IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-酸化チタン粒子及びその製造方法 図1
  • 特許-酸化チタン粒子及びその製造方法 図2
  • 特許-酸化チタン粒子及びその製造方法 図3
  • 特許-酸化チタン粒子及びその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-06
(45)【発行日】2025-10-15
(54)【発明の名称】酸化チタン粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/047 20060101AFI20251007BHJP
【FI】
C01G23/047
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023522598
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2022019383
(87)【国際公開番号】W WO2022244620
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2021083292
(32)【優先日】2021-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(72)【発明者】
【氏名】古本 祥康
(72)【発明者】
【氏名】鹿山 進
(72)【発明者】
【氏名】小古井 久雄
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-155052(JP,A)
【文献】特開2003-327432(JP,A)
【文献】特開2006-265094(JP,A)
【文献】特開2015-027924(JP,A)
【文献】特開2011-057552(JP,A)
【文献】特公昭50-025919(JP,B1)
【文献】特公昭49-030916(JP,B1)
【文献】特開昭51-008192(JP,A)
【文献】特開2013-234102(JP,A)
【文献】清野学,酸化チタン 物性と応用技術,第一版,日本,技報堂出版,1991年06月25日,p.214-219
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折・散乱分析法により測定した酸化チタン粒子におけるD90(LD)/D50(LD)が1.0超2.0以下であり、かつ、電界放射型走査型電子顕微鏡で100万個以上の粒子について観察した一次粒子のD50(SEM)に対して、一次粒子径がD50(SEM)の16倍を超える粗大粒子濃度(個数基準)が20ppm以下であり、D90(LD)が3000nm以下であり、D50(LD)が1000nm以下であり、BET比表面積(m/g)が5~200m/gである、酸化チタン粒子。
【請求項2】
電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した酸化チタン粒子の一次粒子におけるD90(SEM)/D50(SEM)が1.0超2.0以下である、請求項1に記載の酸化チタン粒子。
【請求項3】
電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した酸化チタン粒子の一次粒子における〔D90(SEM)-D10(SEM)〕/D50(SEM)が0.82以下である、請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子。
【請求項4】
電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した酸化チタン粒子の一次粒子におけるD99(SEM)/D50(SEM)が1.0超2.0以下である、請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子。
【請求項5】
動的光散乱法により測定された酸化チタン粒子におけるD90(DLS)/D50(DLS)が、1.0超2.0以下である、請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子。
【請求項6】
動的光散乱法により測定された酸化チタン粒子におけるD90(DLS)と電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した酸化チタン粒子の一次粒子におけるD90(SEM)の比である、D90(DLS)/D90(SEM)が2.2以下である、請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子。
【請求項7】
動的光散乱法により測定した酸化チタン粒子におけるD90(DLS)及び電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した酸化チタン粒子の一次粒子のD90(SEM)が200nm以下、D50(SEM)が10~150nmである、請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子。
【請求項8】
アナターゼ含有率が70%以上である、請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子。
【請求項9】
硝酸銀電位差滴定法により測定した酸化チタン粒子のCl含有量が0.2質量%以下である、請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子。
【請求項10】
Na,Al,S,Fe,Ni,Cr,Nb及びZrの含有量がそれぞれ10質量ppm以下、Si及びCの含有量がそれぞれ500質量ppm以下である、請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子を含む、スラリー。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子を含む、分散体。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子を含む、組成物。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子を含む、誘電体原料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン粒子及びその製造方法、並びに酸化チタン粒子を含むスラリー、分散体、組成物及び誘電体原料に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンの工業的応用分野は極めて広く、化粧品、紫外線遮蔽材、シリコーンゴムヘの添加剤を代表とし、近年では、光触媒、太陽電池、誘電体原料、Liイオン電池用電極材原料など用途は多岐に亘っている。なお、「酸化チタン」は、日本工業規格(JIS)には二酸化チタンと記載されているが、一般名として酸化チタンが広く使用されているので本明細書では二酸化チタン(TiO)を酸化チタンと略称する。
【0003】
最近、酸化チタンは特に高性能の誘電体原料、例えばBaTiOの原料として注目されている。BaTiOは加熱下で次の反応によって得られる。
BaCO+TiO →BaTiO+CO
上記の反応は固相反応であり、その際先ず高温でBaCOが分解してBaOが生成し、BaOがTiO粒子中を拡散固溶してBaTiOになると言われている。従ってBaTiO粒子の大きさはTiO粒子の大きさに支配されることになる。近年では、積層セラミックコンデンサーの小型化に伴って、誘電層の薄層化が課題となっており、そのためにはBaTiO粒子の微粒化及び均一化が不可欠となっている。また、誘電層厚みよりも大きなBaTiO粒子が存在すると、積層セラミックコンデンサー内で短絡が生じ、機器の故障につながる。従って、BaTiOの原料であるTiOの微粒化及び均一化が必要であるとともに、粗大なTiO粒子が含まれないことが好ましい。その他の用途でも、同様に、酸化チタン粒子は微粒化及び均一化が求められており、また粗大粒子は含まれない方がよい。
【0004】
酸化チタンの製造法は、大別して四塩化チタンや硫酸チタンを加水分解する液相法と、四塩化チタンを酸素又は水蒸気と高温で反応させる気相法がある。
【0005】
液相法は、比較的温和な条件下で酸化チタンを製造することができ、微細な一次粒子が得られやすいという利点があるが、酸化チタンがゾル又はスラリーの状態で得られるため、この状態で使用する場合、用途が限定されるという問題がある。当該ゾル又はスラリーを酸化チタン粒子として使用するためには乾燥させる必要があり、乾燥後は一般に凝集が激しくなる。このように凝集の激しい酸化チタン粒子は、粒度分布が不均一になるという問題がある。また、乾燥して得られる当該酸化チタン粒子を溶媒に分散させたときの分散性が悪いという問題もある。分散性が悪いと、上記のBaTiOの生成のために原料を混合する際に、酸化チタン粒子と他の原料とが十分に混合せず、原料成分に偏在が生じ、反応時に不均一成長を引き起こして、品質のばらつき等が生じる。
