(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-10-23
(45)【発行日】2025-10-31
(54)【発明の名称】試料表面品質管理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20251024BHJP
G01B 11/30 20060101ALI20251024BHJP
【FI】
H01L21/66 J
G01B11/30 102G
(21)【出願番号】P 2024540167
(86)(22)【出願日】2022-08-10
(86)【国際出願番号】 JP2022030592
(87)【国際公開番号】W WO2024034067
(87)【国際公開日】2024-02-15
【審査請求日】2024-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】石塚 将斗
(72)【発明者】
【氏名】本田 敏文
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 竜志
(72)【発明者】
【氏名】大坪 建士郎
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/115586(WO,A1)
【文献】特開2006-278972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のマイクロラフネスを測定する試料表面品質管理装置において、
前記試料を保持し試料表面方向に前記試料を移動させるステージ装置と、
前記試料で発生した散乱光を測定する散乱光測定装置と、
前記試料で発生した反射光を含む干渉光を測定する干渉光測定装置と、
前記散乱光測定装置及び前記干渉光測定装置の信号を処理する信号処理装置とを備え、
前記信号処理装置は、
前記干渉光測定装置の信号に基づき前記試料のマイクロラフネスの第1評価値を演算し、
前記散乱光測定装置の信号に基づき散乱特性信号を演算し、
前記第1評価値が演算されない空間周波数帯域について、前記第1評価値及び前記散乱特性信号に基づき前記マイクロラフネスの第2評価値を演算する
試料表面品質管理装置。
【請求項2】
請求項1の試料表面品質管理装置において、
前記散乱特性信号がヘイズ値であり、
前記第1評価値がPSDデータである
試料表面品質管理装置。
【請求項3】
請求項1の試料表面品質管理装置において、
前記ステージ装置は、前記試料の全面が走査されるように前記試料を移動させる試料表面品質管理装置。
【請求項4】
請求項1の試料表面品質管理装置において、
前記散乱特性信号から演算される前記第2評価値に係る空間周波数帯域の上限値が、前記干渉光測定装置の信号から演算される前記第1評価値に係る空間周波数帯域の上限値より高い試料表面品質管理装置。
【請求項5】
請求項1の試料表面品質管理装置において、
前記第1評価値は、微分干渉コントラスト法により演算される試料表面品質管理装置。
【請求項6】
請求項1の試料表面品質管理装置において、
前記干渉光測定装置は、光源から出射された光を所定のシア量の2つの直線偏光に分離して前記試料に照射し、前記試料で発生した干渉光の干渉強度を測定し、
前記信号処理装置は、前記干渉光測定装置の光学解像度よりも大きなシア量の干渉光に係る信号、及び前記光学解像度より小さなシア量の干渉光に係る信号に基づき、前記第1評価値を演算する
試料表面品質管理装置。
【請求項7】
請求項1の試料表面品質管理装置において、
前記信号処理装置は、同一試料の同一領域に係る前記第1評価値及び前記散乱特性信号に基づき、前記第2評価値を演算する試料表面品質管理装置。
【請求項8】
請求項1の試料表面品質管理装置において、
前記信号処理装置は、同時に発生する前記干渉光及び前記散乱光の検出信号に基づき前記第1評価値及び前記第2評価値を演算する試料表面品質管理装置。
【請求項9】
請求項1の試料表面品質管理装置であって、
前記信号処理装置は、
所定空間周波数帯域で一定値をとる前記マイクロラフネスに係るモデル関数について前記第1評価値に基づき前記一定値を演算し、
前記一定値と前記所定空間周波数帯域の前記散乱特性信号とを基に、前記散乱特性信号を前記マイクロラフネスの評価値に換算する較正係数を演算し、
前記較正係数を用いて前記散乱特性信号を前記第2評価値に換算する
試料表面品質管理装置。
【請求項10】
請求項1の試料表面品質管理装置であって、
前記第1評価値に係る空間周波数帯域と、前記散乱特性信号に係る空間周波数帯域とが所定帯域で重なっており、
前記信号処理装置は、
前記所定帯域の前記散乱特性信号及び前記第1評価値を基に、前記散乱特性信号を前記マイクロラフネスの評価値に換算する較正係数を演算し、
前記較正係数を用いて前記散乱特性信号を前記第2評価値に換算する
試料表面品質管理装置。
【請求項11】
請求項1の試料表面品質管理装置において、
前記信号処理装置は、前記散乱特性信号のうち前記第1評価値と空間方向が対応する信号に基づき前記第2評価値を演算する試料表面品質管理装置。
【請求項12】
請求項11の試料表面品質管理装置において、
前記信号処理装置は、前記散乱特性信号のうち前記第1評価値と空間方向が異なる信号を予め設定された補正係数によって補正し、前記第2評価値の演算の基礎に含める試料表面品質管理装置。
【請求項13】
請求項11の試料表面品質管理装置において、
前記信号処理装置は、前記散乱特性信号のうち前記第1評価値と空間方向が異なる信号を、前記第1評価値と空間方向と対応する信号と同様に前記第2評価値の演算の基礎に含める試料表面品質管理装置。
【請求項14】
請求項11の試料表面品質管理装置において、
前記信号処理装置は、前記散乱特性信号のうち前記第1評価値と空間方向が異なる信号を、前記第2評価値の演算の基礎から除外する試料表面品質管理装置。
【請求項15】
請求項1の試料表面品質管理装置において、
前記第1評価値及び第2評価値を表示する表示装置を備えた試料表面品質管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス製造工程等でウエハ等の試料のマイクロラフネスを測定し試料表面の品質を管理する試料表面品質管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの高集積化に伴い、シリコンウエハの更なる高品質化が要求されている。ウエハの品質に関する1つの要素として、デバイスの電気特性に影響する表面粗さについては、ウエハ製造工程のインライン検査で試料の全数を全面検査することが重要である。試料のマイクロラフネス、言い換えれば試料表面の微視的な平坦度は、一般にAFM(原子間力顕微鏡)で測定される。しかし、AFMは測定に時間を要するため、インライン検査に導入することは難しい。
【0003】
インライン検査でマイクロラフネスを測定する技術としては、試料表面の異物検査に用いられる散乱光測定装置で測定されるヘイズ値がマイクロラフネスと相関することを利用し、ヘイズ値を基にマイクロラフネスを測定する技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ヘイズ値は、試料の材質、検査装置の光学系の状態や機差等の諸条件によって変化するため、定量的にマイクロラフネスを評価することには課題がある。それに対し、特許文献1に開示された技術では、事前に得たAFMによる測定結果と比較してヘイズ値を較正する。この場合、ヘイズ値に影響する試料の材質等の条件が変わると、その度にAFMで事前測定を行って較正作業をする必要があり工数が増加する。
【0006】
本発明の目的は、試料表面のマイクロラフネスを高速に全面測定することができる試料表面品質管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、試料のマイクロラフネスを測定する試料表面品質管理装置において、前記試料を保持し試料表面方向に前記試料を移動させるステージ装置と、前記試料で発生した散乱光を測定する散乱光測定装置と、前記試料で発生した反射光を含む干渉光を測定する干渉光測定装置と、前記散乱光測定装置及び前記干渉光測定装置の信号を処理する信号処理装置とを備え、前記信号処理装置は、前記干渉光測定装置の信号に基づき前記試料のマイクロラフネスの第1評価値を演算し、前記散乱光測定装置の信号に基づき散乱特性信号を演算し、前記第1評価値が演算されない空間周波数帯域について、前記第1評価値及び前記散乱特性信号に基づき前記マイクロラフネスの第2評価値を演算する試料表面品質管理装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、試料表面のマイクロラフネスを高速に全面測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る試料表面品質管理装置の模式図
【
図2】本発明の第1実施形態に係る試料表面品質管理装置における試料の走査軌道の一例を示す図
【
