(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-05
(45)【発行日】2025-08-14
(54)【発明の名称】植物エキス末の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/20 20060101AFI20250806BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20250806BHJP
A61K 36/00 20060101ALI20250806BHJP
【FI】
A61K9/20
A61K9/16
A61K36/00
(21)【出願番号】P 2021140315
(22)【出願日】2021-08-30
(62)【分割の表示】P 2016238570の分割
【原出願日】2016-12-08
【審査請求日】2021-09-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(72)【発明者】
【氏名】竹内 洋文
(72)【発明者】
【氏名】塩見 隆史
(72)【発明者】
【氏名】宇野 明
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】藤原 浩子
【審判官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101732496号明細書(CN,A)
【文献】特表2007-513612号公報(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103768285号明細書(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105077279号明細書(CN,A)
【文献】特開平02-104265号公報(JP,A)
【文献】特開2004-210696号公報(JP,A)
【文献】特開2007-223971号公報(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105077279号明細書(CN,A)
【文献】「食品製造装置百科事典」、株式会社化学工業社、19850301、pp.262-263
【文献】高野光男(外1名)監修、「新殺菌工学実用ハンドブック」、1991、pp.6-9,275-316
【文献】液体滅菌装置、株式会社日阪製作所 生活産業機器事業本部、2016
【文献】日本防菌防黴学会、21世紀の生薬・漢方製剤 第11章 生薬・漢方製剤における微生物学的品質保証、1999、pp.323-335
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A23L 33/00-33/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を含む漢方又は植物由来の生薬を抽出処理した後に濃縮することにより得られた原料液(但し、黄連抽出物、黄柏抽出物、黄ごん抽出物、又は山梔子抽出物を含むものを除く)を、
75~120℃且つ2~60秒での加熱処理後に、溶液温度50~70℃で
、100~180℃での噴霧乾燥処理に供して、漢方エキス末又は生薬エキス末を得る工程、及び
前記工程で得られた漢方エキス末又は生薬エキス末を含む固形製剤を調製する工程
を含む、漢方エキス末又は生薬エキス末(但し、アンコウ魚胃タンパク質ペプチドと甘草エキスの粉混合物、アスパラサス・リネアリス粉末、及び人参(ginseng)をラクトバチルス カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP-10123)により発酵して得られる発酵人参のエキス末を除く)を含む固形製剤の製造方法。
【請求項2】
前記固形製剤が錠剤又は顆粒剤である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
植物を含む漢方又は植物由来の生薬を含む原料液(但し、黄連抽出物、黄柏抽出物、黄ごん抽出物、又は山梔子抽出物を含むものを除く)を、
75~120℃且つ2~60秒での加熱処理後に溶液温度50~70℃で