【0006】
一方、気相法によると、温度等の製造条件を調整することで生成する酸化チタンの一次粒子径を調整することができる。また、気相法では溶媒を使用しないため、酸化チタンは粉末として得られ、液相法で挙げた問題が生じることは少ない。さらに、気相法では、液相法よりも比較的高い温度で反応させるため、得られる酸化チタンの結晶性が高いという特長がある。
【0007】
しかし、気相法では、液相法よりも高い温度で反応させるため、反応管内若しくは冷却媒体を導入した後の冷却管内において、温度が高すぎる若しくは酸化チタン粒子の滞留時間が長すぎるなど、酸化チタン粒子が受ける熱量が大きい場合、酸化チタン粒子同士の焼結が過度に進行し、酸化チタンの微粒子が得られにくく、粒度分布も不均一になってしまう。酸化チタン同士の焼結を避けるために、反応ゾーンの温度を低くしすぎると、酸化チタンの核生成が十分に行われず、微粒子が得られにくい、若しくは結晶性が低い酸化チタンしか得られない。一方、冷却媒体によって、反応ガスを直ちに冷却することで、酸化チタン同士の焼結を抑えることができ、微粒子の酸化チタンが得られる。冷却が直ちに行われない場合や、冷却にムラがある場合、粒子同士の焼結が不均一に生じ、均一な酸化チタン微粒子が得られにくい。
【0008】
特許文献1には、均一な酸化チタン粒子を気相法により得ることを目的として、ハロゲン化チタンガスと酸化性ガスに特定の条件で反応させることを特徴とする酸化チタン粒子の製造方法が記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、粗大粒子のない均一な酸化チタン粒子を気相法により得ることを目的として、TiCl蒸気及び酸化剤を反応させ、酸化剤を層流で反応管へ導入することで、反応管へのスケール形成を抑制し、直径が100nmよりも大きい金属酸化物の粒子が少ないことを特徴とする酸化チタン粒子の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2006-265094号公報
【文献】特開2006-28017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のとおり、均一性及び分散性に優れる酸化チタン粒子が望まれているが、液相法により得られる酸化チタン粒子に比べて、気相法では均一性及び分散性に優れる利点がある。そこで、本発明者らは、気相法に基づいて酸化チタン粒子を製造し、より均一性及びさらには分散性にも優れる酸化チタン粒子を製造すべく検討しているが、気相法では均一性及び分散性に優れる酸化チタン微粒子を製造しても、酸化チタン粒子が著しく粗大化することがあり、酸化チタン微粒子への粗大粒子の混入が避けられないという問題があることが判明した。
【0012】
本発明は、上記の問題点を解決すべくなされたものであり、本発明の課題は、気相法において均一性及びさらには分散性にも優れかつ粗大粒子が少ない酸化チタン微粒子及びその製造方法を提供すること、並びに当該酸化チタン粒子を含むスラリー、分散体、及び組成物及び誘電体原料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、特許文献1では、反応管壁への酸化チタンの付着について、対策がなされておらず、反応管壁への酸化チタンの付着が生じていること、反応管壁への酸化チタン粉の付着滞留により焼結が進んだ粗大粒子が含まれていること、特許文献2では、酸化剤ガスのレイノルズ数を小さくしなければならないため、原料混合性が悪く、転化率が低いことや粒径が不均一になりやすいなど、生産性や品質上の課題が生じること、そして、反応管内において四塩化チタン及び不活性ガスを含有するガス及び酸化性ガスを含有するガスを反応させて酸化チタン粒子を製造する工程において、四塩化チタンを含有するガス及び酸化性ガスを含有するガスをそれぞれ反応管に導入し反応させた後、特定の条件で、管壁に沿ってパージ媒体を導入することで、管壁への粉の付着を抑制し、均一性及び好ましくは分散性にも優れかつ粗大粒子の少ない酸化チタン粒子を製造し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
本発明に依れば、少なくとも下記の態様が提供されるが、これらに限定されるものではない。
(態様1)
レーザー回折・散乱分析法により測定した酸化チタン粒子におけるD90(LD)/D50(LD)が1.0超2.0以下であり、かつ、電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した一次粒子のD50(SEM)に対して、D50(SEM)の16倍を超える粗大粒子濃度(個数基準)が20ppm以下である、酸化チタン粒子。
(態様2)
電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した酸化チタン粒子の一次粒子におけるD90(SEM)/D50(SEM)が1.0超2.0以下である、態様1に記載の酸化チタン粒子。
(態様3)
電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した酸化チタン粒子の一次粒子における〔D90(SEM)-D10(SEM)〕/D50(SEM)が0.82以下である、態様1又は2に記載の酸化チタン粒子。
(態様4)
電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した酸化チタン粒子の一次粒子におけるD99(SEM)/D50(SEM)が1.0超2.0以下である、態様1~3のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子。
(態様5)
動的光散乱法により測定された酸化チタン粒子におけるD90(DLS)/D50(DLS)が、1.0超2.0以下である、態様1~4のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子。
(態様6)
動的光散乱法により測定された酸化チタン粒子の一次粒子におけるD90(DLS)と電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した酸化チタン粒子におけるD90(SEM)の比である、D90(DLS)/D90(SEM)が2.2以下である、態様1~5のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子。
(態様7)
レーザー回折・散乱分析法により測定した酸化チタン粒子におけるD90(LD)が3000nm以下である、態様1~6のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子。
(態様8)
動的光散乱法により測定した酸化チタン粒子におけるD90(DLS)及び電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した酸化チタン粒子の一次粒子のD90(SEM)が200nm以下、D50(SEM)が10~150nmである、態様1~7のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子。
(態様9)
アナターゼ含有率が70%以上である、態様1~8のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子。
(態様10)
BET比表面積が5~200m/gである、態様1~9のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子。
(態様11)
硝酸銀電位差滴定法により測定した酸化チタン粒子のCl含有量が0.2%以下である、態様1~10のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子。
(態様12)
Na,Al,S,Fe,Ni,Cr,Nb及びZrの含有量がそれぞれ10質量ppm以下、Si及びCの含有量がそれぞれ500質量ppm以下である、態様1~11のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子。
(態様13)
四塩化チタン及び不活性ガスを含有する原料ガスと、酸素ガス及び水蒸気の少なくとも1種並びに不活性ガスを含有する酸化性ガスとを、反応管に導入して反応させた後に冷却することで酸化チタン粒子を製造する工程において、反応管内壁にパージ媒体の吹き出し口を設け、パージ媒体を反応管内壁に沿って旋回するように導入し、反応管の軸線に対して垂直な反応管の横断面に投影した面において、パージ媒体の吹き出し口と反応管中心軸線を結ぶ線に対して、反応管内壁からパージ媒体の吹き出し角度αが、50°以上であり、パージ媒体の吹き出し流速(B)が35m/s以上である、酸化チタン粒子の製造方法。
