(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(54)【発明の名称】アルカリ安定性ナノろ過による強アルカリ性DIOPAT懸濁液からのAl塩、HCl、NaCl及び有機副生成物の除去、その後の限外ろ過によるDIOPAT溶液の中和後の塩及び副生成物の分離
(51)【国際特許分類】
B01D 61/02 20060101AFI20220107BHJP
B01D 61/12 20060101ALI20220107BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20220107BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20220107BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20220107BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20220107BHJP
B01D 61/22 20060101ALI20220107BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20220107BHJP
C07D 251/24 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B01D61/02 500
B01D61/12
B01D69/02
B01D69/00
B01D61/14 500
B01D71/02
B01D61/22
B01D61/58
C07D251/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021523251
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(85)【翻訳文提出日】2021-06-22
(86)【国際出願番号】 EP2019079711
(87)【国際公開番号】W WO2020089323
(87)【国際公開日】2020-05-07
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マリスツ,ジャセク
(72)【発明者】
【氏名】ナーゲル,ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ジャキエ,ミヒャエル
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA07
4D006HA77
4D006KA33
4D006KA52
4D006KA54
4D006KA57
4D006KB13
4D006KD12
4D006KE07R
4D006KE15R
4D006KE16R
4D006MA02
4D006MA22
4D006MB06
4D006MC03
4D006MC63
4D006PA01
4D006PA03
4D006PB15
4D006PB70
4D006PC80
(57)【要約】
本発明は、10以上のpHを有し、2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、及びアルミニウム塩を含む水性アルカリ性混合物Mから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(DIOPAT)を単離する改善された方法であって、ナノろ過ステップ、沈殿ステップ、及びさらなるろ過ステップを含む、方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10以上のpHを有し、
(i)2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、
(ii)2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、
(iii)アルミニウム塩
を含む水性アルカリ性混合物Mから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(DIOPAT)を単離する方法であって、
a)アルカリ性混合物Mのナノろ過によりアルミニウム塩及び2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを分離するステップ、ここで、2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンは、保持液としてアルカリ性水溶液Sの形態で得られる、
b)水溶液SのpHを9.5以下の値に変更することにより2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを沈殿させるステップ、
c)ろ過により水溶液Sから沈殿させた2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを分離するステップ、ここで、2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンは、保持液として水性懸濁液SPの形態で得られる、
を含み、
ナノろ過ステップa)が、10~30バールの圧力及び20~60℃の範囲の温度で実施される、方法。
【請求項2】
ナノろ過ステップa)が、少なくとも60%、好ましくは60%~75%の塩化ナトリウム保持率を有するナノろ過膜を用いて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ナノろ過ステップa)が、好ましくは2nm以下の細孔径を有する、ポリマー系ナノろ過膜を用いて実施される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ナノろ過ステップa)が、保護ガス雰囲気下及び/又は遮光下で実施される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ナノろ過ステップa)が、15~25バールの圧力、及び50~60℃の範囲の温度で実施される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ナノろ過ステップa)が、水を用いて保持液を洗浄することを含み、洗浄水の量が、好ましくはアルカリ性混合物Mの量の少なくとも3倍である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
沈殿ステップb)において、pHを変更することが、塩化水素を用いて、好ましくは水溶液Sを水で希釈し、次いで希釈した水溶液Sを塩化水素水溶液に添加することにより実施される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
沈殿ステップb)が、水溶液SのpHを8以下の値、好ましくは6~8の範囲の値に変更することにより実施される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ろ過ステップc)が、20~500nm、好ましくは50~200nmの範囲の細孔径を有する膜を用いて実施される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ろ過ステップc)が、TiO