、100~180℃での噴霧乾燥処理に供する工程を含む漢方エキス末又は生薬エキス末(但し、アンコウ魚胃タンパク質ペプチドと甘草エキスの粉混合物、アスパラサス・リネアリス粉末、及び人参(ginseng)をラクトバチルス カゼイ ハセガワ菌株(FERM BP-10123)により発酵して得られる発酵人参のエキス末を除く)の製造方法。
【請求項4】
前記漢方又は生薬が
、茵ちん五苓散である、請求項3に記載の漢方エキス末又は生薬エキス末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物エキス末の製造方法に関する。具体的には、本発明は、固形製剤の崩壊性を向上させることができる植物エキス末を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物には様々な有効成分が含まれており、その有効成分は、エキスにして製剤化され、医薬品、食品、化粧料等に広く利用されている。このような植物エキス末は、一般的には、漢方や生薬等の植物材料から水等の溶媒を用いて浸出させ、材料残渣を取り除いて得られた原料液を、濃縮し、加熱殺菌処理した後、高温のままで直ちに噴霧乾燥処理を行うことにより製造される。
【0003】
従来、このような植物エキス末を高濃度で含有する固形製剤は、植物エキス末の吸湿性が高いことから、水分に接触すると製剤表面にゲル層が形成され、水分の浸透が妨げられることで、崩壊が遅延してしまうといった問題があった。固形製剤の崩壊性を向上させるために、崩壊剤を添加することが知られている。しかしながら、植物エキス末高含有の固形製剤を製造する場合は、製剤設計の変更だけでは、崩壊性の向上は不十分であった。
【0004】
エキス末の吸湿性や溶解性、風味等を改善するための方法として、これまでに種々検討されている。例えば、特許文献1には、茶類エキスの濃厚水溶液に炭酸ガスを溶存せしめ、これを乾燥雰囲気中に加圧噴霧することにより、乾燥性が向上し、かつ、粒径が大きく、嵩比重が小さく、流動性のよい、中空球状の茶類エキスの顆粒状乾燥物を得る方法が開示されている。また、例えば、特許文献2には、酵母エキスの噴霧乾燥における粉末特性を改善するために、特定の条件下で回転ディスク式アトマイザーのスプレードライヤーで乾燥することによって、流動性、飛散性、溶解性等の粉末特性を改善したことが開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法は、噴霧乾燥前の溶液に炭酸ガスを溶存させたり、何らかの方法で気泡化したものを乾燥雰囲気中で噴霧乾燥することで、中空状にすることにより溶解性が良好な粉末を得る方法である。そのため、得られたエキス末は、嵩比重が小さく、粒子径が大きなエキス末となり、最終製剤の嵩が大きくなってしまう。また、炭酸ガスを溶存させたり、気泡化したりするための特殊装置やその他の原料が必要であるため、製造コストがかさむといった問題がある。
【0006】
また、植物エキス末の製造方法と、植物エキス末を含有する錠剤等の固形製剤の崩壊性との相関はこれまでに知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平3-35898号公報
【文献】特開2006-239505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みて、固形製剤の崩壊性を向上させることができる植物エキス末を製造するための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の通り、植物エキス末は、通常、植物原材料から水や溶媒で成分を抽出して得られた原料液を、濃縮し、加熱殺菌した後、ただちに噴霧乾燥して粉末化することにより、製造される。本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、このような植物エキス末の製造工程において、加熱殺菌後に、原料液を高温に維持したまま噴霧乾燥処理に供するのではなく、加熱殺菌後に一定温度以下までに冷却してから続けて噴霧乾燥に供することにより、エキス末の性質を変化させ、固形製剤に高濃度で含有させても崩壊性を向上させることができる植物エキス末を製造できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 植物の抽出物を含む原料液を、溶液温度70℃以下で噴霧乾燥処理に供する、植物エキス末の製造方法。
