(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-03
(45)【発行日】2025-09-11
(54)【発明の名称】樹脂組成物、それを用いたフィルムおよび多層構造体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/04 20060101AFI20250904BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20250904BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20250904BHJP
C08L 23/26 20250101ALI20250904BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20250904BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20250904BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20250904BHJP
【FI】
C08L23/04
C08L29/04 C
C08K5/098
C08L23/26
C08J5/18 CES
C08J5/18 CEX
B32B27/32 Z
B32B27/28 102
(21)【出願番号】P 2022514075
(86)(22)【出願日】2021-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2021014562
(87)【国際公開番号】W WO2021206072
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2020070751
(32)【優先日】2020-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】澤野 恵理
(72)【発明者】
【氏名】中西 伸次
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-029159(JP,A)
【文献】特開2013-151623(JP,A)
【文献】特開2012-251006(JP,A)
【文献】特開2018-020496(JP,A)
【文献】特開2014-043019(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141610(WO,A1)
【文献】特開平09-278952(JP,A)
【文献】特開2021-045963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B32B 1/00- 43/00
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項5】
上記アルカリ金属塩(C)がアルカリ金属の有機酸塩であることを特徴とする請求項1
~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
ガスバリア層と、基材樹脂層と、上記ガスバリア層と基材樹脂層の間に設けられる中間層とを有する多層構造体であって、上記中間層が、請求項1~
7のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む層であることを特徴とする多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関するものであり、さらに詳しくは、バイオポリエチレン系樹脂を含有したものでありながら、ゲルの発生が抑制され、透明性に優れた成形物となりうる樹脂組成物と、それを用いたフィルムおよび多層構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックゴミによる環境負荷が大きな問題となっていることから、その負荷を低減するために、石油由来のプラスチックを、植物等のバイオマス資源由来のバイオマスプラスチックに置き換える様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、エチレン-ビニルアルコール系共重合体(以下「EVOH」と略すことがある)は、優れたガスバリア性と透明性を有することから、食品包装材料に多用されているが、その多くは、耐水性や強度、他の機能を付与するために、接着剤層を介して、ポリオレフィン系樹脂等を積層した多層構造体とした状態で用いられている。
【0004】
そこで、このような多層構造体において、上記ポリオレフィン系樹脂層の一部もしくは全部を、例えば、バイオマス資源由来のポリエチレン系樹脂(バイオポリエチレン系樹脂)で形成することが提案されている。
【0005】
また、資源のリサイクル性を高めるために、このような多層構造体の少なくとも一部を、回収層で構成することも提案されている(後記の特許文献1を参照)。
【0006】
上記回収層とは、上記多層構造体を用いて容器等の成形物を製造した後に発生する、成形物の屑、端部等の不要部分や不良品、あるいは成形物を各種用途に使用した後のごみ等のスクラップを回収して、ペレット等に溶融成形したものを利用して形成される層のことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記バイオポリエチレン系樹脂は、石油由来のポリエチレン系樹脂に比べて低分子量成分を多く含むため、成形時に熱劣化を生じてゲルが発生したり、樹脂本来の透明性が低下したりするおそれがある。このため、上記回収層を用いた成形物や、回収層を用いなくても、ガスバリア性と機械的強度を兼ね備えることを目的としてバイオポリエチレン系樹脂とEVOHとを用いて成形された成形物において、外観の低下が問題となることがあり、その改善が強く求められている。
【0009】
そこで、本発明は、バイオポリエチレン系樹脂を含有していても、成形時のゲル発生や透明性の低下を抑制することのできる、優れた樹脂組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、バイオポリエチレン系樹脂と、EVOHとを組み合わせた樹脂組成物において、さらに、アルカリ金属塩を、上記EVOHに対して特定の割合で含有させることにより、上記の課題を解決することができることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]を提供する。