2、ZrO
2、又はAl
2O
3膜、好ましくはα-Al
2O
3膜である、セラミック膜を用いて実施される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ろ過ステップc)が、1~6バール、好ましくは2~3バールの圧力、及び20~95℃、好ましくは85~90℃の範囲の温度で実施される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ろ過ステップc)が、水を用いて保持液を洗浄することを含み、洗浄水の量が、好ましくは水溶液Sの量の少なくとも2倍である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ろ過ステップc)が、水性懸濁液SPの総重量を基準にして2~10重量%の範囲の乾燥含有量の2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを有する水性懸濁液SPを提供する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
d)ろ過によりステップc)で得られた水性懸濁液SPを濃縮するステップ
をさらに含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
f)ステップd)で得られた濃縮物を乾燥するステップ
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、10以上のpHを有し、2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、及びアルミニウム塩を含む水性アルカリ性混合物Mから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(DIOPAT)を単離する改善された方法を提供し、この方法は、アルカリ性混合物Mのナノろ過によりアルミニウム塩及び2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを分離するステップ、ここで2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンは保持液(retentate)としてアルカリ性水溶液Sの形態で得られる;水溶液SのpHを9.5以下の値に変更することにより2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを沈殿させるステップ;及びろ過により水溶液Sから沈殿させた2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを分離するステップ、ここで2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンは保持液として水性懸濁液SPの形態で得られる、を含む。
【背景技術】
【0002】
2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(DIOPAT)は、以下の化学式を有するUV吸収剤Tinosorb(登録商標)S(2,2′-[6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン2,4-ジイル]ビス{5-[(2-エチルヘキシル)オキシ]フェノール}、アニソトリアジン、ビス-エチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、又はベモトリジノールとしても知られている;CAS番号187393-00-6)の調製用の出発物質である。
【0003】
【化1】
Tinosorb(登録商標)Sは、広帯域UV吸収剤であり、UVB並びにUVA光線を吸収する。したがって、Tinosorb(登録商標)Sは、日焼け止め組成物及び化粧用途用の重要な成分である。
【0004】
1つの考えられるDIOPATへの合成経路は、2つのステップを経由して実施され、グリニャール条件下で4-ブロモアニソール及び塩化シアヌルから出発して、中間体DICATを形成する。第二の合成ステップでは、DICATを、フリーデルクラフツ反応でレゾルシノールと反応させて、DIOPATを形成する。以下では、4-ブロモアニソール及び塩化シアヌルから出発するDIOPATへの合成経路が図示され、パラメーターa)Mg、THF、65℃;b)塩化シアヌル、THF、0~5℃;及びc)レゾルシノール、トルエン/ベンゾニトリル、45℃、AlCl3が、通常、適用される。
【0005】
【0006】
Tinosorb(登録商標)Sへの合成を完了させるために、第三のステップ、塩化イソオクチルを用いるDIOPATのアルキル化が実施される。以下では、Tinosorb(登録商標)Sへの反応が図示され、パラメーターa)塩化イソオクチル、塩基、DMF、143℃が、通常、適用される。
【0007】
【0008】
DIOPATの調製に関連して、DIOPATの後処理手順及び単離は、困難を伴う。
【0009】
通常、DIOPATを含む反応混合物を、水酸化ナトリウム溶液を予備添加してクエンチする。次いで、フリーデルクラフツ反応からの生成物DIOPAT並びにアルミニウム塩(Al塩)を、アルカリ性水酸化ナトリウム水溶液に溶解する。有機反応溶媒(例えば、トルエンとベンゾニトリルの混合物)は、相分離によって分離される。残留有機溶媒は、有機溶媒を含まない水性相を保証するために除去してもよい。次いで、混合物を酸性にすることにより、DIOPATをアルカリ性DIOPAT/Al塩溶液から沈殿させる。低いpHが設定される場合は(pH<1)、Al塩は依然として水性相中に溶解しているが、DIOPATは固体として沈殿する。
【0010】
しかし、沈殿させたDIOPATをAl塩溶液から分離するための標準ろ過方法、例えば、フィルタープレスの使用は、欠点を有する。特に、ろ過方法は、手動で、時間を要し、開放系の方法であり、これは経済的魅力に欠け、技術的規模で安全性の問題を引き起こす。さらに、DIOPATは、DIOPAT調製の副生成物である望ましくない有機不純物、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン(2,4-DHBP)と共に得られることになる。Tinosorb(登録商標)Sへの最終反応ステップのために使用されるDIOPAT中の望ましくない副生成物、2,4-DHBPの不純物は、高価な反応物質、塩化イソオクチルの消費量を高め、望ましくない副生成物を生じ、したがって、製造コストが増加する。
【0011】
