(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-18
(45)【発行日】2025-09-29
(54)【発明の名称】保護膜形成方法、及び、ウェーハの加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01L  21/301       20060101AFI20250919BHJP        
   H01L  21/461       20060101ALI20250919BHJP        
   B05D   1/40        20060101ALI20250919BHJP        
   B05D   3/10        20060101ALI20250919BHJP        
   B05D   1/36        20060101ALI20250919BHJP        
   H01L  21/304       20060101ALN20250919BHJP        
【FI】
H01L21/78 L 
H01L21/78 P 
H01L21/78 S 
H01L21/461 
B05D1/40 A 
B05D3/10 F 
B05D1/36 Z 
H01L21/304 643A 
(21)【出願番号】P 2021139717
(22)【出願日】2021-08-30
【審査請求日】2024-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100142804
【氏名又は名称】大上  寛
(72)【発明者】
【氏名】小田中  健太郎
【審査官】柴垣  俊男
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-060833(JP,A)      
【文献】特許第6861526(JP,B2)    
【文献】特開2001-102330(JP,A)      
【文献】特開2013-171937(JP,A)      
【文献】特開2015-225909(JP,A)      
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L    21/301
H01L    21/461
B05D      1/40
B05D      3/10
B05D      1/36
H01L    21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハに保護膜を形成する保護膜形成方法であって、
該ウェーハをスピンナテーブルで保持する保持ステップと、
該スピンナテーブルで保持された該ウェーハ上に水溶性樹脂を供給するとともに該スピンナテーブルを回転させ該水溶性樹脂でウェーハを被覆し、次いで該スピンナテーブルの回転を維持することでウェーハを被覆した該水溶性樹脂を乾燥させて第1保護膜層を形成する第1保護膜形成ステップと、
該第1保護膜形成ステップを実施した後、該スピンナテーブルで保持された該ウェーハを回転させつつウェーハ上に洗浄液を供給して少なくとも該第1保護膜層の上層を洗い流し、次いで該ウェーハを乾燥させる洗浄乾燥ステップと、
該洗浄乾燥ステップを実施した後、該スピンナテーブルで保持された該ウェーハ上に水溶性樹脂を供給するとともに該スピンナテーブルを回転させ該水溶性樹脂で該ウェーハを被覆して第2保護膜層が積層された保護膜を形成する第2保護膜形成ステップと、
を備えた保護膜形成方法。
【請求項2】
表面に交差する複数のストリートが設定され、該ストリートで区画された各領域にそれぞれデバイスが形成されたウェーハの加工方法であって、
ウェーハをスピンナテーブルで保持して該表面を露出させる保持ステップと、
該スピンナテーブルで保持された該ウェーハの該表面に水溶性樹脂を供給するとともに該スピンナテーブルを回転させ該水溶性樹脂でウェーハを被覆し第1保護膜層を形成する第1保護膜形成ステップと、
該第1保護膜形成ステップを実施した後、該スピンナテーブルで保持された該ウェーハを回転させつつ該ウェーハ上に洗浄液を供給して少なくとも該第1保護膜層の上層を洗い流し、次いで該ウェーハを乾燥させる洗浄乾燥ステップと、
該洗浄乾燥ステップを実施した後、該スピンナテーブルで保持された該ウェーハ上に水溶性樹脂を供給するとともに該スピンナテーブルを回転させ該水溶性樹脂で該ウェーハを被覆して第2保護膜層が積層された保護膜を形成する第2保護膜形成ステップと、
該第2保護膜形成ステップを実施した後、該ストリートに沿って該保護膜の少なくとも一部を除去する溝形成ステップと、
該溝形成ステップを実施した後、該ウェーハに該保護膜を介してプラズマエッチングを施すエッチングステップと、を備えたウェーハの加工方法。
【請求項3】
該エッチングステップを実施した後、該保護膜に洗浄液を供給して該保護膜を除去する保護膜除去ステップを備える、ことを特徴とする請求項2に記載のウェーハの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハに保護膜を形成する保護膜形成方法、及び、ウェーハの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に開示されるように、半導体ウェーハ等のウェーハの所定の領域にレーザーを照射するレーザーグルービング加工において、加工時に生じるデブリがウェーハの表面に付着することを防止するために、予めウェーハ上に水溶性樹脂からなる保護膜を形成し、保護膜上に付着したデブリを加工後に保護膜とともに洗い流すことが知られている。
【0003】
また、例えば、特許文献2に開示されるように、ウェーハのプラズマダイシングにおいて、ウェーハの表面に水溶性樹脂にて保護膜を形成して所定の領域にエッチングマスクを形成し、マスクがされていないストリートについてプラズマエッチングをすることが知られている。
【0004】
以上のように、ウェーハの表面に水溶性樹脂からなる保護膜剤にて保護膜を形成することが知られているが、保護膜に気泡が混入すると、気泡が混入した部分の保護膜の厚みは、他の領域よりも薄くなってしまう。
【0005】
レーザーグルービング加工においては、レーザー加工中に保護膜の薄い領域が局所的に剥離してしまうと、ウェーハの表面にデブリが付着する加工不良が生じることが懸念される。
【0006】
また、プラズマダイシングにおいては、保護膜の薄い領域がエッチングされてマスクがされず、本来マスクされるべき箇所が加工されてしまう加工不良が生じることが懸念される。
【0007】
以上に関連し、特許文献3では、水溶性樹脂からなる保護膜剤を脱気し、気泡の無い保護膜剤でウェーハに被覆するための被覆装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
               【文献】特開2006-140311号公報
               【文献】特開2016-207737号公報
               【文献】特開2020-068323号公報
             
