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特許7761164オルガノポリシロキサン、その製造方法、密着性付与剤、水性塗料組成物およびプライマー組成物
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  • 特許-オルガノポリシロキサン、その製造方法、密着性付与剤、水性塗料組成物およびプライマー組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-20
(45)【発行日】2025-10-28
(54)【発明の名称】オルガノポリシロキサン、その製造方法、密着性付与剤、水性塗料組成物およびプライマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20251021BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20251021BHJP
   C09D 183/06 20060101ALI20251021BHJP
   C08G 77/18 20060101ALI20251021BHJP
【FI】
C07F7/18 Y CSP
C09D5/00 D
C09D183/06
C08G77/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024552914
(86)(22)【出願日】2023-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2023036010
(87)【国際公開番号】W WO2024090150
(87)【国際公開日】2024-05-02
【審査請求日】2025-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2022169663
(32)【優先日】2022-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 和弘
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106146850(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104892942(CN,A)
【文献】特開2017-206673(JP,A)
【文献】特開2021-176943(JP,A)
【文献】特開2005-68361(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109054022(CN,A)
【文献】特開2005-298561(JP,A)
【文献】特表2008-516019(JP,A)
【文献】特開平10-110101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C09D
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるオルガノポリシロキサン。
【化1】
(式中、R1は、炭素数1~10の1価炭化水素基であり、R2は、それぞれ独立して、グリシジルオキシ基で置換されていてもよい炭素数1~10の1価炭化水素基であり、R3は、炭素数1~6の1価飽和炭化水素基であるが、R3のうち少なくとも一部は、炭素数3~6の1価飽和炭化水素基であり、a、b、c、dは、a≧0.5、b≧0、c≧0、d≧0、かつ、a+b+c+d=1を満たす数であり、x、yは、x≧1、0<y≦0.5を満たす数である。)
【請求項2】
3が、炭素数3または4の1価飽和炭化水素基である請求項1記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項3】
b、c、d、yが、b=0、c=0、d=0、0.01≦y≦0.1を満たす数である請求項1記載のオルガノポリシロキサン。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンを製造する方法であって、
下記式(i)で表される3-グリシジルオキシプロピル基含有シラン化合物と、必要により、下記式(ii)で表されるシラン化合物と、下記式(iii)で表されるシラン化合物と、下記式(iv)で表されるシラン化合物とのいずれか1種または2種以上を含むシラン単量体を、下記式(v)で表されるアルコールの存在下で、上記シラン単量体のSi(OR)基(Rは、炭素数1~6の1価飽和炭化水素基である。)1モルに対して0.8倍モル~1.1倍モル量の水を添加し、酸性条件においてシラン単量体の(共)加水分解縮合反応を行うオルガノポリシロキサンの製造方法。
【化2】
(式中、R1、R2およびRは、上記と同じであり、R0は、炭素数3~6の1価飽和炭化水素基である。)
