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特許7721413導電性高分子組成物、被覆品、及びパターン形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-01
(45)【発行日】2025-08-12
(54)【発明の名称】導電性高分子組成物、被覆品、及びパターン形成方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/00 20060101AFI20250804BHJP
   C08L 39/00 20060101ALI20250804BHJP
   C08L 101/14 20060101ALI20250804BHJP
   C08G 73/00 20060101ALI20250804BHJP
   G03F 7/11 20060101ALI20250804BHJP
   G03F 7/039 20060101ALI20250804BHJP
   G03F 7/038 20060101ALI20250804BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20250804BHJP
【FI】
C08L79/00 A
C08L39/00
C08L101/14
C08G73/00
G03F7/11 503
G03F7/039 601
G03F7/038 601
G03F7/20 504
G03F7/20 521
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021191721
(22)【出願日】2021-11-26
(65)【公開番号】P2023078552
(43)【公開日】2023-06-07
【審査請求日】2023-11-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】長澤 賢幸
(72)【発明者】
【氏名】畠山 潤
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-021020(JP,A)
【文献】特開2020-147630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/00
C08L 39/00
C08L 101/14
C08G 73/00
G03F 7/11
G03F 7/039
G03F 7/038
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び
(B)下記一般式(2)で表される付加塩の構造のうち少なくとも1種を含有する重合体、
を含むものであり、かつ、
前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、20質量部から60質量部であることを特徴とする導電性高分子組成物。
【化1】
(式中、R~Rは、各々独立に、水素原子、酸性基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシル基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~24の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1~24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基、又はハロゲン原子で部分置換された炭素数1~24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示す。)
【化2】
(式中、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐状、環状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1~24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示し、Xa-はカルボン酸イオンでaは価数を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)中の酸性基がスルホ基であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子組成物。
【請求項3】
前記導電性高分子組成物が、更に(C)ノニオン系界面活性剤を含有するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性高分子組成物。
【請求項4】
前記(C)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.1質量部から10質量部であることを特徴とする請求項3に記載の導電性高分子組成物。
【請求項5】
前記導電性高分子組成物が、更に(D)水溶性高分子を含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物。
【請求項6】
前記(D)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、30質量部から150質量部であることを特徴とする請求項5に記載の導電性高分子組成物。
【請求項7】
被加工体上に請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物が成膜されたものであることを特徴とする被覆品。
【請求項8】
前記被加工体が、化学増幅型レジスト膜を備える基板であることを特徴とする請求項7に記載の被覆品。
【請求項9】
前記被加工体が、電子線をパターン照射してレジストパターンを得るための基板であることを特徴とする請求項8に記載の被覆品。
【請求項10】
前記被加工体が、20μC/cm以上の感度をもつ化学増幅型電子線レジスト膜を備える基板であることを特徴とする請求項9に記載の被覆品。
【請求項11】
(1)化学増幅型レジスト膜を備える基板の該レジスト膜上に、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の導電性高分子組成物を用いて帯電防止膜を形成する工程、
(2)電子線をパターン照射する工程、及び
(3)HO又はアルカリ性現像液を用いて現像してレジストパターンを得る工程
を含むことを特徴とするパターン形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアニリン系導電性高分子を含む導電性高分子組成物、これを用いた被覆品、及びパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやLSI等半導体素子の製造プロセスにおいては、従来、フォトレジストを用いたリソグラフィー法による微細加工が行われている。これは、光照射により薄膜の架橋あるいは分解反応を誘起させることにより、その薄膜の溶解性を著しく変化させ、溶剤等による現像処理の結果得られるレジストパターンをマスクとして、基板をエッチングする方法である。近年、半導体素子の高集積化に伴い、短波長の光線を用いた高精度の微細加工が要求されるようになった。電子線によるリソグラフィーはその短い波長特性から次世代の技術として開発が進められている。
【0003】
電子線によるリソグラフィー特有の問題点として、露光時の帯電現象(チャージアップ)が挙げられる。これは電子線露光を行う基板が絶縁性のレジスト膜で被覆された場合、レジスト膜上、又は膜中に電荷が蓄積して帯電する現象である。この帯電により、入射した電子線の軌道が曲げられるため、描写精度を著しく低下させることになる。そのため電子線レジストの上に塗布する剥離性帯電防止膜が検討されている。
【0004】
前述の電子線によるリソグラフィーは<5nm世代への微細化に伴い、電子線レジストへの電子線描画の位置精度が一層重要になっている。その描画技術については、従来技術の高電流化やMBMW(マルチビームマスクライティング)等が進展しつつあり、レジスト上の帯電状態が一層大きくなると予想されることから、今後の描画技術の発展に対応する帯電防止膜の帯電防止能向上策として、より抵抗率が低く電荷発散能力の高い導電性高分子が望まれる。
【0005】
特許文献1では、レジスト上の帯電現象による描写精度の低下を軽減するため、構造内に酸性置換基を導入したπ-共役系導電性高分子をレジスト上に塗布し、形成された導電性高分子膜が電子線描画の際の帯電防止効果を示すことを開示しており、帯電現象による様々な不具合、例えば電子線照射の際のリソグラフィー位置精度への静電的悪影響やレジストパターンの歪等を解消している。また、当該導電性高分子膜は高い照射量での電子線描画後も水溶性を保つため水洗による除去が可能であることを明示している。
【0006】
特許文献2には、ポリアニリン系導電性高分子及びポリアシッド、HOからなる組成物が開示されており、ポリアニリン系導電性高分子及びポリアシッドからなる複合体が5~10質量%で良好なスピンコート成膜が可能であり、かつ150nm膜厚で帯電防止効果が認められ、HOによる剥離・洗浄が可能である帯電防止膜が形成されることが明示されている。
【0007】
特許文献3では、ポリチオフェン系導電性高分子の電子線リソグラフィー向け帯電防止膜用途技術が開示されており、ジェミニ型界面活性剤の添加等の効果によるポリチオフェン系導電性高分子とポリアニオンの複合体の帯電防止膜機能が示されている。
【0008】
特許文献4では、ポリアニリン系導電性高分子の繰り返し単位であるアニリンのベンゼン環骨格のH原子のうち、少なくとも一つを酸性基に置換し、ポリアニリン分子内で自己ドープする化合物が新たに提案されている。前述の特許文献2~3では、ポリアニリン系導電性高分子がキャリア移動を司るπ-共役系ポリマーであるアニリンオリゴマーと、通常ドーパントと呼ばれるスルホン酸末端をもつモノマーまたはポリマーとの複合体であり、HO中では粒子性挙動を示して分散しているため、材料の均質化を行うにおいては高出力ホモジナイザーや高圧の分散機での処理が必要であり、さらには電子線レジスト上に塗布後にもパターン描画の欠陥になる粒子凝集体の除去の工程が複雑になる。それに対し 特許文献4に記載の化合物はHOに対し溶媒和して分子性挙動を示すため、簡潔なろ過のみにより前述の欠陥要因を劇的に低減させることができる。
【0009】
