(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-22
(54)【発明の名称】顔料組成物、印刷インキ、及び顔料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09B 67/20 20060101AFI20220714BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20220714BHJP
C09B 35/10 20060101ALN20220714BHJP
C09B 35/033 20060101ALN20220714BHJP
【FI】
C09B67/20 K
C09B67/20 E
C09D11/037
C09B35/10
C09B35/033
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021536689
(86)(22)【出願日】2020-06-28
(85)【翻訳文提出日】2021-06-22
(86)【国際出願番号】 CN2020098546
(87)【国際公開番号】W WO2022000130
(87)【国際公開日】2022-01-06
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】増子 一成
(72)【発明者】
【氏名】保坂 正喜
(72)【発明者】
【氏名】岡田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】小林 永年
(72)【発明者】
【氏名】ジ スメイ
(72)【発明者】
【氏名】リョウ シヤン
(72)【発明者】
【氏名】ザオ ウェイ
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039BE01
4J039EA17
4J039GA02
4J039GA03
4J039GA04
(57)【要約】
【課題】 本発明が解決しようとする課題は、第一級芳香族アミン(PAA)とともにポリ塩化ビフェニル(PCB)の含有量を削減したジスアゾ顔料を提供することである。
【解決手段】 本発明は、ジスアゾ顔料と、炭素数8以上のアルキル基を有するアルキルアミンと、炭素数8以上のアルキル基を有するポリ(オキシエチレン)アルキルエステルと、を含む顔料組成物を提供する。また、前記ジスアゾ顔料がC.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー13、及びC.I.ピグメントイエロー14からなる群より選ばれる少なくとも1つのジスアゾ顔料を含むことが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジスアゾ顔料と、炭素数8以上のアルキル基を有するアルキルアミンと、炭素数8以上のアルキル基を有するポリ(オキシエチレン)アルキルエステルと、を含む顔料組成物。
【請求項2】
前記ジスアゾ顔料がC.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー13、及びC.I.ピグメントイエロー14からなる群より選ばれる少なくとも1つのジスアゾ顔料を含む請求項1に記載の顔料組成物。
【請求項3】
前記ポリ(オキシエチレン)アルキルエステルの含有量が、顔料組成物全量に対して、1.0~8.0質量%である請求項1又は2に記載の顔料組成物。
【請求項4】
前記アルキルアミンが、オクタデシルアミン又はN,N-ジメチルオクタデシルアミンである請求項1~3のいずれか1項に記載の顔料組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の顔料組成物を含む印刷インキ。
【請求項6】
ジアゾ成分とカップラー成分とを、炭素数8以上のアルキル基を有するアルキルアミンと炭素数8以上のアルキル基を有するポリ(オキシエチレン)アルキルエステルの存在下で、カップリング反応をすることによりジスアゾ顔料を含む顔料組成物を得る、顔料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジスアゾ顔料を含む顔料組成物、それを含む印刷インキ、及び顔料組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセットやグラビア印刷などのプロセスインキにおいてイエローインキは、マゼンタ、シアンとともに重要である。このようなイエローインキに使用される黄色顔料としては、着色力、透明性、色相、彩度などに優れるジスアゾ顔料が多く使用されている。
