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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-12
(54)【発明の名称】濃縮及び放射性同位元素生成
(51)【国際特許分類】
   G21G 1/10 20060101AFI20220104BHJP
   H05H 7/04 20060101ALI20220104BHJP
   H05H 6/00 20060101ALI20220104BHJP
   G21G 1/12 20060101ALI20220104BHJP
   G21K 5/08 20060101ALI20220104BHJP
   G21G 4/08 20060101ALI20220104BHJP
   B01D 59/44 20060101ALI20220104BHJP
   B01D 59/46 20060101ALI20220104BHJP
   B01D 59/48 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G21G1/10
H05H7/04
H05H6/00
G21G1/12
G21K5/08 R
G21G4/08 T
B01D59/44
B01D59/46
B01D59/48
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021514115
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(85)【翻訳文提出日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 EP2019074443
(87)【国際公開番号】W WO2020074209
(87)【国際公開日】2020-04-16
(31)【優先権主張番号】18200179.2
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504151804
【氏名又は名称】エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】デ ヤゲル,ピーター,ウィレム,ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】デルクセン,アントニウス,セオドルス,アンナ,マリア
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085AA05
2G085AA13
2G085BA17
2G085DA03
2G085DB08
(57)【要約】
一体型濃縮及び放射性同位元素生成装置は、電子ビームを提供するように配置され、電子入射器及び加速器を含む電子源と、電子ビームを用いて放射ビームを発生させるように構成されたアンジュレータと、放射ビームが交差する分子の流れを提供するように構成された分子流ジェネレータと、分子の流れから選択的に受容される分子又はイオンを受容するように構成されたレセプタクルと、使用中に電子ビームが入射するターゲットを保持するように構成されたターゲットサポート構造と、を備えている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを提供するように配置され、電子入射器及び加速器を含む電子源と、
前記電子ビームを用いて放射ビームを発生させるように構成されたアンジュレータと、
前記放射ビームが交差する分子の流れを提供するように構成された分子流ジェネレータと、
前記分子の流れから選択的に受容される分子又はイオンを受容するように構成されたレセプタクルと、
使用中に前記電子ビームが入射するターゲットを保持するように構成されたターゲットサポート構造と、
を備える一体型濃縮及び放射性同位元素生成装置。
【請求項2】
前記放射ビームは、前記分子の流れを少なくとも部分的にイオン化するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記装置は更に、前記少なくとも部分的にイオン化した分子の流れが横切る磁場を発生させるように構成された磁石を備える、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記装置は更に、前記少なくとも部分的にイオン化した分子の流れが横切る電場を発生させる電極を備える、請求項2又は請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記レセプタクルは2つ以上のレセプタクルのうち第1のレセプタクルであり、前記第1のレセプタクルは所望の同位元素と一致する質量を有するイオンを受容するように構成され、第2のレセプタクルは他のイオンを受容するように構成されている、請求項3又は請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記第1のレセプタクルは冷却プレートを含み、この冷却プレート上で前記イオンが凝縮又は凝固するか、又は、前記第1のレセプタクルは前記イオンをコンテナに注入するポンプを含む、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記放射ビームは赤外線放射ビームである、請求項2から6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記放射ビームは、前記分子の流れ内で所望の同位元素を励起するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記レセプタクルは2つ以上のレセプタクルのうち第1のレセプタクルであり、前記第1のレセプタクルは前記励起された所望の同位元素を含む分子を受容するように構成され、第2のレセプタクルは他の分子を受容するように構成されている、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記第1のレセプタクルは、前記励起された所望の同位元素を含む分子を受容するように構成された環状開口を含む、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記放射ビームは紫外線放射ビームである、請求項8から10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