図3】本発明の第1実施形態に係る試料表面品質管理装置に備えられた散乱光強度測定系の一構成例を示す模式図
【
図4】本発明の第1実施形態に係る試料表面品質管理装置に備えられた散乱光強度測定系とビームスポットの位置関係を表す模式図
【
図5】本発明の第1実施形態に係る試料表面品質管理装置に備えられた散乱光強度測定系の出力信号(散乱光信号)の例を表す図
【
図6】本発明の第1実施形態に係る試料表面品質管理装置に備えられた干渉光測定装置の一構成例を示す模式図
【
図7】本発明の第1実施形態に係る試料表面品質管理装置に備えられた信号処理装置による試料のマイクロラフネスの評価処理の手順の一例を示すフローチャート
【
図8】本発明の第1実施形態に係る試料表面品質管理装置のDIC測定で測定不能な空間周波数帯域に関する説明図
【
図9A】PSDのモデル(第1モデル)として用いられる関数についての説明図
【
図9B】PSDのモデル(第2モデル)として用いられる関数についての説明図
【
図9C】PSDのモデル(第3モデル)として用いられる関数についての説明図
【
図10A】本発明の第1実施形態において第1評価値及び散乱特性信号を基に第2評価値を演算する手順の説明図
【
図10B】本発明の第1実施形態において第1評価値及び散乱特性信号を基に第2評価値を演算する手順の説明図
【
図11A】第1評価値と空間方向が異なるヘイズ値の取り扱いの第1の例についての説明図
【
図11B】第1評価値と空間方向が異なるヘイズ値の取り扱いの第2の例についての説明図
【
図11C】第1評価値と空間方向が異なるヘイズ値の取り扱いの第3の例についての説明図
【
図12】シア方向と直交する方向のPSDデータ演算についての説明図
【
図13】本発明の第2実施形態に係る試料表面品質管理装置に備えられた干渉光測定装置の一構成例を示す模式図
【
図14A】本発明の第2実施形態において第1評価値及び散乱特性信号を基に第2評価値を演算する手順の説明図
【
図14B】本発明の第2実施形態において第1評価値及び散乱特性信号を基に第2評価値を演算する手順の説明図
【
図15】本発明の第3実施形態に係る試料表面品質管理装置に備えられた干渉光測定装置の一構成例を示す模式図
【
図16】本発明の第3実施形態に係る試料表面品質管理装置のDIC測定で測定不能な空間周波数帯域に関する説明図
【
図17】本発明の第4実施形態に係る試料表面品質管理装置に備えられた散乱光強度測定系の一構成例を示す模式図
【
図18】隣接する走査軌道同士でビームスポットが一部重なる様子を表す概念図
【
図19A】本発明の第5実施形態に係る試料表面品質管理装置に備えられた散乱光測定装置の検出光学系の一構成例を示す模式図
【
図19B】本発明の第5実施形態に係る試料表面品質管理装置に備えられた散乱光測定装置の検出光学系における散乱光の出射方向と瞳面上の画素座標との関係についての説明図
【
図20A】表示単位領域毎に処理結果を試料1の表面マップで示す表示例を表す図
【
図20B】処理結果をヒストグラムで示す表示例を表す図
【
図20C】処理結果(PSDデータ)を散布図で示す表示例を表す図
【
図20D】処理結果(モデルパラメータ)を表形式で示す表示例を表す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
【0011】
(第1実施形態)
[試料表面品質管理装置]
図1は本発明の第1実施形態に係る試料表面品質管理装置の模式図である。同図の試料表面品質管理装置は、検査装置100及び信号処理装置200を含んで構成されている。この試料表面品質管理装置がマイクロラフネス、言い換えれば表面の微視的な平坦度を検査し管理する試料1の代表例は、パターンが形成されておらず表面が平坦な円板状の半導体シリコンウエハである。
【0012】
[検査装置100]
検査装置100は、試料1の表面で発生する散乱光を測定する光学系、及び試料1の表面形状を測定する光学系を備える。試料1の表面形状の測定方式は、試料全面を高速に測定可能な干渉光測定である。干渉光測定としては、例えば、光干渉式形状測定法、位相シフト干渉式形状測定法、波長シフト干渉式形状測定法があり、いずれの方式を採用しても良い。具体的には、検査装置100は、ステージ装置110、散乱光測定装置120、干渉光測定装置130、及び信号処理部190を含んで構成されている。
【0013】
[ステージ装置110]
ステージ装置110は、ビームスポットに対して試料1を保持し試料表面方向に試料1を移動させる装置であり、試料台111、回転ステージ112、直進ステージ113を備えている。試料台111は、例えば試料1を吸引等により保持するチャックテーブルである。直進ステージ113により回転ステージ112が試料1の半径方向に直進移動し、回転ステージ112により試料台111が回転(自転)する。
【0014】
図2は試料の走査軌道の一例を示す図である。試料1の表面上には、散乱光測定装置120及び干渉光測定装置130から光が照射されてビームスポット2が形成される。同図に示したビームスポット2は、散乱光測定装置120及び干渉光測定装置130の双方のビームスポットが実質的に同一座標(又は互いの距離が所定距離以内の座標)に形成されたものである。検査中は回転ステージ112によって試料1が試料1の周方向に回転駆動され、ビームスポット2が試料1の表面上を矢印θ方向に回転する。また、同時に直進ステージ113によって試料1が直進駆動され、ビームスポット2が試料1の表面上を矢印R方向に直進移動する。この回転動作と直進動作の組み合わせにより、ステージ装置110は、ビームスポット2に対して試料1を移動させ、ビームスポット2が螺旋軌道を描いて試料1の表面の全面を走査する。
【0015】
なお、
図1及び
図2には図示していないが、ステージ装置110は、直進ステージ113の移動軸(ここではX軸とする)と水平に交差する移動軸(ここではY軸とする)を持つ直進ステージを備えていても良い。この場合、ビームスポット2のX方向への移動と-X方向への移動をY軸方向に逐次ずらしながら繰り返す軌道で試料1を走査することができる。
【0016】
[散乱光測定装置120]
散乱光測定装置120は、試料1を照明し試料表面のビームスポット2で発生した散乱光を測定する光学系であり、照明光学系121及び検出光学系122を含んで構成されている。
【0017】
照明光学系121は、散乱光用の光源、光源から出射する光をビームスポット2へ導く光学系であり、レンズ等の複数の光学素子を含んでいる。本実施形態において、照明光学系121は、試料1の表面に対して斜めに光を照射する斜方照明をすることができる。試料1の表面に対して垂直に光を照射する落射照明に光路を切り換える機構が照明光学系121に備わっていても良い。
【0018】
検出光学系122は、試料表面のビームスポット2で発生した散乱光を空間方向で区分して検出する光学系であり、本実施形態では、ビームスポット2に対する方位角や仰角の異なる複数(
図1では4つ図示した)の散乱光強度測定系123-126を備える。
【0019】
図3は散乱光強度測定系123-126の一構成例を示す模式図である。散乱光強度測定系123-126は、検出光学系127及び散乱光センサ128を有する。
【0020】
検出光学系127は、複数のレンズ(レンズ群)を含んでおり、いわゆる集光光学系、又は結像光学系を構成する。検出光学系127は、空間フィルタや偏光フィルタを備え、ノイズとなる望ましくない光を遮蔽する機能を有していても良い。検出光学系127の光軸129の延長線上には、ビームスポット2が位置する。散乱光強度測定系123-126のそれぞれの光軸129は、ビームスポット2から互いに異なる空間方向に延びている。散乱光強度測定系123-126のそれぞれの光軸129は、ビームスポット2を通る試料表面の法線Nに対して傾斜している(ビームスポット2で法線Nと交差する)。但し、光軸129が法線Nに一致又は平行する散乱光強度測定系が、検査装置100に備わっていても構わない。
【0021】
散乱光センサ128は、光電変換素子であり、微弱な散乱光を測定するため高いゲインを持つものが望ましく、光電子増倍管、アバランシェホトダイオードアレイを適用することができる。その他、ホトンカウンティング素子を複数配列したホトンカウンティングアレイ等も散乱光センサ128に適用可能である。センサ種別としては光電子増倍管、SiPM、CMOSセンサ、CCD等を採用することができる。
【0022】
図4は散乱光強度測定系123-126とビームスポット2の位置関係を表す模式図である。試料1の表面における位置を2次元座標(X,Y)で表すに当たり、仰角θiで入射する入射光軸(照明光学系121からビームスポット2に入射する光の中心線)のXY平面への射影方向をX軸とする。立体角ωに相当する開口数の検出光学系127がビームスポット2に対して仰角θsでかつ方位角φsの方向に位置する。仰角θsや方位角φsの組み合わせは、散乱光強度測定系123-126毎に異なる。ビームスポット2で発生した散乱光のうち、ビームスポット2から仰角θsで方位角φsの立体角ωの範囲に出射される散乱光束が、その方向に配置された散乱光強度測定系で測定される。散乱光強度測定系123-126のそれぞれにおいて、検出光学系127で集光された散乱光が、散乱光センサ128により電流又は電圧の信号に光電変換され、更にAD変換されて信号処理部190(