項2. 植物の抽出物を含む原料液を、加熱処理後に溶液温度70℃以下に冷却して、噴霧乾燥処理に供する、項1に記載の製造方法。
項3. 前記植物の抽出物が、漢方又は生薬の抽出物である、項1又は2に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、固形製剤の崩壊性を向上させることができる植物エキス末を製造することができる。また、本発明の植物エキス末の製造方法によれば、得られる植物エキス末を含有することにより、崩壊剤等を使用せずに、固形製剤の崩壊性を向上させることができるので、植物エキス末を固形製剤に高濃度で含有させることができる。また、本発明の製造方法によれば、固形製剤の崩壊性を向上させることができる植物エキス末を、大きな設備投資を必要とせず、製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
植物エキス末の製造方法
本発明は、植物の抽出物を含む原料液を、溶液温度70℃以下で噴霧乾燥処理に供する、植物エキス末の製造方法である。以下に、本発明の植物エキス末の製造方法について詳述する。
【0013】
(植物原材料)
本発明の植物エキス末の製造方法において、原材料として使用される植物としては、漢方、生薬、又は他の植物が挙げられる。
【0014】
漢方としては、内服投与によって使用されるものであって、薬理学的に許容されるものである限り、特に制限されないが、「改定 一般用漢方処方の手引き」(財団法人 日本公定書協会監修、日本漢方生薬製剤協会編集、株式会社じほう発行)に記載されている漢方処方のエキスであることが好ましい。このような漢方処方としては、具体的には、安中散、安中散加茯苓、胃風湯、胃苓湯、茵ちん蒿湯、茵ちん五苓散、温経湯、温清飲、温胆湯、延年半夏湯、黄耆建中湯、黄ごん湯、応鐘散、黄連阿膠湯、黄連解毒湯、黄連湯、乙字湯、乙字湯去大黄、化食養脾湯、かっ香正気散、葛根黄連黄ごん湯、葛根紅花湯、葛根湯、葛根湯加川きゅう辛夷、加味温胆湯、加味帰脾湯、加味解毒湯、加味逍遙散、加味逍遙散加川きゅう地黄、加味平胃散、乾姜人参半夏丸、甘草瀉心湯、甘草湯、甘麦大棗湯、帰耆建中湯、桔梗湯、帰脾湯、きゅう帰膠艾湯、きゅう帰調血飲、きゅう帰調血飲第一加減、響声破笛丸、杏蘇散、苦参湯、駆風解毒散(湯)、荊芥連翹湯、鶏肝丸、桂枝湯、桂枝加黄耆湯、桂枝加葛根湯、桂枝加厚朴杏仁湯、桂枝加芍薬生姜人参湯、桂枝加芍薬大黄湯、桂枝加芍薬湯、桂枝加朮附湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、桂枝加苓朮附湯、桂枝人参湯、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸料加よく苡仁、啓脾湯、荊防敗毒散、桂麻各半湯、鶏鳴散加茯苓、堅中湯、甲字湯、香砂平胃散、香砂養胃湯、香砂六君子湯、香蘇散、厚朴生姜半夏人参甘草湯、五虎湯、牛膝散、五積散、牛車腎気丸、呉茱萸湯、五物解毒散、五淋散、五苓散、柴陥湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯、柴胡桂枝湯、柴胡清肝湯、柴芍六君子湯、柴朴湯、柴苓湯、左突膏、三黄散、三黄瀉心湯、酸棗仁湯、三物黄ごん湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、紫雲膏、四逆散、四君子湯、滋血潤腸湯、七物降下湯、柿蒂湯、四物湯、炙甘草湯、芍薬甘草湯、鷓鴣菜湯、蛇床子湯、十全大補湯、十味敗毒湯、潤腸湯、蒸眼一方、生姜瀉心湯、小建中湯、小柴胡湯、小柴胡湯加桔梗石膏、小承気湯、小青竜湯、小青竜湯加杏仁石膏、小青龍湯加石膏、椒梅湯、小半夏加茯苓湯、消風散、升麻葛根湯、逍遙散、四苓湯、辛夷清肺湯、秦ぎょう姜活湯、秦ぎょう防風湯、参蘇飲、神秘湯、参苓白朮散、清肌安蛔湯、清湿化痰湯、清上けん痛湯、清上防風湯、清暑益気湯、清心蓮子飲、清肺湯、折衝飲、川きゅう茶調散、千金鶏鳴散、銭氏白朮散