(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-08
(45)【発行日】2025-10-17
(54)【発明の名称】水溶性ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 71/02 20060101AFI20251009BHJP
C08K 3/18 20060101ALI20251009BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20251009BHJP
C08L 33/26 20060101ALI20251009BHJP
D21H 17/46 20060101ALI20251009BHJP
【FI】
C08L71/02
C08K3/18
C08K5/13
C08L33/26
D21H17/46
(21)【出願番号】P 2022526625
(86)(22)【出願日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2021020108
(87)【国際公開番号】W WO2021241662
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2024-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2020093135
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】西能 直輝
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 元晴
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-101795(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104496(WO,A1)
【文献】特開昭57-159839(JP,A)
【文献】特開昭56-145941(JP,A)
【文献】米国特許第03753939(US,A)
【文献】特開昭50-111139(JP,A)
【文献】特開2003-342464(JP,A)
【文献】特公昭46-009423(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/02
C08K 3/18
C08K 5/13
C08L 33/26
D21H 17/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤と、遷移金属塩を除く無機塩とを含み、
前記無機塩の含有量が、前記水溶性ポリマー100質量部に対して、0.001~10質量部であ
り、
前記水溶性ポリマーが、(メタ)アクリルアミドの単重合体、(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及びエチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の重合体であり、
前記無機塩が、炭酸塩、ケイ酸塩、またはリン酸塩である、水溶性ポリマー組成物
(但し、カチオン界面活性剤を含むものを除く。)。
【請求項2】
前記無機塩は、その水溶液状態において、中性又はアルカリ性を示す、請求項
1に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項3】
前記フェノール系酸化防止剤の含有量が、前記水溶性ポリマー100質量部に対して、0.001~5質量部である、請求項1
又は2に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項4】
前記フェノール系酸化防止剤100質量部に対する、前記無機塩の割合が、20~10000質量部である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項5】
抄紙用粘剤である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物と、鉄イオンと、水を含む、水溶性ポリマー水溶液。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物を含む、工業用薬品。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物と、鉄イオンを含む水溶液とを混合する工程を備える、水溶性ポリマー水溶液の製造方法。
【請求項9】
水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤とを含む第1剤と、
遷移金属塩を除く無機塩を含む第2剤と、
を備え、
前記第2剤の前記無機塩の割合が、前記第1剤の前記水溶性ポリマー100質量部に対して、0.001~10質量部であ
り、
前記水溶性ポリマーが、(メタ)アクリルアミドの単重合体、(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及びエチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の重合体であり、
前記無機塩が、炭酸塩、ケイ酸塩、またはリン酸塩であるキット。
【請求項10】
請求項
9に記載のキットを用いた水溶性ポリマー水溶液の製造方法であって、
