(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-01
(45)【発行日】2025-09-09
(54)【発明の名称】アルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物およびその製造方法、並びにこれを含む組成物、硬化物および被覆基材
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20250902BHJP
C08G 77/54 20060101ALI20250902BHJP
【FI】
C07F7/18 T CSP
C08G77/54
(21)【出願番号】P 2022155678
(22)【出願日】2022-09-29
【審査請求日】2024-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2021158811
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 雅人
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特許第7683444(JP,B2)
【文献】特許第7596996(JP,B2)
【文献】特開2023-049215(JP,A)
【文献】特開2001-354678(JP,A)
【文献】特開2015-160811(JP,A)
【文献】特表2018-506505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物。
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
5およびR
6は、それぞれ独立して炭素数1~10の非置換の1価炭化水素基を表し、R
3は、硫黄原子、エステル結合またはウレア結合を含んでいてもよい炭素数4~20の2価炭化水素基を表し、R
4は、水素原子または炭素数1~10の非置換の1価炭化水素基を表し、mは、0または1であり、nは、0、1または2である。)
【請求項2】
下記一般式(2)
【化2】
(式中、R
1~R
6、mおよびnは、前記と同じ意味を表す。)
で表されるビス(アルコキシシリルアルキル)アミノシラン化合物を分子内脱アルコール環化させる請求項1記載のアルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物の製造方法。
【請求項3】
下記一般式(3)
【化3】
(式中、R
1、R
2およびmは、前記と同じ意味を表し、R
7は、末端に不飽和結合またはアミノ基を有する炭素数1~18の1価炭化水素基を表す。)
で表される環状シラザン化合物と、下記一般式(4)
【化4】
(式中、R
5、R
6およびnは、前記と同じ意味を表し、Aは、水素原子、炭素数1~8のメルカプトアルキル基または炭素数1~8のイソシアナトアルキル基を表す。)
で表されるアルコキシシラン化合物を反応させる請求項1記載のアルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の環状シラザン化合物を含む硬化性組成物。
【請求項5】
請求項4記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項6】
基材と、その上に形成された被膜とを有する被覆基材であって、前記被膜が、請求項4記載の硬化性組成物から形成されたものである被覆基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物およびその製造方法、並びにこれを含む組成物、硬化物および被覆基材に関する。
【背景技術】
【0002】
含窒素オルガノキシシラン化合物は、シランカップリング剤、表面処理剤、樹脂添加剤または塗料添加剤等として有用である。
このような含窒素オルガノキシシラン化合物としては、アミノプロピルトリメトキシシラン等の1級アミノ基を有するオルガノキシシラン化合物、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等の2級アミノ基を有するオルガノキシシラン化合物、ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン等の3級アミノ基を有するオルガノキシシラン化合物等が知られている。これらの中でも、特に2級アミノ基を有するオルガノキシシラン化合物は、分子内のアミノ基とアルコキシシラン部位で分子内環化させることにより、環状シラザン化合物へと誘導できる。
【0003】
環状シラザン化合物は、窒素上の活性水素を分子内のケイ素で保護しているため、アミノ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基やイソシアネート基と反応しない。このため、反応性樹脂等に混合して1液型組成物を作製することができる。この組成物中の環状シラザン化合物は、空気中に暴露されると、空気中の水分と環状シラザン部位が反応して、2級アミノ基を有するオルガノキシシラン化合物またはその加水分解物となり、上述した機能を発揮する。
【0004】
また、環状シラザン化合物は、反応性に富むため、空気中の水分やアルコールと速やかに反応して被膜を形成することができる。特に、2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン(特許文献1)や、2,2-ジメトキシ-N-[(トリメトキシシリル)エチルジメチルシロキシジメチルシリル(メチル)プロピル]-1-アザ-2-シラシクロペンタン(特許文献2)等の環状シラザン化合物は、環状シラザン骨格以外にも空気中の水分と反応可能な部位を有していることから、速やかに被膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-160811号公報
【文献】特開2001-354678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンは、縮合可能なメトキシ基を5つ有しているため、分子量に占めるメトキシ基の割合が大きい。このため、加水分解縮合の進行に従い、形式的に2つのメトキシ基の脱離に伴って、1つの酸素原子が導入されて被膜が形成されるため、分子量が小さくなり、硬化収縮が大きい。これにより、硬化後に被膜のひび割れや、基材からの被膜の剥離という課題がある。
【0007】
一方、特許文献2記載の2,2-ジメトキシ-N-[(トリメトキシシリル)エチルジメチルシロキシジメチルシリル(メチル)プロピル]-1-アザ-2-シラシクロペンタンは、特許文献1記載の化合物と同様に、縮合可能なメトキシ基を5つ有するものの、窒素-アルコキシシリル基間のスペーサーが長いことから分子量が大きくなり、架橋密度も緩和される。このため、加水分解縮合の進行に伴う被膜形成における硬化収縮の程度が相対的に小さくなり、上記課題は改善すると考えられる。
しかし、特許文献2記載の化合物は、窒素-アルコキシシリル基間のスペーサーにシロキサン結合を含むため、表面移行性が高く、例えば、基材に塗布した場合に、アミノ基と基材の相互作用や結合形成等が十分に行われず、基材に対して密着できない、または密着性が低いという課題がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、硬化収縮に由来するひび割れや剥離を抑制できる耐クラック性を有し、かつ密着性を有する硬化物を与えるアルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物およびその製造方法、並びにこれを含む組成物、硬化物および被覆基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、シロキサン結合を含まずに、窒素-アルコキシシリル基間のスペーサーを延長した所定のアルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物が、空気中の水分と速やかに反応して被膜を形成すること、およびこの被膜が、硬化収縮に由来するひび割れや剥離を抑制できる耐クラック性を有し、かつ密着性を有していることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. 下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物、
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
5およびR
6は、それぞれ独立して炭素数1~10の非置換の1価炭化水素基を表し、R
3は、硫黄原子、エステル結合またはウレア結合を含んでいてもよい炭素数4~20の2価炭化水素基を表し、R
4は、水素原子または炭素数1~10の非置換の1価炭化水素基を表し、mは、0または1であり、nは、0、1または2である。)
2. 下記一般式(2)
【化2】
(式中、R
1~R
6、mおよびnは、前記と同じ意味を表す。)
で表されるビス(アルコキシシリルアルキル)アミノシラン化合物を分子内脱アルコール環化させる1のアルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物の製造方法、
