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特許7739840皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持剤、並びに皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-08
(45)【発行日】2025-09-17
(54)【発明の名称】皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持剤、並びに皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/154 20060101AFI20250909BHJP
【FI】
A23B7/154
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021135614
(22)【出願日】2021-08-23
(65)【公開番号】P2023030464
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】河原田 啓希
(72)【発明者】
【氏名】内田 萌
(72)【発明者】
【氏名】大泉 太於
(72)【発明者】
【氏名】坪内 聡
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-042546(JP,A)
【文献】特開2006-169253(JP,A)
【文献】特表2008-524124(JP,A)
【文献】特開2007-029071(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0128838(US,A1)
【文献】特開2019-208504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-リポ酸及びα-シクロデキストリンを含有する皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持剤であって、
前記α-リポ酸を0.085~5.0%(w/v)、前記α-シクロデキストリンを0.08~5.0%(w/v)含有する溶液として使用されることを特徴とする皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持剤。
【請求項2】
前記α-リポ酸と前記α-シクロデキストリンとの質量比(α-リポ酸:α-シクロデキストリン)が1:100~100:1である請求項1に記載の皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持剤。
【請求項3】
4~30℃での保管時の変色を防止する請求項1又は2に記載の皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持剤。
【請求項4】
pH5.0~7.8の溶液として使用される請求項1~3のいずれかに記載の皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持剤。
【請求項5】
α-リポ酸を0.085~5.0%(w/v)、α-シクロデキストリンを0.08~5.0%(w/v)含有する溶液を用いて、皮むき及び/又はカット野菜・果物を処理することを含むことを特徴とする皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持方法。
【請求項6】
前記α-リポ酸と前記α-シクロデキストリンとの質量比(α-リポ酸:α-シクロデキストリン)が1:100~100:1である請求項5に記載の皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持方法。
【請求項7】
4~30℃での保管時の変色を防止する請求項5又は6に記載の皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持方法。
【請求項8】
pH5.0~7.8の溶液として使用される請求項5~7のいずれかに記載の皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持剤、並びに皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品の保菅中における品質の劣化を防ぐべく、様々な検討がなされてきた。
【0003】
例えば、皮むき及び/又はカット野菜・果物等の保管時の品質を保持する技術として、酢酸ナトリウムと、α-リポ酸とを用いる技術(例えば、特許文献1参照)、α-リポ酸と、L-アスコルビン酸又はL-アスコルビン酸塩とを用いる技術(例えば、特許文献2参照)が提案されている。また、未成熟果実ピューレの色を安定させる技術として、シクロデキストリンを未成熟果実ピューレに添加する技術(例えば、特許文献3参照)、レタスの鮮度を保持する技術として、プロテアーゼを主要成分とし、酸化防止剤及び/又はシクロデキストリンを併用する技術(例えば、特許文献4参照)が提案されている。
【0004】
上記提案のような技術により、食品の保菅中における品質の劣化の防止にある程度の効果が得られている。
【0005】
しかしながら、近年では、廃棄される食品の増加が深刻な状況となっており、また、スーパーやコンビニエンスストアなどでは人手不足による製品の入れ替えに要するコストの増加も懸念されている。そのため、製品の賞味期限の延長が喫緊の課題となっており、従来よりも製品の賞味期限を延長することが可能な、優れた皮むき及び/又はカット野菜・果物用品質保持剤が求められるようになっている。