前記第2剤と、鉄イオンを含む水溶液とを混合して混合液を得る工程と、
前記混合液と前記第1剤とを混合する工程と、
を備える、水溶性ポリマー水溶液の製造方法。
【請求項11】
請求項
6に記載の水溶性ポリマー水溶液と、紙料とを混合して、前記紙料の水分散体を調製する工程と、
前記紙料の水分散体を抄紙する工程と、
を備える、紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性ポリマー組成物、水溶性ポリマー水溶液、工業用薬品、水溶性ポリマー水溶液の製造方法、キット、及び紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレンオキシドなどの水溶性ポリマーは、製紙用途、マイニング用途、セメント用途、染色用途などの各種工業用途における工業用薬品(例えば、抄紙用粘剤、凝集剤、分散剤、沈降促進剤等)として幅広く使用されている(特許文献1参照)。これらの分野において、水溶性ポリマーは、一般に1ppm~15%程度の水溶液として使用されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のような工業分野においては、工業用水が使用される場合や、配管に鉄さびが形成されている場合があるなど、水溶性ポリマー水溶液の調製に使用される水中には、鉄イオンが含まれることがある。
【0005】
水溶性ポリマー水溶液に鉄イオンが含まれると、粘度が経時的に低下するという問題がある。
【0006】
例えば、製紙における抄紙工程では、紙料を水に分散させて希釈した後、ワイヤー(網)に載せて水を落とすことで抄紙されている(ワイヤーパート)。水には、水溶性ポリマーなどの抄紙用粘剤が配合されており、紙料(パルプ繊維)を分散する水の粘性を高めて紙料の均一分散と沈降防止とが図られている。抄紙用粘剤を水に溶解、あるいは水で希釈してから、紙料の水分散液に配合され、紙料が抄紙されるまでには所定時間を要する。この間に紙料の水分散液の粘度が経時的に低下すると、抄紙用粘剤による紙料の均一分散や沈降防止効果が十分に発揮されないという問題を生じる。
【0007】
特に、ティッシュペーパー等の厚みの極めて薄い紙や、電子部材の製造に用いられるような薄く高い均一性の求められる紙などを製造する場合、紙料の水分散液の粘度低下は、紙の均一性に与える影響が大きい。
【0008】
このような状況下、本発明は、鉄イオンが含まれる水溶液の経時的な粘度低下が抑制された、水溶性ポリマー組成物を提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該水溶性ポリマーを利用した、水溶性ポリマー水溶液、工業用薬品、水溶性ポリマー水溶液の製造方法、キット、及び紙の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤と、遷移金属塩を除く無機塩とを含み、無機塩の含有量を、水溶性ポリマー100質量部に対して0.001~10質量部の範囲に設定したである水溶性ポリマー組成物は、鉄イオンが含まれる水溶性ポリマー水溶液とした場合に、水溶性ポリマー水溶液の経時的な粘度低下が抑制されることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、さらに鋭意検討を重ねて完成した発明である。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の構成を備える発明を提供する。
項1. 少なくとも、水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤と、遷移金属塩を除く無機塩とを含み、
前記無機塩の含有量が、前記水溶性ポリマー100質量部に対して、0.001~10質量部である、水溶性ポリマー組成物。
項2. 前記水溶性ポリマーが、(メタ)アクリルアミドの単重合体、(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及びエチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の重合体である、項1に記載の水溶性ポリマー組成物。
項3. 前記無機塩は、その水溶液状態において、中性又はアルカリ性を示す、項1又は2に記載の水溶性ポリマー組成物。
項4. 前記フェノール系酸化防止剤の含有量が、前記水溶性ポリマー100質量部に対して、0.001~5質量部である、項1~3のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物。
項5. 前記フェノール系酸化防止剤100質量部に対する、前記無機塩の割合が、20~10000質量部である、項1~4のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物。
項6. 抄紙用粘剤である、項1~5のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物。
項7. 項1~6のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物と、鉄イオンと、水を含む、水溶性ポリマー水溶液。
項8. 項1~6のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物を含む、工業用薬品。