図1)で処理される。
【0023】
-散乱光信号の例-
図5は各散乱光強度測定系123-126の出力信号(散乱光信号)の例を表す図である。
図5の横軸は
図2に示したビームスポット2の螺旋軌道に沿った試料表面上のθ座標であり、時間に対応する。
図5の縦軸は散乱光センサ128から出力される散乱光信号の大きさである。試料1のマイクロラフネスに起因する散乱光が各散乱光強度測定系123-126に入射し、散乱光強度測定系123-126のそれぞれにおいて
図5に例示するような波形の散乱光信号S1が得られる。この散乱光信号S1の値とθ座標のデータセットが、散乱光強度測定系123-126毎に例えば信号処理部190に保存される。またビームスポット2が欠陥(異物等)を横切ると、特に大きな散乱光信号S1である欠陥信号S2が検出される。この欠陥信号S2は、信号処理部190において、例えば高域通過フィルタ(HPF)によって散乱光信号S1から分離され、欠陥の検出信号として値と座標が例えば信号処理部190に保存される。
【0024】
なお、散乱光信号S1から欠陥信号S2を分離する方法としては、上記の高域通過フィルタ(HPF)のように周波数領域で分離する方法の他、信号の大きさで分離する方法も採用することができる。つまり、予め設定した閾値以下の信号をマイクロラフネスに起因する散乱光信号と判定し、閾値を超える信号を欠陥信号S2と判定する方法である。閾値は、予め定めた固定値の他、欠陥信号S2であると明らかに判定できる信号からリアルタイムに設定することもできる。
【0025】
また、マイクロラフネスに起因する散乱光信号S1を抽出する限りにおいては、欠陥信号S2を分離する必要は必ずしもない。例えば、所定の時間間隔で又は試料表面上の所定領域毎に、散乱光強度測定系123-126の散乱光信号S1を平均化(マージ)する方法を適用することができる。平均化の方法としては、散乱光強度測定系123-126をグループ分けし、グループ毎に散乱光信号S1を平均する例が挙げられる。具体例として、散乱光強度測定系123,126を第1グループ、散乱光強度測定系124,125を第2グループとして、グループ毎に散乱光信号S1を平均する。散乱光強度測定系123-126の組み合わせのパターンは任意に変更可能であるが、マイクロラフネスに起因する散乱光信号S1の変化が感良く反映される組み合わせが望ましい。
【0026】
また、散乱光信号S1のサンプリング間隔が十分に短い場合、全体の散乱光信号S1に占める欠陥信号S2の割合は極めて小さい。この場合、欠陥信号S2が散乱光信号S1より大きくても、欠陥信号S2を含めて散乱光信号S1を平均しても平均値はほとんど変化せず欠陥信号S2を除いて平均した値と実質的に同視できる。散乱光信号S1を平均化すると、信号処理部190の処理負荷が軽減される利点もある。
【0027】
[干渉光測定装置130]
図6は干渉光測定装置130の一構成例を示す模式図である。干渉光測定装置130は、試料1のビームスポット2で発生した反射光を含む干渉光を測定し試料1の表面形状を測定する光学系である。本実施形態では、一例として微分干渉コントラスト(DIC)を検出して試料表面の高さを演算する干渉光測定装置130を説明する。
【0028】
干渉光測定装置130は、試料表面に偏光の異なる光の2つの偏光照明スポットからなるビームスポット2を形成し、2つの偏光照明スポットからの反射光を集光して干渉光の像を生成する。具体的には、干渉光測定装置130は、光源131、微分干渉照明系132、ビームスプリッタ133、1/4波長板134、ノマルスキープリズム135、対物レンズ136、結像レンズ137、干渉光センサ138を含んで構成されている。
【0029】
光源131から出射された光は、ビームスポット整形ユニット及び照明レンズを含む微分干渉照明系132を通過する。微分干渉照明系132を通過する光は直線偏光である。微分干渉照明系132を通過した光は、ビームスプリッタ133を介して1/4波長板134に入射する。1/4波長板134は、進相軸が入射偏光方向に対して45°の角度となるように設置されている。1/4波長板134を通過する光は円偏光となる。1/4波長板134を通過した光は、ノマルスキープリズム135に入射する。
【0030】
ノマルスキープリズム135は、複屈折を持つ光学材料で構成されており、円偏光の入射光を互いに直交する振動面を持つ2つの直線偏光l1,l2に例えばX方向に分離する。直線偏光l1,l2は、それぞれ例えばS偏光、P偏光である。ノマルスキープリズム135で分離された直線偏光l1,l2は、DIC用の対物レンズ136に入射する。この対物レンズ136は、ステージ(不図示)に実装されており、瞳位置がノマルスキープリズム135の分離位置に一致している。対物レンズ136を通過した2つの直線偏光l1,l2は平行に進行し、試料表面に垂直に照射されて2つの偏光照明スポット2a,2bからなるビームスポット2を形成する。
【0031】
なお、ノマルスキープリズム135は、駆動機構(不図示)によりX方向に移動可能であり、X方向の位置を調整することにより分離した直線変更11,12のビーム間の位相差を調整することができる。また、直線偏光11,12の分離幅をシア量δと呼ぶ。
【0032】
図6に誇張して示したように偏光照明スポット2a,2bに段差、すなわち直線偏光l1,l2の進行方向の高さの差があると、直線偏光l1,l2の位相差が変化する。DIC測定においては、シア量δが大きいとコントラストが高くなるが、測定可能な水平方向単位距離あたりの高さの差が小さくなる。本実施形態ではコントラストを重視し、干渉光測定装置130の光学解像度やサンプリング間隔よりもシア量δが大きく設定されている。
【0033】
DIC測定では、試料1の表面で反射した直線偏光l1,l2の位相差を基に偏光照明スポット2a,2bの高さの差(微分高さΔh)を測定する。試料表面で反射した直線偏光l1,l2は、対物レンズ136でコリメートされ、ノマルスキープリズム135によって同一光路に再合成されて干渉光となり、結像レンズ137を介して干渉光センサ138に入射する。本実施形態では、結像レンズ137の後段に偏光ビームスプリッタ139を配置し、干渉光を2つの直交する偏光方向に分離し、それら2つの干渉光の干渉強度をそれぞれ異なる干渉光センサ138で測定する。
【0034】
干渉光センサ138は、散乱光センサ128と同じく光電変換素子であるが、試料表面からの直接反射光を検出するので散乱光センサ128に比べてゲインは低くて良い。干渉光センサ138には、ポイントセンサ、エリアセンサ、マルチラインセンサを採用することができ、センサ種別としては光電子増倍管、SiPM、CMOSセンサ、CCD等を採用することができる。干渉光の干渉強度は微分高さΔhに応じて変化するため、干渉光センサ138で測定される干渉光の干渉強度をAD変換し、例えば信号処理部190(
図1)で処理することで微分高さΔhを測定することができる。
【0035】
干渉光測定装置130によるDIC測定は、波長分離又は空間分離により、散乱光測定装置120による散乱光測定と同時に(同一走査時に)行うことができる。これにより、より高速に試料1の試料1の表面の測定が可能となる。このことは、干渉光測定装置130の測定方式にDIC測定以外の表面形状測定手法を適用する場合も同様である。
【0036】
[信号処理装置200]
信号処理装置200は、散乱光測定装置120及び干渉光測定装置130の信号を処理する1又は複数のコンピュータであり、本実施形態の場合、データ入力部210、データ処理部220、及び検査装置100の信号処理部190を備える。例えば、検出光学系122及び検出光学系130bで取得されて信号処理部190で処理された試料表面の測定データ等が、データ入力部210に入力される。データ処理部220では、データ入力部210に入力されたデータに基づき試料1のマイクロラフネスの評価値等が演算される。
図1の例では、検査装置100の信号処理部190を信号処理装置200に含め、複数のコンピュータで信号処理装置200を構成する場合を例示している。しかし、データ入力部210、信号処理部190、データ処理部220の機能を1台のコンピュータに持たせ、1台のコンピュータで信号処理装置200を構成しても良い。
【0037】
[マイクロラフネスの評価手順]
データ処理部220によって実行される試料1のマイクロラフネスの評価について説明する。本実施形態において、信号処理装置200(例えばデータ処理部220)は、干渉光測定装置130の信号に基づき試料1のマイクロラフネスの第1評価値を演算する。同時に、信号処理装置200は、散乱光測定装置120の信号に基づき散乱特性信号を演算し、干渉光測定装置130による第1評価値が演算されない空間周波数帯域について、マイクロラフネスの第2評価値を第1評価値及び散乱特性信号に基づいて演算する。本実施形態において、信号処理装置200は、同時に発生する干渉光及び散乱光の検出信号に基づきマイクロラフネスの第1評価値及び第2評価値を演算する。
