(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-20
(45)【発行日】2025-10-28
(54)【発明の名称】分注装置及び自動分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/10 20060101AFI20251021BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20251021BHJP
【FI】
G01N35/10 C
G01N35/00 F
(21)【出願番号】P 2024505958
(86)(22)【出願日】2023-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2023004090
(87)【国際公開番号】W WO2023171209
(87)【国際公開日】2023-09-14
【審査請求日】2024-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2022036941
(32)【優先日】2022-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】篠田 智和
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健一
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-27480(JP,A)
【文献】特開2011-13005(JP,A)
【文献】特開2011-153944(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188599(WO,A1)
【文献】特開2010-217039(JP,A)
【文献】特開2012-42225(JP,A)
【文献】特開2013-84106(JP,A)
【文献】特開2009-174876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を分注するプローブを備えた分注機構と、
前記プローブの先端と基準電位面との間の静電容量を測定して静電容量信号を出力する液面センサを備える検知部と、
前記静電容量信号の時間波形の変化に基づいて前記プローブの状態を判定する信号処理部とを有し、
前記信号処理部は、前記プローブの交換直後における前記分注機構の分注動作中の前記静電容量信号の時間波形を基準静電容量信号波形として記憶しており、
前記信号処理部は、前記分注機構の分注動作中の前記静電容量信号の時間波形の前記基準静電容量信号波形からの変化を表す波形変化指標に基づいて前記プローブの状態を判定する分注装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記信号処理部は、前記プローブの交換直後における前記分注機構の分注動作中の所定区間における前記基準静電容量信号波形の面積を基準面積として記憶しており、
前記分注機構の分注動作中の前記静電容量信号の時間波形の前記所定区間における面積の前記基準面積に対する面積比を波形変化指標とする分注装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記所定区間は、前記プローブの前記液体の吸引開始から前記プローブの洗浄終了までの区間とされる分注装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記信号処理部は、前記分注機構の分注動作中の前記静電容量信号の時間波形に含まれるスパイクを検出する分注装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記分注機構は、LEDランプを備え、
前記信号処理部は、判定した前記プローブの状態に応じて前記LEDランプを発光させる分注装置。
【請求項7】
請求項1記載の分注装置を試料または試薬の分注に用いる自動分析装置であって、
前記波形変化指標の値に応じたメンテナンス対応を使用者に推奨する自動分析装置。
【請求項8】
請求項7において、
表示装置を有し、
前記表示装置に、前記メンテナンス対応を使用者に推奨する前記波形変化指標の値の範囲を設定する設定画面を表示する自動分析装置。
【請求項9】
請求項7において、
