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特許7755979放射性核種製造システムおよび放射性核種製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-08
(45)【発行日】2025-10-17
(54)【発明の名称】放射性核種製造システムおよび放射性核種製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21G 1/10 20060101AFI20251009BHJP
   G21K 5/08 20060101ALI20251009BHJP
   G21G 4/08 20060101ALI20251009BHJP
【FI】
G21G1/10
G21K5/08 R
G21G4/08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021191306
(22)【出願日】2021-11-25
(65)【公開番号】P2023077836
(43)【公開日】2023-06-06
【審査請求日】2024-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】田所 孝広
(72)【発明者】
【氏名】前田 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】西田 賢人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 敬仁
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 貴裕
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-507397(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135196(WO,A1)
【文献】特開2021-004807(JP,A)
【文献】特開2020-183926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21G 1/00-7/00
G21H 1/00-7/00
G21J 1/00-5/00
G21K 1/00-3/00
G21K 5/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性核種を生成して分離精製する放射性核種製造システムであって、
粒子線を生成する粒子線照射装置と、
前記粒子線の照射によって放射性核種を生成する複数のターゲットと、
前記ターゲットから放射性核種を分離精製する分離精製装置と、を備え、
複数の前記ターゲットは、前記粒子線の照射によって放射性核種を生成させる照射処理を受ける照射ターゲット群と、前記ターゲットから放射性核種を分離精製する分離精製処理を受ける精製ターゲット群と、に分割され、
前記照射ターゲット群は、前記ターゲットが前記粒子線の照射方向に沿って互いに重なるように配置されて前記粒子線が交差するように照射される配置であり、
前記照射ターゲット群と前記精製ターゲット群とが互いに並行的に処理される放射性核種製造システム。
【請求項2】
請求項1に記載の放射性核種製造システムであって、
照射処理および分離精製処理におけるターゲット条件または前記粒子線の照射条件を選定する制御装置を備え、
前記ターゲット条件は、前記照射ターゲット群のターゲットの数、前記精製ターゲット群のターゲットの数、前記照射ターゲット群のターゲットの構成、前記精製ターゲット群のターゲットの構成、および、前記照射ターゲット群のターゲットの配置のうちの一以上であり、
前記制御装置は、測定された前記精製ターゲット群のターゲットから分離精製された前記放射性核種の量に基づいて、前記ターゲット条件または前記照射条件を選定する放射性核種製造システム。
【請求項3】
請求項2に記載の放射性核種製造システムであって、
前記制御装置は、
前記ターゲット毎に含まれる原料核種の量、または、前記原料核種の核変換によって生成された放射性核種の量の測定結果を参照し、
測定された前記精製ターゲット群のターゲットから分離精製される放射性核種の量が、予め設定された前記放射性核種の目標製造量となるように、前記ターゲット条件または前記照射条件を選定する放射性核種製造システム。
【請求項4】
請求項1に記載の放射性核種製造システムであって、
照射処理および分離精製処理におけるターゲット条件または前記粒子線の照射条件を選定する制御装置を備え、
前記ターゲット条件は、前記照射ターゲット群のターゲットの数、前記精製ターゲット群のターゲットの数、前記照射ターゲット群のターゲットの構成、前記精製ターゲット群のターゲットの構成、および、前記照射ターゲット群のターゲットの配置のうちの一以上であり、
前記制御装置は、前記ターゲットが受けた前記照射処理および前記分離精製処理の履歴に基づいて、前記ターゲット条件または前記照射条件を選定する放射性核種製造システム。
【請求項5】
請求項4に記載の放射性核種製造システムであって、
前記制御装置は、
前記ターゲットが受けた前記照射処理および前記分離精製処理の履歴に基づいて、前記ターゲット毎に含まれる原料核種の量、または、前記原料核種の核変換によって生成された放射性核種の量を推定し、
推定された前記原料核種の量、または、推定された前記放射性核種の量に基づいて、前記精製ターゲット群のターゲットから分離精製される放射性核種の量を予測し、
予測された前記精製ターゲット群のターゲットから分離精製される放射性核種の量が、予め設定された前記放射性核種の目標製造量となるように、前記ターゲット条件または前記照射条件を選定する放射性核種製造システム。
【請求項6】
請求項1に記載の放射性核種製造システムであって、
前記照射処理または前記分離精製処理の異常を検知する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記ターゲットが受けた前記照射処理および前記分離精製処理の履歴と、測定された前記精製ターゲット群のターゲットから分離精製された放射性核種の量とに基づいて、前記照射処理または前記分離精製処理の異常を検知する放射性核種製造システム。
【請求項7】
請求項6に記載の放射性核種製造システムであって、
前記制御装置は、
前記ターゲットが受けた前記照射処理および前記分離精製処理の履歴に基づいて、前記ターゲット毎に含まれる原料核種の量、または、前記原料核種の核変換によって生成された放射性核種の量を推定し、
推定された前記原料核種の量、または、推定された前記放射性核種の量に基づいて、前記精製ターゲット群のターゲットから分離精製される放射性核種の量を予測し、
予測された前記精製ターゲット群のターゲットから分離精製される放射性核種の量と、測定された前記精製ターゲット群のターゲットから分離精製された放射性核種の量との差分が閾値以上であるとき、前記照射処理または前記分離精製処理に異常があると判定する放射性核種製造システム。
【請求項8】
請求項1に記載の放射性核種製造システムであって、
前記粒子線照射装置が電子線形加速器である放射性核種製造システム。
【請求項9】
請求項1に記載の放射性核種製造システムであって、
アクチニウム225(Ac-225)を製造する放射性核種製造システム。
【請求項10】
請求項1に記載の放射性核種製造システムであって、
前記ターゲットの数が10個以下である放射性核種製造システム。
【請求項11】
請求項1に記載の放射性核種製造システムであって、
前記照射ターゲット群と前記精製ターゲット群とが互いに並行的に処理され、前記照射ターゲット群および前記精製ターゲット群のうちの一部のターゲットを入れ替えることを特徴とする放射性核種製造システム。
【請求項12】
放射性核種を生成して分離精製する放射性核種製造方法であって、
粒子線の照射によってターゲットに放射性核種を生成させる照射処理と、
前記ターゲットから放射性核種を分離精製する分離精製処理と、を含み、
複数の前記ターゲットを、前記照射処理を受ける照射ターゲット群と、前記分離精製処理を受ける精製ターゲット群と、に分割し、
