IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京エレクトロン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-成膜方法及び成膜装置 図1
  • 特許-成膜方法及び成膜装置 図2
  • 特許-成膜方法及び成膜装置 図3
  • 特許-成膜方法及び成膜装置 図4
  • 特許-成膜方法及び成膜装置 図5
  • 特許-成膜方法及び成膜装置 図6
  • 特許-成膜方法及び成膜装置 図7
  • 特許-成膜方法及び成膜装置 図8
  • 特許-成膜方法及び成膜装置 図9
  • 特許-成膜方法及び成膜装置 図10
  • 特許-成膜方法及び成膜装置 図11
  • 特許-成膜方法及び成膜装置 図12
  • 特許-成膜方法及び成膜装置 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-16
(45)【発行日】2025-09-25
(54)【発明の名称】成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/31 20060101AFI20250917BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20250917BHJP
   H01L 21/312 20060101ALI20250917BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20250917BHJP
   H01L 23/532 20060101ALI20250917BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20250917BHJP
   C23C 16/22 20060101ALI20250917BHJP
【FI】
H01L21/31 C
H01L21/316 X
H01L21/312 A
H01L21/90 L
C23C28/00 E
C23C16/22
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022001109
(22)【出願日】2022-01-06
(65)【公開番号】P2023100428
(43)【公開日】2023-07-19
【審査請求日】2024-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】臼杵 亨
(72)【発明者】
【氏名】布瀬 暁志
(72)【発明者】
【氏名】東雲 秀司
(72)【発明者】
【氏名】河野 有美子
(72)【発明者】
【氏名】中川 智裕
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-529513(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0198318(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0082802(US,A1)
【文献】特表2019-515493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
H01L 21/316
H01L 21/312
H01L 21/768
C23C 28/00
C23C 16/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)第1膜と、前記第1膜とは異なる材料で形成される第2膜とを表面の異なる領域に有する基板を準備することと、
(B)前記基板の表面に対してプラズマ化した改質ガスを供給することで、前記基板の表面を改質することと、
(C)前記(B)の後に、前記第1膜の表面に対して前記第2膜の表面に選択的に自己組織化単分子膜を形成することと、
を有し、
前記(B)で用いられる前記改質ガスは、水素と酸素を含むか、又は水素と窒素を含み、
前記(C)は、(Ca)前記基板を処理容器に収容し且つ前記処理容器内を減圧した状態で、前記処理容器内に前記自己組織化単分子膜の前駆体であるカルボン酸のガスを供給することと、(Cb)前記処理容器内への前記カルボン酸のガスの供給を停止した状態または前記(Ca)に比べて前記カルボン酸のガスの供給流量を減らした状態を設定時間維持することと、を含む、成膜方法。
【請求項2】
前記(Cb)の前記設定時間は、5分~1時間である、請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記(Cb)は、前記処理容器内への全てのガスの供給を停止した状態を前記設定時間維持することを含む、請求項1または2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記(Cb)における前記処理容器内の圧力は、前記(Ca)における前記処理容器内の圧力よりも低い、請求項1~3のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記(Cb)における前記処理容器内の圧力は、10Pa~100Paである、請求項1~4のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項6】
前記(Ca)における前記処理容器内の圧力は、100Pa~300Paである、請求項1~5のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項7】
