(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-30
(45)【発行日】2025-08-07
(54)【発明の名称】ビットレート選択装置、ビットレート選択方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04N 7/15 20060101AFI20250731BHJP
【FI】
H04N7/15
(21)【出願番号】P 2024520432
(86)(22)【出願日】2023-05-02
(86)【国際出願番号】 JP2023017171
(87)【国際公開番号】W WO2023219043
(87)【国際公開日】2023-11-16
【審査請求日】2024-08-16
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2022/019985
(32)【優先日】2022-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】NTT株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】横田 将裕
(72)【発明者】
【氏名】河野 太一
(72)【発明者】
【氏名】山岸 和久
【審査官】富樫 明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0101410(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0258364(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 7/14-15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オンラインリアルタイムコミュニケーションに関して複数の第1の端末のそれぞれから送信される映像を配信装置を介して受信する複数の第2の端末それぞれのユーザの前記映像に関する体感品質が閾値以上であるという制約において、前記複数の第1の端末と前記複数の第2の端末との組み合わせごとの前記映像のビットレートの総和が最小となるように、前記組み合わせごとの前記映像のビットレートを複数段階の値から選択するように構成されている選択部と、
前記第1の端末それぞれに対して、当該第1の端末に係る組み合わせについて前記選択部が選択した1以上のビットレートでの符号化の指示を送信するように構成されている指示部と、
を有することを特徴とするビットレート選択装置。
【請求項2】
前記選択部は、更に、前記組み合わせごとのビットレートのうち重複を除くビットレートの合計が前記複数の第1の端末から前記配信装置へのアップロードの可用帯域以下であるという制約において、前記組み合わせごとの前記映像のビットレートを選択するように構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載のビットレート選択装置。
【請求項3】
前記選択部は、更に、前記組み合わせごとのビットレートの合計が前記配信装置から前記複数の第2の端末へのダウンロードの可用帯域以下であるという制約において、前記組み合わせごとの前記映像のビットレートを選択するように構成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のビットレート選択装置。
【請求項4】
前記選択部は、更に、前記映像についてそれぞれの前記第1の端末が送信可能なビットレート数が所定数以下であるという制限において、前記組み合わせごとの前記映像のビットレートを選択するように構成されている、
ことを特徴とする請求項1記載のビットレート選択装置。
【請求項5】
オンラインリアルタイムコミュニケーションに関して複数の第1の端末のそれぞれから送信される映像を配信装置を介して受信する複数の第2の端末それぞれのユーザの前記映像に関する体感品質が閾値以上であるという制約において、前記複数の第1の端末と前記複数の第2の端末との組み合わせごとの前記映像のビットレートの総和が最小となるように、前記組み合わせごとの前記映像のビットレートを複数段階の値から選択する選択手順と、
前記第1の端末それぞれに対して、当該第1の端末に係る組み合わせについて前記選択手順が選択した1以上のビットレートでの符号化の指示を送信する指示手順と、
をコンピュータが実行することを特徴とするビットレート選択方法。
【請求項6】
前記選択手順は、更に、前記組み合わせごとのビットレートのうち重複を除くビットレートの合計が前記複数の第1の端末から前記配信装置へのアップロードの可用帯域以下であるという制約において、前記組み合わせごとの前記映像のビットレートを選択する、
ことを特徴とする請求項5記載のビットレート選択方法。
【請求項7】
前記選択手順は、更に、前記組み合わせごとのビットレートの合計が前記配信装置から前記複数の第2の端末へのダウンロードの可用帯域以下であるという制約において、前記組み合わせごとの前記映像のビットレートを選択する、
