(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-18
(54)【発明の名称】鎌状赤血球症の治療のための組換えADAMTS13の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/48 20060101AFI20220810BHJP
A61K 35/16 20150101ALI20220810BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220810BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20220810BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220810BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20220810BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220810BHJP
C12N 9/50 20060101ALN20220810BHJP
【FI】
A61K38/48 ZNA
A61K35/16 Z
A61K9/08
A61P7/06
C12Q1/02
A61B10/00 K
C12N15/12
C12N9/50
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572404
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(85)【翻訳文提出日】2022-02-03
(86)【国際出願番号】 US2020036320
(87)【国際公開番号】W WO2020247746
(87)【国際公開日】2020-12-10
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116540
【氏名又は名称】河野 香
(72)【発明者】
【氏名】ロサト,パオロ
(72)【発明者】
【氏名】ヘールリーグル,ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】シャイフリンガー,フリードリヒ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B050DD11
4B050LL01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QR72
4C076AA12
4C076BB13
4C076BB16
4C076CC14
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4C084NA14
4C084ZA55
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB35
4C087CA16
4C087MA17
4C087MA66
4C087NA03
4C087NA14
4C087ZA55
(57)【要約】
本開示は、トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)を用いて鎌状赤血球症を治療する方法を提供する。本開示は、ADAMTS13を投与することにより、鎌状赤血球症を患う対象において、ADAMTS13が媒介するフォン・ヴィレブランド因子(VWF)の切断を増加させる方法を提供する。また、本開示は、VOCの発症後にADAMTS13を投与することにより、鎌状赤血球症を患う対象において血管閉塞性クリーゼ(VOC)を治療する方法を提供する。また、本開示は、VOCの発症前にADAMTS13を投与することにより、鎌状赤血球症を患う対象においてVOCを予防する方法を提供する。また、本開示は、マウスモデルにおいて、VOCの治療法の有効性を決定する方法を
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎌状赤血球症を患う対象において、トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)が媒介するVWF切断を増加させる方法であって、それを必要とする対象に、ADAMTS13を含む組成物の治療有効量を投与することを含む、方法
【請求項2】
前記対象におけるADAMTS13が媒介するVWF切断は、健常対象と比較して細胞外ヘモグロビン(ECHb)の血漿レベルが上昇しているために阻害されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象における細胞外ヘモグロビン(ECHb)の血漿レベルが約20~330μg/mLである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象における細胞外ヘモグロビン(ECHb)の血漿レベルが330μg/mL超である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ADAMTS13を投与することにより、ADAMTS13を投与しない場合と比較して、超巨大VWFマルチマー、VWF活性、およびVWF活性/抗原比のうちの少なくとも1つのレベルが低下する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ADAMTS13を投与することにより、ADAMTS13を投与しない場合と比較して、血漿中の遊離ヘモグロビンのレベルが低下する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
鎌状赤血球症を患う対象における血管閉塞性クリーゼ(VOC)を治療する方法であって、それを必要とする対象に、VOCの発症後に、ADAMTS13を含む組成物の治療有効量を投与することを含む、方法。
【請求項8】