特許文献5では、段落[0045]~[0048]において、ポリアニリン分子内で自己ドープする化合物を含む組成物に対し、電子線レジスト上に成膜した際に当該膜中に存在する酸が層間拡散によりレジストパターンに悪影響を及ぼすことを回避するため、酸を中和する目的で組成物に塩基性化合物を添加することを提案している。塩基性化合物として水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウム、水酸化テトラヘキシルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の水酸化物のアンモニウム塩、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0] -7-ウンデセン(DBU)とそれらの誘導体を挙げている。しかし、水酸化物は強力な塩基性をもつためポリアニリンに由来する酸を中和するが、同時に強い求核性のため副反応が生じることがある。例えば、EBレジスト中に含まれる酸発生剤などは構造内にリンカーとしてしばしばエステル結合を含むが、このエステル結合が水酸化物イオンによって求核攻撃を受け、拡散制御や溶解特性などの機能を付与された部位が脱離する。そのため、小分子となったスルホン酸イオンは電子線照射後に拡散が助長され、結果としてリソグラフィーにおいて感度変動やパターン不良が生じる。一方、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)は強塩基ではあるものの求核性が弱いため、エステル結合への求核攻撃は生じにくいと考えられるが、小分子であるためEBレジストの上に導電性組成物を成膜した際、界面からレジスト層への拡散が生じ、電子線描画後に酸発生剤から発生する酸をクエンチしてしまい、結果としてリソグラフィーにおいて感度変動やパターン不良が生じるなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許公報第2902727号
【文献】米国特許5,370,825号明細書
【文献】特開2014-009342号公報
【文献】特許公報第3631910号
【文献】特開2017-39927号公報
【文献】特開2020-147630号公報
【文献】特開2021-21020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1、4、5において示されるポリアニリン化合物は、π-共役系導電性高分子モノマー単位構造内に酸性置換基を導入したものを用いており、該酸性置換基がπ-共役系導電性高分子鎖に自己ドープする形態をとっている。しかし、重合後のπ-共役系導電性高分子内に存在するすべての酸性置換基がπ-共役系にドープしているのではなく、酸またはその塩としてポリマー内に存在する。酸の状態の場合、当該ポリアニリンを電子線レジスト上に電子線照射時の帯電防止膜として成膜すると、酸がレジスト層へ拡散しリソグラフィーに悪影響を及ぼす。また、その酸の拡散を制御する目的で、中和剤として水酸化物などの強塩基を添加すると、中和そのものが困難な上、膜内の未反応の強塩基はレジスト層に浸透し、レジスト組成物中のエステル結合などの求核攻撃を受ける部分と副反応を生じ結果的に感度やリソグラフィーに悪影響を及ぼす。また、塩の状態とは、重合前にモノマー単位に含まれる酸性基を重合前にあらかじめアミン類などの強塩基によって中和しておき、そのモノマーを重合し、生成物をカチオン交換樹脂などで処理していない状態で存在するが、その際ポリマー上の一部のスルホン酸塩は重合試薬に用いられるペルオキソ二硫酸塩の副生物である硫酸によって酸の状態となっていると考えられ、限外ろ過などによる精製による単分子不純物除去後も、当該ポリアニリン鎖由来の酸が形成膜から拡散する。そのため、当該導電性ポリマーを電子線レジストの帯電防止膜として用いるには、ポリアニリン中の酸末端から発生する酸の拡散を強塩基以外の添加剤により制御しなければならない。
【0012】
強塩基のレジストへの影響は、PCD(Post Coating Delay)と呼ばれる、レジスト上に帯電防止膜を成膜したものの電子線未照射の状態での保存安定性の試験において顕著に現れる。即ち、未照射状態での保管中に帯電防止膜内に存在する強塩基物質が徐々にレジスト膜中に浸透・拡散し、レジストポリマーや酸発生剤に随時求核攻撃をし、レジストのリンカー接合部を切断し、電子線酸発生剤の酸末端を切り離す。その後の電子線描画においては、描画領域外のレジストの反応が進んでいることや、小分子の酸が発生し本来の酸発生剤よりも拡散速度が速い状態でレジストポリマーと反応するなどして、リソグラフィーにおいて著しい感度変化や膜減り、パターン劣化を引き起こす。
【0013】
一般的に無置換のアニリンを原料に用いたポリアニリン複合体は高い導電率を示す一方で、親水性が低くHOへの分散性に乏しいため基板上への成膜性が極めて悪い。これに対し特許文献2に記載の組成物では、ベースポリマーとなるポリアニリン系導電性高分子及びポリアシッドからなる複合体において、アニリン骨格上に様々な置換基を導入することでポリアニリン複合体のHOへの分散性と基板上への成膜性を向上させ、前述の電子線によるリソグラフィー帯電防止膜用途においても、HOによる剥離・洗浄工程で速やかな応答を示す。しかし、アニリン骨格への水素原子以外の置換基を導入することは、高い導電性を付与することを困難とする。即ち、帯電防止能を示す物性指標としての抵抗率低減の改善を困難なものとし、前述したレジスト層の帯電状態を強く発生すると予想される将来の描画プロセスにおいては、帯電する電荷の十分な発散に対応できない。
【0014】
π-共役系導電性高分子で電子線リソグラフィーの描画工程における帯電防止膜用途に使用されるものは、前述のポリアニリン系導電性高分子以外に、ポリチオフェン系導電性高分子がある。ポリチオフェン系導電性高分子は、一般的にポリアニリン系導電性高分子と比べて高い導電率を示すが、HOへの親和性はポリアニリン系導電性高分子に比べて低く、HO分散材料であっても一旦成膜された後はHOによる剥離・洗浄工程において、剥離が困難であったり、剥離されたとしてもHOに完全に溶解または再分散されずにフレーク状などの固形状態で流動するため、リソグラフィー上では重大なパターン欠陥を引き起こす可能性がある。
【0015】
特許文献3では、ポリチオフェン系導電性高分子の電子線リソグラフィー向け帯電防止膜用途技術が開示されており、ジェミニ型界面活性剤の添加等の効果によるポリチオフェン系導電性高分子とポリアニオンの複合体の帯電防止膜機能及びHOに対する良好な剥離性が示されている。また、特許文献3に記載の組成物はポリチオフェン系導電性高分子及びポリアシッドからなる複合体をベースポリマーとしているため、特許文献2に記載のポリアニリン系導電性高分子及びポリアシッドからなる複合体同様、ポリアシッド由来の酸がレジスト膜に影響を及ぼす可能性があるのに対し、アミン類等の中和剤を用いる事により酸性度を緩和することで前述のリソグラフィーへの影響を最小限にとどめている。しかし、良好な塗布性と剥離性の機能を付帯させるためにジェミニ型界面活性剤を添加し、かつ、酸性度の緩和のためのアミン類を添加した結果では、アミンによるレジスト膜への副反応が生じてリソグラフィーに影響を及ぼすほか、帯電防止能の指標となる膜の表面抵抗率(Ω/□)は、十分な帯電防止能を発生できない大きな値を示し、結論としてポリチオフェン系導電性高分子が本来もつ低抵抗率性が機能として表れていない。そのため、将来、高い帯電防止能が要求される描画プロセスにおいては電荷の十分な発散に対応できない懸念がある。
【0016】
上述のことから、濾過性が良好かつ電子線レジスト上への平坦膜の成膜性が良好で、低抵抗率の性質により電子線描画工程においても優良な帯電防止能を示し、かつ、当該膜より拡散する酸の影響を最小限にするためにリソグラフィーに悪影響を及ぼす強塩基類による中和を用いず、添加剤としてカルボン酸の塩を添加することによる酸の塩交換により酸の拡散速度を制御し、さらに描画後のHO又はアルカリ性現像液による剥離性が良好な電子線レジスト描画用帯電防止膜の開発が求められていた。
【0017】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、濾過性ならびに電子線レジスト上への平坦膜の成膜性が良好で、低体積抵抗率(Ω・cm)の性質により電子線描画工程においても優良な帯電防止能を示し、かつ、当該膜より拡散する酸の影響を最小限としてリソグラフィーへの影響を低減し、さらに描画後のHO又はアルカリ性現像液による剥離性にも優れた電子線レジスト描画用帯電防止膜に好適に用いることができる導電性高分子組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明では、
(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び
(B)下記一般式(2)で表される付加塩の構造のうち少なくとも1種を含有する重合体、
を含むものである導電性高分子組成物を提供する。
【化1】
(式中、R~Rは、各々独立に、水素原子、酸性基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシル基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~24の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1~24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基、又はハロゲン原子で部分置換された炭素数1~24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示す。)
【化2】
(式中、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐状、環状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1~24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示し、Xa-はアニオンでaは価数を示す。)
【0019】
このような導電性高分子組成物であれば、電子線レジスト描画時の帯電状態において、高効率の電荷発散を示す帯電防止膜に好適に適用することができ、電子線描画の位置精度を改善することができる。そして本発明の導電性高分子組成物であれば、特に電子線等を用いたリソグラフィーに好適に用いることができるため、高感度、高解像性を有し、パターン形状も良好なレジストパターンを得ることができる。
【0020】
また、前記一般式(1)中の酸性基がスルホ基であることが好ましい。
【0021】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位が酸性基を含みそれがスルホ基である場合、ポリアニリン主鎖に効率よくドープし高い導電率を発現することができ、このような(A)成分であれば、本発明の効果をより十分に得ることができる。
【0022】
前記一般式(2)で表される構造において、Xa-で示されるアニオンがカルボン酸イオンであることが好ましい。
【0023】
(B)成分として上記一般式(2)で示される構造中、Xa-で示されるアニオンがカルボン酸イオンを含むものであれば、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子(A)の酸性度を緩和することが可能であり、隣接する層へ酸の拡散を制御できる。
【0024】
前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、1質量部から200質量部であることが好ましい。
【0025】
(B)成分の含有量をこのようなものとすれば、導電性高分子組成物によって形成された導電膜から接触する隣接層への酸拡散をより低減することができる。
【0026】
また、前記導電性高分子組成物が、更に(C)ノニオン系界面活性剤を含有するものであることが好ましい。
【0027】