(態様14)
反応管の軸線を含む反応管の縦断面に投影した面において、反応管の軸線方向に対して、反応管内壁からのパージ媒体吹き出し角度βが、反応ガス流の順行側を0°として、60°以上である、態様13に記載の酸化チタン粒子の製造方法。
(態様15)
反応管内の原料ガスと酸化性ガスとから形成される反応ガスの流速をA、パージ媒体の吹き出し流速をBとした時、B/Aが0.5以上となるようにパージ媒体を導入する、態様13又は14に記載の酸化チタン粒子の製造方法。
(態様16)
態様1~12のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子を含む、スラリー。
(態様17)
態様1~12のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子を含む、分散体。
(態様18)
態様1~12のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子を含む、組成物。
(態様19)
態様1~12のいずれか一項に記載の酸化チタン粒子を含む、誘電体原料。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、均一性、さらに好ましくは分散性に優れ、かつ粗大粒子が少ない、酸化チタン粒子及びその製造方法、並びに当該酸化チタンを含むスラリー、分散体、及び組成物及び誘電体原料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(a)(b)は、本発明の酸化チタン粒子の顕微鏡写真である。
図2図2は、本発明の酸化チタン粒子の製造方法における第1工程の好適例を説明する模式図である。
図3図3は、本発明の酸化チタン粒子の製造方法における第1工程の好適例を説明する模式横断面図である。
図4図4は、本発明の酸化チタン粒子の製造方法における第1工程の好適例を説明する模式縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書における各種の測定値の数値は、特に断らない限り、また前後の文脈から異なる意味であることが示唆されない限り、定義する数値は有効数字を考慮して定める。例えば、0ppmは0.5ppm未満での意味である。
【0018】
本明細書において、D10(SEM)、D50(SEM)、D90(SEM)、D99(SEM)、D50(LD)、D90(LD)、D50(DLS)、D90(DLS)におけるD10、D50、D90及びD99は、数、体積、質量、モル数等を基準として、それぞれの積算粒度分布における、粒度が小さい方からの基準量の積算合計値がそれぞれ全積算値の10%、50%、90%及び99%であるときの粒度(粒子径)を意味し、SEMは電界放射型走査型電子顕微鏡、LDはレーザー回折・散乱分析法、DLSは動的光散乱法による測定を表す。
【0019】
本発明のような微粒子分野においては、後述するように、SEM観察、レーザー回折・散乱分析法測定、動的光散乱法測定をそれぞれ行い、酸化チタン粒子の均一性・分散性について総合的に判断することが望ましい。
【0020】
[酸化チタン粒子]
本発明の一実施形態における酸化チタン粒子は、レーザー回折・散乱分析法により測定した酸化チタン粒子のD90(LD)/D50(LD)が1.0超2.0以下であり、かつD50(SEM)の16倍を超える粗大粒子濃度(個数基準)が20ppm以下であることを特徴とする酸化チタン粒子である。かかる酸化チタン粒子は、均一性及び分散性に優れ、後述する酸化チタン粒子の製造方法により、好適に製造することができる。
【0021】
レーザー回折・散乱分析法により測定した酸化チタン粒子のD90(LD)/D50(LD)が1.0超2.0以下であれば、酸化チタン粒子の粒度が均一性に優れており、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.6以下、最も好ましくは1.5以下である。2.0以下であれば、粒度分布が均一であるので好ましい。また、1.1以上でありえる。
D50(SEM)の16倍を超える粗大粒子濃度が20ppm以下であると、酸化チタン粒子の粗大粒子が少ない。粒度が均一で粗大粒子が少ない酸化チタン粒子は、酸化チタン粒子に求められている品質及び均一性がより高いので、化粧品、紫外線遮蔽材、シリコーンゴムヘの添加剤、光触媒、太陽電池、誘電体原料、Liイオン電池用電極材原料などの広い用途において、優れていて、有用である。
【0022】
・レーザー回折・散乱法によるD50(LD)、D90(LD)
酸化チタン粒子は、一般的にその一次粒子が凝集した二次粒子を形成していることが多い。酸化チタン粒子の凝集状態(一次粒子及び二次粒子の集合体)における粒度D50及びD90はレーザー回折式粒度分布装置により測定する(本明細書において上記D50及びD90をそれぞれD50(LD)及びD90(LD)という)。なお、粒子の粒度分布の測定法には、「超微粒子ハンドブック」齋藤進六監修,フジ・テクノシステム,p93,(1990)によると、沈降法、顕微鏡法、レーザー回折・散乱分析法(光散乱法)、直接計数法等があるが、このうち沈降法、直接計数法は測定可能な粒径が数百nm以上であり、粒径が100nm以下の微粒子の粒度分布を測定するには不適である。また、顕微鏡法も対象試料のサンプリングや試料の前処理によって測定値が変動することもあり、好ましい測定法とはいえない。これに対し、レーザー回折・散乱分析法(光散乱法)は数nm~数μmの範囲で粒径を測定することができ、微粒子の測定に適している。レーザー回折・散乱分析法(光散乱法)による粒度分布の測定手順の詳細については実施例にて説明する。
【0023】
本発明の一実施形態における酸化チタン粒子のD50(LD)は、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下である。D50(LD)は溶媒に溶いた際の実効径(凝集径)に相当し、より細かな数値であるほど良好な分散性を示す。
【0024】
また、D90(LD)の値が小さければ、酸化チタン粒子の凝集力が弱く、溶媒に対して良好な分散性を示していると判断される。本発明の一実施形態における酸化チタン粒子のD90(LD)は好ましくは3000nm以下であり、より好ましくは2000nm以下、更に好ましくは1000nm以下、より更に好ましくは600nm以下である。
【0025】
・電界放射型走査型電子顕微鏡による酸化チタン粒子の一次粒子のD10(SEM)、D50(SEM)、D90(SEM)、D99(SEM)
本発明の一実施形態における電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した酸化チタン粒子の一次粒子のD90(SEM)/D50(SEM)が1.0超2.0以下であることが好ましい。1.0超2.0以下であると、スラリー化、分散された酸化チタン粒子においても粒度の均一性が優れることができる。同様の観点からD90(SEM)/D50(SEM)は1.2超が好ましく、1.3以上、1.4以上、さらに1.5以上がより好ましい。測定手順の詳細については実施例にて説明する。
【0026】
本発明の一実施形態における電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した酸化チタン粒子の一次粒子のD99(SEM)/D50(SEM)の値が小さければ、均一な一次粒子の粒度分布を有していると判断される。酸化チタン粒子のD99(SEM)/D50(SEM)の値は、1.0超2.0以下であり、好ましくは1.9以下、より好ましくは1.8以下、最も好ましくは1.7以下であってよい。2.0以下であれば、粒度分布が均一であるので好ましい。また、1.1以上であってよい。
【0027】
上記の通り、D50(SEM)より大きな粒子に関する粒度分布の均一性の指標として、D90(SEM)/D50(SEM)が用いられるが、D50(SEM)よりも細かな粒子から大きな粒子まで含めた粒度分布全体の均一性を評価する指標として、〔D90(SEM)―D10(SEM)〕/D50(SEM)が用いられることがあり、本開示においても適用可能であり、値が小さいほど、均一な粒度分布を有していると判断される。本発明の一実施形態における〔D90(SEM)―D10(SEM)〕/D50(SEM)は、好ましくは0.82以下、より好ましくは0.80以下である。さらに、〔D90(SEM)―D10(SEM)〕/D50(SEM)は、0.75以下、0.71以下であってよい。
【0028】
本発明の一実施形態における酸化チタン粒子のD50(SEM)は、好ましくは10~100nm、より好ましくは10~50nm、さらに好ましくは10~30nmである。このような酸化チタン粒子は、サブミクロンの粒子径が求められる光触媒、太陽電池、誘電体などの用途において好適である。