ことを特徴とする請求項5又は6記載のビットレート選択方法。
【請求項8】
オンラインリアルタイムコミュニケーションに関して複数の第1の端末のそれぞれから送信される映像を配信装置を介して受信する複数の第2の端末それぞれのユーザの前記映像に関する体感品質が閾値以上であるという制約において、前記複数の第1の端末と前記複数の第2の端末との組み合わせごとの前記映像のビットレートの総和が最小となるように、前記組み合わせごとの前記映像のビットレートを複数段階の値から選択する選択手順と、
前記第1の端末それぞれに対して、当該第1の端末に係る組み合わせについて前記選択手順が選択した1以上のビットレートでの符号化の指示を送信する指示手順と、
をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビットレート選択装置、ビットレート選択方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テレワークの推進が進む中でWeb会議等のオンラインリアルタイムコミュニケーションサービスの利用が増えている。このようなサービスを実現する技術としてWebRTC等の技術がある。WebRTCは、World Wide Web ConsortiumやInternet Engineering Task Forceで標準化されている技術である。
【0003】
このような技術を利用することでオンラインリアルタイムコミュニケーションサービスを実現することが可能になってきているが、そのようなサービスを継続的にエンドユーザに提供するためには、ユーザが利用する際のユーザ体感品質(QoE(Quality of Experience))を高めるとともに、サービス提供にかかる運用コスト(ネットワーク設備コスト等)を低減する必要がある。
【0004】
WebRTCでは、多人数会議を実現するために3つのアーキテクチャが提案されている。(1)参加端末間をフルメッシュで接続するP2P、(2)各クライアントが映像データをサーバに送信し、サーバ側でトランスコードを行い参加クライアントに配信するMulti-point Control Unit、(3)各クライアントが映像データをサーバに送信し、サーバはその映像をそのまま参加クライアントに配信するSFU(Selective Forwarding Unit)である。
【0005】
SFU方式では、全参加クライアントに同一品質の映像を配信することになるため、本方式には、ネットワーク状況が悪い参加者が存在するとその参加者に合わせて全体の品質が低下してしまうという課題がある。
【0006】
本課題に対処するために、Simulcast方式が提案されている。Simulcastでは送信元クライアントは、複数段階の品質(ビットレート、解像度、フレームレート)の映像をサーバに送信する。サーバ側は各クライアントのネットワーク状況に合わせた品質を選択し、選択した品質で配信を行う。例えば、送信元クライアントは高品質(1Mbps/720p/30fps)、中品質(480kbps/480p/30fps)、低品質(128kbps/180p/15fps)の映像を符号化し配信サーバに送信する。配信サーバは、ダウンロード帯域が十分広い送信先クライアントには高品質を、狭いクライアントには低品質を配信する。
【0007】
Simulcastにおける品質の段階は手動で設定することが考えられる。その他にも受信側クライアントのネットワーク状態に応じて適宜選択可能な品質(ビットレート、解像度、フレームレート)を変更していくことが考えられる(非特許文献1)。
【0008】
一方、WebRTCにおいて、品質改善のみではなくコストを考慮した制御が提案されている。この制御は、サービス提供者が設定した目標QoEとなるように各端末の映像ビットレートを制御することで、QoEを維持するとともに、データ転送量を削減することで、サービス提供者の運用コスト低減を実現する(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】S.Petrangeli、"Dynamic video bitrate adaptation for WebRTC-based remote teaching applications"、IEEE、2018
【文献】T. Kimura, T. Kimura, A. Matsumoto and J. Okamoto、"BANQUET: Balancing Quality of Experience and Traffic Volume in Adaptive Video Streaming""、IEEE CNSM 2019、Feb 2020
