(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-20
(45)【発行日】2025-08-28
(54)【発明の名称】発泡ガラス複合材料
(51)【国際特許分類】
B01J 20/02 20060101AFI20250821BHJP
B01J 20/32 20060101ALI20250821BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20250821BHJP
【FI】
B01J20/02 B
B01J20/32 Z
C02F1/28 P
(21)【出願番号】P 2023173693
(22)【出願日】2023-10-05
【審査請求日】2024-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390021348
【氏名又は名称】フジクリーン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 一也
(72)【発明者】
【氏名】林 広大
(72)【発明者】
【氏名】馬場 麻梨乃
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 聡
(72)【発明者】
【氏名】勝浦 柚
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-161398(JP,A)
【文献】特許第7174967(JP,B2)
【文献】特開2011-255341(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105126738(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/02
B01J 20/32
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡ガラス、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物を含有する発泡ガラス複合材料
であって、
前記発泡ガラス複合材料は、発泡ガラスに、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物が担持された、鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料であり、
前記鉄又はその化合物の担持率が、前記発泡ガラスの質量に対して、0.005~0.5質量%であり、
前記ランタン又はその化合物の担持率が、前記発泡ガラスの質量に対して、0.5~3.5質量%であり、かつ、
汚水中のリンを吸着除去するための、発泡ガラス複合材料。
【請求項2】
前記発泡ガラスの平均粒子径が、75mm以下である、請求項1に記載の発泡ガラス複合材料。
【請求項3】
発泡ガラスと鉄又はその化合物とランタン又はその化合物とを、700℃以下で焼成することで得られる、請求項1に記載の発泡ガラス複合材料。
【請求項4】
汚水に含まれるリンを除去するために用いられる、請求項1に記載の発泡ガラス複合材料。
【請求項5】
発泡ガラスと、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物とを混合する工程を備える、請求項1に記載の発泡ガラス複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記発泡ガラスと、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物とを混合する工程が、
前記発泡ガラスに鉄又はその化合物を担持して、鉄担持発泡ガラス複合材料を得る工程、及び
前記鉄担持発泡ガラス複合材料にランタン又はその化合物を担持して、鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料を得る工程を備える、請求項
5に記載の発泡ガラス複合材料の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料を700℃以下で焼成する工程を備える、請求項
6に記載の発泡ガラス複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の発泡ガラス複合材料を含むリン吸着材。
【請求項9】
請求項
8に記載のリン吸着材を備える、排水処理装置。
【請求項10】
請求項
8に記載のリン吸着材を、リンを含む液体に接触させる、リンの吸着方法。
【請求項11】
請求項
8に記載のリン吸着材を用いて、汚水中のリンを吸着除去する、リンの除去方法。
【請求項12】
汚水中のリンを吸着除去するための、発泡ガラス、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物を含有する発泡ガラス複合材料の使用方法
であって、
前記発泡ガラス複合材料は、発泡ガラスに、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物が担持された、鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料であり、
前記鉄又はその化合物の担持率が、前記発泡ガラスの質量に対して、0.005~0.5質量%であり、及び、
前記ランタン又はその化合物の担持率が、前記発泡ガラスの質量に対して、0.5~3.5質量%である、使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡ガラス複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃水、生活排水、農業排水等の汚水には、窒素、リン等の富栄養化をもたらす栄養塩類が含まれている。そして、これら汚水が河川、湖沼、海等に流入することによって、赤潮、アオコ等が大量に発生することが知られている。汚水は、都市部において、主に、下水処理場で浄化されている。しかし、日本の人口当たりの下水道普及率は、78.8%(平成29年度)であり、郊外、過疎地域等の下水道未整備地域には、排水処理システムとして浄化槽が設置されている。
一般的な浄化槽は、窒素及びリンの除去機能を有していない。そのため、全窒素及び全リンの環境基準達成率(平成27年度)は、湖沼において51.2%と低迷している。よって、下水道未整備地域に設置される浄化槽においても、窒素及びリンを除去する高度な処理が求められている。
【0003】
さらに、リン資源枯渇の観点からも、排水からリンを回収する必要がある。従来、水中のリンを除去する方法として、凝集剤として金属塩又は石灰を用いる凝集沈殿法、微生物の代謝を利用する生物学的脱リン法(活性汚泥法)、吸着法等が知られている。凝集沈殿法は、多くの高価な凝集剤の添加を必要とし、多量の処理しにくい汚泥を排出することから、イニシャルコスト及びランニングコストパフォーマンスが悪い。生物学的脱リン法(活性汚泥法)は、細かな溶存酸素濃度の管理、及び最終沈殿池における汚泥管理を必要とすることに加え、高リン含有率の汚泥の処理及び処分が必要となる。よって、浄化槽等の分散型排水処理装置でこれらの方法を適用する場合には、設備の増加に加え、常時、専門家による運転管理を行う必要がある。
【0004】
ところで、日本では、2001年に資源有効利用促進法が制定され、ガラス分野でも、リデュース、リユース、及びリサイクルの3Rへの取り組みが推進されている。
ガラスは、リサイクルを何回行っても品質が維持でき、資源化が可能という特性を有している。しかしながら、現在、ビール瓶以外のガラス製品は回収不十分で、その多くが埋め立て処理されており、土壌汚染の問題等が発生している。さらに、将来的には廃棄物処分場の建設問題等が懸念されており、廃棄されたガラス(廃ガラス)の新たな有効利用法を見出すことが必要となっている。
【0005】
上記の課題を解決する方法として、近年、リン等の水質汚濁物質の除去に廃ガラスを利用する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、廃ガラスを原料として用いた発泡ガラスを含むリン酸イオン吸着材が提案されている。特許文献1には、発泡ガラスにカルシウム、マグネシウム、又は鉄の少なくとも1種を含む材料を加えることが記載されているが、ランタンを加えることについては、記載はおろか示唆すらされていない。
特許文献2には、多孔質担体である発泡ガラスにリモナイト成分を担持させた多孔質機能材料が提案されている。引用文献2には、発泡ガラスに鉄又はマンガンが担持された多孔質機能材料について記載されているが、ランタンを担持することについては、記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-161398号公報
【文献】特開2015-192977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、リン等の水質汚濁物質を除去することができる、新規の発泡ガラス複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らがリン等の水質汚濁物質を除去することができる、新規の発泡ガラス複合材料を開発すべく鋭意検討した結果、発泡ガラスに鉄及びランタンが担持された複合材料が、水質汚濁物質、特にリンを吸着する能力に優れていることを見出した。本発明はこのような知見に基づき完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
項1.
発泡ガラス、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物を含有する発泡ガラス複合材料。
項2.
前記ランタン又はその化合物の含有率が、0.01質量%以上である、項1に記載の発泡ガラス複合材料。
項3.
前記鉄又はその化合物の含有率が、0.005質量%以上である、項1に記載の発泡ガラス複合材料。
項4.
前記発泡ガラスの平均粒子径が、75mm以下である、項1に記載の発泡ガラス複合材料。
項5.
発泡ガラスと鉄又はその化合物とランタン又はその化合物とを、700℃以下で焼成することで得られる、項1に記載の発泡ガラス複合材料。
項6.
汚水に含まれるリンを除去するために用いられる、項1に記載の発泡ガラス複合材料。
項7.
発泡ガラスと、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物とを混合する工程を備える、項1に記載の発泡ガラス複合材料の製造方法。
項8.
前記発泡ガラスと、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物とを混合する工程が、
前記発泡ガラスに鉄又はその化合物を担持して、鉄担持発泡ガラス複合材料を得る工程、及び
前記鉄担持発泡ガラス複合材料にランタン又はその化合物を担持して、鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料を得る工程を備える、項7に記載の発泡ガラス複合材料の製造方法。
項9.
