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特表2022-528258高速運転サイクルを備えた極低温冷凍システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-09
(54)【発明の名称】高速運転サイクルを備えた極低温冷凍システム
(51)【国際特許分類】
   F25B 9/00 20060101AFI20220602BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
F25B9/00 Y
F25B9/00 Z
F25B1/00 396Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559900
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(85)【翻訳文提出日】2021-10-08
(86)【国際出願番号】 IB2020053398
(87)【国際公開番号】W WO2020208573
(87)【国際公開日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】62/833,563
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517316096
【氏名又は名称】エドワーズ バキューム リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ション レンチャン
(57)【要約】
極低温冷凍システムの除霜、待機、及び冷却運転モードの各々におけるサイクル時間を短縮するための方法。これらの方法は、例えば単一の極低温冷凍システムの場合を含む、除霜、待機、及び冷却モードのうちの1、2、又は3の全てに関する高速な総サイクルを提供するために、単独で、又は他の各技法の1又は2以上と組み合わせて使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温冷凍システムであって、
圧縮機と、
複数の熱交換器と、
膨張機と、
除霜弁と、
プロセッサとメモリとを備えたコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
(i)前記圧縮機の始動時に、高温ガス除霜回路内の前記除霜弁を制御して、前記複数の熱交換器の高圧側及び前記膨張機の周りの冷媒の流れを、前記冷媒が蒸発器に流入する蒸発器入口へバイパスさせ、それによって、前記冷媒の体積を前記蒸発器に収容して、前記圧縮機の前記始動時における前記冷媒の圧力の初期増大を制限するように開放させ、
(ii)その後、前記除霜弁を制御して、前記冷媒の流れが前記複数の熱交換器の前記高圧側及び前記膨張機を通って前記蒸発器へ進むように閉鎖させる、
ように構成されている、
ことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記冷媒は、複数の異なる冷媒成分の混合物を含んでいる、
請求項1に記載の極低温冷凍システム。
【請求項3】
前記混合物は、アルゴン、R-14、R-23、R-125及びR-245faから成る、
請求項2に記載の極低温冷凍システム。
【請求項4】
前記コントローラは、その後、前記圧縮機の前記始動から少なくとも約3秒後に、前記除霜弁を制御して閉鎖させるように構成されている、
請求項1~3のいずれか1項に記載の極低温冷凍システム。
【請求項5】
前記コントローラは、その後、前記圧縮機の前記始動から少なくとも約6秒となる前に、前記除霜弁を制御して閉鎖させるように構成されている、
請求項4に記載の極低温冷凍システム。
【請求項6】
前記コントローラは、その後、前記除霜弁を閉鎖させるとすぐに、前記システムを制御して待機モードに入るように構成され、前記待機モードは、前記コントローラが冷却弁を制御して閉鎖させて、前記複数の熱交換器の前記高圧側から前記蒸発器への冷媒の流れを阻止するが、前記複数の熱交換器の前記高圧側と前記複数の熱交換器の低圧側とを通る冷媒の流れを許容することを含む、
請求項1~5のいずれか1項に記載の極低温冷凍システム。
【請求項7】
前記高温ガス除霜回路は、前記冷媒を圧縮機の高圧供給ラインから、前記冷媒が蒸発器に流入する蒸発器入口124へ流すように構成されている、
請求項1~6のいずれか1項に記載の極低温冷凍システム。
【請求項8】
圧縮機、複数の熱交換器、膨張機、及び蒸発器を有する極低温冷凍システムの始動時にピーク運転圧力を制限する方法であって、
前記圧縮機の始動時に、高温ガス除霜回路内の除霜弁を開放させて、前記複数の熱交換器の高圧側及び前記膨張機の周りの冷媒の流れを、前記冷媒が前記蒸発器に流入する蒸発器入口へバイパスさせ、それによって、前記冷媒の体積を前記蒸発器に収容して、前記圧縮機の前記始動時における前記冷媒の圧力の初期増大を制限するステップと、
その後、前記除霜弁を閉鎖させて、前記冷媒の流れが前記複数の熱交換器の前記高圧側及び前記膨張機を通って前記蒸発器へ進むようにするステップと、を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記冷媒は、前記除霜弁の前記開放が行われない前記圧縮機の始動時に、前記冷媒のピーク圧力を生じる可能性がありかつ前記極低温冷凍システムの設計圧力を超える可能性がある冷媒圧力で、前記システムに充填される、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記蒸発器の冷媒流動体積は、前記極低温冷凍システムの冷媒システム体積の約10%よりも大きい、
請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記冷媒は、前記システムが約230psig~約300psigの平衡圧力を有するように前記システムに充填される、
請求項8、9、又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記冷媒の前記バイパス流動の間、前記冷媒の温度は約25℃よりも高い、
請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
極低温冷凍システムであって、
圧縮機と、
複数の熱交換器と、
膨張機と、
除霜弁と、
プロセッサとメモリとを備えたコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記システムの除霜動作モードにおいて、
