(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-01
(45)【発行日】2025-09-09
(54)【発明の名称】研削ホイール
(51)【国際特許分類】
B24D 7/08 20060101AFI20250902BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20250902BHJP
【FI】
B24D7/08
H01L21/304 631
(21)【出願番号】P 2021134525
(22)【出願日】2021-08-20
【審査請求日】2024-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】安田 めぐみ
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-000966(JP,A)
【文献】特開2008-038070(JP,A)
【文献】特開2014-173007(JP,A)
【文献】特開2007-106963(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03466609(EP,A1)
【文献】特開平10-316952(JP,A)
【文献】国際公開第2020/175273(WO,A1)
【文献】特開平09-095523(JP,A)
【文献】友井正男,エポキシ樹脂の強靱化,回路実装学会誌,1996年,Vol.11,No.1,53-58
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D3/00-99/00
H01L21/304;21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の基台と、該基台に固定された砥石と、を備える研削ホイールであって、
該砥石は、該基台に設けられた溝に接着剤で固定され、
該接着剤は、該接着剤の靭性を向上させる補強材を含有し、
該接着剤は、エポキシ樹脂を含み、
該補強材は、シリコーンゴム粒子であり、
該接着剤における該シリコーンゴム粒子の含有率は、2.5wt%以上10wt%以下であることを特徴とす
る研削ホイール。
【請求項2】
該接着剤における該シリコーンゴム粒子の含有率は、5wt%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の研削ホイール。
【請求項3】
該砥石は、先端部が基端部よりも該基台の半径方向外側に位置付けられるように配置されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の研削ホイール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の研削に用いられる研削ホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスチップの製造プロセスでは、互いに交差する複数のストリート(分割予定ライン)によって区画された複数の領域にそれぞれデバイスが形成されたウェーハが用いられる。このウェーハをストリートに沿って分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数のデバイスチップが得られる。デバイスチップは、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の様々な電子機器に組み込まれる。
【0003】
近年では、電子機器の小型化に伴い、デバイスチップの薄型化が求められている。そこで、分割前のウェーハを研削装置で研削して薄化する工程が実施されることがある。研削装置は、被加工物を保持する保持面を含むチャックテーブルと、被加工物を研削する研削ユニットとを備えており、研削ユニットには複数の砥石(研削砥石)を含む研削ホイールが装着される(特許文献1参照)。
【0004】
研削装置を用いてウェーハ等の被加工物を研削する際には、チャックテーブルによって保持された被加工物の中心が砥石の軌跡と重なるように、チャックテーブルと研削ユニットとの位置関係が調節される。そして、チャックテーブルと研削ホイールとをそれぞれ回転させながら、研削ホイールを保持面と垂直な加工送り方向(鉛直方向)に沿って下降させると、砥石の下面が被加工物の上面側に接触して被加工物が研削される。このような研削方式は、インフィード研削と呼ばれる。
【0005】
一方、被加工物の研削には、クリープフィード研削と称される研削方式が用いられることもある。クリープフィード研削では、砥石が被加工物の外側に位置付けられ、且つ、砥石の下面が被加工物の上面よりも下方に位置付けられるように、チャックテーブルと研削ユニットとの位置関係が調節される。そして、研削ホイールを回転させつつチャックテーブルを保持面と平行な加工送り方向(水平方向)に沿って移動させる。これにより、被加工物の上面側が砥石によって被加工物の側面から削り取られ、被加工物が薄化される(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-288881号公報
