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特許7726265ポリアミドイミド樹脂、樹脂組成物、及び半導体装置
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  • 特許-ポリアミドイミド樹脂、樹脂組成物、及び半導体装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-12
(45)【発行日】2025-08-20
(54)【発明の名称】ポリアミドイミド樹脂、樹脂組成物、及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/14 20060101AFI20250813BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20250813BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20250813BHJP
【FI】
C08G73/14
H01L23/30 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023503603
(86)(22)【出願日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 JP2022000703
(87)【国際公開番号】W WO2022185718
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2021034526
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】橋本 岳
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 孝明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 泉樹
【審査官】渡邉 勇磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-143802(JP,A)
【文献】特開2007-077308(JP,A)
【文献】特開2008-074991(JP,A)
【文献】特開2005-146118(JP,A)
【文献】特開2020-007531(JP,A)
【文献】特許第6996643(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/14
H01L 23/29
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン成分及び/又はジイソシアネート成分と、酸成分とを用いて得られるポリアミドイミド樹脂、及び溶剤を含み、半導体装置の部材間に設けられるプライマー層形成材料として使用されるポリアミドイミド樹脂組成物であって、
前記ポリアミドイミド樹脂が、前記ジアミン成分及び/又はジイソシアネート成分に由来する構造単位の全量に対し、10~80モル%の下式で表される構造単位(Ia)と、10~80モル%の下式で表される構造単位(IIa)と、7.5~10モル%の下式で表される構造単位(IIIa)とを含み、さらに下式で表される構造単位(IVa)を含み、
前記ポリアミドイミド樹脂の線膨張係数が40~70ppm/℃である、ポリアミドイミド樹脂組成物。
【化1】
[式(Ia)において、Xは、それぞれ独立して、水素原子、又は、ハロゲン原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基及びヒドロキシアルキル基からなる群から選択される置換基を表す。]
【化2】
[式(IIa)において、Sは、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基を表し、aは0~4の整数を表す。]
【化3】
[式(IIIa)において、Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される置換基を表し、nは、1~6の整数を表す。]
【化4】
【請求項2】
前記式(Ia)において、Xは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基及びヒドロキシアルキル基からなる群から選択される置換基を表す、請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミドイミド樹脂が、前記構造単位(Ia)と、前記構造単位(IIa)と、前記構造単位(IIIa)と、前記構造単位(IVa)とから構成される、請求項1又は2に記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項4】
膜を形成した時の35℃での弾性率が、3.0~4.5GPaである、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項5】
ガラス転移温度が250℃以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項6】
ガラス転移温度が300℃以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量が30000~120000である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量が57000~120000である、請求項7に記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項9】
基板と、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリアミドイミド樹脂組成物を用いて形成された膜とを含む、半導体装置。
【請求項10】
さらに、樹脂封止層を有する、請求項9に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、カルド構造型フルオレン骨格を含有するポリアミドイミド樹脂に関する。また、本実施形態は、上記ポリアミドイミド樹脂を含む樹脂組成物、及び該樹脂組成物を用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の主な原因の一つとして、様々な産業機器等から排出される二酸化炭素(CO)が挙げられる。そのため、地球温暖化問題の解決に向けて、低炭素社会の構築が求められている。低炭素社会を実現する一つの方法として、産業機器にパワー半導体を適用し、電力損失を低減することが挙げられる。パワー半導体は、自動車等の様々な用途にも適用され、その需要が高まっている。自動車向けのパワー半導体として、例えば、パワーカード、並びにTO、SOP、QFP、BGA、及びCSPパッケージ等が挙げられる。
【0003】
近年、特に、自動車の電気化(EV化)に伴い、パワー半導体のパワー密度が向上しており、デバイスの駆動温度(Tj)が上昇している。そのため、ヒートサイクル試験時に要求される温度も高くなってきている。
しかし、従来のパワー半導体は、駆動温度の高温化(高Tj化)を想定したヒートサイクル試験において、例えば、樹脂封止層と基板又は半導体素子との界面等の各部材間で剥離が発生する場合がある。半導体装置において部材間での剥離が生じると故障に至るため、半導体装置の信頼性が著しく低下することになる。
【0004】
パワー半導体装置の高Tj化に対応するため、樹脂封止層を構成する樹脂封止材の観点から様々な検討がなされている。例えば、耐熱性に優れた樹脂封止材の開発が進められており、ガラス転移温度が230℃を超える樹脂封止材の場合、200℃を超える高温領域においても優れた耐熱性を示す。しかし、その一方で、樹脂が硬くなることによって、部材との密着性が低下し、半導体装置の信頼性が低下しやすい。加えて、デバイス実装時のリフロー工程において各部材間での剥離が発生する場合がある。
したがって、半導体装置の信頼性を高める観点から、高温のヒートサイクル試験及びリフロー工程における各部材間での剥離を抑制するために半導体装置における部材間の密着性を高める方法が望まれている。
【0005】
これに対し、半導体装置の部材間に樹脂材料を用いたプライマー層を形成し、各部材間の密着性を向上させることによって剥離を防止する方法が知られている。例えば、金属リードフレームと封止材との間にポリアミドイミド樹脂を用いたプライマー層を設け、剥離の発生を抑制する方法が検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-135061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、パワー半導体装置の高Tj化に伴い、半導体装置の信頼性試験で要求される条件は、より厳しくなっており、要求される条件を従来の樹脂材料によって十分に満足することは困難となっている。そのため、信頼性の高いパワー半導体を提供する観点から、例えば250℃を超える高温領域でも各部材間の剥離を防止することができる、耐熱性に優れる樹脂材料の開発が引き続き望まれている。
【0008】
したがって、本発明は、上述の状況に鑑み、耐熱性に優れ、部材間の密着性を高めて剥離の発生を抑制することができる、特に、半導体装置の部材間に設けられるプライマー層形成材料として好適に使用できる、樹脂材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
高温領域のヒートサイクル試験において部材間での剥離を改善する観点から、プライマー層を形成する樹脂材料は、パワー半導体の駆動温度(Tj)の上限よりも高いガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。一般的に、樹脂は、樹脂のTgを超える温度で軟化し、密着性が低下することが知られている。そのため、樹脂のTgがパワー半導体の駆動温度よりも低い場合、耐熱性が不十分となり、部材間の密着性を確保することが困難となる。その結果、例えば、樹脂封止層と基板又は半導体素子との間で剥離が発生することになる。
【0010】
