(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-02
(54)【発明の名称】表面コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 183/14 20060101AFI20220126BHJP
C09D 127/12 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
C09D183/14
C09D127/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533473
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(85)【翻訳文提出日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 EP2019079760
(87)【国際公開番号】W WO2020120006
(87)【国際公開日】2020-06-18
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】グロッテンミュラー ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ネル セルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイデマン スザンネ
(72)【発明者】
【氏名】谷田 正博
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CD101
4J038DL161
4J038MA07
4J038MA09
4J038NA03
4J038NA04
4J038NA07
4J038NA11
4J038NA12
4J038PC02
(57)【要約】
本発明は、様々な母材基板に機能性表面コーティングを作製するための新規コーティング組成物に関する。コーティング組成物はシラザン含有ポリマーとフッ素含有ポリマーに基づき、フッ素含有ポリマーは、第1の反復単位U1及び第2の反復単位U2を含む。コーティング組成物は物理的及び化学的表面特性を向上させ、使いやすい方法で適用し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)シラザン含有ポリマー;並びに
(ii)第1の反復単位U
1及び第2の反復単位U
2を含むフッ素含有ポリマー
を含むコーティング組成物であって、
前記第1の反復単位U
1がフッ素含有エチレン反復単位であり、かつ前記第2の反復単位U
2がフッ素を含まないビニルエーテル反復単位であるコーティング組成物。
【請求項2】
前記第2の反復単位U
2が式(B)で表され、
【化1】
上式で、B
1、B
2、及びB
3は同一又は互いに異なり、水素、1~30個の炭素原子を有するアルキル、又は2~30個の炭素原子を有するアリールから独立して選択され;並びに
R
bは、有機基、ヘテロ有機基、又はこれらの組み合わせから選択される、
請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記第1の反復単位U
1が式(A)で表され、
【化2】
上式で、A
1、A
2、及びA
3は同一又は互いに異なり、F、1~30個の炭素原子を有するペルフッ素化アルキル、又は2~30個の炭素原子を有するペルフッ素化アリールから独立して選択され;並びに
R
aは、F、Cl、Br、又は1~30個の炭素原子を有するアルキル、又は2~30個の炭素原子を有するアリールから選択され、1つ又は複数の水素原子がFで置き換えられていてもよい、
請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記フッ素含有ポリマーが、第3の反復単位U
3を更に含み、前記第3の反復単位U
3は式(C)で表され、
【化3】
上式で、C
1、C
2、及びC
3は同一又は互いに異なり、水素、1~30個の炭素原子を有するアルキル、又は2~30個の炭素原子を有するアリールから独立して選択され;並びに
R
cは水素であり、又は有機基、ヘテロ有機基、若しくはこれらの組み合わせから選択され、-OH又は-Si(OR
II)
3から互いに独立して選択される1個又は複数個の官能基を含み;R
IIは、各存在において互いに独立して1~10個の炭素原子を有するアルキルである、
請求項1~3のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
R
cが、水素、1~30個の炭素原子を有するアルキル、3~30個の炭素原子を有するアルキルアリール若しくはアルキルアリールスルホニル、3~30個の炭素原子を有するアリールアルキル若しくはアリールアルキルスルホニル、又は4~30個の炭素原子を有するアルキルアリールアルキル若しくはアルキルアリールアルキルスルホニルであり、
1つ又は複数の非末端かつ非隣接CH
2基は、-O-、-(C=O)-、-(C=O)O-、-O(C=O)-、-(C=O)-NR
I-、-NR
I-(C=O)-、-NR
I-(C=O)O-、-O(C=O)-NR
I-、-NR
I-(C=O)-NR
I-、-SO
2-、-C
6H
4-(フェニレン)、-C
10H
6-(ナフチレン)、-CH=CH-、又は-C≡C-によって互いに独立して置き換えてよく、また-OH又は-Si(OR
II)
3から互いに独立して選択される1個又は複数個の官能基を含み;
R
Iは、水素、又は1~10個の炭素原子を有するアルキルであり;並びにR
IIは、各存在において互いに独立して、1~10個の炭素原子を有するアルキルである、
請求項4に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記フッ素含有ポリマー中の前記第1の反復単位U
1のモル量が、前記フッ素含有ポリマー中の反復単位の総モル量に基づいて、5~96%、好ましくは10~91%である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記シラザン含有ポリマーが、式(I)で表される反復単位M
1を含み、
-[SiR
1R
2-NR
3-] (I)
上式で、R
1、R
2、及びR
3は同一又は互いに異なり、水素、有機基、ヘテロ有機基、又はこれらの組み合わせから独立して選択される、
請求項1~6のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記シラザン含有ポリマーが、式(II)で表される反復単位M
2を更に含み、
-[SiR
4R
5-NR
6-] (II)
上式で、R
4、R
5、及びR
6は同一又は互いに異なり、水素、有機基、ヘテロ有機基、又はこれらの組み合わせから独立して選択される
請求項7に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
前記シラザン含有ポリマーが、式(III)で表される反復単位M
3を更に含み、
-[SiR
7R
8-O-] (III)
上式で、R
7及びR
8は同一又は互いに異なり、水素、有機基、ヘテロ有機基、又はこれらの組み合わせから独立して選択される、
請求項7又は8に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
前記組成物が、1つ又は複数の溶媒を更に含む、
請求項1~9のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
前記組成物が、1つ又は複数の添加剤を更に含む、
請求項1~10のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
前記シラザン含有ポリマーと前記フッ素含有ポリマーの質量比が、1:100~100:1、好ましくは1:50~50:1、より好ましくは1:10~10:1の範囲にある、
請求項1~11のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項13】
コーティングされた物品を作製する方法であって、
(a)請求項1~12のいずれか一項に記載のコーティング組成物を物品の表面に適用するステップ;並びに
(b)前記コーティング組成物を硬化させてコーティングされた物品を得るステップ
を含む方法。
【請求項14】
