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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-08
(45)【発行日】2025-09-17
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/31 20060101AFI20250909BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20250909BHJP
   C23C 16/505 20060101ALI20250909BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20250909BHJP
【FI】
H01L21/31 C
H01L21/318 B
C23C16/505
H05H1/46 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021131063
(22)【出願日】2021-08-11
(65)【公開番号】P2023025751
(43)【公開日】2023-02-24
【審査請求日】2024-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】松浦 廣行
(72)【発明者】
【氏名】安藤 武
(72)【発明者】
【氏名】小林 健
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/147296(WO,A1)
【文献】特開2015-198111(JP,A)
【文献】特開2020-155729(JP,A)
【文献】特開2009-076876(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0275359(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0056877(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
H01L 21/318
C23C 16/505
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に膜を成膜するプラズマ処理装置であって、
処理容器内に設けられた反応管と、
基板を保持し、前記反応管内に搬入及び搬出されるボートと、
前記反応管に連通し、ガスからプラズマを生成するプラズマ生成部と、
前記プラズマ生成部に前記ガスを供給するガス供給部と、
前記プラズマ生成部を挟むように設置され、電極を有する電極設置部と、
前記電極に接続され、前記電極に高周波を供給するRF電源と、
前記電極設置部内に前記電極と離間して設けられたコイルと、
前記コイルに接続され、前記コイルに直流電流を供給する直流電源と、
を有し、
前記電極は、前記電極設置部の内部に対向して設置され、
前記コイルは、対向する前記電極と並んで1以上設置される、プラズマ処理装置。
【請求項2】
基板に膜を成膜するプラズマ処理装置であって、
処理容器内に設けられた反応管と、
基板を保持し、前記反応管内に搬入及び搬出されるボートと、
前記反応管に連通し、ガスからプラズマを生成するプラズマ生成部と、
前記プラズマ生成部に前記ガスを供給するガス供給部と、
前記プラズマ生成部を挟むように設置され、電極を有する電極設置部と、
前記電極に接続され、前記電極に高周波を供給するRF電源と、
前記電極設置部内に前記電極と離間して設けられたコイルと、
前記コイルに接続され、前記コイルに直流電流を供給する直流電源と、
を有し、
前記電極は、前記電極設置部の内部に対向して設置され、
前記コイルは、対向する前記電極の両側に複数設置される、プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記プラズマ生成部は、前記反応管から矩形状に突出し、
前記電極設置部は、前記矩形状に突出するプラズマ生成部のプラズマ区画壁に沿って設けられる、
請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記コイルは、前記プラズマ生成部の対向するプラズマ区画壁に沿って1以上巻回される、
請求項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記コイルは、少なくとも1つが前記電極よりも前記反応管側に設置される、
請求項1~4のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置における基板の成膜方法であって、
