(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】
(45)【発行日】
(54)【発明の名称】タングステンと低放射化フェライト鋼の接合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
【FI】
(21)【出願番号】
(22)【出願日】
【審査請求日】
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】505238175
【氏名又は名称】穴織カーボン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221889
【氏名又は名称】東邦金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100171114
【氏名又は名称】大津 元
(74)【代理人】
【識別番号】100176326
【氏名又は名称】岡村 美穂
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 尊則
(72)【発明者】
【氏名】森▲崎▼ 友宏
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 敏明
(72)【発明者】
【氏名】パン ティ フォン ガト
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 智広
(72)【発明者】
【氏名】村上 喜次
(72)【発明者】
【氏名】中島 擁平
(72)【発明者】
【氏名】北垣 慎二
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-113487(JP,A)
【文献】特開2004-291075(JP,A)
【文献】特開2016-168597(JP,A)
【文献】特開2017-203630(JP,A)
【文献】特開2004-209530(JP,A)
【文献】特開2008-064641(JP,A)
【文献】特開2020-101452(JP,A)
【文献】特許第7361077(JP,B2)
【文献】特許第7702097(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第117840531(CN,A)
【文献】山下東洋ら,二段階接合法によるWとRAFM鋼の接合技術開発,日本原子力学会春の年会予稿集(CD-ROM),2023年,Vol.2023,ROMBUNNo.3A03(全1頁)
【文献】I.Izaguirre et al.,HHF response of an optimized W-EUROFER joint brazed with pure copper,Materials Characterization,Vol.219 No.114621,2024年12月05日,p.1-10,doi:10.1016/j.matchar.2024.114621
【文献】Prado J.de et al.,Development of self passivating W-Eurofer brazed joints,Fusion Engineering and Design,Vol.146 ,2019年10月28日,P.1810-1813,doi:10.1016/j.fusengdes.2019.03.041
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21B 1/13
B23K 1/00,35/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項】
ダイバータに用いるためにタングステン材と低放射化フェライト鋼材とを接合したタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体において、
前記タングステン材と前記低放射化フェライト鋼材は、銅を主成分とする中間材を介して接合され、
前記中間材は、銅に
リンが固溶した合金であると共に、前記タングステン材及び前記低放射化フェライト鋼材から離隔した層であって、前記合金に粒状のタングステンが分散した層を有し、
前記タングステン材と前記低放射化フェライト鋼材の接合部のせん断強度が10MPa以上であることを特徴とするタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体。
【請求項】
前記中間材は、
前記合金に粒状のタングステンが分散した層よりも前記タングステン材側に、チタンを含有する
層を有することを特徴とする請求項1に記載のタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体。
【請求項】
前記低放射化フェライト鋼材には、冷媒を流通させるための冷媒通路が形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体。
【請求項】