このようなものであれば、導電性高分子組成物の基材等の被加工体への濡れ性を上げることができる。
【0028】
また、前記(C)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.1質量部から10質量部であることが好ましい。
【0029】
このようなものであれば、被加工体表面への濡れ性もより良好となり、導電膜の導電性も十分なものとなる。
【0030】
また、前記導電性高分子組成物が、更に(D)水溶性高分子を含有するものであることが好ましい。
【0031】
このようなものであれば、導電性高分子組成物を基材等の被加工体へ成膜した際の膜の均質性を向上することができる。
【0032】
また、前記(D)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、30質量部から150質量部であることが好ましい。
【0033】
このような(D)成分の含有量であれば、膜の均質性を向上させつつ、十分な帯電防止機能を確実に得ることができる。
【0034】
また、本発明では、被加工体上に上記の導電性高分子組成物が成膜されたものである被覆品を提供する。
【0035】
本発明の導電性高分子組成物から形成される導電膜は、帯電防止能に優れていることから、このような帯電防止膜を様々な被加工体上に被覆することにより、質の高い被覆品を得ることができる。
【0036】
また、前記被加工体が、化学増幅型レジスト膜を備える基板であることが好ましい。
【0037】
また、前記被加工体が、電子線をパターン照射してレジストパターンを得るための基板であることが好ましい。
【0038】
また、前記被加工体が、20μC/cm以上の感度をもつ化学増幅型電子線レジスト膜を備える基板であることが好ましい。
【0039】
このような被加工体であれば、本発明において好ましく用いることができる。
【0040】
また、本発明では、
(1)化学増幅型レジスト膜を備える基板の該レジスト膜上に、上記の導電性高分子組成物を用いて帯電防止膜を形成する工程、
(2)電子線をパターン照射する工程、及び
(3)HO又はアルカリ性現像液を用いて現像してレジストパターンを得る工程
を含むパターン形成方法を提供する。
【0041】
このようなパターン形成方法によれば、電子線描画時のレジスト表面の帯電に由来する電子線歪曲現象を防ぐことができ、高感度で高解像性を有し、パターン形状も良好なレジストパターンを得ることができる。
【発明の効果】
【0042】
このような導電性高分子組成物であれば、電子線レジスト描画時の帯電状態において、高効率の電荷発散を示す帯電防止膜に好適に適用することができ、電子線描画の位置精度を改善することができる。
【0043】
また、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む(A)成分と上記一般式(2)で表される(B)成分を含む組成物は、基板上に成膜後、高い導電率を示すと同時にHOに対する高い親和性をもち、濾過性が良好でかつ電子線レジスト上への平坦膜の成膜性が良好であり、また成膜後の剥離プロセスにおいてもHO又はアルカリ性水溶液による剥離が容易になる。このような(A)成分と(B)成分を含有する組成物であれば、良好な成膜性およびHO又はアルカリ性水溶液による剥離性をもち、かつ高い導電率即ち低表面抵抗率性(Ω/□)を示す導電膜を形成して、レジストへの電子線描画において高い位置精度、良好なレジストパターン形状、レジスト現像後にレジストパターン上に剥離片や不溶性残膜のない帯電防止膜を与え、電子線リソグラフィーに好適に用いることができる。
【0044】
また(B)成分によって、組成物により形成される膜からの隣接層への酸拡散の影響を制御することができ、高導電性で、電荷発散能力の高い帯電防止能を発現するとともに、剥離後には優れたレジストリソグラフィーを提供することができる。
【0045】
本発明の(A)成分および(B)成分を含有する組成物は、成膜後のHO又はアルカリ性水溶液による良好な剥離性を示す。電子線レジストへの電子線描画およびパターニングプロセスにおいて、当該組成物から成る形成膜は描画後の加熱処理前においてHOによって剥離可能であり、また、描画後の加熱処理後のレジストパターン現像工程においてアルカリ性水溶液(アルカリ性現像液)によってもレジストパターンの溶離部と同じように剥離可能である。このように、HO又はアルカリ性水溶液による膜剥離が容易であることにより、電子線描画後の剥離工程において、膜形成材料残渣に由来する微細の欠陥低減にも効果を示す。
【0046】
また、(C)ノニオン系界面活性剤および(D)水溶性高分子は、本発明の(A)成分および(B)成分を含有する組成物において、成膜後のHO又はアルカリ性水溶液による剥離性を阻害しない。(C)ノニオン系界面活性剤および(D)水溶性高分子を含む組成物による形成膜はHO又はアルカリ性水溶液による膜剥離が容易であり、電子線描画後の加熱処理前においてHOによって剥離可能であり、また、電子線描画後の加熱処理後にリソグラフィーにおけるレジストパターン現像工程において、アルカリ性水溶液(アルカリ性現像液)によってもレジストパターンの溶離部と同じように剥離可能である。このように、HO又はアルカリ性水溶液による膜剥離が容易であることにより、電子線描画後の剥離工程において、膜形成残渣に由来する極微細の欠陥低減にも効果を示す。
【0047】
また、本発明の導電性高分子組成物を用いて形成された帯電防止膜を様々な被加工体に被覆することにより、質の高い被覆品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0048】
上述のように、基板への塗布性・成膜性が良好で膜質の良好な導電膜を形成し、HO又はアルカリ性水溶液による剥離性に優れ、電荷発散能力の高い帯電防止能を発現し、当該膜から発生する酸の隣接層への拡散制御に強塩基を用いず、電子線等を用いたレジストリソグラフィーにおいて高導電性の帯電防止膜に好適に用いることができる導電性高分子組成物が求められていた。
【0049】
(A)成分のみを原料に用いた高い導電率を示すポリアニリン化合物はドープに消費されないスルホ基が存在するため、その溶液ないし分散液は酸性を示す。(A)成分のみを原料に用いた液材料を電子線レジスト上に電子線照射時の帯電防止膜として成膜すると、酸がレジスト層へ拡散しリソグラフィーに悪影響を及ぼす。また、その酸の拡散を制御する目的で、中和剤として水酸化物などの強塩基を添加すると、厳密な中和そのものが困難な上、さらに当該組成物を電子線レジスト上に電子線照射時の帯電防止膜として成膜した場合、膜内に過剰な強塩基が存在した場合レジスト層に浸透し、レジストベースポリマーや酸発生剤中のエステル結合などの被求核攻撃部位と副反応を生じたり、描画後にレジスト中の酸発生剤から発生する酸と反応するなどして、描画感度や現像後のリソグラフィーに悪影響を及ぼす。
【0050】
特許文献6では上記強塩基に対し、各種カルボン酸の塩を添加することで組成物中のポリアニリン化合物のドープに消費されないスルホ基との間でイオン交換させ、弱酸であるカルボン酸を遊離することで、組成物の酸性を緩和している。しかし、イオン交換後に遊離したカルボン酸自体は弱酸のため電子線レジストのベースポリマーと副反応を生じたり、機能阻害を引き起こすことはないものの、元のカルボン酸塩が単量体であるが故に、イオン交換をしていない状態の塩が、導電性組成物の加熱成膜中やレジストPEB中、さらにはレジスト上層に成膜した基板を長期保存した場合においてレジスト層内に移行拡散するなどして、実際に導電性組成物の膜内で機能するカルボン酸塩の存在率が低下し、ポリアニリン化合物スルホ基由来の酸成分のレジストへの拡散を制御しきれていない。レジストのパターンによってはその影響が少ないこともあるが、ポジ型レジストのアイソパターンなどの大きな描画領域に対し孤立レジストパターンを残す様なリソラフィーや、レジスト上層に導電性組成物を成膜した基板を長期保存した場合には、現像後のレジストパターンの劣化や限界解像性が著しく低下する。
【0051】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む(A)成分のポリアニリン系導電性高分子と、(B)成分である上記一般式(2)で表される付加塩の構造のうち少なくとも1種からなる重合体を含む組成物を電子線レジストへの電子線照射時のレジスト上に塗布することにより、成膜性、膜質および膜平坦性が良好で、低い表面抵抗率(Ω/□)即ち高導電率を示し、HO又はアルカリ性水溶液による剥離性が良好で、かつ(A)成分から発生する酸のレジストへの拡散が制御された帯電防止膜を形成することを見出した。
【0052】
また、上記導電性高分子分散液に(C)ノニオン系界面活性剤および(D)水溶性高分子あるいはいずれか一方を添加することで、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む(A)成分のポリアニリン系導電性高分子と、上記一般式(2)で表される(B)成分の重合体を含む組成物の被加工体表面への濡れ性がさらに良好となって成膜性が向上し、膜均質性も向上することを見出した。
【0053】
また、本発明の前述の用途に好適に用いられる導電性高分子組成物は、例えば、(A)成分のポリアニリン系高分子と(B)成分の重合体及び溶剤、さらに場合により(C)成分のノニオン系界面活性剤、(D)成分の水溶性高分子を混合し、フィルター等でろ過することにより得ることができる。また、本発明の導電性高分子組成物を用いて形成される薄膜を備えた被覆品、及び基板は、例えば、本発明の導電性高分子組成物を基板上に塗布、加熱処理、IR、UV照射等を行うことで得ることができる。
【0054】
即ち、本発明は、
(A)下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び
(B)下記一般式(2)で表される付加塩の構造のうち少なくとも1種を含有する重合体、
を含むものである導電性高分子組成物である。
【化3】
(式中、R~Rは、各々独立に、水素原子、酸性基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシル基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~24の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1~24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基、又はハロゲン原子で部分置換された炭素数1~24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示す。)
【化4】
(式中、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐状、環状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1~24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示し、Xa-はアニオンでaは価数を示す。)
【0055】
以下、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
