減少する。更に、点対称位置のシンボルへ推移する際に零点を通過しないため、位相シフトが行われない場合と比較して平均電力が増加する。このように、送信データの変調処理時に位相シフトを行うことにより、PAPRを低減することが可能となる。
【0039】
図10は、本実施の形態に係る送信装置100による処理を要約的に示すフローチャートである。
【0040】
ステップS110において、送信装置100は、「位相シフト量決定処理」を行う。つまり、送信装置100は、送信データのサブキャリア毎の位相シフト量θsを決定する。より詳細には、送信装置100は、予め用意された複数種類の位相シフトパターンPATの中から1つを選択する。例えば、送信装置100は、プリコーディング処理後の送信データのPAPRが最小となる1つを複数種類の位相シフトパターンPATの中から選択する。他の例として、送信装置100は、受信装置200における送信データの受信品質が最高となる1つを複数種類の位相シフトパターンPATの中から選択してもよい。そして、送信装置100は、選択した位相シフトパターンPATに従って、サブキャリア毎の位相シフト量θsを決定する。
【0041】
ステップS120において、送信装置100は、送信データに対して「変調処理」を行う。より詳細には、送信装置100は、所定の変調方式で送信データを変調すると共に、サブキャリア毎に上記の位相シフト量θsに従って位相を更にシフトする。
【0042】
ステップS130において、送信装置100は、送信データに対して「信号付加処理」を行う。より詳細には、送信装置100は、選択した1つの位相シフトパターンPATを示すインデックス信号(制御信号)を送信データに付加する。
【0043】
ステップS140において、送信装置100は、送信データに対して「プリコーディング処理」を行う。より詳細には、送信装置100は、変調処理後の送信データに対してプリコーディングを行う。
【0044】
ステップS150において、送信装置100は、プリコーディング処理後の送信データを送信装置から受信装置に送信する「送信処理」を行う。
【0045】
尚、通信中に、送信装置100は、位相シフトパターンPATの更新を適宜実施してもよい。更新時、送信装置100は、全種類の位相シフトパターンPATを再度検討し、全種類の位相シフトパターンPATの中から1つを選択してもよい。あるいは、送信装置100は、前回比較的優れていた一定数の位相シフトパターンPATだけを再度検討し、それら一定数の位相シフトパターンPATの中から1つを選択してもよい。
【0046】
以上に説明されたように、本実施の形態によれば、送信データに対して位相シフトを適用することにより、プリコーディングが行われる場合のPAPRを低減することが可能となる。
【0047】
3.構成例
以下、送信装置100及び受信装置200の構成例について説明する。
【0048】
3-1.送信装置の構成例
3-1-1.第1の構成例
図11は、送信装置100の第1の構成例を示すブロック図である。送信装置100は、変調部110A、プリコーディング部120、D/A変換部130、増幅部140、位相シフト量決定部150、信号付加部160、及びPAPR算出部170を含んでいる。変調部110Aは、図2で示された変調部110の機能に加えて、位相シフト機能を備えている。プリコーディング部120、D/A変換部130、及び増幅部140は、図2で示されたものと同様である。
【0049】
位相シフト量決定部150は、「位相シフト量決定処理」を行う。つまり、位相シフト量決定部150は、送信データTD0のサブキャリア毎の位相シフト量θsを決定する。
【0050】
より詳細には、位相シフト量決定部150は、予め用意された複数種類の位相シフトパターンPATの情報を保持している。複数種類の位相シフトパターンPATは、それぞれ異なる位相シフト量θsを定義している。位相シフト量決定部150は、複数種類の位相シフトパターンPATを一つずつ順番に仮選択する。位相シフト量決定部150は、仮選択した位相シフトパターンPATで定義されるサブキャリア毎の位相シフト量θsを変調部110Aに通知する。
【0051】
変調部110Aは、サブキャリア毎の位相シフト量θsの情報を位相シフト量決定部150から受け取る。変調処理において、変調部110Aは、所定の変調方式で送信データTD0を変調すると共に、サブキャリア毎に位相シフト量θsに従って位相を更にシフトする(図7参照)。変調部110Aは、変調処理後の送信データTD1を出力する。
【0052】
プリコーディング部120は、変調処理後の送信データTD1を受け取る。プリコーディング部120は、送信データTD1に対してプリコーディングを行い、送信データTD2を出力する。
【0053】
PAPR算出部170は、プリコーディング処理後の送信データTD2を受け取る。PAPR算出部170は、所定の計算式に従って、所定のデータ単位の送信データTD2のPAPRを算出する。PAPR算出部170は、算出したPAPRの情報を位相シフト量決定部150に出力する。
【0054】
位相シフト量決定部150は、複数種類の位相シフトパターンPATのそれぞれの場合のPAPRの情報を取得する。そして、位相シフト量決定部150は、PAPRが最小となる1つを複数種類の位相シフトパターンPATの中から選択する。位相シフト量決定部150は、選択した1つの位相シフトパターンPATに従って、サブキャリア毎の位相シフト量θsを決定する。そして、位相シフト量決定部150は、決定したサブキャリア毎の位相シフト量θsを変調部110Aに通知する。その後、変調部110Aは、位相シフト量決定部150から通知された位相シフト量θsを用いて変調処理を行う。
【0055】
