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特許7755993コーティング組成物ならびにそれを用いた防曇性部材、防汚性部材、積層体および抗菌製品
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  • 特許-コーティング組成物ならびにそれを用いた防曇性部材、防汚性部材、積層体および抗菌製品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-08
(45)【発行日】2025-10-17
(54)【発明の名称】コーティング組成物ならびにそれを用いた防曇性部材、防汚性部材、積層体および抗菌製品
(51)【国際特許分類】
   C09D 129/04 20060101AFI20251009BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20251009BHJP
   C08F 261/04 20060101ALI20251009BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20251009BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20251009BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20251009BHJP
【FI】
C09D129/04
C09K3/00 R
C08F261/04
B05D5/00 H
B05D7/24 302M
B32B27/30 102
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021516227
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017584
(87)【国際公開番号】W WO2020218459
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2019084760
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019084761
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019093295
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019115894
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】立花 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】天野 雄介
(72)【発明者】
【氏名】前川 一彦
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/124241(WO,A1)
【文献】特開2019-038935(JP,A)
【文献】特開昭59-179683(JP,A)
【文献】特開平02-110119(JP,A)
【文献】特開2008-307763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 129/04
C09K 3/00
C08F 16/06
C08L 29/04
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖にエチレン性不飽和基を有する変性ポリビニルアルコール樹脂(A)を含有し、
該エチレン性不飽和基が以下の式(I):
【化1】
(式(I)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、Xは酸素原子または-N(R)-であり、Rは水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、*は該エチレン性不飽和基の結合手である)で表される部分構造を含み、
該変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が、式(I)で表される該部分構造を0.52.5モル%の割合で含有し、
該変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の数平均分子量が23000105600である、透明支持基材に防曇性を付与するためのコーティング組成物(ただし、式(I)で表される該部分構造がイタコン酸、フマル酸、またはシトラコン酸に由来する構造である場合を除く)。
【請求項2】
前記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が、以下の式(II)または(III):
【化2】
(式(II)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基、カルボキシル基、またはカルボキシメチル基であり、Xは酸素原子または-N(R4)-であり、Rは水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Yは置換基を有していてもよい炭素数1~10の2価の炭化水素基を表し、*は該変性ポリビニルアルコール樹脂(A)における構造単位の結合手である)または
【化3】
(式(III)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基、カルボキシル基、またはカルボキシメチル基であり、*は該変性ポリビニルアルコール樹脂(A)における構造単位の結合手である)
で表される構造単位を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
透明支持基材と防曇層とを備える防曇性部材であって、
該防曇層が、請求項またはに記載のコーティング組成物の硬化物を含有する、防曇性部材。
【請求項4】
前記硬化物の平均吸水倍率が4~200倍である、請求項に記載の防曇性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物ならびにそれを用いた防曇性部材、防汚性部材、積層体および抗菌製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の目的または課題を解決するために所定の基材(substrate)や基質(matrix)に対してポリビニルアルコール樹脂のような合成樹脂を用いたコーティングが行われている。
【0003】
例えば、ポリビニルアルコール樹脂は他の水溶性合成高分子と比べて強度特性および造膜性に優れている。これにより当該樹脂は、この特性を活かして、ガラス、金属、ポリマーフィルム等の基材の表面に塗工される防曇剤として重用されており、例えば、特許文献1には、側鎖にシリル基を導入したシリル基変性ポリビニルアルコール樹脂、およびそれを用いた防曇剤が開示されている。
【0004】
ここで、このような防曇効果を奏するコーティング組成物については、優れた防曇性能を有しかつ防曇効果の持続性(以下、「防曇持続性」とも称する)を有するだけでなく、防曇機能を付与するためのコーティング原液またはフィルム原液(以下、「防曇剤原液」とも称する)の状態で、高度な粘度安定性を発現し得ることが所望されている。
【0005】
ポリビニルアルコール樹脂はまた、他の水溶性合成高分子と比べて強度特性および造膜性に優れている。これにより当該樹脂は、この特性を活かして、例えばガラス、金属、ポリマーフィルム等の基材の表面に塗工される防汚剤として使用することが着目されている。しかし、ポリビニルアルコール樹脂は耐水性が低いため、防汚剤としては、特許文献2に記載するようなエチレン-ビニルアルコール共重合体(特許文献2)やエチレン-ビニルアルコール共重合体を水とアルコールの混合溶媒に溶解または分散させた塗工液(特許文献3)が提案されている。
【0006】
ここで、このような防汚効果を奏するコーティング組成物については、優れた防汚性能を発現するとともに、塗工液の溶媒としてアルコールを使用することなく、作業者の安全性を大きく向上させ、かつ環境負荷の低減にも貢献し得ることが所望されている。
【0007】
ポリビニルアルコール樹脂はまた、その優れた強度特性および造膜性を活かして、セラミックス、コンクリート、モルタル、スレート等の無機物材料のバインダーとしても重用されている。例えば特許文献4には、シリル基を含有するポリビニルアルコール樹脂を用いることにより、無機繊維やガラス繊維などの無機物(無機粒子)のためのバインダーが提案されている。
【0008】
ここで、ポリビニルアルコール樹脂を上記無機粒子用バインダーのようなコーティング組成物に応用する場合、水溶液として塗工液の形態に調製された際に、優れた粘度安定性を有すること、およびそれによって優れた耐水性を有する無機粒子固定化構造および積層体を提供することが所望されている。
【0009】
一方、近年の生活環境において、自然環境や人体への高度な安全性の維持が求められており、様々な用途に、抗菌性を有するプラスチック製品が使用されている。このことからポリビニルアルコール樹脂を用いた製品でも、抗菌性を具備することが求められている。例えば、特許文献5には、共重合変性によりカチオン性基を導入した変性ポリビニルアルコール樹脂が開示されており、また、非特許文献1には、ポリビニルアルコール樹脂とキトサンのブレンド体が開示されている。しかし、これらはいずれも、極めて耐水性が低く、水と接触しうる用途においては実用に耐え得るものであるとは言い難い。これに対し、非特許文献2には、ポリビニルアルコール樹脂とキトサンのブレンド体を、グルタルアルデヒドで架橋させた架橋体が開示されており、耐水性が改善されていることが示唆されている。
【0010】
ここで、上記グルタルアルテヒドは変異原性化合物であり、実用的には、安全性の確保の観点から敬遠されるべきである。このため、ポリビニルアルコール樹脂を用いた製品について優れた抗菌性を有するとともに、より安全性および耐水性の高いコーティング組成物および抗菌製品が所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2014-101439号公報
【文献】特開2016-2758号公報
【文献】特開2015-182401号公報
【文献】特開2014-95059公報
【文献】特開2018-083802号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Carbohydrate Polymers, 198, p.241-248 (2018)
【文献】Polymer Preprints, Japan、Vol 67, No.1, 2Pc045 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、様々な基材または基質に対して利用でき、例えば防曇剤、防汚剤、無機粒子用バインダーまたは抗菌剤として優れた特性を発揮し得る、コーティング組成物ならびにそれを用いた防曇性部材、防汚性部材、積層体および抗菌製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の発明を包含する。
[1]側鎖にエチレン性不飽和基を有する変性ポリビニルアルコール樹脂(A)を含有する、コーティング組成物。
[2]前記エチレン性不飽和基が以下の式(I):
【化1】
(式(I)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基、カルボキシル基、またはカルボキシメチル基であり、Xは酸素原子または-N(R)-であり、Rは水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、*は該エチレン性不飽和基の結合手である)で表される部分構造を含む、[1]に記載のコーティング組成物。
[3]前記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が、以下の式(II)または(III):
【化2】
(式(II)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基、カルボキシル基、またはカルボキシメチル基であり、Xは酸素原子または-N(R4)-であり、Rは水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Yは置換基を有していてもよい炭素数1~10の2価の炭化水素基を表し、*は該変性ポリビニルアルコール樹脂(A)における構造単位の結合手である)または
【化3】
(式(III)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基、カルボキシル基、またはカルボキシメチル基であり、*は該変性ポリビニルアルコール樹脂(A)における構造単位の結合手である)
で表される構造単位を含む、[1]または[2]に記載のコーティング組成物。
[4]前記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が、式(I)で表される前記部分構造を0.2~5モル%の割合で含有する、[1]~[3]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[5]基材に対して該基材と異なる物性を発現するために使用され、該基材が樹脂、ガラスおよび金属からなる群から選択される少なくとも1種の材料で構成されている、[1]~[4]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[6]基材に対して防曇性を提供するための防曇剤として使用される、[1]~[5]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[7]前記基材が透明支持基材である、[6]に記載のコーティング組成物。
[8]前記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が、式(I)で表される前記部分構造を0.2~5モル%の割合で含有する、[6]または[7]に記載のコーティング組成物。
[9]前記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の数平均分子量が4,400~220,000である、[6]~[8]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[10]基材と防曇層とを備える防曇性部材であって、
該防曇層が、[6]~[9]のいずれかに記載のコーティング組成物の硬化物を含有する、防曇性部材。
[11]前記硬化物の平均吸水倍率が4~200倍である、[10]に記載の防曇性部材。
[12]基材に対して防汚性を提供するための防汚剤として使用される、[1]~[5]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[13]前記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の数平均分子量が4,400~220,000である、[12]に記載のコーティング組成物。
[14]基材と防汚層とを備える防汚性部材であって、
該防汚層が、[12]または[13]に記載のコーティング組成物の硬化物を含有する、防汚性部材。
[15]防汚性部材の製造方法であって、
基材上に[12]または[13]に記載のコーティング組成物を付与して、未硬化防汚層を有する前処理部材を得る工程、および
該前処理部材の該未硬化防汚層を硬化させて防汚層を形成する工程を包含する、方法。
[16]前記防汚層を形成する工程が、前記前処理部材の前記未硬化防汚層に紫外線または電子線を照射することにより行われる、[15]に記載の方法。
[17]無機粒子(B1)を固定するための無機粒子用バインダーとして使用される、[1]~[5]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[18]無機粒子(B1)の粒子間に、[17]に記載のコーティング組成物の硬化物が配置されている、無機粒子固定化構造。
[19]前記無機粒子(B1)がシリカ粒子または粘土鉱物粒子である、[18]に記載の無機粒子固定化構造。
[20]前記無機粒子(B1)が層状ケイ酸塩粒子である、[18]に記載の無機粒子固定化構造。
[21]基材および無機粒子固定化層を備える積層体であって、
該無機粒子固定化層が、[18]~[20]のいずれかに記載の無機粒子固定化構造を含む、積層体。
[22]ガスバリア材である、[21]に記載の積層体。
[23]被包装物を[22]に記載の積層体で包囲してなる。包装体。
[24]抗菌成分(B2)を含有し、かつ基材に対して抗菌性を提供するための樹脂組成物として使用される、[1]~[5]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[25]前記抗菌成分(B2)が、アンモニウム塩含有ポリマーを含む、[24]に記載のコーティング組成物。
[26]前記抗菌成分(B2)が、キトサンおよびその中和物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、[24]または[25]に記載のコーティング組成物。
[27]前記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)と前記抗菌成分(B2)との質量比(A/B2)が99/1~40/60である、[24]~[26]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[28]さらに架橋剤または光重合開始剤を含有する、[24]~[27]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[29][24]~[28]のいずれかに記載のコーティング組成物の硬化物。
[30]硬化物の製造方法であって、[24]~[28]のいずれかに記載のコーティング組成物にエネルギーを付与して該コーティング組成物を架橋する工程を包含する、方法。
[31]前記エネルギーの付与工程が、加熱または活性エネルギー線の照射によって行われる、[30]に記載の方法。
[32]基材と抗菌層とを備える抗菌製品であって、
該抗菌層が、[29]に記載のコーティング組成物の硬化物を含有する、抗菌製品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、共通する構造の変性ポリビニルアルコール樹脂を用いて様々な基材または基質に適用可能なコーティング層を形成できる。
【0016】
例えば、本発明のコーティング組成物を防曇剤として使用した場合、構成成分である変性ポリビニルアルコール樹脂の優れた架橋反応性を利用して、得られた架橋硬化物に基づく防曇性能を所定の部材に対して付与できる。さらに、このような架橋硬化物の生成は、例えば紫外線などの高エネルギー線や電磁波の照射、または加熱をトリガーにして制御可能であることから、本発明の防曇剤は、例えば防曇性付与のためのコーティング原液またはフィルム原液の形態においては極めて高い粘度安定性を有する。
【0017】
本発明のコーティング組成物を防汚剤として使用した場合、構成成分である変性ポリビニルアルコール樹脂の優れた架橋反応性を利用して、得られた架橋硬化物に基づく防汚性および耐水性を所定の部材に対して付与できる。また、このような架橋硬化物の生成は、例えば紫外線などの高エネルギー線や電磁波の照射、または加熱をトリガーにして制御可能であることから、本発明の防汚剤は、例えば防汚性付与のためのコーティング原液またはフィルム原液(以下、「防汚剤原液」とも称する)の形態においては極めて高い粘度安定性を有する。さらに、構成成分として、または使用の際に、アルコールを溶媒として使用する必要がなく、作業者への安全性が向上とするとともに、環境負荷も低減できる。
【0018】
本発明のコーティング組成物を無機粒子バインダーとして使用した場合、構成成分である変性ポリビニルアルコール樹脂の優れた架橋反応性を利用して、当該架橋により得られる架橋硬化物が、無機粒子を強固に固定した固定化構造を形成できる。この無機粒子固定化構造は良好な耐水性を有する。このような無機粒子用バインダーはまた、水溶液として塗工液の形態に調製された際に、優れた粘度安定性を有する。
【0019】
本発明のコーティング組成物を抗菌性組成物または抗菌剤として使用した場合、そのコーティング層には優れた抗菌性が発現される。さらに構成成分である変性ポリビニルアルコール樹脂の優れた架橋反応性を利用して、当該架橋により得られる架橋硬化物が当該抗菌性を保持したまま、優れた耐水性を有する架橋硬化物が得られる。
【0020】
本発明のコーティング組成物を抗菌成分の存在下にて抗菌性樹脂組成物として使用した場合、当該組成物は、高い抗菌性を発現するとともに、優れた架橋反応性を有する。そのため、その架橋硬化物は、高度な抗菌性を発現することに加え、優れた耐水性を発現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例I-12および比較例I-4で作製された防曇コートフィルムの防曇性能の相違を示す写真であって、(a)は、防曇試験開始時(0分)における実施例12で作製された防曇コートフィルム(DE4)の状態を示す写真であり、(b)は、防曇試験開始後(5分経過後)における当該防曇コートフィルム(DE4)の状態を示す写真であり、(c)は、防曇試験開始時(0分)における比較例4で作製された防曇コートフィルム(DC1)の状態を示す写真であり、(d)は、防曇試験開始後(5分経過後)における当該防曇コートフィルム(DC1)の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(コーティング組成物)
(1)変性ポリビニルアルコール樹脂(A)
本発明のコーティング組成物は、側鎖にエチレン性不飽和基を有する変性ポリビニルアルコール樹脂(A)を含有する。
【0023】
本発明のコーティング組成物において、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の側鎖に導入されるエチレン性不飽和基の構造は特に限定されず、例えばラジカル重合性を有する不飽和基が挙げられる。特に、このようなエチレン性不飽和基は、以下の式(I)で表される部分構造を含むことが好ましい。