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献3に開示されるように、脱気された保護膜剤が供給される場合であっても、吐出された保護膜剤がウェーハ上に供給されてウェーハ表面を被覆する過程で気泡が生じることがある。特に、ウェーハ表面に厚い保護膜を形成する場合には、形成された保護膜に気泡が混入する恐れが高くなる。
【0010】
例えば、ウェーハの表面に大きな凹凸が存在する場合に保護膜を形成する場合には、凹凸を埋めるために保護膜を厚く形成する必要がある。また、プラズマダイシングのマスクとして保護膜を形成する場合にも、十分な厚みを確保するために、保護膜を厚く形成する必要がある。このような場合には、特に、保護膜に気泡が混入し易く、対策が必要となる。
【0011】
本発明は以上の問題に鑑み、ウェーハ表面に形成される保護膜に気泡が混入することを考慮し、保護膜形成後の加工不良が生じることを防ぐための新規な技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0013】
本発明の一態様によれば、ウェーハに保護膜を形成する保護膜形成方法であって、該ウェーハをスピンナテーブルで保持する保持ステップと、該スピンナテーブルで保持された該ウェーハ上に水溶性樹脂を供給するとともに該スピンナテーブルを回転させ該水溶性樹脂でウェーハを被覆し、次いで該スピンナテーブルの回転を維持することでウェーハを被覆した該水溶性樹脂を乾燥させて第1保護膜層を形成する第1保護膜形成ステップと、該第1保護膜形成ステップを実施した後、該スピンナテーブルで保持された該ウェーハを回転させつつウェーハ上に洗浄液を供給して少なくとも該第1保護膜層の上層を洗い流し、次いで該ウェーハを乾燥させる洗浄乾燥ステップと、該洗浄乾燥ステップを実施した後、該スピンナテーブルで保持された該ウェーハ上に水溶性樹脂を供給するとともに該スピンナテーブルを回転させ該水溶性樹脂で該ウェーハを被覆して第2保護膜層が積層された保護膜を形成する第2保護膜形成ステップと、を備えた保護膜形成方法とする。
【0014】
また、本発明の一態様によれば、表面に交差する複数のストリートが設定され、該ストリートで区画された各領域にそれぞれデバイスが形成されたウェーハの加工方法であって、ウェーハをスピンナテーブルで保持して該表面を露出させる保持ステップと、該スピンナテーブルで保持された該ウェーハの該表面に水溶性樹脂を供給するとともに該スピンナテーブルを回転させ該水溶性樹脂でウェーハを被覆し第1保護膜層を形成する第1保護膜形成ステップと、該第1保護膜形成ステップを実施した後、該スピンナテーブルで保持された該ウェーハを回転させつつ該ウェーハ上に洗浄液を供給して少なくとも該第1保護膜層の上層を洗い流し、次いで該ウェーハを乾燥させる洗浄乾燥ステップと、該洗浄乾燥ステップを実施した後、該スピンナテーブルで保持された該ウェーハ上に水溶性樹脂を供給するとともに該スピンナテーブルを回転させ該水溶性樹脂で該ウェーハを被覆して第2保護膜層が積層された保護膜を形成する第2保護膜形成ステップと、該第2保護膜形成ステップを実施した後、該ストリートに沿って該保護膜の少なくとも一部を除去する溝形成ステップと、該溝形成ステップを実施した後、該ウェーハに該保護膜を介してプラズマエッチングを施すエッチングステップと、を備えたウェーハの加工方法とする。
【0015】
また、本発明の一態様によれば、該エッチングステップを実施した後、該保護膜に洗浄液を供給して該保護膜を除去する保護膜除去ステップを備える、こととする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明の一態様によれば、第1保護膜層に気泡が発生した場合でも、この気泡を除去した上で第2保護膜層を形成することで、気泡の発生が抑えられた保護膜Mを形成することが可能となる。これにより、レーザー加工をした場合のデブリに対する保護の効果が不十分であることによる加工不良や、プラズマダイシングにおけるマスクの効果が不十分であることによる加工不良を効果的に防ぐことができる。また、保護膜が厚くなるほど気泡が発生し易くなるものであるが、本発明によれば、段階的に複数の保護膜層を積層することで、全体として厚い保護膜が形成される場合においても気泡の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
            【
図1】保護膜が形成されるウェーハについて示す図。
 
