(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(54)【発明の名称】結腸直腸がんにおける抗PD1療法に対する陰性応答のマーカーとしてのpksアイランド陽性大腸菌(E.coli)
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/689 20180101AFI20220202BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220202BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220202BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220202BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20220202BHJP
A61P 1/00 20060101ALN20220202BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20220202BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20220202BHJP
【FI】
C12Q1/689 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C07K16/28
G01N33/53 M
A61P35/00
A61P1/00
A61K45/00
A61K39/395 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533151
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(85)【翻訳文提出日】2021-07-19
(86)【国際出願番号】 EP2019084487
(87)【国際公開番号】W WO2020120501
(87)【国際公開日】2020-06-18
(32)【優先日】2018-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
【住所又は居所原語表記】54 rue La Bo▲e▼tie,F-75008 Paris,France
(71)【出願人】
【識別番号】520188961
【氏名又は名称】ウニベルジテ クレルモン オーベルニュ
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】エリザベト・ビヤール
(72)【発明者】
【氏名】マチルド・ボネ
(72)【発明者】
【氏名】ブリュノ・デュマ
(72)【発明者】
【氏名】アメリー・ロペ
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX01
4C084AA17
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC41
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
がんに罹患している対象における抗PD1療法に対する耐性を予測する方法であって、a)対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルから細菌pksアイランドの存在を決定する工程、b)工程a)の結果から、対象が抗PD1療法に対して耐性である可能性が高いことを予測する工程を含む、方法を提供する。対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルにおいて細菌pksアイランドの存在または非存在を評価し、そして対象に抗がん療法を投与することによって、対象におけるがんを処置する方法もまた提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんに罹患している対象における抗PD-1療法に対する耐性を予測する方法であって:
a)対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルからpksアイランドの存在を決定する工程、
b)工程a)の結果から、該対象が抗PD-1療法に対して耐性である可能性が高いことを予測する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記がんが結腸直腸がんである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
pksアイランドの存在が、工程a)において、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定することによって決定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在が、寒天での大腸菌細菌の単離およびpksアイランドDNAの存在の決定によって決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在が、大腸菌特異的なDNAの存在を決定し、そしてpksアイランドDNAの存在を決定することによって決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
pksアイランドの存在が、工程a)において、pksアイランドDNAの存在を決定することによって決定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
pksアイランドDNAの存在がPCRによって決定される、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
PCRが、pksアイランドのClbH、ClbJ、ClbN、ClbC、ClbI、ClbOn ClbBおよびClbK遺伝子からなる群から選択される遺伝子に特異的なプライマーを用いて行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
抗PD-1療法がセミプリマブによる療法である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
がんに罹患している対象を処置するための療法を選択する方法であって:
a)対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルからpksアイランドの存在を決定する工程、
b)工程a)において前記pksアイランドが存在すると決定される場合、前記対象について、抗PD-1療法ではない抗がん療法を選択する工程
を含む、前記方法。
【請求項11】
前記がんが結腸直腸がんである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
抗PD-1療法ではない抗がん療法が、イリノテカン、オキサリプラチン、イリノテカンと5-FUおよびロイコボリンの組合せ、オキサリプラチンと5-FUおよびロイコボリンの組合せ、イリノテカンとカペシタビンの組合せ、オキサリプラチンおよびカペシタビンの組合せ、セツキシマブおよびパニツムマブのような抗EGFR抗体、ベバシズマブのような抗VEGFR抗体、ラムシルマブのような抗VEGFR2抗体、アフリベルセプト、zivアフリベルセプト、レゴラフェニブ、トラメチニブおよびパルボシクリブの組合せ、レオリシン(登録商標)、ダブラフェニブ、トラメチニブおよびパニツムマブの組合せならびにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
がんに罹患している対象を処置する方法における使用のための抗PD1および/または抗PDL1抗体であって、前記方法が:
a)対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルからpksアイランドの存在を決定する工程、
b)工程a)において前記pksアイランドが存在しないと決定される場合、前記対象に治療有効量の抗PD-1および/または抗PDL1抗体を投与する工程
を含む、前記抗PD1および/または抗PDL1抗体。
【請求項14】
前記がんが結腸直腸がんである、請求項13に記載の使用のための抗PD1および/または抗PDL1抗体。
【請求項15】
前記抗PD1および/または抗PDL1抗体がセミプリマブである、請求項13または14に記載の使用のための抗PD1および/または抗PDL1抗体。
【請求項16】
前記抗PD1および/または抗PDL1抗体がさらなる抗がん療法との組合せで使用される、請求項13または14に記載の使用のための抗PD1および/または抗PDL1抗体。
【請求項17】
さらなる抗がん療法が、免疫チェックポイント阻害剤、放射線療法(例えば小分割放射線療法、体幹部定位放射線療法)、外科手術、小分子キナーゼ阻害剤(例えばソラフェニブ、セリチニブ)、化学療法剤(例えばパクリタキセル、ペメトレキセド、ゲムシタビン)、例えば白金系化学療法剤(例えばカルボプラチン、シスプラチン)、核酸合成阻害剤(例えばデシタビン)、がんワクチン(例えばISA101b)、抗CD38抗体(例えばイサツキシマブ)、抗MUC16×CD3二重特異性抗体(例えばREGN4018)、抗CD20×CD3二重特異性抗体(例えばREGN1979)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、抗TGFβ抗体(例えばSAR439459)、インドレアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤、IL-6R阻害剤、IL-4R阻害剤、IL-10阻害剤、IL-2、IL-7、IL-21およびIL-15のようなサイトカイン、コルチコステロイドのような抗炎症薬および非ステロイド抗炎症薬ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項16に記載の使用のための抗PD1および/または抗PDL1抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗PD1療法について結腸直腸がんに罹患している患者を選択するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結腸直腸がん(CRC)は、世界中で3番目に一般的な悪性腫瘍であり、男性のがん関連死の4番目の主要な原因であり、女性の3番目の主要な原因である。これは高い治療上の必要性を示している。実際、転移性CRCを有する患者の大部分について、化学療法は唯一の実行可能な可能性である。しかし、抗PD1免疫療法が、近年患者の特定のサブグループの第2選択の処置として食品医薬品局により承認された。