【0006】
したがって、皮むき及び/又はカット野菜・果物の保管時の品質を簡便に且つ効果的に保持することができ、皮むき及び/又はカット野菜・果物の賞味期限を従来と比べて延長することを可能にし、安全性も高い新たな品質保持剤、並びに皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持方法の速やかな開発が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2014/017616号
【文献】特開2007-029071号公報
【文献】特開2009-060793号公報
【文献】特開平03-228641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような要望に応え、現状を打破し、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、皮むき及び/又はカット野菜・果物の保管時の品質を簡便に且つ効果的に保持することができ、皮むき及び/又はカット野菜・果物の賞味期限を従来と比べて延長することを可能にし、安全性も高い新たな品質保持剤、並びに皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、α-シクロデキストリンは単独の使用では皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持効果を示さないにも関わらず、α-リポ酸とα-シクロデキストリンとを併用すると、α-リポ酸を単独で用いた場合と比べて顕著な品質保持効果が得られ、多くの種類の皮むき及び/又はカット野菜・果物の冷蔵及び常温保管時の品質を簡便に且つ効果的に保持できる(保管時の変色、褐変などを簡便に且つ効果的に抑制し、また、色彩やみずみずしさ、風香味などを保つことができる)ことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> α-リポ酸及びα-シクロデキストリンを含有することを特徴とする皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持剤である。
<2> α-リポ酸を0.01~5.0%(w/v)、α-シクロデキストリンを0.01~5.0%(w/v)含有する溶液として使用される前記<1>に記載の品質保持剤である。
<3> α-リポ酸とα-シクロデキストリンとの質量比(α-リポ酸:α-シクロデキストリン)が1:100~100:1である前記<1>又は<2>に記載の品質保持剤である。
<4> 4~30℃での保管時の変色を防止する前記<1>~<3>のいずれかに記載の品質保持剤である。
<5> pH5.0~7.8の溶液として使用される前記<1>~<4>のいずれかに記載の品質保持剤である。
<6> α-リポ酸を0.01~5.0%(w/v)、α-シクロデキストリンを0.01~5.0%(w/v)含有する溶液を用いて、皮むき及び/又はカット野菜・果物を処理することを含むことを特徴とする皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持方法である。
<7> α-リポ酸とα-シクロデキストリンとの質量比(α-リポ酸:α-シクロデキストリン)が1:100~100:1である前記<6>に記載の方法である。
<8> 4~30℃での保管時の変色を防止する前記<6>又は<7>に記載の方法である。
<9> pH5.0~7.8の溶液として使用する前記<6>~<8>のいずれかに記載の方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、皮むき及び/又はカット野菜・果物の保管時の品質を簡便に且つ効果的に保持することができ、皮むき及び/又はカット野菜・果物の賞味期限を従来と比べて延長することを可能にし、安全性も高い新たな品質保持剤、並びに皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A図1Aは、試験例1-1のアボカドの状態を示す図である。
図1B図1Bは、試験例1-2のアボカドの状態を示す図である。
図1C図1Cは、試験例1-3のアボカドの状態を示す図である。
図2図2は、試験例2のアボカドの状態を示す図である。
図3図3は、試験例3のアボカドの状態を示す図である。
図4図4は、試験例4のアボカドの状態を示す図である。
図5図5は、試験例5のアボカドの状態を示す図である。
図6図6は、試験例6のアボカドの状態を示す図である。
図7図7は、試験例7のレタスの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持剤)
本発明の皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持剤(以下、「品質保持剤」と称することがある。)は、有効成分として、α-リポ酸と、α-シクロデキストリンとを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0014】
<α-リポ酸>
α-リポ酸は、チオクト酸ともいい、動植物の体内にも広く存在して補酵素等として働いている含硫ビタミン様物質である。従来、サプリメント素材として摂取されているものであり、2004年には食品添加物として認められている。なお、α-リポ酸は高い抗酸化力を持ち、自らがポリフェノールオキシダーゼにより酸化されたポリフェノール類を還元する作用を有するのが特徴である。本発明においてα-リポ酸にはその塩も含まれる。α-リポ酸の塩としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、水への溶解性が高い点で、ナトリウム塩が好ましい。