前記照射ターゲット群を、前記ターゲットが前記粒子線の照射方向に沿って互いに重なるように配置して前記粒子線を交差するように照射し、
前記照射ターゲット群と前記精製ターゲット群とを互いに並行的に処理して放射性核種を製造する放射性核種製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のターゲットを照射ターゲット群と精製ターゲット群とに分割して並行的に処理する放射性核種製造システムおよび放射性核種製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線核種は、核医学診断に使用されてきた。放射性核種を標識とした診断方法として、ポジトロン断層撮影法(PET:Positron Emission Tomography)や、単一光子放射断層撮影法(SPECT:Single Photon Emission Computed Tomography)等が行われている。
【0003】
近年では、このような核医学診断に加え、放射線核種を治療に用いるRI内用療法が注目を集めている。RI内用療法とは、がん等の目的の組織に選択的に集積する薬剤に放射線核種を組み込み、その薬剤を体内に投与して、目的の組織に放射線を直接照射して治療を行う方法である。
【0004】
従来のRI内用療法は、β線源を用いたものであり、古くはI-131による甲状腺がん治療が1940年代から実施されている。一方、近年では、飛程が短く線エネルギ付与が高いα線源を用いたRI内用療法が、治療効果の高さから注目されている。
【0005】
RI内用療法に用いられるα線放出核種としては、アクチニウム225(Ac-225)、ラジウム223(Ra-223)、アスタチン211(At-211)等がある。特に、Ac-225は、その娘核種もα線放出核種であり、最大4回の壊変によって高い治療効果を得ることができる。
【0006】
従来、アクチニウム225(Ac-225)は、トリウム229(Th-229)からの崩壊によって生産されている。Th-229は自然界には無く、ウラン233(U-233)からの崩壊によって生成されている。しかし、核物質防護の関係で供給量が不足する懸念があるため、加速器を用いた製造が望まれている。
【0007】
加速器を用いてAc-225を製造する方法には、製造上の課題が存在している。サイクロトロンで加速された陽子のRa-226中の飛程は短いため、ターゲットを厚くしても、Ac-225を大量に製造できないという課題がある。陽子エネルギの殆どをターゲット中で失うが、ターゲットの十分な除熱が難しいため、陽子エネルギを従来よりも高くすることは困難である。
【0008】
特許文献1には、粒子ビームによる熱負荷を冷却するという制限の中で、少ないターゲット材料で効率良く目的の放射性核種を製造するための放射性核種製造装置が記載されている。この装置は、放射性核種を生成するための互いに重ね合わされて配列された複数枚のターゲット材料板を備え、粒子ビームがターゲット材料板に照射されることにより放射性核種を生成させる構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-156143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1では、粒子ビームによる熱負荷を冷却するという制限の中で、少ないターゲット材料で効率良く目的の放射性核種を製造するために、複数枚のターゲット材料板の直径または平均厚みを調整している。しかし、特許文献1では、ターゲット材料板から目的の放射性核種を分離精製する処理が考慮されていない。放射性核種の分離精製処理には時間がかかるため、放射性核種の製造量を向上させたり、放射性核種を必要時に過不足少なく供給したりすることが困難な現状がある。
【0011】
そこで、本発明は、放射性核種の製造量の向上や、放射性核種の必要時に対する過不足少ない供給を可能にする放射性核種製造システムおよび放射性核種製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために本発明に係る放射性核種製造システムは、放射性核種を生成して分離精製する放射性核種製造システムであって、粒子線を生成する粒子線照射装置と、前記粒子線の照射によって放射性核種を生成する複数のターゲットと、前記ターゲットから放射性核種を分離精製する分離精製装置と、を備え、複数の前記ターゲットは、前記粒子線の照射によって放射性核種を生成させる照射処理を受ける照射ターゲット群と、前記ターゲットから放射性核種を分離精製する分離精製処理を受ける精製ターゲット群と、に分割され、前記照射ターゲット群は、前記ターゲットが前記粒子線の照射方向に沿って互いに重なるように配置されて前記粒子線が交差するように照射される配置であり、前記照射ターゲット群と前記精製ターゲット群とが互いに並行的に処理される。
【0013】
また、本発明に係る放射性核種製造方法は、放射性核種を生成して分離精製する放射性核種製造方法であって、粒子線の照射によってターゲットに放射性核種を生成させる照射処理と、前記ターゲットから放射性核種を分離精製する分離精製処理と、を含み、複数の前記ターゲットを、前記照射処理を受ける照射ターゲット群と、前記分離精製処理を受ける精製ターゲット群と、に分割し、前記照射ターゲット群を、前記ターゲットが前記粒子線の照射方向に沿って互いに重なるように配置して前記粒子線を交差するように照射し、前記照射ターゲット群と前記精製ターゲット群とを互いに並行的に処理して放射性核種を製造する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、放射性核種の製造量の向上や、放射性核種の必要時に対する過不足少ない供給を可能にする放射性核種製造システムおよび放射性核種製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る放射性核種製造システムの構成を示す図である。
図2】密封式ターゲットの構造を説明する説明図である。
図3】非密封式ターゲットの構造を説明する説明図である。
図4】照射処理および分離精製処理を繰り返したときのRa-225の生成量と処理の日数との関係の計算結果を示す図である。
図5】照射処理および分離精製処理を繰り返したときのAc-225の生成量とターゲット数との関係の計算結果を示す図である。
図6】第2実施形態に係る放射性核種製造システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る放射性核種製造システムおよび放射性核種製造方法について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において、共通する構成については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0017】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る放射性核種製造システムの構成を示す図である。
図1に示すように、第1実施形態に係る放射性核種製造システム1は、粒子線照射装置10と、照射部20と、分離精製装置30と、複数のターゲット40と、を備えている。複数のターゲット40は、システム内において、照射ターゲット群40aと精製ターゲット群40bとに分割されている。
【0018】
放射性核種製造システム1は、原料核種を核反応によって核変換して所定の放射性核種を製造する装置である。原料核種の核反応は、原料核種に粒子線または制動放射線を照射することによって惹起される。放射性核種製造システム1では、放射性核種を製造する製造単位として、可搬式のターゲット40を用いる。ターゲット40には、核反応によって所定の放射性核種に核変換される原料核種が所定の化学形態で保持される。
【0019】
放射性核種製造システム1を用いた放射性核種の製造方法は、複数のターゲット40を照射ターゲット群40aと精製ターゲット群40bとに分割して配置する工程と、粒子線11の照射によって照射ターゲット群40aのターゲット40に放射性核種を生成させる照射処理を行う工程と、精製ターゲット群40bのターゲット40から放射性核種を分離精製する分離精製処理を行う工程と、を含む。
