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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-21
(45)【発行日】2025-08-29
(54)【発明の名称】揚げ物用打ち粉ミックス
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20250822BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20250822BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020561485
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2019049541
(87)【国際公開番号】W WO2020130018
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-28
【審判番号】
【審判請求日】2024-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2018236368
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 章人
(72)【発明者】
【氏名】田上 祐二
(72)【発明者】
【氏名】柳下 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】伊東 貴史
【合議体】
【審判長】天野 宏樹
【審判官】渋谷 知子
【審判官】太田 恒明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/8710(WO,A1)
【文献】特開2006-230268号公報(JP,A)
【文献】特開2007-61039(JP,A)
【文献】#472 天ぷら粉,木下製粉株式会社HP[online],2015年04月28日,<URL: https://www.flour.co.jp/news/article/472/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌリン1~20質量%、油脂加工澱粉50~90質量%、及び卵白粉1~20質量%を含有する揚げ物用打ち粉ミックス。
【請求項2】
請求項記載の揚げ物用打ち粉ミックスが付着した具材に、衣材を付着させ、次いで油ちょうすることを含む、揚げ物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物用打ち粉ミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
揚げ物の衣材は、粉末状の衣材であるブレダーと、液状の衣材であるバッターに大きく分類される。いずれの場合でも、衣材を用いて得られた揚げ物では、具材は、衣材から形成された衣によって直接揚げ油に触れることなく加熱されてジューシーに仕上がり、一方で衣は、揚げ油により水分が蒸発してサクサクとした乾いた食感となる。
【0003】
揚げ物においては、加熱により具材が収縮又は変形することで、加熱調理中又は調理後に具材から衣が剥がれるという問題がある。この問題に対処するため、具材と衣材とがよく密着するように、具材に予め打ち粉をまぶしてから、衣材を付着させ調理することが従来行われている。一方、具材と衣材とを密着させると、具材の水分が衣に移行しやすいため、調理後の時間経過に伴い衣のサクミがある食感が失われやすい。この傾向は、揚げ物を低温で保存する場合に顕著である。
【0004】
揚げ物用の打ち粉に関して、特許文献1には、具材と衣材との結着性を向上させるために、油脂加工澱粉を打ち粉として用いることが記載されている。また、特許文献2には、イヌリン等のフルクタンを含有する打ち粉を用いて得られた揚げ物が、油ちょう後に時間が経過しても衣のサクミのある食感を有することが記載されている。特許文献3には、α化されていない穀粉を主体としてフルクタン又はトレハロースを含む、所定の蛋白質含量と澱粉含量を有する打ち粉を用いて得られた揚げ物が、油ちょう後に時間が経過してもサクミのある食感を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-174535号公報
【文献】特開2006-230268号公報
【文献】特開2007-143513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
具材と衣材との結着性と、調理後時間が経過した後の衣の食感の良さとを両立した揚げ物が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、具材に、イヌリン、油脂加工澱粉及び卵白粉を含有する打ち粉を付着させた後、衣材を付着させて油ちょうすることで、具材と衣材との結着性に優れて衣が剥がれにくく、かつ調理後に時間が経過しても衣がサクミのある良好な食感を有する揚げ物を製造することができることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、イヌリン、油脂加工澱粉及び卵白粉を含有する揚げ物用打ち粉ミックスを提供する。
また本発明は、前記揚げ物用打ち粉ミックスが付着した具材に、衣材を付着させ、次いで油ちょうすることを含む、揚げ物の製造方法を提供する。