【0024】
【化4】
【0025】
(式(I)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基、カルボキシル基、またはカルボキシメチル基であり、Xは酸素原子または-N(R)-であり、Rは水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、*はエチレン性不飽和基の結合手である)
【0026】
上記式(I)において、重合安定性が良好であるとの理由から、RおよびRは水素原子であることが好ましく、Rはメチル基であることが好ましい。また、上記式(I)において、Xが-N(R)-である場合、Rを構成し得る炭素数1~3の炭化水素基としては、例えば炭素数1~3の飽和炭化水素基が挙げられる。具体的には、Rは炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、およびイソプロピル基が挙げられる。なお、反応性に優れるとの理由から、上記式(I)において、Xは酸素原子であることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明において、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)は、以下の式(II)または(III)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0028】
【化5】
【0029】
(式(II)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基、カルボキシル基、またはカルボキシメチル基であり、Xは酸素原子または-N(R)-であり、Rは水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Yは置換基を有していてもよい炭素数1~10の2価の炭化水素基を表し、*は変性ポリビニルアルコール樹脂(A)における構造単位の結合手である)
【0030】
【化6】
【0031】
(式(III)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基、カルボキシル基、またはカルボキシメチル基であり、*は変性ポリビニルアルコール樹脂(A)における構造単位の結合手である)
【0032】
上記式(II)および(III)において、重合安定性が良好であるとの理由から、RおよびRは水素原子であることが好ましく、Rはメチル基であることが好ましい。
【0033】
また、上記式(II)において、Xが-N(R)-である場合、Rを構成し得る炭素数1~3の炭化水素基としては、例えば炭素数1~3の飽和炭化水素基が挙げられる。具体的には、Rは炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、およびイソプロピル基が挙げられる。なお、反応性に優れるとの理由から、上記式(II)において、Xは酸素原子であることが好ましい。
【0034】
さらに、上記式(II)において、Yを構成し得る炭素数1~10の2価の炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキレン基および炭素数1~10のシクロアルキレン基が挙げられる。炭素数1~10のアルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基等が挙げられる。炭素数1~10のシクロアルキレン基としては、例えばシクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられる。これらのアルキレン基およびシクロアルキレン基は、メチル基、エチル基等のアルキル基を分岐構造として有していてもよい。またYを構成し得る炭素数1~10の2価の炭化水素基は、所定の置換基で置換されていてもよい。このような置換基としては、例えば水酸基;アミノ基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基;アセチル基、プロピオニル基等のアシル基等が挙げられ、さらに当該置換基の構造中に、カルボニル結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合等を含んでいてもよい。Yはまた、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の主鎖の一部と一緒になってアセタール構造を形成していてもよい。
【0035】
本発明において、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)は、上記式(II)または(III)で表される構造単位を含む変性ポリビニルアルコール樹脂(A)のうち、特に式(III)で表される構造単位を有する変性ポリビニルアルコール樹脂(A)であることが好ましい。
【0036】
なお、上記式(I)~(III)のいずれかで表される構造単位のより具体的な例としては、以下の示される構造単位のものが挙げられる:
【0037】
【化7】
【0038】
(式中、*は変性ポリビニルアルコール樹脂(A)における構造単位の結合手である)。
【0039】
本発明において、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の全構造単位に対する、エチレン性不飽和基を有する構造単位(例えば式(I)で表される部分構造を含む構造単位)の含有量の下限は特に限定されないが、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の全構造単位を100モル%として、好ましくは0.05モル%以上であり、より好ましくは0.1モル%以上であり、さらに好ましくは0.2モル%以上であり、特に好ましくは0.5モル%以上である。また、エチレン性不飽和基を有する構造単位(例えば式(I)で表される部分構造を含む構造単位)の含有量の上限は特に限定されないが、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の全構造単位を100モル%として、好ましくは8モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下であり、特に好ましくは3モル%以下である。上記エチレン性不飽和基を有する構造単位の含有量がこのような下限および上限から構成される範囲内にあることにより、本発明のコーティング組成物は、高エネルギー線や電磁波の照射、または加熱を通じて、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が有する側鎖のエチレン性不飽和基同士が反応し易くなり、適切な反応時間で変性ポリビニルアルコール樹脂(A)を硬化させることができる。さらに、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)は、その全構造単位内に2種以上のエチレン性不飽和基を有する構造単位を有していてもよい。例えば、2種以上のエチレン性不飽和基を有する場合、これら2種以上のエチレン性不飽和基を有する構造単位の含有量が上記下限および上限から構成される範囲内にあることが好ましい。なお、本明細書における用語「構造単位」は、重合体を構成する繰り返し単位を指していう。例えば、後述の「ビニルアルコール単位」および「ビニルエステル単位」もまた「構造単位」の例として包含される。
【0040】
本発明において、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の全構造単位に対する、ビニルアルコール単位の下限は特に限定されないが、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の全構造単位を100モル%として、好ましくは60モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上であり、特に好ましくは85モル%以上である。また、上記ビニルアルコール単位の含有量の上限は特に限定されないが、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の全構造単位を100モル%として、好ましくは99.95モル%以下であり、より好ましくは99.9モル%以下であり、さらに好ましくは99.5モル%以下であり、特に好ましくは99.0モル%である。ビニルアルコール単位の含有量がこのような下限および上限から構成される範囲内にあることにより、本発明のコーティング組成物は、高エネルギー線や電磁波の照射、または加熱を通じて、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が硬化した後に得られる硬化物に対して適度な親水性、高度な耐久性を付与でき、さらにこれと後述の水とを混合して調製され得る塗工液に対して高度な粘度安定性を付与できる。
【0041】
ビニルアルコール単位は、加水分解や加アルコール分解などによってビニルエステル単位から誘導できる。そのため、ビニルエステル単位からビニルアルコール単位に変換する際の条件等によっては、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)中にビニルエステル単位が残存することがある。よって、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)は、上記エチレン性不飽和基を有する構造単位以外のビニルエステル単位を含んでいてもよい。
【0042】
上記ビニルエステル単位のビニルエステルの例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどを挙げられ、これらの中でも酢酸ビニルが工業的観点から好ましい。
【0043】
変性ポリビニルアルコール樹脂(A)は、本発明の効果が得られる限り、エチレン性不飽和基を有する構造単位、ビニルアルコール単位およびビニルエステル単位以外の他の構造単位をさらに含んでいてもよい。当該他の構造単位は、例えば、ビニルエステルと共重合可能な他の単量体に由来する構造単位である。他の単量体としては、エチレン性不飽和単量体が挙げられる。他の単量体に由来する構造単位は、エチレン性不飽和基を有する構造単位に変換可能な構造単位であってもよい。エチレン性不飽和単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセンなどのα-オレフィン類;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩(例えば4級塩);メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩(例えば4級塩);メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル;ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0044】
変性ポリビニルアルコール樹脂(A)におけるエチレン性不飽和基を有する構造単位、ビニルアルコール単位、およびその他の任意の構造単位の配列順序には特に制限はなく、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体などのいずれであってもよい。
【0045】
変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の分子量は特に限定されないが、数平均分子量(Mn)が5000~200000であることが好ましい。Mnが5000未満であると、そのような変性ポリビニルアルコール樹脂を硬化して得られる硬化物に十分な耐久性を付与できない場合がある。Mnは、より好ましくは7000以上、さらに好ましくは8000以上、特に好ましくは9000以上である、一方、Mnが200000を越えると、それを用いて調製され得る塗工液などの溶液を調製した際に当該溶液について十分な粘度安定性を付与できない場合がある。Mnは、より好ましくは180000以下、さらに好ましくは150000以下、特に好ましくは100000以下である。Mnは、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準物質にポリメチルメタクリレートを用い、HFIP系カラムで測定した値として算出することができる。
【0046】
本発明のコーティング組成物における変性ポリビニルアルコール樹脂(A)のJIS K6726(1994年)に準拠して測定した数平均重合度は特に限定されないが、好ましくは100~5,000であり、より好ましくは200~4,000である。数平均重合度が100を下回ると、当該組成物を用いて得られる塗膜の機械的強度が低下する場合がある。数平均重合度が5,000を上回ると、そのような変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の製造にあたりより高度な技術が必要となるおそれがあり、工業的生産性を保持することが困難となる場合がある。
【0047】
本発明のコーティング組成物における変性ポリビニルアルコール樹脂(A)のけん化度は特に限定されないが、好ましくは80~99.9モル%、より好ましくは90~99.9モル%である。変性ポリビニルアルコール樹脂(A)のけん化度が80モル%を下回ると、そのような変性ポリビニルアルコール樹脂を硬化して得られる硬化物に十分な耐久性を付与できない場合がある。変性ポリビニルアルコール樹脂(A)のけん化度が99.9モル%を上回ると、それを用いて調製され得る塗工液などの溶液を調製した際に当該溶液について十分な粘度安定性を付与できない場合がある。
【0048】
変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の製造方法は特に限定されない。例えば、ポリビニルアルコールに対して、構造内にエチレン性不飽和基を有する化合物(例えばカルボン酸を有する化合物)を反応させることにより、上記式(I)で表される部分構造を側鎖に有する変性ポリビニルアルコール樹脂(A)を製造することができる。当該反応の具体的な例としては、ポリビニルアルコールとアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルとのエステル交換反応;ポリビニルアルコールとアクリル酸、メタクリル酸、4-ペンテン酸、または10-ウンデセン酸との反応;ポリビニルアルコールと無水アクリル酸または無水メタクリル酸との反応;ポリビニルアルコールと塩化アクリロイルまたは塩化メタクリロイルとの反応;が挙げられる。
【0049】
(2)架橋剤
本発明のコーティング組成物は、当該分野において公知の架橋剤を含有していてもよい。架橋剤としては、好ましくは1分子内に2つまたはそれ以上のチオール基を有する化合物、1分子内に2つまたはそれ以上のアミノ基を有する化合物等が挙げられる。1分子内に2つまたはそれ以上のチオール基を有する化合物としては、例えば1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオール、2,3-ブタンジチオール、1,5-ペンタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,10-デカンジチオール、2,3-ジヒドロキシ-1,4-ブタンジチオール、エチレンビス(チオグリコラート)、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオナート)、1,4-ブタンジオールビス(チオグリコラート)、2,2’-チオジエタンチオール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(DODT)、3,7-ジチア-1,9-ノナンジチオール、1,4-ベンゼンジチオール、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオナート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコラート)、ペンタエリトリトールテトラキス(メルカプトアセタート)、ジペンタエリトリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオナート)、チオコール(東レ・ファインケミカル(株)製)等が挙げられる。1分子内に2つまたはそれ以上のアミノ基を有する化合物としては、例えばエチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、1,2-ジアミノ-2-メチルプロパン、2-メチル-1,3-プロパンジアミン、1,2-ジアミノブタン、1,4-ジアミノブタン、1,3-ジアミノペンタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1-メチル-1,8-ジアミノオクタン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、ビス(3-アミノプロピル)エーテル、1,2-ビス(3-アミノプロポキシ)エタン、1,3-ビス(3-アミノプロポキシ)-2,2-ジメチルプロパン、2,2’-オキシビス(エチルアミン)、1,3-ジアミノ-2-プロパノール、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリエチレングリコールエーテル、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4-(2-アミノエチル)シクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン、1,4-フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0050】
架橋剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~20質量部、より好ましくは0.5質量部~10質量部である。架橋剤の含有量が0.1質量部未満であると、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)による架橋構造が十分に形成されず、得られる硬化物について例えば満足すべき耐水化が達成されないおそれがある。架橋剤の含有量が20質量部を上回ると、得られる硬化物内の架橋がそれ以上進まず、むしろ生産性を欠くおそれがある。
【0051】
(3)光重合開始剤
本発明のコーティング組成物は、上記架橋剤の代わりにまたは上記架橋剤に加えて、当該分野において公知の光重合開始剤を含有していてもよい。光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば2-ヒドロキシ-4'-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンなどのプロピオフェノン系化合物;4’-フェノキシ-2,2-ジクロロアセトフェノン、4’-t-ブチル-2,2,2-トリクロロアセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-(4’-ドデシルフェニル)-1-プロパノン、1-[4’-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-4’-メチルチオ-2-モルホリノプロピオフェノンなどのアセトフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンジルジメチルケタールなどのベンゾイン系化合物;ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、2,2’-ジクロロベンゾフェノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルスルフィド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、ミヒラーケトン[4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン]、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物;2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン系化合物;9,10-フェナントレンキノン、カンファーキノン(2,3-ボルナンジオン)、2-エチルアントラキノンなどのキノン系化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド;ベンジルなどが挙げられる。
【0052】
光重合開始剤は、特に限定されないが、例えば、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~10質量部、より好ましくは0.2質量部~5質量部である。光重合開始剤の含有量が0.1質量部未満であると、例えば変性ポリビニルアルコール樹脂(A)にUV光が適切に照射されたとしても、当該樹脂(A)による架橋構造が十分に形成されず、得られる硬化物について満足すべき耐水化が達成されないおそれがある。光重合開始剤の含有量が10質量部を上回ると、得られる硬化物内の架橋がそれ以上進まず、むしろ生産性を欠くおそれがある。
【0053】
(4)他の添加剤
本発明のコーティング組成物はまた、本発明の効果を阻害しない範囲において、上記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、上記架橋剤および上記光重合開始剤以外に他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば顔料、染料、充填材、加工安定剤、耐候性安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、他の熱可塑性樹脂、潤滑剤、香料、消泡剤、消臭剤、増量剤、剥離剤、離型剤、補強剤、防かび剤、防腐剤、ラジカル発生剤および結晶化速度遅延剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0054】
(5)希釈剤