【0015】
前記α-リポ酸としては、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記α-リポ酸は市販されており、市販品を適宜使用することができる。
前記α-リポ酸の前記品質保持剤における含有量としては、特に制限はなく、使用量などに応じて適宜選択することができる。
【0016】
<α-シクロデキストリン>
α-シクロデキストリンは、環状オリゴ糖ともいい、グルコース分子がα-1,4グルコシド結合で環状に連なった化合物であり、グルコースが6個環状に結合したものである。α-シクロデキストリンは疎水性空洞内にいろいろな分子を包み込むように取り込むことにより、光や熱に不安定な物質を安定化させることが知られている。
【0017】
前記α-シクロデキストリンとしては、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記α-リポ酸の前記品質保持剤における含有量としては、特に制限はなく、使用量などに応じて適宜選択することができる。
前記α-シクロデキストリンは市販されており、市販品を適宜使用することができる。
前記α-シクロデキストリンの前記品質保持剤における含有量としては、特に制限はなく、使用量などに応じて適宜選択することができる。
【0018】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えばそれ自体、静菌作用を有する成分(乳酸、酢酸、クエン酸等の有機酸およびその塩、アラニン等のアミノ酸類、フェルラ酸、グリセリン脂肪酸エステル、エタノール、リゾチーム、カラシ抽出物、ホコッシ抽出物、セイヨウワサビ抽出物、チャ抽出物、カンゾウ油性抽出物、ユッカ抽出物、ローズマリー抽出物等の植物抽出物等)、pH調整剤(乳酸、酢酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸またはその塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、メタリン酸塩等の縮合リン酸塩等)、pH調整作用・静菌作用・食感改良作用を有する成分(水酸化カルシウム、貝殻カルシウム等)、食塩等の塩類、糖類(単糖類、二糖類、マルトトリオース、オリゴ糖類、デキストリン、糖アルコール等)、蛋白質加水分解物、ペプチド、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、酵素処理レシチン、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム塩等)、増粘多糖類(アラビアガム、キサンタンガム、ウェランガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、カードラン、サクシノグリカン、ローカストビーンガム、タラガム、ペクチン、アルギン酸塩、アルギン酸エステル等)、酸化防止剤(アスコルビン酸、トコフェロール類、ローズマリー抽出物、カテキン、茶抽出物)などが挙げられる。前記その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記品質保持剤は、品質保持効果をより高めることができる点で、pH調整剤を含有することが好ましい。
前記その他の成分は市販されており、市販品を適宜使用することができる。
前記その他の成分の前記品質保持剤における含有量としては、特に制限はなく、使用量などに応じて適宜選択することができる。
【0019】
<態様>
前記品質保持剤は、前記α-リポ酸と、前記α-シクロデキストリンとを混合製剤としておくのが好ましい。前記混合製剤の製剤化に際しては、前記α-リポ酸と前記α-シクロデキストリンのみで製剤としてもよいし、必要に応じて前記その他の成分を配合したり、製剤化原料として助剤を使用して製剤としてもよい。前記助剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、食塩、多糖類(デキストリンなど)、乳化剤などが好ましく挙げられる。
なお、前記品質保持剤は、上記した混合製剤とするのではなく、溶液作製の段階で、各成分を所定量使用してもよい。
前記品質保持剤の形態としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、粉末、顆粒等の固体、水などの溶媒に溶解させた液体などが挙げられる。
【0020】
<使用>
前記品質保持剤の使用態様としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、上記した成分を含む溶液の態様が好ましい。
【0021】
前記溶液を用いて前記皮むき及び/又はカット野菜・果物を処理する方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、前記皮むき及び/又はカット野菜・果物を前記溶液に浸漬する方法、前記溶液を前記皮むき及び/又はカット野菜・果物に噴霧又は塗布する方法などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、前記品質保持剤は、粉末、顆粒等の固体のものを皮むき及び/又はカット野菜・果物に、添加、混合してもよい。
【0022】
-使用量-
前記品質保持剤の使用量としては、前記α-リポ酸及び前記α-シクロデキストリンの有効量を含有していれば特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0023】