DIOPATからのAl塩の分離を改善することは困難である。水性相と有機相間の完全な混和性ギャップを有する有機溶媒中でのDIOPATの低い溶解性のため、相分離によるDIOPATからのAl塩の分離は適切ではない。また一方では、酸性のAlCl3/DIOPAT懸濁液の腐食性挙動のため、金属材料がこれらの懸濁液に接触する大部分のろ過装置は、適切ではない。しかし、AlCl3を用いるフリーデルクラフツ反応で得られるAl塩、並びに有機副生成物は、最終のTinosorb(登録商標)Sへの次の反応にとって好ましくなく、DIOPATから分離する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、DIOPAT調製用のフリーデルクラフツ反応の反応混合物をクエンチし、有機溶媒を除去した後に得られるDIOPAT/Al塩溶液からDIOPATを単離する改善された方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、手動で、時間を要し、開放系のろ過方法を回避する、DIOPATを単離する方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、アルミニウム塩だけでなく、有機副生成物もDIOPATから同時に分離される、DIOPATを単離する改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
これらの目的のうち少なくとも1つが、10以上のpHを有し、
(i)2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン;
(ii)2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン;
(iii)アルミニウム塩;
を含む水性アルカリ性混合物Mから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(DIOPAT)を単離する方法であって、
a)アルカリ性混合物Mのナノろ過によりアルミニウム塩及び2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを分離するステップ、ここで、2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンは、保持液としてアルカリ性水溶液Sの形態で得られる;
b)水溶液SのpHを9.5以下の値に変更することにより2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを沈殿させるステップ;
c)ろ過により水溶液Sから沈殿させた2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを分離するステップ、ここで、2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンは、保持液として水性懸濁液SPの形態で得られる、
を含む方法により達成できることを驚くべきことに見出した。
【0016】
特に、本発明は、10以上のpHを有し、
(i)2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン;
(ii)2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン;
(iii)アルミニウム塩;
を含む水性アルカリ性混合物Mから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(DIOPAT)を単離する方法であって、
a)アルカリ性混合物Mのナノろ過によりアルミニウム塩及び2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを分離するステップ、ここで、2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンは、保持液としてアルカリ性水溶液Sの形態で得られる;
b)水溶液SのpHを9.5以下の値に変更することにより2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを沈殿させるステップ;
c)ろ過により水溶液Sから沈殿させた2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを分離するステップ、ここで、2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンは、保持液として水性懸濁液SPの形態で得られる;
を含み、
ナノろ過ステップa)は、10~30バールの圧力及び20~60℃の範囲の温度で実施される、方法に関する。
【0017】
本発明の一実施形態では、ナノろ過ステップa)は、少なくとも60%、好ましくは60%~75%の塩化ナトリウム保持率を有するナノろ過膜を用いて実施される。塩化ナトリウム保持率は、塩化ナトリウム出発濃度500ppm及び透過液収量10~15%で、25℃、10バールにて測定する。
【0018】
上記したように、本発明の方法の主な目的は、DIOPATを含む水性アルカリ性混合物MからAl塩を除去することであり、前記混合物は、フリーデルクラフツ反応、クエンチ及び有機相の除去後に得られる。この目的は、まず、アルカリ性混合物を用いてナノろ過ステップを実施することにより、本発明により有利に達成することができる。DIOPATのモル質量が低いにもかかわらず、DIOPATがナノろ過の保持液にほぼ定量的に保持され、一方、アルミン酸塩及び2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、場合によってはさらに有機不純物が非常に低い程度にのみ保持され、したがって、大部分はナノろ過の透過液中にみられることになることは驚くべき発見であった。理論に拘泥するものではないが、本発明のナノろ過による有利な分離は、DIOPATが、アルカリ性のpH値でイオンの形態で存在するという事実により説明することができる。特に、DIOPATは、フェニル環の4つ全てのヒドロキシ基で脱プロトン化した形態で存在することさえあり、そのためテトラアニオンが形成される。ナノろ過膜は、好ましくはそれ自体アニオン性であるので、DIOPATの膜透過は妨げられる。対照的に、中性、又はモノアニオン性の形態で存在する残りの化合物は、より容易に膜を通過することができる。
【0019】
当該技術分野で通常使用される方法と対照的に、溶解した形態のアルミニウム塩を提供する一方で、DIOPATを沈殿させるために混合物をpH1未満に酸性化することは、回避される。その代わりに、DIOPATは、溶解した形態で残ることがあり、アルミニウム塩及び2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンからのDIOPATの分離は、異なる分子サイズ及び/又は分子のイオン電荷に基づくナノろ過により実施される。この関連で、より大きく、負に荷電したDIOPAT分子が、膜により保持されることになる一方で、より小さい2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンは、アルミニウム塩のイオンと共に膜を通過することができ、そのためこれらの成分からのDIOPATの分離は、容易に可能であり、従ってDIOATは、通常、保持液としてアルカリ性水溶液Sの形態で得られることは本発明の驚くべき発見である。さらなるステップでは、pHを9.5以下の値に変更し、やはり強酸性のpH値を回避することにより、DIOPATは、次いで、前記アルカリ性水溶液Sから容易に沈殿させることができる。次いで、沈殿させたDIOPATを水溶液Sから単離することは、ろ過により容易に実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の好ましい実施形態は、特許請求の範囲、説明、及び実施例でみることができる。本発明の主題の上記で挙げる特徴及び以下でさらに示されることになる特徴は、個々の所与の組合せにおいてだけでなく、本発明の範囲を逸脱しなければ他の組合せにおいても好ましいことを理解されたい。