[1] バイオポリエチレン系樹脂(A)と、EVOH(B)と、アルカリ金属塩(C)とを含有する樹脂組成物であって、上記アルカリ金属塩(C)の含有量が、上記EVOH(B)の重量に対して金属換算で10~1500ppmである樹脂組成物。
[2] 上記バイオポリエチレン系樹脂(A)と上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(B)との含有割合(A/B)が、重量基準で100/0.01~100/25である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 上記エチレン-ビニルアルコール系共重合体(B)におけるエチレン含有量が、20~60モル%である、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 上記樹脂組成物に、接着性樹脂(D)が含有されている、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] 上記接着性樹脂(D)がマレイン酸変性高分子である、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] 上記アルカリ金属塩(C)がアルカリ金属の酢酸塩である、[1]~[5]のいずれに記載の樹脂組成物。
[7]上記アルカリ金属塩(C)が酢酸ナトリウムである、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物からなる、フィルム。
[9] ガスバリア層と、基材樹脂層と、上記ガスバリア層と基材樹脂層の間に設けられる中間層とを有する多層構造体であって、上記中間層が、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む層である、多層構造体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、バイオポリエチレン系樹脂(A)とEVOH(B)とを組み合わせた樹脂組成物において、さらに、アルカリ金属塩(C)を、上記EVOH(B)に対して特定の割合で含有させたものである。この構成によれば、この樹脂組成物を溶融加熱して成形する際、ゲルの発生や透明性の低下が抑制されるため、優れた外観の成形物が得られるという効果を奏する。そして、バイオポリエチレン系樹脂を用いたものでありながら、成形物の外観が、従来の石油由来のポリエチレン系樹脂を用いたものと遜色がないことから、樹脂成形物におけるバイオポリエチレン系樹脂の使用を推進することができ、環境負荷の低減に貢献することができる。
【0013】
そして、本発明のフィルムおよび多層構造体は、それぞれ、本発明の樹脂組成物を用いているため、上記のとおり、バイオポリエチレン系樹脂を用いたものでありながら優れた外観を有しており、環境負荷の低減に貢献することができる。
なお、本発明において、「フィルム」とは、いわゆる「シート」や「テープ」を含めた趣旨である。
【0014】
ここで、本発明においてこのような効果が得られるのは、本発明の樹脂組成物が、バレルやスクリュー等の高温の金属と接触した状態で溶融加熱される際に、上記アルカリ金属塩(C)が、上記高温の金属と接触する樹脂組成物のpHを適度な範囲にコントロールするため、バイオポリエチレン系樹脂の低分子量成分の熱劣化や、EVOHの予期しない副反応等を抑制して、ゲル発生や透明性の低下の原因となる粘度上昇を抑制することによると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
本発明の樹脂組成物は、バイオポリエチレン系樹脂(A)と、EVOH(B)と、アルカリ金属塩(C)とを含有するものである。以下、各成分について説明する。
【0017】
[バイオポリエチレン系樹脂(A)]
上記「バイオポリエチレン系樹脂」とは、再生可能なバイオマス資源を原料に、化学的または生物学的に合成することで得られるポリエチレン系樹脂を意味する。上記バイオポリエチレン系樹脂は、これを焼却処分した場合でも、バイオマスのもつカーボンニュートラル性から、大気中の二酸化炭素濃度を上昇させないという特徴がある。
【0018】
上記バイオポリエチレン系樹脂(A)は、植物原料から得られたバイオエタノールから誘導された植物由来エチレンを用いることが好ましい。すなわち、上記バイオポリエチレン系樹脂(A)は、植物由来ポリエチレン系樹脂であることが好ましい。
【0019】
植物(バイオマス資源)由来ポリエチレン系樹脂と石油由来のポリエチレン系樹脂は、分子量や機械的性質・熱的性質のような物性に差を生じない。そこで、これらを区別するためには、一般的にバイオマス度が用いられている。上記バイオマス度とは、石油由来のポリエチレン系樹脂の炭素には、14C(放射性炭素14、半減期5730年)が含まれていないことから、この14Cの濃度を加速器質量分析により測定し、植物由来バイオポリエチレン系樹脂の含有割合の指標にするものである。従って、植物由来のポリエチレン系樹脂を用いたフィルムであれば、そのフィルムのバイオマス度を測定すると、植物由来ポリエチレン系樹脂の含有量に応じたバイオマス度となる。
上記バイオマス度は、例えば、以下の方法で測定することができる。
【0020】
[バイオマス度の測定]
測定対象試料を燃焼して二酸化炭素を発生させ、真空ラインで精製した二酸化炭素を、鉄を触媒として水素で還元し、グラファイトを生成させる。そして、このグラファイトを、タンデム加速器をベースとした14C-AMS専用装置(NEC社製)に装着して、14Cの計数、13Cの濃度(13C/12C)、14Cの濃度(14C/12C)の測定を行い、これらの測定値から標準現代炭素に対する試料炭素の14C濃度の割合を算出する。
【0021】
上記バイオポリエチレン系樹脂(A)としては、このような、バイオエタノールから誘導されたエチレンを重合して得られるポリエチレン単独重合体だけでなく、このようなエチレンと少量のコモノマーとの共重合体であるポリエチレン共重合体を用いてもよい。上記ポリエチレン共重合体としては、例えば、エチレンと重量分率50%未満の他のα-オレフィンモノマー、または、重量分率3%以下の官能基を持つ非オレフィンモノマーからなるものがあげられる。
【0022】
上記他のα-オレフィンモノマーとしては、炭素数3~20のα-オレフィン、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。
【0023】