さらに、本発明のコーティング組成物は、希釈材を含有し、当該希釈材により上記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が希釈された形態を有していてもよい。希釈剤の例としては、水;メタノール、エタノールなどのアルコール;アセトンなどのケトン;ジエチルエーテル等のエーテル;ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。希釈剤の使用量は特に限定されず、適切な量が当業者によって適宜選択され得る。ここで、例えば、希釈剤として水が使用される場合、本発明のコーティング組成物は、上記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の水溶液の形態を有していてもよい(本明細書において、これを「塗工液」と呼ぶことがある)。あるいは、当該水は、後述のように本発明のコーティング組成物から塗膜を作製する際に、本発明のコーティング組成物を溶解させて水溶液の形態に調製するための溶媒としても使用できる。
【0055】
本発明のコーティング組成物では、高エネルギー線や電磁波の照射、または加熱を通じて、構成成分である変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の架橋を促進させ、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の硬化物(架橋体)を得ることができる。このようにして得られる変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の硬化物は種々の基材(例えば、樹脂、ガラスおよび金属、ならびにそれらの組み合わせ)と強固に結合し、当該基材上に変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の架橋体を含む塗膜を形成できる。
【0056】
(6)コーティング組成物の用途
本発明のコーティング組成物は、その構成成分である変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が有する固有の性質を利用して様々な用途に利用できる。必ずしも限定されないが、具体的な用途の例としては、防曇剤、防汚剤、無機粒子用バインダー、および抗菌性を提供するための樹脂組成物が挙げられる。
【0057】
(具体的用途の例示)
(1)防曇剤およびそれを用いた防曇性部材
(1-1)防曇剤
本発明のコーティング組成物は、例えば、基材に対して防曇性を提供するための防曇剤として使用され得る。
【0058】
本明細書中に用いられる用語「防曇剤」とは、例えば透明支持基材等に付与された後に硬化することにより、当該基材表面に防曇性能を有する塗膜を形成することができる当該硬化前の組成物を指していう。例えば、すでに硬化して防曇性能を有する塗膜自体は除外される。
【0059】
本発明のコーティング組成物は、防曇剤として使用される場合、例えば透明支持基材上に塗膜が形成された部材(「防曇性部材」ともいう)において塗膜表面に吸水性を提供することができ、当該吸水により塗膜表面の水滴の形成を阻害して防曇性能を発揮することができる。この点において、本発明のコーティング組成物を防曇剤として使用することによって形成され得る塗膜は親水性を有する。
【0060】
(1-2)防曇性部材
本発明の防曇性部材は、透明支持基材および防曇層を備える。
【0061】
透明支持基材は、一方の面から他方の面への視認性が保持されている程度に透明な材料から構成されている限り、それ自体が無色または有色のいずれであってもよい。透明支持基材はまた、例えば平滑な平面を有するような板状の部材(例えば窓材)であってもよく、あるいは所定形状を有するように成形されたもの(例えば車両用ヘッドライトカバー)であってもよい。透明支持基材はまた、例えば、強度、耐火性または防火性、防音性、および/または防犯性の向上;熱線の吸収または反射;光の無反射性または低反射性の付与;温度伝導の防止または低減;等の観点から、金属線や充填材、基材用添加剤等を任意の割合で含有していてもよい。
【0062】
透明支持基材の例としては、特に限定されないが、ガラス製基材および樹脂製基材が挙げられる。ガラス製基材としては、例えば、フロートガラス、強化ガラス、耐熱ガラス、防火ガラス、デザインガラス、色ガラス、合わせガラス、すりガラス、複層ガラス、無反射ガラス、低反射ガラス、網入りガラス、線入りガラス、高透過ガラス、熱線反射ガラス、電磁波シールドガラス、サファイアガラス等が挙げられる。樹脂製基材としては、例えば、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、脂環式アクリル樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリ-4-メチルテルペン-1樹脂、塩化ビニリデン樹脂、透明エポキシ樹脂等の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂から作製された基材が挙げられる。
【0063】
透明支持基材の厚みは特に限定されず、当業者によって適切な厚みを有する基材が選択され得る。透明支持基材はまた、例えば防曇層との密着性を高めるために、当該防曇層が設けられる側に当業者に周知の方法を用いて研磨等の表面状態の加工が行われていてもよい。
【0064】
本発明の防曇性部材において、防曇層(あるいは塗膜ともいう)は、本発明のコーティング組成物の硬化物を含有し、例えば上記透明支持基材の一方の面上に設けられている。
【0065】
硬化物は、防曇性部材の防曇層に適切な防曇性能を提供するために、所定の吸水性を有していることが好ましい。本発明において、防曇層に含まれる硬化物の平均吸水倍率は、好ましくは2~250倍、より好ましくは4~200倍、さらに好ましくは5~150倍、特に好ましくは8~100倍である。硬化物の平均吸水倍率が2倍を下回ると、防曇層の親水性が低下して防曇性能を低下させることがある。硬化物の平均吸水倍率が250倍を上回ると、透明支持基材との接着性が低下することがある。このような平均吸水倍率は、例えば、(i)上記本発明のコーティング組成物(防曇剤)の構成成分として、または上記本発明コーティング組成物(防曇剤)から水溶液を調製するための溶媒として、のいずれかで使用される水の量を調節することにより、後述の基材上に設けられたコーティング組成物の塗布層を含水状態で高エネルギー線照射等の処理に供する方法、(ii)コーティング組成物に含まれる変性ポリビニルアルコール樹脂(A)のエチレン性不飽和基を有する構造単位の含有量を調整することによって、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の架橋密度を調整する方法、(iii)コーティング組成物を含有する原液または水溶液にポリアクリル酸等の吸水性樹脂を添加する方法、等により調製可能である。
【0066】
防曇層は、透明支持基材の全体において、より均一な防曇性能を発揮させるために均一な厚みで設けられていることが好ましい。防曇層の膜厚は、好ましくは0.1~200μm、より好ましくは0.2~100μm、さらに好ましくは0.3~50μmである。防曇層の膜厚が0.1μmを下回ると、当該防曇層が透明支持基材上に均一な防曇性能を付与できないことがある。防曇層の膜厚が200μmを上回ると、当該防曇層を形成するためにより多くの防曇剤が必要となるとともに、膜厚の増加によって得られる防曇性部材の透明性が低下することがある。
【0067】
本発明の防曇性部材はまた、防曇層と透明支持基材との間に、接着性を高めるための他の層(例えば当業者に公知の成分で構成される接着層)が設けられていてもよい。この他の層は透明支持基材の透明性を著しく損なわない程度に透明性を有する材料で構成されていることが好ましい。他の層の膜厚は特に限定されず、当業者によって適切な厚みが選択され得る。
【0068】
本発明の防曇性部材は、例えば以下のようにして作製できる。
【0069】
まず、上記本発明のコーティング組成物の水溶液が調製される。
【0070】
コーティング組成物に予め水が含まれていない場合は、水を添加して当該コーティング組成物を溶解させて均一な水溶液が調製される。コーティング組成物が予め水溶液の形態に調製されている場合は、必要に応じて水をさらに添加して濃度の調節が行われてもよい。さらに、コーティング組成物に架橋剤または光重合開始剤が含まれていない場合は、この水溶液を調製する段階でこれらのうちのいずれかを一緒に添加してもよい。
【0071】
コーティング組成物の水溶液を得るために使用される水の含有量は特に限定されないが、例えば変性ポリビニルアルコール樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは250~9900質量部、より好ましくは400~3000質量部である。コーティング組成物の水溶液がこのような範囲内の水を含有することにより、ポリビニルアルコール樹脂(A)を架橋して得られる硬化物は適切な平均吸水倍率を有し、得られる防曇層に良好な防曇性能を提供できる。
【0072】
次いで、透明支持基材を構成する面または部分のうち、防曇性能の付与を所望する面または部分に対して、上記コーティング組成物が水溶液の形態で付与される。この水溶液の付与は、例えばスプレー塗布、ロール塗布、スピンコーティング、エアーナイフコーティング、ブレードコーティング、ハケ塗り、浸漬等の当該分野において公知の方法を用いることができる。水溶液の付与後、基材上の塗布層は含水状態であることが好ましい。塗布層が含水状態であることにより、後述の高エネルギー線照射等の処理により、当該塗布層中のコーティング組成物に含まれる変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が含水状態で架橋される。その結果、架橋後の硬化物の吸水倍率が高まり、防曇性が向上する。したがって、基材上にコーティング組成物の水溶液を付与した後の塗布層は、含水状態のまま後述の高エネルギー線照射等の処理に供されることが好ましい。
【0073】
その後、透明支持基材上のコーティング組成物を付与した層に対して、高エネルギー線または電磁波が照射されるか、あるいはコーティング組成物を付与した透明支持基材が所定の温度で加熱される。高エネルギー線としては、例えば電子線などが挙げられる。電磁波としては、紫外線(UV光)、可視光、赤外線などが挙げられる。加熱に供される際の温度としては、例えば50~200℃が挙げられる。中でも、複雑な設備等が必須とすることなく、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の硬化物をより均質な状態で得ることができることから、UV光を用いることが好ましい。UV光については、紫外線ランプなどの光源から発せられるものが照射されるだけでなく、屋外に曝すことにより太陽光を通じて照射されてもよい。
【0074】
このようにして、透明支持基材上に所定の防曇性能を有する防曇層が形成された、本発明の防曇性部材を得ることができる。
【0075】
本発明の防曇性部材は、部材表面の曇りの発生を回避することが所望される種々の用途に使用され得る。特に限定されないが、用途の例としては、車両(例えば、自動車、列車)、航空機、船舶用のウインドウおよびヘッドライトカバー;建築(例えば、ビル、住宅)用窓材(例えば窓ガラス);浴室または洗面所用の鏡;道路交通用カーブミラー;防犯カメラレンズ;デジタルカメラレンズ;放送用カメラレンズ;眼鏡レンズ;サングラスレンズ;スポーツまたはレジャー(例えば、スキー、スノーボード、シュノーケリング、スキューバダイビング)用ゴーグル;農業ハウス構成材料(例えばプラスチックシート、プラスチックフィルム、窓ガラス);などが挙げられる。
【0076】
本発明の防曇性部材は、防曇層に含まれる変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の硬化物が有する吸水性の機能を利用して、防曇性部材(の防曇層)上に存在する水分から生じる曇りの発生を除去または低減できる。さらに、防曇層に含まれた水分は乾燥により防曇性部材から容易に離脱することも可能である。これにより、本発明の防曇性部材は、吸水と乾燥とを繰り返して防曇性能を発揮できる。
【0077】
(2)防汚剤およびそれを用いた防汚性部材
(2-1)防汚剤
本発明のコーティング組成物は、例えば、基材に対して防汚性を提供するための防汚剤として使用され得る。
【0078】
本明細書中に用いられる用語「防汚剤」とは、例えば基材等に付与された後に硬化することにより、当該基材表面に防汚性能を有する塗膜を形成することができる当該硬化前の組成物を指していう。例えば、すでに硬化して防汚性能を有する塗膜自体は除外される。
【0079】
本発明のコーティング組成物は、防汚剤として使用される場合、例えば基材上に塗膜(防汚層)が形成された部材(「防汚性部材」ともいう)において塗膜表面が耐水性を有し、当該耐水性により塗膜表面の水滴の形成を阻害して防汚性部材表面に付着し得る汚染物の除去を可能にする。
【0080】
(2-2)防汚性部材
本発明の防汚性部材は、基材および防汚層を備える。
【0081】
本発明の防汚性部材を構成し得る基材は、それ自体が無色または有色のいずれであってもよい。当該基材はまた、例えば平滑な平面を有するような板状の部材(例えば窓材)であってもよく、あるいは所定形状を有するように成形されたもの(例えば任意の形状を有する樹脂成形体)であってもよい。当該基材はまた、例えば、強度、耐火性または防火性、防音性、および/または防犯性の向上;熱線の吸収または反射;光の無反射性または低反射性の付与;温度伝導の防止または低減;等の観点から、金属線や充填材、基材用添加剤等を任意の割合で含有していてもよい。
【0082】
本発明の防汚性部材を構成し得る基材の例としては、特に限定されないが、ガラス製基材および樹脂製基材が挙げられる。ガラス製基材としては、例えば、フロートガラス、強化ガラス、耐熱ガラス、防火ガラス、デザインガラス、色ガラス、合わせガラス、すりガラス、複層ガラス、無反射ガラス、低反射ガラス、網入りガラス、線入りガラス、高透過ガラス、熱線反射ガラス、電磁波シールドガラス、サファイアガラス等が挙げられる。樹脂製基材としては、例えば、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、脂環式アクリル樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリ-4-メチルテルペン-1樹脂、塩化ビニリデン樹脂、透明エポキシ樹脂等の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂から作製された基材(例えばフィルム、シート)が挙げられる。
【0083】
本発明の防汚性部材を構成し得る基材の厚みは特に限定されず、当業者によって適切な厚みを有するものが選択され得る。当該基材はまた、例えば防汚層との密着性を高めるために、当該防汚層が設けられる側に当業者に周知の方法を用いて研磨等の表面状態の加工が行われていてもよい。
【0084】
本発明の防汚性部材において、防汚層(あるいは塗膜ともいう)は、本発明のコーティング組成物の硬化物を含有し、例えば上記基材の一方の面上に設けられている。
【0085】
防汚層は、基材の全体において、より均一な防汚性能を発揮させるために均一な厚みで設けられていることが好ましい。防汚層の膜厚は、好ましくは0.1~50μm、より好ましくは0.2~20μmである。防汚層の膜厚が0.1μmを下回ると、当該防汚層が基材上に均一な防汚性能を付与できないことがある。防汚層の膜厚が50μmを上回ると、当該防汚層を形成するためにより多くの防汚剤が必要となることにより生産性に欠くことがある。
【0086】
本発明の防汚性部材はまた、防汚層と基材との間に、接着性を高めるための他の層(例えば当業者に公知の成分で構成される接着層)が設けられていてもよい。この他の層は基材の透明性を著しく損なわない程度に透明性を有する材料で構成されていることが好ましい。他の層の膜厚は特に限定されず、当業者によって適切な厚みが選択され得る。
【0087】
本発明の防汚性部材は、例えば以下のようにして作製できる。
【0088】
まず、基材上に上記本発明のコーティング組成物が付与されることにより、未硬化防汚層を有する前処理部材が作製される。
【0089】
ここで、コーティング組成物に予め水が含まれていない場合は、水を添加して当該コーティング組成物を溶解させて均一な水溶液を調製することが好ましい。コーティング組成物が予め水溶液に調製されている場合は、必要に応じて水をさらに添加して濃度の調節が行われてもよい。さらに、コーティング組成物に架橋剤または光重合開始剤が含まれていない場合は、この水溶液を調製する段階でこれらのうちのいずれかを一緒に添加してもよい。
【0090】
コーティング組成物の水溶液を得るために使用される水の含有量は特に限定されないが、例えば変性ポリビニルアルコール樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは25~9,900質量部、より好ましくは100~3,000質量部、さらに好ましくは150~2,000質量部である。コーティング組成物の水溶液がこのような範囲内の水を含有することにより、当該水溶液に対して適切な粘度安定性および加工性を提供でき、かつポリビニルアルコール樹脂(A)を架橋して得られる硬化物に対して良好な防汚性能を付与できる。
【0091】
基材上のコーティング組成物の付与には、例えばスプレー塗布、ロール塗布、スピンコーティング、エアーナイフコーティング、ブレードコーティング、ハケ塗り、浸漬等の当該分野において公知の方法を用いることができる。コーティング組成物の付与後、必要に応じて基材上の塗布層に乾燥が施されてもよい。
【0092】
このようにして、基材上に未硬化防汚層を有する前処理部材が作製される。
【0093】
次いで、前処理部材の未硬化防汚層の硬化が行われる。
【0094】
この硬化には、例えば未硬化防汚層に対して高エネルギー線または電磁波が照射されるか、あるいは未硬化防汚層が所定の温度で加熱されることにより行われる。高エネルギー線としては、例えば電子線などが挙げられる。電磁波としては、紫外線(UV光)、可視光、赤外線などが挙げられる。加熱に供される際の温度としては、例えば50~200℃が挙げられる。中でも、複雑な設備等が必須とすることなく、未硬化防汚層に含まれる変性ポリビニルアルコール樹脂(A)をより均質な状態で硬化することができることから、UV光を用いることが好ましい。UV光については、紫外線ランプなどの光源から発せられるものが照射されるだけでなく、屋外に曝すことにより太陽光を通じて照射されてもよい。
【0095】
このようにして、基材上に所定の防汚性能を有する防汚層が形成された、本発明の防汚性部材を得ることができる。
【0096】
本発明の防汚性部材は、例えば、建築または構造物用外壁材(例えば外壁パネル、窓ガラス)や建築用内装材(例えば壁紙、鏡);風力発電機用羽根(例えばプロペラ、多翼、セイル);車両(例えば、自動車、列車)、航空機、船舶用の外装材、内装材、ウインドウ、ミラーおよびヘッドライトカバー;道路交通用カーブミラー;防犯カメラのレンズおよび筐体;デジタルカメラレンズ;放送用カメラのレンズおよび筐体;眼鏡のレンズおよびフレーム;サングラスのレンズおよびフレーム;スポーツまたはレジャー(例えば、スキー、スノーボード、シュノーケリング、スキューバダイビング)用ゴーグル;工業用、スポーツ用、二輪車用のヘルメット;農業ハウス構成材料(例えばプラスチックシート、プラスチックフィルム、窓ガラス);などの用途に使用され得る。
【0097】
本発明の防汚性部材は、防汚層に含まれる変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の硬化物が有する耐水性の機能を利用して、たとえ防汚性部材の防汚層上に塵、埃、砂、各種有機物(例えば、インク)等の汚染物が配置されたとしても、水拭き等の人為的操作または降雨等の自然現象を利用して、防汚性部材表面の汚染物を容易に取り除くことができる。
【0098】
(3)無機粒子用バインダーおよびそれを用いた積層体
(3-1)無機粒子用バインダー
本発明のコーティング組成物は、例えば、無機粒子(B1)を固定するための無機粒子用バインダーとして使用され得る。
【0099】
本明細書中に用いられる用語「無機粒子用バインダー」とは、主要成分である変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の硬化を通じて、後述の無機粒子(B1)を物理的または化学的な作用により接着、結合、付着または吸着して一塊の物体を構成することができる組成物であって、当該変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が硬化する前の状態にある組成物を指していう。例えば、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)がすでに硬化した構造を有するものはこの「無機粒子用バインダー」から除外される。
【0100】
本発明のコーティング組成物は、無機粒子用バインダーとして使用される場合、例えば後述の無機粒子(B1)の少なくとも一部の表面上に塗膜が形成される。そして、コーティング組成物中に含まれる上記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が硬化物となることにより、この塗膜内には無機粒子(B1)が硬化した無機粒子用バインダーで固定化された無機粒子固定化構造が形成される。また、この無機粒子固定化構造が所定の基材上に形成されることにより、所定の積層体が構成される。
【0101】
(3-2)無機粒子固定化構造
本明細書中に用いられる用語「無機粒子」とは、無機材料で構成されておりかつ個々が独立した形態で存在する物質の集合体を指していい、例えば、球状、真球状、針状、繊維状、板状、または無定形のいずれの形状を有していてもよく、一般に無機フィラーとして使用可能な材料が包含される。無機粒子(B1)には、例えば平均粒子径10nm以上100nm未満のナノフィラー、平均粒子径100nm以上10μm未満のミクロフィラー、および平均粒子径10μm以上100μm以下のマクロフィラーが包含される。
【0102】