            【
図2】保護膜塗布洗浄装置の構成について示す斜視図。
 
            【
図3】保護膜塗布洗浄装置の構成について示す側面断面図。
 
            
            【
図5】(A)は、保持ステップについて説明する図。(B)は、ウェーハの拡大断面図。
 
            【
図6】(A)は、第1保護膜形成ステップについて説明する図。(B)は、第1保護膜形成ステップ後のウェーハの拡大断面図。
 
            【
図7】(A)は、洗浄乾燥ステップについて説明する図。(B)は、洗浄乾燥ステップ後のウェーハの拡大断面図。(C)は、洗浄乾燥ステップ後のウェーハの拡大断面図。
 
            【
図8】(A)は、第2保護膜形成ステップについて説明する図。(B)は、第2保護膜形成ステップ後のウェーハの拡大断面図。
 
            【
図9】(A)は、溝形成ステップについて説明する図。(B)は、溝形成ステップ後のウェーハの拡大断面図。
 
            【
図10】(A)は、エッチングステップについて説明する図。(B)は、エッチングステップ後のウェーハの拡大断面図。
 
            【
図11】(A)は、保護膜除去ステップについて説明する図。(B)は、保護膜除去ステップ後のウェーハの拡大断面図。
 
          
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、保護膜が形成されるウェーハについて示す図である。
 
【0019】
ウェーハWは、裏面WbがテープTを介して環状フレームFに固定されて、ウェーハユニットUとしてハンドリングされる。なお、ウェーハWは環状フレームFに固定されることなく、単体でハンドリングされることとしてもよい。また、ウェーハWの素材は、例えばシリコン、サファイア、SiC、GaAs等である。
【0020】
ウェーハWの表面Waには、規則的な配置でデバイスDが形成され、詳しくは後述するように、デバイスDを覆うように表面Waに保護膜が形成される。ウェーハWの表面Waには、互いに直交するストリートS(分割予定ライン)が格子状に設定され、各ストリートSによって区画される領域にデバイスDが形成される。ストリートSに沿ってレーザー加工、プラズマエッチング、切削加工などの加工がされることで、分割起点が形成され、分割起点によって破断することでチップに個片化される。
【0021】
尚、ウェーハの材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えばウェーハは、他の半導体、セラミックス、樹脂等の材料で形成される基材を含んでも良い。同様に、デバイスの種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はない。また、ウェーハにはデバイスが形成されていなくても良い。
【0022】
図2及び
図3は、洗浄と保護膜形成の2つの機能を備える保護膜塗布洗浄装置50(スピンコータとも称される)の構成について示す図である。
 