【0003】
ジスアゾ顔料は、原料の残留物や分解生成物として、ポリ塩化ビフェニル(PCB)や第一級芳香族アミン(PAA)を含有する場合がある。これらの化学物質を含む場合、用途によっては安全性の懸念があるため規制対象となっている。特に食品包装分野では、これらの有害な化学物質が包材を通過したり、裏移りなどにより包材から食品等の内容物に移行することが懸念されている。
【0004】
PAAを削減する方法としては、下記特許文献1に記載の方法が知られている。特許文献1では、アゾ顔料スラリー中の残留PAAを誘導化、カプセル化することによりPAA含有量を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようにPAAを削減する方法は知られているが、PAAとともにPCBを削減する方法は知られていない。本発明の課題は、PAAとともにPCBの含有量を削減したジスアゾ顔料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ジスアゾ顔料においてPAAやPCBが生成するメカニズムを検討した結果、ジスアゾ顔料の合成過程において特定のアルキルアミンとポリ(オキシエチレン)アルキルエステルとを併用することにより、PAAとともにPCBの含有量を削減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明における詳細なメカニズムは以下のとおりと考えられる。ジスアゾ顔料は、テトラゾとカップラーの反応により合成される。テトラゾはアミンから生成されるが、テトラゾは不安定であるため、テトラゾ生成後速やかにカップラーと反応しない場合、テトラゾが分解してしまいテトラゾ分解物が発生する。このテトラゾ分解物は、カップラーと反応しないためカップラー残留物が増加する。これらのテトラゾ分解物やカップラー残留物がPCBやPAAを発生させる要因となる。ここでテトラゾの反応速度に対しては、反応液中のカップラーの分散性が大きな影響を及ぼす。カップラーの分散性が低い場合、反応液への溶解量が減少するためテトラゾの反応速度が小さくなる。そこで、親水基と疎水基を有する両親媒性の特定のアルキルアミンとポリ(オキシエチレン)アルキルエステルとを含むことによりカップラーの分散性を向上することができると考えられる。特に、アルキルアミンは、濡れ性を向上し、カップラーの凝集粒子を解きほぐす。また、ポリ(オキシエチレン)アルキルエステルは、解きほぐされたカップラーの分散粒子を安定化させる。これら2種の併用により、分散性を大きく向上させることが可能と考える。
【0009】
即ち本発明は、
『項1. ジスアゾ顔料と、炭素数8以上のアルキル基を有するアルキルアミンと、炭素数8以上のアルキル基を有するポリ(オキシエチレン)アルキルエステルと、を含む顔料組成物。
項2. 前記ジスアゾ顔料がC.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー13、及びC.I.ピグメントイエロー14からなる群より選ばれる少なくとも1つのジスアゾ顔料を含む項1に記載の顔料組成物。
項3. 前記ポリ(オキシエチレン)アルキルエステルの含有量が、顔料組成物全量に対して、1.0~8.0質量%である項1又は2に記載の顔料組成物。
項4. 前記アルキルアミンが、オクタデシルアミン又はN,N-ジメチルオクタデシルアミンである項1~3のいずれか1項に記載の顔料組成物。
項5. 項1~4のいずれか1項に記載の顔料組成物を含む印刷インキ。
項6. ジアゾ成分とカップラー成分とを、炭素数8以上のアルキル基を有するアルキルアミンと炭素数8以上のアルキル基を有するポリ(オキシエチレン)アルキルエステルの存在下で、カップリング反応をすることによりジスアゾ顔料を含む顔料組成物を得る、顔料組成物の製造方法。』に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、PAAとともにPCBの含有量が非常に少ないジスアゾ顔料組成物を得ることができる。よって、本発明の顔料組成物は、食品包装フィルムなどの分野に使用される印刷インキに特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
