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特許77407073次元組織複合体及び3次元組織複合体の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-08
(45)【発行日】2025-09-17
(54)【発明の名称】3次元組織複合体及び3次元組織複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20250909BHJP
【FI】
C12N5/077
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021567622
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048489
(87)【国際公開番号】W WO2021132478
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-05
(31)【優先権主張番号】62/953,887
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和1年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業、「3次元筋組織の形成技術の開発」、 産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】森本 雄矢
(72)【発明者】
【氏名】趙 炳郁
(72)【発明者】
【氏名】聶 銘昊
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 亜衣
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/036225(WO,A1)
【文献】特開2016-077229(JP,A)
【文献】国際公開第2011/067983(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/148321(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1細胞を含むシート状の複数の第1構造体を準備する準備ステップであって、前記複数の第1構造体のうち少なくとも一つは、第2細胞を含む第2構造体を保持する、準備ステップと、
前記複数の第1構造体を積層して3次元複合体を形成する積層ステップと、
前記3次元複合体を培養することにより、前記第1細胞から形成される第1組織及び前記第2細胞から形成される第2組織を含む3次元組織複合体を形成する培養ステップと、
を含む、3次元組織複合体の製造方法であって、
前記準備ステップは、前記第2構造体を基材上で位置決めする位置決め工程と、前記基材上で前記第1細胞を含む液体をゲル化させることにより、前記第2構造体を保持する前記第1構造体を形成するゲル化工程と、を含む、
3次元組織複合体の製造方法。
【請求項2】
前記培養ステップにおいて、前記第1組織と前記第2組織との共培養が行われる、
請求項1に記載の3次元組織複合体の製造方法。
【請求項3】
前記積層ステップにおいて、前記第1構造体は、両端部がアンカーによって固定されるように積層される、
請求項1又は2に記載の3次元組織複合体の製造方法。
【請求項4】
前記準備ステップにおいて、前記第2構造体は、前記第2細胞の培養により形成された前記第2組織を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の3次元組織複合体の製造方法。
【請求項5】
前記第2構造体は、ファイバ状である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の3次元組織複合体の製造方法。
【請求項6】
第1細胞を含むシート状の複数の第1構造体を準備する準備ステップであって、前記複数の第1構造体のうち少なくとも一つは、第2細胞を含む第2構造体を保持する、準備ステップと、
前記複数の第1構造体を積層して3次元複合体を形成する積層ステップと、
前記3次元複合体を培養することにより、前記第1細胞から形成される第1組織及び前記第2細胞から形成される第2組織を含む3次元組織複合体を形成する培養ステップと、
を含む、3次元組織複合体の製造方法であって、
前記第2構造体は、前記第2細胞又は前記第2組織を含むコア部と、前記コア部を包むシェル部と、を含み、
前記製造方法は、前記シェル部を溶解する溶解ステップをさらに含む、
3次元組織複合体の製造方法。
【請求項7】
前記第1細胞は、筋芽細胞又は筋細胞であり、前記第1組織は、筋組織であり、前記第2細胞は、脂肪前駆細胞又は脂肪細胞であり、前記第2組織は、脂肪組織である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の3次元組織複合体の製造方法。
【請求項8】
第1組織を含むシート状の第1構造体と、
前記第1構造体に保持された、第2組織を含む第2構造体と、
を含み、
前記第1構造体が複数積層されてなる3次元組織複合体であって、
前記第2構造体は、前記第1構造体中で第1方向に沿って延在するように位置制御されたファイバ状の形態であり、
前記第2組織は、脂肪組織であり、
前記第1組織は、前記第1方向に沿った筋線維を有する筋組織である、3次元組織複合体。
【請求項9】
前記第1構造体を構成する第1組織と前記第2構造体を構成する第2組織とが互いに接している、
請求項8に記載の3次元組織複合体。
【請求項10】
前記第1構造体は、前記第1方向に沿って延在する1つ以上の開口部を有する、
請求項8又は9に記載の3次元組織複合体。
【請求項11】
隣接する2枚の前記第1構造体のうち一方が有する前記開口部は、前記第1方向と前記第1構造体の積層方向とに直交する第2方向において、隣接する2枚の前記第1構造体のうちの他方が有する前記開口部と異なる位置にある、
請求項10に記載の3次元組織複合体。
【請求項12】
前記第1組織は、筋組織である、
請求項8~11のいずれか一項に記載の3次元組織複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、3次元組織複合体及び3次元組織複合体の製造方法に関する。
本願は、2019年12月26日に出願された米国特許仮出願62/953,887号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養に汎用されているプラスチック製の細胞培養ディッシュでは、培養細胞がディッシュ表面に張り付くように2次元的に伸展しながら増殖した培養物が得られる。このような培養物は個々の細胞の機能解明や増殖過程の解明などの研究目的には合致しているものの、生体内で細胞が3次元構造体である組織を形成して増殖・維持されている環境とはかけ離れていることから、より生体内環境に近い状態で細胞培養を可能にする技術が求められている。
【0003】
また、近年、iPS細胞などの幹細胞から所望の組織を形成する方法の開発が進められており、幹細胞から分化させた細胞を用いて所望の3次元組織を構築するためにも3次元細胞構造体を作製する培養技術は有用である。一例として、特許文献1には3次元組織構造体を作製する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-141573
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、2種類以上の組織から成る3次元組織複合体を製造して共培養を行うにあたり、生体内環境を良く再現するために3次元複合体中で特定の組織を正確に位置決めすることが難しかった。
【0006】
そこで、本発明は、取扱い性及び生体との同等性が高い3次元組織複合体及び3次元組織複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]第1細胞を含むシート状の複数の第1構造体を準備する準備ステップであって、前記複数の第1構造体のうち少なくとも一つは、第2細胞を含む第2構造体を保持する、準備ステップと、前記複数の第1構造体を積層して3次元複合体を形成する積層ステップと、前記3次元複合体を培養することにより、前記第1細胞から形成される第1組織及び前記第2細胞から形成される第2組織を含む3次元組織複合体を形成する培養ステップと、を含む、3次元組織複合体の製造方法。
[2]前記培養ステップにおいて、前記第1組織と前記第2組織との共培養が行われる、[1]に記載の3次元組織複合体の製造方法。