【文献】特開2015-231647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
研削ホイールは、環状の基台に複数の砥石を接着剤で固定することによって製造される。そして、研削ホイールで被加工物を研削する際には、高速で回転する砥石が被加工物に接触し、砥石に大きな負荷(加工負荷)がかかる。このとき、基台と砥石とを接合している接着剤の靭性が低いと、被加工物の研削中に接着剤が加工負荷によって破損し、砥石の固定強度が不十分になることがある。その結果、基台からの砥石の脱落や砥石の破損が生じやすくなる。
【0008】
砥石の脱落や破損が生じると、被加工物に加工不良が発生するおそれがある。また、被加工物の研削を中断して研削ホイールを交換する作業が必要になるため、研削装置の稼働効率が低下する上、交換作業に手間とコストがかかる。
【0009】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、砥石の脱落又は破損の発生を抑制することが可能な研削ホイールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、環状の基台と、該基台に固定された砥石と、を備える研削ホイールであって、該砥石は、該基台に設けられた溝に接着剤で固定され、該接着剤は、該接着剤の靭性を向上させる補強材を含有し、該接着剤は、エポキシ樹脂を含み、該補強材は、シリコーンゴム粒子であり、該接着剤における該シリコーンゴム粒子の含有率は、2.5wt%以上10wt%以下である研削ホイールが提供される。
【0011】
なお、好ましくは、該接着剤における該シリコーンゴム粒子の含有率は、5wt%以下である。
【0012】
また、好ましくは、該砥石は、先端部が基端部よりも該基台の半径方向外側に位置付けられるように配置される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様に係る研削ホイールにおいては、補強材を含有する接着剤によって砥石が基台に固定される。これにより、接着剤の靭性が向上し、研削ホイールで被加工物を研削する際における砥石の脱落又は破損の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】
図3(A)は第1研削ホイールの外周部を示す断面図であり、
図3(B)は接着剤の一部を示す断面図である。
【
図4】チャックテーブル及び研削ユニットを示す斜視図である。
【
図5】
図5(A)は準備ステップにおけるチャックテーブル及び研削ユニットを示す側面図であり、
図5(B)は研削ステップにおけるチャックテーブル及び研削ユニットを示す側面図である。
【
図7】
図7(A)は第2研削ホイールの外周部の構成例を示す断面図であり、
図7(B)は第2研削ホイールの外周部の他の構成例を示す断面図である。
【
図8】
図8(A)は接着剤の強度の測定方法を示す模式図であり、
図8(B)は評価用の砥石を示す斜視図である。
【
図9】
図9(A)はシリコーンゴム粒子の含有率と接着強度との関係を示すグラフであり、
図9(B)はアクリル粒子の含有率と接着強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の一態様に係る実施形態を説明する。まず、本実施形態に係る研削ホイールを用いて被加工物を研削することが可能な研削装置の構成例について説明する。
図1は、研削装置2を示す斜視図である。なお、
図1において、X軸方向(加工送り方向、前後方向、第1水平方向)とY軸方向(左右方向、第2水平方向)とは、互いに垂直な方向である。また、Z軸方向(鉛直方向、上下方向、高さ方向)は、X軸方向及びY軸方向と垂直な方向である。
【0016】
研削装置2は、研削装置2を構成する各構成要素を支持又は収容する基台4を備える。基台4の上面側には、矩形状の開口4aが、長手方向がX軸方向に沿うように形成されている。また、基台4の後端部には、基台4の上面から上方に突出する直方体状の支持構造6が、Z軸方向に沿って設けられている。
【0017】
開口4aの内部には、第1移動機構(第1移動ユニット)8が設けられている。例えば第1移動機構8は、ボールねじ式の移動機構であり、X軸方向に沿って配置された一対のガイドレール(不図示)と、一対のガイドレールにスライド可能に装着された平板状の移動テーブル(不図示)とを備える。移動テーブルの裏面(下面)側にはナット部が設けられており、このナット部には、一対のガイドレールの間にX軸方向に沿って配置されたボールねじ(不図示)が螺合されている。また、ボールねじの端部にはパルスモータ(不図示)が連結されている。パルスモータによってボールねじを回転させると、移動テーブルがガイドレールに沿ってX軸方向に移動する。