項9. 項1~6のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー組成物と、鉄イオンを含む水溶液とを混合する工程を備える、水溶性ポリマー水溶液の製造方法。
項10. 水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤とを含む第1剤と、
遷移金属塩を除く無機塩を含む第2剤と、
を備え、
前記第2剤の前記無機塩の割合が、前記第1剤の前記水溶性ポリマー100質量部に対して、0.001~10質量部であるキット。
項11. 項10に記載のキットを用いた水溶性ポリマー水溶液の製造方法であって、
前記第2剤と、鉄イオンを含む水溶液とを混合して混合液を得る工程と、
前記混合液と前記第1剤とを混合する工程と、
を備える、水溶性ポリマー水溶液の製造方法。
項12. 項7に記載の水溶性ポリマー水溶液と、紙料とを混合して、前記紙料の水分散体を調製する工程と、
前記紙料の水分散体を抄紙する工程と、
を備える、紙の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉄イオンが含まれる水溶液とした場合の経時的な粘度低下が抑制された、水溶性ポリマー組成物を提供することができる。また、本発明によれば、当該水溶性ポリマー組成物を利用した、水溶性ポリマー水溶液、工業用薬品、水溶性ポリマー水溶液の製造方法、キット、及び紙の製造方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例3及び比較例1の水溶性ポリマー組成物の抄紙用粘剤としての評価結果を示すグラフ(0.2%水溶液粘度と反濾水度との関係を示すグラフ)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の水溶性ポリマー組成物は、少なくとも、水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤と、遷移金属塩を除く無機塩とを含むことを特徴としている。本発明の水溶性ポリマー組成物は、このような構成を備えることにより、鉄イオンが含まれる水溶液とした場合の経時的な粘度低下が好適に抑制される。以下、本発明の水溶性ポリマー組成物、当該水溶性ポリマー組成物を利用した、水溶性ポリマー水溶液、工業用薬品、水溶性ポリマー水溶液の製造方法、キット、及び紙の製造方法について詳述する。
【0014】
本発明の水溶性ポリマー組成物は、少なくとも、水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤と、遷移金属塩を除く無機塩とを含み、無機塩の含有量が、水溶性ポリマー100質量部に対して、0.001~10質量部である。
【0015】
[水溶性ポリマー]
本発明の水溶性ポリマー組成物に含まれる水溶性ポリマーは、水溶性を有するポリマーであれば特に制限されない。
【0016】
水溶性ポリマーの具体例としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、及びエチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体などの水溶性のポリアルキレンオキシド;(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物;(メタ)アクリルアミドの単重合体;などが挙げられる。共重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。また、ポリプロピレンオキシドを構成するプロピレンオキシドとしては、通常、1,2-プロピレンオキシドまたは1,3-プロピレンオキシドを用いることができ、また、両者を併用することもできる。
【0017】
水溶性のポリアルキレンオキシドは、公知の方法、例えば、アルカリ又は金属触媒の存在下でアルキレンオキシドを重合させる方法により製造できる。また、水溶性のポリアルキレンオキシドとしては、例えば、住友精化株式会社の製品名「PEO」(登録商標)シリーズ、ダウ・ケミカル社の製品名「POLYOX」シリーズ、明成化学工業株式会社の製品名「Alkox」シリーズまたは日本ゼオン株式会社の製品名「ゼオスパン」シリーズ等の市販品を使用することもできる。
【0018】
また、(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物の中和度は、好ましくは20~100%、好ましくは40~100%である。
【0019】
本発明の水溶性ポリマー組成物を鉄イオンが含まれる水溶液とした場合の経時的な粘度低下を好適に抑制する観点から、水溶性ポリマーの分子量は、粘度平均分子量として10万~2200万が好ましく、20万~1500万がより好ましい。粘度平均分子量の測定方法は、以下の通りである。
【0020】
<粘度平均分子量>
オストワルド粘度計を用いた極限粘度の値からStaudinger式を用いて粘度平均分子量を算出する。具体的には、ポリアルキレンオキシドの粘度平均分子量[M]は、オストワルド粘度計を用いた極限粘度[η]の値から下記のStaudinger式を用いて算出する。
[η]=6.4×10-5×M0.82
但し、溶媒は純水、測定温度は35℃に設定する。
【0021】
(メタ)アクリルアミドの単重合体及び(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物の粘度平均分子量(Mw)は、それぞれ、(メタ)アクリルアミドの単重合体又は(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体の中和物を1Nの硝酸ナトリウム水溶液に溶解し、30℃で極限粘度〔η〕を求め、下記の換算式を用いて算出される値である。
