IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の特許一覧

<>
  • 特許-樹脂用ドリル及び加工物の製造方法 図1
  • 特許-樹脂用ドリル及び加工物の製造方法 図2
  • 特許-樹脂用ドリル及び加工物の製造方法 図3
  • 特許-樹脂用ドリル及び加工物の製造方法 図4
  • 特許-樹脂用ドリル及び加工物の製造方法 図5
  • 特許-樹脂用ドリル及び加工物の製造方法 図6
  • 特許-樹脂用ドリル及び加工物の製造方法 図7
  • 特許-樹脂用ドリル及び加工物の製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-19
(45)【発行日】2025-08-27
(54)【発明の名称】樹脂用ドリル及び加工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B26F 1/16 20060101AFI20250820BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20250820BHJP
【FI】
B26F1/16
B23B51/00 H
B23B51/00 W
B23B51/00 S
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022196622
(22)【出願日】2022-12-08
(65)【公開番号】P2024082645
(43)【公開日】2024-06-20
【審査請求日】2025-05-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】井沢 憲行
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0060487(KR,A)
【文献】英国特許出願公開第02547715(GB,A)
【文献】実開昭49-142875(JP,U)
【文献】仏国特許発明第01178430(FR,A)
【文献】英国特許出願公開第02303810(GB,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0394281(US,A1)
【文献】特許第5823840(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2019/0076936(US,A1)
【文献】米国特許第2237901(US,A)
【文献】特許第6655193(JP,B2)
【文献】実開平3-19614(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
B26F1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなる被削材に対して穴明け加工を行うための樹脂用ドリルであって、
軸心回りに回転する円柱状のドリル本体と、
前記ドリル本体の先端に形成された平板状の切削チップと、を備え、
前記ドリル本体は、
前記ドリル本体の外周面に周方向に間隔を置いて形成され、前記ドリル本体の先端から基端側に向かって螺旋状に延びる複数の切屑排出溝と、
各切屑排出溝における前記ドリル本体の回転方向に向かう側の壁面と前記ドリル本体の外周面との稜線部に形成された外周刃と、を有し、
前記切削チップの少なくとも一部分は、先端角を有した三角形の平板状に形成され、
前記切削チップは、
第1チップ面と、
該第1チップ面の反対側に位置する第2チップ面と、
前記第1チップ面と前記第2チップ面との間に位置し、前記軸心に対して対称に配置された一対のチップ端面と、
前記第1チップ面と一方の前記チップ端面との稜線部に形成され、前記外周刃に繋がる第1先端刃と、
前記第2チップ面と他方の前記チップ端面との稜線部に形成され、前記外周刃に繋がる第2先端刃と、を有し、
前記切削チップは、
前記先端角を有した三角形の平板状に形成された第1部位と、
前記第1部位と前記ドリル本体の先端との間に位置し、矩形の平板状に形成された第2部位と、を有し、
前記切削チップの前記先端角は、67度~73度に設定されている、樹脂用ドリル。
【請求項2】
樹脂からなる被削材に対して穴明け加工を行うことによって加工物を製造する方法であって、
請求項に記載の樹脂用ドリルを回転させる回転工程と、