発明者らは、樹脂材料としてポリアミドイミド樹脂及びその樹脂組成物について鋭意検討を重ねた結果、カルド構造型フルオレン骨格を有するポリアミドイミド樹脂が、高いTgを有することを見出した。また、例えば、樹脂封止層と基板又は半導体素子との間などの各部材間に、上記特定の構造単位を有するポリアミドイミド樹脂又はこの樹脂を含む樹脂組成物を用いてプライマー層を形成した場合、部材間の優れた密着性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の実施形態は以下に関する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、種々な変更を加えることができる。
【0012】
一実施形態は、下式で表される構造単位(Ia)と、下式で表される構造単位(IIa)、(IIb)、及び(IIc)からなる群から選択される少なくとも1種とを含む、ポリアミドイミド樹脂に関する。
【化1】
【化2】
【0013】
上式(Ia)において、Xは、それぞれ独立して、水素原子、又は、ハロゲン原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基及びヒドロキシアルキル基からなる群から選択される置換基を表す。
上式(IIa)、(IIb)、及び(IIc)において、Sは、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基を表し、aは0~4の整数を表し、bは0~3の整数を表し、cは0~4の整数を表す。
【0014】
上記ポリアミドイミド樹脂は、さらに、下式で表される構造単位(IIIa)を含むことが好ましい。
【化3】
【0015】
上式(IIIa)において、Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される置換基を表し、nは、1~6の整数を表す。
【0016】
上記ポリアミドイミド樹脂は、線膨張係数が40~70ppm/℃であることが好ましい。
【0017】
上記ポリアミドイミド樹脂において、上記構造単位(Ia)と、上記構造単位(IIa)、(IIb)、及び(IIc)からなる群から選択される少なくとも1種との合計量を基準として、上記構造単位(Ia)の割合は20モル%以上であることが好ましい。
【0018】
上記ポリアミドイミド樹脂は、ガラス転移温度が250℃以上であることが好ましい。上記ポリアミドイミド樹脂は、ガラス転移温度が300℃以上であることがより好ましい。
【0019】
他の実施形態は、上記実施形態のポリアミドイミド樹脂と、溶剤とを含む、ポリアミドイミド樹脂組成物に関する。上記ポリアミドイミド樹脂組成物は、さらにカップリング剤を含むことが好ましい。
【0020】
他の実施形態は、基板と、上記実施形態のポリアミドイミド樹脂組成物を用いて形成された膜とを含む、半導体装置に関する。上記半導体装置は、さらに樹脂封止層を有することが好ましい。
本願の開示は、2021年3月4日に出願された特願2021-34526号に記載の主題と関連しており、この開示内容は引用によりここに援用される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、耐熱性に優れ、部材間の密着性を高めて高温での剥離の発生を抑制することができ、半導体装置において部材間のプライマー層形成材料として好適に使用できる、樹脂材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、一実施形態である半導体装置の一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
<ポリアミドイミド樹脂>
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、後述する構造単位(Ia)と、構造単位(IIa)、(IIb)、及び(IIc)からなる群から選択される少なくとも1種とを含む。各構造単位の詳細は、以下のとおりである。
【0025】
構造単位(Ia)は、下式で表される。
【化4】
【0026】
上記構造単位(Ia)において、Xは、同一又は互いに異なっていてもよい。Xは、それぞれ独立して、水素原子、又はハロゲン原子、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基及びヒドロキシアルキル基からなる群から選択される置換基を表す。上記ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子であってよい。上記アルキル基及び上記アルコキシ基は、直鎖構造、分岐構造、及び環状構造のいずれであってもよい。
【0027】
一実施形態において、Xは、それぞれ、水素原子、炭素数1~9のアルキル基、又はハロゲン原子であることが好ましい。上記アルキル基は、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、炭素数1~3のアルキル基がさらに好ましい。一実施形態において、Xは、それぞれ、水素原子であることが好ましい。
【0028】
構造単位(IIa)、(IIb)、及び(IIc)は、それぞれ下式で表される。
【化5】
【0029】
上記構造単位(IIa)、(IIb)、及び(IIc)において、Sは、それぞれ独立して、炭素数1~3のアルキル基を表し、aは0~4の整数を表し、bは0~3の整数を表し、cは0~4の整数を表す。
上記アルキル基は、直鎖構造、及び分岐構造のいずれであってもよいが、直鎖構造であることが好ましい。上記アルキル基の炭素数は、1又は2であることがより好ましい。上記アルキル基が直鎖構造である場合、特に炭素数1又は2のアルキル基である場合、剛直な構造の樹脂を得ることが容易となる傾向がある。剛直な構造の樹脂を用いて膜を形成することによって、線膨張係数(CTE)を低く抑えることが容易となる傾向がある。膜のCTEを低く抑えることで、例えば半導体装置での使用環境において、他の部材とのCTE差を小さく抑えることが容易となる。その結果、例えば半導体装置において、熱によって発生する応力を軽減でき、半導体装置の信頼性を容易に向上できる傾向がある。
【0030】
一実施形態において、上記構造単位(IIa)、(IIb)、又は(IIc)は、これらに対応する構造を有するジアミン化合物又はジイソシアネート化合物を用いて誘導することができる。特に限定するものではないが、上記構造単位(IIa)、(IIb)、及び(IIc)を誘導可能なジアミン化合物の具体例として以下が挙げられる。下記化合物中に示されるアミノ基は、イソシアネート基に置換されていてもよい。
【化6】
【0031】
【化7】
【0032】
【化8】
【0033】
一実施形態において、構造単位(IIa)におけるaは、0~3が好ましく、0~2がより好ましく、0又は1がさらに好ましく、0であることが最も好ましい。構造単位(IIb)におけるbは、0~2が好ましく、0又は1がより好ましく、0であることが最も好ましい。構造単位(IIc)におけるcは、0~3が好ましく、0~2がより好ましく、0又は1がさらに好ましく、0であることが最も好ましい。
上記構造単位(IIa)、(IIb)、又は(IIc)において置換基の数がより少ない場合、特に無置換である場合(すなわちa、b、又はcが0である場合)、剛直な構造の樹脂を得ることが容易となる傾向がある。剛直な構造の樹脂を用いて膜を形成することによって、線膨張係数(CTE)を低く抑えることが容易となる傾向がある。膜のCTEを低く抑えることで、例えば半導体装置での使用環境において、他の部材とのCTE差を小さく抑えることが容易となる。その結果、例えば半導体装置において、熱によって発生する応力を軽減でき、半導体装置の信頼性を容易に向上できる傾向がある。
【0034】
上述の観点から、一実施形態において、上記ポリアミドイミド樹脂は、上記構造単位(Ia)と、下式で表される上記構造単位(IIa-1)、(IIb-1)、及び(IIc-1)からなる群から選択される少なくとも1種とを含むことが好ましい。特に限定するものではないが、他の構造部位との2つの結合部位(「*」で表される)は、互いにパラ位の関係になる構造がより好ましい。
【0035】
【化9】
【0036】
ポリアミドイミド樹脂は、分子骨格内にアミド結合とイミド結合とを有する樹脂であり、例えば、ジアミン成分又はジイソシアネート成分と、トリカルボン酸無水物等の酸成分との反応によって得られる。このような観点から、一実施形態において、上記構造単位(Ia)と、上記構造単位(IIa)、(IIb)、及び(IIc)からなる少なくとも1種とを含むポリアミドイミド樹脂は、下式(I)で表される化合物と、下式(IIA)、(IIB)、及び(IIC)で表される少なくとも1種の化合物とを用いて誘導することができる。構造単位(Ia)と、構造単位(IIa)(IIb)、及び(IIc)は、それぞれ、下式(I)、下式(IIA)、(IIB)、及び(IIC)で表される化合物から、置換基Y(アミノ基又はイソシアネート基)を除いた残基に相当し、樹脂の構造において、アミド結合部位又はイミド結合部位と直接結合するものであってよい。
【0037】
【化10】
【0038】
上記式(I)においてYは、アミノ基(-NH)、又はイソシアネート基(-NCO)である。また、Xは、(Ia)の項目にて先に説明したとおりである。
【0039】
【化11】
【0040】
上記式(IIA)、(IIB)、及び(IIC)において、Yは、アミノ基(-NH)、又はイソシアネート基(-NCO)である。また、S、a、b及びcは、先に説明したとおりである。
【0041】
上記式(I)で表される化合物の具体例として、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、及び9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン等が挙げられる。これらは、構造単位(Ia)を誘導可能なジアミン化合物として好適に使用することができる。
【0042】
上記式(IIA)で表される化合物の具体例として、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、及び3,3’-ジアミノジフェニルメタンが挙げられる。これらは、構造単位(IIa-1)を誘導可能なジアミン化合物として好適に使用することができる。
【0043】
上記式(IIB)で表される化合物の具体例として、1,5-ナフタレンジアミン、1,8-ナフタレンジアミンが挙げられる。これらは、構造単位(IIb-1)を誘導可能なジアミン化合物として好適に使用することができる。
【0044】
上記式(IIC)で表される化合物の具体例として、1,3-フェニレンジアミン、1,4-フェニレンジアミンが挙げられる。これらは、構造単位(IIc-1)を誘導可能なジアミン化合物として好適に使用することができる。