、疎経活血湯、蘇子降気湯、大黄甘草湯、大黄牡丹皮湯、大建中湯、大柴胡湯、大柴胡湯去大黄、大半夏湯、竹茹温胆湯、治打撲一方、治頭瘡一方、治頭瘡一方去大黄、中黄膏、調胃承気湯、丁香柿蒂湯、釣藤散、猪苓湯、猪苓湯合四物湯、通導散、桃核承気湯、当帰飲子、当帰建中湯、当帰散、当帰四逆湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、当帰芍薬散、当帰湯、当帰貝母苦参丸料、独活葛根湯、独活湯、二朮湯、二陳湯、女神散、人参湯、人参養栄湯、排膿散、排膿湯、麦門冬湯、八味地黄丸、半夏厚朴湯、半夏瀉心湯、半夏白朮天麻湯、白虎湯、白虎加桂枝湯、白虎加人参湯、不換金正気散、伏竜肝湯、茯苓飲、茯苓飲加半夏、茯苓飲合半夏厚朴湯、茯苓沢瀉湯、分消湯、平胃散、防已黄耆湯、防已茯苓湯、防風通聖散、補気健中湯、補中益気湯、補肺湯、麻黄湯、麻杏甘石湯、麻杏よく甘湯、麻子仁丸、麻黄附子細辛湯、楊柏散、よく苡仁湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、六君子湯、立効散、竜胆瀉肝湯、苓姜朮甘湯、苓桂甘棗湯、苓桂朮甘湯、六味丸、黄耆桂枝五物湯、解労散、加味四物湯、枳縮二陳湯、こ菊地黄丸、柴胡疎肝湯、柴蘇飲、芍薬甘草附子湯、沢しゃ湯、竹葉石膏湯、知柏地黄丸、中建中湯、定悸飲、当帰芍薬散加黄耆釣藤、当帰芍薬散加人参、当帰芍薬散加附子、排膿散及湯、八解散、附子理中湯、味麦地黄丸、明朗飲、抑肝散加芍薬黄連、連珠飲、麻黄湯等が挙げられる。
【0015】
生薬としては、特に制限されないが、日本薬局方に収載されている生薬が好ましい。このような生薬としては、具体的には、アセンヤク、イレイセン(威霊仙)、ウイキョウ(茴香)、エンゴサク(延胡索)、オウギ(黄耆)、オウゴン(黄岑)、オウバク(黄柏)、オウヒ(桜皮)、オウレン(黄連)、オンジ(遠志)、ガジュツ、カンキョウ(乾姜)、カッコン(葛根)、カッコウ、カロニン、カノコソウ、カンゾウ(甘草)、カミツレ、キキョウ(桔梗)、キクカ(菊花)、キジツ(枳実)、キョウニン(杏仁)、キョウカツ、クジン(苦参)、ケイガイ(荊芥)、ケイヒ(桂皮)、ゲンチアナ、コウカ(紅花)、コウブシ(香附子)、コウベイ、コウボク(厚朴)、ゴオウ、ゴシツ(牛膝)、ゴシュユ(呉茱萸)、ゴボウシ(牛蒡子)、ゴミシ(五味子)、サイコ(柴胡)、サイシン(細辛)、サンシシ(山梔子)、サンシュユ(山茱萸)、サンショウ(山椒)、サンザシ(山査子)、サンズコン(山豆根)、サンソウニン(酸棗仁)、サンヤク(山薬)、サンナ(山奈)、ジオウ(地黄)、シオン、シャクヤク、ショウマ(升麻)、シツリシ、シャゼンシ、シャゼンソウ、シャジン(シュクシャ(縮砂))、ショウキョウ(生姜)、シンイ(辛夷)、ジコッピ(地骨皮)、シコン、セキサン(石蒜)、セネガ、センコツ(川骨)、ゼンコ(前胡)、センキュウ、センブリ、ソウジュツ(蒼朮)、ソウハクヒ(桑白皮)、ソヨウ(蘇葉)、ダイオウ(大黄)、タイソウ、チクジョ、チクセツニンジン(竹節人参)、チョウジ(丁子)、チョレイ(猪苓)、チンピ(陳皮)、テンナンショウ(天南星)、トウガシ(冬瓜子)、トウキ(当帰)、トウニン(桃仁)、トコン、トチュウ、ナンテンジツ、ニンジン(人参)、ニンドウ(忍冬)、バイモ、バクモンドウ、ハッカ(薄荷)、ハンゲ(半夏)、ビャクシ、ビャクシャク、ビャクジュツ(白朮)、ビワヨウ(枇杷葉)、ビンロウジ(檳榔子)、ブクリョウ(茯苓)、ボタンピ(牡丹皮)、マオウ(麻黄)、マシニン(麻子仁)、モッコウ(木香)、ヨクイニン、リュウガンニク(竜眼肉)、リョウキョウ(良姜)、リュウタン(竜胆)、レンニク(蓮肉)、レンギョウ(連翹)等が挙げられる。
【0016】
他の植物としては、食用可能な限り、特に限定されず、具体的には、ブルーベリー、リンゴ、エルダーベリー、ブドウ、ストロベリー、レッドカーラント、カウベリー、グースベリー、クランベリー、サーモンベリー、ビルベリー、カシス、チェリー、ハクルベリー、ブラックベリー、プラム、ホワートルベリー、ボイセンベリー、マルベリー、ラズベリー、レッドカーラント、ローガンベリー、紫サツマイモ、紫トウモロコシ、赤米、黒米、黒豆、黒胡麻、赤キャベツ、赤ダイコン、シソ、ビワ、ラズベリー、クランベリー、イチゴ、アボカド、ニセアカシア、コケモモ、松、樫、山桃、柿、樫、麦、小麦、大豆、黒大豆、カカオ、小豆、トチ、ピーナッツ、イチョウ葉、緑茶等が挙げられる。これらの植物は、実、種子、果肉、果皮、種皮、葉、樹皮等のいずれの植物部位を使用してもよい。