また、上記非オレフィンモノマーとしては、例えば、スチレン系モノマー、ジエン系モノマー、環状モノマー、酸素原子含有モノマー等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。
【0024】
上記スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、4-メチルスチレン、4-ジメチルアミノスチレン等があげられる。
【0025】
上記ジエン系モノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,4-オクタジエン、1,5-オクタジエン、1,6-オクタジエン、1,7-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン、4,8-ジメチル-1,4,8-デカトリエン(DMDT)、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロオクタジエン等があげられる。
【0026】
上記環状モノマーとしては、例えば、メチレンノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン、シクロペンテン等があげられる。
【0027】
上記酸素原子含有モノマーとしては、例えば、ヘキセノール、ヘキセン酸、オクテン酸メチル等があげられる。
【0028】
これらの、上記他のα-オレフィンモノマーおよび非オレフィンモノマーは、再生可能なバイオマス資源を原料としたものであっても、石油を原料としたものであってもよい。再生可能なバイオマス資源を原料としたものを用いる場合は、最終製品のバイオマス度をより一層高めることができる。また、石油を原料としたものを用いる場合は、多種多様なものが入手可能であるため、これらを組み合わせて用いることにより、最終的に得られるバイオポリエチレン系樹脂の物性等を、目的に応じて容易に調整することができる。
【0029】
本発明に用いられるバイオポリエチレン系樹脂(A)は、エチレンの単独重合、またはエチレンと、上述のようなコモノマーとの共重合により得られるものであり、上記重合または共重合は、メタロセン触媒、チーグラー・ナッター触媒を用い、常法に従い行うことができる。なかでもメタロセン触媒を用いることが好ましい。
【0030】
上記バイオポリエチレン系樹脂(A)として具体的には、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE、密度0.940g/cm3以上)、中密度ポリエチレン(MDPE、密度0.925g/cm3以上0.940g/cm3未満)、低密度ポリエチレン(LDPE、密度0.925g/cm3未満)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、密度0.910~0.925g/cm3)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。なかでも、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0031】
上記バイオポリエチレン系樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)(190℃、荷重2160g)は、通常0.1~50g/10分であり、好ましくは0.5~30g/10分、特に好ましくは2~10g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、成膜性が不安定となる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなり過ぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
【0032】
なお、本発明において好適に使用されるバイオポリエチレン系樹脂(A)の市販品としては、ブラスケム(Braskem)社製のグリーンPE等があげられる。
【0033】
[EVOH(B)]
上記バイオポリエチレン系樹脂(A)とともに用いられるEVOH(B)は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。上記ビニルエステル系モノマーとしては、経済的な面から、一般的には酢酸ビニルが用いられる。
【0034】
上記エチレンとビニルエステル系モノマーとの重合法としては、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いて行う方法があげられ、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行うことができる。
【0035】
このようにして製造されるEVOH(B)は、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、通常、ケン化されずに残存する若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0036】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。他のビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等があげられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0037】
上記EVOH(B)におけるエチレン含有量は、ビニルエステル系モノマーとエチレンとを共重合させる際のエチレンの圧力によって制御することができ、20~60モル%であることが好ましい。より好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
上記エチレン含有量は、ISO14663に基づいて測定することができる。
【0038】
また、上記EVOH(B)におけるビニルエステル成分のケン化度は、エチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化する際のケン化触媒(通常、水酸化ナトリウム等のアルカリ性触媒が用いられる)の量、温度、時間等によって制御することができ、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。上記ケン化度が低いとガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
上記EVOH(B)のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液として用いる)に基づいて測定することができる。