【0045】
ポリアミドイミド樹脂は、例えば、パワー半導体の駆動温度(Tj)又はリフロー温度での各部材間の剥離を抑制する観点から、Tj又はリフロー温度の上限値よりも高いガラス転移温度を有することが好ましい。本明細書において、「ガラス転移温度(Tg)」とは、溶剤に溶かした樹脂を塗布及び加熱乾燥して得られる膜を用い、熱機械分析装置を用いて得た値である。
【0046】
一実施形態において、パワー半導体の駆動温度の高温化(高Tj化)を想定したヒートサイクル試験は、175℃以上の温度で実施される。また、半導体を実装する時、及びリフロー時は、260℃前後の高温で実施される。したがって、一実施形態においてポリアミドイミド樹脂のTgは、250℃以上であることが好ましい。ポリアミドイミド樹脂のTgは、270℃以上であることがより好ましく、290℃以上であることがさらに好ましく、300℃以上であることがさらにより好ましい。
【0047】
デバイス実装時のリフロー工程における各部材間の剥離は、デバイスに含まれる水分が急激に気化することで生じる応力及び部材間の線膨張差による応力が、部材間の密着力を上回ることで生じる。一実施形態において、リフロー工程での剥離を抑制する観点から、上記ポリアミドイミド樹脂のTgは300℃以上であることが好ましく、320℃以上であることがより好ましい。
【0048】
上記実施形態のポリアミドイミド樹脂によれば、250℃以上のTgを容易に得ることができる。上記実施形態のポリアミドイミド樹脂において、構造単位(Ia)は、カルド構造として知られる骨格を有することにより、Tgの上昇に寄与すると考えられる。加えて、樹脂中に構造単位(IIa)、(IIb)及び(IIc)が存在することによって、さらなるTgの上昇が可能となると推測される。また、ポリアミドイミド樹脂を用いて膜を形成した場合、膜のCTE、弾性率、又は被着体との密着性等の膜の物性を容易に調整できる傾向がある。例えば、構造単位(Ia)と、構造単位(IIa)、(IIb)及び(IIc)との配合比を調整することによって、所望とするTg、CTE、弾性率、及び密着性等の膜の物性値を容易に得ることができる。その結果、半導体装置の構成材料として上記実施形態のポリアミドイミド樹脂を使用した場合、半導体装置の信頼性を向上させることが容易となる。
【0049】
一般に、Tgが高い樹脂から構成される膜の可とう性は低くなる傾向がある。膜の可とう性が低い場合、半導体装置内で生じた応力を緩和できなくなり、剥離しやすくなる。このような観点から、一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、下式で表される構造単位(IIIa)を含むことが好ましい。上記実施形態のポリアミドイミド樹脂が、さらに構造単位(IIIa)を有することによって、可とう性が向上し、優れた柔軟性を有する膜を容易に得ることができると考えられる。
【0050】
【化12】
【0051】
構造単位(IIIa)において、Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選択される置換基を表す。上記ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子であってよい。上記アルキル基及び上記アルコキシ基は、直鎖構造、分岐構造、及び環状構造のいずれであってもよい。
一実施形態において、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~9のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがさらに好ましい。
nは、1~6の整数を表す。nは、2~4の整数であることが好ましく、3又は4であることがより好ましい。
【0052】
一実施形態において、上記構造単位(IIIa)は、下式(III)で表される化合物を用いて誘導することができる。構造単位(IIIa)は、下式(III)で表される化合物から、置換基Y(アミノ基又はイソシアネート基)を除いた残基に相当し、樹脂の構造において、アミド結合部位又はイミド結合部位と直接結合するものであってよい。
【化13】
【0053】
上式(III)において、Yは、アミノ基(-NH)、又はイソシアネート基(-NCO)であり、R及びnは、先に説明したとおりである。
【0054】
上式(III)で表される化合物の具体例として、1,3-ビス(3-アミノプロピル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(2-アミノエチル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(アミノメチル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アミノブチル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(5-アミノペンチル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(6-アミノヘキシル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン等が挙げられる。
【0055】
以上のように、上記実施形態のポリアミドイミド樹脂は、構造単位(Ia)と、構造単位(IIa)、(IIb)及び(IIc)からなる群から選択される少なくとも1種との組合せに、さらに構造単位(IIIa)を有することによって、高いガラス転移温度(Tg)と樹脂の柔軟性とを両立させることが容易になると考えられる。そのため、例えば、半導体装置の各部材間に設けられるプライマー層が上記実施形態のポリアミドイミド樹脂を含む場合、250℃以上の高温領域で実施される各試験においても優れた密着性を容易に得ることができる。
また、パワー半導体装置の構成材料が上記実施形態のポリアミドイミド樹脂を含む場合、駆動時の発熱によって樹脂が軟化し、密着性が低下することを抑制することが可能となる。したがって、上記実施形態のポリアミドイミド樹脂によって、パワー半導体装置において高い信頼性を得ることが可能となる。
【0056】
ポリアミドイミド樹脂において、ジアミン成分及び/又はジイソシアネート成分に由来する構造単位の全量に対し、構造単位(Ia)の割合は、10モル%以上、15モル%以上、18モル%以上、30モル%以上、40モル%以上、45モル%以上、55モル%以上、65モル%以上、又は70モル%以上であってよい。上記構造単位(Ia)の割合は、95モル%以下、90モル%以下、85モル%以下、80モル%以下、又は75モル%以下であってよい。
一実施形態において、上記構造単位(Ia)の割合は、10~95モル%であってよく、好ましくは15~95モル%、より好ましくは45~90モル%、さらに好ましくは55~85モル%、よりさらに好ましくは65~80モル%であってよい。
【0057】
一実施形態において、ジアミン成分及び/又はジイソシアネート成分に由来する構造単位として、構造単位(Ia)の割合と、構造単位(IIa)、(IIb)及び(IIc)からなる少なくとも1種の割合との合計量は、70モル%以上、80モル%以上、85モル%以上、90モル%以上、又は100モル%であってもよい。一実施形態において、上記合計量は、95モル%以下であってよい。
一実施形態において、上記構造単位(Ia)と、上記構造単位(IIa)、(IIb)、及び(IIc)からなる群から選択される少なくとも1種との合計量を基準として、上記構造単位(Ia)の割合は、20モル%以上であってよい。上記構造単位(Ia)の上記割合は、好ましくは45モル%以上であってよく、より好ましくは50モル%以上であってよく、さらに好ましくは80モル%以上であってよく、さらにより好ましくは85モル%以上であってよい。
【0058】
一方、構造単位(IIa)、(IIb)及び(IIc)からなる少なくとも1種の割合は、ジアミン成分及び/又はジイソシアネート成分に由来する構造単位の全量に対して、10モル%以上であることが好ましい。一実施形態において、上記割合は、好ましくは10~80モル%であり、より好ましくは12~65モル%であり、さらに好ましくは15~50モル%であってよい。なお、上記割合とは、ポリアミドイミド樹脂が構造単位(IIa)、(IIb)及び(IIc)の2種以上を含む場合は、それらの合計割合を意味する。
【0059】
ポリアミドイミド樹脂において、樹脂を構成する全ての構造単位の全量を基準として、上記構造単位(Ia)の割合と、(IIa)、(IIb)及び(IIc)からなる少なくとも1種の割合との合計量は、好ましくは35モル%以上であり、より好ましくは40モル%以上であり、さらに好ましくは45モル%以上であってよい。ここで、各構造単位の割合(モル%)は、各構造単位に対応するモノマー化合物の仕込み量のモル数から算出される。
【0060】
他の実施形態において、ポリアミドイミド樹脂はさらに構造単位(IIIa)を含むことが好ましい。一実施形態において、ジアミン成分及び/又はジイソシアネート成分に由来する構造単位の全量に対し、構造単位(IIIa)の割合は、20モル%以下、15モル%以下、又は10モル%以下であってよい。上記構造単位(IIIa)の割合は、2.5モル%以上、5.0モル%以上、又は7.5モル%以上であってよい。
上記実施形態において、ジアミン成分及び/又はジイソシアネート成分に由来する構造単位として、構造単位(Ia)の割合と、構造単位(IIa)、(IIb)及び(IIc)からなる少なくとも1種の割合と、構造単位(IIIa)の割合との合計量は75モル%以上、80モル%以上、85モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、又は100モル%であってもよい。
上記実施形態において、上記構造単位(IIIa)の割合は、好ましくは2.5~20モル%、より好ましくは5~15モル%、さらに好ましくは7.5~10モル%であってよい。構造単位(IIIa)の割合を上記範囲に調整することによって、記構造単位(Ia)と、上記構造単位(IIa)、(IIb)及び(IIc)からなる少なくとも1種とによる特性を容易に発現させることができる。
【0061】
さらに他の実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、上記構造単位(Ia)と、上記構造単位(IIa)、(IIb)及び(IIc)からなる群から選択される少なくとも1種と、及び必要に応じて上記構造単位(IIIa)とに加えて、これらの構造単位以外の追加の構造単位をさらに含んでもよい。