無機粒子(B1)の具体的な例としては、必ずしも限定されないが、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、マイカ(層状ケイ酸塩)、クレーなどの増量材;ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノトライト、石膏繊維、アルミボレート、繊維状マグネシウム化合物(MgSO・5Mg(OH)・3HO(MOS))、炭素繊維、ガラス繊維、タルク、マイカ(層状ケイ酸塩)、ガラスフレークなどの補強材;銀イオン担持ゼオライト、銅フタロシアニンなどの抗菌剤;合成マイカ、クレーなどのガスバリア剤;シリカバルーン、ガラスバルーン、シラスバルーンなどの軽量化材;カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、金属粉、金属繊維、金属箔などの導電性付与剤;アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ベリリアなどの熱伝導性剤;チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛などの圧電性付与剤;マイカ(層状ケイ酸塩)、黒鉛、チタン酸カリウム、ゾノトライト、炭素繊維、フェライトなどの制振材;鉄粉、鉛粉、硫酸バリウムなどの遮音材;黒鉛、六方晶BN、硫化モリブデン、テフロン(登録商標)粉、タルクなどの摺動性付与材;ガラスバルーン、シラスバルーンなどの断熱性付与材;フェライト、黒鉛、木炭粉、カーンナノチューブ、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)などお電磁波吸収剤;酸化チタン、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、アルミニウム粉、マイカ(層状ケイ酸塩)などの光反射剤;酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、MOS、アルミナなどの熱線輻射材;酸化アンチモン、水酸化アルミ、水酸化マグネシウム、硼酸亜鉛、赤燐、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、ドーソナイトなどの難燃剤;鉛粉、硫酸バリウムなどの放射線防止剤;酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄などの紫外線防止剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの脱湿材;ゼオライト、活性白土などの脱臭剤;シリカ、マイカ(層状ケイ酸塩)、炭酸カルシウム、タルク、球状微粒子などのアンチブロッキング剤;毬藻状炭酸カルシウム、毬藻状ゾノトライトなどの吸油材;酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの吸水材;ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。なお、無機粒子(B1)はこのような無機物質および/または無機繊維を含有する限りにおいて、他の成分(例えば、有機物質)を含有していてもよい。例えば、無機粒子(B1)には、当該無機物質および/または無機繊維と他の成分との複合体、ならびに当該無機物質および/または無機繊維を他の成分を用いて当該技術分野において公知の方法でコーティングしたものも包含される。本発明では、汎用性があり、後述する変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の硬化物によって強固な固定が達成され得るとの理由から、上記のうちシリカ、粘土鉱物(例えば、ゼオライト、タルク)、およびマイカ(層状ケイ酸塩)がさらに好ましい。
【0103】
無機粒子固定化構造を得るために、上記コーティング組成物と無機粒子(B1)とは予め混合され、塗工用組成物が作製される。
【0104】
この塗工用組成物における無機粒子(B1)の含有量は、例えばコーティング組成物(無機粒子用バインダー)に含まれる変性ポリビニルアルコール樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは3質量部~3000質量部、より好ましくは6質量部~1500質量部である。無機粒子(B1)の含有量が3質量部を下回ると、マトリクスとなる変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の物性が支配的となり、無機粒子(B1)の添加効果が得られなくなる場合がある。無機粒子(B1)の含有量が3000質量部を上回ると、コーティング組成物内に含まれる変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が無機粒子(B1)の粒子間に適切に配置されず、均質な無機粒子固定化構造を形成することが困難となり、かつ得られる無機粒子固定化層の強度が低下する場合がある。
【0105】
本発明の無機粒子固定化構造は、この塗工用組成物の硬化を通じて、無機粒子(B1)の粒子間に、上記コーティング組成物の硬化物が配置されることにより形成される。
【0106】
(3-3)積層体および包装体
本発明の積層体は、基材および無機粒子固定化層を備える。
【0107】
積層体を構成し得る基材は、それ自体が無色または有色のいずれであってもよい。当該基材はまた、例えば平滑な平面を有するような板状の部材であってもよく、あるいは所定形状を有するように成形されたものであってもよい。
【0108】
積層体を構成し得る基材の例としては、特に限定されないが、樹脂製基材、ガラス製基材、および紙製基材が挙げられる。
【0109】
樹脂製基材としては、例えば、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、脂環式アクリル樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリ-4-メチルテルペン-1樹脂、塩化ビニリデン樹脂、透明エポキシ樹脂等の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂から作製された基材(例えばフィルム、シート)が挙げられる。
【0110】
ガラス製基材としては、例えば、フロートガラス、強化ガラス、耐熱ガラス、防火ガラス、デザインガラス、色ガラス、合わせガラス、すりガラス、複層ガラス、無反射ガラス、低反射ガラス、網入りガラス、線入りガラス、高透過ガラス、熱線反射ガラス、電磁波シールドガラス、サファイアガラス等が挙げられる。
【0111】
紙製基材としては、例えば、印刷・情報用紙(例えば75%以上の白色度を有する上級印刷紙、55%以上75%未満の白色度を有する中級印刷紙、55%未満の白色度を有する下級印刷紙、インディアペーパー、中質ベース紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、エンボス紙、特殊印刷用紙、クラフト紙、未ざらし包装紙、さらし包装紙、建築用原紙、積層板原紙、接着紙原紙、食品容器原紙、コーテッド原紙、コンデンサペーパー、プレスボード、段ボール原紙、マニラボール、白ボール、黄板紙、チップボール、色板紙、防水原紙、石膏ボード原紙、紙管原紙、ワンプ等が挙げられる。
【0112】
積層体を構成し得る基材の厚みは特に限定されず、当業者によって適切な厚みを有するものが選択され得る。当該基材はまた、例えば無機粒子固定化層との密着性を高めるために、当該無機粒子固定化層が設けられる側に当業者に周知の方法を用いて研磨等の表面状態の加工が行われていてもよい。
【0113】
本発明の積層体において、無機粒子固定化層は、上記の通り無機粒子(B1)の粒子間に本発明の無機粒子用バインダーの硬化物が配置された無機粒子固定化構造を含み、例えば上記基材の一方の面上に設けられている。
【0114】
無機粒子固定化層は、例えば、基材の全体において略均一な厚みで設けられている。無機粒子固定化層の膜厚は、好ましくは0.1~50μm、より好ましくは0.2~20μmである。無機粒子固定化層の膜厚が0.1μmを下回ると、均一な層形成が難しいことがある。無機粒子固定化層の膜厚が50μmを上回ると、当該無機粒子固定化層を形成するためにより多くのコーティング組成物(無機粒子用バインダー)が必要となり、生産性に欠くことに加え、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の架橋を無機粒子固定化層の内部まで均一に行うことが困難となることある。
【0115】
本発明の積層体はまた、基材と無機粒子固定化層との間に、接着性を高めるための他の層(例えば当業者に公知の成分で構成される接着層)が設けられていてもよい。他の層の膜厚は特に限定されず、当業者によって適切な厚みが選択され得る。
【0116】
本発明の積層体は、例えば以下のようにして作製できる。
【0117】
まず、基材上に上記コーティング組成物および無機粒子(B1)を含有する塗工用組成物が付与されることにより、未硬化バインダーを含む塗工層を有する前処理部材が作製される。
【0118】
ここで、使用する塗工用組成物に予め水が含まれていない場合は、水を添加して無機粒子用バインダーを溶解させることにより、均一なコーティング組成物の水溶液を含む塗工液の形態で塗工用組成物の調製を完成させることが好ましい。コーティング組成物が予め水溶液の形態に調製されている場合は、必要に応じて水をさらに添加して濃度を調節することにより塗工用組成物が作製されてもよい。さらに、コーティング組成物に架橋剤または光重合開始剤が含まれていない場合は、この段階でこれらのうちのいずれかを一緒に添加してもよい。
【0119】
塗工用組成物の調製を完成させるために使用される水の含有量は特に限定されないが、例えば変性ポリビニルアルコール樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは250~9900質量部、より好ましくは400~3000質量部である。塗工用組成物がこのような範囲内の水を含有することにより、塗工用組成物は適切な粘度安定性を有し、かつ当該塗工液内のポリビニルアルコール樹脂(A)を架橋して得られる硬化物は無機粒子(B1)に対して良好なバインダー性能を付与できる。
【0120】
基材上の塗工用組成物の付与には、例えばスプレー塗布、ロール塗布、スピンコーティング、エアーナイフコーティング、ブレードコーティング、ハケ塗り、浸漬等の当該分野において公知の方法を用いることができる。塗工用組成物の付与後、必要に応じて基材上の未硬化バインダーを含む塗工層に乾燥が施されてもよい。
【0121】
このようにして、基材上に未硬化バインダーを含む塗工層を有する前処理部材が作製される。
【0122】
次いで、前処理部材の塗工層の硬化が行われる。
【0123】
この硬化には、例えば塗工層の未硬化バインダー(変性ポリビニルアルコール樹脂(A))に対して高エネルギーまたは電磁波が照射されるか、あるいは当該変性ポリビニルアルコール樹脂(A)が所定の温度で加熱されることにより行われる。高エネルギー線としては、例えば電子線などが挙げられる。電磁波としては、マイクロ波、紫外線(UV光)、可視光、赤外線などが挙げられる。加熱に供される際の温度としては、例えば50~200℃が挙げられる。中でも、複雑な設備等を必須とすることなく、塗工層に含まれる変性ポリビニルアルコール樹脂(A)をより均質な状態で硬化することができることから、UV光を用いることが好ましい。UV光については、紫外線ランプなどの光源から発せられるものが照射されるだけでなく、屋外に曝すことにより太陽光を通じて照射されてもよい。
【0124】
その結果、塗工層内の変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の架橋が促され、層内の無機粒子(B1)の粒子間に変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の硬化物が配置された無機粒子固定化構造を含む無機粒子固定化層が形成される。
【0125】
このようにして、基材上に無機粒子固定化層が形成された、本発明の積層体を得ることができる。
【0126】
本発明の積層体は、例えば、含有する無機粒子の用途に合わせた種々の積層部材として使用され得る。例えば、無機粒子(B1)として上記ガスバリア剤を用いる場合、本発明の積層体はガスバリア性を有するフィルムまたはシート(ガスバリア材)として使用され得る。このようなガスバリア材は、例えば、食品(例えば生鮮食品、加工食品等);電子部品;嫌気性化学物質;などの被包装物を包囲してなる包装体を得るために使用され得る。
【0127】
(4)抗菌性を提供するための樹脂組成物およびそれを用いた抗菌製品
(4-1)抗菌性を提供するための樹脂組成物
本発明のコーティング組成物は、例えば、抗菌成分(B2)を含有させることにより、基材に対して抗菌性を提供するための樹脂組成物(以下、「抗菌性樹脂組成物」ということがある)として使用され得る。
【0128】
抗菌成分(B2)は特に制限されず、公知の抗菌剤を使用できる。なお、抗菌剤としては、例えば、黄色ブドウ球菌や大腸菌に代表される病原性細菌類に対して殺菌効果を発揮するものが好適に用いられる。
【0129】
抗菌成分(B2)としては、例えば、銀を含む抗菌成分、銀を含まない無機系抗菌成分、有機系抗菌成分、および天然系抗菌成分、ならびにそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0130】
銀を含む抗菌成分としては、銀(銀原子)が含まれていればよく、その種類は特に制限されない。また、銀の形態も特に制限されず、例えば、金属銀、銀イオン、銀塩など形態で含有され得る。
【0131】
銀塩としては、例えば、酢酸銀、アセチルアセトン酸銀、アジ化銀、銀アセチリド、ヒ酸銀、安息香酸銀、フッ化水素銀、臭素酸銀、臭化銀、炭酸銀、塩化銀、塩素酸銀、クロム酸銀、クエン酸銀、シアン酸銀、シアン化銀、(cis,cis-1,5-シクロオクタジエン)-1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロアセチルアセトン酸銀、ジエチルジチオカルバミン酸銀、フッ化銀(I)、フッ化銀(II)、7,7-ジメチル-1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロ-4,6-オクタンジオン酸銀、ヘキサフルオロアンチモン酸銀、ヘキサフルオロヒ酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀、ヨウ素酸銀、ヨウ化銀、イソチオシアン酸銀、シアン化銀カリウム、乳酸銀、モリブデン酸銀、硝酸銀、亜硝酸銀、酸化銀(I)、酸化銀(II)、シュウ酸銀、過塩素酸銀、ペルフルオロ酪酸銀、ペルフルオロプロピオン酸銀、過マンガン酸銀、過レニウム酸銀、リン酸銀、ピクリン酸銀一水和物、プロピオン酸銀、セレン酸銀、セレン化銀、亜セレン酸銀、スルファジアジン銀、硫酸銀、硫化銀、亜硫酸銀、テルル化銀、テトラフルオロ硼酸銀、テトラヨードムキュリウム酸銀、テトラタングステン酸銀、チオシアン酸銀、p-トルエンスルホン酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸銀、トリフルオロ酢酸銀およびバナジン酸銀等が挙げられる。
【0132】
また、銀塩の一形態である銀錯体の一例としては、ヒスチジン銀錯体、メチオニン銀錯体、システイン銀錯体、アスパラギン酸銀錯体、ピロリドンカルボン酸銀錯体、オキソテトラヒドロフランカルボン酸銀錯体またはイミダゾール銀錯体などが挙げられる。
【0133】
銀を含まない無機系抗菌成分としては、例えば金属銅、酸化銅などの銅を含む化合物、金属金、酸化金などの金を含む化合物、金属鉛、酸化鉛などの鉛を含む化合物、金属白金、酸化白金などの白金を含む化合物、金属ニッケル、酸化ニッケルなどのニッケルを含む化合物、金属アルミニウム、酸化アルミニウムなどのアルミニウムを含む化合物、金属スズ、酸化スズなどのスズを含む化合物、金属亜鉛、酸化亜鉛などの亜鉛を含む化合物、金属鉄、酸化鉄などの鉄を含む化合物、金属ビスマス、酸化ビスマスなどのビスマスを含む化合物、などの銀以外の金属を含有する化合物やアンモニウム塩含有無機系化合物等が挙げられる。
【0134】
有機系抗菌成分としては、例えば、フェノールエーテル誘導体、イミダゾール誘導体、スルホン誘導体、N-ハロアルキルチオ化合物、アニリド誘導体、ピロール誘導体、アンモニウム塩含有有機系化合物、ピリジン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾイソチアゾリン系化合物およびイソチアゾリン系化合物等が挙げられる。
【0135】
アンモニウム塩含有無機系化合物およびアンモニウム塩含有有機系化合物の種類は特に制限されないが、第4級アンモニウム塩が特に好ましい。アンモニウム塩含有無機系化合物としては、例えば、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。アンモニウム塩含有有機系化合物としては、例えば、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、塩化ベンザルコニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、およびアンモニウム塩含有ポリマー挙げられる。アンモニウム塩含有ポリマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート重合体に代表されるアミノ基含有樹脂の塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体に代表されるアンモニウム塩含有モノマーを構造単位に有する樹脂等が挙げられる。後述のキトサンの中和物もアミノ基含有樹脂の塩の一態様である。
【0136】
天然系抗菌成分としては、例えば、カニ、エビなどの甲殻類の甲殻等に含まれるキチンを加水分解して得られる塩基性多糖類のキトサンが挙げられる。キトサンは市販のものを使用できる。
【0137】
キトサンは酸により中和された中和物の状態で使用することが好ましい。中和により適切な水溶性を付与でき、例えばコーティング組成物中の変性ポリビニルアルコール樹脂(A)と水溶液状態でブレンドすることが容易となる。キトサンは例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸などの無機酸や、カルボン酸、スルホン酸、フェノール類などの有機酸で中和することができる。カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、デカン酸、オレイン酸、乳酸、安息香酸、フタル酸、シュウ酸、アジピン酸、アコユニット酸、ピルビン酸、アミノ酸などが挙げられる。これらの中でも、ジカルボン酸および炭素数1~3のモノカルボン酸が好ましい。アジピン酸および酢酸がより好ましい。キトサンの中和度は50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、100モル%であってもよい。キトサンの中和度は95モル%以下であってもよく、80モル%以下であってもよい。
【0138】
抗菌成分(B2)の好ましい例としては、分子量1000以上の高分子化合物、水に不溶な無機化合物、および水に不溶な低分子有機化合物、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。特に、水溶液中で均一に分散できる観点から、抗菌成分(B2)は、分子量1000以上の高分子化合物、水に不溶な無機化合物、ならびにそれらの組み合わせのいずれかであることが好ましい。
【0139】
本発明のコーティング組成物が抗菌性樹脂組成物として使用される場合、当該コーティング組成物に含まれる変性ポリビニルアルコール樹脂(A)と抗菌成分(B2)との質量比(A/B2)は特に限定されないが、好ましくは99/1~30/70、より好ましくは98/2~40/60、さらに好ましくは95/5~50/50、特に好ましくは90/10~60/40である。変性ポリビニルアルコール樹脂(A)および抗菌成分(B2)がこのような範囲の質量比で含有されていることにより、得られる抗菌性樹脂組成物は、複雑な架橋操作を要することなく、所定の架橋剤の存在下や活性エネルギー線の付与によって容易に架橋構造を形成することができる。
【0140】
(4-2)硬化物
本発明のコーティング組成物が抗菌性樹脂組成物として使用される場合、高エネルギー線や電磁波の照射、または加熱を通じて、コーティング組成物中の構成成分である変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の架橋を促進させ、コーティング組成物の硬化物(架橋体)を得ることができる。当該硬化物も本発明の一実施形態である。この硬化物は、抗菌性樹脂組成物に含まれる変性ポリビニルアルコール樹脂(A)と抗菌成分(B2)とが、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する上記式(I)で表される構成単位に基づく架橋によって化学的または物理的に一体化されたものであることが好ましい。このようにして得られる硬化物は、耐水性および抗菌性を発揮できる。本発明のコーティング組成物では、グルタルアルデヒド等の変異原性化合物を用いず、高エネルギー線等をトリガーとして架橋反応を進行させることができる。
【0141】
本発明の硬化物は優れた耐水性を有する。このような耐水性の程度は、例えば、得られた架橋体の溶出率を測定することにより評価することができる。
【0142】
硬化物の溶出率は、以下のようにして算出される:まず評価を開始した(未処理)段階における所定の架橋体(硬化物)の質量(W1)を測定し、次いでこの架橋体の80℃で24時間真空乾燥した後の質量(W2)を測定して、W1およびW2から、架橋体の固形分の含有量(TS)が以下の式:
TS(質量%)=100×W2/W1
にしたがって算出される。次に、評価を開始した(未処理)段階における所定の架橋体を煮沸水中に1時間浸漬し、水から取り出して、80℃で24時間真空乾燥した後に質量(W3)を測定し、最終的に上記で得られたW1、TSおよびW3を用いて以下の式:
溶出率(質量%)=100-{W3/(W1×TS/100)}×100
にしたがって溶出率を算出することができる。
【0143】
