(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-04
(54)【発明の名称】とろみ付与組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 29/20 20160101AFI20220627BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20220627BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20220627BHJP
A23L 29/238 20160101ALI20220627BHJP
A23L 29/231 20160101ALI20220627BHJP
【FI】
A23L29/20
A23L29/269
A23L29/262
A23L29/238
A23L29/231
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022501602
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(85)【翻訳文提出日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2020012463
(87)【国際公開番号】W WO2020196322
(87)【国際公開日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2019055505
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】外山 義雄
(72)【発明者】
【氏名】神野 暢子
(72)【発明者】
【氏名】グラハム、スウォーン
(72)【発明者】
【氏名】ニール、ヤング
(72)【発明者】
【氏名】カレン、ファルク
【テーマコード(参考)】
4B041
【Fターム(参考)】
4B041LC03
4B041LC10
4B041LD01
4B041LD03
4B041LE01
4B041LH05
4B041LH07
4B041LH10
4B041LH11
4B041LH16
(57)【要約】
本発明は、飲食品にとろみを付与しかつ飲食品の飲み込みやすさを改善する組成物を提供する。より詳細には、本発明は、第1の増粘剤および第2の増粘剤を含んでなる、飲食品にとろみを付与しかつ飲食品の飲み込みやすさを改善するための組成物であって、
第1の増粘剤が1~100S-1のずり速度において擬塑性を示し、
第2の増粘剤が1~100S-1のずり速度においてニュートン様粘性を示し、
第1および第2の増粘剤を等量で併用した場合の増粘効果が、それぞれ単独で使用した場合の増粘効果の相加的レベルまたはそれ以下である、組成物である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の増粘剤および第2の増粘剤を含んでなる、飲食品にとろみを付与しかつ飲食品の飲み込みやすさを改善するための組成物であって、
第1の増粘剤が1~100S
-1のずり速度において擬塑性を示し、
第2の増粘剤が1~100S
-1のずり速度においてニュートン様粘性を示し、
第1および第2の増粘剤を等量で併用した場合の増粘効果が、それぞれ単独で使用した場合の増粘効果の相加的レベルまたはそれ以下である、組成物。
【請求項2】
第1の増粘剤の流動特性を下記式(1)で表す場合、nは-1~-0.7である、請求項1に記載の組成物:
[数1]
P=μD
n (1)
[式中、Pはずり応力(Pa)、Dはずり速度(s
-1)、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数を表す]。
【請求項3】
第1の増粘剤が、キサンタンガム、スクシノグリカンガム、ジェランガム流体ゲルおよび結晶セルロースからなる群から選択される少なくとも一つのものである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
第2の増粘剤の流動特性を下記式(1)で表す場合、nは-0.15~0.15である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物:
[数2]
P=μD
n (1)
[式中、Pはずり応力(Pa)、Dはずり速度(s
-1)、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数を表す]。
【請求項5】
第2の増粘剤が、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、アルギン酸およびペクチンからなる群から選択される少なくとも一つのものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
飲食品との混合物として摂食する、嚥下困難者の摂食補助のための、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
第1の増粘剤と、第2の増粘剤との質量比(第1の増粘剤/第2の増粘剤)が20/80~90/10である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
第1の増粘剤の含有量が15~95質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