【0029】
また、D90(SEM)の値が小さいと、D90(SEM)より大きい粒子の数が限られることから、本発明の一実施形態における酸化チタン粒子のD90(SEM)は好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。
【0030】
・動的光散乱法によるD50(DLS)、D90(DLS)
測定対象となる酸化チタン粒子を解砕して、動的光散乱法により、酸化チタン粒子のD50及びD90を測定する(本明細書において上記D50及びD90をそれぞれD50(DLS)及びD90(DLS)という)。D50(DLS)及びD90(DLS)は、動的光散乱法粒度分布装置により測定する。ここに、解砕とは、一次粒子を破壊することなく、二次粒子を分離する処理をいい、一次粒子が破壊される粉砕処理と異なる。この解砕処理された粒子の粒度分布は、二次粒子の解砕性及び分散性を示す指標であるが、一次粒子同士の結合状態や、凝集粒子のほぐれやすさを反映している。
【0031】
解砕処理は粉砕処理と類似する方法(特にボールミル処理)で行ってよいが、一次粒子を破壊することなく、二次粒子を分離するために、ボールの寸法及び重量、処理時間が調整される。動的光散乱法によるD50(DLS)、D90(DLS)は、酸化チタン粒子100gに純水300mlを加え、分散剤として酸化チタン重量当たり5%のポリカルボン酸型高分子分散剤(アクリル酸重合体100%アンモニウム塩)を加えてスラリーとし、このスラリーを1Lボールミル容器(ポリプロピレン製、寸法φ92mm×198mm)に仕込み、ジルコニアボール0.5mmφ(ニッカトー製YTZボール)を1.2kg加え、ボールミルの架台に載せ、7rpmで72時間回転して、解砕後の酸化チタンスラリーを得る。このようにして得た酸化チタンスラリーを、動的光散乱法粒度分布測定装置により、粒度分布(体積積算粒度分布)を測定する。粒度分布測定装置には、例えば大塚電子製のELS-Zなどを用いてよい。なお、解砕処理において粉砕が生じている場合は、粉砕によってスラリー中の酸化チタンの一次粒子径が小さくなりBET比表面積(m/g)が増加するため、解砕処理後のスラリーを100℃以下で乾燥させて得た酸化チタン粉末を、BET比表面積測定装置で測定して得られたBET比表面積が、解砕処理前の酸化チタン粉末のBET比表面積と比較して、有意差がないことで確認することができる。ここで、有意差とは、解砕処理前後の酸化チタン粉末のBET比表面積の差が測定時のばらつき偏差の範疇を超える差のことである。BET比表面積測定装置には、例えばマウンテック製比表面積測定装置(マックソーブ)などを用いてよい。測定手順の詳細は実施例にて説明する。
【0032】
D90(DLS)/D50(DLS)の値が小さければ、酸化チタン粒子が均一な粒度分布を有していると判断されることから、本発明の一実施形態における酸化チタン粒子のD90(DLS)/D50(DLS)は、1.0超2.0以下が好ましく、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.7以下、最も好ましくは1.6以下である。2.0以下であれば、粒度分布が均一であるので好ましい。また、1.1以上であってよい。
【0033】
D90(DLS)の値が小さければ、酸化チタン粒子の凝集力が弱く、解砕性が良好と判断できることから、本発明の一実施形態における酸化チタン粒子のD90(DLS)は、好ましくは500nm以下であり、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下であり、最も好ましくは100nmである。
【0034】
本発明の一実施形態におけるD90(DLS)及びD90(SEM)の両方の値が200nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下である。本発明の一実施形態におけるD90(DLS)/D90(SEM)の値が2.2以下であることが好ましく、1.1以上かつ2.0以下であってよい。2.2以下であるとほぐれ易い2次粒子の割合が多いことを示し、積層セラミックコンデンサーの誘電体に用いるときに短絡が生じにくい。D90(DLS)/D90(SEM)の値は、2.1以下がより好ましく、2.0以下がさらに好ましい。
【0035】
本発明の一実施形態における酸化チタン粒子のD50(DLS)は、好ましくは10~150nm、より好ましくは10~100nm、さらに好ましくは10~65nmである。D50(DLS)が小さいほど、親和性溶媒に対して良好に分散される傾向にある。
【0036】
・酸化チタン粗大粒子の粒子濃度
酸化チタン粒子における粗大粒子は、電界放射型走査型電子顕微鏡(SEM)により測定する一次粒子の寸法によって定義され、酸化チタン粗大粒子の含有量も、電界放射型走査型電子顕微鏡により測定される。測定手順の詳細は実施例に記載する。
【0037】
粗大な一次粒子と凝集粒子(二次粒子)は外観で区別すべきであり、例えば粗大な粒子は図1(a)の中央部に示すような外観をしている。図1(b)のように細かな一次粒子が集まって構成されている粒子は凝集粒子とみなし、粗大粒子としてカウントしない。粗大な粒子か凝集粒子か判別が難しい場合は、判別しやすい程度まで観察倍率を高めることが望ましい。
【0038】
本明細書において酸化チタンの粗大粒子とは、上記の測定方法で測定した一次粒子径がD50(SEM)の16倍を超える粒子をいう。本発明の一実施形態における酸化チタン粒子は、D50(SEM)の16倍を超える粒子濃度(個数基準)が20ppm以下である酸化チタン粒子であり、10ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることがさらに好ましい。
【0039】
積層セラミックコンデンサーの誘電体厚みは最先端のもので1μmを下回ると言われており、一実施形態の酸化チタンは、特定寸法以上の粒子をできるだけ含まないことが望ましい。一般に、積層セラミックコンデンサー内部の誘電層において、粗大な粒子が含まれる誘電体層では、粗大な粒子が含まれない誘電体層に比べて絶縁抵抗が低くなる傾向があり、絶縁不良による故障(短絡)が生じやすくなる。このように特定寸法以上の粗大粒子の含有濃度が小さいことは、酸化チタンの様々な用途において好ましい特性であり得る。
【0040】
・アナターゼ含有率
特許文献1に記載されているように、光電気化学活性においては、酸化チタンは、アナターゼ型が好ましい。本発明の一実施形態における酸化チタンのアナターゼ含有率(モル基準)は70%以上が好ましく、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは95%以上である。70%以上であれば、光電気化学活性が十分に発揮されるので好ましい。ここで、アナターゼ含有率とは、酸化チタン中におけるアナターゼ型結晶の含有率のことをいう。
【0041】
・BET比表面積
本発明の一実施形態における酸化チタン粒子のBET比表面積(m/g)は、均一性及び分散性に優れる酸化チタン粒子を得る観点から、5~200m/gが好ましく、より好ましくは10~150m/g、さらに好ましくは20~100m/gである。BET比表面積が5m/gより大きければ、微粒子が得られ好ましい。BET比表面積が200m/gより小さければ、適したBET比表面積のものが得られるので好ましい。
【0042】
・塩素(Cl)含有量
本発明の一実施形態における酸化チタン粒子のCl(塩素原子)濃度は0.20質量%以下であれば、その酸化チタン粒子を原料として使用した場合に後工程で問題となることが少なく好ましい。例えば、Cl濃度が0.20質量%を超える酸化チタン粒子をBaTiO等の原料に用いた場合、焼成時にフラックスの原因となる。溶融したフラックスは局在化し易く、その局在化した部分では凝集が多くなり、他の部分との間で品質にバラツキが生ずる。また、粒子が凝集するとBaTiO粒子の結晶が成長して異常粒子となり、BaTiOの誘電特性を低下させることにもなる。当該観点から、酸化チタン粒子中におけるCl含有量は、より好ましくは0.15質量%以下、さらに好ましくは0.10質量%以下である。
【0043】
・その他の不純物の含有量
本発明の一実施形態における酸化チタン粒子の、Na,Al,S,Fe,Ni,Cr,Nb及びZrの含有量はそれぞれ50質量ppm以下が好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましい。また、酸化チタン粒子中の、Si及びCの含有量はそれぞれ500質量ppm以下が好ましく、100質量ppm以下であることがより好ましい。このように不純物が少なければ、その酸化チタンを原料として使用した場合に後工程で問題となることが少ない。例えば、酸化チタン粒子を原料として誘電体を得たときに、不純物の存在により誘電特性が悪くなることが抑制される。また、当該酸化チタン粒子を光触媒又は太陽電池の用途に用いたときに、Feによる着色による透明性の低下が防止又は抑制され、また、Al、S等に起因する格子欠陥による光触媒又は太陽電池としての機能の低下が防止又は抑制される。