硬化物の上記溶出率は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらにより好ましくは30質量%以下、最も好ましくは25質量%以下である。本発明における硬化物が上記範囲の溶出率を満足していることにより、上記煮沸水への浸漬の前後において構成成分の溶出が防止される。言い換えれば、この溶出の防止によって当該水に対して優れた耐水性を有していることがわかる。
【0144】
本発明の硬化物は、上記抗菌性樹脂組成物を用いて例えば以下のようにして製造できる。
【0145】
まず、抗菌性樹脂組成物が変性ポリビニルアルコール樹脂(A)と抗菌成分(B2)とともに、光重合開始剤を含有している場合について説明する。
【0146】
このような場合、抗菌性樹脂組成物(コーティング組成物)にα線、γ線、電子線、i線、UV光などの活性エネルギー線、特に好適にはUV光が照射される。
【0147】
UV光の照射条件は、使用する抗菌性樹脂組成物の量およびそれらの内容物の含有量等によって変動するため必ずしも限定されず、適切な照射条件(例えば照射強度および照射時間)が当業者によって適宜選択され得る。抗菌性樹脂組成物へのUV光の照射は連続的に行われてもよく、あるいは断続的に行われてもよい。
【0148】
上記抗菌性樹脂組成物にUV光が照射されることにより、当該抗菌性樹脂組成物に含まれる変性ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する上記式(I)で表される構成単位に基づく架橋によって化学的または物理的に一体化され、所定の架橋体(硬化物)が形成される。
【0149】
このようにして本発明の硬化物を得ることができる。これは、抗菌性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射することにより当該抗菌性樹脂組成物を架橋する工程を包含する製造方法に該当する。
【0150】
他方、抗菌性樹脂組成物が変性ポリビニルアルコール樹脂(A)と抗菌成分(B2)とともに、架橋剤を含有している場合について説明する。
【0151】
このような場合、抗菌性樹脂組成物が加熱される。加熱条件は、使用する抗菌性樹脂組成物の量およびそれらの内容物の含有量等によって変動するため必ずしも限定されず、適切な加熱条件(例えば加熱温度および加熱時間)は当業者によって適宜選択され得る。抗菌性樹脂組成物への加熱は連続的に行われてもよく、あるいは断続的に行われてもよい。
【0152】
上記抗菌性樹脂組成物の加熱によって、当該組成物に含まれる変性ポリビニルアルコール樹脂(A)を構成する上記式(I)で表される構成単位に基づく架橋によって化学的または物理的に一体化され、所定の架橋体(硬化物)が形成される。
【0153】
このようにして本発明の硬化物を得ることができる。これは、抗菌性樹脂組成物を加熱することにより当該抗菌性樹脂組成物を架橋する工程を包含する製造方法に該当する。
【0154】
本発明の硬化物は、特に限定されないが、例えば、シート、フィルムなどの任意の成形体に成形され得る。硬化物の成形方法としては、所望の形状の型枠に上記抗菌性樹脂組成物を配置して架橋させる方法や、上記抗菌性樹脂組成物を他の基材上に塗工した状態で架橋させる方法が挙げられる。硬化物の厚みは、特に限定されないが、10~1000μmが好ましく、50~80μmがより好ましい。この範囲であると、得られる成形体の耐水性および取扱い性が向上する。
【0155】
(4-3)抗菌製品
本発明の硬化物は、特に限定されないが、その優れた抗菌性および耐水性を利用して、抗菌製品として利用できる。例えば、衛生製品(例えば、オムツおよび生理用品)、メディカル関連製品(例えば創傷保護用ドレッシング材)、農業・園芸用資材(例えば土壌保水剤、育苗用シート、種子コーティング材)、食品包装材(例えば鮮度保持フィルム、結露防止シート、バリア性コーティング材)、ペット関連製品(例えばペットシート、猫砂)、電気関連資材(例えば通信ケーブル用止水材、建築用資材(例えば結露防止壁紙)、サニタリー用資材(例えば、浴室用品、洗面用品、トイレ用品)、台所用資材などの様々な製品を構成するための材料として使用することができる。
【0156】
このように本発明のコーティング組成物は、構成成分である上記側鎖にエチレン性不飽和基を有する変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の汎用性に基づいて、上記にて例示したような種々の用途に利用することができる。
【実施例
【0157】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「%」および「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」および「質量部」を表す。
【0158】
(実施例I:防曇剤の作製および評価)
(変性率の算出)
日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「LAMBDA 500」を用い、室温にて実施例I-1~I-8または比較例I-1およびI-2で得られた変性ポリビニルアルコール樹脂のH-NMRを測定し、オレフィンプロトン由来のピーク(5.0~7.5ppm)の積分値から、変性率を算出した。例えば、後述の実施例I-1においては、5.6ppmおよび6.0ppmに表れるオレフィンプロトン由来のピークの積分値から、変性率を算出した。
【0159】
(変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の硬化物の吸水倍率)
実施例I-9~I-17または比較例I-3~I-5で得られた防曇剤原液を、コロナ処理を施した100μm厚のPETフィルム上に、乾燥後の塗膜厚みが20μmになるようにバーコーターでコートした。次いで、これを所定の方法で架橋処理した後、100℃で30分乾燥させ、防曇コートフィルムを得た。得られた防曇コートフィルムを室温(25℃)にて純水中に3時間浸漬し、水から取り出して表面水を拭き取った後の質量(W1)を測定した。その後、フィルムを80℃で24時間真空乾燥した後の質量(W2)を測定した。これらの値W1,W2と、予め測定しておいた基材のPETフィルムのみを室温(25℃)にて純水中に3時間浸漬後、水から取り出して表面水を拭き取った後の質量(W3)およびそれを80℃で24時間真空乾燥した後の質量(W4)を用いて、以下の式に従って硬化物の吸水倍率を算出し、この吸水倍率を吸水性の指標とした。なお、吸水倍率が高いほど吸水性が高いことを意味する。
吸水倍率(倍)=(W1-W3)/(W2-W4)
【0160】
(防曇性の評価)
40℃の温水100mLを入れた200mLビーカーの口を、実施例I-9~I-17または比較例I-3~I-5で得られた防曇コートフィルムまたは非コートフィルムで覆い、40℃の雰囲気下で、1時間放置した後、防曇コートフィルムのヘイズをヘイズメーター(日本電色工業株式会社製ヘイズメーターNDH 5000)を用いて測定した。ヘイズの値をもとに、以下の基準で防曇性を判定した。
A:ヘイズが10未満
B:ヘイズが10~40
C:ヘイズが40以上
【0161】
(防曇持続性の評価)
実施例I-9~I-17または比較例I-3~I-5で得られた防曇コートフィルムまたは非コートフィルムを50℃の水に1週間浸漬した後、80℃で30分間乾燥することにより処理済み防曇コートフィルムを得た。次いで、40℃の温水100mLを入れた200mLビーカーの口を、当該処理済み防曇コートフィルムで覆い、40℃の雰囲気下にて1時間放置した後、処理済み防曇コートフィルムのヘイズを上記と同様にしてヘイズメーターを用いて測定した。ヘイズの値をもとに、以下の基準で防曇持続性を判定した。
A:ヘイズが10未満
B:ヘイズが10~40
C:ヘイズが40以上
【0162】
(防曇剤原液の粘度安定性)
実施例I-9~I-17または比較例I-4~I-5で得られた防曇剤原液を、試験開始日から20℃で1日間放置した後、エム・テクニック株式会社製精密分散乳化機「クレアミックス」を用いて、回転数6400rpmで10分間、ジェット流による剪断をかけながら再混合した後、再び20℃で1日間放置した。その後、放置1日ごとに上記再混合をして1日間放置する操作を繰り返し、試験開始日から7日後の粘度(η7日)と20℃の初期粘度(η初期)との比(増粘倍率=η7日/η初期)を求め以下の基準で評価した。なお、防曇剤原液は、放置期間中はアルミホイルで容器全体を覆い遮光した。粘度の測定は、JIS K 6726(1994年)の回転粘度計法に準じてB型粘度計(回転数12rpm)を用い20℃で行った。
A:η7日/η初期が1以上5未満であった。
B:η7日/η初期が5以上10未満であった。
C:η7日/η初期が10以上または、組成物が流動性を失いゲル化した。
【0163】
(実施例I-1:防曇剤(E1)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、メタクリル酸510.3質量部、酢酸24.0質量部、イオン交換水28.4質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物8.1質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度1700、けん化度95モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら65℃まで昇温し、スラリー状態で1時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOH-1」を得た。得られた「PVOH-1」の評価結果を表1に示す。この「PVOH-1」を防曇剤(E1)として後述の実施例に使用した。
【0164】
(実施例I-2:防曇剤(E2)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、メタクリル酸476.3質量部、酢酸62.4質量部、イオン交換水28.4質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物9.1質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度300、けん化度82モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら65℃まで昇温し、スラリー状態で2.8時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOH-2」を得た。得られた「PVOH-2」の評価結果を表1に示す。この「PVOH-2」を防曇剤(E2)として後述の実施例に使用した。
【0165】
(実施例I-3:防曇剤(E3)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、4-ペンテン酸510.3質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度1700、けん化度98.5モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら60℃まで昇温し、スラリー状態で3時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOH-3」を得た。得られた「PVOH-3」の評価結果を表1に示す。この「PVOH-3」を防曇剤(E3)として後述の実施例に使用した。
【0166】
(実施例I-4:防曇剤(E4)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、メタクリル酸454.2質量部、酢酸5.7質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度1700、けん化度98.5モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら90℃まで昇温し、スラリー状態で3時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOH-4」を得た。得られた「PVOH-4」の評価結果を表1に示す。この「PVOH-4」を防曇剤(E4)として後述の実施例に使用した。
【0167】
(実施例I-5:防曇剤(E5)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、メタクリル酸454.2質量部、酢酸5.7質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度2400、けん化度98.5モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら90℃まで昇温し、スラリー状態で10時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOH-5」を得た。得られた「PVOH-5]の評価結果を表1に示す。この「PVOH-5」を防曇剤(E5)として後述の実施例に使用した。
【0168】
(実施例I-6:防曇剤(E6)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、メタクリル酸499.0質量部、酢酸397質量部、イオン交換水28.4質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物3.4質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度2400、けん化度88モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら75℃まで昇温し、スラリー状態で2.5時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOH-6」を得た。得られた「PVOH-6」の評価結果を表1に示す。この「PVOH-6」を防曇剤(E6)として後述の実施例に使用した。
【0169】
(実施例I-7:防曇剤(E7)の作製)
撹拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、アクリル酸493.3質量部、酢酸17.0質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(粘度重合度1700、けん化度98.5モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら65℃まで昇温し、スラリー状態で10時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃、1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOH-7」を得た。得られた「PVOH-7」の評価結果を表1に示す。この「PVOH -7」を防曇剤(E7)として後述の実施例に使用した。
【0170】
(実施例I-8:防曇剤(E8)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、メタクリル酸454.2質量部、酢酸5.7質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度500、けん化度98.5モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら90℃まで昇温し、スラリー状態で5時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOH-8」を得た。得られた「PVOH-8」の評価結果を表1に示す。この「PVOH-8」を防曇剤(E8)として後述の実施例に使用した。
【0171】
(比較例I-1:防曇剤(C1)の作製)
変性されていないポリビニルアルコール樹脂として、市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度1700、けん化度98.5モル%)をそのまま「PVOH-9」として用いた。この「PVOH-9」を防曇剤(C1)として後述の比較例に使用した。
【0172】
(比較例I-2:防曇剤(C2)の作製)
特許文献1(特開2014-101439号公報)の実施例6に記載の方法に従い、3-メタクリルアミドプロピルトリメトキシシラン変性ポリビニルアルコール「PVOH-10」を得た。得られた「PVOH-10」の評価結果を表1に示す。この「PVOH-10」を防曇剤(C2)として後述の比較例に使用した。
【0173】
【表1】
【0174】
(実施例I-9:防曇コートフィルム(DE1)の作製)
実施例I-1で得られた防曇剤(E1)を水に溶解させて、10%水溶液を調製した後、光開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンを、防曇剤(E1)を構成する「PVOH-1」100質量部に対して1質量部になるように添加して溶解させ、防曇剤原液を調製した。
【0175】
この防曇剤原液を、コロナ処理を施した100μm厚のPETフィルム上に、乾燥後の塗膜の厚みが20μmになるようにバーコーターでコートした。次いで、コートしたフィルムを25℃にて50%RH条件下で1週間乾燥させた後、紫外線を3000mJ/cmの強度で照射して、「PVOH-1」を架橋処理した後、80℃で30分間乾燥させ、防曇コートフィルム(DE1)を得た。この防曇コートフィルム(DE1)の評価結果を表2に示す。
【0176】
(実施例I-10:防曇コートフィルム(DE2)の作製)
実施例I-1で得られた防曇剤(E1)の代わりに実施例I-2で得られた防曇剤(E2)を用いたこと以外は、実施例I-9と同様にして防曇剤原液を調製し、この防曇剤原液を用いて実施例I-9と同様にして防曇コートフィルム(DE2)を得た。この防曇コートフィルム(DE2)の評価結果を表2に示す。
【0177】
(実施例I-11:防曇コートフィルム(DE3)の作製)
実施例I-1で得られた防曇剤(E1)の代わりに実施例I-3で得られた防曇剤(E3)を用いたこと以外は、実施例I-9と同様にして防曇剤原液を調製し、この防曇剤原液を用いかつコート面を25℃、50%RH条件下で1週間乾燥させることなく、当該コート面に照射した紫外線の強度を10000mJ/cmに変更したこと以外は実施例I-9と同様にして防曇コートフィルム(DE3)を得た。この防曇コートフィルム(DE3)の評価結果を表2に示す。
【0178】
(実施例I-12:防曇コートフィルム(DE4)の作製)
実施例I-1で得られた防曇剤(E1)の代わりに実施例I-4で得られた防曇剤(E4)を用いたこと以外は、実施例I-9と同様にして防曇剤原液を調製し、この防曇剤原液を用いて、25℃、50%RH条件下で1週間乾燥させなかったこと以外は実施例I-9と同様にして防曇コートフィルム(DE4)を得た。この防曇コートフィルム(DE4)の評価結果を表2に示す。
【0179】
なお、本実施例では、上記防曇性の評価にあたり、ビーカー上に配置された防曇コートフィルム(DE4)について、試験開始時(0分)と試験開始5分経過後の写真を撮った。これらの結果を図1に示す。
【0180】
(実施例I-13:防曇コートフィルム(DE5)の作製)
実施例I-1で得られた防曇剤(E1)の代わりに実施例I-5で得られた防曇剤(E5)を用いたこと以外は、実施例I-9と同様にして防曇剤原液を調製し、この防曇剤原液を用いて、25℃、50%RH条件下で1週間乾燥させなかったこと以外は実施例I-9と同様にして防曇コートフィルム(DE5)を得た。この防曇コートフィルム(DE5)の評価結果を表2に示す。
【0181】
(実施例I-14:防曇コートフィルム(DE6)の作製)
実施例I-1で得られた防曇剤(E1)の代わりに実施例I-6で得られた防曇剤(E6)を用いたこと以外は、実施例I-9と同様にして防曇剤原液を調製し、この防曇剤原液を用いかつコート面に対して紫外線の代わりに30kGyの電子線(EB)を照射したこと以外は実施例I-9と同様にして防曇コートフィルム(DE6)を得た。この防曇コートフィルム(DE6)の評価結果を表2に示す。
【0182】
(実施例I-15:防曇コートフィルム(DE7)の作製)
実施例I-1で得られた防曇剤(E1)の代わりに実施例I-7で得られた防曇剤(E7)を用いたこと以外は、実施例I-9と同様にして防曇剤原液を調製し、この防曇剤原液を用いて実施例I-9と同様にして防曇コートフィルム(DE7)を得た。この防曇コートフィルム(DE7)の評価結果を表2に示す。
【0183】
(実施例I-16:防曇コートフィルム(DE8)の作製)
実施例I-1で得られた防曇剤(E1)の代わりに実施例I-8で得られた防曇剤(E8)を用いたこと以外は、実施例I-9と同様にして防曇剤原液を調製し、この防曇剤原液を用いて、25℃、50%RH条件下で1週間乾燥させなかったこと以外は実施例I-9と同様にして防曇コートフィルム(DE8)を得た。この防曇コートフィルム(DE8)の評価結果を表2に示す。
【0184】
(実施例I-17:防曇コートフィルム(DE9)の作製)
ポリアクリル酸水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製168-07375,25%水溶液)1.4質量部に、3.0質量部のイオン交換水を添加し、8規定のKOH水溶液0.154質量部を添加して、均一になるまで十分混合した。次いで、これに、実施例I-4で得られた防曇剤(E4)を水に溶解させて調製した10%水溶液8.2質量部を添加し、均一になるまで混合した。光開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンを0.01質量部添加して溶解させ、防曇剤(E4)に含まれる「PVOH-4」とポリアクリル酸(中和度20モル%)とを質量比7対3の割合で含有する防曇剤原液を得た。
【0185】
この防曇剤原液を、コロナ処理を施した100μm厚のPETフィルム上に、乾燥後の塗膜の厚みが20μmになるようにバーコーターでコートした。次いで、コートした面に、紫外線を3000mJ/cmの強度で照射して、「PVOH-4」を架橋処理した後、80℃で30分間乾燥させ、防曇コートフィルム(DE9)を得た。この防曇コートフィルム(DE9)の評価結果を表2に示す。
【0186】
(比較例I-3:非コートフィルム(NC1)の作製)