第2の増粘剤の含有量が5~85質量%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物と飲食品との混合物全量に対する第1および第2の増粘剤の合計混合量が0.1~3質量%である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物の流動特性を下記式(1)で表し、
Dが0.1以上1以下の場合のnをaとし、Dが1超過100以下の場合のnをbとし、Dが100超過~1000以下の場合のnをcとするとき、
cとbの比(c/b)が1.1以上であり、かつ、bとaの比(b/a)が0.9以下である、請求項2~10のいずれか一項に記載の組成物:
[数3]
P=μD
n (1)
[式中、Pはずり応力(Pa)、Dはずり速度(s
-1)、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数を表す]。
【請求項12】
液状、粉末または顆粒状である、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、2019年3月22日に出願された日本国特許出願2019-055505号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、とろみ付与組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
嚥下困難者には、誤嚥防止を目的として、サラサラの液体にとろみを付与する工夫がなされている。そのとろみの強さは、患者の重症度や嚥下状態によって異なり、医師、言語聴覚士(ST)、栄養士等の専門家が患者個々の動態に合わせてとろみを調整する必要がある。
【0004】
とろみを付与する成分として、例えば、増粘成分であるキサンタンガムがよく用いられている(特許文献1)。しかしながら、キサンタンガムのようなずり流動性が大きい、つまり低いずり速度ほど顕著に高粘度を呈する増粘多糖類を用いたとろみ付与方法では、50s-1という高いずり速度での測定法で設定されている学会のとろみ基準に基づいて粘度を高く調整すると、低ずり速度での粘度が顕著に高まり、口の中や喉の空間を流れにくくなるといった問題があった。特に、サラサラとみずみずしい口当たりのお茶などの飲料に対しては、誤嚥防止の観点から、とろみを付与することは必須であるが、過剰な強いとろみが付与され、口当たりを損なうという問題や、とろみの付与によってかえって飲みにくくなり、喉へ残留するリスクが大きくなるという問題があった。また、とろみの調整は、大変難しいものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
2種類の増粘剤を組み合わせると、しばしば相互作用(相乗作用)が生じて当該2種類の個々の増粘剤の粘度の相加的な粘度を超える粘度を発揮する。本発明者らは、驚くべきことに、1~100s-1のずり速度において擬塑性を示す第1の増粘剤と、1~100s-1のずり速度においてニュートン様粘性を示す第2の増粘剤とを組み合わせると、このような相互作用なく、飲食品に適度なとろみを付与しかつ飲食品の飲み込みやすさが改善されることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0007】
よって、本発明は、飲食品にとろみを付与しかつ飲食品の飲み込みやすさを改善する組成物を提供することを目的とする。
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
<1>第1の増粘剤および第2の増粘剤を含んでなる、飲食品にとろみを付与しかつ飲食品の飲み込みやすさを改善するための組成物であって、第1の増粘剤が1~100S-1のずり速度において擬塑性を示し、第2の増粘剤が1~100S-1のずり速度においてニュートン様粘性を示し、第1および第2の増粘剤を等量で併用した場合の増粘効果が、それぞれ単独で使用した場合の増粘効果の相加的レベルまたはそれ以下である、組成物。
<2>第1の増粘剤の流動特性を下記式(1)で表す場合、nは-1~-0.7である、<1>に記載の組成物:
[数1]
P=μDn (1)
[式中、Pはずり応力(Pa)、Dはずり速度(s-1)、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数を表す]。
<3>第1の増粘剤が、キサンタンガム、スクシノグリカンガム、ジェランガム流体ゲルおよび結晶セルロースからなる群から選択される少なくとも一つのものである、<1>または<2>に記載の組成物。
<4>第2の増粘剤の流動特性を下記式(1)で表す場合、nは-0.15~0.15である、<1>~<3>のいずれかに記載の組成物:
[数2]
P=μDn (1)
[式中、Pはずり応力(Pa)、Dはずり速度(s-1)、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数を表す]。
<5>第2の増粘剤が、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、アルギン酸およびペクチンからなる群から選択される少なくとも一つのものである、<1>~<4>のいずれかに記載の組成物。
<6>飲食品との混合物として摂食する、嚥下困難者の摂食補助のための、<1>~<5>のいずれかに記載の組成物。
<7>第1の増粘剤と、第2の増粘剤との質量比(第1の増粘剤/第2の増粘剤)が20/80~90/10である、<1>~<6>のいずれかに記載の組成物。