<顔料組成物>
本発明の顔料組成物は、ジスアゾ顔料と、炭素数8以上のアルキル基を有するアルキルアミンと、炭素数8以上のアルキル基を有するポリ(オキシエチレン)アルキルエステル(POEアルキルエステル)とを含む。本発明の顔料組成物は、上述のとおり印刷インキに特に有用であるが、印刷インキ以外の用途、例えば塗料、プラスチック着色用途にも用いることができる。
【0013】
ジスアゾ顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、55、81、83、87、124、126、152が挙げられる。なかでもジスアゾ顔料としては、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14のいずれか1種を含むことが好ましい。これらのジスアゾ顔料は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0014】
上記アルキルアミンにおけるアルキル基の炭素数は8以上であるが、好ましくは炭素数10~30、より好ましくは炭素数12~20である。炭素数が上記範囲であると、十分な疎水性が得られるためジスアゾ顔料の合成過程においてカップラーの分散性をより向上することができると考えられる。アルキルアミンは、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンのいずれでもよい。また、アルキルアミンは、直鎖であっても分岐鎖を有していてもよいが、十分な疎水性を得る観点から炭素数は8以上の直鎖を有することが好ましい。
【0015】
アルキルアミンとしては、例えば、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、イコシルアミン、エイコシルアミン、ヘンイコシルアミン、ドコシルアミン、トリコシルアミン、テトラコシルアミン、N,N-ジメチルオクタデシルアミンが挙げられる。なかでもアルキルアミンとしては、入手が容易であり、カップラーの分散性向上効果が高いことからオクタデシルアミン、N,N-ジメチルオクタデシルアミンが好ましい。
【0016】
アルキルアミンにおけるHLB値は0.4~8.0、好ましくは0.6~6.0、より好ましくは1.0~5.0である。HLB値が上記範囲であると、良好なカップラーの分散性を得ることができる。
【0017】
なお、HLB値とは、界面活性剤の分野で使用されている分子の親水性部分と疎水性部分のバランス(hydrophile-lipophile balance)を表するものであり、0から20までの値を有し、HLB値の大きいものほど親水性が高いと言える。本発明では、特に指定のない限りグリフィンの式により定義されるHLB値を用いることとする(以下も同様である)。
【0018】
このようなアルキルアミンとしては、市販品を用いることができ、例えば、製品名:リポミン18D(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)などを使用することができる。これらのアルキルアミンは、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0019】
上記アルキルアミンは少量であっても、カップラーの分散性を向上することができると考えられ、結果としてPCBとPAAの発生を抑制することができ、その含有量は問わない。
【0020】
上記POEアルキルエステルは、親水性のポリオキシエチレン(POE)基と疎水性のアルキル基とを有する両親媒性の非イオン界面活性剤である。POEアルキルエステルは、POEの重合度やアルキル鎖数が異なる2種以上の化合物を含む混合物であってもよい。
【0021】
上記POEアルキルエステルにおけるアルキル基は、炭素数8以上であるが、炭素数10~30が好ましく、炭素数12~20がより好ましい。炭素数が上記範囲であると、十分な疎水性が得られるためジスアゾ顔料の合成過程においてカップラーの分散性を向上することができると考えられる。また、POEアルキルエステルにおけるPOEの重合度は、2~30が好ましい。
【0022】