[3]前記準備ステップは、前記第2構造体を基材上で位置決めする位置決め工程と、前記基材上で前記第1細胞を含む液体をゲル化させることにより、前記第2構造体を保持する前記第1構造体を形成するゲル化工程と、を含む、[1]又は[2]に記載の3次元組織複合体の製造方法。
[4]前記積層ステップにおいて、前記第1構造体は、両端部がアンカーによって固定されるように積層される、[1]~[3]のいずれか一つに記載の3次元組織複合体の製造方法。
[5]前記準備ステップにおいて、前記第2構造体は、前記第2細胞の培養により形成された前記第2組織を含む、[1]~[4]のいずれか一つに記載の3次元組織複合体の製造方法。
[6]前記第2構造体は、ファイバ状である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の3次元組織複合体の製造方法。
[7]前記第2構造体は、前記第2細胞又は前記第2組織を含むコア部と、前記コア部を包むシェル部と、を含み、前記製造方法は、前記シェル部を溶解する溶解ステップをさらに含む、[1]~[6]のいずれか一つに記載の3次元組織複合体の製造方法。
[8]前記第1細胞は、筋芽細胞又は筋細胞であり、前記第1組織は、筋組織であり、前記第2細胞は、脂肪前駆細胞又は脂肪細胞であり、前記第2組織は、脂肪組織である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の3次元組織複合体の製造方法。
[9]第1組織を含むシート状の第1構造体と、前記第1構造体に保持された、第2組織を含む第2構造体と、を含み、前記第1構造体が複数積層されてなる3次元組織複合体。
[10]前記第1構造体を構成する第1組織と前記第2構造体を構成する第2組織とが互いに接している、[9]に記載の3次元組織複合体。
[11]前記第2構造体は、ファイバ状である、[9]又は[10]に記載の3次元組織複合体。
[12]前記第2構造体は、前記第1構造体中で第1方向に沿って延在し、前記第1組織は、前記第1方向に沿った筋線維を有する筋組織である、[9]~[11]のいずれか一つに記載の3次元組織複合体。
[13]前記第1構造体は、前記第1方向に沿って延在する1つ以上の開口部を有する、請求項12に記載の3次元組織複合体。
[14]隣接する2枚の前記第1構造体のうち一方が有する前記開口部は、前記第1方向及び前記第1構造体の積層方向に直交する第2方向において、隣接する2枚の前記第1構造体のうちの他方が有する前記開口部と異なる位置にある、請求項13のいずれか一項に記載の3次元組織複合体。
[15]前記第1組織は、筋組織であり、前記第2組織は、脂肪組織である、[9]~[14]のいずれか一つに記載の3次元組織複合体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、取扱い性及び生体との同等性が高い3次元組織複合体及び3次元組織複合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る第1製造装置を示す斜視図。
図2】実施形態に係る第1製造装置によって製造された第1形状の第1構造体を示す斜視図。
図3】実施形態に係る第2製造装置を示す斜視図。
図4】実施形態に係る第2製造装置によって製造された第2形状の第1構造体を示す斜視図。
図5】実施形態に係る第3製造装置を示す斜視図。
図6】実施形態に係る3次元組織複合体の製造方法を示すフローチャート。
図7】実施形態に係る細胞ファイバの製造過程を説明する模式図。
図8A】実施形態に係る3次元組織複合体の製造方法の位置決めステップを示す模式図。
図8B】実施形態に係る3次元組織複合体の製造方法の液体供給ステップを示す模式図。
図8C】実施形態に係る3次元組織複合体の製造方法のゲル化ステップを示す模式図。
図8D】実施形態に係る第2構造体を保持する第1形状の第1構造体を示す斜視図。
図8E】実施形態に係る3次元組織複合体の製造方法の積層ステップを示す模式図。
図8F】実施形態に係る3次元複合体を示す模式図。
図9】実施形態に係る3次元組織複合体を示す模式図。
図10】アルギナーゼ添加後の脂肪ファイバの時間変化を観察した写真。
図11A】筋-脂肪複合シートの電気刺激応答性を示す写真。
図11B】筋-脂肪複合シートの電気刺激応答性を示すグラフ。
図12】筋-脂肪複合シートの脂肪細胞の位置を示す模式図及び対応する明視野写真。
図13A】筋-脂肪複合シートの凍結切片の切断部位を示す写真。
図13B】筋-脂肪複合シートの凍結切片におけるHF染色された切断面の写真。
図14】製造した3次元組織複合体の切片を免疫染色した結果を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の3次元組織複合体及び3次元組織複合体の製造方法を、図面を参照して説明する。
なお、以下の実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数などを異ならせている場合がある。
【0011】
説明のために、x軸、y軸、及びz軸から成る直交座標系を定義する。x軸及びy軸は水平面に平行であり、z軸は鉛直方向に平行である。ここで、+z方向を上向き(すなわち重力方向と反対方向)、-z方向を下向き(すなわち重力方向)と定義する。ただし、上記座標系は単に説明のために便宜上設定したものであり、発明を何ら限定するものではない。
【0012】
本明細書において、「組織」とは、細胞が一定の配列や形態のもとに集合したものを意味する。「3次元構造体」とは、実空間における直交する三つの方向(例えば、鉛直方向及び互いに直交する二つの水平方向)のいずれにおいても構造が一様ではない構造体を意味する。「3次元組織複合体」は、2種類以上の組織を含む人工的に製造された3次元構造体を意味する。
【0013】
[3次元組織複合体の製造装置]
(シート状構造体用の第1製造装置)
図1は、シート状構造体を製造するための第1製造装置10を示す斜視図である。
第1製造装置10は、基部11、第1壁12、第2壁13、第1突出部14、第2突出部15、及び板状部材16を備える。また、第1製造装置10は、基部11、第1壁12、及び第2壁13により画定された凹部17を有する。第1製造装置10は、「基材」の一例である。
【0014】
基部11は、xy平面に沿って延在し、第1製造装置10の底壁を構成する。基部11は、第1構造体を製造する際の土台として機能する。基部11の上面は、第1構造体を保持する保持面として機能する。
【0015】
第1壁12及び第2壁13は、y方向における第1製造装置10の両側で、第1製造装置10の側壁を構成する。第1壁12は、基部11の第1端11a側において、基部11の上面から上方へ突出する。第2壁13は、基部11の第1端11aと反対側の第2端11b側において、基部11の上面から上方へ突出する。第1壁12と第2壁13との間に凹部17が形成される。
【0016】
第1壁12は、xz平面に沿って延在するとともに、x方向における中央部において、凹部17に向かってy方向に突出する第1凸部12aを有する。同様に、第2壁13は、xz平面に沿って延在するとともに、x方向における中央部において、凹部17に向かってy方向に突出する第2凸部13aを有する。これにより、凹部17は、両側が凹んだ矩形形状を有する。
【0017】
第1突出部14及び第2突出部15は、x方向における第1製造装置10の両側で、基部11の上面から上方へ突出する。第1突出部14は、基部11の第3端11c側において、基部11の上面から上方へ突出する。第1突出部14は、y方向に並んだ3本の突起14a、14b、14cを含む。第2突出部15は、基部11の第3端11cと反対側の第4端11d側において、基部11の上面から上方へ突出する。第2突出部15は、y方向に並んだ3本の突起15a、15b、15cを含む。なお、第1突出部14及び第2突出部15の突起の数は上記例に限定されず、任意の数の突起が設けられてよい。
【0018】
板状部材16は、第1壁12と第2壁13との間、及び第1突出部14と第2突出部15との間で、基部11の上面から上方へ突出する。板状部材16は、x方向に沿って、xz平面に略平行に延在する。板状部材16は、2枚の平板16a、16bを含む。本実施形態では、y方向において、平板16aが突起14aと突起14bとの間に配置され、平板16bが突起14bと突起14cとの間に配置される。例えば、第1壁12の上端、第2壁13の上端、突起14a、14b、14c、15a、15b、15cの上端、及び平板16a、16bの上端は、略面一(すなわち、上端のz方向の高さが略等しい)であってよい。なお、板状部材16の形状、配置、及び数は上記例に限定されず、任意の形状、配置、及び数の板状部材が設けられてもよい。また、x方向に沿った板状部材をx方向に複数並べてもよく、板状部材を省略してもよい。