前記(Ca)で用いられる前記カルボン酸は、CF(CFCOOH、CFCOOH、CCOOH、及びCH(CHCOOH(nは2~10の整数)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項8】
前記(C)は、前記(Ca)と前記(Cb)を繰り返し実施することを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項9】
前記(B)で用いられる前記改質ガスは、HOガス、HとOの混合ガス、又はHとOの混合ガスである、請求項1~8のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項10】
前記(B)で用いられる前記ガスは、HとNの混合ガス、又はNHガスである、請求項1~8のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項11】
前記(B)と前記(C)を繰り返し実施することを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項12】
前記第1膜は絶縁膜であり、前記第2膜は導電膜である、請求項1~11のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項13】
前記導電膜は、Cu膜、Co膜、Ru膜、又はW膜である、請求項12に記載の成膜方法。
【請求項14】
(D)前記(B)の前に、前記基板の表面を洗浄することを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項15】
前記(D)は、前記基板の表面に対して、プラズマ化した還元性ガスを供給することを含む、請求項14に記載の成膜方法。
【請求項16】
(E)前記(C)の後に、前記自己組織化単分子膜を用いて前記第2膜の表面における対象膜の形成を阻害しつつ、前記第1膜の表面に前記対象膜を形成することを含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項17】
処理容器と、
前記処理容器の内部で前記基板を保持する保持部と、
前記処理容器の内部にガスを供給するガス供給機構と、
前記処理容器の内部からガスを排出するガス排出機構と、
前記処理容器に対して前記基板を搬入出する搬送機構と、
前記ガス供給機構、前記ガス排出機構及び前記搬送機構を制御し、請求項1~16のいずれか1項に記載の成膜方法を実施する制御部と、
を備える、成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer:SAM)を用いて基板表面の一部における対象膜の形成を阻害しつつ、基板表面の別の一部に対象膜を形成する成膜方法が記載されている。特許文献1に記載の成膜方法は、基板表面をSAMの前駆体に曝すことと、基板表面をOH基の前駆体に曝すこととを、繰り返す。SAMの前駆体は、カルボン酸を含む。OH基の前駆体は、水蒸気を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2019-512877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一態様は、SAMの密度を向上する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様の成膜方法は、下記(A)~(C)を含む。(A)第1膜と、前記第1膜とは異なる材料で形成される第2膜とを表面の異なる領域に有する基板を準備する。(B)前記基板の表面に対してプラズマ化した改質ガスを供給することで、前記基板の表面を改質する。(C)前記(B)の後に、前記第1膜の表面に対して前記第2膜の表面に選択的に自己組織化単分子膜を形成する。前記(B)で用いられる前記改質ガスは、水素と酸素を含むか、又は水素と窒素を含む。前記(C)は、(Ca)前記基板を処理容器に収容し且つ前記処理容器内を減圧した状態で、前記処理容器内に前記自己組織化単分子膜の前駆体であるカルボン酸のガスを供給することと、(Cb)前記処理容器内への前記カルボン酸のガスの供給を停止した状態または前記(Ca)に比べて前記カルボン酸のガスの供給流量を減らした状態を設定時間維持することと、を含む。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、SAMの密度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、一実施形態に係る成膜方法を示すフローチャートである。
図2図2(A)はステップS1の一例を示す図であり、図2(B)はステップS3の一例を示す図であり、図2(C)はステップS4の一例を示す図であり、図2(D)はステップS6の一例を示す図である。
図3図3は、ステップS4のサブルーチンの一例を示すフローチャートである。
図4図4は、ステップS6のサブルーチンの一例を示すフローチャートである。
図5図5(A)はステップS3の変形例を示す図であり、図5(B)はステップS4の変形例を示す図であり、図5(C)はステップS6の変形例を示す図である。
図6図6は、一実施形態に係る成膜装置を示す平面図である。
図7図7は、図6の第1処理部の一例を示す断面図である。
図8図8は、例1~例3で得られた基板表面の水接触角と、PFBAガスの供給停止時間との関係を示す図である。
図9図9は、例1で得られた基板表面のXPSスペクトルのFのピークと、PFBAガスの供給停止時間との関係を示す図である。