POEアルキルエステルとしては、例えば、ポリエチレングリコールリシノール酸エステル(PEGリシノール酸エステル)、ポリエチレングリコールリシノール酸エステルトリグリセリド(PEGリシノール酸エステルトリグリセリド)、ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステル、ポリエチレングリコールモノオレイン酸エステル、ポリエチレングリコールモノイソステアリン酸エステル、ポリエチレングリコールジラウリン酸エステル、ポリエチレングリコールジステアリン酸エステル、ポリエチレングリコールジオレイン酸エステル、ポリエチレングリコールジイソステアリン酸エステルが挙げられる。
【0023】
POEアルキルエステルにおけるHLB値は、11.0~16.0、好ましくは12.0~15.0、より好ましくは12.5~14.5である。HLB値が上記範囲であると、良好なカップラーの分散性を得ることができる。
【0024】
このようなPOEアルキルエステルとしては、市販品を用いることができ、例えば、製品名:DISPERBYK-192(ビック・ケミー社製)、EL-40(JIANGSU HAI’AN PETROCHEMICAL社製)などを使用することができる。これらのPOEアルキルエステルは、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0025】
POEアルキルエステルの含有量は、ジスアゾ顔料100質量部に対して、例えば0.5~10.0質量部、好ましくは1.0~8.0質量部、より好ましくは1.5~6.0質量部である。含有量が上記範囲であると、ジスアゾ顔料合成時のカップラーの分散性を向上することができると考えられ、結果としてPCBとPAAの発生を抑制することができる。
【0026】
本発明の顔料組成物は、ジスアゾ顔料以外の顔料を含んでもよい。ジスアゾ顔料以外の黄色顔料(特にアゾ系黄色顔料)としては、例えばC.I.ピグメントイエロー1、3、10、65、74、93、94、95、97、98、109、110、151、154、155、167、及び180を含んでいてもよい。また、インキとしたときの色相にあわせて、橙、紅、紫、青、緑、白顔料、及び体質顔料などの黄色以外の顔料を含んでいてもよい。
【0027】
本発明の顔料組成物には、必要に応じて顔料誘導体(シナジスト)を用いてもよい。このような顔料誘導体としては、前記有機顔料を骨格としてなり、前記顔料の骨格に置換基を付加した顔料誘導体が挙げられる。具体的には、アゾ系顔料誘導体、ジスアゾ系顔料誘導体、アゾメチン系顔料誘導体、アントラキノン系顔料誘導体、キノフタロン系顔料誘導体、ベンズイミダゾロン系顔料誘導体、イソインドリン系顔料誘導体、キナクリドン系顔料誘導体、ペリノン系顔料誘導体を使用することができる。誘導体部としては、水酸基、カルボン酸基、スルホン酸基、等がある。これら顔料誘導体は、異なる種類のものを二種以上併用することも出来る。
【0028】
本発明の顔料組成物は、PAAの含有量が例えば700ppm以下であることが好ましく、より好ましくは600ppm以下である。また、PCBの含有量は例えば25ppm以下であることが好ましく、より好ましくは15ppm以下である。
【0029】
本発明の顔料組成物は、テトラゾ成分とカップラー成分とを、上記アルキルアミンとPOEアルキルエステルの存在下で、常法に従ってカップリング反応をすることによりジスアゾ顔料を合成することにより顔料組成物が得られる。なお、ジスアゾ顔料を合成後の顔料組成物には、アルキルアミンとPOEアルキルエステルが残存するが、必要に応じて洗浄などを行うことにより、これらの残存物を除去することができる。
【0030】
ジスアゾ顔料が例えばC.I.ピグメントイエロー14である場合は、テトラゾ成分として3,3’-ジクロロベンジジンのテトラゾニウム塩を、カップラー成分として2’-メチルアセトアセトアニリドを用い、上記アルキルアミンとPOEアルキルエステルの存在下でカップリング反応をすることにより顔料組成物が得られる。また、ジスアゾ顔料が例えばC.I.ピグメントイエロー83である場合は、テトラゾ成分として3,3’-ジクロロベンジジンのテトラゾニウム塩を、カップラー成分として4’-クロロ-2’,5’-ジメトキシアセトアセトアニリドを用い、上記アルキルアミンとPOEアルキルエステルの存在下でカップリング反応をすることにより顔料組成物が得られる。上記以外のジスアゾ顔料である場合も同様にして合成することにより顔料組成物が得られる。
【0031】