【0018】
第1移動機構8の移動テーブルの表面(上面)側には、被加工物11を保持するチャックテーブル(保持テーブル)10が設けられている。また、第1移動機構8は、チャックテーブル10を囲むように設けられたテーブルカバー8aを備える。さらに、テーブルカバー8aの前方及び後方には、X軸方向に沿って伸縮可能な蛇腹状の防塵防滴カバー12が設けられている。テーブルカバー8a及び防塵防滴カバー12は、開口4aの内部に配置されている第1移動機構8の構成要素(ガイドレール、移動テーブル、ボールねじ、パルスモータ等)を覆っている。
【0019】
チャックテーブル10の上面は、水平面(XY平面)と概ね平行な平坦面であり、被加工物11を保持する保持面10aを構成している。保持面10aは、チャックテーブル10の内部に形成された流路(不図示)、バルブ(不図示)等を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。なお、
図1には、円盤状の被加工物11の保持を想定して保持面10aが円形に形成されている例を示しているが、保持面10aの形状は被加工物11の形状に応じて適宜変更できる。
【0020】
チャックテーブル10は、第1移動機構8によってテーブルカバー8aとともにX軸方向に沿って移動する。また、チャックテーブル10には、チャックテーブル10を保持面10aと概ね垂直な回転軸の周りで回転させるモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。
【0021】
支持構造6の前面側には、第2移動機構(第2移動ユニット)14が設けられている。第2移動機構14は、Z軸方向に沿って配置された一対のガイドレール16を備える。一対のガイドレール16には、平板状の移動テーブル18がスライド可能に装着されている。移動テーブル18の後面側(裏面側)には、ナット部(不図示)が設けられている。このナット部には、一対のガイドレール16の間にZ軸方向に沿って配置されたボールねじ20が螺合されている。また、ボールねじ20の端部にはパルスモータ22が連結されている。パルスモータ22によってボールねじ20を回転させると、移動テーブル18が一対のガイドレール16に沿ってZ軸方向に移動する。
【0022】
移動テーブル18には、移動テーブル18の前面(表面)から前方に突出する支持部材24が固定されている。支持部材24は、被加工物11を研削する研削ユニット26を支持している。第2移動機構14によって、研削ユニット26のZ軸方向における移動(昇降)が制御される。
【0023】
研削ユニット26は、支持部材24によって支持された中空の円柱状のハウジング28を備える。ハウジング28には、Z軸方向に沿って配置された円柱状のスピンドル30が収容されている。スピンドル30の先端部(下端部)は、ハウジング28の下面から下方に突出している。また、スピンドルの基端部(上端部)には、モータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。
【0024】
スピンドル30の先端部には、金属等でなる円盤状のホイールマウント32が固定されている。そして、ホイールマウント32の下面側に、被加工物11を研削する研削ホイール34が装着される。研削ホイール34は、回転駆動源からスピンドル30及びホイールマウント32を介して伝達される動力により、チャックテーブル10の保持面10aと概ね垂直な回転軸の周りを回転する。
【0025】
研削装置2の内部又は外部には、研削装置2を制御する制御部(制御ユニット、制御装置)36が設けられている。制御部36は、研削装置2の各構成要素(第1移動機構8、チャックテーブル10、第2移動機構14、研削ユニット26等)に接続されており、各構成要素の動作を制御するための制御信号を生成する。
【0026】
例えば制御部36は、コンピュータによって構成され、研削装置2の制御に必要な演算を行う演算部と、研削装置2の制御に用いられる各種の情報(データ、プログラム等)を記憶する記憶部とを備える。演算部は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成される。また、記憶部は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを含んで構成される。
【0027】
上記の研削装置2によって、被加工物11が研削される。例えば被加工物11は、シリコン等の半導体材料でなる円盤状のウェーハであり、互いに概ね平行な表面11a及び裏面11bを備える。被加工物11は、互いに交差するように格子状に配列された複数のストリート(分割予定ライン)によって、複数の矩形状の領域に区画されている。また、ストリートによって区画された複数の領域の表面11a側にはそれぞれ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)、LED(Light Emitting Diode)等のデバイス(不図示)が形成されている。