【0003】
抗チェックポイント抗体(例えば抗PD1抗体ニボルマブおよび抗CTLA4抗体イピリムマブ)は、種々の悪性腫瘍、例えば多発性メラノーマ、肺、膀胱、リンパ腫およびCRCのがん処置において非常に有望な分子である、新しいクラスの抗体である。しかしながら、前記処置によく応答するのは、少数の患者に過ぎない。実際、主要な臨床試験の結果から、約40から60%の患者が、これらの療法に対して満足に応答しないことが明らかになっている。
【0004】
したがって、CRCに罹患している患者の抗PD1療法に対する応答を効率的に予測することができるバイオマーカーを有することは重要である。
【0005】
抗PD1療法の有効性を予測するためにいくつかのバイオマーカーが提示されている。例えば、PD-L1過剰発現は、抗PD1療法に対する応答についての重要であり広く調査されている予測バイオマーカーである。しかしながら、PD-L1染色は、予測正確性が低いことおよび発現の動的変化により、抗PD1療法に対して患者を正確に選択するのに使用することができない。腫瘍微小環境中の腫瘍浸潤免疫細胞および分子は、またはPD-L1発現とともに、抗PD1療法の臨床的な利点を予測するのに重要であり得る。しかしながら、本発明者らの知る限り、抗PD1処置に応答するCRC患者、特に孤発性MSS(Microsatellite Stable、マイクロサテライト安定性)CRC患者を選択するために利用可能な単純な技術は、現在のところ存在しない。そのため、CRC患者の抗PD1療法に対する応答を予測するためのバイオマーカーについては未だに重要な必要性がある。
【0006】
本発明は、この必要性を満たす。
【0007】
環境および栄養因子に関連する宿主因子は、結腸直腸発がんにおいて重要な役割を果たす。近年20年において、CRC発がんにおける腸管微生物叢腸の役割への注目が高まっている。研究により、遺伝的に誘導されるおよび結腸炎症関連CRCマウスモデルの両方において、無菌環境で育成された動物の腸管における腫瘍形成の減少が示された。さらに、結腸直腸がん患者は、健常集団と比較して特徴的な微細物叢を示すことがしばしばである。しかしながら、腸管微生物叢腸内毒素症が結腸直腸発がんを促進することが示されている機構は、未だ解明されていない。近年、非特許文献1により、結腸直腸がん患者由来の便による経管栄養は、無菌およびアゾキシメタン(ACM)発がん物質マウスモデルにおいて腸管発がんを促進することが示されている。多数の研究にかかわらず、CRC関連腸内毒素症は、十分に定義されていない。しかしながら、いくつかの細菌株、例えばバクテロイデスフラジリス(Bacteroides fragilis)、フソバクテリウムヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)および大腸菌(Escherichia coli)は、CRC発達において、十分に確立した役割を有する。
【0008】
大腸菌は、共生細菌であるが、いくつかの株は、コリバクチンのような、遺伝毒性物質を含むいくつかの病原性因子を獲得している。コリバクチン毒素は、ハイブリッドポリケチド非リボソームペプチドであり、ポリケチドシンターゼ(pks)病原性アイランドによりコードされている(非特許文献2)。これらのpksアイランドを有する大腸菌は、非腫瘍性対照と比較して、CRCサンプルにおいて優先的に検出された(非特許文献3、非特許文献4)。CRC関連大腸菌が、結腸直腸発がんを促進する機構は多様であり、動物モデルおよび動物の微生物状態(無菌またはSPF)にいくらか特異的である。しかしながら、免疫応答および炎症の調節は、これらの機構において中心的な役割を果たすようである。
【0009】
興味深いことに、メラノーマに罹患しており、抗PD1療法により処置された患者における腸マイクロバイオームのメタゲノム全ゲノムシーケンシング(WGS)は、非応答者において大腸菌の顕著な濃縮を示した(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wongら(2017)Gastroenterology 153:1621~1633頁
【非特許文献2】Johnsonら(2008)J. Clin. Microbiol.46:3906~3911頁
【非特許文献3】Arthurら(2012)Science 338:120~123頁
【非特許文献4】Bucら(2013)PLoS ONE 8:e56964
【非特許文献5】Gopalakrishnanら(2018)Science 359:97~103頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、MC38腫瘍を皮下移植したマウス中のpksアイランドを保有する大腸菌の存在は、抗PD1抗体の活性を抑制し、同時に、前記抗PD1抗体は、MC38腫瘍を移植したが、天然の微生物叢を有するマウスにおいては有効であったという、本発明者らによる予期しない発見から生じている。したがって、患者の便または結腸生検におけるpksアイランドを保有する大腸菌の存在は、抗PD1療法に対する患者の耐性を予測するものであり得る。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明は、がんに罹患している対象における抗PD1療法に対する耐性を予測する方法に関し、前記方法は:
a)対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルからpksアイランドの存在を決定する工程、
b)工程a)の結果から、対象が抗PD1療法に対して耐性である可能性が高いことを予測する工程
を含む。
【0013】
特定の実施形態において、pksアイランドの存在は、工程a)において、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定することによって決定される。
【0014】
特定の実施形態において、前記がんは結腸直腸がんである。
【0015】
特定の実施形態において、pksアイランドの存在は、工程a)において、pksアイランドDNAの存在を決定することによって決定される。
【0016】
他の特定の実施形態において、pksアイランドDNAの存在は、PCRによって決定される。
【0017】
特定の実施形態において、pksアイランドの存在は、工程a)において、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定することによって決定され、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在は、寒天での大腸菌細菌の単離および、pksアイランドDNAの、特にPCRによる存在の決定によって決定される。
【0018】
他の特定の実施形態において、pksアイランドの存在は、工程a)において、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定することにより決定され、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在は、大腸菌特異的なDNAの存在を、特にPCRによって決定し、そしてpksアイランドDNAの存在を、特にPCRによって決定することによって決定される。
【0019】
特定の実施形態において、PCRによるpksアイランドDNAの存在の決定は、pksアイランドの遺伝子の少なくとも1つ、特に2つの存在をPCRによって決定することにより実行される。
【0020】
さらに他の実施形態において、抗PD-1療法はセミプリマブによる療法である。
【0021】
本発明の他の目的は、がんに罹患している対象を処置するための療法を選択する方法であって、前記方法は:
a)対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便サンプルまたは結腸生検からpksアイランドの存在を決定する工程、
b)工程a)において前記pksアイランドが存在すると決定される場合、前記対象について抗PD-1療法ではない抗がん療法を選択する工程
を含む。
【0022】
特定の実施形態において、pksアイランドの存在は、工程a)において、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定することによって決定される。
【0023】
特定の実施形態において、前記がんは結腸直腸がんである。
【0024】
特定の実施形態において、抗PD-1療法ではない抗がん療法は、イリノテカン、オキサリプラチン、イリノテカンと5-FUおよびロイコボリンの組合せ、オキサリプラチンと5-FUおよびロイコボリンの組合せ、イリノテカンとカペシタビンの組合せ、オキサリプラチンおよびカペシタビンの組合せ、セツキシマブおよびパニツムマブのような抗EGFR抗体、ベバシズマブのような抗VEGFR抗体、ラムシルマブのような抗VEGFR2抗体、アフリベルセプト、zivアフリベルセプト、レゴラフェニブ、トラメチニブおよびパルボシクリブの組合せ、レオリシン(reolysin)(登録商標)、ダブラフェニブ、トラメチニブおよびパニツムマブの組合せならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0025】