(i)高温ガス除霜回路内の前記除霜弁を制御して、前記複数の熱交換器103の高圧側の周の冷媒の流れを前記冷媒が蒸発器に流入する蒸発器入口へバイパスさせて、前記蒸発器の加温をもたらすように開放させ、
(ii)前記除霜弁を開放させるように制御する間に、前記高圧側から前記蒸発器に前記冷媒が流れないように冷却弁を制御して閉鎖させる、
ように構成され、
前記コントローラはさらに、
(i)入力制御信号に基づいて、前記蒸発器の低圧側の戻り温度センサの記憶された除霜完了設定点温度の値を設定し、
(ii)前記蒸発器の前記加温中に、前記蒸発器の前記低圧側の前記戻り温度センサが前記戻り温度センサの前記記憶された除霜完了設定点温度に到達すると、前記除霜弁を制御して閉鎖させて、前記冷媒が前記蒸発器に流れるのを阻止する、
ように構成されている、
ことを特徴とする極低温冷凍システム。
【請求項14】
前記戻り温度センサの前記記憶された除霜完了設定点温度は、約0℃以下である、請求項13に記載の極低温冷凍システム。
【請求項15】
前記戻り温度センサは、前記蒸発器の前記低圧側に熱電対を備える、
請求項13又は14に記載の極低温冷凍システム。
【請求項16】
前記コントローラは、前記戻り温度センサから、前記戻り温度センサの前記記憶された除霜完了設定点温度と少なくとも同じ温かさであるという温度制御信号を受け取ることに応答して、前記除霜弁を閉鎖させるように構成され、前記コントローラは、除霜完了設定点温度を記憶するためにメモリを備える、
請求項13~15のいずれか1項に記載の極低温冷凍システム。
【請求項17】
極低温冷凍システムの除霜動作モードで費やされる時間を短縮する方法であって、
前記システムの除霜動作モードにおいて、(i)高温ガス除霜回路内の除霜弁を開放させて、複数の熱交換器の高圧側の周りの冷媒の流れを、前記冷媒が前記蒸発器に流入する蒸発器入口へバイパスさせて、前記蒸発器の加温をもたらし、(ii)前記除霜弁を開放させる間に、前記高圧側から前記蒸発器に前記冷媒が流れないように冷却弁を閉鎖させるステップと、
入力制御信号に基づいて、前記蒸発器の低圧側の戻り温度センサの記憶された除霜完了設定点温度の値を設定するステップと、
前記蒸発器の前記加温中に、前記蒸発器の前記低圧側の前記戻り温度センサが前記戻り温度センサの前記記憶された除霜完了設定点温度に到達すると、前記除霜弁を閉鎖させて、前記冷媒が前記蒸発器に流れるのを阻止するステップと、を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項18】
極低温冷凍システムであって、
圧縮機と、
複数の熱交換器と、
膨張機と、
温度センサと、
複数の弁と、
プロセッサとメモリとを備えたコントローラと、を備え、
前記コントローラは、入力制御信号に基づいて、蒸発器の低圧側の戻り温度センサの記憶されたバイパス制御設定点温度の値を設定するように構成され、
前記コントローラはさらに、前記蒸発器の低圧側の戻り温度センサが温まって、前記戻り温度センサの前記記憶されたバイパス制御設定点温度以上になると、
(i)戻し弁を制御して閉鎖させ、前記複数の熱交換器の低圧側を通過する冷媒の流れを阻止し、
(ii)バイパス弁を制御して開放させ、前記複数の熱交換器の前記低圧側の周りの前記冷媒の流れを前記圧縮機の低圧側に入る吸込みラインへバイパスさせる、
ように構成され、
前記システムは、前記吸込みライン内の前記冷媒の前記バイパス流を、前記圧縮機の前記低圧側に入る前に加温するように構成されている、え
ことを特徴とするシステム。
【請求項19】
前記複数の熱交換器のうちの少なくとも1つは、前記吸込みラインと前記複数の熱交換器の高圧側との間で熱交換を行って、前記吸込みライン内の前記冷媒の前記バイパス流を加温するように構成されている、
請求項18に記載の極低温冷凍システム。
【請求項20】
前記冷凍システムは、前記吸込みライン内の前記冷媒の前記バイパス流を加温するためにヒータを備えている、
請求項18に記載の極低温冷凍システム。
【請求項21】
前記戻り温度センサの前記記憶されたバイパス制御設定点温度は、前記圧縮機の定格入力流温度よりも低い、
請求項18~20のいずれか1項に記載の極低温冷凍システム。
【請求項22】
前記戻り温度センサの前記記憶されたバイパス制御設定点温度は、約-40℃~約-70℃である、
請求項21に記載の極低温冷凍システム。
【請求項23】
極低温冷凍システムの除霜後の回復時間を短縮する方法であって、
入力制御信号に基づいて、前記蒸発器の低圧側の戻り温度センサの記憶されたバイパス制御設定点温度の値を設定するステップと、
前記蒸発器の低圧側の戻り温度センサが温まって、前記戻り温度センサの前記記憶されたバイパス制御設定点温度以上になると、(i)戻し弁を閉鎖させて、前記複数の熱交換器の低圧側を通過する冷媒の流れを阻止し、(ii)バイパス弁を開放させて、前記複数の熱交換器の前記低圧側の周りの前記冷媒の流れを、前記圧縮機の低圧側に入る吸込みラインへバイパスさせるステップと、
前記吸込みライン内の前記冷媒の前記バイパス流を、圧縮機の前記低圧側に入る前に加温するステップと、を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項24】
極低温冷凍システムであって、
圧縮機と、
複数の熱交換器と、
膨張機と、
流量測定デバイスと、
前記流量測定デバイスと直列に流れ接続して蒸発器の入口に至る冷却弁と、
プロセッサとメモリとを備えたコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記システムの圧縮機の吐出圧力が、前記冷却動作モード中に最大吐出圧力の記憶された設定点と少なくとも同じ大きさになると、アンロード弁を制御して開放させて、前記吐出圧力が前記最大吐出圧力の前記記憶された設定点よりも小さくなるまで、前記流量測定デバイスの周りの冷媒の流れを前記冷却弁へバイパスさせるように構成されている、
ことを特徴とするシステム。
【請求項25】
前記コントローラはさらに、
前記圧縮機の始動時に、(i)高温ガス除霜回路内の除霜弁を制御して開き、前記複数の熱交換器の高圧側及び前記膨張機の周りの冷媒の流れを、前記冷媒が蒸発器に流入する蒸発器入口へバイパスさせ、それによって、前記冷媒の体積を前記蒸発器に収容して、前記圧縮機の前記始動時における前記冷媒の圧力の初期増大を制限するように開放させ、(ii)その後、前記除霜弁を制御して、前記冷媒の流れが前記複数の熱交換器の前記高圧側及び前記膨張機を通って前記蒸発器へ進むように閉鎖させ、
