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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-19
(45)【発行日】2025-09-30
(54)【発明の名称】センチュウの検出定量方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6888 20180101AFI20250922BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20250922BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20250922BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6851 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2025009919
(22)【出願日】2025-01-23
【審査請求日】2025-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2024118911
(32)【優先日】2024-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 至
(72)【発明者】
【氏名】串田 篤彦
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-084968(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113355436(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110499357(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108559783(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105821118(CN,A)
【文献】Phytopathology,2011年,vol.101, no.11,p.1270-1277
【文献】Plant Pathol.,2009年,vol.25, no.3,p.247-255
【文献】植物防疫,2016年,vol.70, no.7,p.423-427
【文献】Res. Plant Dis.,2017年,vol.23, no.2,p.186-192
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3又は6記載の塩基配列から成る、キタネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ。
【請求項2】
配列番号4又は7記載の塩基配列から成る、ノコギリネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ。
【請求項3】
配列番号5又は8記載の塩基配列から成る、キタネコブセンチュウを特異的に検出するためのプローブ。
【請求項4】
以下の(a)~(c)のいずれか1以上のプローブと、以下の(1)及び(2)のプライマーとを含む、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウから成る群より選択される1以上のセンチュウ種に特異的な塩基配列をリアルタイムPCRにより増幅し、前記1以上のセンチュウ種を特異的に検出するためのプローブ及びプライマーのセット。
(a)配列番号3又は6記載の塩基配列から成る、キタネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ;
(b)配列番号4又は7記載の塩基配列から成る、ノコギリネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ;
(c)配列番号5又は8記載の塩基配列から成る、キタネコブセンチュウを特異的に検出するためのプローブ;
(1)配列番号1記載の塩基配列から成るプライマー;
(2)配列番号2記載の塩基配列から成るプライマー。
【請求項5】
請求項4記載のプローブ及びプライマーのセットを含む、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウから成る群より選択される1以上のセンチュウ種に特異的な塩基配列をリアルタイムPCRにより増幅し、前記1以上のセンチュウ種を特異的に検出するためのキット。
【請求項6】
請求項4記載のプローブ及びプライマーのセット又は請求項5記載のキットを用いて、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウから成る群より選択される1以上のセンチュウ種の標的核酸領域の増幅反応をリアルタイムPCRにより行う工程を含む、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウから成る群より選択される1以上のセンチュウ種の定量的検出方法。
【請求項7】
配列番号9又は11記載の塩基配列から成る、ミナミネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ。
【請求項8】
配列番号10又は12記載の塩基配列から成る、サツマイモネコブセンチュウグループを特異的に検出するためのプローブであって、
前記サツマイモネコブセンチュウグループは、サツマイモネコブセンチュウ、アレナリアネコブセンチュウ本州型及び沖縄型、並びにジャワネコブセンチュウから成るグループである、
前記プローブ
【請求項9】
以下の(a)、(d)及び(e)のいずれか1以上のプローブと、以下の(1)及び(2)のプライマーとを含む、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループから成る群より選択される1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループに特異的な塩基配列をリアルタイムPCRにより増幅し、前記1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループを特異的に検出するためのプローブ及びプライマーのセットであって、
前記サツマイモネコブセンチュウグループは、サツマイモネコブセンチュウ、アレナリアネコブセンチュウ本州型及び沖縄型、並びにジャワネコブセンチュウから成るグループである、
前記プローブ及びプライマーのセット
(a)配列番号3又は6記載の塩基配列から成る、キタネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ;
(d)配列番号9又は11記載の塩基配列から成る、ミナミネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ;
(e)配列番号10又は12記載の塩基配列から成る前記サツマイモネコブセンチュウグループを特異的に検出するためのプローブ;
(1)配列番号1記載の塩基配列から成るプライマー;
(2)配列番号2記載の塩基配列から成るプライマー。
【請求項10】
請求項9記載のプローブ及びプライマーのセットを含む、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及び前記サツマイモネコブセンチュウグループから成る群より選択される1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループに特異的な塩基配列をリアルタイムPCRにより増幅し、前記1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループを特異的に検出するためのキット。