<8>第1の増粘剤の含有量が15~95質量%である、<1>~<7>のいずれかに記載の組成物。
<9>第2の増粘剤の含有量が5~85質量%である、<1>~<8>のいずれかに記載の組成物。
<10>前記組成物と飲食品との混合物全量に対する第1および第2の増粘剤の合計混合量が0.1~3質量%である、<1>~<9>のいずれかに記載の組成物。
<11>前記組成物の流動特性を下記式(1)で表し、Dが0.1以上1以下の場合のnをaとし、Dが1超過100以下の場合のnをbとし、Dが100超過~1000以下の場合のnをcとするとき、cとbの比(c/b)が1.1以上であり、かつ、bとaの比(b/a)が0.9以下である、<2>~<10>のいずれかに記載の組成物:
[数3]
P=μDn (1)
[式中、Pはずり応力(Pa)、Dはずり速度(s-1)、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数を表す]。
<12>液状、粉末または顆粒状である、<1>~<11>のいずれかに記載の組成物。
【0009】
本発明の組成物によって、飲食品にとろみを付与しかつ飲食品の飲み込みやすさを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】キサンタンガムおよび/またはセルロースガムBEV150の流体特性のグラフを示す。X軸がずり速度(s
-1)、Y軸が粘度(Pa・s)を示す。黒三角の実線グラフがブレンド0-80を、黒菱形の実線グラフがブレンド4を、黒四角の実線グラフがブレンド11を、+記号の実線グラフがブレンド2を、白三角の実線グラフがブレンド3を、白菱形の実線グラフがブレンド15を、×記号の実線グラフがBEV150をそれぞれ表す。
【
図2】キサンタンガムおよび/またはセルロースガムBEV130の流体特性のグラフを示す。X軸がずり速度(s
-1)、Y軸が粘度(Pa・s)を示す。黒三角の実線グラフがブレンド0-80を、黒菱形の実線グラフがブレンド12を、黒四角の実線グラフがブレンド5を、+記号の実線グラフがブレンド8を、白三角の実線グラフがブレンド13を、白菱形の実線グラフがブレンド19を、×記号の実線グラフがBEV130をそれぞれ表す。
【
図3】トロミ付与組成物(キサンタンガムおよびカルボキシメチルセルロース)の流体特性のグラフを示す。X軸がずり速度(s
-1)、Y軸が粘度(Pa・s)を示す。実線がブレンド0-80を、点線がブレンド3をそれぞれ表す。また、グレーで色づけをしている面が、ブレンド116~131のグラフがプロットされる領域を表す。
【
図4A】ブレンド121の流体特性のグラフを示す。X軸がずり速度(s
-1)、Y軸が粘度(Pa・s)を示す。+記号の実線グラフがブレンド121を、黒丸の破線グラフがブレンド3を、黒三角の実線グラフがブレンド0-80をそれぞれ表す。
【
図4B】ブレンド125の流体特性のグラフを示す。X軸がずり速度(s
-1)、Y軸が粘度(Pa・s)を示す。+記号の実線グラフがブレンド125を、黒丸の破線グラフがブレンド3を、黒三角の実線グラフがブレンド0-80をそれぞれ表す。
【
図4C】ブレンド127の流体特性のグラフを示す。X軸がずり速度(s
-1)、Y軸が粘度(Pa・s)を示す。+記号の実線グラフがブレンド127を、黒丸の破線グラフがブレンド3を、黒三角の実線グラフがブレンド0-80をそれぞれ表す。
【
図4D】ブレンド128の流体特性のグラフを示す。X軸がずり速度(s
-1)、Y軸が粘度(Pa・s)を示す。+記号の実線グラフがブレンド128を、黒丸の破線グラフがブレンド3を、黒三角の実線グラフがブレンド0-80をそれぞれ表す。
【
図5A】ブレンド0-80から得られた水溶液の非ニュートン粘性指数(流動性指数)のグラフある。X軸がずり速度(s
-1)、Y軸がずり応力(Pa)を示す。黒菱形がずり速度0.1~1s
-1の範囲のプロット、黒四角がずり速度1~100s
-1の範囲のプロット、黒三角がずり速度100~1000s
-1の範囲のプロットをそれぞれ表す。
【
図5B】BEV130から得られた水溶液の非ニュートン粘性指数(流動性指数)のグラフある。X軸がずり速度(s
-1)、Y軸がずり応力(Pa)を示す。黒菱形がずり速度0.1~1s
-1の範囲のプロット、黒四角がずり速度1~100s
-1の範囲のプロット、黒三角がずり速度100~1000s
-1の範囲のプロットをそれぞれ表す。
【
図5C】ブレンド19から得られた水溶液の非ニュートン粘性指数(流動性指数)のグラフある。X軸がずり速度(s
-1)、Y軸がずり応力(Pa)を示す。黒菱形がずり速度0.1~1s
-1の範囲のプロット、黒四角がずり速度1~100s
-1の範囲のプロット、黒三角がずり速度100~1000s
-1の範囲のプロットをそれぞれ表す。
【
図6】トロミ付与組成物(キサンタンガムおよびアルギン酸)の流体特性のグラフを示す。X軸がずり速度(s
-1)、Y軸が粘度(Pa・s)を示す。黒三角の実線グラフがブレンド0-80を、黒菱形の実線グラフがXG/BEV130を、黒四角の実線グラフがXG/アルギン酸を、×記号の実線グラフがBEV130を、+記号の実線グラフがアルギン酸を、それぞれ表す。
【
図7】トロミ付与組成物(スクシノグリカンおよびカルボキシメチルセルロース)から得られた水溶液の流体特性のグラフを示す。X軸がずり速度(s
-1)、Y軸が粘度(Pa・s)を示す。黒三角の実線グラフがスクシノグリカンを、黒菱形の実線グラフがブレンド34を、黒四角の実線グラフがブレンド36を、黒丸の実線グラフがブレンド37を、×記号の実線グラフがBEV130を、それぞれ表す。