実施例I-1で得られた防曇剤(E1)を含む防曇剤原液を用いなかったこと以外は、実施例I-9と同様にして防曇剤が付与されていない非コートフィルム(NC1)を得た。この非コートフィルム(NC1)の評価結果を表2に示す。
【0187】
(比較例I-4:防曇コートフィルム(DC1)の作製)
実施例I-1で得られた防曇剤(E1)の代わりに比較例I-1で得られた防曇剤(C1)を用いたこと以外は、実施例I-9と同様にして防曇剤原液を調製し、この防曇剤原液を用いて、25℃、50%RH条件下で1週間乾燥させなかったこと以外は実施例I-9と同様にして防曇コートフィルム(DC1)を得た。この防曇コートフィルム(DC1)の評価結果を表2に示す。
【0188】
なお、本比較例では、上記防曇性の評価にあたり、ビーカー上に配置された防曇コートフィルム(DC1)について、試験開始時(0分)と試験開始5分経過後の写真を撮った。これらの結果を図1に示す。
【0189】
(比較例I-5:防曇コートフィルム(DC2)の作製)
実施例I-1で得られた防曇剤(E1)の代わりに比較例I-2で得られた防曇剤(C2)を用いたこと以外は、実施例I-9と同様にして防曇剤原液を調製し、この防曇剤原液を用いかつコート面に対して紫外線を照射する代わりに防曇剤原液をコートしたPETフィルム自体を100℃で5分間熱処理したこと以外は実施例I-9と同様にして防曇コートフィルム(DC2)を得た。この防曇コートフィルム(DC2)の評価結果を表2に示す。
【0190】
【表2】
【0191】
表2に示すように、実施例I-9~I-17で作製された防曇コートフィルム(DE1)~(DE9)はいずれも、防曇性および防曇持続性のいずれにおいても優れたものであり、比較例I-5で作製した防曇コートフィルム(DC2)と同等またはそれ以上の防曇性能を有するものであったことがわかる。一方、比較例I-5で調製された防曇剤原液は、その構成成分として3-メタクリルアミドプロピルトリメトキシシラン変性ポリビニルアルコール樹脂(PVOH-10)を含有していたのに対し、実施例I-9~I-17で調製された防曇剤原液は側鎖に所定のエチレン性不飽和基(表1)を有する変性ポリビニルアルコール樹脂を含有していたことにより、粘度安定性が著しく向上していたこともわかる。
【0192】
なお、比較例I-3の結果から明らかなように、防曇剤を含む防曇層を有しない非コートフィルムでは速やかに曇りが発生していたのに対し、比較例I-4のように、無変性のビニルアルコール系重合体を用いた場合は、高エネルギー線等により架橋耐水化できないため、得られた防曇層は耐久性が低く、防曇性および防曇持続性が劣るものであった。また、比較例I-5のようなシリル基含有ビニルアルコール系重合体を用いた防曇剤では、高度に架橋耐水化されるため防曇性および防曇持続性は良好なものの、溶液調製直後から架橋反応が進行し始めるため、溶液の粘度安定性の点で取り扱いに注意が必要とされる。
【0193】
また、図1に示すように、実施例I-12および比較例I-4で作製された防曇コートフィルム(DE4)および(DC1)はいずれも、試験開始直後では、フィルムの下面(黒矢印で示す)にはヘイズは現れておらず、透明であった(図1の(a)および(b))。これに対し、試験開始5分後では、比較例I-4で作製された防曇コートフィルム(DC1)は、図1の(d)における白矢印に示すように、フィルムの下面にヘイズが現れており、フィルムの上面から下面への視認性が失われていたことがわかる(図1の(d))。これに対し、実施例14で作成された防曇コートフィルム(DE4)では、図1の(b)に示すように、試験開始5分経過後でも、フィルムの下面(黒矢印で示す)にはヘイズは現れておらず、略透明な状態が保持されており、良好な防曇性能が発揮されていたことがわかる。
【0194】
(実施例II:防汚剤の作製および評価)
(変性率の算出)
日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「LAMBDA 500」を用い、室温にて実施例II-1~II-8または比較例で得られた変性ポリビニルアルコール樹脂のH-NMRを測定し、オレフィンプロトン由来のピーク(5.0~7.5ppm)の積分値から、変性率を算出した。例えば、後述の実施例II-1においては、5.6ppmおよび6.0ppmに表れるオレフィンプロトン由来のピークの積分値から、変性率を算出した。
【0195】
(防汚性(油性インキ)および耐溶剤性の評価)
実施例II-9~II-17または比較例II-2~II-4で得られた防汚コートフィルムまたは非コートフィルムに、油性の黒色インキ(三菱鉛筆株式会社製「三菱マーカー」)を塗布し、24時間静置させた後に、40℃に加温したベンジンで表面を洗い流し、表面の状態から、以下の基準で防汚性および耐溶剤性(表面荒れ)を判定した。
<防汚性>
A:全く汚れが残っていなかった。
B:気にならない程度の汚れが残っていた。
C:明らかに汚れが残っていた。
<耐溶剤性(表面荒れ)>
A:表面もほとんど荒れていなかった。
B:気にならない程度に表面が荒れていた。
C:明らかに表面が荒れていた。
【0196】
(防汚性(クレパス)および耐水性の評価)
実施例II-9~II-17または比較例II-2~II-4で得られた防汚コートフィルムまたは非コートフィルムに、赤色クレパス(株式会社サクラクレパス製)を塗布し、24時間静置させた後に、台所用合成洗剤(ライオン株式会社製、「ママレモン」)を溶解させて40℃に加温した水で表面を洗い流し、表面の状態から、以下の基準で防汚性および耐水性(表面荒れ)を判定した。
<防汚性>
A:全く汚れが残っていなかった。
B:気にならない程度の汚れが残っていた。
C:明らかに汚れが残っていた。
<耐水性(表面荒れ)>
A:表面もほとんど荒れていなかった。
B:気にならない程度に表面が荒れていた。
C:明らかに表面が荒れていた。
【0197】
(防汚剤原液の粘度安定性)
実施例II-9~II-17または比較例II-2~II-4で得られた防汚剤原液を、試験開始日から20℃で1日間放置した後、エム・テクニック株式会社製精密分散乳化機「クレアミックス」を用いて、回転数6400rpmで10分間、ジェット流による剪断をかけながら再混合した後、再び20℃で1日間放置した。その後、放置1日ごとに上記再混合をして1日間放置する操作を繰り返し、試験開始日から7日後の粘度(η7日)と20℃の初期粘度(η初期)との比(増粘倍率=η7日/η初期)を求め以下の基準で評価した。なお、防汚剤原液は、放置期間中はアルミホイルで容器全体を覆い遮光した。粘度の測定は、JIS K 6726(1994年)の回転粘度計法に準じてB型粘度計(回転数12rpm)を用い20℃で行った。
A:η7日/η初期が1以上5未満であった。
B:η7日/η初期が5以上10未満であった。
C:η7日/η初期が10以上または、組成物が流動性を失いゲル化した。
【0198】
(実施例II-1:防汚剤(Eii1)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、メタクリル酸510.3質量部、酢酸24.0質量部、イオン交換水28.4質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物8.1質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度1700、けん化度95モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら65℃まで昇温し、スラリー状態で1時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHii-1」を得た。得られた「PVOHii-1」の評価結果を表3に示す。この「PVOHii-1」を防汚剤(Eii1)として後述の実施例に使用した。
【0199】
(実施例II-2:防汚剤(Eii2)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、メタクリル酸476.3質量部、酢酸62.4質量部、イオン交換水28.4質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物9.1質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度300、けん化度82モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら65℃まで昇温し、スラリー状態で2.8時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHii-2」を得た。得られた「PVOHii-2」の評価結果を表3に示す。この「PVOHii-2」を防汚剤(Eii2)として後述の実施例に使用した。
【0200】
(実施例II-3:防汚剤(Eii3)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、4-ペンテン酸510.3質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度1700、けん化度98.5モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら60℃まで昇温し、スラリー状態で3時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHii-3」を得た。得られた「PVOHii-3」の評価結果を表3に示す。この「PVOHii-3」を防汚剤(Eii3)として後述の実施例に使用した。
【0201】
(実施例II-4:防汚剤(Eii4)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、メタクリル酸454.2質量部、酢酸5.7質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度1700、けん化度98.5モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら90℃まで昇温し、スラリー状態で3時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHii-4」を得た。得られた「PVOHii-4」の評価結果を表3に示す。この「PVOHii-4」を防汚剤(Eii4)として後述の実施例に使用した。
【0202】
(実施例II-5:防汚剤(Eii5)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、メタクリル酸454.2質量部、酢酸5.7質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度2400、けん化度98.5モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら90℃まで昇温し、スラリー状態で10時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHii-5」を得た。得られた「PVOHii-5]の評価結果を表3に示す。この「PVOHii-5」を防汚剤(Eii5)として後述の実施例に使用した。
【0203】
(実施例II-6:防汚剤(Eii6)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、メタクリル酸499.0質量部、酢酸397質量部、イオン交換水28.4質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物3.4質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度2400、けん化度88モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら75℃まで昇温し、スラリー状態で2.5時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHii-6」を得た。得られた「PVOHii-6」の評価結果を表3に示す。この「PVOHii-6」を防汚剤(Eii6)として後述の実施例に使用した。
【0204】
(実施例II-7:防汚剤(Eii7)の作製)
撹拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、アクリル酸493.3質量部、酢酸17.0質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(粘度重合度1700、けん化度98.5モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら65℃まで昇温し、スラリー状態で10時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃、1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHii-7」を得た。得られた「PVOHii-7」の評価結果を表3に示す。この「PVOHii-7」を防汚剤(Eii7)として後述の実施例に使用した。
【0205】
(実施例II-8:防汚剤(Eii8)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、メタクリル酸454.2質量部、酢酸5.7質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度500、けん化度98.5モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら90℃まで昇温し、スラリー状態で5時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃にて1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHii-8」を得た。得られた「PVOHii-8」の評価結果を表3に示す。この「PVOHii-8」を防汚剤(Eii8)として後述の実施例に使用した。
【0206】
(比較例II-1:防汚剤(Cii1)の作製)
変性されていないポリビニルアルコール樹脂として、市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度1700、けん化度98.5モル%)をそのまま「PVOHii-9」として用いた。この「PVOHii-9」を防汚剤(Cii1)として後述の比較例に使用した。
【0207】
【表3】
【0208】
(実施例II-9:防汚コートフィルム(FEii1)の作製)
実施例II-1で得られた防汚剤(Eii1)を水に溶解させて、10%水溶液を調製した後、光開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンを、防汚剤(Eii1)を構成する「PVOHii-1」100質量部に対して1質量部になるように添加して溶解させ、防汚剤原液を調製した。
【0209】
この防汚剤原液を、コロナ処理を施した100μm厚のPETフィルム上に、乾燥後の塗膜の厚みが20μmになるようにバーコーターでコートした。次いで、コートした面に、紫外線を3000mJ/cmの強度で照射して、「PVOHii-1」を架橋処理した後、80℃で30分間乾燥させ、防汚コートフィルム(FEii1)を得た。この防汚コートフィルム(FEii1)の評価結果を表4に示す。
【0210】
(実施例II-10:防汚コートフィルム(FEii2)の作製)
実施例II-1で得られた防汚剤(Eii1)の代わりに実施例II-2で得られた防汚剤(Eii2)を用いたこと以外は、実施例II-9と同様にして防汚剤原液を調製し、この防汚剤原液を用いて実施例II-9と同様にして防汚コートフィルム(FEii2)を得た。この防汚コートフィルム(FEii2)の評価結果を表4に示す。
【0211】
(実施例II-11:防汚コートフィルム(FEii3)の作製)
実施例II-1で得られた防汚剤(Eii1)の代わりに実施例II-3で得られた防汚剤(Eii3)を用いたこと以外は、実施例II-9と同様にして防汚剤原液を調製し、この防汚剤原液を用いかつコート面に照射した紫外線の強度を10000mJ/cmに変更したこと以外は実施例II-9と同様にして防汚コートフィルム(FEii3)を得た。この防汚コートフィルム(FEii3)の評価結果を表4に示す。
【0212】
(実施例II-12:防汚コートフィルム(FEii4)の作製)
実施例II-1で得られた防汚剤(Eii1)の代わりに実施例II-4で得られた防汚剤(Eii4)を用いたこと以外は、実施例II-9と同様にして防汚剤原液を調製し、この防汚剤原液を用いて実施例II-9と同様にして防汚コートフィルム(FEii4)を得た。この防汚コートフィルム(FEii4)の評価結果を表4に示す。
【0213】
(実施例II-13:防汚コートフィルム(ii5)の作製)
実施例II-1で得られた防汚剤(Eii1)の代わりに実施例II-5で得られた防汚剤(Eii5)を用いたこと以外は、実施例II-9と同様にして防汚剤原液を調製し、この防汚剤原液を用いて実施例II-9と同様にして防汚コートフィルム(FEii5)を得た。この防汚コートフィルム(FEii5)の評価結果を表4に示す。
【0214】
(実施例II-14:防汚コートフィルム(FEii6)の作製)
実施例II-1で得られた防汚剤(Eii1)の代わりに実施例II-6で得られた防汚剤(Eii6)を用いたこと以外は、実施例II-9と同様にして防汚剤原液を調製し、この防汚剤原液を用いかつコート面に対して紫外線の代わりに30kGyの電子線(EB)を照射したこと以外は実施例II-9と同様にして防汚コートフィルム(FEii6)を得た。この防汚コートフィルム(FEii6)の評価結果を表4に示す。
【0215】
(実施例II-15:防汚コートフィルム(FEii7)の作製)
実施例II-1で得られた防汚剤(Eii1)の代わりに実施例II-7で得られた防汚剤(Eii7)を用いたこと以外は、実施例II-9と同様にして防汚剤原液を調製し、この防汚剤原液を用いて実施例II-9と同様にして防汚コートフィルム(FEii7)を得た。この防汚コートフィルム(FEii7)の評価結果を表4に示す。
【0216】
(実施例II-16:防汚コートフィルム(FEii8)の作製)
実施例II-1で得られた防汚剤(Eii1)の代わりに実施例II-8で得られた防汚剤(Eii8)を用いたこと以外は、実施例II-9と同様にして防汚剤原液を調製し、この防汚剤原液を用いて実施例II-9と同様にして防汚コートフィルム(FEii8)を得た。この防汚コートフィルム(FEii8)の評価結果を表4に示す。
【0217】
(実施例II-17:防汚コートフィルム(FEii9)の作製)
ポリアクリル酸水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製168-07375,25%水溶液)1.4質量部に、3.0質量部のイオン交換水を添加し、8規定のKOH水溶液0.154質量部を添加して、均一になるまで十分混合した。次いで、これに、実施例II-4で得られた防汚剤(Eii4)を水に溶解させて調製した10%水溶液8.2質量部を添加し、均一になるまで混合した。光開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンを0.01質量部添加して溶解させ、防汚剤(Eii4)に含まれる「PVOHii-4」とポリアクリル酸(中和度20モル%)とを質量比7対3の割合で含有する防汚剤原液を得た。
【0218】
この防汚剤原液を、コロナ処理を施した100μm厚のPETフィルム上に、乾燥後の塗膜の厚みが20μmになるようにバーコーターでコートした。次いで、コートした面に、紫外線を3000mJ/cmの強度で照射して、「PVOHii-4」を架橋処理した後、80℃で30分間乾燥させ、防汚コートフィルム(FEii9)を得た。この防汚コートフィルム(FEii9)の評価結果を表4に示す。
【0219】
(比較例II-2:非コートフィルム(NCii1)の作製)
実施例II-1で得られた防汚剤(Eii1)を含む防汚剤原液を用いなかったこと以外は、実施例II-9と同様にして防汚剤が付与されていない非コートフィルム(NCii1)を得た。この非コートフィルム(NCii1)の評価結果を表4に示す。
【0220】
(比較例II-3:防汚コートフィルム(FCii1)の作製)
実施例II-1で得られた防汚剤(Eii1)の代わりに比較例II-1で得られた防汚剤(Cii1)を用いたこと以外は、実施例II-9と同様にして防汚剤原液を調製し、この防汚剤原液を用いて実施例II-9と同様にして防汚コートフィルム(FCii1)を得た。この防コートフィルム(FCii1)の評価結果を表4に示す。
【0221】
(比較例II-4:防汚コートフィルム(FCii2)の作製)
比較例II-1で得られた防汚剤(Cii1)を水に溶解させて10%水溶液を調製した。この水溶液40質量部に、25質量%グルタルアルデヒド水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製、111-30-8)1.8質量部を添加し、さらに47%硫酸水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製、193-08705)9.5質量部を添加して防汚剤原液を調製した。
【0222】
この防汚剤原液を用いかつコート面に対して紫外線を照射する代わりに防汚剤原液をコートしたPETフィルム自体を100℃で5分間熱処理したこと以外は実施例II-9と同様にして防汚コートフィルム(FCii2)を得た。この防汚コートフィルム(FCii2)の評価結果を表4に示す。
【0223】
【表4】
【0224】
表4に示すように、実施例II-9~II-17で作製された防汚コートフィルム(FEii1)~(FEii9)はいずれも、比較例II-2の非コートフィルム(NCii1)と比較して優れた防汚性能を有するものであり、比較例II-3の防汚コートフィルム(FCii1)と比較して優れた耐水性を有するものであったことがわかる。また、実施例II-9~II-17で調製された防汚剤原液は、比較例II-4で調製した防汚剤原液と比較して粘度安定性が著しく向上していたこともわかる。
【0225】