図10図10は、例1で得られた基板表面のXPSスペクトルから求めたFとRuの原子比と、PFBAガスの供給停止時間との関係を示す図である。
図11図11は、例4~例6で得られた基板表面の水接触角と、PFBAガスの供給停止時間との関係を示す図である。
図12図12は、例7~例13で得られた基板表面の水接触角を示す図である。
図13図13は、例14~例20で得られた基板表面の水接触角を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0009】
図1図4を参照して、一実施形態に係る成膜方法について説明する。成膜方法は、例えば図1に示すステップS1~S6を含む。なお、成膜方法は、少なくともステップS1、S3及びS4を含めばよく、例えばステップS2、S5及びS6を含まなくてもよい。また、成膜方法は、図1に示すステップS1~S6以外のステップを含んでもよい。
【0010】
図1のステップS1は、図2(A)に示すように、基板1を準備することを含む。基板1は、不図示の下地基板を有する。下地基板は、例えば、シリコンウェハ、化合物半導体ウェハ、又はガラス基板である。
【0011】
基板1は、基板表面1aの異なる領域に、絶縁膜11と導電膜12を有する。基板表面1aは、例えば基板1の上面である。絶縁膜11と導電膜12は、下地基板の上に形成される。下地基板と絶縁膜11との間、または下地基板と導電膜12との間には、別の機能膜が形成されてもよい。絶縁膜11は第1膜の一例であり、導電膜12は第2膜の一例である。なお、第1膜の材質と第2膜の材質は、特に限定されない。
【0012】
絶縁膜11は、例えば層間絶縁膜である。層間絶縁膜は、好ましくは低誘電率(Low-k)膜である。絶縁膜11は、特に限定されないが、例えばSiO膜、SiN膜、SiOC膜、SiON膜、又はSiOCN膜である。ここで、SiO膜とは、シリコン(Si)と酸素(O)を含む膜という意味である。SiO膜におけるSiとOの原子比は1:1には限定されない。SiN膜、SiOC膜、SiON膜、及びSiOCN膜について同様である。絶縁膜11は、基板表面1aに凹部を有する。凹部は、トレンチ、コンタクトホール又はビアホールである。
【0013】
導電膜12は、例えば絶縁膜11の凹部に充填される。導電膜12は、例えば金属膜である。金属膜は、例えば、Cu膜、Co膜、Ru膜、又はW膜である。なお、導電膜12は、キャップ膜であってもよい。つまり、絶縁膜11の凹部には不図示の第2導電膜が埋め込まれ、第2導電膜を導電膜12が覆ってもよい。第2導電膜は、導電膜12とは異なる金属で形成される。
【0014】
基板1は、図示しないが、基板表面1aに第3膜をさらに有してもよい。第3膜は、例えばバリア膜である。バリア膜は、絶縁膜11と導電膜12の間に形成され、導電膜12から絶縁膜11への金属拡散を抑制する。バリア膜は、特に限定されないが、例えば、TaN膜、又はTiN膜である。ここで、TaN膜とは、タンタル(Ta)と窒素(N)を含む膜という意味である。TaN膜におけるTaとNの原子比は1:1には限定されない。TiN膜について同様である。
【0015】
基板1は、図示しないが、基板表面1aに第4膜をさらに有してもよい。第4膜は、例えばライナー膜である。ライナー膜は、導電膜12とバリア膜の間に形成される。ライナー膜は、バリア膜の上に形成され、導電膜12の形成を支援する。導電膜12は、ライナー膜の上に形成される。ライナー膜は、特に限定されないが、例えば、Co膜、又はRu膜である。
【0016】
図1のステップS2は、基板表面1aを洗浄することを含む。基板表面1aに存在する不図示の汚染物を除去できる。汚染物は、例えば金属酸化物と有機物の少なくとも1つを含む。金属酸化物は、例えば導電膜12と大気との反応によって形成される酸化物であり、いわゆる自然酸化膜である。有機物は、例えば炭素を含む堆積物であり、基板1の処理過程で付着する。基板表面1aの洗浄は、ドライ処理と、ウエット処理のいずれでもよい。
【0017】
例えば、ステップS2は、基板表面1aに対して洗浄ガスを供給することを含む。洗浄ガスは、汚染物の除去効率を向上すべく、プラズマ化してもよい。洗浄ガスは、例えばHガスなどの還元性ガスを含む。還元性ガスは、金属酸化物と有機物の両方を除去可能である。
【0018】
ステップS2の処理条件の一例を下記に示す。
ガスの流量:200sccm~10000sccm
Arガスの流量:20sccm~2000sccm
プラズマ生成用の電源周波数:400kHz~40MHz
プラズマ生成用の電力:50W~1000W
処理時間:10秒~10分
処理温度(基板温度):100℃~250℃
処理圧力:100Pa~2000Pa。
【0019】
図1のステップS3は、図2(B)に示すように、基板表面1aを改質する。例えば、ステップS3は、基板表面1aに対してプラズマ化した改質ガスを供給することで、基板表面1aを改質する。改質ガスは、水素と酸素を含むことで、導電膜12の表面にOH基を付与でき、後述するステップS4においてカルボキシ基(COOH基)との脱水縮合反応を生じさせることができる。改質ガスは、例えばHOガス、HとOの混合ガス、又はHとOの混合ガスである。
【0020】
ステップS3の処理条件の一例を下記に示す。
Oガスの流量:20sccm~1000sccm
Arガスの流量:0sccm~2000sccm
プラズマ生成用の電源周波数:400kHz~40MHz
プラズマ生成用の電力:50W~1000W
処理時間:10秒~10分
処理温度(基板温度):100℃~250℃
処理圧力:100Pa~2000Pa。
【0021】