(a)基板を、窒素含有ガスから生成されたプラズマに曝露する工程と、
(b)前記基板を、シリコンを含む成膜ガスに暴露する工程と、
(c)前記基板を、水素ガスから形成されたプラズマに曝露する工程と、
(d)前記工程(a)から前記工程(c)までをこの順で繰り返す工程と、を有し、
前記工程(a)及び前記工程(c)において前記プラズマを生成する際、前記プラズマ生成部に沿って配置された前記電極設置部に設けられた前記電極に高周波を供給し、前記電極設置部に設けられた前記コイルに直流電流を供給する、成膜方法。
【請求項7】
前記工程(a)と前記工程(b)との間、及び前記工程(b)と前記工程(c)との間に前記反応管内をパージする工程を有する、
請求項に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ処理装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成膜工程時、プラズマ処理装置の内壁等に所望膜が付着し、堆積する。所望膜の累積膜厚が予め設定された閾値を超えると、膜が剥がれ、累積膜厚に比例して基板上に発生するパーティクル量が増加する。
【0003】
基板上に発生するパーティクル量が管理値を超えないように、予め決められた累積膜厚に達した時点で、プラズマ処理装置の内壁に堆積した膜をドライクリーニングにより除去する。生産性を高めるためには、一のドライクリーニングから次のドライクリーニングまでの期間、つまり、ドライクリーニングサイクルを可能な限り長くすることが望まれる。
【0004】
基板上に発生するパーティクルは、プラズマ生成部から発生するものが多い。基板上に発生するパーティクルを減少させる方法の一つとして、例えば、特許文献1は、成膜された膜中に発生する応力を制御する方法を提案する。ただし、成膜工程にこの膜応力制御工程を含めることで生産性の低下が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4607637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、プラズマ密度を高める技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の態様によれば、基板に膜を成膜するプラズマ処理装置であって、処理容器内に設けられた反応管と、基板を保持し、前記反応管内に搬入及び搬出されるボートと、前記反応管に連通し、ガスからプラズマを生成するプラズマ生成部と、前記プラズマ生成部に前記ガスを供給するガス供給部と、前記プラズマ生成部を挟むように設置され、電極を有する電極設置部と、前記電極に接続され、前記電極に高周波を供給するRF電源と、前記電極設置部内に前記電極と離間して設けられたコイルと、前記コイルに接続され、前記コイルに直流電流を供給する直流電源と、を有し、前記電極は、前記電極設置部の内部に対向して設置され、前記コイルは、対向する前記電極と並んで1以上設置される、プラズマ処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
一の側面によれば、プラズマ密度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る熱処理装置の一例を示す断面模式図。
図2】実施形態に係る電極設置部の一例を示す断面模式図(図3のB-B断面)。
図3図1のA-A断面を示す図。
図4】実施形態に係るコイルの立体概略図。
図5】実施形態に係るコイルがつくる磁場の発生予想図。
図6】実施形態に係る電極設置部の他の例を示す断面模式図。
図7】実施形態に係る成膜方法の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
[熱処理装置]
図1を参照しながら、実施形態のプラズマ処理装置の一例としてプラズマ生成部を有する熱処理装置について説明する。図1は、実施形態の熱処理装置の一例を示す概略図である。
【0012】
熱処理装置1は、処理容器10と反応管3とを有する。処理容器10は、略円筒形状を有する。反応管3は、処理容器10の内側に配置される。反応管3は、有天井の略円筒形状を有する。反応管3は、例えば石英等の耐熱材料により形成されている。反応管3は基板を収容する。熱処理装置1は、反応管3と処理容器10とにより二重構造となっている。
【0013】
熱処理装置1は、マニホールド13、インジェクタ14、15、蓋体16、ガス出口19等を有する。マニホールド13は、略円筒形状を有する。マニホールド13は、反応管3の下端を支持する。マニホールド13は、例えばステンレス鋼により形成されている。