なお、比較例II-2のように、防汚層を有しないフィルムは明らかに防汚性が劣っており、比較例II-3のように、無変性のポリビニルアルコール樹脂を用いた場合には、高エネルギー線等により架橋耐水化できないため、得られた防汚層は耐水性が低く、水で洗浄した場合に著しく表面が荒れていた。さらに、比較例II-4のようなポリビニルアルコール樹脂とアルデヒド架橋剤と酸との混合液を用いた場合は、高度に架橋耐水化されるものの、防汚剤溶液の調製直後から架橋反応が進行し始めるため、溶液粘度安定性が極めて悪く、施行現場において、コーティングやフィルム化等による防汚性の付与を行うことを想定すると、現実的な使用は制限されることがわかる。
【0226】
これに対し、上記実施例II-1~II-8で作製した防汚剤(Eii1)~(Eii8)を用いて得られた、実施例II-9~II-17の防汚コートフィルム(FEii1)~(FEii9)では、上記比較例のような懸念なく、作業者が簡便に使用できる。また、このような防汚コートフィルムの製造にあたり、アルコールの使用を必須としないため、作業者への安全性が向上とするとともに、環境負荷も低減できる。
【0227】
(実施例II-18)
実施例II-4で得られた防汚剤(Eii4)を水に溶解させて、10%水溶液を調製した後、光開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンを、防汚剤(Eii4)を構成する「PVOHii-4」100質量部に対して1質量部になるように添加して溶解させ、防汚剤原液を調製した。この防汚剤原液を、コロナ処理を施した100μm厚のPETフィルム上に、乾燥後の塗膜の厚みが20μmになるようにバーコーターでコートした。次いで、コートした面に、紫外線を3000mJ/cmの強度で照射して、「PVOHii-4」を架橋処理した後、80℃で30分間乾燥させ、防汚コートフィルムを得た。
【0228】
この防汚コートフィルムに油性の黒色インキ(三菱鉛筆株式会社製「三菱マーカー」)を塗布し、24時間静置させた後に、水を含ませたワイプで表面を拭ったところ、黒色インキが完全に除去され、かつ表面は全く荒れていなかった。
【0229】
(実施例III:無機粒子バインダーの作製および評価)
(変性ポリビニルアルコール樹脂における変性率の算出)
日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「LAMBDA 500」を用い、実施例III-1~III-6および比較例III-2で得られた変性ポリビニルアルコール樹脂のH-NMRを、重水素化ジメチルスルホキシド中で室温にて測定した。ビニルアルコール単位の主鎖メチンプロトン由来のピーク(3.1~4.0ppm)からビニルアルコール単位の含有量を算出した。実施例III-1~III-3およびIII-6ではさらに、オレフィンプロトン由来のピーク(5.0~7.5ppm)の積分値から側鎖に導入された変性部位の構造単位の含有量を算出した。実施例III-5ではさらに、1,2-ジオールの一級アルコールに隣接するメチレン由来のピーク(3.3ppm)の積分値から側鎖に導入された変性部位の構造単位の含有量を算出した。
【0230】
(数平均分子量(Mn)の測定)
東ソー株式会社製サイズ排除高速液体クロマトグラフィー装置「HLC-8320GPC」を用い、実施例III-1~III-6および比較例III-1~III-2で得られた変性ポリビニルアルコール樹脂または未変性ポリビニルアルコール樹脂の数平均分子量(Mn)を以下の測定条件で測定した。なお、表5に記載する数値は、測定値の百の位の値を四捨五入した値である。
カラム:東ソー株式会社製HFIP系カラム「GMHHR-H(S)」2本直列接続
標準試料:ポリメチルメタクリレート
溶媒および移動相:トリフルオロ酢酸ナトリウム-HFIP溶液(濃度20mM)
流量:0.2mL/分
温度:40℃
試料溶液濃度:0.1重量%(開口径0.45μmフィルターでろ過)
注入量:10μL
検出器:RI
【0231】
(塗工液の粘度安定性)
実施例III-7~III-17または比較例III-3~III-4で得られた塗工液を、試験開始日から20℃で1日間放置した後、エム・テクニック株式会社製精密分散乳化機「クレアミックス」を用いて、回転数6400rpmで10分間、ジェット流による剪断をかけながら再混合した後、再び20℃で1日間放置した。その後、放置1日ごとに上記再混合をして1日間放置する操作を繰り返し、試験開始日から7日後の粘度(η7日)と20℃の初期粘度(η初期)との比(増粘倍率=η7日/η初期)を求め以下の基準で評価した。なお、塗工液については、放置期間中はアルミホイルで容器全体を覆い遮光した。粘度の測定は、JIS K 6726(1994年)の回転粘度計法に準じてB型粘度計(回転数12rpm)を用い20℃で行った。
A:η7日/η初期が1以上5未満であった。
B:η7日/η初期が5以上10未満であった。
C:η7日/η初期が10以上または、塗工液が流動性を失いゲル化した。
【0232】
(耐水性評価)
実施例III-7~III-17または比較例III-3~III-4で得られた単層の硬化フィルムを20℃の脱イオン水中に24時間浸漬し、取り出した後、40℃で12時間真空乾燥した後に質量(Wiii1)を測定した。得られた質量(Wiii1)と予め浸漬前に測定した質量(Wiii2)とから、以下の式に従って溶出率を算出した。そして、この溶出率を当該硬化フィルムの耐水性の指標とした。なお、水中に浸漬中に評価用のフィルムの一部が溶解して形状が崩壊し、内包する無機物の煮沸水側への分散が目視で確認された場合には「測定不能」と評価した(表6中「-」として記載)。
溶出率(質量%)=100×([Wiii2]-[Wiii1])/[Wiii2]
【0233】
(OTRの評価)
実施例III-18~III-20または比較例III-5~III-6で得られたガスバリア材(積層体)を、20℃かつ85%RHの条件下で3日間調湿した後、同条件下で酸素透過率測定装置(Mocon社製OX-TORAN MODEL 2/21)により酸素透過速度(OTR)を測定した。なお、表6に記載の値は、塗工層(ガスバリア層)の厚みを20μmに換算した値である。
温度:20℃
酸素供給側の湿度:85%RH
キャリアガス側の湿度:85%RH
酸素圧:1.0atm
キャリアガス圧力:1.0atm
【0234】
(実施例III-1:無機粒子用バインダー(Eiii1)の作製)
撹拌機、還流管および添加口を備えた反応器に、ジメチルスルホキシド450質量部、メチルメタクリレート450質量部を仕込み、室温で撹拌しながらポリビニルアルコール樹脂(株式会社クラレ製PVA25-100、けん化度99.9モル%以上)100質量部、酢酸ナトリウム1.8質量部、フェノチアジン2質量部を加え80℃で撹拌しスラリー溶液を得た。1時間後に100℃に昇温して反応を開始し、4時間反応させた後室温まで冷却し、ポリエチレンテレフタレートメッシュ(目開き56μm)で濾別した。濾別した未乾燥の樹脂10部とメタノール50部をスクリュー管に入れ、撹拌機で10分間撹拌して洗浄した。使用したメタノールを新たなものに入れ替えて同様の作業を繰り返した後、ろ過し、40℃かつ1.3Paの真空乾燥機で終夜乾燥させて、側鎖にメタクリロイル基を有する変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHiii-A」を得た。得られた「PVOHiii-A」の評価結果を表5に示す。この「PVOHiii-A」を無機粒子用バインダー(Eiii1)として後述の実施例に使用した。
【0235】
(実施例III-2:無機粒子用バインダー(Eiii2)の作製)
実施例III-1と同様にてスラリー溶液を調製し、1時間後に100℃に昇温して反応を開始し、8時間反応させた後室温まで冷却したこと以外は実施例III-1と同様にして、側鎖にメタクリロイル基を有する変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHiii-B」を得た。得られた「PVOHiii-B」の評価結果を表5に示す。この「PVOHiii-B」を無機粒子用バインダー(Eiii2)として後述の実施例に使用した。
【0236】
(実施例III-3:無機粒子用バインダー(Eiii3)の作製)
ポリビニルアルコール樹脂(株式会社クラレ製PVA60-98、けん化度98.5モル%)100質量部を用いたこと以外は実施例III-1と同様にしてスラリー溶液を調製した。次いで、スラリー溶液を調製して1時間後に100℃に昇温して反応を開始し、1.5時間反応させた後室温まで冷却したこと以外は実施例III-1と同様にして、側鎖にメタクリロイル基を有する変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHiii-C」を得た。得られた「PVOHiii-C」の評価結果を表5に示す。この「PVOHiii-C」を無機粒子用バインダー(Eiii3)として後述の実施例に使用した。
【0237】
(実施例III-4:無機粒子用バインダー(Eiii4)の作製)
ポリビニルアルコール樹脂(株式会社クラレ製PVA5-98、けん化度98.5モル%)100質量部を用いたこと以外は実施例III-1と同様にしてスラリー溶液を調製した。次いで、スラリー溶液を調製して1時間後に100℃に昇温して反応を開始し、10時間反応させた後室温まで冷却したこと以外は実施例III-1と同様にして、側鎖にメタクリロイル基を有する変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHiii-D」を得た。得られた「PVOHiii-D」の評価結果を表5に示す。この「PVOHiii-D」を無機粒子用バインダー(Eiii4)として後述の実施例に使用した。
【0238】
(実施例III-5:無機粒子用バインダー(Eiii5)の作製)
メチルメタクリレートの代わりにメチルアクリレート450質量部を用いかつポリビニルアルコール樹脂(株式会社クラレ製PVA28-98、けん化度98.5モル%)100質量部を用いたこと以外は実施例III-1と同様にしてスラリー溶液を調製した。次いで、スラリー溶液を調製して1時間後に100℃に昇温して反応を開始し、2時間反応させた後室温まで冷却したこと以外は実施例III-1と同様にして、側鎖にアクリロイル基を有する変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHiii-E」を得た。得られた「PVOHiii-E」の評価結果を表5に示す。この「PVOHiii-E」を無機粒子用バインダー(Eiii5)として後述の実施例に使用した。
【0239】
(実施例III-6:無機粒子用バインダー(Eiii6)の作製)
メチルメタクリレートの代わりに3,3-ジメチル-4-ペンテン酸メチル450質量部を用いかつポリビニルアルコール樹脂(株式会社クラレ製PVA28-98、けん化度98.5モル%)100質量部を用いたこと以外は実施例III-1と同様にしてスラリー溶液を調製した。次いで、スラリー溶液を調製して1時間後に100℃に昇温して反応を開始し、5時間反応させた後室温まで冷却したこと以外は実施例III-1と同様にして、側鎖に3,3-ジメチル-4-ペンテン酸由来のアシル基を有する変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHiii-F」を得た。得られた「PVOHiii-F」の評価結果を表5に示す。この「PVOHiii-F」を無機粒子用バインダー(Eiii6)として後述の実施例に使用した。
【0240】
(比較例III-1:無機粒子用バインダー(Ciii1)の作製)
変性されていないポリビニルアルコール樹脂として、ポリビニルアルコール樹脂(株式会社クラレ製PVA28-98、けん化度98.5モル%)をそのまま「PVOHiii-G」として用いた。この「PVOHiii-G」を無機粒子用バインダー(Ciii1)として後述の比較例に使用した。
【0241】
(比較例III-2:無機粒子用バインダー(Ciii2)の作製)
撹拌機、還流冷却管、アルゴン導入管、および開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル640質量部、メタノール136.5質量部、3-メタクリルアミドプロピルトリメトキシシラン4.9質量部を仕込み、アルゴンガスのバブリングをしながら30分間系内をアルゴン置換した。また、ディレー溶液として3-メタクリルアミドプロピルトリメトキシシランをメタノールに溶解して濃度40%としたコモノマー溶液を調製し、アルゴンガスのバブリングによりアルゴン置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となった時点で、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.34質量部を添加して重合を開始した。ディレー溶液を滴下して重合溶液中のモノマー組成(酢酸ビニルと3-メタクリルアミドプロピルトリメトキシシランとの比率)が一定となるようにモニターしながら、60℃で150分重合した後、冷却して重合を停止した。重合を停止するまで加えたコモノマー溶液(逐次添加液)の総量は43.5質量部であった。次いで、30℃にて減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応のモノマーの除去を行い、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度25.6%)を得た。その後、このメタノール溶液75.5質量部にメタノール21.4質量部を加え、さらに3.1質量部の水酸化ナトリウムメタノール溶液(濃度10%)を添加して、40℃でけん化を行った。反応中に生成したゲル状物を粉砕機にて粉砕し、粉砕物を反応器に戻して40℃のまま計60分間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチル100質量部と水10質量部を加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノールを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を40℃かつ1.3Paの真空乾燥機内で終夜乾燥して、側鎖にシラノール基を有する変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHiii-H」を得た。得られた「PVOHiii-H」の評価結果を表に示す。この「PVOHiii-H」を無機粒子用バインダー(Ciii2)として後述の比較例に使用した。
【0242】
【表5】
【0243】
(実施例III-7~III-11および比較例III-3~III-4:硬化フィルム(無機粒子固定化構造)の作製)
実施例III-1~III-6および比較例III-1~III-2で作製された無機粒子用バインダー(Eiii1)~(Eiii6)および(Ciii1)~(Ciii2)のそれぞれを脱イオン水に溶解して10%の水溶液を調製した。これら水溶液のそれぞれに対して、当該水溶液中のポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して、湿式シリカ(エボニックデグサ社製ULTRASIL7000GR)または膨潤性マイカ(層状ケイ酸塩;トー工業株式会社製NHT-ゾルB2、濃度5質量%の水分散液)を表6に記載の質量比となるように添加し、エム・テクニック株式会社精密分散乳化機「クレアミックス」を用いて、回転数6400rpmで2分、ジェット流によるせん断をかけながら混合した。その後、ポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して、光重合開始剤として1質量部の光ラジカル発生剤(2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシメトキシ)-2-メチルプロピオフェノン)を添加して、塗工液を得た。
【0244】
次いで、この塗工液を、ポリエチレンテレフタレート基材上にバーコーターで塗工し、80℃で30分乾燥した後、基材から剥離して厚さ約100μmの単層の未硬化フィルムを得た。これに表6に記載の強度でUV光または電子線(EB)を照射し、無機粒子が固定化された単層の硬化フィルム(無機粒子固定化構造)を作製した。
【0245】
上記で作製した塗工液および硬化フィルムの評価結果を表6に示す。
【0246】
【表6】
【0247】
表6に示すように、実施例III-7~III-17で調製された塗工液はいずれも、比較例III-4で調製された塗工液と比較して粘度安定性が優れていることがわかる。この比較例III-4で調製された塗工液には、比較例III-2で作製した無機粒子用バインダー(側鎖にシラノール基を有する変性ポリビニルアルコール樹脂(PVOHiii-H)を含有)が用いられていた。これに対し、実施例III-7~III-17で調製された塗工液では、実施例III-1~III-6で作製された無機粒子用バインダー(側鎖にメタクリロイル基、アクリロイル基、または3,3-ジメチル-4-ペンテン酸メチル由来のアシル基を有する変性ポリビニルアルコール樹脂(PVOHiii-A~PVOHiii-F)を含有)が用いられており、当該側鎖に導入された置換基の相違によって、このような粘度安定性が得られていた。このことから、例えば塗工液調液後に倉庫保管し、塗工の際にせん断をかけて再分散させるような状況においても、実施例III-7~III-17で調製された塗工液は、長期に渡り優れた粘度安定性を示すことがわかる。
【0248】
また、実施例III-7~III-17で作製された硬化フィルムは、UV光または電子線のいずれによる変性ポリビニルアルコール樹脂の硬化を行ったものであっても、未変性のポリビニルアルコール(PVOHiii-G)を用いた比較例III-3のフィルムと比較して、優れた耐水性を有していたことがわかる。
【0249】
ここで、比較例III-3のように、未変性のポリビニルアルコール樹脂を無機粒子用バインダーとして用いた場合は、耐水性が不足するため、水に接触した際にバインダーが溶出し、内包する無機粒子が水側に分散してしまう。比較例III-4のように、シラノール基で変性されたポリビニルアルコール樹脂を無機粒子用バインダーとして用いた場合は、その塗膜が優れた耐水性を示す一方、塗工液に繰り返しせん断力をかけるような場合には粘度変化が大きく、取り扱い性に劣る。この要因は定かではないが、導入したシリル基は無機粒子との反応性が高いため、せん断で生じる局所的な発熱によって無機粒子を介したバインダー同士の架橋反応が進行し、徐々に増粘するものと考えられる。
【0250】
(実施例III-18~III-20:ガスバリア材の作製)
上記実施例III-15~III-17で作製した塗工液を、コロナ処理を施した厚み20μmのOPPシート基材にバーコーターを用いて塗工し、80℃で30分乾燥して塗工層の厚みが約30μmの前処理部材を作製した。この前処理部材に、3000mJ/cmの強度でUV光を照射して塗工層に含まれる変性ポリビニルアルコール樹脂を硬化させることにより、ガスバリア材(積層体)を得た。得られたガスバリア材の評価結果を表7に示す。
【0251】
(比較例III-5:ガスバリア材の作製)
比較例III-1で作製した無機粒子用バインダー(Ciii1)および脱イオン水を用いて未変性のポリビニルアルコール樹脂「PVOHiii-G」の10%水溶液を調製し、当該水溶液中の未変性のポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して1質量部の光ラジカル発生剤(2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシメトキシ)-2-メチルプロピオフェノン)を添加して、塗工液を作製した。この塗工液にはマイカ(層状ケイ酸塩)などの無機粒子が含有されていないものであった。この塗工液を用いたこと以外は、実施例III-18と同様にして、ガスバリア材を得た。得られたガスバリア材の評価結果を表7に示す。
【0252】
(比較例III-6:ガスバリア材の作製)
実施例III-1で作製した無機粒子用バインダー(Eiii1)および脱イオン水を用いて変性のポリビニルアルコール樹脂「PVOHiii-A」の10%水溶液を調製し、当該水溶液中の変性のポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して1質量部の光ラジカル発生剤(2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシメトキシ)-2-メチルプロピオフェノン)を添加して、塗工液を作製した。この塗工液にはマイカ(層状ケイ酸塩)などの無機粒子が含有されていないものであった。この塗工液を用いたこと以外は、実施例III-18と同様にして、ガスバリア材を得た。得られたガスバリア材の評価結果を表7に示す。
【0253】
【表7】
【0254】
表7に示すように、実施例III-18~III-20で作製されたガスバリア材はいずれも、比較例III-5およびIII-6のガスバリア材と比較して酸素透過速度(OTR)の値が極めて低く、この評価で採用したような高湿度下でも優れたガスバリア性を有していたことがわかる。また、比較例III-5のように、未変性のポリビニルアルコール樹脂を用いたガスバリア材では、高湿度環境下では吸水によりバリア層が可塑化されるため、十分なガスバリア性が発現していなかった。また、比較例III-6のように、変性ポリビニルアルコール樹脂(PVOHiii-A)を用いたガスバリア材は、変性部の架橋により高湿度環境下での吸水性が低下することで、バリア層が可塑化し難いものであったが、無機粒子との併用を行わなければ、十分なガスバリア性が発現しなかった。
【0255】
(実施例IV:抗菌性樹脂組成物の作製および評価)
(変性率の算出)
日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「LAMBDA 500」を用い、室温で変性ポリビニルアルコール樹脂のH-NMRを測定し、オレフィンプロトン由来のピーク(5.0~7.5ppm)の積分値から、変性率を算出した。例えば、合成例1においては、5.6ppmおよび6.0ppmに表れるオレフィンプロトン由来のピークの積分値から、変性率を算出した。
【0256】
(耐水性の評価)