極限粘度式:[η]=3.73×10-4×(Mw)×0.66
【0022】
本発明の水溶性ポリマー組成物を鉄イオンが含まれる水溶液とした場合の経時的な粘度低下を好適に抑制する観点から、0.5質量%の水溶液としたときの25℃における粘度が10~4000mPa.s、5.0質量%の水溶液としたときの25℃における粘度が50~80,000mPa.sが好ましい、水溶液粘度の測定方法は以下の通りである。
【0023】
<水溶液粘度の測定>
得られた水溶液の粘度を、25℃の恒温槽に前記ビーカーごと30分以上浸し、B型回転粘度計(回転数12r/min、3分、25℃)により測定する。測定に使用したローターは、測定対象の粘度が500mPa・s未満の場合はローターNo.1であり、500mPa・s以上2,500mPa・s未満の場合はローターNo.2であり、2,500mPa・s以上10,000mPa・s未満の場合はローターNo.3である。
【0024】
本発明の水溶性ポリマー組成物に含まれる水溶性ポリマーは、1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0025】
本発明の水溶性ポリマー組成物を鉄イオンが含まれる水溶液とした場合の経時的な粘度低下を好適に抑制する観点から、本発明の水溶性ポリマー組成物において、水溶性ポリマーの含有割合(配合割合)は、70.00質量%以上(例えば、70.00~99.99質量%)が好ましく、80.00質量%以上(例えば、80.00~99.99質量%)がより好ましく、90.00質量%以上(例えば、90.00~99.99質量%)がさらに好ましい。
【0026】
[遷移金属塩を除く無機塩]
本発明の水溶性ポリマー組成物に含まれる、遷移金属塩を除く無機塩は、遷移金属塩ではない無機塩である。すなわち、当該無機塩には、鉄塩などは包含されない。
【0027】
前記無機塩は、その水溶液状態において、中性又はアルカリ性を示すものであることが好ましい。具体的には、無機塩の40mmol%水溶液とした場合のpHが7以上(例えば7~13)となることが好ましい。pHの測定方法は、ガラス電極法である。
【0028】
前記無機塩としては、遷移金属塩でなければ特に制限されないが、本発明の水溶性ポリマー組成物を鉄イオンが含まれる水溶液とした場合の経時的な粘度低下を好適に抑制する観点から、好ましい具体例としては、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩;ケイ酸ナトリウムなどのケイ酸塩;リン酸三ナトリウムなどのリン酸塩;硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウムなどの硫酸塩;亜硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩;チオ硫酸ナトリウムなどのチオ硫酸塩;塩化カルシウム、塩化リチウムなどの塩化物;臭化リチウムなどの臭化物;ヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物;硫化ナトリウムなどの硫化物;硫化水素ナトリウムなどの硫化水素塩;硝酸ナトリウムなどの硝酸塩;亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩;などが挙げられる。
【0029】
本発明の水溶性ポリマー組成物に含まれる前記無機塩は、1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0030】
本発明の水溶性ポリマー組成物を鉄イオンが含まれる水溶液とした場合の経時的な粘度低下を好適に抑制する観点から、本発明の水溶性ポリマー組成物における前記無機塩の含有量(配合量)は、水溶性ポリマー100質量部に対して、0.001~10質量部であればよい。本発明の効果をより好適に発揮する観点から、水溶性ポリマー100質量部に対して、下限については、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上であり、上限については、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。当該含有量の好ましい範囲としては、0.001~5質量部、0.001~2質量部、0.01~10質量部、0.01~5質量部、0.01~2質量部、0.05~10質量部、0.05~5質量部、0.05~2質量部などである。
【0031】
[フェノール系酸化防止剤]
本発明の水溶性ポリマー組成物に含まれる、フェノール系酸化防止剤としては、公知のフェノール系酸化防止剤を使用することができる。フェノール系酸化防止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ジブチルヒドロキシアニソール(BHA)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2-tert-ブチル-6-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9-ビス[2-(3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、株式会社ADEKAより製品名「アデカスタブAO」シリーズとして市販されている各種のフェノール系化合物およびBASF社より製品名「IRGANOX」シリーズとして市販されている各種化合物のうちフェノール系化合物に該当する化合物等を挙げることができる。