前記ステップ(a)で適用されるコーティング組成物が、シラザン含有ポリマーを含む第1の成分とフッ素含有ポリマーを含む第2の成分とを混合することによって事前に用意され、前記シラザン含有ポリマー及び前記フッ素含有ポリマーが、請求項1~12のいずれか一項に記載のように定められる、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の方法によって得られるコーティングされた物品。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項に記載のコーティング組成物の、母材表面に機能性コーティングを形成するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラザン含有ポリマーとフッ素含有ポリマーに基づく新規コーティング組成物に関する。本コーティング組成物は、物理的及び化学的表面特性の向上、具体的には、機械抵抗及び耐久性の向上(表面硬度の向上、耐引っかき性の向上、及び/又は耐摩耗性の向上など);濡れ性及び接着性の向上(疎水性及び疎油性、清掃しやすい効果、及び/又は落書きしにくい効果など);耐薬品性の向上((例えば、溶媒、酸性及びアルカリ性媒体、並びに腐蝕性ガスに対する)耐食性の向上及び/又は抗酸化効果の向上など);光学効果の向上(耐光性の向上);並びに物理的バリア又はシール効果の向上などをもたらす、様々な母材基板への機能性コーティングの作製に特に好適である。
その上、本発明によるコーティング組成物に基づく機能性コーティングによって、更なる有益な表面特性、例えば帯電防止効果、防汚染効果、耐指紋効果、防汚効果、平滑効果、及び/若しくは光学効果などを得る、又は更に向上させる可能性がある。
更に本コーティング組成物は様々な基板表面に対する高い接着性を示し、かつ使いやすい方法で容易に適用できることから、温和な条件で効率良く簡単に、様々な膜厚の機能性表面コーティングが得られる可能性がある。
また本発明は、上記コーティング組成物を用いたコーティングされた物品を作製する方法、及び上記方法で作製されるコーティングされた物品にも関する。更に、母材表面に機能性コーティングを形成することにより、前述した特定の表面特性の1つ又は複数を向上させるための上記組成物の使用も提供する。
【背景技術】
【0002】
シラザン反復単位-[SiR2-NR’-]を有するポリマーは通常ポリシラザンと呼ばれる。置換基R及びR’が全て水素であればペルヒドロポリシラザン(PHPS)と呼ばれ、RとR’の少なくとも1つが有機部分であればオルガノポリシラザン(OPSZ)と呼ばれる。PHPS及びOPSZは、ある種の特性、例えば落書きしにくい効果、耐引っかき性、耐食性、又は疎水性及び疎油性などを表面に与える各種機能性コーティングに使用される。そのためシラザンは様々な用途の機能性コーティングに幅広く用いられている。
ポリシラザンは1つ又は複数の異なるシラザン反復単位からなり、一方ポリシロキサザンは1つ又は複数の異なるシロキサン反復単位を追加的に含む。ポリシロキサザンはポリシラザンとポリシロキサンの化学作用と挙動の特徴を併せ持っている。ポリシラザンとポリシロキサザンは、様々な用途の機能性コーティングの作製に用いられる樹脂である。
一般にポリシラザンとポリシロキサザンはともに液状ポリマーであり、分子量がおよそ10,000g/モルを超えると固体になる。大抵の適用において、適度な分子量、一般に2,000~8,000g/モルの液状ポリマーが使用される。そのような液状ポリマーから固形コーティングを作製するには硬化ステップが必要であり、硬化ステップは純物質又は調合物である材料を基板に適用した後に実施する。
【0003】
ポリシラザン又はポリシロキサザンは加水分解によって架橋でき、このとき空気中の水分は次の式(I)及び(II)に示す機序に従って反応する。
式(I):Si-N結合の加水分解
R3Si-NH-SiR3+H2O→R3Si-O-SiR3+NH3
式(II):Si-H結合の加水分解
R3Si-H+H-SiR3+H2O→R3Si-O-SiR3+2H2
加水分解時にポリマーが架橋し、分子量が増えることで材料が凝固する。従って、架橋反応によりポリシラザン又はポリシロキサザン材料が硬化する。このため本出願では、「硬化」及び「架橋」、並びに対応する動詞「硬化する」及び「架橋する」は、例えばポリシラザン及びポリシロキサザンなどのシラザンベースのポリマーに言及する際、同義語として同じ意味で使用する。通常、硬化は環境条件又は高温で加水分解によって行われる。
産業界でますます厳しくなる要件を満たす改良型機能性コーティングの作製を可能にする新規材料系を見つけることが強く求められている。そのため、多少のフッ素変性又はフッ素化添加剤を有するポリシラザンを含む様々なハイブリッド系が提案されている。
【0004】
P.FurtatらはJ.Mater.Chem.A,2017,5,25509-25521に、Si-H結合活性化によるフッ素変性ポリシラザンの合成、及び疎水性保護コーティングとしてのその適用を記載している。この学術論文は、フッ素化シリコンアルコキシド側鎖を有するOPSZ、-Si-O-CH2CF3に関する。こうした系の欠点は、こうした基が加水分解に対して不安定性であることである。
【0005】
中国特許出願公開第107022269号明細書は、ポリアクリレート、SiO2ナノ粒子、及びフッ素化OPSZに基づく自浄性、超硬性、及び疎水性の調合物を記載しており、フッ素化OPSZはSi-CF3、Si-CH2-CF3、Si-CH2-CH2-CF3、又はSi-CH2CH2COOCH2CF3基を有し得る。欠点として、フッ素化側鎖が短く、またフッ素を含まないシラザン反復単位によって「薄まった」フッ素化基のランダムな分布により、表面を完全にフッ素化できないことがある。
米国特許第9,994,732号明細書は、OPSZとフッ素化アクリルポリマーの混合物に関する。この2つのポリマーは不相溶であるため、特に分子量の高いフルオロアクリレートを使用すると、加工や硬化の際に脱混合や濁った膜の形成が生じることがある。分子量の低いフルオロアクリレートを使用すると、コーティングの撥水効果が低下する。巨視的な相分離を回避するために、フルオロアクリレートの最大量は少ない割合に制限される。
米国特許出願公開第2012/0264962号明細書には、二重鎖のフッ素化シリコン側鎖を有する特定のクロロシランモノマーから得られる2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物が記載されている。欠点として、モノマーの多段階合成に加え、フッ素化基がポリマー内にランダムに分布しているため、フッ素を含まないシラザン反復単位によってフッ素化部分が「薄まる」ことにより、表面を完全にフッ素化できないことがある。
米国特許出願公開第2006/0246221号明細書は、フルオロシラン又はフルオロシラン含有凝縮物で表面をコーティングする工程に関し、a)第1のステップでは、ポリシラザン、溶媒、及び触媒を含むポリシラザン溶液を前記表面に適用し;並びにb)第2のステップでは、フルオロシラン又はフルオロシラン含有凝縮物を前記表面に適用してコーティングされた表面をもたらす。
米国特許出願公開第2007/0149714号明細書は、フルオロカーボンポリマー、ラジカル開始剤、及び第1の硬化助剤を含む組成物に関する。第1の硬化助剤は、ヒドロカルビルシランとヒドロカルビルシラザンから選択される少なくとも1つのシリコン含有基を含む。更に第1の硬化助剤は、実質的にシロキサン基を含まず、少なくとも1つの重合可能なエチレン性不飽和基を含む。しかしながら、米国特許出願公開第2007/0149714号明細書に記載される組成物は、プレス加硫でしか適用できず、例えばスプレーコーティングなど溶液からの適用方法には適しておらず、特に表面に適用したい場合には、適用の可能性が大きく制限される。
国際公開第2011/002668号は、基板の表面が水、油、汚れ、及び/又はほこりをはじくよう処理する方法に関する。具体的には、(a)少なくとも1つの主面を有する少なくとも1つの基板を提供するステップ;(b)(1)少なくとも1つの化学反応性部位を有する少なくとも1つの硬化性オリゴマー又はポリマーポリシラザンと(2)(i)少なくとも約6個のペルフッ素化原子を有する少なくとも1つのオルガノフッ素又はヘテロオルガノフッ素部分、及び(ii)少なくとも1つの化学反応性部位を介してポリシラザンと反応できる少なくとも1つの官能基を含む少なくとも1つのフルオロケミカル化合物とを混合するステップ;(c)ポリシラザンとフルオロケミカル化合物とが反応できるようにし、又はこれらを反応させ、少なくとも1つの硬化性オルガノフッ素変性ポリシラザンを形成するステップ;(d)基板の少なくとも1つの主面の少なくとも一部に硬化性オルガノフッ素変性ポリシラザン又はその前駆体を適用するステップ;並びに(e)硬化性オルガノフッ素変性ポリシラザンを硬化させ、表面処理を行うステップを含む表面処理方法が記載されている。
