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特表2022-510701VUV放射線を反射する光学素子及び光学装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-27
(54)【発明の名称】VUV放射線を反射する光学素子及び光学装置
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20220120BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
G03F7/20 502
G03F7/20 521
G02B5/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021532153
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(85)【翻訳文提出日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 EP2019083581
(87)【国際公開番号】W WO2020115086
(87)【国際公開日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】102018221191.4
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドラ パツィディス
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル クレンツ
(72)【発明者】
【氏名】ハリオルフ トラウブ
(72)【発明者】
【氏名】マルセル ヘルトリング
【テーマコード(参考)】
2H148
2H197
【Fターム(参考)】
2H148FA05
2H148FA09
2H148FA18
2H148FA21
2H197AA06
2H197BA02
2H197CA06
2H197CA08
2H197DB16
2H197DB23
2H197FA01
2H197HA03
2H197JA07
(57)【要約】
本発明は、VUV波長域の放射線を反射する光学素子(4)であって、基板(41)と、基板(41)に施され且つ少なくとも1つのアルミニウム層(43)を有する反射コーティング(42)とを備えた光学素子(4)に関する。分子状水素(H)の解離のための少なくとも1つの水素触媒層(45)が、アルミニウム層(43)に施される。本発明は、VUV波長域用の光学装置であって、少なくとも1つの光学素子が配置される内部と、内部にガスを供給する少なくとも1つのガス入口とを備えた光学装置にも関する。本発明の一態様において、光学素子(4)は上述のように設計され、ガス入口を用いて内部に水素が供給される。本発明のさらに別の態様において、光学装置は、光学素子の光学面の少なくとも1つの部分領域で大気圧プラズマを発生させるためにガス入口を介して内部にプラズマガスを供給するプラズマ発生デバイスを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
VUV波長域の放射線(11、21)を反射する光学素子(4)であって、
基板(41)と、該基板(41)に施され且つ少なくとも1つのアルミニウム層(43)を有する反射コーティング(42)と
を備えた光学素子(4)において、
分子状水素(H)の解離のための少なくとも1つの水素触媒層(45)が前記アルミニウム層(43)に施されることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子において、前記水素触媒層(45)は、Ru、Pt、Pd、Ni、Rhを含む群から選択される光学素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学素子において、前記水素触媒層(45)は、0.1nm~3.0nm、好ましくは0.1nm~1.0nmの層厚(D)を有する光学素子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の光学素子において、前記水素触媒層(45)は、前記アルミニウム層(43)を完全に覆わない光学素子。
【請求項5】
請求項4に記載の光学素子において、前記水素触媒層(45)は、10%~90%の被覆率で前記アルミニウム層(43)を覆う光学素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の光学素子において、前記アルミニウム層(43)及び前記水素触媒層(45)に施された少なくとも1つの保護層(46)をさらに備えた光学素子。
【請求項7】
請求項6に記載の光学素子において、前記保護層(46)は密閉層を形成する光学素子。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の光学素子において、前記保護層(46)は、透明の、特にフッ化物材料から形成される光学素子。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の光学素子において、前記保護層(46)は、VUV波長域の放射線(11、21)での照射及び/又は水素(H)との接触により剥離可能な材料から形成される光学素子。
【請求項10】
請求項9に記載の光学素子において、前記保護層(46)は、炭素又は少なくとも1つの炭化水素から形成される光学素子。
【請求項11】
VUV波長域用の光学装置、特にウェーハ検査システム(2)又はVUVリソグラフィ装置(1)であって、
少なくとも1つの光学素子(121、220、221;140、141;4、5、6)が配置される内部(122a、24a)と、
