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▶ ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェンの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-10
(54)【発明の名称】官能化ポリエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/58 20060101AFI20220203BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20220203BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220203BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220203BHJP
   C09J 167/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C08G63/58
C09D167/00
C09D7/63
C09J11/06
C09J167/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021535933
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(85)【翻訳文提出日】2021-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2019083968
(87)【国際公開番号】W WO2020126544
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】18382955.5
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D-40589 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ミラリェス,ホセ
(72)【発明者】
【氏名】フロレス ペナルバ,ソニア
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス ブレ, マルタ
(72)【発明者】
【氏名】マルテーゼ,ヴィート
(72)【発明者】
【氏名】パラダス-パロモ,ミゲル
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン ペレス,ロサ マリア
(72)【発明者】
【氏名】マルケト・コルテス,ホルヘ
【テーマコード(参考)】
4J029
4J038
4J040
【Fターム(参考)】
4J029AA01
4J029AB01
4J029AD01
4J029AD02
4J029AE11
4J029AE13
4J029BF17
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4J029FC05
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4J038PB08
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4J040MA06
4J040MA08
4J040MA10
4J040NA12
4J040NA17
4J040NA19
(57)【要約】
本出願は、環状カーボネート官能性ポリエステルを調製する方法に向けられ、
前記方法は、
(A)炭酸グリセリンと無水物とを反応させて、付加物(A)を形成する段階;
(B)前記付加物(A)と少なくとも1種のポリエポキシド化合物とを反応させて、付加物(B)を形成する段階;及び
(C)前記付加物(B)と少なくとも1種のポリカルボン酸とを反応させて、前記環状カーボネート官能性ポリエステルを形成する段階;
を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状カーボネート官能性ポリエステルを調製する方法であって、
(1)炭酸グリセリンと無水物とを反応させて、式(I)の一般構造を有する付加物(A)を形成すること、
【化1】
式中、nは1、2又は3である;
(2)前記付加物(A)と少なくとも1種のポリエポキシド化合物とを反応させて、式(II)の一般構造を有する付加物(B)を形成すること、
【化2】
式中、Rは2価のフェノール又は2価のアルコールの残基を表し、nは1、2又は3である;及び
(3)前記付加物(B)を少なくとも1種のポリカルボン酸と反応させて、前記環状カーボネート官能性ポリエステルを形成すること;
を含む、方法。
【請求項2】
環状カーボネート官能性ポリエステルを調製するための請求項1に記載の方法であって、
(A)炭酸グリセリンと無水物とを反応させて、式(I)の一般構造を有する付加物(A)を形成する段階、
【化3】
式中、nは1、2又は3である;
(B)前記付加物(A)と少なくとも1種のポリエポキシド化合物とを反応させて、式(II)の一般構造を有する付加物(B)を形成する段階、
【化4】
式中、Rは2価のフェノール又は2価のアルコールの残基を表し、nは1、2又は3であり、
(C)少なくとも1種のポリカルボン酸を提供する段階;及び
(D)前記付加物(B)と少なくとも1種のポリカルボン酸とを反応させて、前記環状カーボネート官能性ポリエステルを形成する段階;
を含む、方法。
【請求項3】
反応性無水物が、無水マレイン酸、無水アジピン酸、無水コハク酸、アルキル無水コハク酸、アルケニル無水コハク酸、無水グルタル酸、アルキル無水グルタル酸、アルケニル無水グルタル酸、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記炭酸グリセリンと前記無水物との反応が、以下の制限:
i)2:1から0.8:1の範囲、好ましくは1.2:1から0.8:1の範囲、より好ましくは1.1:1から0.9:1の範囲の、無水物:炭酸グリセリンのモル比;
ii)60℃~120℃、好ましくは80℃~110℃の範囲の温度;及び
iii)無水条件下;
のうち少なくとも1つの下で行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
段階Cの前記ポリカルボン酸が、50~1000mgKOH/g、好ましくは80~950mgKOH/gの酸価(Av)によって特徴付けられることが好ましいカルボキシル官能性ポリエステル(カルボキシ-PES)である、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記カルボキシル官能性ポリエステル(カルボキシ-PES)が、以下の
i)2種以上のヒドロキシル基を有するポリエステルを提供する工程;及び、
ii)前記ヒドロキシル官能性ポリエステルとカルボン酸又はその無水物とを反応させる工程;
により提供される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒドロキシル官能性ポリエステルが50~300mgKOH/g、好ましくは80~150mgKOH/gの水酸基価を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記カルボキシル官能性ポリエステル(カルボキシ-PES)が、触媒量のエステル化触媒の存在下、化学量論的に過剰なジカルボン酸と少なくとも1種のジオールとの反応によって提供される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
段階Bにおいて、前記ポリエポキシド化合物が100~700g/当量、好ましくは145~155g/当量のエポキシ当量を有する、請求項2~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
段階Bにおいて、前記付加物(A)と少なくとも1種のポリエポキシド化合物とのモル比が1:1.5から1:3、好ましくは1:1.8から1:2.2である、請求項2~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
段階B及びDが以下の
i)40℃~100℃、好ましくは60℃~85℃の範囲の温度において;及び/又は
ii)触媒量の相間移動触媒の存在下において;
行われる、請求項2~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
段階AからDが、中間生成物を分離することなく、1つの容器内で連続的に行われる、請求項2~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
段階Dにおいて、エポキシ基に対するカルボキシル基の当量比が(1.0~1.2):1、好ましくは(1.0~1.1):1の範囲である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に定義された方法により得られた環状カーボネート官能性ポリエステルであって、以下の
300~2500g/当量、好ましくは400~1500g/当量の環状カーボネート当量;
500~5000g/モル、好ましくは1000~4500g/モルの数平均分子量(Mn);及び
50~300mgKOH/g、好ましくは100~200mgKOH/gのOH価;
の少なくとも1つを、好ましくは特徴とする、環状カーボネート官能性ポリエステル。
【請求項15】
請求項14に定義された環状カーボネート官能性ポリエステル、及び1級アミノ基、2級アミノ基、ヒドロキシ基、ホスフィン基、ホスホネート基、及びメルカプタン基からなる群から選択される少なくとも2種の官能基(F)を有する、少なくとも1種の多官能性化合物(H)を含む硬化性コーティング、接着剤又はシーラント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、官能化ポリエステルの製造方法に向けられている。より詳細には、当該出願は、環状カーボネート官能化ポリエステルを製造する方法、及びコーティング、接着剤又はシーラント組成物における前記ポリエステルの使用に向けられている。
【背景技術】
【0002】
コーティング、接着剤及びシーラント配合物におけるポリウレタンの使用は周知であり、長い間確立されている。このようなポリウレタンはその場で硬化する前駆体を含み、接着層を形成する:従来、硬化性化合物は、1種以上のポリイソシアネート化合物及びポリオールのような1種以上のイソシアネートと反応する化合物を含有する。これらの硬化性化合物の選択に応じて、与えられたポリウレタンコーティング、接着剤又はシーラントを、室温において又は特定の物理化学的条件への曝露で硬化するように配合することができる。
【0003】