【請求項11】
請求項9記載のプローブ及びプライマーのセット又は請求項10記載のキットを用いて、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及び前記サツマイモネコブセンチュウグループから成る群より選択される1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループの標的核酸領域の増幅反応をリアルタイムPCRにより行う工程を含む、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及び前記サツマイモネコブセンチュウグループから成る群より選択される1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループの定量的検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばキタネグサレセンチュウ(Pratylenchus penetrans)、ノコギリネグサレセンチュウ(Pratylenchus crenatus)、キタネコブセンチュウ(Meloidogyne hapla)、ミナミネグサレセンチュウ(Pratylenchus coffeae)及びサツマイモネコブセンチュウ(Meloidogyne incognita)グループの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウは、主に野菜類を加害するセンチュウであり、低密度でも被害を受けやすい根菜類を栽培する地域で特に問題となっている。
【0003】
これらのセンチュウ類の被害を予測し、適切な防除手段を講じるためには、圃場中のこれらのセンチュウ類の発生実態を明らかにする必要がある。従来において、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウを対象とした検診が実施されており、土壌から分離したセンチュウ群集を顕微鏡下で観察し、これらのセンチュウ類を識別・計数することで検診が行われている。しかしながら、当該検診には、多大な労力や高度な専門性を要すことが問題となっている。そこで、例えば、リアルタイムPCRを用い、マニュアルに基づく単純な操作だけでキタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウを効率的に検出・定量する手法の開発が求められている。
【0004】
一方、リアルタイムPCRでキタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウを個別に検出・定量する手法がこれまでにも幾つか報告されている(非特許文献1~4)。
【0005】
非特許文献1では、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウのリボソームRNA遺伝子のITS領域にそれぞれのプライマーセット・プローブを設計し、それらを用いたプローブ法によるリアルタイムPCRによってこれらのセンチュウ種が検出・定量されている。
【0006】
非特許文献2では、キタネグサレセンチュウのリボソームRNA遺伝子の28S領域にプライマーセット・プローブを設計し、それらを用いたプローブ法によるリアルタイムPCRによってキタネグサレセンチュウが検出・定量されている。
【0007】
非特許文献3では、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウのリボソームRNA遺伝子の28S領域にそれぞれのプライマーセット・プローブを設計し、それらを用いたプローブ法によるリアルタイムPCRによってこれらのセンチュウ種が検出・定量されている。
【0008】
非特許文献4では、キタネコブセンチュウのリボソームRNA遺伝子のITS領域にプライマーセット・プローブを設計し、それらを用いたプローブ法によるリアルタイムPCRによってキタネコブセンチュウが検出・定量されている。
【0009】
このように、非特許文献1~4において示される通り、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウをリアルタイムPCRによって検出・定量することは可能である。しかしながら、非特許文献1~4に記載される上記の手法は、全て、1回の反応でいずれか1種しか検出・定量できないため、非効率的である。キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウを1回の反応でそれぞれ特異的に検出・定量できればより効率的だが、その手法は確立されていない。
【0010】
また、本州以南では、サツマイモネコブセンチュウグループ(サツマイモネコブセンチュウ(Meloidogyne incognita)、アレナリアネコブセンチュウ(Meloidogyne arenaria)(本種は本州型と沖縄型の2タイプが存在する)、ジャワネコブセンチュウ(Meloidogyne javanica))やミナミネグサレセンチュウが分布し、これらのセンチュウも主に野菜類で問題となっており、効率的に検出・定量する手法の開発が求められている。
【0011】
リアルタイムPCRでミナミネグサレセンチュウ、サツマイモネコブセンチュウグループを検出・定量する手法は、これまでにも幾つか報告されている(非特許文献5~8)。
【0012】
非特許文献5では、キタネグサレセンチュウ、サツマイモネコブセンチュウグループのリボソームRNA遺伝子のITS領域にプライマーセット・プローブを設計し、それらを用いたプローブ法によるリアルタイムPCRによって、これらのセンチュウ種が検出・定量されている。
【0013】
非特許文献6では、ミナミネグサレセンチュウのエンドグルカナーゼ遺伝子配列にプライマーセットを設計し、それらを用いたインターカレーター法によるリアルタイムPCRによってミナミネグサレセンチュウが検出・定量されている。
【0014】
非特許文献7では、サツマイモネコブセンチュウグループのリボソームRNA遺伝子のITS領域にプライマーセットを設計し、それらを用いたインターカレーター法によるリアルタイムPCRによってサツマイモネコブセンチュウグループが検出・定量されている。
【0015】
非特許文献8では、サツマイモネコブセンチュウグループのミトコンドリア遺伝子配列にプライマーセットを設計し、それらを用いたインターカレーター法によるリアルタイムPCRによってサツマイモネコブセンチュウグループが検出・定量されている。
【0016】
このように、非特許文献5~8において示される通り、ミナミネグサレセンチュウ、サツマイモネコブセンチュウグループを単独でリアルタイムPCRによって検出・定量することは可能である。しかしながら、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ、サツマイモネコブセンチュウグループを1回のリアルタイムPCR反応で同時検出・定量する手法は存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【文献】Oliveira CM et al. (2017) Nematology 19:81-91
【文献】Dauphinais and Vandal (2018) Plant disease 102:970-976
【文献】Orlando (2021) The prevalence, detection and impact of root lesion nematodes (Pratylenchus spp.) found in potato growing land in Great Britain. Doctoral thesis, Harper Adams University.