本発明はまた、がんに罹患している対象を処置する方法における使用のための抗PD-1療法ではない抗がん療法に関し、前記方法は:
a)対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルからpksアイランドの存在を決定する工程、
b)工程a)において前記pksアイランドが存在すると決定される場合、前記対象に治療有効量の前記抗PD-1療法ではない抗がん療法を投与する工程
を含む。
【0026】
特定の実施形態において、pksアイランドの存在は、工程a)において、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定することによって決定される。
【0027】
特定の実施形態において、前記がんは結腸直腸がんである。
【0028】
本発明はまた、がんに罹患している対象を処置する方法における使用のための抗PD1および/または抗PDL1抗体に関し、前記方法は:
a)対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルからpksアイランドの存在を決定する工程、
b)工程a)において前記pksアイランドが存在しないと決定される場合、前記対象に治療有効量の抗PD-1および/または抗PDL1抗体を投与する工程
を含む。
【0029】
特定の実施形態において、pksアイランドの存在は、工程a)において、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定することによって決定される。
【0030】
特定の実施形態において、前記がんは結腸直腸がんである。
【0031】
特定の実施形態において、前記抗PD1または抗PDL1抗体はセミプリマブである。
【0032】
本発明はさらに、がんに罹患している対象を処置する方法に関し、前記方法は:
a)対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルからpksアイランドの存在を決定する工程、
b)工程a)において前記pksアイランドが存在すると決定される場合、前記対象に治療有効量の抗PD-1療法ではない抗がん療法を投与するか;または、
工程a)において前記pksアイランドが存在しないと決定される場合、前記対象に治療有効量の抗PD-1療法を投与する工程
を含む。
【0033】
特定の実施形態において、pksアイランドの存在は、工程a)において、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定することによって決定される。
【0034】
特定の実施形態において、前記がんは結腸直腸がんである。
【0035】
他の特定の実施形態において、抗PD-1療法ではない前記抗がん療法は、イリノテカン,オキサリプラチン、イリノテカンと5-FUおよびロイコボリンの組合せ、オキサリプラチンと5-FUおよびロイコボリンの組合せ、イリノテカンとカペシタビンの組合せ、オキサリプラチンおよびカペシタビンの組合せ、セツキシマブおよびパニツムマブのような抗EGFR抗体、ベバシズマブのような抗VEGFR抗体、ラムシルマブのような抗VEGFR2抗体、アフリベルセプト、zivアフリベルセプト、レゴラフェニブ、トラメチニブおよびパルボシクリブの組合せ、レオリシン(登録商標)、ダブラフェニブ、トラメチニブおよびパニツムマブの組合せならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0036】
他の特定の実施形態において、前記抗PD1療法はセミプリマブによる療法である。
【0037】
本発明はまた、がんに罹患している対象における抗PD-1療法に対する耐性を予測する方法に関し、前記方法は:
a)場合により、寒天において、対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便もしくは結腸生検サンプルから大腸菌細菌を単離するか、または前記生体サンプルについて、大腸菌細菌に特異的なプライマーを用いてPCRを行い、大腸菌細菌が存在するかを検出する工程、
b)対象由来の前記生体サンプルについて、pks遺伝子アイランドに特異的なプライマー、特に、ClbH、ClbJ、ClbN、ClbC、ClbI、ClbO、ClbBおよびClbK遺伝子からなる群から選択される遺伝子に特異的なプライマーを用いてPCRを行い、pksアイランドが存在するかを検出する工程、ならびに
c)工程b)の結果からpksアイランドが存在する場合、対象が抗PD-1療法に対して耐性であることを予測する工程
を含む。
【0038】
特定の実施形態において、本方法は、寒天において、対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便もしくは結腸生検サンプルから大腸菌細菌を単離するか、または前記生体サンプルについて、大腸菌細菌に特異的なプライマーを用いてPCRを行い、大腸菌細菌が存在するかを検出する工程a)を含み、そして工程c)は、工程a)およびb)の結果から、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌が存在する場合、対象が抗PD1療法に対して耐性であることを予測することから構成される。
【0039】
特定の実施形態によれば、ClbH、ClbJ、ClbN、ClbC、ClbI、ClbO、ClbBおよびClbK遺伝子からなる群から選択される遺伝子に特異的なプライマーは、pksアイランドのClbN遺伝子に特異的である。
【0040】
他の特定の実施形態によれば、PCRは、配列番号1を含むプライマーおよび配列番号2を含むプライマーの1つまたは両方を用いて行われる。
【0041】
代替的な実施形態において、抗PD-1療法に対する耐性を予測する方法は:
a)生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルから微生物叢をシーケンシングする工程、
b)工程a)において行ったシーケンシングから、pksアイランド、特にpksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定する工程、および
c)工程b)の結果から、pksアイランド、特にpksアイランドについて陽性の大腸菌細菌が存在する場合、対象が抗PD-1療法に対して耐性であると予測する工程
を含む。
【0042】
他の実施形態によれば、前記がんは結腸直腸がんである。
【0043】
他の実施形態によれば、抗PD-1療法はセミプリマブによる療法である。
【0044】
本発明はさらに、がんに罹患している対象を処置する療法を選択する方法に関し、前記方法は:
a)場合により、寒天において、対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便もしくは結腸生検サンプルから大腸菌細菌を単離するか、または前記生体サンプルについて、大腸菌細菌に特異的なプライマーを用いてPCRを行い、大腸菌細菌が存在するかを検出する工程、
b)対象由来の前記生体サンプルについて、pksアイランド遺伝子に特異的なプライマー、特にClbH、ClbJ、ClbN、ClbC、ClbI、ClbO、ClbBおよびClbK遺伝子からなる群から選択される遺伝子に特異的なプライマーを用いてPCRを行い、pksアイランドが存在するかを検出する工程、ならびに
c)工程b)において前記pksアイランドが存在すると決定される場合、前記対象について抗PD-1療法ではない抗がん療法を選択する工程
を含む。
【0045】
特定の実施形態において、本方法は、寒天において、対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便もしくは結腸生検サンプルから大腸菌細菌を単離するか、または前記生体サンプルについて、大腸菌細菌に特異的なプライマーを用いてPCRを行い、大腸菌細菌が存在するかを検出する工程a)を含み、そして工程c)は、工程a)およびb)から、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌が存在すると決定される場合、前記対象について抗PD-1療法ではない抗がん療法を選択することから構成される。
【0046】
特定の実施形態によれば、ClbH、ClbJ、ClbN、ClbC、ClbI、ClbO、ClbBおよびClbK遺伝子からなる群から選択される遺伝子に特異的なプライマーはpksアイランドのClbN遺伝子に特異的である。
【0047】
他の特定の実施形態によれば、PCRは、配列番号1を含むプライマーおよび配列番号2を含むプライマーの1つまたは両方を用いて行われる。
【0048】
代替的な実施形態において、抗PD-1療法に対する耐性を予測する方法は:
a)生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプル由来の微生物叢をシーケンシングする工程、
b)工程a)において行ったシーケンシングから、pksアイランド、特にpksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定する工程、および
c)工程b)においてpksアイランド、特にpksアイランドについて陽性の大腸菌細菌が存在すると決定される場合、前記対象について、抗PD-1療法ではない抗がん療法を選択する工程
を含む。
【0049】
他の実施形態によれば、前記がんは結腸直腸がんである.
【0050】