鎌状赤血球症を患う対象における血管閉塞性クリーゼ(VOC)を予防する方法であって、それを必要とする対象に、VOCの発症前に、ADAMTS13を含む組成物の治療有効量を投与することを含む、方法。
【請求項9】
前記組成物がADAMTS13バリアントをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ADAMTS13バリアントが、野生型ADAMT13と比較して、少なくとも1つの単一アミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
野生型ADAMTS13がヒトADAMTS13である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
野生型ADAMTS13が配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記単一アミノ酸置換の少なくとも1つが、野生型ADAMTS13と比較して、ADAMTS13の触媒ドメイン内にある、請求項9~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記単一アミノ酸置換が、配列番号1で示されるI
79M、V
88M、H
96D、R
102C、S
119F、I
178T、R
193W、T
196I、S
203P、L
232Q、H
234Q、D
235H、A
250V、S
263C、および/またはR
268Pではなく、またADAMTS13における同等のアミノ酸でもない、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記単一アミノ酸置換が、配列番号1で示されるアミノ酸Q
97、またはADAMTS13における同等のアミノ酸におけるものである、請求項9~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
単一アミノ酸の変化が、QからD、E、K、H、L、N、P、またはRへの変化である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
単一のアミノ酸の変化がQからRへの変化である、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記ADAMTS13バリアントが配列番号2のアミノ酸配列を含む、請求項9~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ADAMTS13バリアントが配列番号2の配列から本質的になる、請求項9~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記ADAMTS13バリアントが配列番号2の配列からなる、請求項10~20のいずれか一項に記載の方法である。
【請求項21】
ADAMTS13および/またはそのバリアントの治療有効量が、体重1キログラムあたり約20~約6,000国際単位である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ADAMTS13および/またはそのバリアントの治療有効量が、体重1キログラムあたり約300~約3,000国際単位である、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ADAMTS13および/またはそのバリアントの治療有効量が、体重1キログラムあたり約1,000~約3,000国際単位である、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
治療有効量のADAMTS13および/またはそのバリアントを投与することにより、対象におけるADAMTS13および/またはそのバリアントの血漿濃度が約1~約80U/mLになる、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
ADAMTS13および/またはそのバリアントを含む組成物が、1回のボーラス注射で、毎月、2週間ごと、毎週、週2回、毎日、12時間ごと、8時間ごと、6時間ごと、4時間ごと、または2時間ごとに投与される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
ADAMTS13および/またはそのバリアントを含む組成物が、静脈内または皮下に投与される、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
ADAMTS13および/またはそのバリアントが組換え体である、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
ADAMTS13および/またはそのバリアントが血漿由来である、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記組成物がそのまま投与できる安定な水溶液である、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
ADAMTS13および/またはそのバリアントを含む組成物の治療有効量が、対象においてADAMTS13活性の有効レベルを維持するのに十分な量である、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記対象が哺乳動物である、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記対象がヒトである、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
対象における血管閉塞性クリーゼ(VOC)の治療の有効性を決定する方法であって、
a)VOC後に対象に治療を施すステップ;
b)前記対象から、立毛、アパシー、目の状況、皮膚の色、自発的な運動性、刺激された運動性、および呼吸数から選択される1つまたは複数の行動症状を収集するステップ;