電子入射器及び加速器を用いて電子ビームを提供することと、
アンジュレータを用いて、前記電子ビームを用いて放射ビームを発生させることと、
前記放射ビームが交差する分子の流れを提供することと、
レセプタクルにおいて、所望の同位元素を含む前記分子の流れからの分子又はイオンを選択的に受容することと、
所望の同位元素を含むターゲット上に前記電子ビームを誘導して放射性同位元素を発生させることと、
を含む、一体型濃縮及び放射性同位元素生成の方法。
【請求項13】
前記方法は更に、前記レセプタクルに受容された前記同位元素を抽出することと、これを用いて、前記電子ビームが入射するその後のターゲットを形成することと、を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記放射ビームは前記分子の流れを少なくとも部分的にイオン化し、前記少なくとも部分的にイオン化した分子の流れはその後、それらの質量に従ってイオンの軌道を変更する磁場及び/又は電場を通過する、請求項12又は13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記放射ビームは、前記分子の流れ内で所望の同位元素を励起し、前記所望の同位元素を含有する前記分子はその後、前記分子の流れ内の他の分子から発散する、請求項12から14のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
[0001] 本出願は、2018年10月12日に出願されて援用により全体が本願に含まれるEP出願第18200179.2号の優先権を主張する。
【0002】
[0002] 本発明は、一体型(combined)濃縮及び放射性同位元素生成装置に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003] 放射性同位元素は、安定でない同位元素である。放射性同位元素は、陽子及び/又は中性子を放出することによって、ある時間期間の後に崩壊する。放射性同位元素は医療診断及び治療のために使用され、また、工業用途にも使用される。
【0004】
[0004] 最も一般的に用いられる医療用放射性同位元素は、診断用途に用いられるTc-99m(テクネチウム)である。Tc-99mの生成には、高中性子束原子炉(high flux nuclear reactor)が使用される。原子炉内で、U-238とU-235の混合物を含むウランを中性子と衝突させる。中性子誘起のU-235の自発核分裂が生じ、U-235はMo-99とSn(x13)と中性子に分離する。また、U-238の光核分裂もMo-99を発生させ得る。Mo-99は他の核分裂生成物から分離され、放射性医薬品専門薬局(radiopharmacy)に出荷される。Mo-99は66時間の半減期を有し、崩壊することでTc-99mになる。Tc-99mはわずか6時間の半減期を有する(これは医療診断技術にとって有用である)。Tc-99mは放射性医薬品専門薬局においてMo-99から分離され、次いで医療診断技術のために使用される。
【0005】
[0005] Mo-99は、医療診断技術用のTc-99mを発生させるため全世界で広く用いられている。しかしながら、Mo-99を発生させるために使用できる高中性子束原子炉はごく少数である。これらの高中性子束原子炉を用いて他の放射性同位元素も作られる。高中性子束原子炉は全て設置後40年を超えており、無期限に動作し続けることは期待できない。
【発明の概要】
【0006】
[0006] 代替的な放射性同位元素生成装置及びそれに関連した方法及び/又はシステムを提供することが望ましいと見なすことができる。
【0007】
[0007] 本発明の一態様によれば、一体型濃縮及び放射性同位元素生成装置が提供される。この装置は、電子ビームを提供するように配置され、電子入射器及び加速器を含む電子源と、電子ビームを用いて放射ビームを発生させるように構成されたアンジュレータと、放射ビームが交差する分子の流れを提供するように構成された分子流ジェネレータと、分子の流れから選択的に受容される分子又はイオンを受容するように構成されたレセプタクルと、使用中に電子ビームが入射するターゲットを保持するように構成されたターゲットサポート構造と、を備える。
【0008】
[0008] この装置は、放射性同位元素の発生と濃縮に使用される放射ビームの発生とに同一の電子源を利用するので有利である。放射性同位元素の生成と濃縮は、同一の電子源を用いて同時に実行することができる。このように電子源を兼用することでコストを削減する。
【0009】
[0009] 放射ビームは、分子の流れを少なくとも部分的にイオン化するように構成できる。
【0010】
[0010] 装置は更に、少なくとも部分的にイオン化した分子の流れが横切る磁場を発生させるように構成された磁石を含むことができる。
【0011】
[0011] 装置は更に、少なくとも部分的にイオン化した分子の流れが横切る電場を発生させる電極を含むことができる。
【0012】
[0012] レセプタクルは、2つ以上のレセプタクルのうち第1のレセプタクルとすることができる。第1のレセプタクルは、所望の同位元素と一致する質量を有するイオンを受容するように構成できる。第2のレセプタクルは、他のイオンを受容するように構成できる。
【0013】
[0013] 第1のレセプタクルは冷却プレートを含むことができ、この冷却プレート上でイオンが凝縮又は凝固する。第1のレセプタクルは、イオンをコンテナに注入するポンプを含むことができる。
【0014】
[0014] 放射ビームは赤外線放射ビームとすることができる。
【0015】
[0015] 放射ビームは、分子の流れ内で所望の同位元素を励起するように構成できる。
【0016】
[0016] レセプタクルは、2つ以上のレセプタクルのうち第1のレセプタクルとすることができる。第1のレセプタクルは、励起された所望の同位元素を含む分子を受容するように構成できる。第2のレセプタクルは、他の分子を受容するように構成できる。
【0017】
[0017] 第1のレセプタクルは、励起された所望の同位元素を含む分子を受容するように構成された環状開口を含むことができる。
【0018】
[0018] 第1のレセプタクルは冷却プレートを含むことができ、この冷却プレート上で所望の同位元素を含む分子が凝縮又は凝固する。第1のレセプタクルは、所望の同位元素を含む分子をコンテナに注入するポンプを含むことができる。
【0019】
[0019] 放射ビームは紫外線放射ビームとすることができる。
