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特許7730561魚類における他家卵子および異種配偶子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-20
(45)【発行日】2025-08-28
(54)【発明の名称】魚類における他家卵子および異種配偶子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/02 20060101AFI20250821BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20250821BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250821BHJP
【FI】
A01K67/02
C12N15/12
C12N5/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022517015
(86)(22)【出願日】2021-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2021015669
(87)【国際公開番号】W WO2021215356
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2020074968
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター、イノベーション創出強化研究推進事業「魚類において生殖系幹細胞を皮下移植して卵を得る技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504202472
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】酒井 則良
(72)【発明者】
【氏名】河▲崎▼ 敏広
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-036320(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146184(WO,A1)
【文献】特開2011-200169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫不全魚類に対する同種生殖組織、及び異種魚類生殖組織をそれぞれ細胞単位にまで単離した後混ぜ合わせて集合塊を得る工程と、前記集合塊を前記免疫不全魚類の皮下又は卵巣内に移植する工程と、を有する、生殖組織の製造方法。
【請求項2】
更に、前記免疫不全魚類内の対応する宿主生殖細胞を除去する工程を有する、請求項1に記載の生殖組織の製造方法。
【請求項3】
免疫不全魚類に対する同種魚類生殖組織を免疫不全魚類の卵巣に移植する工程と、前記免疫不全魚類内の対応する宿主生殖細胞を除去する工程と、を有する、生殖組織の製造方法。
【請求項4】
前記免疫不全魚類は、rag1遺伝子又は、Rag1タンパクの機能が抑制若しくは喪失している、請求項1~3のいずれか一項に記載の生殖組織の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の生殖組織の製造方法により得られた生殖組織から
配偶子を得る、配偶子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類における他家卵子および異種配偶子の製造方法、具体的には、免疫不全成魚体内への移植による他家卵子および異種配偶子の製造法に関する。
本願は、2020年4月20日に、日本に出願された特願2020-074968号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
天然漁業資源の減少を踏まえ、代理親魚を用いた生殖組織の製造技術が求められている。
しかし、代理親魚に同種の別個体又は異種の魚類由来の生殖組織を移植しても、免疫拒絶により代理親魚の生体内で、移植組織が生着・生育しにくいという問題があった。
【0003】