ダイバータに用いるためにタングステン材と低放射化フェライト鋼材とを接合したタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体の製造方法において、
前記タングステン材と前記低放射化フェライト鋼材の間に、
銅を主成分とする中間材であって、リンを6質量%含むリン銅箔で銅粉末とタングステン粉末の混合体を挟むように積層した中間材を、この中間材の積層方向に挟み、
前記中間材を前記積層方向に加圧した状態で通電加熱法により
700℃~800℃に加熱することにより、前記タングステン材と前記低放射化フェライト鋼材とを前記中間材を介して接合することを特徴とするタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体の製造方法。
【請求項】
前記中間材は、前記タングステン材側にさらにチタン箔とリン銅箔を積層したことを特徴とする請求項4に記載のタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体の製造方法。
【請求項】
前記中間材は、前記低放射化フェライト鋼材側にさらに純銅箔を積層したことを特徴とする請求項5に記載のタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体の製造方法。
【請求項】
前記中間材の前記混合体は、銅粉末とタングステン粉末と合成樹脂を混合して成形されたことを特徴とする請求項5に記載のタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【】
本発明は、タングステン材と低放射化フェライト鋼材とを中間材を介して接合したタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【】
高温のプラズマを閉じ込める核融合炉には、プラズマ対向機器として例えば余剰ガスや不純物を除去するためのダイバータと呼ばれる装置が設置されている。ダイバータは、高温のプラズマが直接接触するダイバータ板を有する。このダイバータ板には、優れた耐熱性、中性子照射による放射化が少ない低放射化特性、及び高い熱伝導性を備えていることが要求される。そして、これらの要求を満たす高融点金属のタングステンが、ダイバータ板に用いられる。
【】
高温のプラズマが接触するダイバータ板は強力に冷却する必要があり、プラズマが接触する面と反対側にヒートシンクが接合される。ヒートシンクには、耐熱性と高い熱伝導性と低放射化特性を備えた低放射化フェライト鋼が、安全性確保と環境負荷低減の観点から有望視されている。そのため、タングステンと低放射化フェライト鋼を接合した接合体が求められている。
【】
タングステンと低放射化フェライト鋼の接合体に関し、例えば特許文献1には、タングステン系材料と低放射化フェライト鋼とを接合するための傾斜機能材料であって、バナジウム又はクロムを含有する層と鉄とアルミニウムを含有する層を有する傾斜機能材料が記載されている。また、特許文献2にはタングステン系材料と鉄系金属とでチタン合金の膜状体を挟み、パルス通電により900℃以上に加熱して接合する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【】
【文献】特許第7361077号公報
【文献】特開2004-209530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【】
特許文献1には、組成を変えながら層状に印刷(堆積)を重ねる指向性エネルギー堆積(DED)法を用いて、傾斜機能材料を介してタングステン系材料と低放射化フェライト鋼を接合した接合体を形成することが記載されている。組成の変更は、供給する各種材料粉末の混合割合を変更して行われ、混合された材料粉末を薄く載置し、この材料粉末にレーザー光を照射して溶融し、冷却により凝固した薄い金属層又は合金層を堆積することが繰り返し行われる。しかし、指向性エネルギー堆積法によってタングステン系材料と低放射化フェライト鋼の接合体を形成することは、必要な厚さまで繰り返し堆積させる必要があり、時間や製造コストの観点から容易ではない。
【】
また、低放射化フェライト鋼の融点は1500℃程度であるが、加熱されて高温になると脆化し、800℃を超えると脆化が無視できなくなる。そのため、特許文献2のように接合のために900℃以上に加熱することは好ましくなく、低放射化フェライト鋼の脆化を抑制し且つ容易に形成することができるタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体が求められていた。
【】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、低放射化フェライト鋼の脆化を抑制し且つ容易に形成することができるタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体、及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【】