回転状態の前記樹脂用ドリルを被削材に接触させて、被削材に対して穴明け加工を行う加工工程と、
前記樹脂用ドリルを穴明け加工済みの被削材である加工物から離反させる離反工程と、を含む、加工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアクリル樹脂等の樹脂からなる被削材に対して穴明け加工を行うための樹脂用ドリル、及びその樹脂用ドリルを用いた加工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鉄鋼等の金属からなる被削材に対して穴明け加工を行うための金属用ドリルについては研究開発が進んでおり、多種類の金属用ドリルが市場に出回っている。これに対して、樹脂用ドリルについては研究開発が遅れており、僅かな種類の樹脂用ドリルの種類が市場に出回っているにすぎない。
【0003】
なお、本発明に関連する先行技術として、特許文献1に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6501374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
市販の樹脂用ドリル(後述の比較例2、3に係るドリル参照)は、樹脂からなる被削材に対して比較的小さい穴径(例えば3mm以下の穴径)の加工穴又は比較的浅い穴深さ(例えば2mm以下の穴深さ)の加工穴を高精度に穴明け加工することができる。一方、加工穴の穴径が大きくなったり又は加工穴の穴深さが深くなったりすると、穴明け加工時における樹脂用ドリルの先端部の摩擦熱が大きくなって、切屑が樹脂用ドリルの先端部に融着する。その結果、樹脂からなる被削材に対して比較的大きい穴径(例えば6mm以上の穴径)の加工穴又は比較的深い穴深さ(例えば5mm以上の穴深さ)の加工穴を穴明け加工する場合には、加工穴の形状が不正確な円形になり、加工穴の加工精度が低下する。
【0006】
なお、金属用ドリルを用いて、樹脂からなる被削材に対して穴明け加工を行う場合には、金属用ドリルの先端部が被削材に食い込んで、被削材の割れ又は欠けを招くことになる。
【0007】
そこで、本発明の一態様は、樹脂からなる被削材に対して比較的大きい穴径の加工穴又は比較的深い穴深さの加工穴を穴明け加工する場合に、加工穴の加工精度の高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するため、本願の発明者は、第1の知見を利用し、次に挙げる第2の知見を見出して、本発明を完成するに至った。第1の知見とは、樹脂用ドリルの先端部を三角形の平板状に形成することにより、樹脂からなる被削材に対して比較的大きい穴径の加工穴又は比較的深い穴深さの加工穴を穴明け加工する場合においても、樹脂用ドリルの先端部の摩擦熱を低減して、切屑が樹脂用ドリルの先端部に融着し難くなる、という知見のことである(後述の実施例参照)。また、第2の知見とは、樹脂用ドリルの先端部が、三角形の平板状の部位と、それに連続する矩形の平板状の部位を有することにより、樹脂からなる被削材に対して比較的大きい穴径の加工穴又は比較的深い穴深さの加工穴を穴明け加工する場合においても、切屑の排出性を高めて、切屑が樹脂用ドリルの先端部により融着し難くなる、という知見のことである(後述の実施例参照)。
【0009】
本発明の一態様に係る樹脂用ドリルは、樹脂からなる被削材に対して穴明け加工を行うための樹脂用ドリルであって、軸心回りに回転する円柱状のドリル本体と、前記ドリル本体の先端に形成された平板状の切削チップと、を備える。前記ドリル本体は、前記ドリル本体の外周面に周方向に間隔を置いて形成され、前記ドリル本体の先端から基端側に向かって螺旋状に延びる複数の切屑排出溝と、各切屑排出溝における前記ドリル本体の回転方向に向かう側の壁面と前記ドリル本体の外周面との稜線部に形成された外周刃と、を有する。前記切削チップの少なくとも一部分は、先端角を有した三角形の平板状に形成されている。前記切削チップは、第1チップ面と、該第1チップ面の反対側に位置する第2チップ面と、前記第1チップ面と前記第2チップ面との間に位置し、前記軸心に対して対称に配置された一対のチップ端面と、前記第1チップ面と一方の前記チップ端面との稜線部に形成され、前記外周刃に繋がる第1先端刃と、前記第2チップ面と他方の前記チップ端面との稜線部に形成され、前記外周刃に繋がる第2先端刃と、を有する。
