(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-27
(45)【発行日】2025-09-04
(54)【発明の名称】外用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/245 20060101AFI20250828BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20250828BHJP
A61K 31/351 20060101ALI20250828BHJP
A61K 31/4415 20060101ALI20250828BHJP
A61K 31/215 20060101ALI20250828BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20250828BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20250828BHJP
A61K 31/135 20060101ALI20250828BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250828BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20250828BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250828BHJP
A61K 8/41 20060101ALI20250828BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20250828BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20250828BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20250828BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20250828BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20250828BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20250828BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20250828BHJP
【FI】
A61K31/245
A61K31/19
A61K31/351
A61K31/4415
A61K31/215
A61K9/06
A61K47/44
A61K31/135
A61P17/00
A61P17/16
A61P29/00
A61K8/41
A61K8/02
A61K8/31
A61K8/36
A61K8/37
A61K8/49
A61K8/44
A61Q19/00
(21)【出願番号】P 2021084722
(22)【出願日】2021-05-19
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】柄田 佐和子
(72)【発明者】
【氏名】堀合 眞知
【審査官】池田 百合香
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-037723(JP,A)
【文献】イハダ ダーマキュア軟膏 添付文書,2020年06月
【文献】フジアローUFクリーム 添付文書,2020年
【文献】フジアローEXクリーム,2020年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
A61K 47/00 ~ 47/69
A61K 8/00 ~ 8/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50重量%以上の白色ワセリンと、
グリチルレチン酸、
グリチルレチン酸ピリドキシン、グリチルレチン酸ステアリル、グリチルレチン酸グリセリル、グリチルレチン酸モノグルクロニド、及びそれの塩よりなる群から選択される少なくとも1種のグリチルレチン酸類と、
ウフェナマートと、
を含有
し、油脂性軟膏である外用組成物。
【請求項2】
更に、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有する、請求項1に記載の外用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色ワセリン50重量%以上を含み、且つグリチルレチン酸類の溶解性が向上している外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
白色ワセリンには、肌から水分が蒸発するのを防ぐ保湿効果、皮膚上で形成された膜によって刺激から守るバリア効果等があり、白色ワセリンを基剤として含む外用組成物は、乾燥肌、敏感肌、接触性皮膚炎症等の予防又は改善用途で汎用されている。
【0003】
従来、白色ワセリンを含む外用組成物の処方について種々報告されている。例えば、特許文献1には、(A)エタノール、イソプロパノール及び/又はジエチレングリコールモノエチルエーテルと、(B)白色ワセリンと、(C)カルボキシビニルポリマー及び/又はアルキル変性カルボキシビニルポリマーと、(D)リン脂質を含む皮膚外用乳化製剤は、製剤安定性が向上し、有効成分の皮内貯留性が優れていることが報告されている。しかしながら、特許文献1に記載の皮膚外用乳化製剤は、白色ワセリンの配合量が0.1~20重量%であり、白色ワセリンの保湿効果やバリア効果を十分に発現できる処方にはなっていない。白色ワセリンの保湿効果やバリア効果を十分に発現させるには、外用組成物における白色ワセリンの配合量を高めることが必要になるが、白色ワセリンの配合量を高めた外用組成物では、有効成分を溶解性が低下することがある。
【0004】
一方、グリチルレチン酸、その誘導体、及びそれの塩等のグリチルレチン酸類には、抗炎症作用や抗アレルギー作用があることが知られており、従来、グリチルレチン酸類を配合した外用組成物が開発されているが、白色ワセリンの配合量を高めた外用組成物においてグリチルレチン酸類を安定に配合できる処方については十分な検討は行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、グリチルレチン酸類を含み、且つ白色ワセリンの配合量を高めた外用組成物を開発すべく検討を進めたところ、50重量%以上の白色ワセリンと共にグリチルレチン酸類を配合した外用組成物では、グリチルレチン酸類が十分に溶解できず、製剤化が困難であることを知得した。