【0039】
また、上記EVOH(B)のMFR(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。上記MFRが大きすぎると成形性が不安定となる傾向があり、小さすぎると粘度が高くなりすぎて溶融押出しが困難となる傾向がみられる。
上記MFRは、EVOHの重合度の指標となるものであり、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合する際の重合開始剤の量や、溶媒の量によって調整することができる。
【0040】
また、上記EVOH(B)には、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、EVOH(B)の10モル%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。
上記コモノマーとしては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等の誘導体;2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチリルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはアルキル基の炭素数が1~18であるモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、アルキル基の炭素数1~18であるN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、アルキル基の炭素数が1~18であるN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;アルキル基の炭素数が1~18であるアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0041】
特に、本発明で用いるEVOH(B)として、側鎖に1級水酸基を有するEVOHを用いると、ガスバリア性を保持しつつ二次成形性が良好になる点で好ましく、なかでも、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合したEVOHが好ましく、特には、1,2-ジオール構造を側鎖に有するEVOHが好ましい。
そして、側鎖に1級水酸基を有するEVOHである場合、当該1級水酸基を有するモノマー由来の構造単位の含有量は、EVOHの通常0.1~20モル%、さらには0.5~15モル%、特には1~10モル%のものが好ましい。
【0042】
また、本発明で用いるEVOH(B)は、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたものであってもよい。
【0043】
さらに、本発明で使用されるEVOH(B)は、2種以上のEVOH(B)、例えば、エチレン含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、共重合成分が異なるもの等の混合物であってもよい。
【0044】
なお、本発明の樹脂組成物において、前記バイオポリエチレン系樹脂(A)と上記EVOH(B)との含有比率(A/B)は、重量基準で、100/0.01~100/25であることが好ましく、より好ましくは100/1~100/20であり、特に好ましくは100/5~100/15である。上記バイオポリエチレン系樹脂(A)の配合割合が少なすぎると低温での成型性が低下する傾向があり、一方、バイオポリエチレン系樹脂(A)が多すぎるとバリア性が低下する傾向がある。
【0045】
[アルカリ金属塩(C)]
本発明において、上記バイオポリエチレン系樹脂(A)、EVOH(B)とともに用いられるアルカリ金属塩(C)としては、アルカリ金属の有機酸塩およびアルカリ金属の無機酸塩があげられ、これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記アルカリ金属塩(C)を構成するアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等があげられ、これらのアルカリ金属と塩を作る有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等のカルボン酸があげられる。また、無機酸としては、硫酸、亜硫酸、炭酸、リン酸等があげられる。なかでも、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが好適に用いられる。
【0047】
本発明において、上記アルカリ金属塩(C)の含有量は、上記EVOH(B)の重量に対して金属換算で10~1500ppmである。なかでも、50~1000ppmであることが好ましく、さらには、70~500ppmであることがより好ましい。すなわち、上記アルカリ金属塩(C)の含有量が上記の範囲を外れると、樹脂組成物のpHのバランスが損なわれて、溶融加熱時のゲル発生と透明性の低下を抑制する効果が不充分になる傾向がある。
【0048】
[他の成分]
また、本発明の樹脂組成物には、上記必須成分(A)~(C)の他、本発明の効果を阻害しない範囲において、前記(A)~(C)以外の任意成分を配合することができる。例えば、この樹脂組成物を用いて成形する際に発生しうる目ヤニを抑制するために、以下のような接着性樹脂(D)を配合することができる。
【0049】
[接着性樹脂(D)]
上記接着性樹脂(D)としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂に、不飽和カルボン酸またはその無水物を付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン系重合体をあげることができる。上記カルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン系重合体としては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等の無水マレイン酸変性高分子があげられる。
これらは単独で用いても2種以上の混合物として用いてもよい。
【0050】
本発明に用いることのできる接着性樹脂(D)としては、成形時の目ヤニ発生の抑制効果だけでなく、溶融加熱時のゲル発生の抑制効果と、透明性の低下抑制効果にも寄与する点で、とりわけ、無水マレイン酸変性ポリエチレンや、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体等の無水マレイン酸変性高分子が好適である。