c)ステップb)から収集した1つまたは複数の行動症状の重症度に基づいてスコアを作成するステップ;
d)ステップc)からのスコアを対照スコアと比較するステップであって、対照スコアは、治療を受けていない対照対象から作成される、ステップ;および
e)(i)ステップc)からのスコアが対照スコアと比較してより低い重症度を示す場合には、治療が有効であると判定し、(ii)ステップc)からのスコアが対照スコアと比較してより高いまたは同じ重症度を示す場合には、治療が有効ではないと判定するステップ;
を含む方法。
【請求項34】
血管閉塞性クリーゼ(VOC)からの対象の回復を評価する方法であって、
a)対象から、VOCの後に、立毛、アパシー、目の状況、皮膚の色、自発的な動き、刺激された動き、および呼吸数から選択される1つまたは複数の行動症状を収集するステップ;
b)ステップa)から収集された1つまたは複数の行動症状の重症度に基づいてスコアを作成するステップ;
c)ステップb)からのスコアを対照スコアと比較するステップであって、対照スコアは、VOCの前の対象から、またはVOCを発症していない対照対象から作成される、ステップ;および
d)(i)ステップb)からのスコアが対照スコアと比較してより低いまたは同じ重症度を示す場合には、対象は回復したと判定し、(ii)ステップb)からのスコアが対照スコアと比較してより高い重症度を示す場合には、対象は回復していないと判定するステップ;
を含む方法。
【請求項35】
前記1つまたは複数の行動症状が、立毛、アパシー、目の状況、刺激された運動性、および呼吸数から選択される、請求項33または請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記行動症状は、より重度の症状に高い数字が割り当てられるようにスコア化される、請求項33~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記対象が哺乳動物である、請求項33~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記対象がマウスである、請求項33~37のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年6月7日に出願された米国仮出願第62/858,691号、および2020年4月2日に出願された米国仮出願第63/004,389号の優先権を主張するものであり、これらはいずれもその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は、トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(A Disintegrin And Metalloproteinase with Thrombospondin type 1 motif, member-13)(ADAMTS13)を用いて鎌状赤血球症を治療する方法に関する。より詳細には、本開示は、ADAMTS13を投与することにより、鎌状赤血球症を患う対象において、ADAMTS13が媒介するフォン・ヴィレブランド因子(VWF)の切断を増加させる方法に関する。また、本開示は、VOCの発症後にADAMTS13を投与することにより、鎌状赤血球症を患う対象において血管閉塞性クリーゼ(VOC)を治療する方法に関する。また、本開示は、VOCの発症前にADAMTS13を投与することにより、鎌状赤血球症を患う対象においてVOCを予防する方法に関する。さらに、本開示は、マウスモデルにおいて、VOCに対する治療の有効性を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
鎌状赤血球症(SCD)は、世界中に分布する遺伝性の赤血球障害であり、βグロブリン鎖における点突然変異(βs、6V)により生じ、それは欠陥型のヘモグロビンであるヘモグロビンS(HbS)の産生をもたらす。脱酸素に続くHbS重合の反応速度論の研究は、それがヘモグロビン濃度の高次指数関数であることを示しており、鎌状赤血球化における細胞HbS濃度の重大な役割を強調した。病態生理学的研究は、濃い脱水された赤血球がSCDの急性および慢性の臨床症状において中心的役割を果たすことを示しており、毛細血管、小血管、および大血管における血管内鎌状赤血球化が様々な臓器および組織において虚血性細胞障害を伴う血管閉塞および血流障害を生じさせる。
【0004】
急性血管閉塞事象に関連するフォン・ヴィレブランド因子(VWF)のレベルの上昇および高レベルの超巨大VWFマルチマー(ultra-large VWF multimer)を有する鎌状赤血球症患者が報告されている(非特許文献1)。超巨大VWFマルチマーのレベルは、トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリン(ADAMTS13)の活性に依存しており、ADAMTS13は、高流体剪断応力の条件下で超接着性の超巨大VWFマルチマーを切断し、止血活性と血栓リスクの適切なバランスを維持するのに重要な役割を果たしている。ADAMTS13は、プレプロ配列の切断後の残基842~843に相当する残基Tyr1605とMet1606との間でVWFを切断して、176kDaおよび140kDaのホモダイマーならびに血小板接着性の低いより小さなVWFマルチマーを生成する(非特許文献2および3)。VWFマルチマーのサイズおよび止血活性の調節を大いに担うのが、このVWFのADAMTS13媒介切断である。循環血液中に放出されたVWFは、コラーゲンに結合し、損傷した血管壁を含む内皮下組織での血小板の接着および凝集を媒介するため、血小板血栓の形成に寄与する。VWFの放出は、血管内皮の活性化を伴い、またそれによって部分的に誘発される。SCD患者(臨床的に無症状の場合と急性疼痛性クリーゼを有する場合の両方)の血漿は、健常者と比較したADAMTS13活性の欠乏は非常に軽度であるかまたは全くないが、VWF(特にULVWFマルチマー)の濃度が高く、したがって基質に対するADAMTS13の相対的欠乏を示した(非特許文献4および5)。