【0020】
[0020] 装置は更に、加速器へ送出されるパワーを調整することによって放射ビームの波長を制御するように構成されたコントローラも含むことができる。
【0021】
[0021] 本発明の第2の態様によれば、一体型濃縮及び放射性同位元素生成の方法が提供される。この方法は、電子入射器及び加速器を用いて電子ビームを提供することと、アンジュレータを用いて、電子ビームを用いて放射ビームを発生させることと、放射ビームが交差する分子の流れを提供することと、レセプタクルにおいて、所望の同位元素を含む分子の流れからの分子又はイオンを選択的に受容することと、所望の同位元素を含むターゲット上に電子ビームを誘導して放射性同位元素を発生させることと、を含む。
【0022】
[0022] この方法は、放射性同位元素の発生と濃縮に使用される放射ビームの発生とに同一の電子源を利用するので有利である。放射性同位元素の生成と濃縮は、同一の電子源を用いて同時に実行することができる。このように電子源を兼用することでコストを削減する。その後、濃縮方法を用いて生成された濃縮同位元素を、放射性同位元素生成方法により使用することができる。
【0023】
[0023] 方法は更に、レセプタクルに受容された同位元素を抽出することと、これを用いて、電子ビームが入射するその後のターゲットを形成することと、を含むことができる。
【0024】
[0024] 電子ビームは約14MeV以上のエネルギを有することができる。
【0025】
[0025] 放射ビームは、分子の流れを少なくとも部分的にイオン化することができる。少なくとも部分的にイオン化した分子の流れはその後、それらの質量に従ってイオンの軌道を変更する磁場及び/又は電場を通過することができる。
【0026】
[0026] 所望の同位元素と一致する質量を有するイオンが第1のレセプタクルで受容され得る。
【0027】
[0027] 放射ビームは、分子の流れ内で所望の同位元素を励起することができる。所望の同位元素を含有する分子はその後、分子の流れ内の他の分子から発散することができる。
【0028】
[0028] 所望の同位元素を含む分子は第1のレセプタクルで受容することができる。
【0029】
[0029] 本発明のいずれかの所与の態様の特徴を、本発明の他の態様の特徴と組み合わせてもよい。
【0030】
[0030] 上述した又は後述する本発明の様々な態様及び特徴を、当業者に容易に明らかとなるような本発明の他の様々な態様及び特徴と組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
[0031] これより、本発明の実施形態について添付図面を参照して単に一例として記載する。
【0032】
図1】本発明の一実施形態に従った一体型濃縮及び放射性同位元素生成装置の概略図である。
図2a図1の放射性同位元素生成装置のターゲットの概略図である。
図2b図1の放射性同位元素生成装置の代替的なターゲットの概略図である。
図3】本発明の代替的な実施形態に従った一体型濃縮及び放射性同位元素生成装置の一部を形成し得る代替的な濃縮装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[0032] 図1は、本発明の一実施形態に従った一体型濃縮及び放射性同位元素生成装置2を概略的に示す。一体型装置2の濃縮装置4は、濃縮Mo-100を発生させるように構成されている。これは、Mo-100、Mo-98、及び他のMo同位元素の混合物から出発するか、又は、MoF又はMoO等のモリブデンを含有する化合物から出発することができる。一体型装置の放射性同位元素生成装置6は、濃縮Mo-100をMo-99に変換するように構成されている。Mo-99は崩壊することでTc-99mになり、Tc-99mはMo-99から分離されて医療診断技術に用いることができる。
【0034】
[0033] 一体型装置2は、電子入射器8及び電子加速器10を備えている。電子加速器10は線形加速器とすることができる。電子入射器8及び線形加速器10は双方とも、濃縮装置4の一部を形成すると共に放射性同位元素生成装置6の一部を形成する。
【0035】
[0034] 電子入射器8は、バンチ化電子ビームEを生成するように配置され、電子源(例えばパルスレーザビームで照明される光電陰極又は熱イオン放出源)を含む。
【0036】
[0035] 電子ビームE内の電子は、磁石(図示せず)によって電子入射器8から線形加速器10へ方向操作することができる。線形加速器10は電子ビームEを加速する。一例において、線形加速器10は、軸方向に離間した複数の無線周波数キャビティと、1つ以上の無線周波数電力源と、を含み得る。これらの電力源は、電子バンチがキャビティ間を通過する際に各電子バンチを加速するよう共通の軸に沿って電磁場を制御するように動作する。キャビティは超伝導無線周波数キャビティとすることができる。有利な点として、これにより、比較的大きい電磁場を高いデューティサイクルで適用すること、ビーム口径を大きくして航跡場による損失を低減すること、及び、(キャビティ壁を通して放散するのとは対照的に)ビームへ伝送される無線周波数エネルギの割合を増大させること、が可能となる。あるいは、キャビティを従来の伝導性(すなわち超伝導でない)として、例えば銅で形成することも可能である。他のタイプの線形加速器、例えばレーザ航跡場加速器又は逆自由電子レーザ加速器を使用してもよい。線形加速器の代わりに、シンクロトロン又はロードトロン(rhodotron)等のリング加速器を使用してもよい。
【0037】
[0036] 線形加速器10は、単一のモジュールから又は複数のモジュールから構成することができる。図1では線形加速器10が単一の軸に沿って配置されているものとして示されているが、線形加速器は、全てが単一の軸上にあるわけではない複数のモジュールを含み得る。例えば、いくつかの線形加速器モジュールと他の線形加速器モジュールとの間に屈曲部(bend)が存在することがある。
【0038】
[0037] 線形加速器10は、例えば電子を約14MeV以上のエネルギに加速することができる。線形加速器は、電子を約30MeV以上のエネルギに加速することも可能である(例えば最大で約75MeV、最大で約90MeV、又は最大で約100MeV)。
【0039】