該内部(122a、24a)にガス(H)を供給する少なくとも1つのガス入口(123、26、52a~52f)と
を備えた光学装置において、前記光学素子(121、220、221、4)は、請求項1~10のいずれか1項に記載のように設計され、前記ガス入口(123、26)は、前記内部(122a、24a)に水素(H)を供給するよう設計されることを特徴とする光学装置。
【請求項12】
請求項11のプリアンブルに記載の、特に請求項11に記載の光学装置において、
前記光学素子(5、6)の光学面(5a、6a)の少なくとも1つの部分領域(55a~55f)で大気圧プラズマ(51、61)を発生させるために前記ガス入口(123、26、52a~52f)を介して前記内部(122a、24a)にプラズマガス(54a~54f)を供給するプラズマ発生デバイス(50、60)
を特徴とする光学装置。
【請求項13】
請求項12に記載の光学装置において、前記プラズマ発生デバイス(50、60)は、前記光学素子(5、6)の前記光学面(5a、6a)で水素プラズマ(51、61)を発生させるよう設計される光学装置。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の光学装置において、前記ガス入口は、前記光学面(5a)の少なくとも1つの部分領域(55a~55f)に前記プラズマガス(54a~54f)を供給するプラズマノズル(52a~52f)として設計される光学装置。
【請求項15】
請求項12~14のいずれか1項に記載の光学装置において、前記プラズマ発生デバイス(60)は、前記光学面(6a)から離間して、該光学面(6a)の前記少なくとも1つの部分領域(65a~65f)で前記大気圧プラズマ(61)を発生させる少なくとも1つの電極(62a~62f)を有する光学装置。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか1項に記載の光学装置において、前記プラズマ発生デバイス(50、60)は、前記光学面(5a、6a)で場所に応じて可変の大気圧プラズマ(51、61)を発生させるよう設計される光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の参照]
本願は、2018年12月7日の独国特許出願第DE10 2018 221 191.4号の優先権を主張し、当該出願の全開示を参照により本願の内容に援用する。
【0002】
本発明は、VUV波長域の放射線を反射する光学素子であって、基板と、基板に施され且つ少なくとも1つのアルミニウム層を有する反射コーティングとを備えた光学素子に関する。本発明は、VUV波長域用の光学装置、特にウェーハ検査システム又はVUVリソグラフィ装置であって、少なくとも1つの光学素子が配置される内部と、内部にガスを供給する少なくとも1つのガス入口とを有する光学装置に関する。
【背景技術】
【0003】
特に、真空紫外線波長域(VUV波長域)とも称する約100nm~約200nmの短波紫外線波長域では、透過光学素子だけでなく反射光学素子も用いられることが多い。VUV波長域の放射線用の光学装置は、例えば、ウェーハ又はマスクの光学検査の実行又は半導体コンポーネントの製造に用いることができる。
【0004】
VUV放射線を反射する光学素子は、通常は反射コーティングを有し、反射コーティングは、特定の用途では、例えばウェーハを検査する場合には、VUV波長域内の大きなスペクトル域にわたって高い反射率を有するべきである。アルミニウムは、VUV波長域では約0.9すなわち90%という高い反射率を有するので、このような反射コーティングが下地層(単数又は複数)として1つ又は場合によっては複数のアルミニウム層を有すれば有利であることが分かっている。
【0005】
VUV波長域でアルミニウム層を用いる場合、アルミニウム層が大気又は反射光学素子の周囲の雰囲気と接触すると、約2nm~3nmの大きさの層厚を有する自然酸化アルミニウム(Al)層を即座に形成するという問題が概してある。このAl層は、VUV波長域での吸収が強いので、アルミニウム層は、酸化からの保護対策をさらに講じなければVUV波長域で用いる反射層としては魅力的でない。
【0006】
アルミニウム層を酸化から保護するために、例えば、非特許文献1の論文から、アルミニウム層に金属フッ化物の形態の、例えばMgF、AlF、又はLiFの形態若しくはこれらの材料でできた3層保護コーティングの形態の保護層又は保護コーティングを施すことが知られている。
【0007】
しかしながら、リソグラフィで、特にマスク及びウェーハの検査時に起こり得るような高い放射強度では、反射光学素子の激しい劣化が数時間又は数日以内に起こり、大きな反射率損失が伴うことが確認されている。実際には環境に対して非常に良好な保護効果を示す上述の金属フッ化物でできた保護層でも、照射の場合にアルミニウム層の酸化を抑えることはできない。著しい反射率の低下は、酸化防止のために光学素子の環境中の酸素又は水分の含量を低下させた場合にも観察された。
【0008】
VUV波長域用の光学装置の場合、光学素子の環境中の不要なガス成分を完全に抑制できないので光学面が汚染されるという問題が概して追加される。これらのガス成分は、光学面に堆積し、照射中にそこに「焼き付けられる(burned in)」。この問題は、反射光学素子の光学面に関してだけでなく、透過光学素子の光学面に関しても存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】"Protected and enhanced aluminum mirrors for the VUV" by S. Wilbrandt et al., Applied Optics, Vol. 53, No. 4, February 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、耐用寿命を延ばすことができる、VUV波長域の放射線を反射する光学素子及びVUV波長域用の光学装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、(分子状)水素の解離のための少なくとも1つの水素触媒(hydrogen-catalytic)層がアルミニウム層に施される、前述のタイプの光学素子により達成される。