【0051】
上記無水マレイン酸変性高分子の酸価は、通常50mgKOH/g以下であり、好ましくは30mgKOH/g以下であり、特に好ましくは20mgKOH/g以下である。酸価が高すぎると、EVOH(B)中の水酸基との反応点が増え、溶融混練過程において高重合度化物が生成して、押出加工時の安定性が低下し、良好な成形物を得られにくい傾向がある。なお、酸価の下限は、通常1mgKOH/gであり、好ましくは2mgKOH/gである。また、上記酸価は、JIS K0070に基づいて測定される。
【0052】
上記無水マレイン酸変性高分子として、無水マレイン酸変性ポリエチレンを用いる場合のMFR(190℃、荷重2160g)は、通常0.01~150g/10分であり、好ましくは0.1~50g/10分であり、より好ましくは1~25g/10分であり、さらに好ましくは3~10g/10分である。
【0053】
また、無水マレイン酸変性高分子として、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体を用いる場合のMFR(230℃、荷重2160g)は、通常0.1~150g/10分であり、好ましくは0.5~100g/10分であり、より好ましくは1~50g/10分であり、さらに好ましくは5~35g/10分である。
【0054】
MFRが上記範囲外であると、バイオポリエチレン系樹脂(A)およびEVOH(B)との相溶性が低下し、混合時に分散性が低下する傾向がある。
【0055】
上記接着性樹脂(D)として、上記無水マレイン酸変性高分子を本発明の樹脂組成物に含有する場合、その含有量は、バイオポリエチレン系樹脂(A)とEVOH(B)の合計100重量部に対して、0.01~25重量部であることが好ましく、より好ましくは1~20重量部であり、特に好ましくは5~15重量部である。上記無水マレイン酸変性高分子の含有量が上記の範囲内であると、前記必須成分(A)、(B)との相乗効果によって、より優れたゲル発生抑制効果と透明性低下抑制効果を得ることができ、好ましい。
【0056】
また、本発明の樹脂組成物には、さらに、他の熱可塑性樹脂や、一般に熱可塑性樹脂に添加する添加剤が含有されていてもよい。
【0057】
上記添加剤としては、例えば、可塑剤(例えば、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等)、酸素吸収剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤(ただし、滑剤として用いるものを除く)、抗菌剤、アンチブロッキング剤、充填材(例えば無機フィラー等)等があげられる。これらの添加剤は、単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0058】
[樹脂組成物の製造]
本発明の樹脂組成物は、上記(A)~(C)を必須成分とし、必要に応じて上記他の成分(D)や、任意の添加剤等を適宜用いて製造することができる。そして、必須成分であるバイオポリエチレン系樹脂(A)とEVOH(B)は、一度も成形に用いていない原料(未再生品)を使用することもできるが、バイオポリエチレン系樹脂(A)とEVOH(B)を含有する層を有する多層構造体の使用済みの回収物や、そのような多層構造体を用いた製品の製造過程で除去された不要部分や不良品等を用いることができる。
【0059】
なお、上記多層構造体の回収物は、一般に、少なくとも一部にバイオポリエチレン系樹脂(A)を用いた補強層と、EVOH(B)を用いたガスバリア層とが、接着性樹脂(D)によって接合された構造になっていることから、この回収物を用いて本発明の樹脂組成物とした場合、必然的に接着性樹脂(D)を含む樹脂組成物となる。
【0060】
以下、本発明の樹脂組成物の製造方法について、バイオポリエチレン系樹脂(A)とEVOH(B)からなる層を含有する多層構造体の回収物を用いる場合について説明する。
【0061】
多層構造体の回収物は、通常、粉砕した後、必要に応じて篩等で粒度を調節した状態で、本発明の樹脂組成物の原料として用いられる。
【0062】
上記回収物の粉砕にあたっては、公知の粉砕機を使用することにより行うことができる。この粉砕品の見かけ密度は、通常0.25~0.85g/mLであり、さらには0.3~0.7g/mL、特には0.35~0.6g/mLであることが好ましい。見掛け密度が小さすぎる場合、樹脂組成物中のバイオポリエチレン系樹脂(A)の分散が不良となり、成形物を得る過程において溶融成形性や機械的特性が低下する傾向があり、大きすぎる場合、押出機での供給不良の発生によって得られる成形品のリグラインド層の溶融成形性が低下する傾向がある。なお、上記粉砕品の見かけ密度は、JIS K6891の「5.3 見かけ密度」試験方法に準拠して測定される値である。
【0063】
上記見掛け密度については、粉砕機の粉砕刃の形状、粉砕刃の回転数、粉砕の処理速度、篩として使用するメッシュの目開きの大きさ等を任意に調整することにより、コントロールすることが可能である。また、粉砕品の形状や粒径については、公知の手法で調整することが可能である。
【0064】
上記多層構造体を回収した粉砕品(以下「粉砕品」という)を用いて、本発明の樹脂組成物を得るには、上記粉砕品に前記アルカリ金属塩(C)を配合し、均一に混合する。なお、上記粉砕品には、生産性の点から未再生品のバイオポリエチレン系樹脂(A)や未再生品のEVOH(B)を配合してもよい。
【0065】
上記両者の混合方法としては、例えば、ドライブレンド法、溶融混練法、溶液混合法、含浸法等の公知の方法があげられる。
【0066】
上記ドライブレンド法としては、例えば、(i)上記粉砕品と、上記アルカリ金属塩(C)とをタンブラー等を用いてドライブレンドする方法等があげられる。そして、上記ドライブレンドする際には、アルカリ金属塩(C)をそのままドライブレンドしてもよいし、予めアルカリ金属塩(C)を含む熱可塑性樹脂のペレットを調製しておき、この熱可塑性樹脂のペレットと粉砕品とをドライブレンドしてもよい。
【0067】
また、上記溶融混練法としては、例えば、(ii)上記ドライブレンド物を溶融混練する方法や、(iii)溶融状態の上記粉砕品にアルカリ金属塩(C)を添加して溶融混練する方法等があげられる。
【0068】
さらに、上記溶液混合法としては、例えば、(iv)上記粉砕品を用いて溶液を調製し、ここにアルカリ金属塩(C)を配合し、凝固成形後、固液分離して乾燥する方法等があげられる。