[0038] 放射性同位元素生成装置6は、電子ビームスプリッタ12も備えている。線形加速器10と電子ビームスプリッタ12との間にアンジュレータ16が配置されている。アンジュレータは、放射性同位元素生成装置6の動作に対して著しい効果を及ぼさないが、濃縮装置4の重要なコンポーネントである(以下で更に検討する)。電子ビームスプリッタ12は、電子ビームEを2つの伝搬経路に沿って分割するように配置されている。すなわち、ターゲット14の一方側へ向かう第1の伝搬経路と、ターゲット14の反対側へ向かう第2の伝搬経路である。各伝搬経路に沿って電子ビームEを方向操作するため、磁石(図示せず)を設けることができる。当業者に理解されるように、電子ビームEはパルス列と呼ぶことができるものである。電子ビームスプリッタ12は、パルスの一部を第1の経路に沿って、パルスの一部を第2の経路に沿って誘導するように配置されている。例えば、電子ビームE内のパルスの50%を第1の経路に沿って送出し、パルスの50%を第2の経路に沿って送出することができる。しかしながら、(2つの伝搬経路間で)パルスの任意の比を使用できることは認められよう。
【0040】
[0039] 電子ビームスプリッタ12は、任意の適切な手段を用いて実施することができ、例えば磁気又は静電気による偏向を利用した偏向器(例えばキッカー(kicker))とすればよい。分割は、電子ビームEからの熱負荷がターゲット14の各側で実質的に均等に分布するよう充分に高い周波数で実行され得る。いくつかの実施形態では、パルス間でスイッチングの時間をとるため、電子ビームE内でパルスをスキップしてもよい。一例として、パルスが375MHzで発生される場合、20ミリ秒ごとに1000のパルスをスキップして、ビームスプリッタ12が電子ビームEの伝搬経路をスイッチングするために約3ミリ秒を確保することができる。
【0041】
[0040] ターゲット14は、電子ビームEの電子を受け取り、電子を用いてソース材料を放射性同位元素に変換するよう構成されている。この実施形態では、ターゲット14は、光子誘起中性子放出(photon induced neutron emission)によってMo-99に変換されるMo-100とすることができる(Mo-100はMoの天然に存在する安定した同位元素である)。光子が発生する機構は、電子がターゲット14に衝突する結果として発生する制動放射(Bremsstrahlung radiation)(英語ではbraking radiation(制動放射))である。このようにして発生する光子のエネルギは、例えば100keVより大きい、1MeVより大きい、更には10MeVより大きいことがある。光子は極めて硬いX線として記述できる。
【0042】
[0041] この反応は8.29MeVの閾値エネルギを有するので、光子ターゲットに入射する光子が8.29MeV未満のエネルギを有する場合は発生しない。反応は、約14MeVにピークがある断面積を有する(反応断面積は、所与のエネルギを有する光子によって反応が誘起される可能性を示す)。言い換えると、反応は約14MeVに共振ピークを有する。従って、一実施形態では、約14MeV以上のエネルギを有する光子を用いてMo-100光子ターゲットをMo-99に変換することができる。
【0043】
[0042] 制動放射で発生する光子のエネルギは、電子ビームE内の電子のエネルギによって決まる上限を有する。光子はエネルギ分布を有するが、その分布の上限は電子ビーム内の電子のエネルギを超えることはない。従って、Mo-100光子ターゲットをMo-99に変換するため用いられる実施形態において、電子ビームは少なくとも8.29MeVのエネルギを有する。一実施形態において、電子ビームEは約14MeV以上のエネルギを有し得る。
【0044】
[0043] 電子ビームのエネルギが増大すると、(同一の電子流に対して)所望の反応を発生させるのに充分なエネルギを有する光子の発生が増加する。例えば、上述のように、Mo-99の発生は約14MeVにピークのある断面積を有する。電子ビームEが約28MeVのエネルギを有する場合、各電子は約14MeVのエネルギを有する光子を2つ発生し、これによって光子ターゲットのMo-99への変換を増大させることができる。しかしながら、電子ビームのエネルギが増大すると、高いエネルギを有する光子が他の望ましくない反応を誘起する。例えば、光子が誘起する中性子及び光子の放出は18MeVの閾値エネルギを有する。この反応は、Mo-99を発生させずに望ましくない反応生成物を発生させるので望ましくない。
【0045】
[0044] 通常、電子ビームのエネルギ(従って光子の最大エネルギ)の選択は、望ましい生成物(例えばMo-99)の生産量(yield)と望ましくない生成物の生産量との比較に基づくことができる。一実施形態において、電子ビームは約14MeV以上のエネルギを有し得る。電子ビームEは、例えば約30MeV以上(例えば最大で約45MeV)のエネルギを有し得る。この電子ビームエネルギ範囲は、14MeVの反応共振ピーク付近のエネルギを有する光子の良好な生産性を与えることができる。しかしながら、他の実施形態では電子ビームは他のエネルギを有し得る。例えば、電子ビームは60MeVのエネルギを有する。このエネルギの電子は複数の反応を発生させ、これによって生産量を増大させることができる。
【0046】
[0045] 図2aは、ターゲット14の例示的な構成を概略的に示す。図2aにおいて、ターゲット14は、サポート構造31によって支持されたMo-100の複数のプレート32を含む。上述したように、電子ビームE内の電子がプレート32に入射すると、光子が放出される。図2aでは、ターゲット14から放出される光子は概略的に波線γで示されている。光子γがMo-100原子核に入射すると、原子核から中性子が飛び出す光核反応を発生させることができる。Mo-100原子はこれによりMo-99原子に変換される。図2aの構成において、プレート32は電子ターゲット及び光子ターゲットの双方であると見なすことができる。
【0047】
[0046] ターゲット14は、ある時間期間にわたって光子γを受け取ることができ、この時間期間中にターゲット14内のMo-99の割合が増大すると共にターゲット中のMo-100の割合が低下する。ターゲット14はその後、処理及び放射性医薬品専門薬局への輸送のため放射性同位元素生成装置6から除去される。その後、Mo-99の崩壊生成物であるTc-99が抽出され、医療診断用途に用いられる。
【0048】