【0038】
第1評価値及び第2評価値は、試料1の表面のマイクロラフネスに相関する値である。マイクロラフネスは、第1評価値及び第2評価値から演算することができる。後述する例では、第1評価値及び第2評価値として試料1の表面のPSD(Power Spectral Density)データ、散乱特性信号としてヘイズ値を演算する場合について説明する。
【0039】
また、散乱特性信号から演算される第2評価値に係る空間周波数帯域の上限値は、干渉光測定装置130の信号から演算される第1評価値に係る空間周波数帯域の上限値より高い。特に本実施形態では、第2評価値に係る空間周波数帯域の下限値が第1評価値に係る空間周波数帯域の上限値より高く、第1PSDデータを取得可能な空間周波数帯域と第2PSDデータを取得可能な空間周波数帯域とが重ならない例を説明する。
【0040】
PSDデータ又はヘイズ値は、試料1の全面を複数の処理単位領域に分け、処理単位領域毎に信号処理部190で処理して求めることができる。高精度にマイクロラフネスを評価するためには、信号処理装置200により、同一試料の同一領域に係る第1評価値(PSDデータ)及び散乱特性信号(ヘイズ値)に基づき、第2評価値を演算することが望ましい。
【0041】
試料1の表面形状を3次元座標(X,Y,Z)で表す場合、高さZを(X,Y)に関して2次元フーリエ変換し、その振幅を二乗した値を空間周波数スペクトルとして演算することができる。空間周波数スペクトルは(X,Y)の逆数(fx,fy)を変数とする関数P(fx,fy)で表される。この空間周波数スペクトルP(fx,fy)をfrで表したものがPSD関数P(fr)である。frは、fr=√(fx×fx+fy×fy)で求められる値である。
【0042】
PSD関数P(fr)は、表面粗さの大きさと周期の情報を持つ。つまり、PSD関数は、空間周波数スペクトルを表現する関数の一つである。このPSD関数の値(PSDデータ)は、マイクロラフネスに係る試料1の表面形状のデータと実質的に等価である。PSD関数P(fr)を任意の空間周波数帯域(f1~f2)で積分することで、試料1の表面Rms粗さ(二乗平均平方根粗さ)を求めることができる。
【0043】
ヘイズ値は、散乱光測定装置120におけるビームスポット2に対する入射光量に対する散乱光信号S1の比率で表され、散乱光強度測定系123-126により測定された各散乱光信号S1を入射光量で除算することで演算できる。散乱光信号S1は、散乱光強度測定系123-126からリアルタイムに出力される信号の値を用いることもできるし、例えば信号処理部190に保存された値を後で読み出して用いても良い。
【0044】
図7は信号処理装置200による試料1のマイクロラフネスの評価処理の手順の一例を示すフローチャートである。同図のフローは、マイクロラフネスの第1評価値を演算する処理710、散乱特性信号を演算する処理720、マイクロラフネスの第2評価値を演算する処理730に大別される。詳細は後述するが、処理710では、干渉光に基づく試料1の表面形状の測定データから第1評価値が演算される。処理720では、複数の散乱光強度測定系123-126の信号から所定の空間方向で所定の空間周波数の散乱特性信号が演算される。処理730では、第1評価値及び散乱特性信号に基づき第2評価値が演算される。
【0045】
-処理710-
第1評価値を演算する処理710は、微分高さΔhを演算するステップ711、試料1の表面形状を演算するステップ712、第1評価値を演算するステップ713を含む。
【0046】
・ステップS711
信号処理装置200は、光源131の出射光の2つの直線偏光l1,l2の位相の変化を基に、微分高さΔhを演算する。このとき、本実施形態では、ノマルスキープリズム135で再合成された光が偏光ビームスプリッタ139で偏光により分離され、2つの干渉光センサ138で検出される。この2つの干渉光センサ138で偏光分離検出された干渉光の干渉強度の時間平均を演算し、演算した時間平均の干渉強度に基づき直線偏光l1,l2の位相シフトを補正することにより、微分高さΔhの演算精度を高めることができる。ここで言う位相シフトとは、2つの直線偏光l1,l2の間で、試料1の傾きや光源131の出力変動等といった微分高さΔh以外の要因に起因して生じる位相のシフト量である。
【0047】
・ステップS712
次に、信号処理装置200は、ステップS711で演算した微分高さΔhを基に試料1の表面形状を演算する。ステップ711で演算される微分高さΔhは、シア量δだけ離れた2つの直線偏光l1,l2の偏光照明スポット2a,2bの高さの差である。従って、走査によって得られる微分高さΔhのデータをシア量δ毎に累積することで、試料1の表面形状のデータを演算することができる。
【0048】
・ステップS713
続くステップ713において、信号処理装置200は、ステップ712で演算した試料1の表面形状のデータを基に、マイクロラフネスについての第1評価値を演算する。本実施形態においては、第1評価値として、ステップ712で演算した試料1の表面形状のデータをフーリエ変換してPSDデータを演算する。以後、この干渉光測定装置130の信号を基に演算された第1評価値としてのPSDデータを「第1PSDデータ」と記載する。本実施形態において、第1PSDデータは、シア方向についてのみ、つまり2つの偏光照明スポット2a,2bの中心を通る直線と同じ空間方向についてのみ演算される。第1PSDデータの空間方向及び空間周波数帯域は、試料1の表面形状の測定手法及び干渉光測定装置130の構成によって決まる。例えばDIC測定では、空間周波数帯域の上限は、空間方向のサンプリング間隔及び光学系の解像度の2つのパラメータのうち値の大きなパラメータに対するナイキスト条件から決定される。
【0049】
ここで、DIC測定では、シア量δに相当する空間周波数帯域の第1PSDデータに対する感度が低いという特徴がある。本実施形態ではシア量δが光学解像度より大きいため、第1PSDデータの空間周波数の上限以下であるものの測定できない空間周波数帯域が存在する。これを
図8に示す。同図の横軸はfr、縦軸は空間周波数スペクトルの大きさを示している。干渉光測定装置130により測定可能な空間周波数帯域803の上限804は、前述したように光学系の解像度やサンプリング間隔によって決まる。この上限804より低い帯域であっても、シア量δに相当する空間周波数805を含む所定の帯域806については、シア量δだけ離れた2つのビームスポットの高さの差(微分高さΔh)を測定するDICの原理上感度が低い。帯域806の第1PSDデータについては、演算しないこととしても良いが、本実施形態においては、帯域806の周囲の第1PSDデータに基づいて補間することもできる。
【0050】
-処理720-
次に、散乱光信号S1から散乱特性信号としてヘイズ値を演算する処理720について説明する。処理720には、散乱光信号S1を取得するステップ721、及び散乱光信号S1から散乱特性信号を演算するステップ722が含まれる。
【0051】
・ステップ721
ステップ721において、信号処理装置200は、散乱光強度測定系123-126により測定された散乱光信号S1を取得する。前述した通り、散乱光信号S1は、散乱光強度測定系123-126からリアルタイムに出力される信号の値を用いることもできるし、例えば信号処理部190に保存された値を後で読み出して用いても良い。
【0052】
・ステップ722
続くステップ722において、信号処理装置200は、例えば信号処理部190において、ステップ721で取得した散乱光強度測定系123-126の各散乱光信号S1を入射光量で除算する。これは入射光量に対する各散乱光強度測定系123-126の散乱光信号S1の比率を演算することを意味する。この信号比率がヘイズ値である。
【0053】
-処理730-
次に、マイクロラフネスの第1評価値及び散乱特性信号に基づいてマイクロラフネスの第2評価値を演算する処理730について説明する。
【0054】
ここで、本実施形態において、ヘイズ値は、物質表面の反射・散乱特性を表すBRDF(bidirectional reflectance distribution function)に変換され、このBRDFと共に信号処理装置200に記憶される。このBRDFは、空間周波数及び空間方向についての情報を持つ。BRDFは、先に説明した
図4を参照し、ビームスポット2への入射光量Ii、散乱光束の仰角θs、立体角ω、検出光量Iωを用い、次の(数式1)で定義される。
【0055】
【0056】
また、BRDFは、(数式2)に示すようにモデル化することができる。
【0057】
【0058】
θiはビームスポット2に対する入射光束の仰角、λは入射光及び散乱光の波長である。Qは、試料1の屈折率、入射光束の仰角θi、散乱光束の仰角θs及び方位角φsで決まるパラメータである。(数式2)の右辺のPSD関数の空間周波数fx,fyは、入射光束及び散乱光束のパラメータを用いて(数式3)のように表される。
【0059】
【0060】