図1のステップS4は、図2(C)に示すように、絶縁膜11の表面に対して導電膜12の表面に選択的にSAM17を形成することを含む。ステップS4は、図3に示すステップS41~S42を有する。ステップS41~S42は、処理容器(例えば図7の処理容器210)内に基板1を収容し、且つ処理容器内を減圧した状態で行われる。なお、ステップS41とステップS42の順番は逆でもよい。
【0022】
ステップS41は、処理容器内にSAM17の前駆体であるカルボン酸のガスを供給することを含む。カルボン酸は、カルボキシ基(COOH基)を含み、一般式「R-COOH」で表される。Rは、例えば、炭化水素基、又は炭化水素基の水素の少なくとも一部をフッ素に置換したものである。
【0023】
カルボン酸は、例えば、CF(CFCOOH、CFCOOH、CCOOH、及びCH(CHCOOH(nは2~10の整数)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。以下、CF(CFCOOHを、PFBA(Perfluorobutyric acid)とも記載する。
【0024】
カルボン酸は、絶縁膜11の表面に比べて、導電膜12の表面に化学吸着しやすい。本実施形態によれば、ステップS3で導電膜12の表面にOH基が付与されているので、OH基とCOOH基の脱水縮合反応が生じ、導電膜12の表面に選択的にSAM17が形成される。
【0025】
カルボン酸は、チオール系化合物に比べて、Ru膜表面に化学吸着しやすい。従って、導電膜12がRu膜である場合に、SAM17の密度を向上できる。また、カルボン酸は、チオール系化合物に比べて、高温耐性に優れたSAM17を形成できる。従って、後述するステップS6(対象膜の形成)の処理温度を高く設定することも可能である。
【0026】
ステップS42は、処理容器内へのカルボン酸のガスの供給を停止した状態を設定時間維持することを含む。処理容器内に残存するカルボン酸が、導電膜12の表面に化学吸着する。よって、SAM17の密度を向上できる。また、カルボン酸の使用効率を向上できる。設定時間は、例えば5分~1時間であり、好ましくは30分~60分である。
【0027】
なお、ステップS42は、処理容器内へのカルボン酸のガスの供給を停止した状態を設定時間維持する代わりに、ステップS41に比べてカルボン酸のガスの供給流量を減らした状態を設定時間維持することを含んでもよい。この場合も、SAM17の密度を向上できる。また、カルボン酸の使用効率を向上できる。
【0028】
ステップS42は、処理容器内への全てのガスの供給を停止した状態を設定時間維持することを含むことが好ましい。処理容器内に残存するカルボン酸が他のガスで希釈されてしまうのを抑制できる。よって、COOH基とOH基の脱水縮合反応を促進でき、SAM17の密度を向上できる。
【0029】
ステップS42における処理容器内の圧力は、ステップS41における処理容器内の圧力よりも低くてもよい。低い圧力で維持することにより、脱水縮合反応で生成したHOがSAM17に再付着して起きる逆反応を防ぐことができる。
ステップS42において、処理容器内の圧力を制御する圧力制御器(例えば図7の圧力制御器271)の圧力調整バルブの開度は、一定に維持される。
【0030】
ステップS43は、ステップS41~S42を設定回数実施したか否かをチェックすることを含む。実施回数が設定回数に達していない場合(ステップS43、NO)、SAM17の密度が不十分であるので、ステップS41~S42を再度実施する。一方、実施回数が設定回数に達している場合(ステップS43、YES)、SAM17の密度が十分であるので、今回の処理を終了する。
【0031】
ステップS43の設定回数は、1回でもよいが、複数回であることが好ましい。カルボン酸の供給と、その供給停止とを繰り返し実施することで、カルボン酸の供給を分散して実施でき、カルボン酸の使用効率をより向上できる。ステップS43の設定回数は、例えば2~15である。
【0032】
ステップS4の処理条件の一例を下記に示す。
・ステップS41
PFBAガスの流量:10sccm~100sccm
処理時間:30秒~10分
処理圧力:100Pa~300Pa
・ステップS42
処理時間:5分~1時間
処理圧力:10Pa~100Pa
・ステップS41~S42に共通の処理条件
処理温度:100℃~250℃。
【0033】
図1のステップS5は、ステップS3~S4を設定回数実施したか否かをチェックすることを含む。実施回数が設定回数に達していない場合(ステップS5、NO)、SAM17の密度が不十分であるので、ステップS3~S4を再度実施する。一方、実施回数が設定回数に達している場合(ステップS5、YES)、SAM17の密度が十分であるので、今回の処理を終了する。
【0034】
ステップS5の設定回数は、1回でもよいが、複数回であることが好ましい。ステップS3とステップS4を繰り返し実施することで、カルボン酸の供給の途中でOH基を導電膜12の表面に補充でき、カルボン酸のCOOH基とOH基の脱水縮合反応を促進できる。ステップS5の設定回数は、例えば2~15である。
【0035】
図1のステップS6は、図2(D)に示すように、SAM17を用い導電膜12の表面における対象膜18の形成を阻害しつつ、絶縁膜11の表面に対象膜18を形成することを含む。対象膜18は、例えば絶縁膜であり、絶縁膜11の上に形成される。本実施形態によれば、SAM17の密度が高いので、SAM17のブロック性能が良い。
【0036】