【0028】
被加工物11を切削加工、レーザー加工等によってストリートに沿って分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数のデバイスチップが製造される。また、被加工物11の分割前に、研削装置2を用いて被加工物11の裏面11b側を研削して被加工物11を薄化しておくと、薄型化されたデバイスチップが得られる。
【0029】
なお、被加工物11の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えば被加工物11は、シリコン以外の半導体(GaAs、InP、GaN、SiC等)、サファイア、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等でなるウェーハ(基板)であってもよい。また、被加工物11に形成されるデバイスの種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はなく、被加工物11にはデバイスが形成されていなくてもよい。さらに、被加工物11は、CSP(Chip Size Package)基板、QFN(Quad Flat Non-leaded package)基板等のパッケージ基板であってもよい。
【0030】
図2は、研削ユニット26に装着される研削ホイール(第1研削ホイール)34を示す斜視図である。研削ホイール34は、環状の基台40と、基台40に固定された複数の砥石(研削砥石)42とを備える。
【0031】
基台40は、金属(ステンレス、アルミニウム等)、樹脂等でなり、互いに概ね平行な第1面(固定端面)40a及び第2面(自由端面)40bと、第1面40a及び第2面40bに接続された外周面(側面)40cとを備える。基台40の直径は、ホイールマウント32(
図1参照)の直径と概ね同一であり、被加工物11(
図1参照)の直径よりも大きい。
【0032】
基台40の中央部には、基台40を第1面40aから第2面40bまで厚さ方向に貫通する開口40dが設けられている。開口40dは、第1面40aから第2面40bに向かって徐々に直径が大きくなるように、円錐台状に形成されている。
【0033】
基台40の外周部の第2面40b側には、環状の溝(凹部)40eが基台40の外周面40cに沿って形成されている。そして、溝40eには複数の砥石42が固定されている。複数の砥石42は、例えば直方体状に形成され、基台40の周方向に沿って概ね等間隔に配列されている。
【0034】
砥石42は、ダイヤモンド、cBN(cubic Boron Nitride)等でなる砥粒と、砥粒を固定する結合材(ボンド材)とを含む。結合材としては、メタルボンド、レジンボンド、ビトリファイドボンド等が用いられる。ただし、砥石42の材質、形状、構造、大きさ等に制限はなく、被加工物11(
図1参照)の材質や加工条件等に応じて適宜設定される。また、基台40に固定される砥石42の数にも制限はない。
【0035】
なお、
図2には1本の溝40eが環状に形成されている例を示しているが、基台40の第2面40b側には、複数の直方体状の溝が基台40の周方向に沿って環状に配列されてもよい。この場合には、複数の溝にそれぞれ1又は複数の砥石42が固定される。
【0036】
また、基台40には、第1面40aから第2面40bに至る複数の研削液供給路40fが形成されている。複数の研削液供給路40fは、基台40の周方向に沿って概ね等間隔に配列されている。また、研削液供給路40fの一端は第1面40a側で開口し、研削液供給路40fの他端は第2面40b側のうち開口40dと溝40eとの間の領域で開口している。なお、研削液供給路40fの数、形状等に制限はない。
【0037】
図3(A)は、研削ホイール34の外周部を示す断面図である。なお、
図3(A)には、研削ホイール34の断面のみを図示している。溝40eは、溝40eの内部で互いに対面する側壁(内壁)40g,40hと、側壁40g,40hに接続された底面40iとを含む。
【0038】
砥石42は、接着剤44を介して溝40eに固定される。具体的には、まず、溝40eの側壁40g,40h及び底面40iに接着剤44が塗布される。次に、砥石42の基端部が溝40eに挿入され、接着剤44に接触する。この状態で接着剤44を硬化させると、基台40と砥石42とが接着剤44を介して接合される。その結果、砥石42の先端部は基台40の第2面40bから突出し、砥石42の基端部は溝40eの内側に固定される。なお、接着剤44の材料は、砥石42を基台40に固定可能であれば制限はない。また、接着剤44は1液型であっても2液型であってもよい。
【0039】