【0044】
本開示の酸化チタン粒子は、酸化チタンの含有量が99.0質量%以上であることが好ましく、より好ましくは99.9質量%以上である。これにより純度が高くなり、上記のような不純物による影響が小さい。
【0045】
[スラリー、分散体、組成物及び誘電体原料]
本発明の一実施形態におけるスラリー、分散体、組成物及び誘電体原料は、前述の酸化チタン粒子を含む。スラリーは、液体中に粒子が混ざっている混合物であるが、粘性の強い(ドロドロとした)流動物を言うことが多い。分散体は、液体中に固体粒子が分散している混合物を広く一般的に言い、低濃度のものを含む。組成物は、複数の成分から構成される組成物をいう。誘電体原料は、誘電体を製造するための原料をいう。一実施形態のスラリー、分散体、組成物及び誘電体原料は、光触媒用途や太陽電池用途、誘電体用途等に好適である。なお、酸化チタン粒子を含むスラリー、分散体、組成物のその他の用途は公知である。本開示の酸化チタン粒子を用いて、スラリー、分散体、組成物及び誘電体原料を製造する方法は公知の方法が使用できる。本発明の一実施形態における一実施形態の酸化チタン粒子を含むスラリー、分散体、組成物及び誘電体原料は、粗大粒子を含まないので、最終製品の均一性、品質に優れることができる。特に、積層セラミックコンデンサーの誘電体の薄膜化において、粗大粒子を含まないことは、短絡を防止し、品質向上に寄与する。積層セラミックコンデンサーの1例では、0.7μm以上、さらには0.5μm以上である粗大粒子をできるだけ少なくすることが望ましい。
【0046】
[酸化チタン粒子の製造方法]
本発明の一実施形態の酸化チタン粒子の製造方法を示す。
本発明の一実施形態の製造方法において、四塩化チタン及び不活性ガスを含有する原料ガス(G1)と、酸素ガス及び水蒸気の少なくとも1種並びに不活性ガスを含有する酸化性ガス(G2)とを、反応管に導入して反応させた後に冷却することで、酸化チタン粒子を製造する工程において、反応管内壁にパージ媒体の吹き出し口を設け、パージ媒体を反応管内壁に沿って旋回するように導入し、反応管の軸線に対して垂直な反応管の横断面に投影した面において、パージ媒体の吹き出し口と反応管中心軸線を結ぶ線に対して、反応管内壁からパージ媒体の吹き出し角度αが、50°以上であり、パージ媒体の吹き出し流速(B)が35m/s以上であることを特徴とする。
【0047】
反応管内壁からパージ媒体の吹き出し角度αを50°以上、パージ媒体の吹き出し流速(B)を35m/s以上とすることで、反応管においてパージ媒体を反応管壁に沿うように旋回させながら導入することができ、反応管壁近傍でのパージ媒体層の形成を促し、管壁面に酸化チタン粉が付着滞留することを防止し、酸化チタンの焼結を抑制することができる。
【0048】
以下に本発明の一実施形態の酸化チタン粒子の製造方法をより詳しく述べる。
(原料ガスG1)
原料ガスG1は、四塩化チタン及び不活性ガスを含有する。四塩化チタンの供給速度は、経済性の観点から100mol/hr以上であることが好ましく、200mol/hr以上がより好ましい。反応熱による焼結粒成長を抑える観点から、好ましくは5000mol/hr以下、より好ましくは3000mol/hr以下、さらに好ましくは2000mol/hr以下である。原料ガスG1中において、四塩化チタン1molに対する不活性ガスの含有量は、得られる酸化チタン粒子の粒径を小さく抑える観点から、好ましくは0.01mol以上、より好ましくは0.1mol以上、さらに好ましくは1mol以上である。また、反応を促進させる観点から、好ましくは50mol以下、より好ましくは10mol以下、より更に好ましくは5mol以下である。この不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられるが、経済的な観点から窒素ガスが好ましい。G1は600℃以上1,200℃未満に加熱(予熱)してから反応管に導入することが好ましく、700℃以上1200℃未満がより好ましく、800℃以上1200℃未満がさらに好ましい。
【0049】
(酸化性ガスG2)
酸化性ガスG2は酸素ガス及び水蒸気の少なくとも1種と不活性ガスとを含有する。酸化性ガスG2中の酸化性ガス及び水蒸気の合計量は、原料ガスG1中の四塩化チタン1モルに対し2~150モルであることが好ましく、より好ましくは2~50モルであり、さらに好ましくは2~15モルである。酸化性ガスG2の量を増やすと核発生数が増加して超微粒子が得られやすくなるのに加え、高温滞留時間が短縮されるために一次粒子径の均一性を向上させる。150モルを越えると生産性が悪化する。一方、四塩化チタン1モルに対し酸化性ガス及び水蒸気の少なくとも1種が2モル未満になると、酸素欠陥の多い酸化チタンとなり着色してしまう。不活性ガスを含有する酸化性ガスG2中の酸素ガス及び水蒸気の少なくとも1種の割合は、80~99.5モル%であることが好ましく、90~99.5モル%であることがより好ましい。G2は600℃以上1,200℃未満に加熱(予熱)してから反応管に導入することが好ましい。不活性ガスは原料ガスG1の項で説明したものと同様のものが好ましい。さらには原料ガスG1中と同一の不活性ガスであることが好ましい。
【0050】
(反応管)
原料ガス、酸化性ガス、パージ媒体、反応ガスの流れを均一にするために、反応管は、横型の反応管であってもよいが、円形断面の縦型の反応管が好ましく、加熱した反応管の上端から予熱した原料ガスと酸化性ガスとをそれぞれの供給管から反応管の下方に向かって導入し、反応管の側面からパージ媒体を反応管壁に沿う方向に導入して、パージ媒体を反応管壁に沿うように旋回させることができるものがより好ましい。反応管に対するパージ媒体の導入方向は、上記の角度αは50°以上であり、後述の角度βは60°以上であることが好ましい。反応管に導入された原料ガスと酸化性ガス、その混合ガスである反応ガスは、反応管を下方に向かって流れるが、冷却媒体等を導入することで、反応ガスを冷却して反応を停止させる。冷却ガスの導入角度は、反応ガスの流れに対して垂直、反応管の円形断面の中心に向かうものであってよいが、必ずしもこの角度でなくてもよい。冷却後の酸化チタン粒子と残りのガスは、反応管の下部で外部へ排出される。なお、反応ガスに反応生成物である酸化チタンが含まれてもよい。
【0051】
原料ガスG1及び酸化性ガスG2は、反応管の入口(端面側)から反応管の軸線方向に導入されるが、反応管入口(反応管の端面あるいは横断面)の断面積(S1)と原料ガスG1及び酸化性ガスG2の導入管出口の断面積の総和(S2)の比(S1/S2)は1以上7.0以下であることが好ましい。この範囲にすることで、反応領域の温度や高温帯域時間を均一に近づけることができる。ここで反応管入口の断面積(S1)は原料ガスG1及び酸化性ガスG2の導入管出口の断面積(S2)を含む断面積である。比(S1/S2)は、さらに好ましくは、1以上2.5以下、1以上2.0以下、1以上1.5以下である。導入管から供給された原料ガスG1及び酸化性ガスG2が反応管内で混合され、反応するが、酸化チタン粒子の成長を均一にさせるには反応領域の温度や高温帯域時間を均一に近づけることが好ましい。反応管の端面側から原料ガスG1及び酸化性ガスG2を導入する場合には、反応管断面積(S1)が原料導入管の断面積総和(S2)よりも小さい(S1/S2<1)場合は考えられない。S1/S2が2.5を超える場合、ガスの流れに対する垂直方向への拡散の影響が大きくなるため、一次粒子径は不均一となる場合がある。反応管に対して原料ガスG1及び酸化性ガスG2がそれぞれ反応管内のガス流れ方向に導入されることが好ましいが、限定されるわけではない。従来、S1/S2が2.5を超えると、一次粒子径を均一にすることは困難であると考えられていたが、本実施形態によれば、2.5を超える条件でも、パージ媒体の角度などの調整により粗大粒子の少ない酸化チタン粒子を作製できる。
【0052】
(反応温度及び反応時間)
原料ガスG1及び酸化性ガスG2を導入する反応領域内の温度は、好ましくは800℃以上1,200℃未満、より好ましくは800℃以上1,100℃未満である。反応領域の温度が800℃以上であれば、反応が十分に進行し、酸化チタン粒子の粒度分布が均一となり結晶性が高くなるので好ましい。反応領域温度を高くすることによって、混合と同時に反応が完結し、均一核発生が増進され、かつ、反応ゾーンを小さくすることができる。一方、反応管内温度が1,200℃未満であれば、粒子成長が適度に進行し、微粒子が得られ好ましい。
【0053】
反応領域中の原料ガスG1及び酸化性ガスG2の両方が800℃以上1,200℃未満の高温に滞留する時間は、好ましくは0.1秒以下、より好ましくは0.03秒以下、更に好ましくは0.02秒以下である。0.1秒以下であれば、過度の粒成長が起きず好ましい。反応ガスを冷却せず、高温域での滞留時間が長くなると、酸化チタン粒子が粒成長してしまい、また、粒子の焼結が進行してしまうことがある。