【0014】
マニホールド13の下方から多数枚(例えば、25枚~150枚)の基板Wを多段に載置したボート18が反応管3内に挿入(ロード)される。このように反応管3内には、成膜時、上下方向に沿って間隔を有して多数枚の基板Wが略水平に収容される。ボート18は、例えば石英により形成されている。ボート18は、3本のロッド6を有し(図1では2本のみ表示)、ロッド6に形成された溝(図示せず)により多数枚の基板Wが支持される。基板Wは、例えば半導体ウエハであってよい。なお、ボート18が反応管3内に搬入(ロード)され、基板Wに所望膜が形成された後、ボート18は反応管3から搬出(アンロード)される。
【0015】
ボート18は、石英により形成された保温筒17を介してテーブル5上に載置されている。テーブル5は、マニホールド13の下端の開口を開閉する金属(ステンレス)製の蓋体16を貫通する回転軸7上に支持される。
【0016】
回転軸7の貫通部には、磁性流体シールが設けられており、回転軸7を気密に封止し、且つ回転可能に支持している。蓋体16の周辺部とマニホールド13の下端との間には、処理容器10内の気密性を保持するためのシール部材8が設けられている。
【0017】
回転軸7は、例えばボートエレベータ等の昇降機構(図示せず)に支持されたアーム2の先端に取り付けられており、ボート18と蓋体16とは一体として昇降し、処理容器10内に対して挿脱される。なお、テーブル5を蓋体16側へ固定して設け、ボート18を回転させることなく基板Wに処理を行うようにしてもよい。
【0018】
熱処理装置1は、処理容器10内へ処理ガス、パージガス等の所定のガスを供給するガス供給部20を有する。ガス供給部20は、ガス供給管であるインジェクタ14、15を有する。インジェクタ14、15は、例えば石英により形成されており、マニホールド13の側壁を内側へ貫通して上方へ屈曲されて垂直方向に延びる。インジェクタ14、15の垂直部分には、ボート18の基板支持範囲に対応する上下方向の長さに亘って、それぞれ複数のガス孔14a、15aが所定間隔で形成されている。各ガス孔14a、15aは、水平方向にガスを吐出する。インジェクタ14、15は、例えば石英により形成されており、マニホールド13の側壁を貫通して設けられた石英管からなる。なお、図1の例では、インジェクタ14、15が1本の場合を示しているが、インジェクタ14、15は複数本であってもよい。
【0019】
インジェクタ14には、ガス配管を介して原料ガス供給源21から成膜のためのシリコン含有ガスが供給される。本実施形態では、ジクロロシラン(SiHCl)が供給される例を挙げて説明するが、シリコン含有ガスはこれに限らない。ガス配管には、流量制御器22及び開閉弁V0が設けられている。ジクロロシランは、原料ガス供給源21から出力され、流量制御器22にてその流量を制御されて、開閉弁V0の開閉により反応管3内への供給がオン・オフされる。
【0020】
インジェクタ15は、その垂直部分がプラズマ生成部60内に設けられている。インジェクタ15には、ガス配管を介してアンモニアガス供給源23からアンモニア(NH)ガスが供給される。ガス配管には、流量制御器25及び開閉弁V1が設けられている。NHガスは、アンモニアガス供給源23から出力され、流量制御器25にてその流量を制御されて、開閉弁V1の開閉によりプラズマ生成部60内への供給がオン・オフされる。NHガスは、プラズマ生成部60にてプラズマ化されて反応管3内に供給される。また、インジェクタ15には、ガス配管を介して水素ガス供給源24から水素(H)ガスが供給される。ガス配管には、流量制御器25及び開閉弁V2が設けられている。Hガスは、水素ガス供給源24から出力され、流量制御器25にてその流量を制御されて、開閉弁V2の開閉によりプラズマ生成部60内への供給がオン・オフされる。Hガスは、プラズマ生成部60においてプラズマ化されて反応管3内に供給される。
【0021】
図示していないが、ガス配管を介してパージガス供給源からパージガスを供給するインジェクタを設けてもよい。ガス配管には、流量制御器及び開閉弁が設けられている。これにより、パージガスは、パージガス供給源からガス配管を介して、所定の流量で反応管3内に供給される。パージガスとしては、例えば窒素(N)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスを利用できる。なお、パージガスは、インジェクタ14,15の少なくとも1つから供給してもよい。本実施形態では、パージガスは、インジェクタ14,15から供給される。係る構成により、ガス供給部20は、プラズマ生成部60内にアンモニアガス、水素ガス及びパージガスを供給する。また、ガス供給部20は、反応管3内にジクロロシラン及びパージガスを供給する。処理ガスは、例えば成膜ガス、クリーニングガス、パージガスを含む。本実施形態において、成膜ガスは、窒化シリコン(SiN)膜を成膜するために用いられるガスであり、ジクロロシラン等のシリコン含有ガス、アンモニアガス及び水素ガスを含む。