他の実施形態によれば、抗PD-1ではない抗がん療法は、イリノテカン、オキサリプラチン、イリノテカンと5-FUおよびロイコボリンの組合せ、オキサリプラチンと5-FUおよびロイコボリンの組合せ、イリノテカンとカペシタビンの組合せ、オキサリプラチンおよびカペシタビンの組合せ、セツキシマブおよびパニツムマブのような抗EGFR抗体、ベバシズマブのような抗VEGFR抗体、ラムシルマブのような抗VEGFR2抗体、アフリベルセプト、zivアフリベルセプト、レゴラフェニブ、トラメチニブおよびパルボシクリブの組合せ、レオリシン(登録商標)、ダブラフェニブ、トラメチニブおよびパニツムマブの組合せならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0051】
本発明はさらに、がんに罹患している対象を処置する方法に関し、前記方法は:
a)対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルからpksアイランドの存在を決定する工程、
b)工程a)において前記pksアイランドが存在しないと決定される場合、前記対象に治療有効量の抗PD-1および/または抗PDL1抗体を投与する工程
を含む。
【0052】
特定の実施形態において、pksアイランドの存在は、工程a)において、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定することによって決定される。
【0053】
特定の実施形態によれば、前記がんは結腸直腸がんである。
【0054】
他の特定の実施形態によれば、前記抗PD1および/または抗PDL1抗体はセミプリマブである。
【0055】
他の実施形態によれば、本方法は、さらなる抗がん療法を投与することをさらに含む。
【0056】
他の実施形態によれば、さらなる抗がん療法は、免疫チェックポイント阻害剤、放射線療法、外科手術、小分子キナーゼ阻害剤、化学療法剤、例えば白金系化学療法剤、核酸合成阻害剤、がんワクチン、抗CD38抗体、抗MUC16×CD3二重特異性抗体、抗CD20×CD3二重特異性抗体、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、抗TGFβ抗体、インドレアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤、IL-6R阻害剤、IL-4R阻害剤、IL-10阻害剤、IL-2、IL-7、IL-21およびIL-15のようなサイトカイン、抗炎症薬ならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0057】
他の実施形態によれば、さらなる抗がん療法は、小分割放射線療法および体幹部定位放射線療法から構成される群から選択される放射線療法である。
【0058】
他の実施形態によれば、さらなる抗がん療法は、ソラフェニブおよびセリチニブから構成される群から選択される小分子キナーゼ阻害剤である。
【0059】
他の実施形態によれば、さらなる抗がん療法は、パクリタキセル、ペメトレキセドおよびゲムシタビンから構成される群から選択される化学療法剤である。
【0060】
他の実施形態によれば、さらなる抗がん療法は、カルボプラチンおよびシスプラチンから構成される群から選択される白金系化学療法剤である。
【0061】
他の実施形態によれば、さらなる抗がん療法は、デシタビンである核酸合成阻害剤である。
【0062】
他の実施形態によれば、さらなる抗がん療法は、ISA101bであるがんワクチンである。
【0063】
他の実施形態によれば、さらなる抗がん療法は、SAR439459である抗TGFβ抗体である。
【0064】
他の実施形態によれば、さらなる抗がん療法は、コルチコステロイドおよび非ステロイド抗炎症薬から構成される群から選択される抗炎症薬である。
【0065】
本発明はさらに、がんに罹患している対象を処置する方法に関し、前記方法は:
a)対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルからpksアイランドの存在を決定する工程、
b)工程a)において前記pksアイランドが存在すると決定される場合、前記対象に治療有効量の抗PD-1療法ではない抗がん療法を投与するか;または
工程a)において前記pksアイランドが存在しないと決定される場合、前記対象に治療有効量の抗PD-1療法を投与する工程
を含む。
【0066】
特定の実施形態において、pksアイランドの存在は、工程a)において、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定することによって決定される。
【0067】
特定の実施形態によれば、前記がんは結腸直腸がんである。
【0068】
他の特定の実施形態によれば、抗PD-1療法ではない抗がん療法は、イリノテカン、オキサリプラチン、イリノテカンと5-FUおよびロイコボリンの組合せ、オキサリプラチンと5-FUおよびロイコボリンの組合せ、イリノテカンとカペシタビンの組合せ、オキサリプラチンおよびカペシタビンの組合せ、セツキシマブおよびパニツムマブのような抗EGFR抗体、ベバシズマブのような抗VEGFR抗体、ラムシルマブのような抗VEGFR2抗体、アフリベルセプト、zivアフリベルセプト、レゴラフェニブ、トラメチニブおよびパルボシクリブの組合せ、レオリシン(登録商標)、ダブラフェニブ、トラメチニブおよびパニツムマブの組合せならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0069】
他の特定の実施形態によれば、前記抗PD1療法はセミプリマブによる療法である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【
図1】pks
+大腸菌事前感染マウスにおけるMC38マウス結腸腫瘍の増殖速度に対するPD-1ベース免疫療法の抗腫瘍効果の欠損を示す図である。
図1:アイソタイプ対照(11G5+アイソタイプ対照、丸)またはRMP1-14抗体(11G5+Ab、四角形)を注入したマウスの糞便における11G5-細菌コロニー形成のレベル(糞便のCFU/g)を示す図である。
【
図2】pks
+大腸菌事前感染マウスにおけるMC38マウス結腸腫瘍の増殖速度に対するPD-1ベース免疫療法の抗腫瘍効果の欠損を示す図である。
図2:アイソタイプ対照(11G5アイソタイプ対照)またはRMP1-14抗体(11G5 Ab)を注入したマウスの結腸組織における11G5-細菌コロニー形成のレベル(組織のCFU/g)を示す図である。
【
図3】pks
+大腸菌事前感染マウスにおけるMC38マウス結腸腫瘍の増殖速度に対するPD-1ベース免疫療法の抗腫瘍効果の欠損を示す図である。
図3:RMP1-14処置動物(PBS+Ab、三角形)対非処置動物(PBS+アイソタイプCTL、四角形)においてMC38腫瘍体積(mm
3)により評価されるPD-1ベース免疫療法に対する応答を示す図である。
【
図4】pks
+大腸菌事前感染マウスにおけるMC38マウス結腸腫瘍の増殖速度に対するPD-1ベース免疫療法の抗腫瘍効果の欠損を示す図である。
図4:RMP1-14抗体で処置した(11G5+Ab、三角形)または処置していない(11G5+アイソタイプCTL、四角形)においてMC38腫瘍体積(mm3)により評価される、pks+大腸菌11G5株を事前感染したマウスにおけるPD-1ベース免疫療法に対する応答の欠損を示す図である。。
【
図5】pks
+またはpks
-大腸菌によりコロニー形成される患者の腫瘍中および侵襲的辺縁のTILの密度をデジタル画像解析により評価した図である。*p=0.05。
【
図6】結腸がん関連大腸菌11G5株は、APC
Min/+マウスの結腸におけるT細胞密度を調節することを示す図である。CD3についての免疫蛍光染色は、感染の50日後に、結腸セクションについて行った。細胞密度を、各染色セクションのデジタル画像解析により行った。図面は、各群のマウスについてのTILの密度を示す(非感染:PBSおよび11G5ΔClbQ感染:11G5)。*p=0.05。
【
図7】MC38腫瘍を移植したマウスにおけるTILレベルに対するpks+大腸菌事前感染の影響を示す図である。
図7:各群のマウスについての移植したMC38腫瘍における生CD45
+白血球間のCD3
+T細胞のパーセント比率を評価するための代表的なフローサイトメトリープロットである。
【
図8】MC38腫瘍を移植したマウスにおけるTILレベルに対するpks+大腸菌事前感染の影響を示す図である。
図8:対照マウスと比較した、11G5感染マウスの腫瘍における生CD45
+白血球間のCD3
+T細胞のパーセント比率の有意な低下(平均プラスSEM)を示す図である。
【
図9】MC38腫瘍を移植したマウスにおけるTILレベルに対するpks+大腸菌事前感染の影響を示す図である。
図9:各群のマウスについての移植したMC38腫瘍における生CD45
+白血球間のCD8
+CD3
+T細胞のパーセント比率を評価するための代表的なフローサイトメトリープロットである。
【
図10】MC38腫瘍を移植したマウスにおけるTILレベルに対するpks+大腸菌事前感染の影響を示す図である。
図10:対照マウスと比較した、11G5感染マウスの腫瘍における生CD45
+白血球間のCD8
+CD3
+T細胞のパーセント比率の有意な低下(平均プラスSEM)を示す図である。
【
図11】MC38腫瘍を移植したマウスにおけるTILレベルに対するpks+大腸菌事前感染の影響を示す図である。
図11:各群のマウスについての移植したMCD38腫瘍における生CD45
+白血球間の好中球(CD11b
+Ly6G
+Ly6C
-細胞)のパーセント比率を評価するための代表的なフローサイトメトリープロットである。
【
図12】MC38腫瘍を移植したマウスにおけるTILレベルに対するpks+大腸菌事前感染の影響を示す図である。
図12:対照マウスと比較した、11G5感染マウスの腫瘍における生CD45
+白血球間の好中球のパーセント比率の有意な増加(平均プラスSEM)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