【
図8】トロミ付与組成物(ブレンド3、121、125、127、128、0-80)から得られた水溶液の官能評価スコアの統計解析結果のスパイダーダイヤグラムを示す。黒三角の実線グラフがブレンド0-80を、黒菱形の実線グラフがブレンド3を、黒四角の実線グラフがブレンド128を、黒丸の実線グラフがブレンド127を、+記号の実線グラフがブレンド125を、×記号の実線グラフがブレンド121をそれぞれ表す。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明の一つの態様によれば、第1の増粘剤および第2の増粘剤を含んでなる、飲食品にとろみを付与しかつ飲食品の飲み込みやすさを改善するための組成物が提供される。
【0012】
第1の増粘剤
本発明に用いられる第1の増粘剤とは、1~100s-1のずり速度において擬塑性を示す増粘剤を意味する。ここで、擬塑性は、非ニュートン性の1種であり、非ニュートン性とは、ずり応力とずり速度がニュートンの粘性法則に従わない流体の流動特性をいう。擬塑性の流体では、ずり応力は、ずり速度の増加とともにその増加割合が減少し、粘度は、ずり速度に応じて変化する。第1の増粘剤の擬塑性(ずり応力とずり速度の関係)は、当業者に周知の市販の粘弾性測定装置を用いた、少なくとも2点のずり速度と、当該ずり速度における粘度から算出できるずり応力との関係から導かれる非ニュートン粘性指数(流動性指数ともいう)のグラフにより決定される。ずり応力(Pa)は、粘度(Pa・s)にずり速度(1/s)を積算して算出することができるが、自動計算機能を搭載した市販の粘弾性測定装置の表示されたずり応力の値を使用してもよい。具体的には、第1の増粘剤の擬塑性は、後述する実施例に示される方法により決定することができる。
【0013】
本発明に用いられる第1の増粘剤としては、1~100s-1のずり速度において擬塑性を示すものであればいずれも使用することができる。常法に従って微生物を用いて生産したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。例えば、食品添加物用に市販されている、該擬塑性を示す増粘剤を使用できる。これらの増粘剤は、1種を用いても2種以上を組合せて用いてもよい。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、本発明に用いられる第1の増粘剤の流動特性を下記式(1)で表す場合、nは-1~-0.7である:
[数4]
P=μDn(1)
[式中、Pはずり応力(Pa)、Dはずり速度(s-1)、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数を表す]。
【0015】
上記式(1)は、粘性式ともいい、式(1)において、粘度(25℃、Pa・s)は、粘弾性測定装置:MCR501レオメーター(アントンパール社)を用いて測定することができる(後述する例1参照)。本発明では、非ニュートン流体の粘度は、ずり速度に応じて変化する。従って、本発明では、本発明の組成物の流動特性を、少なくとも2点のずり速度と、当該ずり速度における粘度から算出できるずり応力との関係から導かれる非ニュートン粘性指数(流動性指数ともいう)nの範囲により表現する。例えば、測定を行うずり速度域は、装置に応じて0.1~100/s、1~100/sといった範囲まで広げることができるが、この範囲は適宜調整することができる。また、ずり応力(Pa)は、粘度(Pa・s)にずり速度(1/s)を積算して算出することができるが、自動計算機能を搭載した市販の粘弾性測定装置の表示されたずり応力の値を使用してもよい。
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、本発明に用いられる第1の増粘剤は、キサンタンガム、スクシノグリカンガム、ジェランガムおよび結晶セルロースからなる群から選択され、より好ましくはキサンタンガムである。これらの増粘剤は、1種を用いても2種以上を組合せて用いてもよい。
【0017】
キサンタンガムは、デンプン等の糖類をXabthomonas campestrisにより発酵することで生産することができる多糖類である。キサンタンガムは、常法に従って微生物を用いて生産したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、サンエース(三栄源エフ・エフ・アイ社)、ケルトロール(CPケルコ社)、エコーガム(DSP五協フード&ケミカル)、GRINDSTED Xanthan Clear80(デュポン社)、GRINDSTED Xanthan MAS-SH clear(デュポン社)が挙げられる。
【0018】
スクシノグリカンガムは、デンプン等の糖類をAgrobacterium tumefaciensにより発酵することで生産することができる多糖類である。スクシノグリカンガムは、常法に従って微生物を用いて生産したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、GRINDSTED スクシノグリカンJ(デュポン社)、を用いることができる。
【0019】