(数式1)に示すように、BRDFは、散乱光測定で得られるヘイズ値(Iω/Ii)、入射光束及び出射光束のパラメータから求めることができる。そして、このBRDFは、PSD関数と(数式2)の関係にある。(数式2)の右辺において、PSD関数以外の項はいずれも検査装置100及び試料1の構成で決まるパラメータである。従って、原理的には、ヘイズ値と、検査装置100及び試料1のパラメータとから、所定の空間方向の所定の空間周波数のPSDデータを求めることができる。本実施形態において、このヘイズ値を基に演算するPSDデータを「第2PSDデータ」と記載する。
【0061】
但し、現実に測定されるヘイズ値は、試料1の反射率や光源131の出力の変動等によって変化し、第2PSDデータはその影響を受ける。その結果、第1PSDデータと第2PSDデータとの間には、ずれが生じ得る。そのため、第1PSDデータと第2PSDデータを用いて試料1のマイクロラフネスを定量的に評価するためには、第2PSDデータの較正アルゴリズムが必要である。
【0062】
図9A-
図9CはPSDのモデルとして用いられる関数についての説明図である。
図9A-
図9Cに示す各モデルは両対数グラフで表されており、横軸はfr、縦軸は空間周波数スペクトルの大きさである。
【0063】
図9Aに例示する第1のPSDモデルは、ABCモデルと称される。ABCモデルは、表面粗さの空間周波数frに対して、パラメータA,B,Cを用い、PSD(fr)=A/(1+Bfr
2)
C/2で表すことができる。このマイクロラフネスに係るABCモデルにおいて、低周波数の所定空間周波数帯域(1/B以下の帯域)ではPSDが一定値をとり、高周波数の帯域(1/B以上の帯域)ではPSDがfrに応じて単調に減少する。低周波数の帯域のPSDの一定値がA、高周波数の帯域のPSDの傾きが-C/2、PSDが一定値から単調減少に転じる分岐点の空間周波数が1/Bである。
【0064】
ABCモデルは
図9Aの例に限らず、
図9Bに例示する第2のPSDモデルや
図9Cに例示する第3のPSDモデル等も例示できる。
図9Bに例示するABCモデルは、Fractal ABCモデルと称され、パラメータA,B,C,K,Mを用い、PSD(fr)=A/(1+Bfr
2)
C/2+K/fr
Mで表すことができる。Fractal ABCモデルは、
図9Aに示したABCモデルにおける低周波数帯域における低周波数帯域において、切片K、傾き-Mでfrの減少に伴ってPSDが大きくなる特徴がある。
図9Cに例示するABCモデルは、Double ABCモデルと称され、パラメータA1,B1,C1,A2,B2,C2を用い、PSD(fr)=A1/(1+B1fr
2)
C1/2+A2/(1+B2fr
2)
C2/2で表すことができる。Double ABCモデルは、異なる2つのABCモデルが加算されたものである。
【0065】
以上を踏まえ、処理730において、信号処理装置200は、
図9A-
図9Cに例示したようなモデル関数を用い、第1PSDデータ及びヘイズ値に基づき第2PSDデータを演算する。本実施形態では、
図9Aに例示したABCモデルを用いる場合を説明する。
【0066】
処理730には、ステップ731-ステップ734が含まれる。具体的には、ステップ731において、信号処理装置200は、ABCモデルについて、試料1の表面のPSDを表すモデル関数パラメータ(以下、モデルパラメータ)の一部(この例ではA)を第1PSDデータを基に演算する。続くステップ732において、信号処理装置200は、所定の空間方向・空間周波数帯域について、ステップ731で演算したモデルパラメータとヘイズ値の対応に基づき、ヘイズ値をPSDに換算する際に用いる較正係数を演算する。そして、ステップ733において、信号処理装置200は、較正計数を用いてヘイズ値を較正して試料1のマイクロラフネスの第2評価値として第2PSDデータを演算する。最後に、ステップ734において、信号処理装置200は、第1PSDデータ及び第2PSDデータに基づき残りのモデルパラメータを演算する。なお、処理730について、演算に使用するモデル関数、空間方向、及び空間周波数帯域、並びにパラメータの決定手順は、試料1の特性や検査装置100の構成で違ってくるため、
図7に例示した手順には必ずしも限定されない。
【0067】
図10Aに示す図は両対数グラフであり、横軸はfr、縦軸(左)は空間周波数スペクトルの大きさ、縦軸(右)は入射光量と散乱光信号との信号比を表している。
図10Aでは、共通の横軸について、周波数スペクトルで表される第1PSDデータと、信号比で表されるヘイズ値が示してある。
図7に例示した処理730のステップ731-734について、
図10A及び
図10Bを用いて説明する。
【0068】
・ステップ731
処理730のステップ731において、信号処理装置200は、まず
図9Aのモデル関数について一部のモデルパラメータ、この例では低周波帯域の一定値であるパラメータAを第1PSDデータから演算する。パラメータAは、第1PSDデータの平均値、中央値等といった統計値として演算することができる。
【0069】
・ステップ732
続くステップ732において、信号処理装置200は、パラメータAで表現される空間周波数帯域1001に含まるヘイズ値、例えば予め設定した所定の空間周波数以下のヘイズ値1002をパラメータAで表現されるPSDに換算するための較正係数を演算する。この場合、例えばヘイズ値1002の平均値や中央値等の統計値がパラメータAで表現されるPSDに一致するように較正係数を演算する。
【0070】
・ステップ733
次に、ステップ733において、信号処理装置200は、演算した較正係数を用いてヘイズ値1002を含む全てのヘイズ値をPSDデータに換算し、第2PSDデータを演算する。これにより、
図10Bのように、干渉光測定装置130で測定可能な周波数帯域及び散乱光測定装置120で測定可能な周波数帯域の双方のPSDデータを得ることができる。具体的には、干渉光測定装置130により測定可能な周波数帯域のPSDデータ(第1PSDデータ)と、干渉光測定装置130及び散乱光測定装置120の協働により拡張される測定可能周波数帯域のPSDデータ(第2PSDデータ)が取得される。
【0071】
・ステップ734
次に、ステップ734において、信号処理装置200は、ステップ733で演算した第2PSDデータを基に、残りのモデルパラメータB,Cを求める。必要であれば、パラメータA,B,Cを基に構築されるモデル関数1003について任意の空間周波数領域f1~f2で積分することでRms粗さを演算することもできる。
【0072】
信号処理装置200は、
図7に示した処理で演算されるデータを適時に又は逐次、表示装置(モニタ)230に出力し、演算の過程又は結果を数値やグラフィックスにより表示する。これにより、作業者が測定及び較正の妥当性を確認することができる。
【0073】
[シア方向と方向が異なるヘイズ値の取り扱い]
信号処理装置200は、散乱特性信号のうち第1評価値と空間方向が対応する信号(シア方向のマイクロラフネスに対応するヘイズ値)に基づき、第2評価値を演算する。ここでは、
図11A-
図11Cを用い、シア方向と異なる方向のマイクロラフネスに対応するヘイズ値の取り扱いを幾つか例示する。
図11Aに示す例を第1の例、
図11Bに示す例を第2の例、
図11Cに示す例を第3の例と称する。つまり、第1の例、第2の例、第3の例は、それぞれ第2評価値を演算する際に、第1評価値と空間方向が異なるヘイズ値をどのように取り扱うかについての例である。
図11A-
図11Cのそれぞれに示す左右の図は両対数グラフであり、横軸はfr、縦軸は空間周波数スペクトルの大きさを表している。
【0074】
前述した通り、散乱光強度測定系123-126はそれぞれ異なる空間方向について散乱光を測定するため、第1PSDデータと空間方向が一致するのは特定の散乱光強度測定系の信号である。
図11A-
図11Cの各左図には、第1PSDデータと空間方向が一致又は所定の近似性を持つヘイズ値1101と、第1PSDデータとは空間方向が異なるヘイズ値1102とが混在している。
図示の都合上、
図1や
図3に示す散乱光センサ128の数と、
図11A-
図11Cの左図に示すヘイズ値の数が異なっているが、実際には同数(例えば十数個)である。
【0075】
図11Aに示す第1の例は、試料1の特性や検査装置100の構成に応じて予め設定された補正係数を用い、空間方向の違いによりヘイズ値1101,1102の間に生じる差分だけ、ヘイズ値1102を同図の右図に白抜き矢印で表したように補正する例である。この場合の補正係数は、例えば、予めAFMによる測定を実施しておき、AFMによる測定と散乱光測定の比較により求めることができる。ヘイズ値1102の補正により得られた値を含め、
図11Aの右図に示すヘイズ値1101が第2評価値の演算に用いられる。
【0076】
図11Bに示す第2の例は、試料1のマイクロラフネスが等方的であるとの仮定の下、第1PSDデータとは空間方向が異なるヘイズ値1102を第1PSDデータと空間方向が一致するヘイズ値1101と同様に扱う例である。ヘイズ値1102をヘイズ値1101と同様に第2評価値の演算の基礎に含め(