【0010】
前記の構成によれば、前記切削チップの少なくとも一部分は、前記先端角を有した三角形の平板状に形成されている。換言すれば、前記樹脂用ドリルの先端部は、三角形の平板状に形成されている。そのため、前述の新規な第1の知見によると、樹脂からなる被削材に対して比較的大きい穴径の加工穴又は比較的深い穴深さの加工穴を穴明け加工する場合においても、樹脂用ドリルの先端部の摩擦熱を低減して、切屑が樹脂用ドリルの先端部に融着し難くなる。これにより、前記の場合においても、加工穴を正確な円形状に形成して、加工穴の加工精度を高めることができる。
【0011】
本発明の一態様に係る樹脂用ドリルにおいては、前記切削チップは、前記先端角を有した三角形の平板状に形成された第1部位と、前記第1部位と前記ドリル本体の先端との間に位置し、矩形の平板状に形成された第2部位と、を有してもよい。
【0012】
前記の構成によれば、樹脂用ドリルの先端部が、三角形の平板状の部位と、それに連続する矩形の平板状の部位を有している。そのため、前述の新規な第2の知見によると、被削材に対して比較的大きい穴径の加工穴又は比較的深い穴深さの加工穴を穴明け加工する場合においても、切屑の排出性を高めて、切屑が前記樹脂用ドリルの先端部により融着し難くなる。これにより、前記の場合においても、加工穴をより正確な円形状に形成して、加工穴の加工精度をより高めることができる。
【0013】
本発明の一態様に係る樹脂用ドリルにおいては、前記切削チップの前記先端角は、67度~73度に設定されてもよい。
【0014】
前記の構成によれば、前記切削チップの先端側の強度を十分に確保しつつ、切屑の排出性を高めて、切屑が前記樹脂用ドリルの先端部により融着し難くなる。これにより、前記樹脂用ドリルの耐久性を高めつつ、被削材に対して比較的大きい穴径の加工穴又は比較的深い穴深さの加工穴を穴明け加工する場合においても、加工穴の加工精度をより高めることができる。
【0015】
また、本発明の一態様に係る加工物の製造方法は、樹脂からなる被削材に対して穴明け加工を行うことによって加工物を製造する方法であって、本発明の一態様に係る樹脂用ドリルを回転させる回転工程と、回転状態の前記樹脂用ドリルを被削材に接触させて、被削材に対して穴明け加工を行う加工工程と、前記樹脂用ドリルを穴明け加工済みの被削材である加工物から離反させる離反工程と、を含む。
【0016】
前記の構成によれば、加工物が比較的大きい穴径の加工穴又は比較的深い穴深さの加工穴を有する場合においても、加工穴の加工精度を高めて、加工物の加工品質を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、樹脂からなる被削材に対して比較的大きい穴径の加工穴又は比較的深い穴深さの加工穴を穴明け加工する場合に、加工穴の加工精度の高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る樹脂用ドリルの模式的な正面図である。
図2】本発明の実施形態に係る樹脂用ドリルの一部の模式的な拡大正面図である。
図3】本発明の実施形態に係る樹脂用ドリルの一部の模式的な拡大側面図である。
図4】本発明の実施形態に係る樹脂用ドリルの先端から見た模式的な拡大図である。
図5】本発明の実施形態に加工物の製造方法における回転工程を説明する模式図である。
図6】本発明の実施形態に加工物の製造方法における加工工程を説明する模式図である。
図7】本発明の実施形態に加工物の製造方法における離反工程を説明する模式図である。
図8】実施例の場合、比較例1から比較例3の場合における加工試験の結果を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
〔樹脂用ドリル10〕
図1から図4を参照して、本発明の実施形態に係る樹脂用ドリル10について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る樹脂用ドリル10の模式的な正面図である。図2は、本発明の実施形態に係る樹脂用ドリル10の一部の模式的な拡大正面図である。図3は、本発明の実施形態に係る樹脂用ドリル10の一部の模式的な拡大側面図である。図4は、本発明の実施形態に係る樹脂用ドリル10の先端から見た模式的な拡大図である。
【0021】
(樹脂用ドリル10の概要、ドリル本体12、切削チップ14)