【0022】
更に熱処理装置1は、排気部30、加熱部40、冷却部50、制御装置90等を有する。処理容器10内に供給される処理ガスは、ガス出口19を介して排気部30により排気される。ガス出口19は、マニホールド13に形成されている。排気部30は、排気装置31、排気配管32及び圧力制御器33を含む。排気装置31は、例えばドライポンプ、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプである。排気配管32は、ガス出口19と圧力制御器33と排気装置31とを接続する。圧力制御器33は、排気配管32に介設されており、排気配管32のコンダクタンスを調整することにより処理容器10内の圧力を制御する。圧力制御器33は、例えば自動圧力制御バルブである。
【0023】
加熱部40は、断熱材41、ヒータ42及び外皮43を含む。断熱材41は、略円筒形状を有し、外管12の周囲に設けられている。断熱材41は、シリカ及びアルミナを主成分として形成されている。ヒータ42は、発熱体の一例であり、断熱材41の内周に設けられている。ヒータ42は、処理容器10の高さ方向に複数のゾーンに分けて温度制御が可能なように処理容器10の側壁に線状又は面状に設けられている。外皮43は、断熱材41の外周を覆うように設けられている。外皮43は、断熱材41の形状を保持すると共に断熱材41を補強する。外皮43は、ステンレス鋼等の金属により形成されている。また、加熱部40の外部への熱影響を抑制するために、外皮43の外周に水冷ジャケット(図示せず)を設けてもよい。係る加熱部40は、ヒータ42に供給されるパワーによりヒータ42の発熱量が決まり、これにより、処理容器10内を所望の温度になるまで加熱する。
【0024】
冷却部50は、処理容器10に向けて冷却流体を供給し、処理容器10内のウエハWを冷却する。冷却流体は、例えば空気であってよい。冷却部50は、例えば熱処理の後にウエハWを急速降温させる際に処理容器10に向けて冷却流体を供給する。冷却部50は、流体流路51、吹出孔52、分配流路53、流量調整部54、排熱口55を有する。
【0025】
流体流路51は、断熱材41と外皮43との間に高さ方向に複数形成されている。流体流路51は、例えば断熱材41の外側に周方向に沿って形成された流路である。吹出孔52は、各流体流路51から断熱材41を貫通して形成されており、外管12と断熱材41との間の空間に冷却流体を吹き出す。
【0026】
分配流路53は、外皮43の外部に設けられており、冷却流体を各流体流路51に分配して供給する。流量調整部54は、分配流路53に介設されており、流体流路51に供給される冷却流体の流量を調整する。
【0027】
排熱口55は、複数の吹出孔52よりも上方に設けられており、外管12と断熱材41との間の空間に供給された冷却流体を熱処理装置1の外部に排出する。熱処理装置1の外部に排出された冷却流体は、例えば熱交換器により冷却されて再び分配流路53に供給される。ただし、熱処理装置1の外部に排出された冷却流体は、再利用されることなく排出されてもよい。
【0028】
制御装置90は、熱処理装置1の動作を制御する。制御装置90は、例えばコンピュータであってよい。熱処理装置1の全体の動作を行うコンピュータのプログラムは、記憶媒体に記憶されている。記憶媒体は、例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、フラッシュメモリ、DVD等であってよい。
【0029】
[プラズマ生成部及び電極設置部]
反応管3の側壁の一部には、プラズマ生成部60が形成されている。プラズマ生成部60は、反応管3に設けられた開口81を介して反応管3に連通する。プラズマ生成部60及び電極設置部の構成の一例について、図1に加え、図2及び図3を参照しながら説明する。図2は、実施形態に係る電極設置部70の一例を示す断面模式図であり、図3のB-B断面及び整合回路27、RF電源28、直流電源63を示す。図3は、図1のA-A断面を示す図である。
【0030】
図1図3に示すように、プラズマ生成部60は、反応管3の側壁の一部に反応管3の長手方向(垂直方向)に沿って設けられ、ガスからプラズマを生成する。図3を参照すると、プラズマ生成部60は、反応管3の長手方向に沿って反応管3から矩形状に突出するプラズマ区画壁60a(図4参照)を有する。プラズマ区画壁60aは、反応管3に溶接され、プラズマ生成部60の内部空間は開口81(図1図3参照)を介して反応管3に連通している。