【0054】
反応管内に導入する原料ガスG1及び酸化性ガスG2は、事前に好ましくは600℃以上1,200℃未満、より好ましくは800℃以上1,200℃未満、さらに好ましくは800℃以上1,100℃未満に加熱(予熱)してから反応管内に導入することが好ましい。これによって反応時の原料ガスG1及び酸化性ガスG2の温度及び反応時間、製造する酸化チタン粒子の粒径分布をより精密に制御することができる。
【0055】
また、反応管の反応領域に続く冷却領域において、500℃を超える温度域が存在した場合、粒子同士の焼結は起こり得る。そこで、500℃以上の領域での滞留時間は、好ましくは1秒以下、より好ましくは0.5秒以下、更に好ましくは0.3秒以下である。1秒以下であれば、過度の粒成長が起きず好ましい。
【0056】
(原料ガス、酸化性ガス及び反応ガスの流量及び流速)
原料ガス及び酸化性ガスの流速は、反応管の入口からの導入速度(流量)と反応管の断面積から計算できる。原料ガスG1と酸化性ガスG2の反応後の反応ガス流の反応管の流量(m/s)は、原料ガスG1及び酸化性ガスG2の流量と、反応式から計算できる。反応管内の反応ガス流の流速(A)(m/s)は、簡便には、原料ガスと酸化性ガスは直ちに反応する仮定の下、原料ガスと酸化性ガスの反応後の反応ガス流の流量(m/s)の合計と、反応管の横断面積(m)とから計算してもよい。
【0057】
反応ガス流の流速(A)(m/s)は、好ましくは1m/s以上であり、より好ましくは10m/s以上、さらに好ましくは20m/s以上である。流速が1m/s未満では反応ガス流の滞留時間が長くなり、酸化チタンの過焼結及び粗大化が促進される恐れがある。
【0058】
パージ媒体)
パージ媒体として、空気や窒素ガス、一酸化炭素等のガスを導入する方法や、水を噴霧する方法等も好適に採用される。パージ媒体は0℃~100℃が好ましく、10℃~90℃がさらに好ましい。また後述する冷却媒体の温度を超えないことが好ましい。この温度範囲にあることで冷却媒体による冷却効果に悪影響を与えない。
【0059】
(パージ方法)
生成した酸化チタン粒子が反応管内壁に付着滞留した場合、焼結粒成長によって粗大化し、それが脱離して混入すると、粒度分布が不均一化する原因となり得る。そこで、反応管内壁若しくは反応管上部にパージ媒体の吹き出し口を設け、パージ媒体を反応管壁に沿うように旋回させながら導入することにより、反応管壁近傍でのパージ媒体層の形成を促し、管壁面に酸化チタン粒子が付着滞留することを防止することで、酸化チタン粒子の焼結を抑制する。パージ媒体は連続的又は断続的に導入することで酸化チタンの付着を防ぐ効果が期待できる。また、パージ孔の設置数は複数箇所設けることが好ましい。また、パージ媒体の吹き出し口の形状には、単孔やスリットの形状をとることができる。
【0060】
パージ媒体の吹き出しの条件(方向及び流速など))
本発明では、反応管内壁にパージ媒体の吹き出し口を設け、パージ媒体を反応管内壁に沿って旋回するように導入することを特徴とする。反応管では、パージ媒体が反応管内壁近傍を旋回することにより、反応管壁面への酸化チタン粒子の付着を防止することが期待できる。
【0061】
反応ガス流に対してパージ媒体を吹き出す方向が反応管内壁に近くないと、旋回流が保たれず、反応管壁面への酸化チタン付着防止の有効な効果が期待できない。
【0062】
本発明におけるパージ媒体の吹き出し方向は、反応ガスの流れ方向(反応管の軸線方向)に対して垂直な反応管の横断面への投影面において、パージ媒体の吹き出し口と反応管中心軸線を結ぶ線に対して、パージ媒体を吹き出す(パージ媒体の吹き出し口の軸線方向の)角度α(図3参照)を50°以上とする。ここで角度αは、反応管の横断面への投影面において吹き出し口が反応管に対して設定される角度であり、パージ媒体を吹き出し口から吹き出す角度と一致するものとする。パージ媒体は吹き出し口から吹き出した後、反応ガス流と合流するので反応管の横断面内を流れる方向は変化しえるが、角度αは、パージ媒体を吹き出し口の設定方向で決まる角度である。角度αが50°以上であることによって、パージ媒体を反応管内壁に近く旋回させることができ、反応管壁面への酸化チタンの付着を防止する効果が好ましく得られる。角度αは、好ましくは60°以上である。角度αは、一般的に90°未満である。
【0063】
また、反応管の軸線方向(反応ガスの流れ方向)を含む反応管の縦断面への投影面において、パージ媒体を反応管内に吹き出す方向は、反応管の軸線(反応ガスの流れ方向)に対して垂直な方向(縦型反応管であれば水平方向)であってよく、この反応管の軸線に対して垂直な吹き出し方向(縦型反応管では水平方向)は好ましいが、反応管の軸線に垂直な吹き出し方向から反応ガスの流れ方向に向かって傾斜していてもよい。反応ガスの流れ方向と逆の方向に吹き出すことは不可ではないが、反応ガスの逆流が起きうる。反応管の縦断面への投影面において、反応管の軸線方向に対してパージ媒体の吹き出し角度β(図4参照)は、反応管の軸線方向の反応ガスの流れる方向側を0°として、60°以上(反応管の横断面に対して30°以下の傾斜角度)であることが好ましく、70°以上はより好ましく、さらには80°以上であってよい。また、上記吹き出し角度βは、特に90°以下であることが好ましい。このような角度であれば、反応管壁面への酸化チタン付着防止効果に優れることができるので好ましい。
【0064】
反応管に対するパージ媒体の吹き出し口の設置個所は、パージ媒体が反応管内壁に沿って旋回できればよく、反応管の横断面への投影面において、1箇所でもよいが、2箇所又はそれ以上が好ましく、3箇所又はそれ以上がより好ましく、4箇所又はそれ以上であってもよい。一般的に、反応管の横断面の外周一周当りの吹き出し口の数は、角度αが大きいほど、またパージ媒体の流速が大きいほど、少なくてよい。また、パージ媒体の吹き出し口の設置個所は、反応管の縦断面への投影において、反応管の軸線方向に1段でもよいが、2段又はそれ以上の段にあることが好ましく、3段又はそれ以上の段でもよい。また、パージ媒体の吹き出し口は、反応管の縦断面への投影において、軸線方向における1又は2以上の同じ横断面内に複数箇所あることは好ましいが、反応管の内壁にらせん状に配置されてよく、必ずしも同じ横断面内に複数箇所なくてもよい。
【0065】
パージ媒体の吹き出し口は、反応領域中の原料ガス導入部付近から冷却領域手前までに設置してよく、好ましくはさらに冷却領域にも設置されて、これらの領域において反応管内壁に沿うパージ媒体の旋回流が形成されるようにすることが好ましい。
【0066】
パージ媒体の吹き出し流速(B)は、生成した酸化チタン粒子が反応管壁に付着することを防止するために、35m/s以上であり、50m/s以上が好ましく、60m/s以上がより好ましい。35m/s以上であれば、管壁面での旋回が十分となり、管壁面への酸化チタン付着防止のより良好な効果が期待できる。ここで、パージ媒体の吹き出しの流速(B)は、パージガス流量(m/s)を吹き出し口の断面積で除したもの(単位はm/s)とする。
【0067】
反応管内の原料ガスと酸化性ガスとから形成される反応ガスの流速(A)をA、パージ媒体の吹き出し流速(B)をBとしたとき、B/Aが0.5以上とすることが好ましく、1.0以上がより好ましく、3.0以上がさらに好ましく、5.0以上が最も好ましい。垂直方向流れである反応ガスの流速(A)に対し、旋回方向へ吹き出すパージ媒体の吹き出し流速(B)が0.5未満であると、旋回方向へのベクトルが十分に得られず、パージ媒体が旋回しづらく均一な粒子を得にくい。
【0068】
冷却媒体)
冷却媒体として、空気や窒素ガス、一酸化炭素等のガスを導入する方法や、水を噴霧する方法等も好適に採用される。冷却媒体は0℃~100℃が好ましく、10℃~90℃がさらに好ましい。この温度範囲にあることで冷却効果が高い。
【0069】
冷却媒体の吹き出しの条件(方向及び流速など)
本発明では、反応管内壁に冷却媒体の吹き出し口を設け、冷却媒体を吹き出し反応ガスと混ぜることで反応ガスを冷却する。
【0070】
反応ガス流に対して冷却媒体を吹き出す方向が反応管中心に近くないと、混ざりあわず十分な冷却効果が期待できない。
【0071】
本発明における冷却媒体の吹き出し方向は、反応ガスの流れ方向(反応管の軸線方向)に対して垂直な反応管の横断面への投影面において、冷却媒体の吹き出し口と反応管中心軸線を結ぶ線に対して、冷却媒体を吹き出す(冷却媒体の吹き出し口の軸線方向の)角度γ(図3参照)を0°以上50°未満とする。ここで角度γは、反応管の横断面への投影面において吹き出し口が反応管に対して設定される角度であり、冷却媒体を吹き出し口から吹き出す角度と一致するものとする。冷却媒体は吹き出し口から吹き出した後、反応ガス流と合流するので反応管の横断面内を流れる方向は変化しえるが、角度γは、冷却媒体吹き出し口の設定方向で決まる。角度γが0°以上50°未満であることによって、冷却媒体を反応管中心付近に流すことができ、反応ガスと十分に混ざり合い冷却効果が好ましく得られる。角度γは好ましくは30°未満である。