【文献】Parametric bitstream-based quality assessment of progressive download and adaptive audiovisual streaming services over reliable transport、Recommendation ITU-T P.1203、2017、[online]、インターネット<URL:https://www.itu.int/rec/T-REC-P.1203>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
既存のSimulcastでは、設定者の知識やネットワーク状況に応じて品質(映像ビットレート、解像度、フレームレート)の段階が設定される。そのため、過剰に高いビットレートで符号化するように設定されてしまう可能性がある。その際に、ネットワーク状況が非常に良好な場合、過剰なビットレートを選択してしまい、QoEがあまり向上しないにもかかわらず高いビットレートが選択されることで、サービス提供事業者が必要なネットワーク設備やサーバ設備にかかる運用コストの増大のリスクがある。
【0011】
上記のようなデータ量の増加という課題に対処するために転送データ量を削減するための映像ビットレート制御技術(非特許文献2)が提案されているが、こちらは映像配信サービスを対象とした技術になっており、Web会議サービスのSimulcastを考慮した技術となっていない。これらの状況から、Simulcast方式において過剰な品質を抑制するために、各端末がアップロードする複数パターンのビットレートを適切に制御する方法が必要となる。
【0012】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであって、映像の符号化に際して過剰なビットレートが選択される可能性を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで上記課題を解決するため、ビットレート選択装置は、オンラインリアルタイムコミュニケーションに関して複数の第1の端末のそれぞれから送信される映像を配信装置を介して受信する複数の第2の端末それぞれのユーザの前記映像に関する体感品質が閾値以上であるという制約において、前記複数の第1の端末と前記複数の第2の端末との組み合わせごとの前記映像のビットレートの総和が最小となるように、前記組み合わせごとの前記映像のビットレートを複数段階の値から選択するように構成されている選択部と、前記第1の端末それぞれに対して、当該第1の端末に係る組み合わせについて前記選択部が選択した1以上のビットレートでの符号化の指示を送信するように構成されている指示部と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
映像の符号化に際して過剰なビットレートが選択される可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施の形態におけるオンラインリアルタイムコミュニケーションシステムの構成例を示す図である。
【
図2】第1の実施の形態における制御サーバ10のハードウェア構成例を示す図である。
【
図3】第1の実施の形態におけるクライアント端末20及び制御サーバ10の機能構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態では、クライアントから収集した品質に関する情報、クライアントの情報、アップロード可用帯域、ダウンロード可用帯域の情報をもとに、過去T1秒前から未来T2秒後までの推定されたQoE(体感品質)を目標QoEに近づけるように送信元×送信先ごとにアップロードビットレートを制御する。これにより、必要なQoEを保ちつつデータ通信量を抑制することができる。
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、第1の実施の形態におけるオンラインリアルタイムコミュニケーションシステムの構成例を示す図である。
図1において、複数のクライアント端末20は、インターネット等のネットワークを介して配信サーバ30及び制御サーバ10に接続する。
【0018】
複数のクライアント端末20のそれぞれは、Web会議等のオンラインリアルタイムコミュニケーションに参加するユーザが利用するPC(Personal Computer)、スマートフォン又はタブレット端末等の通信端末である。クライアント端末20は、各種ログを制御サーバ10へ送信したり、制御サーバ10の指示に応じてメディア(映像及び音声等)に関するデータ(以下、「メディアデータ」という。)を符号化して送信したり、他参加者のメディアデータを受信して再生したりする。各クライアント端末20は、例えば、自端末のユーザのメディアデータを送信する。各クライアント端末20は、また、他端末からのメディアデータを受信し、それぞれのメディアデータを含む画面を表示する。
【0019】
制御サーバ10は、各クライアント端末20に対してアップロードビットレートを指示する1以上のコンピュータである。
【0020】