図1から図3に示すように、本発明の実施形態に係る樹脂用ドリル10は、例えばアクリル樹脂等の樹脂からなる被削材W(図5参照)に対して穴明け加工を行うための切削工具である。樹脂用ドリル10は、高速度工具鋼、超合金等の硬質材料から構成される。樹脂用ドリル10は、その軸心CS回りに回転可能である。樹脂用ドリル10を用いた穴明け加工によって、被削材Wには加工穴H(図6及び図7参照)が形成される。
【0022】
樹脂用ドリル10は、その軸心CS回りに回転する円柱状のドリル本体12と、ドリル本体12の先端に形成された平板状の切削チップ14とを備えている。切削チップ14は、ドリル本体12と一体形成されているが、ドリル本体12と別体形成されてもよい。換言すれば、切削チップ14は、溶接等によってドリル本体12の先端に接合されてよい。
【0023】
(シャンク部16、切屑排出溝18、副切屑排出溝20)
図1から図4に示すように、ドリル本体12は、その基端側に、ボール盤(不図示)又はドリルドライバ(不図示)のチャック部に装着されるシャンク部16を有している。ドリル本体12のうちシャンク部16を除く部位の外径は、先端側から基端側に向かって漸次僅かに小さくなっている。ドリル本体12の外周面12pにおけるシャンク部16よりも先端側には、切屑を排出するための一対の切屑排出溝18が周方向に間隔を置いて形成されている。各切屑排出溝18は、ドリル本体12の先端から基端側に向かって螺旋状に
延びている。一対の切屑排出溝18は、樹脂用ドリル10の先端から見て、ドリル本体12の軸心CSを中心として回転対称に配置されている。
【0024】
ドリル本体12の外周面12pにおける一対の切屑排出溝18の間には、切屑を排出するための副切屑排出溝20が形成されている。各副切屑排出溝20は、ドリル本体12の先端から基端側に向かって螺旋状に延びている。一対の副切屑排出溝20は、樹脂用ドリル10の先端から見て、ドリル本体12の軸心CSを中心として回転対称に配置されている。
【0025】
(外周刃22)
各切屑排出溝18におけるドリル本体12の回転方向Tに向かう側の壁面18fとドリル本体12の外周面12pとの稜線部には、外周刃22が形成されている。各切屑排出溝18におけるドリル本体12の回転方向Tに向かう側の壁面18fは、各外周刃22のすくい面になる。ドリル本体12の外周面12pにおける各外周刃22に隣接する部位は、各外周刃22の逃げ面になる。
【0026】
(第1部位P1、第2部位P2)
図2及び図3に示すように、切削チップ14は、先端角θを有した二等辺三角形の平板状に形成された第1部位P1と、第1部位P1とドリル本体12の先端との間に位置しかつ矩形の平板状に形成された第2部位P2とを有している。切削チップ14の第1部位P1の先端は、ドリル本体12の軸心CSに位置している。切削チップ14の厚みは、切削チップ14の基端側から先端側に向かって漸次に薄くなっている。なお、切削チップ14の第1部位P1は二等辺三角形の平板状であるが、二等辺三角形以外の三角形の平板状であってもよい。切削チップ14から第2部位P2を省略して、切削チップ14が第1部位P1のみからなるようにしてもよい。
【0027】
(第1チップ面14a、第2チップ面14b、チップ端面14c)
図2から図4に示すように、切削チップ14は、第1チップ面14aと、第1チップ面14aの反対側に位置する第2チップ面14bと、第1チップ面14aと第2チップ面14bとの間に位置する一対のチップ端面14cとを有している。一対のチップ端面14cは、ドリル本体12の軸心(樹脂用ドリル10の軸心)CSに対して対称に配置されている。
【0028】
(第1先端刃24、第2先端刃26)
図2から図4に示すように、切削チップ14における第1チップ面14aと一方のチップ端面14cとの稜線部には、第1先端刃24が形成されている。第1先端刃24は、一方の外周刃22に滑らかに繋がっている。切削チップ14の第1チップ面14aは、第1先端刃24のすくい面なっており、切削チップ14の一方のチップ端面14cは、第1先端刃24の逃げ面になっている。
【0029】
切削チップ14における第2チップ面14bと他方のチップ端面14cとの稜線部には、第2先端刃26が形成されている。第2先端刃26は、他方の外周刃22に滑らかに繋がっている。切削チップ14の第2チップ面14bは、第2先端刃26のすくい面なっており、切削チップ14の他方のチップ端面14cは、第2先端刃26の逃げ面になっている。