[0047] 図2bは、ターゲット14の代替的な例示の構成を概略的に示す。図2bにおいて、ターゲット14は別個の電子ターゲット34を更に含む。別個の電子ターゲットが提供される場合、ターゲットプレート32は光子ターゲットと見なすことができる。電子ターゲット34は例えば、タングステン、タンタル、又はその他の、電子を減速し光子を発生する何らかの材料から形成され得る。しかしながら、電子ターゲット34を光子ターゲット(例えばMo-100)と同じ材料から形成してもよい。電子ターゲットはサポート構造33a、33bによって保持されている。
【0049】
[0048] 図2a及び図2bに示されているターゲット14は3枚のプレートを含むが、ターゲットは任意の適切な数のプレートを含むことができる。記載されているターゲットはMo-100を含むが、光子ターゲットは任意の適切な材料を含むことができる。同様に、ターゲットの材料は任意の適切な形状及び/又は構成で提供できる。ターゲット14の周囲に遮蔽(例えば鉛遮蔽)を提供してもよい。
【0050】
[0049] 図2bの各電子ターゲット34a、34bは単一の材料ブロックとして図示されている。しかしながら、各電子ターゲットを複数のプレートとして提供してもよい。これらのプレートは、例えば、上述したターゲットプレート32の構成に対応する構成を有し得る。同様に、サポート構造33a、33bは、複数の電子ターゲットプレートを保持するように構成することができる。
【0051】
[0050] 電子ターゲット34及びターゲットプレート32に、冷却液を流す導管を備えることも可能である。
【0052】
[0051] 他の形態のターゲットサポート構造を提供することも可能である。
【0053】
[0052] 図2a及び図2bの双方において、電子ビームEはターゲット14の各側で受け取られる。ターゲット14全体で熱負荷をいっそう均一に分布させることにより、発生する全温度を低下させ、これによって(電子ビームEをターゲット14の一方側にのみ誘導するのに比べて)冷却要件を緩和すると共に単純化する。
【0054】
[0053] 本発明の他の実施形態では、電子ビームスプリッタ12は存在しない。このような実施形態では、単一の電子ビームがターゲット14に入射することができる。
【0055】
[0054] 先に注記したように、電子入射器8及び線形加速器10は、放射性同位元素生成装置6の一部を形成することに加えて、濃縮装置4の一部を形成する。濃縮装置4は更にアンジュレータ16も含む。電子ビームEは、線形加速器10による加速の後、アンジュレータ16に入射する。任意選択的に、電子ビームEは、線形加速器10とアンジュレータ16との間に配置されたバンチ圧縮器(図示せず)を通過してもよい。バンチ圧縮器は、電子ビームE内に存在する電子バンチを空間的に圧縮するように構成できる。
【0056】
[0055] アンジュレータ16は複数のモジュール又は単一のモジュールを含み得る。単一のモジュール又は各モジュールは周期的磁石構造を含み、これは周期磁場を生成するように動作可能であり、電子入射器8及び線形加速器10によって生成された電子ビームEをモジュール内の周期経路に沿って誘導するように配置されている。アンジュレータ16が生成した周期磁場によって、電子は中心軸を中心とした振動経路を進む。この結果、アンジュレータ16内で、電子は概ねアンジュレータの中心軸の方向に電磁放射を放射する。放射された電磁放射は放射ビームB(例えば赤外線放射)を形成する。ビームBはMoのガス流と交差するように誘導され、これによってMoの濃縮を容易にする(以下で更に記載される)。
【0057】
[0056] アンジュレータ16内で電子ビームEの電子が進む経路は正弦曲線かつ平面状であり、電子は周期的に中心軸を横切る。あるいは、経路はらせん状であり、電子は中心軸を中心として回転する。振動経路のタイプは、アンジュレータ16が放出する放射ビームBの偏光に影響を及ぼし得る。
【0058】
[0057] 電子は、アンジュレータ16を通って移動する際に放射の電場と相互作用し、放射とエネルギを交換する。通常、条件が共振条件に近くない限り、電子と放射との間で交換されるエネルギ量は高速で振動する。共振条件下では、電子と放射との相互作用によって電子はバンチ化して、アンジュレータ内の放射の波長で変調されたマイクロバンチ(microbunch)になり、中心軸に沿ったコヒーレントな放射放出が励起される。共振条件は以下によって与えられる。
【数1】
ここで、λemは放射の波長であり、λは電子が伝搬しているアンジュレータモジュールのアンジュレータ周期であり、γは電子のローレンツ因子であり、Kはアンジュレータパラメータである。Aはアンジュレータ16のジオメトリに依存する。円偏光放射を生成するヘリカルアンジュレータではA=1であり、平面アンジュレータ(planar undulator)ではA=2であり、楕円偏光(円偏光でもなく直線偏光でもない)放射を生成するヘリカルアンジュレータでは1<A<2である。実際には、各電子バンチはある幅のエネルギを有するが、この幅は(電子ビームEを低いエミッタンスで生成することによって)できる限り最小限に抑えることができる。アンジュレータパラメータKは典型的に約1であり、以下によって与えられる。
【数2】
ここで、q及びmはそれぞれ電子の電荷及び質量であり、Bは周期磁場の振幅であり、cは光の速度である。
【0059】
[0058] 共振波長λemは、単一のアンジュレータモジュール又は各アンジュレータモジュールを通って移動する電子が自発的に放射する第1高調波波長に等しい。電子入射器8、加速器10、及びアンジュレータ16は、共に自由電子レーザと見なすことができる。
【0060】
[0059] アンジュレータ16によって発生する放射ビームBは、赤外線放射ビームとすることができる。例えば、放射ビームBは約10ミクロン(例えば9ミクロン~11ミクロンの間)の波長を有し得る。約10ミクロンの波長はモリブデンの濃縮に特に適している。
【0061】
[0060] 一実施形態において、加速器10からアンジュレータ16へ送出される電子ビームは約60MeVのエネルギを有し得る。アンジュレータ16は約140mmの磁気周期を有し得る。アンジュレータが放出する放射ビームBの飽和を与えるには、約4.5メートルのアンジュレータ長で充分であり得る。75pCのバンチ電荷及び10fsのバンチ長の各電子パルスによって、約100μJの赤外線放射が生成される。バンチ周波数は375MHzである。この電子ビーム及びアンジュレータパラメータのセットによって、35kWを超える赤外線放射ビームBのパワーを発生することができる。別の例では、バンチ周波数は約1.3HGzであり得る。通常、電子ビームEのパラメータは任意の適切なパラメータとすればよく、所望のパワーの放射ビームBを提供するように選択できる。