請求項1の発明のタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体は、ダイバータに用いるためにタングステン材と低放射化フェライト鋼材とを接合したタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体において、前記タングステン材と前記低放射化フェライト鋼材は、銅を主成分とする中間材を介して接合され、前記中間材は、銅にリンが固溶した合金であると共に、前記タングステン材及び前記低放射化フェライト鋼材から離隔した層であって、前記合金に粒状のタングステンが分散した層を有し、前記タングステン材と前記低放射化フェライト鋼材の接合部のせん断強度が10MPa以上であることを特徴としている。
【】
上記構成によれば、ダイバータに用いるためのタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体は、タングステン材と低放射化フェライト鋼材とが、銅を主成分とする中間材を介して接合されている。この中間材は、銅にリンが固溶した合金であり、且つこの合金のタングステン材及び低放射化フェライト鋼材から離隔した位置に、粒状のタングステンが分散した層が形成されている。中間材のリンは、接合する際に中間材の銅の融点がリンによって低下することを利用したものであり、低放射化フェライト鋼の脆化を抑制することができる低い温度で容易に接合可能にすると共に、接合部のせん断強度が10MPa以上となる十分な強度で接合することができる。また、中間材に、銅に粒状のタングステンが分散した層が含まれていることによって、接合後の中間材の残留応力が緩和され、中間材におけるクラックの発生、接合面での剥がれの発生を抑制することができる。
【】
請求項2の発明のタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体は、請求項1の発明において、前記中間材は、前記銅に粒状のタングステンが分散した層の前記タングステン材側に、チタンを含有する層を有することを特徴としている。
上記構成によれば、中間材のチタンを含有する層に含まれるチタンが、中間材とタングステン材の反応を促進し、接合を強固にすることができる。
【】
請求項3の発明のタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体は、請求項1の発明において、前記低放射化フェライト鋼材には、冷媒を流通させるための冷媒通路が形成されたことを特徴としている。
上記構成によれば、冷媒によって低放射化フェライト鋼材を冷却することによりタングステン材を冷却することができ、例えば核融合炉のプラズマ対向機器に利用することができる。
【】
請求項4の発明のタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体の製造方法は、ダイバータに用いるためにタングステン材と低放射化フェライト鋼材とを接合したタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体の製造方法において、前記タングステン材と前記低放射化フェライト鋼材の間に、銅を主成分とする中間材であって、リンを6質量%含むリン銅箔で銅粉末とタングステン粉末の混合体を挟むように積層した中間材を、この中間材の積層方向に挟み、前記中間材を前記積層方向に加圧した状態で通電加熱法により700℃~800℃に加熱することにより、前記タングステン材と前記低放射化フェライト鋼材とを前記中間材を介して接合することを特徴としている。
【】
上記構成によれば、ダイバータに用いるためにタングステン材と低放射化フェライト鋼材とが、銅を主成分とする中間材を介して接合される。中間材は、銅粉末とタングステン粉末の混合体を、リンを6質量%含むリン銅箔で挟んで積層状に構成されている。この銅を主成分とする中間材をタングステン材と低放射化フェライト鋼材とで中間材の積層方向に挟んで加圧した状態で通電加熱し、700℃から800℃までの間の温度に加熱して接合する。中間材の銅の融点がリンによって低下するので、低放射化フェライト鋼の脆化を抑制することができる低い温度でリン銅箔及び銅粉末の溶融を促進し、タングステン材と低放射化フェライト鋼材とを容易に、且つ接合部のせん断強度が10MPa以上となる十分な強度で接合することができる。また、この中間材には、銅に溶融しない粒状のタングステンが分散状に含まれる層が形成されるため、接合後の中間材の残留応力が緩和され、中間材におけるクラックの発生、接合面での剥がれの発生を抑制することができる。
【】
請求項5の発明のタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体の製造方法は、請求項4の発明において、前記中間材は、前記タングステン材側にさらにチタン箔とリン銅箔が積層されたことを特徴としている。
上記構成によれば、通電加熱によって溶融したリン銅箔とチタン箔とが反応してチタンが拡散し、チタンによって中間材とタングステン材の反応が促進されるので、強固に接合することができる。
【】