図11Bの右図)、ヘイズ値1101,1102から第2評価値が演算される。
【0077】
図11Cに示す第3の例は、第1PSDデータとは空間方向が異なるヘイズ値1102を除外する例である。ヘイズ値1102を第2評価値の演算の基礎から除外し(
図11Cの右図)、ヘイズ値1101のみに基づき第2評価値が演算される。
【0078】
[その他]
なお、本実施形態ではシア方向が単一方向であり、処理710(
図7)において第1PSDデータは単一のシア方向と同一の空間方向のみについて演算される。つまり処理710における第1評価値が1次元の値である場合について説明した。しかし、DIC測定において、一次元のラフネス評価値しか得られない訳ではない。例えば、
図6のノマルスキープリズム135を偏光方向が直交する2つのノマルスキープリズムで置換し、X方向及びY方向にシア量δを持つ4つの直線偏光に分離、つまり直線偏光l1,l2を更にY方向に分離する構成とすることができる。この構成の場合、2次元の第1PSDデータを演算することができる。
【0079】
また、試料1がウエハである場合のように試料1の平坦性が高い場合、シア方向が単一方向であっても、
図12に示すようにシア方向1201と直交する空間方向(直交方向1202)についてもPSDデータを得ることができる。
図12は、試料表面の一部を四角形のサンプリング点1203の集まりとして表している。本実施形態では、シア方向1201に微分高さを累積して表面形状、すなわち高さが演算される。この場合、試料1の走査が周回を重ねることによって直交方向1202の表面形状も演算することができる。しかし、高さの累積演算の初期値の設定に誤差があると、誤差の分だけ精度を欠く。それに対し、試料1の表面の平坦性が高い場合、信号処理装置200の処理により、初期値の設定誤差を抑制でき、ひいては試料1の表面形状の演算精度が高まる。例えば、一定の平坦性が期待できる設定面積の領域で高さ測定をし、その統計値(平均値等)を求めることで、これを一定の精度が期待される初期値に採用することができる。また、直交方向1202に隣接するサンプリング点1203で平滑化やフィッティング等の処理を行うことも考えられる。このように初期値の設定精度が高まることで、直交方向1202についても信頼性の高いPSDデータを得ることができる。
【0080】
-効果-
(1)干渉光測定装置130による干渉光測定は、散乱光測定装置120による試料1の全面の散乱光測定と同時に(同一の走査の機会に)並行して行うことができ、試料1の試料1の全面について干渉光と散乱光を高速に測定することができる。特に
図2に示したように試料1を回転させて螺旋軌道で走査する場合、走査に往復動作を伴わないため、より高速に測定することができる。
【0081】
ここで、干渉光測定は、マイクロラフネスの測定に一般に使用されるAFMよりも高速にマイクロラフネスを測定することができるが、その反面でAFMよりも解像度が低下する。そのため、解像度の観点において、AFMによる測定を単純に干渉光測定で置き換えることはできない。
【0082】
それに対し、散乱光で測定可能なマイクロラフネスの空間周波数の最大値は、干渉光で測定可能なマイクロラフネスの空間周波数の最大値と比較して一般的に高い。上記の通り、干渉光も散乱光も試料1の走査時に同時かつ高速に測定することができる。このことから、干渉光測定によりマイクロラフネスの第1評価値を演算しつつ、第1評価値が演算されない空間周波数帯域について、散乱光測定によりマイクロラフネスの第2評価値を演算することで、干渉光測定による解像度の不足を補うことができる。このとき、前述した通り、散乱光に基づく値と干渉光に基づく値との間にはずれが生じ得るため、そのまま同様に扱うことは好ましくないが、本実施形態では上記の通り較正係数を演算することで両者のずれも補正される。これにより第1評価値と第2評価値を同様に取り扱うことができるようになる。また、較正係数は、試料1を散乱光測定装置120及び干渉光測定装置130によって走査データから逐次演算できるので、較正係数を演算するための基礎データを別途収集する必要もない。
【0083】
このように、本実施形態によれば、第1評価値及び第2評価値を高速に演算し、かつ第1評価値に加えて第2評価値を演算することで、高速にかつ高解像に試料全面のマイクロラフネスを測定することができる。
【0084】
(2)また、試料の欠陥検査用の検査装置では、試料表面から様々な方向に散乱する光を検出するために、ビームスポットを中心とする天球を複数の領域に分割し、領域毎に散乱光強度測定系(散乱光センサ等)を配置する場合がある。言い換えれば、これら複数の散乱光強度測定系により、空間方向毎に散乱光を検出することにより、空間方向及び空間周波数の異なる散乱光のデータを測定することができる。そして、ヘイズ値と相関するマイクロラフネスの空間方向及び空間周波数は、試料表面に対する光の入射角度や出射角度、波長によって決まる。そこで、欠陥検査用の検査装置をベースとして干渉光測定装置130を付加することにより試料表面品質管理装置を構成し、散乱光測定装置120と干渉光測定装置130の協働により、広い空間周波数帯域のマイクロラフネスを高速に測定することができる。
【0085】
(第2実施形態)
第2実施形態では、試料1の表面形状測定手法としてマイケルソン干渉計を用いる場合を例示する。また、本実施形態では、第1PSDデータを取得可能な空間周波数帯域と第2PSDデータを取得可能な空間周波数帯域とが一部重なることとする。つまり、干渉光測定装置130の信号から演算される第1評価値に係る空間周波数帯域の上限値は、第1実施形態と同じく散乱特性信号から演算される第2評価値に係る空間周波数帯域の上限値より低いが、第2評価値に係る空間周波数帯域の下限値よりも高い。
【0086】
図13は本実施形態における干渉光測定装置130の一構成例を示す模式図である。
図13において、第1実施形態と同一の又は対応する要素には既出図面と同符号を付して説明を適宜省略する。
【0087】
本実施形態の干渉光測定装置130は、光源131、バンドパスフィルタ232、干渉対物レンズ光学系233、及び干渉光センサ138を含んで構成されている。干渉対物レンズ光学系233は、ビームスプリッタ133及び参照面(反射ミラー)235を含んでいる。また、干渉対物レンズ光学系233は、駆動装置236により駆動され、例えば試料1に対して進退する方向に変位する。本実施形態の干渉光測定装置130に、ノマルスキープリズム135は備わっていない。
【0088】
本実施形態において、光源131は白色光源である。光源131から出射した光は、干渉対物レンズ光学系233に入射し、ビームスプリッタ133により2つに分離される。分離された一方の光は試料1に入射し、他方の光は参照面235に入射する。試料1及び参照面235でそれぞれ反射した光は、ビームスプリッタ133で合成され、干渉光センサ138に導かれる。本実施形態において、干渉光センサ138は2次元センサである。その際、干渉対物レンズ光学系233を駆動装置236によって変位させながら、試料1からの反射光と参照面235からの反射光の干渉光強度を干渉光センサ138で測定することができる。干渉光センサ138で測定される干渉光強度分布を基に、信号処理装置200により試料1の表面形状が演算される。
【0089】
本実施形態の場合、視野内の試料1の表面の2次元的な高さ情報が1度に得られる。試料1の全面の走査方法としては、第1実施形態と同様、回転と直進を組み合わせた走査(
図2)、又は2方向の直進を組み合わせた走査を適用することができる。
【0090】
図14A及び
図14Bを用い、本実施形態における処理730(
図7)について説明する。
図14Aに示す図は両対数グラフであり、横軸はfr、縦軸(左)は空間周波数スペクトルの大きさ、縦軸(右)は入射光量と散乱光信号との信号比を表している。
図14Aでは、共通の横軸について、周波数スペクトルで表される第1PSDデータと、信号比で表されるヘイズ値が示してある。
図14Bに示す図も両対数グラフであり、横軸はfr、縦軸は空間周波数スペクトルの大きさを表している。
【0091】
図14Aに示した通り、本実施形態において、第1PSDデータが測定される空間周波数帯域とヘイズ値が測定される空間周波数帯域とが、所定帯域1401で重なっている。つまり、第1PSDデータが測定される空間周波数帯域の上限値は、ヘイズ値が測定される空間周波数帯域の上限値よりは低いが、ヘイズ値が測定される空間周波数帯域の下限値よりも高い。
【0092】
本実施形態における第2評価値の演算において、信号処理装置200は、まず所定帯域1401に含まれる第1PSDデータ1402及びヘイズ値1403が一致するように、ヘイズ値からPSDへの換算に用いる較正係数を演算する。例えば、第1PSDデータ1402及びヘイズ値1403についてそれぞれ平均値や中央値等の統計値を求め、ヘイズ値1403の統計値に基づくPSDが第1PSDデータ1402の統計値に一致するように較正係数を演算する。その後、信号処理装置200は、この較正係数を用いて所定帯域1401の内外のヘイズ値をPSDに換算し、第2PSDデータを演算する。