このような従来のポリウレタン配合物中に存在するイソシアネートは、毒性学的リスクを示す。これは、一方で、使用される際の材料の取り扱いにも関係する。というのも、通常、イソシアネートが高い毒性と高いアレルギー誘発性を有するためである。他方で、柔軟な基材中では、不完全に反応した芳香族イソシアネートが基材の中で移動し、水分又は水含有成分によって加水分解されて発がん性芳香族アミンになるというリスクがある。
【0004】
したがって、理想的には、室温でも良好な硬化性能を有する硬化性コーティング組成物のためのイソシアネートを含まない1成分系(1K)及び2成分系(2K)が望ましい。そして、室温でアミンと反応してウレタンを形成することができる環状カーボネートは、上述のイソシアネート/ポリオール反応によるポリウレタン形成に対し重要な代替品となる可能性が当技術分野において既に認識されている。しかしながら、非イソシアネートポリウレタン(NIPUs)を生成するための環状カーボネートのより広範な使用に対する障害:
i)環状カーボネートは、典型的には、アミジン、グアニジン及びチオウレアなどの触媒の存在下でも、反応性が制限される;
ii)環状カーボネートの開環反応は選択性が低いので、安定な2級アルコールとより不安定な1級アルコールとの混合物が形成される;そして、
iii)当然の結果として、形成するポリウレタンは低分子量の傾向があり、その有用性を制限する;
が知られている。
【0005】
Tomitaらの、「五員環及び六員環の環状カーボネートとアミンとの反応性比較:ポリ(ヒドロキシウレタン)の合成の基礎評価(Reactivity comparison of five- and six-membered cyclic carbonates with amines: Basic evaluation for synthesis of poly(hydroxyurethane))」、Journal of Polymer Science、2001年1月1日、第39巻、第1号、162~168頁には、5-(2-プロペニル)-1、3-ジオキサン-2-オン(1)及び4-(3-ブテニル)-1、3-ジオキソラン-2-オン(2)とヘキシルアミン及びベンジルアミンとの制限された反応性が記載されている。しかし、著者は、これらの環状カーボネートの反応性が、それらの4位に位置する置換基(R)に依存することを見出した。例えば、RがMe<H<フェニル<CHOPh<CFの順に反応性が増大する。これは参考になったが、このようなフッ素化化合物は容易に入手できず、高価であり、潜在的に毒性がある。そのうえ、単量体環状化合物は、コーティング、接着剤又はシーラント配合物におけるバインダーとしての使用には適していない。
【0006】
Lamarzelleらの、「非イソシアネートポリウレタン合成のための活性化脂質環状カーボネート(Activated lipidic cyclic carbonates for non-isocyanate polyurethane synthesis)」、Polymer Chemistry、2016年、第7号、1439-1451頁には、β位に、エステル又はエーテル部分を含有する電子求引性基を導入し、アミンに対する反応性を高めることにより環状カーボネート環を活性化する方法が記載されている。この引用自体は、その商業的用途に限定されている:二官能性エステル-環状カーボネート材料を調製するために採用される合成手順及び触媒は、高コストのために工業的に実現可能ではなく、この合成は室温において結晶性材料をもたらす。それはともかく、本発明者らは、エステル基が5員環環状カーボネート基のβ位に位置する高分子量の環状カーボネート官能性ポリエステルを開発する見込みがあることを認識している。
【0007】
国際公開第2016/124518号(エボニック デグサ社(Evonik Degussa GMBH))は、環状カーボネート含有ポリマー、特に環状カーボネート含有ポリエステルを調製する方法を記載している。後者の実施形態では、ポリエステルは2工程の方法にて得られる。最初に、末端がカルボキシルのポリエステルを合成する。第2工程では、その末端がカルボキシルのポリエステルを、炭酸グリセリンを用いてエステル化する。この第2工程は、最終生成物からの除去を必要とし、最終生成物を薄黒くする可能性がある、ルイス酸又はメタンスルホン酸のような強酸の存在下で典型的に行われる。そのうえ、第2工程の例示された実施形態では、炭酸グリセリンが安定でない180℃以上の反応温度を採用している。
【0008】
国際公開第2012/007254号(総合石油化学研究所、フェルイ(Total Petrochemical Res. Feluy)ら)は、以下の:
a)第1の触媒系の存在下、共開始剤及び連鎖移動剤の両方として作用する1種以上のジオール又はポリオールの存在下、要すれば、官能基をもつ、第1の5員、6員又は7員環環状カーボネート又は環状エステル又はジエステルの開環重合工程;
b)第2の触媒系の存在下、ヒドロキシル鎖末端基のカルボキシル基への化学修飾工程;
c)第3の触媒系の存在下、カルボキシル部分とカップリングを可能にする少なくとも1種の官能基を有する、少なくとも2当量の、第2の5、6又は7員環環状カーボネートとのカップリング反応工程;
d)工程c)の第2の末端の5、6、又は7員環環状カーボネートの開環によるジアミン又はポリアミンの重付加工程;及び
e)ポリ(カーボネート-ウレタン)又はポリ(エステル-ウレタン)の回収工程
を含む、ポリ(カーボネート-ウレタン)又はポリ(エステル-ウレタン)を調製するための方法を記載している。
【0009】
欧州特許第2582687号明細書(コンストラクション リサーチ アンド テクノロジー社(Construction Research&Technology GMBH))は、環状カーボネート官能性ポリエステルを調製するための2工程の方法を記載している。第1工程は、以下の、例示的な反応スキームによる5員環環状カーボネートの形成を提供する。
【0010】
【化1】
【0011】
第2工程では、誘導された環状カーボネートは、ポリオールでエステル交換されるが、エキゾチック(exotic)触媒、より詳細には酵素触媒又は酸性陽イオン交換体のどちらか一方の存在が必要とされる。この引用による代表的な第2工程を以下に示す。
【0012】
【化2】
【0013】
国際公開第2017/156132号(3D システム)には、3D印刷用インクに使用するのに適する環状カーボネート単量体を形成するための反応経路が開示されている。具体的には、短いCC末端キャッパーは、鎖の他方の端部にアクリレート官能基を有するイソシアネート部分との反応を経る:合成は、無溶媒条件下、スズ系触媒を用いて行われる。エステル官能基は、アクリレート部分から、又は上記末端キャッパーと塩化アシルとの反応から提供される。しかしながら、イソシアネート、毒性塩化アシル及びスズ触媒が反応経路に使用され、従って、健康及と安全の観点から障害がある。
【0014】
最近、欧州特許出願公開3401350号明細書(ヘンケル)は、β位にエステル基を有する環状カーボネート官能化ポリエステルの合成方法を開示している。第1工程は、炭酸グリセリンと環状無水物との反応から生じる環状カーボネート-カルボン酸付加物の調製であり、その後この付加物とエポキシ官能性ポリエステルとの反応が続く。しかしながら、この合成手順は、エポキシドとカルボン酸との完全な反応のために、塩基性触媒(NaCO)存在下、高温(150~155℃)を用いる必要がある。この事実は、複雑な構造を有する特定の生成物を合成する際に、反応混合物の単独重合の問題をしばしば導く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2016/124518号
【特許文献2】国際公開第2012/007254号
【特許文献3】欧州特許第2582687号明細書
【特許文献4】国際公開第2017/156132号
【特許文献5】欧州特許出願公開3401350号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】、Journal of Polymer Science、2001年、第39巻、第1号、p.162-168
【非特許文献2】Polymer Chemistry、2016年、第7号、p.1439-1451
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記の引用を考慮すると、当技術分野では、高い官能基性及び高い環状カーボネート含有量を有するβ位に配置されたエステル基を有する5員環環状カーボネート官能化オリゴマー又はポリマーの温和な反応条件下での合成のための、単純で、費用対効果が高く、工業的に実現可能な方法を提供する必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様では、環状カーボネート官能性ポリエステルを調製する方法が提供され、前記方法は、
(1)炭酸グリセリンと無水物とを反応させて、式(I)の一般構造を有する付加物(A)を形成すること、
【0019】
【化3】
【0020】
式中、nは1、2又は3である;
【0021】
(2)前記付加物(A)と少なくとも1種のポリエポキシド化合物とを反応させて、式(II)の一般構造を有する付加物(B)を形成すること、
【0022】
【化4】
【0023】
式中、Rは2価のフェノール又は2価のアルコールの残基を表し、nは1、2又は3を表す;及び
【0024】
(3)前記付加物(B)と少なくとも1種のポリカルボン酸とを反応させて、前記環状カーボネート官能性ポリエステルを形成すること;
を含む。
【0025】
反応性無水物は、通常、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼアル酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、グルタル酸、アルキルグルタル酸、アルケニルグルタル酸及びこれらの混合物からなる群から選択される酸の無水物である。好ましくは、反応性無水物は、無水マレイン酸、無水アジピン酸、無水コハク酸、アルキル無水コハク酸、アルケニル無水コハク酸、無水グルタル酸、アルキル無水グルタル酸、アルケニル無水グルタル酸及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0026】
炭酸グリセリンと前記無水物との反応(本明細書の以下の特定の実施形態では段階Aと呼ぶ)は、典型的には、以下の制限:
i)2:1から0.8:1の範囲、好ましくは1.2:1から0.8:1の範囲、より好ましくは1.1:1から0.9:1の範囲の、無水物:炭酸グリセリンのモル比;
ii)60℃~120℃、好ましくは80℃~110℃の範囲の温度;及び、
iii)窒素雰囲気;
のうちの少なくとも1つの下で行われる。
完全を期すために、これらの方法の制限は相互に排他的ではなく、1つ、2つ又は3つの制限が影響を受ける可能性があることに留意されたい。
【0027】