【文献】Sapkota et al. (2016) Nematology 18:147-15
【文献】Goto et al. (2011) Nematology 19:713-720
【文献】Bell et al. (2018) Phytopathology 108:641-650
【文献】Toyota et al. (2008) Soil Science and Plant Nutrition 54:72-76
【文献】Hodson et al. (2023) Plant Disease 107:2169-2176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上述の実情に鑑み、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウを、同時に、それぞれ特異的に検出及び定量できる方法を提供することを目的とする。
【0019】
また、本発明は、上述の実情に鑑み、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループを、同時に、それぞれ特異的に検出及び定量できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウのリボソームRNA遺伝子の28S領域に、当該3種共通のプライマーセット及び各種に特異的なプローブを設計し、これらの1対のプライマー及び各種に特異的な3本のプローブを用いたリアルタイムPCRによって、1回のリアルタイムPCR反応で各センチュウをそれぞれ特異的に検出でき、また、DNAの濃度とCt値の間に強い負の相関がみられたことから、定量が可能であることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
また、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループのリボソームRNA遺伝子の28S領域に、当該2種及び1つのグループ共通のプライマーセット及び各種又はグループに特異的なプローブを設計し、これらの1対のプライマー及び各種又はグループに特異的な3本のプローブを用いたリアルタイムPCRによって、1回のリアルタイムPCR反応で各センチュウをそれぞれ特異的に検出でき、また、DNAの濃度とCt値の間に強い負の相関がみられたことから、定量が可能であることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0022】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
[1]配列番号6記載の塩基配列を含む、キタネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ。
[2]配列番号7記載の塩基配列を含む、ノコギリネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ。
[3]配列番号8記載の塩基配列を含む、キタネコブセンチュウを特異的に検出するためのプローブ。
[4]以下の(a)~(c)のいずれか1以上のプローブと、以下の(1)及び(2)のプライマーとを含む、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウから成る群より選択される1以上のセンチュウ種に特異的な塩基配列をリアルタイムPCRにより増幅し、前記1以上のセンチュウ種を特異的に検出するためのプローブ及びプライマーのセット。
(a)配列番号6記載の塩基配列を含む、キタネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ;
(b)配列番号7記載の塩基配列を含む、ノコギリネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ;
(c)配列番号8記載の塩基配列を含む、キタネコブセンチュウを特異的に検出するためのプローブ;
(1)配列番号1記載の塩基配列を含むプライマー;
(2)配列番号2記載の塩基配列を含むプライマー。
[5][4]記載のプローブ及びプライマーのセットを含む、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウから成る群より選択される1以上のセンチュウ種に特異的な塩基配列をリアルタイムPCRにより増幅し、前記1以上のセンチュウ種を特異的に検出するためのキット。
[6][4]記載のプローブ及びプライマーのセット又は[5]記載のキットを用いて、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウから成る群より選択される1以上のセンチュウ種の標的核酸領域の増幅反応をリアルタイムPCRにより行う工程を含む、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウから成る群より選択される1以上のセンチュウ種の定量的検出方法。
【0023】
[7]配列番号13記載の塩基配列を含む、ミナミネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ。
[8]配列番号14記載の塩基配列を含む、サツマイモネコブセンチュウグループを特異的に検出するためのプローブ。
[9]以下の(a)、(d)及び(e)のいずれか1以上のプローブと、以下の(1)及び(2)のプライマーとを含む、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループから成る群より選択される1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループに特異的な塩基配列をリアルタイムPCRにより増幅し、前記1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループを特異的に検出するためのプローブ及びプライマーのセット。
(a)配列番号6記載の塩基配列を含む、キタネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ;
(d)配列番号13記載の塩基配列を含む、ミナミネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ;
(e)配列番号14記載の塩基配列を含む、サツマイモネコブセンチュウグループを特異的に検出するためのプローブ;
(1)配列番号1記載の塩基配列を含むプライマー;
(2)配列番号2記載の塩基配列を含むプライマー。
[10][9]記載のプローブ及びプライマーのセットを含む、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループから成る群より選択される1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループに特異的な塩基配列をリアルタイムPCRにより増幅し、前記1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループを特異的に検出するためのキット。
[11][9]記載のプローブ及びプライマーのセット又は[10]記載のキットを用いて、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループから成る群より選択される1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループの標的核酸領域の増幅反応をリアルタイムPCRにより行う工程を含む、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループから成る群より選択される1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループの定量的検出方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、野菜類の重要害虫である、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウを同時に、特異的に且つ効率的に検出することができる。