記載されている方法の欠点として、フルオロケミカル化合物の液体物理的外観や、大量のフルオロケミカル化合物を使用すると硬度と耐引っかき性が低下することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、先行技術の欠点を克服し、物理的及び化学的表面特性の向上、具体的には、機械抵抗及び耐久性の向上(表面硬度の向上、耐引っかき性の向上、及び/又は耐摩耗性の向上など);濡れ性及び接着性の向上(疎水性及び疎油性、清掃しやすい効果、及び/又は落書きしにくい効果など);耐薬品性の向上((例えば、溶媒、酸性及びアルカリ性媒体、並びに腐蝕性ガスに対する)耐食性の向上及び/又は抗酸化効果の向上など);光学効果の向上(耐光性の向上);並びに物理的バリア又はシール効果の向上などをもたらす、様々な母材基板への機能性表面コーティングの作製に特に好適である新規コーティング組成物を提供することである。
その上、例えば帯電防止効果、防汚染効果、耐指紋効果、防汚効果、平滑効果、及び/若しくは光学効果などの有益な表面特性を得る、又は更に向上させることが望ましい。
更に本発明の目的は、前述の利点に加え、様々な基板表面に対する高い接着性を示し、かつ使いやすい方法で容易に適用できることから、温和な条件で効率良く簡単に、膜厚の厚い機能性表面コーティングが得られる新規コーティング組成物を提供することである。
本発明の更なる目的は、コーティングされた物品を作製する方法、及び前述の利点を有する上記方法で作製されるコーティングされた物品を提供することである。
また本発明の目的は、1つ又は複数の前述の表面特性、特に耐食性、例えば溶媒、酸性及びアルカリ性媒体、並びに腐蝕性ガスに対する耐性;表面硬度;並びに耐引っかき性を向上させるために、様々な母材表面に機能性コーティングを形成するのに使用できるコーティング組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、驚くべきことに、上記課題が、
(i)シラザン含有ポリマー;並びに
(ii)第1の反復単位U1及び第2の反復単位U2を含むフッ素含有ポリマー
を含むコーティング組成物であって、
第1の反復単位U1がフッ素含有エチレン反復単位であり、かつ第2の反復単位U2がフッ素を含まないビニルエーテル反復単位であることを特徴とするコーティング組成物によって個々に、又は任意の組み合わせで解決されることを見いだした。
加えて、コーティングされた物品を作製する方法が提供され、方法は、
(a)本発明によるコーティング組成物を物品の表面に適用するステップ;並びに
(b)上記コーティング組成物を硬化させてコーティングされた物品を得るステップ
を含む。
また、前述の作製方法によって得ることができる又は得られるコーティングされた物品が提供される。
更に本発明は、母材表面に機能性コーティングを形成するための本発明によるコーティング組成物の使用に関する。
本発明の好ましい実施形態は従属クレームに記載する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な説明
定義
用語「ポリマー」は、ホモポリマー、コポリマー、例えばブロックコポリマー、ランダムコポリマー、及び交互コポリマー、三元ポリマー、四元ポリマーなど、並びにこれらのブレンド及び変性物を含むがこれに限定されない。更に、特段に限定しない限り、用語「ポリマー」は、材料のあらゆる可能な配置異性体を含むものとする。これらの配置には、アイソタクチック対称、シンジオタクチック対称、及びアタクチック対称があるがこれらに限定されない。ポリマーは相対分子量が大きい分子であり、その構造は基本的に、分子量が小さい分子(すなわちモノマー)に実際又は概念的に由来する単位の複数の繰り返し(すなわち反復単位)を含む。一般に、ポリマー中の反復単位の数は10より多い、好ましくは20より多い。反復単位の数が10より少ないポリマーは、オリゴマーと呼ばれることもある。
本明細書で使用する用語「モノマー」は、重合することができ、それによりポリマーの必須構造に構成単位(反復単位)を与える分子を指す。
本明細書で使用する用語「ホモポリマー」は、1つの種の(実際の、潜在的な、又は仮説の)モノマーに由来するポリマーを表す。
本明細書で使用する用語「コポリマー」は、一般に、2種以上のモノマーに由来する任意のポリマーを意味し、ポリマーは2種以上の対応する反復単位を含む。一実施形態では、コポリマーは2種以上のモノマーの反応生成物であり、従って2種以上の対応する反復単位を含む。コポリマーは2、3、4、5、又は6種の反復単位を含むことが好ましい。3種のモノマーの共重合によって得られるコポリマーは三元ポリマーと呼ばれることもある。4種のモノマーの共重合によって得られるコポリマーは四元ポリマーと呼ばれることもある。コポリマーは、ブロックコポリマー、ランダムコポリマー、及び/又は交互コポリマーとして存在することもある。
本明細書で使用する用語「ブロックコポリマー」は、隣接するブロックが構造上異なるコポリマー、すなわち、隣接するブロックが、異なる種のモノマー、又は同種だが反復単位の構成若しくは配列分布が異なるモノマーに由来する反復単位を含むコポリマーを表す。
更に、本明細書で使用する用語「ランダムコポリマー」は、鎖中の任意の特定部位で特定の反復単位を見いだす確率が、隣接する反復単位の性質と無関係である高分子で形成されたポリマーを指す。通常、ランダムコポリマーでは、反復単位の配列分布はベルヌーイ統計に従う。
本明細書で使用する用語「交互コポリマー」は、2種の反復単位を交互に含む高分子からなるコポリマーを表す。
【0009】
本明細書で使用する用語「ポリシラザン」は、シリコン原子と窒素原子が交互に基本骨格を形成するポリマーを指す。各シリコン原子は少なくとも1個の窒素原子と、また各窒素原子は少なくとも1個のシリコン原子と結合しているため、一般式-[SiR1R2-NR3-]m(シラザン反復単位)の鎖及び環の両方が生成し、R1からR3は水素原子、有機置換基、又はヘテロ有機置換基であってよく;mは整数である。R1からR3の全ての置換基が水素原子であれば、ポリマーはペルヒドロポリシラザン、ポリペルヒドロシラザン、又は無機ポリシラザン(-[SiH2-NH-]m)と呼ばれる。R1からR3の少なくとも1個の置換基が有機置換基又はヘテロ有機置換基であれば、ポリマーはオルガノポリシラザンと呼ばれる。
本明細書で使用する用語「ポリシロキサザン」は、シリコン原子と酸素原子が交互に並ぶ区間を更に含むポリシラザンを指す。そのような区間は、例えば-[O-SiR7R8-]nで表してもよく、R7及びR8は水素原子、有機置換基、又はヘテロ有機置換基であってよく;nは整数である。ポリマーの全ての置換基が水素原子であれば、ポリマーはペルヒドロポリシロキサザンと呼ばれる。ポリマーの少なくとも1個の置換基が有機置換基又はヘテロ有機置換基であれば、ポリマーはオルガノポリシロキサザンと呼ばれる。
【0010】
本明細書で使用する用語「機能性コーティング」は、表面に1つ又は複数の特定の特性を与えるコーティングを指す。一般にコーティングは、表面を保護するため、又は表面に特定の効果を与えるために必要とされる。様々な効果が、機能性コーティングによって付与できる。例えば、機械抵抗、表面硬度、耐引っかき性、耐摩耗性、抗菌効果、防汚効果、(水に対する)濡れ性、疎水性及び疎油性、平滑効果、耐久性、帯電防止効果、防汚染効果、耐指紋効果、清掃しやすい効果、落書きしにくい効果、耐薬品性、耐食性、抗酸化効果、物理的バリア効果、シール効果、耐熱性、耐火性、低収縮性、紫外線バリア効果、耐光性、及び/又は光学効果がある。
用語「硬化させる」は、(例えば照射又は触媒作用による)架橋ポリマーネットワークへの変換を意味する。
用語「フッ素含有」(例えば化合物又は物質クラスに関連して)は、1個又は複数個のフッ素原子が存在することを意味する。用語「フッ素非含有」又は「フッ素を含まない」(例えば化合物又は物質クラスに関連して)は、実質的にフッ素原子が存在しないことを意味する。
用語「フルオロ」(例えば「フルオロアルキレン」若しくは「フルオロアルキル」などのような基又は部分に関連して)又は「フッ素化」は、少なくとも1個の炭素結合水素原子が存在するように、部分的にのみフッ素化されていることを意味する。
用語「ペルフルオロ」(例えば「ペルフルオロアルキレン」若しくは「ペルフルオロアルキル」などのような基又は部分に関連して)又は「ペルフッ素化」は、別段の指定がある場合を除いて、フッ素で置き換え可能な炭素結合水素原子が存在しないように、完全にフッ素化されていることを意味する。
本明細書で使用する用語「アリール」は、任意に置換されている単環式、二環式、若しくは三環式芳香族基、又は複素環式芳香族基を意味する。複素環式芳香族基は、芳香族部分に1個又は複数個のヘテロ原子(例えばN、O、S、及び/又はP)を有している。
【0011】
好ましい実施態様
本発明は、(i)シラザン含有ポリマー;並びに(ii)第1の反復単位U1及び第2の反復単位U2を含むフッ素含有ポリマーを含むコーティング組成物であって、第1の反復単位U1がフッ素含有エチレン反復単位であり、かつ第2の反復単位U2がフッ素を含まないビニルエーテル反復単位であるコーティング組成物に関する。