除霜時には、(i)高温ガス除霜回路内の除霜弁を制御して、前記複数の熱交換器の高圧側の周りの冷媒の流れを、前記冷媒が蒸発器に流入する蒸発器入口へバイパスさせて、前記蒸発器の加温をもたらすように開放させ、さらに(ii)前記除霜弁を制御して開放させる間に、前記高圧側から前記蒸発器に前記冷媒が流れないように冷却弁を制御して閉鎖させ、
前記コントローラはさらに、(i)入力制御信号に基づいて、前記蒸発器の低圧側の戻り温度センサの記憶された除霜完了設定点温度の値を設定し、(ii)前記蒸発器の前記加温中に、前記蒸発器の前記低圧側の前記戻り温度センサが前記戻り温度センサの前記記憶された除霜完了設定点温度に到達すると、前記除霜弁を制御して閉鎖させて、前記冷媒が前記蒸発器に流れるのを阻止するように構成され、
除霜後には、前記蒸発器の低圧側の戻り温度センサが温まって、前記戻り温度センサの前記記憶されたバイパス制御設定点温度以上になると、(i)戻し弁を制御して閉鎖させて、前記複数の熱交換器の低圧側を通過する冷媒の流れを阻止し、(ii)バイパス弁を制御して開放させ、前記複数の熱交換器の前記低圧側の周りの前記冷媒の流れを、前記圧縮機の低圧側に入る吸込みラインへバイパスさせ、
前記システムは、前記吸込みライン内の前記冷媒の前記バイパス流を、前記圧縮機の前記低圧側に入る前に加温するように構成されている、
請求項24に記載の極低温冷凍システム。
【請求項26】
極低温冷凍システムのクールダウン時間を短縮する方法であって、
前記システムの冷却動作モード中に、冷媒を複数の熱交換器の高圧側を通り、流量測定デバイス及び前記流量測定デバイスが直列に流れ接続して蒸発器の入口に至る冷却弁を通り、蒸発器を通って前記複数の熱交換器の低圧側に流すステップと、
前記システムの圧縮機の吐出圧力が、前記冷却動作モード中に最大吐出圧力の記憶された設定点と少なくとも同じ高さになると、アンロード弁を開放して、前記吐出圧力が低下して前記最大吐出圧力の前記記憶された設定点よりも小さくなるまで、前記流量測定デバイスの周りの冷媒の流れを、前記冷却弁へバイパスさせるステップと、を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項27】
前記蒸発器の入口又は前記蒸発器の出口は、約-110°C未満の温度である、
請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記最大吐出圧力の前記記憶される設定点は、前記システムのバッファ電磁弁の作動圧力未満である、
請求項26又は27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、極低温冷凍システム及びその運転サイクル時間を短縮するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
極低温冷凍システムは、水蒸気の除去、並びにコーティング産業の高真空環境生成を含む、様々な異なる目的で使用されている。このようなシステムは、一般的に3つの異なるモードで動作する。すなわちユニットが回復中である又は準備ができた状態にある待機モード、プロセス又は用途ニーズに応えるためにシステムが冷却中である冷却モード、及びシステムがクライオコイルを再生している除霜モードである。典型的なバッチ式のコーティングプロセスでは、システムはこれら3つのモードのサイクルで動く。しかしながら、様々な用途では、各モードに費やすことのできる時間に様々な制約がある。一部の用途は、短い除霜モードの時間を必要とし、除霜モード終了後の長い待機モードの時間を許容することができる。一部の用途では、コーティングプロセスをより早く開始できるように、目標供給温度(例えば、-110℃又は-120℃)まで高速で冷却する必要がある。一部の用途は、除霜/待機/冷却の高速の総サイクルを必要とし、その場合、3つの動作モード全ての短縮を必要とする可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本明細書では、極低温冷凍システムの運転に関する除霜、待機及び冷却モードの各々におけるサイクル時間を短縮するための方法が教示される。これらの方法は、例えば単一の極低温冷凍システムの場合を含む、除霜、待機、及び冷却モードのうちの1、2、又は3の全てに関する高速な総サイクルを提供するために、単独で、又は他の各技法の1又は2以上と組み合わせて使用することができる。
【0004】
圧縮機、複数の熱交換器、膨張機、及び蒸発器を有する極低温冷凍システムの始動時にピーク運転圧力を制限する方法は、圧縮機の始動時に、高温ガス除霜回路内の除霜弁を開放させて、複数の熱交換器の高圧側及び膨張機の周りの冷媒の流れを、冷媒が蒸発器に流入する蒸発器入口へバイパスさせ、それによって、冷媒の体積を蒸発器に収容して、圧縮機の始動時における冷媒圧力の初期増大を制限するステップを備える。その後、除霜弁を閉鎖させて、冷媒の流れが複数の熱交換器の高圧側及び膨張機を通って蒸発器へ進むようにする。
【0005】
冷媒は、除霜弁の開放が行われない圧縮機の始動時に、冷媒のピーク圧力を生じる可能性がありかつ極低温冷凍システムの設計圧力を超える可能性がある冷媒圧力で、システムに充填することができる。蒸発器の冷媒流動体積は、極低温冷凍システムの冷媒システム容積の約10%よりも大きい場合がある。冷媒は、複数の異なる冷媒成分の混合物を備えることができる。混合物は、アルゴン、R-14、R-23、R-125及びR-245faから成ることができる。冷媒は、システムが約230psig~約300psigの平衡圧力を有するように、システムに充填することができる。その後の除霜弁を閉鎖させる閉じるステップは、圧縮機の始動から少なくとも約3秒後に実行することができ、圧縮機始動から少なくとも約6秒となる前に実行することができる。本方法は、その後に除霜弁を閉鎖させると、システムの待機モードに入るステップを含み、待機モードは、冷却弁を閉鎖させて、複数の熱交換器の高圧側から蒸発器への冷媒の流れを阻止するが、複数の熱交換器の高圧側と複数の熱交換器の低圧側とを通る冷媒の流れを許容するステップを含む。冷媒のバイパス流動の間、冷媒の温度は約25℃を超えることができる。高温ガス除霜回路は、冷媒を圧縮機の高圧供給ラインから、冷媒が蒸発器に流入する蒸発器入口にバイパスさせることができる。
【0006】