【0019】
本実施形態では、第1製造装置10を構成する基部11、第1壁12、第2壁13、第1突出部14、第2突出部15、及び板状部材16は、一体的に形成されている。ただし、第1製造装置10の構成は上記例に限定されず、第1製造装置10の一部が別体として形成されて互いに接合されてもよい。
【0020】
本実施形態では、第1製造装置10は、エラストマーから構成され、例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)やシリコーンゴムなどの弾性変形可能な軟弾性材、樹脂材、金属材などの硬弾性材といった材料から構成される。すなわち、第1製造装置10の構成要素である基部11、第1壁12、第2壁13、第1突出部14、第2突出部15、及び板状部材16は、上記の一つ以上の材料から構成される。本実施形態では、各構成要素は同じ材料から構成されるが、一つ以上の構成要素が異なる材料から構成されてもよい。ただし、第1製造装置10の材質は上記例に限定されない。
【0021】
本実施形態では、第1製造装置10の表面の少なくとも一部は、細胞非接着性表面である。好ましくは、第1製造装置10の上面に細胞非接着性コーティングが設けられ得る。細胞非接着性コーティングは、例えばBSA(ウシ血清アルブミン:Bovine Serum Albumin)コーティングであってもよく、第1製造装置10の表面をMPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマーでコーティングした後、さらにBSAコーティングを設けたものであってもよい。その他、任意の細胞非接着性材料が利用可能である。
【0022】
本実施形態では、第1製造装置10は、光造形などの3次元造形により製造される。ただし、第1製造装置10の製造方法は上記例に限定されず、任意の製造手段が利用可能である。
【0023】
本実施形態では、第1製造装置10は、スタンプとして使用される。例えば、シート状のスタンプ台の上に液状やゲル状の対象材料Mを載置し、対象材料Mの上から、上下逆様にした(すなわち、凹部17が下方を向いた状態の)第1製造装置10をスタンプすることができる。これにより、スタンプ台と第1製造装置10との間に挟まれた材料が、凹部17の形に成形される。あるいは、正位置の(すなわち、図1のように凹部17が上方を向いた状態の)第1製造装置10に上から液状又はゲル状の対象材料Mを注ぎ、その上から別の平坦な部材を載せて対象材料Mを挟むことにより、対象材料Mを成形してもよい。ただし、第1製造装置10の使用方法は上記例に限定されず、他の任意の態様で第1製造装置10を使用することができる。
【0024】
(第1製造装置により製造された第1形状の第1構造体)
図2は、第1製造装置10によって製造されたシート状の第1形状の第1構造体100を示す斜視図である。第1形状は、第1製造装置10の凹部17に対応する形状である。
【0025】
第1形状の第1構造体100は、凹部17と同様に、両側が凹んだ矩形形状の本体101を有する。すなわち、第1形状の本体101は、第1端101a側に第1凹み102を有し、第2端101b側に第2凹み103を有する。
【0026】
第1形状の第1構造体100は、第3端101c側において第1突出部14の突起14a、14b、14cにそれぞれ対応する孔部104a、104b、104c(第1孔部104と総称する)を有し、第4端101d側に第2突出部15の突起15a、15b、15cにそれぞれ対応する孔部105a、105b、105c(第2孔部105と総称する)を有する。第1孔部104及び第2孔部105は、本体101を厚さ方向に貫通する。また、第1形状の第1構造体100は、第1凹み102と第2凹み103との間及び第1孔部104と第2孔部105との間に、板状部材16の平板16a、16bにそれぞれ対応するスリット106a、106b(スリット106と総称する)を有する。スリット106は、本体101を厚さ方向に貫通する。スリット106は、第1構造体100の「開口部」の一例である。
【0027】
本実施形態では、第1構造体100は、マトリックス成分及びマトリックス成分中の第1細胞を含む。
【0028】
本実施形態では、第1細胞は、筋芽細胞である。筋芽細胞は、既知の方法により調製することができる。例えば、筋芽細胞は、生体由来の筋組織を分解酵素で処理して得た筋芽細胞であってもよく、ES細胞、iPS細胞などの多能性幹細胞や体性幹細胞から分化誘導した細胞であってもよい。筋芽細胞は、遺伝子改変された細胞であってもよく、遺伝子改変されていない細胞であってもよい。なお、第1細胞は上記例に限定されず、筋芽細胞の代わりに、又は筋芽細胞に加えて、任意の一つ以上の細胞を使用してもよい。また、筋芽細胞から分化した筋細胞を用いてもよい。筋細胞としては、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞などが挙げられる。
【0029】
マトリックス成分としては、特に限定されないが、例えば、フィブリン、コラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型など)、マウスEHS腫瘍抽出物(IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどを含む)より再構成された基底膜成分(商品名:マトリゲル(登録商標))、ゼラチン、寒天、アガロース、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカンなどを例示することができる。
【0030】
第1構造体100は、第1細胞及びマトリックス成分以外の成分を含み得る。例えば、第1構造体100は、培地成分(例えば、アミノ酸、ビタミン類、無機塩、グルコースなど)、凝固剤(トロンビンなど)、血清成分、抗生物質、その他の任意の添加剤を含み得る。特に、人工肉用の組織複合体を製造する場合、第1構造体100は、例えば、各種アミノ酸、ビタミン類、無機塩などを含み得る。
【0031】
第1構造体100中の第1細胞の細胞密度は、例えば1.0×10個/mL以上であり、好ましくは1.0×10個/mL以上1.0×10個/mL以下、より好ましくは2.0×10個/mL以上5.0×10個/mL以下であり、さらに好ましくは5.0×10個/mL以上1.0×10個/mL以下である。
【0032】
シート状の第1構造体100は、第2細胞又は第2組織を含む第2構造体300を保持することができる(図8D参照)。本実施形態では、第2構造体300を凹部17内で基部11の上面に載置した後、第2構造体300が第1構造体100に囲まれるように第1構造体100の原料液体で凹部17を満たし、マトリックス成分のゲル化を行うことにより、第2構造体300を保持した第1構造体100を得ることができる(詳細は後述する)。
【0033】
本実施形態では、第2細胞は、脂肪前駆細胞又は脂肪細胞であり、ファイバ状の細胞塊(以下、ファイバ状の細胞塊を「細胞ファイバ」ともいう。)を形成する(図8A参照)。第2組織は、脂肪組織であり、ファイバ状の組織又は組織塊(以下、ファイバ状の組織又は組織塊を「組織ファイバ」ともいう。)を形成する。第2構造体は、上記のような細胞ファイバ又は組織ファイバがコア部としてゲル状のシェル部に包まれた構造体である。例えば、第2構造体は、脂肪組織(第2組織)を含むと同時に、脂肪組織を構成する脂肪細胞(第2細胞)を含むものでもある。
【0034】
第2構造体のコア部中の第2細胞の細胞密度は、例えば1.0×10個/mL以上であり、好ましくは1.0×10個/mL以上1.0×10個/mL以下、より好ましくは5.0×10個/mL以上5.0×10個/mL以下である。
【0035】
細胞塊を構成する脂肪前駆細胞又は脂肪細胞は、既知の方法により調製することができる。例えば、脂肪前駆細胞又は脂肪細胞は、生体由来の脂肪組織を分解酵素で処理して得た脂肪細胞であってもよく、ES細胞、iPS細胞などの多能性幹細胞や体性幹細胞から分化誘導した細胞であってもよい。脂肪細胞は、遺伝子改変された細胞であってもよく、遺伝子改変されていない細胞であってもよい。なお、第2細胞は上記例に限定されず、脂肪細胞の代わりに、又は脂肪細胞に加えて、任意の一つ以上の細胞を使用してもよい。
【0036】