用語「エチレン反復単位」は、重合後のエチレンモノマーに由来する反復単位を指す。当然のことながら、エチレンモノマー及び対応するエチレン反復単位は置換されていてもよい。
用語「ビニルエーテル反復単位」は、重合後のビニルエーテルモノマーに(形式上)由来する反復単位を指す。ビニルエーテルは、酸素原子が結合しているC=C二重結合を含む「エノールエーテル」とも呼ばれる。ビニルエーテル又はエノールエーテルは、通常、一般構造RIRIIC=CRIII-ORIVを有し、RI、RII、RIII、及びRIVは、水素、ハロゲン、有機ラジカル、又はヘテロ有機ラジカルであってよい。従って、当然のことながら、ビニルエーテルモノマー及び対応するビニルエーテル反復単位は置換されていてもよい。
【0012】
フッ素含有ポリマー
フッ素含有ポリマーは第1の反復単位U
1及び第2の反復単位U
2を含み;第1の反復単位U
1がフッ素含有エチレン反復単位であり、かつ第2の反復単位U
2がフッ素を含まないビニルエーテル反復単位である。第2の反復単位U
2は式(B)で表されることが好ましい。
【化1】
上式で、B
1、B
2、及びB
3は同一又は互いに異なり、水素、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するアリールから独立して選択され;並びにR
bは、有機基、ヘテロ有機基、又はこれらの組み合わせから選択される。
R
bに適した有機基及びヘテロ有機基には、アルキル、アルキルカルボニル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルシリル、アリールシリル、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニルなど、及びこれらの組み合わせ(好ましくは、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、及びこれらの組み合わせ);好ましくは1~30個の炭素原子(より好ましくは1~20個の炭素原子;更により好ましくは1~10個の炭素原子;最も好ましくは1~6個の炭素原子(例えば、メチル、エチル、又はビニル))を有する基がある。上記基は1個又は複数個の置換基、例えばハロゲン(フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素)、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アミノ、カルボキシル、ヒドロキシル、ニトロ、スルホ、スルホニルなど、及びこれらの組み合わせで更に置換できる。
好ましくは、R
bは、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するアリールから選択される。
より好ましくは、R
bは、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、又はフェニルから選択される。
好ましい実施形態では、B
1、B
2、及びB
3は同一又は互いに異なり、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、又はフェニルから独立して選択される。より好ましい実施形態では、B
1、B
2、及びB
3は水素である。
【0013】
第1の反復単位U
1は式(A)で表されることが好ましい。
【化2】
上式で、A
1、A
2、及びA
3は同一又は互いに異なり、F、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するペルフッ素化アルキル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するペルフッ素化アリールから独立して選択され;並びにR
aは、F、Cl、Br、又は1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するアリールから選択され、1つ又は複数の水素原子がFで置き換えられていてもよい。
好ましい実施形態では、A
1、A
2、及びA
3は同一又は互いに異なり、F、-CH
3、-CF
3、-CH
2CH
3、-CF
2CH
3、-CH
2CF
3、-CF
2F
3、-CH
2CH
2CH
3、-CF
2CH
2CH
3、-CH
2CF
2CH
3、-CH
2CH
2CF
3、-CF
2CF
2CH
3、-CF
2CH
2CF
3、-CH
2CF
2CF
3、-CF
2CF
2CF
3、-CH(CH
3)
2、-CF(CH
3)
2、-CH(CF
3)
2、-CF(CF
3)
2、-C
6H
5、-C
6FH
4、-C
6F
2H
3、-C
6F
3H
2、-C
6F
4H、又は-C
6F
5から独立して選択される。より好ましい実施形態では、A
1、A
2、及びA
3はFである。
好ましい実施形態では、R
aは、F、Cl、Br、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、又はフェニルから選択される。より好ましい実施形態では、R
aはF又はClから選択される。
【0014】
フッ素含有ポリマーは、第3の反復単位U
3を更に含んでいてもよく、第3の反復単位U
3は好ましくはフッ素を含まない反復単位であり、式(C)で表される。
【化3】
上式で、C
1、C
2、及びC
3は同一又は互いに異なり、水素、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するアリールから独立して選択され;並びにR
cは水素であり、又は有機基、ヘテロ有機基、若しくはこれらの組み合わせから選択され、-OH又は-Si(OR
II)
3から互いに独立して選択される1個又は複数個の官能基を含み;R
IIは、各存在において互いに独立して1~10(好ましくは1~5)個の炭素原子を有するアルキルである。
好ましい実施形態では、C
1、C
2、及びC
3は同一又は互いに異なり、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、又はフェニルから独立して選択される。より好ましい実施形態では、C
1、C
2、及びC
3は水素である。
【0015】
好ましい実施形態では、Rcは、水素、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10)個の炭素原子を有するアルキル、3~30(好ましくは4~20、より好ましくは5~15、最も好ましくは7~12)個の炭素原子を有するアルキルアリール若しくはアルキルアリールスルホニル、3~30(好ましくは4~20、より好ましくは5~15、最も好ましくは7~12)個の炭素原子を有するアリールアルキル若しくはアリールアルキルスルホニル、又は4~30(好ましくは5~20、より好ましくは6~15、最も好ましくは8~14)個の炭素原子を有するアルキルアリールアルキル若しくはアルキルアリールアルキルスルホニルであり、1つ又は複数の非末端かつ非隣接CH2基は、-O-、-(C=O)-、-(C=O)O-、-O(C=O)-、-(C=O)-NRI-、-NRI-(C=O)-、-NRI-(C=O)O-、-O(C=O)-NRI-、-NRI-(C=O)-NRI-、-SO2-、-C6H4-(フェニレン)、-C10H6-(ナフチレン)、-CH=CH-、又は-C≡C-によって互いに独立して置き換えてよく、また-OH又は-Si(ORII)3から互いに独立して選択される1個又は複数個の官能基を含み;RIは、水素、又は1~10(好ましくは1~5)個の炭素原子を有するアルキルであり;並びにRIIは、各存在において互いに独立して、1~10(好ましくは1~5)個の炭素原子を有するアルキルである。
より好ましい実施形態では、Rcは、水素、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10)個の炭素原子を有するアルキル、3~30(好ましくは4~20、より好ましくは5~15、最も好ましくは7~12)個の炭素原子を有するアリールアルキル若しくはアリールアルキルスルホニル、又は4~30(好ましくは5~20、より好ましくは6~15、最も好ましくは8~14)個の炭素原子を有するアルキルアリールアルキル若しくはアルキルアリールアルキルスルホニルであり、1個又は複数個の非末端かつ非隣接CH2基は、-O-、-(C=O)-、-(C=O)-NRI-、-NRI-(C=O)-、-NRI-(C=O)O-、-O(C=O)-NRI-、-SO2-、又は-C6H4-(フェニレン)によって互いに独立して置き換えてよく、また-OH又は-Si(ORII)3から互いに独立して選択される1個又は複数個の官能基を含み;RIは、水素、又は1~10(好ましくは1~5)個の炭素原子を有するアルキルであり;並びにRIIは、各存在において互いに独立して、1~10(好ましくは1~5)個の炭素原子を有するアルキルである。