配信サーバ30は、各クライアント端末20から送信(アップロード)されるメディアデータを他のクライアント端末20へ配信する1以上のコンピュータである。他のクライアント端末20への配信について、配信サーバ30は、当該他のクライアント端末20のダウンロード帯域に応じて最適なビットレートで配信を行う。すなわち、配信サーバ30は、WebRTCのSimulcastによって、各クライアント端末20のダウンロード帯域に応じたビットレートでメディアデータの配信を行う。
【0021】
図2は、第1の実施の形態における制御サーバ10のハードウェア構成例を示す図である。
図2の制御サーバ10は、それぞれバスBで相互に接続されているドライブ装置100、補助記憶装置102、メモリ装置103、CPU104、及びインタフェース装置105等を有する。
【0022】
制御サーバ10での処理を実現するプログラムは、CD-ROM等の記録媒体101によって提供される。プログラムを記憶した記録媒体101がドライブ装置100にセットされると、プログラムが記録媒体101からドライブ装置100を介して補助記憶装置102にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体101より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置102は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0023】
メモリ装置103は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置102からプログラムを読み出して格納する。CPU104は、メモリ装置103に格納されたプログラムに従って制御サーバ10に係る機能を実行する。インタフェース装置105は、ネットワークに接続するためのインタフェースとして用いられる。
【0024】
なお、クライアント端末20及び配信サーバ30も
図2と同様のハードウェア構成を有してよい。但し、クライアント端末20は、メディアデータを出力する表示装置及びスピーカや、メディアデータを入力するカメラ及びマイク等を有する。
【0025】
図3は、第1の実施の形態におけるクライアント端末20及び制御サーバ10の機能構成例を示す図である。
【0026】
図3において、クライアント端末20は、クライアントログ送信部21、アップロードビットレート制御部22、送信データ符号化部23及び受信データ復号化部24を有する。これら各部は、クライアント端末20にインストールされた1以上のプログラムが、クライアント端末20のCPUに実行させる処理により実現される。
【0027】
制御サーバ10は、クライアントログ収集部11、目標QoE入力部12、アップロードビットレート選択部13及びアップロードビットレート指示部14を有する。これら各部は、制御サーバ10にインストールされた1以上のプログラムが、CPU104に実行させる処理により実現される。
【0028】
図3を参照しながら、本実施の形態において実行される処理手順について説明する。なお、以下の処理は、特段の断りが無い限り、Web会議等のオンラインリアルタイムコミュニケーション(以下、単に「Web会議」という。)の実施中に実行される。また、以下の処理は、Web会議に参加する複数のクライアント端末20のそれぞれについて実行される。
【0029】
各クライアント端末20のクライアントログ送信部21は、定期的に(例えば、1秒周期で)品質推定のために必要な情報(当該周期における情報)、及びアップロードビットレートの推定のために必要な情報(当該周期における情報)を含むログ(以下、「クライアントログ」という。)をWeb会議の開始後に当該クライアント端末20から収集し、収集したクライアントログを制御サーバ10へ送信する。
【0030】
品質推定のために必要な情報とは、例えば、受信映像毎の品質に関する情報(ビットレート、再生停止情報(再生停止時間、回数、間隔等)、フレームレート、解像度)、クライアント端末20に関する情報(利用端末(自端末)の種別を識別可能な情報、表示サイズ(表示面積))である。受信映像毎とは、他のクライアント端末20(からの映像)ごとと同義である。例えば、A、B、Cさんで会議を行っている場合、Aさんのクライアント端末20における受信映像毎とは、Bさん及びCさんのそれぞれの映像ごとをいう。受信映像毎に表示サイズが収集されるのは、受信映像毎に表示サイズ(すなわち、他の参加者が表示される画面上のサイズ)が異なりうる場合を想定しているからである。例えば、A、B、Cさんで会議を行っている場合、本実施の形態では、Aさんのクライアント端末20において、Bさんの表示サイズとCさんの表示サイズが異なる状況も許容される。
【0031】
アップロードビットレート推定のために必要な情報とは、例えば、各ユーザ(各クライアント端末20)のアップロード可用帯域及びダウンロード可用帯域である。
【0032】
制御サーバ10のクライアントログ収集部11は、クライアントログ送信部21から転送されたクライアントログを受信する。なお、クライアントログが含む情報を制御サーバ10側で収集可能であれば制御サーバ10側で収集されてもよい。