【0031】
図3に示すように、反応管3内にはシリコンプリカーサー(例えばジクロロシラン SiHCl)供給用のインジェクタ14が設置される。ガス供給部20の原料ガス供給源21は、垂直方向に複数形成されたガス孔14aから反応管3内にジクロロシランガスを供給する。
【0032】
プラズマ生成部60の内部には、NHガス及びHガス供給用のインジェクタ15が設置される。ガス供給部20のアンモニアガス供給源23は、垂直方向に複数形成されたガス孔15aからプラズマ生成部60内にNHガスを供給し、水素ガス供給源24は、垂直方向に複数形成されたガス孔15aからプラズマ生成部60内にHガスを供給する。
【0033】
開口81に対向する反応管3の側壁下部には、反応管3内を真空排気するための排気口19(図1図3参照)が設けられ、インジェクタ14,15から供給されたガスを排気する。
【0034】
図3に示すように、電極設置部70は、プラズマ生成部60を挟むように設置され、内部に高周波電極26及びコイル61,62を有する。電極設置部70は、プラズマ生成部60のプラズマ区画壁60aのうち、対向するプラズマ区画壁60a1、60a2に隣接して設けられる。2枚で1対の高周波電極26はプラズマ生成部60を挟むようにプラズマ生成部60の両側の壁60a1、60a2に設置される。プラズマ生成部60は真空空間であり、電極設置部70は大気空間である。
【0035】
図2には、プラズマ生成部60の一方の電極設置部70に設けられた高周波電極26及びコイル61、62を示す。図2に示すように、高周波電極26は、対向するプラズマ区画壁60a1、60a2(以下、壁60a1、60a2ともいう。)の一方に沿って長手方向に延在している。高周波電極26は、他方の電極設置部70にて壁60a1、60a2の他方に沿って長手方向に延在している高周波電極26と一対となっている。コイル61、62は壁60a1、60a2に沿って巻回される(図4参照)。
【0036】
一対の高周波電極26は、整合回路27を介してRF電源28に接続され、RF電源28から高周波(RF)を供給される。プラズマ生成部60は、高周波の電力によりNHガスをプラズマ化してプラズマ生成部60内にて膜を窒化するための活性種を生成する。また、プラズマ生成部60は、高周波の電力によりHガスをプラズマ化してプラズマ生成部60内にて水素(H)ラジカルを生成する。
【0037】
コイル61、62は、高周波電極26と離間して設けられている。図2に示すように、コイル61、62は直流電源63に接続される。直流電源63は、コイル61、62に直流電流を供給する。
【0038】
図3に示すように、電極設置部70内には石英等の絶縁部材36が埋め込まれ、プラズマ区画壁60aの対向する壁60a1、60a2に沿って設けられた一対の高周波電極26とコイル61,62とを電気的に絶縁する。
【0039】
コイル61、62は、対向する壁60a1、60a2に沿って1以上巻回される。図4は、磁場印加用のコイル61、62の立体概略図である。2つのコイル61、62は、プラズマ生成部60の外側に巻かれる。反応管3から遠い方がコイル61であり、反応管3に近い方がコイル62である。図4に示すとおりコイル61とコイル62はプラズマ生成部60の下方で連結されており、全体として一体のコイルとなっている。これらのコイルに直流電源63を接続し、直流電源63から直流電流を供給する。また、RF電源28から高周波電極26に高周波を印加する。これにより、プラズマを生成するプラズマ生成部60の内部に磁場を印加する。コイル61とコイル62とが分離され、それぞれ個別に専用の直流電源に接続してもよい。図4ではコイル61、62は、壁60a1、60a2に沿って1ターン巻かれているが、コイル61、62は複数ターン巻かれてもよい。
【0040】
図5は、実施形態に係るコイル61,62がつくる磁場の発生予想図を示す。プラズマ生成部60におけるプラズマ密度を大きくし、必要な反応活性種の生成量の増大化を実現することで成膜時のプラズマ処理工程の時間を短縮できる。そこで、本実施形態では、プラズマ密度を大きくし、反応活性種の生成量を増大させるために、高周波電極26(平行平板電極)の近傍にコイル61、62を設置している。そして、コイル61、62に直流電流を流して磁場を発生させる。そして、発生させた磁場を、高周波によりNHガス及びHガスから生成したプラズマに作用させる。
【0041】