【0020】
粒子線照射装置10は、放射性核種の製造時に、原料核種の核反応に必要な粒子線11を生成して照射部20に照射する。照射部20は、粒子線11が照射される部位である。照射部20には、原料核種を含むターゲット40が配置されて照射処理を受ける。照射部20には、1個以上のターゲット40が配置される。照射部20に配置されるターゲット40は、一括して照射処理を受ける照射ターゲット群40aを構成する。
【0021】
照射処理は、粒子線照射装置10が生成した高エネルギの粒子線11の照射によってターゲット40に放射性核種を生成させる処理である。照射処理では、ターゲット40に含まれる原料核種に核反応の閾値以上のエネルギを持つ粒子線または制動放射線を照射する。原料核種は、粒子線または制動放射線の照射による核反応によって所定の放射性核種に核変換される。
【0022】
原料核種に対しては、利用する核反応等に応じて、粒子線照射装置10が生成した粒子線11を照射してもよいし、粒子線照射装置10が生成した粒子線11を制動放射線発生用のターゲット材に照射して発生させた制動放射線を照射してもよい。制動放射線発生用のターゲット材は、照射部20に配置したり、ターゲット40を形成する材料として用いたりすることができる。
【0023】
分離精製装置30は、所定の放射性核種をターゲット40から分離精製する装置である。照射ターゲット群40aのうちの一部は、照射処理を受けた後に、分離精製装置30に搬送される。分離精製装置30には、核反応によって所定の放射性核種が生成されたターゲット40が配置されて分離精製処理を受ける。分離精製装置30には、1個以上のターゲット40が配置される。分離精製装置30に配置されるターゲット40は、一括して分離精製処理を受ける精製ターゲット群40bを構成する。
【0024】
分離精製処理は、ターゲット40から目的の放射性核種を分離精製する処理である。分離精製処理では、照射処理によって生成された所定の放射性核種を含む原料をターゲット40から分離する。そして、分離された原料に含まれる目的の放射性核種を適宜の化学形態の物質として精製する。精製ターゲット群40bのターゲット40は、分離精製処理を受けた後に、原料核種を含む原料を保持させて再利用できる。
【0025】
放射性核種製造システム1において、複数のターゲット40は、放射性核種の製造時に、互いに同時期に運用される。照射処理の後において、複数のターゲット40のうちの一部は、精製ターゲット群40bに属し、分離精製装置30に配置されて分離精製処理を受ける。複数のターゲット40のうちの残部は、照射ターゲット群40aに属し、照射部20に配置されて照射処理を受ける。照射ターゲット群40aと、精製ターゲット群40bとは、互いに同時期に並行的に処理される。複数のターゲット40のうちの一部は、将来の所定の目標供給時期に所定の目標供給量の放射性核種を製造する或る製造要求に対応し、複数のターゲット40のうちの残部は、別の製造要求に対応することができる。
【0026】
照射処理および分離精製処理は、所定の時間単位で繰り返すことができる。処理の時間単位は、製造しようとする目的の放射性核種や、分離精製処理に用いる方法等に応じて、1~24時間内の時間単位、1日単位等とすることができる。所定の時間単位の処理毎に、1回の照射処理および分離精製処理を並行的に行い、照射ターゲット群40aおよび精製ターゲット群40bのうちの一部のターゲット40を入れ替えることができる。
【0027】
所定の時間単位の処理が終了した際には、照射処理を受けた照射ターゲット群40aのターゲット40のうち、所定量以上の放射性核種が生成されたターゲット40を、精製ターゲット群40bに移行させることができる。分離精製処理を受けた精製ターゲット群40bのターゲット40は、原料核種を含む原料を保持させて照射ターゲット群40aに返送することができる。或いは、分離精製処理を受けたターゲット40を取り除き、原料核種を含む原料を保持させた新規のターゲット40を照射ターゲット群40aに追加することができる。
【0028】
システム内で運用されるターゲット40の総数は、処理の繰り返しを通じて、一定に維持されることが好ましい。ターゲット40の総数が一定であると、照射ターゲット群40aおよび精製ターゲット群40bへのターゲット40の分配比や、粒子線11の照射条件の選定を行う場合に、1回の処理当たりの放射性核種の製造量を容易に制御することができる。また、システム内で運用されるターゲット40の稼働率が高くなり、放射性核種の製造コストが抑制される。
【0029】
ターゲット40には、原料核種を含む適宜の化学形態の原料を保持させることができる。原料は、固体、液体および気体のいずれであってもよい。原料核種としては、製造しようとする目的の放射性核種に応じて、適宜の核種を用いることができる。原料核種の具体例としては、ラジウム-226(Ra-226)、モリブデン-100(Mo-100)、亜鉛-68(Zn-68)、ハフニウム-178(Hf-178)、ゲルマニウム-70(Ge-70)等が挙げられる。
【0030】
原料核種を核変換する核反応としては、製造しようとする目的の放射性核種、原料核種の種類、必要なエネルギ等に応じて、制動放射線による(γ,n)、(γ,p)、(γ,2n)、(γ,pn)等の光核反応や、荷電粒子線、重粒子線等の粒子線による核反応等、適宜の核反応を用いることができる。
【0031】
放射性核種製造システム1で製造する放射性核種は、特に制限されるものではない。製造する放射性核種としては、RI内用療法に用いられる治療用薬剤の原料や、放射線診断に用いられる放射性標識試薬等として有用な点で、α線放出核種、β線放出核種またはγ線放出核種が好ましく、α線放出核種が特に好ましい。製造する放射性核種は、原料核種の核反応によって生成する娘核種であってもよいし、原料核種の核反応の後に娘核種の放射性壊変によって生成する子孫核種であってもよい。
【0032】
粒子線照射装置10は、小型の装置で高エネルギの粒子線11を生成できる点で、電子等の荷電粒子を発生させる線源と、荷電粒子を加速させる加速器と、を備える装置が好ましい。加速器としては、製造する放射性核種の種類や、利用する核反応等に応じて、線形加速器等の適宜の装置を用いることができる。
【0033】
照射部20は、複数のターゲット40を支持可能なホルダ、複数のターゲット40を収容可能な密封容器等で構成することができる。照射部20では、粒子線11の照射処理を、照射ターゲット群40aを構成する1個以上のターゲット40に対して同時に行う。ターゲット40に含まれる原料核種に制動放射線を照射する場合、制動放射線発生用のターゲット材は、ホルダと共に配列させたり、密封容器の一部として設けたりすることができる。
【0034】
分離精製装置30は、放射性核種を含む所定の化学形態の物質をターゲット40から分離する処理や、所定の放射性核種を所定の化学形態の物質から分離する処理や、放射性核種を含む所定の化学形態の物質を精製する処理等を行う。分離精製装置30では、放射性核種の分離精製処理を、精製ターゲット群40bを構成する1個以上のターゲット40に対して同時または順次に行うことができる。
【0035】
分離精製装置30の分離処理を行う分離部としては、ターゲット40に保持される原料の化学形態に応じて、ターゲット40から原料を回収する自動装置、原料を溶解する溶解装置等を備えることができる。分離精製装置30の精製処理を行う精製部としては、精製する放射性核種に応じて、クロマトグラフ、遠心分離器、沈降分離器、蒸発分離器等を備えることができる。
【0036】
ターゲット40は、照射部20と分離精製装置30との間を自動または手動で搬送可能とされる。ターゲット40の自動搬送は、ロボットアーム、コンベア等の適宜の自動搬送装置によって行うことができる。ターゲット40には、照射処理および分離精製処理でハンドリングされる最小単位の原料が保持される。
【0037】
図2は、密封式ターゲットの構造を説明する説明図である。図3は、非密封式ターゲットの構造を説明する説明図である。