【0005】
鎌状化はまた、赤血球の溶血を引き起こし、その結果、過剰な細胞外ヘモグロビン(ECHb)の放出をもたらす。SCD患者における増加したECHbは、VWFのA2ドメイン、特にADAMTS13切断部位に結合することにより、ADAMTS13媒介VWFタンパク質分解を阻害する(非特許文献6)。SCD患者で観察される細胞外ヘモグロビンは、通常、血漿中で20~330μg/mLの濃度であり、血管閉塞性クリーゼ中には400μg/mLを超える(非特許文献7)。同様にSCD患者で増大するトロンボスポンジン-1(TSP1)は、超巨大VWFマルチマーのA2ドメインに結合し、ADAMTS13の活性を競合的に阻害することによりADAMTS13によるVWF分解を妨げる。
【0006】
SCDは、先天性の生涯にわたる疾病である。SCDを患う人々は、各親から1つずつ、2つの異常ヘモグロビンβS遺伝子を受け継ぐ。人が2つのヘモグロビンS遺伝子、ヘモグロビンSS(HbSS)を有する場合、この疾患は鎌状赤血球貧血と言われる。これは、最も一般的でかつしばしば最も重篤な種類のSCDである。ヘモグロビンSC疾患およびヘモグロビンSβサラセミアは、SCDの2つの他の一般的な種類である。全ての種類のSCDにおいて、2つの異常遺伝子のうち少なくとも1つにより、人の体はその赤血球においてヘモグロビンSまたは鎌状ヘモグロビンを生成する。ヘモグロビンは、体全体に酸素を運ぶ赤血球中のタンパク質である。鎌状ヘモグロビンは、低酸素圧条件下で重合体を形成するその傾向において正常なヘモグロビンとは異なり、その重合体が赤血球内に硬いロッドを形成し、赤血球を三日月形状または鎌状に変化させる。鎌状細胞は柔軟性がなく、閉塞を引き起こす可能性があり、閉塞は血流を遅くしまたは停止させ、本質的に微小循環を遮断する。これが生じた場合、酸素は近くの組織に到達できない。組織酸素の欠如は、突然の発作、激痛、いわゆる血管閉塞性クリーゼ(VOC)、疼痛クリーゼ(疼痛発作)、または鎌状赤血球クリーゼを生じさせ、それらは供給臓器に対する虚血性障害およびその結果の疼痛をもたらす。疼痛クリーゼは、SCDのVOCの最も顕著な臨床的特徴であり、罹患患者の救急診療部の受診および入院の主な原因である。
【0007】
VOCは、鎌状細胞網状赤血球、内皮細胞、白血球、およびVWFを含む血漿成分などの、鎌状細胞間の相互作用により開始および維持される。血管閉塞は、疼痛症候群、脳卒中、下肢潰瘍、自然流産、および腎不全などの、SCDの様々な臨床的合併症の原因となる。VOCの疼痛はしばしば治療が不完全である。VOCの現在の治療として、中でも特に、輸液、酸素、および痛覚消失(鎮痛)の使用が挙げられるが、VOCの発生率は、慢性的な赤血球(RBC)輸血、ならびにヒドロキシ尿素で低減され得る。しかしながら、疼痛管理の進歩にも関わらず、依存症、耐性、および副作用の心配のため、医師はしばしば、十分な投与量の麻薬性鎮痛薬を患者に与えることに消極的である。急性VOCに加えて、他の急性および慢性のSCDの合併症には、腎疾患、脾梗塞、細菌感染のリスクの上昇、急性および慢性貧血、胸部症候群、脳卒中および目の疾患が含まれる。
【0008】
SCDを患う患者における急性疼痛は、急性クリーゼ(急性憎悪)中の鎌型赤血球による微小血管床の閉塞に起因する虚血性組織障害により生じる。例えば、VOCの特徴である激しい骨痛は、鎌型赤血球による骨髄の血管壊死に対する急性炎症反応に続発する、特に長骨の関節近傍領域内における、骨髄内圧の上昇により生じると考えられる。疼痛はまた、骨膜または関節の関節周囲軟組織の関与のせいで生じ得る。慢性疼痛に対する急性クリーゼの予測不能な再発の影響は、特異な疼痛症候群を作り出す。
【0009】
SCDの重篤度は人によって大きく異なる。SCDの診断およびケアにおける進歩は、SCDを患う人の平均寿命を延ばした。米国のような高所得国において、SCDを患う人の平均寿命は現在約40~60歳であるが、約40年前にはたった14歳であった。しかしながら、現在のところ、造血幹細胞移植(HSCT)がSCDの唯一の治療法である。不幸にも、殆どのSCDを患う人々は、移植するには高齢すぎるか、あるいは移植に成功するためのドナーとなるのに彼らと十分良好な遺伝子適合を有する血縁者がいないかのどちらかである。
【0010】
さらに、SCDにおけるVOCの臨床バイオマーカーが不足している。したがって、「退院準備完了までの時間(time to readiness for discharge)」および「退院までの時間(time to discharge)」が、有効性主要評価項目(primary efficacy end point)(VOCの解決までの時間)の重要な構成要素である(非特許文献8;参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0011】
従って、当技術分野では、症候を軽減し、合併症を予防し、さらに寿命および生活の質を向上させることができるSCDの血管閉塞事象の治療を含む、SCDの改善された治療法、およびVOCの有用な臨床バイオマーカーが求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Krishnan et al., Thromb Res; 122(4): 455-8, 2008; Kaul et al., Blood; 81(9): 2429-38, 1993)
【非特許文献2】Furlan M, et al., Blood; 87(10): 4223-34, 1996
【非特許文献3】Tsai et al., Blood; 87(10): 4235-44, 1996; Crawley et al., Blood; 118(12): 3212-21, 2011
【非特許文献4】Zhou et al., Curr Vasc Pharmacol; 10(6): 756-61, 2012