前記波形変化指標の値が所定の閾値を超えている場合に、当該分注動作によって前記液体を分注した測定について、再測定を行う自動分析装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記再測定における前記分注機構の分注動作による前記波形変化指標の値が前記所定の閾値を超えている場合には、再度の再測定を行うことなく、使用者にアラームを出力する自動分析装置。
【請求項11】
請求項7において、
前記波形変化指標の値が所定の閾値を超えており、前記分注機構の分注動作中の前記静電容量信号の時間波形にスパイクが含まれている場合に、当該分注動作によって前記液体を分注した測定について、再測定を行う自動分析装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記再測定における前記分注機構の分注動作による前記波形変化指標の値が前記所定の閾値を超えており、前記再測定における前記分注機構の分注動作中の前記静電容量信号の時間波形にスパイクが含まれている場合には、再度の再測定を行うことなく、使用者にアラームを出力する自動分析装置。
【請求項13】
請求項7において、
表示装置を有し、
前記表示装置に、日内時系列管理図を表示し、
前記日内時系列管理図は、横軸を当日の前記分注装置の稼働時間、縦軸を前記波形変化指標の値とし、前記分注装置の前記稼働時間における前記波形変化指標の値がプロットされている自動分析装置。
【請求項14】
請求項7において、
表示装置を有し、
前記表示装置に、日間時系列管理図を表示し、
前記日間時系列管理図には、横軸を前記分注装置のプローブ交換からの経過日数、縦軸を前記波形変化指標の値とし、前記分注装置の前記経過日数における1日の前記波形変化指標の値の平均値がプロットされている自動分析装置。
【請求項15】
請求項7において、
表示装置を有し、
前記信号処理部は、前記プローブのメンテナンス後の前記分注機構の分注動作による前記波形変化指標に基づいて前記プローブの状態を判定し、
前記表示装置は、前記信号処理部による判定結果を表示する自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分注装置及び分注装置を備える自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置において、例えば、生化学自動分析装置では、生体試料などの成分分析を行うために、被検試料と試薬とを反応させ、それによって生じる色調や濁りの変化を、分光光度計等の測光ユニットで光学的に測定する。被検試料の液面を検出する手段としては、プローブが液面に触れたときの静電容量の変化を検知する静電容量変化方式が最も一般的に用いられている。しかし、このような液面センサを用いる場合、プローブの先端に汚れが付着している場合やプローブに傷などがある場合は、正確に液面を検知できないことがある。この際、サンプルの持帰りや空吸いなど、正確なサンプリングができず分注異常が発生する。
【0003】
特許文献1は、キャリーオーバの抑制のため、プローブ表面にフッ素含有ダイアモンドカーボン層を形成することを開示する。何らかの衝撃や接触でプローブの表面処理層に割れや傷が発生すると、金属ノズルが空気と直接触れることになるため、静電容量が大幅に変化することから、プローブ異常を検知できる。表面処理層に割れや傷が生じたプローブではキャリーオーバが発生するおそれがあることから、異常が検知されたときに分析したサンプルを記憶し、プローブ交換後に分析データを再取得することを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で検知するプローブ異常は、プローブの表面処理層の異常である。しかしながら、分注異常は汚れの付着やより微細な傷、あるいは劣化等によっても引き起こされる。また、特許文献1では発生したプローブの異常を検知するものであるが、プローブの劣化や異常を早期の段階で検知してメンテナンスが行えるようにして、再検査が必要になるようなデータ異常を未然に抑止することが望まれる。
【0006】
本発明は、プローブの異常の発生前に劣化等のプローブの変化を検知可能な分注装置及びそれを用いた自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施の態様である分注装置は、液体を分注するプローブを備えた分注機構と、プローブの先端と基準電位面との間の静電容量を測定して静電容量信号を出力する液面センサを備える検知部と、静電容量信号の時間波形の変化に基づいてプローブの状態を判定する信号処理部とを有する。
【発明の効果】
【0008】