特に好ましい実施形態では、Rcは、-H、-Rd-OH、-Rd-O-Re-OH、-Rd-Si(ORII)3、-Rd-O-Re-Si(ORII)3、又は-Rd-O(C=O)-NRI-Re-Si(ORII)3から選択され、Rdは、-(CH2)m1-、-(CH2)m2-C6H4-、-SO2-(CH2)m2-C6H4-、-C6H4-(CH2)m2-、又は-SO2-C6H4-(CH2)m2-であり;Reは、-(CH2)n1-、-(CH2)n2-C6H4-、又は-C6H4-(CH2)n2-であり;RIは、H、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルであり;RIIは、各存在において互いに独立して、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルから選択され;m1は1~14(好ましくは1~6)の整数であり;m2は1~12(好ましくは1~5)の整数であり;n1は1~14(好ましくは1~6)の整数であり;並びにn2は1~12(好ましくは1~5)の整数である。
最も好ましい実施形態では、Rcは、-H、-(CH2)m1-OH、-(CH2)m1-Si(ORII)3、-(CH2)m2-C6H4-OH、-(CH2)m2-C6H4-Si(ORII)3、-SO2-C6H4-(CH2)m2-OH、-SO2-C6H4-(CH2)m2-Si(ORII)3、又は-(CH2)m1-O(C=O)-NRI-(CH2)n1-Si(ORII)3から選択され、RIは、H、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルであり;RIIは、各存在において互いに独立して、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルから選択され;m1は1~6の整数であり;m2は1~5の整数であり;並びにn1は1~6の整数である。
【0016】
第3の反復単位U3は第2の反復単位U2と異なることが好ましい。
フッ素含有ポリマー中の第1の反復単位U1のモル量は、フッ素含有ポリマー中の反復単位の総モル量に基づいて5~96%、好ましくは10~91%であることが好ましい。残部は、第2の反復単位U2及び任意の第3の反復単位U3を含むフッ素含有ポリマー中の残りの反復単位からなる。
フッ素含有ポリマー中の第1の反復単位U1及び第3の反復単位U3のモル比は、20:1~1:2、より好ましくは10:1~3:1の範囲にあることが好ましい。そのようなモル比により、OH数が23~175、好ましくは45~175の範囲にあるフッ素含有ポリマーが得られる。ただし、Rdは水素であり、Rbは水素ではなく、かつヒドロキシル基を含まない。
フッ素含有ポリマーは、例えば、脂肪族若しくは芳香族炭化水素、塩化炭化水素、酢酸エチル若しくは酢酸ブチルなどのエステル、アセトン若しくはメチルエチルケトンなどのケトン、テトラヒドロフラン若しくはジブチルエーテル、及びモノ若しくはポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(グリム)などのエーテル、又はこれらの混合物のようなフッ素を含まない有機溶媒に可溶であることが好ましい。
本発明の特に好ましい実施形態では、フッ素含有ポリマーは、環境条件(すなわち20~25℃)で固形物であることを更に特徴とする。
フッ素含有ポリマーとしては、例えばAGC Chemicals製のLumiflon(登録商標)などの市販品を使用してよい(詳細は、M.Unoki et al.,Surface Coatings International Part B:Coatings Transactions,2002,Vol.5,169-232参照)。
好ましくは、コーティング組成物中のフッ素含有ポリマーの総量は、コーティング組成物中のポリマーの総質量に基づいて、10~90質量%、好ましくは20~80質量%の範囲にある。
【0017】
シラザン含有ポリマー
好ましい実施形態では、シラザン含有ポリマーは次の式(I)で表される反復単位M1を含む。
-[SiR1R2-NR3-] (I)
上式で、R1、R2、及びR3は同一又は互いに異なり、水素、有機基、ヘテロ有機基、又はこれらの組み合わせから独立して選択される。
R1、R2、及びR3に適した有機基及びヘテロ有機基には、アルキル、アルキルカルボニル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルシリル、アルキルシリルオキシ、アリールシリル、アリールシリルオキシ、アルキルアミノ、アリールアミノ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アリールオキシ、アリールオキシカルボニル、アリールカルボニルオキシ、アリールアルキルオキシなど、及びこれらの組み合わせ(好ましくは、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、及びこれらの組み合わせ);好ましくは1~30個の炭素原子(より好ましくは1~20個の炭素原子;更により好ましくは1~10個の炭素原子;最も好ましくは1~6個の炭素原子(例えば、メチル、エチル、又はビニル))を有する基がある。上記基は1個又は複数個の置換基、例えばハロゲン(フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素)、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アミノ、カルボキシル、ヒドロキシル、ニトロなど、及びこれらの組み合わせで更に置換できる。
好ましい実施形態では、R1及びR2は同一又は互いに異なり、水素、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキル、2~30(好ましくは2~20、より好ましくは2~10、最も好ましくは2~6)個の炭素原子を有するアルケニル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するアリールから独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えてよく;並びにR3は、水素、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキル、2~30(好ましくは2~20、より好ましくは2~10、最も好ましくは2~6)個の炭素原子を有するアルケニル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するアリールから選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素又はOR’で置き換えてよく、R’は1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキルから選択される。
より好ましい実施形態では、R1及びR2は同一又は互いに異なり、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、又はフェニルから独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えてよく;並びにR3は、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ビニル、又はフェニルから選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子は、-F、-OCH3、-OCH2CH3、-OCH2CH2CH3、又は-OCH(CH3)2で置き換えてよい。
最も好ましくは、R1、R2、及びR3は同一又は互いに異なり、-H、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH(CH3)2、-CH=CH2、及び-C6H5からなる群から独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えてよい。
【0018】
好ましい実施形態では、シラザン含有ポリマーは次の式(II)で表される反復単位M2を含む。
-[SiR4R5-NR6-] (II)
上式で、R4、R5、及びR6は同一又は互いに異なり、水素、有機基、ヘテロ有機基、又はこれらの組み合わせから独立して選択される。