【非特許文献5】Schnog et al., Am J Hematol; 81: 492-8, 2006
【非特許文献6】Zhou et al., Anemia. 2011; 2011: 918916
【非特許文献7】Zhou et al., Thromb Haemost; 101(6): 1070-77, 2009
【非特許文献8】Telen MJ, et al. Blood 2015; 125(17): 2656-2664
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様では、本開示は、鎌状赤血球症を患う対象においてトロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(ADAMTS13)が媒介するVWF切断を増加させる方法であって、それを必要とする対象に、ADAMTS13を含む組成物の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、対象におけるADAMTS13媒介VWF切断は、健常対象と比較して細胞外ヘモグロビン(ECHb)の血漿レベルが上昇しているために阻害されている。いくつかの実施形態では、対象における細胞外ヘモグロビン(ECHb)の血漿レベルは、約20~330μg/mLである。いくつかの実施形態では、対象における細胞外ヘモグロビン(ECHb)の血漿レベルは、330μg/mLを超える。
【0014】
いくつかの実施形態では、ADAMTS13を投与することにより、ADAMTS13治療を行わない場合と比較して、超巨大VWFマルチマー、VWF活性、およびVWF活性/抗原比のうちの少なくとも1つのレベルが低下する。いくつかの実施形態では、ADAMTS13を投与することにより、ADAMTS13治療を行わない場合と比較して、血漿中の遊離ヘモグロビンのレベルが低下する。
【0015】
別の態様では、本開示は、鎌状赤血球症を患う対象における血管閉塞性クリーゼ(VOC)を治療する方法であって、それを必要とする対象に、VOCの発症後に、ADAMTS13を含む組成物の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0016】
別の態様では、本開示は、鎌状赤血球症を患う対象における血管閉塞性クリーゼ(VOC)を予防する方法であって、それを必要とする対象に、VOCの発症前に、ADAMTS13を含む組成物の治療有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0017】
いくつかの実施形態では、組成物は、ADAMTS13バリアントをさらに含む。いくつかの実施形態では、ADAMTS13バリアントは、野生型ADAMT13と比較して、少なくとも1つの単一アミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、野生型ADAMTS13はヒトADAMTS13である。いくつかの実施形態では、野生型ADAMTS13は、配列番号1のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、単一アミノ酸置換の少なくとも1つは、野生型ADAMTS13と比較して、ADAMTS13触媒ドメイン内にある。いくつかの実施形態では、単一アミノ酸置換は、配列番号1で示されるI79M、V88M、H96D、R102C、S119F、I178T、R193W、T196I、S203P、L232Q、H234Q、D235H、A250V、S263C、および/またはR268Pではなく、またADAMTS13における同等のアミノ酸でもない。いくつかの実施形態では、単一アミノ酸置換は、配列番号1に示されるアミノ酸Q97、またはADAMTS13における同等のアミノ酸におけるものである。いくつかの実施形態では、単一アミノ酸の変化は、QからD、E、K、H、L、N、P、またはRへの変化である。いくつかの実施形態では、ADAMTS13バリアントは、配列番号2のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、ADAMTS13バリアントは、本質的に配列番号2の配列からなる。いくつかの実施形態では、ADAMTS13バリアントは、配列番号2の配列からなる。
【0018】
本明細書に記載の治療方法のいくつかの実施形態では、ADAMTS13および/またはそのバリアントの治療有効量は、体重1キログラム当たり約20~約6,000国際単位である。いくつかの実施形態では、ADAMTS13および/またはそのバリアントの治療有効量は、体重1キログラムあたり約300~約3,000国際単位である。いくつかの実施形態では、ADAMTS13および/またはそのバリアントの治療有効量は、体重1キログラム当たり約1,000~約3,000国際単位である。
【0019】
本明細書に記載の治療方法のいくつかの実施形態では、治療有効量のADAMTS13および/またはそのバリアントを投与することにより、対象におけるADAMTS13および/またはそのバリアントの血漿濃度が約1~約80U/mLになる。
【0020】
本明細書に記載の治療方法のいくつかの実施形態では、ADAMTS13および/またはそのバリアントを含む組成物は、1回のボーラス注射で、毎月、2週間ごと、毎週、週2回、毎日、12時間ごと、8時間ごと、6時間ごと、4時間ごと、または2時間ごとに投与される。いくつかの実施形態では、ADAMTS13および/またはそのバリアントを含む組成物は、静脈内または皮下に投与される。
【0021】
本明細書に記載の治療方法のいくつかの実施形態では、ADAMTS13および/またはそのバリアントは組換え体である。いくつかの実施形態では、ADAMTS13および/またはそのバリアントは血漿由来である。いくつかの実施形態では、組成物は、そのまま投与できる(ready for administration)安定な水溶液である。いくつかの実施形態では、ADAMTS13および/またはそのバリアントを含む組成物の治療有効量は、対象において有効レベルのADAMTS13活性を維持するのに十分である。