【0021】
本発明の例示的な実施形態を詳細に記載する前に、本発明を理解するために重要な定義を説明する。
【0022】
本明細書中及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、「a」及び「an」の単数形は、状況からそうではないことが指示されない限り個々の複数形も含む。本発明の関連で、「約(about)」又は「約(approx.)」(約(approximately))という用語は、当業者が当該特徴の技術的効果をさらに確かにするために理解することになる精度の間隔を表す。本用語は、通常、±20%、好ましくは±15%、より好ましくは±10%、及びさらにより好ましくは±5%の示された数値からの偏差を示す。「を含む(comprising)」という用語は、限定的でないことを理解されたい。本発明の目的では、「からなる(consisting of)」という用語は、「を含む」という用語の好ましい実施形態であると考えられる。
【0023】
本明細書では、「水性アルカリ性混合物M」という用語は、本明細書で定義される成分(i)、(ii)、及び(iii)を含む混合物を指し、これは、通常、DIOPAT、すなわち成分(i)を調製するために、水酸化ナトリウム水溶液を用いてフリーデルクラフツ反応混合物をクエンチし、有機相を除去した後に得られる。水性アルカリ性混合物MのpHは、10以上であり、好ましくは10~15、より好ましくは12~14、特に12~13.5の範囲である。Al塩の量は、通常、水性アルカリ性混合物Mの総重量を基準にして1~20重量%、好ましくは1~10重量%の範囲であり、2,4-DHBPの量は、通常、水性アルカリ性混合物Mの総重量を基準にして0.5~5重量%、好ましくは0.5~2重量%の範囲であろう。また一方では、DIOPATの量は、通常、水性アルカリ性混合物Mの総重量を基準にして6~20重量%、好ましくは7~14重量%の範囲であろう。
【0024】
本明細書では「2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン」(DIOPAT)は、本発明の方法の対象化合物であり、それは、上記で説明したようにTinosorb(登録商標)Sの調製のための前駆体である。2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン(2,4-DHBP)は、その調製の副生成物である。本明細書では、「アルミニウム塩」(Al塩)という用語は、三塩化アルミニウム及び/又は水酸化アルミニウム並びに酸化アルミニウムナトリウム(NaAlO2)を含めてアルミニウム塩を指す。フリーデルクラフツ反応で三塩化アルミニウムが必要であるので、これらのアルミニウム塩は、DIOPATの調製で得られる。
【0025】
水性アルカリ性混合物Mは、クエンチの際の三塩化アルミニウムと水酸化ナトリウムとの反応の結果、さらなる成分、例えば、塩化ナトリウム、並びに水酸化ナトリウムも含み得ることを理解されたい。さらに、酸化アルミニウムナトリウム(NaAlO2)がクエンチで形成され、したがって水性アルカリ性混合物M中に存在し得る。さらに、DIOPATへの転換が不完全であるか、過剰の出発物質DICAT又はレゾルシノールが使用された場合は、DICAT及びレゾルシノールの残留量が存在し得る。
【0026】
ナノろ過による本発明の方法の分離ステップa)の後に、DIOPATは、保持液としてアルカリ性溶液Sの形態で得られる。
【0027】
本明細書では、「水溶液S」という用語は、DIOPATを含むステップa)で得られる溶液を指す。ステップa)で得られる際に、水溶液Sは、通常、10以上、好ましくは10~15、より好ましくは12~14、特に12~13.5のpH値を有し、したがって「アルカリ性水溶液S」と称される。アルカリ性水溶液Sは、DIOPATだけでなく、Al塩及び2,4-DHBPの残留量、及び場合によっては前記した他の不純物も含み得ることを理解されたい。しかし、アルミニウムの残留量は、通常、アルカリ性水溶液Sの総重量を基準にして1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、又はさらに0.2重量%未満であり、2,4-DHBPの残留量は、通常、アルカリ性溶液の総重量を基準にして2重量%未満、好ましくは0.8重量%未満、又はさらに0.7重量%未満であり、一方、DIOPATの量は、通常、アルカリ性水溶液Sの少なくとも6重量%、好ましくは少なくとも7重量%、より好ましくは少なくとも8重量%であろう。
【0028】
本発明の方法のステップb)では、次いで、水溶液SのpHは、DIOPATを沈殿させるために9.5以下のpHに変更される。本明細書では「pHを9.5以下のpHに変更すること」は、酸を用いて実施される。好ましい酸は、強い無機酸、例えば、硫酸又は塩酸を含む。好ましくは、本発明の方法のステップb)での「pHを9.5以下のpHに変更すること」は、塩酸、特に塩化水素水溶液を用いて実施される。塩化水素溶液の好ましい濃度は、20~37%の範囲、好ましくは36~37%の範囲である。好ましくは、pHは、8以下のpHに、好ましくは6~8の範囲の値に変更される。pH変更ステップb)の結果、さらなる塩化ナトリウムが、水酸化ナトリウムと塩化水素との反応により形成され得る。したがって、ステップb)の後に、水溶液Sは、好ましくはさらなる量の塩化ナトリウムを含む。
【0029】
本明細書では、「沈殿させること(precipitating)」という用語は、化合物の固体形成を指す。本発明によれば、DIOPATは、ステップb)で水溶液SのpHを9.5以下の値に変更することにより、ステップa)で得られる水溶液Sから沈殿させ、従ってDIOPATの溶解度は著しく減少し、沈殿物が形成される。対照的に、Al塩及び2,4-DHBPの残留量、及び場合によっては塩化ナトリウムを含む他の不純物は、溶解した形態で残ることになる。したがって、ステップb)の後に、DIOPATは、水溶液Sから沈殿しており、そのためステップb)の生成物は、懸濁液と呼ぶこともできる。
【0030】
本発明の方法のステップc)では、次いで、沈殿させたDIOPATを、Al塩及び2,4DHBPの残留量、及び場合によっては上記した他の不純物、特に塩化ナトリウムを含む水溶液Sからろ過により分離することができる。次いで、DIOPATは、保持液として水性懸濁液SPの形態で得られる。
【0031】
本発明の方法の分離ステップa)とc)との相違点は、ステップa)では、ナノろ過が実施され、その場合、分離が分子サイズに基づくが、ステップc)によるろ過の場合は、分離が溶解又は非溶解の状態に基づくという点にある。
【0032】