【0025】
また、本発明によれば、野菜類の重要害虫である、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループを同時に、特異的に且つ効率的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1-1】キタネグサレセンチュウを中心に、リボソームRNAの28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明に係るプライマーセット及びプローブの位置を示す図である。「.」は、キタネグサレセンチュウと同一の塩基であることを示し、「-」は、塩基が欠失していることを示す。
図1-2】ノコギリネグサレセンチュウを中心に、リボソームRNAの28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明に係るプライマーセット及びプローブの位置を示す図である。「.」は、ノコギリネグサレセンチュウと同一の塩基であることを示し、「-」は、塩基が欠失していることを示す。
図1-3】キタネコブセンチュウを中心に、リボソームRNAの28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明に係るプライマーセット及びプローブの位置を示す図である。「.」は、キタネコブセンチュウと同一の塩基であることを示し、「-」は、塩基が欠失していることを示す。
図2】実施例1における、DNAの濃度とCt値の関係を示すグラフである。DNAの濃度は、サンプル中に含まれる各センチュウ種の頭数を示す。
図3】実施例2における、DNAの濃度とCt値の関係を示すグラフである。DNAの濃度は、サンプル中に含まれる各センチュウ種の頭数を示す。
図4-1】ミナミネグサレセンチュウを中心に、リボソームRNAの28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明に係るプライマーセット及びプローブ(配列番号9)の位置を示す図である。「.」は、ミナミネグサレセンチュウと同一の塩基であることを示し、「-」は、塩基が欠失していることを示す。
図4-2】ミナミネグサレセンチュウを中心に、リボソームRNAの28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明に係るプライマーセット及びプローブ(配列番号11)の位置を示す図である。「.」は、ミナミネグサレセンチュウと同一の塩基であることを示し、「-」は、塩基が欠失していることを示す。
図4-3】サツマイモネコブセンチュウグループを中心に、リボソームRNAの28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明に係るプライマーセット及びプローブ(配列番号10)の位置を示す図である。「.」は、サツマイモネコブセンチュウグループと同一の塩基であることを示し、「-」は、塩基が欠失していることを示す。
図4-4】サツマイモネコブセンチュウグループを中心に、リボソームRNAの28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明に係るプライマーセット及びプローブ(配列番号12)の位置を示す図である。「.」は、サツマイモネコブセンチュウグループと同一の塩基であることを示し、「-」は、塩基が欠失していることを示す。
図5-1】実施例3における、DNAの濃度とCt値の関係を示すグラフである。DNAの濃度は、サンプル中に含まれる各センチュウ種の頭数を示す。
図5-2】図5-1の続きである。
図6-1】実施例4における、DNAの濃度とCt値の関係を示すグラフである。DNAの濃度は、サンプル中に含まれる各センチュウ種の頭数を示す。
図6-2】図6-1の続きである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
<本発明の第一態様>
本発明の第一態様に係るプローブ及びプライマーのセットは、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウのそれぞれに特異的なプローブのうち1つ以上と、これら3種に共通の1対のプライマーとを含む、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウから成る群より選択される1以上のセンチュウ種に特異的な塩基配列をリアルタイムPCRにより増幅し、当該1以上のセンチュウ種を特異的に検出するためのプローブ及びプライマーのセットである。
【0028】
図1に、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウとその他のセンチュウ間のリボソームRNA遺伝子の28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明の第一態様に係るプライマーセット及びプローブの位置を示す。
【0029】
本発明に係るキタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウのそれぞれに特異的なプローブは、これら3種のセンチュウを含むセンチュウ種間で各センチュウを特異的に検出できるものであり、本発明の第一態様に係るプローブ及びプライマーのセットは、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウのそれぞれに特異的なプローブのうち2つ又は3つ全てを含むことができる。当該2つ又は3つ全てのプローブを含む、本発明の第一態様に係るプローブ及びプライマーのセットを用いたリアルタイムPCRによれば、1回のリアルタイムPCRで、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウのうちの2種又は3種全てを、同時に検出することができる。
【0030】
具体的に、本発明の第一態様に係るプローブは、以下のプローブである:
(a)キタネグサレセンチュウ特異的プローブ:配列番号6記載の塩基配列を含むか又はそれから成る、キタネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ;
(b)ノコギリネグサレセンチュウ特異的プローブ:配列番号7記載の塩基配列を含むか又はそれから成る、ノコギリネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ;
(c)キタネコブセンチュウ特異的プローブ:配列番号8記載の塩基配列を含むか又はそれから成る、キタネコブセンチュウを特異的に検出するためのプローブ。
【0031】