3. 下記一般式(3)
【化3】
(式中、R
1、R
2およびmは、前記と同じ意味を表し、R
7は、末端に不飽和結合またはアミノ基を有する炭素数1~18の1価炭化水素基を表す。)
で表される環状シラザン化合物と、下記一般式(4)
【化4】
(式中、R
5、R
6およびnは、前記と同じ意味を表し、Aは、水素原子、炭素数1~8のメルカプトアルキル基または炭素数1~8のイソシアナトアルキル基を表す。)
で表されるアルコキシシラン化合物を反応させる1のアルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物の製造方法、
4. 1の環状シラザン化合物を含む硬化性組成物、
5. 4の硬化性組成物の硬化物、
6. 基材と、その上に形成された被膜とを有する被覆基材であって、前記被膜が、4の硬化性組成物から形成されたものである被覆基材
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物は、空気中の水分と速やかに反応して被膜を形成でき、かつ得られる被膜は耐クラック性(被膜のひび割れや剥離の抑制)および密着性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1-1で得られた2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンのIRスペクトルを示す図である。
【
図2】実施例1-1で得られた2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンの
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図3】実施例1-2で得られた2-エトキシ-2-メチル-N-(トリエトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンのIRスペクトルを示す図である。
【
図4】実施例1-3で得られた2-エトキシ-2-メチル-N-(トリエトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンの
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図5】実施例1-3で得られた2-メトキシ-2-メチル-N-(トリメトキシシリルプロピルチオエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンのIRスペクトルを示す図である。
【
図6】実施例1-3で得られた2-メトキシ-2-メチル-N-(トリメトキシシリルプロピルチオエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンの
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図7】実施例1-4で得られた2-エトキシ-2-メチル-N-(トリエトキシシリルプロピルウレイドエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンのIRスペクトルを示す図である。
【
図8】実施例1-4で得られた2-エトキシ-2-メチル-N-(トリエトキシシリルプロピルウレイドエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンンの
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図9】実施例1-5で得られた2,2-ジメトキシ-N-(3-トリメトキシシリルプロポキシカルボニル(メチル)エチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンのIRスペクトルを示す図である。
【
図10】実施例1-5で得られた2,2-ジメトキシ-N-(3-トリメトキシシリルプロポキシカルボニル(メチル)エチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンの
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
[1]アルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物
本発明のアルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物(以下、「化合物(1)」という。)は、下記一般式(1)で表される。
【0014】
【0015】
一般式(1)において、R1、R2、R5およびR6は、それぞれ独立して炭素数1~10、好ましくは1~6、より好ましくは1~3の非置換の1価炭化水素基である。
R1、R2、R5およびR6の1価炭化水素基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-へプチル、n-オクチル、デシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、テキシル、2-エチルヘキシル基等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル基等の環状アルキル基;ビニル、アリル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル基等のアルケニル基;フェニル、トリル基等のアリール基;ベンジル、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。
これらの中でも、原料の調達容易性の観点から、直鎖状アルキル基、アルケニル基が好ましい。
【0016】
R4は、水素原子または炭素数1~10、好ましくは1~6、より好ましくは1~3の非置換の1価炭化水素基である。R4の1価炭化水素基としては、R1と同様の置換基が挙げられ、特に原料調達の容易性から、水素原子またはメチル基が好ましい。
mは、0または1であり、nは、0、1または2である。
【0017】
R3は、硫黄原子、エステル結合またはウレア結合を含んでいてもよい炭素数4~20、好ましくは4~10、より好ましくは4~6の2価炭化水素基である。
R3の2価炭化水素基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、テトラメチレン、ヘキサメチレン、オクタメチレン、デシレン基等の直鎖状アルキレン基;メチルトリメチレン、メチルテトラメチレン基等の分岐鎖状アルキレン基;シクロヘキシレン、メチレンシクロヘキシレンメチレン基等の環状アルキレン基;ブテニレン、ヘキセニレン、オクテニレン基等の直鎖状アルケニレン基;イソブテニレン基等の分岐鎖状アルケニレン基;フェニレン等のアリーレン基;メチレンフェニレン、メチレンフェニレンメチレン基等のアラルキレン基等が挙げられる。
これらの中でも、原料の調達容易性の観点から、直鎖状アルキレン基が好ましい。
【0018】
また、R3が硫黄原子を含む場合の2価炭化水素基としては、炭素数4~20、好ましくは4~10、より好ましくは4~6のチオアルキレン基、アルキレンチオアルキレン基が挙げられる。
R3がエステル結合を含む場合の2価炭化水素基としては、例えば、下記一般式(5)で表される置換基が挙げられ、R3がウレア結合を含む場合の2価炭化水素基としては、下記一般式(6)で表される置換基が挙げられる。
【0019】
【0020】
一般式(5)および(6)において、R3’は、それぞれ独立して単結合または炭素数1~10、好ましくは1~6、より好ましくは1~3の2価炭化水素基であるが、2か所のR3’中に含まれる炭素原子の合計数はR3と同じである。R3’の2価炭化水素基としては、R3で例示した炭素数4~10の2価炭化水素基に加え、メチレン、エチレン、トリメチレン、プロピレン基等が挙げられる。
一般式(6)において、R9は、水素原子または炭素数1~10、好ましくは1~6、より好ましくは1~3の非置換の1価炭化水素基である。R9の1価炭化水素基としては、R1と同様の置換基が挙げられ、特に原料調達の容易性から、水素原子が好ましい。
【0021】