付加物(A)と少なくとも1種のポリエポキシド化合物との反応を行い、付加物(B)を形成する場合、少なくとも1:1.5のエポキシ基に対するカルボキシル基の当量比、例えば1:(1.5~3)又は1:(1.8~2.2)の当量比で反応させてもよい。
【0028】
付加物(B)と少なくとも1種のポリカルボン酸との反応を行い、前記環状カーボネート官能性ポリエステルを形成する場合、前記ポリカルボン酸は、触媒量のエステル化触媒の存在下、化学量論的に過剰なジカルボン酸と少なくとも1種のジオールとの反応により提供されるカルボキシル官能性ポリエステル(カルボキシ-PES)である。
【0029】
本発明の意義深い実施形態では、環状カーボネート官能性ポリエステルを調製する方法が提供され、前記方法は、
(A)炭酸グリセリンと無水物とを反応させて、式(I)の一般構造を有する付加物(A)を形成する段階、
【0030】
【化5】
【0031】
式中、nは1、2又は3である;
【0032】
(B)前記付加物(A)と少なくとも1種のポリエポキシド化合物とを反応させて、式(II)の一般構造を有する付加物(B)を形成する段階、
【0033】
【化6】
【0034】
式中、Rは2価のフェノール又は2価のアルコールの残基を表し、nは1、2又は3である;
【0035】
(C)ポリカルボン酸を提供する段階;及び
(D)前記付加物(B)とポリカルボン酸とを反応させて、前記環状カーボネート官能性ポリエステルを形成する段階;
を含む。
【0036】
上記の定義された方法の段階Bでは、ポリエポキシド化合物、好ましくはジグリシジルエーテルが、100~700g/当量、好ましくは120~320g/当量のエポキシ当量を有することが好ましい。しかしながら、これとは無関係に、段階Bでは、ポリエポキシド化合物、好ましくはジグリシジルエーテル化合物のポリカルボン酸(適用可能な場合、カルボキシル官能性ポリエステル)に対するモル比は、1.5:1から3:1、好ましくは1.8:1から2.2:1であることが好ましい。
【0037】
好ましくは、段階Cにおいて提供されるポリカルボン酸は、ジカルボン酸又はトリカルボン酸である。相互に排他的ではない代替的な好ましい表現として、提供されるポリカルボン酸は、一般に、50~1000mgKOH/gの酸価(Av)によって特徴づけられるべきであり、好ましくは80~950mgKOH/gの酸価(Av)によって特徴づけられる。
【0038】
重要な実施形態では、ポリカルボン酸はカルボキシル官能性ポリエステル(カルボキシ-PES)である。適切な例は、式(III)及び(IV)で表される化合物である。
【0039】
【化7】
【0040】
式中、Rはトリヒドロキシアルコールの残基を表す。
【0041】
【化8】
【0042】
式中、Rはジヒドロキシアルコールの残基を表す。
【0043】
段階Cにおいてこのようなカルボキシル官能性ポリエステルを製造又は提供する手段は、特に限定されない。しかしながら、提供されたカルボキシル官能性ポリエステル(カルボキシ-PES)は、50~500mgKOH/g、好ましくは80~430mgKOH/gの酸価(Av)により特徴付けられることが望ましい。
【0044】
例示的な方法において、段階Cのカルボキシル官能性ポリエステル(カルボキシル-PES)は、
i)2種以上のヒドロキシル基を有するポリエステルを提供する工程;及び、
ii)前記ヒドロキシル官能性ポリエステルとカルボン酸又はその無水物とを反応させる工程;
によって提供される。このようにして提供されるヒドロキシル官能性ポリエステルは、50~300mgKOH/g、好ましくは80~150mgKOH/gの水酸基価を有することにより特徴づけられることが好ましい。
【0045】
別の方法では、段階Cのカルボキシル官能性ポリエステル(カルボキシ-PES)は、触媒量のエステル化触媒の存在下において、化学量論的に過剰なジカルボン酸と少なくとも1種のジオールとの反応によって提供される。
【0046】
上記のエポキシ基に対するカルボキシル基の当量比は、段階Dにおいて、付加物(B)とカルボキシ官能性ポリエステルとの反応に相変わらず適用できる。実例として、段階Dの反応において、付加物(B)は、エポキシドに対するカルボン酸が0.5:1から2:1、好ましくは0.8:1から1.2:1の当量比であるカルボキシ官能性ポリエステルと反応する。
【0047】
本発明による効果的な方法は、段階B及びDの両方の性能:
i)40℃~100℃、好ましくは60℃~85℃の温度範囲において;及び/又は
ii)触媒量の相間移動触媒の存在下;
を含有することに留意されたい。
このような温度範囲は、段階Dの反応において、付加物の5員環環状カーボネート環の開環を防止し、複雑な構造を有する特定の生成物を合成する際に、反応混合物の単独重合の問題を回避することができる、温和な条件に等しい。単独重合の問題は、特に3種以上の官能性を有する生成物を標的とする場合、又は低分子量及び高い環状カーボネート当量(CCEW)又はカーボネート含有量を有する環状カーボネート官能性ポリエステルの場合に生じ得る。
【0048】
さらに、本発明の方法は、中間生成物を分離することなく、段階AからDを1つの容器内で連続的に行う場合に効果的に行われることに留意されたい。この「ワンポット」解決法は、本発明を極めて簡単に行えるようにする。
【0049】
本発明の方法は、5員環環状カーボネート基で官能化されたオリゴマー及びポリマー化合物を提供する;ポリエステル基は、環状カーボネートに対してβ位に配置されているので、5員環環状カーボネート環の反応性を高めるのに役立つ電子求引性基として作用する。さらに、本方法は、広範囲の分子量を有する官能化された化合物の合成を提供する:特定の実施形態において、提供されたカルボキシ官能性ポリエステル(カルボキシ-PES)の分子量及び構造は、環状カーボネート官能性ポリエステルの分子量及び構造を実質的に決定する。さらに、本方法は、5員環環状カーボネート環が高い官能性を有する官能化された化合物の合成を提供する:特定の実施形態において、提供されたカルボキシル官能性ポリエステル(カルボキシ-PES)の5員環環状カーボネート環の官能性は、少なくとも2種又は少なくとも3種である。
【0050】
本発明の第2の態様によれば、上記明細書及び添付した特許請求の範囲に記載の方法により得られる環状カーボネート官能性ポリエステルが提供される。好ましくは、前記環状カーボネート官能性ポリエステルは、300~2500g/当量、好ましくは400~1500g/当量の環状カーボネート当量、500~5000g/モル、好ましくは800~3000g/モルの数平均分子量(Mn)、及び、50~300mgKOH/g、好ましくは100~200mgKOH/gのOH価の少なくとも1つにより特徴付けられる。
【0051】
本発明の第3の態様によれば、上記環状カーボネート官能性ポリエステル、及び、1級アミノ基、2級アミノ基、ヒドロキシ基、ホスフィン基、ホスホネート基及びメルカプタン基からなる群より選択される少なくとも2種の官能基(F)を有する少なくとも1種の多官能性化合物(H)を含む硬化性コーティング、接着剤又はシーラント組成物が提供される。
【0052】
<定義>
本明細書では、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈上明らかに他の意味を持たない限り、複数の指示対象を含有する。
【0053】
本明細書で使用される「含んでいる(comprising)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprised of)」という用語は、「含有している(including)」、「含有する(includes)」、「含んでいる(containing)」、又は「含む(contains)」と同義であり、包括的又はオープンエンド(open-ended)であり、追加の、記載されていない要素、構成部分、又は方法の工程を除外しない。
【0054】
量、濃度、寸法及び他のパラメータを範囲、好ましい範囲、上限値、下限値又は好ましい上限値の形式で表現する場合には、得られた範囲が文脈上明確に記載されているか否かに関わらず、いずれかの上限値又は好ましい値といずれかの下限値又は好ましい値とを組み合わせて得られるいずれかの範囲も具体的に開示されていると理解すべきである。
【0055】
「好ましい(preferred)」、「好ましくは(preferably)」、「望ましくは(desirably)」、「特に(in particular)」及び「特に(particularly)」という用語は、本明細書において、特定の状況下で特に利益を与え得る開示の実施形態を指すために頻繁に使用される。しかしながら、1つ以上の好ましい又は好ましい実施形態の説明は、他の実施形態が有用でないことを意味するものではなく、開示の範囲からこれらの他の実施形態を除外することを意図するものでもない。
【0056】
本文中に与えられる分子量は、別段の規定がある場合を除き、数平均分子量(Mn)を指す。分子量のすべてのデータは、別段の規定がある場合を除き、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により得られた値を指す。
【0057】
「酸価(acid value)」又は「酸価(acid number)」は、化合物中に存在する遊離酸の量の尺度である:酸価とは、物質1g中に存在する遊離酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数(mg KOH/g)である。明細書で与えられるいずれかの測定した酸価はドイツ規格DIN 53402に従って決定されている。
【0058】
本明細書で与えられるOH価は、「油脂、油脂製品、界面活性剤及び関連物質の調査に関するドイツ(DGF)の標準方法(Deutsche (DGF) Einheitsmethoden zur Untersuchung von Fetten, Fettprodukten, Tensiden und verwandten Stoffen)」(目次(Gesamtinhaltsverzeichnis)2016年)C-V 17b (53)に従って得られた。
【0059】
本明細書では、室温は23℃±2℃である。
【0060】
本明細書では、「当量(eq.」)という用語は、通常の化学表記法と同様に、反応中に存在する反応基の相対数に関する;「ミリ当量(meq)」という用語は、化学当量の1000分の1(10-3)である。
【0061】
本明細書で使用される「当量(equivalent weight)」という用語は、関係している官能基の数で割った分子量を指す。このように「エポキシ当量」(EEW)は、1当量のエポキシを含む、樹脂のグラム単位での重量を意味する。
【0062】
本明細書では、「脂肪族基」は、飽和又は不飽和の直線状(すなわち、直鎖状)、分枝状、環状(二環式を含む)の有機基を意味する:「脂肪族基」という用語は、したがって、「脂環式基」を包含し、後者は脂肪族基のものと類似の性能を有する環状炭化水素基である。「芳香族基」という用語は、単環又は多環式芳香族炭化水素基を意味する。