R4、R5、及びR6に適した有機基及びヘテロ有機基には、アルキル、アルキルカルボニル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルシリル、アルキルシリルオキシ、アリールシリル、アリールシリルオキシ、アルキルアミノ、アリールアミノ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アリールオキシ、アリールオキシカルボニル、アリールカルボニルオキシ、アリールアルキルオキシなど、及びこれらの組み合わせ(好ましくは、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、及びこれらの組み合わせ);好ましくは1~30個の炭素原子(より好ましくは1~20個の炭素原子;更により好ましくは1~10個の炭素原子;最も好ましくは1~6個の炭素原子(例えば、メチル、エチル、又はビニル))を有する基がある。上記基は1個又は複数個の置換基、例えばハロゲン(フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素)、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アミノ、カルボキシル、ヒドロキシル、ニトロなど、及びこれらの組み合わせで更に置換できる。
好ましい実施形態では、R4及びR5は同一又は互いに異なり、水素、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキル、2~30(好ましくは2~20、より好ましくは2~10、最も好ましくは2~6)個の炭素原子を有するアルケニル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するアリールから独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えてよく;並びにR6は、水素、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキル、2~30(好ましくは2~20、より好ましくは2~10、最も好ましくは2~6)個の炭素原子を有するアルケニル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するアリールから選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素又はOR’’で置き換えてよく、R’’は1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキルから選択される。
より好ましい実施形態では、R4及びR5は同一又は互いに異なり、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、又はフェニルから独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えてよく;並びにR6は、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ビニル、又はフェニルから選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子は、-F、-OCH3、-OCH2CH3、-OCH2CH2CH3、又は-OCH(CH3)2で置き換えてよい。
最も好ましくは、R4、R5、及びR6は同一又は互いに異なり、-H、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH(CH3)2、-CH=CH2、及び-C6H5からなる群から独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えてよい。
【0019】
好ましい実施形態では、シラザン含有ポリマーは次の式(III)で表される反復単位M3を含む。
-[SiR7R8-O-] (III)
上式で、R7及びR8は同一又は互いに異なり、水素、有機基、ヘテロ有機基、又はこれらの組み合わせから独立して選択される。R7及びR8に適した有機基及びヘテロ有機基には、アルキル、アルキルカルボニル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルシリル、アルキルシリルオキシ、アリールシリル、アリールシリルオキシ、アルキルアミノ、アリールアミノ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アリールオキシ、アリールオキシカルボニル、アリールカルボニルオキシ、アリールアルキルオキシなど、及びこれらの組み合わせ(好ましくは、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、及びこれらの組み合わせ);好ましくは1~30個の炭素原子(より好ましくは1~20個の炭素原子;更により好ましくは1~10個の炭素原子;最も好ましくは1~6個の炭素原子(例えば、メチル、エチル、又はビニル))を有する基がある。上記基は1個又は複数個の置換基、例えばハロゲン(フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素)、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アミノ、カルボキシル、ヒドロキシル、ニトロなど、及びこれらの組み合わせで更に置換できる。
好ましい実施形態では、R7及びR8は同一又は互いに異なり、水素、1~30(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、最も好ましくは1~6)個の炭素原子を有するアルキル、2~30(好ましくは2~20、より好ましくは2~10、最も好ましくは2~6)個の炭素原子を有するアルケニル、又は2~30(好ましくは3~20、より好ましくは4~10、最も好ましくは6)個の炭素原子を有するアリールから独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えてよい。
より好ましい実施形態では、R7及びR8は同一又は互いに異なり、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、又はフェニルから独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えてよい。
最も好ましくは、R7及びR8は同一又は互いに異なり、-H、-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2CH3、-CH(CH3)2、-CH=CH2、及び-C6H5からなる群から独立して選択され、炭素原子に結合した1個又は複数個の水素原子はフッ素で置き換えてよい。
【0020】
シラザン含有ポリマーは、反復単位M1及び更なる反復単位M2を含むことが好ましく、M1及びM2は互いに異なるシラザン反復単位である。
シラザン含有ポリマーは、反復単位M1及び更なる反復単位M3を含むことも好ましく、M1はシラザン反復単位であり、M3はシロキサン反復単位である。
シラザン含有ポリマーは、反復単位M1、更なる反復単位M2、及び更なる反復単位M3を含むことも好ましく、M1及びM2は互いに異なるシラザン反復単位であり、M3はシロキサン反復単位である。
一実施形態では、シラザン含有ポリマーはポリシラザンであり、ポリシラザンはペルヒドロポリシラザン又はオルガノポリシラザンであってよい。好ましくは、ポリシラザンは反復単位M1、及び任意に更なる反復単位M2を含み、M1及びM2は互いに異なるシラザン反復単位である。
別の実施形態では、シラザン含有ポリマーはポリシラザンであり、ポリシラザンはペルヒドロポリシロキサザン又はオルガノポリシロキサザンであってよい。好ましくは、ポリシロキサザンは反復単位M1及び更なる反復単位M3を含み、M1はシラザン反復単位であり、M3はシロキサン反復単位である。好ましくは、ポリシラザンは反復単位M1、更なる反復単位M2、及び更なる反復単位M3を含み、M1及びM2は互いに異なるシラザン反復単位であり、M3はシロキサン反復単位である。
好ましくは、シラザン含有ポリマーはランダムコポリマー若しくはブロックコポリマーなどのコポリマー、又は少なくとも1つのランダム配列部分及び少なくとも1つのブロック配列部分を含むコポリマーである。
より好ましくは、シラザン含有ポリマーはランダムコポリマー又はブロックコポリマーである。
好ましくは、本発明で使用するシラザン含有ポリマーは、GPCで測定した分子量Mwが、少なくとも1,000g/モル、より好ましくは少なくとも1,200g/モル、更により好ましくは少なくとも1,500g/モルである。好ましくは、シラザン含有ポリマーの分子量Mwは100,000g/モル未満である。より好ましくは、シラザン含有ポリマーの分子量Mwは1,500~50,000g/モルの範囲にある。
好ましくは、コーティング組成物中のシラザン含有ポリマーの総量は、コーティング組成物の総質量に基づいて、10~90質量%、好ましくは20~80質量%の範囲にある。
【0021】
その他の成分