追加の構造単位は、上記構造単位(Ia)、(IIa)、(IIb)、(IIc)、及び(IIIa)とは異なる構造を有する、芳香族ジアミン又は芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジアミン又は脂肪族ジイソシアネート、及び脂環式ジアミン又は脂環式ジイソシアネートに由来する構造単位であってよい。このような追加の構造単位の割合は、ジアミン成分及び/又はジイソシアネート成分に由来する構造単位の全量に対し、20モル%以下であることが好ましい。上記追加の構造単位の割合は、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。
【0062】
追加の構造単位を誘導可能な芳香族ジアミン(ジイソシアネート)の一例として、
2,7-ジアミノフルオレン、
9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-9H-フルオレン、
2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、
4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、
3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、
4,4’-ジアミノ-2,2’-ビフェニルジスルホン酸、
3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、
ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、
ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、
2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、
1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、
1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、
2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、
1,4-フェニレンジアミン、
2-クロロ-1,4-フェニレンジアミン、
1,3-フェニレンジアミン、
4,4’-ジアミノベンゾフェノン、
3,3’-ジアミノベンゾフェノン、
3,4’-ジアミノジフェニルメタン、
4,4’-ジアミノベンズアニリド、
3,6-ジアミノカルバゾール、
4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、
2-トリフルオロメチル-1,4-ジアミノベンゼン、
2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、
2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、
2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、
2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニルエーテル、
4-アミノフェニルスルフィド、
4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルビフェニル、
ナフタレンジアミン、
ナフタレンジイソシアネートが挙げられる。
【0063】
追加の構造単位を誘導可能な脂肪族ジアミン(ジイソシアネート)の一例として、
1,4-シクロヘキサンジアミン、
1,3-シクロヘキサンジアミン、
1,4-ジ(アミノメチル)シクロヘキサン、
1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、
ビス(アミノメチル)ノルボルナン、
4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、
ヘキサメチレンジアミン、
ヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。
【0064】
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂の製造時にジアミンを使用する場合、脂肪族又は芳香族のトリカルボン酸の無水物を使用することができる。耐熱性の観点から、芳香族のトリカルボン酸の無水物を使用することが好ましい。一実施形態において、例えば、酸成分として、トリメリット酸無水物の酸ハロゲン化物を使用することが好ましい。なかでも下式(IV)で表される無水トリメリット酸クロライドを使用することが特に好ましい。
【化14】
【0065】
上述の観点から、一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、トリメリット酸無水物の酸ハロゲン化物とジアミン成分との反応から誘導可能な下式(IVa)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【化15】
一実施形態において、酸成分に由来する構造単位の全量を基準として、上式(IV)に由来する構造単位の割合は、50モル%以上であることが好ましく、75モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。すなわち、一実施形態において、酸成分の全質量を基準として、トリメリット酸無水物の酸ハロゲン化物の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
一実施形態において、酸成分の全量に対して上式(IV)に由来する構造単位の割合は100モル%であってもよい。すなわち、一実施形態において、酸成分の全質量を基準として、トリメリット酸無水物の酸ハロゲン化物の含有率は、100質量%であってもよい。
【0066】
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、ジアミン成分又はジイソシアネート成分として、上式(I)で表される化合物と上式(IIA)、(IIB)及び(IIC)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物とを使用し、かつ酸成分として上記(IV)で表される化合物を使用して得られる樹脂であってよい。他の実施形態において、ジアミン成分又はジイソシアネート成分として、上式(III)で表される化合物をさらに追加して得られる樹脂であってもよい。さらに他の実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、酸成分として、上式(IV)で表される化合物に加えて、それ以外の酸成分をさらに使用して得られる樹脂であってもよい。
【0067】
使用できる酸成分は、例えば、上式(IV)で表される化合物以外の上記トリカルボン酸無水物又はその酸ハロゲン化物、及びトリメリット酸などのトリカルボン酸を含んでもよい。また、酸成分として、ピロメリット酸無水物及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物などのテトラカルボン酸二無水物、テレフタル酸及びイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、並びにアジピン酸及びセバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを使用してもよい。
【0068】
ポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)は、30,000~120,000の範囲であることが好ましい。上記範囲内のMwを有するポリアミドイミド樹脂は、塗布作業時に、後述する好ましい膜厚の塗膜を形成しやすくなる。ポリアミドイミド樹脂のMwは、より好ましくは35,000~110,000の範囲であり、さらに好ましくは38,000~100,000の範囲である。本明細書において記載する「Mw」は、ゲル浸透クロマトグラフィーを使用し、標準ポリスチレン換算で測定した値である。
【0069】
上記ポリアミドイミド樹脂は、成膜時の作業性等の観点から、室温において有機溶剤に可溶であることが好ましい。本明細書において「室温において有機溶剤に可溶である」とは、室温において、樹脂に有機溶剤を加えて撹拌して得た溶液を目視にて確認した時に、沈殿物がなく、濁りがなく、溶液全体が透明な状態になることを意味する。ここで、上記「室温」とは、概ね10℃~40℃の範囲であってよく、20℃~30℃の範囲が好ましい。一実施形態において、上記「溶液」は、例えば、有機溶剤100mLに対し、上記樹脂の粉末1~30gを加えて得られる溶液を意味する。上記有機溶剤については、後述する。
【0070】
(ポリアミドイミド樹脂の製造方法)
ポリアミドイミド樹脂は、公知の方法に従い製造することができ、特に限定されない。ポリアミドイミド樹脂は、例えば、ジアミン成分及び/又はジイソシアネート成分と、酸成分との反応を経て製造することができる。ジアミン成分、ジイソシアネート成分、及び酸成分は、先に説明したとおりである。上記反応は、無溶剤又は有機溶剤の存在下で行うことができる。反応温度は、25℃~250℃の範囲が好ましい。反応時間は、バッチの規模、採用される反応条件等に応じて、適宜調整することができる。
【0071】
ポリアミドイミド樹脂の製造時に使用する有機溶剤(反応溶剤)は、特に制限されない。使用可能な有機溶剤として、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶剤、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン等の含硫黄系溶剤、γ-ブチロラクトン等の環状エステル系(ラクトン系)溶剤、酢酸セロソルブ等の非環状エステル系溶剤、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン等の含窒素系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。これらの有機溶剤の1種を単独で使用しても、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