また本発明は、イヌリン、油脂加工澱粉及び卵白粉を含有するミックスの、揚げ物用打ち粉としての使用を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の揚げ物用打ち粉ミックスを用いて得られた揚げ物は、具材と衣材との結着性に優れていて衣が剥がれにくい。また調理後に時間が経過しても、衣がサクミのある良好な食感を有しており、品質低下が少ない。本発明によれば、調理後に時間が経過しても、衣の剥がれにくさとサクミとが両立した、良好な外観と食感を有する揚げ物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、揚げ物用打ち粉ミックスを提供する。本発明の揚げ物用打ち粉ミックス(以下、単に本発明のミックスともいう)は、揚げ物の製造の際に、衣材を付着させる前の具材にまぶす打ち粉として用いられる。
【0011】
本発明のミックスは、イヌリンを含有する。イヌリンは、末端にブドウ糖が結合した果糖の重合体である。本発明のミックスに用いられるイヌリンは、好ましくは、果糖の重合度が5以上であるもの、より好ましくは果糖の重合度が10~29のものである。本発明のミックスに用いられるイヌリンとしては、チコリ、キクイモ等のイヌリンを含有する植物から取り出したものや、微生物が製造したもの、又はこれらを分解して果糖の重合度を低下したもの等を用いることができる。例えば、本発明のミックスに用いられるイヌリンは、特許4278691号公報又はWO03/027304に記載される方法により製造することができる。あるいは、市販のイヌリンを使用してもよい。
【0012】
本発明のミックスにおけるイヌリンの含有量は、該ミックスの全質量中、好ましくは0.5~30質量%、より好ましくは1~25質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。該ミックスにおけるイヌリンの含有量が少なすぎると、得られた揚げ物の衣の歯脆さやサクミが不十分になることがある。一方、該ミックスにおけるイヌリンの含有量が多すぎると、得られた揚げ物の衣が剥がれやすくなったり、硬い食感になることがある。
【0013】
本発明のミックスは、さらに油脂加工澱粉を含有する。好ましくは、本発明のミックスに用いられる油脂加工澱粉は、原料澱粉100質量部と、食用油脂0.01~30質量部程度、好ましくは、0.05~1質量部とを混合し、得られた混合物を適宜乾燥することで調製された油脂加工澱粉である。必要に応じて、該混合物の乾燥の前後に該混合物を加熱処理してもよい。あるいは、市販の油脂加工澱粉を使用してもよい。該油脂加工澱粉の原料澱粉の種類としては、特に制限されず、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉等の未加工澱粉、及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化等の処理を施した加工澱粉が挙げられる。これらの原料澱粉は、いずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。該原料澱粉と混合される食用油脂の種類は、特に制限されず、例えば、大豆油、菜種油、綿実油、紅花油、ヒマワリ油、米油、コーン油、パーム油、エゴマ油、牛脂、豚脂等の食用の植物性油脂及び動物性油脂が挙げられる。これら食用油脂は、いずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0014】
本発明のミックスにおける油脂加工澱粉の含有量は、該ミックスの全質量中、好ましくは40~98質量%、より好ましくは45~97質量%、さらに好ましくは50~90質量%である。該ミックスにおける油脂加工澱粉の含有量を40質量%以上とすることで、該ミックスを用いて得られる揚げ物における衣の剥がれを効果的に防止することができる。また、該ミックスにおける油脂加工澱粉の含有量を98質量%以下とすることで、衣にネチャついた食感が生じることを防止することができる。
【0015】
本発明のミックスは、さらに卵白粉を含有する。本発明のミックスに用いられる卵白粉としては、例えば、卵白を乾燥後に粉砕したものや、卵白を噴霧しながら乾燥させたもの等を用いることができる。あるいは市販の卵白粉を使用してもよい。
【0016】
本発明のミックスにおける卵白粉の含有量は、該ミックスの全質量中、好ましくは0.5~30質量%、より好ましくは1~25質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。該ミックスにおける卵白粉の含有量が少なすぎると、得られた揚げ物の衣が剥がれやすくなり、また具材と衣材の間で水分が移動しやすくなるため調理後時間が経過した揚げ物で衣の食感が失われやすい。一方、該ミックスにおける卵白粉の含有量が多すぎると、衣が剥がれやすくなったり、衣が硬い食感になることがある。
【0017】
本発明のミックスは、上述したイヌリン、油脂加工澱粉、及び卵白粉以外に、必要に応じて、他の成分をさらに含有していてもよい。当該他の成分としては、例えば、小麦粉、米粉等の穀粉;油脂加工澱粉以外の澱粉;イヌリン以外の糖類;卵白粉以外の卵粉又は蛋白質;ゲル化剤、増粘剤;食塩、アミノ酸等の調味料;香辛料;香料;粉末油脂、等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のミックスにおいては、所望する揚げ物の特性等に応じて、当該他の成分をいずれか1種又は2種以上組み合わせて含有することができる。本発明のミックスにおける当該他の成分の含有量は、所望する揚げ物の特性等に応じて適宜調整すればよいが、該ミックスの全質量中、好ましくは59質量%以下、より好ましくは53質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0018】