図3(B)は、接着剤44の一部を示す断面図である。本実施形態において、接着剤44は、接着剤44の靭性を向上させる補強材(改質剤)48を含有している。すなわち、接着剤44は、樹脂等でなる主材(母材)46と、主材46に分散された粒状の補強材48とを含む。なお、主材46に補強材48を分散させる方法に制限はない。例えば、自転公転式攪拌装置(遊星式攪拌装置)を用いて、液状の主材46と補強材48とを攪拌しつつ脱泡を行う。
【0040】
主材46としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シアネート樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。また、主材46に硬化剤を添加することにより、主材46の硬化が促進される。例えば、主材46がエポキシ樹脂である場合には、フェノール樹脂、酸無水物類、アミン類、ポリアミノアミド類、イソシアネート類、メルカプタン類、ジシアンジアミド、ルイス酸錯化合物等を硬化剤として用いることができる。
【0041】
補強材48は、硬化した状態の主材46の靭性を向上させる添加剤である。補強材48としては、エラストマー(熱硬化性エラストマー又は熱可塑性エラストマー)、エンジニアリングプラスチック等を用いることができる。
【0042】
エラストマーの例としては、シリコーンゴム粒子、アクリル粒子が挙げられる。ただし、エラストマーの材料に制限はなく、オレフィン系、エステル系、アミド系等の各種のエラストマーを用いることができる。また、エンジニアリングプラスチックの例としては、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトンが挙げられる。
【0043】
例えば、主材46がエポキシ樹脂、補強材48がシリコーンゴム粒子である場合を考える。エポキシ樹脂を硬化させると、エポキシ樹脂が収縮して内部応力が発生し、エポキシ樹脂が脆化する。しかしながら、エポキシ樹脂にシリコーンゴム粒子を分散させておくと、エポキシ樹脂が収縮した際にシリコーンゴム粒子のボイド化(空洞化)が生じ、エポキシ樹脂が塑性変形しやすくなる。これにより、エポキシ樹脂の靭性が向上し、外部から力が付与されてもエポキシ樹脂が破損しにくくなる。
【0044】
接着剤44における補強材48の含有率は、接着剤44の靭性が向上するように調節される。例えば、主材46がエポキシ樹脂、補強材48がシリコーンゴム粒子である場合には、補強材48の含有率は2.5wt%以上10wt%以下に調節される。また、主材46がエポキシ樹脂、補強材48がアクリル粒子である場合には、補強材48の含有率は2.5wt%以上5wt%以下に調節される。なお、上記の含有率は、補強材48を含む接着剤44の全体の質量(主材46の質量と補強材48の質量との和)に対する、補強材48の質量の比率に相当する。
【0045】
また、補強材48のサイズは、主材46に補強材48を分散可能であれば制限はない。例えば、平均粒径が1μm以上500μm以下のシリコーンゴム粒子、アクリル粒子、ポリカーボネート粒子等を用いることができる。
【0046】
図4は、チャックテーブル10及び研削ユニット26を示す斜視図である。基台40の第1面40aをホイールマウント32の下面に接触させた状態で、ホイールマウント32と研削ホイール34とをボルト等の固定具で固定することにより、研削ホイール34がホイールマウント32に装着される。そして、被加工物11をチャックテーブル10で保持し、チャックテーブル10及び研削ホイール34を回転させつつ砥石42を被加工物11に接触させることにより、被加工物11が研削される。
【0047】
なお、砥石42が被加工物11に接触すると、被加工物11から砥石42に圧力が付与され、砥石42に負荷(加工負荷)がかかる。このとき、接着剤44(
図3(A)参照)の靭性が低いと、被加工物11の研削中に接着剤44が加工負荷によって破損し、砥石42の固定強度が不十分になることがある。その結果、基台40からの砥石42の脱落や砥石42の破損が生じやすくなる。
【0048】
しかしながら、本実施形態においては、接着剤44が、接着剤44の靭性を向上させる補強材48を含有している(
図3(B)参照)。これにより、被加工物11の加工中において接着剤44が破損しにくくなり、砥石42の脱落や破損の発生が抑制される。
【0049】
次に、研削装置2を用いた被加工物11の加工方法(研削方法)の具体例を説明する。以下では一例として、チャックテーブル10と研削ホイール34とを保持面10aと平行な方向に沿って相対的に移動させて被加工物11を加工する、クリープフィード研削について説明する。
【0050】
まず、
図4に示すように、被加工物11をチャックテーブル10によって保持する(保持ステップ)。例えば被加工物11は、表面11a側が保持面10aに対向し、裏面11b側が上方に露出するように、チャックテーブル10上に配置される。この状態で保持面10aに吸引源の吸引力(負圧)を作用させると、被加工物11がチャックテーブル10によって吸引保持される。
【0051】