あるいは、本発明の第一態様に係るプローブは、各プローブの配列番号で示される塩基配列において、1又は数個(例えば、1~10個、1~5個、1~3個、好ましくは1又は2個)の塩基が欠失、置換、挿入又は付加した塩基配列を有し、且つそれぞれのプローブ機能を有するプローブ(各センチュウのリボソームRNA遺伝子の28S領域由来のDNAにストリンジェントな条件下で(好ましくは、高度にストリンジェントな条件下で)ハイブリダイズするプローブ)を代替的に含むことができる。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、例えばハイブリダイゼーションのための条件として、「5×SSPE、5×Denhardt's液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、200μg/mLサケ精子DNA、42℃で一晩」、洗浄のための条件として、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」の条件である。「高度にストリンジェントな条件」とは、例えばハイブリダイゼーションのための条件として、「5×SSPE、5×Denhardt's液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、200μg/mLサケ精子DNA、42℃で一晩」、洗浄のための条件として、「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」の条件である。
【0032】
例えば、キタネグサレセンチュウ特異的プローブは、配列番号3記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプローブであって良く、ノコギリネグサレセンチュウ特異的プローブは、配列番号4記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプローブであって良く、またキタネコブセンチュウ特異的プローブは、配列番号5記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプローブであって良い(表1)。
【0033】
本発明の第一態様に係るプローブは、リアルタイムPCRに使用される。すなわち、当該プローブは、増幅領域内に相補的に結合する蛍光色素プローブ(使用するプライマーがアニーリングする領域間に存在する配列に特異的にアニーリングできる塩基配列を有し、例えば5'末端にレポーター色素(例えば、FAM、Yakima yellow、TAMRA、NED等)を標識し、且つ3'末端にクエンチャー(例えば、IABkFQ、IAbRQSp、MGB Eclipse、MGB-NFQ等)を標識した蛍光色素プローブ等)である。プローブを2種又は3種全てを同時に用いてリアルタイムPCRを行う場合(マルチプレックス)には、各プローブは、それぞれスペクトルが異なるレポーター色素(蛍光色素)が5'末端に標識されることとなる。
【0034】
一方、本発明の第一態様に係るプライマーセットは、以下の1対のプライマーを含む:
(1)配列番号1記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプライマー(フォワードプライマー,表1);及び
(2)配列番号2記載の塩基配列を含むか又はそれから成るプライマー(リバースプライマー,表1)。
【0035】
あるいは、プローブ同様に、本発明の第一態様に係るプライマーセットは、各プライマーの配列番号で示される塩基配列において、1又は数個(例えば、1~10個、1~5個、1~3個、好ましくは1又は2個)の塩基が欠失、置換、挿入又は付加した塩基配列を有し、且つそれぞれのプライマー機能を有するプライマー(各センチュウのリボソームRNA遺伝子の28S領域由来のDNAにストリンジェントな条件下で(好ましくは、高度にストリンジェントな条件下で)ハイブリダイズするプライマー)を代替的に含むことができる。
【0036】
また、本発明の第一態様は、本発明の第一態様に係るプローブ及びプライマーのセットを含む、リアルタイムPCRによるキタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウから成る群より選択される1以上のセンチュウ種の検出用キットに関する。当該キットは、例えば、DNAポリメラーゼ、核酸合成基質(dNTP)、緩衝液、塩類、容器等、使用説明書等を更に含むことができる。
【0037】
さらに、本発明の第一態様は、以上に説明する本発明の第一態様に係るプローブ及びプライマーのセット、又は本発明の第一態様に係るキットを使用して、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウから成る群より選択される1以上のセンチュウ種(好ましくは2種又は3種全て)の標的核酸領域の増幅反応をリアルタイムPCRにより行う工程を含む、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウから成る群より選択される1以上のセンチュウ種(好ましくは2種又は3種全て)の定量的検出方法(以下、「本方法の第一態様」と称する)に関する。本方法の第一態様におけるリアルタイムPCRによれば、蛍光色素プローブからの蛍光シグナルを指標として増幅産物を定量的に検出することができる。
【0038】
本方法の第一態様では、先ず、例えばキタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及び/又はキタネコブセンチュウを含むか又は含むと疑われる畑地土壌サンプル(例えば、ダイコン、ニンジン、ゴボウ等の野菜類の栽培履歴がある畑地土壌サンプル)から分離されたセンチュウ個体又はセンチュウ群集からDNAを抽出及び精製する。DNA抽出法としては、市販のDNA抽出試薬を用いる方法が挙げられる。
【0039】
次いで、精製したDNAを鋳型として、本発明の第一態様に係るプローブ及びプライマーのセットを用いたリアルタイムPCRに供する。PCR反応液は、例えば反応液10μL当たり、本発明の第一態様に係るプローブ及びプライマーのセットに含まれる各プライマーを終濃度200~300nM(好ましくは200nM)、キタネグサレセンチュウ特異的プローブを終濃度100~200nM(好ましくは200nM)、ノコギリネグサレセンチュウ特異的プローブを終濃度200~300nM(好ましくは200nM)及び/又はキタネコブセンチュウ特異的プローブを終濃度200~300nM(好ましくは200nM)、鋳型DNA 1~2μL(好ましくは1μL)、並びに製造業者のマニュアルに準じた各容量のDNAポリメラーゼ及びdNTPを含むように調製する。また、PCRのサーマルサイクリング条件としては、例えば初期変性:95℃ 30 秒 → (変性:95℃ 5秒 → アニーリング及び伸長:59~61℃(好ましくは60℃)30~45秒(好ましくは45秒))を30~40サイクル(好ましくは40サイクル)が挙げられる。
【0040】
さらに、プローブからの蛍光シグナルを指標として増幅産物を定量する。例えば、段階希釈した既知量のキタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及び/又はキタネコブセンチュウ由来のDNAを標準としてリアルタイムPCRを行い、一定の増幅産物量になるサイクル数(threshold cycle; Ct値)を横軸(又は縦軸)に、添加したDNA量を縦軸(又は横軸)にプロットとし、検量線を作成する。一方で、検出対象のサンプルについてリアルタイムPCRを行い、Ct値を決定し、作成した検量線から、検出対象のサンプル中のDNA量を決定することができる。
【0041】
<本発明の第二態様>
本発明の第二態様に係るプローブ及びプライマーのセットは、本州以南に分布するキタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループのそれぞれに特異的なプローブのうち1つ以上と、これら2種及び1グループに共通の1対のプライマーとを含む、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループから成る群より選択される1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループに特異的な塩基配列をリアルタイムPCRにより増幅し、当該1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループを特異的に検出するためのプローブ及びプライマーのセットである。