【0063】
本明細書では、「アルキル基」は、アルカンの基であり、直鎖及び分岐有機基を含有し、その基は置換されていても置換されていなくてもよい、1価の基を指す。「アルキレン基」という用語は、アルカンの基であり、直線状及び分岐状の有機基を含有し、その基は置換されていても置換されていてもよい、2価の基を指す。
【0064】
具体的には、本明細書では、「C~Cアルキル」基は、1~6の炭素原子を含むアルキル基を指し、アルキル基の例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル及びn-ヘキシルを含有するが、これらに限定されない。本発明において、このようなアルキル基は、非置換であってもよく、ハロ、ニトロ、シアノ、アミド、アミノ、スルホニル、スルフィニル、スルファニル、スルホキシ、尿素、チオ尿素、スルファモイル、スルファミド及びヒドロキシのような1つ以上の置換基で置換されていてもよい。上記の例示的な炭化水素基のハロゲン化誘導体は、特に、適切な置換アルキル基の例として記載してもよい。しかしながら、一般的には、1~6の炭素原子(C~Cアルキル)を含む未置換アルキル基-例えば、1~4の炭素原子(C~Cアルキル)又は1又は2の炭素原子(C~Cアルキル)を含む未置換アルキル基-が好ましいことに留意すべきである。
【0065】
本明細書では、「C-C20アルケニル」基は、4~20の炭素原子及び少なくとも1つの二重結合を含む、脂肪族炭素基を指す。前述のアルキル基と同様に、アルケニル基は直鎖又は分岐であってもよく、要すれば置換されていてもよい。「アルケニル」という用語はまた、当業者に認識されるように、「シス」及び「トランス」配置、あるいは「E」及び「Z」配置を有する基を包含する。しかしながら、一般に、4~18(C4~18)又は4~12(C2~12)の炭素原子を含む非置換アルケニル基が好ましいことに留意すべきである。そして、C~C20アルケニル基の例は、2-ブテニル、4-メチルブテニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、4-メチル-3-ペンテニル、1-ヘキセニル、3-ヘキセニル、5-ヘキセニル、1-ヘプテニル、1-オクテニル及びn-ドデセニルを含有するが、これらに限定されない。
【0066】
本明細書では、「ポリカルボン酸」は、2つ以上のカルボン酸官能基を有するいずれかの有機構造を含有する。具体的には、この用語は、少なくとも2種のカルボキシル官能基を有するポリマーを包含し、したがって具体的には、カルボキシル官能性ポリエステル樹脂、カルボキシル官能性ポリアクリレート樹脂、カルボキシル官能性ポリメタクリレート樹脂、カルボキシル官能性ポリアミド樹脂、カルボキシル官能性ポリイミド樹脂及びカルボキシル官能性ポリオレフィン樹脂を包含する。
【0067】
本明細書では、「ポリオール」は、2つ以上のヒドロキシル基を含むいずれかの化合物を示す。したがって、この用語は、ジオール、トリオール及び4つ以上の-OH基を含有する化合物を包含する。
【0068】
「エポキシド化合物」という用語は、モノエポキシド化合物、ポリエポキシド化合物及びエポキシド官能性プレポリマーを意味する。「ポリエポキシド化合物」という用語は、したがって、少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシド化合物を意味することを意図する。そのうえ、「ジエポキシド化合物」という用語は、したがって、2つのエポキシ基を有するエポキシド化合物を意味することを意図する。
【0069】
本明細書では、「触媒量」という用語は、反応物に対する触媒の化学量論以下の量を意味する。
【0070】
「実質的に~ない(essentially free)」という用語は、本明細書で、適用可能な基、化合物、混合物又は成分が、定義された構成の重量に基づいて、0.1重量%未満を構成することを意味することを意図する。
【発明を実施するための形態】
【0071】
最も広い表現において、本発明は、環状カーボネート官能性ポリエステルを調製するための方法を提供し、前記方法は、
(1)炭酸グリセリンと無水物とを反応させて、式(I)の一般構造を有する付加物(A)を形成すること、
【0072】
【化9】
【0073】
式中、nは1、2又は3である;
【0074】
(2)前記付加物(A)と少なくとも1種のポリエポキシド化合物とを反応させて、式(II)の一般構造を有する付加物(B)を形成すること、
【0075】
【化10】
【0076】
式中、Rは2価のフェノール又は2価のアルコールの残基を表し、nは1、2又は3である;及び
【0077】
(3)前記付加物(B)と少なくとも1種のポリカルボン酸とを反応させて、前記環状カーボネート官能性ポリエステルを形成すること;
を含む。
【0078】
<付加物(A)の調製>
上記で定義された方法の第1段階(本明細書では以下、段階Aと呼ぶことがある)において、前記炭酸グリセリンを多官能性無水物と反応させる。このエステル化反応は、上記の式(1)で表される付加体(A)をもたらし、その付加物は、明細書の以下に例示するように、カルボン酸基とベータ(β-)位に配置されたエステル基を有する。
【0079】
炭酸グリセリン反応物は、あるいは、4-ヒドロキシメチル-1,3-ジオキソラン-2-オンとして同定され得る。この化合物は、ハンツマン(Huntsman)社により製造され、ジェフソル(Jeffsol)TMとして市販されている。あるいは、化合物は、グリセリンと、ホスゲンのようなカーボネート源、ジアルキルカーボネート又はアルキレンカーボネートとの反応;グリセリンと、尿素、二酸化炭素及び酸素との反応;又は、二酸化炭素と、グリシドールとの反応を含有する、当該分野において既知の方法によって合成することができる。以下の文書:米国特許第2,915,529号;米国特許第6,025,504号;欧州特許第1,156,042号;及び、米国特許第5,359,094号は、そのような合成方法について参考になる。
【0080】
前記反応性多官能無水物を限定する特別な意図はないが、最も適しているのは、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼアル酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、グルタル酸、アルキルグルタル酸、アルケニルグルタル酸、及びこれらの混合物からなる群から選択される酸の無水物である。
【0081】
多官能性無水物は、無水マレイン酸、無水アジピン酸、無水コハク酸、アルキル無水コハク酸、アルケニル無水コハク酸、無水グルタル酸、アルキル無水グルタル酸、アルケニル無水グルタル酸、及びこれらの混合物からなる群から選択される無水物であることが好ましい。より好ましくは、多官能性無水物は、無水マレイン酸、無水アジピン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸及びこれらの混合物からなる群から選択される無水物である。
【0082】
完全を期すために、最も適するアルキル無水コハク酸は、以下の一般式Aによって定義されたものである:
【0083】
【化11】
【0084】
式中:R、R、R及びRは、水素及びC~Cアルキル基から独立して選択される。
【0085】
最も適するアルケニル無水コハク酸は、一般式Bによって定義されたものである:
【0086】
【化12】
【0087】
式中:R、R及びRは、水素及びC~Cアルキル基から独立して選択され;及び、RはC~C20アルケニル基である。
【0088】
当然のことながら、最も適するアルキル無水グルタル酸は、以下の一般式Cによって定義されたものである:
【0089】
【化13】
【0090】
式中:R、R、R、R、R及びRは、水素及びC~Cアルキル基から独立して選択される。
【0091】
最も適するアルケニル無水グルタル酸は、一般式Dによって定義された3-グルタル酸が誘導されたものである:
【0092】
【化14】
【0093】
式中:R、R、R、R11及びR12は、水素及びC~Cアルキル基から独立して選択され;及び、R10はC~C20アルケニル基である。
【0094】
多官能性無水物に対する炭酸グリセリンの相対量はかなり広い範囲にわたって変化し得るが、この反応物は高価であり得、回収及び再使用が困難であり得るので、著しく過剰な無水物は望ましくない。好ましくは、無水物:炭酸グリセリンのモル比は2:1から0.8:1であり、より好ましくは、上記モル比は1.2:1から0.8:1の範囲内であり、最も好ましくは、上記比は1.1:1から0.9:1の範囲内である。
【0095】
本発明の第1段階は、反応物、生成物及び採用されたいずれかの溶媒を含むように設計された、米国特許第4,310,708号(ストレイジ(Strege)ら)に記載された容器を含有する、いずれかの既知の適切な容器中で行ってもよい。容器の材料は、もちろん、方法の段階の間に採用される条件下で不活性であるべきである。
【0096】
これらの条件を考慮すると、この方法の段階は、いずれかの適切な温度において行ってもよい。反応のための最適の操作温度は、実験を通して当業者によって決定され得るが、60℃~120℃の適切な温度範囲、80℃~110℃の好ましい温度範囲を記載してもよい。
【0097】
方法の圧力は重要ではない。このようにして、反応は、大気圧以下の、大気圧の、又は大気圧を超える圧力において運転することができるが、大気圧の又はそれ以上の圧力が好ましい。
【0098】
第1段階の反応を無水条件下で行ったところ、良好な結果が得られた。所望であれば、反応容器に、不活性な、乾燥したブランケットガスを提供することによって、大気中の水分への暴露を回避してもよい。乾燥窒素、ヘリウム及びアルゴンはブランケットガスとして使用されてもよいが、一般的な窒素ガスをブランケットとして使用する場合には、そのような窒素は、水分の吸収に対する影響されやすさのために、十分に乾燥されていないかもしれないため、注意が必要である;窒素は、本明細書中では使用する前に追加の乾燥工程を必要とし得る。
【0099】
第1の反応段階は、無溶媒条件下でも行うことができ、これは実際に望ましい。採用する場合、適する溶媒は不活性であるべきであり、それらは出発化合物と反応する官能基を含むべきではない。したがって、芳香族炭化水素、実例としてトルエン又はベンゼン;ヘプタン、ヘキサン又はオクタンのような、5~12炭素原子を有する脂肪族炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン及びテトラヒドロフランのようなエーテル;酢酸エチル、酢酸アミル及びギ酸メチルなどのエステルを記載してもよい。これらの溶媒のうち、芳香族溶媒は、それらの潜在的な毒性会合のために最も好ましくない。
【0100】