化合物(1)の具体例としては、2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルヘキシル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(トリメトキシシリルヘキシル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(トリメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-(トリエトキシシリルヘキシル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-(トリエトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-(トリエトキシシリルヘキシル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-(トリエトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルチオエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルチオエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(トリメトキシシリルチオエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(トリメトキシシリルチオエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルチオプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルチオプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(トリメトキシシリルチオプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(トリメトキシシリルチオプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(3-トリメトキシシリルプロポキシカルボニルエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-(3-トリエトキシシリルプロポキシカルボニルエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(3-トリメトキシシリルプロポキシカルボニル(メチル)エチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-(3-トリエトキシシリルプロポキシカルボニル(メチル)エチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(3-トリメトキシシリルプロピルウレイドエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(3-トリメトキシシリルプロピルウレイドエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-(3-トリエトキシシリルプロピルウレイドエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-(3-トリエトキシシリルプロピルウレイドエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン等のトリアルコキシシリルアルキル基を有する環状シラザン化合物;2,2-ジメトキシ-N-(メチルジメトキシシリルヘキシル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(メチルジメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(メチルジメトキシシリルヘキシル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(メチルジメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-(メチルジエトキシシリルヘキシル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-(メチルジエトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-(メチルジエトキシシリルヘキシル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-(メチルジエトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(メチルジメトキシシリルチオエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(メチルジメトキシシリルチオエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(メチルジメトキシシリルチオエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(メチルジメトキシシリルチオエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(メチルジメトキシシリルチオプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(メチルジメトキシシリルチオプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(メチルジメトキシシリルチオプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(メチルジメトキシシリルチオプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(3-メチルジメトキシシリルプロポキシカルボニルエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-(3-メチルジエトキシシリルプロポキシカルボニルエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(3-メチルジメトキシシリルプロポキシカルボニル(メチル)エチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-(3-メチルジエトキシシリルプロポキシカルボニル(メチル)エチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン等のアルキルジアルコキシシリルアルキル基を有する環状シラザン化合物;2,2-ジメトキシ-N-(ジメチルメトキシシリルヘキシル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(ジメチルメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(ジメチルメトキシシリルヘキシル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(ジメチルメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(ジエチルメトキシシリルヘキシル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(ジエチルメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(ジエチルメトキシシリルヘキシル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(ジエチルメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(ジフェニルメトキシシリルヘキシル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-(ジフェニルメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(ジフェニルメトキシシリルヘキシル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-(ジフェニルメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン等のジアルキルアルコキシシリルアルキル基を有する環状シラザン化合物等が挙げられる。
【0022】
[2]アルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物の製造方法
次に、化合物(1)の製造方法について説明する。
本発明の化合物(1)は、例えば、下記一般式(2)で表されるビス(アルコキシシリルアルキル)アミノシラン化合物(以下、「化合物(2)」という。)を分子内脱アルコール環化させる方法(以下、「製造方法A」という。)と、下記一般式(3)で表される環状シラザン化合物(以下、「化合物(3)」という。)と、下記一般式(4)で表されるアルコキシシラン化合物(以下、「化合物(4)」という。)を反応させる方法(以下、「製造方法B」という。)により得ることができる。
【0023】
【化7】
(式中、R
1~R
6、mおよびnは、上記と同じ意味を表す。)
【0024】
(1)製造方法A
まず、製造方法Aについて説明する。
製造方法Aとしては、上記化合物(2)を、好ましくは触媒の存在下で加熱して分子内環化させ、生じたアルコール成分を系外に除去する第一の方法のほか、上記化合物(2)を、好ましくは触媒の存在下で加熱して分子内環化させ、生じたアルコール成分をシラザン化合物で捕捉する第二の方法等が挙げられる。