請求項6の発明のタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体の製造方法は、請求項5の発明において、前記中間材は、前記低放射化フェライト鋼材側にさらに純銅箔が積層されたことを特徴としている。
上記構成によれば、通電加熱によって溶融したリン銅箔と反応して純銅箔が溶融し、低放射化フェライト鋼側にリンが拡散する際に、純銅箔がリンの低放射化フェライト鋼材への到達を抑制する。従って、リンと低放射化フェライト鋼材との過剰な反応を抑制し、接合による低放射化フェライト鋼材の変質を抑制することができる。
【】
請求項7の発明のタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体の製造方法は、請求項5の発明において、前記中間材の前記混合体は、銅粉末とタングステン粉末と合成樹脂を混合して成形されたことを特徴としている。
上記構成によれば、銅粉末とタングステン粉末の混合体は、合成樹脂を混合して成形した成形体なので粉末状態よりも取り扱いが容易になり、タングステンと低放射化フェライト鋼の接合体の生産性を向上させることができる。
【発明の効果】
【】
本発明のタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体及びその製造方法によれば、低放射化フェライト鋼材の脆化を抑制すると共に容易に形成することができるタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【】
【図】核融合炉の内部を示す図である。
【図】本発明のタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体によって形成されたダイバータ板の例を示す斜視図である。
【図】タングステンと低放射化フェライト鋼の接合体を評価するための円柱状の試験体の斜視図である。
【図
】
図3の試験体の作製に使用したパルス通電加圧焼結装置の構成図である。
【図】実施例1~5及び比較例1の試験体の形成条件及び評価結果の表である。
【図】実施例3の試験体の接合部分の断面SEM像である。
【図
】
図6の要部拡大断面SEM像とそのEDS元素マッピングである。
【図】実施例6~11及び比較例2の試験体の形成条件及び評価結果の表である。
【発明を実施するための形態】
【】
図1に示すように、高温のプラズマを閉じ込める核融合炉の内部には、プラズマ対向機器として、例えば余剰ガスや不純物を除去するためのダイバータが装備されている。ダイバータは、高温のプラズマが接触するダイバータ板Aを備えている。
【】
例えば
図2に示すように、ダイバータ板Aは、タングステン材1と低放射化フェライト鋼材2とが、中間材3を介して接合されたタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体によって形成される。タングステン材1と低放射化フェライト鋼材2は、優れた耐熱性、中性子照射による放射化が少ない低放射化特性、及び高い熱伝導性を夫々備えている。ダイバータ板Aを冷却するために、例えば入口配管Bから流入して出口配管Cから流出するように冷媒を流通させるための冷媒通路が、低放射化フェライト鋼材2の内部に形成されている。
【】
このようなタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体は、核融合炉のプラズマ対向機器である第一壁や保護リミターにも適用することができる。尚、以下では、タングステンと低放射化フェライト鋼の接合体を単に「接合体」と呼ぶ場合があり、低放射化フェライト鋼材2を、その英語表記のReduced Activation Ferritic/Martensiticの頭文字から「RAFM鋼材2」と呼ぶ場合がある。
【】
核融合炉のダイバータ板Aに使用されるタングステン材1の厚さは、例えば1mm~30mm程度であるが、これに限定されるものではなく、用途等に応じて適宜定めることができる。また、ダイバータ板Aに使用される低放射化フェライト鋼材2の厚さは、例えば10mm~30mm程度であるが、これに限定されるものではなく、用途等に応じて適宜定めることができる。尚、接合体の形状、サイズは、用途等に応じて設定される。
【】
低放射化フェライト鋼材2は、融点が1500℃程度であるが、この融点よりも低温であっても800℃を超えるとその特性の劣化(脆化)が無視できなくなる。そのため、脆化を抑制しながら、融点が3000℃を超えるタングステン材1と低放射化フェライト鋼材2とを直接接合することは困難であり、タングステン材1と低放射化フェライト鋼材2の間に中間材3を介在させて接合する。
【】
例えば、非酸化性雰囲気中で、中間材3をタングステン材1と低放射化フェライト鋼材2とで圧縮するように加圧した状態で、通電加熱法により800℃以下の温度に加熱し、中間材3の少なくとも一部を溶融させて接合する。非酸化性雰囲気には、真空、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気、及び水素ガスを添加したアルゴンガス等の還元雰囲気が含まれる。通電加熱法は、導電性の加熱対象に電流を流し、加熱対象の電気抵抗に応じて発生するジュール熱によって加熱対象を直接加熱する方法である。