2つのコイル61、62により形成される磁場は、図5に矢印で示す磁場の向きと範囲を有する。図4及び5の例では、直流電流は、手前側のコイル61、62を下から上へ流れ、上部で奥側へ流れ、奥側のコイル61、62を上から下へ流れる。これにより、図5に示す磁場が生成される。ただし、直流電流の向きは逆でもよい。プラズマP中の電子は磁場の影響を受けて円運動(サイクロトロン運動)する。これにより、プラズマP中の中性粒子に電子が当たる回数(衝突周波数)を増やすことができる。これにより、高周波電極26に同じパワーの高周波を供給した場合であっても磁場が形成されている本実施形態では、磁場が形成されていない場合と比べてプラズマPの密度を高くすることができる。
【0042】
図5に示すa点、b点およびc点は、プラズマ生成部60の中央部(壁60a1、60a2から略同一距離)に位置する。a点は高周波電極26直下の領域よりインジェクタ15側に位置する点で、図5に示す手前と奥のコイル61を繋ぐラインの中間に位置し、コイル61がつくる磁場の影響を受ける。b点は高周波電極26直下の領域より反応管3側に位置する点で、手前と奥のコイル62を繋ぐラインの中間に位置し、コイル62がつくる磁場の影響を受ける。c点は高周波電極26直下の領域、すなわち、高周波電極26間の中央に位置し、コイル61およびコイル62がつくる合成された磁場が基板W側からインジェクタ15側に向かって発生する。c点での磁場はa点やb点の磁場に比べて小さく、磁場印加の効果が小さい領域である。
【0043】
コイル61とコイル62、または、コイル62のみを設置し、コイルに直流電流を流して発生する磁場をプラズマに印加してプラズマ密度を増加させる。それぞれのコイルの巻き数は1回から10回程度である。コイルに供給する直流電流は1Aから10A程度である。コイル61,62のいずれかのみ設置してもよい。ただし、コイル61,62のいずれかを設置する場合、基板Wから遠い方のコイル61よりも基板Wに近い方のコイル62を設置することが好ましい。
【0044】
コイル61、62はヒータ42が配置された処理容器10内に設置されるため、耐熱性が高く導電率が大きい金属材料が使用される。導電率が大きい材料を用いることで大きな磁場を発生させることができる。
【0045】
磁束密度Bの磁場中の電子(質量m,電荷e)は、磁場に垂直な平面内で一定の角速度(角周波数)ω=eB/mで旋回(サイクロトロン)運動をおこなう。ωをサイクロトロン周波数とよび、これに等しい角周波数の電磁波を共鳴吸収する。この現象は電子サイクロトロン共鳴(ECR:Electron Cyclotron Resonance)とよばれる。
【0046】
サイクロトロン周波数ωが高周波周波数ωに等しいとき、電子の速度は時間に正比例し、電子は時間とともに加速される。電子は、高周波電極がつくる電界によりエネルギーを吸収し続けることから、この条件が電子サイクロトロン共鳴となる。
【0047】
たとえば、RF電源28から出力されるプラズマ生成用の高周波の周波数を13.56MHzした場合、b点におけるプラズマ中の電子のサイクロトロン周波数をω[rad/s]する。ω/2π=f[s-1]がRF電源28の周波数である13.56MHzと一致する磁束密度は0.48mTである。コイル62のみを設置し、b点における磁束密度を0.48mTにするには、コイル62の巻き数を5回、電流を5A程度流す必要がある。
【0048】
コイル61、62に流す電流は、制御装置90により0A~10Aの範囲で任意に設定でき、プラズマの生成条件に対応して最適な磁場が印加できるようにする。コイル61、62の電流の大きさは、本実施形態の成膜方法において使用される成膜用のレシピの中で設定可能なプロセスパラメータの一つとして設定可能である。
【0049】
コイルは、電極設置部70の内部に1以上設置され、最大2つ設けられることができる。ただし、これに限られず、コイルは、インジェクタ15が設置されるプラズマ区画壁60aの壁60a3に沿ってプラズマ生成部60の外側に取り付けられてもよい。図6は、壁60a3に沿ってプラズマ生成部60の外側にコイル64を形成した例を示す。この場合、コイル61、62、64の3つが設けられてもよいし、コイル61、62、64の少なくとも1つが設けられてもよい。
【0050】
また、本実施形態では、図4に示すように、一巻のコイル61、62を並べて配置したが、これに限られず、コイル61、62のそれぞれを上下に2つに分けて、上部のコイル61、62と下部のコイル61、62を別々に設けてもよい。
【0051】