【0093】
これにより、
図14Bに示したように、干渉光で測定可能な周波数帯域に加えて散乱光で測定可能な周波数帯域のPSDデータが得られる。必要であれば、第1PSDデータ及び第2PSDデータから、第1実施形態と同様にモデル関数(ABCモデル等)についてモデルパラメータを求めることもできる。また、そのモデル関数を所定の空間周波数帯域で積分することで、マイクロラフネスを演算することもできる。
【0094】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果に加え、マイケルソン干渉計を利用して試料1の表面形状を測定することにより、試料1の表面の2次元的な高さ情報が1度に得られるメリットがある。
【0095】
また、干渉光で測定される第1PSDデータの空間周波数帯域が、散乱光を基に演算される第2PSDデータの空間周波数帯域と一部重なるようにすることで、較正係数の演算にモデル関数を用いる必要がない。言い換えれば、上記所定帯域1401において、ヘイズ値1403に基づく第2PSDデータの一致目標が同じ検査装置100で測定されるPSDデータそのもの(第2PSDデータ1402)である。このことから、第2PSDデータの演算精度、ひいてはマイクロラフネスの演算精度の向上が期待できる。
【0096】
(第3実施形態)
第1実施形態において、干渉光測定装置130は、DIC測定を採用し、光源131から出射された光を所定のシア量の2つの直線偏光に分離して試料1に照射し、試料1で発生した干渉光の干渉強度を干渉光センサ138で測定する構成とした。この点は本実施形態においても同様である。本実施形態が第1実施形態と相違する点は、第1実施形態では、DIC測定のシア量δが干渉光測定装置130の光学系解像度より大きいのに対し、本実施形態では、干渉光測定装置130の光学系解像度よりも小さなシア量の干渉光を用いる点である。具体的には、本実施形態において、信号処理装置200は、干渉光測定装置130の光学解像度よりも大きなシア量の干渉光に係る信号、及び干渉光測定装置130の光学解像度より小さなシア量の干渉光に係る信号に基づき、第1評価値を演算する。図面を用いて具体例を説明する。
【0097】
図15は本実施形態に係る試料表面品質管理装置に備えられた干渉光測定装置の一構成例を示す模式図である。
図15において、第1実施形態と同一の又は対応する要素には既出図面と同符号を付して説明を適宜省略する。
【0098】
第1実施形態と同様、本実施形態の干渉光測定装置130は、光源131、微分干渉照明系132、ビームスプリッタ133、1/4波長板134、ノマルスキープリズム135、対物レンズ136、結像レンズ137、干渉光センサ138等を備えている。本実施形態の干渉光測定装置130が第1実施形態と相違する点は、光源131が波長の異なる2つの単色光を出射するマルチ波長光源であり、それぞれの単色光について干渉光を得る構成である。
【0099】
本実施形態の干渉光測定装置130には、光源131の出射光を2つの単色光に分離する光学素子としてダイクロイックミラー1501が備わっており、2つの単色光に対応して微分干渉光学系1511,1512が備わっている。微分干渉光学系1511は、1/4波長板134、ノマルスキープリズム135、対物レンズ136を含んで構成される光学系である。微分干渉光学系1512も微分干渉光学系1511と同様の光学系であり、1/4波長板134’、ノマルスキープリズム135’、対物レンズ136’を含んで構成される。但し、ノマルスキープリズム135のシア量δ1は干渉光測定装置130の光学解像度より大きく、ノマルスキープリズム135’のシア量δ2は干渉光測定装置130の光学解像度より小さく設計されている。
【0100】
本実施形態では、ビームスプリッタ133を通過した光がダイクロイックミラー1501によって2つの単色光に分離され、各単色光が微分干渉光学系1511,1512に入射し、各微分干渉光学系1511,1512で第1実施形態と同様に干渉光が得られる。これら干渉光はダイクロイックミラー1501を経由して合成されて干渉光センサ138に入射する。特に図示していないが、干渉光は必要に応じて波長に応じて分離して複数の干渉光センサ138で測定する構成とすることもできる。
【0101】
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0102】
本実施形態においては、第1実施形態と同様の効果に加え、以下の効果が得られる。本実施形態で新たに得られる効果について、
図16を用いて説明する。
【0103】
図16は本発明の第3実施形態に係る試料表面品質管理装置のDIC測定で測定不能な空間周波数帯域に関する説明図であり、第1実施形態の
図8に対応している。同図の横軸はfr、縦軸は空間周波数スペクトルの大きさを示している。本実施形態の干渉光測定装置130により測定可能な空間周波数帯域1603の上限1604は、前述したように光学系の解像度やサンプリング間隔によって決まる。前述した通り、上限804より低い帯域であっても、シア量δ1に相当する空間周波数1605を含む所定の帯域1606については感度が低下する。
【0104】
しかし、本実施形態では、シア量δ2が光学解像度より小さい微分干渉光学系1512が備わっている。シア量δ2に相当する空間周波数1607は上限1604より大きい。そのため、微分干渉光学系1512は、空間周波数帯域1603の全体域で相応の感度で測定可能である。一方で、シア量δ2が小さい微分干渉光学系1512は、原理上、微分高さ測定のコントラストが低下する。
【0105】
本実施形態では、微分干渉光学系1511で帯域1606を除く空間周波数帯域1603について高コントラストで測定しつつ、微分干渉光学系1511で感度が低下する帯域1606については微分干渉光学系1512で感度良く測定することができる。このように、本実施形態によれば、第1実施形態に比べて広い空間周波数帯域で感度良く測定することができる。
【0106】
(第4実施形態)
図17は本発明の第4実施形態に係る試料表面品質管理装置に備えられた散乱光強度測定系の一構成例を示す模式図である。
図17において、第1実施形態と同一の又は対応する要素には同符号を付して説明を適宜省略する。本実施形態では、散乱光強度測定系123-126に結像光学系を含める場合の構成及び処理の一例について述べる。
【0107】
図17に示したように、本実施形態における散乱光強度測定系123-126は、試料1の表面からの散乱光を集光する集光光学系1701と、ビームスポット2の像を散乱光センサ128の受光面に結像させる結像光学系1702を含む。また、
図17では図示していないが、試料1、集光光学系1701、結像光学系1702、散乱光センサ128の少なくとも1つを駆動するフォーカス調整用の駆動装置を備える場合もある。
【0108】
本実施形態における散乱光センサ128は、センサ種としては、第1実施形態と同様、光電子増倍管、アバランシェホトダイオードアレイ、ホトンカウンティングアレイが考えられ、ポイントセンサ、エリアセンサ、マルチラインセンサを用いることができる。本実施形態では、例として、散乱光センサ128にラインセンサを用いることとする。散乱光センサ128では、画素毎に散乱光信号が得られる。
【0109】
処理720(
図7)において、信号処理装置200は、第1実施形態では散乱光信号を一律の入射光量で割ってヘイズ値を演算したが、本実施形態では、散乱光センサ128の画素毎に異なる入射光量で散乱光信号を割ってヘイズ値を演算する。センサ画素毎の入射光量は、ビームスポット2の強度プロファイルと、集光光学系1701及び結像光学系1702のパラメータとに基づき演算される。
【0110】
図18は隣接する走査軌道同士でビームスポットが一部重なる様子を表す概念図である。ここでは、試料全面の走査において2回以上測定される領域(つまり隣接する走査軌道間でビームスポット2が重なる領域)の扱いについて説明する。
【0111】
図18に示す例は、例えば
図2のような矢印θ方向の回転動作と矢印R方向の直進動作とを組み合わせた螺旋軌道の走査であるとする。本実施形態では、ビームスポット2の幅が、R方向に大きくθ方向に小さい。このような照明プロファイルは、散乱光測定装置120の照明光学系121にアナモルフィックプリズムやシリンドリカルレンズを用いたビーム整形部を導入することで生成することができる。
【0112】
図18には、n周目と(n+1)周目の同一θ座標の測定領域1803,1804を示している。測定領域1803,1804は、隣接する走査軌道の間隔だけ、つまり試料1が1回転する間に直進ステージ113が移動する距離だけ、R座標がずれている。また、
図18では、測定領域1803,1804を8画素で分割検出する場合を例示している。本実施形態では測定領域のR方向の長さが、隣接する走査軌道の間隔より長く、測定領域1803,1804の重複領域1805が2回測定される。この重複領域1805の測定値については、測定領域1803,1804のどちらか一方の測定値のみを用いる方法、又は測定領域1803,1804の測定値に係るヘイズ値を統合する方法が考えられる。