第2構造体300のシェル部は、解離性ハイドロゲルを含み得る。解離性ハイドロゲルとしては、金属イオンの存在下でゲル化するハイドロゲル、酵素溶解性ハイドロゲル、温度応答性ハイドロゲル、pH応答性ハイドロゲル、光応答性ハイドロゲル、磁場応答性ハイドロゲルなどが挙げられる。金属イオンの存在下でゲル化するハイドロゲルは、金属イオンを除去することにより解離させることができる。金属イオンとしては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどが挙げられる。酵素溶解性ハイドロゲルは、酵素を作用させることによりゲルを構成している分子を分解して溶解することができる。温度応答性ハイドロゲルは、相転移温度を超えて温度を変化させることにより、ゾル化及びゲル化の状態を変化させることができる。pH応答性ハイドロゲルは、pHを変化させることにより解離させることができる。光応答性ハイドロゲルは、例えばある波長の光を照射することにより解離させることができる。磁場応答性ハイドロゲルは、例えば磁場を変化させることにより解離させることができる。
【0037】
金属イオンの存在下でゲル化するハイドロゲルとしては、二価又は三価の金属イオンの存在下でゲル化するアルギン酸ゲル、カルシウムイオンやカリウムイオンの存在下でゲル化するカラギーナンゲル、ナトリウムイオンの存在下でゲル化するアクリル酸系合成ゲルなどが挙げられる。酵素溶解性ハイドロゲルとしては、アルギン酸ゲル、キトサンゲル、セルロース系ゲル、コラーゲンゲル、フィブリンゲルなどが挙げられる。温度応答性ハイドロゲルとしては、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)をポリエチレングリコールで架橋した温度応答性ハイドロゲル(市販名:メビオールゲル)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの共重合体、ポリエチレングリコールとポリプロピレンオキシドのトリブロック共重合体(市販名:プルロニック(登録商標)、ポロキサマー)などが挙げられる。pH応答性ハイドロゲルとしては、アルギン酸ゲル、キトサンゲル、カルボキシメチルセルロースゲル、アクリル酸系合成ゲルなどが挙げられる。光応答性ハイドロゲルとしては、骨格にアゾベンゼンとシクロデキストリンを組み合わせた合成ゲル、フマル酸アミドをスペーサーとした超分子から成るゲル、ニトロベンジル基を介して架橋されたないしは結合されているゲルなどが挙げられる。磁場応答性ハイドロゲルとしては、磁性粒子を含有させた架橋ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)から成るゲルなどが挙げられる。
【0038】
第2構造体300の形成方法並びに第1構造体及び第2構造体を含む複合体の形成方法については、下記で詳述する。
【0039】
(シート状構造体用の第2製造装置)
図3は、シート状構造体を製造するための第2製造装置20を示す斜視図である。
第2製造装置20は、基部21、第1壁22、第2壁23、第1突出部24、第2突出部25、及び板状部材26を備える。また、第2製造装置20は、基部21、第1壁22、及び第2壁23により画定された凹部27を有する。第2製造装置20は、「基材」の一例である。第2製造装置20は、以下に説明する点を除き、基本的に第1製造装置10と同様の構成を有する。
【0040】
第2製造装置20の第1壁22及び第2壁23は、それぞれ基部21の第1端21a側及び第2端21b側に配置され、y方向に略均一な厚みを有する。すなわち、第1壁22及び第2壁23には、第1製造装置10の第1壁12及び第2壁13と違って、第1凸部12a及び第2凸部13aが設けられていない。これにより、凹部27は、凹みを有しない単純な矩形形状を有する。ただし、第2製造装置20の第1壁22及び第2壁23の形状は上記例に限定されず、第1製造装置10の第1凸部12a及び第2凸部13aとは異なる形状の凸部や凹部などの非平坦部が第1壁22及び第2壁23に形成されてもよい。
【0041】
第2製造装置20の第1突出部24は、第1製造装置10の第1突出部14と同様に、基部21の第3端21c側において第1壁22と第2壁23との間に配置され、y方向に並んだ3本の突起24a、24b、24cを含む。第2突出部25は、第1製造装置10の第2突出部15と同様に、基部21の第4端21d側において第1壁22と第2壁23との間に配置され、y方向に並んだ3本の突起25a、25b、25cを含む。
【0042】
第2製造装置20の板状部材26は、x方向に沿って、xz平面に略平行に延在する3枚の平板26a、26b、26cを含む。第1製造装置10と第2製造装置20とをz方向に重ねたとき、第2製造装置20の板状部材26の位置は、第1製造装置10の板状部材16の位置からy方向に少なくとも部分的にずれている。好ましくは、第2製造装置20の第1突出部24及び第2突出部25と板状部材26とのy方向の位置関係は、第1製造装置10の第1突出部14及び第2突出部15と板状部材16とのy方向の位置関係と異なる。これにより、y方向におけるスリット位置が異なる2種類のシート状構造体を製造することができる。本実施形態では、突起24a、平板26a、及び突起25aのy方向位置が略一致し、突起24b、平板26b、及び突起25bのy方向位置が略一致し、突起24c、平板26c、及び突起25cのy方向位置が略一致する。ただし、板状部材26の配置は上記例に限定されず、突起と平板とのy方向位置がずれていてもよい。
【0043】
第1製造装置10と同様に、例えば、第1壁22の上端、第2壁23の上端、突起24a、24b、24c、25a、25b、25cの上端、及び平板26a、26b、26cの上端は、略面一(すなわち、上端のz方向の高さが略等しい)であってよい。
【0044】
本実施形態では、第2製造装置20は、第1製造装置10と略同じ大きさを有する。ただし、第2製造装置20の大きさは上記例に限定されず、必要に応じて第1製造装置10より大きくてもよく、第1製造装置10より小さくてもよい。
【0045】
(第2製造装置により製造された第2形状の第1構造体)
図4は、第2製造装置20によって製造されたシート状の第2形状の第1構造体200を示す斜視図である。第2形状は、第2製造装置20の凹部27に対応する形状である。第2形状の第1構造体200は、以下に説明する点を除き、基本的に第1形状の第1構造体100と同様の構成を有する。
【0046】
第2形状の第1構造体200は、凹部27と同様に、凹みを有しない単純な矩形形状の本体201を有する。
【0047】
第2形状の第1構造体200は、第3端201c側において第1突出部24の突起24a、24b、24cにそれぞれ対応する孔部204a、204b、204c(第1孔部204と総称する)を有し、第4端201d側に第2突出部25の突起25a、25b、25cにそれぞれ対応する孔部205a、205b、205c(第2孔部205と総称する)を有する。第1孔部204及び第2孔部205は、本体201を厚さ方向に貫通する。また、第2形状の第1構造体200は、第1孔部204と第2孔部205との間に、板状部材26の平板26a、26b、26cにそれぞれ対応するスリット206a、206b、206c(スリット206と総称する)を有する。スリット206は、本体201を厚さ方向に貫通する。
【0048】
本実施形態では、第2形状の第1構造体200は、第1形状の第1構造体100と同様のマトリックス成分及びマトリックス成分中の第1細胞を含む。また、シート状の第1構造体200は、第1構造体100と同様に、第2細胞又は第2組織を含む第2構造体300を保持することができる。
【0049】
(3次元構造体用の第3製造装置)
図5は、3次元構造体を製造するための第3製造装置30を示す斜視図である。
第3製造装置30は、基部31、第1アンカー部材32、及び第2アンカー部材33を備える。第1アンカー部材32及び第2アンカー部材33は、一つ以上の第1構造体100、200を固定することができる。
【0050】
基部31は、xy平面に沿って延在する矩形の部材である。基部31の上面には、矩形の凹状部として形成された第1アンカー収容部34及び第2アンカー収容部35が設けられる。
【0051】
第1アンカー部材32は、第1アンカー基部36及び第1アンカー37を有する。第1アンカー基部36は、第1アンカー収容部34に収容可能なように、第1アンカー収容部34に対応する大きさの矩形形状を有し、第1アンカー37の土台として機能する。第1アンカー37は、第1アンカー基部36から上方へ突出する3本の棒状のアンカー37a、37b、37cを含む。アンカー37a、37b、37cは、断面形状が円形の円柱状であり、例えば、直径が100μm~1mm程度、長さが1mm~10mm程度に形成されている。本実施形態では、アンカー37a、37b、37cは、第1製造装置10の第1突出部14及び第2製造装置20の第1突出部24に対応する位置に設けられる。すなわち、アンカー37a、37b、37cの位置は、第1形状の第1構造体100の第1孔部104及び第2形状の第1構造体200の第1孔部204の位置に対応している。なお、アンカーの数や配置、形状、大きさなどは上記例に限定されず、例えば格子状や千鳥状に配列されてもよい。また、アンカー37a、37b、37cは、第1構造体100、200の孔部が形成されていない部分を穿刺できるように構成されてもよい。