【0017】
本発明において、これらの植物原材料は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、本発明の製造方法において、植物原材料としては、好ましくは漢方又は生薬、より好ましくは漢方、更に好ましくは防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散が挙げられる。
【0018】
(植物エキス末の製造方法)
本発明において植物エキス末は、好ましくは、植物原材料を抽出処理する工程、植物原材料の残渣を分離して原料液を得る工程、前記原料液を濃縮する工程、前記濃縮した原料液を加熱殺菌する工程、及び、加熱殺菌された原料液を噴霧乾燥する工程、を経ることにより製造される。
【0019】
植物原材料の抽出処理は、原料の植物を室温又は加温下で溶媒中に浸漬することによって行うことができる。植物原材料の抽出処理に使用される溶媒としては、特に限定されず、水又は含水エタノール等が挙げられる。植物原材料と溶媒との比は、特に限定されず適宜設計すればよく、例えば、植物原材料の総重量(乾燥重量換算)1質量部に対する溶媒比として1~25質量部、好ましくは3~20質量部、より好ましくは5~18質量部である。抽出温度は、使用する溶媒や目的に応じて適宜設計すればよく、通常50~100℃、好ましくは70~100℃、より好ましくは80~100℃である。抽出時間は、抽出効率を考慮して適宜決定すればよく、通常30~180分、好ましくは30~120分、より好ましくは30~90分である。
【0020】
植物原材料の残渣を分離して植物の抽出物を含む原料液を得る方法としては、特に限定されず、ろ過や遠心分離等の公知の固液分離法により、液体と固形分とを分離し、液体を抽出エキスの原料液として取得する方法が挙げられる。
【0021】
原料液の濃縮は、特に限定されず、一般に公知の方法で行うことができ、具体的には、減圧、加熱等によって溶媒を除去することにより行うことができる。原料液の濃縮の程度は、特に限定されないが、通常、8倍以上、好ましくは12倍以上、より好ましくは15~30倍である。
【0022】
また、原料液を濃縮した後、加熱処理する前に、必要に応じて、原料液に賦形剤等の添加剤を添加していてもよい。
【0023】
濃縮した原料液の加熱殺菌処理は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。加熱温度としては、原料液の成分に影響を与えず、原料液が殺菌される温度であれば、特に限定されないが、通常60℃以上、好ましくは75℃以上、より好ましくは100~125℃が挙げられる。加熱時間としては、特に限定されないが、具体的には、180分以下、好ましくは1800秒以下、より好ましくは2~60秒が挙げられる。
【0024】
本発明の製造方法においては、前述の加熱殺菌処理後の原料液を、溶液温度70℃以下で噴霧乾燥処理に供する。本発明の製造方法においては、加熱殺菌処理後の原料液を高温のままではなく、ただちに溶液温度70℃以下に冷却して、噴霧乾燥処理に供することで、固形製剤の崩壊性を向上させることができる植物エキス末を製造することができる。すなわち、本発明の製造方法においては、前述の加熱殺菌処理と噴霧乾燥処理を一連で行うことが好ましい。本発明において、加熱殺菌処理と噴霧乾燥処理を一連で行うとは、加熱殺菌処理後、8時間以内、好ましくは3時間以内、より好ましくは30分以内に噴霧乾燥処理を行うことをいう。前記加熱殺菌処理後(すなわち、噴霧乾燥処理前)の原料液の溶液温度としては、固形製剤の崩壊性をより一層向上させることができる点で、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下、更に好ましくは0~30℃が挙げられる。
【0025】
加熱殺菌処理後の原料液を前述の溶液温度以下にする方法としては、所定の温度以下にすることができる方法であれば特に限定されないが、例えばヘリコイド式冷却機やシェル&チューブ式冷却機で冷却する方法、自然放冷等が挙げられる。