【0072】
また、反応管の軸線方向(反応ガスの流れ方向)を含む反応管の縦断面への投影面において、冷却媒体を反応管内に吹き出す方向は、反応管の軸線(反応ガスの流れ方向)に対して垂直な方向(縦型反応管であれば水平方向)であってよく、この反応管の軸線に対して垂直な吹き出し方向(縦型反応管では水平方向)は好ましいが、反応管の軸線に垂直な吹き出し方向から反応ガスの流れ方向に向かって傾斜していてもよい。反応ガスの流れ方向と逆の方向に吹き出すことは不可ではないが、反応ガスの逆流が起きうるので望ましくない。反応管の縦断面への投影面において、反応管の軸線方向に対して冷却媒体が吹き出される角度δ(図4参照)は、反応管の軸線方向の反応ガスの流れる方向側を0°として、例えば、60°以上(反応管の横断面に対して30°以下の傾斜角度)であることが好ましく、70°以上はより好ましく、さらには80°以上であってよい。また、上記吹き出し角度δは、特に90°以下であることが好ましい。このような角度であれば、冷却効果が優れるので好ましい。
【0073】
反応管内の原料ガス導入口から冷却媒体吹き出し口までを反応領域と呼び、冷却媒体の吹き出し口から排出口側を冷却領域と呼ぶ。冷却媒体吹き出し口が複数ある場合は反応管内の原料ガス導入口から最初の冷却媒体吹き出し口までを反応領域と呼び、最初の冷却媒体の吹き出し口から排出口側を冷却領域と呼ぶ。
【0074】
反応管に対する冷却媒体吹き出し口の設置個所は、冷却媒体が反応ガスと混ざり合えばよく、反応管の横断面への投影面において、1箇所でもよいが、2箇所又はそれ以上であってもよい。また、冷却媒体吹き出し口の設置個所は、反応管の縦断面への投影面において、反応管の軸線方向に1段でもよいが、2段又はそれ以上の段にあることが好ましく、3段又はそれ以上の段でもよい。また、冷却媒体吹き出し口は、反応管の縦断面への投影面において、軸線方向における1又は2以上の同じ横断面内に複数箇所あることが好ましい。
【0075】
パージ方法を示す模式図
図2~4は、第1工程(反応工程)の好適な実施形態を示す模式図である。
図2は、反応管1を側方から見た縦断面図(反応管の軸線を含む縦断面図)である。まず反応管1内に原料ガスG1及び酸化性ガスG2を導入する。このとき、反応管1内への原料ガスG1及び酸化性ガスG2の導入後の反応領域1’内温度が所定温度範囲内になるように、反応領域1’を予め加熱しておくことが好ましい。この反応管1内で反応ガス(原料ガスG1及び酸化性ガスG2に基づく)を所定時間滞留させる。また、反応管1の管壁にパージ媒体吹き出し口5が設けられ、連続的若しくは断続的にパージ媒体が導入される。さらに冷却媒体を冷却媒体吹き出し口3から吹き出して、原料ガス及び酸化性ガスを含む反応ガスを急冷し、反応生成物である粗酸化チタン粒子を冷却媒体と共に冷却領域2から流出させる。これにより、粗酸化チタン粒子を好適に製造することができる。得られた粗酸化チタン粒子は、第2工程(脱塩素工程)に送られる。
【0076】
図3は反応管1を上方(原料ガスG1及び酸化性ガスG2の導入側)から見た横断面図(反応管の軸線に対して垂直な横断面図)であり、反応管1のパージ媒体吹き出し口5から導入されるパージ媒体Pと、冷却媒体吹き出し口3から導入される冷却媒体Qを矢印で示している。パージ媒体の吹き出し角度をαとし、冷却媒体の吹き出し角度をγとしている。
【0077】
図4は反応管1を側方から見た縦断面図(反応管の軸線を含む縦断面図)であり、反応管1のパージ媒体吹き出し口5から導入されるパージ媒体Pと、冷却媒体吹き出し口3から導入される冷却媒体Qを矢印で示している。パージ媒体の吹き出し角度をβとし、冷却媒体の吹き出し角度をδとしている。
【0078】
パージ媒体の旋回流は、反応管の管壁付近を特定の条件で旋回することにより、酸化チタン粒子が管壁に付着し、滞留し、粒成長することを有効に防止することができる。また、パージ媒体の旋回流は、反応領域のみならず冷却領域にも形成することが好ましい。
【0079】
上記のとおり、反応装置は垂直型で上から下へ原料ガスG1、酸化性ガスG2、反応ガスRが流れる形式が代表的であるが、反応装置の型式がこれと異なる場合には、それに応じて上記の旋回角度の求め方は修正される。また、パージ媒体Pの導入方向も上記と同じである必要はないが、反応ガスRの流れに対するパージ媒体Pの旋回の角度βは上記と同様がよい。
【0080】
(脱塩素処理)
上記の如くして製造した粗酸化チタンは、好ましくは脱塩素処理される。酸化チタンの加熱による脱塩素は、水と酸化チタンとの質量比(=水蒸気の質量/酸化チタンの質量;以下同様)が0.01以上になるように酸化チタン粒子に水蒸気を接触させながら加熱温度200℃以上550℃以下に加熱して行うことが好ましい。更に好ましくは水と酸化チタンの質量比は0.04以上、加熱温度は250℃以上450℃以下である。加熱温度が550℃を越えると酸化チタン粒子の焼結が進み、一次粒子径が不均一化する。加熱温度が200℃を下回ると脱塩素の効率が極端に低下する。粒成長を抑制しつつ脱塩素化を図るためには水と酸化チタンの質量比も制御することが好ましく、水と酸化チタンの質量比が0.01以上であれば粒成長を抑制する効果が認められ、好ましくは0.01以上1以下、より好ましくは0.05以上2以下であり、さらに好ましくは0.2以上1.8以下である。
【0081】
酸化チタンと接触させる水蒸気は、酸化チタンから分離した塩素を効率良く系外に移動させる役割を有するガス、例えば、空気と混合して使用することが好ましい。空気を用いる場合、水蒸気は、空気に0.1容量%以上含まれることが好ましく、更に好ましくは5容量%以上、特に好ましくは10容量%以上80容量%以下である。水蒸気を含んだ空気は200℃以上1,000℃以下に加熱しておくことが好ましく、より好ましくは450℃以上850℃以下である。
【0082】
酸化チタンの脱塩素において、酸化チタンから除去された塩素を系外に移動させる方法として、脱塩素に用いる容器の内部を減圧にする方法も効果的である。容器内部の減圧度は0.5kPa以上であることが好ましい。さらに好ましくは0.5kPa以上3.5kPa以下である。ここでいう減圧度とは、減圧した容器内の圧力と大気圧との差圧を示す。
【0083】
本実施形態による酸化チタン粒子は粒子内部に塩素が殆ど存在せず、水洗等で除去できる粒子表面塩素が大半であるため、湿式で低塩素化することも可能である。湿式脱塩素方法には、例えば、酸化チタン粒子を純水に懸濁させ、液相に移行した塩素を限外ろ過膜、逆浸透膜、フィルタープレス等によって系外に分離する方法が挙げられる。
【0084】
・アナターゼ含有率
酸化チタンの反応において、反応工程での温度が高いほどアナターゼ含有率が低くなり、ルチル転移を生じやすいが、反応後の冷却媒体の導入により酸化チタンが受ける熱量を調整することで、アナターゼ含有率を調整することができる。また、反応工程での温度を低くしすぎると反応が完結せず、得られる酸化チタンの結晶性低下につながる。
【0085】
・不純物濃度
原料である四塩化チタンに含まれる不純物が少ないほど、酸化チタン中の不純物が少なくなるため、不純物の少ない高純度の四塩化チタンを用いることが好ましい。
【0086】
・BET比表面積
酸化チタンの反応において、反応工程での温度が高いほど酸化チタン同士の焼結が進行しやすく、BET比表面積が低下する。BET比表面積を向上させる手段として、反応場への希釈ガスの導入又は冷却によって焼結を抑制することが挙げられる。
【実施例
【0087】
以下、実施例及び比較例について具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0088】
なお、酸化チタン粒子についての物性の測定方法は以下のとおりである。
(1)アナターゼ含有率
酸化チタン粒子中におけるアナターゼ型結晶の含有量(アナターゼ含有率)は、粉末X線回折法により測定した。すなわち、乾燥させた酸化チタン粒子について、測定装置としてPANalytical社製「X’pertPRO」を用い、銅ターゲットを用い、Cu-Kα1線を用いて、管電圧45kV、管電流40mA、測定範囲2θ=10~80deg、サンプリング幅0.0167deg、走査速度0.0192deg/sの条件でX線回折測定を行った。アナターゼ型結晶に対応する最大ピークのピーク高さ(Ha)、ブルッカイト型結晶に対応する最大ピークのピーク高さ(Hb)、及びルチル型結晶に対応する最大ピークのピーク高さ(Hr)を求め、以下の計算式により、酸化チタン粒子中におけるアナターゼ型結晶の含有量(アナターゼ含有率)を求めた。
アナターゼ含有率(%)={Ha/(Ha+Hb+Hr)}×100
【0089】
(2)BET比表面積