この反応工程において触媒を採用する必要はなく、実際に触媒を含まない条件が望ましい。しかしながら、100℃より高くない温度において反応を行う場合には、触媒の使用を妨げない。使用する場合、触媒の量は、反応する化合物の総量に基づいて、0.05~5重量%又は0.05~3重量%が好ましい。
【0101】
反応性無水物の適切な転化率を得るための反応時間は、温度及び多官能性無水物の種類のような種々の因子に依存する。反応は、反応混合物の酸価(Av)を経時的に分析することによって監視することができ、その決定された酸価が理論酸価に近い値において一定である場合に反応は停止した。一般に、反応が起こるのに十分な時間は、2~20時間、例えば、4~8時間又は4~7時間である。
【0102】
無水物の反応の好ましい実施形態を考慮すると、請求項に係る方法の第1工程の例示的な反応スキームは、以下の通りであり、式中、nは1、2又は3である:
【0103】
【化15】
【0104】
本発明の第1の工程に従って製造された付加物(A)は、そのまま使用してもよく、又は当技術分野において既知の方法を用いて分離及び精製してもよい:この点に関しては、抽出、蒸発、蒸留及びクロマトグラフィーを記載してもよい。
【0105】
<付加物(B)の調製>
誘導された付加物(A)を少なくとも1種のポリエポキシド化合物と反応させて、式(II)の一般構造を有する付加物(B)を形成する。
【0106】
【化16】
【0107】
式中、Rは2価のフェノール又は2価のアルコールの残基を表し、nは1、2又は3である。好ましくは、Rは1~12の炭素原子を有するアルキレン基、3~12の炭素原子を有するシクロアルキレン基、2~20の炭素原子を有するエーテル基又は6~12の炭素原子を有する2価の芳香族基を表す。
【0108】
ポリエポキシド化合物の選択に関係なく、この反応は、前記付加物(A)と少なくとも1種のポリエポキシド化合物とのモル比が1:1.5から1:3、好ましくは1:1.8から1:2.2であることを特徴とすべきである。
【0109】
適切なポリエポキシド化合物は、液体、固体、又は溶媒中の溶液であってもよい。さらに、このようなポリエポキシド化合物は、100~700g/当量、例えば145~155g/当量のエポキシ当量を有するべきである。そして一般に、500未満又は400未満のエポキシ当量を有するジエポキシド化合物が好ましい:これは主にコストの観点からであり、製造において、低分子量エポキシ樹脂はより特別な精製処理を必要とする。
【0110】
適切なジグリシジルエーテル化合物は、本質的に芳香族、脂肪族又は脂環式脂肪族であってもよく、このようにして、2価のフェノール及び2価のアルコールから誘導可能である。このようなジグリシジルエーテルの有用な種類は、1,2-エタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,12-ドデカンジオール、シクロペンタンジオール及びシクロヘキサンジオールのような脂肪族及び脂環式ジオールのジグリシジルエーテル、ビスフェノールAに基づいたジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、o-フタル酸ジグリシジル、イソフタル酸ジグリシジル及びテレフタル酸ジグリシジル、ポリアルキレングリコールに基づいたジグリシジルエーテル、特にポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリカーボネートジオールに基づいたグリシジルエーテルである。記載され得る他の適切なジエポキシドは、ジ不飽和脂肪酸C~C18アルキルエステルのジエポキシド、ブタジエンジエポキシド、ポリブタジエンジグリシジルエーテル、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、及びリモネンジエポキシドを含有する。
【0111】
例示的なポリエポキシド化合物は、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、及びソルビトールポリグリシジルエーテルを含有するが、これらに限定されない。
【0112】
本発明を限定する意図はないが、非常に好ましいポリエポキシド化合物の例は、アラルダイト(Araldyte)DY-H(グリロニット(Grilonit)RV1812とも呼ばれる)及びアラルダイトDY-D(グリロニットRV 1806とも呼ばれる)のようなアルキルエポキシ樹脂;DERTM331、DERTM332及びDERTM383のようなビスフェノールAエポキシ樹脂;DERTM354のようなビスフェノール-Fエポキシ樹脂;DERTM353のようなビスフェノールA/Fエポキシ樹脂ブレンド;DERTM736のような脂肪族グリシジルエーテル;DERTM732のようなポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル;DERTM661及びDERTM664UEのような固体ビスフェノールAエポキシ樹脂;DERTM671-X75のようなビスフェノールA固体エポキシ樹脂の溶液;DENTM438のようなエポキシノボラック樹脂及びDERTM542のような臭素化エポキシ樹脂を含有する。
【0113】
エポキシ基とカルボキシル基との反応は触媒なしで進行し得るにもかかわらず、ここでは、満足できる反応速度及び所望の付加物の両方を達成するために、相間移動触媒が必要である。適する相間移動触媒の例は、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(TEBAC)、メチルトリカプリルアンモニウムクロライド、メチルトリブチルアンモニウムクロライド、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド及びテトラ-n-オクチルアンモニウムブロミドなどのアンモニウム塩;及びヘキサデシルトリブチルホスホニウムブロミド、テトラメチルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロライド及びトリヘキシルテトラデシルホスホニウムブロミドなどの相間移動触媒としてのホスホニウム塩を含有するが、これらに限定されない。当業者はこのような化合物の適切かつ最適な触媒量を決定することができるが、触媒の典型的な量は、反応する化合物の総量に基づいて、0.05~5重量%、又は0.05~3重量%であることが提示される。
【0114】
方法のこの段階のための最適な操作温度は、実験を通して当業者によって決定されてもよいが、40℃~100℃の適切な温度範囲、60℃~85℃又はさらに75℃の好ましい温度範囲を記載してもよい。反応温度が100℃より高い場合、所望の付加物(B)は、重合のために、十分な収率又は良好な状態で得られない可能性がある。方法の圧力は重要ではない:このようにして、反応は、大気圧以下の、大気圧の、又は大気圧を超える圧力で運転することができるが、大気圧の又はそれ以上の圧力が好ましい。
【0115】
この段階が無水条件下で行われる場合、良好な結果が得られ、ここで、反応容器は、例えば、乾燥窒素、ヘリウム又はアルゴンの不活性な、乾燥ブランケットガスが与えられる。また、この反応段階は、望ましくは、無溶媒条件下で行われるべきであることに留意されたい。採用する場合、適切な溶媒は不活性であるべきである:それらは出発化合物と反応する反応基を含むべきではない。
【0116】
反応の進行は、反応混合物の酸価(Av)を経時的に分析することによって監視することができる:酸価が所望の水準(5mgKOH/gPES未満)に達し、NMRによって検出される残りのエポキシドが存在しない場合、反応を停止してもよい。一般に、反応がこの点に到達するのに十分な時間は、0.5~20時間、例えば、1~8時間又は2~6時間である。
【0117】
本発明の第2の工程に従って製造された付加物(B)は、そのまま使用してもよく、又は当技術分野で既知の方法を用いて分離及び精製してもよい:この点に関しては、抽出、蒸発、蒸留及びクロマトグラフィーを再び記載してもよい。
【0118】
<環状カーボネート官能性ポリエステルの調製>
さらなる工程において、付加物(B)を少なくとも1種のポリカルボン酸と反応させて環状カーボネート官能性ポリエステルを形成する。
【0119】
一般に、カルボン酸基が、飽和又は不飽和、脂肪族、芳香族又は脂環式であってもよい、又は2つ以上の脂肪族、芳香族又は脂環式部分を有していてもよい、2価の炭化水素基により分離されている、いずれかのポリカルボン酸を使用することができる。ジカルボン酸及びトリカルボン酸が好ましいことが記載され、前者が特に好ましい。そのうえ、好ましいポリカルボン酸は、一般に、50~1000mgKOH/g、例えば80~950mgKOH/gの酸価(Av)により特徴付けられるべきである。
【0120】
代表的な、適するジカルボン酸は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,3-及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、p-フェニレン二酢酸、セバシン酸(SeA)、ブラシル酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、β-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、グルタル酸、アゼライン酸、マロン酸、スベリン酸、ピメリン酸、ドデカン二酸、脂肪酸二量体、及びこれらの混合物を含有する。
【0121】
代表的な、適するトリカルボン酸は、クエン酸、アコニット酸、1,3,5-ペンタントリカルボン酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸及び1,3,5-ベンゼントリカルボン酸を含有する。
【0122】
本発明の特に好ましい実施形態では、段階Cのポリカルボン酸はカルボキシル官能性ポリエステル(カルボキシ-PES)であり、このポリマーは50~500mgKOH/g、好ましくは80~430mgKOH/gの酸価(Av)によって特徴付けられることが好ましい。
【0123】
本実施形態のカルボキシル官能性ポリエステル(カルボキシ-PES)は、
(i)少なくとも1種の芳香族、脂肪族又は脂環式ジカルボン酸又はそれらの無水物;
(ii)少なくとも1種のジオール化合物、より詳細には、各々独立して1級又は2級のヒドロキシル基であり得る2種の脂肪族ヒドロキシル基を有する化合物;
の反応により得ることができる。
【0124】