図2および図3に示すように、ターゲット40は、原料核種を含む原料401を容器に収容した状態で保持する密封式ターゲット41とされてもよいし、原料核種を含む原料401を容器に収容してなく露出した状態で保持する非密封式ターゲット42とされてもよい。
【0038】
原料401としては、例えば、Ac-225を製造する場合、Ra-226を含む適宜の化学形態の物質を用いることができる。Ra-226は、Ra-226(γ,n)Ra-225反応によってRa-225となる。Ra-225は、半減期14.9日でβ崩壊してAc-225となる。Ra-226は、α崩壊によってRn-222となる。希ガスであるRn-222は、周囲に拡散し易いため、原料401を密封することが好ましい。
【0039】
密封式ターゲット41は、原料核種を含む原料401と、板状のカートリッジとして設けられた原料保持板402と、原料401等を気密に密封可能な開閉自在の密封容器403と、を備える。原料401は、原料保持板402上に保持される。原料保持板402は、密封容器403に収容される。密封容器403には、複数枚の原料保持板402を、粒子線11の照射方向に沿って互いに重なるように収容できる。
【0040】
密封式ターゲット41によると、核反応や放射性壊変によって気体の放射性物質が発生する場合に、ターゲット単位で放射性物質の漏洩を防止できる。ターゲット40の搬送時においても、原料核種や核反応によって生成された放射性核種をターゲット単位で安全に取り扱うことができる。なお、密封式ターゲット41には、一枚の原料保持板402を収容してもよいし、複数枚の原料保持板402を収容してもよい。
【0041】
非密封式ターゲット42は、原料核種を含む原料401と、板状のカートリッジとして設けられた原料保持板402と、を備える。原料401は、原料保持板402上に保持される。非密封式ターゲット42は、核反応や放射性壊変によって気体の放射性物質が発生する場合、密封構造とした照射部20に収容することが好ましい。密封構造の照射部20には、複数枚の原料保持板402を、粒子線11の照射方向に沿って互いに重なるように収容できる。
【0042】
非密封式ターゲット42によると、粒子線照射装置10が生成した粒子線11が密封容器403によって減弱しないため、原料401に対して高線量を照射できる。また、分離精製処理を受けたターゲット40を再利用する場合に、密封容器403から原料401を分離する操作や、密封容器403に原料401を再保持させる操作が不要になる。そのため、ターゲット40を再利用する処理の自動化が容易になる。
【0043】
図1に示すように、粒子線照射装置10が生成した粒子線11は、互いに重なるように配置された照射ターゲット群40aのターゲット40に対して、交差するように照射することが好ましい。このような照射を行うと、複数のターゲット40で原料核種の核反応を惹起させて所定の放射性核種を生成させることができる。
【0044】
ターゲット40に含まれる原料核種に制動放射線を照射する場合、制動放射線発生用のターゲット材を、照射部20のうち、照射ターゲット群40aよりも粒子線11の照射方向における入射側に設置することができる。或いは、制動放射線発生用のターゲット材を、ターゲット40の原料401や、原料保持板402や、密封容器403の材料として用いることができる。
【0045】
制動放射線発生用のターゲット材としては、原子番号が大きく、且つ、密度が高い物質を用いることができる。制動放射線発生用のターゲット材としては、タングステン(W)、タンタル(Ta)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)や、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)等の白金族が挙げられる。
【0046】
制動放射線発生用のターゲット材を、照射部20の粒子線11の照射方向における入射側に設置した場合、粒子線11は、照射部20の入射側に設けたターゲット材に入射して制動放射線を放出させる。一方、制動放射線発生用のターゲット材を、ターゲット40の材料として用いた場合、粒子線11は、粒子線11の照射方向における最も入射側に配置された最前段のターゲット40のターゲット材に入射し、制動放射線を放出させる。また、最前段のターゲット40を透過した場合、次段以降のターゲット40のターゲット材に入射し、最前段のターゲット40よりも低線量の制動放射線を放出させる。
【0047】
いずれの場合においても、制動放射線は、照射ターゲット群40aのターゲット40のうち、粒子線11の照射方向における最も入射側に配置された最前段のターゲット40の原料核種に照射される。また、最前段のターゲット40等を透過した場合、次段以降のターゲット40の原料核種にも照射される。入射側に配置されたターゲット40ほど、原料核種の量当たりの核反応によって生成される放射性核種の量が多くなる。
【0048】
荷電粒子等の粒子線11は、透過力が低く、構造物によって遮蔽され易い。一方、制動放射線は、透過力が高く、構造物によって遮蔽され難い。そのため、制動放射線発生用のターゲット材を、照射部20の粒子線11の照射方向における入射側に設置した場合には、ターゲット40の原料401や、原料保持板402や、密封容器403の材料として用いた場合と比較して、次段以降のターゲット40で生成される放射性核種の量を増加させることができる。
【0049】
システム内で運用される複数のターゲット40は、照射ターゲット群40aおよび精製ターゲット群40bに対して、1回の処理毎に適宜の分配比で配置することができる。照射ターゲット群40aおよび精製ターゲット群40bへのターゲット40の分配比は、放射性核種の目標供給時期、放射性核種の目標供給量、原料核種や生成核種の安定性等に応じて選定することができる。
【0050】
照射ターゲット群40aを構成するターゲット40の数や、精製ターゲット群40bを構成するターゲット40の数は、1個以上である限り、特に限定されるものではない。照射ターゲット群40aのターゲット40の数は、精製ターゲット群40bのターゲット40の数よりも多いことが好ましい。照射ターゲット群40aおよび精製ターゲット群40bを合計したターゲット40の総数は、10個以下であることが好ましい。
【0051】
一般に、分離精製処理の所要時間は、放射性核種の分離精製量に依存し難い一方で、照射処理の所要時間と比較して長くなる。照射ターゲット群40aのターゲット40の数が、精製ターゲット群40bのターゲット40の数よりも多いと、所定の分離精製量を継続的に確保しつつ、核反応によって生成される放射性核種の量を増加させることができる。
【0052】
精製ターゲット群40bには、照射処理を受けた照射ターゲット群40aのターゲット40のうち、核反応によって生成された放射性核種の量が多いターゲット40を移行させることが好ましい。例えば、粒子線11の照射方向における入射側に配置された最前段のターゲット40や、粒子線11の照射方向における入射側に配置された複数のターゲット40を、照射部20から分離精製装置30に搬送することができる。
【0053】
放射性核種の製造時には、核反応によって生成される放射性核種の量や、核反応後に残留した未反応の原料核種の量や、ターゲット40から分離精製される放射性核種の量を、経時的に測定することが好ましい。放射性核種の量は、シンチレーション検出器、半導体検出器等を用いたガンマ線カウントによって測定することができる。
【0054】
放射線核種の量を経時的に測定すると、一般的な製造管理を行えるだけでなく、ターゲット40の数、構成、配置等の条件や、粒子線11の照射条件を、ターゲット40の状態に応じて選定することが可能になる。これらのパラメータは、放射性核種の目標供給時期、放射性核種の目標供給量、原料核種や放射性核種の安定性等に応じて、1回の処理毎に変更することができる。
【0055】
図4は、照射処理および分離精製処理を繰り返したときのRa-225の生成量と処理の日数との関係の計算結果を示す図である。図5は、照射処理および分離精製処理を繰り返したときのAc-225の生成量とターゲット数との関係の計算結果を示す図である。