<導電性高分子組成物>
本発明は、(A)一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子、及び(B)一般式(2)で表される付加塩の構造のうち少なくとも1種以上を含有する重合体を含むものである導電性高分子組成物である。
【0057】
[(A)成分]
本発明の導電性高分子組成物に含まれる(A)成分のポリアニリン系導電性高分子は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上有するポリアニリン系導電性高分子である。
【化5】
(式中、R~Rは、各々独立に、水素原子、酸性基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシル基、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数1~24の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1~24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基、又はハロゲン原子で部分置換された炭素数1~24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示す。)
【0058】
ポリアニリン系導電性高分子はπ-共役系高分子であり、主鎖がアニリン、またはアニリンのpara-置換体以外の誘導体で構成されている有機高分子である。本発明において、(A)成分は、R~Rのうち少なくとも一つが酸性基である上記一般式(1)で表される繰り返し単位(アニリンモノマー)を含む重合体であることが好ましい。尚、酸性基の中でもスルホ基がより好ましい。また、HOへの高い親和性、高効率の濾過性、成膜後のHOまたはアルカリ現像液に対する剥離性、リソグラフィーにおける低欠陥性、重合の容易さ、保存時の低再凝集性、空気中での安定性の点から、(A)成分としては、上記一般式(1)で表される繰り返し単位中R~Rに、スルホ基以外に親水性置換基を導入することが望ましい。親水性置換基としては、アルコキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基等が挙げられる。このような、スルホ基および親水性置換基を有する繰り返し単位を少なくとも1種類以上有する自己ドープ型即ち分子内ドープ型ポリアニリン系導電性高分子が特に有効である。
【0059】
また、(A)成分は、分子内の酸置換基によるドープの他、補助的に分子外の酸やハロゲンイオンなどのドーパントによるドープによって導電機能を発現するものであってもよい。
【0060】
スルホン酸置換アニリンの具体例としては、o-、m-アミノベンゼンスルホン酸、メチルアミノベンゼンスルホン酸、エチルアミノベンゼンスルホン酸、n-プロピルアミノベンゼンスルホン酸、iso-プロピルアミノベンゼンスルホン酸、n-ブチルアミノベンゼンスルホン酸、sec-ブチルアミノベンゼンスルホン酸、t-ブチルアミノベンゼンスルホン酸などのアルキル基置換アミノベンゼンスルホン酸類、メトキシアミノベンゼンスルホン酸、エトキシアミノベンゼンスルホン酸、プロポキシアミノベンゼンスルホン酸等のアルコキシアミノベンゼンスルホン酸類、ヒドロキシ置換アミノベンゼンスルホン酸類、ニトロ基置換アミノベンゼンスルホン酸類、フルオロアミノベンゼンスルホン酸、クロロアミノベンゼンスルホン酸、ブロモアミノベンゼンスルホン酸などのハロゲン基置換アミノベンゼンスルホン酸類、アニリン2-6-ジスルホン酸、アニリン3-5-ジスルホン酸などのスルホン酸二置換体のアニリンなどが挙げられる。
【0061】
上記スルホン酸置換アニリンは一種類を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。また、これらスルホン酸置換アニリンによって形成されたポリアニリンのHO親和性、導電率、生成物安定性の観点からアルコキシアミノベンゼンスルホン酸類、ヒドロキシ置換アミノベンゼンスルホン酸類が好適に用いられる。
【0062】
また、(A)成分のポリアニリン系導電性高分子は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位のR~Rの少なくとも一つがスルホ基で置換されたアニリンと、スルホ基を一つも持たないアニリンを共重合することによって形成することもできる。
【0063】
スルホ基を持たないアニリンの具体例としては、アニリン、2-メトキシアニリン、2-イソプロポキシアニリン、3-メトキシアニリン、2-エトキシアニリン、3-エトキシアニリン、3-イソプロポキシアニリン、3-ヒドロキシアニリン、2,5-ジメトキシアニリン、2,6-ジメトキシアニリン、3,5-ジメトキシアニリン、2,5-ジエトキシアニリン、2-メトキシ-5-メチルアニリン、5-tertブチル-2-メトキシアニリン、2-ヒドロキシアニリン、3-ヒドロキシアニリン等が挙げられる。
【0064】
中でも、アニリン、2-メトキシアニリン、3-メトキシアニリン、2-エトキシアニリン、3-エトキシアニリン、2-イソプロポキシアニリン、3-イソプロポキシアニリン、3-ヒドロキシアニリンは、上記一般式(1)中のR~Rのうち少なくとも一つがスルホ基であるアニリンモノマーと共重合した際もHOへの親和性が損なわれることなく、導電率、反応性、生成物安定性の点から好適に用いられる。
【0065】
本発明に用いる(A)成分のポリアニリン系導電性高分子において、上述した繰り返し単位の中でも、溶解性、導電性、原料コストの観点からメトキシアミノベンゼンスルホン酸類、さらにその中でも3-アミノ4-メトキシベンゼンスルホン酸が好ましく、さらには3-アミノ4-メトキシベンゼンスルホン酸と無置換のアニリンの2種の繰り返し単位とした共重合体とすることが好ましい。さらに重合時の共存塩基は、取り扱いやコスト、塩基性、レジスト構成要素への無害性の観点からピリジンが好ましい。重合、生成の後も残存イオンとしてポリマー中に含まれ、その組成物が電子線レジスト上に塗布された際も、リソグラフィーへの影響を最低限とすることができる。
【0066】
[(B)成分]
本発明の導電性高分子組成物に含まれる(B)成分は下記一般式(2)で表される付加塩の構造のうち少なくとも1種を含有する重合体である。
【化6】
(式中、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐状、環状のアルキル基、ヘテロ原子を含む炭素数1~24の直鎖状、分岐状、環状の炭化水素基を示し、Xa-はアニオンでaは価数を示す。)
【0067】
上記一般式(2)で表される構造において、好ましいR、Rの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、3-ヒドロキシプロピル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基などを挙げることができる。
【0068】
上記一般式(2)で表される構造において、Xa-はアニオンでaは価数を示す。即ち、上記一般式(2)中の1/a Xa-は、アニオンXa-1つに対してa個のカチオンNが存在していることを示している。また、Xa-で示されるアニオンは特に限定されないが、ハロゲンイオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、又は酢酸イオン等のカルボン酸イオンであることが好ましく、カルボン酸イオンであることがより好ましい。
【0069】
本発明の導電性高分子組成物に含まれる(B)成分は、特許文献7中に構成単位(I)として詳細が記されており、ニットーボーメディカル株式会社よりポリアミンシリーズ(PAS)、またはポリアリルアミン(PAA(登録商標))シリーズとして購入することができる。
【0070】
上記一般式(2)の構造の具体例としては、以下の付加塩の構造が好ましい。
【化7】
【0071】
(B)成分は水溶性が高いものの方が取り扱い上好ましい。また、(A)成分のポリアニリン系導電性高分子と(B)成分を組成物とした際、(A)成分と(B)成分間でイオン交換を起こして会合体を形成し、分子量が増大することによる粒子の分散性の低下や、粒子の凝集や沈降を防止するため、(B)成分は、水溶性が高く、且つ分子量がMw=40000以下のものが好ましく、さらに分子量がMw=20000以下のものがより好ましい。なお、分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を用いることで、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)として測定することができる。
【0072】
[その他の成分]
(界面活性剤)
本発明では、基板等の被加工体への濡れ性を上げるため、界面活性剤を添加してもよい。このような界面活性剤としては、ノニオン系、カチオン系、アニオン系の各種界面活性剤が挙げられるが、導電性高分子の安定性から(C)ノニオン系界面活性剤が特に好ましい。具体的には、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、アセチレングリコール系等のノニオン系界面活性剤が好適で、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルアンモニウムクロライド等のカチオン系界面活性剤、アルキル又はアルキルアリル硫酸塩、アルキル又はアルキルアリルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等のアニオン系界面活性剤、アミノ酸型、ベタイン型等の両性イオン型界面活性剤等を挙げることができる。
【0073】
このようなものであれば、導電性高分子組成物の基材等の被加工体への濡れ性を上げることができる。
【0074】
(水溶性高分子)
また、本発明では、基板等の被加工体へ成膜した際の膜の均質性を向上するために、更に(D)水溶性高分子を添加してもよい。このような水溶性高分子としては、親水性繰り返し単位のホモポリマーまたはコポリマーが望ましい。また、このような親水性繰り返し単位は重合性官能基にビニル基をもったものが好ましく、さらには(A)の成分から発生する酸の拡散を制御する意味でも分子内に窒素原子を含む化合物であることが好ましい。具体的にはポリビニルピロリドン等が好ましい。
【0075】
このとき、分子内窒素原子が求核性を持たなければ、前述の様にレジスト組成物中のレジストポリマーや酸発生剤に含まれるエステル基などの被求核攻撃官能基への副反応が生じるおそれがないのでより好ましい。そのため、上記繰り返し単位としては、アクリルアミド類などの様に末端に窒素原子をもつものよりも含窒素複素環状化合物が望ましい。また、その時、窒素原子は環状構造の主鎖を形成するビニル基に結合しているものがより好ましい。このような繰り返し単位としては、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等が挙げられる。
【0076】
このようなものであれば、導電性高分子組成物を基材等の被加工体へ成膜した際の膜の均質性を向上することができる。
【0077】
<ポリアニリン系導電性高分子の製造方法>