【0052】
第2アンカー部材32は、第2アンカー基部38及び第2アンカー39を有する。第2アンカー基部38は、第2アンカー収容部35に収容可能なように、第2アンカー収容部35に対応する大きさの矩形形状を有し、第2アンカー39の土台として機能する。第2アンカー39は、第2アンカー基部38から上方へ突出する3本の棒状のアンカー39a、39b、39cを含む。アンカー39a、39b、39cは、アンカー37a、37b、37cと同様の形状及び大きさであってよい。本実施形態では、アンカー39a、39b、39cは、第1製造装置10の第2突出部15及び第2製造装置20の第2突出部25に対応する位置に設けられる。すなわち、アンカー39a、39b、39cの位置は、第1形状の第1構造体100の第2孔部105及び第2形状の第1構造体200の第2孔部205の位置に対応している。なお、アンカーの数や配置、形状、大きさなどは上記例に限定されない。また、アンカー39a、39b、39cは、第1構造体100、200の孔部が形成されていない部分を穿刺できるように構成されてもよい。
【0053】
第1アンカー37及び第2アンカー39が上記のように配置されているので、第1形状の第1構造体100の第1孔部104に第1アンカー37を通すとともに第2孔部105に第2アンカー39を通すことにより、第1アンカー部材32及び第2アンカー部材33で第1形状の第1構造体100を固定することが可能になる。同様に、第2形状の第1構造体200の第1孔部204に第1アンカー37を通すとともに第2孔部205に第2アンカー39を通すことにより、第1アンカー部材32及び第2アンカー部材33で第2形状の第1構造体200を固定することが可能になる。また、複数の第1構造体100、200を第3製造装置30上に配置することにより、複数の第1構造体100、200を積層することができる。
【0054】
第1アンカー部材32及び第2アンカー部材33は、少なくとも第1アンカー基部36及び第2アンカー基部38の表面並びに第1アンカー37及び第2アンカー39の表面が、細胞に悪影響を与えない材料、例えばポリパラキシリレン(いわゆるパリレン)などで被覆されている。
【0055】
[3次元組織複合体の製造方法]
次いで、本実施形態に係る3次元組織複合体の製造方法について、図6~9を参照して説明する。
本実施形態に係る3次元組織複合体の製造方法は、第1細胞を含むシート状の複数の第1構造体を準備する準備ステップであって、前記複数の第1構造体のうち少なくとも一つは、第2細胞を含む第2構造体を保持する、準備ステップと、前記複数の第1構造体を積層して3次元複合体を形成する積層ステップと、前記3次元複合体を培養することにより、前記第1細胞から形成される第1組織及び前記第2細胞から形成される第2組織を含む3次元組織複合体を形成する培養ステップと、を含む。好ましくは、前記準備ステップは、前記第2構造体を基材上で位置決めする位置決め工程と、前記基材上で前記第1細胞を含む液体をゲル化させることにより、前記第2構造体を保持する前記第1構造体を形成するゲル化工程と、を含む。
【0056】
図6は、本実施形態に係る3次元組織複合体の製造方法のフローチャートである。以下、このフローチャートに沿って詳細に説明する。以下では、主に第1製造装置10を使用して第1形状の第1構造体100を製造する場合を説明するが、第2製造装置20を使用して第2形状の第1構造体200を製造する場合も同様である。
【0057】
まず、第2細胞又は第2組織を含む第2構造体300を形成する(ステップS1)。本実施形態では、第2細胞は、細胞ファイバを形成する脂肪前駆細胞又は脂肪細胞であり、第2組織は、組織ファイバを形成する脂肪組織であり、第2構造体300は、第2細胞の細胞ファイバ又は第2組織の組織ファイバを含むコア部301と、コア部301を囲むシェル部302と、を有するコアシェル構造体である。
【0058】
第2構造体300の製造方法は特に限定されないが、例えば、図7に示すような二重の同軸マイクロ流体装置(coaxial microfluidic device)40を用いることにより簡便に製造することができる。図7は、本実施形態に係る第2構造体300の製造過程を説明する模式図である。一例として、コア部301の材料にコラーゲン溶液を用い、シェル部302の材料に架橋前のアルギン酸ナトリウム溶液を用いた場合について説明する。
【0059】
まず、マイクロ流体装置40の導入口41から、細胞Cを含むコラーゲン溶液を導入して射出する。また、マイクロ流体装置40の導入口42から、架橋前のアルギン酸ナトリウム溶液を導入して射出する。また、マイクロ流体装置40の導入口43から、塩化カルシウム溶液を導入して射出する。すると、シェル部302のアルギン酸ナトリウム溶液がゲル化し、シェル部302がアルギン酸ゲルである第2構造体300を製造することができる。また、第2構造体300を37℃程度で数分から1時間程度加熱することにより、コア部301の細胞Cを含むコラーゲン溶液をゲル化させることができる。このようにして、細胞ファイバをコア部301に含む第2構造体300を製造することができる。
【0060】
導入口41、42における溶液の射出速度は特に限定されないが、マイクロ流体装置40の口径が50μm~2mm程度である場合には、10~500μL/分程度であってもよい。導入口41、42における溶液の射出速度を調節することにより、コア部301の直径及びシェル部302の被覆厚みを適宜調節できる。導入口43における溶液の射出速度は特に限定されないが、例えば1~10mL/分程度であってもよい。
【0061】
第2構造体300の外径は特に限定されず、例えば10μm~2mm、例えば20μm~2mm、例えば50μm~1mm程度であってもよい。シェル部302の厚さは特に限定されず、例えば5μm~1mm、例えば10μm~1mm、例えば50μm~500μm程度であってもよい。第2構造体300の長さは特に限定されず、数mm~数m程度であってもよい。第2構造体300の断面形状としては、円形、楕円系、四角形や五角形などの多角形などが挙げられる。
【0062】
第2構造体300の細胞ファイバを培養液中で培養することにより、細胞を増殖させることができる。細胞ファイバは、培養液を適切に交換することにより、数か月培養することもできる。培養によってコア部301の細胞ファイバを構成する第2細胞が増殖して第2組織を形成すると、第2構造体300は、コア部301に組織ファイバを含むものとなる。
【0063】
コア部301には、細胞Cの維持、増殖又は機能発現などに適した各種の成長因子、例えば上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、インスリン様成長因子(IGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、神経成長因子(NGF)などを含有させてもよい。成長因子を含有させる場合には、成長因子の種類に応じて適宜の濃度を選択することができる。
【0064】
次いで、製造する第1構造体100に第2構造体300を保持させるか否かが判定される(ステップS2)。例えば、最終的な3次元組織複合体を形成するために、第2構造体300を保持している第1構造体100と第2構造体300を保持していない第1構造体100との両方を使用する場合には、次に積層すべき第1構造体100が第2構造体300を保持するものか否かに従ってステップS2の判定が行われる。判定は、その都度ユーザなどの判断主体により行われてもよく、予め設定したフローなどに従って自動的に行われてもよい。
【0065】
第1構造体100に第2構造体300を保持させると判定された場合(ステップS2:Yes)、ステップS1で製造された第2構造体300が第1製造装置10の保持面上に位置決めされる(ステップS3)。図8Aのように、第2構造体300は、基部11の上面(保持面)上で、板状部材16で仕切られて形成されたx方向の溝に沿って配置され得る。すなわち、第2構造体300は、第1凸部12aと平板16aとの間、平板16aと平板16bとの間、又は平板16bと第2凸部13aとの間に位置決めされ得る。このように、板状部材16は、第2構造体300を位置決めするための位置決め部材として機能し得る。なお、第2構造体300の位置決め方法は上記例に限定されず、凹部17の任意の位置に第2構造体300を配置してよい。また、二つ以上の第2構造体300を配置してもよい。
【0066】