【0069】
これらの方法のなかでも、生産性の点で、溶融混練法が好ましく、(ii)の方法が特に好ましい。また、これらの方法のうち複数の方法を組み合わせてもよい。
【0070】
本発明の樹脂組成物は、必ずしも、上述のように多層構造体を回収してなる粉砕品を原料として用いる必要はなく、未再生品、すなわち一から製造されたバイオポリエチレン系樹脂(A)、EVOH(B)を用いてもよい。上記未再生品を用いる場合は、本発明の配合組成を有するように公知一般の方法、例えば、ドライブレンド法、溶融混練法、溶液混合法等を用いて樹脂組成物を調製すればよい。
【0071】
なお、本発明の樹脂組成物において、必須成分であるアルカリ金属塩(C)は、EVOH(B)を調製する際に、EVOH(B)中に所定割合でアルカリ金属塩(C)が含有されるように調製することができる。もちろん、アルカリ金属塩(C)が含有されない形でEVOH(B)を調製し、樹脂組成物を混合する際に、前述と同様の方法で、アルカリ金属塩(C)を樹脂成分(A)、(B)に配合して混合することにより、本発明の樹脂組成物を得るようにしてもよい。
【0072】
本発明の樹脂組成物は、各成分を均一に混合した後、ペレットや粉末状といった、さまざまな形態の樹脂組成物として調製され、各種の成形物の成形用材料として提供される。特に本発明においては、溶融成形用の材料として提供された場合、この樹脂組成物がバイオポリエチレン系樹脂(A)を含有するものでありながら、溶融加熱時にゲルの発生や透明性の低下が抑制され、優れた外観の成形物が得られることから、溶融成形用材料として提供することが、とりわけ好適である。
【0073】
そして、本発明の樹脂組成物を用いて得られる成形物としては、本発明の樹脂組成物の特性を生かした単層フィルムをはじめ、本発明の樹脂組成物を用いて成形された層を有する多層構造体、あるいは単層あるいは多層であって立体形状が付与された各種の成形物として、実用に供することができる。
【0074】
上記成形物を得るための成形方法としては、溶融成形法が好適である。
上記溶融成形法としては、押出成形法(T-ダイ押出、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法が主として採用される。溶融成形温度は、通常、150~300℃の範囲、好ましくは160~250℃、特に好ましくは170~230℃である。上記溶融成形温度の範囲内において、本発明の樹脂組成物を良好に成形することができ、従来、バイオポリエチレン系樹脂を含有する樹脂組成物で問題となっていた、ゲルの発生や透明性の低下が生じず、優れた外観の成形物を得ることができる。
【0075】
[多層構造体]
なお、本発明の樹脂組成物を用いた成形物の一例として、多層構造体について説明する。本発明の樹脂組成物を含む層(本発明の樹脂組成物のみからなる層と、他の樹脂組成物との混合樹脂組成物からなる層の両方を含む)は、本発明の樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂を主成分とする他の基材(以下、「基材樹脂」と称する)からなる基材樹脂層やガスバリア層と積層することで、さらに強度を付与したり、他の機能を付与したりすることができる。そして、このような多層構造体のなかでも、特に、ガスバリア層と、基材樹脂層と、それらの層の間に設けられる中間層とを有する多層構造体であって、上記中間層が、本発明の樹脂組成物を含む層であるものが好適である。
なお、上記中間層が2層以上ある場合は、その少なくとも一つの中間層が、本発明の樹脂組成物を含む層であることが好適である。
【0076】
上記基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等があげられる。
【0077】
これらのうち、経済性と生産性の点でポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂である。
【0078】
また、上記ガスバリア層としては、特に限定するものではなく、無機物からなるガスバリア層、有機物からなるガスバリア層をあげることができる。上記無機物からなるガスバリア層としては、アルミニウム箔やアルミニウム蒸着層などの金属層、または酸化ケイ素蒸着層や酸化アルミニウム蒸着層などの金属化合物層があげられる。上記有機物からなるガスバリア層としては、ポリ塩化ビニリデン系重合体からなる層や、ポリビニルアルコールやEVOH等のビニルアルコール系重合体からなる層があげられる。
【0079】
上記多層構造体の層構成は、本発明の樹脂組成物を含む層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/b、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b2/b1/a/b1/a/b1/b2等、任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本発明の樹脂組成物と基材樹脂との混合物を含むリサイクル層を設けることが可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10である。上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介してもよい。
【0080】
また、上記多層構造体の層構成は、本発明の樹脂組成物を含む層をa(a1、a2、・・・)、ガスバリア層をc(c1、c2、・・・)とするとき、a/c、c/a/c、a/c/a、a1/a2/c、a/c1/c2、c2/c1/a/c1/c2、c2/c1/a/c1/a/c1/c2等、任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本発明の樹脂組成物とガスバリア層形成材料との混合物を含むリサイクル層を設けることが可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10である。上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介してもよい。
【0081】