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンからなる密着性付与剤。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンを含む水性塗料組成物。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサンを含むプライマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノポリシロキサン、その製造方法、密着性付与剤、水性塗料組成物およびプライマー組成物に関し、さらに詳述すると、3-グリシジルオキシプロピル基含有シロキサン単位を構成単位として含み、かつ、シラノール基を有するオルガノポリシロキサン、該オルガノポリシロキサンの製造方法、該オルガノポリシロキサンからなる密着性付与剤、該オルガノポリシロキサンを含む水性塗料組成物およびプライマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1分子中に2種以上の異なる反応性官能基を有する化合物は、異種の材料を結合するカップリング剤として知られており、その中でも、アルコキシシリル基等の加水分解性シリル基を反応性基の一つとして有し、さらに、第一級アミノ基、第二級アミノ基、グリシジルエーテル基、メタクリル基、ウレイド基、ビニル基、メルカプト基、イソシアネート基等の様々な有機反応性基を有するシランカップリング剤は、塗料の密着性を向上させるプライマーとして、また、塗料組成物に添加する密着促進剤として知られている。
【0003】
また、シランカップリング剤をモノマーとして用い、加水分解性シリル基を加水分解縮合させて得られた反応性オルガノポリシロキサンを添加した組成物等が報告されている。例えば、特許文献1には、エポキシ基を有するオルガノシルセスキオキサンを含むコーティング材料および接着シートが提案されており、特許文献2~4には、エポキシ基を有するシランカップリング剤を部分的に加水分解縮合させた比較的低分子量のオリゴマーを密着向上剤として利用することが提案されている。
【0004】
シランカップリング剤に比べて、これを加水分解縮合させたオリゴマーおよび/またはポリマーを使用する利点として、まず、分子量が高く、低揮発性であることから、乾燥等の工程において有効成分が減少する懸念が払拭される点が挙げられる。
また、揮発性有機化合物(VOC)の発生量が少ない点が挙げられ、昨今の溶剤系塗料の水性化、無溶剤化といった環境負荷低減の観点から、加水分解によりアルコールを発生するシランカップリング剤と比較して、事前に部分加水分解しているオリゴマーは、有効成分の単位質量当たりのアルコール発生量が低減されており、このような要望に適した材料といえる。
【0005】
さらなるVOCの低減を志向し、シランカップリング剤を完全に加水分解させ、発生したアルコールを除去して得られた加水分解縮合物を含む水溶液も提案されており、特許文献5~7には、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基等の官能基を含有する加水分解縮合物を含む水性シラン組成物が、特許文献8には、エチレングリコール基を有する加水分解縮合物を含む水性シラン組成物が提案されている。
【0006】
このような水性シラン組成物は、何れもシランカップリング剤の加水分解縮合物の活性が高く、ハンドリング、安定性の観点から水溶液とすることが必須となっていたが、保存安定性が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-143161号公報
【文献】国際公開第2018/34232号
【文献】特開2018-127507号公報
【文献】特開2022-27097号公報
【文献】欧州特許第0675128号明細書
【文献】特開2016-44278号公報
【文献】特開2015-34097号公報
【文献】特開2017-114852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、有機官能基を有し、保存安定性に優れる水溶性オルガノポリシロキサンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、3-グリシジルオキシプロピル基を有するシロキサン単位を特定量有し、かつシラノール基を有するオルガノポリシロキサンが、保存安定性に優れることを見出すとともに、該オルガノポリシロキサンを含む水性組成物が密着性に優れ、プライマーとして好適であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. 下記式(1)で表されるオルガノポリシロキサン、
【化1】
(式中、R1は、炭素数1~10の1価炭化水素基であり、R2は、それぞれ独立して、グリシジルオキシ基で置換されていてもよい炭素数1~10の1価炭化水素基であり、R3は、炭素数1~6の1価飽和炭化水素基であるが、R3のうち少なくとも一部は、炭素数3~6の1価飽和炭化水素基であり、a、b、c、dは、a≧0.5、b≧0、c≧0、d≧0、かつ、a+b+c+d=1を満たす数であり、x、yは、x≧1、0<y≦0.5を満たす数である。)
2. R3が、炭素数3または4の1価飽和炭化水素基である1記載のオルガノポリシロキサン、
3. b、c、d、yが、b=0、c=0、d=0、0.01≦y≦0.1を満たす数である1または2記載のオルガノポリシロキサン、
4. 1~3のいずれかに記載のオルガノポリシロキサンを製造する方法であって、
下記式(i)で表される3-グリシジルオキシプロピル基含有シラン化合物と、必要により、下記式(ii)で表されるシラン化合物と、下記式(iii)で表されるシラン化合物と、下記式(iv)で表されるシラン化合物とのいずれか1種または2種以上を含むシラン単量体を、下記式(v)で表されるアルコールの存在下で、上記シラン単量体のSi(OR)基(Rは、炭素数1~6の1価飽和炭化水素基である。)1モルに対して0.8倍モル~1.1倍モル量の水を添加し、酸性条件においてシラン単量体の(共)加水分解縮合反応を行うオルガノポリシロキサンの製造方法、