対象膜18は、特に限定されないが、例えばAlO膜、SiO膜、SiN膜、ZrO膜、又はHfO膜等である。ここで、AlO膜とは、アルミニウム(Al)と酸素(O)を含む膜という意味である。AlO膜におけるAlとOの原子比は1:1には限定されない。SiO膜、SiN膜、ZrO膜、及びHfO膜について同様である。対象膜18は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、又はALD(Atomoic Layer Deposition)法で形成される。
【0037】
AlO膜をALD法で形成する場合、TMA(トリメチルアルミニウム)ガスなどのAl含有ガスと、水蒸気(HOガス)などの酸化ガスとが、基板表面1aに対して交互に供給される。AlO膜の成膜方法は、例えば図4に示すステップS61~S65を含む。
【0038】
ステップS61は、基板表面1aに対してAl含有ガスを供給することを含む。ステップS62は、基板表面1aに対してArガス等の不活性ガスを供給し、基板表面1aに吸着しなかった余剰のAl含有ガスをパージすることを含む。ステップS63は、基板表面1aに対して酸化ガスを供給することを含む。ステップS64は、基板表面1aに対してArガス等の不活性ガスを供給し、基板表面1aに吸着しなかった余剰の酸化ガスをパージすることを含む。なお、ステップS61とステップS63の順番は逆でもよい。
【0039】
ステップS65は、ステップS61~S64を設定回数実施したか否かをチェックすることを含む。実施回数が設定回数に達していない場合(ステップS65、NO)、ステップS61~S64を再度実施する。一方、実施回数が設定回数に達している場合(ステップS65、YES)、AlO膜の膜厚が目標膜厚に達しているので、今回の処理を終了する。ステップS65の設定回数は、AlO膜の目標膜厚に応じて設定されるが、例えば20回~80回である。
【0040】
ステップS6の処理条件の一例を下記に示す。
・ステップS61
TMAガスの流量:50sccm
処理時間:0.1秒~2秒
・ステップS62
Arガスの流量:1000sccm~8000sccm
処理時間:0.5秒~2秒
・ステップS63
Oガスの流量:50sccm~200sccm
処理時間:0.5秒~2秒
・ステップS64
Arガスの流量:1000sccm~8000sccm
処理時間:0.5秒~5秒
・ステップS61~S64に共通の処理条件
処理温度:100℃~250℃
処理圧力:133Pa~1200Pa。
【0041】
次に、図5を参照して、変形例に係る成膜方法について説明する。本変形例のステップS1~S2は、上記実施形態のステップS1~S2と同様であるので、説明を省略する。本変形例のステップS3は、図5(A)に示すように、基板表面1aを改質する。改質ガスは、水素と窒素を含むことで、導電膜12の表面にNH基を付与でき、後述するステップS4においてカルボキシ基(COOH基)との脱水縮合反応を生じさせることができる。改質ガスは、例えばHとNの混合ガス、又はNHガスである。
【0042】
ステップS3の処理条件の一例を下記に示す。
ガスの流量:100sccm~2000sccm
ガスの流量:100sccm~2000sccm
プラズマ生成用の電源周波数:40MHz
プラズマ生成用の電力:200W
処理時間:10秒~60秒
処理温度(基板温度):100℃~250℃
処理圧力:200Pa~2000Pa。
【0043】
本変形例のステップS4は、図5(B)に示すように、絶縁膜11の表面に対して導電膜12の表面に選択的にSAM17を形成することを含む。本変形例のステップS4は、NH基とCOOH基の脱水縮合反応を利用してSAM17を形成することを除き、上記実施形態のステップS4と同様であるので、説明を省略する。
【0044】
その後、ステップS5~S6が行われる。ステップS5は、上記実施形態のステップS5と同様であるので、説明を省略する。ステップS6は、図5(C)に示すように、SAM17を用い導電膜12の表面における対象膜18の形成を阻害しつつ、絶縁膜11の表面に対象膜18を形成することを含む。
【0045】
次に、図6を参照して、上記の成膜方法を実施する成膜装置100について説明する。図6に示すように、成膜装置100は、第1処理部200Aと、第2処理部200Bと、第3処理部200Cと、第4処理部200Dと、搬送部400と、制御部500とを有する。第1処理部200Aは、図1のステップS2を実施する。第2処理部200Bは、図1のステップS3を実施する。第3処理部200Cは、図1のステップS4を実施する。第4処理部200Dは、図1のステップS6を実施する。第1処理部200Aと、第2処理部200Bと、第3処理部200Cと、第4処理部200Dとは、同様の構造を有する。従って、第1処理部200Aのみで、図1のステップS2~S4及びS6の全てを実施することも可能である。搬送部400は、第1処理部200A、第2処理部200B、第3処理部200C及び第4処理部200Dに対して、基板1を搬送する。制御部500は、第1処理部200A、第2処理部200B、第3処理部200C、第4処理部200D及び搬送部400を制御する。
【0046】
搬送部400は、第1搬送室401と、第1搬送機構402とを有する。第1搬送室401の内部雰囲気は、大気雰囲気である。第1搬送室401の内部に、第1搬送機構402が設けられる。第1搬送機構402は、基板1を保持するアーム403を含み、レール404に沿って走行する。レール404は、キャリアCの配列方向に延びている。
【0047】