このような問題に対し、発明者は、rag1遺伝子が機能しない魚類の皮下に同種の他家組織を移植することで、移植組織が免疫拒絶されることなく生着し生育すること、移植精巣組織からは他家精子を製造できることを見出した(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6472960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術に加えて、移植した同種別個体の卵巣組織、更に、異種の魚類の生殖組織の生着・生育の効率化が求められている。
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、移植した同種別個体の卵巣組織又は異種の魚類の生殖組織を効率よく生着・生育させて他家卵子又は異種配偶子を製造する方法提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を含む。
[1]免疫不全魚類に対する同種生殖組織、及び異種魚類生殖組織をそれぞれ細胞単位にまで単離した後混ぜ合わせて集合塊を得る工程と、前記集合塊を前記免疫不全魚類の皮下又は卵巣内に移植する工程と、を有する、生殖組織の製造方法。
[2]更に、前記免疫不全魚類内の対応する宿主生殖細胞を除去する工程を有する、[1]に記載の生殖組織の製造方法。
[3]免疫不全魚類に対する同種魚類生殖組織を免疫不全魚類の卵巣に移植する工程と、前記免疫不全魚類内の対応する宿主生殖細胞を除去する工程と、を有する、生殖組織の製造方法。
[4]前記免疫不全魚類は、rag1遺伝子又はそのホモログ、又は、Rag1タンパク質又はそのホモログの機能が抑制若しくは喪失している、[1]~[3]のいずれか一つに記載の生殖組織の製造方法。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の生殖組織の製造方法により得られた生殖組織から配偶子を得る、配偶子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、移植した同種別個体又は異種の魚類の生殖組織を効率よく生着・生育させ、同種別個体又は異種魚類の配偶子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実験例1、2におけるゼブラフィッシュ卵巣由来生殖系幹細胞もしくは卵原細胞、初期卵母細胞から同種別個体への卵巣移植により成熟卵を作製する方法を示す図である。
図2】実験例1におけるゼブラフィッシュ卵巣由来生殖系幹細胞もしくは卵原細胞、初期卵母細胞を含む卵巣領域(germinal zone)を同種の免疫不全rag1変異体の卵巣へ移植した結果である。移植6週間後に、移植細胞に由来する成長した卵母細胞が認められた。
図3】実験例2におけるMetrodinazoleの濃度を変えることによる、254A::ntr系統(初期卵母細胞でGAL4を発現する254A系統とUASプロモーターでnitroreductase (ntr) を発現する系統を交配した系統)の卵母細胞の除去効率の検討結果である。(A)254A系統で発現するGAL4をEGFPの発現で確認した像。(B)254A::ntr系統を10mM, 5mM,2.5mMのMetrodinazoleで3日間処理、4日間通常飼育を2回繰り返した後の卵巣像。上段はゼブラフィッシュを開腹して卵巣を確認した像、下段は摘出した卵巣像。濃度依存的に成熟卵母細胞が除去されていることがわかった。
図4】実施例2におけるMetrodinazole処理により免疫不全254A::ntr系統から移植ゼブラフィッシュ卵巣由来生殖系幹細胞もしくは卵原細胞、初期卵母細胞由来の受精胚(矢印で示す)を得たことを示す図である。
図5】実施例3、4、5における同種別個体と異種魚類の生殖組織細胞の集合塊から皮下または卵巣内に移植して異種配偶子を作製する方法を示す図である。
図6】実施例3におけるホンモロコ精巣組織とゼブラフィッシュvas::egfp精巣組織をそれぞれ細胞単位にまで単離した後混ぜ合わせて集合塊を作製し、免疫不全ゼブラフィッシュの皮下に移植してホンモロコの精子を得たことを示す図である。(A)移植2ヶ月後の集合塊の像。(B)その切片像。GFP陰性のホンモロコ精原細胞、精母細胞、精子が認められる。