極低温冷凍システムの除霜動作モードで費やされる時間を短縮する方法は、システムの除霜動作モードにおいて、(i)高温ガス除霜回路内の除霜弁を開放させて、複数の熱交換器の高圧側の周りの冷媒の流れを、冷媒が蒸発器に流入する蒸発器入口へバイパスさせて、蒸発器の加温をもたらすステップと、(ii)除霜弁を開放させる間に、高圧側から蒸発器に冷媒が流れないように冷却弁を閉鎖させるステップと、を含む。入力制御信号に基づいて、蒸発器の低圧側の戻り温度センサの記憶された除霜完了設定点温度の値が設定される。蒸発器の加温中に、蒸発器の低圧側の戻り温度センサが戻り温度センサの記憶された除霜完了設定点温度に到達すると、除霜弁を閉鎖させて、冷媒が蒸発器に流れるのを阻止する。
【0007】
戻り温度センサの記憶された除霜完了設定点温度は、用途に応じて約0℃又はそれ未満とすることができる。戻り温度センサは、蒸発器の低圧側に熱電対を備えることができる。本方法は、コントローラが、戻り温度センサの記憶された除霜完了設定点温度と少なくとも同じ温かさであるという温度制御信号を、戻り温度センサから受け取った時に、除霜弁を閉鎖させるステップを含むことができ、記憶された除霜完了設定点温度は、コントローラのメモリに記憶されている。
【0008】
極低温冷凍システムの除霜後の回復時間を短縮する方法は、入力制御信号に基づいて、蒸発器の低圧側にある戻り温度センサの記憶されたバイパス制御設定点温度の値を設定するステップを含む。蒸発器の低圧側にある戻り温度センサが温まって、戻り温度センサの記憶されたバイパス制御設定点温度以上になると、本方法は、(i)戻し弁を閉鎖させて、複数の熱交換器の低圧側を通過する冷媒の流れを阻止し、(ii)バイパス弁を開放させて、複数の熱交換器の低圧側の周りの冷媒の流れを、圧縮機の低圧側に入る吸込みラインへバイパスさせるステップと、吸込みライン内の冷媒のバイパス流を、圧縮機の低圧側に入る前に加温するステップと、を含む。
【0009】
吸込みライン内の冷媒のバイパス流を加温するステップは、吸込みラインと複数の熱交換器の高圧側との間で熱交換を行う熱交換器を用いて加温するステップを含むことができる。吸込みライン内の冷媒のバイパス流を加温するステップは、ヒータを用いて吸込みラインを加熱するステップを含むことができる。戻り温度センサの記憶されたバイパス制御設定点温度は、圧縮機の定格入力流温度よりも低くすることができ、例えば、-40℃未満である。例えば、戻り温度センサの前記記憶されたバイパス制御設定点温度は、約-40℃~約-70℃とすることができる。
【0010】
極低温冷凍システムのクールダウン時間を短縮する方法は、システムの冷却動作モード中に、冷媒を複数の熱交換器の高圧側を通り、流量測定デバイスと、流量測定デバイスと直列に流れ接続して蒸発器の入口に至る冷却弁とを通り、蒸発器を通って複数の熱交換器の低圧側に流すステップを含む。システムの圧縮機の吐出圧力が、冷却動作モード中に最大吐出圧力の記憶された設定点と少なくとも同じ大きさになると、アンロード弁を開放させて、吐出圧力が低下して最大吐出圧力の記憶された設定点よりも小さくなるまで、流量測定デバイスの周りの冷媒の流れを冷却弁へバイパスさせる。
【0011】
蒸発器の入口又は蒸発器の出口は、約-110°C未満の温度とすることができる。最大吐出圧力の記憶される設定点は、システムのバッファ電磁弁の作動圧力未満とすることができる。
【0012】
極低温冷凍システムは、圧縮機と、複数の熱交換器と、膨張機と、プロセッサ及びメモリを備えたコントローラとを備える。コントローラは、(i)圧縮機の始動時に、高温ガス除霜回路内の除霜弁を制御して、複数の熱交換器の高圧側及び膨張機の周り冷媒の流れを、冷媒が蒸発器に流入する蒸発器入口へバイパスさせ、それによって、冷媒の体積を蒸発器に収容して、圧縮機の始動時における冷媒の圧力の初期増大を制限するように開放させ、(ii)その後、前記除霜弁を制御して、冷媒の流れが複数の熱交換器の高圧側及び膨張機を通って蒸発器へ進むように閉鎖される、ように構成されている。
【0013】
別の極低温冷凍システムは、圧縮機と、複数の熱交換器と、膨張機と、プロセッサ及びメモリを備えたコントローラとを備える。コントローラは、システムの除霜動作モードにおいて、(i)高温ガス除霜回路内の除霜弁を制御して、複数の熱交換器の高圧側の周りの冷媒の流れを、冷媒が蒸発器に流入する蒸発器入口へバイパスさせて、蒸発器の加温をもたらすように開放させ、(ii)除霜弁を開放させるように制御する間に、高圧側から蒸発器に冷媒が流れないように冷却弁を制御して閉鎖させるように構成されている。コントローラはさらに、(i)入力制御信号に基づいて、蒸発器の低圧側の戻り温度センサの記憶された除霜完了設定点温度の値を設定し、(ii)蒸発器の加温中に、蒸発器の低圧側の戻り温度センサが戻り温度センサの記憶された除霜完了設定点温度に到達すると、除霜弁を制御して閉鎖させて、冷媒が蒸発器に流れるのを阻止する、ように構成されている。
【0014】
別の極低温冷凍システムは、圧縮機と、複数の熱交換器と、膨張機と、プロセッサ及びメモリを備えたコントローラとを備える。コントローラは、入力制御信号に基づいて、蒸発器の低圧側の戻り温度センサの記憶されたバイパス制御設定点温度の値を設定するように構成されている。コントローラはさらに、蒸発器の低圧側にある戻り温度センサが温まって、戻り温度センサの記憶されたバイパス制御設定点温度以上になると、(i)戻し弁を制御して閉鎖させ、複数の熱交換器の低圧側を通過する冷媒の流れを阻止し、(ii)バイパス弁を制御して開放させ、複数の熱交換器の低圧側の周りの冷媒の流れを、圧縮機の低圧側に入る吸込みラインへバイパスさせる、ように構成されている。システムは、吸込みライン内の冷媒のバイパス流を、圧縮機の低圧側に入る前に加温するように構成されている。
【0015】
システムは、吸込みラインと複数の熱交換器の高圧側との間で熱交換を行う熱交換器を備えることができる。システムは、吸込みラインを加熱するためにヒータを備えることができる。
【0016】
別の極低温冷凍システムは、圧縮機と、複数の熱交換器と、膨張機と、流量測定デバイスと、流量測定デバイスと直列に流れ接続して蒸発器の入口に至る冷却弁と、プロセッサとメモリとを備えたコントローラとを備える。コントローラは、システムの圧縮機の吐出圧力が、冷却動作モード中に最大吐出圧力の記憶された設定点と少なくとも同じ大きさになると、アンロード弁を制御して開放させて、吐出圧力が低下して最大吐出圧力の記憶された設定点よりも小さくなるまで、流量測定デバイスの周りの冷媒の流れを、冷却弁へバイパスさせるように構成されている。
【0017】