【0033】
制御サーバ10は、基本的に、クライアントログの受信に応じて、以下の処理を実行する。但し、以下の処理は、クライアントログの受信のたびに毎回実行されなくてもよい。
【0034】
制御サーバ10のアップロードビットレート選択部13は、式(1)に基づいて、転送データ量(送信元×送信先毎のビットレートの総和)を最小化させるように、送信元×送信先毎のアップロードビットレートを計算する。
【0035】
【数1】
但し、各記号の意味は以下の通りである。
U:参加ユーザ群
BR
i,u(t):時刻tにユーザuが受信するユーザiの映像のビットレート(i(送信元)にとってはアップロードビットレート、u(送信先)にとっては受信ビットレート)
L:選択可能な複数段階のビットレート群
なお、送信元×送信先毎のアップロードビットレートとは、例えば、参加者が5人であれば、5×4=20通りのビットレートをいう。なお、送信元×送信先毎のアップロードビットレートのうち、或る送信元及び送信先の組に対するアップロードビットレートは、当該送信元にとっては配信サーバ30へアップロードするビットレートであり、当該送信先にとっては配信サーバ30から配信される受信映像のビットレート(受信ビットレート)である。
【0036】
また、時刻tは、予め設定される、アップロードビットレートを変更するタイミングであり、その間隔は、例えば、クライアントログの収集周期と同じである。
【0037】
ここで、目標QoEを達成するため、アップロードビットレート選択部13は、以下の制約1~3の3つの制約を満たすように式(1)の計算を行う。
【0038】
(制約1)
制約1は、以下の式(2)で表される。
【0039】
【数2】
但し、各記号の意味は以下の通りである。
U:参加ユーザ群
TargetQoE:閾値として設定された目標QoE
すなわち、制約1は、各ユーザの推定されたQoEは目標QoE(TargetQoE)以上である必要があることである。
【0040】
(制約2)
制約2は、以下の式(3)で表される。
【0041】
【数3】
但し、各記号の意味は以下の通りである。
BR
i,u(t):時刻tにユーザuが受信するユーザiの映像のビットレート
ULBW
i(t)時刻tのユーザiの推定アップロード可能帯域
α:推定誤差を加味した安全係数(0-1の値をとる)
すなわち、制約2は、各ユーザのアップロードビットレートの合計はアップロード可用帯域以下である必要があることである。但し、同一送信元で同一アップロードビットレートは重複して合算する必要はない(すなわち、同一送信元で同一アップロードビットレートの重複は除かれて合算される)。
【0042】
(制約3)
制約3は、以下の式(4)で表される。
【0043】
【数4】
但し、各記号の意味は以下の通りである。
BR
i,u(t):時刻tにユーザuが受信するユーザiの映像のビットレート
DLBW
u(t):時刻tのユーザuの推定ダウンロード可能帯域
α:推定誤差を加味した安全係数(0-1の値をとる)
すなわち、制約3は、各ユーザのダウンロードビットレート(=受信ビットレート)の合計はダウンロード可用帯域以下の値である必要があることである。
【0044】
なお、式(2)~(4)は、式(1)が示す最適化問題に対する制約条件を示す。
【0045】
式(1)の計算において、アップロードビットレート選択部13は、複数段階のビットレート群(L)の中からアップロードビットレートを選択することになる。ビットレート群(L)は予め与えられる。サービス提供者が最低でも担保すべきQoE(以下、「QoElower」という。)から達成したい最大のQoE(以下、「QoEupper」という。)の間で選択可能ビットレート数(N)に合わせてQoEが分散するようにビットレート群(L)が設定される。QoE推定モデルを利用してQoEを一定間隔にする場合のビットレートの計算式を式(5)に示す。
【0046】
【数5】
但し、各記号の意味は以下の通りである。
BR
n:n番目の推定ビットレート
n:0-N-1の間の整数
N:選択可能ビットレート数
QoE
upper:達成したい最大のQoE(e.g.,5)
QoE
lower:最低でも担保すべきQoE(e.g.,3)
QoE
lower=3、QoE
upper=5、N=9の場合の一定間隔のQoEは、[3、3.25、3.5、3.75、4、4.25、4.5、4.75、5]であり、これらの各QoEに対してBR
nが計算される。Nの値を大きくすることで柔軟な制御が可能となるが、アップロードビットレートの種類数が増加する可能性が高まり、クライアント端末20の負荷が増加するリスクがある。
【0047】
式(2)の各ユーザのQoEuは、他ユーザの送信映像から計算される。具体的には、QoEuは、以下の式(6)を利用して現在時刻を基準としてT1秒前からT2秒後までの区間に対して推定されたQoE値である。
【0048】
【数6】
但し、各記号の意味は以下の通りである。