さらに、前記鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料を700℃以下で焼成する工程を備える、項8に記載の発泡ガラス複合材料の製造方法。
項10.
項1~項6のいずれか一項に記載の発泡ガラス複合材料を含むリン吸着材。
項11.
項10に記載のリン吸着材を備える、排水処理装置。
項12.
項10に記載のリン吸着材を、リンを含む液体に接触させる、リンの吸着方法。
項13.
項10に記載のリン吸着材を用いて、汚水中のリンを吸着除去する、リンの除去方法。
項14.
汚水中のリンを吸着除去するための、発泡ガラス、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物を含有する発泡ガラス複合材料の使用方法。
項15.
項7~項9のいずれか一項に記載の発泡ガラス複合材料の製造方法によって得られた発泡ガラス複合材料。
項16.
項7~項9のいずれか一項に記載の発泡ガラス複合材料の製造方法によって得られた発泡ガラス複合材料を含むリン吸着材。
【0010】
なお、本発明のうち、製造工程で規定された発泡ガラス複合材料又はリン吸着材は、現時点で、どのような成分までが含まれているか、又は、その構造がどのようなものであるか、その全てを特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって記載している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リン等の環境汚染物質を除去することができる、新規の発泡ガラス複合材料を提供することができる。本発明の発泡ガラス複合材料は、水質汚濁物質、特にリンを吸着する能力に優れているため、リン吸着材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、発泡ガラスへのランタン担持率と、リン酸態リン吸着率との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、ランタンを3.5質量%担持した発泡ガラスの焼成温度と、リン酸態リン吸着率との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、リン酸態リン初期濃度が10mg-P/Lのときの、鉄-ランタン(3.5質量%)担持発泡ガラスにおける鉄担持率と、リン酸態リン吸着率との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、リン酸態リン初期濃度が100mg-P/Lのときの、鉄-ランタン(3.5質量%)担持発泡ガラスにおける鉄担持率と、リン酸態リン吸着率との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、リン酸態リン初期濃度が100mg-P/Lのときの、鉄-ランタン(3.5質量%)担持発泡ガラスにおける鉄担持率と、波長660nmにおける吸光度との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、発泡ガラスへの鉄担持率と、発泡ガラス複合材料の比表面積との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、鉄(0.1質量%)担持発泡ガラスへのランタン担持率と、リン酸態リン吸着率との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、リン酸態リン初期濃度が1mg-P/Lのときの、鉄(0.1質量%)-ランタン(2質量%)担持発泡ガラスのリン酸態リン吸着量の経時変化を示すグラフである。
【
図9】
図9は、リン酸態リン初期濃度が10mg-P/Lのときの、鉄(0.1質量%)-ランタン(2質量%)担持発泡ガラスのリン酸態リン吸着量の経時変化を示すグラフである。
【
図10】
図10は、鉄(0.1質量%)-ランタン(2質量%)担持発泡ガラスの、リン酸態リンの平衡濃度と平衡吸着量との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実排水を用いた吸着実験で使用するリン除去装置の模式図である。
【
図12】
図12は、鉄(0.1質量%)-ランタン(3.5質量%)担持発泡ガラス複合材料、又は発泡ガラスを用いた時の、排水1(リン酸態リン初期濃度5mg-P/L)中のリン酸態リン濃度の経時変化を示すグラフである。
【
図13】
図13は、鉄(0.1質量%)-ランタン(3.5質量%)担持発泡ガラス複合材料、又は発泡ガラスを用いた時の、排水2(リン酸態リン初期濃度15mg-P/L)中のリン酸態リン濃度の経時変化を示すグラフである。
【
図14】
図14は、鉄(0.1質量%)-ランタン(3.5質量%)担持発泡ガラス複合材料、又は発泡ガラスを用いた時の、排水3(リン酸態リン初期濃度50mg-P/L)中のリン酸態リン濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.発泡ガラス複合材料
本発明の発泡ガラス複合材料は、発泡ガラス、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物を含有する。本発明の発泡ガラス複合材料は、発泡ガラスに、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物が担持された、鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料ということもできる。
本発明の発泡ガラス複合材料は、多孔質である発泡ガラスの表面に鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物が担持されており、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物がリン等の水質汚濁物質を吸着することから、リン等の水質汚濁物質を除去することができる。
【0014】
発泡ガラス
発泡ガラスとは、多数の細孔を有するガラスである。発泡ガラスは、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、粉砕したガラスと発泡剤とを混合したものを焼成することによって製造することができる。
以下、発泡ガラスの製造方法の一例について詳細に説明する。
【0015】
まず、発泡ガラスの原料となるガラス(以下、「原料ガラス」と称する)を粉砕する。原料ガラスの種類は、特に限定はなく、例えば、ソーダ石灰ガラス、ほうケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、クリスタルガラス等が挙げられる。原料ガラスには、例えば、ブラウン管、液晶、プラズマディスプレイ、太陽光パネル等に由来する廃ガラスを用いてもよく、又は、新品の製造ガラスを用いてもよい。また、原料ガラスの粉砕方法は、特に限定はなく、例えば、市販の振動ミル、ボールミル等を用いて粉砕することができる。なお、粉砕の前段階として、例えば、ジョークラッシャー等を使用して、原料ガラスを10mm程度の大きさに破砕し、破砕したガラスを粉砕してもよい。粉砕後のガラス(以下、「粉砕ガラス」と称する)の粒径は、特に限定されないが、粉砕ガラスと発泡剤とが均一に混合されるように小さい方が好ましい。例えば、原料ガラスの粉砕後に目開きが200μm以下である篩を用いて粒度選別を行って、粉砕ガラスの粒径が200μm以下になるようにすることが好ましい。
【0016】
次に、粉砕ガラスと発泡剤とを混合する。発泡剤の種類は、特に限定されず、例えば、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(SiN)、炭酸カルシウム(CaCO3)、ドロマイト(CaMg(CO3)2)、炭酸マグネシウム(MgCO3)等を含む材料(貝殻等)等を用いることができる。このような発泡剤は、ガラスが軟化する温度でガスを発生させるので、その結果、ガラス内部に多数の細孔が形成されて、発泡ガラスが製造される。また、発泡剤の添加量は、特に限定されないが、原料ガラスに対して0.1~5質量%が好ましく、0.2~2.0質量%がより好ましい(特開2011-161398号公報参照)。発泡剤をこのような範囲で使用することで、発泡が十分に起こり、かつ、発泡過剰による発泡ガラスの強度低下が生じることを避けることができる。粉砕ガラスと発泡剤とを混合する際には、カルシウム、マグネシウム、又は鉄のうちの少なくとも1種を含む材料を加えることもできる。このような材料としては、具体的には、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、ベンガラ、フェライト等が挙げられる。前記材料の添加量は、特に限定されないが、原料ガラスに対して1~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい(特開2011-161398号公報参照)。前記材料をこのような範囲で使用することで、リン等の吸着率を向上させることができる。