一実施形態において、生成する樹脂を溶解可能な有機溶剤を選択して使用することが好ましく、極性溶剤を使用することが好ましい。極性溶剤については後述するが、例えば、含窒素系溶剤が好ましい。
【0072】
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、先ず、酸成分とジアミン成分との反応によってポリアミドイミド樹脂の前駆体を製造し、次いでこの前駆体を脱水閉環してポリアミドイミド樹脂を得る方法によって製造することができる。しかし、上記前駆体の閉環方法は、特に制限されず、当技術分野で周知の方法を使用することができる。例えば、常圧又は減圧下で、加熱によって脱水閉環する熱閉環法、触媒の存在下又は非存在下で、無水酢酸等の脱水剤を使用する化学閉環法等を使用することができる。
【0073】
熱閉環法の場合、脱水反応で生じる水を系外に除去しながら行うことが好ましい。脱水反応の時、80℃~400℃、好ましくは100℃~250℃に反応液を加熱してもよい。また、ベンゼン、トルエン、キシレン等のような水と共沸可能な有機溶剤を併用し、水を共沸除去してもよい。
【0074】
化学閉環法の場合、化学的脱水剤の存在下、0℃~120℃、好ましくは10℃~80℃で反応を実施してもよい。化学的脱水剤としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水安息香酸等の酸無水物、ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物等を用いることが好ましい。反応の時、ピリジン、イソキノリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アミノピリジン、イミダゾール等の環化反応を促進する物質を併用することが好ましい。
【0075】
化学的脱水剤は、ジアミン成分の全量に対して90~600モル%、環化反応を促進する物質はジアミン成分の全量に対して40~300モル%の割合で使用してもよい。また、トリフェニルホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、トリフェニルホスフェート、リン酸、五酸化リン等のリン化合物、ホウ酸、無水ホウ酸等のホウ素化合物などの脱水触媒を用いてもよい。
【0076】
ポリアミドイミド樹脂の製造において、酸成分とジアミン成分(ジイソシアネート成分)との使用比率(モル比)は、特に限定されず、過不足なく反応が進行するように調整することができる。一実施形態において、生成されるポリアミドイミド樹脂の分子量及び架橋度の観点から、酸成分の全量1.00モルに対してジアミン成分の全量を0.90~1.10モルとすることが好ましく、0.95~1.05モルとすることがより好ましく0.97~1.03モルとすることがさらに好ましい。
【0077】
<ポリアミドイミド樹脂組成物>
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂組成物(以下、樹脂組成物と省略する場合もある)は、上記実施形態のポリアミドイミド樹脂と、溶剤とを含む。本明細書では、樹脂組成物をワニスと称する場合もある。
(溶剤)
溶剤は、ポリアミドイミド樹脂を溶解可能な溶剤であればよく、特に制限されない。「ポリアミドイミド樹脂を溶解可能な溶剤」とは、溶剤の温度を特に制限することなく、溶剤にポリアミドイミド樹脂の粉末を加えて撹拌して得た溶液を目視にて観察した時に、沈殿や濁りが見られず、溶液全体が透明な状態となる溶剤を意味する。一実施形態において、樹脂組成物を構成する溶剤は、樹脂の製造時に使用した反応溶剤と同じであってもよい。特に、極性溶剤を用いることが好ましい。
【0078】
極性溶剤の一例として、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチルテトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン等の含窒素化合物、スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、γ-ヘプタラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類、酢酸セロソルブ等の非環状エステル類、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、及びジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジプロピルエーテル、及びトリエチレングリコールジブチルエーテル等のトリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジプロピルエーテル、及びテトラエチレングリコールジブチルエーテル等のテトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、及びジエチレングリコールモノエチルエーテル等のジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、及びトリエチレングリコールモノエチルエーテル等のトリエチレングリコールモノアルキルエーテル、並びに、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールモノエチルエーテル等のテトラエチレングリコールモノアルキルエーテルを含むエーテル類などが挙げられる。
【0079】
一実施形態において、溶剤は、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールジメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、エチルセロソルブ、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジブチルエーテル、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びプロピレングリコールメチルアセテートからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。2種以上を組合せて使用する場合は、任意の割合で混合することができる。
【0080】
上記溶剤のなかでも、成膜性の観点から、比較的低沸点の溶剤が好ましい。例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコール、及びトリエチレングリコールジメチルエーテル等を好ましく使用することができる。
【0081】
上記樹脂組成物における溶剤の配合量は、粘度を考慮して適宜調整することができる。特に限定されないが、一実施形態において、溶剤の配合量は、上記樹脂組成物中の樹脂の全量100質量部に対して、500~3,500質量部の割合で配合することが好ましい。溶剤は、樹脂の全量100質量部に対して、5,000~2,000質量部の割合で配合することがより好ましい。
【0082】
(添加剤)
上記ポリアミドイミド樹脂組成物(ワニス)に対して、必要に応じて、着色剤、カップリング剤等の添加剤、及び樹脂改質剤などの追加成分を添加してもよい。ポリアミドイミド樹脂組成物が、追加成分を含む場合、ポリアミドイミド樹脂組成物中のポリアミドイミド樹脂(固形分成分)の全量100質量部に対して、追加成分の配合量は50質量部以下であることが好ましい。上記追加成分の配合量を50質量部以下とすることによって、得られる塗膜の物性低下を抑制することが容易となる。
【0083】
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂組成物は、カップリング剤を含んでいてもよい。以下、使用可能な追加成分について例示する。
(カップリング剤)
使用できるカップリング剤は、特に制限されず、シラン系、チタン系、アルミニウム系のいずれでもよいが、シラン系カップリング剤が最も好ましい。シラン系カップリング剤としては、特に制限するものではないが、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピル-トリス[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]シラン、N-メチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、トリアミノプロピル-トリメトキシシラン、3-4,5-ジヒドロイミダゾール-1-イル-プロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピル-トリメトキシシラン、3-メルカプトプロピル-メチルジメトキシシラン、3-クロロプロピル-メチルジメトキシシラン、3-クロロプロピル-ジメトキシシラン、3-シアノプロピル-トリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリクロロシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、アミルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリ(メタクリロイルオキエトキシ)シラン、メチルトリ(グリシジルオキシ)シラン、N-β(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、γ-クロロプロピルメチルジクロロシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジエトキシシラン、トリメチルシリルイソシアネート、ジメチルシリルイソシアネート、メチルシリルトリイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート、テトライソシアネートシラン、エトキシシランイソシアネート等が挙げられる。これらの1種を単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。
【0084】