また、搬送部400は、第2搬送室411と、第2搬送機構412とを有する。第2搬送室411の内部雰囲気は、真空雰囲気である。第2搬送室411の内部に、第2搬送機構412が設けられる。第2搬送機構412は、基板1を保持するアーム413を含み、アーム413は、鉛直方向及び水平方向に移動可能に、且つ鉛直軸周りに回転可能に配置される。第2搬送室411には、異なるゲートバルブGを介して第1処理部200Aと第2処理部200Bと第3処理部200Cと第4処理部200Dとが接続される。
【0048】
更に、搬送部400は、第1搬送室401と第2搬送室411の間に、ロードロック室421を有する。ロードロック室421の内部雰囲気は、図示しない調圧機構により真空雰囲気と大気雰囲気との間で切り換えられる。これにより、第2搬送室411の内部を常に真空雰囲気に維持できる。また、第1搬送室401から第2搬送室411にガスが流れ込むのを抑制できる。第1搬送室401とロードロック室421の間、及び第2搬送室411とロードロック室421の間には、ゲートバルブGが設けられる。
【0049】
制御部500は、例えばコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)501と、メモリ等の記憶媒体502とを有する。記憶媒体502には、成膜装置100において実行される各種の処理を制御するプログラムが格納される。制御部500は、記憶媒体502に記憶されたプログラムをCPU501に実行させることにより、成膜装置100の動作を制御する。制御部500は、第1処理部200Aと第2処理部200Bと第3処理部200Cと第4処理部200Dと搬送部400とを制御し、上記の成膜方法を実施する。
【0050】
次に、成膜装置100の動作について説明する。先ず、第1搬送機構402が、キャリアCから基板1を取り出し、取り出した基板1をロードロック室421に搬送し、ロードロック室421から退出する。次に、ロードロック室421の内部雰囲気が大気雰囲気から真空雰囲気に切り換えられる。その後、第2搬送機構412が、ロードロック室421から基板1を取り出し、取り出した基板1を第1処理部200Aに搬送する。
【0051】
次に、第1処理部200Aが、ステップS2を実施する。その後、第2搬送機構412が、第1処理部200Aから基板1を取り出し、取り出した基板1を第2処理部200Bに搬送する。この間、基板1の周辺雰囲気を真空雰囲気に維持でき、基板1の酸化を抑制できる。
【0052】
次に、第2処理部200Bが、ステップS3を実施する。その後、第2搬送機構412が、第2処理部200Bから基板1を取り出し、取り出した基板1を第3処理部200Cに搬送する。この間、基板1の周辺雰囲気を真空雰囲気に維持できる。
【0053】
次に、第3処理部200Cが、ステップS4を実施する。続いて、制御部500は、ステップS3~S4を設定回数実施したか否かをチェックする。実施回数が設定回数に達していない場合、第2搬送機構412は、第3処理部200Cから基板1を取り出し、取り出した基板1を第2処理部200Bに搬送する。その後、制御部500は、第2処理部200Bと第3処理部200Cと搬送部400とを制御し、ステップS3~S4を実施する。
【0054】
一方、実施回数が設定回数に達している場合、第2搬送機構412が、第3処理部200Cから基板1を取り出し、取り出した基板1を第4処理部200Dに搬送する。この間、基板1の周辺雰囲気を真空雰囲気に維持でき、SAM17のブロック性能の低下を抑制できる。
【0055】
次に、第4処理部200Dが、ステップS6を実施する。その後、第2搬送機構412が、第4処理部200Dから基板1を取り出し、取り出した基板1をロードロック室421に搬送し、ロードロック室421から退出する。続いて、ロードロック室421の内部雰囲気が真空雰囲気から大気雰囲気に切り換えられる。その後、第1搬送機構402が、ロードロック室421から基板1を取り出し、取り出した基板1をキャリアCに収容する。そして、基板1の処理が終了する。
【0056】
次に、図7を参照して、第1処理部200Aについて説明する。なお、第2処理部200B、第3処理部200C及び第4処理部200Dは、第1処理部200Aと同様に構成されるので、図示及び説明を省略する。
【0057】
第1処理部200Aは、略円筒状の気密な処理容器210を備える。処理容器210の底壁の中央部には、排気室211が設けられている。排気室211は、下方に向けて突出する例えば略円筒状の形状を備える。排気室211には、例えば排気室211の側面において、排気配管212が接続されている。
【0058】
排気配管212には、圧力制御器271を介して排気源272が接続されている。圧力制御器271は、例えばバタフライバルブ等の圧力調整バルブを備える。排気配管212は、排気源272によって処理容器210内を減圧できるように構成されている。圧力制御器271と、排気源272とで、処理容器210内のガスを排出するガス排出機構270が構成される。
【0059】
処理容器210の側面には、搬送口215が設けられている。搬送口215は、ゲートバルブGによって開閉される。処理容器210内と第2搬送室411(図6参照)との間における基板1の搬入出は、搬送口215を介して行われる。
【0060】
処理容器210内には、基板1を保持する保持部であるステージ220が設けられている。ステージ220は、基板表面1aを上に向けて、基板1を水平に保持する。ステージ220は、平面視で略円形状に形成されており、支持部材221によって支持されている。ステージ220の表面には、例えば直径が300mmの基板1を載置するための略円形状の凹部222が形成されている。凹部222は、基板1の直径よりも僅かに大きい内径を有する。凹部222の深さは、例えば基板1の厚さと略同一に構成される。ステージ220は、例えば窒化アルミニウム(AlN)等のセラミックス材料により形成されている。また、ステージ220は、ニッケル(Ni)等の金属材料により形成されていてもよい。なお、凹部222の代わりにステージ220の表面の周縁部に基板1をガイドするガイドリングを設けてもよい。