【0012】
本発明者らの認識によれば、特定の材料が触媒的水素化分解(catalytic hydrogen splitting)又は分子状水素の解離を引き起こす。分子状水素は、場合によっては化合物の形態で光学素子の環境に添加された場合、特に高い照射量で水素触媒層の材料において分離して活性水素を形成する。活性水素は、水素ラジカル、水素イオン、及び/又は励起電子状態にある水素を意味すると理解される。この活性水素は、通常は高い放射強度でもアルミニウム層の酸化を防止するか又は少なくとも大幅に減速させることができる。
【0013】
一実施形態では、水素触媒層の材料の場合、これはRu、Pt、Pd、Ni、Rhを含む群から選択される。これらの材料、特にRu及びPtに関しては、例えば残留ガス雰囲気中で環境に水素を添加することにより、酸化を事実上完全に防止することができることが示されている。真空環境中で形成された酸化ルテニウムを、その後の水素添加によりルテニウムに還元することができる、すなわち酸化反応を逆転させることができることが、EUV波長域でのリソグラフィから既知である。
【0014】
有利な実施形態において、水素触媒層は、0.1nm~3.0nm、好ましくは0.1nm~1.0nmの層厚を有する。上記で指定した水素触媒材料は、通常はVUV波長域において反射率が低すぎる又は吸収が大きすぎるので大きな層厚を適用できない。例えば、Ruは、VUV波長域では0.6をかなり下回る反射率を有する。これに対応して、わずか3nmの厚さを有するルテニウム層は、光学素子の反射率を全体で約0.2低下させ、これは概して許容し難い。
【0015】
さらに別の実施形態において、水素触媒層は、アルミニウム層を完全に覆わない。層厚が特定の値を下回る場合、通常は層を完全な密閉形態で施すことができなくなる。例えば、Ruを層材料とすると、これは約1.0nm以下の層厚の場合である。したがって、厚さがこの(材料に依存する)値を下回る場合、水素触媒層が施されているにも関わらず、アルミニウム層の表面の一部が露出し、自然酸化アルミニウムが上記部分に形成され得る。しかしながら、アルミニウム層のうち覆われている部分領域(単数又は複数)では自然酸化アルミニウム層が形成され得ないので、完全に密閉されていない水素触媒層でも、照射中の酸化率を低下させることができる。さらに、光学素子の環境に水素が添加される場合、水素触媒層の材料の触媒効果により、場合によってはアルミニウム層の露出表面領域でも酸化が起こり得ない。
【0016】
発展形態において、水素触媒層は、約10%~90%、好ましくは30%~70%の被覆率でアルミニウム層を覆う。被覆率は、(基板とは反対側の)アルミニウム層の表面全体に対する水素触媒層の表面の割合を意味すると理解される。通常は、水素触媒層での被覆は、この場合はアルミニウム層上で水素触媒層の島状の離間した材料の蓄積物の形態で起こる。密閉した水素触媒層のように、(分子状)水素がアルミニウムと水素触媒層との間に蓄積して、水素触媒層の完全な又は部分的な剥離に普通はつながるような気泡の形成を招くことがないので、これは有利である。水素の作用に起因した気泡の形成又は光学素子のコーティングの劣化を防止するために、コーティングの上層の表面に吸着した水素原子を分子状水素に変換して表面からそれを脱離させるように上層が水素脱離材料を含有することが、独国特許出願公開第102017222690号明細書から既知である。
【0017】
さらに別の実施形態において、反射コーティングは、アルミニウム層及び水素触媒層に施された保護層を含む。反射の理由で、水素触媒層がアルミニウム層を完全に覆わないほど薄く施される場合、アルミニウム層の表面の一部が露出する。自然酸化物層がアルミニウム層の露出表面領域に形成される場合、この反応は概して、酸素とのアルミニウムの反応エンタルピーが比較的高いので水素の添加により逆転させることができなくなる。活性水素は分子状水素よりも反応性がかなり高いが、上記のことは水素触媒層上に形成された活性水素にも当てはまる。しかしながら、酸化反応がまだ起こっていない場合は状況が異なる。酸素又は水酸化物分子は、反応前には表面への結合がさらにより緩く、したがって水素ラジカルで還元されやすく、すなわちアルミニウムの酸化率はこの場合は低下する。
【0018】
したがって、酸化を防止するのに十分な量の水素が光学素子の環境中に存在するまで保護層を用いて、少なくとも水素触媒層で覆われていない表面領域(単数又は複数)においてアルミニウム層を酸化から保護することが通常は有利である。これは、例えば光学装置での光学素子の動作時に、適当な水素含有環境がそこに設けられる場合である。
【0019】
保護層は、密閉層を形成することが好ましい。上述のように、保護層がアルミニウム層の少なくとも露出表面領域(単数又は複数)を覆う必要がある。これは、アルミニウム層とそれを部分的に覆う水素触媒層とに密閉保護層を施すことにより通常は達成される。代替として、保護層をアルミニウム層の露出表面領域のみに施してもよいことを理解されたい。しかしながら、水素触媒層の厚さが小さいので、このような手順は概して実際的ではない。
【0020】
保護層は、透明の、特にフッ化物材料、例えば金属フッ化物から形成される、例えばAlFでできていることが好ましい。この場合、保護層は、通常は不可逆的であり、すなわち水素触媒層に永久的に施される。