図4には、Ra-226(γ,n)Ra-225反応によるRa-225の生成量と、照射処理および分離精製処理を繰り返した日数との関係を示す。図5には、Ra-226(γ,n)Ra-225反応とβ崩壊によるAc-225の生成量と、照射処理および分離精製処理に供したターゲットの総数との関係を示す。
【0056】
図4および図5において、放射性核種の生成量は、照射処理と分離精製処理を1日単位で繰り返す並行処理を仮定して計算した。放射性核種の生成量の計算は、1日単位で行った。例えば、1日当たりの照射処理の時間を12時間とし、1日当たりの分離精製処理の時間を24時間として、これらを1日単位で繰り返す処理が想定される。
【0057】
複数のターゲット40のうち、1日当たり1個のターゲット40を精製ターゲット群40bに割り当て、残りのターゲット40を照射ターゲット群40aに割り当てた。24時間毎に、照射処理を受けた照射ターゲット群40aのターゲット40のうち、最大量の放射性核種が生成された1個を、精製ターゲット群40bに移行させて、原料核種が再生されたターゲット40を照射ターゲット群40aに戻す処理を仮定した。
【0058】
Ra-225の生成量は、原料核種であるRa-226の核反応によって増加し、Ra-225の放射性壊変によって減少すると仮定した。Ac-225の生成量は、原料核種であるRa-226の核反応とRa-225のβ崩壊によって増加し、Ac-225の放射性壊変によって減少すると仮定した。核反応や放射性壊変は、処理の繰り返しに対して一定の発生率で起こると仮定した。
【0059】
図4において、縦軸は、1日当たりの生成量で規格化(1日当たりの生成量を1として正規化)した1ヶ月当たりのRa-225の生成量を示す。横軸は、照射処理および分離精製処理を繰り返した日数を示す。図4に示すように、Ra-225の1ヶ月当たりの生成量は、照射処理および分離精製処理を繰り返すと増加していく。しかし、処理の日数が約90日を超えると、飽和して増加し難くなることが分かる。
【0060】
Ra-225の1ヶ月当たりの生成量が飽和するのは、核反応によって生成したRa-225がβ崩壊してAc-225になるためである。処理の日数が長くなると、Ra-225の1日当たりの生成量とRa-225の1日当たりの崩壊量とが拮抗して、Ra-225の1ヶ月当たりの生成量が頭打ちになる。
【0061】
図5において、縦軸は、1日当たりの生成量で規格化(1日当たりの生成量を1として正規化)した1ヶ月当たりのAc-225の生成量を示す。横軸は、照射ターゲット群40aおよび精製ターゲット群40bを合計したターゲット40の総数を示す。ターゲット40の総数を変化させる一方で、原料核種であるRa-226の総量を一定とした。図5に示すように、Ac-225の1ヶ月当たりの生成量は、ターゲット40の数の増加に伴って増大する。しかし、或る数を超えると減少に転じる。Ac-225の1ヶ月当たりの生成量は、ターゲット40の総数が10個以下である場合に最大値を示すことが分かる。
【0062】
Ac-225の1ヶ月当たりの生成量が増加するのは、ターゲット40の数の増加に伴って、1日当たりに照射処理を受けるRa-226の量が増加するためである。精製ターゲット群40bには、1日当たり1個のターゲット40を割り当てている。そのため、ターゲット40の総数が増加すると、照射ターゲット群40aのターゲット40が増えて、1日当たりに照射処理を受ける原料核種の量が増加することになる。
【0063】
例えば、ターゲット40の総数が2個である場合、精製ターゲット群40bに1日当たり1個のターゲット40を割り当てると、1個が照射ターゲット群40aに割り当てられる。総量を一定とした原料核種の半分のみが照射処理を受けることになる。核反応による放射性核種の生成量や、原料核種の変換率の観点からは、放射性核種の製造のために用意する所定量の原料核種に対して、ターゲット40の総数が或る程度まで多いことが好ましいといえる。
【0064】
Ac-225の1ヶ月当たりの生成量が、ターゲット40の総数が10個以下である場合に最大値を示したのは、1日単位で繰り返す処理に対して、Ac-225の半減期が10.0日と短いためである。1日当たり1個のターゲット40を精製ターゲット群40bに割り当てたため、ターゲット40の総数が多すぎると、1個のターゲット40が繰り返し分離精製処理を受ける間隔が長くなり、放射性核種の製造量が減少することになる。
【0065】
よって、図4に示すように、放射性核種の製造量を向上させる観点からは、核反応によって生成される放射性核種の量が飽和するように、放射性核種の半減期に応じて、複数回の照射処理を繰り返すことが好ましいといえる。また、図5に示すように、放射性核種の分離精製量が減少しないように、ターゲット40の総数を、ターゲット40が受ける分離精製処理の時間間隔や、放射性核種の半減期に対する処理の単位時間の長さ等を考慮して、十分に小さくすることが好ましいといえる。
【0066】
従来、種々の放射性核種が、RI内用療法に用いる治療用薬剤の原料や、放射性標識試薬等として利用されている。一般に、従来の放射性核種は、照射処理と分離精製処理とを順に行うシリーズ式の製造プロセスで製造されている。従来の製造プロセスでは、原料核種を含むターゲットが、一括して照射処理を受けた後に、一括して分離精製処理を受けている。
【0067】
しかし、従来のシリーズ式の製造プロセスには、放射性核種を任意の時期に安定的に供給することが難しいという課題がある。また、従来のシリーズ式の製造プロセスには、所定量の放射性核種を所定の時期に効率的に供給することが難しいという課題がある。
【0068】
分離精製処理は、複数の工程が必要であるため、処理に時間がかかる。また、放射性核種は、照射処理によって生成させた後に、放射性壊変によって減少していく場合がある。また、原料核種を娘核種に核変換した後に、娘核種を子孫核種に放射性壊変させて放射性核種を製造する場合がある。放射性壊変を利用する場合、照射処理後の子孫核種の生成に時間がかかる。
【0069】
従来のシリーズ式の製造プロセスでは、このような処理の所要時間の長さや、放射性核種の半減期等を考慮して、製造開始時期を逆算して定めなければならず、放射性核種を供給可能な時期が限定されている。そのため、放射性核種を任意の時期に安定的に供給することが難しいという問題がある。一つの製造要求にしか対応できず、放射性核種の製造開始後に供給時期の追加や供給時期の変更に対応することが困難である。
【0070】
また、従来のシリーズ式の製造プロセスでは、1個ないし複数個のターゲットをシリーズ式に処理するため、分離精製処理の間に、照射処理を停止せざるを得ない。また、照射処理の間に、分離精製処理を停止せざるを得ない。いずれかの処理を停止すると、製造システムの稼働率が低くなるという問題がある。特に、照射処理を停止すると、放射性核種の時間当たりの製造量が低下する。
【0071】
また、従来のシリーズ式の製造プロセスでは、所定量の放射性核種を供給するにあたり、所定量の原料核種を用意して製造を開始しなければならない。原料核種に対して一括して照射処理を行うため、原料核種から目的の放射性核種への変換率が低くなるという問題がある。一括して照射処理を行う場合、原料核種の全体を均一に核変換させることは困難である。未反応の原料核種が残存し易いため、製造コストの増大に繋がる。
【0072】
これに対し、放射性核種製造システム1や、これを用いた放射性核種製造方法によると、複数のターゲット40を照射ターゲット群40aと精製ターゲット群40bとに分割して、照射処理と分離精製処理とを同時期に並行的に行うため、放射性核種を任意の時期に供給することができる。放射性核種の製造開始後に供給時期の追加や供給時期の変更があったとしても、柔軟に対応することができる。また、照射処理と分離精製処理とを同時期に並行的に行うため、放射性核種の継続的な供給や、放射性核種の時間当たりの製造量の向上が可能になる。
【0073】
従来のシリーズ式の製造プロセスでは、照射処理と分離精製処理とを順に行うため、分離精製処理の頻度を増やすと、照射処理に費やすことができる時間が減少し、目的の放射性核種の時間当たりの製造量が減少してしまう。1個のターゲットをシリーズ式で処理する場合、分離精製処理による所定の期間当たりの放射性核種の回収頻度と、照射処理による所定の時間当たりの放射性核種の生成量とが、トレードオフの関係となる。