適するジカルボン酸は、飽和、不飽和、脂肪族、脂環式又は芳香族ジカルボン酸及び/又は無水物を含有する。代表的なジカルボン酸は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,3-及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、p-フェニレン二酢酸、セバシン酸、ブラシル酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、β-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、グルタル酸、アゼライン酸、マロン酸、スベリン酸、ドデカン二酸及びこれらの混合物である。好ましくは、ジカルボン酸又はジカルボン酸の無水物は、4~12の炭素原子を有する。
【0125】
2種の脂肪族ヒドロキシル基を有する適切なジオールは、62~5000の分子量を有してもよく、要すればエーテル基、エステル基及び/又はカーボネート基を含有してもよい。代表的な脂肪族ジオールは、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,3-及び1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルジオール、二量体の脂肪族アルコール及びこれらの混合物である。
【0126】
カルボキシル官能性ポリエステル(カルボキシ-PES)の誘導におけるさらなる反応物の使用は排除されず、この点に関しては、以下:
iii)各ヒドロキシル基が独立して1級又は2級ヒドロキシルであり得るジヒドロキシモノカルボン酸;
iv)トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール又はペンタエリスリトールのような、各々独立に1級又は2級ヒドロキシ基であり得るそれぞれ3つ、4つの脂肪族ヒドロキシル基を含む、三官能性及び/又は四官能性ヒドロキシル化合物;
を記載してもよい。
【0127】
当業者には、前記反応物からカルボキシル官能性ポリエステル(カルボキシ-PES)を合成するための複数の代替の方法が存在することが明らかであり、このようにして、本発明をこれらの方法の1つに限定する意図はない。しかしながら、特定の好ましい合成方法を以下に論じる。
【0128】
第1の方法では、ヒドロキシル官能性ポリエステルをカルボン酸又はそれらの無水物と反応させてカルボキシル官能性ポリエステルを形成させてもよい。この第1の方法は、第1段階において、水分を除去のための条件下で、ジカルボン酸とジオールとを反応させてヒドロキシル官能性プレポリマーを形成する;第2段階において、プレポリマーをカルボン酸又はそれらの無水物と反応させる、2段階の方法によって構成され得る。水を除去のための条件は、典型的には、120℃~250℃の温度;真空の適用;及び共沸蒸留を促進するための溶剤の使用、の1つ以上によって構成される。
【0129】
酸又は無水物試薬の使用量は、2段階の方法の場合、ポリエステル又は中間プレポリマーの水酸基価によって決定され、水酸基価は、望ましくは50~300mgKOH/g、好ましくは80~150mgKOH/gである。一般に、ポリエステルのヒドロキシル官能基のすべてをキャップするのに必要な化学量論量の80~100%が、一般に添加される。この試薬をヒドロキシル官能性ポリエステル又はプレポリマーに添加し、エステル化を所望の酸価(Av)が得られるまで続ける。通常、総反応時間は5~15時間である。
【0130】
エステル化反応を促進するための従来の触媒を、(エンドキャッピング)反応において、また、適用可能な場合には、第1及び第2段階の一方又は両方において採用することができる。反応物の総重量に基づいて、0.01~1重量%、例えば0.01~0.5重量%の量で使用してもよい触媒は、典型的には、スズ、アンチモン、チタン又はジルコニウムの化合物である。この点に関しては、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート(TIPT)、テトラn-プロピルチタネート、テトラn-ブチルチタネート、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート、イソプロピルブチルチタネート、テトラステアリルチタネート、ジイソプロポキシ-ビス(アセチルアセトナト)チタン、ジ-n-ブトキシビス(トリエタノールアミノアト)チタン、トリブチルモノアセチルチタネート、トリイソプロピルモノアセチルチタネート及びテトラ安息香酸チタネートのようなチタンアルコキシド及びその誘導体;シュウ酸及びマロン酸のアルカリチタン、ヘキサフルオロチタン酸カリウムのようなチタン錯体塩;及び、酒石酸、クエン酸又は乳酸のようなヒドロキシカルボン酸とのチタン錯体;二酸化チタン/二酸化ケイ素共沈殿物; 水和アルカリ含有二酸化チタン; 及び、対応するジルコニウム化合物を記載してもよい。
【0131】
カルボキシル官能性ポリエステル(カルボキシ-PES)を合成する第2の所望の方法によれば、上で記載されたもののような、エステル化触媒の触媒量の存在下で、化学量論的に過剰なジカルボン酸を少なくとも1種のジオールと反応させる。化学量論的に過剰なジカルボン酸は、所望のエステル結合を達成し、末端カルボキシル基を得るための追加のカルボキシル基を有するのに十分であるべきである。そのうえ、このような縮合重合反応は、水分を除去する条件下で行うべきである。
【0132】
その好ましい実施形態を考慮すると、請求項に記載された方法のこの工程の例示的な反応スキームは以下の通りである:
【0133】
【化17】
【0134】
式中:Rは2価のフェノール又は2価のアルコールの残基であり;Yは、オリゴポリエステル又はポリエステル(PES)部分又はポリカルボン酸の残基であり;及び、nは1、2又は3である。
【0135】
エポキシ基とカルボキシル基との反応は触媒なしで進行し得るにもかかわらず、ここでは、満足できる反応速度及び所望の付加物の両方を達成するために、相間移動触媒が必要である。適する相間移動触媒の例は、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド(TEBAC)、メチルトリカプリルアンモニウムクロライド、メチルトリブチルアンモニウムクロライド、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド、及びテトラ-n-オクチルアンモニウムブロミドなどのアンモニウム塩;及びヘキサデシルトリブチルホスホニウムブロミド、テトラメチルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロライド及びトリヘキシルテトラデシルホスホニウムブロミドなどの相間移動触媒としてのホスホニウム塩を含有するが、これらに限定されない。当業者はこのような化合物の適切かつ最適な触媒量を決定することができるが、触媒の典型的な量は、反応する化合物の総量に基づいて、0.05~5重量%、又は0.05~3重量%であることが提示される。
【0136】
方法のこの段階のための最適な操作温度は、実験を通して当業者によって決定され得るが、40℃~100℃の適切な温度範囲、60℃~85℃又はさらに75℃の好ましい温度範囲を記載してもよい。反応温度が100℃より高い場合、反応生成物は、十分な収率では得られない可能性がある。方法の圧力は重要ではない:このようにして、反応は、大気圧以下の、大気圧の、又は大気圧を超える圧力で運転することができるが、大気圧の又はそれ以上の圧力が好ましい。
【0137】
この段階が無水条件下で行われる場合、良好な結果が得られ、ここで、反応容器は、例えば、乾燥窒素、ヘリウム又はアルゴンの不活性な、乾燥ブランケットガスを与えられる。また、この反応段階は、望ましくは、無溶媒条件下で行われるべきであることに留意されたい。採用する場合、適切な溶媒は不活性であるべきである:それらは出発化合物と反応する反応基を含むべきではない。
【0138】
反応の進行は、反応混合物の酸価(Av)を経時的に分析することによって監視することができる:酸価が所望の水準(5mgKOH/gPES未満)に達し、NMRによって検出される残りのエポキシドが存在しない場合、反応を停止させてもよい。一般に、反応がこの点に到達するのに十分な時間は、0.5~20時間、例えば、1~8時間又は2~6時間である。
【0139】
段階Dの生成物(CC-PES)は、そのまま使用してもよく、又は当技術分野で既知の方法を用いて分離及び精製してもよい:この点に関しては、抽出、蒸発、蒸留及びクロマトグラフィーを再び記載してもよい。好ましい一実施形態では、段階Dの後に、CC-PESのさらなる分離又は精製工程はない。
【0140】
環状カーボネート官能性ポリエステル(CC-PES)を貯蔵することを製造時に意図する場合、ポリエステルは気密性及び防湿性シールを有する容器内に配置すべきである。
【0141】
本発明の方法によれば、2以上又は3以上の官能性を有する環状カーボネート官能性ポリエステル(CC-PES)(すなわち、3つ以上の環状カーボネート環を有するCC-PES)は反応温度が全工程において110℃以下又はさらに100℃以下、環状カーボネート官能性ポリエステルを合成する最終工程において100℃以下又はさらに85℃以下の温和な反応条件下で達成される。ヒドロキシ基の消費量(KOH/g値)を観察することにより、反応温度範囲により、反応中の環状カーボネート環の開環を防止することができる。より温和な反応温度はまた、合成中のエポキシドの単独重合の問題を最小限にする。一方、最終的な環状カーボネート含有量は、理論含有量に近い期待値のおよそ98%である。本発明による方法はまた、方法の簡潔さを変えたり、全体的なコストを増加させたりすることなく、分子量、粘度、及びポリマー鎖の設計の点において、構造の多様性をも可能にする。環状カーボネート官能性ポリエステルは無溶媒条件下で合成され、いずれかの追加の精製又は分離工程を必要としない。さらに、エポキシドの開環により合成中に導入された主鎖中の追加のヒドロキシル官能基は、追加の水素結合及びさらなる架橋の可能性を提供する。
【0142】
<コーティング、シーラント及び接着剤組成物>
上に記載されたように、本発明の方法を用いて得られる環状カーボネート官能性ポリエステル(CC-PES)は、硬化性コーティング、接着剤又はシーラント組成物の反応性成分として採用することができる。このような組成物のさらなる反応物は、一般に、1級アミノ基、2級アミノ基、ヒドロキシ基、ホスフィン基、ホスホネート基及びメルカプタン基からなる群から選択される少なくとも2種の官能基(F)を有する1つ以上の多官能性化合物(H)である。官能基(F)が保護されているが、特定の物理化学的条件下で活性化可能である潜在的な化合物も、コーティング、接着剤又はシーラント組成物のための適切なさらなる反応物として想定される。
【0143】
(活性化)化合物(H)がもつ官能基(F)の数には特に制限はない:例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10の官能基を有する化合物を用いてもよい。そのうえ、反応化合物(H)は、その分子量が500g/mol未満である、低分子量物質、又は500g/molを超える数平均分子量(Mn)をもつオリゴマー又はポリマー物質であってもよい。また、もちろん、化合物(H)の混合物、例えば、アルコール及びアミン硬化剤の混合物を使用してもよい。