【0025】
化合物(2)の具体例としては、(トリメトキシシリルプロピル)-(トリメトキシシリルヘキシル)アミン、(トリメトキシシリルプロピル)-(トリメトキシシリルオクチル)アミン、(トリエトキシシリルプロピル)-(トリエトキシシリルヘキシル)アミン、(トリエトキシシリルプロピル)-(トリエトキシシリルオクチル)アミン、(トリメトキシシリルプロピル)-(トリメトキシシリルプロピルチオエチル)アミン、(トリメトキシシリルプロピル)-(トリメトキシシリルプロピルチオプロピル)アミン、(トリメトキシシリルプロピル)-(トリメトキシシリルプロポキシカルボニルエチル)アミン、(トリメトキシシリルプロピル)-(トリメトキシシリルプロポキシカルボニル(メチル)エチル)アミン等の(トリアルコキシシリルプロピル)-(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物;(メチルジメトキシシリルプロピル)-(トリメトキシシリルヘキシル)アミン、(メチルジメトキシシリルプロピル)-(トリメトキシシリルオクチル)アミン、(メチルジエトキシシリルプロピル)-(トリエトキシシリルオクチル)アミン、(メチルジエトキシシリルプロピル)-(トリエトキシシリルオクチル)アミン、(メチルジメトキシシリルプロピル)-(トリメトキシシリルプロピルチオエチル)アミン、(メチルジメトキシシリルプロピル)-(トリメトキシシリルプロピルチオエチル)アミン等の(アルキルジアルコキシシリルプロピル)-(トリアルコキシシリルアルキル)アミン化合物;(トリメトキシシリルプロピル)-(メチルジメトキシシリルヘキシル)アミン、(トリメトキシシリルプロピル)-(メチルジメトキシシリルオクチル)アミン、(トリエトキシシリルプロピル)-(メチルジエトキシシリルヘキシル)アミン、(トリエトキシシリルプロピル)-(メチルジエトキシシリルオクチル)アミン、(トリメトキシシリルプロピル)-(メチルジメトキシシリルプロポキシカルボニルエチル)アミン、(トリメトキシシリルプロピル)-(メチルジメトキシシリルプロポキシカルボニル(メチル)エチル)アミン等の(トリアルコキシシリルプロピル)-(アルキルジアルコキシシリルアルキル)アミン化合物;(メチルジメトキシシリルプロピル)-(メチルジメトキシシリルヘキシル)アミン、(メチルジメトキシシリルプロピル)-(メチルジメトキシシリルオクチル)アミン、(メチルジエトキシシリルプロピル)-(メチルジエトキシシリルヘキシル)アミン、(メチルジエトキシシリルプロピル)-(メチルジエトキシシリルオクチル)アミン等の(アルキルジアルコキシシリルプロピル)-(アルキルジアルコキシシリルアルキル)アミン化合物;(トリメトキシシリルプロピル)-(ジメチルメトキシシリルヘキシル)アミン、(トリメトキシシリルプロピル)-(ジメチルメトキシシリルオクチル)アミン、(トリエトキシシリルプロピル)-(ジメチルエトキシシリルヘキシル)アミン、(トリエトキシシリルプロピル)-(ジメチルエトキシシリルオクチル)アミン等の(トリアルコキシシリルプロピル)-(ジアルキルアルコキシシリルアルキル)アミン化合物等が挙げられる。
【0026】
なお、化合物(2)は、クロロアルキルアルコキシシラン化合物と、アミノプロピルアルコキシシラン化合物を反応させることにより、またはクロロプロピルアルコキシシラン化合物とアミノアルキルアルコキシシラン化合物を反応させること等により得ることができる。
【0027】
第一の方法における触媒としては、酸性化合物または塩基性化合物が挙げられる。
酸性化合物の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、コハク酸、安息香酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸等のスルホン酸;O-ベンズスルホンイミド、ジベンゼンスルホンイミド等のスルホンイミド等のブレンステッド酸、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホナート等のルイス酸等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
一方、塩基性化合物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキルまたはアリール基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
第一の方法において、触媒の添加量は、生成するアルコール成分1モルに対して、好ましくは0.0001~0.1モル、より好ましくは0.001~0.05モルである。
反応温度は、好ましくは0~200℃、より好ましくは40~200℃である。
反応時間は、好ましくは30~600分間、より好ましくは60~300分間、より一層好ましくは60~150分間である。
第一の方法の反応は、常圧下でも進行するが、生じたアルコールを速やかに除去するために減圧下で行うことが好ましい。
【0030】
また、第一の方法の反応は、無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。用いられる溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
次に、第二の方法における触媒としては、第一の方法で挙げたブレンステッド酸が好適であり、触媒の添加量についても、第一の方法における触媒の場合と同様である。
第二の方法における反応温度は、好ましくは80~200℃、より好ましくは110~200℃である。
反応時間は、好ましくは60~600分間、より好ましくは120~300分間である。
第二の方法の反応は、減圧下でも進行するが、反応温度をできるだけ高く設定するために、常圧下で行うことが好ましい。
【0032】
第二の方法で用いられるシラザン化合物の具体例としては、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ジメチルアミノトリメチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、N-トリメチルシリルアニリン、N-トリメチルシリル-N-メチルアニリン、モルホリノトリメチルシラン、ピペリジノトリメチルシラン、2-メチル-トリメチルシリルピペリジン、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド等が挙げられる。
これらのシラザン化合物の使用量は、生成するアルコール成分1モル対して、シラザン化合物中のケイ素のモル数が好ましくは0.5~10モル、より好ましくは0.8~2モルである。
第二の方法の反応は、無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。用いられる溶媒としては、第一の方法と同様の溶媒が挙げられる。
【0033】
(2)製造方法B
次に、上記化合物(3)と、上記化合物(4)を反応させる方法である製造方法Bについて説明する。
一般式(3)において、R7は、末端に不飽和結合またはアミノ基を有する炭素数1~18、好ましくは1~10、より好ましくは2~8の1価炭化水素基である。
不飽和結合を有する1価炭化水素基としては、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、アリル、ブテニル、ヘキセニル、オクテニル基等の直鎖状アルケニル基;イソブテニル基等の分岐鎖状アルケニル基;スチリル(ビニルフェニル)、アリルフェニル基等の芳香族炭化水素基を含むアルケニル基等が挙げられる。
一方、アミノ基を有する1価炭化水素基としては、アミノエチル、アミノプロピル、アミノヘキシル、アミノオクチル基等の直鎖状アミノアルキル基;アミノフェニル基等のアミノアリール基等が挙げられる。
これらの中でも、原料の調達容易性の観点から、直鎖状アルケニル基や、直鎖状アミノアルキル基が好ましい。
【0034】