分注異常の発生を未然に抑制する分注装置または自動分析装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】分注装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図1B】液面センサが検出する静電容量信号を説明するための図である。
【
図2A】静電容量信号Cs及びプローブ動作判定信号Sの時間波形である。
【
図2B】静電容量信号Cs及びプローブ動作判定信号Sの時間波形である。
【
図2C】静電容量信号Cs及びプローブ動作判定信号Sの時間波形である。
【
図2D】静電容量信号Cs及びプローブ動作判定信号Sの時間波形である。
【
図3】基準静電容量信号SCsを取得するフローチャートである。
【
図5】使用中プローブの状態判定を行うフローチャートである。
【
図6】使用中プローブの状態判定を行うフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図10は生化学分析を行う自動分析装置100の概略図である。分析対象の血液や尿などの生体試料(以下、単に試料と称する)は試料容器15に収容される。1つ以上の試料容器15が試料ラック16に搭載され、試料搬送機構17によって搬送される。試料の分析に用いる試薬は試薬ボトル10に収容され、複数の試薬ボトル10が試薬ディスク9に周方向に並べて配置されている。試料と試薬とは反応容器2内で混合して反応させられる。複数の反応容器2が反応ディスク1の周方向に並べて配置されている。試料は、試料搬送機構17により試料分注位置に搬送された試料容器15から、第1または第2の試料分注機構11,12により、反応容器2に試料を分注する。一方、試薬は試薬ボトル10から、試薬分注機構7,8により、反応容器2に試薬を分注する。反応容器2に分注された試料と試薬の混合液(反応液)は、攪拌機構5,6によって攪拌され、分光光度計4により、図示しない光源から反応容器2の反応液を介して得られる透過光を測定することにより、反応液の吸光度が測定される。自動分析装置100における分析処理として、分光光度計4が測定した混合液(反応液)の吸光度から試薬に応じた分析項目の所定成分の濃度等などが算出される。測定済みの反応容器2は洗浄機構3により洗浄される。
【0011】
第1(第2)の試料分注機構11(12)は、その先端を下方に向けて配置された試料プローブ11a(12a)を有しており、試料プローブ11a(12a)には、試料用ポンプ19が接続されている。第1(第2)の試料分注機構11(12)は、水平方向への回転動作及び上下動作が可能なように構成されており、試料プローブ11a(12a)を試料容器15に挿入して試料を吸引し、試料プローブ11a(12a)を反応容器2に挿入して試料を吐出することにより、試料容器15からから反応容器2への試料の分注を行う。第1(第2)の試料分注機構11(12)の稼動範囲には、試料プローブ11a(12a)を洗浄液により洗浄する超音波洗浄器23(24)が配置されている。洗浄液として水以外を用いた場合に、水により洗浄に用いた洗浄液を取り除くため、試料プローブ11a(12a)を洗浄する洗浄槽13(14)が配置されている。
【0012】
試薬分注機構7,8は、その先端を下方に向けて配置された試薬プローブ7a,8aを有しており、試薬プローブ7a,8aには、試薬用ポンプ18が接続されている。試薬分注機構7,8は、水平方向への回転動作及び上下動作が可能なように構成されており、試薬プローブ7a,8aを試薬ボトル10に挿入して試薬を吸引し、試薬プローブ7a,8aを反応容器2に挿入して試薬を吐出することにより、試薬ボトル10からから反応容器2への試薬の分注を行う。試薬分注機構7,8の稼動範囲には、試薬プローブ7a,8aを洗浄液により洗浄する洗浄槽32,33が配置されている。
【0013】
攪拌機構5,6は、水平方向への回転動作及び上下動作が可能なように構成されており、反応容器2に挿入することにより試料と試薬の混合液(反応液)の攪拌を行う。攪拌機構5,6の稼動範囲には、攪拌機構5,6を洗浄液により洗浄する洗浄槽30,31が配置されている。また、洗浄機構3には、洗浄用ポンプ20が接続されている。
【0014】
これら自動分析装置100の全体の動作は制御装置21により制御される。また、制御装置21には入出力装置22が接続されている。入出力装置22は、使用者の指示を入力するためのキーボードやボタン等の入力部、使用者に自動分析装置の稼働状態や指示を入力するためのGUIを表示するための表示部を含んでいる。なお、
図1においては、図示の簡単のため、自動分析装置100を構成する各機構と制御装置21との接続を一部省略して示している。