【0144】
重要な実施形態において、化合物(H)の官能基(F)は、脂肪族ヒドロキシル基、脂肪族1級アミノ基、脂肪族2級アミノ基、脂肪族ホスフィン基、脂肪族ホスホネート基、脂肪族メルカプタン基及びその混合物からなる群から選択される。
【0145】
好ましい態様において、化合物(H)は、アミン(又はアミノ)又はアルコール化合物を含み、又はこれらからなり、より具体的には、化合物(H)の官能基(F)は、脂肪族ヒドロキシル基、脂肪族1級アミノ基、脂肪族2級アミノ基及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0146】
本発明を限定する意図はないが、環状カーボネート官能性ポリエステル(CC-PES)を含有する硬化性組成物中に含まれるのに適する例示的なアミノ化合物(H)は、
a)エチレンジアミン、1,2-及び1,3-プロパンジアミン、ネオペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、1,10-ジアミノデカン、1,12-ジアミノドデカン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、2,2-ジメチルプロピレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1-(3-アミノプロピル)-3-アミノプロパン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)プロパン、及び4-エチル-4-メチルアミノ-1-オクチルアミンなどの脂肪族ポリアミン;
b)1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,2-、1,3-及び1,4-ビス(アミノ-メチル)シクロヘキサン、1-メチル-2,4-ジアミノシクロヘキサン、N-シクロヘキシルプロピレン-1,3-ジアミン、4-(2-アミノプロパン-2-イル)-1-メチルシクロヘキサン-1-アミン、イソホロンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン(ジシカン(Dicykan))、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,8-ジアミノトリシクロ[5.2.1.0]デカン、ノルボルナンジアミン、メンタンジアミン及びメンテンジアミンのような脂環式ジアミン;
c)トルイレンジアミン、キシリレンジアミン、特にメタ-キシリレンジアミン(MXDA)、ビス(4-アミノフェニル)メタン(MDA又はメチレンジアニリン)、及びビス(4-アミノフェニル)スルホン(DADS、DDS、又はダプソンとしても知られる)などの芳香族ジアミン;
d)ピペラジン及びN-アミノエチルピペラジンなどの環状ポリアミン;
e)ポリエーテルアミン、特に、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリブチレンオキシド、ポリ(1,4-ブタンジオール)、ポリテトラヒドロフラン(PolyTHF)又はポリペンチレンオキシドに基づく二官能性及び三官能性の1級ポリエーテルアミン;
f)二量体の脂肪酸(例えば、二量体のリノール酸)と、ジエチレントリアミン、1-(3-アミノプロピル)-3-アミノプロパン又はトリエチレンテトラミンのような低分子量ポリアミン、又は上記の脂肪族又は脂環式ジアミンのような他のジアミンとを反応させることにより得ることができるポリアミドアミン(アミドポリアミン);
g)アミン、特にジアミンを、不足量(deficit)のエポキシ樹脂又は反応性希釈剤と反応させることによって得られる付加物、好ましくは、そのような付加物は、エポキシ基の約5~20%がアミン、特にジアミンと反応している場合に使用される;
h)エポキシドの化学で知られている、フェナルカミン類;及び、
i)ポリアミン、好ましくはジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、2,2,4-又は2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3-及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、とアルデヒド、好ましくはホルムアルデヒド、及び少なくとも1種のアルデヒド反応性コア部位を有するモノ-又は多価のフェノール、例えば、種々のクレゾール及びキシレノール、p-tert-ブチルフェノール、レゾルシノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル-2,2-プロパン、しかし好ましくはフェノールとの縮合によって典型的に調製され得るマンニッヒ塩基;
である。
【0147】
アルコール硬化剤は、炭酸ジエステルの形成をともなう1級又は2級アルコール官能基と1,3-ジオキソラン-2-オン基との反応により、架橋し、カーボネートポリマーを形成する。このようにして、本発明で使用するための好ましいアルコール硬化剤は、分子当たり平均して少なくとも2つの1級又は2級ヒドロキシ基を有する;この点に関して、分子当たり2、3又は4つの1級又は2級ヒドロキシ基を有するアルコール硬化剤を記載してもよい。
【0148】
概して、アルコール化合物(H)を、主として低分子量及び高分子量の脂肪族及び脂環式アルコールから選択してもよい。本発明を限定する意図はないが、環状カーボネート官能性ポリエステル(CC-PES)を含む硬化性組成物中に含まれるのに適する代表的な低分子量アルコール化合物(H)は、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセロール、ジグリセロール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及び、ソルビトール及びマンニトールなどの糖アルコールである。代表的な高分子量ポリマーのポリオールは、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリアクリレートポリオール、及び、ポリビニルアルコールを含有するが、これらに限定されない。これらのポリマーのポリオール化合物(H)は、典型的には、以下の性能:
i)少なくとも1.5モル及び好ましくは少なくとも1.8モルの平均OH官能基性、例えば、1.5~10又は1.8~4の範囲のOH官能基性、ここで、前記平均OH官能基性は、ポリマー鎖当たりのOH基の平均数であると理解される;
ii)250~50,000g/モル、好ましくは500~10,000g/モルの数平均分子量(Mn);及び
iii)高分子のポリオール成分に含まれるヒドロキシル基の少なくとも50モル%が1級ヒドロキシル基を有すること;
の1つ以上によって特徴付けられるべきである
【0149】
硬化性組成物中に存在する化合物(H)の総量は、官能基(F)に対する前記官能性ポリエステル(CC-PES)の1,3-ジオキソラン-2-オン基のモル比が1:10から10:1、例えば5:1から1:5の範囲内であり、好ましくは1:2から2:1の範囲内であるように選択することが好ましい。
【0150】
組成物の別の表現では、環状カーボネート官能性ポリエステル(CC-PES)及び化合物(H)を合わせた総量に基づいた、化合物(H)の総量は、0.1~50重量%、好ましくは0.5~40重量%及びより好ましくは1~30重量%が適している。
【0151】
当技術分野で標準であるように、硬化性組成物は、添加剤及び補助成分を含んでもよい。適切な添加剤及び補助成分は、触媒、抗酸化剤、紫外線吸収剤/光安定剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、補強材、フィラー、防曇剤、推進薬、殺生物剤、可塑剤、潤滑剤、乳化剤、染料、顔料、レオロジー剤、衝撃調節剤、接着調節剤、蛍光増白剤、難燃剤、防滴剤、核形成剤、湿潤剤、増粘剤、保護コロイド、消泡剤、粘着付与剤、溶剤、反応性希釈剤、及びそれらの混合物を含有する。組成物のための適切な従来の添加剤の選択は、その特定の意図された用途に依存し、当業者によって個々の場合において決定することができる。
【0152】
本発明の特定の実施形態において、環状カーボネート基と化合物(H)の官能基(F)との反応を触媒するための触媒は必要とされない:これは、典型的には、官能基(F)として1級及び2級アミノ基が存在する場合であり得る。しかしながら、他の場合、好ましくは化合物(H)がアミノ基とは異なる反応性基Fを有する場合には、触媒が必要とされてもよい:次いで、硬化のための適切な触媒が、反応性官能基(F)のタイプに依存する既知の方法で決定される。触媒は、所望により、硬化性組成物の総重量に基づいて、0.01~10重量%、好ましくは0.01~5重量%の量で使用される。
【0153】
塩基性触媒、特に有機アミン及び有機ホスフィンは、本発明における触媒の重要な種類を表す。有機アミンの中で好ましいものは、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)及び1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エン(DBN)、モノ-C~C-アルキルアミン、ジ-C~C-アルキルアミン及び、トリ-C~C-アルキルアミン、特にトリエチルアミン及びtert-ブチルアミンのようなアミジン塩基である。有機ホスフィンの中で好ましいものは、トリ-n-ブチルホスフィンのようなトリアルキルホスフィン、及びトリフェニルホスフィンのようなトリアリールホスフィンである。もちろん、このような塩基性触媒は、混合物として使用することもでき、要すればトリ-C~C-アルキルアンモニウムハライド及び銅塩と組み合わせて使用することもできる。一例として、トリフェニルホスフィンとトリ-C~C-アルキルアンモニウムハライド及び、塩化銅(I)、臭化銅(I)、塩化銅(II)又は硫酸銅(II)のような銅塩の組み合わせを記載してもよい。
【0154】
硬化性コーティング、接着剤又はシーラント組成物は、組成物の重量に基づいて、5重量%未満の水を含むべきであり、最も好ましくは、実質的に水を含まない無水組成物である。これらの実施形態は、組成物が有機溶媒を含むか、又は実質的に有機溶媒を含まないかのいずれかであることを妨げない。
【0155】