システムは、本明細書に教示する方法のいずれか又は全てを実装するように構成することができる。
【0018】
以上のことは、種々の図を通して同様な参照符号が同じ部品を指す添付図面に示されるような例示的な実施形態に関する以下のより詳細な説明から明らかとなろう。図面は必ずしも縮尺通りではなく、それよりも実施形態の説明に重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】極低温冷凍システムの概略図である。
図2】毛細管を通る流れを増加させた場合の、システムの除霜時間を示すグラフである。
図3】始動時にピーク運転圧力を制限する技法を用いて、冷媒充填量を増加させた場合の、除霜時間の短縮を示す試験データのグラフである。
図4】種々の戻し弁設定点を用いて、極低温冷凍システムの改善された回復時間を示すグラフである。
図5】コントローラの簡略化された概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
例示的な実施形態の説明は以下の通りである。
【0021】
本明細書では、極低温冷凍システムの運転の除霜、待機、及び冷却モードの各々におけるサイクル時間を短縮するための方法が教示される。本明細書で使用される場合、「極低温」とは、90Kから203Kまでの温度範囲を意味する。本方法は、例えば単一の極低温冷凍システムを含む、除霜、待機、及び冷却モードのうちの1、2、又は3の全てに関する高速な総サイクルを提供するために、単独で、又は他の各技法の1又は2以上と組み合わせて使用することができる。
【0022】
図1は、極低温冷凍システムの概略図である。このシステムは、例えば、自動カスケード冷凍システム100とすることができる。このようなシステムは、最高の沸点成分から最低の沸点成分まで通常の沸点間の差が少なくとも50K又は100K又は150K又は200Kである、2又は3以上の冷媒の混合物を使用する。このようなシステムは、冷凍圧縮機101、熱を排除するための凝縮器102又は過熱低減熱交換器、一連の2又は3以上の熱交換器103(本明細書では、「熱交換器アレイ」又は「冷凍プロセス」とも呼ぶ)、絞り又は流量測定デバイス104などの1又は2以上の膨張機104、及び適用プロセスから熱を除去するための蒸発器105を含むことができる。加えて、このようなシステムは、熱交換器の間の吐出側に位置決めされ、内部再循環ループで用いるために液相冷媒を除去する相分離器106、107を含むことができる。このようなシステムは、蒸発器105が冷却される冷却モード、圧縮機101からの高温ガスが蒸発器105に供給される除霜モード、及び低温冷媒も高温冷媒も蒸発器105に供給されない待機モードを含む、種々の動作モードで動作する能力を有することができる。システム内の様々な流動ループを通る流れは、流れを制限して冷媒の膨張、結果的に冷却を可能にする一連の毛細管108、109、110、111を介して、及び/又は、冷却電磁弁112、バイパス電磁弁113、戻し電磁弁114、バッファ電磁弁116、除霜電磁弁123、アンロード電磁弁130などのオン/オフ電磁弁を介して制御することができる。図1に示す実施形態では、毛細管108、109、110、111は、どの電磁弁とも関係しておらず、毛細管104は、アンロード電磁弁130と並列で、冷却電磁弁112と直列である。毛細管及び電磁弁の他の配置を用いることができる。毛細管及び/又は電磁弁は、熱膨張弁などの比例弁、或いは圧力作動弁又はステッパモータ作動弁に置き換えることができる。また、このようなシステムは、システムがオフにされ、室温に温められ状態で、液化冷媒の激しい蒸発及び膨張を管理するために使用される膨張タンク115を含むことができる。さらに、膨張タンク115を備えたこのようなシステムは、高圧ガスを膨張タンク115に向けることを可能にするバッファ電磁弁116を有することもできる。このようなバッファ電磁弁116により、循環時の冷媒ガスの量を低減することができ、ひいては、圧縮機の吐出圧力及び吸込み圧力を低減することができる。例えば、Flynn他の米国特許第6574978号に開示される方法のいずれかを使用することができ、その開示内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる。本特許に記載されるシステムは、制御されたクールダウン及びウォームアップのプロセス、並びに高温ガス流モード、又はベークアウトモードでの拡張動作などの付加的な動作モードを可能にし、その場合、圧縮機を出る高温ガスの一部分が圧縮機から蒸発器コイルに連続的に循環してから圧縮機に戻るが、圧縮機を出る冷媒の別の部分は、凝縮器、次いで熱交換器アレイを連続的に流れてから圧縮機に戻る。
【0023】
バッファ電磁弁116は、ユニットの吐出側(又は高圧側)と1又は2以上の膨張タンク115との間の接続部である。高圧状態が存在する場合、コントローラはこのバッファ電磁弁116を開いて、冷媒の一部を膨張タンク115に貯留させ、それによって吐出圧力を低下させる。これにより、過剰な吐出圧力の故障状態を防止することができる。
【0024】
極低温システムの高温ガス除霜システム121を用いて、蒸発器105の加温を達成することができる。高温ガス除霜システム121は、除霜手動遮断弁122と除霜電磁弁123とを含み、高温ガスを圧縮機101の高圧供給ライン192から蒸発器供給ラインの蒸発器入口124に向け、高温ガスは、供給ライン、蒸発器105(クライオコイル又はクライオ面としても知られる)、戻りライン125を通り、次いで熱交換器アレイ103の低圧側を通って順次流れる。圧縮機101の下流側の高圧供給ライン192には、流れから油を分離して圧縮機101に戻すための油分離器138が存在する。
【0025】
圧縮機、又はシステム内の別のより温かい点から吐出され、システム内のより冷たい点に向けられている冷媒のフリーズアウトの可能性に対処することができる。圧縮機から吐出されるこのような冷媒は、システム内の相分離器をまだ通過しておらず、それゆえ、冷凍プロセスの後段とは異なる組成を有するため、フリーズアウトのリスクが高く、ひいては、より温かい凝固点を有し、システム内のより冷たい点に向けられた場合にフリーズアウトし易い可能性がある。このようなフリーズアウトを防止するために、フリーズアウト防止回路又は温度制御回路を使用することができ、これは、制御されたバイパス流を用いてシステム内の最も低温の冷媒を温め、圧縮機(又は別のより温かい点)から吐出された冷媒がシステム内のより冷たい点に向けられた場合にフリーズアウトしないようにスタックを十分に温める。例えば、Flynn他の米国特許第7478540号に開示されるフリーズアウト防止回路又は温度制御回路のいずれかを使用することができ、その開示内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる。図1の例では、フリーズアウト防止弁131は、相分離器107を出て行く冷媒を、熱交換器アレイ103内で2番目に冷たい熱交換器119よりも蒸発器寄りに位置決めされる過冷却器118の低圧入口117に導く。