【0026】
所定の温度以下となった原料液を噴霧乾燥する方法としては、特に限定されず、スプレードライ等、公知の方法を用いればよい。噴霧乾燥の温度としては、所望の形態の植物エキス末が得られる限り、特に限定されないが、具体的には、80~180℃程度、好ましくは100~180℃、より好ましくは130~180℃である。
【0027】
以上の本発明の製造方法によれば、固形製剤の崩壊性を向上させることができる植物エキス末を製造することができる。また、本発明の製造方法によれば、得られるエキス末の嵩密度は一般的なエキス末と同等であり、最終製剤の大きさに影響を与えない。また、本発明では、既存の噴霧乾燥装置をそのまま用いることができるので、大きな設備投資が必要でなく、製造コストが増大することもない。このように、本願発明の製造方法は、固形製剤の崩壊性を向上させることができる植物エキス末を効率良く製造することができる。
【0028】
植物エキス末
本発明では、植物の抽出物を含む原料液を溶液温度70℃以下で噴霧乾燥処理に供することにより植物エキス末を得ることができる。本発明の製造方法により得られる植物エキス末は、特定の製造方法により得られるものであるため、当該植物エキス末を含有する固形製剤の崩壊性を向上させることができる。
【0029】
漢方製剤
本発明の製造方法により得られる植物エキス末は、他の薬理成分や、添加剤を合せることにより漢方製剤とすることができる。本発明の製造方法により得られた植物エキス末を含有する漢方製剤は、崩壊性に優れる。また、崩壊剤等を使用せずに、崩壊性を向上させることができるので、植物エキス末を高濃度で含有した漢方製剤とすることができる。本発明の製造方法により得られた植物エキス末を含有する漢方製剤は、崩壊性に優れるので、固形製剤であることが好ましい。
【0030】
本発明の漢方製剤において、前記植物エキス末の含有量としては、剤型、用途等に応じて適宜設定するとよいが、例えば、50~95重量%、好ましくは65~95重量%、より好ましくは80~95重量%が挙げられる。
【0031】
本発明の漢方製剤は、前述の植物エキス末に加え、必要に応じて、他の薬理成分を含んでいてもよい。このような薬理成分の種類については、特に限定されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬、生薬エキス末、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの薬理成分の含有量については、使用する薬理成分の種類等に応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0032】
本発明の漢方製剤には、所望の剤型に調製するために、必要に応じて、薬学的に許容される基剤や添加剤等が含まれていてもよい。このような基剤及び添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの基剤や添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの基剤や添加剤の含有量については、使用する添加成分の種類や剤型等に応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0033】
本発明の漢方製剤の剤型としては、特に限定されないが、崩壊性に優れるので、固形状が好ましい。
【0034】
本発明の漢方製剤の製剤形態にする場合、前述の植物エキス末をそのまま又は前述の薬理成分や添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。植物エキス末組成物の形態としては、特に限定されないが、具体的には、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤等の固形製剤が挙げられ、好ましくは錠剤、顆粒剤、粉剤、より好ましくは、錠剤、顆粒剤、更に好ましくは錠剤が挙げられる。
【0035】