【0015】
図1Aは、本実施例の分注装置の概略構成を示すブロック図である。分注機構101は、
図8に示した試料分注機構11,12や試薬分注機構7,8に相当する。分注装置は、分注機構101、検知部102、信号処理部103を備える。検知部102は、プローブ101pの状態をモニタするためのセンサを含み、容器101vに収容された液体101sの液面を検知する液面センサ、プローブ101p内の圧力を検知する圧力センサなどを含んでいる。ここでは、液面センサは静電容量式液面検知を行うものとする。この場合、液面センサは
図1Bに示すように、プローブ101p先端とアース(基準電位面)と間の静電容量Csを測定する。静電容量Csは、プローブ101p先端と液体101sとの間の静電容量C1と液体101sとアースとの間の静電容量C2との合成容量となっている。プローブ101p先端が液体101sに接触した後は、静電容量Cs=C2となるため、この変化からプローブ101pと液体101sの液面との接触を検知することができる。圧力センサは、プローブ101p内の圧力Pを検出する。プローブ101pが実行する吸引動作、あるいは吐出動作に応じてプローブ内の圧力が変化する。したがって、検知部102からのセンシング情報に基づき、プローブ動作が正常に実行されているかについての情報が得られる。
【0016】
信号処理部103は、例えば、マイクロプロセッサやメモリを搭載する信号処理モジュールとして実装される。信号処理部103の制御部104は、検知部102からの液面センサの出力である静電容量信号Cs及び圧力センサの出力である圧力信号Pに基づき、プローブ動作を制御するとともに、プローブ動作をモニタし、プローブ動作状況を示すプローブ動作判定信号Sを装置の制御装置21に出力する。
【0017】
本実施例においては、検出方法の詳細は後述するが、プローブの状態を信号処理部103において、液面センサからの検知信号Csに基づき検出する。このため、信号処理部103は、演算部105、記憶部106、判定部107を備えている。演算部105は例えば静電容量信号Csの面積に基づく波形変化指標を算出し、記憶部106は、静電容量信号Csの面積や演算部105の演算結果を記憶し、判定部107は波形変化指標に基づきプローブの状態を判定する。詳細については後述する。
【0018】
図2Aの上段に、液面センサの出力である静電容量信号Csの時間波形、下段に信号処理部103の制御部104が出力するプローブ動作判定信号Sの時間波形を示す。
図2Aのプローブは、例えば交換直後の正常なプローブを動作させたときの信号波形である。プローブ動作判定信号Sは、実質的に二値化され、プローブが吸引動作を行う吸引区間201及びプローブが吐出動作を行う吐出区間202がハイレベルの信号、それ以外の区間がローレベルの信号として出力される。このように、従来、信号処理部103から装置の制御装置21に入力されているプローブ動作判定信号Sは実質的に二値化されているが、静電容量信号Csと比較すると、静電容量信号Csにはより多くの情報が含まれていることが分かる。例えば、プローブが分注機構により移動させられている移動区間203、プローブが洗浄されている洗浄区間204では、いずれもプローブ動作判定信号Sはローレベルの信号で変化がないが、静電容量信号Csには異なる値が出力されている。また、吸引区間201と吐出区間202とでプローブ動作判定信号Sの値は等しい(ハイレベル)が、吸引区間201の静電容量信号Csと吐出区間202の静電容量信号Csとでは異なる値が出力されている。
【0019】
発明者らは、プローブ動作判定信号Sの生成過程で捨象される、このような静電容量信号Csの情報を用いて、プローブの状態が判定できることを見出した。例えば、プローブとアース間の静電容量を示す静電容量信号Csは、プローブ交換直後と継続使用後では、継続使用後のプローブの方が汚れや傷、経年劣化などから、プローブ交換直後のプローブと比べて信号波形が変化する。
図2Aに示されるように静電容量信号Csは、少しの電圧変化を連続的に検出しているので、実動作中のプローブの状態をリアルタイムに把握することが可能になる。
【0020】
図2Bには、プローブに途中で汚れが付着した場合の静電容量信号Csの時間波形(上段)、プローブ動作判定信号Sの時間波形(下段)を示している。吸引区間211ではプローブは汚れが付着していない状態で吸引動作が行われ、吸引区間212ではプローブに汚れが付着した状態で吸引動作が行われている。この場合、汚れの付着によってプローブ動作判定信号Sには変化がないのに対し、吸引区間212の静電容量信号Csの振幅は、吸引区間211の静電容量信号Csの振幅に対して低下していることがみてとれる。