【0026】
冷凍システムは、蒸発器105を経由する戻り経路に加えて、システムの高圧側から低圧側への一連の内部戻り経路108、109、110を含むことができる。典型的には、内部戻り経路108、109、110は、絞りデバイスである。例示的な絞りデバイスは、毛細管及び熱膨張弁である。他のシナリオでは、ターボ膨張機又は冷媒の圧力を低下させる他の手段が使用される。典型的な除霜加温プロセスでは、内部絞りデバイス108、109、110は、流れを有することが許容される。他のシナリオでは、それらの流量は停止又は制御される。一例では、上流側弁のない内部絞りデバイス108、109、110に毛細管を用いることができる。その結果として、これらの絞りデバイスは、除霜加温プロセスの間、流れを許可し続ける。
【0027】
加えて、図1の実施形態では、バイパス電磁弁113を含む低圧側バイパス回路も存在する。これは、蒸発器105から戻る冷媒の温度が、入力制御信号に基づいて設定可能な記憶された温度以上である場合に、熱交換器アレイ103の低圧側の周りに冷媒をバイパスさせるものである。このような戻り冷媒の温度は、蒸発器105の低圧側で、図1にTcで示す位置において測定することができ、例えば、その位置にある熱電対などの温度センサによって検出することができる。熱電対からの検知温度信号は、例えば、コントローラに提供することができ、コントローラは、検知温度信号を、入力制御信号に基づいて記憶された温度と比較することができる。検知された戻り温度が、入力制御信号に基づいて記憶された温度以上である場合、戻り電磁弁114はコントローラによって遮断することができるが、バイパス電磁弁113は開放される。これにより、温かすぎる戻り冷媒で熱交換器アレイ103を過負荷にすることを防止するために、熱交換器アレイ103の低圧側の周りに冷媒をバイパスさせることができる。
【0028】
また、図1の実施形態のシステムは、吸込みライン熱交換器132を含み、その動作は、以下で詳細に説明する。吸込みライン熱交換器132の高圧側は、凝縮器102の出口120と直列に流体接続し、低圧側は、熱交換器アレイ103の低圧側と直列に流体接続する。
【0029】
また、図1のシステムは、制御モジュール又はコントローラ180を含み、これは、図5を参照して以下で詳細に説明される。
【0030】
一実施形態では、システム100の除霜動作モードは、108、109、110及び104などのシステム内の毛細管を通る流れを、別の方法で使用されるものよりも大きな直径及び/又は短い長さの毛細管を用いて、毛細管のいずれの2つについてもほぼ同じ流量比を維持することで、増大させることによって高速化される。例えば、既存の毛細管セットは、二重にして並列に接続することができる。これにより、システムの流路抵抗が減少し、除霜動作モード時の最大吸込み圧力が約40~50psigの範囲から約50~70psigの範囲に増加する。図2は、毛細管を通る流れが増加したシステムの除霜時間を示すグラフである。除霜時間は15%以上短縮されたが、冷却能力が多少低下するというトレードオフが存在する。代替実施形態では、108、109、110及び104などの毛細管は、それらの代わりに調整可能な流量測定デバイス(比例弁又はステッパモータ膨張弁など)とすることができ、弁の開度を調整することで流量の増加を達成することができる。
【0031】
別の実施形態では、極低温システムの始動時にピーク運転圧力を制限する方法が提供される。システムの除霜速度を増加させる1つの方法は、システムに充填される冷媒の量を増加させることである。しかしながら、充填量が増えると、システムの平衡圧力が高くなり(例えば、約230~約300psig)、ピーク圧力が設計圧力限界を超えてしまうため、圧縮機の始動が困難になる場合があり、結果的にシステムが自動的に停止してしまう。これを回避するために、始動時のピーク運転圧力を制限する方法が使用される。この方法では、システムを除霜モードで始動させるので、除霜冷媒ライン及び蒸発器105を付加的な容積として用いて、ガスを膨張させ、始動時のピーク圧力を下げることができる。この始動時のピーク圧力は、通常、約3秒~約5秒の間持続する。システムは、一旦ピーク圧力を克服すると、切り替わって待機動作モードに戻ることができる。図3は、始動時のピーク運転圧力を制限するこのような技法を用いた場合に、冷媒充填量の増加に伴う除霜時間の短縮を示す試験データのグラフである。ここでは、除霜時間が20%以上短縮されている。冷媒充填量を増加させた場合、フリーズアウト防止回路(前述したような)を用いてフリーズアウトを防止することができる。
【0032】
本明細書で使用する場合、「平衡圧力」とは、システムの高圧と低圧が等しい、又はほぼ等しい場合に達成される圧力を意味し、例えば、熱交換器アレイの平均温度が、-5°C、0°C、5°C、10°C、15°C、20°C、25°C、30°C、35°C、40°Cから成る群の温度と少なくとも同じ温かさとなるようにスタックが加温された場合に、或いは、例えば、スタック内の温度の範囲が、少なくとも-5°Cから最大で40°Cとなる、又は-5°Cから40°Cの範囲内のより狭い範囲となる場合に達成される。
【0033】
例として、図1を参照すると、一実施形態では、極低温冷凍システム100の始動時にピーク運転圧力を制限する方法は、圧縮機101の始動時に、高温ガス除霜回路121内の除霜弁123を開放させて、複数の熱交換器103の高圧側の冷媒回路の周りの冷媒の流れを、冷媒が蒸発器105に流入する蒸発器入口124へバイパスさせ、それによって、蒸発器105に冷媒の体積を収容して、圧縮機101の始動時の冷媒圧力の初期増大を制限するステップを含む。その後、除霜弁123は、冷媒の流れが複数の熱交換器103の高圧側の冷媒回路の中を進むように閉鎖される。冷媒は、除霜弁の開放がなかった場合に圧縮機の始動時にピーク圧力が極低温冷凍システムの設計圧力を超えるような冷媒圧力でシステム100に充填することができ、例えば、通常であれば始動時にシステムの設計圧力よりも高いピーク圧力を生じさせる約230~約300psigの圧力に達するように冷媒を充填することができる。蒸発器105の冷媒流動体積は、例えば、極低温冷凍システム100全体の冷媒システム容積の約10%よりも大きくすること、さらには約15%よりも大きくすることができる。流動体積の増加は、システム内の蒸発器105のサイズに依存することになる。冷媒は、複数の異なる冷媒成分の混合物とすることができ、例えば、アルゴン、R-14、R-23、R-125及びR-245faから成ることができる。