【0022】
本明細書に記載の治療方法のいくつかの実施形態では、対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。
【0023】
別の態様では、本開示は、対象における血管閉塞性クリーゼ(VOC)の治療の有効性を決定する方法であって、
a)VOC後に対象に治療を施すステップ;
b)対象から、立毛(piloerection)、アパシー(apathy)、目の状況(eyes appearance)、皮膚の色、自発的な運動性(spontaneous mobility)、刺激された運動性(stimulated mobility)、および呼吸数(breathing frequency)から選択される1つまたは複数の行動症状を収集するステップ;
c)ステップb)から収集した1つまたは複数の行動症状の重症度に基づいてスコアを作成するステップ;
d)ステップc)からのスコアを対照スコアと比較するステップであって、対照スコアは、治療を受けていない対照対象から作成される、ステップ;および
e)(i)ステップc)からのスコアが対照スコアと比較してより低い重症度を示す場合には、治療が有効であると判定し、(ii)ステップc)からのスコアが対照スコアと比較してより高いまたは同じ重症度を示す場合には、治療が有効ではないと判定するステップ;
を含む方法を提供する。
【0024】
さらに別の態様では、本開示は、血管閉塞性クリーゼ(VOC)からの対象の回復を評価する方法であって、
a)VOCの後に、対象から、立毛、アパシー、目の状況、皮膚の色、自発的な運動性、刺激された運動性、および呼吸数から選択される1つまたは複数の行動症状を収集するステップ;
b)ステップa)から収集された1つまたは複数の行動症状の重症度に基づいてスコアを作成するステップ;
c)ステップb)からのスコアを対照スコアと比較するステップであって、対照スコアは、VOCの前の対象からまたはVOCを発症していない対照対象から作成される、ステップ;および
d)(i)ステップb)からのスコアが対照スコアと比較してより低いまたは同じ重症度を示す場合には、対象は回復したと判定し、(ii)ステップb)からのスコアが対照スコアと比較してより高い重症度示す場合には、対象は回復していないと判定するステップ;
を含む方法を提供する。
【0025】
本明細書に記載の診断方法のいくつかの実施形態では、1つまたは複数の行動症状は、立毛、アパシー、目の状況、刺激された運動性、および呼吸数から選択される。いくつかの実施形態では、行動症状は、より重度の症状に高い数字が割り当てられるようにスコア化される。
【0026】
本明細書に記載の診断方法のいくつかの実施形態では、対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態では、対象はマウスである。
【0027】
前述の概要は、本発明の全ての態様を特定することを意図したものではなく、さらなる態様を以下の詳細な説明など他の欄に記載する。本明細書全体が、統合された開示として関連づけられることが意図されており、たとえその特徴の組合せが本発明の同じ文、段落または節に一緒に見られなくても、本明細書に記載されている全ての特徴の組合せが企図されていることを理解されたい。本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の精神および範囲内の様々な変更および修飾が、詳細な説明から当業者に明らかとなるため、詳細な説明および具体例は、本発明の特定の実施形態を表すが、単に例示として記載されていることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】増加する濃度のヘモグロビンによる阻害効果を示すVWF切断断片のイムノブロットである。増加する濃度のヘモグロビンの存在下で、一定濃度のADAMTS13(1U/mL、0.5U/mL、および0.25U/mL)で切断反応を行った。176kDaの二量体切断産物は、ポリクローナル抗VWF抗体ホースラディッシュ(西洋わさび)ペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートによって可視化される。
【
図2】増加する濃度のヘモグロビンによる阻害効果のグラフ評価を示す。
【
図3】ヘモグロビンによる阻害効果に対するrADAMTS13濃度による無効化効果(overriding effect)を示すVWF切断片のイムノブロットである。増加する濃度のヘモグロビンの存在下、またはヘモグロビンの非存在下で、一定濃度(0.25U/mL、0.5U/mL、1U/mL、および2U/mL)のADAMTS13で切断反応を行った。176kDaの二量体切断産物は、ポリクローナル抗VWF抗体HRPコンジュゲートによって可視化される。
【
図4】ヘモグロビンによる阻害効果に対するrADAMTS13濃度による無効化効果のグラフ評価を示す。
【
図5】プレインキュベーションの有無による切断反応の評価を示すVWF切断断片のイムノブロットである。+:プレインキュベーションあり、c:ヘモグロビンを含まない対照、wo:プレインキュベーションなし。プレインキュベーションありまたはなしで、0.5mg/mLおよび1mg/mLのヘモグロビンの存在下、1U/mL、0.5U/mL、および0.25U/mLの濃度のrADAMTS13とVWF基質をインキュベートした後、176kDaの二量体VWF断片を可視化した。
【
図6】ヘモグロビンとのプレインキュベーションの有無によるADAMTS13媒介VWFマルチマー切断のグラフ評価を示す。wo:プレインキュベーションなし。
【
図7A】300U/kgのSHP655を投与したTim Townes SSマウスにおけるADAMTS13活性の時間変化を示す。
【
図7B】1000U/kgのSHP655を投与したTim Townes SSマウスにおけるADAMTS13活性の時間変化を示す。