図7】実施例4におけるホンモロコ卵巣組織とゼブラフィッシュvas::egfp精巣組織をそれぞれ細胞単位にまで単離した後混ぜ合わせて集合塊を作製し、免疫不全ゼブラフィッシュの皮下に移植してホンモロコの精子を得たことを示す図である。(A)移植2ヶ月後の集合塊の像。(B)その切片像。GFP陰性のホンモロコ精原細胞、精母細胞、精子が認められる。
図8】実施例5におけるホンモロコ精巣組織と精原幹細胞が分化しないゼブラフィッシュmeioc変異体精巣組織をそれぞれ細胞単位にまで単離した後混ぜ合わせて集合塊を作製し、免疫不全ゼブラフィッシュの皮下に移植してホンモロコの精子および卵母細胞への分化を確認したことを示す図である。(A)移植2ヶ月後の集合塊の切片像。(B)その拡大図でホンモロコ精原細胞、精母細胞、精子を示す。(C)その拡大図でホンモロコ卵母細胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<<生殖組織の製造方法>>
<第1実施形態>
本実施形態の生殖組織の製造方法は、免疫不全魚類に対する同種生殖組織、及び異種魚類生殖組織をそれぞれ細胞単位にまで単離した後混ぜ合わせて集合塊を得る工程1と、前記集合塊を前記免疫不全魚類の皮下又は卵巣内に移植する工程2と、を有する。
本実施形態の生殖組織、さらに異種配偶子の製造方法は、更に、前記免疫不全魚類内の対応する宿主生殖細胞を除去する工程3を有することが好ましい。
【0010】
[工程1]
工程1は、免疫不全魚類に対する同種生殖組織、及び異種魚類生殖組織をそれぞれ細胞単位にまで単離した後、好ましくは、10:1の割合で、より好ましくは、5:1の割合で、異種魚類生殖組織に対して同種生殖組織が過剰となる比率で混ぜ合わせて集合塊を得る工程である。この工程において異種魚類生殖細胞が同種生殖組織の細胞に包まれる。免疫不全魚(rag1変異体)は系統が離れた異種魚類組織を拒絶するが、これにより、宿主免疫細胞と異種魚類生殖細胞の接触を防ぐことができ、異種魚類生殖細胞に対する免疫拒絶が回避される。
【0011】
免疫不全魚類としては、同種別個体組織を移植した際に、免疫拒絶反応を起こさないものであれば特に限定されず、免疫抑制剤処理を施された魚類、γ線照射により免疫系を破壊された魚類、免疫系に関与する遺伝子の機能を抑制又は喪失させた遺伝子改変魚類等が挙げられる。遺伝子改変魚類としては、例えば、rag1遺伝子又はそのホモログ、又は、Rag1タンパク質又はそのホモログの機能が抑制若しくは喪失している魚類が挙げられる。
【0012】
Rag1タンパク質の機能が抑制されているとは、Rag1タンパク質が本来有する機能が部分的に失われている状態のことをいう。Rag1タンパク質の機能が喪失しているとは、Rag1タンパク質が本来有する機能が完全に失われている状態のことをいう。
【0013】
Rag1タンパク質の機能の抑制又は喪失は、rag1遺伝子の発現が抑制されることによって、又は喪失することによっても生じ得る。
【0014】
rag1遺伝子の発現が抑制しているとは、免疫不全魚類において、コントロールとなる野生型の魚類と比較して、rag1遺伝子産物の量が抑制されていることをいう。
rag1遺伝子の発現の抑制は、rag1遺伝子に対するRNAi誘導性核酸、アンチセンス核酸、アプタマー若しくはリボザイムなどの発現を生じさせる核酸配列を、魚類に導入し、遺伝子ノックダウン等により生じさせることができる。
【0015】
rag1遺伝子の発現が喪失しているとは、魚類において、rag1遺伝子産物が喪失していることをいう。
遺伝子産物である、Rag1タンパク質の機能の喪失は、例えばrag1遺伝子に変異を導入し、rag1遺伝子を破壊することにより生じさせることができる。
変異は、rag1遺伝子、又は遺伝子の発現調節領域における一部又は全部の欠失、置換、任意の配列の挿入等により生じさせることができる。これらの変異の導入は、例えば、変異原性物質による処理、紫外線照射、相同組み換え技術等による遺伝子ターゲッティング、遺伝子ノックアウト、条件的ノックアウト等の手法を用いて行うことができる。また、遺伝子ターゲティング、遺伝子ノックアウトについては、ゲノム編集技術を用いてもよい。