本発明の文脈において、用語「がん」は、それについて抗PD1療法を考慮することができる任意のがんを指す。かかるがんの例としては、結腸直腸がん、特に進行転移性結腸直腸がん、多発性メラノーマ、肺がん、特に非小細胞肺がん、膀胱がん、リンパ腫、特にホジキンリンパ腫、B細胞リンパ腫または濾胞性リンパ腫、腎細胞癌、頭頚部の扁平上皮細胞癌、卵巣がん、メルケル細胞癌および尿路上皮癌が挙げられる。
【0072】
特定の実施形態において、前記がんはメラノーマまたは結腸直腸がん、より具体的には結腸直腸がんである。
【0073】
より具体的な実施形態において、前記結腸直腸がんは、マイクロサテライト安定性(MSS)結腸直腸がんである。
【0074】
本発明の目的のための「対象」は、ヒトおよび他の動物、特に哺乳類ならびに他の生物を含む。したがって、本方法はヒト療法および獣医学的適用の両方に適用可能である。特定の実施形態において、対象は哺乳類であり、より具体的な実施形態において対象はヒトである。
【0075】
本発明の方法は、上記で定義するように対象由来の生体サンプルからpksアイランドの存在を決定する工程a)を含む。
【0076】
本明細書において、「生体サンプル」は、対象の消化管から得られたサンプル、例えば糞便サンプルまたは結腸生検サンプルを意味する。
【0077】
本明細書において、「pksアイランド」は、コリバクチンの産生を可能にする機構をコードする全19遺伝子(clbAからclbS)を含む54kbのゲノムアイランドを意味する。この機構は、3つの非リボソームペプチドメガシンターゼ(ClbH、ClbJ、ClbN)、3つのポリケチドメガシンターゼ(ClbC、ClbI、ClbO)、2つのハイブリッドNRPS/PKSメガシンターゼ(ClbB、ClbK)および9つのアクセサリー、テーラーおよび編集酵素からなる。
【0078】
本発明によれば、pksアイランドの存在の決定は、少なくとも1つのpksアイランドの発現産物もしくは発現産物誘導体の存在を決定すること、またはpksアイランドDNAの存在を決定することにより実行される。
【0079】
本明細書において、「少なくとも1つのpksアイランドの発現産物」は、pksアイランドの19遺伝子の少なくとも1つ、特にClbH、ClbJ、ClbN、ClbC、ClbI、ClbO、ClbBおよびClbK遺伝子の少なくとも1つによりコードされる少なくとも1つのタンパク質またはmRNAを意味する。
【0080】
本明細書において、「pksアイランドの発現産物誘導体」は、上記で定義するようにpksアイランドによりコードされる機構を介して、特にClbH、ClbJ、ClbN、ClbC、ClbI、ClbO、ClbBおよびClbK遺伝子の少なくとも1つによりコードされる酵素を介して産生される代謝物、中間産物および毒素、例えばコリバクチンを意味する。
【0081】
少なくとも1つのpksアイランドの発現産物の存在の決定は、当業者によく知られた任意の技術、例えばウェスタンブロット、酵素結合免疫吸着アッセイ、免疫化学、RT-PCRまたはqPCRにより行われる。
【0082】
少なくとも1つのpksアイランドの発現産物誘導体の存在の決定は、当業者によく知られた任意の技術、例えばウェスタンブロット、酵素結合免疫吸着アッセイまたは免疫化学により行われる。
【0083】
特定の実施形態において、pksアイランドの存在の決定は、事前に決定した閾値と、決定した前記pksアイランドのレベルを比較することによって決定される。適切な閾値を決定する統計学的な方法は、当業者には容易に明らかなものであろう。閾値は、必要であればpksアイランドを含む(陽性対照)または含まない(陰性対照)ことが知られている対象由来のサンプルから決定される。
【0084】
特定の実施形態において、pksアイランドの存在は、工程a)において、pksアイランドDNAの存在を決定することによって決定される。
【0085】
本明細書において、「pksアイランドDNA」は、pksアイランドに含まれる核酸を意味し、前記核酸は、少なくとも25bp、特に少なくとも50bp、少なくとも100bp、少なくとも200bp、少なくとも300bp、少なくとも400bp、少なくとも500bp、少なくとも600bp、少なくとも700bp、少なくとも800bp、少なくとも900bp、少なくとも1000bp、少なくとも2000bp、少なくとも3000bp、少なくとも4000bp、少なくとも5000bp、少なくとも6000bp、少なくとも7000bp、少なくとも8000bp、少なくとも9000bp、少なくとも10000bp、少なくとも20000bp、少なくとも30000bp、少なくとも40000bpまたは少なくとも50000bpである。
【0086】
pksアイランドDNAは特に、pksアイランドの19遺伝子の少なくとも1つ、特にClbH、ClbJ、ClbN、ClbC、ClbI、ClbO、ClbBおよびClbK遺伝子の少なくとも1つに含まれる核酸であり得る。例えば、pksアイランドDNAは、pksアイランドのClbN遺伝子に含まれる核酸である。
【0087】
pksアイランドDNAの存在の決定は、当業者によく知られた任意の技術、例えば典型的にはDNAチップ上の特異的なプローブを用いたPCRによって、またはシーケンシングによって行われる。
【0088】
特定の実施形態において、pksアイランドDNAの存在の決定は、PCRによって行われる。
【0089】
特定の実施形態において、pksアイランドDNAの存在の決定は、上記で定義するようにpksアイランドの少なくとも1つ、特に2つの遺伝子、特にClbH、ClbJ、ClbN、ClbC、ClbI、ClbO、ClbBおよびClbK遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つ、特に2つの遺伝子の存在をPCRによって決定することにより行われる。
【0090】
特定の実施形態において、pksアイランドDNAの存在の決定は、pksアイランド遺伝子に特異的なプライマー、特に上記で定義するようにpksアイランドの少なくとも1つ、特に2つの遺伝子、特にClbH、ClbJ、ClbN、ClbC、ClbI、ClbO、ClbBおよびClbK遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つ、特に2つの遺伝子にそれぞれ特異的なプライマーを用いたPCRにより行われる。
【0091】
特定の実施形態において、pksアイランドDNAの存在の決定は、pksアイランド遺伝子に特異的なプライマーを用いて、特にpksアイランドのClbN遺伝子に特異的なプライマーを用いて、より具体的には配列番号1を含むプライマーおよび配列番号2を含むプライマーの1つまたは両方を用いてPCRにより行われる。
【0092】
典型的には、pksアイランドの存在は以下の方法によって決定される。総DNAは、試験する糞便サンプルから抽出されるのが好ましい。次いでDNA増幅は、典型的にはプライマー、特に典型的にはpksアイランドのClbN遺伝子に位置する10μMのプライマーを用いてTaq DNAポリメラーゼを使用して行われるのが好ましい。Johnsonら(2008)J. Clin. Microbiol.46:3906~3911頁に開示されている適切なプライマーは、典型的には以下の配列:
-フォワードプライマー:GTTTTGCTCGCCAGATAGTCATTC(配列番号1)
-リバースプライマー:CAGTTCGGGTATGTGTGGAAGG(配列番号2)
のものである。
【0093】
特定の実施形態において、pksアイランドの存在は、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定することによって決定される。
【0094】
pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定することは、当業者によく知られた任意の適切な方法によって行われる。
【0095】
特に、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在を決定することは、上記で開示するように寒天でのサンプル中に存在する大腸菌細菌の単離およびpksアイランドDNAの存在の決定によって決定される。
【0096】
寒天でのサンプル中に存在する大腸菌細菌の単離は、典型的には、前記サンプルを、適切な培養培地、例えばMacConkey寒天プレート上で培養、特に好気的に培養した後、得られたコロニーを形態学的に特徴付け、さらに適切な細菌同定キットを用いてグラム陰性コロニーを同定することにより行われる。あるいは、寒天でのサンプル中に存在する大腸菌細菌の単離は、典型的には、前記サンプルを、大腸菌の同定を可能にするDrigalski寒天および発色性寒天chromID CPS3(登録商標)(bioMerieux)上で培養し、場合により自動化Vitek II(登録商標)システム(bioMerieux)を用いて前記同定を確認することにより行われる。典型的には、寒天でのサンプル中に存在する大腸菌細菌の単離は、Bucら(2013)PLoS ONE 8:e56964に開示されているように行われる。
【0097】
あるいは、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在は、上記で開示するように、サンプル中の大腸菌特異的なDNAの存在の決定およびpksアイランドDNAの存在の決定によって決定される。
【0098】
サンプル中の大腸菌特異的なDNAの存在の決定は、当業者によく知られた任意の方法、特にPCRによって行われる。
【0099】
特に、大腸菌特異的なDNAの存在の決定は、大腸菌細菌に特異的なプライマーを用いたPCRにより行われる。
【0100】
大腸菌細菌に特異的なかかるプライマーは、当業者にはよく知られている。典型的には、大腸菌16S DNAに特異的なプライマーは、Sabatら(2000)Applied Environ. Microbiol.66:844~849頁に開示されているように使用される。あるいは、大腸菌uidA遺伝子に特異的なプライマーまたは大腸菌のuspA遺伝子の隣接領域に特異的なプライマーは、Choiら(2018)Korean J. Food. Sci. Anim. Resour.38:829~834頁ならびにChenおよびGriffiths(1998)Lett. Appl. Microbiol.27:369~371頁にそれぞれ開示されているように使用される。