【0032】
本発明の水溶性ポリマー組成物に含まれるフェノール系酸化防止剤は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0033】
本発明の水溶性ポリマー組成物を鉄イオンが含まれる水溶液とした場合の経時的な粘度低下を好適に抑制する観点から、本発明の水溶性ポリマー組成物におけるフェノール系酸化防止剤の含有量(配合量)は、水溶性ポリマー100質量部に対して、下限については、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.05質量部以上であり、上限については、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下である。当該含有量の好ましい範囲としては、0.001~5質量部、0.001~2質量部、0.001~1質量部、0.01~5質量部、0.01~2質量部、0.01~1質量部、0.05~5質量部、0.05~2質量部、0.05~1質量部などである。
【0034】
また、本発明の水溶性ポリマー組成物を鉄イオンが含まれる水溶液とした場合の経時的な粘度低下を好適に抑制する観点から、本発明の水溶性ポリマー組成物において、フェノール系酸化防止剤100質量部に対する、前記無機塩の割合は、好ましくは20~10000質量部である。
【0035】
本発明の水溶性ポリマー組成物は、イオン交換水に溶解した水溶性ポリマーの濃度が0.2%の水溶液である場合のpHが、5~13であることが好ましく、6~12であることが好ましい。当該pHの測定方法は、具体的には、次の通りである。
【0036】
<pHの測定>
pHは、室温(25℃)環境において、市販のpHメータ(例えば3点校正済みの堀場製作所製pHメータ D-51)を用いて測定し、指示値が安定した時点のpH値を読み取る。
【0037】
本発明の水溶性ポリマー組成物は、前記した水溶性ポリマー、無機塩、及びフェノール系酸化防止剤の他、各種の添加剤(ただし、遷移金属塩を除く)を含んでいてもよい。添加剤は、本発明の水溶性ポリマー組成物の用途に応じて適宜選択することができ、各用途における公知の添加剤を使用することができる。添加剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤以外の酸化防止剤、紫外線吸収剤、フィラー、着色剤(例えば、顔料および染料等)、防腐剤、防錆剤、界面活性剤、溶剤(例えば、有機溶剤)、流動性向上剤(例えば、シリカ等)、粘度調整剤(例えば、親水性のシリカおよび水溶性高分子等)および電解質等を挙げることができる。本発明の水溶性ポリマー組成物に含まれる添加剤は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。本発明の水溶性ポリマー組成物における添加剤の含有量は、その用途等に応じて適宜設定することができる。
【0038】
本発明の水溶性ポリマー組成物は、性状が特に限定されるものではなく、例えば、25℃、1気圧において固体状(例えば、粉粒状(粉状又は粒状)、塊状など)であってもよいし、液体または溶液若しくは分散液等の液状であってもよい。本発明の水溶性ポリマー組成物を液状とする場合には、水を用いることが好ましく、この場合、水溶性ポリマーと、フェノール系酸化防止剤と、遷移金属塩を除く無機塩と、水とを含む水溶性ポリマー組成物となる。
【0039】
本発明の水溶性ポリマー組成物は、各種の方法により製造することができる。例えば固体状の水溶性ポリマー組成物は、例えば、所要の成分を一度にまたは段階的にドライブレンドする方法により調製することができる。一方、液状の水溶性ポリマー組成物は、例えば、所要の成分をドライブレンドすることで調製された組成物を溶媒または分散媒に投入・混合して溶解または分散する方法や、溶媒または分散媒に対して所要の成分を一度にまたは段階的に個別に投入・混合して溶解または分散する方法により調製することができる。液状の水溶性ポリマー組成物を調製するための後者の方法においては、例えば、水溶性ポリマーの溶液または分散液を調製し、この溶液または分散液に、前記の無機塩及びフェノール系酸化防止剤等を適宜配合する方法を採ることができる。液状の水溶性ポリマー組成物は、調製時に用いる溶媒または分散媒を制御することにより、或いは、調製後に溶媒または分散媒を適宜除去することにより、濃度を調整することができる。
【0040】
固体状の水溶性ポリマー組成物は、液状の水溶性ポリマー組成物から溶媒または分散媒を除去、乾燥することで調製することもできる。
【0041】
液状の水溶性ポリマー組成物を調製するために用いられる溶媒または分散媒は、水や各種の有機媒体であり、特に限定されない。ここで使用可能な水は、通常、イオン交換水や純水等の精製水が好ましいが、水溶性ポリマー組成物の用途によっては水道水や工業用水であってもよい。一方、ここで使用可能な有機媒体の例としては、メタノールおよびエタノール等のアルコール類、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレン等のエステル類、アセトンおよびメチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、クロロホルムおよびジクロロエタン等の極性溶媒等を挙げることができる。使用される有機媒体は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0042】