本発明のミックスは、従来の揚げ物用の打ち粉と同様に使用することができる。典型的には、揚げ物の製造において、具材の表面に本発明のミックスを直接付着させればよい。本発明のミックスを具材に付着させる手順は、特に制限されないが、好適には、該ミックスを具材にまぶして付着させる。該「まぶす」操作には、具材の表面に本発明のミックスを直接付着させ得る操作全般が包含される。具体的には、該「まぶす」操作としては、具材の上方からミックスを振り掛ける操作、ミックスと具材とを密閉可能な袋に投入して袋の入り口を閉じた状態で振盪する操作、ミックスを皿等に広げて該ミックスの上で具材を転がす操作、などを例示できる。
【0019】
具材としては、特に制限されず、例えば、鶏、豚、牛、羊、ヤギなどの肉類;イカ、エビ、アジなどの魚介類;野菜類などの種々の食材が挙げられる。衣の剥がれ防止の観点からは、本発明のミックスは、肉類、魚介類などの加熱により収縮しやすいものに対して好適に使用される。必要に応じて、本発明のミックスを付着させる前に、該具材に下味をつけてもよい。
【0020】
本発明のミックスを付着させた具材を常法に従い油ちょうすることで、目的とする揚げ物が得られる。したがって、本発明はまた、本発明のミックスが付着した具材に、衣材を付着させ、次いで油ちょうすることを含む揚げ物の製造方法を提供する。当該本発明の方法における揚げ物の製造の手順は、打ち粉として本発明のミックスを用いること以外は、通常の揚げ物の製造手順に準じて実施することができる。当該本発明の方法で用いる衣材の種類は、特に限定されず、粉末状衣材(ブレダー)であっても、液状衣材(バッター)であってもよい。ブレダーの例としては、パン粉、から揚げ粉、穀粉、でんぷん粉などが挙げられるが、これらに制限されない。またバッターの例としては、卵液、天ぷらやパン粉付フライ用のバッター、から揚げ用のバッターなどが挙げられるが、これらに制限されない。
【0021】
例えば、本発明による揚げ物の製造方法に従って天ぷらを製造する場合、具材の表面に本発明のミックスを直接付着させ、次いで本発明のミックスが付着した具材にバッターを付着させた後、油ちょうする。また例えば、当該本発明の方法に従ってパン粉付きフライを製造する場合、具材の表面に本発明のミックスを直接付着させ、次いで本発明のミックスが付着した具材に、卵液又はバッターを付着させ、さらにパン粉を付着させた後、油ちょうする。本発明の揚げ物の製造方法において、油ちょうの手段としては、多量の油によるディープフライ、少量の油による揚げ焼きなどが挙げられ、特に制限されない。
【実施例
【0022】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
試験1
(揚げ物用打ち粉ミックスの調製)
イヌリン(フジFF:フジ日本精糖製、果糖重合度5~29)、油脂加工澱粉(日食バッタースターチIP(#0):日本食品化工製、澱粉100質量部あたり油脂分0.2質量部以下)、卵白粉(サンキララ:太陽化学製)、及び小麦粉(薄力粉、フラワー:日清フーズ製)を、下記表1に示す配合で混合して、揚げ物用打ち粉ミックス(製造例1、比較例1~9)を調製した。
【0024】
(とんかつの製造)
薄力粉30質量%、全卵10質量%及び冷水60質量%を混合してバッター液を調製した。上記で調製した打ち粉ミックスを、豚ロース肉(1枚200g、厚さ1cm)の表面全体にまんべんなく付着させた。ミックスが付着した肉を該バッター液にくぐらせた後、パン粉をつけ、170℃に熱したサラダ油で4分間油ちょうしてとんかつを製造した。製造したとんかつの粗熱をとり、冷蔵庫で6時間保存後、室温(約25℃)で1時間保存した。保存後のとんかつを包丁で切り分け、その際の衣の付着性を評価した。また、保存後のとんかつを食した際の衣の食感を評価した。評価は、10名の専門パネラーにより下記評価基準にて行い、10名の評価の平均点を求めた。
【0025】
評価基準
(衣の付着性)
5点:揚げ物を包丁で切断しても衣が全く剥がれず、極めて良好。
4点:揚げ物を包丁で切断しても衣がほとんど剥がれず、良好。
3点:揚げ物を包丁で切断すると、その切断面の全周の10~20%に相当する部分で衣が剥がれる。
2点:揚げ物を包丁で切断すると、その切断面の全周の20%超50%以下に相当する部分で衣が剥がれ、不良。
1点:揚げ物を包丁で切断すると、その切断面の全周の50%超に相当する部分で衣が剥がれ、極めて不良。
(衣の食感)
5点:サクサクとして歯脆さに富み、極めて良好。
4点:サクサクとしており、良好。
3点:ややサクサク感に欠ける。
2点:ややしっとりしているかややネチャついており、サクサク感に乏しい。
1点:しっとりしているかネチャつきが大きく、サクサク感がなく、不良。
【0026】
結果を表1に示す。イヌリン、油脂加工澱粉及び卵白粉の3成分を含有する製造例1のミックスを用いて得られたとんかつは、衣の付着性及び食感がともに優れていた。一方、比較例のミックスを用いて得られたとんかつは、衣の付着性及び食感のいずれか又は両方が劣っていた。このことから、イヌリン、油脂加工澱粉及び卵白粉の3成分を含有する打ち粉を用いることで、調理後に時間が経過しても衣が剥がれにくくかつサクサクとした衣の食感を有する揚げ物を製造することができることが示された。
【0027】
【表1】
【0028】
試験2
打ち粉ミックスの配合を表2~4に示すとおり変更した以外は、試験1と同様の手順でとんかつを製造し、衣の付着性及び食感を評価した。結果を表2~4に示す。なお、表2~4には製造例1の結果を再掲する。
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】