【0042】
ここで、サツマイモネコブセンチュウグループ(又は群若しくは類)とは、サツマイモネコブセンチュウにごく近縁なネコブセンチュウの種群をいい、例えばサツマイモネコブセンチュウ、アレナリアネコブセンチュウ本州型及び沖縄型、並びにジャワネコブセンチュウが挙げられる。
【0043】
図4に、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループとその他のセンチュウ間のリボソームRNA遺伝子の28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明の第二態様に係るプライマーセット及びプローブの位置を示す。
【0044】
本発明の第二態様に係るキタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループのそれぞれに特異的なプローブは、これら2種及び1グループのセンチュウを含むセンチュウ種間で各センチュウを特異的に検出できるものであり、本発明の第二態様に係るプローブ及びプライマーのセットは、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループのそれぞれに特異的なプローブのうち2つ又は3つ全てを含むことができる。当該2つ又は3つ全てのプローブを含む、本発明の第二態様に係るプローブ及びプライマーのセットを用いたリアルタイムPCRによれば、1回のリアルタイムPCRで、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループのうちの2種(若しくは1種及び1グループ)又は2種及び1グループの全てを、同時に検出することができる。
【0045】
具体的に、本発明の第二態様に係るプローブは、以下のプローブである:
(a)キタネグサレセンチュウ特異的プローブ(本発明の第一態様におけるプローブと同一である):配列番号6記載の塩基配列を含むか又はそれから成る、キタネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ;
(d)ミナミネグサレセンチュウ特異的プローブ:配列番号13記載の塩基配列を含むか又はそれから成る、ミナミネグサレセンチュウを特異的に検出するためのプローブ;
(e)サツマイモネコブセンチュウグループ特異的プローブ:配列番号14記載の塩基配列を含むか又はそれから成る、サツマイモネコブセンチュウグループを特異的に検出するためのプローブ。
【0046】
あるいは、本発明の第二態様に係るプローブは、各プローブの配列番号で示される塩基配列において、1又は数個(例えば、1~10個、1~5個、1~3個、好ましくは1又は2個)の塩基が欠失、置換、挿入又は付加した塩基配列を有し、且つそれぞれのプローブ機能を有するプローブ(各センチュウのリボソームRNA遺伝子の28S領域由来のDNAにストリンジェントな条件下で(好ましくは、高度にストリンジェントな条件下で)ハイブリダイズするプローブ)を代替的に含むことができる。
【0047】
例えば、ミナミネグサレセンチュウ特異的プローブは、配列番号9記載の塩基配列(当該塩基配列における第1塩基~第14塩基の塩基配列が配列番号13記載の塩基配列に相当する)又は配列番号11記載の塩基配列(当該塩基配列における第2塩基~第15塩基の塩基配列が配列番号13記載の塩基配列に相当する)を含むか又はそれから成るプローブであって良い。また、サツマイモネコブセンチュウグループ特異的プローブは、配列番号10記載の塩基配列(当該塩基配列における第1塩基~第11塩基の塩基配列が配列番号14記載の塩基配列に相当する)又は配列番号12記載の塩基配列(当該塩基配列における第6塩基~第16塩基の塩基配列が配列番号14記載の塩基配列に相当する)を含むか又はそれから成るプローブであって良い。
【0048】
本発明の第二態様に係るプローブは、本発明の第一態様同様に、リアルタイムPCRに使用される。すなわち、当該プローブは、増幅領域内に相補的に結合する蛍光色素プローブ(使用するプライマーがアニーリングする領域間に存在する配列に特異的にアニーリングできる塩基配列を有し、例えば5'末端にレポーター色素(例えば、FAM、Yakima yellow、TAMRA、NED等)を標識し、且つ3'末端にクエンチャー(例えば、IABkFQ、IAbRQSp、MGB Eclipse、MGB-NFQ等)を標識した蛍光色素プローブ等)である。プローブを2種又は3種全てを同時に用いてリアルタイムPCRを行う場合(マルチプレックス)には、各プローブは、それぞれスペクトルが異なるレポーター色素(蛍光色素)が5'末端に標識されることとなる。
【0049】
一方、本発明の第二態様に係るプライマーセットは、本発明の第一態様に係る1対のプライマーを含むプライマーセットと同一である。
【0050】
また、本発明の第二態様は、本発明の第二態様に係るプローブ及びプライマーのセットを含む、リアルタイムPCRによるキタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループから成る群より選択される1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループの検出用キットに関する。当該キットは、本発明の第一態様に係るキット同様に、例えば、DNAポリメラーゼ、核酸合成基質(dNTP)、緩衝液、塩類、容器等、使用説明書等を更に含むことができる。
【0051】
さらに、本発明の第二態様は、以上に説明する本発明の第二態様に係るプローブ及びプライマーのセット、又は本発明の第二態様に係るキットを使用して、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループから成る群より選択される1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループ(好ましくは2種(若しくは1種及び1グループ)又は2種及び1グループの全て)の標的核酸領域の増幅反応をリアルタイムPCRにより行う工程を含む、キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループから成る群より選択される1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループ(好ましくは2種(若しくは1種及び1グループ)又は2種及び1グループの全て)の定量的検出方法(以下、「本方法の第二態様」と称する)に関する。本方法の第二態様におけるリアルタイムPCRによれば、蛍光色素プローブからの蛍光シグナルを指標として増幅産物を定量的に検出することができる。
【0052】
本方法の第二態様では、本方法の第一態様と同様に、先ず、例えばキタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及び/又はサツマイモネコブセンチュウグループを含むか又は含むと疑われる畑地土壌サンプル(例えば、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、サトイモ、サツマイモ、ナス、トマト等の野菜類の栽培履歴がある畑地土壌サンプル)から分離されたセンチュウ個体又はセンチュウ群集からDNAを抽出及び精製する。DNA抽出法としては、市販のDNA抽出試薬を用いる方法が挙げられる。
【0053】