【0021】
一実施形態において、保護層は、VUV波長域の放射線での照射及び/又は水素との接触により剥離可能な材料から形成される。この実施形態では、保護層は可逆的に施される。すなわち、照射中の酸化からアルミニウム層を保護するために水素がいずれにせよ導入されるので、又は反射コーティング、したがって保護層がVUV波長域の放射線にいずれにせよ曝されるので、光学装置での光学素子の動作時に保護層を容易に除去することができる。保護層を剥離可能にするために、保護層は通常は反射コーティングの上層である。
【0022】
剥離可能な保護層は、空気環境に曝される前の光学素子の製造中又は製造後に概して施される。光学素子を使用対象の光学装置内に移すために、保護層があるので、不活性ガス/窒素又は場合によっては真空中での光学素子の取り扱い及び輸送という複雑な概念が必要ない。光学装置が整備される場合、その際に光学素子が大気に曝されるのでアルミニウム層の酸化を防止するのに十分な量の水素がなくなるが、必要であれば、例えば真空環境又はフラッシングガスを流した環境であり得る光学素子の環境に適当な物質を例えば添加することにより、保護層を再度施すことができる。
【0023】
発展形態において、保護層は、炭素又は少なくとも1つの炭化水素から形成される。上述のように、保護層を容易に剥離し再度施すことができれば有利である。これは例えば、炭素又は炭水化物を含有しており光学素子の動作時に炭素化合物ガスに還元される薄い保護層の場合である。光学装置の反射光学素子の環境に炭素又は炭化水素を添加することにより、保護層を水素触媒層に(再度)堆積させることが可能となる。保護層を形成する炭化水素は、例えば、揮発性アルカン又はアルケンとすることができ、これは続いて表面に付着して高分子層を形成する。
【0024】
本発明の第2態様は、光学素子が既に上述したように設計され、ガス入口が内部に(分子状)水素を供給するよう設計又は構成された、前述のタイプの光学装置、特にウェーハ検査システム又はVUVリソグラフィ装置に関する。内部には、ガス入口を介してフラッシングガスを流すことができ、ガス入口には水素が追加供給されるが、光学素子が配置される内部を真空環境にすることも可能であり、この真空環境に、ガス入口を介して水素が追加供給される。内部への水素の供給のために、ガス入口は、分子状水素の貯留に用いるガスリザーバを通常は有する。
【0025】
水素触媒層上に活性水素を形成し、このようにしてアルミニウム層を酸化から保護するために、光学素子が配置される内部に十分な量の分子状水素が供給される。光学素子の環境中、すなわち周囲のフラッシングガス中又は真空中で酸素又は水等の酸化剤の量をできる限り少なく保つようにも試みるべきであることを理解されたい。これらの措置を総合した結果として、アルミニウム層のアルミニウムの酸化率を、光学素子の高い反射率が十分に長い照射時間にわたって確保されるような程度まで通常は減らすことができ、その結果として、光学素子を交換する必要ができる限り少なくなるか、又は反射コーティングを新しくする必要ができる限り少なくなる。
【0026】
本発明のさらに別の態様は、本発明の第2態様に従って設計することができるが必ずしもそうでなくてもよい前述のタイプの光学装置に関する。光学装置は、光学素子の光学面の少なくとも1つの部分領域において大気圧プラズマを発生させるためにガス入口を介して内部にプラズマガスを供給するプラズマ発生デバイスを有する。
【0027】
光学素子は、VUV波長域の放射線用の反射光学素子とすることができ、その反射コーティングに光学面が形成される。光学素子は、代替として、VUV波長域の放射線が光学面を通過する透過光学素子とすることができる。いずれの場合も、光学面は、光学装置のビーム経路に少なくとも部分的に配置される。
【0028】
既に上述したように、VUV波長域の放射線用の光学装置で用いられる反射光学素子及び透過光学素子の両方に関する問題は、上記光学素子の光学面に堆積するガス成分が環境中にあることにより、上記光学素子が経時的に汚染されることである。光学面をクリーニングするために、本発明のこの態様では、大気圧プラズマを用いて光学面(単数又は複数)上の不要な堆積物を除去することが提案される。特に光学装置がフラッシングガス雰囲気中で動作することができ、真空ポンプを設けなくてもよいので、真空条件下で発生するプラズマと比べて、大気圧プラズマ、すなわち100mbarを超える、好ましくは約1barの圧力のプラズマの使用が有利であることが分かった。この場合、圧縮空気又は別のタイプのフラッシングガス、例えば窒素及び/又は希ガス、例えばアルゴンをプラズマガスとして又はプラズマガスの主成分として用いることができる。プラズマのクリーニング効果を高めるために、反応性ガス又は反応種、例えば水素、酸素、又は水をプラズマガスに場合によっては添加することができる。
【0029】
一実施形態において、プラズマ発生デバイスは、光学素子の光学面上で水素プラズマを発生させるよう設計される。この実施形態では、水素をプラズマガスに添加することができ、プラズマガスはガス入口を介して内部に供給される。代替として、プラズマガス及び水素を2つ以上の別個のガス入口を介して内部に供給することが可能である。水素プラズマが光学面の環境で形成されることが重要である。
【0030】
反射光学素子のアルミニウム層のクリーニングに水素プラズマを特に有利に用いることができ、反射光学素子の表面が露出していることにより、水素プラズマがアルミニウム層の表面と接触する。既に上述した自然Al層は、プラズマの励起水素イオンによりアルミニウムに完全に又は部分的に還元され、その結果として、反射光学素子の反射率が向上し且つ光学装置の透過率が向上する。
【0031】