さらに、上記多層構造体の層構成は、本発明の樹脂組成物含む層をa(a1、a2、・・・)、基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)、ガスバリア層をc(c1、c2、・・・)とするとき、c/a/b、b/a/c/b、c/a/b/a、c/a1/a2/b、a/c/b1/b2、b2/b1/a/c/b1/b2、b2/b1/c/a/b1/a/c/b1/b2等、任意の組み合わせが可能である。また、上記多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本発明の樹脂組成物と基材樹脂とガスバリア層形成材料との混合物を含むリサイクル層を設けることが可能である。多層構造体の層の数はのべ数にて通常2~15、好ましくは3~10である。上記の層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂を含有する接着性樹脂層を介してもよい。
【0082】
上記接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、基材樹脂層「b」に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン系重合体をあげることがきる。このような接着性樹脂としては、前述の、本発明に用いることのできる接着性樹脂(D)と同様の樹脂を用いることができるのであり、その説明を省略する。
【0083】
なお、上記基材樹脂、接着性樹脂には、本発明の趣旨を阻害しない範囲(例えば、樹脂全体に対して、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来知られているような可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核材、ブロッキング防止剤、ワックス等を含んでいてもよい。
【0084】
本発明の樹脂組成物と上記基材樹脂との積層(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)は、公知の方法にて行うことができる。例えば、本発明の樹脂組成物からなるフィルム等に基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、基材樹脂層に本発明の樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法、樹脂組成物層と基材樹脂層とを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、基材樹脂上に樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等があげられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から、樹脂組成物と基材樹脂とを共押出する方法が好ましい。
なお、本発明の樹脂組成物と他の樹脂組成物との混合樹脂組成物を、上記基材樹脂と積層する場合も、上記と同様の方法を用いることができる。
【0085】
上記多層構造体は、必要に応じて(加熱)延伸処理を施すことができる。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、多層構造体の融点近傍の温度で、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎる場合は延伸性が不良となり、高すぎる場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0086】
また、上記延伸処理後に、寸法安定性を付与することを目的として、熱固定を行ってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば、上記延伸処理後の多層構造体に対して、緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で通常2~600秒間程度熱処理を行う。また、本発明の樹脂組成物を用いて得られた多層構造体からなる延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定する等の処理を行えばよい。
【0087】
また、場合によっては、本発明の多層構造体を用いてカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。その場合は、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等があげられる。さらに多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器(積層体構造)を得る場合はブロー成形法が採用される。具体的には、押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等があげられる。得られる積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行うことができる。
【0088】
上記多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、さらには多層構造体を構成する樹脂組成物層、基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により一概にいえないが、多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。樹脂組成物層は通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0089】
さらに、上記多層構造体における樹脂組成物層の基材樹脂層に対する厚みの比(樹脂組成物層/基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、上記多層構造体における樹脂組成物層の接着性樹脂層に対する厚み比(樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0090】
上記多層構造体により得られたフィルム、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器は、バイオポリエチレン系樹脂が用いられているため、従来の石油由来ポリエチレンが100%用いられているものに比べて、環境負荷が小さく、社会的な要求に応えるものとなる。しかも、バイオポリエチレン系樹脂を用いていながら、その樹脂組成物層においてゲルの発生が抑制されており、透明性にも優れているため、優れた外観を有しており、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として、広く利用することができる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特にことわりのない限り、以下「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0092】