次いで、精製したDNAを鋳型として、本発明の第二態様に係るプローブ及びプライマーのセットを用いたリアルタイムPCRに供する。PCR反応液は、例えば反応液10μL当たり、本発明の第二態様に係るプローブ及びプライマーのセットに含まれる各プライマーを終濃度200~300nM(好ましくは200nM)、キタネグサレセンチュウ特異的プローブを終濃度100~200nM、ミナミネグサレセンチュウ特異的プローブを終濃度100~150nM(好ましくは100nM)及び/又はサツマイモネコブセンチュウグループ特異的プローブを終濃度100~300nM、鋳型DNA 1~2μL(好ましくは1μL)、並びに製造業者のマニュアルに準じた各容量のDNAポリメラーゼ及びdNTPを含むように調製する。また、PCRのサーマルサイクリング条件としては、例えば初期変性:95℃ 30 秒 → (変性:95℃ 5秒 → アニーリング及び伸長:59~61℃(好ましくは60℃)30~45秒(好ましくは45秒))を30~40サイクル(好ましくは40サイクル)が挙げられる。
【0054】
さらに、本方法の第一態様同様に、プローブからの蛍光シグナルを指標として増幅産物を定量する。例えば、段階希釈した既知量のキタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及び/又はサツマイモネコブセンチュウグループ由来のDNAを標準としてリアルタイムPCRを行い、一定の増幅産物量になるサイクル数(Ct値)を横軸(又は縦軸)に、添加したDNA量を縦軸(又は横軸)にプロットとし、検量線を作成する。一方で、検出対象のサンプルについてリアルタイムPCRを行い、Ct値を決定し、作成した検量線から、検出対象のサンプル中のDNA量を決定することができる。
【実施例
【0055】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
〔実施例1〕キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウの検出定量方法1
キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウのリボソームRNA遺伝子の28S領域に、3種共通のプライマーセット及び各種に特異的なプローブを設計した(表1)。
【0057】
図1-1は、キタネグサレセンチュウを中心に、リボソームRNAの28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明に係るプライマーセット及びプローブの位置を示す図である。図1-2は、ノコギリネグサレセンチュウを中心に、リボソームRNAの28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明に係るプライマーセット及びプローブの位置を示す図である。図1-3は、キタネコブセンチュウを中心に、リボソームRNAの28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明に係るプライマーセット及びプローブの位置を示す図である。
【0058】
【表1】
【0059】
これらのプライマー2本、プローブ3本を用いたリアルタイムPCRを行った。
リアルタイムPCRは、下記の組成の反応液によって実施した:
Probe qPCR Mix(Takara):5.0 μl
共通フォワードプライマー:0.2~0.3 μM(好ましくは0.2 μM)
共通リバースプライマー:0.2~0.3 μM(好ましくは0.2 μM)
キタネグサレセンチュウ用プローブ:0.1~0.15 μM(好ましくは0.1 μM)
ノコギリネグサレセンチュウ用プローブ:0.2~0.3 μM(好ましくは0.2 μM)
キタネコブセンチュウ用プローブ:0.2~0.3 μM(好ましくは0.2 μM)
Rox dyeII(Takara):0.2 μl
鋳型DNA:1.0 μl
Nuclease free waterで最終液量10 μlに調整した。
【0060】
本実施例では、全て、各プライマー、ノコギリネグサレセンチュウ用プローブ、キタネコブセンチュウ用プローブは0.2 μMで、キタネグサレセンチュウ用プローブは0.1 μMとして実施した。
【0061】
PCR反応は、下記の温度条件にて実施した:
初期変性:95℃ 30 秒 → (変性:95℃ 5秒 → アニーリング及び伸長:59~61℃(好ましくは60℃)30~45秒(好ましくは45秒))を30~40サイクル(好ましくは40サイクル)。
【0062】
本実施例では、全て、アニーリング及び伸長反応を60℃で45秒行い、サイクル数は40とした。
PCRは、QuantStudio 3(Applied Biosystems)を使用した。
【0063】
結果を表2及び図2に示す。
本発明に係るプライマーセット及びプローブを用いた1回のリアルタイムPCR反応で各センチュウをそれぞれ特異的に検出できた(表2)。
【0064】
【表2】
【0065】
また、DNAの濃度とCt値の間に強い負の相関がみられた(図2)ことから、定量が可能であることも示された。なお、本実施例で使用した最も低濃度のDNA溶液は、サンプル中に各センチュウのいずれか1頭分のDNAが含まれ、これもリアルタイムPCRで検出できた。従って、検出感度は十分に高かった。
【0066】
〔実施例2〕キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ及びキタネコブセンチュウの検出定量方法2
実施例1に記載のプローブを下記の改変プローブに置き換えてリアルタイムPCRを実施した。プライマーは、実施例1と同様のものを使用した。
【0067】
改変キタネグサレセンチュウ用プローブ:FAM/ACGATTGCCTGGA/MGB Eclipse(配列番号6;配列番号3の3番目~15番目の塩基配列に相当);
改変ノコギリネグサレセンチュウ用プローブ:Yakima yellow/AAGAAGGCGGCTT/MGB Eclipse(配列番号7;配列番号4の2番目~14番目の塩基配列に相当);
改変キタネコブセンチュウ用プローブ:NED/TTCAGAAAAGTGCATCA/MGB-NFQ(配列番号8;配列番号5の2番目~18番目の塩基配列に相当)
(配列の方向は、全て5'=>3'である。NEDは蛍光色素、MGB EclipseおよびMGB-NFQはクエンチャーである)。
【0068】
リアルタイムPCRは、下記の組成の反応液によって実施した:
Probe qPCR Mix(Takara):5.0 μl
共通フォワードプライマー:0.2 μM
共通リバースプライマー:0.2 μM
改変キタネグサレセンチュウ用プローブ:0.2 μM
改変ノコギリネグサレセンチュウ用プローブ:0.2 μM
改変キタネコブセンチュウ用プローブ:0.2 μM
Rox dyeII(Takara):0.2 μl
鋳型DNA:1.0 μl
Nuclease free waterで最終液量10 μlに調整した。
【0069】
PCR反応は、下記の温度条件にて実施した:
初期変性:95℃ 30 秒 → (変性:95℃ 5秒 → アニーリング及び伸長:60℃ 45秒)を40サイクル。
【0070】
結果を表3及び図3に示す。
実施例1に記載のプローブを使用したときと同様、1回のリアルタイムPCRで、各対象センチュウ種を特異的に検出できた(表3)。
【0071】
【表3】
【0072】
また、DNAの濃度とCt値の間に強い負の相関がみられた(図3)ことから、定量が可能であることも示された。
【0073】
〔実施例3〕キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループの検出定量方法1
先ず、ミナミネグサレセンチュウ、サツマイモネコブセンチュウグループのリボソームRNA遺伝子の28S領域に、下記のようなプローブを新規に設計した。
【0074】
ミナミネグサレセンチュウ用プローブ:Yakima Yellow/TCACCACGGTGGCCGGGC/IABkFQ(配列番号9);
サツマイモネコブセンチュウグループ用プローブ:TAMRA/TCTTGTAAAAAAGTGTAGCATGGCCCCA/IAbRQSp(配列番号10)