特許文献4(特許公報第3631910号)ではドープ剤やポリマードーパントとの複合体を形成させることなく導電性を発現する自己ドープ型スルホン化ポリアニリンとその合成法が提案されている。それ以前のポリアニリン材料の多くはドーパントを添加したものであったが、ほとんどすべての有機溶剤に不溶であり、精製したポリマーは溶剤がHOであっても基本的に溶解性が低く,ポリマードーパントを使用してHOへ分散させることが可能であっても粒子性を帯びるため、電子デバイス光透過膜としての実装や半導体関連における薄膜形成などの用途においては欠陥の要因となり得る粒子の凝集体を除去することが困難であり、また、通常高分子の精製に用いられるろ過精製においては、凝集体がろ過フィルターに濾しとられるなどして固形分の変動をきたし、またろ過フィルターの孔径縮小にも限界があるなど、安定な製造に問題があった。
【0078】
本発明において取り扱っている(A)成分を自己ドープ型ポリアニリンとした場合、例えば上記一般式(1)で表される繰り返し単位(即ち、(A)成分)は水溶液又は水・有機溶媒混合溶液中に酸化剤を添加し、酸化重合を行うことで得ることができる。(A)成分の重合処方は公知の方法を適用することができ、特に限定されない。具体的には、上記一般式(1)で示される繰り返し単位を得るためのモノマーを、化学酸化法、電解酸化法などの各種合成法により重合することができる。このような方法としては、例えば特許公報3154460号、特許公報2959968号に記される処方を適用することができる。
【0079】
このように、上記重合法によって生成した(A)成分のポリアニリン系導電性高分子は、その分子性性質から、HOおよび有機溶剤の双方に溶解するため濾過精製が容易になり、また、欠陥の要因となる凝集体の発生が低減し、濾過による除去の効率も改善する。
【0080】
(A)成分の重合に用いる重合開始剤としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(過硫酸アンモニウム)、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(過硫酸ナトリウム)、ペルオキソ二硫酸カリウム(過硫酸カリウム)等のペルオキソ二硫酸塩(過硫酸塩)、過酸化水素、オゾン等の過酸化物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、酸素等が使用できる。
【0081】
酸化重合を行う際に用いる反応溶媒としては、水又は水と溶媒との混合溶媒を用いることができる。ここで用いられる溶媒は、水と混和可能であり、(A)成分及び(B)成分を溶解又は分散しうる溶媒が好ましい。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、D-グルコース、D-グルシトール、イソプレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価脂肪族アルコール類、ジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等の鎖状エーテル類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル化合物、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン、酢酸エチル、ブタンジオールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ブタンジオールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸t-ブチル、プロピオン酸t-ブチル、プロピレングリコールモノt-ブチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド等の極性溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、3-メチル-2-オキサゾリジノン等の複素環化合物、アセトニトリル、グルタロニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物としてもよい。これら水と混和可能な溶媒の配合量は、反応溶媒全体の50質量%以下が好ましい。
【0082】
(A)成分のポリアニリン系導電性高分子の重合は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を得るためのモノマーを溶剤に溶解させ、重合開始剤を滴下することにより行うことができるが、モノマーの溶解性が低い場合、均一系の反応系を形成させるために初期濃度が低くなることがある。この初期濃度の低下は重合反応の低下を引き起こし、生成するポリマーが十分な導電性や成膜性をもつための分子量を有することができないことがある。そのため、重合の際のモノマーの初期濃度を十分高めるためにモノマーに塩基を添加してモノマー中のスルホ基と塩を形成させ溶解性を増大させて重合を行うことが望ましい。
【0083】
重合における上記一般式(1)の繰り返し単位を得るためのモノマーの初期濃度は1.0~2.0mol/Lが好ましく、さらには1.5~1.8mol/Lがより好ましい。
【0084】
上記一般式(1)で表される繰り返し単位は塩基存在下において酸化剤により酸化重合することがより好ましい。重合における上記一般式(1)の繰り返し単位を得るためのモノマー中のスルホ基は上記塩基によって塩を形成する。その際の溶液の酸性度はpH<7.0であることが好ましい。
【0085】
また、上記重合をする際、水溶液又は水・有機溶媒混合溶液中において、共存させる塩基として下記一般式(4)で示される有機カチオンまたはアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属のイオンが上記一般式(1)の繰り返し単位中の酸性基と塩を形成する。
【0086】
下記一般式(4)で示される有機カチオンは、アンモニア、脂式アミン類、環式飽和アミン類、環式不飽和アミン類で酸との接触から生成するものが好ましい。
【化8】
(式中、R201、R202、R203、R204は、それぞれ水素原子、炭素数1~12の直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基、アルケニル基、オキソアルキル基、又はオキソアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、又は炭素数7~12のアラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示し、これらの基の水素原子の一部又は全部がアルコキシ基によって置換されていてもよい。R201とR202、R201とR202とR204とは環を形成してもよく、環を形成する場合には、R201とR202及びR201とR202とR204は炭素数3~10のアルキレン基、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を示す。)
【0087】
このようにして重合された(A)成分のポリアニリン系導電性高分子は反応液中において沈降物として濾別単離される。ろ過方法としては、減圧濾過、加圧ろ過、遠心分離、遠心ろ過等が用いられるが、手法の簡易性、大合成スケールへの適応性から減圧濾過による濾別が好適であり、濾別された沈降物は漏斗上において貧溶媒による洗浄をすることができる。
【0088】
また、このようにして得られた(A)成分のポリアニリン系導電性高分子は、乾燥後に再度HOに溶解させ、限外ろ過等の手法により不純物を除去することができる。
【0089】
限外ろ過の方式としては、加圧方式、クロスフロー方式等が挙げられるが、生産性、精製材料のスケールの観点からクロスフロー方式を用いることが好ましい。また、クロスフロー方式であっても、処方によっては連続循環式(時間により精製を管理し、精製過程において原液が濃縮により高粘度化対応して適宜溶剤を加えて希釈する。)と逐次処理式(原液を精製するにおいて、2倍の濃度まで濃縮された時点で、もとの濃度まで希釈する工程を1工程とし、この工程を目的の精製度まで繰り返す。)があるがいずれの処方でも処理することができる。
【0090】
また、限外ろ過に使用する膜の構造としては、平膜型、中空糸膜型、チューブラー膜型、スパイラル膜型等があり、分離膜の材質としてはセルロース、セルロースアセテート、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン等があり、本工程においてはいずれの組み合わせであっても制限がないが、精製材料の溶剤がHO、酸性溶液の場合はポリエーテルスルホン製の分離膜が望ましく、膜の構造は、処理液のスケール、処理効率の観点から中空糸膜型を使用することが好ましい。
【0091】
限外ろ過工程における除去対象物質が未反応物や重合副生物の小分子であることを鑑みると、膜の分画分子量は1000~150000の範囲が好ましく、さらに好ましくは5000~30000の範囲である。
【0092】
またこの時、精製原液が2倍の濃度まで濃縮されること、ろ過膜による透析の効率を鑑み、原液濃度は0.5~1.5重量%であることが好ましい。
【0093】
限外ろ過の方式において、クロスフロー逐次処理式で精製を行った場合、各段階においてろ過液をイオンクロマトグラフィーで不純物イオンを定量することができる。ここで分析において定量することができるイオンにはSO 2-、NH 、Na等があるが、その他のイオンについても適宜定量対象とすることができる。限外ろ過精製の完了時点でのSO 2-、NH 、Naの濃度は10ppm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1ppm以下である。
【0094】
限外ろ過により精製された(A)成分のポリアニリン系導電性高分子は、精製が終了した時点ではHOの溶液であるが、アセトン等の水溶性貧溶媒により再度沈降精製することができる。沈降した(A)成分のポリアニリン系導電性高分子は減圧濾過され、濾別された沈降物は再度貧溶媒によって洗浄をすることができる。
【0095】
<導電性高分子組成物の製造方法>
本発明の前述の用途に好適に用いられる導電性高分子組成物は、例えば、(A)成分のポリアニリン系高分子と(B)成分の重合体及び溶剤、さらに場合により(C)成分のノニオン系界面活性剤、(D)成分の水溶性高分子を混合し、フィルター等でろ過することにより得ることができる。
【0096】
このとき、本発明における(A)成分のポリアニリン系導電性高分子と(B)成分の重合体、及び、さらに場合により(C)成分のノニオン系界面活性剤、(D)成分の水溶性高分子のいずれをも溶解することができ、さらに電子線レジスト上に成膜する際にレジスト層とのミキシング防止やリソグラフィーへの悪影響を最小限にするため、主溶剤をHOとすることが好ましい。
【0097】
組成物における(A)成分の固形分量は、電子線レジスト帯電防止膜として要求される電荷発散性、膜厚にもよるが、電子線描画直後の剥離または現像時の高効率の剥離性を鑑み、0.05~2.0wt%が好ましく、さらには0.1~1.5wt%がより好ましい。
【0098】