【】
次に、接合体を評価するための円柱状の試験体について説明する。
図3に示すように、円柱状の試験体は、タングステン材1と低放射化フェライト鋼材2とが、中間材3を介して接合されている。ここでは、タングステン材1には、直径9.4mm、長さ(厚さ)10mmの円柱状の市販品を使用した。また、低放射化フェライト鋼材2には、直径9.4mm、長さ(厚さ)10mmの円柱状のF82H鋼(Fe-8Cr-2W-0.2V-0.04Ta-0.1C)を使用した。尚、低放射化フェライト鋼材2の種類は上記に限定されず、例えばJLF-1鋼(Fe-9Cr-2W-0.2V-0.08Ta-0.1C-0.05N)を使用することもできる。
【】
中間材3は、銅を主成分とする直径9.4mmの円盤状のものであって、銅粉末とタングステン粉末の混合体を2枚の円形のリン銅箔で挟むように積層したものを基本構成としている。以下では、銅粉末とタングステン粉末の混合体を「Cu・W混合体」と呼ぶ場合がある。
【】
銅粉末には、粒径が30~40μmの電解銅粉を使用した。銅粉末の融点は、1085℃程度である。タングステン粉末には、粒径が3~4μm程度のものを使用した。タングステン粉末の融点は3000℃を超える。Cu・W混合体は、銅粉末とタングステン粉末を質量比85:15で混合したものであり、上記の基本構成では0.78gのCu・W混合体を使用した。
【】
リン銅箔は、銅94質量%、リン6質量%の合金箔((株)東洋溶材製、品番BC-106)であり、その溶融温度は、固相線705℃、液相線850℃である。ここでは、厚さが0.1mmのシート状のリン銅箔から直径9.4mmの円形に切り出して使用した。
【】
中間材3には、上記の基本構成のものだけでなく、さらにチタン箔とリン銅箔を積層したもの、純銅箔を積層したもの、Cu・W混合体の量を変更したもの等を使用した。チタン箔は、厚さが0.15mmのシート状の市販品から直径9.4mmの円形に切り出して使用した。純銅箔は、厚さが0.01mmのシート状の市販品から直径9.4mmの円形に切り出して使用した。Cu・W混合体は、上記の基本構成以外に、0.39gに調整したもの、Cu・W混合体不使用(0g)としたものを使用した。さらに、Cu・W混合体にその1質量%相当の合成樹脂(成形材料)を加えて混合し、質量1g、厚さ1.8mm、直径9.4mmの円盤状に成形したものを使用した。この円盤状の成形体は、熱処理炉において850℃の水素雰囲気下で1時間保持することにより、樹脂成分を除去しつつ堅牢な成形体とした。
【】
通電加熱法としては、放電プラズマ焼結法(Spark Plasma Sintering:SPS法)が好適である。放電プラズマ焼結法は、パルス通電加圧焼結装置を用いて、加熱対象を加圧しながら加熱対象に大電流の直流パルス通電を行って加熱するものである。加熱対象の電気抵抗に応じて発熱するので、電流値、通電時間、通電周期等によって加熱温度をコントロールすることができる。
【】
次に、
図4に基づいて、パルス通電加圧焼結装置10について説明する。
パルス通電加圧焼結装置10は、ケーシング11内に、内径10mmの円筒形状の人造黒鉛製のダイス12と、このダイス12に上下方向から挿入される直径9.5mmの円柱状の人造黒鉛製の1対のパンチ13,14を有する。1対のパンチ13,14の間には、例えば下から低放射化フェライト鋼材2、中間材3、タングステン材1の順に重ねられた加熱対象が載置される。加熱対象は、1対のパンチ13,14を介して機械的に加圧(圧縮)される。尚、パンチ13,14に加熱対象が固着することを防ぐため、加熱対象とパンチ13,14の間には、パンチ13,14と同径且つ厚さが0.2mmの不図示の黒鉛シートが夫々挟まれる。
【】
ケーシング11内には、下部治具として、パンチ13側ほど直径が小さくなる人造黒鉛製のスペーサ15が装備されている。同様に、上部治具として、パンチ14側ほど直径が小さくなる人造黒鉛製のスペーサ16が装備されている。
【】
ダイス12は、中段側面部分に開口部を有し、開口部に挿入された熱電対17によって加熱対象の温度(加熱温度)が測定される。この熱電対17の位置は、中間材3に対応する位置である。ダイス12の外周には、断熱のために、厚さが5mmの不図示のカーボンフェルトがダイス12を覆うように装着されている。ケーシング11は、これら上部治具と下部治具、ダイス12及び1対のパンチ13,14の周囲を気密に覆う。
【】
パルス通電加圧焼結装置10は、さらに加圧ユニット18とパルス電源19と冷却機構20と真空ユニット21とガス供給ユニット22を有する。加圧ユニット18は、上部治具と下部治具及びパンチ13,14を介して加熱対象を加圧する。パルス電源19は、パンチ13,14を介して加熱対象に直流パルス電流を印加する。冷却機構20は、冷媒を常時流通させて、少なくとも1対のパンチ13,14を冷却する。真空ユニット21は、ケーシング11内を排気する。ガス供給ユニット22は、ケーシング11内に例えば水素を3質量%含むアルゴンガスを供給する。