【0021】
図2Cには、プローブに傷がついた場合の静電容量信号Csの時間波形(上段)、プローブ動作判定信号Sの時間波形(下段)を示している。この場合、静電容量信号Csには傷に起因する三角形状のノイズ波形233が繰り返し表れていることが分かる。このようなノイズ波形の影響は必ずしもプローブ動作判定信号Sにあらわれるわけではない。例えば、ノイズ波形234は本来プローブの吐出動作を示す静電容量信号Csの波形に重畳されることによってプローブ動作判定信号Sには吐出区間232を示すハイレベルの信号が出力されていない。自動分析装置の動作シーケンスにより、分注機構が分注動作を行う動作タイミングは決められている。このため、自動分析装置の制御装置21は、プローブ動作判定信号Sから吐出動作が適切に行われなかったと判定し、分注エラーの警告を行うことになる。しかし、
図2Cにおいてこれ以外の区間では、プローブ動作判定信号Sから吸引区間231、吐出区間232を示すハイレベルの信号が出力されているので、制御装置21が分注エラーの警告を行うことはない。
【0022】
このように、静電容量信号Csの時間波形からはプローブ動作判定信号Sには必ずしも表れないプローブの異常、あるいはその予兆を早期に発見できる可能性がある。ノイズ波形の存在に限られず、
図2Aの静電容量信号Csの時間波形と比較すると、吸引区間231の静電容量信号Csの振幅が低下していることもみてとれる。
【0023】
図2Dも、プローブに傷がついた場合の静電容量信号Csの時間波形(上段)、プローブ動作判定信号Sの時間波形(下段)の例である。この例では、静電容量信号Csの時間波形にスパイク241が表れていることが分かる。スパイク241の発生タイミングは、分注機構によりプローブが移動させられている途中のタイミングであるため、傷面に静電気などの環境因子が影響していると考えられる。スパイク241は、プローブ動作判定信号Sには表れないが、プローブに傷がついていることを示す指標となる。
【0024】
このように、静電容量信号Csの時間波形はプローブの状態に応じて変動するため、この変動を捉えることで、実動作中のプローブの状態をリアルタイムに捕捉することが可能になる。
【0025】
図3は基準静電容量信号SCsを取得するフローチャートである。基準静電容量信号SCsは、プローブ交換直後の静電容量信号Csとする。プローブの交換(S01)後、自動分析装置は分注動作を開始し、信号処理部103の制御部104は、検知部102の液面センサから出力される静電容量信号Csの記録を開始する。
【0026】
信号処理部103の制御部104は、プローブによる液体の吸引(S03)から、液体の吐出(S04)後のプローブ洗浄までの一定区間の静電容量信号Csの時間波形を記録し、演算部105は、静電容量信号Csの時間波形の面積を計算する(S05)。制御部104は、記録した静電容量信号Csの時間波形とその面積を、基準静電容量信号SCsの時間波形とその面積(基準面積)として記憶部106に記憶する(S06)。基準静電容量信号SCsの時間波形と基準面積は、次回のプローブ交換時に同じ手順で更新される。
【0027】
本実施例では、液体の分注から洗浄までの一定区間における、プローブ交換直後の静電容量信号Cs(基準静電容量信号SCs)と、使用中プローブの静電容量信号Csとの波形の変化に基づいてプローブの状態を判定する。
【0028】
一定区間(a≦t≦b、t:時間)は、
図2Aに示すように、a:液体の吸引開始時、b:プローブ洗浄終了時までとし、この場合、静電容量信号Csの大きさをf(t)(f(t)≧0,a≦t≦b)とすると、静電容量信号Csの波形面積WAは(数1)により求めることができる。
【0029】
【0030】
ここで、(数2)に示す使用中プローブの静電容量信号Csの波形面積WA2の基準静電容量信号SCsの波形面積WA1(基準面積)に対する面積比AR(%)を、波形の変化の指標とすることができる。面積比AR(%)は信号処理部103の演算部105が算出する。
【0031】
【0032】
信号処理部103の判定部107では面積比AR(%)に基づき、プローブの状態判定を行う。
【0033】