【0062】
[0061] アンジュレータ30を用いた赤外線放射ビームBの発生は、電子ビームEのエネルギのごく一部だけを奪う。この結果、電子ビームEは依然として、露光セル14内でMo-99(又はMoを含有する化合物)をMo-100に変換するための充分なエネルギを有する。
【0063】
[0062] ビームステアリングミラー42は、赤外線ビームBをモリブデン(又はモリブデンを含有する化合物)のガス流の方へ誘導する。単一のビームステアリングミラー42が図示されているが、実際には、放射ビームの位置を更に柔軟に調整可能とするため2つ以上のビームステアリングミラーを提供してもよい。図1の概略的な性質のため、赤外線ビームBは電子ビームEと交差するように見える。しかしながら、赤外線放射ビームBは電子ビームEの周囲を(例えば電子ビームの上方又は下方を)進むよう容易に誘導することができる。
【0064】
[0063] 濃縮装置4は、モリブデン流ジェネレータ44と、磁石45と、第1のレセプタクル58と、第2のレセプタクル60と、を備えている。モリブデン流ジェネレータ44、磁石45、及びレセプタクル58、60は、これらが外部環境から隔離されるように密閉された筐体62内に提供することができる。赤外線ビームBが筐体内に入射することを可能とするため、筺体62にウィンドウ52が設けられている。
【0065】
[0064] モリブデン流ジェネレータ44は、MoO、又はMoF、又は他の何らかの気体モリブデン含有分子を収容したコンテナ54を含み得る。他の気体モリブデン含有分子を使用してもよいが、これらは、ガスを形成するために例えば200℃を超える高温に加熱する必要があり得る(MoFは34℃ちょうどで沸騰する)。コンテナ54は一端に開口を含む。開口は、気体モリブデン含有分子の流れ46を発生させるように構成されたノズル56を含む。赤外線ビームBは、気体モリブデン含有分子の流れと交差し、この流れを少なくとも部分的にイオン化する。一実施形態では、MoOから酸素原子を奪ってMoOを形成することができる。別の実施形態では、MoFからフッ素原子を奪ってMoFを形成することができる。少なくとも部分的にイオン化した分子の流れは、磁石45によって発生した磁場48を通過する。追加的に又は代替的に、電極に印加した差動電圧を用いて電場を発生させてもよい。相互に直交する電場及び磁場が、最も効果的な分子の分離を与えることができる。
【0066】
[0065] 流れ46のイオンが磁石45により発生した磁場を通って進む経路は、イオンの質量と電荷に依存する。この結果、高質量のイオンを有する分子(例えばMo-100を含有する分子)は、低質量のイオン(例えばMo-92~Mo-98を含有する分子)とは異なる位置及び異なる軌道で磁場から出る。
【0067】
[0066] 高質量のイオン(Mo-100を含有する分子)は、第1のイオン流47aを形成する。この第1のイオン流47aは第1のレセプタクル58に入射し、第1のレセプタクル内に維持される。通常、所望の同位元素に一致する質量を有するイオンが、第1のレセプタクル58により受容される。第1のレセプタクル58は例えば冷却プレートを含むことができ、この冷却プレート上でガス状分子が凝縮又は凝固する。あるいは、第1のレセプタクルは、ガス状分子をコンテナに注入するポンプを含み得る。
【0068】
[0067] 第2のイオン流47bは、異なる軌道を有し、第2のレセプタクル60に入射する。低質量のイオンから成る第2のイオン流は、第2のレセプタクル60内に維持される。通常、所望の同位元素に一致しない質量を有するイオンが、第2のレセプタクル60により受容される。第2のレセプタクル60は例えば冷却プレートを含むことができ、この冷却プレート上でガス状分子が凝縮又は凝固する。あるいは、第2のレセプタクルは、ガス状分子をコンテナに注入するポンプを含み得る。
【0069】
[0068] このように、濃縮装置4は、Mo-92~Mo-98を含有する分子からMo-100を含有する分子を分離する。言い換えると、Mo-100の割合を増大させるモリブデンの濃縮が達成される。濃縮されたMoは、本文書の他の箇所で記載されるターゲット32の一部を形成する。
【0070】
[0069] 方程式(1)及び(2)から認められるように、アンジュレータ16から出力する放射ビームBの波長は、アンジュレータ磁場の周期又は電子のローレンツ因子(これは電子のエネルギによって決定される)の適切な選択によって選択することができる。本文書の他の箇所で注記されるように、電子は数十MeVの広範囲にわたってMo-100に入射し、かなり効率的なMo-99への変換を行うことができる。このため、Mo濃縮のために赤外線放射ビームBの特定の波長が必要である場合、その波長を有する放射ビームがアンジュレータ16により発生されるまで、電子ビームEのエネルギを調整すればよい。電子ビームEのエネルギの調整は、アンジュレータの周期性の調整よりも著しく容易である。電子ビームEのエネルギは、加速器10へ送出されるパワーを調整することで調整できる。この調整はコントローラ(図示せず)によって制御できる。コントローラは、放射ビームの波長を示すフィードバックを受信し、フィードバックループを用いて放射ビームの波長を所望の波長に保つよう動作することができる。
【0071】
[0070] 図3に代替的な濃縮装置が概略的に示されている。代替的な濃縮構成では、コンテナ54及びノズル56を含むモリブデン流ジェネレータ44を用いて、気体モリブデン含有分子(例えばMoO又はMoF)の流れ70を提供する。通常、ジェネレータ44は分子の流れを発生するように構成されており、分子流ジェネレータと呼ぶことができる。放射ビームBは流れ70と交差する。放射ビームの波長は、モリブデンの特定の同位元素(例えばMo-100)を励起するように選択される。すなわち、放射ビームBの波長はその同位元素の原子遷移と一致し、他の同位元素のものとは一致しないので、その同位元素によって優先的に吸収される。放射ビームBを優先的に吸収する同位元素(例えばMo-100)が励起され、従って更に振動する。これにより、その同位元素を含有する分子は、モリブデン含有分子の流れの中心軸から発散する。この結果、流れ70は、放射ビームBの上流と同じ発散度の第1の部分70aと、放射ビームの上流よりも大きい発散度の第2の部分70bと、を含む。
【0072】