実施例に先立って、以下の成分を準備した。
【0093】
[バイオポリエチレン系樹脂(A)]
A-1:植物由来直鎖状低密度ポリエチレン[SLH118(Braskem社製、Green PE)、MFR1.0g/10分(190℃、荷重2160g)]
A-2:植物由来直鎖状低密度ポリエチレン[SEB853(Braskem社製、Green PE)、MFR2.7g/10分(190℃、荷重2160g)]
【0094】
[石油ポリエチレン系樹脂(A’)]
A’:低密度ポリエチレン[LF448K1(日本ポリエチレン社製、ノバテックLD)、MFR2.0g/10分(190℃、荷重2160g)]
【0095】
[EVOH(B)]
B-1:エチレン-ビニルアルコール共重合体[エチレン含有量29mol%、ケン化度99.7モル%、MFR8g/10分(210℃、荷重2160g)]
B-2:エチレン-ビニルアルコール共重合体[エチレン含有量29mol%、ケン化度99.7モル%、MFR8g/10分(210℃、荷重2160g)]
B-3:エチレン-ビニルアルコール共重合体[エチレン含有量44mol%、ケン化度99.6モル%、MFR12g/10分(210℃、荷重2160g)]
B-4:エチレン-ビニルアルコール共重合体[エチレン含有量44mol%、ケン化度98.5モル%、MFR4g/10分(210℃、荷重2160g)]
B-5:エチレン-ビニルアルコール共重合体[エチレン含有量44mol%、ケン化度99.6モル%、MFR13g/10分(210℃、荷重2160g)]
【0096】
[アルカリ金属塩(C)]
・酢酸ナトリウム(酢酸Na)
・酢酸カリウム(酢酸K)
【0097】
[他の金属塩(C')]
・ステアリン酸カルシウム(StCa)
・ステアリン酸マグネシウム(StMg)
・ステアリン酸亜鉛(StZn)
・酢酸カルシウム(酢酸Ca)
[接着性樹脂(D)]
・無水マレイン酸変性高分子:無水マレイン酸変性ポリエチレン[三菱ケミカル社製、Modic M533、MFR2.5g/10分(190℃、荷重2160g)]
【0098】
<評価項目(評価方法、評価基準)の説明>
つぎに、実施例品、比較例品、参考例品に対する評価項目の詳細を以下に示す。
【0099】
(1)ゲル量
実施例、比較例、参考例で用いる樹脂組成物からなるペレットを用いて下記の成膜条件で成膜することにより、厚み30μmの単層フィルムを得た。
<成膜条件>
押出機:直径(H)40mm、L/H=28
スクリュー:フルフライトタイプ圧縮比=2.5
そして、この単層フィルムについて、目視にて、ゲル量を計測した。具体的には、単層フィルムの下面から光を当て、光透過しなかった部分(直径0.4mm以上)をゲル1個として、単位面積(4cm×4cm)当たりのゲルの数をカウントし、以下のとおり評価した。
×(poor):ゲル数が40個以上、または成膜できない
△(good):ゲル数が15個以上、40個未満
○(very good):ゲル数が4個以上、15個未満
◎(excellent):ゲル数が3個以下、またはゲルは計測されず
【0100】
(2)透明性(内部ヘイズ)
実施例、比較例、参考例で用いる樹脂組成物からなるペレットを用い、上記と同様にして、厚み30μmの単層フィルムを作製した。そして、この単層フィルムの透明性を、ヘイズメーター(日本電色社製、NDH2000)を用い、JIS K7105に準じてTOTALヘイズ(%)を測定した。上記TOTALヘイズは、試験片の拡散光線透過率を全光線透過率で割ったものを百分率で表したものであり、TOTALヘイズの値が低い値であるほど、フィルム透明性が良好であることを示す。ただし、フィルム内部のヘイズを評価するために、測定の際にフィルム両面に流動パラフィンを塗布した試料を用いて、フィルム表面の凹凸による影響を取り除いた状態で、内部ヘイズ(%)を測定した。そして、その値から、下記のとおり評価した。
×(poor):20%以上
△(good):15%以上、20%未満
○(very good):10%以上、15%未満
◎(excellent):10%未満
【0101】
[実施例1~9、比較例1~8、参考例1~3]
各成分を、後記の表1~表3に示す組成となるように配合して二軸混錬押出機(日本製鋼所社製、TEX32)の原料供給口からシリンダー内に導入し、温度240℃に設定された混錬ゾーンに搬送して溶融ブレンドし、溶融ブレンド物を吐出口に取り付けられたダイからストランド状に押出した。得られたストランド状押出物を樹脂用ペレタイザーでペレット化し、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0102】
そして、得られた実施例1~9品および比較例1~8品、参考例1~3品に対し、前述の評価項目(ゲル量、透明性[内部ヘイズ])について、測定および評価を行った。これらの結果を、下記の表1~表3に併せて示す。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
上記の結果から、実施例1~9品は、いずれも、2つの評価項目における評価がともに概ね良好で、優れた外観であることがわかる。
一方、比較例1~8品は、いずれも、2つの評価項目の少なくとも一方における評価が実施例品に比べて劣っており、外観に問題を有することがわかる。
また、参考例1~3品によれば、石油由来ポリエチレンを用いた場合には、アルカリ金属塩の有無に関わらず、2つの評価項目における評価が実施例品相当であり、アルカリ金属塩を添加してもしなくても2つの評価に影響しないことがわかる。
これらの結果から、比較例1~8品の外観の問題は、バイオポリエチレン系樹脂を用いた場合にのみ生じる特有の課題であり、この課題はアルカリ金属塩の添加により解決できることがわかる。
【0107】
なお、上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、全て本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、バイオポリエチレン系樹脂(A)とEVOH(B)とアルカリ金属塩(C)とを含有する樹脂組成物であり、上記バイオポリエチレン系樹脂(A)を含有するものでありながら、成形時のゲルの発生や透明度の低下が抑制されており、外観に優れた成形物が得られる樹脂組成物として、広く利用することができる。