プラズマ生成部60の中央のRF電源28が対向する位置においてプラズマの密度が最も高くなることが好ましい。そこで、図6に示すように、プラズマ生成部60の壁60a1、60a2の高周波電極26の両側に凹みを設け、凹みにコイル61、62を配置してもよい。これにより、プラズマ生成部60の中央のRF電源28が対向する位置により近接してコイル61、62を設けることができる。これにより、プラズマ生成部60の中央付近に強い磁場を形成し、更にプラズマ密度を高めることができる。
【0052】
[成膜方法]
以上に説明したバッチ式のプラズマ処理装置である熱処理装置1に基板Wを投入し、成膜する方法について説明する。本実施形態では、窒化シリコン膜(以下「SiN膜」と記す。)のALD(Atomic layer deposition)法による成膜工程を行う。ただし、成膜方法はALD法による成膜に限らない。例えば、CVD法による成膜に適用することができる。
【0053】
成膜工程時に熱処理装置1の処理容器10の内壁等に堆積したSiN膜の累積膜厚が予め設定された閾値を超えると、SiN膜が剥がれて累積膜厚に比例して基板上に発生するパーティクル量が増加する。例えば、反応管3内を500℃~600℃に保持し、プラズマを用いてALD法によりSiN膜を成膜する場合、累積膜厚が1.0μm前後でパーティクル増加量の管理値を超える場合がある。
【0054】
基板上に発生するパーティクル量が管理値を超えないように、予め決められた累積膜厚に達した時点で、熱処理装置1の処理容器10の内壁に成膜されたSiN膜はドライクリーニングにより除去される。その後、再び決められた累積膜厚に達するまで、SiN膜のALD法による成膜工程が繰り返し実施される。処理容器10のドライクリーニングから次のドライクリーニングまでの期間を「ドライクリーニングサイクル」と呼び、通常その長さを累積膜厚(μm)であらわす。近年、熱処理装置1の稼働率の向上のためにドライクリーニングサイクルの延長が重要課題の一つとなっている。
【0055】
熱処理装置1におけるALD法によるSiN膜の成膜の場合、基板上に発生するパーティクルは主に基板近傍に設置されたプラズマ生成部60から発生するものが多い。プラズマ生成部60に成膜されたSiN膜が、プラズマの作用によってその一部が剥がれて微小なパーティクルとして基板Wの表面に付着すると考えられる。
【0056】
基板W上に発生するパーティクルを減少させる方法はいくつかあるが、有効な方法の一つとして、成膜されるSiN膜中に発生する応力を制御する方法がある。この場合、SiN膜中に発生する応力を制御するために、ALDシーケンス(ALDサイクル)中に水素ラジカルパージ工程(Hydrogen radical purge,HRP)を追加する。
【0057】
しかし、HRP工程を追加するとALDサイクル時間が長くなり、生産性が低下するという課題が生じる。そこで、生産性と膜応力制御を両立させるために、言い換えると、ALDサイクル時間を短縮しつつHRPの効果を維持、向上させるために、プラズマ密度を大きくし、必要な反応活性種の生成量を増大化させることが可能な熱処理装置1を使用して成膜を行う。
【0058】
熱処理装置1を使用したSiN膜のALDサイクルは、(1)プラズマアシストを使用したアンモニアガスのプラズマによる窒化、(2)真空パージ、(3)シリコンプリカーサーのフロー、(4)真空パージ、(5)HRPの順に(1)~(5)工程を繰り返す。なお、(3)シリコンプリカーサーのフローの一例としては、例えばジクロロシランガスを反応管3内に流し、熱反応を生じさせる。(3)ではプラズマは使用しない。
【0059】
生産性を向上させるためには、(1)及び(5)のプラズマを使用する工程の時間を短縮することが有効である。そのために、プラズマ生成部60におけるプラズマ密度を大きくし、必要な反応活性種の生成量を増大させる。必要な反応活性種の生成量を増大させるために単純に印加する高周波電力を増大させると、それに比例してパーティクルの発生量が増加することが知られている。したがって本実施形態に係る熱処理装置1では、高周波電力を増大させる方法ではなく、生成させた容量結合のプラズマPに直流磁場を印加することで生産性向上の目的を達成させる。以下、本実施形態に係る成膜方法について、図7を参照しながら説明する。図7は、実施形態に係る成膜方法の一例を示すフローチャートである。図7の成膜方法は、制御装置90により制御される。
【0060】
本処理が開始されると、制御装置90は、コイル61、62に直流電流を供給し、プラズマ生成部60に磁場を発生させる。また、インジェクタ15からNHガスを供給し、高周波電極26に高周波電力を印加する。これにより、高周波電力によりNHガスからプラズマを生成する。これにより、反応管3内では、プラズマ生成部60から送り込まれたNHガスのプラズマに基板Wを曝露し、基板W上の膜を窒化させる窒化工程が実行される(工程S1)。なお、窒素含有ガスはNHガスに限られず、Nガス等であってもよい。