なお、被加工物11の表面11a側に樹脂等でなる保護テープを貼付することにより、被加工物11の表面11a側に形成されたデバイス等を保護してもよい。この場合には、被加工物11が保護テープを介してチャックテーブル10によって保持される。
【0052】
次に、チャックテーブル10と研削ユニット26との位置関係を調節する(準備ステップ)。
図5(A)は、準備ステップにおけるチャックテーブル10及び研削ユニット26を示す側面図である。
【0053】
準備ステップでは、チャックテーブル10によって保持された被加工物11と砥石42とが保持面10aと概ね平行な加工送り方向(X軸方向)において互いに離隔し、且つ、砥石42の下面が被加工物11の上面(裏面11b)から所定の距離下方に位置付けられるように、チャックテーブル10と研削ユニット26との位置関係が調節される。
【0054】
具体的には、まず、被加工物11が研削ホイール34と重ならず研削ホイール34の前方(
図5(A)における紙面左側)に配置されるように、チャックテーブル10のX軸方向における位置が第1移動機構8(
図1参照)によって調節される。また、砥石42の下面が被加工物11の上面よりも下方に位置付けられるように、研削ユニット26のZ軸方向における位置が第2移動機構14(
図1参照)によって調節される。このときの被加工物11の上面と砥石42の下面との高さ位置(Z軸方向における位置)の差ΔHが、後述の研削ステップにおける被加工物11の研削量(研削前後の被加工物11の厚さの差)の目標値に相当する。
【0055】
次に、研削ホイール34を回転させつつチャックテーブル10と研削ユニット26とを加工送り方向(X軸方向)に沿って相対的に移動させ、砥石42によって被加工物11を一端側から他端側まで研削する(研削ステップ)。
図5(B)は、研削ステップにおけるチャックテーブル10及び研削ユニット26を示す側面図である。
【0056】
研削ステップでは、被加工物11をクリープフィード研削によって研削する。具体的には、まず、スピンドル30を回転させることにより、研削ホイール34をチャックテーブル10の保持面10aと概ね垂直な回転軸の周りで回転させる。なお、研削ホイール34の回転数は、例えば1000rpm以上3000rpm以下に設定される。
【0057】
そして、研削ホイール34が回転し、且つ、チャックテーブル10が回転していない状態で、チャックテーブル10を第1移動機構8(
図1参照)によって所定の速度でX軸方向に沿って移動させる。これにより、チャックテーブル10と研削ホイール34とが加工送り方向に沿って所定の加工送り速度で相対的に移動して接近する。なお、チャックテーブル10の移動速度(加工送り速度)は、例えば1mm/s以上20mm/s以下に設定される。
【0058】
チャックテーブル10が移動して被加工物11の一端(被加工物11の移動方向における前端、
図5(B)における紙面右端)が砥石42の軌道に到達すると、被加工物11の一端部が砥石42によって削り取られる。そして、チャックテーブル10は、被加工物11の他端(被加工物11の移動方向における後端、
図5(B)における紙面左端)が砥石42の軌跡と重なる位置に配置されるまで、X軸方向に沿って移動する。その結果、被加工物11が砥石42によって一端側から他端側まで研削され、被加工物11の全体が薄化される。
【0059】
被加工物11が砥石42によって研削される際には、純水等の液体(研削液)が被加工物11及び砥石42に供給される。例えば研削液は、研削ユニット26の内部に設けられた研削液供給路(不図示)及び研削ホイール34に設けられた研削液供給路40f(
図2参照)を介して、被加工物11及び砥石42に供給される。これにより、被加工物11及び砥石42が冷却されるとともに、研削加工によって発生した屑(研削屑)が洗い流される。なお、研削液の供給方法に制限はなく、例えば研削ホイール34の外側に設けられたノズルから研削液が供給されてもよい。
【0060】
そして、被加工物11の厚さが最終的な厚さの目標値(仕上げ厚さ)になるまで、被加工物11の研削が繰り返される。クリープフィード研削の実施回数(準備ステップ及び研削ステップの実施回数)は、被加工物11の材質、研削量等に応じて適宜設定できる。
【0061】
クリープフィード研削においては、砥石42の側面が被加工物11に衝突するため、砥石42には横方向(XY平面方向)に大きな負荷がかかり、砥石42の脱落や破損が生じやすい。しかしながら、本実施形態においては、接着剤44の靭性を向上させる補強材48を含有する接着剤44(
図3(B)参照)によって砥石42が基台40に固定されているため、クリープフィード研削を実施しても砥石42の脱落や破損が生じにくい。
【0062】
なお、研削ユニット26に装着される研削ホイールの具体的な構造は適宜変更できる。
図6は、研削ホイール34の変形例に相当する研削ホイール(第2研削ホイール)34Aを示す斜視図である。研削ホイール34Aは、環状の基台50と、基台50に固定された複数の砥石(研削砥石)52とを備える。