【0101】
あるいは、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌の存在の決定は、シーケンシング、DNAチップ、FISH、ウェスタンブロット、酵素結合免疫吸着アッセイ、免疫化学、免疫蛍光法または微生物叢のグローバルシーケンシングによって行われる。
【0102】
本発明の文脈において、用語「抗PD1療法」はPD1/PDL1経路を阻害または拮抗する任意の治療的処置を指す。
【0103】
抗PD1療法は、当業者によく知られており、抗PD1抗体または抗体誘導体、例えばペムブロリズマブ、ニボルマブ、セミプリマブ、スパルタリズマブ(PDR001としても知られる;例えば国際公開第2015/112900号を参照のこと)、チスレリズマブ(BGB-A317としても知られる;例えば国際公開第2015/035606号を参照のこと)、カムレリズマブ(SHR-1210としても知られる;例えば国際公開第2015/085847号を参照のこと)、ドスタルリマブ(TSR-042としても知られる;例えば国際公開第2014/179664号を参照のこと)、シンチリマブ(IBI308としても知られる;例えば国際公開第2017/025016号を参照のこと)、MEDI0608(以前はAMP-514;例えば国際公開第2012/145493号および米国特許第9,205,148号を参照のこと)、PF-06801591(例えば国際公開第2016/092419号を参照のこと)、JS001(例えば国際公開第2014/206107号を参照のこと)、MGA012(例えば国際公開第2017/019846号を参照のこと)、AGEN2034(例えば国際公開第2017/040790号を参照のこと)およびJNJ-63723283(例えば、国際公開第2017/079112号を参照のこと)および抗PDL1抗体または抗体誘導体、例えばアテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、BMS-936559抗体またはCK-301抗体が挙げられる。
【0104】
特定の実施形態において、抗PD1療法は、抗PD1および/または抗PDL1抗体を用いた療法である。
【0105】
用語「抗体」、「イムノグロブリン」または「Ig」は、本明細書において互換可能に使用される。用語の抗体は、合成抗体、モノクローナル抗体、組換え産生抗体、多特異性抗体(二重特異性抗体を含む)、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、細胞内抗体、一本鎖Fvs(scFv)(例えば単一特異性、二重特異性、三重特異性等を含む)、ラクダ化抗体、単一ドメイン抗体、Fabフラグメント、F(ab′)フラグメント、ジスルフィド結合Fvs(sdFv)、抗イディオタイプ(抗Id)抗体および上述の任意のエピトープ結合フラグメント、抗体の抗原結合ドメインを含む融合タンパク質、PD-1またはPD-L1リガンドに基づく融合タンパク質(すなわち「トラップ」、例えばイムノグロブリンのFc部分に融合した、天然のPD-1またはPD-L1リガンドのPD-1またはPD-L1結合ドメインを含む融合タンパク質)ならびにそれらの任意の組合せを含むが、これに限定されない。特に、抗体としては、イムノグロブリン分子およびイムノグロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち抗原結合ドメインまたはPD-1もしくはPD-L1抗原に特異的に結合する抗原結合部位を含む分子が挙げられる。抗PD1または抗PDL1抗体は、任意の起源(ヒト、マウスまたは他)、クラス(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)またはサブクラス(例えばIgG1、IgG2、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)のものであってよい。特定の実施形態において、抗PD1または抗PDL1抗体はヒト化されている、例えばヒト化モノクローナル抗PD1および/または抗PDL1抗体である。
【0106】
特定の実施形態において、抗PD1療法はセミプリマブによる療法である。
【0107】
「抗PD1療法に対する耐性」は、本明細書において、抗PD1処置が処置する疾患に関して処置した患者の健康状態を改善しないことを意味する。例えば腫瘍増殖は低下および/もしくは遅延化しないか、ならびに/または生存率が上昇しない。
【0108】
「抗PD1療法に対する耐性の予測」は、本明細書において、上記で定義するように、患者に投与された場合に、抗PD1療法が処置する疾患に関して前記患者の健康状態を改善しない可能性を決定することを意味する。
【0109】
本明細書中で使用する用語「抗がん療法」は、がんの予防、管理、処置および/または改善に使用される任意の手順、方法および/または剤を指す。特定の実施形態において、用語「療法(therapies)」および「療法(therapy)」は、生物学的療法、支持療法ならびに/または当該分野の当業者、例えば医療従事者に知られた、がんの予防、管理、処置および/もしくは改善に有用な他の療法を指す。
【0110】
「抗PD1療法ではない抗がん療法」は、上記で定義するように抗PD1療法ではない、処置する特定のがんに対する有益な効果を有することが知られていることが好ましい任意の療法を意味する。
【0111】
典型的には、前記がんが結腸直腸がんである場合、抗PD1療法ではない前記抗がん療法は、イリノテカン、オキサリプラチン、イリノテカンと5-FUおよびロイコボリンの組合せ、オキサリプラチンと5-FUおよびロイコボリンの組合せ、イリノテカンとカペシタビンの組合せ、オキサリプラチンおよびカペシタビンの組合せ、セツキシマブおよびパニツムマブのような抗EGFR抗体、ベバシズマブのような抗VEGFR抗体、ラムシルマブのような抗VEGFR2抗体、アフリベルセプト、zivアフリベルセプト、レゴラフェニブ、トラメチニブおよびパルボシクリブの組合せ、レオリシン(登録商標)、ダブラフェニブ、トラメチニブおよびパニツムマブの組合せならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0112】
pksアイランド、特にpksアイランドについて陽性の大腸菌が対象由来の生体サンプル、特に糞便または結腸生検サンプルに存在しない場合、抗PD-1および/または抗PDL1療法は、さらなる抗がん療法との組合せで投与される。
【0113】
特定の実施形態において、さらなる抗がん療法は、免疫チェックポイント阻害剤、放射線療法(例えば小分割放射線療法、体幹部定位放射線療法)、外科手術、小分子キナーゼ阻害剤(例えばソラフェニブ、セリチニブ)、化学療法剤(例えばパクリタキセル、ペメトレキセド、ゲムシタビン)、例えば白金系化学療法剤(例えばカルボプラチン、シスプラチン)、核酸合成阻害剤(例えばデシタビン)、がんワクチン(例えばISA101b)、抗CD38抗体(例えばイサツキシマブ)、抗MUC16×CD3二重特異性抗体(例えばREGN4018)、抗CD20×CD3二重特異性抗体(例えばREGN1979)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、抗TGFβ抗体(例えばSAR439459)、インドレアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤、IL-6R阻害剤、IL-4R阻害剤、IL-10阻害剤、IL-2、IL-7、IL-21およびIL-15のようなサイトカイン、コルチコステロイドのような抗炎症薬、非ステロイド抗炎症薬ならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0114】
特定の実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA4抗体(例えば、イピリムマブ、REGN4659)または抗LAG-3抗体(例えばREGN3767)である。
【0115】
本発明はまた、上記で定義するように、がんに罹患している対象を処置する方法における使用のための抗PD1および/または抗PDL1抗体に関し、前記方法は:
a)上記で定義するように、対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルからpksアイランドの存在を決定する工程、
b)工程a)において前記pksアイランドが存在しないと決定される場合、上記で定義するように、前記対象に治療有効量の抗PD1および/または抗PDL1抗体を投与する工程
を含む。
【0116】
本発明の他の目的は、がんに罹患している対象を処置する方法を意図した医薬の製造における上記で定義するような抗PD1および/または抗PDL1抗体の使用に関し、前記方法は:
a)上記で定義するように、対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルからpksアイランドの存在を決定する工程、
b)工程a)において前記pksアイランドが存在しないと決定される場合、上記で定義するように、前記対象に治療有効量の抗PD1および/または抗PDL1抗体を投与する工程を含む。
【0117】
本発明はさらに、がんに罹患している対象を処置する方法に関し、前記方法は:
a)上記で定義するように、対象由来の生体サンプル、特に対象由来の糞便または結腸生検サンプルからpksアイランドの存在を決定する工程、
b)工程a)において前記pksアイランドが存在すると決定される場合、上記で定義するように、前記対象に治療有効量の抗PD-1療法ではない抗がん療法を投与するか;または