本発明の水溶性ポリマー組成物は、製紙用途、マイニング用途、セメント用途、染色用途などの各種工業用途における工業用薬品(例えば、抄紙用粘剤、凝集剤、分散剤、沈降促進剤等)に使用することができる。本発明の水溶性ポリマー組成物は、特に、抄紙用粘剤として好適である。
【0043】
本発明の水溶性ポリマー組成物を、例えば抄紙用粘剤として紙の製造に使用する場合であれば、本発明の水溶性ポリマー組成物を粉粒状とし、用時に水と混合して水溶性ポリマー水溶液とし、さらに濃度を調整して、紙料を抄紙に供する際、紙料を含む水分散体中の水溶性ポリマーの濃度が例えば1~5000ppm程度となるようにして使用することができる。
【0044】
本発明の紙の製造方法は、例えば、前記のようにして本発明の水溶性ポリマー組成物を用いて調製された水溶性ポリマー水溶液(鉄イオンを含む)と、紙料とを混合して、紙料の水分散体を調製する工程と、得られた紙料の水分散体を抄紙する工程とを備える方法である。製紙における抄紙用粘剤の使用方法については、公知であり、本発明の水溶性ポリマー組成物を抄紙用粘剤として用いる場合にも、公知の抄紙方法(紙の製造方法)に適用することができる。本発明の水溶性ポリマー組成物を他の工業用途に使用する場合にも、公知の方法に対して適用することができる。
【0045】
前記の通り、前記のような工業分野においては、工業用水が使用される場合や、配管に鉄さびが形成されている場合があるなど、アルキレンオキシド水溶液の調製に使用される水中には、鉄イオンが含まれることがある。本発明の水溶性ポリマー組成物は、鉄イオンが含まれる水溶性ポリマー水溶液とした場合に、水溶性ポリマー水溶液の経時的な粘度低下が抑制される。よって、水溶性ポリマー水溶液の調製には、鉄イオンを含む水溶液を使用することができる。
【0046】
また、本発明の水溶性ポリマー組成物は、2剤タイプのキットとすることもできる。すなわち、本発明の水溶性ポリマー組成物を、水溶性ポリマー及びフェノール系酸化防止剤を含む第1剤と、遷移金属塩を除く無機塩を含む第2剤とを備え、第2剤の無機塩の割合が、第1剤の水溶性ポリマー100質量部に対して、0.001~10質量部であるキットの構成とする。当該キットを使用して水溶性ポリマー水溶液を製造する際には、第2剤と、鉄イオンを含む水溶液とを混合して混合液を得る工程と、得られた混合液と第1剤とを混合する工程とを備える方法によって、水溶性ポリマー水溶液を製造することが好ましい。水溶性ポリマーと鉄イオンを含む水溶液とが混合される前に、前記無機塩が鉄イオンを含む水溶液と予め混合されていることにより、水溶性ポリマー水溶液の経時的な粘度低下を好適に抑制することができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド1.993質量部と、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.0020質量部と、炭酸カリウム0.0050質量部とをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(1)を製造した。
【0049】
次に、1000mLプラスチック製ビーカーにイオン交換水997.9977質量部および塩化鉄(II)0.0023質量部を入れ、平板(幅80mm、縦25mm)を用いて先端周速1.0m/sの条件で攪拌しながら、上記で得た水溶性ポリマー組成物(1)2質量部を投入し、同条件で攪拌を3時間継続して、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(1)を製造した。
【0050】
(実施例2)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド1.993質量部と、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.0020質量部と、炭酸リチウム0.0050質量部とをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(2)を製造した。次に、水溶性ポリマー組成物(1)の代わりに、水溶性ポリマー組成物(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(2)を製造した。
【0051】
(実施例3)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド1.993質量部と、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.0020質量部と、炭酸ナトリウム0.0050質量部とをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(3)を製造した。次に、水溶性ポリマー組成物(1)の代わりに、水溶性ポリマー組成物(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(3)を製造した。
【0052】