(配列の方向は全て5’=>3’である)。
【0075】
図4-1は、ミナミネグサレセンチュウを中心に、リボソームRNAの28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明に係るプライマーセット及びプローブ(配列番号9)の位置を示す図である。
【0076】
図4-3は、サツマイモネコブセンチュウグループを中心に、リボソームRNAの28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明に係るプライマーセット及びプローブ(配列番号10)の位置を示す図である。
【0077】
これらに加えて、下記のプライマーセット、キタネグサレセンチュウ用プローブも用意した。
【0078】
共通フォワードプライマー:CAAGGAGTTTATCGTGTGCG(配列番号1);
共通リバースプライマー:TGCTCAGGAATAGTTCACCA(配列番号2);
キタネグサレセンチュウ用プローブ:FAM/TCACGATTGCCTGGAGCAACATGG/IABkFQ(配列番号3)。
【0079】
これらのプライマー2本、プローブ3本を用いたリアルタイムPCRを行った。反応液の組成は下記の通りである:
Probe qPCR Mix(Takara):5.0 μl
共通フォワードプライマー:0.2~0.3 μM(好ましくは0.2 μM)
共通リバースプライマー:0.2~0.3 μM(好ましくは0.2 μM)
キタネグサレセンチュウ用プローブ:0.1~0.15 μM(好ましくは0.1 μM)
ミナミネグサレセンチュウ用プローブ:0.1~0.15 μM(好ましくは0.1 μM)
サツマイモネコブセンチュウグループ用プローブ:0.2~0.3 μM(好ましくは0.2 μM)
Rox dyeII(Takara):0.2 μl
鋳型DNA:1.0 μl
Nuclease free waterで最終液量10 μlに調整した。
【0080】
本実施例では、各プライマー、サツマイモネコブセンチュウグループ用プローブは0.2 μM、キタネグサレセンチュウ用プローブ、ミナミネグサレセンチュウ用プローブは0.1 μMとして実施した。
【0081】
PCR反応は、下記の温度条件で行った:
初期変性:95℃ 30 秒 → (変性:95℃ 5秒 → アニーリング及び伸長:59~61℃(好ましくは60℃)30~45秒(好ましくは45秒))を30~40サイクル(好ましくは40サイクル)。
【0082】
本実施例では、全て、アニーリング及び伸長反応を60℃で45秒行い、サイクル数は40とした。PCRは、QuantStudio 3(Applied Biosystems)を使用した。
【0083】
様々なセンチュウ種のDNAを鋳型として、上記のようなリアルタイムPCRを行ったところ、本発明に係るプライマーセット及びプローブを用いた1回のリアルタイムPCR反応で各センチュウをそれぞれ特異的に検出できた(表4)。
【0084】
【表4】
【0085】
また、DNAの濃度とCt値の間に強い負の相関がみられた(図5)ことから、定量が可能であることも示された。なお、本実施例で使用した最も低濃度のDNA溶液は、サンプル中に各センチュウのいずれか1頭分のDNAが含まれ、これもリアルタイムPCRで検出できた。従って、検出感度は十分に高かった。
【0086】
〔実施例4〕キタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループの検出定量方法2
実施例3に記載のプローブを下記の改変プローブに置き換えてリアルタイムPCRを実施した。プライマーは実施例3と同様のものを使用した。
【0087】
改変キタネグサレセンチュウ用プローブ:FAM/ACGATTGCCTGGA/MGB Eclipse(配列番号6);
改変ミナミネグサレセンチュウ用プローブ:Yakima Yellow/GTCACCACGGTGGCC/MGB Eclipse(配列番号11)(本プローブの2番目から15番目までの塩基が、実施例3のミナミネグサレセンチュウ用プローブ(配列番号9)の1番目から14番目までの塩基に相当);
改変サツマイモネコブセンチュウグループ用プローブ:NED/TGCGATCTTGTAAAAA/MGB-NFQ(配列番号12)(本プローブの6番目から16番目までの塩基が、実施例3のサツマイモネコブセンチュウグループ用プローブ(配列番号10)の1番目から11番目までの塩基に相当)
(配列の方向は全て5’=>3’である)。
【0088】
図4-2は、ミナミネグサレセンチュウを中心に、リボソームRNAの28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明に係るプライマーセット及びプローブ(配列番号11)の位置を示す図である。
【0089】
図4-4は、サツマイモネコブセンチュウグループを中心に、リボソームRNAの28S領域の部分配列のアラインメントにおける本発明に係るプライマーセット及びプローブ(配列番号12)の位置を示す図である。
【0090】
リアルタイムPCRはQuantStudio 3(Applied Biosystems)を使用し、下記の組成の反応液によって実施した:
Probe qPCR Mix(Takara)5.0 μl
共通フォワードプライマー 0.2 μM
共通リバースプライマー 0.2 μM
改変キタネグサレセンチュウ用プローブ 0.2 μM
改変ミナミネグサレセンチュウ用プローブ 0.1 μM
改変サツマイモネコブセンチュウグループ用プローブ 0.1 μM
Rox dyeII(Takara) 0.2 μl
鋳型DNA 1.0 μl
Nuclease free waterで最終液量10 μlに調整。
【0091】
PCR反応は下記の温度条件にて実施した:
初期変性:95℃ 30 秒 → (変性:95℃ 5秒 → アニーリング及び伸長:60℃ 45秒を40サイクル)。
【0092】
様々なセンチュウ種のDNAを鋳型として、上記のようなリアルタイムPCRを行ったところ、実施例3に記載のプローブを使用したときと同様、1回のリアルタイムPCR反応で各センチュウをそれぞれ特異的に検出できた(表5)。
【0093】
【表5】
【0094】
また、DNAの濃度とCt値の間に強い負の相関がみられた(図6)ことから、定量が可能であることも示された。
【要約】
【課題】野菜類の重要害虫である、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ、キタネコブセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループを特異的に且つ効率的に検出できる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ、キタネコブセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループのリボソームRNA遺伝子の28S領域の配列上に設計したこれらセンチュウ種及びセンチュウグループに共通のプライマーセットと、各センチュウ種又はセンチュウグループに特異的なプローブとを用いて、リアルタイムPCRを行う工程を含む、キタネグサレセンチュウ、ノコギリネグサレセンチュウ、キタネコブセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ及びサツマイモネコブセンチュウグループから成る群より選択される1以上のセンチュウ種又はセンチュウグループの定量的検出方法。
【選択図】なし
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
【配列表】
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