またこのとき、(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して1質量部から200質量部であることが好ましい。さらには、(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して20質量部から200質量部であることがより好ましく、(A)成分100質量部に対して40質量部から150質量部であることが更に好ましく、60質量部から120質量部であることが特に好ましい。
【0099】
(A)成分および(B)成分の含有量をこのようなものとすれば、導電性高分子組成物によって形成された導電膜から接触する隣接層への酸拡散をより低減することができる。このような導電膜が形成される被加工体が化学増幅型レジスト膜を備える基板であって、電子線描画時における帯電防止効果を目的とした場合、導電膜が帯電防止効果を発現し描画位置を高精度にすることに加え、レジストへの導電膜からの酸拡散の影響が低減され、高解像性レジストパターンを得ることができる。
【0100】
また、(C)ノニオン系界面活性剤を添加する場合その含有量は、(A)の成分100質量部に対して、0.1質量部から10質量部であることが好ましく、さらには0.5質量部から5質量部であることがより好ましい。
【0101】
またさらに、(D)水溶性高分子を添加する場合その含有量は、(A)成分100質量部に対して、30質量部から150質量部であることが好ましく、さらには90質量部から120質量部であることがより好ましい。
【0102】
以上説明したような、導電性高分子組成物であれば、濾過性及び塗布性が良好であり、電子線リソグラフィーにおける好適な帯電防止膜を形成することができる。
【0103】
こうして得られた導電性高分子組成物は、電子線レジストないし基材等の被加工体に様々な方法によって塗布することにより帯電防止膜を形成できる。具体的には、スピンコーター等による塗布、バーコーター、浸漬、コンマコート、スプレーコート、ロールコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。塗布後、熱風循環炉、ホットプレート等による加熱処理、IR、UV照射等を行って導電膜を形成することができる。
【0104】
更に、本発明の導電性高分子組成物は、リソグラフィー関連の帯電防止膜関連に留まらず、有機薄膜デバイスにおけるデバイス構成要素としての積層膜形成用材料として好適に用いることができる。さらには、優れた導電性と成膜性、及び透明性から有機ELディスプレイや有機EL照明、太陽電池等の透明電極用途のような電極膜形成用材料として、あるいはπ-共役系ネットワークに由来する高効率のキャリアの移動を示す性状から同じく有機ELディスプレイや有機EL照明、太陽電池等のキャリア注入層、キャリア移動層用途のようなキャリア移動膜形成用材料としても好適に用いることができる。
【0105】
本発明の導電性高分子組成物中に(B)成分を用いた場合、有機薄膜デバイスの構成において、多層構造中の形成層として使用された際も、積層構造中の隣接層に酸による悪影響を与えることがないため、デバイス構築後も隣接層の構成材料の界面での変質や酸による副反応、劣化を回避することが可能である。
【0106】
<被覆品>
また、本発明は、被加工体上に本発明の導電性高分子組成物が成膜されたものである被覆品を提供する。本発明の導電性高分子組成物から形成される導電膜は、帯電防止能に優れていることから、このような帯電防止膜を様々な被加工体上に被覆することにより、質の高い被覆品を得ることができる。
【0107】
被加工体としては、ガラス基板、石英基板、フォトマスクブランク基板、樹脂基板、シリコンウエハー、ガリウム砒素ウエハー、インジウムリンウエハー等の化合物半導体ウエハー等、及び樹脂フィルム、超薄膜ガラス、金属箔等のフレキシブル基板が挙げられ、さらにこれら基板表層が、平坦化や絶縁性化、気体や水分の透過防止を目的として有機・無機薄膜層でコーティングされたものでもよい。
【0108】
本発明の導電性高分子組成物を用いて得られる導電膜が被覆された被覆品としては、例えば、帯電防止膜用途として本発明の導電性高分子組成物が塗布されたガラス基板、樹脂フィルム、フォトレジスト基板等が挙げられる。
【0109】
また、本発明の導電性高分子組成物は、電子線レジスト描画プロセス中における独立な帯電防止膜剥離工程、又は現像工程に含まれる帯電防止膜剥離工程に適応するため、被加工体が化学増幅型レジスト膜を備える基板であっても好適に使用することが可能であり、さらにそれが電子線をパターン照射してレジストパターンを得るための基板である場合、より好適な結果を得ることができる。また、被加工体は、20μC/cm以上の感度をもつ化学増幅型電子線レジスト膜を備える基板であってもよい。
【0110】
<パターン形成方法>
更に、本発明は、
(1)化学増幅型レジスト膜を備える基板の該レジスト膜上に、本発明の導電性高分子組成物を用いて帯電防止膜を形成する工程、
(2)電子線をパターン照射する工程、及び
(3)HO又はアルカリ性現像液を用いて現像してレジストパターンを得る工程
を含むパターン形成方法を提供する。
【0111】
上記パターン形成方法は、本発明の導電性高分子組成物を用いる以外は、常法に従って行うことができ、導電性高分子組成物によって形成された帯電防止膜は、電子線描画後、加熱処理前にHOによって剥離してもよいし、加熱処理後にレジストパターン現像工程おいて現像液により剥離してもよい。レジストパターン現像後はエッチング工程やその他の各種の工程が行われてももちろんよい。
【0112】
このようなパターン形成方法によれば、露光時の帯電現象を防ぐことができ、高感度で高解像性を有し、パターン形状も良好なパターンを得ることができる。
【実施例
【0113】
以下、製造例、実施例、及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0114】
[自己ドープ型ポリアニリン系導電性高分子の合成]
(製造例)ポリアニリン系導電性高分子の合成
ペルオキソ二硫酸アンモニウム114.1gをアセトニトリル/HO混合液(アセトニトリル/HO=1/1)400mlに溶解させ0℃に冷却した状態に、96.3gの3-アミノ4-メトキシベンゼンスルホン酸と4.66gのアニリンを、2mol/Lのピリジンのアセトニトリル/HO混合液(アセトニトリル/HO=1/1)300mlに完全溶解させ0℃に冷却したものを、1.5ml/min.の滴下速度で滴下した。全量滴下終了後、反応系を25℃に昇温し12時間攪拌をした。攪拌後、沈降物をブフナーロートでろ取し、メタノールで洗浄後乾燥し、45gの粉末状導電性高分子を得た。このようにして得られた導電性高分子をHOに1.0wt%の濃度となるよう再溶解させ、限外ろ過(中空糸式、MWCO=1000)により透析液中のNH 、SO 2-イオン濃度が0.1ppmになるまで精製を行った。限外濾過条件は下記の通りとした。
限外濾過膜の分画分子量:10K
クロスフロー式
供給液流量:3,000mL/分
膜分圧:0.12Pa
精製液を濃縮後、アセトン4,000mLに滴下し粉末を得た。この粉末を再度2,000mLの超純水に分散させ、アセトン4,000mLに滴下して粉末を再晶出させ、粉末を乾燥することで褐色の導電性高分子を得た。
【0115】
限外濾過は、クロスフロー方式において連続循環式(時間により精製を管理し、精製過程において原液が濃縮により高粘度化対応して適宜溶剤を加えて希釈する。)と逐次処理式(原液を精製するにおいて、2倍の濃度まで濃縮された時点で、もとの濃度まで希釈する工程を1工程とし、この工程を目的の精製度まで繰り返す。)のいずれの処方によっても処理できるが、精製工程の不純物イオン除去の推移を観察するために、逐次処理式を用いることができる。逐次処理式による精製において、排出される透析液中に含まれる不純物イオンの濃度をイオンクロマトグラフィーで定量分析を行った結果を表1に示す。
【表1】
【0116】
[ポリアニリン系導電性高分子を含む導電性高分子組成物の調製]
それぞれの導電性高分子組成物の調製において、(B)の成分としてPAS-M-1A(20.0wt%水溶液)、PAA-D19A(20.4wt%水溶液)(いずれもニットーボーメディカル製)、ノニオン系界面活性剤としてアセチレングリコール系界面活性剤サーフィノール465(日信化学工業製)、水溶性高分子化合物としてポリビニルピロリドン(ナカライテスク社製)、比較例においてはテトラノルマルブチルアンモニウムヒドロキシド(富士フィルム和光純薬製10%水溶液)および酢酸テトラノルマルブチルアンモニウム(東京化成製)を使用した。
【0117】
PAS-M-1Aの構造は以下の通りである。
【化9】
(式中、nは正の整数を示す。)
【0118】
PAA-D19Aの構造は以下の通りである。
【化10】
(式中、l、m、nは正の整数を示す。)
【0119】
(実施例1)
PAS-M-1A水溶液5.53gを溶解させた超純水に、製造例で得たポリアニリン系導電性高分子の褐色粉末3.00gを溶解させ、当該高分子の固形分濃度を0.15wt%になる様に調製し室温で2時間攪拌した後、親水処理したポリエチレンフィルターでろ過をして実施例1とした。
【0120】
(実施例2)
実施例1のPAS-M-1AをPAA-D19A 5.57gに変えた以外は、実施例1と同様に調製を行い、導電性高分子組成物を得た。
【0121】
(実施例3)
PAS-M-1A水溶液5.53gを溶解させた超純水に、ノニオン系界面活性剤としてアセチレングリコール系界面活性剤サーフィノール465 0.045gを溶かし、さらに製造例で得たポリアニリン系導電性高分子の褐色粉末3.00gを溶解させ当該高分子の固形分濃度を0.15wt%になる様に調製した。室温で2時間攪拌した後、親水処理したポリエチレンフィルターでろ過をして実施例3とした。
【0122】
(実施例4)
実施例3のPAS-M-1AをPAA-D19A 5.57gに変えた以外は、実施例3と同様に調製を行い、導電性高分子組成物を得た。
【0123】
(実施例5)
PAS-M-1A水溶液5.53gを溶解させた超純水に、ノニオン系界面活性剤としてアセチレングリコール系界面活性剤サーフィノール465 0.045gおよび水溶性高分子化合物としてポリビニルピロリドン3.30gを溶かし、さらに製造例で得たポリアニリン系導電性高分子の褐色粉末3.00gを溶解させ当該高分子の固形分濃度を0.15wt%になる様に調製した。室温で2時間攪拌した後、親水処理したポリエチレンフィルターでろ過をして実施例5とした。
【0124】
(実施例6)
実施例5のPAS-M-1AをPAA-D19A 5.57gに変えた以外は、実施例5と同様に調製を行い、導電性高分子組成物を得た。
【0125】
(比較例1)
テトラノルマルブチルアンモニウムヒドロキシド5.16gを溶解させた超純水に、製造例で得たポリアニリン系導電性高分子の褐色粉末3.00gを溶解させ、当該高分子の固形分濃度を0.15wt%になる様に調製し室温で2時間攪拌した後、親水処理したポリエチレンフィルターでろ過をして比較例1とした。
【0126】
(比較例2)
比較例1のテトラノルマルブチルアンモニウムヒドロキシドを酢酸テトラノルマルブチルアンモニウム0.60gに変えた以外は、比較例1と同様に調製を行い、導電性高分子組成物を得た。
【0127】
(比較例3)