工程a)において前記pksアイランドが存在しないと決定される場合、上記で定義するように、前記対象に治療有効量の抗PD-1療法を投与する工程
を含む。
【0118】
特にことわらない限り、本明細書において使用する、疾患、障害または症候群の「処置すること」または「処置」は、疾患、障害または症候群を阻害する、すなわちその発達を停止させること;および疾患、障害または症候群を緩和する、すなわち疾患、障害または症候群の退行を引き起こすことを意味する。当技術分野で知られているように、処置の文脈において、全身性対局所性の送達、年齢、体重、全体的な健康状態、性別、食事、投与時間、薬物相互作用および症状の重症度についての調整が必要である場合があり、これは、当技術分野の当業者による日常的な実験により解明可能であろう。
【0119】
用語「投与する」または「投与」は、身体の外部に存在する物質(例えば本発明の製剤)を患者へと注入するかまたは他の方法で物理的に、例えば粘膜、皮内、静脈内、皮下、筋肉内送達および/または本明細書中に記載されているかもしくは当技術分野で公知の任意の他の物理的送達の方法により送達することを指す。疾患またはその症候群が処置されている場合、物質の投与は典型的には、疾患またはその症候群の発症後に起こる。疾患またはその症候群が予防されている場合、物質の投与は典型的には、疾患またはその症候群の発症前に起こる。
【0120】
用語「有効量」または「薬学的有効量」または「治療有効量」は、所望の生物学的、治療的および/または予防的結果を供給するのに十分な剤の量を指す。その結果は、疾患の兆候、症候群または原因の1つまたはそれ以上の低下、改善、緩和、減少、遅延化および/または軽減または生物学的システムの任意の他の所望の変化であり得る。がんに関連して、有効量は、腫瘍の退縮を引き起こす、および/または腫瘍の増殖速度を低下させる(例えば腫瘍増殖を抑制する)または他の望ましくない細胞増殖を予防もしくは遅延化させるのに十分な量を含む。いくつかの実施形態において、有効量は、発達を遅延化させるのに十分な量である。いくつかの実施形態において、有効量は、再発を予防または遅延化させるのに十分な量である。
【0121】
有効量は、1つまたはそれ以上の投与において投与される。有効量の療法は:(i)がん細胞の数を減少させる;(ii)腫瘍サイズを低下させる;(iii)がん細胞が辺縁器官へと浸潤するのを阻害、妨害、ある程度までの遅延化および好ましくは停止させる;(iv)腫瘍転移を阻害する(すなわちある程度まで遅延化させ、好ましくは停止させる);(v)腫瘍増殖を阻害する;(vi)腫瘍の発生および/もしくは再発を予防または遅延化させる;ならびに/または(vii)がんに関連する症候群の1つもしくはそれ以上をある程度緩和することができる。
【0122】
量は、対象のサイズおよび重量、疾患の種類または療法の特定の化合物のような因子によって変動し得る。量はまた、化合物、疾患状態およびその重症度、処置する患者の年齢等によって変動し得る。有効量は、知識および本開示に関心を有する当技術分野の当業者により決定し得る。
【0123】
用語「含む(comprising)」および「含む(including)」は、本明細書において、特にことわらない限り、変更可能および非限定的な意味で使用される。
【0124】
本発明を記載する文脈(特に下記の特許請求の範囲の文脈において)用語「a」および「an」および「the」ならびに類似の言及は、本明細書中で特にことわるか、または明らかに文脈に矛盾していない限り、単数形および複数形の両方をカバーすると解するべきものである。
【0125】
【0126】
本発明は、以下の実施例によりさらに示される。
【実施例】
【0127】
結腸直腸がん(CRC)は、世界中で3番目に一般的な悪性腫瘍であり、男性のがん関連死の4番目の主要な原因であり、女性の3番目の主要な原因である。環境および栄養因子に関連する宿主因子は、結腸直腸発がんにおいて重要な役割を果たす。近年20年において、CRC発がんにおける腸管微生物叢腸内毒素症の役割への注目が高まっている。研究により、遺伝的に誘導されるまたは結腸炎関連CRCマウスモデルの両方において、無菌環境で育成された動物の腸管における腫瘍形成の低下が示された。さらに、結腸直腸がん患者は、健常集団と比較して特徴的な微細物叢を示すことがしばしばである(Nakatsuら(2015) Nat. Commun.6:8727頁)。腸管微生物叢腸内毒素症が結腸直腸発がんを促進することが示されている機構は、未だ解明されていない。若齢期における抗生物質への暴露と60歳における結腸直腸腺腫リスクの発達との関連は、発がんの第1の工程における微生物叢腸内毒素症の影響を示す。近年、Wongらにより、結腸直腸がん患者由来の糞便による経管栄養は、無菌およびアゾキシメタン(ACM)発がん物質マウスモデルにおいて腸管発がんを促進することが示されている(Wongら(2017)Gastroenterology 153:1621~1633頁)。多数の研究にかかわらず、CRC関連腸内毒素症は十分に定義されていない。しかしながら、いくつかの細菌株、例えばバクテロイデスフラジリス(Bacteroides fragilis)、フソバクテリウムヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)および大腸菌は、CRC発達において、十分に確立した役割を有する。
【0128】
大腸菌は、共生細菌であるが、いくつかの株は、コリバクチンのような、遺伝毒性物質を含むいくつかの病原性因子を獲得している。コリバクチン毒素は、ハイブリッドポリケチド非リボソームペプチドであり、ポリケチドシンターゼ(pks)病原性アイランドによりコードされている(Johnsonら(2008)J. Clin. Microbiol.46:3906~3911頁)。このコリバクチンpksアイランドは、非腫瘍性対照と比較して、CRCサンプルにおいて優先的に検出された(Nakatsuら(2015)Nat. Commun.6:8727頁;Arthurら(2012)Science 338:120~123頁;Bucら(2013)PLoS ONE 8:e56964;Prorok-Hamonら(2014)Gut 63:761~770頁;Eklofら(2017)Int. J. Cancer 141:2528~2536頁)。コリバクチンについての遺伝子(pksアイランドのclbB遺伝子)は健常な個体と比較して、家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)患者の結腸粘膜において高度に濃縮されていた。同様に、Nakatsuらは、腺腫におけるpks陽性細菌を検出しており、これは発がんの早期段階におけるこれらの細菌の存在を示す(Nakatsuら(2015)Nat. Commun.6:8727頁)。
【0129】
よく特徴付けられた皮下同質遺伝子マウスモデルを用いて、本発明者らは、抗PD-1免疫療法を介する抗腫瘍応答に対する慢性感染の影響を評価した。並行して、本発明者らは、pksアイランド状態について事前に特徴付けられたヒトCRCサンプルのコレクションにおけるT細胞集団を評価した。
【0130】
材料および方法
細菌株
11G5と命名された代表的なCRC-コリバクチン産生大腸菌株は、結腸がんの患者の結腸組織から単離され、アンピシリンおよびカナマイシンに対して耐性であった(Bucら(2013)PLoS ONE 8:e56964)。
【0131】
動物
全ての試験は、地域の倫理委員会(No.CE-2912)およびFrench Ethical Animal Use Committee(Apafis#5401およびApafis#13812)により承認された。試験は、6から7週齢の野生型(WT)C57BL/6Jマウス(Charles River Laboratories、L’Abresle、フランス)を用いて行った。全てのマウスは、Universite Clermont Auvergne(Clermont-Ferrand、フランス)の動物管理施設において通常飼育条件下で収容されていた。
【0132】
マウスにおける抗PD-1 mAb効能に対する11G5の影響
C57BL/6Jマウス由来の移植可能なMC38 CRC細胞を、10%FCS(Biowest、Nuaille、フランス)、1%グルタミン、1%hepes、1mM 非必須アミノ酸、1mM ピルビン酸ナトリウムを補充したDMEM(Invitrogen、Cergy Pontoise、フランス)からなる培養培地を用いて、5% CO2を含む加湿インキュベーター中で37℃で単層として維持した。試験を6から8週齢のWT C57BL/6J雄マウスにおいて、1群あたり8匹の動物を用いて行った。大腸菌株コロニー形成を亢進するために、本発明者らは、細菌(約1×109の細菌)またはPBS単独(非感染対照)の経口接種前に3日間ストレプトマイシンを投与した(2.5g/L)。感染の9日後、マウスをイソフルラン吸入により麻酔し、試験の0日目において背面皮下注入により1×106のMC38細胞を接種した。腫瘍細胞注入後8、11、14、18、20および22日において、非感染または11G5感染マウスに、PD-1特異的な遮断抗体(mu 抗PD-1;mIgG1-RPM1-14ラットモノクローナル抗体とマウスIgG1 Fcドメインのキメラバージョン)またはIgG1アイソタイプ対照抗体(mIgG1、クローン1B711)(マウス10μg/g)を腹腔内(i.p)注入した。RPM1-14ラットモノクローナル抗体は、Natalia Martin-Orozcoら(J Immunol December 15,2006,177(12)8291~8295頁)に記載されている。RPM1-14ラットモノクローナル抗体とマウスIgG1 Fcドメインとのキメラバージョンは、配列番号3の軽鎖および配列番号4の重鎖を有する。潜在的な傷害性を評価するために、体重を週に2回測定した。腫瘍増殖をモニタリングするために、腫瘍体積(mm3)を式LxS2/2にしたがって、カリパスを用いて2つの垂直直径の測定から週に2回算出し、式中LおよびSは、それぞれ最大および最小直径(mm)である。マウスを試験の30日目において屠殺した。腫瘍を除き重量を測った。