【0023】
保護膜塗布洗浄装置50は、筐体51に形成される収容空間51a内に収容される。
保護膜塗布洗浄装置50は、モーター59(
図3)により回転駆動されウェーハW(ウェーハユニットU(
図3))を保持するスピンナテーブル52と、スピンナテーブル52の下部を支持して昇降させる支持台53と、スピンナテーブル52に保持されたウェーハユニットU(
図3)を挟持するクランプ54と、ワーク(ウェーハW)に対し洗浄液と保護膜剤を供給するノズルユニット55と、ノズルユニット55を移動させる移動ユニット58と、を有する。
 
【0024】
以下詳細に説明すると、
図2に示すように、スピンナテーブル52は、平坦な保持面を構成する吸引保持部52aと、吸引保持部52aの周囲を囲むフレーム保持部52bと、を有する。吸引保持部52aでは、
図1に示すウェーハユニットUのウェーハWの箇所が下側から吸引保持される。フレーム保持部52bでは、ウェーハユニットUの環状フレームFが支持される。
 
【0025】
図2及び
図3に示すように、スピンナテーブル52のフレーム保持部52bには、四箇所に振り子式のクランプ54が設けられ、スピンナテーブル52の回転により生じる遠心力によって傾倒し、環状フレームF(
図1)を上から押さえつけて挟持する。
 
【0026】
図2及び
図3に示すように、ノズルユニット55は、平行に配置される二本の揺動アーム56a,57aを有し、各アームの後端が移動ユニット58の回動軸58aに固定される。移動ユニット58の回動軸58aはモーター58b(
図3)により回動され、これにより、ノズルユニット55の揺動アーム56a,57aがスピンナテーブル52の上方で水平方向に揺動する。
 
【0027】
図2及び
図3に示すように、ノズルユニット55において、一方の揺動アーム56aの先端部には、洗浄液ノズル56が設けられ、洗浄液ノズル56から洗浄液が供給される。洗浄液は、純水等の単独の液体や、純水等の液体と空気等の気体とを混合させた混合流体(二流体)等である。洗浄液ノズル56は、揺動アーム56aや図示せぬ制御バルブを介して洗浄液供給源に接続され、制御バルブの制御により洗浄液の供給、停止の制御が行われる。
 
【0028】
図2及び
図3に示すように、ノズルユニット55において、他方の揺動アーム57aの先端部には、保護膜剤ノズル57が設けられ、保護膜剤ノズル57から図示せぬウェーハの表面に向けて水溶性樹脂が供給される。水溶性樹脂は、保護膜を形成するための材料であり、この水溶性樹脂は、例えば、PVA(ポリ・ビニール・アルコール)、PEG(ポリ・エチレン・グリコール)、PEO(酸化ポリエチレン)、PVP(ポリビニルピロリドン)等である。保護膜剤ノズル57は、揺動アーム57aや図示せぬ制御バルブを介して保護膜剤供給源に接続され、制御バルブの制御により保護膜剤の供給、停止の制御が行われる。
 
【0029】
次に、以上の装置構成を用いた保護膜形成方法の例について説明する。
図4は、保護膜形成方法で実施されるステップを示すフローチャートである。
 
【0030】
<保持ステップ>
図5(A)に示すように、ウェーハWをスピンナテーブル52で保持するステップである。本実施例では、ウェーハユニットUがスピンナテーブル52の吸引保持部52aにセットされ、スピンナテーブル52が回転すると環状フレームFがクランプ54によって保持される。なお、ウェーハユニットUを構成することなく、ウェーハWが吸引保持部52aに直接吸引保持されることとしてもよい。
 