[0071] 分子の流れの第2の部分70bを受容するように第1のレセプタクル72が配置されている。第1のレセプタクル72は環状開口を含み得る。第1のレセプタクル72は概ね環状とすることができる。流れの分子の第1の部分70aを受容するように中央レセプタクル74が配置されている。中央レセプタクル74を第2のレセプタクルと呼ぶことができる。このようにして、Mo-100のような同位元素をMO-92~MO-98のような他の同位元素から分離することができる。
【0073】
[0072] 第1のレセプタクル72は、例えば冷却プレートを含むことができ、この冷却プレート上で所望の同位元素を含有する分子が凝縮又は凝固する。あるいは、第1のレセプタクル72は、所望の同位元素を含有する分子をコンテナに注入するポンプを含み得る。第2のレセプタクル74は、例えば冷却プレートを含むことができ、この冷却プレート上で他の分子が凝縮又は凝固する。あるいは、第2のレセプタクル74は、他の分子をコンテナに注入するポンプを含み得る。
【0074】
[0073] 図3に示されている濃縮装置は、適切に制御された波長を有する放射ビームBを使用する。すなわち、この波長は、確実に1つのモリブデン同位元素を他のモリブデン同位元素よりも優先的に励起するよう充分に正確に制御されている。電子入射器8、加速器10、及びアンジュレータ16(これらは共に自由電子レーザを構成し得る)は、良好な安定性と調整機能を提供し、従って、充分に適切に制御された所望の波長を有する放射ビームBを提供することができる。上記のように、放射ビームBの波長は、加速器10へ送出されるパワーを調整することによって制御できる。
【0075】
[0074] Mo-100の電子軌道は、原子核に近いMo-92~Mo-98の電子軌道とは大きく異なる。これらの電子軌道のエネルギは、赤外線放射よりも短い波長に一致する。この理由のため放射ビームBは、例えば紫外線放射のように、赤外線放射よりも短い波長を有し得る。紫外線放射ビームは、例えば、赤外線ビームに対して周波数倍増(例えば1つ以上の周波数倍増クリスタルを使用する)のような非線形効果を適用することにより発生させることができる。
【0076】
[0075] 図1に示した実施形態では、電子ビームスプリッタ12を用いて電子ビームEを分割する。電子ビームスプリッタ12は、電子ビームの分割に加えて、電子ビームEを赤外線放射ビームBからも分離する。代替的な構成(図示せず)では、電子ビームが赤外線放射ビームBから離れる方へ曲がるように、磁石を用いて電子ビームEの経路を曲げることができる。このようにして電子ビームEと赤外線放射ビームBを分離できる。
【0077】
[0076] 上述の記載はモリブデンの濃縮に関するが、本発明の実施形態は、例えばウランのような他の材料の濃縮にも使用できる。
【0078】
[0077] 一実施形態において、電子入射器8、加速器10、及びアンジュレータ16は、10mA以上の電流を有する電子ビームEを提供するように構成できる。電流は、例えば最大で100mA以上とすることができる。高い電流(例えば10mA以上)を有する電子ビームEは、放射性同位元素生成装置6が生成する放射性同位元素の比放射能を増大するので有利である。
【0079】
[0078] 上述したように、電子ビームが電子ターゲットに衝突することにより発生する極めて硬いX線光子を用いて、Mo-100をMo-99(所望の放射性同位元素)に変換することができる。Mo-99の半減期は66時間である。この半減期の結果として、Mo-100から出発する場合に提供できるMo-99の比放射能には限界があり、この限界はMo-99の発生率によって決定される。例えば約1~3mAの電子ビーム電流を用いて、比較的低い率でMo-99を発生させる場合、ターゲットにおいて約40Ci/gを超えるMo-99の比放射能を与えることは不可能であり得る。その理由は、より多くのMo-99原子の発生を目的として照射時間を延長することは可能であるが、照射時間中にそれらの原子のかなりの割合が崩壊するからである。欧州で医療用途に使用されるMo-99の比放射能の閾値は100Ci/gでなければならないので、40Ci/g以下の比放射能を有するMo-99は有用でない。
【0080】
[0079] より大きい電子ビーム電流を用いた場合、Mo-99原子の発生率はそれに応じて増大する(光子を受容するMo-99の体積は同一のままであると仮定する)。従って、例えば所与の体積のMo-99では、10mAの電子ビーム電流によって、1mAの電子ビーム電流で与えられる発生率の10倍でMo-99が発生する。本発明の実施形態で用いられる電子ビーム電流は、100Ci/gを超えるMo-99の比放射能を達成するほど充分に高くすることができる。例えば本発明の一実施形態は、約30mAのビーム電流の電子ビームを提供できる。シミュレーションによって、約30mAのビーム電流では、電子ビームが約35MeVのエネルギを有すると共にMo-100ターゲットの体積が約5000mmである場合、100Ci/gを超えるMo-99の比放射能が得られることが示されている。Mo-100ターゲットは、例えば、直径が約25mmで厚さが約0.5mmのプレートを20枚含み得る。非円形の形状及び他の厚さを有し得るプレートを他の枚数だけ用いてもよい。
【0081】
[0080] 実施形態は、以下の条項を用いて更に記載することができる。
1.電子ビームを提供するように配置され、電子入射器及び加速器を含む電子源と、
電子ビームを用いて放射ビームを発生させるように構成されたアンジュレータと、
放射ビームが交差する分子の流れを提供するように構成された分子流ジェネレータと、
分子の流れから選択的に受容される分子又はイオンを受容するように構成されたレセプタクルと、
使用中に電子ビームが入射するターゲットを保持するように構成されたターゲットサポート構造と、
を備える一体型濃縮及び放射性同位元素生成装置。
2.放射ビームは、分子の流れを少なくとも部分的にイオン化するように構成されている、条項1に記載の装置。
3.装置は更に、少なくとも部分的にイオン化した分子の流れが横切る磁場を発生させるように構成された磁石を備える、条項2に記載の装置。
4.装置は更に、少なくとも部分的にイオン化した分子の流れが横切る電場を発生させる電極を備える、条項2又は条項3に記載の装置。
5.レセプタクルは2つ以上のレセプタクルのうち第1のレセプタクルであり、第1のレセプタクルは所望の同位元素と一致する質量を有するイオンを受容するように構成され、第2のレセプタクルは他のイオンを受容するように構成されている、条項3又は条項4に記載の装置。