【0061】
次に、制御装置90は、インジェクタ14、15からArガス等の不活性ガスを供給し、排気装置31により反応管3内を排気し、真空パージ工程を実行する(工程S3)。
【0062】
次に、制御装置90は、インジェクタ14からSiHClガスを反応管3内に流し、熱反応を生じさせる(工程S5)。このときプラズマは使用しない。これにより、基板Wを、シリコンを含む成膜ガスに暴露し、SiN膜を成膜する。次に、制御装置90は、インジェクタ14、15からArガス等の不活性ガスを供給し、排気装置31により反応管3内を排気し、真空パージ工程を実行する(工程S7)。
【0063】
次に、制御装置90は、コイル61、62に直流電流を供給し、プラズマ生成部60に磁場を発生させる。また、インジェクタ15からHガスを供給し、高周波電極26に高周波電力を印加する。これにより、高周波電力によりHガスからプラズマを生成し、生成されたHガスのプラズマに基板Wを曝露する(工程S9)。これにより、水素ラジカルパージ(HRP)工程を実行する。これにより、成膜されたSiN膜中に発生する応力を制御する。この結果、膜中の応力の制御により基板W上に発生するパーティクルを減少させることができる。
【0064】
次に、制御装置90は、インジェクタ14、15からArガス等の不活性ガスを供給し、排気装置31により反応管3内を排気し、真空パージ工程を実行する(工程S11)。なお、工程S11は省略してもよい。
【0065】
次に、制御装置90は、予め定められた所定回数繰り返したかを判定する(工程S13)。制御装置90は、所定回数繰り返していないと判定すると、工程S1に戻り、工程S1~S11の工程をこの順で繰り返す。制御装置90は、工程S13において所定回数繰り返したと判定すると、本処理を終了する。
【0066】
本実施形態に係る成膜方法によれば、工程S1及び工程S9にてプラズマを生成する。このとき、プラズマ生成部60に沿って配置された電極設置部70に設けられる高周波電極26に高周波電力を供給し、電極設置部70に設けられたコイル61、62に直流電流を供給する。
【0067】
これにより、成膜性能を維持したまま、工程S1の時間(窒化時間)を約10~20%短縮し、工程S9の時間(HRP時間)を約10~30%短縮することができる。成膜性能とは、膜質、膜厚均一性、ALDサイクルレート(工程S1~S11の1サイクルで生成される膜の厚さ)をいう。
【0068】
また、本実施形態ではコイル61、62を配置した熱処理装置1を使用する。これにより、コイル61、62を配置しない熱処理装置と比較してドライクリーニングサイクルの時間を、1.5倍程度まで長くすることができる。その結果、熱処理装置1の稼働率を上昇させることができる。また、品質管理のための工数や材料コストの削減が可能となる。
【0069】
以上に説明したように、本実施形態のプラズマ処理装置及び成膜方法によれば、プラズマ生成部60にて生成するプラズマ密度を高めることができる。また、成膜方法においてパーティクルの発生を抑制しながら、生産性を向上させることができる。例えば、ALD法による本実施形態の成膜方法において使用される成膜用のレシピの時間(ALDサイクル時間)の範囲内で、NHガスのプラズマによる窒化時間及びHガスのプラズマによるHRP時間を短縮できる。これにより、生産性を向上させつつ、成膜されるSiN膜中に発生する応力を最適化することでパーティクルの発生を抑制できる。これにより、ドライクリーニングサイクルを現状の1.5倍程度まで長くできる。
【0070】
今回開示された実施形態に係るプラズマ処理装置及び成膜方法は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0071】
本成膜方法はSiN膜の成膜に限られず、他の成膜時にも使用できる。また、例えば、本成膜方法は所望膜の表面処理にも使用でき、膜の表面状態を変えることができる。例えば、酸化シリコン膜(SiO)が成膜された基板Wをプラズマ処理装置に搬入して、NHガスのプラズマを生成し、基板Wをプラズマ処理すると、酸化シリコン膜の表面が窒化する。実施形態に係るプラズマ処理装置によれば、NHガスのプラズマの密度を高めることができ、これにより、表面処理の時間を短縮できる。
【符号の説明】
【0072】
1 熱処理装置
3 反応管
10 処理容器
14、15 インジェクタ
20 ガス供給部
26 高周波電極
40 加熱部
42 ヒータ
50 冷却部
60 プラズマ生成部
61,62 コイル
70 電極設置部
90 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7