【0113】
重複領域1805について測定領域1803,1804の測定値に係るヘイズ値を統合する場合、まず重複領域1805の各画素について、n周目の測定時の散乱光信号と(n+1)周目の測定時の散乱光信号の和をとる。その際、重複領域1805の画素が、n周目の測定時と(n+1)周目の測定時とで異なる。重複領域1805において、例えばn周目の測定時に図中上から2番目の画素Px2で測定される座標は、(n+1)周目の測定時には上から8番目の画素Px8で測定される。従って、この座標については、n周目の測定時の画素Px2の散乱光信号と(n+1)周目の測定時の画素Px8の散乱光信号とが合算される。入射光量についても、重複領域1805の各画素について、n周目の測定時の入射光量と(n+1)周目の測定時の入射光量をそれぞれビームプロファイルに基づき演算し合算する。そして、重複領域1805の各画素について、n周目と(n+1)周目の測定時の散乱光信号の和を、n周目と(n+1)周目の測定時の入射光量の和で割り、これによりヘイズ値を演算する。
【0114】
その他の点について、本実施形態は第1実施形態と同様である。
【0115】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果に加え、試料1の表面の各座標のヘイズ値の演算精度、ひいては第2評価値の演算精度が向上するメリットがある。
【0116】
(第5実施形態)
第1実施形態-第4実施形態では、散乱光測定装置120の検出光学系122が複数の散乱光強度測定系123-126を含む場合について説明した。第1実施形態-第4実施形態ではそれぞれ異なる空間方向に散乱光強度測定系123-126を配置することにより、試料1で発生する散乱光が出射方向に応じて異なる散乱光センサ128で検出される。それに対し、本実施形態は、検出光学系122に備える散乱光センサを1つのみとする例である。
【0117】
図19Aは本発明の第5実施形態に係る試料表面品質管理装置に備えられた散乱光測定装置の検出光学系の一構成例を示す模式図である。
図19Aを用いて散乱光センサを1つのみ有する検出光学系122の一構成例を説明する。
【0118】
本実施形態の散乱光測定装置120の検出光学系122は、散乱光強度測定系175を1つのみ備えている。散乱光強度測定系175は、集光光学系1901、検出光学系1903、散乱光センサ1904を含んで構成されている。
【0119】
試料表面のビームスポット2で発生する散乱光は、集光光学系1901によって集光される。検出光学系1903は、集光光学系1901の後側焦点位置にある瞳面1902を散乱光センサ1904に結像させる。本実施形態における散乱光センサ1904は、センサ種としては第1実施形態と同様に光電子増倍管、アバランシェホトダイオードアレイ、ホトンカウンティングアレイを適用することができ、エリアセンサ、マルチラインセンサ等を用いることができる。本実施形態では、散乱光センサ1904に2次元アレイセンサを用いることとする。
【0120】
図19Bは散乱光の出射方向と瞳面1902上における画素座標(X,Y)との関係についての説明図である。
図19Bにおいて、瞳面1902上の画素座標(X,Y)に対応する散乱光出射角度、つまり座標(X,Y)は以下のように求めることができる。
【0121】
【0122】
【0123】
ここで、fは集光光学系1901の焦点距離である。散乱光出射角度の定義は
図4で先に説明した通りである。なお、散乱光センサ1904の受光面上における座標は、検出光学系1903の光学パラメータに応じて数式4,5のX,Yを変換して求めることができる。従って、数式3と合わせ、2次元アレイセンサである散乱光センサ1904の受光面上の各画素に入射する散乱光について、ヘイズ値に対応するラフネスの空間方向及び空間周波数を演算することができる。
【0124】
本実施形態によれば、瞳面1902の光強度分布を測定することで、散乱光の出射角度分布を単一の散乱光センサ1904で測定することができる。散乱光センサ1904の画素毎に、対応する空間方向及び空間周波数帯域が異なる。そのため、第1-第4実施形態における処理720(
図7)において、目的の空間方向に対応する特定の散乱光センサの散乱光信号の代わりに、散乱光センサ1904の特定の画素信号を用い、第1-第4実施形態と同様に散乱特性信号や第2評価値を演算できる。
【0125】
(第6実施形態)
第1-第5実施形態で試料1の全面の全面について取得される第1評価値及び第2評価値等の各種データは、メモリに蓄積しておき、信号処理装置200により表示装置230(
図1)に表示出力することができる。本実施形態においては、第1-第5実施形態で試料1の全面の全面について取得されるデータの表示について例示する。第1実施形態で述べたように、PSDデータ(
図10B等)やマイクロラフネスといった処理結果(
図7の処理を経て得たデータ)は、試料1の全面を複数の処理単位領域に分け、処理単位領域毎に信号処理装置200により演算される。これら処理単位領域毎の処理結果は、全てを表示装置230(
図1)への表示に用いることもできるし、任意の複数の処理単位領域について統計処理したデータを表示に用いることもできる。
【0126】
図20Aは表示単位領域毎に処理結果を試料1の表面マップで示す表示例を表す図である。
図20Aにおいては、処理結果(試料表面の高さ)の等高線表示を例示しているが、例えば色分けした表面高さ(数値)をカラーバーと共に表示する方式等であっても良い。また
図20Aの表示例では、表示させる処理結果の空間周波数帯域を指定する入力欄2001が備わっている。
図20Aでは、表示させる処理結果の空間周波数帯域の下限値及び上限値を入力欄2001に数値で指定する方式を例示しているが、例えばコントロールバーで空間周波数帯域の指定をする方式等、他の方式であってもよい。
【0127】
図20Bは処理結果をヒストグラムで示す表示例を表す図である。
図20Bの例では、例えば入力欄(不図示)で指定された試料表面の指定領域の処理結果(ラフネス)について、頻度(縦軸)を表示している。頻度の他、割合等を縦軸にとっても良い。
【0128】
図20Cは処理結果(PSDデータ)を散布図で示す表示例を表す図である。
図20Cの例では、干渉光及び散乱光に基づき演算したPSDデータ(
図10B等)を、横軸に空間周波数、縦軸にPSDの大きさをとって、両対数表示されている。
図20Cの例では、例えば入力欄2001で指定された空間周波数帯域のPSDデータが表示される。
図20Cでは、複数の試料1について、試料1毎に異なるマークでデータをプロットして見た目に比較し易い方式を例示している。また、演算したパラメータに基づくモデル関数(
図10Bのモデル関数1003等)を表示する方式を採用しても良い。本表示例によれば、作業者は試料1の表面のPSDを表す妥当なモデル関数の種類を容易に選択することができる。
【0129】
図20Dは処理結果(モデルパラメータ)を表形式で示す表示例を表す図である。
図20Dの例では、モデル関数(
図10Bのモデル関数1003等)について演算したモデルパラメータのみを試料毎に表形式で表示している。この表示例の場合、表示に必要なデータ、ひいては試料毎のマイクロラフネス管理に要するデータ容量を削減することができる。
【0130】
(変形例)
本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例を含み得る。例えば上記した実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0131】
上記の各構成、機能、処理、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路等のハードウェアで実現しても良い。上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈して実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、各種記憶媒体に格納することができる。各種記憶媒体としては、例えば、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又はフラッシュメモリカード、DVD(Digital Versatile Disk)等が挙げられる。
【0132】
各実施形態において、信号の入出力線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全てを示しているとは限らない。実際には、殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0133】
1…試料、110…ステージ装置、120…散乱光測定装置、130…干渉光測定装置、131…光源、200…信号処理装置、230…表示装置、1401…所定帯域、l1,l2…直線偏光、δ,δ2,δ2…シア量