化合物(3)の具体例としては、2,2-ジメトキシ-N-アリル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-ブテニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-ヘキセニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-オクテニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-スチリル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-アリル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-ブテニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-ヘキセニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-オクテニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-スチリル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-アリル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-ブテニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-ヘキセニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-オクテニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-スチリル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-アリル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-ブテニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-ヘキセニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-オクテニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-スチリル-1-アザ-2-シラシクロペンタン等の不飽和結合を有する環状シラザン化合物;2,2-ジメトキシ-N-アミノエチル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-アミノプロピル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-アミノヘキシル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-アミノオクチル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-N-アミノフェニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-アミノエチル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-アミノプロピル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-アミノヘキシル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-アミノオクチル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-N-アミノフェニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-アミノエチル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-アミノプロピル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-アミノヘキシル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-アミノオクチル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-N-アミノフェニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-アミノエチル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-アミノプロピル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-アミノヘキシル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-アミノオクチル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-メチル-N-アミノフェニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン等のアミノ基を有する環状シラザン化合物が挙げられる。
【0035】
なお、化合物(3)は、R7を窒素上の置換基として有するアミノシラン化合物を分子内環化させることにより得ることができる。
【0036】
化合物(4)において、Aは、水素原子、炭素数1~8のメルカプトアルキル基または炭素数1~8のイソシアナトアルキル基である。
まず、Aが水素原子である場合、すなわち、下記一般式(7)で表されるハイドロジェンシラン化合物(以下、「化合物(7)」という。)を用いた製造方法Bについて説明する。なお、この場合、化合物(3)中のR7は、必ず末端に不飽和結合を有する炭素数1~18の1価炭化水素基である。
【0037】
【化8】
(式中、R
5、R
6およびnは、上記と同じ意味を表す。)
【0038】
化合物(7)の具体例としては、トリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0039】
化合物(3)と化合物(7)の配合比は特に限定されないが、生産性の観点から、化合物(3)に含まれる不飽和結合1モルに対して、化合物(7)が、好ましくは0.5~1.5モル、より好ましくは0.8~1.2モル、より一層好ましくは0.8~1.05モルである。
【0040】
化合物(3)と化合物(7)を反応させる場合、触媒として白金化合物を用いることができる。
この白金化合物の具体例としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエンまたはキシレン溶液、テトラキストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビスアセトニトリル白金、ジクロロビスベンゾニトリル白金、ジクロロシクロオクタジエン白金、白金-活性炭等が挙げられる。
白金化合物の使用量は特に限定されないが、生産性の点から、上記化合物(3)中に含まれる不飽和結合1モルに対して、好ましくは0.000001~0.2モル、より好ましくは0.00001~0.1モルである。
【0041】
上記反応の反応温度は特に限定されないが、生成物の安定性の観点から、好ましくは0~200℃、より好ましくは20~150℃である。
反応時間も特に限定されないが、生成物の安定性の観点から、好ましくは1~40時間、より好ましくは1~20時間である。
なお、上記反応は、触媒の失活や、化合物(3)や化合物(7)の加水分解を防ぐために、窒素またはアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0042】
上記反応は、無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。
溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、イソオクタン、イソドデカン等の炭素数5~20の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭素数6~10の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられ、特に触媒の溶解性の観点から、トルエン、キシレンが好ましい。これらの溶媒は1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
次に、Aが炭素数1~8のメルカプトアルキル基である場合、すなわち、下記一般式(8)で表されるメルカプトアルキルアルコキシシラン化合物(以下、「化合物(8)」という。)を用いた製造方法Bについて説明する。なお、この場合、化合物(3)中のR7は、必ず末端に不飽和結合を有する炭素数1~18の1価炭化水素基である。
【0044】
【化9】
(式中、R
5、R
6およびnは、上記と同じ意味を表す。)
【0045】
一般式(8)において、R8は、炭素数1~8、好ましくは1~5、より好ましくは1~3の非置換の2価炭化水素基である。
R8の2価炭化水素基としては、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ヘキサメチレン、オクタメチレン、デシレン基等の直鎖状アルキレン基;メチルトリメチレン、メチルテトラメチレン等の分岐鎖状アルキレン基;シクロヘキシレン、メチレンシクロヘキシレンメチレン等の環状アルキレン基;プロペニレン、ブテニレン、ヘキセニレン、オクテニレン等の直鎖状アルケニレン基;イソブテニレン基等の分岐鎖状アルケニレン基;フェニレン等のアリーレン基;メチレンフェニレン、メチレンフェニレンメチレン等のアラルキレン基等が挙げられる。これらの中でも、原料の調達容易性の観点から、直鎖状アルキレン基が好ましい。
【0046】