信号付加部160は、位相シフト量決定部150によって選択された1つの位相シフトパターンPATの情報を受け取る。更に、信号付加部160は、選択された1つの位相シフトパターンPATを示すインデックス信号(制御信号)を生成する。そして、信号付加部160は、インデックス信号を送信データTD1に付加する「信号付加処理」を行う(図8参照)。より詳細には、信号付加部160は、所定のデータ単位(例:フレーム、スロット)の先頭または末尾にインデックス信号を付加する。尚、インデックス信号に関しては、位相シフトは行われない。
【0056】
3-1-2.第2の構成例
図12は、送信装置100の第2の構成例を示すブロック図である。図11で示された第1の構成例と重複する説明は適宜省略される。
【0057】
第2の構成例では、送信装置100は、PAPR算出部170の代わりに受信品質情報取得部180を含んでいる。受信品質情報取得部180は、受信装置200から送信データの受信品質(例:BER)の情報を取得する。受信品質情報取得部180は、受信品質の情報を位相シフト量決定部150に出力する。
【0058】
位相シフト量決定部150は、複数種類の位相シフトパターンPATのそれぞれの場合の受信品質の情報を取得する。そして、位相シフト量決定部150は、受信品質が最高となる1つを複数種類の位相シフトパターンPATの中から選択する。位相シフト量決定部150は、選択した1つの位相シフトパターンPATに従って、サブキャリア毎の位相シフト量θsを決定する。そして、位相シフト量決定部150は、決定したサブキャリア毎の位相シフト量θsを変調部110Aに通知する。その後、変調部110Aは、位相シフト量決定部150から通知された位相シフト量θsを用いて変調処理を行う。
【0059】
3-1-3.ハードウェア構成例
送信装置100は、1又は複数のプロセッサ(以下、単に「プロセッサ」と呼ぶ)と1又は複数の記憶装置(以下、単に「記憶装置」と呼ぶ)を含んでいる。例えば、プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)を含んでいる。記憶装置は、プロセッサによる処理に必要な各種情報を格納する。記憶装置としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、等が例示される。
【0060】
プロセッサは、コンピュータプログラムである制御プログラムを実行してもよい。制御プログラムは、記憶装置に格納される。制御プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。プロセッサが制御プログラムを実行することにより、プロセッサの機能が実現される。
【0061】
記憶装置には、予め用意された複数種類の位相シフトパターンPATの情報が格納される。プロセッサと記憶装置との協働により、変調部110A、プリコーディング部120、位相シフト量決定部150、信号付加部160、PAPR算出部170、受信品質情報取得部180、等の機能が実現される。
【0062】
3-2.受信装置の構成例
図13は、受信装置200の構成例を示すブロック図である。受信装置200は、増幅部210、A/D変換部220、復調部230を含んでいる。
【0063】
受信装置200は、送信装置100から送信された送信データを受信データ(受信信号)RD0として受信する。増幅部210は、受信データRD0を増幅し、受信データRD1を出力する。A/D変換部220は、受信データRD1をA/D変換し、受信データRD2を出力する。
【0064】
復調部230は、受信データRD2を復調する「復調処理」を行う。このとき、復調部230は、位相シフト量θsを考慮して受信データRD2の復調を行う。
【0065】
より詳細には、復調部230は、位相シフトパターン取得部240を含んでいる。位相シフトパターン取得部240は、予め用意された複数種類の位相シフトパターンPATの情報を保持している。また、受信データRD2には、所定のデータ単位(例:フレーム、スロット)の送信データに適用された1つの位相シフトパターンPATを示すインデックス信号が付加されている。位相シフトパターン取得部240は、そのインデックス信号に基づいて、所定のデータ単位の送信データに適用されている位相シフトパターンPATを認識する。そして、位相シフトパターン取得部240は、認識した位相シフトパターンPATで定義されるサブキャリア毎の位相シフト量θsを取得する。復調部230は、所定の復調方式で受信データRD2を復調すると共に、サブキャリア毎に位相シフト量θsだけ位相を戻す。
【0066】
受信装置200は、1又は複数のプロセッサ(以下、単に「プロセッサ」と呼ぶ)と1又は複数の記憶装置(以下、単に「記憶装置」と呼ぶ)を含んでいる。プロセッサは、コンピュータプログラムである制御プログラムを実行してもよい。制御プログラムは、記憶装置に格納される。制御プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。プロセッサが制御プログラムを実行することにより、プロセッサの機能が実現される。記憶装置には、予め用意された複数種類の位相シフトパターンPATの情報が格納される。プロセッサと記憶装置との協働により、復調部230、位相シフトパターン取得部240、等の機能が実現される。
【符号の説明】
【0067】
1 無線通信システム
100 送信装置
110,110A 変調部
120 プリコーディング部
130 D/A変換部
140 増幅部
150 位相シフト量決定部
160 信号付加部
170 PAPR算出部
180 受信品質情報取得部
200 受信装置
210 増幅部
220 A/D変換部
230 復調部
240 位相シフトパターン取得部
PAT 位相シフトパターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13