次いで、第1細胞を含む液体110が、第1製造装置10の保持面上に供給される(ステップS4)。図8Bのように、例えば、液体110は、ピペットPなどを用いて、凹部17に供給される。液体110は、第1構造体100の原料であり、第1細胞及びマトリックス成分のゲル化前の液体を含む。マトリックス成分については、第1構造体100について上述したとおりである。
【0067】
本実施形態では、マトリックス成分のゲル化前の液体110として、トロンビンと増殖培地との混合液A、及びフィブリノーゲンとマトリゲル(登録商標)と増殖培地との混合液Bを用いている。すなわち、混合液Aと混合液Bとを混合することにより、マトリックス成分のゲル化が行われる。本実施形態では、混合液Aと混合液Bとの混合は凹部17への供給前に行われるが、混合液Aと混合液Bとを別々に凹部17へ供給し、凹部17内で混合を行ってもよい。
【0068】
次いで、液体110をゲル化させることにより、第2構造体300を保持する第1構造体100を形成する(ステップS5)。ゲル化は既知の任意の方法で行ってよい。本実施形態では、混合液Aと混合液Bとを混合した段階でゲル化が始まるので、液体110のゲル化が進行している間に液体110が凹部17へ供給される(図8B)。液体110は、第2構造体300が配置された凹部17を満たすので、第2構造体300は液体110に包まれる。その後、凹部17が液体110で満たされた状態の第1製造装置10を、細胞培養ディッシュ50内に配置されたシリコンゴムシートなどのシート状のスタンプ台51の上に置く。この状態でインキュベーションを行うことにより、液体110のゲル化が完了し、ゲル120が得られる(図8C)。第1製造装置10とスタンプ台51との間に挟まれたゲル120が凹部17の形状に従って成形されるので、第1形状の第1構造体100が形成される。第2構造体300は、ゲル120の内部に取り込まれた状態となるので、第1形状の第1構造体100に保持される(図8D)。この後、細胞培養ディッシュ50に増殖培地を供給してさらにインキュベーションを行うことができる。
【0069】
一方、第1構造体100に第2構造体300を保持させないと判定された場合(ステップS2:No)、第2構造体300の位置決めステップは行われず、液体110を第1製造装置10に供給するステップ(ステップS6)及び液体110をゲル化して第1構造体100を形成するステップ(ステップS7)が行われる。これらのステップの手順は、第2構造体300が第1製造装置10に配置されていない点を除き、ステップS4及びステップS5と同様である。
【0070】
ステップS5又はステップS7の後、得られた第1構造体100が第1製造装置10から取り外される(ステップS8)。例えば、図8Cの状態において第1製造装置10をピンセットなどで慎重に取ることにより、第1製造装置10と第1構造体100とを分離させることができる。ただし、第1構造体100の分離方法は上記例に限定されず、任意の手法を用いてよい。
【0071】
次いで、第1構造体100が第3製造装置30の第1アンカー部材32及び第2アンカー部材33に取り付けられる(ステップS9)。例えば、図8Eに示すように、第1アンカー部材32のアンカー37a、37b、37cがそれぞれ第1構造体100の孔部104a、104b、104cに通され、第2アンカー部材33のアンカー39a、39b、39cがそれぞれ第1構造体100の孔部105a、105b、105cに通される。これにより、第1構造体100の両端部が第1アンカー部材32及び第2アンカー部材33により固定される。このように、第1構造体100は、両端部がアンカーによって固定されるように積層される。
【0072】
次いで、3次元組織複合体を形成するための積層が完了したか否かが判定される(ステップS10)。積層が完了していない場合(ステップS10:No)、ステップS2の前に戻って次の第1構造体の製造が実行され、第1構造体が順次積層される。好ましくは、第1製造装置10を使用して第1形状の第1構造体100を製造した次のサイクルでは第2製造装置20を使用して第2形状の第1構造体200が製造され、第2製造装置20を使用して第2形状の第1構造体200を製造した次のサイクルでは第1製造装置10を使用して第1形状の第1構造体100が製造される。すなわち、第1形状の第1構造体100と第2形状の第1構造体200とが交互に積層されることが好ましい。これにより、x方向に垂直な断面視において、第1構造体100、200のスリット106、206のy方向の位置が層ごとに異なることとなり、第1構造体100、200を積層することによって得られる3次元構造体中の空隙(スリット106、206)がx方向に沿った断面視において交互に配置される。すなわち、隣接する2枚の第1構造体100、200のうち一方が有するスリット106、206は、x方向と積層方向であるz方向とに直交するy方向において、隣接する2枚の第1構造体100、200のうちの他方が有するスリット106、206と異なる位置にある。このような配置は、特に第1組織として筋組織が形成される場合、筋線維束の収縮によってスリット106、206の空隙が効率的に埋まる点で好ましい。ただし、製造や積層の順番は上記例に限定されず、必要に応じて任意の順番で第1構造体100、200を製造及び積層してよい。
【0073】
一方、ステップS10で積層が完了したと判定された場合(ステップS10:Yes)、複数の第1構造体100、200が積層された積層体が第3製造装置30上に形成される。次いで、第2細胞又は第2組織を含むコア部301とコア部301を包むシェル部302とを含む第2構造体300に対し、シェル部302の溶解が行われる(ステップS11)。例えば、シェル部302がアルギン酸ゲルである場合には、アルギナーゼなどの酵素などを作用させることによりシェル部302を解離させることができる。アルギン酸ゲルを解離させる方法としては、酵素の他にも、EDTAなどのキレート剤を適宜の濃度で作用させてカルシウムイオンを除去する方法やクエン酸などの弱酸を作用させる方法などが挙げられる。これにより、シェル部302が除去されて、第2構造体300のコア部301を形成する第2細胞の細胞ファイバ又は第2組織の組織ファイバが第1構造体100、200と直接接触できるようになる。なお、シェル部302が解離した後の第2構造体を、シェル部302が解離していない状態の第2構造体300と区別するために「第2構造体350」と称する。このようにして、第1構造体100、200が積層された構造を有し、第2構造体350が一つ以上の第1構造体100、200に保持された、3次元複合体400が得られる。例えば図8Fでは、第1形状の第1構造体100、第2形状の第1構造体200、及び第1形状の第1構造体100が第3製造装置30上で順番に積層された3層構造の3次元複合体400が示されている。
【0074】
次いで、3次元複合体400の培養が行われる(ステップS12)。本実施形態では、第1細胞は筋芽細胞であり、分化培地及び電気刺激を用いた培養によって、筋芽細胞が筋細胞に分化し、さらに筋細胞から筋線維(「第1組織」の一例)が形成される。筋線維束は、スリット106、206の方向に沿うように形成され得る。この筋線維束の形成時に、アンカーで固定された第1構造体100、200の両端部の間で第1組織の収縮が起きるので、第2構造体300のシェル部302の溶解によって生じた空隙が埋まる。なお、電気刺激には一般的な電気刺激培養システムが使用可能である。このようにして第1組織が形成されることにより、第1組織と第2組織とが3次元的に組み合わされた3次元組織複合体500が得られる(図9)。引き続き3次元組織複合体500を培養することにより、第1構造体100、200の第1組織と第2構造体350の第2組織との3次元的な共培養が行われる。
【0075】
このようにシート状の第1構造体に第2構造体を保持させ、第1構造体を積層して3次元組織複合体を形成することにより、3次元組織複合体における第2組織を含む第2構造体の位置を制御することができる。これにより、第1組織と第2組織との共培養において第1組織に対する第2組織の位置を制御することができ、3次元組織複合体の取扱い性を向上させることができる。また、生体内環境を再現するように第2組織を含む第2構造体の位置付けを行うことにより、3次元組織複合体との生体との同等性を向上させることができる。
【0076】