化合物(8)の具体例としては、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトヘキシルトリメトキシシラン、メルカプトオクチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトヘキシルトリエトキシシラン、メルカプトオクチルトリエトキシシラン等のメルカプトアルキルトリアルコキシシラン化合物;メルカプトメチルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトヘキシルメチルジメトキシシラン、メルカプトオクチルメチルジメトキシシラン、メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メルカプトヘキシルメチルジエトキシシラン、メルカプトオクチルメチルジエトキシシラン等のメルカプトアルキルアルキルジアルコキシシラン化合物;メルカプトメチルメチルジメチルメトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトヘキシルジメチルメトキシシラン、メルカプトオクチルジメチルメトキシシラン、メルカプトメチルジメチルエトキシシラン、メルカプトプロピルジメチルエトキシシラン、メルカプトヘキシルジメチルエトキシシラン、メルカプトオクチルジメチルエトキシシラン等のメルカプトアルキルジアルキルアルコキシシラン化合物等が挙げられる。
【0047】
化合物(3)と化合物(8)の配合比は特に限定されないが、生産性の観点から、化合物(3)に含まれる不飽和結合1モルに対して、化合物(8)が、0.5~1.5モル、より好ましくは0.8~1.2モル、より一層好ましくは0.8~1.05モルである。
【0048】
化合物(3)と化合物(8)を反応させる場合、触媒としてラジカル発生剤を用いることができる。
このラジカル発生剤の具体例としては、tert-ブチルヒドロペルオキシド、ジtert-ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル等有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス2-メチルブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられ、特にアゾ化合物が好ましい。
ラジカル発生剤の使用量は特に限定されないが、生産性の観点から、化合物(3)に含まれる不飽和結合1モルに対して、好ましくは0.0001~0.2モル、より好ましくは0.001~0.1モルである。
【0049】
上記反応の反応温度は特に限定されないが、生成物の安定性の観点から、好ましくは0~200℃、より好ましくは20~150℃である。
また、反応時間も特に限定されないが、生成物の安定性の観点から、好ましくは1~40時間、より好ましくは1~20時間である。
なお、上記反応は、触媒の失活や、不飽和結合を化合物(3)や化合物(8)の加水分解を防ぐために、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0050】
上記反応は、無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。
溶媒の具体例としては、Aが水素原子である場合と同様の溶媒が挙げられる。
【0051】
最後に、Aが炭素数1~8のイソシアナトアルキル基である場合、すなわち、下記一般式(9)で表されるイソシアナトアルキルアルコキシシラン化合物(以下、「化合物(9)」という。)を用いた製造方法Bについて説明する。なお、この場合、化合物(3)中のR7は、必ず末端にアミノ基を有する。
【0052】
【化10】
(式中、R
5、R
6、R
8およびnは、上記と同じ意味を表す。)
【0053】
化合物(9)の具体例としては、イソシアナトメチルトリメトキシシラン、イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、イソシアナトヘキシルトリメトキシシラン、イソシアナトクチルトリメトキシシラン、イソシアナトメチルトリエトキシシラン、イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、イソシアナトヘキシルトリエトキシシラン、イソシアナトクチルトリエトキシシラン等のイソシアナトアルキルトリアルコキシシラン化合物;イソシアナトメチルメチルジメトキシシラン、イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、イソシアナトヘキシルメチルジメトキシシラン、イソシアナトクチルメチルジメトキシシラン、イソシアナトメチルメチルジエトキシシラン、イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、イソシアナトヘキシルメチルジエトキシシラン、イソシアナトクチルメチルジエトキシシラン等のイソシアナトアルキルアルキルジアルコキシシラン化合物;イソシアナトメチルメチルジメチルメトキシシラン、イソシアナトプロピルジメチルメトキシシラン、イソシアナトヘキシルジメチルメトキシシラン、イソシアナトクチルジメチルメトキシシラン、イソシアナトメチルジメチルエトキシシラン、イソシアナトプロピルジメチルエトキシシラン、イソシアナトヘキシルジメチルエトキシシラン、イソシアナトクチルジメチルエトキシシラン等のイソシアナトアルキルジアルキルアルコキシシラン化合物等が挙げられる。
【0054】
化合物(3)と化合物(9)の配合比は特に限定されないが、生産性の観点から、化合物(3)に含まれる遊離のアミノ基1モルに対して、化合物(9)が、好ましくは0.8~2モル、より好ましくは0.9~1.5モル、より一層好ましくは0.9~1.05モルである。
【0055】
上記反応の反応温度は特に限定されないが、生成物の安定性の観点から、好ましくは0~100℃、より好ましくは20~60℃である。
反応時間も特に限定されないが、生成物の安定性の観点から、好ましくは1~40時間、より好ましくは1~20時間である。
なお、上記反応は、触媒の失活や、不飽和結合を化合物(3)や化合物(9)の加水分解を防ぐために、窒素またはアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0056】
上記反応は、無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。
溶媒の具体例としては、Aが水素原子である場合と同様の溶媒が挙げられる。
【0057】
目的物である化合物(1)の単離や精製は、減圧ストリップや各種クロマトグラフィー、吸着剤を用いた処理、ろ過、蒸留等の有機合成における通常の精製方法から適宜選択して用いることができる。特に、スケールアップの容易性から、蒸留が好ましい。
また、得られた化合物(1)は、その使用において支障がないのであれば、原料である化合物(2)や化合物(3)との混合物であってもよい。
【0058】
[3]硬化性組成物および硬化物
次に、本発明に係る硬化性組成物および硬化物について説明する。
本発明の硬化性組成物は、化合物(1)を含むものであり、必要に応じて、溶媒、加水分解性シリコーン化合物、硬化触媒等を含んでいてもよい。
硬化性組成物中の化合物(1)の配合量は特に限定されないが、好ましくは1~100質量%、より好ましくは20~100質量%、より一層好ましくは30~100質量%である。
【0059】
必要に応じて用いられる溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、イソオクタン、イソドデカン等の炭素数5~20の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭素数6~10の芳香族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒;ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、トリス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等のシリコーン系溶媒等が挙げられ、これらの溶媒は1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
溶媒を用いる場合、その配合量は特に限定されないが、作業性の観点から、好ましくは10~99質量%、より好ましくは20~80質量%、より一層好ましくは30~60質量%である。
【0060】
必要に応じて用いられる加水分解性基含有シリコーン化合物の具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシラン化合物;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、メトキシメチルトリメトキシシラン、エトキシメチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン化合物;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン化合物;1,4-ビス(ジメチルメトキシシリル)ベンゼン、1,4-ビス(ジメチルエトキシシリル)ベンゼン等のビス(ジアルキルアルコキシシラン)化合物等が挙げられる。