【
図7C】3000U/kgのSHP655を投与したTim Townes SSマウスにおけるADAMTS13活性の時間変化を示す。
【
図8A】300U/kgのSHP655を投与したTim Townes SSマウスにおけるVWF活性/抗原比の時間変化を示す。
【
図8B】1000U/kgのSHP655を投与したTim Townes SSマウスにおけるVWF活性/抗原比の時間変化を示す。
【
図8C】3000U/kgのSHP655を投与したTim Townes SSマウスにおけるVWF活性/抗原比の時間変化を示す。
【
図9A】300U/kgのSHP655を投与したTim Townes SSマウスにおける血漿ヘモグロビン濃度の時間変化を示す。
【
図9B】1000U/kg(
図9B)のSHP655を投与したTim Townes SSマウスにおける血漿ヘモグロビン濃度の時間変化を示す。
【
図9C】3000U/kgのSHP655を投与したTim Townes SSマウスにおける血漿ヘモグロビン濃度の時間変化を示す。
【
図10A】SHP655の平均血漿濃度の時間変化のプロファイルを示す線形プロットである。図中のデータは、標準偏差と共に平均値を示す。
【
図10B】SHP655の平均血漿濃度の時間変化のプロファイルを示す片対数プロットである。図中のデータは、標準偏差と共に平均値を示す。
【
図11】7.0%の酸素(O
2)に5時間暴露し、21%の酸素(O
2)で1時間回復させた後の動物の生存曲線を示す。
【
図12】7.0%の酸素(O
2)に5時間暴露し、21%の酸素(O
2)で1時間回復させた後の行動スコアリングのまとめを示す。
【
図13A】7.0%のO
2に5時間暴露し、21%のO
2で1時間回復させた後に採点した、単一の行動項目(立毛)を示す。
【
図13B】7.0%のO
2に5時間暴露し、21%のO
2で1時間回復させた後に採点した、単一の行動項目(目の状況)を示す。
【
図13C】7.0%のO
2に5時間暴露し、21%のO
2で1時間回復させた後に採点した、単一の行動項目(呼吸)を示す。
【
図13D】7.0%のO
2に5時間暴露し、21%のO
2で1時間回復させた後に採点した、単一の行動項目(アパシー)を示す。
【
図13E】7.0%のO
2に5時間暴露し、21%のO
2で1時間回復させた後に採点した、単一の行動項目(自発的な活動)を示す。
【
図13F】7.0%のO
2に5時間暴露し、21%のO
2で1時間回復させた後に採点した、単一の行動項目(刺激された活動)を示す。
【
図14】7.0%のO
2に5時間暴露し、21%のO
2で1時間回復させた後の遊離ヘモグロビンの血漿レベルを示す。
【
図15A】7.0%のO
2に5時間暴露し、21%のO
2で1時間回復させた後のADAMTS13の活性を示す。
【
図15B】7.0%のO
2に5時間暴露し、21%のO
2で1時間回復させた後のADAMTS13の抗原レベルを示す。
【
図16A】7.0%のO
2に5時間暴露し、21%のO
2で1時間回復させた後のVWFの活性を示す。
【
図16B】7.0%のO
2に5時間暴露し、21%のO
2で1時間回復させた後のVWFの抗原レベルを示す。
【
図16C】7.0%のO
2に5時間暴露し、21%のO
2で1時間回復させた後の抗原に対して正規化された活性を示す。
【
図17A】7.0%のO
2に5時間暴露し、21%のO
2で1時間回復させた後に得られたサンプルの半定量的なVWFマルチマー分析を示す。
【
図17B】7.0%のO
2に5時間暴露し、21%のO
2で1時間回復させた後に得られたサンプルの半定量的なVWFマルチマー分析を示す。
【
図18A】野生型ADAMTS13(配列番号1)とADAMTS13 Q97Rバリアント(配列番号2)の間のアラインメントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本開示は、様々な態様において、SCD、特にSCDにおけるVOCを予防、改善、および/または治療するためのADAMTS13および関連する方法を提供する。本開示の任意の実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、以下の説明に記載された、または図面および実施例に示された構造の詳細および構成要素の配置に限定されないことを理解されたい。本明細書で使用されているセクションの見出しは、単に編成上の目的のためのものであり、記載されている主題を限定するものと解釈されるべきではない。本出願で引用された全ての文献は、あらゆる目的のために参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0030】
本発明は、他の実施形態を包含し、様々な様式で実行または実施される。また、本明細書で用いられる表現および用語は説明のためのものであり、限定的なものと見なされるべきでないことを理解されたい。用語「含まれる」、「含む」、または「有する」、ならびにそれらの変形は、その後に記載されている品目およびその等価物、さらには追加の品目も包含することを意味する。
【0031】
以下の略語が全体にわたり用いられる。
AAマウス:ヘモグロビンA(HbA)のホモ接合体であるトランスジェニックマウス
ADAMTS:トロンボスポンジンを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ
ADAMTS13:トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13
BAL:気管支肺胞洗浄
DNA:デオキシリボ核酸
ET-1:エンドセリン1
ECHb:細胞外ヘモグロビン
FRETS U:FRETS単位
GAPDH:グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ
Hb:ヘモグロビン
HbA:ヘモグロビンA
HbS:鎌状ヘモグロビン