--α-リポ酸--
前記α-リポ酸の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、前記溶液を用いて前記皮むき及び/又はカット野菜・果物を処理する場合におけるα-リポ酸の使用量、即ち前記溶液中のα-リポ酸の含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、0.03~5.0%(w/v)が好ましく、0.08~2.0%(w/v)がより好ましく、0.08~0.5%(w/v)がさらに好ましい。前記好ましい範囲内であると、品質を保持する効果が得られるだけでなく、皮むき及び/又はカット野菜・果物の食味や風味への影響が少なく、消費者の需要に見合ったコスト内に抑えられる点で、有利である。
【0024】
--α-シクロデキストリン--
前記α-シクロデキストリンの使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、前記溶液を用いて前記皮むき及び/又はカット野菜・果物を処理する場合におけるα-シクロデキストリンの使用量、即ち前記溶液中のα-シクロデキストリンの含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、0.01~5.0%(w/v)が好ましく、0.08~5.0%(w/v)がより好ましく、0.08~2.0%(w/v)がさらに好ましい。前記好ましい範囲内であると、α-リポ酸の作用をより高めて品質を保持する効果が得られるだけでなく、消費者の需要に見合ったコスト内に抑えられる点で、有利である。
【0025】
前記α-リポ酸と、前記α-シクロデキストリンとの質量比(α-リポ酸:α-シクロデキストリン、以下、「配合比」と称することもある。)としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、1:100~100:1の範囲が好ましく、1:10~75:1の範囲であることがより好ましい。前記好ましい範囲内であると、皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質を保持する効果がより優れる点で、有利である。
【0026】
前記溶液を用いて前記皮むき及び/又はカット野菜・果物を処理する場合における前記溶液のpHとしては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、pH5.0~7.8の範囲に調整することが好ましく、pH6.5~7.8の範囲に調整することがより好ましい。前記pHを好ましい範囲に調整すると、皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質を保持する効果がより優れる点で、有利である。前記溶液は、前記α-リポ酸と、前記α-シクロデキストリンと、必要に応じて前記その他の成分とを溶媒に溶解させて上記好ましい範囲内のpHとしてもよいし、前記pH調整剤を用いて調整してもよい。
なお、本発明において、pHは、20℃におけるpHをいう。
【0027】
-使用時期-
前記品質保持剤を皮むき及び/又はカット野菜・果物に作用させる時期としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
前記品質保持剤を皮むき及び/又はカット野菜・果物に作用させる回数としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、1回であってもよいし、複数回であってもよい。また、作用させる時間(処理する時間)も適宜選択することができる。
【0028】
前記品質保持剤は、単独で使用してもよいし、例えば、日持向上剤などのその他の製剤などと共に使用してもよい。
【0029】
前記品質保持剤は、4~30℃での保管時の変色を防止するために好適に用いることができる。
【0030】
<皮むき及び/又はカット野菜・果物>
本発明における皮むき及び/又はカット野菜・果物とは、皮むき及びカットの少なくともいずれかの処理をした野菜、あるいは皮むき及びカットの少なくともいずれかの処理をした果物のことをいう。
本発明の品質保持対象となる野菜・果物は、皮むき及び/又はカットされて各種食品に使用される野菜・果物である。即ち、皮むき及び/又はカットされずにそのまま食される野菜・果物は除外される。
【0031】
前記皮むき及び/又はカット野菜・果物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
例えば、保管時の赤色変が問題とされるものの例としては、カットレタス(玉レタス、リーフレタス、コスレタス等をカットしたもの)、皮むき及び/又はカットゴボウ、皮むき及び/又はカット里芋などが挙げられる。
保管時の茶褐変が問題とされるものの例としては、皮むき及び/又はカットリンゴ、皮むき及び/又はカットレンコン、皮むき及び/又はカットサツマイモ、皮むき及び/又はカット長芋、皮むき及び/又はカットモモ、皮むき及び/又はカットビワ、皮むき及び/又はカット大根などが挙げられる。
保管時の黒色変が問題とされるものの例としては、カットキャベツ、カット春菊、カットキノコ類、皮むき及び/又はカットアボカド、皮むき及び/又はカットバナナ、皮むき及び/又はカットジャガイモ、皮むき及び/又はカットナス、皮むき及び/又はカットナシ、カット白菜などが挙げられる。
その他の例としては、赤黒色や茶褐色に変色しやすい皮むき及び/又はカットフキ、保管時の黒変や脱色が問題とされる皮むき及び/又はカットトマトなどが挙げられる。
なお、前記皮むき及び/又はカット野菜・果物は、上記例示したものに限定されるものではない。