【0017】
次に、粉砕ガラスと発泡剤との混合物を焼成する。焼成の温度及び時間は、ガラスが適切に発泡するように、ガラス及び発泡剤の種類に応じて適宜設定すればよい。焼成温度は、例えば、600~1150℃である。原料ガラスがソーダ石灰ガラスである場合には、焼成温度は800~1000℃が好ましく、800℃でガラスを溶かした後に900℃で発泡させることがより好ましい。焼成温度がこのような範囲であれば、ガラスが十分に軟化して細孔が適切に形成され、かつ、ガラスが柔らかくなりすぎないので形成された細孔が再度塞がることを避けることができる。また、焼成時間は、例えば、1~60分であり、好ましくは、5~10分である。焼成時間がこのような範囲内であれば、発泡が十分に起こり、かつ、形成された細孔が再度塞がったり泡がくっつきあうことによって表面の微細さが無くなったりすることを避けることができる(特開2011-161398号公報参照)。
【0018】
以上の工程によって、発泡ガラスが製造される。製造された発泡ガラスは、塊状のまま用いてもよいが、粉砕したものを用いてもよい。塊状のまま用いる場合の発泡ガラスの平均粒子径は、特に限定されないが、75mm以下が好ましく、2~75mmがより好ましく、5~40mmがさらに好ましく、10~20mmが特に好ましい。粉砕後の発泡ガラスの平均粒子径は、特に限定されないが、2mm以下が好ましく、1mm以下がさらに好ましく、0.6mm以下がさらに好ましい。
【0019】
なお、発泡ガラスは、スーパーソル(登録商標)、ミラクルソル、バブグラス(登録商標)、ポーラスα(登録商標)等の商品名で市販されているため、これらの市販品を用いることも可能である。
【0020】
発泡ガラスは多孔質であって、軽量であるため、運搬、移動、取り回し等が容易である。また、発泡ガラスは構造上、化学的に安定しているため、劣化、溶出等が起きにくい。
【0021】
鉄又はその化合物
本発明の発泡ガラス複合材料に含まれる鉄又はその化合物は、鉄を含んでいれば特に限定されず、例えば、鉄原子(Fe)、鉄イオン(Fe2+、Fe3+)、酸化鉄、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄、リン酸鉄等が挙げられる。また、原料として使用する水溶性の鉄化合物であってもよい。
発泡ガラス複合材料に含まれる酸化鉄としては、例えば、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(II,III)(Fe3O4)、酸化鉄(III)(Fe2O3)等が挙げられる。
発泡ガラス複合材料に含まれる水酸化鉄としては、例えば、ゲーサイト(針鉄鉱)(FeO(OH))、水酸化鉄(II)(Fe(OH)2)、水酸化鉄(III)(Fe(OH)3)等が挙げられる。
発泡ガラス複合材料に含まれるオキシ水酸化鉄としては、例えば、ゲーサイト(針鉄鉱)(FeO(OH))等が挙げられる。
発泡ガラス複合材料に含まれるリン酸鉄としては、例えば、リン酸鉄(III)(FePO4)等が挙げられる。
発泡ガラス複合材料に含まれる、水溶性の鉄化合物として、例えば、塩化鉄(II)(FeCl2)、塩化鉄(III)(FeCl3)、硝酸鉄(II)(Fe(NO3)2)、硝酸鉄(III)(Fe(NO3)3)、硫酸鉄(II)(FeSO4)、硫酸鉄(III)(Fe2(SO4)3)、酢酸鉄(II)(Fe(CH3CO2)2);又はそれらの水和物等が挙げられる。
【0022】
発泡ガラス複合材料中の鉄の含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定することができる。なお、前記発泡ガラス複合材料中の鉄又はその化合物の含有量は、鉄(金属)としての質量での理論上の担持率を示している。また、前記発泡ガラス複合材料中の鉄の含有量には、発泡ガラスの内部に含まれるガラス由来の鉄の含有量は含まれない。
発泡ガラス複合材料に含まれる鉄又はその化合物の含有量は、発泡ガラス100質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.05~0.5質量部、特に好ましくは0.1~0.25質量部である。
すなわち、発泡ガラス複合材料中の鉄又はその化合物の含有率は、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.05~0.5質量%、特に好ましくは0.1~0.25質量%である。
【0023】
ランタン又はその化合物
本発明の発泡ガラス複合材料に含まれるランタン又はその化合物は、ランタンを含んでいれば特に限定されず、例えば、ランタン原子(La)、ランタンイオン、酸化ランタン、水酸化ランタン、リン酸ランタン等が挙げられる。原料として使用される水溶性のランタン化合物であってもよい。
発泡ガラス複合材料に含まれる、水溶性のランタン化合物として、例えば、塩化ランタン(LaCl3)、硝酸ランタン(La(NO3)3)、硫酸ランタン(La2(SO4)3)、酢酸ランタン(La(CH3CO2)3);又はそれらの水和物等が挙げられる。
【0024】
発泡ガラス複合材料中のランタンの含有量は、例えば、蛍光X線分析法により測定することができる。なお、前記発泡ガラス複合材料中のランタンの含有量は、ランタン(金属)としての質量での担持率を意味し、理論値である。
発泡ガラス複合材料に含まれるランタン又はその化合物の含有量は、発泡ガラス100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.5~3.5質量部、さらに好ましくは2~3.5質量部である。
すなわち、発泡ガラス複合材料中のランタン又はその化合物の含有率は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.5~3.5質量%、さらに好ましくは2~3.5質量%である。
各成分の含有量の上記範囲にすることで、より高いリン吸着性能を発揮することができる発泡ガラス複合物を得ることができる。
【0025】
なお、本発明の発泡ガラス複合材料は、上述したとおり、発泡ガラス、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物を含むものであるが、原料として、発泡ガラス、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物を含むものであればよく、例えば、原料である、これら「発泡ガラス、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物から得られる発泡ガラス複合材料」、「発泡ガラス、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物を反応させて製造される発泡ガラス複合材料」等も含んでいてもよい。ここでいう「発泡ガラス、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物から得られる発泡ガラス複合材料」は、現時点でどのような成分までが含まれているのか、その全てを特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって発泡ガラス複合材料を記載している。
【0026】
前記発泡ガラス複合材料のBET比表面積は、1m2/g以上が好ましく、2m2/g以上がより好ましく、4m2/g以上がさらに好ましい。前記発泡ガラス複合材料のBET比表面積が1m2/g以上であることで、高いリン吸着性能を発揮することができる。なお、BET比表面積の上限は、特に限定されないが、20m2/g程度である。