既に上述したように、酸素とのアルミニウムの反応エンタルピーが高いので、水素又は水素触媒層上で活性化した水素を供給するだけでは酸化アルミニウムのアルミニウムへの還元は不可能である。しかしながら、水素プラズマを用いたクリーニング時には、このような還元反応が可能であり、したがって、分子状水素の解離のための既に上述した水素触媒層を場合によってはなくすことができる。水素プラズマを連続的にではなく動作の中断中に断続的に、例えば所定の時間間隔で発生させる場合、又は光学素子の反射率が著しく低下する場合、水素プラズマの発生と既に上述した水素触媒層との組み合わせが有利である。
【0032】
プラズマガス、より厳密にはプラズマ形成中に生成されるプラズマガスイオンは、種々の方法で光学面に供給することができる。
【0033】
一実施形態において、ガス入口は、光学面の少なくとも1つの部分領域にプラズマガスを供給するプラズマノズルとして設計される。この場合、ガス入口は、少なくとも1つの出口開口を有することができ、これは、プラズマガスのプラズマガス流を光学面へ又は光学面の少なくとも1つの部分領域へ指向させるよう設計される。この場合、ガス入口はプラズマノズルであり、そのガス出口は、プラズマノズル又はその出口開口を光学面に対して移動、例えば傾斜及び/又は変位させることができるならば、光学面へ向けられる又は向けられることができる。プラズマノズルの場合、例えばオイルフリー圧縮空気の形態又はフラッシングガス、例えば窒素若しくは別の不活性ガスの形態のプラズマガスは、通常は放電部を通って流れ、そこで励起されてプラズマ状態に変換される。例えば水素又は別の活性ガスを添加され得るプラズマガスは、プラズマ状態でプラズマノズルから内部に入る。プラズマノズルから出てすぐに電気的に中性であるべきである活性ガスジェットの発生を可能にするプラズマノズルの例が、独国特許出願公開第10145131号に記載されており、その全体を参照により本願の一部とする。
【0034】
代替として又は追加として、プラズマ発生デバイスは、光学面から離間して、光学面の少なくとも1つの部分領域で大気圧プラズマを発生させる少なくとも1つの電極を有することができる。電極(単数又は複数)を用いて、プラズマを内部の所望の場所で狙い通りに発生させることができる。この場合、例えば、反射コーティングのアルミニウム層又は別の金属層は、対向電極として、又はプラズマ電極の接地電位を提供するよう働くことができる。電極(単数又は複数)は、例えば、電極チップの領域でプラズマガスをイオン化するか又は光学面の部分領域まで延びるプラズマをそこで発生させるためにテーパ状であり得る。
【0035】
さらに別の実施形態において、プラズマ発生デバイスは、光学面で場所に応じて可変の大気圧プラズマを発生させるよう設計される。光学面の部分領域が以前に汚染又は酸化された程度までしかプラズマに曝されなければ有利であることが分かった。これは、プラズマノズル(単数又は複数)及び/又は電極(単数又は複数)の適当な配置により達成することができる。例えば、電極及び/又はプラズマノズルを光学素子の周りにリング状に配置して、各電極又はプラズマノズルが光学面の部分領域にそれぞれ割り当てられるようにすることができる。個々のプラズマノズル又は電極の狙い通りの活性化により、光学面上の大気圧プラズマを場所に応じて変えることができる。特に、各プラズマノズル又は各電極がクリーニング作業又は還元反応のために活性化される時間を、特に光学面の各部分領域の汚染度又は酸化度に応じて個別に設定することもできる。
【0036】
各部分領域の汚染度又は酸化度を判定するために、光学装置は、例えばカメラ等の形態の検査デバイスを有し得る。動作の中断中にプラズマを発生させる場合、光学面の酸化又は汚染に関する場所依存情報を得るために動作の中断中にカメラ又は別の検査デバイスを内部に導入することができる。
【0037】
既に上述した例では、プラズマノズル(単数又は複数)又は電極(単数又は複数)が光学装置のビーム経路外に配置されるものとした。しかしながら、適当なアクチュエータを用いて、プラズマノズル(単数又は複数)又は電極(単数又は複数)を光学装置のビーム経路に導入し且つそれらを再度除去することも可能である。これは、大気圧プラズマの発生が光学装置の動作の中断中にのみ起こる場合に特に有用であり得る。
【0038】
既に上述した大気圧プラズマのクリーニング作業又は還元効果により、光学素子の反射率を高めることができ、すなわち光学素子を光学装置から取り外す必要がない。このように、光学装置から各光学素子を頻繁に取り外して構造的に同一の新たな光学素子に交換するか、又は反射コーティングを除去して除去後に再度施す必要がないようにすることができる。
【0039】
本発明のさらなる特徴及び利点は、本発明に必須の詳細を示す図面の図を参照した以下の本発明の例示的な実施形態の説明から及び特許請求の範囲から明らかである。個々の特徴のそれぞれを、単独で又は本発明の一変形形態において複数の任意の組み合わせで実施することができる。
【0040】
例示的な実施形態を概略図に示し、以下で詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】VUVリソグラフィ装置の形態のVUV波長域用の光学装置の概略図を示す。
図2】ウェーハ検査システムの形態の光学装置の概略図を示す。
図3】非酸化アルミニウム層及び照射により酸化されたアルミニウム層の波長依存の反射率の概略図を示す。
図4a】アルミニウム層とアルミニウム層に施された水素触媒層とを有する反射コーティングを備えた光学素子の概略図を示す。
図4b】アルミニウム層とアルミニウム層に施された水素触媒層とを有する反射コーティングを備えた光学素子の概略図を示す。
図5a】反射光学素子の光学面で大気圧プラズマを発生させるための6つのプラズマノズルを備えたプラズマ発生デバイスを示す。