【0016】
ゼブラフィッシュにおいては、rag1突然変異体が単離されており、成熟T細胞やB細胞が形成されないことが報告されている(BMC Immunol. 2009 Feb 3;10:8. doi: 10.1186/1471-2172-10-8. Characterization of rag1 mutant zebrafish leukocytes. Petrie-Hanson L1, Hohn C, Hanson L.)。
【0017】
免疫不全にする対象の魚類としては、特に限定されず、遺伝子操作が容易である、移植対象の生殖組織を保持する魚類の近縁種である等の観点から選択される。一例として、ゼブラフィッシュ、メダカ、金魚、ニジマス、クサフグ、サバ、カタクチイワシ等が挙げられる。
【0018】
工程1において用いられる同種生殖組織としては、異種魚類生殖細胞を包みこみ、宿主免疫細胞から守ることができれば、同系統の生殖組織でもよく異系統の生殖組織でもよい。
同種魚類生殖組織における生殖組織としては、精巣、精巣上皮、卵巣、卵巣上皮等が挙げられる。
【0019】
工程1において用いられる異種魚類生殖組織は、宿主となる免疫不全魚類とは異なる種に属する魚類由来の生殖組織であり、本実施形態において製造対象の配偶子の素となるものである。移植効率の観点から、係る異種魚類生殖組織の由来する異種魚類と宿主の免疫不全魚類とは近縁種の関係にあることが好ましい。
異種魚類生殖組織における生殖組織としては、精巣、精巣上皮、卵巣、卵巣上皮等が挙げられる。
【0020】
工程1において、免疫不全魚類に対する同種別個体生殖組織、及び異種魚類生殖組織をそれぞれ細胞単位にまで単離した後混ぜ合わせる。
生殖組織を細胞単位にまで単離する方法としては、定法に従い、例えば、コラゲナーゼ処理等が挙げられる。単離して得られた細胞としては、精原細胞、卵原細胞等の未分化の生殖細胞、精母細胞、卵母細胞等の分化した生殖細胞や生殖巣由来の体細胞が挙げられる。
実施例にて後述するように、異種魚類生殖組織を単離して得られた未分化生殖細胞と、同種別個体生殖組織を単離して得られた生殖巣体細胞とを混ぜ合わせた場合には、移植された異種魚類生殖組織由来の未分化生殖細胞は、混ぜ合わされた同種別個体生殖組織由来の体細胞や移植場所によって分化誘導を受ける。例えば、異種魚類生殖組織を単離して得られた未分化生殖細胞が、卵巣由来の生殖幹細胞であっても、同種別個体生殖組織を単離して得られた細胞が精巣体細胞で皮下に移植した場合には、卵巣由来の生殖幹細胞は、移植後に精子に分化誘導される。
工程1において、細胞を混ぜ合わせた後、遠心分離等によって細胞を接触させ、これを培養することによって細胞同士を接着させて集合塊を得る。
【0021】
[工程2]
工程2は、集合塊を免疫不全魚類の皮下又は卵巣内に移植する工程である。免疫不全魚類では移植宿主として成魚を用いることができる。例えば、ゼブラフィッシュの場合、体長3cm以上、又は生後60日以降のものを用いることが好ましい。皮下への移植方法としては、例えば、麻酔した宿主の側部の表皮をメスで切り、その切り口から表皮と筋肉の間にピンセットを差し込んでスペースを作り、集合塊を移植する方法が挙げられる。卵巣への移植方法としては、例えば、体長3cm以上で卵巣の成長によって腹部が膨らんだものを用いることが好ましく、麻酔した宿主の腹部を切開して卵巣を露出させ、卵巣の表面に切り込みを入れ、その切り口から集合塊や卵巣組織をピンセットで挿入する方法が挙げられる。
【0022】
集合塊を移植された免疫不全魚類は、抗生物質を含む緩衝液中で、暗所で餌を与えずに一定期間飼育して傷口を修復させることが好ましい。傷口修復後は、通常の飼育方法で飼育すればよい。
【0023】
[工程3]
工程3は、前記免疫不全魚類内の対応する宿主生殖細胞を除去する工程である。「対応する宿主生殖細胞」とは、本実施形態において製造対象の生殖組織に対応する宿主生殖細胞を意味する。例えば、製造対象の生殖組織が精巣である場合には、工程3において宿主精原細胞、精母細胞、精細胞を除去する。製造対象の生殖組織が卵巣である場合には、工程3において宿主卵原細胞、卵母細胞を除去する。