本明細書では、「ナノろ過」は、2nm以下の細孔径を有するナノろ過膜を用いて実施される。そのようなナノろ過膜は、当該技術分野では、標準NaCl保持率70%を有するとも言われる。ナノろ過は、本発明に従ってアルカリ性混合物Mを用いて実施されるので、ナノろ過膜は、好ましくはポリマー系ナノろ過膜、特に、例えば、日東電工(株)から入手でき、高温でも強アルカリ性溶液中で安定であるポリエーテルスルホンメンブレンフィルターである。
【0033】
本発明の一実施形態では、ナノろ過ステップa)は、少なくとも60%、好ましくは60%~75%の塩化ナトリウム保持率を有するナノろ過膜を用いて実施される。塩化ナトリウム保持率は、塩化ナトリウムの出発濃度500ppm及び透過液収量10~15%で、25℃、10バールにて測定する。好ましくは、ナノろ過膜は、ポリマー系膜である。
【0034】
ナノろ過ステップa)では、DIOPATは、より大きな分子サイズ及び高いアニオン電荷の点からみて、膜から保持され、したがってナノろ過の保持液中に得られる。ろ過ステップc)では、DIOPATは、その沈殿状態の点からみて膜から保持され、したがってろ過の保持液中に得られる。本明細書では、「保持液」という用語は、膜を通過しない成分を含む溶液又は懸濁液を指し、一方、「透過液」という用語は、膜を通過する溶液であって、膜透過性である、すなわち膜を通過する成分を含む溶液を指す。
【0035】
ろ過ステップa)及びc)は、好ましくは、個々の混合物、溶液又は懸濁液を供給容器から膜へ、及び膜から再び供給容器へ連続的にポンプで送ることにより実施することができる。さらなる溶媒、好ましくは水は、連続的に保持液に添加することができ、透過液は、連続的に除去することができる。この結果、保持液中のDIOPATが洗浄される。好ましい洗浄係数は、2~6、好ましくは2~5の範囲である。これに関連して「洗浄係数(washing factor)」という用語は、分離すべき混合物、溶液又は懸濁液に対する水の量を指す。
【0036】
ろ過ステップc)は、保持液を濃縮することも含み得る。本明細書では、「濃縮係数」という用語は、沈殿させた化合物及び溶解した成分を含む懸濁液又は溶液の出発体積と、溶解した成分及び溶媒の一部(透過液)が透析ろ過方法時に除去された後の、沈殿した化合物を含む懸濁液(保持液)の最終体積との比を指す。保持液に連続的に添加される追加の溶媒と同じ量が、透過液を除去することにより系から連続的に除去されることになるので、保持液に連続的に添加され得る追加の溶媒の濃縮係数は、濃縮係数に影響を及ぼさないことを理解されたい。
【0037】
本明細書では、「懸濁液」という用語は、溶媒及び沈殿物を含む不均一混合物を表す。透析ろ過方法では、沈殿物の粒子は、膜の細孔径より大きくなければならない。
【0038】
本明細書では、「溶解(dissolution)」又は「溶液(solution)」という用語は、溶媒及び溶解した成分、例えば塩のイオンを含む均一な混合物を表す。
【0039】
本発明の方法に関する好ましい実施形態は、本明細書で以下に記載される。
【0040】
すでに上記したように、本発明は、10以上のpHを有し、2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、及びアルミニウム塩を含む水性アルカリ性混合物Mから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(DIOPAT)を単離する方法に関し、方法は、アルカリ性混合物Mのナノろ過によりアルミニウム塩及び2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを分離するステップ、ここで、2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンは、保持液としてアルカリ性水溶液Sの形態で得られる;水溶液SのpHを9.5以下の値に変更することにより2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを沈殿させるステップ;及びろ過により水溶液Sから、沈殿させた2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを分離するステップ、ここで、2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンは、保持液として水性懸濁液SPの形態で得られる、を含む。
【0041】
本発明の方法のステップa)では、アルミニウム塩及び2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンからの2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(DIOPAT)の分離は、ナノろ過により実施される。上記で説明したように、DIOPATは、保持液としてアルカリ性水溶液Sの形態で得られる。
【0042】
好ましい実施形態では、ナノろ過ステップの結果、アルミニウム塩及び2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンからのDIOPATの分離が生じ、水性アルカリ性混合物Mに元々含まれるDIOPATの総量の少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99.5重量%が膜に保持され、したがって保持液として得られる。別の好ましい実施形態では、ナノろ過ステップの結果、アルミニウム塩及び2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンからのDIOPATの分離が生じ、水性アルカリ性混合物Mに元々含まれるアルミニウムの総量の少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも98重量%、より好ましくは少なくとも99重量%が、膜を通過し、したがって透過液中に得られる。別の好ましい実施形態では、ナノろ過ステップの結果、アルミニウム塩及び2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンからのDIOPATの分離が生じ、水性アルカリ性混合物Mに元々含まれる2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンの総量の少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも92重量%が膜を通過し、したがって透過液中に得られる。
【0043】
言い換えれば、本発明の方法の好ましい実施形態では、水溶液Sの形態であるステップa)で得られる保持液は、水性アルカリ性混合物Mに元々含まれるDIOPATの総量の少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99.5重量%、及びさらに水性アルカリ性混合物Mに元々含まれるアルミニウムの総量の5重量%未満、好ましくは2重量%未満、より好ましくは1重量%未満、及びさらに水性アルカリ性混合物Mに元々含まれる2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンの総量の20重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは8重量%未満を好ましくは含む。
【0044】