6.第1のレセプタクルは冷却プレートを含み、この冷却プレート上でイオンが凝縮又は凝固するか、又は、第1のレセプタクルはイオンをコンテナに注入するポンプを含む、条項5に記載の装置。
7.放射ビームは赤外線放射ビームである、条項2から6のいずれかに記載の装置。
8.放射ビームは、分子の流れ内で所望の同位元素を励起するように構成されている、条項1に記載の装置。
9.レセプタクルは2つ以上のレセプタクルのうち第1のレセプタクルであり、第1のレセプタクルは励起された所望の同位元素を含む分子を受容するように構成され、第2のレセプタクルは他の分子を受容するように構成されている、条項8に記載の装置。
10.第1のレセプタクルは、励起された所望の同位元素を含む分子を受容するように構成された環状開口を含む、条項9に記載の装置。
11.第1のレセプタクルは冷却プレートを含み、この冷却プレート上で所望の同位元素を含む分子が凝縮又は凝固するか、又は、第1のレセプタクルは所望の同位元素を含む分子をコンテナに注入するポンプを含む、条項9又は条項10に記載の装置。
12.放射ビームは紫外線放射ビームである、条項8から11のいずれかに記載の装置。
13.装置は更に、加速器へ送出されるパワーを調整することによって放射ビームの波長を制御するように構成されたコントローラを備える、条項1から12のいずれかに記載の装置。
14.電子入射器及び加速器を用いて電子ビームを提供することと、
アンジュレータを用いて、電子ビームを用いて放射ビームを発生させることと、
放射ビームが交差する分子の流れを提供することと、
レセプタクルにおいて、所望の同位元素を含む分子の流れからの分子又はイオンを選択的に受容することと、
所望の同位元素を含むターゲット上に電子ビームを誘導して放射性同位元素を発生させることと、
を含む、一体型濃縮及び放射性同位元素生成の方法。
15.方法は更に、レセプタクルに受容された同位元素を抽出することと、これを用いて、電子ビームが入射するその後のターゲットを形成することと、を含む、条項14に記載の方法。
16.電子ビームは約14MeV以上のエネルギを有する、条項14又は条項15に記載の装置。
17.放射ビームは分子の流れを少なくとも部分的にイオン化し、少なくとも部分的にイオン化した分子の流れはその後、それらの質量に従ってイオンの軌道を変更する磁場及び/又は電場を通過する、条項14から16のいずれかに記載の方法。
18.所望の同位元素と一致する質量を有するイオンが第1のレセプタクルで受容される、条項17に記載の装置。
19.放射ビームは、分子の流れ内で所望の同位元素を励起し、所望の同位元素を含有する分子はその後、分子の流れ内の他の分子から発散する、条項14から16のいずれかに記載の方法。
20.所望の同位元素を含有する分子は第1のレセプタクルで受容される、条項19に記載の装置。
【0082】
[0081] 上述したように、本発明の一実施形態の電子入射器は、パルスレーザビームで照明される光電陰極とすることができる。レーザは例えば、Nd:YAGレーザ及び関連付けられた光増幅器を含み得る。レーザは、ピコ秒レーザパルスを発生するように構成できる。電子ビームの電流は、パルスレーザビームのパワーを調整することによって調整できる。例えば、パルスレーザビームのパワーを増大させると、光電陰極から放出される電子の数が増加し、これによって電子ビーム電流が増大する。
【0083】
[0082] 本発明の一実施形態に従った放射性同位元素生成装置6によって用いられる電子ビームEは、例えば1mmの直径と1mラジアンの発散度を有し得る。電子ビームEの電流を増大させると、空間電荷効果によって電子が広がる傾向があり、このため電子ビームの直径が大きくなる可能性がある。従って、電子ビームの電流を増大させると電子ビームの輝度が低減し得る。しかしながら放射性同位元素生成装置6は、例えば直径1mmの電子ビームEを要求しておらず、もっと大きい直径の電子ビームを利用することができる。このため、電子ビームの電流を増大させても、放射性同位元素生成が著しい負の影響を受ける程度までビームの輝度が低減しない可能性がある。実際、直径が1mmよりも大きい電子ビームは、電子ビームによって送出される熱負荷を分散するので、このような電子ビームを提供することが有利であり得る。しかしながら、他の入射器のタイプも使用可能であることは認められよう。
【0084】
[0083] 本発明の実施形態を放射性同位元素Mo-99の発生に関連付けて記載したが、本発明の実施形態を用いて他の放射性同位元素を発生させることも可能である。概して、本発明の実施形態を用いて、極めて硬いX線をソース材料へ誘導することによって形成され得る任意の放射性同位元素を発生することができる。
【0085】
[0084] 本発明の利点は、高中性子束原子炉を用いる必要なく放射性同位元素の生成を実現することである。別の利点は、高濃縮ウラン(非拡散規則の対象になる危険物である)を用いる必要がないことである。
【0086】
[0085] 本発明の実施形態を、Mo-100を用いて、崩壊することでTc-99になるMo-99放射性同位元素を発生するものとして記載したが、本発明の実施形態を用いて他の医学的に有用な放射性同位元素を発生することも可能である。例えば、本発明の実施形態を用いて、崩壊することでGa-68になるGe-68を発生できる。本発明の実施形態を用いて、崩壊することでRe-188になるW-188を発生できる。本発明の実施形態を用いて、崩壊することでBi-213、Sc-47、Cu-64、Pd-103、Rh-103m、In-111、I-123、Sm-153、Er-169、及びRe-186になるAc-225を発生できる。
【0087】
[0086] 本発明の実施形態について、赤外線放射ビームを出力する自由電子レーザFELの文脈で記載した。しかしながら、自由電子レーザFELは、任意の波長を有する放射を出力するように構成できる。従って、本発明のいくつかの実施形態は、赤外線放射ビームでない放射ビームを出力する自由電子レーザを含み得る。
【0088】
[0087] 異なる実施形態を相互に組み合わせてもよい。実施形態の特徴を他の実施形態の特徴と組み合わせてもよい。
【0089】
[0088] 以上、本発明の特定の実施形態を説明したが、説明とは異なる方法でも本発明を実践できることは認められよう。上記の説明は限定でなく例示を意図している。従って、以下に述べる請求の範囲から逸脱することなく、記載された本発明を変更できることは当業者には明白である。
図1
図2a
図2b
図3
【国際調査報告】