【化2】
(式中、R1、R2およびRは、上記と同じであり、R0は、炭素数3~6の1価飽和炭化水素基である。)
5. 1~3のいずれかに記載のオルガノポリシロキサンからなる密着性付与剤、
6. 1~3のいずれかに記載のオルガノポリシロキサンを含む水性塗料組成物、
7. 1~3のいずれかに記載のオルガノポリシロキサンを含むプライマー組成物
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のオルガノポリシロキサンは、反応性に富むエポキシ基を持ち、有機樹脂の改質、樹脂基材への密着向上効果に優れ、かつ、安定性に優れるため、可使期間の長期化が達成される。また、本発明のオルガノポリシロキサンは、シラノール基を有していることから、無機基材との反応性に優れるほか、高い水溶性を発現し、水性塗料組成物への添加剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1-1で得られたオルガノポリシロキサンEp1の1H-NMRスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
(1)オルガノポリシロキサン
本発明に係るオルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で表されるものである。
【0014】
【化3】
【0015】
上記式中、R1は、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の1価炭化水素基であり、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-デシル基等のアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル、アリル、ブテニル、ヘキセニル、オクテニル基等のアルケニル基;フェニル、ナフチル基等のアリール基などが挙げられる。これらの中でも、メチル、エチル、n-プロピル、フェニル基が好ましく、メチル、エチル基がより好ましく、メチル基がより一層好ましい。
【0016】
2は、それぞれ独立して、グリシジルオキシ基で置換されていてもよい炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の1価炭化水素基であり、その具体例としては、上記R1で例示されたものと同様のもの、および、グリシジルオキシプロピル基等のグリシジルオキシ基置換アルキル基などが挙げられる。これらの中でも、メチル、エチル、n-プロピル、グリシジルオキシプロピル、フェニル基が好ましく、メチル、エチル基がより好ましく、メチル基がより一層好ましい。
【0017】
3は、炭素数1~6の1価飽和炭化水素基であり、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
本発明のオルガノポリシロキサンは、安定性の観点から、R3の少なくとも一部、好ましくは全R3が、炭素数3~6の1価飽和炭化水素基であり、炭素数3または4の1価飽和炭化水素基が好ましく、炭素数3または4の分岐状アルキル基がより好ましく、イソプロピル基、イソブチル基がさらに好ましい。
【0018】
a、b、cおよびdは、各シロキサン単位のモル比率を表し、a+b+c+d=1を満たす数である。
aは、0.5以上の数であり、0.5~1の数が好ましい。aが0.5未満であると、有効エポキシ基量が少なくなり、密着性向上効果が期待できない他、式(1)で表されるオルガノポリシロキサンが、高粘度、ガム状または固体状となり、ハンドリング性に劣り、水溶性も低下する。
bは、0以上の数であり、0~0.5の数が好ましく、本発明のオルガノポリシロキサンに含まれるエポキシ基量の点から、0が好ましい。
cは、0以上の数であり、0~0.5の数が好ましく、エポキシ基の反応性の点から、0が好ましい。
dは、0以上の数であり、0~0.5の数が好ましく、保存安定性の点から0が好ましい。
【0019】
xおよびyは、それぞれSi原子1モルに対して結合しているヒドロキシ基およびアルコキシ基のモル数を表す。
xは、1以上の数であり、保存安定性の点から、1~2の数が好ましい。1未満であるとオルガノポリシロキサンの水溶性および無機基材との反応性が劣る。
yは、0<y≦0.5を満たす数であり、加水分解によって生じるアルコールを低減する点から、0<y≦0.3の数が好ましく、0.01≦y≦0.1の数がより好ましい。yが0の場合は、本発明のオルガノポリシロキサンは、実質アルコール発生の無い環境負荷の少ない材料であるものの、シラノール基の反応性が高いため、保存安定性が十分でなく、実用に適さないといった問題が生じる。上記R3が、炭素数3~6の1価飽和炭化水素基を含有することで、活性シラノール基の反応性を制御可能となり、所望の保存安定性の向上が期待できる。
【0020】
本発明のオルガノポリシロキサンとしては、下記式(1a)で表されるものが好ましい。
【0021】
【化4】
【0022】
式(1a)中、R3は、上記と同じであり、a1=1であり、x1、y1は、x1≧1、0.01≦y≦0.1を満たす数である。