【0030】
(第1部位P1の先端角θ)
切削チップ14の第1部位P1の先端角θは、67度~73度に設定されている。切削チップ14の第1部位P1の先端角θを67度以上にしたのは、その先端角θが67度以上であると、切削チップ14の第1部位P1の先端側の強度を十分に確保して、第1先端
刃24又は第2先端刃26の刃欠け等が生じ難くなるからである。切削チップ14の第1部位P1の先端角θを73度以下にしたのは、その先端角θが73度以下であると、切屑の排出性を高めて、切屑が樹脂用ドリル10の先端部に溶着し難くなるからである。
【0031】
〔樹脂用ドリル10の作用効果〕
続いて、本発明の実施形態に係る樹脂用ドリル10の作用効果について説明する。
【0032】
樹脂用ドリル10においては、前述のように、切削チップ14の第1部位P1は、先端角θを有した二等辺三角形の平板状に形成されている。換言すれば、樹脂用ドリル10の先端部は、二等辺三角形の平板状に形成されている。そのため、前述の新規な第1の知見によると、例えばアクリル樹脂等の樹脂からなる被削材Wに対して比較的大きい穴径(例えば6mm以上の穴径)の加工穴H又は比較的深い穴深さ(例えば5mm以上の穴深さ)の加工穴Hを穴明け加工する場合においても、樹脂用ドリル10の先端部の摩擦熱を低減して、切屑が樹脂用ドリル10の先端部に融着し難くなる。これにより、前記の場合においても、加工穴Hを正確な円形状に形成して、加工穴の加工精度を高めることができる。
【0033】
また、樹脂用ドリル10においては、前述のように、切削チップ14は、二等辺三角形の平板状に形成された第1部位P1と、第1部位P1とドリル本体12の先端との間に位置しかつ矩形の平板状に形成された第2部位P2とを有している。換言すれば、樹脂用ドリル10の先端部が、三角形の平板状の部位と、それに連続する矩形の平板状の部位を有している。そのため、前述の新規な第2の知見によると、被削材Wに対して比較的大きい穴径の加工穴H又は比較的深い穴深さの加工穴Hを穴明け加工する場合においても、切屑の排出性を高めて、切屑が樹脂用ドリル10の先端部により融着し難くなる。これにより、前記の場合においても、加工穴Hをより正確な円形状に形成して、加工穴Hの加工精度をより高めることができる。
【0034】
更に、樹脂用ドリル10においては、前述のように、切削チップ14の第1部位P1の先端角θが67度~73度に設定されている。そのため、切削チップ14の先端側の強度を十分に確保しつつ、切屑の排出性を高めて、切屑が樹脂用ドリル10の先端部により融着し難くなる。従って、これにより、樹脂用ドリル10の耐久性を高めつつ、被削材Wに対して比較的大きい穴径の加工穴H又は比較的深い穴深さの加工穴Hを穴明け加工する場合においても、加工穴Hの加工精度をより高めることができる。
【0035】
〔加工物の製造方法〕
続いて、図5から図7を参照して、本発明の実施形態に係る加工物の製造方法について説明する。図5は、本発明の実施形態に加工物の製造方法における回転工程を説明する模式図である。図6は、本発明の実施形態に加工物の製造方法における加工工程を説明する模式図である。図7は、本発明の実施形態に加工物の製造方法における離反工程を説明する模式図である。
【0036】
(加工物の製造方法の概要)
図5から図7に示すように、本発明の実施形態に係る加工物の製造方法は、例えばアクリル樹脂等の樹脂からなる被削材Wに対して穴明け加工を行うことによって加工物Mを製造する方法である。本発明の実施形態に係る製造方法は、回転工程と、加工工程と、離反工程とを備えている。そして、本発明の実施形態に係る各工程の具体的な内容は、次の通りである。
【0037】
(回転工程)
図5に示すように、樹脂用ドリル10のドリル本体12のシャンク部16をボール盤(不図示)又はドリルドライバ(不図示)のチャック部に装着する。そして、ボール盤等を
駆動させて、樹脂用ドリル10(ドリル本体12)をその軸心CS周りに回転させる。
【0038】
(加工工程)
次に、図5及び図6に示すように、回転状態の樹脂用ドリル10を矢印方向F1へ被削材Wに対して相対的に移動させて、被削材Wに接触させる。更に、回転状態の樹脂用ドリル10を矢印方向F1へ被削材Wに対して相対的に移動させて、被削材Wに対して穴明け加工を行う。これにより、被削材Wに加工穴Hを形成することができる。