本発明によるコーティング組成物は1つ又は複数の溶媒を含むことが好ましい。適切な溶媒は、フッ素を含まない有機溶媒、例えば、脂肪族若しくは芳香族炭化水素、塩化炭化水素、酢酸エチル若しくは酢酸ブチルなどのエステル、アセトン若しくはメチルエチルケトンなどのケトン、テトラヒドロフラン若しくはジブチルエーテル、及びモノ若しくはポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(グリム)などのエーテル、又はこれらの混合物などである。
更に本発明によるコーティング組成物は、好ましくは、蒸発挙動に影響を及ぼす添加剤、膜形成に影響を及ぼす添加剤、接着促進剤、耐食添加剤、架橋剤、分散剤、充填剤、機能性色素(例えば導電率、熱伝導率、磁気特性などの機能性効果をもたらすもの)、ナノ粒子、光学色素(例えば色調、屈折率、真珠光沢効果などの光学効果をもたらすもの)、熱膨張を減少させる粒子、プライマー、レオロジー調整剤(例えば増粘剤)、界面活性剤(例えば濡れ剤、レベリング剤、又は疎水性若しくは疎油性及び落書きしにくい効果を向上させる添加剤)、並びに粘度調整剤からなる群から選択される1つ又は複数の添加剤を含んでよい。
ナノ粒子は、キャッピング剤を用いて任意に表面改質し得る窒化物、チタン酸塩、ダイヤモンド、酸化物、硫化物、亜硫酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、及び炭化物から選択してよい。好ましくは、ナノ粒子は、粒径が<100nm、より好ましくは<80nm、更に好ましくは<60nm、更により好ましくは<40nm、及び最も好ましくは<20nmの材料である。粒径は当業者に既知の任意の標準的な方法で測定してよい。
本発明のコーティング組成物中のシラザン含有ポリマーとフッ素含有ポリマーの質量比は、1:100~100:1、好ましくは1:50~50:1、より好ましくは1:10~10:1、更により好ましくは1:5~5:1、及び最も好ましくは1:4~4:1の範囲にあることが好ましい。
当然のことながら、当業者は、コーティング組成物及びその成分の定義に関する前述の好ましい、より好ましい、特に好ましい、及び最も好ましい実施形態を、任意の望ましい方法で自由に組み合わせることができる。
【0022】
方法
更に本発明はコーティングされた物品を作製する方法に関し、方法は、
(a)本発明によるコーティング組成物を物品の表面に適用するステップ;並びに
(b)上記コーティング組成物を硬化させてコーティングされた物品を得るステップ
を含む。
好ましい実施形態では、ステップ(a)で適用されるコーティング組成物は、シラザン含有ポリマーを含む第1の成分とフッ素含有ポリマーを含む第2の成分とを混合することによって事前にもたらされ、シラザン含有ポリマー及びフッ素含有ポリマーは、前述のとおりコーティング組成物と呼ばれる。そのような事前混合は、コーティング組成物が二成分系としてもたらされる場合、特に好ましい。
コーティング組成物は、液状組成物を物品表面に適用するのに適した適用方法によってステップ(a)で適用されることが好ましい。そのような方法には、例えば、布を用いた塗りつけ、スポンジを用いた塗りつけ、浸漬コーティング、スプレーコーティング、フローコーティング、ローラーコーティング、スロットコーティング、スピンコーティング、ディスペンシング、スクリーン印刷、ステンシル印刷、又はインクジェット印刷がある。浸漬コーティング及びスプレーコーティングが特に好ましい。
本発明のコーティング組成物は、例えば、建築物、義歯、調度品、家具、衛生設備(トイレ、シンク、浴槽など)、標識、看板、プラスチック製品、ガラス製品、セラミックス製品、金属製品、木材製品、並びに車両(道路車両、鉄道車両、船舶、及び航空機)などの様々な物品の表面に適用してよい。物品の表面は、以下の使用の項に記載する母材のうちいずれか1つでできていることが好ましい。
通常、コーティング組成物は、ステップ(a)で、厚さ1μm~1cm、好ましくは10μm~1mmの層として物品の表面に適用される。好ましい実施形態では、コーティング組成物は、厚さ1~200μm、より好ましくは5~150μm、及び最も好ましくは10~100μmの薄い層として適用される。別の好ましい実施形態では、コーティング組成物は、厚さ200μm~1cm、より好ましくは200μm~5mm、及び最も好ましくは200μm~1mmの厚い層として適用される。
【0023】
ステップ(b)のコーティングの硬化は、様々な条件下で、例えば環境硬化、熱硬化、及び/又は照射硬化などによって実施してよい。硬化は任意に水分存在下で、好ましくは水蒸気の形態で行う。
環境硬化は、好ましくは10~30℃、好ましくは20~25℃の範囲の温度で行う。熱硬化は、好ましくは100~200℃、好ましくは120~180℃の範囲の温度で行う。
好ましくは、ステップ(b)の硬化は炉又は人工気候室の中で実施する。別法として、極めて大きな物品(例えば建築物、車両など)をコーティングする場合、硬化は好ましくは環境条件下で行う。
好ましくは、ステップ(b)の硬化時間は、コーティング組成物及びコーティング厚に応じて0.01~24時間、より好ましくは0.10~16時間、更に好ましくは0.15~8時間、及び最も好ましくは0.20~5時間である。
ステップ(b)の硬化後、シラザン含有ポリマーとフッ素含有ポリマーが化学結合し、物品の表面にコーティングを形成する。
上記方法によって得られたコーティングは、表面への接着性に優れ、物品に次の特性向上のうち少なくとも1つをもたらす、堅固で密な機能性コーティングを形成する:機械抵抗及び耐久性の向上(表面硬度の向上、耐引っかき性の向上、及び/又は耐摩耗性の向上など);濡れ性及び接着性の向上(疎水性及び疎油性、清掃しやすい効果、及び/又は落書きしにくい効果など);耐薬品性の向上((例えば、溶媒、酸性及びアルカリ性媒体、並びに腐蝕性ガスに対する)耐食性の向上及び/又は抗酸化効果の向上など);光学効果の向上(耐光性の向上);並びに物理的バリア又はシール効果の向上。
【0024】
物品
加えて、前述の作製方法によって得ることができる又は得られるコーティングされた物品が提供される。
【0025】
使用
更に本発明は、母材表面に機能性コーティングを形成するための本発明によるコーティング組成物の使用に関する。
本発明に従った使用により、次の表面特性のうち1つ又は複数が向上する:機械抵抗及び耐久性(表面硬度、耐引っかき性、及び/又は耐摩耗性など);濡れ性及び接着性(疎水性及び疎油性、清掃しやすい効果、及び/又は落書きしにくい効果など);耐薬品性((例えば、溶媒、酸性及びアルカリ性媒体、並びに腐蝕性ガスに対する)耐食性及び/又は抗酸化効果など);光学効果(耐光性);並びに物理的バリア又はシール効果。
本発明によるコーティング組成物を適用するのに好ましい母材には、例えば金属(鉄、鋼、銀、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、チタン、バナジウム、クロム、コバルト、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、シリコン、ホウ素、スズ、鉛、若しくはマンガン、又はこれらの合金に必要に応じて酸化膜又はメッキ膜を施したものなど);プラスチック(ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリウレタン、ポリエステル(PET)、ポリアリルジグリコールカーボネート(PADC)、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリチオシアネート、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など);ガラス(融解石英、ソーダ石灰シリカガラス(窓ガラス)、ナトリウムホウケイ酸ガラス(Pyrex(登録商標))、酸化鉛ガラス(クリスタルガラス)、アルミノ珪酸ガラス、又は酸化ゲルマニウムガラスなど);並びに建設材料(レンガ、セメント、セラミックス、粘土、コンクリート、石膏、大理石、ミネラルウール、モルタル、石材、又は木材、及びこれらの混合物)などの多種多様な材料がある。
母材は、機能性コーティングの接着性を強化するためにプライマーで処理してよい。そのようなプライマーは、例えばシラン、シロキサン、又はシラザンである。プラスチック材料を使用する場合、機能性コーティングの接着性を向上させる可能性のある火炎処理、コロナ処理、又はプラズマ処理によって事前処理を行うと有利であり得る。建設材料を使用する場合、ラッカー、ワニス、又は塗料、例えばポリウレタンラッカー、アクリルラッカー、及び/又は分散塗料などでプレコーティングを行うと有利であり得る。
以下に実施例によって本発明を更に説明するが、これは限定的なものと解釈されるべきではない。当業者は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明に様々な修正、追加、及び変更が可能であることを認識するであろう。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