【0007】
そこで、本発明の目的は、50重量%以上の白色ワセリン、及びグリチルレチン酸類を含む外用組成物において、グリチルレチン酸類の溶解性を向上させる製剤技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、50重量%以上の白色ワセリン、及びグリチルレチン酸類と共に、ウフェナマートを含む外用組成物は、グリチルレチン酸類の溶解性を向上できることを見出した。更に、本発明者は、前記外用組成物において、更にジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有させることにより、グリチルレチン酸類の溶解性をより一層向上させ得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 50重量%以上の白色ワセリンと、
グリチルレチン酸、その誘導体、及びそれの塩よりなる群から選択される少なくとも1種のグリチルレチン酸類と、
ウフェナマートと、
を含有する外用組成物。
項2. 更に、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有する、項1に記載の外用組成物。
項3. 油脂性軟膏である、項1又は2に記載の外用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の外用組成物によれば、50重量%以上の白色ワセリンを含みながらも、グリチルレチン酸類の溶解性を向上できるので、白色ワセリンによる保湿効果やバリア効果を有効に発現させつつ、グリチルレチン酸類の薬効を発現させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.外用組成物
本発明の外用組成物は、50重量%以上の白色ワセリンと、グリチルレチン酸、その誘導体、及びそれの塩よりなる群から選択される少なくとも1種のグリチルレチン酸類と、ウフェナマートとを含有することを特徴とする。以下、本発明の外用組成物について詳述する。
【0012】
[白色ワセリン]
本発明の外用組成物は、基剤として、白色ワセリンを50重量%以上含有する。このように、白色ワセリンを高含有量で含むことにより、白色ワセリンが有する保湿効果やバリア効果を有効に発現させることができる。
【0013】
本発明の外用組成物における白色ワセリンの含有量については、50重量%以上であればよいが、具体的には50~99重量%、好ましくは55~99重量%、より好ましくは55~95重量%が挙げられる。
【0014】
[グリチルレチン酸類]
本発明の外用組成物は、グリチルレチン酸類として、グリチルレチン酸、その誘導体、及びそれの塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。グリチルレチン酸類は、抗炎症作用や抗アレルギー作用等を有することが知られている公知の薬剤である。
【0015】
グリチルレチン酸の誘導体としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、グリチルレチン酸ピリドキシン、グリチルレチン酸ステアリル、グリチルレチン酸グリセリル、グリチルレチン酸モノグルクロニド等が挙げられる。
【0016】
グリチルレチン酸及び/又はその誘導体の塩としては、薬学的に許容されるものである限り特に制限されないが、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0017】
本発明の外用組成物は、グリチルリチン酸類として、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸の誘導体、及びその塩の中から、1種を選択して使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
これらのグリチルレチン酸類の中でも、好ましくはグリチルレチン酸が挙げられる。
【0019】
本発明の外用組成物におけるグリチルレチン酸類の含有量としては、外用組成物に備えさせるべき薬効の程度等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、グリチルレチン酸類の総量で0.005~5重量%、好ましくは0.01~2重量%、より好ましくは0.01~0.3重量%、更に好ましくは0.1~0.3重量%が挙げられる。
【0020】
[ウフェナマート]
本発明の外用組成物は、前述する成分に加えて、ウフェナマートを含有する。50重量%以上の白色ワセリンを含む外用組成物において、グリチルレチン酸類と共にウフェナマートを含有させることにより、グリチルレチン酸類の溶解性を向上させることが可能になる。
【0021】
ウフェナマートは、フルフェナム酸ブチルとも称され、脂溶性の非ステロイド性抗炎症薬として公知の成分である。
【0022】
本発明の外用組成物におけるウフェナマートの含有量としては、例えば0.1~10重量%、グリチルレチン酸類の溶解性をより一層向上させる観点から、好ましくは1~8重量%、更に好ましくは3~5重量%が挙げられる。
【0023】
本発明の外用組成物において、グリチルレチン酸類に対するウフェナマートの比率としては、例えば、グリチルレチン酸類の総量1重量部当たり、ウフェナマートが0.1~2000重量部、グリチルレチン酸類の溶解性をより一層向上させる観点から、好ましくは1~200重量部、より好ましくは5~50重量部、更により好ましくは12~40重量部が挙げられる。
【0024】
[ジフェンヒドラミン及び/又はその塩]
本発明の外用組成物は、前述する成分に加えて、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有してもよい。ジフェンヒドラミン及び/又はその塩を更に含むことによって、グリチルレチン酸類の溶解性をより一層効果的に向上させることができる。
【0025】
ジフェンヒドラミンは、抗ヒスタミン作用があることが知られている公知の薬剤である。
【0026】