(実施例4)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド1.993質量部と、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.0020質量部と、ケイ酸ナトリウム0.0050質量部とをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(4)を製造した。次に、水溶性ポリマー組成物(1)の代わりに、水溶性ポリマー組成物(4)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(4)を製造した。
【0053】
(実施例5)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド1.993質量部と、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.0020質量部と、リン酸三ナトリウム0.0050質量部とをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(5)を製造した。次に、水溶性ポリマー組成物(1)の代わりに、水溶性ポリマー組成物(5)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(5)を製造した。
【0054】
(実施例6)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド1.903質量部と、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.0019質量部と、炭酸リチウム0.0952質量部とをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(6)を製造した。次に、水溶性ポリマー組成物(1)の代わりに、水溶性ポリマー組成物(6)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(6)を製造した。
【0055】
(実施例7)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド1.816質量部と、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.0018質量部と、炭酸リチウム0.1818質量部とをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(7)を製造した。次に、水溶性ポリマー組成物(1)の代わりに、水溶性ポリマー組成物(7)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(7)を製造した。
【0056】
(実施例8)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド1.993質量部と、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.0020質量部とをドライブレンドし、水溶性ポリマー組成物(8)の第1剤を製造した。次に、1000mLプラスチック製ビーカーにイオン交換水997.9977質量部および塩化鉄(II)0.0023質量部を入れ、平板(幅80mm、縦25mm)を用いて先端周速1.0m/sの条件で攪拌しながら、第2剤として炭酸リチウム0.0050質量部を投入し、同条件で攪拌を10分間継続して、鉄(II)と無機塩が含有された水溶液を製造した。次に、前記の第1剤1.995質量部を水溶液に投入し、同条件で攪拌を3時間継続して、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(8)を製造した。
【0057】
(実施例9)
粘度平均分子量800万のポリエチレンオキシド1.993質量部の代わりに、(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体のナトリウム塩(PAM 明成化学工業社製 商品名パムオールH)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、水溶性ポリマー組成物(9)を製造した。
【0058】
(比較例1)
無機塩を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、水溶性ポリマー組成物(10)を製造した。次に、水溶性ポリマー組成物(1)の代わりに、水溶性ポリマー組成物(10)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(10)を製造した。
【0059】
(比較例2)
炭酸カリウム0.0050質量部の代わりに、ジブチルヒドロキシトルエン0.0050質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、水溶性ポリマー組成物(11)を製造した。次に、水溶性ポリマー組成物(1)の代わりに、水溶性ポリマー組成物(11)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(11)を製造した。
【0060】
(比較例3)
炭酸カリウム0.0050質量部の代わりに、2-メルカプトベンゾチアゾール0.0050質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、水溶性ポリマー組成物(12)を製造した。次に、水溶性ポリマー組成物(1)の代わりに、水溶性ポリマー組成物(12)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(12)を製造した。