【0032】
前記品質保持剤は、生鮮品あるいは生鮮品を冷凍したものに対し処理するのが好適であるが、これらの加工処理品(煮蒸、焼成、味付などを行ったもの)も対象となる。
【0033】
(皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持方法)
本発明の皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持方法(以下、「品質保持方法」と称することがある)は、処理工程を少なくとも含み、必要に応じてさらにその他の工程を含む。
【0034】
<処理工程>
前記処理工程は、α-リポ酸を0.01~5.0%(w/v)、α-シクロデキストリンを0.01~5.0%(w/v)含有する溶液を用いて、皮むき及び/又はカット野菜・果物を処理する工程である。
【0035】
前記処理工程の方法としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、上記した本発明の(皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持剤)の<使用>の項目の記載と同様にして行うことができる。
【0036】
前記皮むき及び/又はカット野菜・果物は、上記した本発明の(皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持剤)の<皮むき及び/又はカット野菜・果物>の項目に記載したものと同様である。
【0037】
本発明の品質保持剤および品質保持方法によれば、皮むき及び/又はカット野菜・果物の保管時の品質を簡便に且つ効果的に保持することができ、皮むき及び/又はカット野菜・果物の賞味期限を従来と比べて延長することが可能となる。また、本発明においては、食品添加物としての使用実績があり食経験が豊富な、α-リポ酸及びα-シクロデキストリンの2成分を皮むき及び/又はカット野菜・果物の品質保持剤の有効成分として使用するため、安全性も高い。
【実施例
【0038】
以下、試験例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらの試験例に何ら限定されるものではない。なお、以下のすべての試験例では、α-リポ酸として、α-リポ酸のナトリウム塩を使用した。
【0039】
(試験例1)
皮むき及び/又はカット野菜・果物の一例として、皮むき及びカットしたアボカドを用いて、下記の試験を行った。
【0040】
<試験例1-1>
-溶液の調製-
α-リポ酸を0.03%(w/v)又は0.10%(w/v)含有するように調製した溶液を作製した。
【0041】
-皮むき及び/又はカット野菜・果物の処理-
任意の大きさにスライスした皮むき及びカットしたアボカドを上記した溶液に10分間浸漬した後、前記アボカドをざるに上げて水切りした。このアボカドを保存容器に入れ、20℃で保管した。
【0042】
-評価-
保管開始から72時間後のアボカドの状態を目視にて確認し、変色・褐変抑制効果を評価した。評価は、変色・褐変抑制効果が高い(変色・褐変の度合いが低い)ほど「+」の数が多く、変色・褐変抑制効果が全くない(完全に変色・褐変している)ものを「-」とした。評価結果を表1-1に、保管開始から72時間後のアボカドの状態を図1Aに示す。
【0043】
【表1-1】
【0044】
<試験例1-2>
-溶液の調製-
α-シクロデキストリンを0(w/v)(無添加)、0.1%(w/v)、又は1.0%(w/v)含有するように調製した溶液を作製した。
【0045】
-皮むき及び/又はカット野菜・果物の処理-
試験例1-1と同様にして処理したアボカドを保存容器に入れ、10℃で保管した。
【0046】
-評価-
保管開始から48時間後のアボカドの状態を目視にて確認し、試験例1-1と同様にして変色・褐変抑制効果を評価した。評価結果を表1-2に、保管開始から48時間後のアボカドの状態を図1Bに示す。
【0047】
【表1-2】
【0048】
<試験例1-3>
-溶液の調製-
α-リポ酸を0.085%(w/v)及びα-シクロデキストリンを0.08%(w/v)含有するように調製した溶液(pH7.4)を作製した。
【0049】
-皮むき及び/又はカット野菜・果物の処理-
試験例1-1と同様にして処理したアボカドを保存容器に入れ、20℃で保管した。
【0050】
-評価-
保管開始から72時間後のアボカドの状態を目視にて確認し、試験例1-1と同様にして変色・褐変抑制効果を評価した。評価結果を表1-3に、保管開始から24、48、72時間後のアボカドの状態を図1Cに示す。
【0051】
【表1-3】
【0052】
試験例1の結果から、α-リポ酸と、α-シクロデキストリンとを併用することで、非常に優れた品質保持効果が得られることが確認された。
【0053】
(試験例2)
皮むき及び/又はカット野菜・果物の一例として、皮むき及びカットしたアボカドを用いて、下記の試験を行った。
【0054】
-溶液の調製-
下記の表2に記載の量のα-リポ酸、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンを含有するように調製した溶液を作製した。
【0055】
-皮むき及び/又はカット野菜・果物の処理-
試験例1-1と同様にして処理したアボカドを保存容器に入れ、20℃で保管した。
【0056】
-評価-
保管開始から24時間後のアボカドの状態を目視にて確認し、試験例1-1と同様にして変色・褐変抑制効果を評価した。評価結果を表2に、保管開始から24時間後のアボカドの状態を図2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