【0027】
前記発泡ガラス複合材料は粒子状であることが好ましい。その粒子径は限定的でなく、その用途、使用条件(リン吸着条件)等に応じて適宜設定することができる。例えば、平均粒子径を1~30mm程度とすればよい。前記発泡ガラス複合材料をリン吸着材として浄化槽で使用する場合には、取り扱いの観点から、平均粒子径は5mm以上が好ましく、5~30mmがより好ましく、10~20mmがさらに好ましい。これらの粒度調整は、例えば、分級、粉砕等の公知の方法を用いることによって実施することができる。また、発泡ガラス複合材料の粒子形状も限定的でなく、例えば、塊状、球状、フレーク状、不定形状等のいずれの形態であってもよい。特に、固定床(カラム等)への充填性、液体の流通性等の見地より、塊状又は球状であることが好ましい。
【0028】
2.発泡ガラス複合材料の製造方法
本発明の発泡ガラス複合材料の製造方法は、発泡ガラスと、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物とを混合する工程を備える。発泡ガラス、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物を含有する発泡ガラス複合材料が得られる限り、その製造方法は、特に限定されない。
【0029】
製造方法として、例えば、(1)発泡ガラスに鉄又はその化合物とランタン又はその化合物とを同時に担持して、発泡ガラスに、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物が担持された発泡ガラス複合材料(鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料)を得る方法、(2)発泡ガラスに鉄又はその化合物を担持して、鉄担持発泡ガラス複合材料を得た後、前記鉄担持発泡ガラス複合材料にランタン又はその化合物を担持することで、発泡ガラスに、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物が担持された発泡ガラス複合材料(鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料)を得る方法、(3)発泡ガラスにランタン又はその化合物を担持して、ランタン担持発泡ガラス複合材料を得た後、前記ランタン担持発泡ガラス複合材料に鉄又はその化合物を担持することで、発泡ガラスに、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物が担持された発泡ガラス複合材料(鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料)を得る方法等が挙げられる。
上記製造方法の中で、発泡ガラスの比表面積を大きくして、ランタンの担持率を向上させる観点から、(2)発泡ガラスに鉄又はその化合物を担持して、鉄担持発泡ガラス複合材料を得た後、前記鉄担持発泡ガラス複合材料にランタン又はその化合物を担持することで、発泡ガラスに、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物が担持された発泡ガラス複合材料(鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料)を得る方法が好ましい。前記(2)の製造方法は、発泡ガラスに鉄又はその化合物を担持して、鉄担持発泡ガラス複合材料を得る工程、及び、前記鉄担持発泡ガラス複合材料にランタン又はその化合物を担持して、鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料を得る工程を備える方法ということができる。
【0030】
上記(2)において、発泡ガラスに鉄又はその化合物を担持して、鉄担持発泡ガラス複合材料を得る工程としては、例えば、水溶性の鉄化合物を水に溶解させた鉄水溶液に発泡ガラスを浸漬させ、乾燥させる方法、前記発泡ガラスに前記鉄水溶液を噴霧する方法等が挙げられる。
水溶性の鉄化合物は、水溶液中で鉄イオン(Fe2+、Fe3+)を放出する化合物であれば、特に限定されない。このような水溶性の鉄化合物として、例えば、塩化鉄(II)(FeCl2)、塩化鉄(III)(FeCl3)、硝酸鉄(II)(Fe(NO3)2)、硝酸鉄(III)(Fe(NO3)3)、硫酸鉄(II)(FeSO4)、硫酸鉄(III)(Fe2(SO4)3)、酢酸鉄(II)(Fe(CH3CO2)2)、及びこれらの水和物等が挙げられる。使用する鉄水溶液の濃度は、最終生成物である発泡ガラス複合材料に含まれる鉄含有量が、発泡ガラス100質量部に対して0.005質量部以上となるように適宜調整すればよい。
【0031】
前記鉄担持発泡ガラス複合材料にランタン又はその化合物を担持する工程は、例えば、水溶性のランタン又はその化合物を水に溶解させたランタン水溶液に鉄担持発泡ガラス複合材料を浸漬させ、乾燥させる方法、前記鉄担持発泡ガラス複合材料に前記ランタン水溶液を噴霧する方法等が挙げられる。
水溶性のランタン化合物として、水溶液中でランタンイオン(La3+)を放出する化合物であれば、特に限定されない。このような水溶性のランタン化合物として、例えば、塩化ランタン(LaCl3)、硝酸ランタン(La(NO3)3)、硫酸ランタン(La2(SO4)3)、酢酸ランタン(La(CH3CO2)3)、及びこれらの水和物等が挙げられる。使用するランタン水溶液の濃度は、最終生成物である鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料に含まれるランタン含有量が、発泡ガラス100質量部に対して0.01質量部以上となるように適宜調整すればよい。
【0032】
発泡ガラス100質量部に対して、鉄を好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.05~0.5質量部、特に好ましくは0.1~0.25質量部担持させ、かつ、前記発泡ガラス100質量部に対してランタンを好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.5~3.5質量部、さらに好ましくは2~3.5質量部担持させることができる。
【0033】
得られた発泡ガラス複合材料は、さらに乾燥し、その後に焼成することが好ましい。発泡ガラス複合材料を乾燥し、それを焼成することにより、発泡ガラスとランタンとの結合を強めてランタンが剥がれるのを防ぐとともに、発泡ガラス複合材料のリン吸着性能を高めることができる。
乾燥温度は、乾燥温度50℃以上で行うことが好ましく、80℃以上がより好ましく、さらに好ましくは100℃以上である。乾燥温度の上限は、特に限定されないが、一般的に200℃以下であり、好ましくは150℃以下である。乾燥時間は、発泡ガラスの種類、乾燥温度等にもよるが、基本的には含有水分量を除去するのに必要な時間を設定すればよい。熱風オーブン等の通気性に優れた乾燥を行うことも好ましい。
焼成温度は、ランタン等が剥がれず、且つ、高いリン吸着率を得る観点から、通常750℃以下であり、250~700℃が好ましく、260~400℃がより好ましく、300~380℃がさらに好ましく、330~370℃が特に好ましい。
【0034】
焼成雰囲気は特に限定されず、例えば、酸化性雰囲気中(大気中)、還元性雰囲気中、不活性ガス雰囲気中等のいずれであってもよい。焼成時間も、焼成温度等に応じて適宜調整することができる。
【0035】
得られた焼成体は、具体的な使用環境に応じて、さらに加工されてもよい。例えば、比較的大きい発泡ガラスを用いて発泡ガラス複合材料を製造した場合、そのまま使用してもよいし、必要に応じて粉砕、分級等の処理を行った後に使用してもよい。
このようにして得られる本発明の発泡ガラス複合材料は、多孔質である発泡ガラスの表面に鉄及びランタンが担持しており、鉄及びランタンが、リン等の水質汚濁物質を吸着することから、水質汚濁物質を除去することができる。よって、本発明の発泡ガラス複合材料は、優れた環境浄化活性を示す。具体的には、本発明の発泡ガラス複合材料は、水中のリンの除去、ヒ素の除去等、水中の水質汚濁物質除去材として利用することができる。本発明の発泡ガラス複合材料は、特に、汚水中のリン(リン酸イオン、リン酸態リン、溶存態無機リン酸等)の吸着能力が優れることから、リン吸着材として使用することができる。