DS
i,u(t):時刻tのユーザuの画面に表示されているユーザiの表示サイズ
BR
i,u(t):時刻tのユーザuが受信したユーザiの映像のビットレート
FR
i,u(t):時刻tのユーザuが受信したユーザiの映像のフレームレート
RES
i,u(t):時刻tのユーザuが受信したユーザiの映像の解像度
STOP
i,u(t):時刻tのユーザuが受信したユーザiの映像の再生停止情報
また、f
QoEは、ビットレート、解像度、フレームレート及び再生停止情報からQoEを推定するためのQoE推定モデルであり、例えば、非特許文献3に開示されたものが利用される。
【0049】
また、式(6)の右辺の一番外側のf()は、長時間のQoEを推定するための式を示す。本実施の形態では、一定期間(例えば、T1=30秒,T2=30秒の場合は1分間)のQoE値を目標QoEに近づけるような制御を想定している。その際、非特許文献3と同様に、この期間内のtごと(例えば1秒毎)にQoE値を計算して、それらを統合して一定期間のQoE値が推定される。tごと(例えば、1秒間)のQoE値は式(6)のf()の中で計算される。その際に、各クライアント端末20には複数の他の参加者の映像が表示されるため、fQoEによる推定値について表示サイズ(=式(6)のDS)による重み付き平均が計算される。その結果がf()で統合される。
【0050】
式(6)の計算は、具体的には以下のように実行される。
(step1)アップロードビットレート選択部13は、式(6)のf()の中身を利用して、T1秒前から現在時刻の区間の各tにおけるクライアントログからtごとに各uのQoE値を計算する。
(step2)アップロードビットレート選択部13は、式(6)のf()の中身を利用して、現在時刻からT2秒後の区間のtごとに各uのQoE値を計算する。この際に、ビットレート(BRi,u(t))はLの中から選択される。例えば、tの進行に応じて相対的に高いビットレートから低いビットレートへ下かるようにBRi,u(t)の値が選択されてもよいし、相対的に低いビットレートから高いビットレートへ上があるようにBRi,u(t)の値が選択されるようにしてもよい。その他の規則に基づいてLの中からビットレートが選択されてもよい。また、フレームレート、解像度、表示サイズ(FRi,u(t)、RESi,u(t)、DSi,u(t))はクライアントログの最新値を利用し、再生停止情報(STOPi,u(t))は、0とすることが考えられる。また、クライアントアプリによっては選択ビットレートに応じてフレームレートや解像度を決定する場合がある。そのような場合は、クライアントアプリで利用されているビットレートとフレームレート、解像度の対応式に応じて解像度及びフレームレートを計算してもよい。
(step3)アップロードビットレート選択部13は、step1で計算したtごとのQoE値と、step2で計算したtごとのQoE値とを式(6)のf()でuごとに統合して、各uについて一定期間(T1~T2)のQoE値であるQoEuを計算(推定)する。
【0051】
なお、step3において計算されたQoEuが目標QoEを超えるという制約を満たし(式(2))、式(3)及び式(4)の制約も満たす範囲において式(1)を計算することで、アップロードビットレート選択部13は、Lの中からBRi,u(t)を選択する。
【0052】
この際、式(3)、式(4)におけるULBWi(t)、DLBWu(t)は、クライアントログ送信部21からのクライアントログに含まれているアップロード可用帯域がT2秒間継続するものとする。すなわち、ULBWi(t)、DLBWu(t)には、最新のクライアントログの値が代入されればよい。なお、既存の帯域推定技術が利用されてULBWi(t)、DLBWu(t)が推定されてもよい。
【0053】
アップロードビットレート指示部14は、アップロードビットレート選択部13から受信した、送信元(i)×送信先(u)ごとのアップロードビットレート(BRi,u(t))を各iに係るクライアント端末20に送信することで、当該アップロードビットレートでのエンコード(符号化)を各クライアント端末20に指示する。この際、或る送信元端末iには、送信元(i)×送信先(u)ごとのアップロードビットレートのうち、当該iに係る全ての(つまり、1以上の)アップロードビットレートの値が送信される。
【0054】
クライアント端末20のクライアントのアップロードビットレート制御部22は、制御サーバ10のアップロードビットレート指示部14から受信した全てのアップロードビットレートを送信データ符号化部23へ設定する。
【0055】
送信データ符号化部23は、設定されたアップロードビットレートに基づいてメディアデータの符号化を行い、符号化されたメディアデータを配信サーバ30へ送信(アップロード)する。
【0056】