上記カップリング反応は、例えば以下の方法で行うことができる。
【0032】
3,3′-ジクロロベンジジン二塩酸塩を水に加え、さらに塩酸と亜硝酸ソーダを加えて、テトラゾ化することによりテトラゾ成分の水溶液を準備する。また、カップラーとなる化合物を水中に分散させ、水酸化ナトリウム水溶液などを加え溶解させることによりカップラー成分の水溶液を準備する。次に、別途準備したカップリング反応用の容器に水を加え、アルキルアミンとPOEアルキルエステルを加えて水に溶解させる。その後、テトラゾ成分の水溶液を容器に加え、さらにカップラー成分の水溶液を滴下することによりカップリング反応を行う。
【0033】
必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液を加え、テトラゾ成分とカップラー成分の水溶液のpHを調製してもよい。また水溶液の態様ではなく、粉末の状態で、テトラゾ成分とカップラー成分を添加してもよい。本発明の顔料組成物は、上記の順で加えることが好ましいが、添加の順序は特に限定されない。
【0034】
<印刷インキ>
本発明の印刷インキは、上記本発明の顔料組成物、さらに顔料を分散・安定化させるための樹脂や分散媒である溶剤、その他に印刷インキとして必要な添加剤を含むものである。本発明の印刷インキは、凸版(フレキソ)インキ,凹版(グラビア)インキ,平版(オフセット)インキのいずれであってもよい。また、本発明の印刷インキは、光硬化性化合物や光重合開始剤を加えた活性エネルギー線硬化型インキであってもよい。
【0035】
本発明の印刷インキは、上記以外に、必要に応じて一般的に使用される、有機又は無機フィラー、溶剤、樹脂、ロジン化合物、重合禁止剤、増感剤、帯電防止剤、消泡剤、界面活性剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、可塑剤、顔料分散剤、ワックス等の添加剤を含んでもよい。また、本発明の印刷インキは、必要に応じて、植物油または植物油由来脂肪酸エステルを含んでもよい。
【0036】
本発明の印刷インキは、常法に従い、例えば本発明の顔料組成物に上記樹脂、溶剤、添加剤などを添加し、混練することにより得られる。本発明の印刷インキは、本発明の効果を損なわない限り、その成分の添加順序に制限はなく、例えば、溶剤にジスアゾ顔料などの顔料を加えて混練し、その後、樹脂や添加剤を順次加えて分散させることで製造することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例及び比較例の方法でC.I.ピグメントイエロー83(Y83)及びそれを含む顔料組成物、C.I.ピグメントイエロー13(Y13)及びそれを含む顔料組成物、C.I.ピグメントイエロー14(Y14)及びそれを含む顔料組成物を得た。得られた顔料組成物について、下記の方法で残存しているPOEアルキルエステル及びアルキルアミンの定量分析を行った。また、下記PAA及びPCBの定量分析方法に従いそれぞれの含有量分析を行った(表1における( )内は合成時の添加量)。これらの結果を表1に示す。なお、下記記載における「%」は「質量%」である。
[実施例1]
【0038】
21.8gの3、3’-ジクロロベンジジンに相当する3、3’-ジクロロベンジジン二塩酸塩(=DCBH)、32.4gの37%塩酸、31.4gの40%亜硝酸ナトリウムを使用して常法によりテトラゾ化を行い、7.6gの10%スルファミン酸を加えることにより、5℃のテトラゾニウム水溶液を調製した。
【0039】
一方、49.9gの4’-クロロ-2’,5’-ジメトキシアセトアセトアニリド(=AA254A)を48.0gの25%水酸化ナトリウム水溶液、400.0gの水に溶解させ、液量を500mLに調整し、20℃のカップラー水溶液を調製した。
【0040】
また、撹拌機を有する反応容器に0.6g(添加量:0.8%)のオクタデシルアミン、5.3gの酢酸、80℃の水を100g加え、分散液を調製した。また、PEGリシノール酸エステル2.2g(添加量:3.1%)を80℃の水100gに溶解させ、上記分散液に添加した後、液量を800mLに調製した。この分散液に前記カップラー水溶液の一部を添加してpH5.5、20℃に調整し、緩衝液を調製した。
【0041】
緩衝液が調製された反応容器内に、テトラゾニウム水溶液を3時間かけて定量供給した。この間、反応容器内のpHが5.4~5.6となるようにカップラー水溶液も反応容器内に供給した。なお、カップラー水溶液をすべて供給し終えた後は、希釈した水酸化ナトリウム水溶液を供給した。