【0061】
ステージ220には、例えば接地された下部電極223が埋設される。下部電極223の下方には、加熱機構224が埋設される。加熱機構224は、制御部500(図6参照)からの制御信号に基づいて電源部(図示せず)から給電されることによって、ステージ220に載置された基板1を設定温度に加熱する。ステージ220の全体が金属によって構成されている場合には、ステージ220の全体が下部電極として機能するので、下部電極223をステージ220に埋設しなくてよい。ステージ220には、ステージ220に載置された基板1を保持して昇降するための複数本(例えば3本)の昇降ピン231が設けられている。昇降ピン231の材料は、例えばアルミナ(Al)等のセラミックスや石英等であってよい。昇降ピン231の下端は、支持板232に取り付けられている。支持板232は、昇降軸233を介して処理容器210の外部に設けられた昇降機構234に接続されている。
【0062】
昇降機構234は、例えば排気室211の下部に設置されている。ベローズ235は、排気室211の下面に形成された昇降軸233用の開口部219と昇降機構234との間に設けられている。支持板232の形状は、ステージ220の支持部材221と干渉せずに昇降できる形状であってもよい。昇降ピン231は、昇降機構234によって、ステージ220の表面の上方と、ステージ220の表面の下方との間で、昇降自在に構成される。
【0063】
処理容器210の天壁217には、絶縁部材218を介してガス供給部240が設けられている。ガス供給部240は、上部電極を成しており、下部電極223に対向している。ガス供給部240には、整合器251を介して高周波電源252が接続されている。高周波電源252から上部電極(ガス供給部240)に400kHz~40MHzの高周波電力を供給することによって、上部電極(ガス供給部240)と下部電極223との間に高周波電界が生成され、容量結合プラズマが生成する。プラズマを生成するプラズマ生成部250は、整合器251と、高周波電源252と、を含む。なお、プラズマ生成部250は、容量結合プラズマに限らず、誘導結合プラズマなど他のプラズマを生成するものであってもよい。
【0064】
ガス供給部240は、中空状のガス供給室241を備える。ガス供給室241の下面には、処理容器210内へ処理ガスを分散供給するための多数の孔242が例えば均等に配置されている。ガス供給部240における例えばガス供給室241の上方には、加熱機構243が埋設されている。加熱機構243は、制御部500からの制御信号に基づいて電源部(図示せず)から給電されることによって、設定温度に加熱される。
【0065】
ガス供給室241には、ガス供給路261を介して、ガス供給機構260が接続される。ガス供給機構260は、ガス供給路261を介してガス供給室241に、図1のステップS2~S4及びS6の少なくとも1つで用いられるガスを供給する。ガス供給機構260は、図示しないが、ガスの種類毎に、個別配管と、個別配管の途中に設けられる開閉バルブと、個別配管の途中に設けられる流量制御器とを含む。開閉バルブが個別配管を開くと、供給源からガス供給路261にガスが供給される。その供給量は流量制御器によって制御される。一方、開閉バルブが個別配管を閉じると、供給源からガス供給路261へのガスの供給が停止される。
【0066】
[実験データ]
次に、実験データについて説明する。なお、水接触角は、株式会社ニックのLSE-ME3を用いて測定した。水接触角は、SAMの密度を表す。SAMは疎水性を有するので、水接触角が大きいほど、SAMの密度が高いと考えられる。
【0067】
<例1>
例1では、図1のステップS1、S3及びS4を実施した。ステップS1では、PVD(Physical Vapor Deposition)法で形成したRu膜を表面に有する基板を準備した。ステップS3では、基板表面に対してプラズマ化したHOガスを供給した。ステップS3の処理条件は、下記の通りであった。
Oガスの流量:100sccm
Arガスの流量:900sccm
プラズマ生成用の電源周波数:40MHz
プラズマ生成用の電力:200W
処理時間:1分
処理温度(基板温度):150℃
処理圧力:266Pa。
【0068】
ステップS4では、図3に示すステップS41とS42をこの順番で1回ずつ実施した。ステップS41では、処理容器内に基板を収容し且つ処理容器内を減圧した状態で、処理容器内にPFBAガスを供給した。ステップS41の処理条件は、下記の通りであった。
PFBAガスの流量:50sccm
処理時間:5分
処理温度:150℃
処理圧力:160Pa。
【0069】
ステップS42では、処理容器内へのPFBAガスの供給を停止した状態を設定時間維持した。設定時間は、10分(600秒)、20分(1200秒)、30分(1800秒)又は40分(2400秒)であった。ステップS42の処理条件は、下記の通りであった。
処理時間:10分、20分、30分、又は40分
処理温度:150℃
処理圧力:52Pa。
【0070】
なお、比較のため、ステップS42を実施することなくステップS41のみを実施する実験、つまりステップS42の設定時間をゼロにする実験も行った。
【0071】
<例2>
例2では、ステップS3を実施しなかった以外、例1と同じ条件で基板表面を処理した。
【0072】
<例3>