本発明の漢方製剤の摂取量については、特に限定されず、成分、製剤形態、用途等に応じて適宜設定することができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0037】
実施例1
(植物エキス末の製造)
防風通聖散、清心蓮子飲、又は茵ちん五苓散の各原生薬20kg(乾燥重量)にイオン交換水250Lを加え、加熱し、100℃で60分間撹拌抽出した。そして、遠心分離した後、メッシュ(100mesh)でろ過して残渣を除き、抽出液を得た。得られた抽出液を加熱しながら減圧することにより18倍に濃縮し、次いで120℃で10秒間加熱殺菌を行った。加熱殺菌後、抽出液の溶液温度を、シェル&チューブ式冷却機で10分間冷却して20℃にし、続けて、噴霧乾燥(TR-160、プリス社製、140℃)を行い、各植物エキス末を得た。
【0038】
(錠剤の作製)
下記に示す配合比率で粉体混合し、200mgを油圧打錠機「テーブルプレスTB-20H」(エヌピーエーシステム社製)を用いて7kNで圧縮成型し、直径8mmの平錠を得た。
<錠剤処方>
植物エキス末 93重量部
軽質無水ケイ酸 4重量部
バレイショデンプン 1.5重量部
カルメロースCa 1重量部
ステアリン酸マグネシウム 0.5重量部
【0039】
得られた錠剤について、下記の方法で、崩壊性を評価した。
(崩壊性)
上記で製造した錠剤(6個)について、日本薬局方(第十七改正)記載の崩壊試験法に従って崩壊時間を測定した。錠剤6個のうち、最も崩壊時間の遅い時間を崩壊時間とした。
【0040】
実施例2
実施例1において、加熱殺菌後の抽出液の溶液温度を50℃にした以外は、実施例1と同様にして、防風通聖散の植物エキス末を製造し、錠剤を製造して、その錠剤の崩壊性を評価した。
【0041】
実施例3
実施例1において、加熱殺菌後の抽出液の溶液温度を60℃にした以外は、実施例1と同様にして、防風通聖散の植物エキス末を製造し、錠剤を製造して、その錠剤の崩壊性を評価した。
【0042】
実施例4
実施例1において、加熱殺菌後の抽出液の溶液温度を70℃にした以外は、実施例1と同様にして、防風通聖散の植物エキス末を製造し、錠剤を製造して、その錠剤の崩壊性を評価した。
【0043】
比較例1
実施例1において、加熱殺菌後の抽出液の溶液温度を90℃にした以外は、実施例1と同様にして、植物エキス末を製造し、錠剤を製造して、その錠剤の崩壊性を評価した。
【0044】
【0045】
結果を表1に示す。表1より、噴霧乾燥前の液温が70℃以下であると、得られる植物エキス末を含有する錠剤の崩壊性が良好になることが確認された。
【0046】
(溶解分散容易性)
実施例1及び比較例1において製造された防風通聖散のエキス末について、水に対する溶解分散容易性を評価した。具体的には、以下の方法で行った。まず、25℃の精製水200mLをビーカーに投入し、スターラーを入れて300rpmで撹拌した(KPIマイティスターラー、小池精密機器製作所製)。ビーカーの中に、実施例1又は比較例1において製造された防風通聖散のエキス末500mgを投入し、エキス末が水中に均一に溶解・分散するまでの時間を測定した。結果を表2に示す。
【0047】
【0048】
表2より、噴霧乾燥前の溶液温度が20℃又は70℃と低い温度で得られた実施例1及び実施例4のエキス末の方が、噴霧乾燥前の溶液温度が90℃で得られた比較例1のエキス末よりも、水への溶解・分散が容易になることが確認された。これらの結果から、噴霧乾燥前の溶液温度が70℃以下で製造された植物エキス末は、噴霧乾燥前の溶液温度が90℃で製造された植物エキス末と比べて、水への溶解・分散が容易になるため、固形製剤に適用すると当該固形製剤の崩壊性が良好になると考えられた。
【0049】
<処方例>
下記表3~7の処方例1~75に示す組成に従って、常法により、錠剤を作製した。
なお、表中の防風通聖散エキス末、清心蓮子飲エキス末、茵ちん五苓散エキス末としては、実施例1の植物エキス末の製造方法と同様の方法で製造したエキス末を用いた。表中の大柴胡湯エキス末、清肺湯エキス末としては、大柴胡湯、清肺湯の原生薬をそれぞれ用いたこと以外は実施例1の植物エキス末の製造方法と同様の方法で製造したエキス末を用いた。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】