ジェランガムとは、Sphingomonas elodeaにより生産することができる多糖類であり、高アシル基含有のHAジェランガムおよびアシル基を除去したLAジェランガムが包含される。ジェランガムは、常法に従って生産したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えばKELCOGELLT100(CPケルコ社)、Kelcogel HMB-P(CPケルコ社)、KELCOGELHT(CPケルコ社)、GELLAN NM 205(デュポン社)、およびGellan Gum DAI90(デュポン社)を用いることができる。
【0020】
結晶セルロースとは、α-セルロースを酸で部分的に解重合して生成したものである。結晶セルロースは、常法に従って生産したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、GRINDSTED MCC(デュポン社)、セオラス(旭化成社)を用いることができる。
【0021】
第2の増粘剤
本発明に用いられる第2の増粘剤は、1~100s-1のずり速度においてニュートン様粘性を示す増粘剤を意味する。ここで、ニュートン様粘性とは、ニュートン流体とほぼ同じ近い特性を示すものである。ニュートン性とは、ずり応力とずり速度との関係がニュートンの粘性法則に従う流体の流動特性、すなわち、ずり速度に関わりなく粘度が一定となる特性をいう。よって、ニュートン様粘性の流体の粘度は、粘度曲線で表すと、ずり速度に対して、ほぼ一定(水平な直線)とすることができる。第2の増粘剤のニュートン様粘性(ずり応力とずり速度の関係)は、当業者に周知の市販の粘弾性測定装置を用いた、少なくとも2点のずり速度と、当該ずり速度における粘度から算出できるずり応力との関係から導かれる非ニュートン粘性指数(流動性指数ともいう)のグラフにより決定される。ずり応力(Pa)は、粘度(Pa・s)にずり速度(1/s)を積算して算出することができるが、自動計算機能を搭載した市販の粘弾性測定装置の表示されたずり応力の値を使用してもよい。具体的には、第2の増粘剤のニュートン様粘性は、後述する実施例に示される方法により決定することができる。
【0022】
本発明に用いられる第2の増粘剤としては、1~100s-1のずり速度においてニュートン様粘性を示すものであればいずれも使用することができる。常法に従って微生物を用いて生産したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。例えば、食品添加物用に市販されている、該ニュートン様粘性を示す増粘剤を使用できる。これらの増粘剤は、1種を用いても2種以上を組合せて用いてもよい。
【0023】
本発明の好ましい態様によれば、本発明に用いられる第2の増粘剤の流動特性を上記式(1)で表す場合、nは、例えば、-0.6~0.15、より好ましくは-0.15~0.15、さらに好ましくは-0.1~0.1、さらに好ましくは-0.05~0.05である。第2の増粘剤は、nが0付近であることが好ましい。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、本発明に用いられる第2の増粘剤は、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸およびペクチンからなる群から選択され、好ましくはカルボキシメチルセルロースである。これらの増粘剤は、1種を用いても2種以上を組合せて用いてもよい。第2の増粘剤は、ニュートン様粘性を有するため、水溶液状態であっても粘性に関係なく用いることができる観点から、増粘剤の平均分子量は制限されず、例えば、平均分子量5000~10000000の増粘剤を用いることができる。
【0025】
カルボキシメチルセルロース(CMCあるいはセルロースガムともいう)は、セルロースの誘導体である。カルボキシメチルセルロースは、従来、トロミ付与を目的として用いられてこなかった成分である。市販品のカルボキシメチルセルロースとしては、サンローズ(日本製紙社)、セロゲンF(第一工業製薬社)、CMCダイセル(ダイセルファインケム社)、GRINDSTED BEV130(デュポン社)、GRINDSTED BEV150(デュポン社)、GRINDSTED BEV350(デュポン社)が挙げられ、好ましくは、GRINDSTED BEV130(デュポン社)(低粘度:2%、800~1600mPa.s)、GRINDSTED BEV150(デュポン社)(中粘度:1%、1500~3500mPa.s)、GRINDSTED BEV350(デュポン社)(高粘度:1%、3000~5000mPa.s)である。
【0026】
アルギン酸は、褐藻由来の多糖類であり、例えば、キミカアルギン(キミカ社)を用いることができる。
【0027】
ペクチンは、複合多糖類であり、例えば、GRINDSTED PECTIN(デュポン社)を用いることができる。
【0028】
本発明の組成物は、第1の増粘剤および第2の増粘剤を含んでなる。一実施態様によれば、上記組成物中で第1および第2の増粘剤を等量で併用した場合の増粘効果が、それぞれ単独で使用した場合の増粘効果の相加的レベルまたはそれ以下である。
【0029】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の組成物の第1の増粘剤と第2の増粘剤との組合せは、キサンタンガムとカルボキシメチルセルロース、キサンタンガムとアルギン酸、スクシノグリカンガムとカルボキシメチルセルロースであり、より好ましくはキサンタンガムとカルボキシメチルセルロースである。
【0030】
本発明の好ましい態様によれば、第1の増粘剤と、第2の増粘剤との質量比(第1の増粘剤/第2の増粘剤)は、20/80~90/10、より好ましくは30/70~85/15、さらに好ましくは30/70~80/20、さらに好ましくは30/70~60/40、特により好ましくは40/60~60/40である。