【0031】
図5(B)は、スピンナテーブルに保持されたウェーハWの断面について示すものであり、ウェーハWの表面Waが上側に露出され、ウェーハWの裏面WbがテープTに超着される。ウェーハWの表面Waには、デバイスDが間隔を開けて配設され、各デバイスDの間にストリートSが構成される。ストリートSの幅方向の中央が分割予定ラインとして設定される。
 
【0032】
<第1保護膜形成ステップ>
図6(A)(B)に示すように、スピンナテーブル52で保持されたウェーハW上に水溶性樹脂12を供給するとともにスピンナテーブル52を回転させ水溶性樹脂12でウェーハを被覆し、次いでスピンナテーブル52の回転を維持することでウェーハWを被覆した水溶性樹脂12を乾燥させて第1保護膜層M1を形成するステップである。
 
【0033】
具体的には、所定の回転数で回転するウェーハWの表面Waに向けて保護膜剤ノズル57から水溶性樹脂12を滴下し、遠心力によって水溶性樹脂12を拡散させてウェーハWの表面Waの全体に行き渡らせる。これにより、デバイスDも含めウェーハWの表面Waの全面が水溶性樹脂12にて被覆される。
【0034】
所定量の水溶性樹脂12を滴下した後、滴下を停止するとともに、スピンナテーブル52を所定の回転数で回転させることで、ウェーハWの表面Waの水溶性樹脂12を乾燥させて硬化させる。これにより、第1保護膜層M1が形成される。
【0035】
図6(B)に示すように、第1保護膜層M1には気泡Kが混入されることがある。この気泡Kの箇所においては、第1保護膜層M1の厚みが薄くなってしまい、レーザー加工をした場合のデブリに対する保護の効果が不十分になることや、プラズマダイシングにおけるマスクの効果が不十分となることが懸念される。このため、詳しくは後述するように、第1保護膜層M1の上に第2保護膜層M2(
図8(B))を形成する。
 
【0036】
<洗浄乾燥ステップ>
図7(A)に示すように、第1保護膜形成ステップを実施した後、スピンナテーブル52で保持されたウェーハWを回転させつつウェーハ上に洗浄液14を供給して少なくとも第1保護膜層M1の上層を洗い流し、次いでウェーハWを乾燥させるステップである。
 
【0037】
具体的には、所定の回転数で回転するウェーハWの表面Waに向けて洗浄液ノズル56から洗浄液14を噴射し、第1保護膜層M1の上層の薄い領域や、未硬化の領域を洗い流すものである。
【0038】
図7(B)は、第1保護膜層M1の上層部分が洗い流された後の様子を示すものである。気泡K(
図6(B))が形成されていた表層部分Ka(
図6(B))が洗浄によって除去され、気泡のない第1保護膜層M1が形成される。
 
【0039】
また、
図7(C)は、第1保護膜層M1の上層部分のみならず、より多くの部分が洗い流された後の様子を示すものであり、デバイスDが露出する例を示すものである。このように、第1保護膜層M1の多くが除去されるものであってもよい。また、第1保護膜層M1が略残存しない状態や、全てが除去されることとしてもよいが、特に限定されるものではない。
 
【0040】
なお、気泡K(
図6(B))は、水溶性樹脂の拡散や乾燥の過程において浮上して第1保護膜層M1の上層に現れやすいため、洗浄乾燥ステップにおいて上層のみを洗い流すだけでも気泡Kを高確率で除去することができる。このため、除去されるべき第1保護膜層M1の厚みについては厳密に管理しなくても、気泡Kを効果的に除去できる。
 
【0041】
また、
図7(C)の状態では、ストリートSの位置に第1保護膜層M1が残されているため、デバイスDによって形成される凹凸、すなわち、ストリートSとデバイスDの段差が少なくなり、後の第2保護膜形成ステップにおいて第2保護膜層を形成する際の気泡の形成を防ぐことができる。
 