【0036】
3.リン吸着材
本発明のリン吸着材は、上述した発泡ガラス複合材料を含む。よって、本発明のリン吸着材は、発泡ガラス、鉄又はその化合物及びランタン又はその化合物を含む。
【0037】
リン吸着材のBET比表面積は、1m2/g以上が好ましく、2m2/g以上がより好ましく、4m2/g以上がさらに好ましい。リン吸着材のBET比表面積が1m2/g以上であることで、高いリン吸着性能を発揮することができる。なお、BET比表面積の上限は、特に限定されないが、20m2/g程度である。
【0038】
リン吸着材は粒子状であることが好ましい。その粒径は限定的でなく、その用途、使用条件(リン吸着条件)等に応じて適宜設定することができる。例えば、平均粒径を1~30mm程度とすればよい。浄化槽で使用する場合には、取り扱いの観点から、5mm以上が好ましく、5~30mmがより好ましく、10~20mmがさらに好ましい。これらの粒度調整は、例えば、分級、粉砕等の公知の方法を用いることによって実施することができる。また、リン吸着材の粒子形状も限定的でなく、例えば、塊状、球状、フレーク状、不定形状等のいずれの形態であってもよい。特に、固定床(カラム等)への充填性、液体の流通性等の見地より、塊状又は球状であることが好ましい。
【0039】
吸着の対象となるリンは、リン元素を含むものであれば特に限定されず、例えば、リン元素を含むイオン(リン酸イオン)が挙げられる。リン酸イオンには、オルトリン酸(H3PO4)が解離する段階で生じる、オルトリン酸イオン(PO4
3-)、リン酸二水素イオン(H2PO4
-)及びリン酸水素イオン(HPO4
2-)、及び、亜リン酸イオン、ポリリン酸イオン等が含まれる。
【0040】
実験条件により変化するが、例えば、本発明のリン吸着材のリン吸着量は1.4mg/g以上であり、リン吸着量は多い方が好ましい。本発明のリン吸着材のリン吸着速度は、1.6~6.6mg/L/時程度である(実施例参照)。このように、本発明のリン吸着材は、リン吸着性能が高い(リン吸着量が多く、リン吸着速度が速い)ことから、水中のリンを除去するために用いることができる。特に、本発明のリン吸着材は、浄化槽排水で発生するようなリン濃度(1~5mg/L)(低濃度帯)でのリン吸着性能が高いことから、分散型排水処理装置、特に浄化槽に適用することができる。
【0041】
4.リンの吸着方法
本発明は、上記リン吸着材を、リンを含む液体に接触させる工程を含むリンの吸着方法も包含する。液体に含まれるリンは、リン元素を含むものであれば特に限定されず、例えば、リン元素を含むイオン(リン酸イオン)、リン酸態リン、溶存態無機リン酸等が挙げられる。
【0042】
本発明の吸着方法では、上記吸着材がリンを含む液体と接触できるようにする限り、その形態は特に限定されない。例えば、バッチ式で上記液体と接触させる方法、連続式で上記液体を連続的に供給及び流動させながら接触させる方法等のいずれであってもよい。また、固定床方式プロセス又は移動床式プロセスを用いることもできる。
【0043】
リンを含む液体(特に水を媒体とする液体)は特に限定されず、例えば、産業廃水、生活排水、農業排水等の汚水;湖沼水、海水、河川水等が挙げられる。また、これらの液体のリン酸濃度も限定的でなく、例えば0.1~200mg-P/L程度に予め調整しておくことができる。なお、前記濃度の単位(mg-P/L)は、リン酸態リンの濃度であり、リン酸イオンとして存在するリンの質量濃度を示している。
リンを含む液体と接触させる際の温度(すなわち、前記液体の液温)も、液体状態が維持されている限り、特に限定されない。
【0044】
リンを含む液体に対する本発明のイオン吸着材の使用量は特に限定されず、リンの濃度等に応じて適宜決定することができる。
【0045】
上述したように、本発明の発泡ガラス複合材料を含むリン吸着材は、例えば、排水処理装置に適用することができる。前記排水処理装置として、具体的には、集合型の廃水(汚水)処理施設、分散型排水処理装置等を挙げることができる。したがって、本発明には、上記リン吸着材を用いて、集合型の廃水(汚水)処理施設中のリン、又は分散型排水処理装置中のリンを吸着除去する工程を含む、リンの除去方法も包含される。集合型の廃水(汚水)処理施設としては、例えば、下水処理場、農業集落排水処理施設、し尿処理場等が挙げられる。分散型排水処理(個別分散型排水処理ともいう)とは、排水の発生場所で処理を行うことをいう。分散型排水処理装置とは、前記分散型排水処理で使用される装置をいい、例えば、浄化槽、セプティックタンク(腐敗槽)、小規模事業所排水処理装置、植生浄化装置等が挙げられる。本発明のリン吸着材は、安価であり、かつメンテナンス頻度が少なくすむことから、分散型排水処理装置に好ましく適用することができる。
【0046】
本発明の吸着方法で使用した後の吸着材は、物理的処理又は化学的処理を施すことで、吸着したリンを脱離させることができる。物理的処理として、例えば、超音波、加熱、加電圧、気圧又は水圧制御等を挙げることができる。化学的処理として、酸又はアルカリによるpH制御等を挙げることができる。脱離したリン成分は、リン吸着材と分離して回収することができる。リン成分を分離したリン吸着材も、再利用することができる。あるいは、リンを吸着した吸着材をそのまま肥料として使用することもできる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0048】
実験例1(発泡ガラスの組成)
原料である発泡ガラスの化学組成を求めた。以下に示す、メノウ乳鉢で粉砕した2種類の発泡ガラスについて、波長分散小型蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、Supermini200)で化学組成を求めた。結果を表1に示す。
・発泡ガラス1(商品名スーパーソル(登録商標)L2、株式会社こっこー製、透明ガラスを主原料とする発泡ガラス(粒子径:約2~10mm)を、メノウ乳鉢で粉砕したもの)
・発泡ガラス2(商品名スーパーソル(登録商標)L2、株式会社こっこー製、色付きガラスを主原料とする発泡ガラス(粒子径:約2~10mm)を、メノウ乳鉢で粉砕したもの)
【0049】
【0050】
<結果>
表1より、発泡ガラス1及び2の主成分はソーダガラスであり、ナトリウム及びケイ素の含有率が高いことがわかった。
【0051】
実験例2(発泡ガラスのみのリン吸着能評価)
50mL遠沈管に発泡ガラス3(商品名スーパーソル(登録商標)L2、株式会社こっこー製、色付きガラスを主原料とする発泡ガラス(粒子径:約2~10mm)、比重:0.35~0.5)1.5g、又は発泡ガラス4(商品名スーパーソル(登録商標)L4、株式会社こっこー製、粒子径:約2~10mm、比重:1.0~1.6)2gを入れ、10mg-P/Lのリン酸態リン標準液を50mL加えてインキュベーター(東京理化器械株式会社製、LTE-1010)内の振とう機(東京理化器械株式会社製、MMS-1020)で100rpm、25℃にて24時間振とうした。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルター(Milipore社製、SLHN033NB)でろ過した。
ろ液のリン酸態リン濃度は、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-2600)を用いてモリブデンブルー吸光光度法により吸光度880nmにおける吸光度を測定し、以下の式により吸着率を算出した。なお、吸着試験は3連で行った。
【数1】
【0052】
また、実験終了時のpHを、pH測定器(株式会社堀場製作所製、堀場コンパクトpHメータLAQUAtwin pH-33B)により測定した。
それらの結果を表2に示す。
【0053】
【0054】
<結果>
表2より、発泡ガラス3及び4は、リン酸態リンの吸着能がほとんどないことがわかった。また、実験終了時のpHが8.30~10.2とアルカリ側にシフトした。発泡ガラス3については、浄化槽の放流基準(pH5.8~8.6)を超過した。
【0055】
実験例3(発泡ガラスへの担持元素の選定)
実験例2と同様に、発泡ガラス3(商品名スーパーソル(登録商標)L2、株式会社こっこー製、色付きガラスを主原料とする発泡ガラス(粒子径:約2~10mm)、比重:0.35~0.5)、及び発泡ガラス4(商品名スーパーソル(登録商標)L4、株式会社こっこー製、粒子径:約2~10mm、比重:1.0~1.6)を使用して実験を行った。