以上説明した波形の変化の指標によりプローブの状態判定を行う例を以下に説明するが、静電容量信号Csの波形の変化の指標の算出方法は上記に限定されるものではない。例えば、静電容量信号Csの波形を記憶する一定区間の範囲も上記の例に限られない。静電容量信号Csはリアルタイムに連続して信号処理部103に入力されている。このため、上記した一定区間以外の任意の区間を設定して状態判定を行ってもよい。また、波形の変化の指標は、面積比に限られず、例えば、波形面積WA2と波形面積WA1(基準面積)との差とすることも可能である。また、波形の変化を面積ではなく、プローブが液体を吸引し吐出するまでの波形のピークや、一定区間の波形の平均値を用いて把握してもよい。単一の指標で判断するのではなく、複数の指標を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
プローブの状態の程度に応じて適切なメンテナンスを行うことで、検査効率を向上させることができる。そこで、波形の変化の指標に基づくプローブの状態判定基準を判定部107にあらかじめ設定しておく。
図4にプローブの状態に応じて自動分析装置の表示部にアラームを表示するためのアラーム表示設定画面401を示す。プローブ選択部402により、プローブごとに状態判定基準を設定することができる。プローブ状態設定部403において、正常なプローブの面積比AR(%)=100からの乖離を元に、段階的にプローブの状態を設定する。例えば、使用可(±A%)404、清掃推奨(±B%)405、使用注意(±C%)406、交換推奨(±D%)407、警告(±E%)408に、それぞれ値を設定する。例えば、A<B<C<D<Eとなる値を設定し、正常値からの乖離の程度に応じたメンテナンス対応を使用者に推奨する。なお、以上の設定は、取消ボタン409により取り消したり、更新ボタン410により設定値を更新したりすることもできる。
【0035】
信号処理部103は、判定結果は自動分析装置の制御装置21に出力し、使用可、清掃推奨、使用注意、交換推奨、警告の表示を行ったり、使用注意、交換推奨、警告の場合にアラーム表示を行ったりできる。または、分注機構101のプローブヘッドカバーにLEDランプを取り付けて、信号処理部103は、プローブの状態判定に従って、LEDランプを点灯や点滅させることにより使用者へプローブの状態を通知してもよい。
【0036】
本実施例では、判定部107がプローブの状態判定を行うごとに取得する使用中プローブの静電容量信号Csとの波形と静電容量信号Csの波形面積WAは記憶部106に一時保存しておく。また、判定部107による指標の乖離の判定結果が使用注意(±C%)以上であれば、制御装置21は、プローブに異常が発生したと判断し、アラーム表示するとともに、自動再検を行い、液体の分注動作開始より再測定を行う。静電容量信号Csの異常値はプローブの異常のみならず、静電気や気泡などによる突発的な原因によっても生じ得る。このような場合には、再測定を行うと、2回目は正常な分注動作に戻ることが多い。このような例として、プローブの持ち帰りと呼ばれる現象がある。持ち帰り現象とは、液体吐出時に液体がプローブの外側へ回り込むことで容器に液体を点着することができず、プローブ外側に液体を付けたまま持ち帰ってしまう現象をいう。この場合、静電容量信号Csの波形に異常が生じるが、再測定時には、通常、正常な分注動作に戻る。
【0037】
図5に使用中プローブの状態判定を行うフローチャートを示す。測定が開始される(S11)と、信号処理部103の制御部104は、検知部102の液面センサから出力される静電容量信号Csの記録を開始する(S12)。使用中プローブの静電容量信号Csを記録する区間は、基準静電容量信号SCsを取得した一定区間と同一区間とされる。制御部104は、プローブによる液体の吸引(S13)から、液体の吐出(S14)後のプローブ洗浄までの一定区間の静電容量信号Csの時間波形を記録し、演算部105は、静電容量信号Csの時間波形の面積を計算する(S15)。制御部104は、記録した静電容量信号Csの時間波形とその面積を、使用中プローブの静電容量信号Csの時間波形とその面積として記憶部106に一時保存する(S16)。
【0038】
演算部105は、記憶部106に記憶されている基準静電容量信号SCsの波形面積WA1と使用中プローブの静電容量信号Csの波形面積WA2とを用いて波形変化指標、ここでは面積比AR(%)を算出する。判定部107は、面積比AR(%)が閾値を超えているかを判定する(S17)。閾値としては例えば、清掃推奨の設定値(±B%、
図4参照)を用いることができる。波形変化指標が閾値を超えていなければ(S17でNO)、制御部104は、取得した使用中プローブの波形変化指標の値を記憶部106に一時保存する(S21)。
【0039】
これに対して、波形変化指標が閾値を超えているならば(S17でYES)、自動分析装置の制御装置21は、再測定を行うか判断する(S18)。例えば、制御装置21は、波形変化指標が使用注意の設定値(±C%、