【0042】
そして、所定の時間洗浄をした後、所定の回転数でウェーハWを回転させることで、洗浄液を除去してウェーハWを乾燥させる。この際、残存した第1保護膜層M1の上面は、回転によって平坦に近くなるため、後の第2保護膜形成ステップにおいて第2保護膜層を形成する際に気泡は形成され難いものとなる。
【0043】
<第2保護膜形成ステップ>
図8(A)(B)に示すように、洗浄乾燥ステップを実施した後、スピンナテーブル52で保持されたウェーハW上に水溶性樹脂12を供給するとともにスピンナテーブル52を回転させ水溶性樹脂12でウェーハWを被覆して第2保護膜層M2が積層された保護膜Mを形成するステップである。
 
【0044】
具体的には、
図8(A)に示すように、第1保護膜層M1が形成されたウェーハWに対し、再度水溶性樹脂12を滴下してウェーハWを被覆して第2保護膜層M2を形成するものである。
 
【0045】
水溶性樹脂12の滴下量や、スピンナテーブル52の回転数などは、第1保護膜形成ステップと同じであってもよいし、異なるものであってもよい。あるいは、所望の厚みの第2保護膜層M2が形成されるように、オペレータによって設定されることとしてもよい。
【0046】
図8(B)は、第1保護膜層M1の上に第2保護膜層M2が形成されることで、複数の保護膜層を積層してなる保護膜Mが形成された様子を示すものである。この保護膜Mにおいては、第1保護膜層M1で形成されていた気泡K(
図6(B))が除去されており、均一な厚みを有する保護膜Mを構成することができる。
 
【0047】
また、第2保護膜層M2が形成される際には、例えば、
図7(B)のように第1保護膜層M1が存在している場合には、第1保護膜層M1の表面の凹凸が小さいため、新たな気泡が形成されにくいものとなる。また、
図7(C)のようにデバイスDの一部が表れている場合でも、ストリートSとデバイスDの段差が小さくなっているため、新たな気泡が形成されにくいものとなる。このように、第1保護膜層M1が形成されることによって、第2保護膜層M2を形成する際の気泡の発生を防ぐことができる。
 
【0048】
また、第1保護膜層M1を形成した保護膜剤と同じ保護膜剤にて第2保護膜層M2を形成することにより、第1保護膜層M1と第2保護膜層M2の親和性が高くなり、第2保護膜層M2を形成する際には気泡が発生し難いものとなる。
【0049】
更に、仮に、第2保護膜層M2に気泡が発生してしまった場合でも、ウェーハWの表面Waは第1保護膜層M1で保護されるため、第1保護膜層M1のみでウェーハWの表面Waを保護する場合と比較して、より確実に保護をすることができる。
【0050】
<溝形成ステップ>
図9(A)(B)に示すように、第2保護膜形成ステップを実施した後、ストリートSに沿って保護膜Mの少なくとも一部を除去するステップである。
 
【0051】
図9(A)に示すように、ウェーハWの表面には保護膜Mが形成されており、レーザ加工ヘッド40からレーザビームを照射することで、ストリートSに沿ってレーザグルービング加工を施して、保護膜Mが除去されて溝44が形成される。
 
【0052】
図9(B)は、ウェーハWの断面を示すものであり、レーザービームLによって、保護膜Mが除去されて、ストリートSの箇所に溝44が形成される様子を示している。溝44は、ウェーハWの表面Waに到達することとするほか、所定の厚みの保護膜Mが残されることとすることができる。
 
【0053】
<エッチングステップ>
図10(A)(B)に示すように、溝形成ステップを実施した後、ウェーハWに保護膜Mを介してプラズマエッチングを施すステップである。
 
【0054】
具体的には、
図10(A)に示すように、プラズマエッチング装置90のチャンバ91内には保持テーブル92が設けられ、保持テーブル92にウェーハユニットUが載置され、保護膜Mが形成されたウェーハWの表面Waが上方に露出された状態とされる。
 