宿主生殖細胞を除去する方法としては、特に限定されず、例えば、遺伝子改変により、宿主の特定細胞特異的にコンディショナルに細胞死を誘導させる方法が挙げられる。詳細には、例えば、実施例で後述するように、生殖細胞特異的にNitroreductaseを発現する魚類を構築し、Metrodinazoleを含む水槽中で個体を飼育することにより、Metrodinazoleが分解されて毒性を示し、生殖細胞を除去する方法が挙げられる。さらに、集合塊を作製する際の同種別個体生殖組織を、生殖細胞特異的にNitroreductaseを発現する魚類のものを用いることで、集合塊から効率よく異種魚類生殖組織の配偶子を得ることができる。
また、宿主生殖細胞を除去する方法としてはdeadendモルフォリノを1細胞胚にインジェクションしてあらかじめ宿主生殖細胞を発生させない方法、及び外科的に宿主生殖巣を取り除く方法も挙げられる。
本実施形態において、対応する宿主生殖細胞は、10%以上除去されていることが好ましく、20%以上除去されていることがより好ましく、50%以上除去されていることが更に好ましく、100%除去されていることが特に好ましい。
移植した細胞に対して、対応する宿主生殖細胞の数が多いと、移植細胞が増殖競争に負け、淘汰されてしまうおそれがあるため、工程3により、宿主生殖細胞の数を減らすことにより、移植細胞の生着・生育を促進させ、異種配偶子を製造することができる。
【0024】
<第2実施形態>
本実施形態の生殖組織の製造方法は、免疫不全魚類に対する同種魚類生殖組織を免疫不全魚類の卵巣に移植する工程4と、前記免疫不全魚類内の対応する宿主生殖細胞を除去する工程5と、を有する。
【0025】
[工程4]
工程4は、免疫不全魚類に対する同種別個体生殖組織を免疫不全魚類の卵巣に移植する工程である。移植対象が、免疫不全魚類に対する同種別個体生殖組織である以外は、工程2と同様である。
【0026】
[工程5]
工程5は、前記免疫不全魚類内の対応する宿主生殖細胞を除去する工程である。工程5は、工程3と同様であり、宿主生殖細胞の数を減らすことにより、移植対象の同種魚類生殖組織の生着・生育を促進させ、移植細胞由来の卵子を製造することができる。
【0027】
<<配偶子の製造方法>>
本実施形態において、上述した生殖組織の製造方法により得られた生殖組織から配偶子を得る。配偶子としては、卵子、精子が挙げられる。
【0028】
<<免疫不全魚類>>
本実施形態の免疫不全魚類は、移植された魚類生殖組織を有する魚類である。移植対象の魚類生殖組織としては、異種魚類生殖組織、同種別個体生殖組織が挙げられる。
移植対象の生殖細胞の生着・生育を促進させる観点から、対応する宿主生殖細胞は、10%以上除去されていることが好ましく、20%以上除去されていることがより好ましく、50%以上除去されていることが更に好ましく、100%除去されていることが特に好ましい。言い換えると、本実施形態の免疫不全魚類は、移植前と比較して、対応する宿主生殖細胞を90%以下有していることが好ましく、80%以下有していることがより好ましく、50%以下有していることが更に好ましく、全く有していないことが特に好ましい。
また、本実施形態の免疫不全魚類は、rag1遺伝子又はそのホモログ、又は、Rag1タンパク質又はそのホモログの機能が抑制若しくは喪失していることが好ましい。
本実施形態の免疫不全魚類の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、上述した<<生殖組織の製造方法>>の第1実施形態又は第2実施形態の方法が挙げられる。
【実施例
【0029】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
[実験例1]
図1に実験手順を示す。初期の生殖細胞でGFPを発現する個体sox17::egfpの卵巣から卵原細胞や初期卵母細胞を含む組織片を単離し、免疫不全rag1変異系統の雌の卵巣内に移植した。6週間後、卵巣内に移植したsox17::egfp卵原細胞に由来する成長した卵母細胞を確認した(図2)。しかしながら、この細胞に由来する卵母細胞の排卵は確認されなかった。内在する宿主卵母細胞との競合により、移植した細胞が十分に成長できなかった可能性が考えられる。
【0031】
[実験例2]