【0061】
(比較例4)
炭酸カリウム0.0050質量部の代わりに、ステアリン酸亜鉛0.0050質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、水溶性ポリマー組成物(13)を製造した。次に、水溶性ポリマー組成物(1)の代わりに、水溶性ポリマー組成物(13)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(13)を製造した。
【0062】
(比較例5)
炭酸カリウム0.0050質量部の代わりに、酸化マグネシウム0.0050質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、水溶性ポリマー組成物(14)を製造した。次に、水溶性ポリマー組成物(1)の代わりに、水溶性ポリマー組成物(14)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(14)を製造した。
【0063】
(比較例6)
ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を使用しなかったこと以外は実施例2と同様にして、水溶性ポリマー組成物(15)を製造した。次に、水溶性ポリマー組成物(1)の代わりに、水溶性ポリマー組成物(15)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(15)を製造した。
【0064】
(比較例7)
1000mLプラスチック製ビーカーにイオン交換水997.9977質量部および塩化鉄(II)0.0023質量部を入れ、平板(幅80mm、縦25mm)を用いて先端周速1.0m/sの条件で攪拌しながら、ポリアルキレンオキシド2質量部を投入し、同条件で攪拌を3時間継続して、鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(16)を製造した。
【0065】
[粘度の経時的変化]
実施例1~9及び比較例1~7で製造した各水溶性ポリマー水溶液の製造直後の粘度(水溶液保存日数0日))と、24時間後の粘度(水溶液保存日数1日))を、以下の条件で測定した。粘度は、B型回転粘度計(TOKIMEC社製、ローターNo.1、測定条件:回転数30rpm、3分)を用いて測定した。24時間の保管は、25℃水溶性ポリマー水溶液を500mL容のガラス製容器に入れて行った。ガラス製容器の封をした状態で、恒温恒湿器(型番:ESPEC社製:PR-2ST)中、40℃、75%RHの環境下で保持した。粘度測定時には、水溶性ポリマー水溶液を入れたガラス製容器を恒温恒湿器から取り出し、室温(25℃)の恒温槽に60分程度浸した後に粘度を測定した。表1には、測定された粘度(mPa・s)、粘度保持率(%)、及びpHを示した。pHは3点校正済みの堀場製作所製pHメータ D-51を用いて測定し、指示値が安定した時点のpH値を読み取った。
【0066】
粘度保持率(%)については、水溶性ポリマーとしてポリアルキレンオキシドを用いた実施例1~8及び比較例1~7については、実施例1の鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(1)の組成において、鉄(II)イオン、フェノール系酸化防止剤、および無機塩を配合せずに、ポリエチレンオキシドと水のみを含む水溶液(0)の粘度を基準とした。また、水溶性ポリマーとして(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体のナトリウム塩を用いた実施例9については、実施例9の鉄(II)イオンを含む水溶性ポリマー水溶液(9)の組成において、鉄(II)イオン、フェノール系酸化防止剤、および無機塩を配合せずに、ポリエチレンオキシドもしくは(メタ)アクリルアミド-(メタ)アクリル酸共重合体のナトリウム塩と水のみを含む水溶液(0)の粘度を基準とした。粘度保持率の算出式は、以下の通りである。製造直後から1日までの粘度保持率の低下幅が大きいほど、経時的な粘度低下が大きいことを示す。
粘度保持率=({各時点におけるポリエチレンオキシド水溶液の粘度[mPa・s]/0日目におけるポリエチレンオキシド水溶液(0)の粘度[mPa・s]}×100)
【0067】
【0068】
[抄紙用粘剤としての評価]
実施例3及び比較例1で製造した水溶性ポリマー水溶液を、0.1%パルプスラリー1Lに対して1000ppm(v.s.パルプ)添加し、35秒間300rpmで攪拌後、0.5秒間における濾水量を静紙工紙式ダイナミックR・Dテスター(SDR-DT、株式会社小林製作所製)を用いて測定した。水溶性ポリマー組成物を添加しなかった場合のパルプスラリー1Lの0.5秒間の濾水量との差から、反濾水度(抄紙用粘剤としての効果の指標)を求めた。結果を
図1のグラフに示す。反濾水度はろ過速度の遅延度合いを示しており、パルプが均一に分散してろ過されることによるフィルター効果、およびパルプに定着した抄紙用粘剤の粘性によるものと考えられる。そのため、実施例3の水溶性ポリマー水溶液は、反濾水度が大きく、抄紙に用いた場合、紙料の水への均一分散性に優れることが分かる。
反濾水度=濾水量[水溶性ポリマー組成物の添加0ppm](mL)-濾水量[水溶性ポリマー組成物:前記添加量](mL))