【0031】
本発明の好ましい態様によれば、第1の増粘剤の含有量は15~95質量%であり、より好ましくは20~90質量%、さらに好ましくは20~85質量%、さらに好ましくは20~70重量%、特により好ましくは30~70質量%である。
【0032】
本発明の好ましい態様によれば、第2の増粘剤の含有量は5~85質量%であり、より好ましくは10~80質量%、さらに好ましくは15~80質量%、さらに好ましくは30~80重量%、特により好ましくは30~70質量%である。
【0033】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の組成物の流動特性を上記式(1)で表し、Dが0.1以上1以下の場合のnをaとし、Dが1超過100以下の場合のnをbとし、Dが100超過~1000以下の場合のnをcとするとき、cとbの比(c/b)が1.1以上であり、かつ、bとaの比(b/a)が0.9以下である。
【0034】
本発明の組成物の流動特性(ずり応力とずり速度の関係)は、当業者に周知の市販の粘弾性測定装置を用いた、少なくとも2点のずり速度と、当該ずり速度における粘度から算出できるずり応力との関係から導かれる非ニュートン粘性指数(流動性指数ともいう)のグラフにより決定される。ずり応力(Pa)は、粘度(Pa・s)にずり速度(1/s)を積算して算出することができるが、自動計算機能を搭載した市販の粘弾性測定装置の表示されたずり応力の値を使用してもよい。具体的には、本発明の組成物の流動特性は、後述する実施例に示される方法により決定することができる。
【0035】
本発明の組成物は、1~100s-1のずり速度において擬塑性を示す第1の増粘剤と、1~100s-1のずり速度においてニュートン様粘性を示す第2の増粘剤とを組み合わせることで、適度な粘性を付与すると同時に、飲食品の飲み込みやすさを改善することができる。飲食品の飲み込みやすさは、飲食品を摂取した際の官能評価試験によってスコア化することができ、その結果は後述する例4の方法によって得ることができる。
【0036】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の組成物は、飲食品との混合物として摂食する、嚥下困難者の摂食補助のための組成物である。
【0037】
嚥下困難者とは、嚥下機能が低下している者をいう。嚥下困難者は、嚥下時に飲食品が誤って気管に流入する、いわゆる誤嚥が生じやすく、その結果、肺炎や窒息死等を招きやすい。嚥下困難は、脳卒中、脳損傷、口腔がんまたは咽頭がんの手術の急性事象の結果や神経系疾患の患者の他、嚥下機能が低下した高齢者にも多く確認される。
【0038】
嚥下困難者の摂食補助用組成物とは、摂食可能な飲食品に混合して使用することにより、嚥下困難者が、当該飲食品の摂取を容易にするための組成物(摂取を補助する組成物)をいう。本発明の組成物を、飲食品と混合することにより、飲食品、特に飲料に適度なとろみを付与し、誤嚥しにくいとろみが付与された飲食品、すなわち、嚥下困難者が摂取しやすい飲食品を得ることができる。
【0039】
飲食品とは、医薬品以外のものであって、溶液、懸濁液、乳濁液、粉末、固体成形物など、経口摂取可能な形態であればよく特に限定されない。具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、パン粉などの小麦粉製品、ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品などが挙げられる。本発明に用いられる飲食品は、本発明の組成物が、さらさらとみずみずしい口当たりを残しつつ、適度なとろみを付与できる点で、飲料であることが好ましい。
【0040】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の組成物と飲食品との混合物全量に対する第1および第2の増粘剤の合計混合量が0.1~3質量%であり、より好ましくは0.4~2質量%であり、さらに好ましくは0.5~1.5質量%である。
【0041】
本発明の組成物の形状は、飲食品と混合が容易な形状であれば特に制限されず、液状、粉末または顆粒状であってもよい。本発明の好ましい態様によれば、飲料にもだまにならずに素早く撹拌できる観点から、液状である。
【0042】
本発明の別の態様によれば、飲食品にとろみを付与しかつ飲み込みやすさを改善するための組成物の製造方法であって、
下記式2~4を満たすように前記組成物のずり応力およびずり速度を調節すること
を含んでなる、方法が提供される:
[数5]
y=0.1889x-0.521(xは0.1以上1以下である)(2)
y=0.194x-0.19(xは1超過100以下である)(3)
y=0.3808x-0.328(xは100超過1000以下である)(4)
(式中、yはずり応力(Pa)、xはずり速度(S-1)を示す)。
【0043】
本発明の別の態様によれば、下記式2~4を満たすずり応力およびずり速度を有する組成物を飲食品に添加すること、を含んでなる、飲食品にとろみを付与しかつ飲み込みやすさを改善する方法が提供される:
[数6]
y=0.1889x-0.521(xは0.1以上1以下である)(2)
y=0.194x-0.19(xは1超過100以下である)(3)
y=0.3808x-0.328(xは100超過1000以下である)(4)
(式中、yはずり応力(Pa)、xはずり速度(S-1)を示す)。
【0044】