【】
パルス通電加圧焼結装置10を使用して、中間材3を介してタングステン材1と低放射化フェライト鋼材(RAFM鋼材)2を接合した接合体について、形成条件(中間材3の構成、加熱温度、加熱時間、圧力の何れか)が異なる実施例1~11及び比較例1,2の円柱状の試験体を作製した。試験体の作製には、住友石炭鉱業株式会社製のパルス通電加圧焼結装置(型式:SPS-515S、最大荷重50kN、 最大パルス電流出力1500A)を使用した。
【】
実施例1~11及び比較例1,2の試験体の共通の形成条件を示す。
加熱時のケーシング11内の雰囲気は、4Pa程度に真空引きした後、水素ガスを3質量%添加したアルゴンガスを導入することにより、50kPaの還元雰囲気とした。
昇温速度は、室温から加熱温度到達まで50℃/分~100℃/分とした。
加熱時間(加熱温度を維持する時間)の経過後は、加熱を停止し、水素ガスを3質量%添加したアルゴンガス雰囲気のケーシング11内で自然冷却した。このときの冷却速度は30℃/分~80℃/分であった。200℃以下まで冷却してからケーシング11内を真空状態にした後、大気を導入し、試験体を取り出した。
【】
形成した各試験体について、電子式万能試験機(株式会社米倉製作所製CATY-2002S)を使用して、せん断モードでクロスヘッドスピード1mm/分にて応力を掛けてせん断強度を測定した。せん断強度が高いほど接合が強固であると言うことができる。また、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を搭載した走査電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製JSM-IT200)を使用して、試験体の接合部分(破断部分)を適宜分析した。
【】
図5に実施例1~5及び比較例1の形成条件と、得られた試験体の評価結果を示す。実施例1~5と比較例1では、2枚のリン銅箔の間に質量0.78gのCu・W混合体を挟んだ基本構成に、さらにチタン箔とリン銅箔をタングステン材1側に積層した中間材3を使用した。そして、積層方向に40MPaで加圧した状態で、夫々異なる加熱温度で10分間加熱して接合した。加熱温度は、実施例1が800℃、実施例2が750℃、実施例3が720℃、実施例4が700℃、実施例5が650℃、比較例1が600℃である。
【】
チタン箔とリン銅箔と粒子間に空隙があるCu・W混合体を積層した中間材3は、電気抵抗が大きくなりがちな界面(接触面)が多く、通電時にタングステン材1及びRAFM鋼材2よりも発熱する。また、パルス通電なので、中間材3の温度は短時間での変動を繰り返す。そのため、熱電対17が測定する加熱温度がリン銅箔の融点より低くても、中間材3の中では局所的に及び瞬間的にリン銅箔が溶融する温度に達する場合がある。
【】
加熱温度のみが異なる実施例1~5及び比較例1について、加熱温度の低下に伴ってせん断強度が低下する傾向がある。加熱温度が650℃~800℃のときには接合することができたが、より低温の600℃で接合した比較例1は、せん断強度測定前に破断した。この比較例1は、加熱温度が低いため中間材3がタングステン材1と十分に反応せず、十分な強度で接合できなかったと考えられる。せん断強度は概ね10MPa以上あることが実用的には好ましいことから、加熱温度は700℃~800℃が好ましい。さらに、RAFM鋼材2の脆化抑制のためには加熱温度は低い方が好ましいことから、加熱温度は700℃~720℃が好適である。
【】
せん断強度測定後(破断後)の実施例3の試験体の接合部分における積層方向に平行な断面のSEM像を
図6に示す。
図6において、タングステン材1と中間材3が見えており、RAFM鋼材2がかつて存在していた部分には背景が見えている。最も明るく見える部分はタングステン(タングステン材1,粒状のタングステン)である。中間材3の粒状のタングステンの周りのやや暗い部分、及びタングステン材1に接しているやや暗い部分は、銅を主成分とする部分であり、銅を主成分とする部分の間の暗く見える部分はチタンである。中間材3は、積層構造を概ね維持した状態で一体化している。
【】
また、
図6中の矩形R部分の拡大断面SEM像とそのEDS元素マッピングを、
図7に示す。SEM像によれば、Cu・W混合体であった部分は、溶融したリン銅箔と反応して銅粉末が溶融、凝固し、銅の中に分散したタングステン粉末(粒状のタングステン)を包含した状態になっている。銅の中の粒状の暗い部分は空隙であり、Cu・W混合体に存在していた空隙の一部が残っている。EDS元素マッピングによれば、タングステン粉末を包含する銅にもリン(P)が含まれており、中間材3とRAFM鋼材2との接合面(破断面)にはリンと鉄(Fe)の偏析が見られる。
【】
次に、
図8に実施例6~11及び比較例2の形成条件と得られた試験体の評価結果を示す。実施例6は、上記の基本構成のみの中間材3を使用し、40MPaで加圧した状態で、720℃で10分間加熱して接合した。中間材3の構成のみが実施例3と異なり、せん断強度が実施例3(68MPa)よりも低い32MPaとなったが、十分な強度で接合することができた。チタン箔は、溶融したリン銅箔と反応してチタンが拡散し、このチタンが中間材3とタングステン材1との反応を促進して、接合を強固にすることができると考えられる。