配信サーバ30は、各クライアント端末20からアップロードされた1以上の段階のアップロードビットレートのメディアデータを当該クライアント端末20以外のクライアント端末20へ配信する。この際、配信サーバ30は、式(1)によるBRi,u(t)の計算結果(選択結果)を必ずしも知らなくてもよい。基本的にSimulcastでは配信サーバ30がクライアント端末20のダウンロード帯域に合わせて適切なレートを判断して配信するところ、本実施の形態ではBRi,u(t)の計算時点でダウンロード帯域の情報が活用されているため、配信サーバ30が選択するビットレートはBRi,u(t)の計算結果に自ずと一致すると考えられるからである。
【0057】
又は、制御サーバ10又はクライアント端末20から配信サーバ30に対してBRi,u(t)の計算結果(選択結果)が送信されるようにしてもよい。
【0058】
上述したように、第1の形態によれば、目標QoEを達成する範囲において、データ転送量が最小となるように送信元及び送信先の組み合わせごとの映像のビットレートが選択される。したがって、映像の符号化に際して過剰なビットレートが選択される可能性を低減することができる。その結果、例えば、サービス提供事業者の設備にかかるコストを抑制することができる。
【0059】
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では第1の実施の形態と異なる点について説明する。第2の実施の形態において特に言及されない点については、第1の実施の形態と同様でもよい。
【0060】
第2の実施の形態では、送信元端末のネットワークやクライアント負荷の都合から、アップロードビットレート数が所定数Rに制限されている状況が想定される。この場合、送信元端末毎に制限されたビットレート数(R)を決定する必要がある。
【0061】
第2の実施の形態では、式(1)の各送信元iのアップロードビットレートBRi(t)の数n(BRi(t))はR以下という制約が与えられる。但し、BRi(t)は、任意の送信元のユーザiから全ての送信先へのアップロードビットレートの種類(リスト)を意味する。また、n(X)という表記は、Xの数を意味する。この制約により、送信元iごとにアップロードビットレート数をRに抑え、各送信先ユーザuはそれぞれの送信元iからの映像についてR個の中から1つのビットレートを選択するようにする。例えば、事前に設定されている選択可能なビットレート数がNであれば、アップロードビットレート選択部13は、式(1)の代わりに以下の式(7-1)に基づいて、転送データ量(送信元×送信先毎のビットレートの総和)を最小化させるように、送信元×送信先毎のアップロードビットレートを計算する。この際、式(2)~(6)の制約も有効である。
【0062】
【数7】
但し、α
i,u,nは、送信元ユーザiから送信先ユーザuに対する映像についてn番目のビットレートを採用する場合に1となり、そうでない場合に0となる変数である。式(7-2)は、或るiとuの組に対して1つのnのみが採用されること示す制約である。式(7-3)は、任意の送信元ユーザiからのアップロードビットレート数がR以下であるという制約を示す。すなわち、α
i,nは、いずれかのuについてのα
i,u,nが1であれば1となり、全てのuについてのα
i,u,nが0であれば0となる変数である。アップロードビットレート選択部13が、式(2)~(6)の制約に加え、式(7-2)及び式(7-3)の制約を考慮して式(7-1)を計算ことで、各送信元ユーザiからのアップロードビットレート数R以下に抑えつつ、送信元ユーザ×送信先ユーザの組み合わせごとのビットレートを決定することができる。なお、アップロードビットレート選択部13は、α
i,u,n=1であるn番目のビットレートを(i,u)に対するBR
i,u(t)とする。
【0063】
なお、上記各実施の形態において、制御サーバ10は、ビットレート選択装置の一例である。クライアント端末20は、第1の端末及び第2の端末の一例である。アップロードビットレート選択部13は、選択部の一例である。アップロードビットレート指示部14は、指示部の一例である。配信サーバ30は、配信装置の一例である。
【0064】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は斯かる特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0065】
本出願は、2022年5月11日に出願された国際特許出願第PCT/JP2022/019985号に基づきその優先権を主張するものであり、同国際特許出願の全内容を参照することにより本願に援用する。
【符号の説明】
【0066】
10 制御サーバ
11 クライアントログ収集部
12 目標QoE入力部
13 アップロードビットレート選択部
14 アップロードビットレート指示部
20 クライアント端末
21 クライアントログ送信部
22 アップロードビットレート制御部
23 送信データ符号化部
24 受信データ復号化部
30 配信サーバ
100 ドライブ装置
101 記録媒体
102 補助記憶装置
103 メモリ装置
104 CPU
105 インタフェース装置
B バス