テトラノルマルブチルアンモニウムヒドロキシド5.16gを溶解させた超純水に、ノニオン系界面活性剤としてアセチレングリコール系界面活性剤サーフィノール465 0.045gを溶かし、さらに製造例で得たポリアニリン系導電性高分子の褐色粉末3.00gを溶解させ当該高分子の固形分濃度を0.15wt%になる様に調製した。室温で2時間攪拌した後、親水処理したポリエチレンフィルターでろ過をして比較例3とした。
【0128】
(比較例4)
比較例3のテトラノルマルブチルアンモニウムヒドロキシドを酢酸テトラノルマルブチルアンモニウム0.60gに変えた以外は、比較例3と同様に調製を行い、導電性高分子組成物を得た。
【0129】
(比較例5)
テトラノルマルブチルアンモニウムヒドロキシド5.16gを溶解させた超純水に、ノニオン系界面活性剤としてアセチレングリコール系界面活性剤サーフィノール465 0.045gおよび水溶性高分子化合物としてポリビニルピロリドン3.30gを溶かし、さらに製造例で得たポリアニリン系導電性高分子の褐色粉末3.00gを溶解させ当該高分子の固形分濃度を0.15wt%になる様に調製した。室温で2時間攪拌した後、親水処理したポリエチレンフィルターでろ過をして比較例5とした。
【0130】
(比較例6)
比較例5のテトラノルマルブチルアンモニウムヒドロキシドを酢酸テトラノルマルブチルアンモニウム0.60gに変えた以外は、比較例5と同様に調製を行い、導電性高分子組成物を得た。
【0131】
(評価用レジスト)
電子線によるリソグラフィー用(電子線レジスト向け)帯電防止膜としての評価において、併用したポジ型化学増幅型レジストとしては、信越化学工業社製ポジ型化学増幅電子線レジスト(RP-1)を用いた。また、ネガ型化学増幅型電子線レジストには信越化学工業社製(RP-2)を用いた。
【0132】
[ポジ型レジスト組成物(R-1)]
ポリマー(RP-1)(100質量部)、酸発生剤P―1(8質量部)、酸拡散制御剤としてQ-1(4質量部)、及び界面活性剤を有機溶剤中に溶解し、得られた各溶液を0.02μmサイズのUPEフィルターで濾過することにより、ポジ型レジスト組成物を調製した。
【0133】
[ネガ型レジスト組成物(R-2)]
ポリマー(RP-2)(100質量部)、酸発生剤P―1(5質量部)、フッ素含有ポリマーD1(3質量部)、拡散制御剤としてQ-1(7質量部)、及び界面活性剤を有機溶剤中に溶解し、得られた各溶液を0.02μmサイズのUPEフィルターで濾過することにより、ネガ型レジスト組成物を調製した。
【0134】
また、各レジスト組成物には界面活性剤としてPF-636(OMNOVA SOLUTIONS社製)を添加し、有機溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)1,204質量部、乳酸エチル(EL)1,204質量部及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)1,606質量部の混合溶剤を使用した。
【0135】
【化11】
【0136】
【化12】
【0137】
【化13】
【0138】
【化14】
【0139】
【化15】
【0140】
(電子線レジストおよび導電性高分子組成物 シリコンウェハー上成膜)
(R-1)及び(R-2)はコーターデベロッパークリーントラック MARK VIII(東京エレクトロン(株)製)を用いて直径6インチ(150mm)シリコンウエハー上へスピンコーティングし、精密恒温器にて110℃、240秒間ベークを行い、溶媒を除去することにより成膜した。その上層に実施例1~6及び比較例1~6のそれぞれ2.0mLを滴下後、スピンナーを用いてレジスト膜上全体に回転塗布した。回転塗布条件は、膜厚が80±5nmとなるよう調節した。精密恒温器にて90度、5分間ベークを行い、溶媒を除去することにより帯電防止膜を得た。レジスト膜厚及び帯電防止膜厚は、入射角度可変の分光エリプソメーターVASE(J.A.ウーラム社製)で決定した。
【0141】
(導電性高分子組成物 pH測定)
実施例1~6及び比較例1~6の導電性高分子組成物のpHは、pHメーターD-52(堀場製作所製)を用いて測定した。その結果を表2に示す。
【0142】
(導電性高分子組成物 体積抵抗率)
スピンコート成膜法により得られた実施例1~6及び比較例1~6による導電性高分子膜の体積抵抗率(Ω・cm)を、Loresta-GP MCP-T610又はHiresta-UP MCP-HT450(いずれも三菱化学社製)を用いて測定した。その結果を表2に示す。
【0143】
【表2】
【0144】
(レジスト膜減り変化率評価)
導電性高分子膜からレジスト膜への酸の拡散、あるいは添加剤のレジスト膜への拡散の影響は、特にポジ型レジスト適用時の現像後の残膜に現れる。以下、ポジ型レジスト(R-1)上に実施例1~6、比較例1~6をそれぞれ成膜し、電子線描画後にこれら成膜された導電性高分子組成物のPEB前剥離工程あるいはPEB後剥離工程を経由して、現像、レジストパターンを得たときのレジスト膜の膜減り変化率を測定した。
【0145】
PEB前剥離プロセス評価
ポジ型化学増幅型レジストである(R-1)をMARK VIII(東京エレクトロン(株)製、コーターデベロッパークリーントラック)を用いて6インチシリコンウエハー上へスピンコーティングし、ホットプレート上で、110℃で240秒間プリベークして80nmのレジスト膜を調製した<膜厚(T1)>。得られたレジスト膜付きウエハー上に導電性高分子組成物を上記同様、MARK VIIIを用いてスピンコーティングし、ホットプレート上で90℃で90秒間ベークして20nmの導電性高分子膜を調製した。さらに、電子線露光装置((株)日立ハイテクノロジーズ製、HL-800D 加速電圧50keV)を用いて露光し、その後、15秒間純水をかけ流して導電性高分子膜を剥離して、90℃で240秒間ベーク(PEB:post exposure bake)を施し、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液で現像を行うと、ポジ型のパターンを得ることができた<未露光部の膜厚(T3)>。
【0146】
PEB後剥離プロセス評価
ポジ型化学増幅型レジストである(R-1)をMARK VIII(東京エレクトロン(株)製、コーターデベロッパークリーントラック)を用いて6インチシリコンウエハー上へスピンコーティングし、ホットプレート上で、110℃で240秒間プリベークして80nmのレジスト膜を調製した<膜厚(T1)>。得られたレジスト膜付きウエハー上に、導電性高分子組成物を上記同様、MARK VIIIを用いてスピンコーティングし、ホットプレート上で90℃で90秒間ベークして20nmの導電性高分子膜を調製した。さらに、電子線露光装置((株)日立ハイテクノロジーズ製、HL-800D 加速電圧50keV)を用いて露光した後、90℃で240秒間ベーク(PEB:post exposure bake)を施し、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液で現像を行うと、ポジ型のパターンを得ることができた<未露光部の膜厚(T3)>。
【0147】
導電性高分子膜を設けないレジスト膜に対してもPEB後剥離プロセスと同様の操作を行い、露光、現像後の最適露光量、未露光部におけるレジスト膜厚(T2)を求め、下記式により、導電性高分子膜のPEB前剥離プロセス及びPEB後剥離プロセスそれぞれにおいて、膜減り変化率(膜厚変化率)を求めた。
膜減り変化率(%)=〔{(T1-T3)-(T1-T2)}/(T1-T2)〕x100
結果を表3に示す。
【0148】
【表3】
【0149】
(電子ビーム描画解像性評価)
導電性高分子膜からレジスト膜への酸の拡散、あるいは添加剤のレジスト膜への拡散の影響は、ポジ型レジストへの描画の現像後のパターン解像限界度、パターンエッジラフネス、パターン断面形状に顕著に現れる。以下、ポジ型レジスト(R-1)上に実施例1~6、比較例1~6をそれぞれ成膜し、電子線描画後にこれら成膜された導電性高分子組成物のPEB前剥離工程あるいはPEB後剥離工程を経由して、現像、レジストパターンを得たときの解像限界度、パターンエッジラフネス、パターン断面形状を評価した。
【0150】
マスクブランク上に成膜されたポジレジスト膜および導電性膜から、以下プロセスを経由してレジストパターンを得た。
【0151】
PEB前剥離プロセス評価
上記調製したレジスト組成物をACT-M(東京エレクトロン(株)製)を用いて152mm角の最表面が酸化窒化クロム膜であるマスクブランク上にスピンコーティングし、ホットプレート上で、110℃で600秒間プリベークして80nmのレジスト膜を作製した。得られたレジスト膜の膜厚測定は光学式測定器ナノスペック(ナノメトリックス社製)を用いて行った。測定はブランク外周から10mm内側までの外縁部分を除くブランク基板の面内81箇所で行い、膜厚平均値と膜厚範囲を算出した。このようにして得られたレジスト膜付きマスクブランク上に実施例1~6および比較例1~6の導電性高分子組成物をそれぞれスピンコーティングし、ホットプレート上で、90℃で90秒間ベークして20nmの導電性高分子膜を調製した。続けて、電子線露光装置((株)ニューフレアテクノロジー製EBM-5000plus、加速電圧50kV)を用いて露光し、20秒間の超純水による水洗剥離の後、110℃で600秒間PEBを施し、2.38質量%TMAH水溶液で現像を行い、ポジ型レジスト(R-1)のパターンを得た。
【0152】
得られたレジストパターンを次のように評価した。作製したパターン付きマスクブランクを上空SEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、200nmの1:1のラインアンドスペース(LS)を1:1で解像する露光量を最適露光量(感度)(μC/cm)とした場合、その露光量における最小寸法を解像度(限界解像性)とした。また、200nmのアイソラインパターン(IL)についても、200nmで解像する露光量をその最適露光量とした場合のその露光量における最小寸法を解像度(限界解像性)とした。
【0153】
また、ラインアンドスペース(LS)の200nmパターンエッジラフネス(LER)のSEM測定および、アイソラインパターンの断面のSEM観察によってパターン形状が矩形か否かを判定した。ポジ型レジスト(R-1)による結果を表4に示す。
【0154】
【表4】
【0155】
PEB後剥離プロセス評価
上記調製したレジスト組成物をACT-M(東京エレクトロン(株)製)を用いて152mm角の最表面が酸化窒化クロム膜であるマスクブランク上にスピンコーティングし、ホットプレート上で、110℃で600秒間プリベークして80nmのレジスト膜を作製した。得られたレジスト膜の膜厚測定は光学式測定器ナノスペック(ナノメトリックス社製)を用いて行った。測定はブランク外周から10mm内側までの外縁部分を除くブランク基板の面内81箇所で行い、膜厚平均値と膜厚範囲を算出した。このようにして得られたレジスト膜付きマスクブランク上に実施例1~6および比較例1~6の導電性高分子組成物をそれぞれスピンコーティングし、ホットプレート上で、90℃で90秒間ベークして20nmの導電性高分子膜を調製した。続けて、電子線露光装置((株)ニューフレアテクノロジー製EBM-5000plus、加速電圧50kV)を用いて露光し、110℃で600秒間PEBを施し、2.38質量%TMAH水溶液で現像を行い、ポジ型レジスト(R-1)のパターンを得た。