【0074】
しかし、照射処理と分離精製処理とを同時期に並行的に行うと、ターゲット40の数、分配、配置等のターゲット条件や、粒子線11の照射条件の選定によって、放射性核種の製造量を制御することができる。所定の時間当たりの放射性核種の生成量を最大化しつつ、放射性核種の回収頻度を高めることができるため、任意の目標供給時期に目標供給量の放射性核種を供給するオンディマンドの供給が可能になる。また、所定の照射条件で一括して照射処理を行う場合と比較して、原料核種の変換率の向上や、放射性核種の原料当たりの製造量の向上が可能になる。よって、放射性核種製造システム1や、これを用いた放射性核種製造方法によると、放射性核種の時間当たりや原料当たりの製造量の向上や、放射性核種の必要時に対する過不足少ない供給が可能になる。
【0075】
また、放射性核種製造システム1や、これを用いた放射性核種製造方法によると、ターゲット40に含まれる原料核種に制動放射線を照射する場合、制動放射線の透過力を利用して、複数のターゲット40に含まれる原料核種に核反応を生じさせることができる。原料核種の変換率の向上によって、1回の照射処理で多量の原料核種を核変換させることができるため、目的の放射性核種の製造量を効率的に増加させることができる。
【0076】
また、放射性核種製造システム1や、これを用いた放射性核種製造方法によると、粒子線11の照射処理を、照射ターゲット群40aを構成する1個以上のターゲット40に対して同時に行うため、個々のターゲット40の除熱が容易になる。ターゲット40を、熱伝導率が高い金属等で形成することによって、原料核種を含む原料を効率的に除熱できる。また、ターゲット40同士の間に、空気や冷却水等の熱交換媒体を流すことによって、原料核種を含む原料を効率的に除熱できる。
【0077】
また、放射性核種製造システム1や、これを用いた放射性核種製造方法によると、可搬式のターゲット40を用いるため、原料核種を含む原料を容易に密封することができる。Rn-222のような気体の放射性物質が発生する場合であっても、放射性物質の漏洩が防止されるため、ターゲット40の搬送や配置の変更が容易になる。照射部20と分離精製装置30との間における搬送が容易になるため、システムを簡易な構造とすることが可能であり、システムの小型化や低コスト化に繋がる。
【0078】
また、放射性核種製造システム1や、これを用いた放射性核種製造方法によると、ターゲット40の数、構成、配置等のターゲット条件や、粒子線11の照射条件の選定によって、目的の放射性核種の製造量を向上させることができるため、原料核種の使用量を削減することができる。原料核種の使用量を削減すると、Rn-222のような放射性物質の副生成物も低減される。そのため、原料核種を密封する構造や、放射性ガスをトラップするフィルタ装置等について、簡易化や小型化が可能であり、システムの小型化や低コスト化に繋がる。
【0079】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態に係る放射性核種製造システムの構成を示す図である。
図6に示すように、第2実施形態に係る放射性核種製造システム2は、粒子線照射装置10と、照射部20と、分離精製装置30と、複数のターゲット40と、制御装置50と、を備えている。複数のターゲット40は、照射ターゲット群40aと精製ターゲット群40bとに分割されている。
【0080】
放射性核種製造システム2が、前記の放射性核種製造システム1と異なる点は、制御装置50を備えており、制御装置50によって、照射処理および分離精製処理におけるターゲット条件、および、粒子線11の照射条件のうち、少なくとも一方の選定を行う点である。ターゲット条件や、粒子線11の照射条件の選定は、所定の時間単位の処理毎に行われる。放射性核種製造システム2の他の構成は、前記の放射性核種製造システム1と同様である。
【0081】
放射性核種製造システム2を用いた放射性核種の製造方法は、照射処理および分離精製処理におけるターゲット条件および粒子線11の照射条件のうちの少なくとも一方を選定する工程と、選定の結果に基づいて複数のターゲット40を照射ターゲット群40aと精製ターゲット群40bとに分割して配置する工程と、選定の結果に基づいて照射処理を行う工程と、選定の結果に基づいて分離精製処理を行う工程と、を含む。
【0082】
ターゲット条件としては、照射ターゲット群40aのターゲット40の数、精製ターゲット群40bのターゲット40の数、照射ターゲット群40aのターゲット40の構成、精製ターゲット群40bのターゲット40の構成、および、照射ターゲット群40aのターゲット40の配置のうちの一以上を選定することができる。これらの条件は、1回の処理毎に変更することができる。
【0083】
制御装置50は、照射処理および分離精製処理を制御するコントローラ、粒子線照射装置10や分離精製装置30等と通信する通信システム、操作を行うインターフェイス、シミュレーションを行う演算システム、ターゲット条件や照射条件の履歴を記憶する記憶装置、診断や警告を行う安全システム等で構成される。
【0084】
制御装置50は、照射処理および分離精製処理におけるターゲット条件および粒子線11の照射条件のうちの少なくとも一方を選定する機能を備えることができる。制御装置50は、所定の時間単位の処理毎に目標製造量の放射性核種が製造されるように、選定の結果に基づいて、照射処理および分離精製処理の条件や、ターゲット40の搬送等を制御することができる。
【0085】
照射処理を受けるターゲット40の数や、分離精製処理を受けるターゲット40の数は、1回の処理当たりの照射ターゲット群40aのターゲットの数や、1回の処理当たりの精製ターゲット群40bのターゲット40の数を意味する。システム内で運用されるターゲット40の総数が一定に固定される場合は、一方の処理を受けるターゲット40の数が選定されると、他方の処理を受けるターゲット40の数も必然的に定まる。照射処理を受けるターゲット40の数や、分離精製処理を受けるターゲット40の数は、放射性核種の目標供給量等に応じて選定することができる。
【0086】
照射ターゲット群40aのターゲット40の構成や、精製ターゲット群40bのターゲット40の構成は、照射ターゲット群40aを構成するターゲット40の個体の構成や、精製ターゲット群40bを構成するターゲット40の個体の構成を意味する。1回の処理毎、且つ、ターゲット40の個体毎に、照射処理または分離精製処理への割り当てを行うことができる。ターゲット40の個体毎に処理の履歴が異なるため、ターゲット40に含まれる原料核種の量、ターゲット40に含まれる核反応によって生成された放射性核種の量は、ターゲット40の個体毎に異なる。
【0087】
照射処理を受けるターゲット40の配置は、粒子線11の照射方向に沿って互いに重なるように配置される照射部20におけるターゲット40の並び順を意味する。1回の処理毎、且つ、ターゲット40の個体毎に、ターゲット40毎の原料核種の量や、ターゲット40毎の核反応によって生成された放射性核種の量に応じて、粒子線11の照射方向における配置を選定することができる。例えば、未反応の原料核種の量が多いほど、粒子線11の照射方向における入射側に配置することができる。
【0088】
粒子線11の照射条件は、粒子線照射装置10の加速電圧、ビーム電流、照射時間等の条件を意味する。1回の処理毎に、粒子線照射装置10から照射される粒子線11のエネルギや照射量を選定することができる。例えば、加速電圧が高いほど、粒子線11を透過させて複数のターゲット40で核反応を生じさせることができる。また、ビーム電流が高く、照射時間が長いほど、ターゲット40毎の核反応によって生成される放射性核種の量を増加させることができる。
【0089】
ターゲット条件や、粒子線11の照射条件は、所定の単位時間の1回の処理で精製ターゲット群40bのターゲット40から分離精製される放射性核種の量が、予め設定された目標製造量となるように、1回の処理毎に選定することができる。目標製造量としては、所定の製造要求や、放射性核種の需要動向等に応じて、任意の目標分離精製量を予め設定することができる。