【】
実施例7及び実施例8は、上記の基本構成にさらにチタン箔とリン銅箔をタングステン材1側に積層すると共に、純銅箔をRAFM鋼材2側に積層した中間材3を使用した。そして、40MPaで加圧した状態で、実施例7は720℃で10分間、実施例8は720℃で30分間加熱して接合した。中間材3の構成が実施例3と異なり、更に実施例8は加熱時間が実施例7よりも長い30分であるが、せん断強度が62MPa,57MPaと何れも実施例3と同程度のせん断強度となった。今回の試験体の接合に対して、加熱時間は10分で十分である。また、実施例3のリンと鉄の偏析から推定されるリンとRAFM鋼材2の過剰な反応を抑制するために、RAFM鋼材2側に純銅箔を介在させた場合でも十分な強度で接合することができる。
【】
実施例9は、Cu・W混合体にその1質量%相当の合成樹脂を加えて混合して質量1gの円盤状に成形した成形体をリン銅箔で挟み、そのタングステン材1側にさらにチタン箔とリン銅箔を積層したものを中間材3として使用した。そして、40MPaで加圧した状態で、720℃で10分間加熱して接合した。Cu・W混合体が成形体である点及び質量が大きい点が実施例3と異なり、せん断強度が25MPaで実施例3よりも低いが、十分な強度で接合することができた。成形したCu・W混合体は、粉末状よりも扱いが容易になり、接合体の生産性向上に寄与する。
【】
実施例10は、実施例3と同様の中間材3を使用し、他よりも低圧の5MPaで加圧した状態で、720℃で10分間加熱して接合した。加熱時の圧力のみが実施例3と比べて小さい5MPaであり、せん断強度が実施例3と比べて低い12MPaとなった。せん断強度は高い方が好ましいが、少なくとも5MPaで加圧した状態で接合すればよい。
【】
実施例11、比較例2は、中間材3として、上記の基本構成からCu・W混合体の質量を夫々0.39g(半量)、0g(Cu・W混合体無し)に変更すると共に、チタン箔とリン銅箔をタングステン材1側に積層したものを使用した。そして、40MPaで加圧した状態で、720℃で10分間加熱して接合した。実施例11は、実施例3と比べてCu・W混合体の量を半減しても十分に接合することが可能であり、せん断強度は49MPaであった。一方、Cu・W混合体を使用しない比較例2については、パルス通電加圧焼結装置10から取り出す際に既に破断しており、接合することができなかった。
【】
Cu・W混合体は、溶融したリン銅箔と反応して銅粉末が溶融するが、タングステン粉末は溶融せずに銅に包含される。熱膨張率がタングステンよりも大きい銅は、冷却したときに大きく収縮するため、接合後の中間材3の残留応力が大きくなって比較例2のように破断する。しかし、溶融した銅にタングステン粉末(粒状のタングステン)が分散状に含まれることにより、冷却したときの中間材3の収縮が抑制されて残留応力が緩和され、破断を防ぐことができると考えられる。
【】
以上のように、実施例1~11の接合体は、銅粉末とタングステン粉末の混合体をリン銅箔で挟んだ銅を主成分とする中間材3を介して、タングステン材1と低放射化フェライト鋼材2が接合されている。中間材3は、銅に固溶したリン銅箔由来のリンと、銅に分散した複数の粒状のタングステンを含有する。リンは、中間材3の銅の融点を低下させ、低放射化フェライト鋼材2の脆化を抑制できる温度での接合を可能にする。また、中間材3に粒状のタングステンが含まれることによって、接合後の中間材3の残留応力が緩和され、接合体の破断に至る中間材3のクラックや剥がれの発生を抑制することができる。
【】
また、タングステン材1側においてリン銅箔によって挟まれた状態に積層されたチタン箔は、溶融したリン銅箔と反応してチタンが拡散し、このチタンがタングステン材1と中間材3の反応を促進して接合を強固にすると考えられる。一方、低放射化フェライト鋼材2側に重ねられた純銅箔は、溶融したリン銅箔と反応して溶融し、低放射化フェライト鋼材2と反応する際に、リンと低放射化フェライト鋼の反応を抑えるバッファとして機能する。これにより、低放射化フェライト鋼材2の変質を抑制しながら接合することができる。また、Cu・W混合体は、合成樹脂を混合して成形した成形体とすることにより取り扱いが容易になり、接合体の形成が容易になる。
【】
本発明の作用、効果について説明する。
ダイバータに用いるためのタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体は、タングステン材1と低放射化フェライト鋼材2とが、銅を主成分とする中間材3を介して接合されている。この中間材3の銅には、リンが固溶している。また、中間材3には、銅に粒状のタングステンが分散した層が、タングステン材及び低放射化フェライト鋼材と接しないように形成されている。中間材3のリンは、接合する際に銅の融点がリンによって低下することを利用したものであり、低放射化フェライト鋼材2の脆化を抑制することができる温度で容易に接合可能にすると共に、接合部のせん断強度が10MPa以上となる十分な強度で接合することができる。また、中間材3に、銅に粒状のタングステンが分散した層が含まれていることによって、接合後の中間材3の残留応力が緩和され、中間材3におけるクラックの発生、接合面での剥がれの発生を抑制することができる。中間材3が、銅に粒状のタングステンが分散した層よりもタングステン材側に、さらにチタンを含有する層を有する場合には、この層のチタンが中間材3とタングステン材1との反応を促進して、強固に接合することができる。