【0061】
加水分解性基含有シリコーン化合物は、シラン化合物をそのまま用いてもよく、シラン化合物の部分加水分解縮合物を用いてもよく、シラン化合物とその部分加水分解物の混合物を用いてもよい。
また、加水分解性基含有シラン化合物の部分加水分解縮合物は、加水分解性基含有シラン化合物1種の部分加水分解縮合物でもよく、2種以上からなる部分加水分解縮合物でもよい。
加水分解性基含有シリコーン化合物を用いる場合、その配合量は特に限定されないが、硬化性の観点から、好ましくは0~89質量%、より好ましくは20~60質量%、より一層好ましくは30~50質量%である。
【0062】
必要に応じて用いられる硬化触媒としては、チタン化合物、アルミ化合物、亜鉛化合物、スズ化合物等の金属化合物が使用できる。
チタン化合物の具体例としては、オルトチタン酸テトラブチル、オルトチタン酸テトラメチル、オルトチタン酸テトラエチル、オルトチタン酸テトラプロピル、オルトチタン酸テトライソプロピル等のオルトチタン酸テトラアルキル、それらの部分加水分解縮合物、チタニウムアシレート等が挙げられる。
アルミ化合物の具体例としては、三水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコラート、アルミニウムアシレート、アルミニウムアシレートの塩、アルミノシロキシ化合物、アルミニウム金属キレート化合物等が挙げられる。
亜鉛化合物の具体例としては、オクチル酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸亜鉛等が挙げられる。
スズ化合物の具体例としては、ジオクチルチンジオクテート、ジオクチルチンジラウレート等が挙げられる。
【0063】
硬化触媒を用いる場合、その配合量は特に限定されないが、触媒の効果を発揮させる観点から、化合物(1)の質量、または化合物(1)および必要に応じて用いられる加水分解性基含有シリコーン化合物の合計質量に対して、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%である。
なお、硬化触媒は、硬化性組成物に後から加えてもよく、上述した必要に応じて用いられる溶媒や加水分解性基含有シリコーン化合物に溶かして加えて配合してもよい。
【0064】
なお、上記硬化性組成物は、その効果を損なわない範囲であれば、顔料、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、pH調整剤、フィルム形成剤、帯電防止剤、抗菌剤、染料等から選択されるその他の添加剤を1種以上含有していてもよい。
【0065】
本発明の硬化物は、上記硬化性組成物が硬化したものであり、具体的には、化合物(1)中に含まれるアルコキシシリル基が加水分解縮合することによって硬化してなる硬化物である。
硬化性組成物に溶媒が含まれている場合、硬化前に予め溶媒を揮発させても、させなくてもよく、また揮発させながら硬化させてもよい。
【0066】
硬化時の温度は、常温から加熱下が採用できる。
この際の温度は基材に悪影響を与えない限り特に制限はないが、反応性を保つために、好ましくは0~250℃、より好ましくは20~180℃、より一層好ましくは20~150℃である。
また、空気中の水分と反応することから、相対湿度は、好ましくは15~100%、より好ましくは25~80%である。
【0067】
上記硬化性組成物を無機材料または有機材料等の基材の表面に被覆させた後、空気中の水分と反応させて硬化させることにより、被覆基材を得ることもできる。
【0068】
無機材料の具体例としては、金属、ガラス、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、カーボン等が挙げられる。これらの形状は、特に限定されないが、板状、シート状、繊維状、粉末状のいずれでもよい。
ガラスとしては、Eガラス、Cガラス、石英ガラス等の一般的に用いられる種類のガラスを用いることができ、ガラス繊維でもよい。ガラス繊維はその集合物でもよく、例えば、繊維径が3~30μmのガラス系(フィラメント)の繊維束、撚糸、織物等でもよい。
【0069】
有機材料の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ナイロン、ポリウレタン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ABS(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの重合物)、メラミン、フェノール、エポキシ、ポリイミド等の樹脂材料、ポリブタジエンラバー、ポリイソプロピレンラバー、ニトリルラバー、ネオプレンラバー、ポリサルファイド、ウレタンラバー等のエラストマー、ゴム材料が挙げられる。
なお、基材の形状は、特に限定されないが、板状、シート状、繊維状、粉末状のいずれでもよい。
【0070】
基材への塗布方法としては、公知の塗布方法を採用でき、例えば、刷毛塗り法、スポンジ塗り法、布塗り法、スプレーコーティング法、ワイヤーバー法、ブレード法、ロールコーティング法、ディッピング法、スピンコーティング法等が挙げられる。
また、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム等の粉末状の材料においては、基材とともに硬化性組成物を直接ミキサーやミルで混合する混合法を採用してもよい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0072】
[実施例1-1]2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン(化合物1)の合成
【化11】
(式中、Meは、メチル基を表す。以下、同様である。)
【0073】
撹拌機、温度計、蒸留塔、還流冷却器を備えた四つ口ガラスフラスコの内部を窒素で置換し、(トリメトキシシリルプロピル)-(トリメトキシシリルオクチル)アミン122g(0.296モル)、トルエン132g、トリフルオロメタンスルホン酸0.75g(0.0050モル)を加えて、還流させた。この混合物に、N-トリメチルシリル-N-メチルアニリン58.4g(0.311モル)を加えて撹拌し、発生したトリメチルメトキシシランをトルエンと共に、反応温度150℃に到達するまで、蒸留塔を用いて抜出した。
得られた反応液を蒸留し、沸点170℃/0.5kPaの留分66gを得た(収率58%)。得られた留分のIRおよび
1H-NMR分析を行った。結果を
図1および
図2に示す。
【0074】
[実施例1-2]2-エトキシ-2-メチル-N-(トリエトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン(化合物2)の合成
【化12】
(式中、Etは、エチル基を表す。以下、同様である。)
【0075】
撹拌機、温度計、蒸留塔、還流冷却器を備えた四つ口ガラスフラスコの内部を窒素で置換し、(メチルジエトキシシリルプロピル)-(トリエトキシシリルオクチル)アミン162g(0.348モル)、トルエン114g、トリフルオロメタンスルホン酸1.0g(0.0067モル)を加えて、還流させた。この混合物にN-トリメチルシリル-N-メチルアニリン68.5g(0.382モル)を加えて撹拌し、発生したトリメチルエトキシシランをトルエンと共に、反応温度150℃に到達するまで、蒸留塔を用いて抜出した。
得られた反応液を蒸留し、沸点177℃/0.2kPaの留分110gを得た(収率75%)。得られた留分のIRおよび
1H-NMR分析を行った。結果を
図3および4に示す。
【0076】
[実施例1-3]2-メトキシ-2-メチル-N-(トリメトキシシリルプロピルチオエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン(化合物3)の合成
【化13】
【0077】
撹拌機、温度計、蒸留塔、還流冷却器を備えた四つ口ガラスフラスコの内部を窒素で置換し、(メチルジメトキシシリルプロピル)-(トリメトキシシリルプロピルチオエチル)アミン86.0g(0.221モル)、トルエン110g、トリフルオロメタンスルホン酸0.4g(0.003モル)を加えて、還流させた。この混合物にN-トリメチルシリル-N-メチルアニリン44.0g(0.245モル)を加えて撹拌し、発生したトリメチルメトキシシランをトルエンと共に、反応温度140℃に到達するまで、蒸留塔を用いて抜出した。
得られた反応液を蒸留し、沸点140-150℃/0.4kPaの留分54gを得た(収率69%)。得られた留分のIRおよび
1H-NMR分析を行った。結果を
図5および6に示す。
【0078】
[実施例1-4]2-エトキシ-2-メチル-N-(3-トリエトキシシリルプロピルウレイドエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン(化合物4)の合成
【化14】
【0079】