本発明の別の態様によれば、第1の増粘剤および第2の増粘剤を含んでなる組成物を飲食品に添加すること、を含んでなる、飲食品にとろみを付与しかつ飲食品の飲み込みやすさを改善する方法であって、第1の増粘剤が1~100S-1のずり速度において擬塑性を示し、第2の増粘剤が1~100S-1のずり速度においてニュートン様粘性を示す、方法が提供される。
【0045】
本発明の別の態様によれば、第1の増粘剤および第2の増粘剤を含んでなる組成物と飲食品との混合物を嚥下困難者に摂食させることを含んでなる、嚥下困難者の摂食を補助する方法であって、第1の増粘剤が1~100S-1のずり速度において擬塑性を示し、第2の増粘剤が1~100S-1のずり速度においてニュートン様粘性を示す、方法が提供される。ここで、本発明の別の好ましい態様によれば、上記方法はヒトに対する医療行為を除くものとされる。
【0046】
本発明の別の態様によれば、飲食品との混合物として摂食する、嚥下困難者の摂食補助のための組成物の製造における、第1の増粘剤および第2の増粘剤の組み合わせ物の使用であって、第1の増粘剤が1~100S-1のずり速度において擬塑性を示し、第2の増粘剤が1~100S-1のずり速度においてニュートン様粘性を示す、使用が提供される。
【0047】
本発明の別の態様によれば、飲食品にとろみを付与しかつ飲食品の飲みやすさを改善するための組成物の製造における、第1の増粘剤および第2の増粘剤の組み合わせ物の使用であって、第1の増粘剤が1~100S-1のずり速度において擬塑性を示し、第2の増粘剤が1~100S-1のずり速度においてニュートン様粘性を示す、使用が提供される。
【0048】
本発明の別の態様によれば、飲食品との混合物として摂食する、嚥下困難者の摂食補助のための、第1の増粘剤および第2の増粘剤の組み合わせ物であって、第1の増粘剤が1~100S-1のずり速度において擬塑性を示し、第2の増粘剤が1~100S-1のずり速度においてニュートン様粘性を示す、組み合わせ物が提供される。
【0049】
本発明の別の態様によれば、飲食品にとろみを付与しかつ飲食品の飲みやすさを改善するための、第1の増粘剤および第2の増粘剤の組み合わせ物であって、第1の増粘剤が1~100S-1のずり速度において擬塑性を示し、第2の増粘剤が1~100S-1のずり速度においてニュートン様粘性を示す、組み合わせ物が提供される。
【0050】
本発明の別の態様によれば、飲食品との混合物として摂食する、嚥下困難者の摂食補助のための、第1の増粘剤および第2の増粘剤の組み合わせ物の使用であって、第1の増粘剤が1~100S-1のずり速度において擬塑性を示し、第2の増粘剤が1~100S-1のずり速度においてニュートン様粘性を示す、使用が提供される。本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明の使用は、非治療的使用とされる。
【0051】
本発明の別の態様によれば、飲食品にとろみを付与しかつ飲食品の飲みやすさを改善するための、第1の増粘剤および第2の増粘剤の組み合わせ物の使用であって、第1の増粘剤が1~100S-1のずり速度において擬塑性を示し、第2の増粘剤が1~100S-1のずり速度においてニュートン様粘性を示す、使用が提供される。
【0052】
上記の方法、使用、組み合わせ物の態様はいずれも、本発明の組成物に関する記載に準じて実施することができる。
【実施例】
【0053】
例1:キサンタンガムおよびセルロースガムを含んでなるトロミ付与組成物
(1)流体特性(フローカーブ)の測定
下記表1の配合で、それぞれのトロミ付与組成物を調製した。キサンタンガムは、GRINDSTED Xanthan clear 80(デュポン社)、GRINDSTED Xanthan MAS―SH clear(デュポン社)を用いた。セルロースガム(カルボキシメチルセルロース)は、GRINDSTED BEV130(デュポン社)(低粘度:2%、800~1600mPa.s)、GRINDSTED BEV150(デュポン社)(中粘度:1%、1500~3500mPa.s)、GRINDSTED BEV350(デュポン社)(高粘度:1%、3000~5000mPa.s)を用いた。
【0054】
【0055】
ブレンド0-80、2~5、8、11~13、15および19のトロミ付与組成物については、含有成分(キサンタンガムおよび/またはセルロースガム)の質量が溶液全体の総質量に対して1質量%となるように、該含有成分を脱イオン水に溶解した。得られた水溶液の流体特性(ずり速度と粘度との関係)を、粘弾性測定装置:MCR501レオメーター(アントンパール社)を用いて測定した。具体的には、粘度(25℃、Pa・s)は、直径25mmコーンプレートを用いて、GAP1mm、25℃、ずり速度0.1~1000/sの条件で測定した。
【0056】
得られた水溶液の中で、セルロースガムとしてBEV150を用いた水溶液についての測定結果を
図1に、BEV130を用いた水溶液についての測定結果を
図2に示す。本発明の組成物例(ブレンド2~5、8、11~13、15および19)から得られた水溶液は全て、比較対照例であるブレンド0-80(キサンタンガムのみ)とは異なる流体特性を示し、具体的には、ブレンド0-80の場合と比較して、低いずり速度の範囲(0.1~10s
-1)では、粘度の減少傾向が見られた。
【0057】
ブレンド0-80、3および116~131のトロミ付与組成物については、含有成分(キサンタンガムおよび/またはセルロースガム)の質量が溶液全体の総質量に対して0.6質量%となるように、該含有成分を脱イオン水に溶解した。得られた水溶液の流体特性を、同様に、粘弾性測定装置:MCR501レオメーター(アントンパール社)を用いて測定した。