図5b】反射光学素子の光学面で大気圧プラズマを発生させるための6つのプラズマノズルを備えたプラズマ発生デバイスを示す。
図6a】反射光学素子の光学面で大気圧プラズマを発生させるための6つの電極を備えたプラズマ発生デバイスを示す。
図6b】反射光学素子の光学面で大気圧プラズマを発生させるための6つの電極を備えたプラズマ発生デバイスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図面の以下の説明において、同一又は機能的に同一の構成部品には同一の参照符号を用いる。
【0043】
図1は、特に100nm~200nm又は190nmの範囲の波長用のVUVリソグラフィ装置の形態の光学装置1を概略的に示す。VUVリソグラフィ装置1は、必須コンポーネントとして、照明系12及び投影系14の形態の2つの光学系を有する。VUVリソグラフィ装置1は、露光プロセスを実行するための放射源10を有し、これは、例えば193nm、157nm、又は126nmのVUV波長域の波長の放射線11を発するエキシマレーザとすることができ、VUVリソグラフィ装置1の一体部分であり得る。
【0044】
放射源10が発した放射線11は、照明系12を用いて、レチクルとも称するマスク13を完全に照明できるように調整される。図1に示す例では、照明系12は、透過光学素子及び反射光学素子の両方を有する。例えば、放射線11を集束させる透過光学素子120と、放射線11を偏向させる反射光学素子121とを、図1に代表的に示す。既知のように、さまざまな透過光学素子、反射光学素子、又は他の光学素子を任意の所望のさらに複雑な方法で照明系12において相互に組み合わせることができる。
【0045】
マスク13は、投影系14を用いて半導体コンポーネントの製造の一部として露光される素子15、例えばウェーハに転写される構造を表面に有する。図示の例では、マスク13は、透過光学素子として具現される。マスク13は、代替的な実施形態において反射光学素子として具現することもできる。投影系14は、図示の例では少なくとも1つの透過光学素子を有する。図示の例では、2つの透過光学素子140、141が代表的に示されており、これらは、例えばマスク13上の構造をウェーハ15の露光に望まれるサイズに縮小する働きをする。投影系14にも、特に反射光学素子を設けることができ、任意の光学素子を任意の既知の方法で相互に組み合わせることができる。透過光学素子のない光学装置をVUVリソグラフィに用いることもできることも指摘しておく。
【0046】
図2は、ウェーハ検査システム2の形態の光学装置の例示的な実施形態を概略的に示す。以下で行う説明は、マスク検査用の検査システムにも同様に当てはまる。
【0047】
ウェーハ検査システム2は、放射源20を有し、その放射線21は光学系22によりウェーハ25へ指向される。この目的で、放射線21は、凹面ミラー220からウェーハ25へ反射される。マスク検査システム2の場合、ウェーハ25の代わりに検査対象のマスクを配置してもよい。ウェーハ25で反射、回折、及び/又は屈折した放射線は、同じく光学系22に関連するさらに別の凹面ミラー221により、さらなる評価用の検出器23へ指向される。例として、放射源20は、実質的に連続した放射スペクトルを提供するために1つの放射源のみ又は複数の個別の放射源の組み合わせであり得る。変更形態において、1つ又は複数の狭帯域放射源20を用いることもできる。好ましくは、放射源20が発生する放射線21の波長又は波長帯は、100nm~200nm、特に好ましくは110nm~190nmの範囲にある。
【0048】
例えば図1からのVUVリソグラフィ装置1又は図2からのウェーハ又はマスク検査システム2等の光学装置の動作中、各反射光学素子121、220、221の反射光学面121a、221a、222aの酸化が起こり得る。反射光学素子121、220、221は、VUV放射線11を反射する金属ミラー層を有することができ、アルミニウム層が、例えば100nm~200nmの広い波長域で高い反射率を有する金属ミラー層であることが分かっている。
【0049】
一例として、このようなアルミニウム層の反射率Rを、約120nm~約280nmの波長域の、すなわち約100nm~200nmのVUV波長域のほぼ全体を包含する波長域の波長λの関数として図3に示す。この場合に図3に破線で示す曲線は、図示の波長域全体で0.9を超える非酸化アルミニウム層の反射率Rに対応する。
【0050】
図3に実線で示す曲線は、VUV波長域の放射線11、21での照射により酸化されたアルミニウム層の反射率Rを示す。ここで該当する約200nm未満の波長λに関する反射率Rが、著しく、具体的には約140nm未満の波長λで0.1未満の値まで低下することが明確に分かる。図3に示す反射率Rの曲線を用いると、金属ミラー層として働くアルミニウム層がVUV波長域の放射線11の反射に用いられる場合に、その酸化を回避すべきであることは極めて明白である。
【0051】
図4a、図4bは、VUV波長域の放射線11を反射するよう具現され、図1又は図2の反射光学素子121、220、221のうちの1つを例えば形成し得る、光学素子4を示す。図4a、図4bに示す光学素子4は、基板41を有するミラーであり、基板41は、図示の例では石英(ガラス)、特にチタンドープ石英ガラス、セラミック、又はガラスセラミックであり得る。反射コーティング42が基板41に施され、上記反射コーティングは、金属ミラー層として働く連続アルミニウム層43を有する。アルミニウム層43は、基板41に直接施すことができる。図4a、図4bに示す例では、接着促進層44の形態の機能層がアルミニウム層43と基板41との間に施される。接着促進層44の材料は、多数の材料から選択することができるが、基板41及びアルミニウム層43の両方に十分な接着があるように注意すべきである。他の機能層、例えば平滑化層及び/又は研磨層を、アルミニウム層43と基板41との間に設けてもよい。