【0042】
すべてのテトラゾニウム水溶液を添加した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH11.0に調整し、90℃まで加熱した。90℃で40分熟成を行った後、70℃まで冷却した。塩酸を加えてpH6.5に調整し、10分間攪拌後、濾過、洗浄、乾燥を行い、Y83を含む顔料組成物を得た。
[実施例2]
【0043】
PEGリシノール酸エステルの量を3.3g(添加量:4.7%)にしたこと以外は実施例1と同様にしてY83を合成し、顔料組成物を得た。
[実施例3]
【0044】
PEGリシノール酸エステルの代わりにPEGリシノール酸エステルトリグリセリドを3.3g(添加量:4.7%)用いたこと以外は実施例1と同様にしてY83を合成し、顔料組成物を得た。
[実施例4]
【0045】
25.0gの3、3’-ジクロロベンジジンに相当するDCBH、34.7gの37%塩酸、36.8gの40%亜硝酸ナトリウムを使用して常法によりテトラゾ化を行い、5℃のテトラゾニウム水溶液を調製した。
【0046】
一方、撹拌機を有する反応容器に57.0gのAA254A、42.0gの25%水酸化ナトリウム水溶液、400.0gの水を加え、20℃のカップラー水溶液を調製した。
【0047】
また、4.9g(添加量:6.0%)のオクタデシルアミン、39.3gの酢酸、80℃の水を100g加え、分散液を調製した。また、PEGリシノール酸エステルトリグリセリド1.6g(添加量:2.0%)を80℃の水100gに溶解させ、上記分散液に添加した。この分散液を前記カップラー水溶液に30分かけて定量供給し、カップラーを析出させた。水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH6.0、20℃に調整し、カップラー分散液を調製した。
【0048】
カップラー分散液が調製された反応容器内に、テトラゾニウム水溶液を3時間かけて定量供給した。
【0049】
すべてのテトラゾニウム水溶液を添加した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH6.0に調整し、80℃まで加熱した。80℃で1時間熟成を行った後、70℃まで冷却し、濾過、洗浄、乾燥を行い、Y83を含む顔料組成物を得た。
[実施例5]
【0050】
25.0gの3、3’-ジクロロベンジジンに相当するDCBH、32.4gの37%塩酸、35.8gの40%亜硝酸ナトリウムを使用して常法によりテトラゾ化を行い、5℃のテトラゾニウム水溶液を調製した。
【0051】
一方、43.0gの2’,4’-ジメチルアセトアセトアニリド(=AAMX)を50.2gの25%水酸化ナトリウム水溶液、200.0gの水に溶解させ、液量を300mLに調整し、20℃のカップラー水溶液を調製した。
【0052】
また、撹拌機を有する反応容器に4.1g(添加量:6.0%)のN,N-ジメチルオクタデシルアミン、3.7gの酢酸、80℃の水を100g加え、分散液を調製した。また、PEGリシノール酸エステルトリグリセリド1.4g(添加量:2.0%)を80℃の水100gに溶解させ、上記分散液に添加した後、液量を500mLに調製した。この分散液に前記カップラー水溶液の一部を添加してpH5.0に調製した。さらに、塩酸を添加してpH4.0、10℃に調整し、緩衝液を調製した。
【0053】
緩衝液が調製された反応容器内に、テトラゾニウム水溶液を3時間かけて定量供給した。この間、反応容器内のpHが3.9~4.1となるようにカップラー水溶液も反応容器内に供給した。なお、カップラー水溶液をすべて供給し終えた後は、希釈した水酸化ナトリウム水溶液を供給した。
【0054】
すべてのテトラゾニウム水溶液を添加した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH6.0に調整し、80℃まで加熱した。80℃で2時間30分熟成を行った後、70℃まで冷却し、濾過、洗浄、乾燥を行い、Y13を含む顔料組成物を得た。
[実施例6]
【0055】
25.0gの3、3’-ジクロロベンジジンに相当するDCBH、32.4gの37%塩酸、35.8gの40%亜硝酸ナトリウムを使用して常法によりテトラゾ化を行い、5℃のテトラゾニウム水溶液を調製した。