概して、当業者に既知の全ての有機溶媒を溶媒として使用することができるが、前記有機溶媒は、エステル、ケトン、ハロゲン化炭化水素、アルカン、アルケン、及び、芳香族炭化水素からなる群から選択されることが好ましい。代表的な溶媒は、塩化メチレン、トリクロロエチレン、トルエン、キシレン、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸イソブチル、メチルイソブチルケトン、酢酸メトキシブチル、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、ジクロロベンゼン、ジエチルケトン、ジ-イソブチルケトン、ジオキサン、酢酸エチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルアセテート、2-エチルヘキシルアセテート、グリコールジアセテート、ヘプタン、ヘキサン、酢酸イソブチル、イソオクタン、酢酸イソプロピル、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン又はテトラクロロエチレン又はこれらの溶媒の2つ以上の混合物である。
【0156】
<方法及び応用>
コーティング、シーラント又は接着剤組成物を形成するために、反応性化合物を一緒にして、バインダーの硬化を引き起こすような方法で混合する。より詳細には、環状カーボネート官能性ポリエステル(CC-PES)及び化合物(H)は、手、機械、(共)押出、又はそれらの微細かつ高度に均一な混合を確実にすることができるいずれかの他の手段によって所定量混合してもよい。
【0157】
本発明のバインダー組成物の硬化は、典型的には、-10℃~150℃、好ましくは0℃~100℃、特に10℃~70℃の範囲の温度で起こる。適切な温度は、特定の化合物(H)及び所望の硬化速度に依存し、必要ならば単純な予備試験を用いて、当業者によって個々の場合において決定することができる。もちろん、5℃~35℃又は20℃~30℃の温度での硬化は、通常一般的な周囲温度から混合物を実質的に加熱又は冷却する必要がなくなるので、特に有利である。しかしながら、適用可能な場合には、環状カーボネート官能性ポリエステル(CC-PES)と化合物(H)との混合物の温度を、マイクロ波誘導を含有する従来の手段を用いて混合温度より高くしてもよい。
【0158】
本発明による組成物は、特にワニス、インク、エラストマー、繊維及び/又は粒子のための結着剤、ガラスのコーティング、石灰-及び/又はセメント-結合したしっくい、石膏-含有表面、繊維セメント建築材料及びコンクリートのような鉱物建築材料のコーティング、チップボード、ファイバーボード及び紙のような木及び木質材料のコーティング及びシーリング、金属表面のコーティング、アスファルト-及びビチューメン-を含有する舗装のコーティング、様々なプラスチック表面のコーティング及びシーリング、及び皮革及び織物のコーティングにおいて有用性を見出し得る。
【0159】
また、本発明の組成物は、ケーブル、光ファイバ、カバーストリップ又はプラグのような建築用電気部品のための注ぐことができるシーリング化合物として適していると考えられる。シーラントは、水及び他の汚染物質の侵入に対して、熱暴露、温度変動及び熱衝撃に対して、及び機械的損傷に対して、これらの部品を保護するのに役立ち得る。
【0160】
本発明の組成物が、特にアミン硬化剤(H)が採用される場合に、しばしば室温において短時間に高い結合強度を作ることができるという事実により、組成物は、同じ又は異なる材料を互いに表面と表面を結合させることにより複合体構造を形成するために最適に使用される。本発明の組成物の例示的な接着剤用途として、木と木製材料とを一緒に結合すること及び金属材料を一緒に結合することを記載してもよい。
【0161】
本発明の特に好ましい実施形態では、硬化性組成物は、ポリオレフィンフィルム、ポリ(メチルメタクリレート)フィルム、ポリカーボネートフィルム及びアクリロニトリル ブタジエン スチレン (ABS)フィルムのようなプラスチック及びポリマーフィルムを接着剤でつけるための無溶媒又は溶媒含有積層接着剤として使用される。
【0162】
上記の用途の各々において、組成物は、ブラッシング、例えば、組成物が無溶媒である4-ロール適用装置(4-application roll equipment)又は溶媒を含有する組成物のための2-ロール適用装置(2-application roll equipment)を用いるロールコーティング、ドクターブレード適用、印刷方法、及びエア霧化スプレー、エアアシストスプレー、エアレススプレー及び大容量低圧スプレーを含有するが、これらに限定されないスプレー方法のような従来の適用方法によって適用してもよい。コーティング及び接着剤用途の場合、組成物は、10~500μmの湿潤フィルム厚さに適用されることが推奨される。この範囲内でより薄い層を適用することは、より経済的であり、コーティングの適用のためにサンディングが必要である厚い硬化領域の可能性を減らすことができる。しかしながら、不連続な硬化フィルムの形成を避けるために、より薄いコーティング又は層を適用する際には、高度な制御が働かなくてはならない。
【0163】
本開示の種々の特徴及び実施形態は、以下の実施例に記載されており、これらは代表的なものであり、限定するものではない。
【実施例
【0164】
実施例では、以下の材料を採用する。
炭酸グリセリン:ハンツマン社から入手可能な、炭酸グリセリン、ジェフソルTM
SuccAnh:シグマ-アルドリッチから入手可能な、無水コハク酸。
グリロニットRV 1812:株式会社エムスケミー(EMS-CHEMIE AG)から入手可能な、1、6-ヘキサンジグリシジルエーテル。
TEBAC:シグマ-アルドリッチから入手可能な、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド。
アディアンソール(Adiansol):アルケマ(Arkema)から入手可能な、1級ヒドロキシル基を含有し、130mgKOH/gの水酸基価を有する、アディアンソールGO 2280 T、ポリエーテルトリオール、
TMP:シグマ-アルドリッチから入手可能な、トリメチロールプロパン。
TPG:シグマ-アルドリッチから入手可能な、トリプロピレングリコール。
グリセロール:アルファ・エイサー(Alfa Aesar)社から入手可能な、グリセロール。
SeA:シグマ-アルドリッチから入手可能な、セバシン酸。
PEI:シグマ-アルドリッチから入手可能な、800g/molの重量平均分子量(Mw)を有するポリエチレンイミン。
【0165】
<炭酸グリセリンと無水コハク酸との反応(GC-Succ)>
【0166】
【化18】
【0167】
炭酸グリセリン(135g)及び無水コハク酸(120g)を、N雰囲気下、丸底フラスコ中で撹拌した。初期温度は85℃に設定し、無水コハク酸の消費に続き、徐々に100℃まで上げた。反応を1H-NMRにより監視し、続いて、炭酸グリセリンのピークが消失した:20時間後、出発物のカーボネートの割合が1%に近づいたとき、反応を停止した。内部標準としてトルエンを用いて滴定によりカーボネート当量(CEW)(208.06g/当量)を計算した。1H-NMR(250MHz、DMSO-d6):δ=5.08-4.99(m、1H)、4.57(t、J=8.6Hz、1H)、4.30-4.24(m、3H)、2.65-2.41(m、4H);13CNMR(62.5MHz、DMSO-d6):δ=173.5、172.0、154.8、74.4、66.1、63.6、28.7;FT-IR(cm-1):3019(br)、2660(w)、1781(s)、1730(s)、1696(s)、1397(m)、1160(s)、1087(m)、1053(m)、995(m)、952(m)、769(s)。
【0168】
<CC-エポキシ末端キャッパー(付加物B)の合成>
【0169】
【化19】
【0170】
GC-Succ(258g)、グリロニット RV 1812(363g)及びTEBAC(9.30g、1.5重量%)の混合物を、3つ口丸底フラスコ中、N雰囲気下で撹拌した。温度を75℃に設定し、反応を1H-NMRにより監視した。手順が完了したら、トルエンを用いた滴定によりカーボネート当量(540g/当量)を決定した。
【0171】
<カルボキシ-PESsの合成>
【0172】
【化20】
【0173】
手順A:三官能性アルコール(1モル)及び無水コハク酸(3モル)の混合物を、N雰囲気下で、3つ口丸底フラスコ中で撹拌した。温度を100℃に設定し、反応を1H-NMRで監視した。反応混合物をこの条件下でNMRスペクトル中のOHシグナルが完全に消失し、Avが一定かつ所望の値に近づくまで維持した。
【0174】
手順B:二官能性アルコール(1モル)及び無水コハク酸(2モル)の混合物を、N雰囲気下で、3つ口丸底フラスコ中で撹拌した。温度を100℃に設定し、反応を1H-NMRで監視した。反応混合物をこの条件下でNMRスペクトル中のOHシグナルが完全に消失し、Avが一定かつ所望の値に近づくまで維持した。
【0175】
カルボキシ-PESs(C-1~C-4)を、テーブル1に示される組成及び上記の方法に従って調製した。
【0176】
【表1】
【0177】
<環状カーボネート-PESsの合成>
環状カーボネート-PESsの調製には以下の手順を用いた。
【0178】
【化21】
【0179】
手順A:3つ口丸底フラスコ中及びN雰囲気下で、三官能性カルボキシ-PESs(1モル)、付加物B(3モル)及びTEBAC(1.5重量%)の混合物を65℃(C-2については95℃)までゆっくりと加熱し、撹拌した。反応混合物は、NMRスペクトルにおいてエポキシシグナルが検出されなくなるまで、これらの条件下で維持された。
【0180】
手順B:3つ口丸底フラスコ中及びN雰囲気下で、二官能性カルボキシ-PESs(1モル)、付加物B(2モル)及びTEBAC(1.5重量%)の混合物を、85℃までゆっくりと加熱し、撹拌した。反応混合物を、Avが5mgKOH/g未満になるまで、これらの条件下で維持した。
【0181】
手順C:3つ口丸底フラスコ中及びN雰囲気下、ジカルボン酸(1モル)、付加物B(2モル)及びTEBAC((1.5重量%)の混合物を、85℃までゆっくりと加熱し、撹拌した。反応混合物を、Avが5mgKOH/g未満になるまで、これらの条件下で維持した。
【0182】
【表2】
【0183】
実施例1と同様に、本発明の穏和な条件下での合成経路を用いて、実施例2、3及び5の三官能性化合物を合成した。EP3401350A1に報告されている条件を用いて実施例1と同じ生成物を調製しようとすると、反応混合物の単独重合を与えた。本発明による反応条件は、そのような問題なしに全ての生成物の調製を可能にした。
【0184】
<接着剤配合物>
上で定義された環状カーボネート官能化ポリエステル(テーブル3:実施例2、4及び5)の3種類と求核剤とを混合することにより、3種類の接着剤配合物(AF1~AF3)を調製した。配合物は、以下のテーブル4に定義される。
【0185】
【表3】
【0186】
これらの接着剤配合物を用いて、DINEN 1465に従い、PET‐PEの基板を用いて重ねせん断試験を行った。室温及び40℃で行った試験結果を以下のテーブル5に示す。
【0187】
【表4】
【0188】
すべての接着剤配合物が良好な接着強度を示したことは明らかである。
【国際調査報告】