【0052】
図4a、図4bに示す例では、活性水素中又は水素ラジカル中の分子状水素Hの解離に役立つ水素触媒層45が、アルミニウム層43に施される。水素触媒層45の材料は、例えばRu、Pt、Pd、Ni、又はRhであり得る。
【0053】
上記材料は、VUV波長域の放射線11に対して比較的低い反射率を有する。したがって、図4a、図4bに示す例では1.0nm未満である水素触媒層45の厚さDができる限り薄ければ有益である。このような小さな厚さDを有する水素触媒層45は、完全に被覆するように、すなわち密閉層の形態でアルミニウム層43に施すことはできず、図4a、図4bに示すように、水素触媒層45の島状の離間した材料の蓄積物がアルミニウム層43上に形成される。
【0054】
水素触媒層45によるアルミニウム層43の被覆率は、約10%~約90%、好ましくは30%~70%であり、小さな厚さDを有する水素触媒層45の実現を可能にするので光学素子5の反射率Rが低下しすぎず、さらに、VUV放射線11、21での照射中のアルミニウム層43の酸化を防止するのに十分な水素触媒層45の解離効果が可能となる。
【0055】
水素触媒層45の保護効果の必要条件は、反射光学素子4の環境中で分子状水素Hを利用可能であることである。図1に示すVUVリソグラフィ装置1における分子状水素Hは、照明系12のハウジング122に形成されたガス入口123を介して、反射光学素子121が配置されたハウジング122の内部122aに供給される。この目的で、ガス入口123は、分子状水素Hを収容するガスリザーバ(図示せず)を有する。十分な量の分子状水素Hが反射光学素子121の環境中に存在する場合、これは、水素触媒層45で活性水素に変換されることができ、したがってアルミニウム層43を酸化から保護する。
【0056】
照明系12のハウジング122の内部122aに設置されると、反射光学素子121は、概して大気に曝され、これが水素触媒層45又はアルミニウム層43の不可逆的である可能性がある酸化につながり得る。したがって、図4bに例として示すように、水素触媒層45に保護層46を施すことが有益である。保護層46は、アルミニウム層43及び水素触媒層45の両方を覆う密閉層を形成すべきである。保護層46は、水素触媒層45に永久的に施すことができる。この場合、保護層46の材料は、アルミニウム層43に良好な保護効果を与える透明材料とすべきである。この場合、保護層46の材料は、例えばフッ化物材料、例えばAlFの形態の例えば金属フッ化物であり得る。
【0057】
代替として、保護層46は、水素触媒層45及びアルミニウム層43に可逆的に施すことができる。この場合、保護層46は、反射光学素子121が照明系122に導入された後に再度除去されることができる。この目的で、VUV波長域の放射線11での照射時及び/又は(分子状)水素Hとの接触時に剥離される材料が、保護層46に用いられる。照射に起因して剥離され得る保護層46の材料は、炭素又は少なくとも1つの炭化水素、例えばパリレンであり得る。
【0058】
アルミニウム層43、それに施された水素触媒層45、及びそれに施される可能がある保護層46は、原子層堆積により堆積させることが好ましい。原子層堆積は、特に薄く平滑な層の堆積を可能にし、且つこのようにして、吸収に起因した反射率の損失及び散乱の低減を可能にする。原子層堆積のほかに、他のコーティングプロセス、例えばマグネトロンスパッタリング、イオンアシスト蒸着、プラズマ強化蒸着、熱蒸着等も適している。
【0059】
図2に示すウェーハ検査システム2の反射光学素子220、221も、図4a、図4bに関連して記載したように設計することができる。ウェーハ検査システム2の光学系22は、ハウジング24を有し、その内部24aには2つの反射光学素子220、221が配置される。分子状水素Hをハウジング24の内部24aに供給することができるガス入口26が、ハウジング24に形成される。
【0060】
図5a、図5bは、VUV波長域の放射線11、21を反射するよう設計され、図1又は図2の反射光学素子121、220、221のうちの1つを例えば形成し得る、反射光学素子5を示す。図5図5bの反射光学素子5は、実質的に図4a、図4bに示す反射光学素子4のように設計されるが、水素触媒層45も保護層36も有しておらず、すなわち、アルミニウム層43が環境に直接曝され、その上部が反射光学面5aを形成する。
【0061】
反射光学素子5のアルミニウム層43を酸化から保護するために、図5a、図5bの反射光学素子5が配置される各光学装置1、2は、反射光学素子5の反射光学面5a上で大気圧プラズマ51を発生させるプラズマ発生デバイス50を有する。この目的で、プラズマ発生デバイス50は、プラズマノズル52a~52fの形態の6つのガス入口を有し、これらは、上面図では円形である光学面5aの周りに周方向に均一な分配で、具体的には図5bに破線で示すVUV放射線11、21のビーム経路53の外側に配置される。
【0062】
プラズマノズル52a~52fは、各プラズマガス流の形態のプラズマガス54a~54fを光学面5aに供給するよう設計される。図5a、図5bに示す例では、各プラズマガス流54a~54fは、上面図では円形である光学面5aの円弧を形成する光学面5aの6つの部分領域5a~5fのうちの1つにそれぞれ供給される。反射光学素子5の横断面を示す図5bで見ることができるように、各プラズマノズル52a~52fは、したがってプラズマガス流54a~54fも、光学面5aに対して斜めに向けられる。
【0063】