ゼブラフィッシュ遺伝子・エンハンサートラップ系統から、初期卵母細胞特異的にGAL4を発現する254A系統を単離した(図3A)。254A系統と、UASプロモーターの下流にnitroreductase(ntr)遺伝子を有する系統を掛け合わせて得られた系統(254A::ntr系統)は、初期卵母細胞特異的にNitroreductaseタンパク質を発現する。MetrodinazoleはNitroreductaseによって分解され毒性を示す。即ち、飼育水槽中にMetrodinazoleを添加すると、初期卵母細胞特異的に発現しているNitroreductaseによって分解物が毒性を示し、卵母細胞が除去される。添加するMetrodinazoleの濃度を変えて、254A系統における卵母細胞の除去効率を検討した。図3Bに示すように、濃度依存的に卵母細胞の除去が確認された。
【0032】
上記254A::ntr系統と免疫不全rag1変異系統を交配して、移植用宿主個体を樹立した。実験例1と同様に、sox17::egfpの卵巣から卵原細胞や初期卵母細胞を含む組織片を単離し、254A::ntr+rag1変異体の雌の卵巣内に移植した。7日後から、10mM Metrodinazoleの3日間処理と4日通常飼育を2回行った後に、オスと交配し、147匹中2匹でGFP陽性胚を確認した(図4参照)。
【0033】
[実験例3]
図5に実験手順を示す。vas::egfpゼブラフィッシュの肥大化精巣を、コラゲナーゼを用いて細胞単位にまで単離した。また、ホンモロコから精巣を単離し、コラゲナーゼを用いて細胞単位にまで単離した。この2種類の精巣構成細胞を5:1(ゼブラフィッシュ:ホンモロコ)で混ぜ合わせて遠心分離後、培養して集合塊を得た。この集合塊をrag1変異体の雄に皮下移植した。移植を受けた宿主は、10μg/mLのゲンタマイシンを含む0.4×PBS中で餌を与えず暗所にて4日日飼育した。その後は、通常の飼育水中で飼育した。
移植2か月後、移植塊を回収し、抗GFP抗体を用いて免疫染色を行った。結果を図6に示す。図6に示すように、GFPシグナルが陰性のホンモロコ精原細胞、精母細胞が存在し、同一ロビュール内に精子が存在することから、ホンモロコ精巣生殖系幹細胞から精子が形成されていることが確認された。
【0034】
[実験例4]
vas::egfpゼブラフィッシュから肥大化精巣を単離し、コラゲナーゼを用いて細胞単位にまで単離した。また、ホンモロコから卵巣上皮を単離し、コラゲナーゼを用いて細胞単位にまで単離した。この2種類の細胞を5:1(ゼブラフィッシュ:ホンモロコ)で混ぜ合わせて遠心分離後、培養して集合塊を得た。この集合塊をrag1変異体の雄に皮下移植した(図5参照)。移植を受けた宿主は、10μg/mLのゲンタマイシンを含む0.4×PBS中で餌を与えず暗所にて4日日飼育した。その後は、通常の飼育水中で飼育した。
移植2か月後、移植塊を回収し、抗GFP抗体を用いて免疫染色を行った。結果を図7に示す。図7に示すように、GFPシグナルが陰性のホンモロコ精原細胞、精母細胞が存在し、同一ロビュール内に精子が存在することから、ホンモロコ卵巣生殖系幹細胞から精子が形成されていることが確認された。
【0035】
[実験例5]
生殖系幹細胞が分化しないmeioc変異体ゼブラフィッシュから精巣を単離し、コラゲナーゼを用いて細胞単位にまで単離した。また、ホンモロコから精巣を単離し、コラゲナーゼを用いて細胞単位にまで単離した。この2種類の細胞を5:1(ゼブラフィッシュ:ホンモロコ)で混ぜ合わせて遠心分離後、培養して集合塊を得た。この集合塊をrag1変異体の雄に皮下移植した(図5参照)。移植を受けた宿主は、10μg/mLのゲンタマイシンを含む0.4×PBS中で餌を与えず暗所にて4日日飼育した。その後は、通常の飼育水中で飼育した。
移植2か月後、移植塊を回収し、組織観察を行った。結果を図8に示す。図8に示すように、ホンモロコの精子および卵母細胞が分化していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により、移植した同種別個体の卵巣組織又は異種の魚類の生殖組織を効率よく生着・生育させて他家卵子又は異種配偶子を製造する方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8