ジフェンヒドラミンの塩としては、薬学的に許容されるものである限り特に制限されないが、例えば、塩酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、サリチル酸塩、ジフェニルジスルホン酸塩、タンニン酸塩、ラウリル硫酸塩、硫酸塩等の酸付加塩が挙げられる。
【0027】
これらのジフェンヒドラミン及びその塩は、1種を選択して使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
ジフェンヒドラミン及びその塩の中でも、グリチルレチン酸類の溶解性をより顕著に向上させるという観点から、好ましくはジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、より好ましくはジフェンヒドラミンが挙げられる。
【0029】
本発明の外用組成物においてジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩の総量で0.01~5重量%、グリチルレチン酸類の溶解性をより一層向上させるという観点から、好ましくは0.05~3重量%、より好ましくは0.01~1重量%、更に好ましくは0.5~1重量%が挙げられる。
【0030】
本発明の外用組成物においてジフェンヒドラミン及び/又はその塩を含有させる場合、グリチルレチン酸類に対するジフェンヒドラミン及び/又はその塩の比率については、特に制限されないが、例えば、グリチルレチン酸類の総量1重量部当たり、ジフェンヒドラミン及び/又はその塩の総量で0.01~1000重量部、グリチルレチン酸類の溶解性をより顕著に向上させるという観点から、好ましくは0.1~100重量部、より好ましくは1~10重量部、更により好ましくは3~8重量部が挙げられる。
【0031】
[多価アルコール]
本発明の外用組成物には、必要に応じて、多価アルコールが含まれていてもよい。
【0032】
多価アルコールとしては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等の2価アルコール;グリセリン等の3価アルコールが挙げられる。
【0033】
これらの多価アルコールは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
これらの多価アルコールの中でも、好ましくは2価アルコール、より好ましくはプロピレングリコールが挙げられる。
【0035】
本発明の外用組成物において多価アルコールを含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば、多価アルコールの総量で0.01~40重量%、好ましくは0.05~10重量%、より好ましくは0.01~5重量%が挙げられる。
【0036】
[水]
本発明の外用組成物には、所望の剤型に調製可能であることを限度として、必要に応じて、水が含まれていてもよい。本発明の外用組成物に水を含有させる場合、その含有量としては、例えば、5重量%以下、好ましくは4重量%以下、より好ましくは1重量%以下が挙げられる。本発明の外用組成物に水を含有させる場合、水の含有量の下限値については、特に制限されないが、例えば、0.01重量%以上又は0.1重量%以上が挙げられる。
【0037】
[その他の成分]
本発明の外用組成物は、前述する成分の他に、必要に応じて、通常使用される他の添加剤が含まれていてもよい。このような添加剤としては、例えば、界面活性剤、増粘剤、植物油、動物油、鉱物油、脂肪酸アルキルエステル、脂肪酸、高級アルコール、pH調節剤、緩衝剤、可溶化剤、キレート剤、防腐剤、保存剤、酸化防止剤、安定化剤、香料等が挙げられる。本発明の外用組成物において、これらの添加剤を含有させる場合、その含有量については、使用する添加剤の種類等に応じて適宜設定すればよい。
【0038】
本発明の外用組成物は、前述する成分の他に、薬理成分が含まれていてもよい。このような薬理成分としては、例えば、ステロイド剤、抗ヒスタミン剤、局所麻酔剤、抗炎症剤、保湿剤、殺菌剤、抗菌剤、鎮痒剤、皮膚保護剤、血行促進成分、ビタミン類、ムコ多糖類等が挙げられる。これらの薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、本発明の外用組成物において、これらの薬理成分を含有させる場合、その濃度については、使用する薬理成分の種類、期待する効果等に応じて適宜設定すればよい。
【0039】
[剤型・製剤形態]
本発明の外用組成物の剤型については、経皮適用可能であることを限度として特に制限されず、油脂性軟膏剤、油中水型クリーム剤等のいずれであってもよいが、好ましくは油脂性軟膏剤が挙げられる。
【0040】
また、本発明の外用組成物は、皮膚に適用されるものである限り、皮膚外用医薬品(医薬部外品を含む)、化粧料等のいずれの製剤形態であってもよい。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
表1及び2に示す組成の油脂性軟膏を調製した。具体的には、表1及び2に示す油性基剤を80℃に加温して混合した後に、他の成分を所定量添加して十分に混合することにより、油脂性軟膏を調製した。調製直後の油脂性軟膏を30分間室温に静置した後に外観を観察し、「グリチルレチン酸の粉末が完全に溶解している状態」を10点、「グリチルレチン酸の粉末の溶け残りがやや認められるが、製品化の点では許容範囲内である状態」を5点、「グリチルレチン酸の粉末が溶解せずに著しい溶け残りが存在している状態」を1点として、1点~10点の10段階で、グリチルレチン酸の溶解性を段階的に評価した。
【0043】
結果を表1及び2に示す。ウフェナマートを配合していない場合、50重量%以上の白色ワセリンとグリチルレチン酸を含む油脂性軟膏では、グリチルレチン酸が溶解せず、著しい溶け残りが認められた(比較例1及び2)。これに対して、50重量%以上の白色ワセリン及びグリチルレチン酸と共に、ウフェナマートを配合した油脂性軟膏では、グリチルレチン酸の溶解性が向上しており、グリチルレチン酸の溶け残りを減少できていた(実施例1~11)。とりわけ、50重量%以上の白色ワセリン及びグリチルレチン酸と共に、ウフェナマートとジフェンヒドラミンを配合した場合には、グリチルレチン酸の溶解性が格段顕著に向上していた(実施例3~5、7、9及び11)。また、実施例4においてジフェンヒドラミンをジフェンヒドラミン塩酸塩に置換した油脂性軟膏でも、実施例4と同程度に、グリチルレチン酸の溶解性が格別顕著に向上していた。
【0044】
【0045】