標準作業手順
本発明の実施例では、ヒドロキシル価が49のLumiflon LF200F(AGC Chemicals Europe Ltd(オランダ)から入手可能)の遊離ヒドロキシル基を3-イソシアネートプロピル-トリエトキシシラン(Sigma-Aldrich Chemie GmbH(ドイツ)から入手可能)と反応させ、「OH」機能を「Si(OEt)3」機能に変換した。次いで、変性フルオロポリマーをDurazane1500 rapid cure(MERCK KGaA(ドイツ)から入手可能)と混合し、浸漬コーティングで鋼板(Q-Lab Corp.(米国)から入手可能)に適用した。2条件下(環境条件で3日間と150℃のオーブンで1時間)で硬化させた後、塩水噴霧試験(防食効果の確認)、クロスカット試験(接着性の確認)、及び鉛筆硬度試験(耐引っかき性の確認)を実施した。
【0027】
Lumiflonの機能化
100gの固形Lumiflonを250gの無水キシレンに加え、室温で24時間撹拌して溶解した。溶液が透明になった後、21.6gの3-イソシアネートプロピル-トリエトキシシランを添加し、反応混合物を80℃で8時間加熱した。FT-IR測定を行い、2270cm-1でのNCOシグナル消滅により、全てのイソシアネート基が完全に反応したことを確認した。
【0028】
調合物の作製
100gのキシレン中トリエトキシシラン変性Lumiflonを27gのDurazane1500 rapid cureと混合した。中粘度の無色透明の溶液が得られた。
【0029】
浸漬コーティングによるコーティングされた鋼板の作製
以下の表1に記載するNo.1からNo.4の4枚の鋼板を作製した。2枚は150℃のオーブンで1時間硬化させ、2枚は環境条件で3日間かけて硬化させた。
鋼板No.1:調合物:キシレンに溶解した固形分29%のLumiflon
浸漬コーティング速度:0.5m/秒
環境条件で1日間乾燥
浸漬コーティング速度:0.5m/秒
乾燥/硬化後の膜厚:40~50μm
鋼板No.2:調合物:Durazane1500 rapid cure
浸漬コーティング速度:0.5m/秒
環境条件で1日間乾燥
浸漬コーティング速度:0.5m/秒
乾燥後の膜厚:40~50μm→乾燥にクラック発生
鋼板No.3:調合物:Durazane1500 rapid cure
浸漬コーティング速度:1.0m/秒
乾燥後の膜厚:8~12μm
鋼板No.4:調合物:実施例1の調合物
浸漬コーティング速度:0.5m/秒
環境条件で1日間乾燥
浸漬コーティング速度:0.5m/秒
乾燥後の膜厚:40~50μm
【0030】
環境条件で硬化させた各調合物(クラックが発生したNo.2を除く)の鋼板1枚に1000時間の中性塩水噴霧試験を行った。調合物と硬化の各組み合わせ(クラックが発生したNo.2を除く)の別の鋼板1枚を用いて、鉛筆硬度試験及びクロスカット試験を行った。結果を以下の表1に示す。
【表1】
*NSS=DIN EN ISO9227に準拠した、裸鋼板(環境条件で3日間硬化)に対する1000時間の中性塩水噴霧試験。評価採点:A)腐食クリープ:<0.5mmを「0」;0.5~2mmを「1」;>2mmを「2」とする;/B)点錆、大きさと量:<1mm
2及び<10m
-2を「0-0」;<2mm
2及び<25m
-2を「1-1」;>2mm
2及び>25m
-2を「2-2」とする。
**DIN EN ISO2409に準拠したクロスカット試験。0~5で評点:0=完全に接着、5=完全に剥離。硬化:環境条件で3日間/150℃で1時間。
***DIN EN ISO15184に準拠した鉛筆硬度試験。鉛筆の種類:「Austria Cretacolor150」。硬化:環境条件で3日間/150℃で1時間。
****失敗:膜厚>20μmでクラック発生。
純粋なLumiflonと比較した実施例1の利点:150℃硬化で耐引っかき性が大きく向上し、環境条件硬化で耐引っかき性が非常に大きく向上した。
純粋な1500rcと比較した実施例1の利点:膜厚をより厚くでき、防食性が向上した。
【0031】
(実施例2)
標準作業手順(SOP)
本発明の別の実施例では、ヒドロキシル価が49のLumiflon LF200F(AGC Chemicals Europe Ltd(オランダ)から入手可能)の遊離ヒドロキシル基を化学的に保護しなかった。
フルオロポリマーのキシレン溶液を、OPSZ(OPSZ=Durazane1800、MERCK KGaA(ドイツ)から入手可能)のキシレン溶液及び任意で他の添加剤と直接混合し、10分間単純に撹拌した。フルオロポリマーのOH基とOPSZの反応は遅いため、調合物を適用できるポットライフは約8~12時間と限られている。この調合物は二成分系と見なされる。成分No.1はフルオロポリマー/キシレン溶液、成分No.2はOPSZである。任意の添加剤は両方の成分に添加できる。
調合物は浸漬コーティングでアルミニウム板(Q-Lab Corp.(米国)から入手可能)に、スピンコーティングで約10cm(4インチ)のシリコンウェハ(Microchemicals(ドイツ)から入手可能)に、スピンコーティングで銀表面を有するシリコンウェハ(Microchemicals(ドイツ)から入手可能)に、更に浸漬コーティングで銅膜(VWR(ドイツ)から入手可能)に適用した。基板は全て150℃で4時間硬化させ、以下に示すように試験した。
【0032】
基板1の作製
基板1(表2参照)を前述のSOPに従って作製した。
【表2】
基板1の試験
5%NaOH水溶液の0.5mL液滴をコーティング上に置き、環境条件で16時間保持した。次いで、沈降固形NaOH(水分は16時間の間に蒸発した)を水で洗い流した。表面に汚れがないか目視検査した(表3参照)。
【表3】
*参照1=裸アルミニウム板。
**参照2=成分1のみ(純粋なLumiflon)、浸漬コーティング、アルミニウム板、25~30μm。
***参照3=成分2のみ(純粋なDurazane)、浸漬コーティング、アルミニウム板、25~30μm。
この実施例は、アルミニウム上に硬質コーティングを形成し、強アルカリ性媒体による侵食からアルミニウムを完全に保護する本発明のコーティング組成物の性能を示している。アルミニウムなどの金属をアルカリ溶液から保護することは、例えば、車両の洗浄に強アルカリ洗浄剤が使用される自動車分野では重要である。
【0033】
基板2-A~2-Cの作製
基板2-A~2-C(表4参照)を前述のSOPに従って作製した。
【表4】
*OPSZ=Durazane1800(MERCK KGaA(ドイツ)から入手可能)。
**Tego Phobe1505:Evonik(ドイツ)から入手可能。
***Surflon S-651:AGCセイミケミカル株式会社(日本)から入手可能。
基板2-A~2-Cの試験
コーティング及び硬化後、水と鉱油の接触角をKruss製Mobile Surface Analyzerを用いて測定した(表5参照)。
【表5】
*参照1=成分1のみ(純粋なLumiflon)、スピンコーティング、シリコンウェハ、6μm。
**参照2=添加剤なしで成分2のみ(純粋なDurazane)、スピンコーティング、シリコンウェハ、6μm。
***鉱油=Sigma Aldrichから入手可能な白色鉱油、γ約30,7・10
-3N/m。
これらの実施例は、機能性添加剤を添加することによって、コーティング組成物の(ここでは疎水性及び疎油性の実施例に関する)性能が更に強化される可能性を示している。
【0034】
基板3の作製
基板3(表6参照)を前述のSOPに従って作製した。
【表6】
*OPSZ=Durazane1800(MERCK KGaA(ドイツ)から入手可能)。
基板3の試験
コーティング及び硬化後、銀スパッタシリコンウェハを、5gの固形亜硫酸ナトリウムと20mLの5%酢酸水溶液が入ったガラス皿を置いた密閉式のガラス製デシケーターに48時間入れた。次いで、腐食(表面の変色又は侵食)を目視で検査した(表7参照)。
【表7】
*参照1=裸の銀スパッタシリコンウェハ。
【0035】
基板4の作製
基板4(表8参照)を前述のSOPに従って作製した。
【表8】
*OPSZ=Durazane1800(MERCK KGaA(ドイツ)から入手可能)。
基板4の試験
コーティング及び硬化後、銅膜を、5gの固形亜硫酸ナトリウムと20mLの5%酢酸水溶液が入ったガラス皿を置いた密閉式のガラス製デシケーターに48時間入れた。次いで、腐食(表面の変色又は侵食)を目視で検査した(表9参照)。
【表9】
*参照1=裸銅膜。
基板3及び4の試験は、傷つきやすい表面を侵食性の環境による腐食から保護するための本発明による調合物の使用を示している。透明の耐食コーティングには幅広いニーズがある。例えば自動車産業のセンサーなど過酷な条件下で作動させる必要のあるIC機器やLEDパッケージにおける銀鏡の背景などがある。
【国際調査報告】