(3-1)各種金属担持発泡ガラスの作製
ランタン、鉄、及びジルコニウムの担持率が発泡ガラス3又は発泡ガラス4の質量に対して、理論値で1質量%となるように、それぞれ、塩化ランタン七水和物、塩化鉄(II)四水和物、塩化酸化ジルコニウム・八水和物を純水に溶かして金属溶液とした。次に、前記発泡ガラス3又は発泡ガラス4をディスポカップに8g量りとり、前述の金属溶液を加え、発泡ガラス3又は発泡ガラス4の粒子全体が浸るまで純水を加え、1日間静置して金属を担持させた。その後、各種金属を担持した発泡ガラス3又は各種金属を担持した発泡ガラス4を乾燥機(アズワン株式会社製、DO-300FA)にて100℃で10時間乾燥させた。
【0056】
(3-2)リン吸着実験の前試験(担持金属の選抜)
50mL遠沈管に下記表3に記載する各種金属を担持した発泡ガラス3 1.5g又は各種金属を担持した発泡ガラス4 2gを入れ、10mg-P/Lのリン酸態リン標準液を50mL加えてインキュベーター(東京理化器械株式会社製、LTE-1010)内の振とう機(東京理化器械株式会社製、MMS-1020)で100rpm、25℃にて24時間振とうした。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルター(Milipore社製、SLHN033NB)でろ過した。
ろ液のリン酸態リン濃度は、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-2600)を用いてモリブデンブルー吸光光度法により吸光度880nmにおける吸光度を測定し、上記と同様に吸着率を算出した。その結果を表3に示す。
【0057】
【0058】
<結果>
表3より、ランタン、鉄、及びジルコニウムの中で、ランタンが最もリン酸態リン吸着率が高いことがわかった。
これらの結果より、発泡ガラスには、流通量の多い発泡ガラス3(商品名スーパーソル(登録商標)L2、株式会社こっこー製、色付きガラスを主原料とする発泡ガラス(粒子径:約2~10mm)、比重:0.35~0.5)を使用し、発泡ガラスに担持させる金属にはランタン及び鉄を使用して、以下の実験を行った。
【0059】
実験例4(発泡ガラスへのランタン担持率の検討)
(4-1)発泡ガラスへのランタンの担持
塩化ランタン七水和物を、理論上の担持率0.01質量%、0.05質量%、0.1質量%、0.5質量%、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%、2.5質量%、3.0質量%、又は3.5質量%となるように量りとり、純水に溶かしてランタン溶液とした。次に、発泡ガラス3(商品名スーパーソル(登録商標)L2、株式会社こっこー製、色付きガラスを主原料とする発泡ガラス(粒子径:約2~10mm)、比重:0.35~0.5)をディスポカップに8g量りとり、前述のランタン溶液を加え、前記発泡ガラス3の粒子全体が浸るまで純水を加えて1日間静置し、ランタンを担持させた。その後、ランタン担持発泡ガラス3を乾燥機(アズワン株式会社製、DO-300FA)にて100℃で10時間乾燥させた。
【0060】
(4-2)リン吸着実験
50mL遠沈管に0.5gのランタン担持発泡ガラス3を入れ、10mg-P/Lのリン酸態リン溶液を50mL加えてインキュベーターで100rpm、25℃にて3時間振とうした。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルター(Milipore社製、SLHN033NB)でリン酸態リン溶液をろ過した。
ろ液のリン酸態リン濃度は、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-2600)を用いてモリブデンブルー吸光光度法により吸光度880nmにおける吸光度を測定し、上記と同様に吸着率を算出した。
結果を表4及び
図1に示す。
図1は、発泡ガラス3に担持するランタンの担持率(理論値)とリン酸態リンの吸着率との関係を示すグラフである。
【0061】
【0062】
<結果>
表4及び
図1より、ランタンの担持率が2質量%でリン吸着率が90%まで上昇した。
【0063】
実験例5(ランタン担持発泡ガラスの焼成温度の検討)
(5-1)発泡ガラスへのランタンの担持及び焼成
塩化ランタン七水和物を、理論上の担持率3.5質量%となるように量りとり、純水に溶かしてランタン溶液とした。次に、発泡ガラス3(商品名スーパーソル(登録商標)L2、株式会社こっこー製、色付きガラスを主原料とする発泡ガラス(粒子径:約2~10mm)、比重:0.35~0.5)を50mL遠沈管に8g量りとり、前述のランタン溶液を加え、発泡ガラス3の粒子全体が浸るまで純水を加えた。その後、遠沈管をインキュベーターで100rpm、25℃にて振とうし、ランタンを1日担持させた。その後、ディスポカップに移して乾燥機(アズワン株式会社製、DO-300FA)にて100℃で10時間乾燥させた。次に、ランタン担持発泡ガラス3を、ガス置換電気炉(アズワン株式会社製、HPM-0G)を用いて、250℃、350℃、450℃、550℃、650℃、又は750℃にて2時間焼成し、自然放冷した。
【0064】
(5-2)リン吸着実験
50mL遠沈管に焼成後の各ランタン担持発泡ガラス3を0.5g入れ、10mg-P/Lのリン酸態リン溶液を50mL加えてインキュベーターで100rpm、25℃にて3時間振とうした。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルター(Milipore社製、SLHN033NB)でリン酸態リン溶液をろ過した。また、焼成していないランタン担持発泡ガラス3についても、上記と同様の操作を行った。
ろ液のリン酸態リン濃度は、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-2600)を用いてモリブデンブルー吸光光度法により吸光度880nmにおける吸光度を測定し、上記と同様に吸着率を算出した。
結果を表5及び
図2に示す。
図2は、リン酸態リンの初期濃度10mg-P/Lにおいて、焼成温度を変化させたときのリン酸態リンの吸着率の結果である。
【0065】
【0066】
<結果>
表5及び
図2より、焼成していない参考例17は、リン酸態リン吸着率は100%に近かったが、ランタンが剥がれた。250~750℃の温度で焼成を行うと、得られた発泡ガラス複合材料はランタンが剥がれず、リン酸態リンを吸着することができた。特に、350℃までの温度で焼成した場合、リン酸態リン吸着率がほぼ100%となった。したがって、ランタンが剥がれず、リン酸態リン吸着率が高い350℃を焼成温度として、以下の実験を行った。
【0067】
実験例6(発泡ガラスへの鉄担持率の検討)
(6-1)発泡ガラスへの鉄及びランタンの担持及び焼成
塩化鉄(II)四水和物を、理論上の担持率0.005質量%、0.01質量%、0.015質量%、0.02質量%、0.025質量%、0.05質量%、0.075質量%、0.1質量%、0.25質量%、又は0.5質量%となるように量りとり、純水に溶かして鉄溶液とした。次に、発泡ガラス3(商品名スーパーソル(登録商標)L2、株式会社こっこー製、色付きガラスを主原料とする発泡ガラス(粒子径:約2~10mm)、比重:0.35~0.5)を50mL遠沈管に8g量りとり、前述の鉄溶液を加え、発泡ガラス3の粒子全体が浸るまで純水を加えた。その後、遠沈管をインキュベーターで100rpm、25℃にて振とうし、鉄を1日担持させた。その後、ディスポカップに移して乾燥機(アズワン株式会社製、DO-300FA)にて100℃で10時間乾燥させた。得られた10種類の鉄担持発泡ガラス3、及び鉄を担持していない発泡ガラス3に、次の手順でランタンを担持した。
塩化ランタン七水和物を、理論上の担持率3.5質量%となるように量りとり、純水に溶かしてランタン溶液とした。次に、各鉄担持発泡ガラス3、又は鉄を担持していない発泡ガラス3を50mL遠沈管に8g量りとり、前述のランタン溶液を加え、発泡ガラス3の粒子全体が浸るまで純水を加えた。その後、遠沈管をインキュベーターで100rpm、25℃にて振とうし、ランタンを1日担持させた。その後、ディスポカップに移して乾燥機(アズワン株式会社製、DO-300FA)にて100℃で10時間乾燥させた。次に、鉄-ランタン担持発泡ガラス3を、ガス置換電気炉(アズワン株式会社製、HPM-0G)を用いて、350℃にて2時間焼成した。