【0063】
基台50は、金属(ステンレス、アルミニウム等)、樹脂等でなり、互いに概ね平行な第1面(固定端面)50a及び第2面(自由端面)50bと、第1面50a及び第2面50bに接続された外周面(側面)50cとを備える。基台50の直径は、ホイールマウント32(
図1参照)の直径と概ね同一であり、被加工物11(
図1参照)の直径よりも大きい。
【0064】
基台50の中央部には、基台50を第1面50aから第2面50bまで厚さ方向に貫通する開口50dが設けられている。開口50dは、第1面50aから第2面50bに向かって徐々に直径が大きくなるように、円錐台状に形成されている。
【0065】
基台50の外周部の第2面50b側には、環状の溝(凹部)50eが基台50の外周面50cに沿って形成されている。そして、溝50eには複数の砥石52が固定されている。複数の砥石52は、例えば直方体状に形成され、基台50の周方向に沿って概ね等間隔に配列されている。なお、砥石52の材質等の例は、砥石42(
図2等参照)と同様である。
【0066】
また、基台50には、基台50を厚さ方向に貫通する複数の研削液供給路50fが形成されている。複数の研削液供給路50fは、基台50の周方向に沿って概ね等間隔に配列されている。研削液供給路50fの一端は第1面50a側で開口し、研削液供給路50fの他端は第2面50b側のうち開口50dと溝50eとの間の領域で開口している。なお、研削液供給路40fの数、形状等に制限はない。
【0067】
図7(A)は、研削ホイール34Aの外周部の構成例を示す断面図である。なお、
図7(A)には、研削ホイール34Aの断面のみを図示している。溝50eは、下端側が互いに接続された一対の側壁50g,50hを含む。側壁50g,50hは、基台50の厚さ方向に対して傾斜するように形成されている。そして、砥石52は、溝40eの側壁50g,50hに塗布された接着剤44を介して基台50に接合される。その結果、砥石52の先端部(一端部)は基台50の第2面50bから突出し、砥石52の基端部(他端部)は溝50eの内側に固定される。
【0068】
なお、砥石52は、高さ方向が基台50の厚さ方向に対して傾斜するように、溝40eに固定される。具体的には、砥石52は、先端部が基端部よりも基台50の半径方向外側に位置付けられるように配置される。また、砥石52の先端部は、基台50の第1面50a及び第2面50bと概ね平行になるように平面状に整形される。
【0069】
研削ホイール34Aを用いて被加工物11のクリープフィード研削(
図5(A)及び
図5(B)参照)を行うと、砥石52の鋭利な先端部が被加工物11に接触する。これにより、被加工物11が削り取られやすくなり、被加工物11の研削が効率化される。
【0070】
なお、溝50eの形状に制限はない。
図7(B)は、研削ホイール34Aの外周部の他の構成例を示す断面図である。
図7(B)に示すように、溝50eは、溝50eの内部で互いに対面する側壁(内壁)50i,50jと、側壁50i,50jに接続された底面50kとを含んでいてもよい。この場合、砥石52は、溝50eの側壁50i,50j及び底面50kに塗布された接着剤44を介して、基台50に固定される。
【0071】
図7(B)に示す溝50eに砥石52を固定すると、基台50の外周面50c側と中心側に位置する砥石52の両側面が、接着剤44を介して側壁50i,50jによって支持される。これにより、被加工物11の研削中における砥石52の脱落や破損がより効果的に抑制される。
【0072】
以上の通り、本実施形態に係る研削ホイール34においては、補強材48を含有する接着剤44によって砥石42が基台40に固定される。これにより、接着剤44の靭性が向上し、研削ホイール34で被加工物11を研削する際における砥石42の脱落又は破損の発生が抑制される。
【0073】
なお、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【0074】
(実施例1)
次に、研削ホイールの基台と砥石とを接合する接着剤の強度を評価した結果について説明する。
図8(A)は、接着剤の強度の測定方法を示す斜視図である。本評価では、砥石(研削砥石)60を接着剤62によって支持台(基台)64に固定し、砥石60に力を付与することによって、接着剤62の強度を測定した。
【0075】
まず、砥粒(ダイヤモンド)を結合材(銅錫ボンド)で固定することにより、直方体状の砥石60を形成した。
図8(B)は、評価用の砥石60を示す斜視図である。砥石60の寸法は、長さL=19mm、幅W=9.5mm、高さH=3mmとした。
【0076】
次に、砥石60の側面60aに接着剤62を塗布し、砥石60と支持台64とを接着剤62を介して接合した。接着剤62は、接着剤44(
図3(B)参照)と同様に、主材に補強材を分散させることによって生成した。なお、本実施例では、主材としてエポキシ樹脂を用い、硬化剤としてジシアンジアミド及びイミダゾールを用いた。また、補強材としてシリコーンゴム粒子(平均粒径13μm)を用いた。なお、