【0023】
本発明のオルガノポリシロキサンの重量平均分子量は、水溶性およびハンドリング性の観点から、500~10000が好ましく、500~1000がより好ましい。なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値である。
また、本発明のオルガノポリシロキサンの動粘度は、100~500mm2/sが好ましく、200~450mm2/sがより好ましい。なお、動粘度は、キャノン・フェンスケ型粘度計で測定した25℃における値である。
【0024】
本発明のオルガノポリシロキサンは、不純物としての水および遊離アルコールの含有量が、それぞれ1質量%以下であることが好ましい。水はVOCに該当しないが、過剰に存在した場合、エポキシ基と反応し得るため、本発明のオルガノポリシロキサンを長期保管する場合は、極力含まれないことが望ましい。
【0025】
(2)オルガノポリシロキサンの製造方法
本発明のオルガノポリシロキサンの製造方法は特に制限されないが、例えば、下記式(i)で表される3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン等の3-グリシジルオキシプロピル基含有シラン化合物と、必要により、下記式(ii)で表されるシラン化合物と、下記式(iii)で表されるシラン化合物と、下記式(iv)で表されるシラン化合物とのいずれか1種または2種以上を含むシラン単量体を下記式(v)で表される炭素数3~6のアルコールの存在下で、酸性条件において(共)加水分解縮合させることによって製造することができる。
【0026】
【化5】
【0027】
上記式中、R1およびR2は、上記と同じである。
Rは、それぞれ独立して、炭素数1~6の1価飽和炭化水素基であり、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、R3で例示したものと同様の基が挙げられる。中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
0は、炭素数3~6、好ましくは炭素数3または4の1価飽和炭化水素基である。R0の1価飽和炭化水素基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、R3で例示した基のうち、炭素数3~6のものと同様のものが挙げられるが、中でも炭素数3または4の分岐状1価飽和炭化水素基が好ましく、炭素数3または4の分岐状アルキル基がより好ましく、イソプロピル基、イソブチル基がさらに好ましい。
【0028】
上記式(i)で表される3-グリシジルオキシプロピル基含有シラン化合物の具体例としては、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランのほかに、3-グリシジルオキシプロピルトリプロポキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリブトキシシラン等が挙げられる。
上記式(ii)で表されるシラン化合物の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシランなどが挙げられる。
上記式(iii)で表されるシラン化合物の具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルエチルジエトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、シクロペンチルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランメチルオクチルジメトキシシラン等のジアルコキシシランなどが挙げられる。
上記式(iv)で表されるシラン化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシランなどが挙げられる。
また、これらの加水分解縮合物も用いることができる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
これらのシランモノマーの使用量は、目的とするオルガノポリシロキサンを構成する各シロキサン単位のモル比率(式(1)におけるa~dの値)に応じて調整することが好ましい。
【0030】
上記式(v)で表されるアルコールとしては、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、ペンチルアルコール、ネオペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール等が挙げられ、好ましくは炭素数3または4のアルコールであり、より好ましくはイソプロパノール、イソブタノールである。
【0031】
アルコールの添加量は、シランモノマー1モルに対して、0.1~5モルが好ましく、0.5~2モルがより好ましい。
【0032】
上記シランモノマーの加水分解に用いる水の量は、エポキシ基との反応を抑制し、残存アルコキシシリル基等のSi(OR)基(Rは、上記と同じである。以下、同じ。)を低減する観点から、アルコキシシリル基等のSi(OR)基1モルに対し、0.8倍モル~1.1倍モル量であり、好ましくは同モル~1.1倍モル量である。
【0033】