【0056】
一方、40.0gの2’-メチルアセトアセトアニリド(=AAOT)を50.0gの25%水酸化ナトリウム水溶液、200.0gの水に溶解させた後、液量を300mLに調整し、20℃のカップラー水溶液を調製した。
【0057】
また、撹拌機を有する反応容器に3.9g(添加量:6.0%)のオクタデシルアミン、3.7gの酢酸、80℃の水を100g加え、分散液を調製した。また、PEGリシノール酸エステル1.3g(添加量:2.0%)を80℃の水100gに溶解させ、上記分散液に添加した後、液量を500mLに調製した。この分散液に前記カップラー水溶液の一部を添加してpH5.0に調製した。さらに、塩酸を添加してpH4.0、3℃に調整し、緩衝液を調製した。
【0058】
緩衝液が調製された反応容器内に、テトラゾニウム水溶液を3時間かけて定量供給した。この間、反応容器内のpHが3.9~4.1となるようにカップラー水溶液も反応容器内に供給した。なお、カップラー水溶液をすべて供給し終えた後は、希釈した水酸化ナトリウム水溶液を供給した。
【0059】
すべてのテトラゾニウム水溶液を添加した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH6.0に調整し、80℃まで加熱した。80℃で2時間30分熟成を行った後、70℃まで冷却し、濾過、洗浄、乾燥を行い、Y14を含む顔料組成物を得た。
[比較例1]
【0060】
PEGリシノール酸エステル及びオクタデシルアミンを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にしてY83を合成し、顔料組成物を得た。
[比較例2]
【0061】
オクタデシルアミンを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にしてY83を合成し、顔料組成物を得た。
[比較例3]
【0062】
PEGリシノール酸エステルを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にしてY83を合成し、顔料組成物を得た。
[比較例4]
【0063】
オクタデシルアミン、PEGリシノール酸エステルトリグリセリドを添加しなかったこと以外は実施例4と同様にしてY83を合成し、顔料組成物を得た。
[比較例5]
【0064】
N,N-ジメチルオクタデシルアミン、PEGリシノール酸エステルトリグリセリドを添加しなかったこと以外は実施例5と同様にしてY13を合成し、顔料組成物を得た。
[比較例6]
【0065】
オクタデシルアミン、PEGリシノール酸エステルを添加しなかったこと以外は実施例6と同様にしてY14を合成し、顔料組成物を得た。
[アルキルアミンの定量分析方法]
【0066】
実施例または比較例で得られた顔料組成物を、N-メチルピロリドンに溶解させ、溶液を濾過し、サンプル溶液を作製する。サンプル溶液を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)で分子量を検出することにより、アルキルアミンを定量した。
[POEアルキルエステルの定量分析方法]
【0067】
実施例または比較例で得られた顔料組成物を、メタノールに分散させ、分散液を濾過し、サンプル溶液を作製する。サンプル溶液をNMR測定することにより、POEアルキルエステルを定量した。
[PCB定量分析方法]
【0068】
実施例または比較例で得られた顔料組成物を、イソオクタン、濃硫酸に分散させ、分散液を濾過後に無水炭酸ナトリウムで脱水し、サンプル溶液を作製する。サンプル溶液をガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)で分子量を検出することにより、PCBを定量した。
[PAA定量分析方法]
【0069】
RESOLUTION AP(89)1に準じて分析を行った。
【0070】
【0071】
上記表1から分かるとおり、ジスアゾ顔料の合成においてPOEアルキルエステルとアルキルアミンとを併用することで、PCBとPAAの含有量を低減できる。なお、POEアルキルエステルやアルキルアミンにおいて、合成時に添加した量のすべてが合成後の組成物中に残存していない理由は、合成後の濾過・洗浄時に流出している、又は顔料内部に吸着していて検出されていないからであると推測される。
【国際調査報告】