酸化チタン粒子のBET比表面積(m/g)は、マウンテック製比表面積測定装置(マックソーブ)で測定した。測定用ガスには窒素を用いた。
【0090】
(3)塩素(Cl)含有量
硝酸銀電位差滴定法により、酸化チタン粒子中のCl含有量を測定した。すなわち、酸化チタン粒子を秤量した。次いで、この酸化チタン粒子の溶液に硝酸銀溶液を滴下して、電位差を測定することにより、溶液中の塩素原子の質量を求め、塩素含有量(質量%)を算出した。
【0091】
(4)走査型電子顕微鏡による酸化チタン粒子の一次粒子のD10(SEM)、D50(SEM)、D90(SEM)、D99(SEM)
試料1gをエタノール100mlに投入し、超音波照射(30W、5min)後、分散液をパスツールピペットで分取し、アルミ箔上に約0.05g滴下した。実験室雰囲気にて自然乾燥させ、SEM試料台にアルミ箔を固定し、電界放射型走査型電子顕微鏡(日立ハイテクフィールディング製S-5500)を用いて測定した。SEMの測定条件は加速電圧2.0kVとした。1視野当たりの一次粒子数が200~300個になるような画像を撮影し、その画像上の粒子約200~300個について各々の粒子の一次粒子径(円相当径、具体的にはHeywood径)を画像解析ソフトで求めた。画像解析ソフトは、住友金属テクノロジー株式会社製粒子解析Ver3や株式会社マウンテック製Mac-View Ver3を用いた。同じ試料の別の視野についても同様な操作を行い、一次粒子の算出に利用した粒子の合計が少なくとも1000個を超えるまで同じ操作を繰り返した。得られた個数基準での積算粒度分布における、粒度が小さい方からの基準量の積算合計値がそれぞれ全積算値の10%、50%、90%、99%であるときの粒度D10(SEM)、D50(SEM)、D90(SEM)及びD99(SEM)を算出した。
【0092】
(5)レーザー回折・散乱法による酸化チタン粒子のD50(LD) D90(LD)
100mlトールビーカーに、酸化チタン粒子0.05g、純水50ml及び10質量%ヘキサメタリン酸ソーダ水溶液100μlを加えてスラリーとし、φ8mmのテフロン(登録商標)棒を用いてトールビーカー内のスラリーを撹拌しながら3分間超音波を照射(50KHz、100W)した。撹拌は超音波照射開始1分間のみ行った。超音波槽は、槽内寸法230mm×200mm×152mmの箱型であり、水量は450mlであった。超音波照射の際のトールビーカーの位置は超音波槽の中心付近とした。このスラリーをマイクロトラック製レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラックMT3300EXII)にかけて、粒度分布(体積積算粒度分布)を測定した。D50(LD)及びD90(LD)を計算した。
【0093】
(6)動的光散乱法による解砕した酸化チタン粒子のD50(DLS) D90(DLS)
酸化チタン粒子100gに純水300mlを加え、分散剤として酸化チタン重量当たり5%のポリカルボン酸を加えたスラリーを作製しこれをボールミル容器に仕込み、ジルコニアボール0.5mmφを1.2kg加え、ボールミルの架台に載せ、7rpmで72時間回転して得た解砕酸化チタンスラリーを、動的光散乱法粒度分布測定装置(大塚電子製ELS-Z)にかけて、体積基準粒度分布を測定した。
【0094】
(7)粗大粒子の粒子濃度
電界放射型走査型電子顕微鏡を用い、1視野当たりの一次粒子数が例えば8000~12000個になるような画像を撮影し、D50(SEM)を考慮した特定寸法以上(例えば0.20μm以上、0.30μm以上など)の大きな粒子の有無を画像解析ソフトの粒子計測ツールを用いて確認し、特定寸法以上に相当する粒子が有る場合、その粒子の一次粒子径(円相当径、具体的にはHeywood径)を画像解析ソフトで求めた。同じ試料の別の視野についても同様な操作を行い、少なくとも100万個以上の粒子の観察に相当する視野について観察を行った。一次粒子径を測定した粗大粒子のうち、表2に記載した特定寸法以上の粗大な粒子数を、全観察粒子総数で除した数値を粗大粒子の含有量(粒子濃度)とした。全観察粒子総数は、1視野当たりの一次粒子数と観察視野数より算出処理した。
【0095】
(8)その他の不純物の含有量
不純物測定方法は、以下に示すとおりである。
Fe:原子吸光法(日立ハイテクノロジーズ製Z-2300形原子吸光光度計)
Al,Si:蛍光X線分析法(XRF)(理学電機工業製サイマルテックス10)
C,S:高周波誘導炉燃焼・赤外線吸収法
Na、Ni、Cr、Nb,Zr:誘導結合プラズマ-質量分析法
【0096】
実施例1
<第1工程>
円形断面の縦型反応管を用いて、1053mol/hrのガス状四塩化チタン(四塩化チタンの純度≧99.99質量%)を223mol/hrの窒素ガスで希釈して得た四塩化チタン希釈ガス(G1)を950℃に予熱し、982mol/hrの酸素と1786molNm/hrの水蒸気に22mol/hrの窒素ガスを混合して得た酸化性ガス(G2)を870℃に予熱し、これらのガス(G1及びG2)を、反応管の断面積(S1)と四塩化チタンを含むガス(G1)及び酸化性ガス(G2)の導入管の断面積の総和(S2)との比(S1/S2)が6.7である反応器の頂部に導入した。800℃以上1,200℃未満の高温滞留時間を0.05秒となるようにパージ空気及び冷却空気を反応管に反応管の側面から導入し、ポリテトラフルオロエチレン製バグフィルターにて粗酸化チタン粒子を反応管の下部で捕集した。その他の条件も含めて表1に示す。反応ガス流の流速(m/s)は、反応管の横断面積(m)と、原料ガスと酸化性ガスが反応後の反応ガス流の流量(m/s)から計算した。
【0097】
<第2工程>
得られた粗酸化チタン粒子を円筒形回転式加熱炉に通し、水蒸気と粗酸化チタンとの質量比(水蒸気の質量/粗酸化チタン粒子の質量)が0.06、加熱温度450℃で脱塩素して、酸化チタン粒子を得て、各種物性を測定した。その測定結果を表2に示す。
【0098】
実施例2~5
第1工程の各種条件を変えて行った。条件を表1に示す。第2工程は実施例1と同様にして実施した。測定結果を表2に示す。
【0099】
比較例1
パージ媒体の吹き出し角度α以外は実施例1と同様にして、第1工程及び第2工程を実施した。測定結果を表2に示す。
【0100】
比較例2
パージ媒体の吹き出し流速(B)以外は実施例2と同様にして、第1工程及び第2工程を実施した。測定結果を表2に示す。
【0101】
比較例3
原料ガスG1予熱温度、酸化性ガスG2流量及びパージ媒体の吹き出し流速(B)以外は実施例4と同様にして、第1工程及び第2工程を実施した。測定結果を表2に示す。
【0102】
比較例4(液相法)
四塩化チタン濃度が0.5モル/Lの水溶液を100℃で3時間加熱還流して加水分解し、超微粒子酸化チタンゾルを得た。得られた酸化チタンゾルを純水で繰り返し洗浄した後、熱風循環式乾燥機で120℃で12時間乾燥した。得られた酸化チタン粒子の各種物性を測定した。その測定結果を表2に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
表1~3を参照すると、実施例1~5と比較例1~3における気相法酸化チタン粒子では、表2に示す粒度分布に明確な差は見られないものの、実施例1~5においてD50(SEM)の16倍を超える粒子濃度が少なくなっており、特定角度以上の反応管壁へのパージ媒体導入によって粗大粒子の低減効果が得られていると考えられる。また、比較例4の液相法酸化チタン粒子では、特定寸法以上の粗大粒子が観察されなかったが、D50(LD)やD90(LD)が大きいため、分散媒への分散性が低いと考えられる。
【0107】
このように、本発明により、同等のBET比表面積を有する従来の酸化チタン粒子に比べ、粗大粒子が少なくかつ均一性・分散性に優れた気相法の酸化チタン粒子及びこれらの製造方法が提供される。本発明の酸化チタン粒子は、光触媒用途や、太陽電池用途、誘電体用途等に好適であり、粉体としても解砕工程等が不要若しくは極めて軽微な設備で済み、工業的に非常に大きな実用的価値を有するものである。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の酸化チタン粒子は、光触媒用途や、太陽電池用途、誘電体用途等に好適であり、また粉体としても解砕工程等が不要若しくは極めて軽微な設備で済み、工業的に非常に大きな実用的価値を有するものである。
【符号の説明】
【0109】
1 反応管
1’反応領域
2 冷却領域
3 冷却媒体吹き出し口
4 反応管中心
5 パージ媒体吹き出し口
G1 原料ガス
G2 酸化性ガス
P パージ媒体
Q 冷却媒体
R 反応ガス流方向
α パージ媒体の吹き出し角度(反応ガスの流れ方向に直交する面内)
β パージ媒体の吹き出し角度(反応ガスの流れ方向を含む面内)
γ 冷却媒体の吹き出し角度(反応ガスの流れ方向に直交する面内)
δ 冷却媒体の吹き出し角度(反応ガスの流れ方向を含む面内)
図1
図2
図3
図4