したがって、アルミニウム及び2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンの量は、分離ステップa)を実施することにより著しく減少させることができる。このことは、DIOPATから分離することが通常困難である2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンに関しては特に驚くべきことである。
【0045】
好ましい実施形態では、ナノろ過ステップa)は、2nm未満の細孔径を有するポリマー系ナノろ過膜を用いて実施される。より好ましい実施形態では、ポリマー系ナノろ過膜は、ポリエーテルスルホン膜である。
【0046】
細孔径は、NaCl保持を基準にして決定することもできる。好ましい実施形態では、ナノろ過ステップa)は、少なくとも60%、好ましくは70%の標準NaCl保持率を有するポリマー系ナノろ過膜、好ましくはポリエーテルスルホン膜を用いて実施される。本発明の別の好ましい実施形態では、ナノろ過ステップa)は、60%~75%の塩化ナトリウム保持率を有するナノろ過膜を用いて実施される。塩化ナトリウム保持率は、塩化ナトリウム出発濃度500ppm及び透過液収量10~15%で、25℃、10バールにて測定する。好ましくは、ナノろ過膜は、ポリマー系膜である。
【0047】
ナノろ過ステップa)は、好ましくは20~60℃の範囲、好ましくは30~60℃の範囲、より好ましくは50~60℃の範囲の温度で実施される。これらの温度は、アルカリ性混合物Mの十分に低い粘度、したがって満足のいく膜容量を確保するために好ましい。さらに、50~60℃の範囲の温度は、2,4-DHBPの膜透過性を改善するために特に好ましい。しかし、これらの温度でのDIOPATの安定性を改善するために、ナノろ過ステップa)は、保護ガス雰囲気下及び/又は遮光(exclusion of light)下で実施されることが好ましい。
【0048】
好ましい実施形態では、ナノろ過ステップa)は、したがって、保護ガス雰囲気下及び/又は遮光下で実施される。好ましくは、窒素は、保護ガスとして使用することができる。
【0049】
別の好ましい実施形態では、ナノろ過ステップa)は、10~30バール、好ましくは15~25バールの圧力、及び20~60℃、好ましくは50~60℃の範囲の温度で実施される。
【0050】
別の好ましい実施形態では、ナノろ過ステップa)は、15~25バールの圧力、及び50~60℃の範囲の温度で実施される。
【0051】
2,4-DHBP及びアルミニウム塩からのDIOPATの分離を改善するために、すなわち膜を透過する2,4-DHBP及びアルミニウム塩の量を増やし、それによって保持液中のDIOPATの純度を増加させるために、ナノろ過ステップa)は、好ましくは保持液を水で洗浄することも含む。適切な洗浄係数は、2~6、好ましくは2~5の範囲である。
【0052】
好ましい実施形態では、ナノろ過ステップa)は、保持液を水で洗浄することを含み、この場合、洗浄水の量(すなわち体積)は、好ましくはアルカリ性混合物Mの量(すなわち体積)の少なくとも3倍である。
【0053】
好ましくは、洗浄水は、保持液側のナノろ過システムに連続的に導入され、一方、透過液は、連続的に除去される。さらに、洗浄水を、好ましくは50~60℃の範囲の温度に予備加熱することが好ましい。
【0054】
好ましい実施形態では、したがって分離ステップa)は、保持液中の溶液Sを水で連続的に洗浄すること、及び透過液を除去することを含む。好ましくは、保持液に導入される洗浄水の体積と同じ体積の透過液を除去することにより、保持液と透過液の全体積を一定に保つ。
【0055】
本発明の方法のステップb)では、DIOPATは、水溶液SのpHを9.5以下の値に変更することにより沈殿させる。pHを変更することは、任意の適切な有機又は無機酸により実施することができる。無機酸、例えば、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、又は硝酸が好ましい。特に、塩化水素が使用される。好ましくは、酸は水溶液の形態である。
【0056】
原則として、ステップb)は、水溶液Sを酸、好ましくは酸性溶液に添加することにより、又は酸、好ましくは酸性溶液を水溶液Sに添加することにより実施することができる。好ましくは、ステップb)は、水溶液Sを酸性の水溶液に添加することにより、又は酸性の水溶液を水溶液Sに添加することにより実施される。好ましくは、酸性の水溶液は、50~60℃の温度に予備加熱する。
【0057】
さらに、pH値を変更する前に水溶液Sを水で希釈することが好ましい。好ましくは、水溶液Sは、保持液として得られる水溶液Sに対し、少なくとも同じ体積の水を用いて希釈される。
【0058】
好ましくは、ステップb)でpHを変更することは、塩化水素、好ましくは塩化水素溶液を用いて実施される。特に好ましくは、水溶液Sは、少なくとも同じ体積の水を用いて希釈され、次いで希釈された水溶液Sは、塩化水素水溶液に添加される。塩化水素溶液が、20~37%の範囲の、好ましくは36~37%の範囲の濃度を有することが特に好ましい。
【0059】
したがって、本発明の方法の好ましい実施形態では、沈殿ステップb)において、pHの変更は、塩化水素を用いて、好ましくは水溶液Sを水で希釈し、次いで希釈した水溶液Sを塩化水素水溶液に添加することにより実施される。好ましくは、塩化水素溶液は、20~37%の範囲、好ましくは36~37%の範囲の濃度を有する。好ましくは水を用いた水溶液Sの希釈は、少なくとも同じ体積の水を用いて行われる。
【0060】
上記したように、水溶液SのpHは、9.5以下のpHに変更される。DIOPATは、9.5以下のpHで沈殿することが見出された。原則として、酸性のpH値も適切である。しかし、過度に酸性のpH値にすると、副生成物として形成される塩化ナトリウムの量が著しく増加し、その後、DIOPATから分離しなければならない。
【0061】
本発明の方法の好ましい実施形態では、したがって、沈殿ステップb)は、水溶液SのpHを8以下の値に、好ましくは6~8の範囲の値に変更することにより実施される。さらに、中和ステップは、本発明の方法の終わりにさらに必要になるであろう。
【0062】
塩化水素が、ステップb)でpHを変更するために使用されることを条件として、水溶液Sは、本発明の方法のステップb)の後に水酸化ナトリウムと塩化水素の中和反応から生じるさらなる量の塩化ナトリウムを好ましくは含むことを理解されたい。
【0063】
本発明の方法のステップc)では、沈殿させたDIOPATは、ろ過により水溶液Sから分離され、この場合、DIOPATは、保持液として水性懸濁液SPの形態で得られる。
【0064】
本発明の方法のステップc)では、Al塩及び2,4-DHBPの残留量、並びに好ましくは本発明の方法のステップb)で形成される塩化ナトリウムを含む水溶液Sからの分離のため、DIOPATをさらに精製することができることを理解されたい。特に、塩化物塩は、DIOPATから大部分を容易に分離することができる。したがって、方法のステップc)による「水溶液Sから沈殿させたDIOPATを分離すること」は、水溶液S中の残りの成分の1つ以上から、特に水溶液Sに含まれる塩化物塩から、沈殿させたDIOPATを分離することも好ましくは指す。沈殿させたDIOPATは、膜を通過せず、したがってろ過の保持液中に得られることになるが、水溶液Sの他の成分、特に塩化ナトリウム、及び場合によってはAl塩及び2,4-DHBPの残留量は、膜を通過することになる。