なお、ステップS1において第2構造体300を製造した後、ステップS2以降で第1構造体100、200の製造を開始するまでの期間は、間を置かなくてもよいが、第2細胞と第1細胞とで培養期間に差がある場合、特に第2細胞に必要な培養期間が第1細胞の培養期間よりも長い場合には、ステップS1の後、第2細胞の培養を十分に行った後でステップS2以降の工程を開始することができる。すなわち、ステップS1又はその後に第2構造体300の培養を行ってよい。第2構造体300の培養期間は、特に限定されないが、例えば1日以上、2日以上、3日以上、1週間以上、1月以上などであってよく、例えば1年以下、半年以下、3月以下、2月以下であってよい。これにより、第2構造体300は、第2細胞の培養により形成された第2組織を含むことができ、効率的に共培養を行うことができる。ただし、第2細胞から第2組織が形成される前に上記工程により3次元複合体400を製造し、3次元複合体400を培養することによって第1細胞(例えば筋芽細胞又は筋細胞)と第2細胞(例えば脂肪前駆細胞又は脂肪細胞)との共培養を行ってもよい。
【0077】
[3次元組織複合体]
図9は、本実施形態に係る3次元組織複合体500を示す模式図である。本実施形態に係る3次元組織複合体は、第1組織を含むシート状の第1構造体と、前記第1構造体に保持された、第2組織を含む前記第2構造体と、を含み、前記第1構造体が複数積層されてなる3次元組織複合体である。すなわち、上記の製造方法により製造された3次元組織複合体500は、複数のシート状の第1構造体100、200が積層されてなる構造を有する。複数の第1構造体100、200のうち少なくとも一つは、第2構造体350を保持している。第1構造体100、200は第1組織を含み、第2構造体350は第2組織を含む。本実施形態では、第1組織は筋組織であり、第2組織は脂肪組織であり、3次元組織複合体500は筋-脂肪複合組織である。筋組織としては、骨格筋組織、平滑筋組織、心筋組織などが挙げられる。
【0078】
本実施形態では、第2構造体350は、第1構造体100、200に囲まれており、少なくとも部分的に第1構造体100、200の内部に埋め込まれている。また、第1構造体100、200の第1組織と第2構造体350の第2組織とが互いに直接接触していることが好ましい。これにより、組織同士が直接接触している生体内環境の再現性が向上し得るので、生体との同等性を向上させることができる。
【0079】
本実施形態では、第2構造体350は、細長いファイバ状である。図9では、ファイバ状の第2構造体350が、第1構造体100、200中でx方向に沿って延在している。また、第1構造体100、200を構成する筋組織は、x方向に沿って伸びた筋線維を有する。第1構造体100、200には、x方向に沿って延在するスリット106、206が形成されており、これにより筋線維がx方向に沿って伸びるようになる。
【0080】
本実施形態に係る3次元組織複合体500は、薬剤を添加して筋組織や脂肪組織などの構成組織の状態変化を観察することにより、薬剤が生体に与える影響を検証するドラッグスクリーニングに利用することができる。また、3次元組織複合体500に電気刺激を与えながら薬剤試験を行うことにより、電気刺激で誘発される筋組織の収縮運動による薬剤応答性の変化を検証することができる。また、3次元組織複合体500は、例えば、食用の人工肉として使用することもできる。
【0081】
[変形例]
上記実施形態では、ファイバ状の第2組織及びファイバ状の第2構造体を例にとって説明したが、他の形態の第2構造体を使用してもよい。例えば、第2構造体は、ビーズ状の第2組織を含んでもよく、第1構造体のようにシート状に形成されてもよく、その他の任意の形態であってもよい。ビーズ状の第2組織を使用する場合、第2構造体もビーズ状の形態として、少なくとも部分的にシート状の第1構造体に埋め込まれてよい。第2構造体の位置決めステップ(ステップS3)において、製造装置10、20の保持面上の適当な位置にビーズ状の第2構造体を配置することができる。また、シート状の第2構造体とする場合、第1構造体と第2構造体とを第3製造装置30上で積層することができる。例えば、第2細胞又は第2組織を含むシート状の第2構造体を二つの第1構造体で挟むように積層することにより、第1構造体にシート状の第2構造体を保持させることができる。なお、シート状の第2構造体は、上記実施形態の第1構造体と同様の方法で製造してもよい。
【0082】
上記実施形態では、第1細胞が筋芽細胞であり、第1組織が筋組織であり、第2細胞が脂肪前駆細胞又は脂肪細胞であり、第2組織が脂肪組織である例を説明したが、これらは上記例に限定されず、筋組織や脂肪組織に加えて、又は筋組織や脂肪組織に代えて、他の細胞や組織も使用可能である。例えば、脂肪組織に代えて、又は脂肪組織に加えて、筋組織中に血管など他の要素を任意の方法で形成してもよい。例えば、第2構造体が脂肪組織及び血管組織など2種類以上の組織を含んでもよく、第1構造体及び第2構造体に加えて、血管組織などの別の組織を含む第3構造体など一つ以上の追加の構造体が使用されてもよい。
【0083】
また、第1構造体が2種類以上の組織を含んでもよい。例えば、第1構造体の両端部では腱細胞を培養して腱組織を形成し、その間で筋芽細胞を培養して筋組織を形成することにより、筋組織の両端部に腱組織が結合した腱-筋複合組織を形成してもよい。このような腱-筋複合組織を含む第1構造体を使用して上記の製造方法により3次元組織複合体500を製造した場合、第2組織が脂肪組織であれば、腱-筋複合組織中に脂肪組織が含まれた腱-筋-脂肪の共培養組織が得られる。
【0084】
上記実施形態では、製造装置10、20に側壁として第1壁12、22及び第2壁13、23のみが設けられた例を説明したが、さらに基部11、21の第1端11a、21a側及び第2端11b、21b側に側壁を設けてもよい。そうすると、凹部17、27が四方から囲まれるので、粘性の低い液体110やゲル化の進行が遅い液体110を使用する場合でも、液体110が凹部17、27から外へ流れ出るのを抑制することができる。
【0085】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、第1組織と第2組織との共培養において第1組織に対する第2組織の位置を制御することにより、3次元組織複合体の取扱い性及び生体との同等性を向上させることができる。
【実施例
【0086】
以下、実験例により本発明を説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0087】
[実験例1]
(第2構造体の製造)
図7に模式的に示す製造過程に従って、脂肪細胞ファイバを含む第2構造体を製造した。細胞としてマウス由来の脂肪前駆細胞である3T3-L1を使用し、アテロコラーゲン(DME-02H,株式会社高研製)を添加して、細胞密度1.0×10個/mLの細胞コラーゲン懸濁液(コア溶液)を調製した。マイクロ流体装置40の導入口41から、上記の細胞コラーゲン懸濁液を流速100μL/分で導入し、導入口42から、シェル溶液である1.5重量%のアルギン酸ナトリウム溶液を流速300μL/分で導入し、導入口43からアルギン酸ナトリウムをゲル化するためのシース溶液である100mM塩化カルシウムを含む3重量%のスクロース溶液を流速3600μL/分で導入して射出することにより、コア部の直径が約200μmでありシェル部の外径が約350μmである脂肪細胞ファイバを得た。
【0088】
得られた脂肪細胞ファイバを増殖培地で3~5日間培養し、ファイバ内が3T3-L1で満ちた状態になるように増殖させた。次いで、培地を分化培地に取り換えて2日間培養した。その後、脂肪細胞の脂肪滴の成長を促進するために培地を促進培地に取り換えた。細胞の培養は、温度を37℃、二酸化炭素の濃度を5%に設定したインキュベータで行った(以下同様)。ここで、増殖培地としては、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地) Low Glucose(041-29775,和光社製)に体積比10%のウシ胎児血清(FBS:Fetal Bovine Serum)及び体積比1%のペニシリン-ストレプトマイシンを混合した溶液を使用した。分化培地としては、PGM TM-2 Preadipocyte Growth Medium-2 BulletKit Tm,PT-8002,Lonza社製を使用した。促進培地としては、DMEM High Glucose(D5796,Sigma-Aldrich社製)に体積比10%のFBS、体積比1%のペニシリン-ストレプトマイシン、及び5μg/mLのインスリンを混合した溶液を使用した。
【0089】
[実験例2]
(第1構造体の製造)
図8A~8Dに模式的に示す製造過程に従って、筋芽細胞を含む第1構造体を製造した。上記の第1製造装置10及び第2製造装置20は、光造形装置で出力したモールドにPDMSを転写することにより、PDMS製のスタンプとして製造した。
【0090】