実施例IV-1~IV-10および比較例IV-1~IV-3で得られた架橋フィルム、架橋ゲルフィルムまたはフィルム(EFiv1)~(EFiv10)および(CFiv1)~(CFiv3)の質量(Wiv1)を測定し、次いでこの架橋フィルム、架橋ゲルフィルムまたはフィルムの80℃で24時間真空乾燥した後の質量(Wiv2)を測定して、Wiv1およびWiv2から、架橋フィルムまたはフィルムの固形分の含有量(TSiv)を以下の式:
TSiv(質量%)=100×Wiv2/Wiv
にしたがって算出した。次に、評価を開始した(未処理)段階における所定の架橋フィルム、架橋ゲルフィルムまたはフィルムを煮沸水中に1時間浸漬し、水から取り出して、80℃で24時間真空乾燥した後に質量(Wiv3)を測定し、最終的に上記で得られたWiv1、TSivおよびWiv3を用いて以下の式にしたがって溶出率を算出し、架橋耐水性の指標とした。なお、溶出率が低いほど耐水性が高いことを意味する。
溶出率(質量%)=100-{Wiv3/(Wiv1×TSiv/100)}×100
【0257】
(抗菌性の評価(大腸菌))
JIS Z 2801:2010「抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果」試験方法に従い行った。実施例IV-1~IV-10および比較例IV-1~IV-3で得られた架橋フィルム、架橋ゲルフィルムまたはフィルムから切り出した5cm×4cmの試験片の両面を、エタノールを吸収させた脱脂綿で拭いて、無菌状態で乾燥させた。その後、試験片の片面に6.9×10個/mLの大腸菌を0.3mL滴下し、その上にポリエチレンフィルムを被せた。35℃で24時間静置した後、菌液を洗い出し、菌数を数えた。
【0258】
(抗菌性の評価(黄色ブドウ球菌))
滴下する菌液を黄色ブドウ球菌6.6×10個/mLに変更したこと以外は、大腸菌の抗菌試験と同様に行った。
【0259】
(合成例IV-1)
撹拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、メタクリル酸510.3質量部、酢酸24.0質量部、イオン交換水28.4質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物8.1質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度1700、けん化度95モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら65℃まで昇温し、スラリー状態で1時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃、1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHiv-1」を得た。評価結果を表8に示す。
【0260】
(合成例IV-2)
撹拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、メタクリル酸476.3質量部、酢酸62.4質量部、イオン交換水28.4質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物9.1質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度300、けん化度82モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら65℃まで昇温し、スラリー状態で2.8時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃、1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHiv-2」を得た。評価結果を表8に示す。
【0261】
(合成例IV-3)
撹拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、4-ペンテン酸510.3質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度1700、けん化度98.5モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら60℃まで昇温し、スラリー状態で3時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃、1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHiv-3」を得た。評価結果を表8に示す。
【0262】
(合成例IV-4)
撹拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、メタクリル酸454.2質量部、酢酸5.7質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度1700、けん化度98.5モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら90℃まで昇温し、スラリー状態で3時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃、1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHiv-4」を得た。評価結果を表8に示す。
【0263】
(合成例IV-5)
撹拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、メタクリル酸499.0質量部、酢酸397質量部、イオン交換水28.4質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物3.4質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度2400、けん化度88モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら75℃まで昇温し、スラリー状態で2.5時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃、1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHiv-5」を得た。評価結果を表8に示す。
【0264】
(合成例IV-6)
撹拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、アクリル酸493.3質量部、酢酸17.0質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(粘度重合度1700、けん化度98.5モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら65℃まで昇温し、スラリー状態で3.5時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃、1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHiv-6」を得た。評価結果を表8に示す。
【0265】
(合成例IV-7)
撹拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、メタクリル酸454.2質量部、酢酸5.7質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度500、けん化度98.5モル%)100質量部を添加して、撹拌しながら90℃まで昇温し、スラリー状態で9時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ポリビニルアルコール樹脂を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃、1.3Paで20時間乾燥することにより、変性ポリビニルアルコール樹脂「PVOHiv-7」を得た。評価結果を表8に示す。
【0266】
なお、変性されていないポリビニルアルコール樹脂として、市販のポリビニルアルコール樹脂(数平均重合度1700、けん化度98.5モル%)を「PVOHiv-8」として用いた。
【0267】
【表8】
【0268】
(実施例IV-1:架橋フィルム(EFiv1)の作製)
合成例IV-1で得られたPVOHiv-1の10%水溶液7質量部に、酸化銀(富士フイルム和光株式会社製199-00882)0.3質量部を添加し、均一になるまで混合した。光重合開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(HEMP)を0.01質量部添加し、完全に溶解するまで撹拌し、液体状の樹脂組成物(L1)を作製した。
【0269】
次いで、この樹脂組成物(L1)を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの端を折り曲げて作製した15cm×15cmの型枠に流延し、室温にて大気圧下で溶媒を十分に揮発させることにより、厚さ約100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの片面に3000mJ/cmの強度でUV光を照射して架橋フィルム(EFiv1)を得た。得られた架橋フィルム(EFiv1)の評価結果を表9に示す。
【0270】
(実施例IV-2:架橋フィルム(EFiv2)の作製)
合成例IV-2で得られたPVOHiv-2の10%水溶液7質量部に、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体(ニットーボーメディカル株式会社製PAS-H-10L、28%水溶液)を10%に希釈した水溶液3質量部を添加し、均一になるまで混合した。光重合開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(HEMP)を0.01質量部添加し、完全に溶解するまで撹拌し、液体状の樹脂組成物(L2)を作製した。
【0271】
樹脂組成物(L1)の代わりに樹脂組成物(L2)を用いたこと以外は実施例IV-1と同様にして、架橋フィルム(EFiv2)を得た。得られた架橋フィルム(EFiv2)の評価結果を表9に示す。
【0272】
(実施例IV-3:架橋フィルム(EFiv3)の作製)
合成例IV-3で得られたPVOHiv-3の10%水溶液6質量部に、酸化亜鉛(富士フイルム和光株式会社製264-00365)0.4質量部を添加し、均一になるまで混合した。光重合開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(HEMP)を0.01質量部添加し、完全に溶解するまで撹拌し、液体状の樹脂組成物(L3)を作製した。
【0273】
樹脂組成物(L1)の代わりに樹脂組成物(L3)を用い、かつUV光の強度を3000mJ/cmから10000mJ/cmに変更したこと以外は、実施例IV-1と同様にして、架橋フィルム(EFiv3)を得た。得られた架橋フィルム(EFiv3)の評価結果を表9に示す。
【0274】
(実施例IV-4:架橋フィルム(EFiv4)の作製)
キトサン(富士フイルム和光株式会社製032-16092)0.5質量部に、イオン交換水4.5質量部を加え、アジピン酸(富士フイルム和光株式会社製017-20575)0.22質量部を加え、完溶するまで加熱撹拌した。得られた水溶液に、合成例IV-4で得られたPVOHiv-4の10%水溶液を7.2質量部添加し、均一になるまで混合することで、液体状の樹脂組成物(L4)を作製した。
【0275】
樹脂組成物(L1)の代わりに樹脂組成物(L4)を用い、かつUV光を照射する代わりに30kGyの強度で電子線(EB)を照射したこと以外は、実施例IV-1と同様にして、架橋フィルム(EFiv4)を得た。得られた架橋フィルム(EFiv4)の評価結果を表9に示す。
【0276】
(実施例IV-5:架橋フィルム(EFiv5)の作製)
キトサン(富士フイルム和光株式会社製032-16092)0.5質量部に、イオン交換水4.5質量部を加え、アジピン酸(富士フイルム和光株式会社製017-20575)0.22質量部を加え、完溶するまで加熱撹拌した。得られた水溶液に、合成例IV-5で得られたPVOHiv-5の10%水溶液を3.1質量部添加し、均一になるまで混合した。光重合開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(HEMP)を0.01質量部添加し、完全に溶解するまで撹拌し、液体状の樹脂組成物(L5)を作製した。
【0277】
樹脂組成物(L1)の代わりに樹脂組成物(L5)を用いたこと以外は、実施例IV-1と同様にして、架橋フィルム(EFiv5)を得た。得られた架橋フィルム(EFiv5)の評価結果を表9に示す。
【0278】
(実施例IV-6:架橋ゲルフィルム(EFiv6)の作製)
キトサン(富士フイルム和光株式会社製032-16092)0.5質量部に、イオン交換水4.5質量部を加え、酢酸(富士フイルム和光株式会社製017-00256)0.14質量部を加え、完溶するまで加熱撹拌した。得られた水溶液に、合成例IV-6で得られたPVOHiv-6の10%水溶液を9.6質量部添加し、均一になるまで混合した。架橋剤として、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(DODT)を0.09質量部添加し、完全に溶解するまで撹拌し、液体状の樹脂組成物(L6)を作製した。
【0279】
次いで、この樹脂組成物(L6)を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの端を折り曲げて作製した15cm×15cmの型枠に流延し、水が揮発しないようアルミホイルを被せ、100℃で30分熱処理することにより、架橋ゲルフィルム(EFiv6)を得た。得られた架橋ゲルフィルム(EFiv6)の評価結果を表9に示す。
【0280】
(実施例IV-7:架橋フィルム(EFiv7)の作製)
キトサン(富士フイルム和光株式会社製032-16092)0.5質量部に、イオン交換水4.5質量部を加え、酢酸(富士フイルム和光株式会社製017-00256)0.14質量部を加え、完溶するまで加熱撹拌した。得られた水溶液に、合成例IV-7で得られたPVOHiv-7の10%水溶液を14.9質量部添加し、均一になるまで混合した。光重合開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(HEMP)を0.02質量部添加し、完全に溶解するまで撹拌し、液体状の樹脂組成物(L7)を作製した。
【0281】
樹脂組成物(L1)の代わりに樹脂組成物(L7)を用いたこと以外は実施例1と同様にして架橋フィルム(EFiv7)を得た。得られた架橋フィルム(EFiv7)の評価結果を表9に示す。
【0282】
(実施例IV-8:架橋フィルム(EFiv8)の作製)
合成例IV-4で得られたPVOHiv-4の10%水溶液8質量部に、銅粉末(富士フイルム和光株式会社製031-03992)0.2質量部を添加し、均一になるまで混合した。光重合開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(HEMP)を0.01質量部添加し、完全に溶解するまで撹拌し、液体状の樹脂組成物(L8)を作製した。
【0283】
次いで、この樹脂組成物(L8)を、コロナ処理を施した100μm厚のPETフィルム上に、乾燥後の塗膜厚みが20μmになるようにバーコーターでコートし、80℃で30分乾燥させた。得られた積層フィルムの塗膜側に、3000mJ/cmの強度でUV光を照射して架橋フィルム(EFiv8)を得た。得られた架橋フィルム(EFiv8)の評価結果を表9に示す。
【0284】
なお、耐水性の評価(溶出率)においては、基材であるPETの重量を差し引き、コート層のみの溶出率を算出した。抗菌性の評価においては、塗膜側に大腸菌または黄色ブドウ球菌を滴下して測定した。
【0285】
(実施例IV-9:架橋フィルム(EFiv9)の作製)
キトサン(富士フイルム和光株式会社製032-16092)0.5質量部に、イオン交換水4.5質量部を加え、アジピン酸(富士フイルム和光株式会社製017-20575)0.22質量部を加え、完溶するまで加熱撹拌した。得られた水溶液に、合成例IV-4で得られたPVOHiv-4の10%水溶液を7.2質量部添加し、均一になるまで混合した。光重合開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(HEMP)を0.01質量部添加し、完全に溶解するまで撹拌し、液体状の樹脂組成物(L9)を作製した。
【0286】
樹脂組成物(L8)の代わりに樹脂組成物(L9)を用いたこと以外は実施例IV-8と同様にして架橋フィルム(EFiv9)を得た。実施例IV-8と同様にして評価を行った。得られた架橋フィルム(EFiv9)の評価結果を表9に示す。
【0287】
(実施例IV-10:架橋ゲルフィルム(EF iv 10)の作製)
キトサン(富士フイルム和光株式会社製032-16092)0.5質量部に、イオン交換水4.5質量部を加え、アジピン酸(富士フイルム和光株式会社製017-20575)0.17質量部を加え、完溶するまで加熱撹拌した。得られた水溶液に、合成例IV-6で得られたPVOHiv-6の10%水溶液を26.8質量部添加し、均一になるまで混合した。光重合開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(HEMP)を0.03質量部添加し、完全に溶解するまで撹拌し、液体状の樹脂組成物(L10)を作製した。
【0288】
次いで、樹脂組成物(L10)を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの端を折り曲げて作製した15cm×15cmの型枠に流延し、そこの液体状の樹脂組成物(L10)の片面へ3000mJ/cmの強度でUV光を照射して架橋ゲルフィルム(EFiv10)を得た。得られた架橋ゲルフィルム(EFiv10)の評価結果を表9に示す。
【0289】
(比較例IV-1:フィルム(CFiv1)の作製)
キトサン(富士フイルム和光株式会社製032-16092)0.5質量部に、イオン交換水4.5質量部を加え、酢酸(富士フイルム和光株式会社製017-00256)0.14質量部を加え、完溶するまで加熱撹拌した。得られた水溶液に、PVOHiv-8の10%水溶液を9.6質量部添加し、均一になるまで混合した。光重合開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(HEMP)を0.01質量部添加し、完全に溶解するまで撹拌し、液体状の樹脂組成物(L11)を作製した。
【0290】
樹脂組成物(L1)の代わりに樹脂組成物(L11)を用いたこと以外は実施例IV-1と同様にして、フィルム(CFiv )を得た。得られたフィルム(CFiv )の評価結果を表9に示す。
【0291】
(比較例IV-2:架橋フィルム(CFiv2)の作製)
合成例IV-4で得られたPVOHiv-4の10%水溶液10質量部に、光重合開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(HEMP)を0.01質量部添加し、完全に溶解するまで撹拌し、液体状の樹脂組成物(L12)を作製した。
樹脂組成物(L1)の代わりに樹脂組成物(L12)を用いたこと以外は実施例IV-1と同様にして、架橋フィルム(CFiv2)を得た。得られた架橋フィルム(CFiv2)の評価結果を表9に示す。
【0292】
(比較例IV-3:フィルム(CFiv3)の作製)
キトサン(富士フイルム和光株式会社製032-16092)0.5質量部に、イオン交換水4.5質量部を加え、酢酸(富士フイルム和光株式会社製017-00256)0.14質量部を加え、完溶するまで加熱撹拌した。得られた水溶液10質量部に、光重合開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(HEMP)を0.01質量部添加し、完全に溶解するまで撹拌し、樹脂組成物(L13)を作製した。
【0293】
樹脂組成物(L1)の代わりに樹脂組成物(L13)を用いたこと以外は実施例IV-1と同様にして、フィルム(CFiv3)を得た。得られたフィルム(CFiv3)の評価結果を表9に示す。
【0294】
【表9】
【0295】
表9に示すように、実施例IV-1~IV-10で作製した架橋フィルムまたは架橋ゲルフィルム(EFiv1)~(EFiv10)では、使用した抗菌性樹脂組成物中に所定の変性ポリビニルアルコール樹脂(A)と抗菌成分(B2)とを含有し、これが高エネルギー線等をトリガーとする高い架橋反応性を有するため、高い耐水性および抗菌性を発現していた。したがって、実施例IV-1~IV-10で作製した架橋フィルムまたは架橋ゲルフィルム(EFiv1)~(EFiv10)は、コーティングやフィルム化など多様な形態で使用できる。
【0296】
これに対し、比較例IV-1のように、無変性のポリビニルアルコール樹脂を用いた場合は、高エネルギー線等により架橋耐水化できないため、得られたフィルム(CFiv1)は著しく耐水性が低い。また、比較例IV-2のように抗菌成分(B2)を含有しないフィルム(CFiv2)は、高エネルギー線等により架橋耐水化できるものの、抗菌性が発現しない。さらに、比較例IV-3のようにポリビニルアルコール樹脂を含まない樹脂組成物を用いた場合は、高エネルギー線等により架橋耐水化できず、また別途評価したところ、得られたフィルム(CFiv3)は極めて脆弱であった。
【産業上の利用可能性】
【0297】
本発明によれば、様々な基材に対して塗膜を形成可能なコーティング組物として、例えば樹脂成形分野、自動車・鉄道・航空機・船舶関連分野、メディカル製品分野、食品分野、農業・園芸分野、電気分野、建築分野等の様々な技術分野において有用である。
【関連出願の相互参照】
【0298】
本出願は、2019年4月25日に日本国特許庁に出願された特願2019-084760号、2019年4月25日に日本国特許庁に出願された特願2019-084761号、2019年5月17日に日本国特許庁に出願された特願2019-093295号および2019年6月21日に日本国特許庁に出願された特願2019-115894号に基づく優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。
図1