【0065】
好ましい実施形態では、ろ過ステップc)の結果、水溶液S中の残りの成分からのDIOPATの分離が生じ、ステップb)で水溶液Sから形成される懸濁液に元々含まれるDIOPATの総量の少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99.5重量%が、膜により保持され、したがって保持液として得られる。別の好ましい実施形態では、ろ過ステップc)の結果、塩化物塩からのDIOPATの分離が生じ、ステップb)で水溶液Sから形成される懸濁液に元々含まれる塩化物の総量の少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%が、膜を通過し、したがって透過液中で得られる。
【0066】
言い換えれば、本発明の方法の好ましい実施形態では、水性懸濁液SPの形態であるステップc)で得られる保持液は、ステップb)で水溶液Sから形成される懸濁液に元々含まれるDIOPATの総量の少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99.5重量%、及びさらにステップb)で水溶液Sから形成される懸濁液に元々含まれる塩化物の総量の40重量%未満、好ましくは20重量%未満、より好ましくは10重量%未満を好ましくは含む。
【0067】
さらに、DIOPATをアルミニウム塩及び2,4-DHBPの残留量から分離することができる。DHBPの残留量からの分離に関して、ろ過ステップc)を80~95℃、好ましくは85~90℃の範囲のより高い温度で実施することが特に有利である。
【0068】
好ましい実施形態では、ろ過ステップc)は、10~800nm又は20~500nm、好ましくは50~200nmの範囲の細孔径を有する膜を用いて実施される。これらの細孔径は、溶解した塩化ナトリウム、アルミニウム塩並びに有機不純物、例えば、2,4-DHBPに対する透過性を確かにする。
【0069】
好ましくは、セラミック膜の細孔径は、American Society for Testing and Materials Standard (ASMT) Method F316に記載されるバブルレスト(bubble-rest)により決定される平均細孔径として提供される。あるいは、セラミック膜の細孔径は、好ましくは1kD~150kDの範囲である分子量カットオフにより定義することができる。
【0070】
好ましい膜材料は、100℃以上までの高温下での高い安定性を考慮して、セラミック材料を含む。別の好ましい実施形態では、ろ過ステップc)は、したがって、TiO2、ZrO2、又はAl2O3膜、好ましくはα-Al2O3膜であるセラミック膜を用いて実施される。
【0071】
セラミック膜は、チューブ状、マルチチャネル又はモノリス要素の形態で提供されることがあり、この場合、マルチチャネル要素が好ましい。通常、セラミック材料は、例えば、マクロ多孔性担体、及び保持液に向いた微多孔性最上層を提供するために、より大きい細孔径からより小さい細孔径の範囲の細孔径を有する多層構造を有する。
【0072】
例えば、透析ろ過ステップ用の関連値として細孔径50nmを有するセラミック膜は、400nm、200nm、及び50nmの細孔径を有する膜層を含むことがあり、この場合、より小さい細孔径は、保持液の側にあることになる。ろ過特性に関するセラミック膜の物性評価については、透過液に向いた最小の細孔径が、適切である。
【0073】
好ましい実施形態では、セラミック膜は、細孔径50nm、400/200/50nm膜層を有するα-Al2O3膜である。
【0074】
本発明の一実施形態では、セラミック膜は、保持液が流れるチューブ状セラミック膜であり、一方、透過液の流れは、横方向にセラミック膜を通過してチューブ状セラミック膜から流出する。
【0075】
本発明の別の実施形態では、セラミック膜は、マルチチャネル要素であり、セラミック膜材料内にいくつかのチャネル、例えば、7~211個のチャネル、好ましくは7~37個のチャネルを含み、この場合、保持液がチャネルを通して流れ、一方、透過液の流れは、横方向にセラミック膜を通過してマルチチャネル要素から流出する。本発明の特定の実施形態では、適切なマルチチャネル要素は、7、19、37、61、85、又は211個のチャネル、好ましくは7又は19個のチャネルを含む。
【0076】
マルチチャネル要素の長さは、好ましくは0.5~2m、好ましくは0.5~1.5m、より好ましくは1.0~1.5mの範囲である。
【0077】
マルチチャネル要素のチャネルの内径は、好ましくは2~8mmの範囲である。マルチチャネル要素の全径は、好ましくは25~80mm、好ましくは25~41mm、より好ましくは25.4又は41mmの範囲である。
【0078】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、セラミック膜は、長さ0.5~1.5m及び内部チャネル直径3~8mm、好ましくは6mmを有するマルチチャネル要素の形態で提供され、この場合、マルチチャネル要素は、好ましくは7~19個のチャネルを含む。長さ1.0~1.5m、内部チャネル直径6mmを有するマルチチャネル要素が特に好ましく、この場合、マルチチャネル要素は、好ましくは7又は19個のチャネルを含む。次いで、全径は、好ましくは25又は41mmである。
【0079】
要素当たりのフィルター表面は、長さ、内部チャネル直径及び要素のチャネルの数から算出することができる。ある実施形態では、要素当たりのフィルター表面は、0.02~3m2、好ましくは0.02~2m2、より好ましくは0.05~1.5m2、特に0.1~0.6m2である。
【0080】
本発明によれば、単一チャネル要素は、例えば、1/6又は1/16幾何形状を有し得る。それによって、1/6幾何形状は、要素が、1個のチャネル及び内部チャネル直径6mmを有することを表す。したがって、1/16幾何形状は、要素が、1個のチャネル及び内径16mmを有することを表す。
【0081】
本発明によれば、マルチチャネル要素は、例えば、7/6(すなわち要素は、7個のチャネル及び内部チャネル直径6mmを有する)、19/3.3、37/2、19/4、19/6、37/3.8、61/2.5、19/8、85/3.3、又は211/2幾何形状を有し得る。好ましい一実施形態では、マルチチャネル要素は、7/6又は19/6幾何形状及び1.2~1.5mの長さを有する。19/6幾何形状及び1.5mの長さを有するマルチチャネル要素が特に好ましい。
【0082】
一実施形態では、ろ過ステップc)は、1~4バール、好ましくは2~3バールの圧力、及び20~95℃、好ましくは85~90℃の範囲の温度で実施される。
【0083】
ろ過ステップc)は、水溶液Sの残りの成分からのDIOPATの分離を改善するために、好ましくは水を用いた保持液の洗浄も含む。適切な洗浄係数は、2~6、好ましくは2~5の範囲である。
【0084】
好ましい実施形態では、ろ過ステップc)は、保持液を水で洗浄することを含み、この場合、洗浄水の量(すなわち体積)は、好ましくは水溶液Sの量(すなわち体積)の少なくとも2倍である。