例3では、ステップS3においてプラズマ化したHOガスの代わりにプラズマ化したHガスを用いた以外、例1と同じ条件で基板表面を処理した。ステップS3の処理条件は、下記の通りであった。
ガスの流量:2000sccm
Arガスの流量:3000sccm
プラズマ生成用の電源周波数:40MHz
プラズマ生成用の電力:200W
処理時間:1分
処理温度(基板温度):150℃
処理圧力:266Pa。
【0073】
<例1~例3で得られた基板の評価>
図8に、例1~例3で得られた基板表面の水接触角と、PFBAガスの供給停止時間との関係を示す。図8から、プラズマ化したHOガスをRu膜表面に供給したうえで、Ru膜表面にPFBAガスを供給し、その後、PFBAガスの供給を5分(300秒)以上停止することで、水接触角が高くなり、SAMの密度が高くなることが分かる。
【0074】
図9に、例1で得られた基板表面のXPS(X線光電子分光法)スペクトルのFのピークと、PFBAガスの供給停止時間との関係を示す。図9において、tは、PFBAガスの供給停止時間を表す。図9において、「Initial」は、ステップS3及びS4を実施する前のRu膜表面のXPSスペクトルである。図9から、PFBAガスの供給停止時間が長いほど、Fのピークが高くなり、SAMの密度が高くなることが分かる。
【0075】
図10に、例1で得られた基板表面のXPS(X線光電子分光法)スペクトルから求めたFとRuの原子比と、PFBAガスの供給停止時間との関係を示す。図10において、横軸はPFBAガスの供給停止時間を表し、縦軸はFとRuの原子比(F/Ru)を表す。図10から、PFBAガスの供給停止時間が長いほど、FとRuの原子比が高くなり、SAMの密度が高くなることが分かる。
【0076】
表1に、例1~例3の評価結果をまとめて示す。
【0077】
【表1】
【0078】
<例4>
例4では、CVD法で形成したRu膜を表面に有する基板を準備した以外、例1と同じ条件で基板表面を処理した。
【0079】
<例5>
例5では、ステップS3を実施しなかった以外、例4と同じ条件で基板表面を処理した。
【0080】
<例6>
例6では、ステップS3においてプラズマ化したHOガスの代わりにプラズマ化したHガスを用いた以外、例4と同じ条件で基板表面を処理した。ステップS3の処理条件は、例3の処理条件と同じであった。
【0081】
<例4~例6で得られた基板の評価>
図11に、例4~例6で得られた基板表面の水接触角と、PFBAガスの供給停止時間との関係を示す。図11から、プラズマ化したHOガスをRu膜表面に供給したうえで、Ru膜表面にPFBAガスを供給し、その後、PFBAガスの供給を5分(300秒)以上停止することで、水接触角が高くなり、SAMの密度が高くなることが分かる。
【0082】
表2に、例4~例6の評価結果をまとめて示す。
【0083】
【表2】
【0084】
<例7~例13>
例7~例13では、ステップS3の有無とその処理条件以外、例1と同様に基板表面(つまり、PVD法で形成したRu膜表面)を処理した。ステップS3の有無、及びその処理条件は下記の通りであった。例7では、Hガスをプラズマ化した状態で基板表面に供給した。例8では、HガスとNガスを含む混合ガスをプラズマ化した状態で基板表面に供給した。例9では、Oガスをプラズマ化した状態で基板表面に供給した。例10では、ステップS3を実施しなかった。例11では、UV照射により生成したOガスをプラズマ化しない状態で基板表面に供給した。例12では、Oガスをプラズマ化しない状態で基板表面に供給した。例13では、HOガスをプラズマ化した状態で基板表面に供給した。
【0085】
図12に、例7~例13で得られた基板表面の水接触角を示す。図12から、Ru膜表面にPFBAガスを供給する前に、HOガスをプラズマ化した状態でRu膜表面に供給するか、又はHガスとNガスを含む混合ガスをプラズマ化した状態で基板表面に供給すれば、ステップS3を実施しない場合に比べて、水接触角が高くなり、SAMの密度が高くなることが分かる。
【0086】
<例14~例20>
例14~例20では、ステップS3の有無とその処理条件以外、例4と同様に基板表面(つまり、CVD法で形成したRu膜表面)を処理した。ステップS3の有無、及びその処理条件は下記の通りであった。例14では、Hガスをプラズマ化した状態で基板表面に供給した。例15では、HガスとNガスを含む混合ガスをプラズマ化した状態で基板表面に供給した。例16では、Oガスをプラズマ化した状態で基板表面に供給した。例17では、ステップS3を実施しなかった。例18では、UV照射により生成したOガスをプラズマ化しない状態で基板表面に供給した。例19では、Oガスをプラズマ化しない状態で基板表面に供給した。例20では、HOガスをプラズマ化した状態で基板表面に供給した。
【0087】
図13に、例14~例20で得られた基板表面の水接触角を示す。図13から、Ru膜表面にPFBAガスを供給する前に、HOガスをプラズマ化した状態でRu膜表面に供給するか、又はHガスとNガスを含む混合ガスをプラズマ化した状態で基板表面に供給すれば、ステップS3を実施しない場合に比べて、水接触角が高くなり、SAMの密度が高くなることが分かる。
【0088】
以上、本開示に係る成膜方法及び成膜装置の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0089】
1 基板
1a 基板表面
11 絶縁膜(第1膜)
12 導電膜(第2膜)
17 SAM(自己組織化単分子膜)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13