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えた四つ口ガラスフラスコの内部を窒素で置換し、2-エトキシ-2-メチル-N-アミノエチル-1-アザ-2-シラシクロペンタン13.9g(0.0738モル)を仕込んだ。ここに、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン18.0g(0.0728モル)を加え、室温で30分撹拌した。反応液31gが得られた。反応液のIR分析を行うと、イソシアナト基由来のピーク(2260cm
-1)が完全に消失し、新たにウレイド基由来のピーク(1616,3352cm
-1)が生じた。結果を
図7に示す。また、
1H-NMRの測定結果を
図8に示す。これらの結果から、2-エトキシ-2-メチル-N-(3-トリエトキシシリルプロピルウレイドエチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンの生成を確認した。
【0080】
[実施例1-5]2,2-ジメトキシ-N-(3-トリメトキシシリルプロポキシカルボニル(メチル)エチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン(化合物5)の合成
【化15】
【0081】
撹拌機、温度計、蒸留塔、還流冷却器を備えた四つ口ガラスフラスコの内部を窒素で置換し、(トリメトキシシリルプロピル)-(トリメトキシシリルプロポキシカルボニル(メチル)エチル)アミン145.7g(0.3407モル)、トルエン160.2g、トリフルオロメタンスルホン酸1.08g(0.00719モル)を加えて、還流させた。この混合物にN-トリメチルシリル-N-メチルアニリン68.8g(0.384モル)を加えて撹拌し、発生したトリメチルメトキシシランをトルエンと共に、反応温度145℃に到達するまで、蒸留塔を用いて抜出した。
得られた反応液を蒸留し、沸点163℃/0.4kPaの留分29.6gを得た(収率22%)。得られた留分のIRおよび
1H-NMR分析を行った。結果を
図9および10に示す。
【0082】
[実施例1-6]2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン(化合物1)の合成
【化16】
【0083】
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えた四つ口ガラスフラスコの内部を窒素で置換し、2,2-ジメトキシ-N-オクテニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン19.0g(0.0738モル)、白金-1,3-ジビニルテトラシロキサン錯体のトルエン溶液0.0975g(白金として0.000015モル)を仕込み70℃に温調した。この反応液に、トリメトキシシラン8.1g(0.066モル)を加えて同じ温度で4時間撹拌した。反応液をGC分析すると、2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルオクチル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンの生成が確認された。
【0084】
[実施例1-7]2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルプロピルチオプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン(化合物6)の合成
【化17】
【0085】
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えた四つ口ガラスフラスコの内部を窒素で置換し、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン12.8g(0.0650モル)を仕込み90℃に温調した。ここに、2,2-ジメトキシ-N-アリル-1-アザ-2-シラシクロペンタン10.1g(0.0539モル)、2,2-アゾビスイソブチロニトリル0.21g(0.0011モ)、トルエン5gの混合物を3時間で滴下し、同じ温度で4時間撹拌した。反応液をGC分析すると、2,2-ジメトキシ-N-(トリメトキシシリルプロピルチオプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンの生成が確認された。
【0086】
[実施例2-1~2-4、比較例2]
実施例2-1~2-4および比較例2で使用した化合物を下記に示す。
(1)環状シラザン化合物
実施例1-1~1-4で合成した環状シラザン化合物1~4(化合物1~4と表記)
下記式で示される2,2-ジメトキシ-N-トリメトキシシリルプロピル-1-アザ-2-シラシクロペンタン(比較化合物と表記)
【0087】
【0088】
(2)加水分解性シリコーン化合物
1,3-ジメトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン
KR-400:メチル基とメトキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物と硬化触媒を含有する組成物(信越化学工業(株)製)
KR-401N:メチル基とフェニル基とメトキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物(信越化学工業(株)製)
KC-89S:メチル基とメトキシ基を有する加水分解性シリコーン化合物(信越化学工業(株)製)
(3)溶媒
ジプロピレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業(株)製)
(4)硬化触媒
D-25:チタン化合物(信越化学工業(株)製)
【0089】
実施例1-1~1-4で得られた化合物1~4および比較化合物のそれぞれと、溶媒を下記表1に示す比率で配合し、硬化性組成物を調製した。
アルミ板(7cm×15cm)上に、バーコーターにより各硬化性組成物をウエット厚さ30μmとなるように塗布した後、25℃、50%相対湿度の環境下にて静置して硬化被膜が形成された試験片を作製した。得られた試験片について、耐クラック性を下記の手法により評価した。結果を表1に示す。
【0090】
[耐クラック性]
硬化被膜で被覆された試験片を室温で1日静置し、被膜にひび割れや剥離が発生するか確認し、それらが発生するまでの時間を測定した。
また、硬化後の試験片を150℃の環境下にて2時間加熱し、5分置きに塗膜にひび割れや剥離が発生するか確認し、それらが発生するまでの時間を測定した。変化がなかった場合は、「○」とした。結果を表1に示す。
【0091】
【0092】
表1に示されるように、本発明のアルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物の硬化物は、従来のアルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物から得られた硬化物よりも、アルミ板において硬化収縮に由来する割れや剥離が抑制されていることがわかる。
【0093】
[実施例3-1~3-8、比較例3-1~3-2]
実施例1-1~1-4で得られた化合物1~4および比較化合物のそれぞれと、下記に示す加水分解性シリコーン化合物を下記表2に示す比率で配合し、硬化性組成物を作製した。
得られた組成物をSUS430板(7cm×15cm)上に、バーコーターによりウエット厚さ30μmとなるように塗布した後、25℃、50%相対湿度の環境下にて、硬化させて硬化被膜を作製した。
次いで、試験片を150℃の環境下にて2時間加熱し、5分置きに塗膜にひび割れや剥がれが発生するか確認し、それらが発生するまでの時間を測定した。変化がなかった場合は、「○」とした。結果を表2に示す。
【0094】
【0095】
表2に示されるように、本発明のアルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物の硬化物は、従来のアルコキシシリル基を有する環状シラザン化合物から得られた硬化物よりも、SUS板において硬化収縮に由来する割れや剥離が抑制されていることがわかる。
【0096】
[実施例4-1~4-5、比較例4-1~4-2]
実施例1-1~1-5で得られた化合物1~5および比較化合物のそれぞれと、加水分解性シリコーン化合物および硬化触媒を下記表3に示す比率で配合し、硬化性組成物を作製した。
得られた組成物をポリカーボネート板(7cm×15cm、アズワン製)上にバーコーターによりウエット厚さ30μmとなるように塗布した後、25℃、50%相対湿度の環境下にて、硬化させて硬化被膜を作製した。
次いで、試験片を25℃、50%相対湿度の環境下で静置し、硬化被膜を作製した。硬化確認後、さらに2日間室温で静置して試験片を作製した。
得られた試験片について、クロスカット試験(JIS K 5600に準拠)を行い、表面の状態を0~5で判定した。数字が小さいほど密着性が良いことを示す。結果を表3に示す。
【0097】
【0098】
表3に示されるように、従来のアルコキシシリル基含有環状シラザン化合物や加水分解性シリコーン化合物では密着性が低かったポリカーボネート板においても、本発明のアルコキシリル基含有環状シラザン化合物を含む硬化性組成物の硬化物は、密着性に優れていることがわかる。