【0085】
好ましくは、洗浄水は、連続的に保持液側のろ過システムに導入され、一方、透過液は、連続的に除去される。さらに、洗浄水を、好ましくは50~90℃の範囲の温度に予備加熱することが好ましい。
【0086】
好ましい実施形態では、したがって、分離ステップc)は、水を用いた保持液中の懸濁液の連続式洗浄、及び透過液の除去を含む。
【0087】
好ましい一実施形態では、保持液に導入される洗浄水の体積と同じ体積の透過液を除去することにより保持液と透過液の全体積を一定に保つ。
【0088】
別の好ましい実施形態では、分離ステップc)は、保持液として得られる水性懸濁液SP中のDIOPATの濃度が、ステップc)が実施される前の懸濁液中のDIOPATの濃度より高くなるように実施することができる。DIOPATの初期濃度に依存して、ろ過ステップc)は、水性懸濁液SPの総重量を基準にして2~10重量%の範囲の2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンの乾燥含有量を有する水性懸濁液SPを提供する。例えば、初期の懸濁液中のDIOPATの乾燥含有量は、3~5重量%の範囲とすることができ、一方、ステップc)で得られる保持液中のDIOPATの濃度は、5.5~7.5重量%の範囲とすることができる。
【0089】
本発明の方法は、ステップc)で得られる水性懸濁液SPを濃縮するための、及び得られる濃縮物を乾燥するための追加のステップをさらに含み得る。濃縮は、当技術分野において知られている任意の方法、例えば、蒸発又はろ過、好ましくはろ過により実施することができる。ろ過による濃縮に関しては、任意の既知のフィルター、例えば、Dyno Filter (Bokela)を使用することができる。
【0090】
したがって、好ましい実施形態では、方法は、ろ過によりステップc)で得られる水性懸濁液SPを濃縮するステップd)をさらに含む。
【0091】
より好ましい実施形態では、方法は、ステップd)で得られる濃縮物を乾燥するステップf)をさらに含む。
【0092】
要約すれば、ステップa)、b)、及びc)を含む本発明の方法は、ステップc)を実施した後に水性懸濁液SPの形態で沈殿させた形態であるDIOPATを提供する。得られるDIOPATの水性懸濁液は、好ましくはアルカリ性混合物Mと比べて濃縮される。さらに、DIOPATの大部分は、2,4-DHBP及びアルミニウム塩並びにさらなる塩、例えば、特に塩化ナトリウムから分離した。同時に、本発明の方法は、強酸性のpH値での作業を回避する。したがって、本方法の終了時での中和反応を避けることができる。
【0093】
本発明のDIOPAT単離の方法は、DIOPAT懸濁液からの2,4-DHBPの思いがけない除去のため、Tinosorb(登録商標)Sへの最後の反応ステップで高価な反応物質、塩化イソオクチルの消費量が著しく減少するので、製造コストの点からみて特に有利である。これにより、Tinosorb(登録商標)Sへの最後の合成ステップのコスト、並びに最終仕様に至るためのTinosorb(登録商標)Sの生成物後処理のコストが減少する。
【実施例】
【0094】
以下の例により本発明をさらに説明する。
[実施例]
サンプリング:サンプリング及び分析は、プロセスステップとは無関係に同一であった。各ステップ後に、下記項目用の透過液及び保持液の試料を採取した。
乾燥含有量(DC)及びNaCl含有量
Al含有量
全有機炭素(TOC、透過液のみ)
DIOPAT含有量及び副生成物(AHRT、2,4-DHBP、DMPRT)の含有量
DCはDCスケールで測定し、NaClは滴定により測定し、TOCはTOC分析計で測定した。DIOPAT及び副生成物は、Agilent 1100を使用するHPLCにより決定した
カラム材料:EUROSPHER 100-C18/5 Knauer
カラム長さ:25cm、カラム直径:4mm
カラム温度:20℃
注入量:5μl
移動相:溶離液A:900 Deionat (2) + 100 酢酸緩衝液pH4.65 (3) + 0.2% TBAHS、溶離液B:アセトニトリル (1) + 0.2% TBAHS
方法:フロー:1.0mL/min、圧力:最大400バール、停止時間:30分
タイムテーブル:
【0095】
【0096】
本発明によれば、Al塩並びに好ましくない有機副生成物は、ナノろ過ステップ、析出ステップ、及びさらなるろ過ステップを含む方法によりDIOPATから分離する。これに関するさらなる詳細は、本明細書で以下に提供される。
【0097】
12.5~13.0の範囲のpHを有し、76g/LのDIOPAT、6.6g/Lの2,4-DHBP、121g/LのNaCl、13.4g/LのAl塩、1.1g/Lのレゾルシン、4.8g/Lの安息香酸、及び77重量%の水を含むアルカリ性混合物を本方法では使用した。
【0098】
ナノろ過:
UV光を遮光するためにナノろ過装置のガラス部をアルミ箔で覆った。酸素を除去するために供給容器に常に窒素を流した。
【0099】
1体積部のアルカリ性混合物を0.3体積部の水で希釈し、ナノろ過装置で50℃に加熱した。第一のナノろ過ステップでは、保持液の溶液体積は、1.3体積部から1.0体積部に減少する。次いで、2体積部の水を加え、透析ろ過により、溶液を再び0.7体積部まで減少させる。次いで、0.7体積部の溶液を1.5体積部の水と組み合わせ、透析ろ過を行う。
膜:ポリエーテルスルホン膜NTR7470、日東電工から入手可能(46ミルのスペーサーを有する2.5インチスパイラル型モジュール)
操作パラメーター:
温度:50℃
クロスフロー:モジュールに沿って約0.7バールのDPに達する(約1.6m3/h)
フィード圧:30バール
結果:
溶液の密度は、1.188g/mLから1.058g/mLに減少した。
NaClのDC(乾燥含有量)に対する比は、35.4重量%から0.1重量%に減少し、すなわち、減少率は約98%であった。
DIOPATのDCに対する比は、27.9重量%から72.7重量%に増加した。
溶液中のAl含有量は、10500ppmから660ppmに減少した。
溶液中の2,4-DHBP含有量は、約50%減少した。
【0100】
中和:
0.9体積部の水及び0.02体積部の塩酸(32%/水)を混合タンブラー反応器に加え、60℃に加熱した。次いで、1体積部のNF濃縮物をゆっくり30分以内に添加して、約7のpHが得られた。次いで、得られた生成物懸濁液を限外ろ過した。
【0101】
限外ろ過:
1体積部の中和した生成物懸濁液を3体積部の水で希釈し、次いで透析ろ過し、0.8体積部に濃縮した。
膜:
チャネル要素:6mmチャネル、長さ1m
膜材料:α-Al2O3
公称細孔径:50nm、膜層400/200/50
操作パラメーター:
温度:88℃
クロスフロー:3m/s
フィード圧:2.5バール
プロセスパラメーター:
出発懸濁液の希釈係数 ポンプのデッドボリュームのみ
全濃縮係数(CF) 1.2
全透析ろ過係数 3
結果:
NaClのDCに対する比は、22重量%から1.1重量%に減少した。NaCl濃度は、1.4重量%から0.08重量%に減少した。
DIOPAT/DCの比は、68重量%から87重量%に増加した。
2,4-DHBP含有量は、約50%減少した。
【国際調査報告】