【0055】
チャンバ91の下部には排気口93が設けられ、排気口93を通じてチャンバ91内部を減圧し真空雰囲気とする。チャンバ91の上部にはガス噴出ヘッド94からは、プラズマ化されたフッ素系ガスが供給される。
【0056】
そして、
図10(B)に示すように、プラズマエッチングを実施することによって、保護膜Mが除去されて形成された溝44の箇所にエッチング溝46が形成される。プラズマエッチングは、例えば、プラズマ化したSF
6ガスによる等方性エッチング、プラズマ化したC
4F
8ガスによるエッチング溝46の側壁と底への保護膜の形成、プラズマ化したSF
6ガスによる保護膜の底部分を除去する異方性エッチング、を1サイクルとし、このサイクルを数十サイクル繰り返してエッチング溝46をウェーハWの裏面Wbまで到達させる。これにより、ウェーハWがストリートSに沿ってチップに分割される(プラズマダイシング)。
 
【0057】
このようなプラズマエッチングによるプラズマダイシングが実施される際には、保護膜Mに十分な厚みが確保されているため、保護膜Mは溝44の深さ方向にエッチング溝46を形成させるマスクとしての機能を確実に果たすことができる。なお、プラズマエッチングのための装置構成や、方法については、
図10(A)や上記の記載に限定されるものではない。
 
【0058】
<保護膜除去ステップ>
図11(A)(B)に示すように、エッチングステップを実施した後、保護膜Mに洗浄液14を供給して保護膜Mを除去するステップである。
 
【0059】
具体的には、
図11(A)に示すように、再びスピンナテーブル52でウェーハユニットUを保持し、ウェーハWを回転させつつウェーハ上に洗浄液14を供給し、保護膜Mを全て洗い流し、乾燥させるものである。
 
【0060】
これにより、
図11(B)に示すように、ウェーハWの表面WaとデバイスDの表面が露出さることができる。
 
【0061】
ウェーハWの表面WaやデバイスDは保護膜Mにより保護されていたため、レーザー加工により生じるデブリの付着や、プラズマエッチングの際のマスク不良といった不具合の発生が抑えられる。
【0062】
<レーザー加工ステップ>
上述のプラズマエッチングに代えて、レーザー加工ステップを実施することとしてもよい。この場合、
図9(A)(B)に示す溝形成ステップにおいて、ウェーハWの裏面Wbまで到達するレーザーグルービング加工を行うこととする。
 
【0063】
以上に説明した実施形態によれば、第1保護膜層M1に気泡K(
図6(B))が発生した場合でも、この気泡Kを除去した上で第2保護膜層M2(
図8(B))を形成することで、気泡の発生が抑えられた保護膜M(
図8(B))を形成することが可能となる。これにより、レーザー加工をした場合のデブリに対する保護の効果が不十分であることによる加工不良や、プラズマダイシングにおけるマスクの効果が不十分であることによる加工不良を効果的に防ぐことができる。また、保護膜が厚くなるほど気泡が発生し易くなるものであるが、本発明によれば、段階的に複数の保護膜層を積層することで、全体として厚い保護膜が形成される場合においても気泡の発生を抑えることができる。
 
【符号の説明】
【0064】
D    デバイス
F    環状フレーム
K    気泡
L    レーザービーム
M    保護膜
M1    第1保護膜層
M2    第2保護膜層
S    ストリート
T    テープ
U    ウェーハユニット
W    ウェーハ
Wa    表面
Wb    裏面
12    水溶性樹脂
14    洗浄液
40    レーザー加工ヘッド
44    溝
46    エッチング溝
50    保護膜塗布洗浄装置
51    筐体
51a    収容空間
52    スピンナテーブル
52a    吸引保持部
52b    フレーム保持部
53    支持台
54    クランプ
55    ノズルユニット
56    洗浄液ノズル
56a    揺動アーム
57    保護膜剤ノズル
57a    揺動アーム
58    移動ユニット
58a    回動軸
58b    モーター
59    モーター
90    プラズマエッチング装置
91    チャンバ
92    保持テーブル
93    排気口
94    ガス噴出ヘッド