【0133】
慢性感染動物モデル
C57BL/6J-ApcMin/+雌の細菌感染は、Bonnetら(2014)Clin Cancer Res 20:859~867頁に記載するように行った。大腸菌株コロニー形成を亢進するために、ストレプトマイシン(2.5g/L)を細菌、(PBS中約1x108の細菌)またはPBS単独(非感染対照)による経口摂取に先立って3日間投与した。3つの大腸菌株:pks-陽性11G5株、その同質遺伝子的変異体11G5ΔClbQおよびK-12 MG1655共生株を試験した。糞便細菌コロニー形成をBonnetら(2014)Clin Cancer.Res.20:859~867頁に記載するように、便当たりのコロニー形成ユニットとして定期的に定量化した。接種の5日後、マウスを屠殺した。盲腸から直腸まで結腸を取り出した。次いで、ポリープを計数した。組織を細菌コロニー形成および免疫染色試験のために準備した。腸間膜リンパ節(MLN)を回収して均質化した後、細菌コロニー形成を選択培養により評価し、免疫細胞をフローサイトメトリーにより解析した。試験したパラメーターによれば、1群当たり少なくとも6匹の動物を試験し、試験は少なくとも2回再現した。
【0134】
免疫細胞の免疫蛍光染色および定量化
試験の終了時に、結腸を遠位端から近位端へとスイスロール状にし、10% ホルマリン(Sigma、東京、日本)中で、室温で24時間固定した。ブロックをパラフィンに包埋し、5μmのセクションに切断した後、組織セクションをヘマトキシリン-エオシン-サフラニン染色または腫瘍中の結腸免疫細胞を解析するための免疫蛍光染色のために準備した。免疫染色は、いくつかの免疫細胞集団:CD4T細胞(CD3+CD4+);CD8T細胞(CD3+CD8+)を標的として4つの連続的なセクションにおいて行った。全てのIF染色を、自動染色機、Discovery XT processors(Roch、Bale、スイス)を用いて行い、チラミドシグナル増幅(TSA)-結合蛍光色素法を、結腸スライド全体に使用した。細胞定量化は、特定のデジタル画像解析プロセスにより、結腸粘膜全体について行った。
【0135】
ヒトCRC生検における免疫構成の決定
免疫構成(CD3およびCD8密度)を、MiPaCorコレクションサンプル(DC-2017-2972)からの40のCRCサンプルにおいて決定した。全てのサンプルは事前に、フォワードプライマーとしての配列番号1の配列のプライマーおよびリバースプライマーとしての配列番号2の配列のプライマーを用いて、PCRによって結腸組織上のpks状態について試験された(Gagniereら(2017)Clin. Sci. 131:471~485頁)。本発明者らは、20のpks陰性および20のpks陽性サンプルを選択した。結腸切除の後、新鮮な検体を回収し、緩衝化4%パラホルムアルデヒド中で固定し、パラフィン中に包埋し、5μm薄片に切断した。2つの4μmの組織パラフィンセクションを免疫組織化学のために処理した。染色した組織セクションのデジタル画像を、20×倍率および0.45μm/画素の解像度で得た。結腸腫瘍および侵襲的辺縁領域中のCD3+およびCD8+T細胞の密度を決定した。
【0136】
フローサイトメトリーによるMC38腫瘍浸潤免疫細胞の解析
MC38腫瘍由来の単一細胞懸濁液を、Mouse Tumor Dissociation kitおよびgentleMACS Dissociator(Miltenyi-Biotec)を製造者の指示にしたがって使用して調製した。本試験で使用した全ての抗体を下記表1に記載する。細胞懸濁液をPBSで洗浄し、製造者の指示にしたがって、固定可能なViability Dye eFluor450(eBioscience)により染色した。次いで細胞を洗浄し、抗CD16/CD32とともに4℃でインキュベートした後、CD45、CD3、CD4、CD8、CD11b、GR-1+、Ly6G+およびLy6C+免疫受容体の表面染色を行った。データは、BD LSR II flow cytometer(Becton-Dickinson)上で取得し、解析は、FlowJo(商標)(TreeStar)およびBD FACSDIVA(商標)software(BD Biosciences)を用いて行った。
【0137】
【0138】
統計学的解析
一元配置分散分析後のTukey事後試験または対応なしStudent t試験を統計学的解析に用いた。相関は、Spearman試験により決定した。全ての試験は、Graph Pad Prism 7(StataCorp, College Station、TX、USA)を用いて行った。
【0139】
p値≦.05は、統計学的に有意であると考えた。
【0140】
結果
結腸がん関連大腸菌11G5株による感染は、抗PD-1免疫療法に対する耐性を誘導する。
本発明者らは、11G5株による腸の慢性感染の抗PD-1療法効能に対する影響を調べた。この目的のために、発明者らは、動物モデルとして、C57Bl6マウス上のMC38マウス腫瘍移植片を選択した。動物は、最初に11G5株を経口感染させ、感染の9日後、MC38細胞を皮下接種した。次いで、MC38腫瘍保有マウスに、MC38細胞接種の8、11、14、18、20および22日後に、抗PD-1処置またはアイソタイプ抗体対照を注入した。
図1および2は、抗PD-1処置が、腸の細菌コロニー形成に影響を与えないことを示していた。
図3において、本発明者らは、MC38腫瘍の抗PD-1処置に対する有意な応答を観察した。実際、腫瘍増殖は有意に遅延化し、このことは、試験条件における抗PD-1処置の抗がん効能を示している。対照的に11G5株に感染し、同一の処置に供した動物においては抗腫瘍効果が観察されなかった(
図4)。
【0141】
コリバクチン産生大腸菌11G5株の感染は、腫瘍内CD3+およびCD3+CD8+T細胞の減少を誘導する。
コリバクチン産生大腸菌慢性感染のMC38マウス移植片モデルに対する影響を、フローサイトメトリーを用いて調べた。
【0142】
11G5感染動物のMC38腫瘍において、対照動物と比較して、CD3
+腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の有意な減少が観察された(
図7および8)。CD8
+TILの全体的な減少は、11G5感染マウス群においてのみ観察された(
図9および10)。CD4
+TILについては認知された効果はなかった(データは示さない)。最終的に、11G5感染サンプルにおいて、好中球集団の有意な増加が測定された(
図11および12)。
【0143】
結腸がん関連大腸菌11G5株は、Minマウス結腸腫瘍においてCD3
+細胞集団の減少を誘導する。
T細胞集団は、感染および対照Minマウス(非感染および11G5ΔClbQ感染)由来の腫瘍の結腸セクション上の感染50日後におけるCD3染色によって総T細胞集団を解析することにより調べた。腫瘍の代表的なCD3染色を得た。CD3
+細胞の有意な減少が腫瘍において観察された(
図6)。CD3
+細胞の腫瘍内再配分は不均一であり、減少は特にポリープの辺縁において観察されることが観察された。
【0144】
Pks陽性大腸菌コロニー形成は、ヒトCRCサンプルの侵襲的辺縁における腫瘍浸潤リンパ球T細胞(TIL)の減少と関連している。
ヒトにおける結腸直腸がんとの関連を作成し、腫瘍浸潤リンパ球として、または腫瘍侵襲的辺縁におけるT細胞の存在がpks陽性大腸菌の存在と相関し得るかどうかを見るために、CD3およびCD8染色を、Hopital Europeen Georges Pompidou(Paris)の免疫モニタリングプラットフォームにおいて40のCRC腫瘍サンプルについて行った。
【0145】
結腸腫瘍および侵襲的辺縁領域におけるCD3
+およびCD8
+T細胞の密度を決定し、大腸菌コロニー形成およびpks陽性細菌の存在と関連付けた。大腸菌による組織のコロニー形成とCD3
+またはCD8
+細胞集団との間には有意な相関が見られなかった(データは示さない)。
図5は、侵襲的辺縁においてのみpks陽性腫瘍におけるCD3
+細胞が有意に減少したことを示す。
【0146】
考察
免疫微小環境の研究の過程において、我々は、研究をApcMin/+マウスの結腸におけるT細胞集団に集中させたが、これは、この集団が、ヒトにおいてがん予後に重要であることが示されたためである。これらのマウスの微生物叢におけるpksアイランドについて陽性な大腸菌の存在が、我々が目にした種々の免疫領域におけるT細胞の数を低下させると考えられた。
【0147】
本発明者らは、pks+大腸菌の存在が特に、T細胞活性化を目的とする抗腫瘍処置、例えばチェックポイント阻害剤の効能に影響を与え得ると仮定した。腫瘍増殖を容易にモニタリングするために、本発明者らは、pks+大腸菌を経口感染したマウスにおけるMC38皮下移植片上の抗PD1免疫療法を試験することを選択した。このモデルの試験的な治療応答は、微生物叢環境に感受性であることが示された。さらに、これは抗PD-1抗体の効能に対するいくつかの微生物の影響を評価するための異なる試験においても用いられた(Gopalakrishnanら(2018)Science 359:97~103頁;Sivanら(2015)Science 350:1084~1089頁)。このモデルにより、本発明者らは、pks+大腸菌感染がMC38腫瘍の抗PD-1免疫療法に対する耐性を誘導することを示した。
【0148】
本発明者らはさらに、いくつかのpks陽性大腸菌によりコロニー形成されているヒト腫瘍におけるCD3+細胞の有意の減少を示し、これはこの細菌の存在とCRC予後との関係を示している。
【0149】
この試験により、pksアイランドについて陽性の大腸菌細菌は、CRC患者における抗PD-1応答を予測するための新しいバイオマーカーであり得る。
【配列表】
【国際調査報告】