図4参照)を超えている場合に、再測定を行うと判断する。再測定を行わない場合は、制御部104は、取得した使用中プローブの波形変化指標の値を記憶部106に一時保存する(S21)。
【0040】
波形変化指標が再測定の閾値を超えている場合(S18でYES)、制御装置21は、使用中プローブで液体を再測定する。再測定は、1回目か、2回連続で再測定の閾値を超えたかで振り分けられる。1回目の再測定(S19でYES)では、静電容量信号Csの記録から開始する。2回連続で再測定の閾値を超えた場合(S19でNO)は、制御装置21は再測定を行わずに装置の表示部に警告のアラーム表示を行い、使用中プローブがサンプリングした検査項目に対して、「プローブの異常のため、測定未実施」のコメントを付与する(S20)。使用者は、使用中プローブの状態を自動分析装置の表示部で確認できる(S23)。
【0041】
演算部105は、記憶部106に一時保存された使用中プローブの波形変化指標の値から、使用中プローブについて、日内及び日間の時系列管理表を作成する(S22)。時系列管理表については後述する。時系列管理表も自動分析装置の表示部に表示することができ、使用者は使用中プローブの状態を確認することができる(S23)。なお、ステップS22とステップS23における時系列管理表の作成は、信号処理部103から制御装置21に波形変化指標の値を転送し、制御装置21にて実施するようにしてもよい。時系列管理表の作成はリアルタイム性が低いので、これにより、信号処理部103の処理負荷が低減される。
【0042】
図6に、
図2Dに示したスパイクのような波形異常から使用中プローブの状態判定を行うフローチャートを示す。
図5のフローチャートにおける同じ処理を行うステップについては、同じ符号を付して重複する説明は省略する。
【0043】
波形変化指標が閾値を超えている場合(S17でYES)、自動分析装置の制御装置21は、再測定を行うか判断する(S18)。例えば、制御装置21は、波形変化指標が使用注意の設定値(±C%、
図4参照)を超えている場合に、再測定を行うと判断する。再測定を行わない場合は、制御部104は、取得した使用中プローブの波形変化指標の値を記憶部106に一時保存する(S21)。
【0044】
波形変化指標が再測定の閾値を超えている場合(S18でYES)、判定部107は静電容量信号Csの波形にスパイクのような異常な波形がみられるかどうかを判定する(S31)。異常波形がみられる場合(S31でYES)、制御装置21は、使用中プローブで液体を再測定する。
図5のフローチャートと同様に、再測定の実施は1回とし、2回連続で異常波形が検出された場合(S19でNO)は、制御装置21は再測定を行わずに装置の表示部に「○○プローブにスパイク発生」といったコメントともに警告のアラーム表示を行う(S32)。使用者は、使用中プローブの状態を自動分析装置の表示部で確認し(S23)、プローブのメンテナンスまたは交換を実施する。
【0045】
図7に自動分析装置の表示部に表示される日内時系列管理図の表示画面例を示す。日内時系列管理図は
図5または
図6のフローチャートのステップS21において記憶部106に保存された使用中プローブの波形変化指標を用いて作成される。日内時系列管理図は、ステップS21の実行ごとに更新されるとよい。
【0046】
表示画面701は、プローブ選択部702、前回交換日表示部703及び日内時系列管理図表示部704を含む。プローブ選択部702で選択されたプローブについての前回交換日と日内時系列管理図がそれぞれ表示部703、704に表示される。
【0047】
日内時系列管理図は、横軸に電源ONから電源OFFまでの分注装置の稼働時間をとり、縦軸に波形変化指標(ここでは、面積比AR(%))をとり、ステップS21の実行ごとに、当日の当該稼働時間での波形変化指標の値がプロットされる。なお、24時間稼働の自動分析装置の場合、24時間を超えた時点で新しい日内時系列管理を作成するようにするとよい。
【0048】
また、日内時系列管理図には、アラーム表示設定画面401で設定した数値(%)が表記される。プローブの時系列管理(日内)では、アラーム表示設定画面401(
図4参照)で設定したアラーム設定705が表示される。一般に、使用中プローブが劣化すると、新品プローブよりも静電容量信号Csの波形の振幅が減少し、面積比AR(%)が低下する。これに対して、汚れや傷などの異常が起こると