【0034】
冷媒は、システムが約230psig~約300psigの平衡圧力を有するように、システムに充填することができる。その後の除霜弁123を閉鎖させるステップは、圧縮機101の始動から少なくとも約3秒後に実行することができ、圧縮機始動から少なくとも約6秒となる前に実行することができる。本方法は、その後に除霜弁123を閉鎖させると、システムの待機モードに入るステップを含むことができる。待機モードは、複数の熱交換器103の高圧側の冷媒回路から蒸発器105への冷媒の流れを許容する冷却弁112を閉鎖させるが、複数の熱交換器の高圧側と複数の熱交換器の低圧側とを通る冷媒の流れを許容するステップを含む。冷媒のバイパス流動の間、冷媒の温度は、例えば、約25℃を超えることができる。高温ガス除霜回路は、例えば、冷媒を圧縮機101の高圧供給ライン192から、冷媒が蒸発器105に流入する蒸発器入口124にバイパスさせることができる。
【0035】
除霜完了設定点は、従来の固定設定である20℃とは異なり、0℃以下に設定することができる。これにより、冷媒供給ライン及び適用クライオコイルで吸収される熱が少なくなるため、高速な除霜だけでなく、高速な回復も提供される。除霜中にクライオコイルを収容するチャンバが排気される用途では、チャンバの圧力は水の三重点未満に留まることができる。その場合、クライオコイル上の氷は、より低い温度で直接蒸気に昇華することができ、従って、より高い除霜温度設定が不要になる。
【0036】
例として、図1を参照すると、極低温冷凍システム100の除霜動作モードで費やされる時間を短縮する方法の一実施形態は、システムの除霜動作モードにおいて、(i)高温ガス除霜回路121内の除霜弁123を開放させて、複数の熱交換器103の高圧側の冷媒回路の周りの冷媒の流れを、冷媒が蒸発器105に流入する蒸発器入口124へバイパスさせ、蒸発器105の加温をもたらすステップと、(ii)除霜弁123を開放させる間に、高圧側の冷媒回路から蒸発器105に冷媒が流れないように冷却弁112を閉鎖させるステップと、を含む。入力制御信号に基づいて、蒸発器105の低圧側の戻り温度センサ133の記憶された除霜完了設定点温度の値が設定される。蒸発器105の加温中に、蒸発器105の低圧側の戻り温度センサ133が戻り温度センサ133の記憶された除霜完了設定点温度に到達すると、除霜弁123を閉鎖して冷媒が蒸発器105に流れないようにする。戻り温度センサ133の記憶された除霜完了設定点温度は、約0℃以下とすることができる。戻り温度センサ133は、例えば、蒸発器105の低圧側の熱電対とすることができる。本方法は、コントローラが、戻り温度センサ133の記憶された除霜完了設定点温度と少なくとも同じ温かさであるという温度制御信号を、戻り温度センサ133から受け取った時に、除霜弁123を閉鎖させるステップを含むことができ、記憶された除霜完了設定点温度は、コントローラのメモリに記憶されている。
【0037】
戻し電磁弁114は、熱交換器アレイ103の戻り側を通る流れを制御するために使用される。熱交換器アレイ103への戻り側ラインには、戻し手動遮断弁136があり、低圧バイパスラインにはバイパス手動遮断弁137がある。戻し弁114と低圧バイパス弁113は、戻り位置での温度Tcに基づく制御方式で制御される。温度Tcがコントローラに記憶された設定点温度と比べてどうであるかに応じて、弁114及び113の一方のみが作動する。例えば、温度Tcが設定点温度以上である場合には、バイパス弁113が開放され戻し弁114が閉鎖されるので、流れは熱交換器アレイ103の低圧側周りの低圧バイパスを通ってバイパスさせられるが、温度Tcが設定点温度よりも低い場合には、戻し弁114が開放されてバイパス弁113が閉鎖されるので、流れは熱交換器アレイ03の低圧側を通って進むようになる。加えて、戻し弁114及びバイパス弁113に対する制御温度の設定点範囲は、圧縮機101の動作下限を示すために以前使用されていた-40℃という従来の限界よりも低く設定することができる。図4は、種々の戻し弁設定点を用いた極低温冷凍システムの回復時間の改善を示すグラフである。戻し弁設定点を-40℃よりも低く設定できるように、熱交換器アレイ103の吐出(高圧)冷媒ラインと吸込み(低圧)冷媒ラインとの間に吸込みライン熱交換器132が追加されている。吸込みライン熱交換器132は、圧縮機を保護するために、液体ライン温度(例えば、約14°C~約40°C)の冷媒を使用して吸込み温度を高め、設定点を-40°Cより低く設定できるようにする。同時に、熱交換器132は、液体ライン温度を下げ、システムが回復して待機動作モードでより低温になるのを助ける。これは、内部熱伝達の利用により、システム全体の効率を向上させる。別の実施形態では、吸込みライン熱交換器132の機能は、電気抵抗ヒータなどのヒータを用いて実行すること又はヒータで補うことができる。電気抵抗ヒータなどのヒータを使用することで、例えば、圧縮機への流れの温度制御を強化することができる。
【0038】
例として、図1を参照すると、極低温冷凍システム100の除霜後の回復時間を短縮する方法の一実施形態は、蒸発器105の低圧側にある戻り温度センサ133が温まって、戻り温度センサ133の記憶されたバイパス制御設定点温度以上になるとすぐに、(i)戻し弁114を閉鎖させて、複数の熱交換器103の低圧側の冷媒回路を通過する冷媒の流れを阻止するステップと、(ii)バイパス弁113を開放させて、複数の熱交換器103の低圧側の冷媒回路の周りの冷媒の流れを、圧縮機101の低圧側に入る吸込みライン134へバイパスさせるステップと、吸込みライン134内の冷媒のバイパス流を、圧縮機101の低圧側に入る前に加温するステップとを含む。吸込みライン134内の冷媒のバイパス流は、吸込みライン134と複数の熱交換器の高圧側にある冷媒回路との間で熱交換を行う熱交換器132を用いて加温することができる。代わりに、ヒータを用いて吸込みラインを加熱することもできる。戻り温度センサ133の記憶されたバイパス制御設定点温度は、約-40℃未満とすることができる。例えば、戻り温度センサ133の記憶されたバイパス制御設定点温度は、約-40℃~約-50℃、約-50℃~約-60℃、又は約-60℃~約-70℃とすることができる。