図8(A)では説明の便宜上、接着剤62の厚さを誇張して示している。
【0077】
次に、円柱状の圧子66(直径3mm)を下降させて砥石60の上面60bに押し当て、砥石60に外力を付与した。なお、圧子66の下降速度は、0.5mm/minに設定した。そして、接着剤62が破壊されて砥石60が支持台64から分離されるまで圧子66を下降させるとともに、下降中の圧子66にかかる荷重を測定し、荷重の最大値を記録した。この荷重の最大値が、砥石60と支持台64との接着強度[N]に相当する。なお、荷重の測定には、島津製作所製の試験機(型番:AG-50kNG)を用いた。
【0078】
上記の測定を、シリコーンゴム粒子の含有率が異なる7種類の接着剤62を用いた場合それぞれについて2回ずつ(計14回)実施し、シリコーンゴム粒子の含有率ごとに接着強度の平均値を算出した。なお、7種類の接着剤62におけるシリコーンゴム粒子の含有率はそれぞれ、0wt%、2.5wt%、5wt%、7.5wt%、10wt%、12.5wt%、15wt%に調節した。
【0079】
図9(A)は、シリコーンゴム粒子の含有率と接着強度(平均値)との関係を示すグラフである。
図9(A)に示すように、接着剤62におけるシリコーンゴム粒子の含有率が2.5wt%、5wt%、7.5wt%、10wt%である場合には、接着剤62がシリコーンゴム粒子を含有していない場合(0wt%)場合と比較して、接着強度が向上した。この結果より、主材としてエポキシ樹脂、補強材としてシリコーンゴム粒子を用いる場合には、接着剤62におけるシリコーンゴム粒子の含有率を2.5wt%以上10wt%以下にすることが好ましいといえる。
【0080】
なお、砥石60と支持台64とが分離された後に接合面を観察すると、砥石60と支持台64との両方に接着剤62が残存していた。そのため、
図9(A)に示す接着強度は、シリコーンゴム粒子を含有する接着剤62の強度(靭性)を示している。
【0081】
(実施例2)
次に、補強材としてアクリル粒子(平均粒径150μm)を用いた場合の評価結果について説明する。本実施例で用いた接着剤62の材料は、補強材を除いて実施例1と同様である。そして、実施例1と同様の測定を、アクリル粒子の含有率が異なる5種類の接着剤62を用いた場合それぞれについて2回ずつ(計10回)行い、アクリル粒子の含有率ごとに接着強度の平均値を算出した。なお、5種類の接着剤62におけるアクリル粒子の含有率はそれぞれ、0wt%、2.5wt%、5wt%、7.5wt%、10wt%に調節した。
【0082】
図9(B)は、アクリル粒子の含有率と接着強度(平均値)との関係を示すグラフである。
図9(B)に示すように、接着剤62におけるアクリル粒子の含有率が2.5wt%、5wt%である場合には、接着剤62がアクリル粒子を含有していない場合(0wt%)場合と比較して、接着強度が向上した。この結果より、主材としてエポキシ樹脂、補強材としてアクリル粒子を用いる場合には、接着剤62におけるアクリル粒子の含有率を2.5wt%以上5wt%以下にすることが好ましいといえる。
【0083】
なお、砥石60と支持台64とが分離された後に接合面を観察すると、砥石60と支持台64の両方に接着剤62が残存していた。そのため、
図9(B)に示す接着強度は、アクリル粒子を含有する接着剤62の強度(靭性)を示している。
【0084】
上記の結果より、接着剤62に適量の補強材を含有させることにより、接着剤62の靭性が向上することが確認された。
【符号の説明】
【0085】
11 被加工物
11a 表面
11b 裏面
2 研削装置
4 基台
4a 開口
6 支持構造
8 第1移動機構(第1移動ユニット)
8a テーブルカバー
10 チャックテーブル(保持テーブル)
10a 保持面
12 防塵防滴カバー
14 第2移動機構(第2移動ユニット)
16 ガイドレール
18 移動テーブル
20 ボールねじ
22 パルスモータ
24 支持部材
26 研削ユニット
28 ハウジング
30 スピンドル
32 ホイールマウント
34 研削ホイール(第1研削ホイール)
34A 研削ホイール(第2研削ホイール)
36 制御部(制御ユニット、制御装置)
40 基台
40a 第1面(固定端面)
40b 第2面(自由端面)
40c 外周面(側面)
40d 開口
40e 溝(凹部)
40f 研削液供給路
40g,40h 側壁(内壁)
40i 底面
42 砥石(研削砥石)
44 接着剤
46 主材(母材)
48 補強材(改質剤)
50 基台
50a 第1面(固定端面)
50b 第2面(自由端面)
50c 外周面(側面)
50d 開口
50e 溝(凹部)
50f 研削液供給路
50g,50h 側壁
50i,50j 側壁(内壁)
50k 底面
52 砥石(研削砥石)
60 砥石(研削砥石)
60a 側面
60b 上面
62 接着剤
64 支持台(基台)
66 圧子