チタン系カップリング剤としては、特に制限するものではないが、例えば、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリス(n-アミノエチル)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアエチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタンチリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、テトラメチルオルソチタネート、テトラエチルオルソチタネート、テタラプロピルオルソチタネート、テトライソブチルオルソチタネート、ステアリルチタネート、クレシルチタネートモノマー、クレシルチタネートポリマー、ジイソプロポキシ-ビス(2,4-ペンタジオネート)チタニウム(IV)、ジイソプロピル-ビス-トリエタノールアミノチタネート、オクチレングリコールチタネート、テトラ-n-ブトキシチタンポリマー、トリ-n-ブトキシチタンモノステアレートポリマー、トリ-n-ブトキシチタンモノステアレート等が挙げられる。これらの1種を単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。
【0085】
アルミニウム系カップリング剤としては、特に制限するものではないが、例えば、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウム-モノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテート、アルミニウム-ジ-n-ブトキシド-モノ-エチルアセトアセテート、アルミニウム-ジ-イソ-プロポキシド-モノ-エチルアセトアセテート等のアルミニウムキレート化合物、アルミニウムイソプロピレート、モノ-sec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウム-sec-ブチレート、アルミニウムエチレート等のアルミニウムアルコレートなどが挙げられる。これらの1種を単独で使用しても、又は2種以上を組合せて使用してもよい。
【0086】
一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂組成物の粘度は、10mPa・s~400mPa・sの範囲であることが好ましく、10mPa・s~300mPa・sの範囲であることがより好ましい。ここで、上記粘度は、不揮発成分(固形分成分)が1~20質量%となるように溶剤に溶解したワニスを、E型粘度計を使用して、25℃の条件下、10rpmで測定して得た値である。10rpmで測定した粘度が10mPa・s以上であると、塗布時に十分な膜厚を確保することが容易である。また、上記粘度が400mPa・s以下であると、塗布時に均一な膜厚を確保することが容易である。したがって、粘度を上記範囲内に調整することによって、優れた印刷性を得ることが容易となる。
【0087】
一実施形態において、優れた塗布性を得る観点から、粘度は、50mPa・sを超えることが好ましく、100mPa・sを超えることがより好ましい、粘度が低すぎる場合、所定の範囲よりも濡れ広がることにより、扱いにくい場合がある。
なお、上記粘度は、例えば、東機産業株式会社製の粘度計(RE形)を用いて測定することができる。測定では、測定温度を25℃±0.5℃に設定し、次いで粘度計に1mL~1.5mLの樹脂組成物(ワニス)を入れ、測定開始から10分後の粘度を記録した値である。
【0088】
一実施形態において、樹脂組成物を成膜した際の膜厚は特に制限されないが、0.5~50μmの範囲であってよい。上記範囲内の厚みを有することで、十分な密着性を確保しやすくなる傾向にある。上記観点から、上記膜厚は、好ましくは1~15μmの範囲であり、さらに好ましくは3~15μmの範囲である。
【0089】
一実施形態において、樹脂組成物(ワニス)を塗布及び加熱乾燥して得られる厚み10μmの膜の35℃における弾性率は、0.5GPa~8.0GPaの範囲が好ましく、1.0GPa~5.0GPaの範囲がより好ましく、2.0GPa~4.5GPaの範囲がさらに好ましい。上記膜を形成するための加熱乾燥は、例えば、50℃で10分加熱した後、260℃で1時間乾燥する条件下で実施することができる。上記弾性率は、動的粘弾性測定装置を用いて測定した値である。パワー半導体装置における信頼性をより高める観点から、上記膜は、適切な可とう性を有することが好ましい。したがって、一実施形態において、上記膜の弾性率は、3.0GPa~4.5GPaの範囲がさらに好ましい。
【0090】
弾性率は、例えば、株式会社UBM製の動的粘弾性測定装置「Rheogel-E4000型」を用いて測定することができる。上記弾性率は、例えば、樹脂組成物(ワニス)を塗布及び乾燥して得られる膜を使用し、測定周波数10MHz、測定温度35℃の条件で測定して得た値である。
【0091】
上記実施形態の樹脂組成物は、耐熱性、及び可とう性に優れることから、半導体装置の構成材料として好適に使用することができる。例えば、上記樹脂組成物を用いて、半導体装置における、絶縁層、接着層、保護層等を形成することができ、これらの層を有する半導体装置は、各部材間の密着性に優れ、信頼性に優れたものとなる。
一実施形態において、上記樹脂組成物は、半導体デバイスにおいて、封止材と基板との間、又は封止材と半導体素子との間等に設けられるプライマー層を形成するために好適に使用することができる。各部材間の密着性は、シェア強度によって評価することができる。
【0092】
一実施形態において、上記樹脂組成物から構成されるプライマー層を有する部材間の260℃でのシェア強度は、好ましくは11MPa以上、より好ましくは15MPa以上、さらに好ましくは17MPa以上であることが望ましい。上記260℃でのシェア強度が11MPa以上であれば、パワー半導体装置に上記樹脂組成物を適用した場合であっても優れた密着性を得ることが容易である。
【0093】
一実施形態において、基板上に、上記樹脂組成物から構成されるプライマー層と樹脂封止層とを順次有する積層体において、上記基板と上記樹脂封止層との260℃でのシェア強度は11MPa以上となり得る。上記積層体は、基板上に、樹脂組成物(ワニス)を塗布及び乾燥して膜を形成し、次いでその上に樹脂封止層を形成することによって得ることができる。
【0094】
シェア強度の測定は、例えば、シェア強度測定装置(ノードソン・アドバンスト・テクノロジー株式会社製の4000シリーズ)を用いて実施することができる。測定では、例えば、Ni基板上に、樹脂組成物を塗布及び乾燥して膜を形成し、その上にエポキシ系封止樹脂を用いてφ5mmの樹脂封止層を成型したサンプルを使用することができる。測定時の条件は、代表的に、ヒートステージ温度260℃、プローブ速度3mm/分であってよい。上記基板の材料、及び樹脂封止層を構成する封止材については、適宜変更することも可能である。
測定では、Ni基板に代えてCu基板を用いても、又はCu基板上にAgめっきを施したものを用いてもよい。
【0095】
上述のように上記樹脂組成物を、半導体装置において、封止材と基板との間、又は封止材と半導体素子との間等に設けられるプライマー層を形成するために使用する場合、熱膨張及び収縮による応力の発生を抑制し、密着性を向上させる観点から、各部材と上記樹脂組成物からなる膜との線膨張係数(CTE)の差は小さいことが好ましい。このような観点から、一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂の線膨張係数(CTE)は、40~90ppm/℃の範囲であることが好ましく、50~70ppm/℃の範囲であることがより好ましく、55~65ppm/℃の範囲であることがさらに好ましい。また、ポリアミドイミド樹脂を含む樹脂組成物についても、そのCTEは、上記範囲内であることが好ましい。
【0096】
上記CTEは、樹脂又は樹脂組成物のワニスを塗布及び乾燥して得られる膜を使用して測定した値である。測定は、例えば、熱機械分析装置(TMA、日立ハイテクサイエンス社製「SS7100」)を使用することができる。測定条件は、チャック間距離を10mm、荷重を10g、昇温速度を10℃/分とすることができる。本明細書において規定するCTEは、70℃、及び140℃における値を直線で結び、その傾きから算出した値である。
【0097】
<半導体装置>
一実施形態は、基板と、上記実施形態の樹脂組成物を用いてなる乾燥膜とを有する、半導体装置に関する。半導体装置の構成部材は、一般的に、基板上に搭載された半導体素子と封止部材(封止層)とを含む。半導体素子は、代表的に、半導体チップ(Si、SiC、GaN)、Cu、Niめっき、Agめっき、Auめっき、Au/Pd/Niメッキ、半田、焼結銀、焼結銅、Alワイヤ、Auワイヤ、及びセラミック基板(アルミナ、アルミナジルコニア、窒化アルミニウム、窒化ケイ素)などの無機材料から構成される。また、封止層は、代表的に樹脂等の有機材料から構成される。以下、樹脂から構成される封止層を樹脂封止層という。
【0098】
上記半導体装置において、各構成部材の間にプライマー層として上記実施形態の樹脂組成物を用いた乾燥膜を形成することによって、構成部材間の密着性を容易に高めることができる。より具体的には、例えば、樹脂封止層と基板との間、又は樹脂封止層と半導体素子との間に、上記樹脂組成物の乾燥膜を形成することで、各部材間の密着性を確保することができ、サイクル試験時の剥離を防止することが可能となる。このような観点から、一実施形態において、半導体装置は、基板と、上記基板上に搭載した半導体素子と、上記基板の少なくとも半導体素子搭載面に設けられたプライマー層と、上記プライマー層の上に設けられた樹脂封止層とを有し、上記プライマー層が、上記実施形態の半導体装置用樹脂組成物を用いて形成された乾燥膜から構成されることが好ましい。上記基板は、半導体素子を搭載するダイパットと、リードとから構成されるリードフレームであってよく、半導体素子の電極パットとリードフレームのリードとはワイヤを介して電気的に接続される。
【0099】
一実施形態において、上記シリコンカーバイド(SiC)基板又はガリウムナイトライド(GaN)基板を用いるパワー半導体デバイスの構成材料として上記樹脂組成物を好適に使用することもできる。上記樹脂組成物を用いてパワー半導体装置を構成した場合、ヒートサイクル試験時の各部材間の密着性の低下を容易に抑制することができる。
【0100】