図示の例では、プラズマ発生デバイス50は、水素プラズマ51を発生させるよう設計される。この目的で、プラズマノズル52a~52fから出るプラズマガス流54a~54fは、例えば窒素、希ガス、又は上記ガスの混合物の形態のフラッシングガスに加えて、比較的低比率の水素を有する。(分子状)水素Hをプラズマガス54a~54fに添加することにより、大気圧プラズマ51のクリーニング効果が向上し、照射中に光学面5a上に形成された薄い酸化アルミニウム層がアルミニウムに再還元される。
【0064】
図3に関連して上述したように、反射光学素子5の反射率Rをこのように著しく高めることができる。反射光学素子5も位置付けられている各内部122a、24aに通常配置されるプラズマノズル54a~54fの使用により、各内部122a、24aに分子状水素Hを供給するための図1及び図2に示すガス入口123、26を省くことができる。
【0065】
図6a、図6bは、VUV波長域の放射線11、21を反射するよう設計され、図1又は図2からの反射光学素子121、220、221のうちの1つを例えば形成し得る反射光学素子6の光学面6aで大気圧プラズマ61を発生させるのに用いられる、プラズマ発生デバイス60を示す。図6a、図6bのプラズマ発生デバイス60が図5a、図5bに示すプラズマ発生デバイス50と異なるのは、反射光学素子6の光学面6aで大気圧プラズマ61を発生させるために6つの先鋭電極(pointed electrodes)62a~62fを有する点である。6つの電極62a~62fは、光学素子6が用いられる光学装置1、2のビーム経路63の外側に配置される。
【0066】
プラズマ発生デバイス60は、電極62a~62fと規定電位に保たれ図示の例では接地電位に接続されたアルミニウム層54の光学面6aとの間に電位差を発生させ、その結果として、各電極62a~62fと光学面6aとの間に光学面6aまで延びる大気圧プラズマ61ができる。図6a、図6bに示すプラズマ発生デバイス60では、各電極62a~62fは、円弧を形成する光学面6aの部分領域65a~65fにそれぞれ割り当てられる。プラズマガス64は、この例では図1又は図2からの関連の内部122a、24aへの各ガス入口123、26を介して、光学面6aの環境に供給される。ここで、図1及び図2に示すように、ガス入口123、26を介して内部122a、24aに分子状水素Hをさらに供給できるが、これは概して少量の添加剤(small admixture)の形態でプラズマガス64に添加される。
【0067】
図5a、図5bに示すプラズマ発生デバイス50及び図6a、図6bに示すプラズマ発生デバイス60の両方において、光学面5a、6a上の各大気圧プラズマ51、61は場所に応じて変わり得る。この目的で、プラズマノズル52a~52f又は電極62a~62fを個別に制御することができる。例えば、図5a、図5bに示すプラズマ発生デバイス50では、各プラズマノズル52a~52fを通る流れ及び/又はプラズマガス流54a~54fが光学面5aの各部分領域55a~55fへ流れる時間を個別に設定することができる。これに対応して、光学面6aの各部分領域65a~65fで発生する水素プラズマ61の強弱を変えるために、各電極62a~62fと光学素子6又はアルミニウム層43との間の電位又は電位差を変えることもできる。
【0068】
このように、各プラズマ発生デバイス50、60を用いて、光学面5a、6aのうち以前に酸化又は汚染された部分領域55a~55f、65a~65fで狙い通りにプラズマクリーニングを実行することができる。光学面5a、6aのうち各関連部分領域55a~55f、65a~65fに属さない場所のプラズマノズル52a~52f又は電極62a~62fによっても、(あまり強くない)大気圧プラズマ51、61が発生するので、全てのプラズマノズル52a~52f又は全ての電極62a~62fを活性化して大気圧プラズマ51、61を発生させることは必ずしも必要でない。図5a、図5b及び図6a、図6bに示す6つのプラズマノズル52a~52f又は6つの電極62a~62fの数は、一例にすぎず、すなわち、プラズマ発生デバイス50、51は、より少数又は多数のプラズマノズル52a~52f又は電極62a~62fを有することもできる。
【0069】
図5a、図5b及び図6a、図6bに示すプラズマ発生デバイス50、60を用いて、反射光学素子5、6の前側の反射面5a、6aで大気圧プラズマ51、61を発生させることができるだけでなく、透過光学素子、例えば図1に示す投影系14の2つの透過光学素子140、141でも大気圧プラズマ51、61を発生させることができる。この場合、大気圧プラズマ51、61を用いて、汚染物質を各透過光学面140a、140b、141a、141bから除去することができる。クリーニング効果を高めるために、反応性ガス成分、例えば上述の水素又はおそらく酸素若しくは水を、大気圧プラズマ51、61の発生に用いられるプラズマガスに添加することができる。これが可能なのは、酸素の酸化効果により損傷を受ける可能性があるアルミニウム層43又は任意の他の材料でできた層を有する反射光学素子が、投影系14に配置されていないからである。
【0070】
既に上述した措置は、アルミニウム層43の酸化による反射光学素子121、220、221の反射率Rの低下を抑えることができる。大気圧で水素プラズマ51、72を発生させることにより、アルミニウム層54の酸化反応をさらに逆転させることができ、すなわち、すでに形成された酸化アルミニウムを金属アルミニウムに再還元することができる。大気圧プラズマ51、61の作用により、透過光学素子140、141の光学面140a、140b、141a、141bも汚染物質の除去によりクリーニングすることができる。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図6a
図6b
【国際調査報告】