【0156】
得られたレジストパターンを次のように評価した。作製したパターン付きマスクブランクを上空SEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、200nmの1:1のラインアンドスペース(LS)を1:1で解像する露光量を最適露光量(感度)(μC/cm)とした場合、その露光量における最小寸法を解像度(限界解像性)とした。また、200nmのアイソラインパターン(IL)についても、200nmで解像する露光量をその最適露光量とした場合のその露光量における最小寸法を解像度(限界解像性)とした。また、ラインアンドスペースパターン(LS)の線幅200nmのパターンエッジラフネス(LER)のSEM測定および、アイソラインパターン(IL)の断面のSEM観察によってパターン形状が矩形か否かを判定した。ポジ型レジスト(R-1)による結果を表5に示す。
【0157】
【表5】
【0158】
表2において、実施例1~6では、導電性高分子組成物として(A)成分のポリアニリン系高分子化合物に対し(B)成分として上記一般式(2)で表される構造の酢酸塩の少なくとも1種を含む重合体、具体的にはニットーボーメディカル製PAS-M-1AおよびPAA-D19Aを添加しているため、(B)の成分が(A)成分のスルホン酸末端に対しイオン交換作用を生じpHは4.38~4.93の弱酸性領域となっている。比較例1、3、5では(B)の成分は強い塩基性を示す物質であるため、(A)成分のスルホン酸末端に対して中和作用を生じ、pHはより高い領域となり中性付近となる。また、比較例2、4、6は酢酸塩の単量体であるため、上記PAS-M-1AおよびPAA-D19Aと同様に(A)成分のスルホン酸末端に対しイオン交換作用を生じpHは4.75~5.10の弱酸性領域となっている。本結果は成膜前の液性の評価であるため、電子線レジスト描画時の帯電防止膜用途において、レジスト上層に成膜した際のレジストに対する影響を直接示すものではなく、比較例に対する実施例の有効性も明確ではない。しかし、これら導電性高分子組成物が電子線レジスト上に塗布・成膜され、電子線描画、PEB工程を経ることによりリソグラフィーに明確な差が生じる。
【0159】
体積抵抗率は、(B)が酢酸塩を含むものであれば(A)成分の分子内ドープに関わるスルホ基の脱ドープを促進することなく導電性が保持されるためE+02~E+03Ω・cmのオーダーを示す。それに対し、(B)の成分が水酸化物塩などの強い塩基性を示すものの場合、(A)成分の分子内ドープに関わるスルホ基の脱ドープを引き起こすため、体積抵抗率はE+04Ω・cmとやや高いオーダーを示す。実施例1~6および、比較例2、4、6では導電性高分子膜の体積抵抗率(Ω・cm)は帯電防止機能を十分に発揮できる値を示した。しかし比較例1、3、5では、体積抵抗率(Ω・cm)は大きな値を示し、十分な帯電防止機能を発揮できないものであった。
【0160】
表3では実施例1~6および比較例1~6をポジ型電子線レジスト(R-1)上に成膜し、レジストPEB前剥離プロセスを経てレジストパターン現像、またはレジストPEB後にレジストパターン現像時の一括剥離によって得られるリソグラフィー結果を基に膜減り率を比較している。実施例1~6は上記のいずれのレジスト種、いずれの剥離プロセスを経てもレジストの膜減り率は5~10%程度であるのに対し、比較例1、3、5では30%~48%程度、比較例2、4、6では15~23%程度と非常に大きくなっており、実施例1~6の(B)の成分は電子線レジストへの拡散および各構成要素に対する化学反応による影響が少ないのに対し、比較例1、3、5に含まれる強い塩基性を示す成分は酸を中和するに留まらず、電子線レジスト層に拡散しレジストの各構成要素に対し求核攻撃を引き起こすなどしてレジストの機能に変性をもたらし、また、比較例2、4、6はカルボン酸塩そのものが電子線レジスト層に拡散し、導電性高分子組成物内の存在率が低下することでポリアニリン由来の酸の拡散制御能が低下し、現像後のレジスト膜減り率が大きくなっている。
【0161】
表4、5では、実施例1~6および比較例1~6を、ポジ型電子線レジスト(R-1)上に成膜し、PEB前剥離プロセスおよびPEBを経てレジストパターン現像、またはPEB前剥離プロセスを経ずに、PEB後に一括レジストパターン現像によるリソグラフィー結果を基に、パターン幅が200nmとなる最適露光量下、LSパターンの限界解像性およびエッジラフネス(LER)、ILパターンの限界解像性およびパターン断面形状を比較している。実施例1~6では上記のいずれのレジストパターンにおいても、限界解像性、エッジラフネス(LER)は導電性高分子組成物を塗布していないレジストのみのリソグラフィーと同等であり、また現像後のILパターンの断面形状もレジスト性能を損なうことなくrectangul形状(矩形)を保持している。一方、比較例1、3、5では前述の様に電子線レジストの各構成要素に対する化学反応による影響が大きく、強い塩基性を示す物質は導電性高分子組成物内の酸を中和するに留まらず、成膜後に電子線レジストの各構成要素に対し求核攻撃を引き起こすなどし、電子線レジストの感度やリソグラフィー性能に影響を及ぼし、また、比較例2、4、6では導電性組成物膜内のカルボン酸塩の存在率低下から、いずれもLS、ILパターン解像度、LSパターンのエッジラフネス(LER)、ILパターンの断面形状が劣化している。
【0162】
(電子線リソグラフィー評価及びPCD(Post Coating Delay)評価)
次に、電子線照射前のレジスト膜の導電性高分子膜からの影響による経時変化を測定した。以下記載の方法で塗設されたレジスト膜及び導電性高分子膜の二層膜を電子線描画装置内で成膜直後から7日間、14日間、30日間放置した後、下記のような導電性高分子膜のPEB前剥離プロセス又はPEB後剥離プロセスによりレジストパターンを得た。レジスト及び導電性高分子膜を成膜後直ちに描画した際の感度に対し、同感度におけるパターン線幅の変動を求めた。
【0163】
PEB前剥離プロセス評価
ポジ型化学増幅系レジスト(R-1)をMARK VIII(東京エレクトロン(株)製、コーターデベロッパークリーントラック)を用いて6インチシリコンウエハー上へスピンコーティングし、ホットプレート上で、110℃で240秒間プリベークして膜厚80nmのレジスト膜を調製した。得られたレジスト膜付きウエハー上に導電性高分子組成物を上記同様、MARK VIIIを用いてスピンコーティングし、ホットプレート上で、90℃で90秒間ベークして導電性高分子膜を調製した。レジスト膜及び導電性高分子膜の二層膜が塗設されたウエハーについて、塗設直後、7日後、14日後、30日後にそれぞれ以下方法にてレジストパターンを得た。まず、塗設直後のウエハーについて電子線露光装置((株)日立ハイテクノロジーズ製、HL-800D 加速電圧50keV)を用いて露光し、その後、20秒間純水をかけ流して導電性高分子膜を剥離して、110℃で240秒間ベーク(PEB:post exposure bake)を施し、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液で現像を行った。作製したパターン付きウエハーを上空SEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、400nmのラインアンドスペースを1:1で解像する露光量を最適露光量(感度)(μC/cm)とした。該最適露光量における、最小寸法を解像度とした。また、塗設後に7日、14日、30日経過したウエハーについても同様にレジストパターンを得て、塗設直後のウエハーにおいて200nmのラインアンドスペースを1:1で解像する露光量(最適露光量(感度)(μC/cm))におけるパターン線幅の変動を測定した。結果を表6に示す。
【0164】
PEB後剥離プロセス評価
PEB前剥離プロセスと同様にレジスト膜及び導電性高分子膜の二層膜が塗設されたウエハーを作製し、塗設後に7日、14日、30日経過したウエハーそれぞれについて、電子線露光後に20秒間純水をかけ流して導電性高分子膜を剥離する工程を経ずに、110℃で240秒間ベーク(PEB:post exposure bake)を施し、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液で現像を行うことでレジストパターンを得た。塗設直後のウエハーにおいて200nmのラインアンドスペースを1:1で解像する露光量(最適露光量(感度)(μC/cm))におけるパターン線幅の変動を測定した。結果を表7に示す。
【0165】
【表6】
【0166】
【表7】
【0167】
ネガ型レジスト(R-2)についても、PEB前剥離プロセス及びPEB後剥離プロセスについて、上記ポジ型レジスト(R-1)と同様の評価を行った。その結果を表8及び表9に示す。
【0168】
【表8】
【0169】
【表9】
【0170】
表6~9に示すように、PCD(Post Coating Delay)評価においては、導電性高分子膜から電子線レジスト層への酸の影響を抑制する効果を有する実施例1~6の組成物では、レジスト上層に導電膜として成膜後も、レジスト膜の保存安定性を良好に保つことができた。即ち、電子線描画前のレジスト膜及び、その上層への導電性高分子膜(帯電防止膜)の被覆物において、導電性高分子膜からの酸の拡散が抑制されることによって、描画及び導電性高分子膜(帯電防止膜)剥離、パターン現像のプロセスにおいて、良好なリソグラフィー結果を得ることができることを示唆している。一方、比較例1、3、5の組成物は、組成物へ強塩基性物質を添加することで、組成物の酸性度の緩和(中和)効率は高く中性寄りの液性を示すが、成膜後はこれら強塩基性物質の未反応のものが電子線レジスト層へ徐々に拡散し、レジスト構成要素への求核攻撃により描画前の時点で酸発生剤から酸が発生する副反応を引き起こし、基板保管中にすでに過剰な酸の発生や、電子線照射時に層内に酸の濃度勾配が生じるなどしてリソグラフィーに悪影響を及ぼす。また、比較例2、4、6の組成物では基板保管中に導電性組成物膜内の単分子カルボン酸塩が徐々にレジスト層に拡散し、本来、導電性組成物膜内でポリアニリン由来の酸のレジスト層への拡散を制御するために必要な量が不足することで、レジストのリソグラフィーにポリアニリン由来の酸の悪影響を及ぼす。これら比較例におけるレジスト層への影響は、導電性高分子組成物がレジスト上層に成膜されている時間が長いほど大きく、たとえPEB前剥離工程であっても影響は大きい。
【0171】
以上のように、本発明の導電性高分子組成物であれば、電子線レジストへの描画時に帯電防止能に優れ、かつレジストへの酸の影響を最小限に止めた帯電防止膜を形成することができる。このような導電性を有しながらも酸の影響を防止できる組成物は有機薄膜デバイスの構成膜としても有効であり、隣接する層への酸の影響を抑え、積層構造内で導電性あるいはキャリア移動媒体などの機能を果たすのであればデバイス構築材料としても好適に用いることができる。
【0172】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。