以下、上記実施形態の半導体デバイスの代表的な構造において、図を参照して具体的に説明する。図1は、半導体装置の一実施形態を示す模式的断面図である。図1に示す半導体デバイスは、ダイパット1aと、半導体素子2と、プライマー層3と、リード1bと、ワイヤ4と、樹脂封止層5とを有し、プライマー層3は上記実施形態の樹脂組成物から形成される。図1に示すように、樹脂封止層5と接する基板1の半導体素子搭載面(リード1b、半導体素子2を搭載したダイパット1aの表面)に、上記樹脂組成物から形成されたプライマー層3が設けられていることにより、各部材間の密着性を容易に高めることができる。
【0101】
一実施形態において、半導体装置の製造方法は、少なくとも、半導体素子を搭載した基板の表面に、上記実施形態の樹脂組成物を塗布し乾燥させてプライマー層を形成する工程と、上記プライマー層の上に樹脂封止層を形成する工程とを有する。
【0102】
上記実施形態において、上記プライマー層は、上記実施形態の樹脂組成物を用いて形成される。作業性の観点から、樹脂成分として、ポリアミドイミド樹脂を含む樹脂組成物(ワニス)を使用することが好ましい。上記プライマー層は、上記樹脂組成物を所定の箇所に塗布し、塗膜を乾燥することによって得ることができる。
【0103】
半導体素子を搭載するダイパットと、リードとから構成されるリードフレームの材料は、特に限定されず、当技術分野で周知の材料から選択することができる。パワー半導体装置に適用する観点から、ダイパット材料は、Ni及びCuからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、Ni及びCuからなる群からなる群から選択される1種は、その表面にAgめっきを有していてもよい。リードフレームのリード材料は、Ni及びCuからなる群から選択されることが好ましい。
半導体素子の材料は、特に限定されず、例えば、シリコンウェハ、シリコンカーバイドウェハ等であってよい。
【0104】
樹脂封止層は、当技術分野で周知の封止材を用いて形成されたものであってよい。例えば、樹脂封止材は液状又は固体のエポキシ系樹脂組成物であってよい。樹脂封止層は、例えば、樹脂封止材を用いてトランスファー成形によって形成することができる。
他の実施形態において、半導体装置の製造方法は、例えば、同一構造の配線が複数形成された半導体基板に、上記実施形態の樹脂組成物を塗布及び乾燥して樹脂層を形成する工程と、必要に応じて上記樹脂層上に上記半導体基板上の電極と電気的に導通する再配線を形成する工程とを有する。また、上記工程に加えて、必要に応じて再配線上又は樹脂層上に上記実施形態の樹脂組成物を用いて保護層(樹脂層)を形成する工程を有してよい。さらに、上記工程に加えて、必要に応じて上記樹脂層に外部電極端子を形成する工程、次いで、必要に応じてダイシングする工程を有してもよい。
【0105】
上記樹脂層(プライマー層)の塗布方法は、特に制限されないが、スピンコート、スプレー塗布、又はディスペンス塗布であることが好ましい。上記樹脂層の乾燥方法は当技術分野で公知の方法によって行うことができる。上記実施形態の樹脂組成物は、再配線を形成する工程で必要とされる耐スパッタ性、耐メッキ性、及び耐アルカリ性等の特性にも優れる。そのことから、上記実施形態の樹脂組成物は、上記に記載した半導体装置の構成に限定されることなく、あらゆる半導体装置の材料として好適に使用することができる。
【実施例
【0106】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではなく、様々な実施形態を含む。
【0107】
<1>ポリアミドイミド樹脂の合成
(合成例1)
温度計、撹拌機、窒素導入管、油水分離機付き冷却管を取り付けた1リットルの4つ口フラスコに、窒素気流下、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンを25.1g、4,4’-ジアミノジフェニルメタンを3.6g、及び1,3-ビス(3-アミノプロピル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを2.5g入れ、更にN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと記載する)を284g加えて溶解し、溶液を得た。
次に、上記溶液に、20℃を超えない様に冷却しながら、無水トリメリット酸クロライド(以下、TACと記載する)を21.1g加えた。室温で2時間撹拌した後、トリエチルアミン(以下、TEAと記載する)を12.1g加えて、室温で少なくとも12時間反応させて、ポリアミック酸溶液を得た。
得られたポリアミック酸溶液について、更に180℃で8時間にわたって脱水縮合を行い、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。このポリアミドイミド樹脂溶液を水に注ぎ、得られた沈殿物を分離、粉砕、及び乾燥することによって、粉末のポリアミドイミド樹脂(PAI-1)を得た。得られたポリアミドイミド樹脂粉末(PAI-1)は、室温(25℃)で極性溶剤(NMP)に溶解可能であった。
得られたポリアミドイミド樹脂(PAI-1)の重量平均分子量(Mw)について、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと記載する)を使用して、標準ポリスチレン換算で測定したところ、Mwは57,000~68,000であった。
【0108】
なお、GPCの測定条件は、以下のとおりである。
送液ポンプ:株式会社島津製作所製LC-20AD
UV-Vis検出器:株式会社島津製作所製SPD-20A、UV270nm
溶離液:テトラヒドロフラン/ジメチルホルムアミド=1/1(容積比)+リン酸0.06M+臭化リチウム0.06M
カラム:株式会社日立ハイテクノロジー製ゲルパックGL-S300MDT-5×2本
カラムサイズ:8mml.D×300mm
試料濃度:5mg/1mL
流速:1mL/分 カラム温度:40℃
分子量標準物質:標準ポリスチレン
【0109】
(合成例2)
合成例1に記載のポリアミドイミド樹脂(PAI-1)の調製において、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンを15.7g、及び4,4’-ジアミノジフェニルメタンを8.9gに変更したことを除き、全て合成例1と同様の方法にしたがって、粉末のポリアミドイミド樹脂(PAI-2)を得た。
ポリアミドイミド樹脂粉末(PAI-2)は、室温(25℃)で極性溶剤(NMP)に溶解可能であった。得られたポリアミドイミド樹脂(PAI-2)の重量平均分子量(Mw)について、標準ポリスチレン換算で測定したところ、Mwは72,000であった。Mwの測定は、合成例1に記載の方法と同様にして実施した。
【0110】
(合成例3)
合成例1に記載のポリアミドイミド樹脂(PAI-1)の調製において、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンを6.3g、及び4,4’-ジアミノジフェニルメタンを14.3gに変更したことを除き、全て合成例1と同様の方法にしたがって、粉末のポリアミドイミド樹脂(PAI-3)を得た。
ポリアミドイミド樹脂粉末(PAI-3)は、室温(25℃)で極性溶剤(NMP)に溶解可能であった。得られたポリアミドイミド樹脂(PAI-3)の重量平均分子量(Mw)について、標準ポリスチレン換算で測定したところ、Mwは100,000であった。Mwの測定は、合成例1に記載の方法と同様にして実施した。
【0111】
(合成例4)
温度計、撹拌機、窒素導入管、及び油水分離機付き冷却管を取り付けた1リットルの4つ口フラスコに、窒素気流下、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレンを15.7g、1,5’-ジアミノナフタレンを7.1g、及び1,3-ビス(3-アミノプロピル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを2.5g入れ、更に、NMPを250g加えて溶解し、溶液を得た。
次に、上記溶液に、20℃を超えない様に冷却しながら、TACを21.1g加えた。室温で2時間撹拌した後、TEAを12.1g加えて、室温で少なくとも12時間反応させて、ポリアミック酸溶液を製造した。
得られたポリアミック酸溶液について、更に180℃で8時間にわたって脱水縮合を行い、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。このポリアミドイミド樹脂溶液を水に注ぎ、得られた沈殿物を分離、粉砕、及び乾燥することによって、粉末のポリアミドイミド樹脂(PAI-5)を得た。ポリアミドイミド樹脂粉末(PAI-5)は、室温(25℃)で極性溶剤(NMP)に溶解可能であった。
得られたポリアミドイミド樹脂(PAI-5)の重量平均分子量(Mw)について、GPCを使用して標準ポリスチレン換算で測定したところ、Mwは65,000であった。Mwの測定は、合成例1に記載の方法と同様にして実施した。
【0112】
(合成例5)
温度計、撹拌機、窒素導入管、及び油水分離機付き冷却管を取り付けた1リットルの4つ口フラスコに、窒素気流下、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレンを15.7g、1,4-フェニレンジアミンを4.9g、及び1,3-ビス(3-アミノプロピル)1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを2.5g入れ、更に、NMPを238g加えて溶解し、溶液を得た。
次に、上記溶液に、20℃を超えない様に冷却しながら、TACを21.1g加えた。室温で2時間撹拌した後、TEAを12.1g加えて、室温で少なくとも12時間反応させて、ポリアミック酸溶液を製造した。
得られたポリアミック酸溶液について、更に180℃で8時間にわたって脱水縮合を行い、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。このポリアミドイミド樹脂溶液を水に注ぎ、得られた沈殿物を分離、粉砕、及び乾燥することによって、粉末のポリアミドイミド樹脂(PAI-5)を得た。ポリアミドイミド樹脂粉末(PAI-5)は、室温(25℃)で極性溶剤(NMP)に溶解可能であった。
得られたポリアミドイミド樹脂(PAI-5)の重量平均分子量(Mw)について、GPCを使用して標準ポリスチレン換算で測定したところ、Mwは42,000であった。Mwの測定は、合成例1に記載の方法と同様にして実施した。
【0113】
(合成例6)