試験例2の結果から、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンでは、α-リポ酸と併用しても、品質保持効果の向上はみられないことが確認された。
【0059】
(試験例3)
皮むき及び/又はカット野菜・果物の一例として、皮むき及びカットしたアボカドを用いて、下記の試験を行った。
【0060】
-溶液の調製-
下記の表3に記載の量のα-リポ酸、α-シクロデキストリン、アスコルビン酸ナトリウムを含有するように調製した溶液を作製した。
【0061】
-皮むき及び/又はカット野菜・果物の処理-
試験例1-1と同様にして処理したアボカドを保存容器に入れ、20℃で保管した。
【0062】
-評価-
保管開始から72時間後のアボカドの状態を目視にて確認し、試験例1-1と同様にして変色・褐変抑制効果を評価した。評価結果を表3に、保管開始から24、48、72時間後のアボカドの状態を図3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
試験例3の結果から、α-シクロデキストリンをα-リポ酸と併用した場合が、最も品質保持効果が高いことが確認された。
【0065】
(試験例4)
皮むき及び/又はカット野菜・果物の一例として、皮むき及びカットしたアボカドを用いて、下記の試験を行った。
【0066】
-溶液の調製-
下記の表4に記載の量のα-リポ酸、α-シクロデキストリンを含有するように調製した溶液を作製した。なお、試験例4-1の溶液のpHは7.3、試験例4-2の溶液のpHは7.4であった。
【0067】
-皮むき及び/又はカット野菜・果物の処理-
試験例1-1と同様にして処理したアボカドを保存容器に入れ、20℃で保管した。
【0068】
-評価-
保管開始から48時間後のアボカドの状態を目視にて確認し、試験例1-1と同様にして変色・褐変抑制効果を評価した。評価結果を表4に、保管開始から48時間後のアボカドの状態を図4に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
(試験例5)
皮むき及び/又はカット野菜・果物の一例として、皮むき及びカットしたアボカドを用いて、下記の試験を行った。
【0071】
-溶液の調製-
下記の表5に記載の量のα-リポ酸、α-シクロデキストリンを含有するように調製した溶液を作製した。なお、試験例5-1の溶液のpHは7.8、試験例5-2の溶液のpHは7.6、試験例5-3の溶液のpHは6.7、試験例5-4の溶液のpHは6.6、試験例5-5の溶液のpHは6.5であった。
【0072】
-皮むき及び/又はカット野菜・果物の処理-
試験例1-1と同様にして処理したアボカドを保存容器に入れ、20℃で保管した。
【0073】
-評価-
保管開始から48時間後のアボカドの状態を目視にて確認し、試験例1-1と同様にして変色・褐変抑制効果を評価した。評価結果を表5に、保管開始から48時間後のアボカドの状態を図5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
表5に示したように、α-リポ酸の濃度が濃い試験例5-4及び5-5では、高い品質保持の効果が確認されたが、試験例5-3の濃度でも十分な品質保持の効果が認められた。
【0076】
(試験例6)
皮むき及び/又はカット野菜・果物の一例として、皮むき及びカットしたアボカドを用いて、下記の試験を行った。
【0077】
-溶液の調製-
下記の表6に記載の量のα-リポ酸、α-シクロデキストリンを含有するように調製した溶液を作製した。なお、前記溶液のpHは、酢酸ナトリウムおよびクエン酸でpH7.2に調整した。また、α-リポ酸、α-シクロデキストリンを含有しない(無添加)溶液も調製した。
【0078】
-皮むき及び/又はカット野菜・果物の処理-
試験例1-1と同様にして処理したアボカドを保存容器に入れ、10℃で保管した。
【0079】
-評価-
保管開始から96時間後のアボカドの状態を目視にて確認し、試験例1-1と同様にして変色・褐変抑制効果を評価した。評価結果を表6に、保管開始から72、96時間後のアボカドの状態を図6に示す。
【0080】
【表6】
【0081】
(試験例7)
皮むき及び/又はカット野菜・果物の一例として、カットしたレタスを用いて、下記の試験を行った。
【0082】
-溶液の調製-
下記の表7に記載の量のα-リポ酸、α-シクロデキストリンを含有するように調製した溶液を作製した。なお、試験例7-1の溶液のpHは7.3、試験例7-2の溶液のpHは7.2であった。
【0083】
-皮むき及び/又はカット野菜・果物の処理-
任意の大きさにカットしたレタスの葉を100ppm次亜塩素酸ナトリウム溶液に10分間浸漬した。次いで、流水に10分間浸漬した後、サラダスピナーで水切りした。
その後、上記した溶液に1分間浸漬した後、サラダスピナーで水切りした。このレタスを保存容器に入れ、10℃で保管した。
【0084】
-評価-
保管開始から96時間後のレタスの状態を目視にて確認し、試験例1-1と同様にして変色・褐変抑制効果を評価した。評価結果を表7に、保管開始から72、96時間後のレタスの状態を図7に示す。
【0085】
【表7】
【0086】
以上のように、本発明によれば、皮むき及び/又はカット野菜・果物の保管時の変色・褐変を抑制することができ、その品質を簡便に且つ効果的に保持することができることが確認された。また、従来の品質保持剤と比べて、皮むき及び/又はカット野菜・果物の賞味期限を延長することが可能であることも示された。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7