【0039】
(離反工程)
その後、図6及び図7に示すように、樹脂用ドリル10を矢印方向F2へ穴明け加工済みの被削材Wである加工物Mに対して相対的に移動させて、加工物Mから離反させる。これにより、加工物Mの製造が終了する。
【0040】
(加工物の製造方法の作用効果)
続いて、本発明の実施形態に係る加工物の製造方法の作用効果について説明する。
【0041】
本発明の実施形態に係る加工物の製造方法においては、前述の構成からなる樹脂用ドリル10を用いている。そのため、加工物Mが比較的大きい穴径(例えば6mm以上の穴径)の加工穴又は比較的深い穴深さ(例えば5mm以上の穴深さ)の加工穴Hを有する場合においても、加工穴Hの加工精度を高めて、加工物Mの加工品質を高めることができる。
【実施例
【0042】
図8を参照して、本発明の実施例について説明する。図8は、実施例の場合、比較例1から比較例3の場合における加工試験の結果を示す写真図である。
【0043】
図8に示すように、ドリル径12mmの樹脂用ドリル10(図1参照)を試作した実施例に係るドリルを用意した。また、神沢鉄工株式会社製の加工径12mmの板錐(イタギリ)を比較例1に係るドリルとして購入した。アクリルサンデー株式会社製のドリル径12mmのアクリル用ドリルビットを比較例2に係るドリルとして購入した。株式会社スターエム製のプラスチック用ドリルビットを比較例3に係るドリルとして購入した。
【0044】
そして、実施例に係るドリル、比較例1から比較例3に係るドリルを用いて、被削材として厚み10mmのアクリル押出板に対して穴明け加工を行う加工試験を実施した。実施例の場合、比較例1から比較例3の場合における加工試験の結果は、次の通りである。
【0045】
図8に示すように、比較例1の場合には、比較例1に係るドリルの先端部が薄板状でるため、比較例1に係るドリルの先端部の温度(切削温度)が48.2℃になり、比較例1に係るドリルの先端部の摩擦熱を低減できることが分かった。一方、比較例1に係るドリルの先端部以外が細軸形状であるため、比較例1に係るドリルはぶれやすく、正確な円形状の加工穴を形成できなかった。
【0046】
比較例2の場合には、比較例2に係るドリルの先端部の温度が83.4℃になり、比較例2に係るドリルの先端部の摩擦熱が大きくなることが分かった。また、比較例2に係るドリルの先端部に切屑が融着して、加工穴の加工面が安定せず、正確な円形状の加工穴を形成できなかった。
【0047】
比較例3の場合には、比較例3に係るドリルの先端部の温度が56.8℃になり、比較例3に係るドリルの先端部の摩擦熱が大きくなることが分かった。また、比較例4に係るドリルの先端部に切屑が融着して、加工穴の加工面が安定せず、正確な円形状の加工穴を形成できなかった。
【0048】
これに対して、実施例の場合には、実施例に係るドリルの先端部の温度が33.2℃になり、実施例に係るドリルの先端部の摩擦熱を十分に低減できることが分かった。また、実施例に係るドリルの先端部に切屑が融着し難くなり、正確な円形状の加工穴を形成でき、加工穴の加工精度を高めることができた。
【0049】
つまり、前述の加工試験の結果から、ドリルの先端部を三角形の平板状に形成することにより、樹脂からなる被削材に対して比較的大きい穴径の加工穴又は比較的深い穴深さの加工穴を穴明け加工する場合においても、ドリルの先端部の摩擦熱を低減して、切屑がドリルの先端部に融着し難くなることが分かった。また、ドリルの先端部が、三角形の平板状の部位と、それに連続する矩形の平板状の部位を有することにより、前記の場合においても、切屑の排出性を高めて、切屑が樹脂用ドリルの先端部により融着し難くなることが分かった。
【0050】
〔付記事項〕
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
10 樹脂用ドリル
12 ドリル本体
12p 外周面
14 切削チップ
14a 第1チップ面
14b 第2チップ面
14c チップ端面
16 シャンク部
18 切屑排出溝
18f 回転方向に向かう側の壁面
20 副切屑排出溝
22 外周刃
24 第1先端刃
26 第2先端刃
P1 第1部位
P2 第2部位
θ 先端角
W 被削材
M 加工物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8