温度計、撹拌機、窒素導入管、及び油水分離機付き冷却管を取り付けた1リットルの4つ口フラスコに、窒素気流下、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンを102.4g、及び1,3-ビス(3-アミノプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを6.9g、それぞれ入れ、さらにNMPを700g加えて、溶解し、溶液を得た。
次に、上記溶液に、反応溶液が20℃を超えないように冷却しながら、TACを59.0g加えた。室温で1時間撹拌した後、反応溶液が20℃を超えないように冷却しながら、TEAを34.0g加え、室温で3時間反応させて、ポリアミック酸溶液を製造した。
得られたポリアミック酸溶液について、さらに190℃で6時間にわたって脱水縮合を行い、ポリアミドイミド樹脂溶液を製造した。
このポリアミドイミド樹脂のワニスを水に注いで得られる沈殿物を分離、粉砕、及び乾燥することによって、粉末のポリアミドイミド樹脂(PAI-6)を得た。得られたポリアミドイミド樹脂(PAI-6)の重量平均分子量(Mw)について、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用して、標準ポリスチレン換算で測定したところ、Mwは75,000であった。Mwの測定は、合成例1に記載の方法と同様にして実施した。
【0114】
<2>ポリアミドイミド樹脂組成物の調製
以下に示す実施例及び比較例では、先の合成例1~6で調製したポリアミドイミド樹脂粉末(PAI-1)~(PAI-6)をそれぞれ使用し、ポリアミドイミド樹脂組成物(半導体装置用プライマーワニス)を調製した。
【0115】
(実施例1)
0.5リットルの4つ口フラスコに、窒素気流下、合成例1で得たポリアミドイミド樹脂粉末(PAI-1)12g、N-メチル-2-ピロリドン60.9g、ブチルセロソルブアセテート26.1g、シラン系カップリング剤(信越化学工業株式会社製の製品名KBM-402(3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン))1.2gを加えて、12時間撹拌し、黄色の反応混合物を得た。得られた黄色の反応混合物を、ろ過器KST-47(アドバンテック株式会社製)に充填し、0.3MPaの圧力で加圧ろ過することによって、半導体装置用プライマーワニス(P-1)を得た。
【0116】
(実施例2)
実施例1で使用したポリアミドイミド樹脂粉末(PAI-1)を合成例2で得た(PAI-2)に変更したことを除き、全て実施例1と同様にして、半導体装置用プライマーワニス(P-2)を調製した。
【0117】
(実施例3)
実施例1で使用したポリアミドイミド樹脂粉末(PAI-1)を合成例3で得た(PAI-3)に変更したことを除き、全て実施例1と同様にして、半導体装置用プライマーワニス(P-3)を調製した。
【0118】
(実施例4)
実施例1で使用したポリアミドイミド樹脂粉末(PAI-1)を合成例4で得た(PAI-4)に変更したことを除き、全て実施例1と同様にして、半導体装置用プライマーワニス(P-4)を調製した。
【0119】
(実施例5)
実施例1で使用したポリアミドイミド樹脂粉末(PAI-1)を合成例5で得た(PAI-5)に変更したことを除き、全て実施例1と同様にして、半導体装置用プライマーワニス(P-5)を調製した。
【0120】
(比較例1)
実施例1で使用したポリアミドイミド樹脂粉末(PAI-1)を合成例6で得た(PAI-6)に変更し、さらに溶剤をN-メチル-2-ピロリドン35g及びブチルセロソルブアセテート52gに変更したことを除き、全て実施例1と同様にして、半導体装置用プライマーワニス(P-6)を調製した。
【0121】
<3>ポリアミドイミド樹脂組成物(半導体装置用プライマーワニス)の評価
以下に従って、各種特性の評価を行った。
(弾性率)
実施例1~5及び比較例1で得た半導体デバイス用プライマーワニス(P-1)~(P-6)を、バーコータを用いて基板上に塗工及び加熱乾燥させることによって、厚み10μmの乾燥膜を得た。上記乾燥膜を形成するための加熱乾燥は、50℃で10分加熱した後、260℃で1時間乾燥する条件下で実施した。
上記のようにして得た乾燥膜を測定用サンプルとして用い、以下の測定を行った。
株式会社UBM製の動的粘弾性測定装置(Rheogel-E4000)に測定用サンプルを設置し、ポリアミドイミド樹脂の弾性率の測定を行った。測定は、チャック間距離20mm、温度35℃、測定周波数10MHzでの測定値を弾性率とした。測定値を表1に示す。
【0122】
(ガラス転移温度)
実施例1~5及び比較例1で得た半導体デバイス用プライマーワニス(P-1)~(P-6)を、バーコータを用いて基板上に塗工及び加熱乾燥させることによって、厚み10μmの乾燥膜を得た。上記乾燥膜を形成するための加熱乾燥は、50℃で10分加熱した後、260℃で1時間乾燥する条件下で実施した。
上記のようにして得た乾燥膜を測定用サンプルとして用い、以下の測定を行った。測定は、熱機械分析装置(TMA、日立ハイテクサイエンス社製「SS7100」)を使用しチャック間距離10mm、荷重10g、昇温速度10℃/分の条件下で実施した。TMAの測定で得られる線膨張係数の、α1からα2への変曲点をガラス転移温度とした。
【0123】
(線膨張係数)
実施例1~5及び比較例1で得た半導体装置用プライマーワニス(P-1)~(P-6)について、バーコータを用いて基板上に塗工及び加熱乾燥させることによって、厚み10μmの乾燥膜を得た。上記乾燥膜を形成するために、50℃で10分の加熱、その後、260℃で1時間の乾燥を実施した。
上記のようにして得た乾燥膜を測定用サンプルとして用い、線膨張係数(CTE)の測定を行った。測定は、熱機械分析装置(TMA、日立ハイテクサイエンス社製「SS7100」)を使用し、チャック間距離10mm、荷重10g、昇温速度10℃/分の条件下で実施した。70℃及び140℃での変位を直線で結び、その傾きから算出した値をCTE値とした。
【0124】
(密着性(シェア強度))
実施例1~5及び比較例1で得た半導体装置用プライマーワニス(P-1)~(P-6)について、株式会社アークテック製の4000シリーズ、シェア強度測定装置を用い、密着性を評価した。
具体的には、先ず、Ni基板上に、株式会社サンエイテック製のスプレー塗布装置(型番:SV91)を用いて、上記プライマーワニスを塗工し、加熱乾燥させることで乾燥膜を得た。乾燥膜の厚みは10μmであった。
次に、上記乾燥膜の上に、φ5mmの樹脂封止層を成型し、測定用サンプルを得た。封止材には、昭和電工マテリアルズ株式会社製のエポキシ系封止樹脂(CEL-420HFC)を使用した。
得られた測定用サンプルを、株式会社アークテック製の4000シリーズ、シェア強度測定装置のヒートステージにセットし、シェア強度を測定した。測定は、260℃の温度において、プローブ速度3mm/分の条件で実施した。結果を表1に示す。
【0125】
260℃におけるシェア強度の測定結果から以下の基準に従い、高温領域での密着性を評価した。評価結果を表1に示す。
<高温領域での密着性の基準>
A:260℃でのシェア強度が18.0MPa以上である。
B:260℃でのシェア強度が11MPa以上、18.0MPa未満である。
C:260℃でのシェア強度が11MPa未満である。
【0126】
(信頼性評価(吸湿リフロー試験))
実施例1~5及び比較例1で得た半導体装置用プライマーワニス(P-1)~(P-6)について、吸湿リフロー試験を実施した。
具体的には、先ず、CuリードフレームにSiチップを搭載したパッケージを組みたて後、株式会社サンエイテック製のスプレー塗布装置(型番:SV91)を用いて、上記プライマーワニスを塗工及び乾燥させ、乾燥膜を得た。乾燥条件は、温度260℃で、乾燥時間を1時間として実施した。
次に、上記乾燥膜の上に、封止材として昭和電工マテリアルズ株式会社製の製品名「CEL-8240」を用いて樹脂封止層を成型し、評価用サンプルを得た。
次に、得られた評価用サンプルを用いて、以下の条件下で吸湿リフロー試験を行った。
吸湿条件:JEDEC MSL 1(85℃/85%RH×168時間)、
リフロー条件:260℃/10秒×3回
【0127】
次に、信頼性試験(吸湿リフロー試験)前後の半導体デバイスにおいて、樹脂封止層、樹脂乾燥膜(プライマー層)、及びリードフレームとの間に剥離が生じているか否かを高精度超音波顕微鏡(C-SAM)で観察した。結果を表1に示す。
表1に示した信頼性試験の評価結果は、評価を行ったサンプルの総数(分母)に対する、剥離の発生が確認されたサンプルの数(分子)として示している。観察時の条件は、以下のとおりである。
装置:高精度超音波顕微鏡(C-SAM)、Sonoscan社のD9600、振動数30MHz
条件:室温(25℃±5℃)、純水を使用。
【0128】
実施例1~5及び比較例1における各特性評価の結果を表1に纏めて示す。
【表1】
【0129】
表1において、ジアミン由来の構造単位I’-II’は、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンに由来する構造単位である。
【0130】
以上のように、本発明の樹脂組成物(実施例1~5)では、260℃の高温条件下においても優れた密着性を得ることができた。一方、比較例1の樹脂組成物では、実施例1~5よりもTgが低く、260℃の高温条件下での密着性の試験において、著しく劣る結果となった。比較例1の樹脂組成物は、カルド構造型フルオレン骨格を持たないポリアミドイミド樹脂を使用している。
また、実施例1~3の吸湿リフロー試験による信頼性試験の結果から、構造単位(Ia)と、構造単位(IIa)との割合を調整することによって、Tgを容易に高めることができることが分かる。さらに、実施例1、4及び5に見られるように、Tgが300℃を超える場合は、高温条件下における優れた密着性とともに、吸湿リフロー試験においても良好な結果が得られ信頼性を高めることが容易となることが分かる。
以上のことから、本発明によれば、ポリアミドイミド樹脂がカルド構造型フルオレン骨格を有する構造単位と、特定の構造単位との組合せを有することによって、高温領域での密着性に優れ、かつ半導体デバイスの信頼性を向上できる樹脂及び樹脂組成物を提供できることが分かる。
【符号の説明】
【0131】
1 リードフレーム、Cu基板
1a ダイパット
1b リード
2 半導体素子
3 プライマー層(樹脂組成物の膜)
4 ワイヤ
5 樹脂封止層
図1