【0039】
極低温システムのクールダウン時間を短縮することができる。典型的には、コーティング用途では、許容される最大水蒸気圧に基づいて、蒸発器入口(124)又は蒸発器出口で約-110°Cから約-120°Cまでなど、特定の目標温度が必要とされる。この目標プロセス温度を達成するために必要な時間は、コーティングプロセスの処理能力において重要な因子である。クールダウン時には、多くの場合、高い吐出圧力のためにバッファ電磁弁116の起動が観察される。この弁が開放すると、高圧ガスの一部が膨張タンク115に分流され、この分流は、一時的ではあるが、クライオコイルへの冷媒の流れが減少するために、クールダウン時間の遅延をもたらす場合がある。クールダウン時間を短縮するために、冷却中の高圧故障の発生をなくすことにより、バッファ電磁弁116の作動を低減又は排除する。アンローダ電磁弁130は、蒸発器105への冷却経路に流量測定デバイス104と並列に配置される。また、蒸発器105への冷却経路には、冷却手動遮断弁135と冷却電磁弁112とが存在する。クールダウン中、吐出圧力が設定点、例えば415psigを超えた場合に、このアンローダ電磁弁130が開放し、冷媒は流量測定デバイス104を数秒間バイパスできるようになる。これにより、適用クライオコイルから何らかの流れを迂回することなく、システム圧力を限界値未満に下げることができる。
【0040】
例として、図1を参照すると、極低温冷凍システム100のクールダウン時間を短縮する方法の一実施形態は、システムの冷却動作モード中に、冷媒を複数の熱交換器103の高圧側を通り、流量測定デバイス104、冷却手動遮断弁135、及び流量測定デバイス104が直列に流れ接続する冷却弁112を通って、蒸発器105の入口へ流し、蒸発器105を通して複数の熱交換器103の低圧側に流すステップを含む。システムの圧縮機101の吐出圧力が、冷却動作モード中に最大吐出圧力の記憶された設定点と少なくとも同じ高さになると、アンロード弁130は開放されて、吐出圧力が低下して最大吐出圧力の記憶された設定点よりも小さくなるまで、流量測定デバイス104の周りの冷媒の流れを冷却弁112へバイパスさせる。蒸発器105の入口124又は蒸発器105の出口(133での)は、約-110°C未満の温度にすることができる。最大吐出圧力の記憶される設定点は、システムのバッファ電磁弁116の作動圧力未満にすることができる。
【0041】
133などの1又は2以上のセンサを用いて検知温度信号を提供することができ、この信号はコントローラに提供され、コントローラのメモリに記憶可能な1又は2以上の記憶された温度設定値と比較することができる。センサは、例えば、システム内の1又は2以上の位置(133など)にろう付けされた熱電対とすることができる。例えば、1又は2以上の熱交換器への吐出入口又はそれらからの吐出出口、或いは1又は2以上の熱交換器への吸込み入口又はそれらからの吸込み出口を温度センサの位置として使用することができる。また、いずれかの電磁弁、又は電磁弁の入口又は出口における温度を使用することもできる。一例では、蒸発器の低圧側の、戻し電磁弁114の入口である133における温度Tcが検知される。別の例では、熱電対の代わりに、又は熱電対に加えて、シリコンダイオード又は他の類似デバイスなどの他の温度センサを使用することができる。
【0042】
本明細書に記載する様々な技法は、コントローラを使用して実装され、コンピュータで実行される構成要素を含むことができる。
【0043】
図5は、例えば、図1のコントローラ180として使用することのできるコントローラの簡略化された概略ブロック図である。本明細書で論じた制御技法は、例えば1又は2以上の特定用途向け集積回路(ASIC)582、583を含むことのできる1又は2以上のプロセッサ581を含むコントローラ580などのハードウェアと、コントローラ580の1又は2以上のプロセッサ581上で実行されるアプリケーションソフトウェアと、本明細書に記載するシステムに繋がれているセンサからコントローラ580に電子信号を送出するセンサライン584、585(温度センサ133及び何らかの圧力センサからのセンサラインなど)と、本明細書に記載するシステム内の作動コンポーネントに電子信号を送出するアクチュエータライン586~588(作動弁又は他の制御される構成要素に電子信号を送出するアクチュエータラインなど)と、を用いて実装することができる。また、コントローラ580は、ユーザ入力モジュール589を含むことができ、このモジュールは、記憶された除霜完了設定点温度、記憶されたバイパス制御設定点温度、又は最大吐出圧力の記憶される設定点を設定する制御信号など、設定点温度を与えるためのユーザ入力を受け取る構成要素(キーボード、タッチパッド、並びにプロセッサ581及びメモリ590と接続する関連電子機器など)を含むことができる。コントローラ580は、このような設定点温度を記憶し、コンピュータハードウェア及びソフトウェアの制御下で手順を実行するために、メモリ590を含むこともできる。少なくとも部分的に空気圧式である制御ハードウェアを含む他の制御ハードウェアを使用できることが理解されよう。
【0044】
上述した方法及びシステムの一部は、例えば、本明細書で論じた冷凍システム及び関連部品の制御技法の自動実行を可能にするために、1又は2以上のコンピュータシステムを用いて実装することができる。例えば、ハードウェア、ソフトウェア、又はそれらの組み合わせを用いて、技法を実装することができる。ソフトウェアに実装する場合、ソフトウェアコードは、単一のコンピュータに設けられか、複数のコンピュータ間に分散されるかを問わず、いずれかの適切なプロセッサ又はプロセッサの集合体上で実行することができる。
【0045】
本明細書で引用した全ての特許、公開特許、及び参考文献の教示は、その全体が参照により組み込まれる。
【0046】
例示的な実施形態を詳細に提示して説明してきたが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に包含される実施形態の範囲から逸脱することなく、その中で形態及び細部に様々な変更を加えることができることを理解できるはずである。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】