図2Cに示したような静電容量信号Csのノイズ波形により面積比AR(%)が増大する場合もある。このため、使用プローブの異常により、面積比AR(%)は理想値である100%から乖離する。
【0049】
このように、日内時系列管理図には、選択したプローブの1日分の分注項目数がプロットされることにより、使用中プローブの状態管理ができる。検査終了時に日内時系列管理図のプロットが複数乱れていれば、何らかの異常が使用中プローブに起こっていることを示唆する。日内時系列管理図にプロットされたマーカーを選択したとき、信号処理部103の記憶部106に記憶された静電容量信号Csの時間波形とその面積を表示できるようにするとよい。使用者は、これらの情報から、液体の持ち帰りや空吸いの発生、スパイクなどの異常を推定、予測できる。
【0050】
図8に自動分析装置の表示部に表示される日間時系列管理図の表示画面例を示す。日間時系列管理図は
図5または
図6のフローチャートのステップS21において記憶部106に保存された使用中プローブの波形変化指標を用いて作成される。日間時系列管理図では、1日分の波形変化指標の平均値がプロットされる。
【0051】
表示画面801は、プローブ選択部802、前回交換日表示部803及び日間時系列管理図表示部804を含む。プローブ選択部802で選択されたプローブについての前回交換日と日間時系列管理図がそれぞれ表示部803、804に表示される。さらに、選択したプローブの交換後経過日数806と前回清掃後経過日数807が情報として表示される。
【0052】
図8に示す日内時系列管理図では、横軸にプローブ交換からの経過日数を表示し、縦軸に波形変化指標(ここでは、面積比AR(%))をとり、1日の波形変化指標の値の平均値がプロットされる。また、アラーム表示設定画面401で清掃推奨として設定した数値805が表記される。使用者は、これらの情報から使用中プローブの汚れの付着や傷、経年劣化などを察知することができ、メンテナンスのタイミングを検討することができる。
【0053】
ここでは、波形変化指標をグラフ化して画面表示する例を示したが、波形変化指標の値を説明変数とするモデルを作成して使用中プローブの交換推奨時期を予測するようにしてもよい。
【0054】
また、使用者は、波形変化指標を用いて、メンテナンス後のプローブ状態を客観的に評価することができる。
図9にプローブ状態評価画面901の例を示す。
【0055】
プローブ選択部902にてメンテナンスを実施したプローブを選択し、テスト実行ボタン904を押下すると、自動分析装置はダミー検体やシステム水を用いて、分注機構101のテストを行い、信号処理部103が算出した波形変化指標(ここでは、面積比AR(%))と判定結果がそれぞれ評価値表示部903、判定表示部905に表示される。ここでは、90%以上を合格として判定する例を示している。このとき、結果確認ボタン906を押下すると、信号処理部103の記憶部106に記憶された静電容量信号Csの時間波形とその面積を表示できる。
【符号の説明】
【0056】
1:反応ディスク、2:反応容器、3:洗浄機構、4:分光光度計、5,6:攪拌機構、7,8:試薬分注機構、7a,8a:試薬プローブ、9:試薬ディスク、10:試薬ボトル、11,12:試料分注機構、11a,12a:試料プローブ、13,14,30,31,32,33:洗浄槽、15:試料容器、16:試料ラック、17:試料搬送機構、18:試薬用ポンプ、19:試料用ポンプ、20:洗浄用ポンプ、21:制御装置、22:入出力装置、23,24:超音波洗浄器、100:自動分析装置、101:分注機構、101p:プローブ、101v:容器、101s:液体、102:検知部、103:信号処理部、104:制御部、105:演算部、106:記憶部、107:判定部、201,211,231:吸引区間、202,232:吐出区間、203:移動区間、204:洗浄区間、233,234:ノイズ波形、241:スパイク、401:アラーム表示設定画面、402:プローブ選択部、403:プローブ状態設定部、404:使用可、405:清掃推奨、406:使用注意、407:交換推奨、408:警告、409:取消ボタン、410:更新ボタン、701:表示画面、702:プローブ選択部、703:前回交換日表示部、704:日内時系列管理図表示部、705:アラーム設定、801:表示画面、802:プローブ選択部、803:前回交換日表示部、804:日間時系列管理図表示部、805:清掃推奨設定数値、806:交換後経過日数、807:前回清掃後経過日数、901:プローブ状態評価画面、902:プローブ選択部、903:評価値表示部、904:テスト実行ボタン、905:判定表示部、906:結果確認ボタン。