【0068】
(6-2)リン吸着実験
50mL遠沈管に、理論上の鉄の担持率が0.005~0.1質量%の鉄-ランタン担持発泡ガラス3又はランタン担持発泡ガラス3を0.5g入れ、10mg-P/Lのリン酸態リン溶液を50mL加えてインキュベーターで100rpm、25℃にて3時間振とうした。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルター(Milipore社製、SLHN033NB)でリン酸態リン溶液をろ過した。ろ液のリン酸態リン濃度は、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-2600)を用いてモリブデンブルー吸光光度法により吸光度880nmにおける吸光度を測定し、上記と同様に吸着率を算出した。その結果を表6に示す。また、鉄担持率と、リン酸態リン吸着率との関係を示すグラフを
図3に示す。
50mL遠沈管に、理論上の担持率が0.1~0.5質量%の鉄-ランタン担持発泡ガラス3又はランタン担持発泡ガラス3を1.5g入れ、100mg-P/Lのリン酸態リン溶液を50mL加えてインキュベーターで100rpm、25℃にて3時間振とうした。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルター(Milipore社製、SLHN033NB)でリン酸態リン溶液をろ過した。ろ液のリン酸態リン濃度は、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-2600)を用いてモリブデンブルー吸光光度法により吸光度880nmにおける吸光度を測定し、上記と同様に吸着率を算出した。結果を表7に示す。また、鉄担持率と、リン酸態リン吸着率との関係を示すグラフを及び
図4に示す。
【0069】
(6-3)吸光度測定
上記の100mg-P/Lのリン酸態リン溶液を50mL加えてインキュベーターで3時間振とうした後の未ろ過試料について、波長660nmにおける吸光度を測定し、濁度の指標とした。結果を表7に示す。また、鉄担持率と、波長660nmにおける吸光度との関係を示すグラフを
図5に示す。
【0070】
(6-4)BET比表面積測定
さらに、鉄の担持率を変化させたときに発泡ガラスの比表面積がどのように変わるのかを確認するために、塩化鉄(II)四水和物を、理論上の担持率0.1質量%、0.25質量%、1質量%、又は2質量%となるように量りとり、純水に溶かして鉄溶液とし、発泡ガラス3の粒子全体が浸るまで純水を加えた。その後、遠沈管をインキュベーターで100rpm、25℃にて振とうし、鉄を1日担持させた。その後、ディスポカップに移して乾燥機(アズワン株式会社製、DO-300FA)にて100℃で10時間乾燥させ、鉄担持発泡ガラス3を作製したのち、メノウ乳鉢で粉砕した試料を、比表面積測定装置(micromeritics社製、FlowSorb III)にて窒素ガス吸着によるBET比表面積測定を行った。また、鉄を担持していない発泡ガラス3についても同様にBET比表面積測定を行った。結果を表8及び
図6に示す。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
<結果>
表6及び表7、並びに
図3及び
図4は、鉄の担持率を0から0.5質量%の間で変化させたときのリン酸態リン吸着率の結果である。
表6及び
図3より、リン酸態リン初期濃度10mg-P/Lでは、鉄の担持率にかかわらず、リン酸態リンの吸着率は89.3%~99.9%と高かったことがわかった。表7及び
図4より、リン酸態初期濃度100mg-P/Lでは、鉄の担持率が0.1質量%でリン酸態リンの吸着率は最も高い傾向を示したことがわかった。
表7の濁度及び
図5より、リン酸態リン初期濃度100mg-P/Lでは、鉄担持率が0.25質量%以上で660nmにおける吸光度(濁度)が高くなった。これは、鉄担持率が0.25質量%以上になると赤さびのような懸濁物が生じたことが原因と考えられる。
また、表8及び
図6より、発泡ガラス3のBET比表面積は0.043m
2/gであったが、鉄を0.1質量%担持することにより4.28m
2/gまで大きくなった。これより、鉄を担持することは発泡ガラスの比表面積を大きくするために有効であることがわかった。
以上の結果より、鉄の担持率は0.1質量%として以下の実験を行った。
【0075】
実験例7(鉄担持発泡ガラスへのランタン担持率の検討)
(7-1)発泡ガラスへの鉄及びランタンの担持及び焼成
塩化鉄(II)四水和物を、理論上の担持率0.1質量%となるように量りとり、純水に溶かして鉄溶液とした。次に、発泡ガラス3(商品名スーパーソル(登録商標)L2、株式会社こっこー製、色付きガラスを主原料とする発泡ガラス(粒子径:約2~10mm)、比重:0.35~0.5)を50mL遠沈管に8g量りとり、前述の鉄溶液を加え、発泡ガラス3の粒子全体が浸るまで純水を加えた。その後、遠沈管をインキュベーターで100rpm、25℃にて振とうし、鉄を1日担持させた。その後、ディスポカップに移して乾燥機(アズワン株式会社製、DO-300FA)にて100℃で10時間乾燥させた。この鉄担持発泡ガラス3に、次の手順でランタンを担持した。
塩化ランタン七水和物を、理論上の担持率0.5質量%、1質量%、1.5質量%、2質量%、2.5質量%、3質量%、又は3.5質量%となるように量りとり、純水に溶かしてランタン溶液とした。次に、鉄担持発泡ガラス3を50mL遠沈管に8g量りとり、前述のランタン溶液を加え、発泡ガラス3の粒子全体が浸るまで純水を加えた。その後、遠沈管をインキュベーターで100rpm、25℃にて振とうし、ランタンを1日担持させた。その後、ディスポカップに移して乾燥機(アズワン株式会社製、DO-300FA)にて100℃で10時間乾燥させた。次に、鉄-ランタン担持発泡ガラス3を、ガス置換電気炉(アズワン株式会社製、HPM-0G)を用いて、350℃にて2時間焼成を行った。
【0076】
(7-2)リン吸着実験
50mL遠沈管に0.5gの鉄-ランタン担持発泡ガラス3を入れ、10mg-P/Lのリン酸態リン溶液を50mL加えてインキュベーター内の振とう機(東京理化器械株式会社製、MMS-1020)で100rpm、25℃にて3時間振とうした。その後、孔径0.45μmのシリンジフィルター(Milipore社製、SLHN033NB)でリン酸態リン溶液をろ過した。ろ液のリン酸態リン濃度は、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-2600)を用いてモリブデンブルー吸光光度法により吸光度880nmにおける吸光度を測定し、上記と同様に吸着率を算出した。
結果を表9に示す。また、ランタン担持率と、リン酸態リン吸着率との関係を示すグラフを
図7に示す。
【0077】
【0078】
<結果>
鉄担持率を0.1質量%とし、ランタンの担持率を変化させたときのリン酸態リンの吸着率の結果である。表9及び
図7より、ランタン担持率2質量%のときに、リン酸態リンの吸着率が94.6%に達したことがわかった。したがって、鉄担持率は0.1質量%、ランタンの担持率は2質量%として以下の実験を行った。
【0079】
実験例8(吸着速度及び吸着等温線)
(8-1)発泡ガラスへの鉄及びランタンの担持及び焼成
塩化鉄(II)四水和物を、理論上の担持率0.1質量%となるように量りとり、純水に溶かして鉄溶液とした。次に、発泡ガラス3(商品名スーパーソル(登録商標)L2、株式会社こっこー製、色付きガラスを主原料とする発泡ガラス(粒子径:約2~10mm)、比重:0.35~0.5)を50mL遠沈管に8g量りとり、前述の鉄溶液を加え、発泡ガラス3の粒子全体が浸るまで純水を加えた。その後、遠沈管をインキュベーターで100rpm、25℃にて振とうし、鉄を1日担持させた。その後、ディスポカップに移して乾燥機(アズワン株式会社製、DO-300FA)にて100℃で10時間乾燥させた。この鉄担持発泡ガラス3に、次の手順でランタンを担持した。