【0058】
測定結果を
図3に示す。また、ブレンド121、125、127、128から得られた水溶液の個別の測定結果を
図4A~4Dに示す。
【0059】
図3および4A~Dに示されるように、本発明の組成物例(ブレンド3、116~131)から得られた水溶液は全て、ブレンド0-80(キサンタンガムのみ)と比較して、低いずり速度の範囲(0.1~10s
-1)では、粘度の減少傾向が見られた。
【0060】
(2)非ニュートン粘性指数(流動性指数)の評価
ブレンド0-80、BEV130およびブレンド19から得られた水溶液の流体特性の各測定値に基づいて、下記式(1):
[数7]
P=μDn (1)
[式中、Pはずり応力(Pa)、Dはずり速度(s-1)、μは非ニュートン粘性係数、nは非ニュートン粘性指数を表す]
の粘性式にあてはめ(ずり応力(Pa)は粘度(Pa・s)にずり速度(s-1)を乗じて算出したものをあてはめた)、非ニュートン粘性指数(流動性指数)nの評価を行った。また、以下の表2の成分配合に従い調製したBEV150、ブレンド9、2、3、6、11、10、5、1、8、7、20、13および14から得られた水溶液の流体特性の各測定値に基づいて、上記式(1)の粘性式にあてはめ、非ニュートン粘性指数(流動性指数)nの評価を行った。
【0061】
ブレンド0-80、BEV130およびブレンド19の結果を
図5A~5Cに示す。これらと同様に評価したBEV150、ブレンド9、2、3、6、11、10、5、1、8、7、20、13および14の結果を、ブレンド0-80、BEV130および19ブレンドの結果と共に表2に示す。
【表2】
【0062】
ブレンド9、2、3、6、11、10、5、1、8、7、20、13、19および14についての上記の結果より、ずり速度(s-1)が0.1以上1以下の場合のnをaとし、ずり速度が1超過100以下の場合のnをbとし、ずり速度が100超過~1000以下の場合のnをcとするとき、cとbの比(c/b)が1.1以上であり、かつ、bとaの比(b/a)が0.9以下である関係であることが判明した。
【0063】
例2:キサンタンガムおよびアルギン酸を含んでなるトロミ付与組成物
セルロースガムの代わりにアルギン酸を用いた試験区を追加して、上記例1(1)の方法に基づいて、下記表3に記載のトロミ付与組成物を調製した。アルギン酸は、GRINDSTED アルギン酸(デュポン社)を用いた。
【0064】
【0065】
各トロミ付与組成物については、含有成分(キサンタンガムおよび/またはアルギン酸)の質量が溶液全体の総質量に対して1質量%となるように、該含有成分を脱イオン水に溶解した。得られた水溶液の流体特性(ずり速度と粘度との関係)を、上記例1の(1)の方法に従って、粘弾性測定装置:MCR501レオメーター(アントンパール社)を用いて測定した。
【0066】
【0067】
XG/Alginate(キサンタンガムとアルギン酸とからなる組成物)は、ブレンド0-80(キサンタンガムのみ)とは異なる流体特性を示し、具体的には低いずり速度の範囲(0.1~10s-1)では、粘度の減少傾向が見られた。
【0068】
例3:スクシノグリカンおよびセルロースガムを含んでなるトロミ付与組成物
キサンタンガムの代わりにスクシノグリカンガムを用いた試験区を追加して、上記例1(1)の方法に基づいて、下記表4に記載のトロミ付与組成物を調製した。スクシノグリカンガムは、GRINDSTED スクシノグリカンJ(デュポン社)を用いた。
【0069】
【0070】
各トロミ付与組成物については、含有成分(スクシノグリカンおよび/またはセルロースガム)の質量が溶液全体の総質量に対して1質量%となるように、該含有成分を脱イオン水に溶解した。得られた水溶液の流体特性(ずり速度と粘度との関係)を、上記例1(1)の方法に従って、粘弾性測定装置:MCR501レオメーター(アントンパール社)を用いて測定した。
【0071】
【0072】
本発明の組成物例(ブレンド34~37)は全て、スクシノグリカン(スクシノグリカンのみ)とは異なる流体特性を示し、具体的には低いずり速度の範囲(0.1~10s-1)では、粘度の減少傾向が見られた。
【0073】
例4:官能評価
例1で得られたトロミ付与組成物(ブレンド3、121、125、127、128、0-80)について、官能評価を行った。
【0074】
官能評価は、ISO13299「官能分析―方法論-官能プロファイルを確立するための一般手引」に基づいて下記表5の官能特性の記述中の11項目で、8名のパネリスト(健常人)で3回ずつおこなった。
【0075】
【0076】
得られた官能評価スコアを、分散分析法(ANOVA)およびフィッシャーの最小有意差法(Fisher’s LSD)にて解析した結果を表6に示す。
【0077】
【0078】
また、官能評価スコアの統計解析結果を官能スパイダーダイヤグラムで示した(
図8)。ポジティブ項目は左側に、ネガティブ項目は右側に示されている。
【0079】
表6および
図8に示されるように、本発明の組成物例(ブレンド3、121、125、127、128)は、飲み込みやすさ、舌への伸展性、総合的な飲み込みやすさ、みずみずしさが、ブレンド0-80(キサンタンガムのみ)と比較して、好ましいものであった。特に、ブレンド128は、飲み込みやすさ、舌への伸展性、総合的な飲み込みやすさ、みずみずしさが、最も改善されていた。
【国際調査報告】