【0090】
精製ターゲット群40bのターゲット40から分離精製される放射性核種の量は、現在のターゲット状態、照射処理および分離精製処理におけるターゲット条件、および、粒子線11の照射条件に依存する。ターゲット状態は、システム内で運用されるターゲット40毎の状態であって、当該ターゲット40に含まれる核反応によって生成された放射性核種の量や、当該ターゲット40に含まれる未反応の原料核種の量や、当該ターゲット40に含まれる原料核種の核反応によって生成された娘核種が放射性壊変して生成した子孫核種の量の状態を意味する。
【0091】
ターゲット条件や、粒子線11の照射条件は、ターゲット40から分離精製された放射性核種の量の測定に基づいて選定してもよいし、ターゲット40から分離精製される放射性核種の量のシミュレーションによる予測に基づいて選定してもよい。いずれの場合であっても、現在のターゲット状態を求めることができるため、次回の処理における1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量を求めることができる。
【0092】
ターゲット40から分離精製された放射性核種の量の測定は、シンチレーション検出器、半導体検出器等を用いたガンマ線カウントによって行うことができる。放射性核種の量の測定結果は、制御装置50に手動で入力したり、制御装置50に検出器等から入力したりすることができる。測定に基づくと、現在のターゲット状態が実測されるため、次回の処理における1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量を正確に求めることができる。
【0093】
ターゲット40から分離精製される放射性核種の量のシミュレーションによる予測は、モンテカルロ法による粒子線・放射線シミュレーションによって行うことができる。制動放射線の解析には、計算コードとしてEGS等を用いることができる。放射性核種の量の予測結果は、制御装置50に手動で入力したり、制御装置50に演算システム等から入力したりすることができる。シミュレーションによる予測に基づくと、現在のターゲット状態を実測することなく、次回の処理における1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量を求めることができる。
【0094】
制御装置50は、ターゲット条件や照射条件を選定する工程において、現在のターゲット状態と、仮設定したターゲット条件と、仮設定した粒子線11の照射条件とに基づいて、精製ターゲット群40bのターゲット40から分離精製されると予測される1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量を計算する。
【0095】
1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量は、仮設定したターゲット条件の下、且つ、仮設定した粒子線11の照射条件の下で、所定の時間単位で行われる1回の処理で精製ターゲット群40bのターゲット40から分離精製されると予測される目的の放射性核種の分離精製量を意味する。1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量を求めると、予め設定された1回の処理当たりの放射性核種の目標製造量との比較が可能になるため、仮設定した条件が適正か否かを評価できる。
【0096】
1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量の予測は、モンテカルロ法による粒子線・放射線シミュレーションによって行うことができる。制動放射線の解析には、計算コードとしてEGS等を用いることができる。粒子線・放射線シミュレーションにおいては、現在のターゲット状態を参照して、現在のターゲット40毎の原料核種の量を初期値として入力する。そして、仮設定したターゲット条件の下、且つ、仮設定した粒子線11の照射条件の下で、現在のターゲット状態から、次回の処理後のターゲット状態を予測する。
【0097】
ターゲット条件や、粒子線11の照射条件を、ターゲット40から分離精製された放射性核種の量の測定に基づいて調整する場合、1回の処理毎に、ターゲット40から分離精製された放射性核種の量を測定し、その測定結果を、現在のターゲット状態として参照する。放射性核種の量の測定は、ターゲット40毎に含まれる原料核種の量、ターゲット40毎に含まれる原料核種の核変換によって生成された放射性核種の量、または、これらの両方について行う。いずれか一方の量を測定すると、反応経路に基づいて、他方の量も求めることができる。
【0098】
一方、ターゲット条件や、粒子線11の照射条件を、ターゲット40から分離精製される放射性核種の量のシミュレーションによる予測に基づいて調整する場合、現在までのターゲット条件の履歴および照射条件の履歴に基づいて、ターゲット40から分離精製される放射性核種の量を推定し、その推定結果を、現在のターゲット状態として参照する。放射性核種の量の推定は、粒子線・放射線シミュレーションによって行う。前回の処理における原料核種の量を初期値として入力して、前回のターゲット条件の下、且つ、前回の粒子線11の照射条件の下で、現在のターゲット状態を推定する。
【0099】
ターゲット条件の履歴は、ターゲット40が受けた現在までの1回の処理毎のターゲット条件を示す履歴である。照射条件の履歴は、ターゲット40が受けた現在までの1回の処理毎の粒子線11の照射条件を示す履歴である。ターゲット条件の履歴および照射条件の履歴は、少なくとも前回の処理の情報を含むことが好ましく、放射性核種の製造開始時からの処理の情報を含むことがより好ましい。ターゲット条件の履歴のデータは、照射ターゲット群40aのターゲット40の数、精製ターゲット群40bのターゲット40の数、照射ターゲット群40aのターゲットの構成、精製ターゲット群40bのターゲットの構成、および、照射ターゲット群40aのターゲット40の配置のうちの一以上の履歴のデータを含む。
【0100】
ターゲット条件の履歴のデータや、照射条件の履歴のデータは、制御装置50の記憶装置等に記憶させることができる。ターゲット条件のデータや、照射条件のデータは、1回の処理毎に、測定機器等から制御装置50に収集して、時系列の履歴のデータとして格納することができる。システム内で運用される各ターゲット40の個体同士は、これらのデータにおいて、互いに区別される。各ターゲット40には、光学的に読み取り可能な識別子等を付与することができる。
【0101】
1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量は、粒子線・放射線シミュレーションにおいて、所定の粒子線11の照射条件の下で、ターゲット条件を仮設定して求めることができる。また、所定のターゲット条件の下で、粒子線11の照射条件を仮設定して行うことができる。また、これらのシミュレーションの組み合わせや繰り返しによって、最適化された条件に対する予測を行うことができる。
【0102】
1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量は、AIによる機械学習によって求めることもできる。ターゲット条件のデータや、照射条件のデータは、ターゲット40から分離精製された放射性核種の量の測定結果のデータと共に、1回の処理毎に、測定機器等から制御装置50に収集して、機械学習用のデータセットを形成することができる。制御装置50は、現在までに収集されたデータセットに基づいて、これらのデータとターゲット40毎の放射性核種の分離精製量との相関関係に関する教師有りまたは教師無しの機械学習を行い、放射性核種の予測分離精製量を求めてもよい、
【0103】
続いて、制御装置50は、予め設定された1回の処理当たりの放射性核種の目標分離精製量と、予測された1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量とを比較する。1回の処理当たりの放射性核種の目標分離精製量は、所定の製造要求や、放射性核種の需要動向等に応じて、制御装置50に入力してもよいし、AIによる機械学習で需要予測を行って、制御装置50によって計算してもよい。