塩化ランタン七水和物を、理論上の担持率2質量%となるように量りとり、純水に溶かしてランタン溶液とした。次に、鉄担持発泡ガラス3を50mL遠沈管に8g量りとり、前述のランタン溶液を加え、発泡ガラス3の粒子全体が浸るまで純水を加えた。その後、遠沈管をインキュベーターで100rpm、25℃にて振とうし、ランタンを1日担持させた。その後、ディスポカップに移して乾燥機(アズワン株式会社製、DO-300FA)にて100℃で10時間乾燥させた。次に、鉄-ランタン担持発泡ガラス3を、ガス置換電気炉(アズワン株式会社製、HPM-0G)を用いて、350℃にて2時間焼成を行った。
【0080】
(8-2)リン吸着実験
500mL三角フラスコに、得られた鉄-ランタン担持発泡ガラス3を1g入れた。次に、1mg-P/L、又は10mg-P/Lのリン酸態リン溶液を500mL加えてインキュベーターで100rpm、25℃にて振とうし、所定の時間ごとに溶液を5mL採取し、孔径0.45μmのシリンジフィルター(Milipore社製、SLHN033NB)でリン酸態リン溶液をろ過した。ろ液のリン酸態リン濃度は、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-2600)を用いてモリブデンブルー吸光光度法により吸光度880nmにおける吸光度を測定し、以下の式によりリン酸吸着量を算出した。
【0081】
<リン酸吸着量>
q = S
rem(C
con-C
sam) / (1000・a)
q:リン酸態リン吸着量(mg-P/g)
S
rem:溶液残量(mL)
C
con:コントロール濃度(mg-P/L)
C
sam:試料濃度(mg-P/L)
a:吸着材投与量(g)
なお、前記吸着量の単位(mg-P/g)は、リン酸態リンの量であり、リン酸イオンとして存在するリンの質量を示している。
リン酸態リン初期濃度が1mg-P/gの場合の結果を表10及び
図8に示し、リン酸態リン初期濃度が10mg-P/gの場合の結果を表11及び
図9に示す。
【0082】
【0083】
【0084】
<結果>
図8及び
図9は、鉄0.1質量%、ランタン2質量%を担持し、350℃で2時間焼成した発泡ガラス3のリン酸態リンの吸着量の経時変化を示すグラフである。
表10及び
図8より、リン酸態リン初期濃度1mg-P/Lでは、振とう開始から48時間で吸着量が平衡に達し、平衡吸着量が0.37mg-P/gとなった。
表11及び
図9より、リン酸態リン初期濃度10mg-P/Lでは、振とう開始から48時間で吸着量が平衡に達し、平衡吸着量が1.44mg-P/gとなった。
【0085】
(8-3)吸着等温線
500mL三角フラスコに1gの鉄-ランタン担持発泡ガラス3を入れた。次に、1mg-P/L、2mg-P/L、5mg-P/L、10mg-P/L、20mg-P/L、40mg-P/L、又は100mg-P/Lのリン酸態リン溶液を500mL加えてインキュベーターで100rpm、25℃にて振とうした。48時間後に溶液を5mL採取し、孔径0.45μmのシリンジフィルター(Milipore社製、SLHN033NB)でリン酸態リン溶液をろ過した。ろ液のリン酸態リン濃度は、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-2600)を用いてモリブデンブルー吸光光度法により吸光度880nmにおける吸光度を測定し、上記と同様に平衡吸着量を算出した。結果を表12及び
図10に示す。
【0086】
【0087】
<結果>
図10は、鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料のおける吸着等温線である。
図10で示される吸着等温線は、Langmuir型を示している。表12より、飽和吸着量は、1.24mg-P/gであった。
【0088】
実験例9(実排水を用いた吸着実験)
(9-1)発泡ガラスへの鉄及びランタンの担持及び焼成
発泡ガラスは、発泡ガラス5(商品名スーパーソル(登録商標)L2、株式会社こっこー製、色付きガラスを主原料とする発泡ガラス(粒子径:約10~20mm)、比重:0.35~0.5)を用いた。この発泡ガラス5は、発泡ガラス3(商品名スーパーソル(登録商標)L2、株式会社こっこー製、色付きガラスを主原料とする発泡ガラス(粒子径:約2~10mm)、比重:0.35~0.5)の中から、ふるいを用いて粒子径が約10~20mmであるものを選別することによって得た。
塩化鉄(II)四水和物を、理論上の担持率0.1質量%となるように量りとり、純水に溶かして鉄溶液とした。次に、前記発泡ガラス5を2Lのポリプロピレン(PP)製ボトル(アズワン株式会社製、アイボーイ広口びん)に2L(460g~463g)量りとり、前述の鉄溶液を加え、発泡ガラス5の粒子全体が浸るまで純水を加えた。その後、発泡ガラス5及び鉄溶液を入れた容器を振とう機(ヤマト科学株式会社製、Shaker(SA300))で、25℃にて18時間以上水平方向に往復振とうし、鉄を担持させた。その後、乾燥機(ヤマト科学株式会社製、定温乾燥器DX41)にて100℃で18時間以上乾燥させた。この鉄担持発泡ガラス5に、次の手順でランタンを担持した。
塩化ランタン七水和物を、理論上の担持率3.5質量%となるように量りとり、純水に溶かしてランタン溶液とした。次に、鉄担持発泡ガラス5を2Lのポリプロピレン(PP)製ボトル(アズワン株式会社製、アイボーイ広口びん)に2L量りとり、前述のランタン溶液を加え、発泡ガラス5の粒子全体が浸るまで純水を加えた。その後、鉄担持発泡ガラス5及びランタン溶液を入れた容器を振とう機(ヤマト科学株式会社製、Shaker(SA300))で、25℃にて18時間以上水平方向に往復振とうし、ランタンを担持させた。その後、乾燥機(ヤマト科学株式会社製、定温乾燥器DX41)にて100℃で18時間以上乾燥させた。
次に、鉄-ランタン担持発泡ガラス5を、電気炉(ヤマト科学株式会社製、FO810)を用いて、350℃にて2時間焼成を行った。
【0089】
(9-2)実排水を用いたリン吸着速度の測定
作製した鉄-ランタン担持発泡ガラス5を用い、
図11に示すリン除去装置を使用してリン吸着速度を測定した。前記リン除去装置は、浄化槽の実運用の1/1000スケールの装置である。
運転条件を、下記表13に示す。また、原水である浄化槽排水の組成を下記表14に示す。排水には、初期リン酸態リン濃度の違う3種類の排水(排水1:初期リン酸態リン濃度:5mg-P/Lの排水、排水2:初期リン酸態リン濃度が15mg-P/Lの排水、排水3:初期リン酸態リン濃度が50mg-P/Lの排水)を使用した。
【0090】
【0091】
【0092】
なお、BODは、生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand)のことである。d-BODは、溶解性BODのことであり、一般に孔径0.45~1μmのフィルターを通過する成分を「溶解性」という。ATU-BODは、硝化抑制剤(アリルチオ尿素(ATU))を添加して測定されるBODのことである。CODは、化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand)のことである。T-Nは、全窒素のことである。NH4-Nは、アンモニア態窒素のことである。PO4-Pは、リン酸態リンのことである。T-Pは全リンのことである。
【0093】
作製した鉄-ランタン担持発泡ガラス5(実施例)、又は発泡ガラス5(比較例)を、
図11に示すリン除去装置に充填し、前記排水1~3を20℃で24時間処理した。鉄-ランタン担持発泡ガラス5、又は発泡ガラス5をリン除去装置に充填し、ポンプを動かす前(0時間)、ポンプを動かしてから0.5時間後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、及び24時間後にサンプリングを行い、排水中のリン酸濃度を、モリブデンブルー吸光光度法で測定した。
結果を表15~17及び
図12~14に示す。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
<結果>
表15~17及び
図12~14より、鉄-ランタン担持発泡ガラス複合材料は、実排水でも、他のイオンによる影響を受けることなく、リン除去能を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の発泡ガラス複合材料は、リン吸着率が高いことから、水中のリンを除去するリン吸着材の用途に有用である。