加水分解反応時に酸性条件に調整する酸分としては、市場に流通するブレンステッド酸であれば特に制限されないが、その中でも入手の容易度の観点から、ギ酸、酢酸、クエン酸、塩酸、硝酸が好ましい。酸の使用量は、シラノール間の過度な脱水縮合反応により得られるオルガノポリシロキサンの分子量の増大およびシラノール基量の減少による水溶性の低下を抑制する観点から、シランモノマー1モルに対して0.0001~0.01モルが好ましい。
【0034】
加水分解反応において、反応を阻害しない範囲で、必要に応じてアルコール以外の有機溶媒を使用してもよい。使用できる有機溶媒としては、反応原料である水と相溶するものが好ましく、エステル類、ケトン類、エーテル類等が好ましい。また、発生するアルコールを除去する際の留去条件を勘案すると、有機溶媒の沸点は低い方が好ましく、大気圧下において150℃以下の沸点を有する溶媒であることが望ましい。
エステル類の具体例としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
ケトン類の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
エーテル類の具体例としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン等が挙げられる。
【0035】
加水分解反応の温度は、55~70℃が好ましく、反応時間は、1~5時間が好ましい。
また、シランモノマーの加水分解反応後、減圧条件で、30~80℃の温度範囲において、水、アルコキシシリル基の加水分解により生成したアルコールおよび上記有機溶媒を留去する工程を行うことが好ましい。
【0036】
本発明のオルガノポリシロキサンは、密着性付与剤として塗料等の硬化性組成物に用いることができるほか、水溶性に優れるため水性塗料組成物とすることができる。
【0037】
(3)水性塗料組成物
本発明の水性塗料組成物は、上記オルガノポリシロキサンを含有する。上記オルガノポリシロキサンとしては、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明の水性塗料組成物は、溶媒として水を含むことが好ましく、特に、溶媒として水のみを含む水溶液であることが好ましい。組成物中の上記オルガノポリシロキサンの配合量は、5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。
【0038】
水性塗料組成物の具体例としては、水性エポキシ樹脂組成物、水性ウレタン樹脂組成物等の水性樹脂を含む組成物が挙げられ、これらの水性樹脂組成物の一成分として本発明のオルガノポリシロキサンを用いることができる。
水性樹脂の具体例としては、水性エポキシ樹脂、水性ポリウレタン樹脂のほか、水性ポリエステル樹脂、水性アクリル樹脂等が挙げられる。
また、本発明の水性塗料組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、有機溶剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、増粘剤、分散剤、接着促進剤等の任意の添加剤を含んでいてもよい。
【0039】
本発明の水性塗料組成物の製造方法は特に制限されず、例えば、上記オルガノポリシロキサン、溶媒、必要により水性樹脂、その他の添加剤を常法にしたがって混合する方法等が挙げられる。
【0040】
得られた水性塗料組成物を所定の基材上に直接またはプライマー層等の他の層を介して塗布し、20~50℃、30~60%RHの環境下で1~60分間乾燥させることで、塗膜を形成することができる。
基材としては、特に限定されるものではないが、プラスチック成形体、木材系製品、セラミックス、ガラス、金属、これらの複合物等が挙げられる。
水性塗料組成物の塗布方法としては、特に制限されず、従来公知の方法から適宜選定することができ、例えば、刷毛塗り、拭き塗り、スプレー、浸漬、バーコート、フローコート、ロールコート、カーテンコート、スピンコート、ナイフコート等の各種塗布方法が挙げられる。
【0041】
(4)プライマー組成物
本発明のオルガノポリシロキサンは、水性プライマー組成物(塗料)におけるカップリング成分や水性反応性バインダーとして好適に使用することができる。
本発明のプライマー組成物は、上記オルガノポリシロキサンを含むものであるが、上記オルガノポリシロキサンとしては、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
また、本発明のプライマー組成物は、溶媒として水を含むことが好ましく、特に、溶媒として水のみを含む水溶液であることが好ましい。組成物中の上記オルガノポリシロキサンの配合量は、5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。
さらに、本発明のプライマー組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の添加剤を含んでいてもよく、その具体例としては、水性塗料組成物で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0042】
本発明のプライマー組成物の製造方法、プライマー層の形成方法は特に制限されず、水性塗料組成物と同様の方法がそれぞれ挙げられる。
【0043】