細胞として、マウス由来の筋芽細胞株であるC2C12(ATCC)を使用した。ディッシュ上で80%コンフルエント状態のC2C12に対してC2C12増殖培地とトロンビン溶液とを体積比8.6:1で添加し、細胞濃度が5.0×10個/mLとなるように混合液Aを調製した。次いで、増殖培地、マトリゲル、及びフィブリノーゲン溶液を体積比1:10:20で混合し、混合液Bを調製した。上記の第2構造体をピンセットで取ってPDMS製の第1製造装置上の所望の位置に配置した後、42.7μLの混合液Aと68μLの混合液Bとを混合して、第1製造装置の凹部に入れ、第1製造装置とシリコンゴムシートとで混合液を挟んだ。その後、マトリゲルのゲル化のために30分間インキュベーションを行った。次いで、増殖培地を入れて2~3時間培養した。その後、ピンセットで第1製造装置を取り、第2構造体を保持するシート状の第1構造体(図8D参照;以下では「筋-脂肪複合シート」とも言う。)を得た。
【0091】
ここで、増殖培地としては、DMEM High Glucose(D5796,Sigma-Aldrich社製)に体積比10%のFBS及び体積比1%のペニシリン-ストレプトマイシンを混合した溶液を使用した。トロンビン溶液としては、0.1%のBSA溶液5mLをトロンビン(T7009-250,Sigma-Aldrich社製)のボトルに入れたものを使用した。フィブリン溶液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS:Phosphate Buffered Saline)に20mg/mLの濃度になるようにフィブリノーゲン(F8630,Sigma-Aldrich社製)を溶解して調製した。
【0092】
[実験例3]
(3次元構造体の製造)
図8E及び図8Fに模式的に示す製造過程に従って、筋芽細胞及び脂肪細胞を含む3次元構造体を製造した。上記の第3製造装置30のうち基部31は、光造形装置で出力したモールドにPDMSを転写することにより製造し、第1アンカー部材32及び第2アンカー部材33は、光造形装置で出力し、表面にパリレン蒸着を行った。アンカーの直径は600μm、高さは3.5mmとした。
【0093】
実施例2で得た筋-脂肪複合シートを、図8Eのように上記のアンカーに固定した。次いで、実施例2と同様にして、PDMS製の第2製造装置により上記の第1構造体と異なる第2形状の第1構造体(図4参照)を1枚製造し、実施例2の第1構造体の上に積層させるようにアンカーに固定した。さらに、PDMS製の第1製造装置により、実施例2と同じ第1形状の第1構造体をもう1枚製造し、上記の第2形状の第1構造体の上に積層させるようにアンカーに固定した。これにより、第1形状-第2形状-第1形状という順番で3枚の第1構造体がアンカーに固定された。
【0094】
その後、C2C12増殖培地に体積比1%の増殖培地用ACA溶液を添加し、さらに40μg/mLの濃度となるようにアルギナーゼ(Sigma-Aldrich社製)を添加した溶液を、アンカーに固定された3次元構造体に加え、90分間培養することにより、第2構造体のシェル部を構成するアルギン酸ナトリウムを溶解させた。ここで、増殖培地用ACA溶液は、DMEM High Glucoseに体積比10%のFBS及び体積比1%のペニシリン-ストレプトマイシンを混合した溶液20mLにACA(6-アミノカプロン酸,A2504-25G,Sigma-Aldrich社製)を3g添加して調製した。その後、アルギナーゼを含まない増殖培地に取り換えて1日間培養することにより、細胞がゲルに接着するように安定させた。
【0095】
図10は、アルギナーゼ添加後の脂肪ファイバの時間変化を観察した写真である。左上の写真は明視野写真であり、他の写真は蛍光写真である。アルギナーゼ添加後の時間を各写真の上部に示す。アルギン酸ナトリウムに緑蛍光ビーズを混合したゲルファイバ(第2構造体)を使用してシートを製造し、アルギナーゼを添加して第2構造体のシェル部が溶解する様子を観察した。蛍光写真で白く見えている部分がアルギン酸ゲルから成るシェル部である。アルギナーゼ添加後30分でアルギン酸ナトリウムのシェル表面が溶け始めるのが観察された。また、アルギナーゼ添加後70分後にはシェル部のほとんどが溶解した。70分以上反応させることによって、アルギン酸ナトリウムのシェルが溶解したことを確認した。
【0096】
[実験例4]
(3次元構造体の培養)
実験例3で得られた3次元構造体について、増殖培地を、下記の筋芽細胞用の分化培地に対して体積比1%の分化培地用ACA溶液を添加したものに取り換えることにより、筋芽細胞から骨格筋細胞への分化誘導を行った。ここで、筋芽細胞用の分化培地は、DMEM Low Glucose(041-29775,和光社製)に体積比10%のウマ血清(Sigma-Aldrich社製)及び体積比1%のペニシリン-ストレプトマイシンを混合した溶液である。分化培地用ACA溶液は、上記分化培地20mLにACAを4g添加して調製した。
【0097】
次いで、骨格筋細胞から筋線維束を形成するために、電気刺激培養システム(CLD6W35F,C-Pace EM)を用いて3次元構造体に対して電気刺激を加えた。具体的には、滅菌済みの電極板を3次元構造体が入っているディッシュに入れてインキュベータで7日間培養を行った。電気刺激は、電圧7V、周波数1Hz、2m秒で毎日2時間行った。
【0098】
[実験例5]
(3次元組織複合体の電気刺激)
製造した筋-脂肪複合シートに対して上記と同じ条件で電気刺激を加え、骨格筋組織の挙動を観察した。図11Aは、筋-脂肪複合シートの電気刺激応答性を示す写真(写真の上下方向が筋線維の延びる方向である)であり、図11Bは、筋-脂肪複合シートの電気刺激応答性を示すグラフである。筋-脂肪複合シートに周波数1Hz、2m秒の電気刺激を加えながら、筋-脂肪複合シートの筋線維束を明視野顕微鏡で観察し、筋線維束の延在方向と直交する方向への変位d(図11A参照)を測定した。変位dの時間変化を図11Bのグラフに示す。電気刺激の周期に合わせて骨格筋組織の変位dが周期的に変化していることを確認した。このようにして、筋-脂肪複合シートの骨格筋組織の電気刺激応答性を確認した。
【0099】
[実験例6]
(脂肪組織の位置)
図12は、筋-脂肪複合シート(図2に示す第1形状に相当)における脂肪組織の位置決めの模式図及び対応する明視野写真である。上側の模式図は、製造時に第2構造体を配置した位置を示す。下側の明視野写真中の黒く見える部分(図中に矢印で位置を示す)が脂肪細胞の位置である。各写真から、一つのシート内に、骨格筋組織だけの部分と、骨格筋組織と脂肪組織とが混合している部分と、が分かれて存在していることを確認した。また、明視野写真で確認した脂肪細胞の位置が、製造時に第2構造体(脂肪ファイバ)を配置した位置と一致することを確認した。すなわち、製造中に第2構造体の位置決めを行うことによって、製造された第1構造体中の第2構造体の位置を制御できることを確認した。
【0100】
[実験例7]
(骨格筋組織と脂肪組織との接触)
製造した筋-脂肪複合シートを凍結して切断し、ヘマトキシリン・イオシン染色(HE染色)を行って、凍結切片の切断面を観察した。図13Aは、切断部位を示す筋-脂肪複合シートの写真であり、図13Bは、筋-脂肪複合シートの凍結切片におけるHF染色された切断面の写真である。図13Bの切断面を見ると、脂肪組織Aが中央に存在すること、骨格筋組織Mが脂肪組織Aを取り囲むように位置すること、脂肪組織Aと骨格筋組織Mとが互いに接触していることが確認できる。
【0101】
[実験例8]
(3次元組織複合体の切片の免疫染色)
図14は、製造した3次元組織複合体の切片を免疫染色した結果である。図14に示すように、骨格筋細胞の筋管M及び細胞核Nに加えて、脂肪油滴Dが観察されることから、製造した3次元組織複合体中で、筋線維及び脂肪組織が正常に機能していることが確認された。
【符号の説明】
【0102】
10…第1製造装置、20…第2製造装置、30…第3製造装置、11、21、31…基部、12、22…第1壁、13、23…第2壁、14、24…第1突出部、15、25…第2突出部、16、26…板状部材、17、27…凹部、32…第1アンカー部材32、33…第2アンカー部材、34…第1アンカー収容部、35…第2アンカー収容部、36…第1アンカー基部、37…第1アンカー、38…第2アンカー基部、39…第2アンカー、40…マイクロ流体装置、100…第1形状の第1構造体、200…第2形状の第1構造体、101、201…本体、104、204…第1孔部、105、205…第2孔部、106、206…スリット、300、350…第2構造体、301…コア部、302…シェル部、400…3次元複合体、500…3次元組織複合体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13A
図13B
図14