【0104】
比較に際しては、1回の処理当たりの放射性核種の放射性壊変による減少量を、1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量に合算しておくか、1回の処理当たりの放射性核種の目標分離精製量から減算しておくことができる。このような計算を行うと、核反応によって生成された放射性核種が放射性壊変によって減少する場合であっても、必要な放射性核種の製造量をより確実に確保することができる。
【0105】
比較の結果、予測された1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量と、1回の処理当たりの放射性核種の目標分離精製量との差分の絶対値が、予め設定された閾値以上であるとき、次回の処理において目標製造量の放射性核種を過不足少なく製造できないため、仮設定したターゲット条件や照射条件を変更する。そして、変更したターゲット条件や照射条件に基づいて、1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量を再計算して、1回の処理当たりの放射性核種の目標分離精製量と再比較する。
【0106】
一方、比較の結果、予測された1回の処理当たりの予測分離精製量と、1回の処理当たりの目標分離精製量との差分の絶対値が、予め設定された閾値未満であるとき、次回の処理において目標製造量の放射性核種を過不足少なく製造できるため、仮設定したターゲット条件や照射条件を採用することができる。制御装置50は、採用可能なターゲット条件や照射条件を選定して、次回の照射処理および分離精製処理を制御する。
【0107】
このようなターゲット条件や照射条件の選定を行うと、精製ターゲット群40bのターゲット40から分離精製される放射性核種の量が、予め設定された任意の目標製造量となるように調整される。ターゲット40から分離精製される放射性核種の量が、1回の処理毎に適正化されるため、放射性核種の製造量を製造能力の範囲内で最大化したり、放射性核種の必要時に過不足少ない供給を行ったりすることができる。
【0108】
制御装置50は、照射処理および分離精製処理におけるターゲット条件および粒子線11の照射条件のうちの少なくとも一方を選定する機能に加え、処理の異常を検知する機能を備えることもできる。放射性核種の製造中に、照射処理および分離精製処理のうちの少なくとも一方の異常を診断し、異常が確認された場合、処理を停止することができる。
【0109】
処理の異常としては、照射処理や分離精製処理における作業のミスや、粒子線照射装置10、照射部20、分離精製装置30、ターゲット40等の機器の故障等が挙げられる。処理の異常が生じた場合、ターゲット40の不適切な配置、粒子線11の照射条件の変化、放射性核種の漏洩による減少等が起こり、ターゲット40から分離精製される目的の放射性核種の量が予定からずれる。このような変動を判別すると、処理の異常を検知することができる。
【0110】
制御装置50は、選定の結果に基づいて分離精製処理を行う工程において、1回の処理毎に、ターゲット40から分離精製された放射性核種の量を測定する。放射性核種の量の測定は、シンチレーション検出器、半導体検出器等を用いたガンマ線カウントによって行うことができる。放射性核種の量の測定結果に基づいて、1回の処理当たりの放射性核種の現在分離精製量が求められる。
【0111】
続いて、制御装置50は、測定された1回の処理当たりの放射性核種の現在分離精製量と、予測された1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量とを比較する。1回の処理当たりの放射性核種の現在分離精製量は、測定機器等から制御装置50に入力することができる。1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量は、仮設定したターゲット条件や照射条件の下で粒子線・放射線シミュレーションによって求めてもよいし、データセットに基づいてAIによる機械学習によって求めてもよい。
【0112】
比較の結果、予測された1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量と、測定された1回の処理当たりの放射性核種の現在分離精製量との差分の絶対値が、予め設定された閾値以上であるとき、シミュレーションによって予測した分離精製量と測定された分離精製量とが乖離しているため、照射処理または分離精製処理に異常があると判定する。この場合、異常の発生を示す警告を表示し、照射処理および分離精製処理を停止する。
【0113】
一方、比較の結果、予測された1回の処理当たりの放射性核種の予測分離精製量と、測定された1回の処理当たりの放射性核種の現在分離精製量との差分の絶対値が、予め設定された閾値未満であるとき、シミュレーションによって予測した分離精製量と測定された分離精製量とが乖離していないため、照射処理および分離精製処理処理に異常がないと判定する。この場合、採用可能なターゲット条件や照射条件を選定して、照射処理および分離精製処理を継続することができる。
【0114】
このような放射性核種製造システム2や、これを用いた放射性核種製造方法によると、照射処理を受けるターゲット40の数、分離精製処理を受けるターゲット40の数、照射ターゲット群40aのターゲット40の構成、精製ターゲット群40bのターゲット40の構成、照射処理を受けるターゲット40の配置、粒子線11の照射条件のうちの一以上を、放射性核種の目標製造量に応じて、1回の処理毎に選定することができる。これらのターゲット条件や照射条件は、現在のターゲット状態に基づいて選定されるため、過去の処理の履歴に応じて、ターゲット40の個体毎に適正な条件を採用することができる。将来の需要に変動がある場合であっても、放射性核種の製造量を調整しつつ、短い時間間隔で放射性核種を製造できるため、無駄の無いオンディマンドの供給が可能になる。また、これらのターゲット条件や照射条件は、所定の原料核種の使用量の下で調整できるため、原料核種の使用量当たりの放射性核種の製造量を向上させることができる。よって、放射性核種製造システム2や、これを用いた放射性核種製造方法によると、放射性核種の時間当たりや原料当たりの製造量の向上や、放射性核種の必要時に対する過不足少ない供給が可能になる。
【0115】
また、放射性核種製造システム2や、これを用いた放射性核種製造方法によると、照射処理を受けるターゲット40の配置を、1回の処理毎に変更することができる。粒子線11の照射方向におけるターゲット40の配置を変更すると、核反応による放射性核種の生成量について、偏りを低減することができる。例えば、新規のターゲット40を、粒子線11の照射方向における最も入射側に配置して、多量の放射性核種を生成させることができる。放射性核種の生成量の偏りを低減すると、より正確なシミュレーションが可能になるため、放射性核種の必要時に対する過不足を極めて少なくすることができる。
【0116】
また、放射性核種製造システム2や、これを用いた放射性核種製造方法によると、1回の処理毎の放射性核種の製造量を、シミュレーションによる予測結果と、実測による測定結果とで比較することができるため、1回の処理毎の放射性核種の製造量に基づいて、照射処理や分離精製処理の異常を診断することができる。1回の処理毎の放射性核種の製造量には、照射処理や分離精製処理における誤処理や装置の異常が反映されているため、初期段階の異常を早期に検出することができる。
【0117】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0118】
1 放射性核種製造システム
2 放射性核種製造システム
10 粒子線照射装置
20 照射部
30 分離精製装置
40 ターゲット
40a 照射ターゲット群
40b 精製ターゲット群
50 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6