また、プライマー層の表面に他の層を形成してもよく、他の層としては、例えば、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性エポキシ樹脂、水性ウレタン樹脂等を含む水性樹脂組成物の硬化被膜からなる被覆層が挙げられる。これらの中でも、水性ウレタン樹脂組成物の硬化被膜からなる被覆層が好ましい。被覆層の形成方法も、水性塗料組成物と同様の方法が挙げられる。
【実施例
【0044】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記の例において、特に断らない限り、「部」および「%」はそれぞれ「質量部」および「質量%」を意味する。また、GPC測定およびプロトン核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)測定条件は以下のとおりであり、動粘度はキャノン・フェンスケ型粘度計で測定した25℃における値である。
【0045】
(1)GPC測定条件
装置:東ソー(株)製 HLC-8320GPC
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.6mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-H
TSKgel SuperHM-N(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH2500(6.0mmI.D.×15cm×1)
(いずれも東ソー(株)製)
カラム温度:40℃
試料注入量:50μL(濃度2.0%のTHF溶液)
標準:単分散ポリスチレン
(2)1H-NMR測定条件
装置:BURKER社製 AVANCE III 400
溶媒:CDCl3
内部標準:テトラメチルシラン(TMS)
【0046】
[1]オルガノポリシロキサンの合成
[実施例1-1]
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lの3つ口フラスコに3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン472g(2.0モル)、イソプロパノール60gを納めた。この中に0.2%塩酸を108g(水量として6.0モル)滴下した(滴下中は、内温20~40℃の範囲に温度管理を行った)。滴下終了後、70℃で1時間撹拌し、その後70℃で減圧留去を行い、加水分解反応により発生したアルコールと余剰の水を除くことで無色透明液体のオルガノポリシロキサン(Ep1)を得た。
得られたオルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、395mm2/sであり、含有するエポキシ基の官能基量は、198g/モルであり、重量平均分子量は、608であった。1H-NMRおよびGPC測定により分析した結果、オルガノポリシロキサン(Ep1)は、下記式(2)で表される構造であった。1H-NMRスペクトルを図1に示した。
【0047】
【化6】
【0048】
[実施例1-2]
実施例1-1において、イソプロパノールをイソブタノール74gに変更した以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、無色透明液体のオルガノポリシロキサン(Ep2)を得た。
得られたオルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、432mm2/sであり、含有するエポキシ基の官能基量は、202g/モルであり、重量平均分子量は、668であった。1H-NMRおよびGPC測定により分析した結果、オルガノポリシロキサン(Ep2)は、下記式(3)で表される構造であった。
【0049】
【化7】
【0050】
[比較例1-1]
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lの3つ口フラスコに3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン472g(2.0モル)を納めた。この中に0.2%塩酸を108g(水量として6.0モル)滴下した(滴下中は、内温20~40℃の範囲に温度管理を行った)。滴下終了後、70℃で1時間撹拌し、その後70℃で減圧留去を行い、加水分解反応により発生したアルコールと余剰の水を除くことで無色透明液体のオルガノポリシロキサン(Ep3)を得た。
得られたオルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、726mm2/sであり、含有するエポキシ基の官能基量は、189g/モルであり、重量平均分子量は、830であった。1H-NMRおよびGPC測定により分析した結果、オルガノポリシロキサン(Ep3)は、下記式(4)で表される構造であった。
【0051】
【化8】
【0052】
[比較例1-2]
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lの3つ口フラスコに3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン141.6g(0.6モル)およびジメチルジメトキシシラン168g(1.4モル)を納めた。この中に0.2%塩酸を82.8g(水量として4.6モル)滴下した(滴下中は、内温20~40℃の範囲に温度管理を行った)。滴下終了後、70℃で1時間撹拌し、その後70℃で減圧留去を行い、加水分解反応により発生したアルコールと余剰の水を除くことで無色透明液体のオルガノポリシロキサン(Ep4)を得た。
得られたオルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、181mm2/sであり、含有するエポキシ基の官能基量は、288g/モルであり、重量平均分子量は、930であった。1H-NMRおよびGPC測定により分析した結果、オルガノポリシロキサン(Ep4)は、下記式(5)で表される構造であった。
なお、オルガノポリシロキサン(Ep4)は、イオン交換水と混合した際に相溶せず、白濁し、水溶性に劣るものであった。
【0053】
【化9】
【0054】
[2]保存安定性評価
[実施例2-1、2-2、比較例2-1]
実施例1-1、1-2および比較例1-1で合成したオルガノポリシロキサン(Ep1~Ep3)について、室温および5℃で保管した際の、製造直後、1ヵ月、2ヵ月、および、3ヵ月経過後の動粘度および水溶性を評価した。結果を表1に示す。
なお、水溶性は、25℃で各オルガノポリシロキサンを濃度10%になるようにイオン交換水と混合した際に、均一に溶解した場合を「〇」、白濁が生じた場合を「×」として評価した。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示されるように、嵩高いアルコキシシリル基を含まないオルガノポリシロキサンEp3を用いた比較例2-1は、縮合反応が進行することに起因した経時での粘度増加および水溶性の低下が著しいことが明らかとなった。このような材料は、製造直後のみ取り扱い可能であり、実用に適さない品質であるといえる。
これに対して、実施例1-1および1-2で得られたオルガノポリシロキサンEp1およびEp2は、25℃において同様の経時変化挙動がみられるものの、その程度は小さく、5℃での保管においては殆ど変化を示さないことが明らかである。
【0057】
[3]プライマー組成物の製造および評価
[実施例3-1、3-2、比較例3-1~3-5]
下記表2記載のプライマー成分をイオン交換水で固形分30%に希釈調製した組成物をミガキ鋼板に拭き塗りし、25℃、50%RHの環境下で30分間乾燥させた。
その後、水性塗料用樹脂BURNOCK WD-551(DIC(株)製)を100部、イソシアネート系硬化剤BURNOCK DNW-5500(DIC(株)製)を30部混合し、水で希釈した水性ウレタン塗料をバーコーターNo.14で塗布し、25℃、50%RHの環境下で3日間静置したのち、80℃×4時間の条件で硬化させた。
【0058】
上記で得られた塗膜に関して下記の評価を行った。結果を表2に示す。
(1)塗膜外観
塗膜を目視で観察し、異常の有無を判定した。
○ : 異常なし
△ : 着色あり
× : 異物、ムラ、白化の異常あり
(2)初期密着性
JIS K5600に準じ、カミソリ刃を用いて塗膜に2mm間隔で縦、横6本
ずつ切れ目を入れて25個の碁盤目を作製し、セロテープ(登録商標、ニチバン
(株)製)をよく付着させた後、90°手前方向に急激に剥がしたとき、塗膜が
剥離せずに残存したマス目数(X)を、X/25で表示した。
(3)煮沸密着性
評価サンプルを、沸騰水に10時間浸漬した後の密着性を、上記初期密着性と同
様に評価した。
(4)鉛筆硬度
JIS K5600-5-4記載の鉛筆引掻き試験に準じた方法で750gの荷
重をかけて測定した。
【0059】
【表2】


KBM403:3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
KBE903:3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製)
MP200:3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランの加水分解縮合物(Momentive Performance Materials社製、CoatOSil MP200シラン)
Eg-Pr:特開2017-114852号公報の実施例4に記載の[3-(2,3-ジヒドロキシプロパ-1-オキシ)プロピル]シラノールオリゴマー含有組成物
【0060】
表2に示されるように、実施例1-1および1-2で得られたオルガノポリシロキサンEp1およびEp2をプライマー成分に用いた実施例3-1および3-2では、ウレタン塗料の塗膜外観、密着性、硬度に優れることが示された。この結果は、本発明のオルガノポリシロキサンは、環境負荷の少ない水性塗料の密着寄与成分として有用であり、プライマーに限らず、塗料内添型の密着向上剤としての応用の可能性を示すものである。
一方、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランおよびその加水分解縮合物をプライマー成分に用いた比較例3-1および比較例3-3では、密着性が不足する結果となった。
比較例3-2は、ウレタン塗料との反応性が高いアミノ基を有するプライマー成分であり、結果として良好な密着性向上を示したものの、反応性が高すぎる傾向がみられ、ウレタン塗料の塗工性が著しく悪化し、塗膜の外観を損なう結果となった。
比較例3-4は、エチレングリコール構造基とウレタン塗料との反応性が十分でないためか、密着性に劣る結果であった。
図1