【】
低放射化フェライト鋼材2には、冷媒を流通させるための冷媒通路が形成され、冷媒によって低放射化フェライト鋼材2を冷却することによりタングステン材1を冷却することができる。従って、タングステンと低放射化フェライト鋼の接合体を、例えば核融合炉の高温のプラズマが接触するプラズマ対向機器として利用することができる。
【】
ダイバータに用いるために、タングステン材1と低放射化フェライト鋼材2とは、銅を主成分とする中間材3であって、銅粉末とタングステン粉末の混合体(Cu・W混合体)を、リンを6質量%含むリン銅箔で挟んで積層状に構成された中間材3を介して接合される。このとき、中間材3の積層方向にタングステン材1と低放射化フェライト鋼材2とで中間材3を挟んで加圧した状態で通電加熱し、低放射化フェライト鋼の脆化を抑制することができる700℃から800℃までの温度に加熱して接合する。中間材3の銅の融点がリン銅箔のリンによって低下するので、低放射化フェライト鋼の脆化を抑制することができる低い温度でリン銅箔及び銅粉末の溶融を促進し、タングステン材1と低放射化フェライト鋼材2とを容易に、且つ接合部のせん断強度が10MPa以上となる十分な強度で接合することができる。また、この中間材3には、銅に溶融しない粒状のタングステンが分散状に含まれる層が形成されるため、接合後の中間材3の残留応力が緩和され、中間材3におけるクラックの発生、接合面での剥がれの発生を抑制することができる。
【】
中間材3は、そのタングステン材1側にさらにチタン箔とリン銅箔が積層されている。チタン箔は通電加熱によって溶融したリン銅箔と反応し、チタンが拡散する。このチタンによって、タングステン材1と中間材3の反応が促進され、接合を強固にすることができる。また、中間材3の低放射化フェライト鋼材2側に、さらに純銅箔が積層されていてもよい。純銅箔は、通電加熱によって溶融したリン銅箔と反応して溶融し、リン銅箔由来のリンが低放射化フェライト鋼材2側に拡散する際に、リンの低放射化フェライト鋼材2への到達を抑制する。従って、リンと低放射化フェライト鋼材2との過剰な反応を抑制し、接合による低放射化フェライト鋼材2の変質を抑制することができる。
【】
銅粉末とタングステン粉末の混合体が、合成樹脂を混合して成形した成形体である場合には、粉末状態の場合よりもこの混合体の取り扱いが容易になる。従って、タングステンと低放射化フェライト鋼の接合体の生産性を向上させることができる。リン銅箔、チタン箔及び純銅箔等の厚さ、及び銅粉末とタングステン粉末の混合体の量は、上記に限定されるものではなく、中間層3aが厚くなるほどタングステン材1と低放射化フェライト鋼材2の間の熱伝導性が低下することを考慮しながら、十分な接合強度となるように設定することができる。
【】
ダイバータ板A等に使用するタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体を作製する場合には、そのサイズに合わせた材料、治具、パルス通電加圧焼結装置を用いてタングステン材1と低放射化フェライト鋼材2を接合すればよい。加熱時間は、加熱対象の大きさに応じて設定するが、生産性の観点から60分以下であることが好ましい。その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、上記実施形態に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態を包含するものである。
【符号の説明】
【】
1 :タングステン材
2 :低放射化フェライト鋼材
3 :中間材
10 :パルス通電加圧焼結装置
11 :ケーシング
12 :ダイス
13,14:パンチ
15,16:スペーサ
17 :熱電対
18 :加圧ユニット
19 :パルス電源
20 :冷却機構
21 :真空ユニット
22 :ガス供給ユニット
【要約】
【課題】低放射化フェライト鋼の脆化を抑制し且つ容易に形成することができるタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体を提供すること。
【解決手段】タングステン材(1)と低放射化フェライト鋼材(2)とを接合したタングステンと低放射化フェライト鋼の接合体は、タングステン材と低放射化フェライト鋼材とが、銅を主成分とする中間材(3)を介して接合され、この中間材は、銅に固溶したリンと、銅に分散した粒状のタングステンを有する。
【選択図】
図2
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