HO-1:ヘムオキシゲナーゼ1
H/R:低酸素/再酸素化
ICAM-1:細胞間接着分子1
IU:国際単位
kDa:キロダルトン
LDH:乳酸脱水素酵素
NF-κB:核内因子κB
P-NF-κB:リン酸化核内因子κB
rADAMTS13:組換えADAMTS13
rVWF:組換えフォン・ヴィレブランド因子
RBC:赤血球
RNA:リボ核酸
SCD:鎌状赤血球症
SSマウス:HbSのホモ接合体のトランスジェニックマウス
TXAS:トロンボキサンシンターゼ
ULVWF:超巨大フォン・ヴィレブランド因子
VCAM-1:血管細胞接着分子1
VOC:血管閉塞性クリーゼ
VWF:フォン・ヴィレブランド因子
【0032】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他を指示しない限り、複数の言及を包含することをここに指摘する。属(genus)として記載されている本発明の態様に関して、全ての個々の種(species)は、本発明の個別の態様と考えられる。本発明の態様がある特徴を「含む」と記載されている場合、実施形態は、その特徴「からなる」または「から本質的になる」ことも企図されている。
【0033】
本明細書で使用される以下の用語は、別段の定めがない限り、それらに付与された意味を有する。
【0034】
本明細書で用いられる用語「鎌状赤血球症(SCD)」は、多様な形態で存在する一群の遺伝性赤血球障害を表す。SCDのいくつかの形態は、ヘモグロビンSS、ヘモグロビンSC、ヘモグロビンSβ0サラセミア、ヘモグロビンSβ+サラセミア、ヘモグロビンSD、およびヘモグロビンSEである。ヘモグロビンSC病およびヘモグロビンSβサラセミアはSCDの2つの一般的な形態であるが、本発明は全ての形態のSCDに関するものであり、それらを包含する。
【0035】
本明細書で用いられる用語「血管閉塞性クリーゼ(VOC)」は、前兆なしに生じ得る突然の激しい疼痛発作である。疼痛クリーゼまたは鎌状赤血球クリーゼとしても知られているVOCは、青年および成人におけるSCDの一般的な有痛性の合併症である。VOCは、鎌状赤血球、内皮細胞、および血漿成分の間の相互作用により開始および維持される。血管閉塞は、疼痛症候群、脳卒中、下肢潰瘍、自然流産、および/または腎不全を含む、SCDの様々な臨床的合併症の原因となっている。
【0036】
「トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ、メンバー13(A disintegrin and metalloproteinase with a thrombospondin type 1 motif,member 13)(ADAMTS13)」は、フォン・ヴィレブランド因子切断プロテアーゼ(VWFCP)としても知られている。本明細書で使用される用語「ADAMTS13」または「ADAMTS13タンパク質」には、ADAMTS13のアナログ、バリアント、誘導体(化学修飾誘導体を含む)、およびそれらの断片が含まれる。一部の態様では、アナログ、バリアント、誘導体、およびそれらの断片は、ADAMTS13と比較して高められた生物活性を有する。様々な態様において、ADAMTS13は、組換えADAMTS13(rADAMTS13)であるか、あるいは、血漿由来ADAMTS13および血清由来ADAMTS13などの血液由来のADAMTS13である。本開示の様々な実施形態では、ADAMTS13は、SHP655またはBAX930またはTAK755として互換的に使用される。
【0037】
特定の実施形態では、本開示は、ADAMTS13のバリアントを含む。特定の実施形態では、ADAMTS13バリアントは、野生型アミノ酸(例えば、配列番号1)と比較して、少なくとも1つの単一アミノ酸置換を含む。特定の実施形態では、単一アミノ酸置換は、ADAMTS13の触媒ドメイン(例えば、配列番号1のアミノ酸80~286)内にある。特定の実施形態では、単一アミノ酸置換は、配列番号1に示されるI79M、V88M、H96D、Q97R、R102C、S119F、I178T、R193W、T196I、S203P、L232Q、H234Q、D235H、A250V、S263C、および/またはR268Pのうちの少なくとも1つ、またはADAMTS13における同等のアミノ酸である。特定の実施形態において、単一アミノ酸置換は、配列番号1に示されるI79M、V88M、H96D、R102C、S119F、I178T、R193W、T196I、S203P、L232Q、H234Q、D235H、A250V、S263C、および/またはR268P、またはADAMTS13における同等のアミノ酸ではない。特定の実施形態では、ADAMTS13バリアントは、配列番号1に示されるQ97またはADAMTS13における同等のアミノ酸における単一アミノ酸置換を含む。特定の実施形態では、アミノ酸の変化は、QからD、E、K、H、L、N、P、またはRへの変化である。特定の実施形態では、ADAMTS13バリアントは、ADAMTS13 Q97R(配列番号2)である。
【0038】
特定の実施形態では、本開示は、ADAMTS13の少なくとも1つのバリアントを含む医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1つのADAMTS13バリアントと、少なくとも1つの野生型ADAMTS13との組み合わせを含む。特定の実施形態では、ADAMTS13バリアントと野生型ADAMTS13の比は、約4:1~約1:4である。特定の実施形態では、ADAMTS13バリアントと野生型ADAMTS13の比は約3:1である。特定の実施形態では、ADAMTS13バリアントと野生型ADAMTS13の比は約1:1である。特定の実施形態では、ADAMTS13バリアントと野生型ADAMTS13の比は約3:2である。特定の実施形態では、ADAMTS13バリアントは、配列番号1に示されるQ97またはADAMTS13の同等のアミノ酸における単一アミノ酸置換を含む。特定の実施形態では、ADAMTS13バリアントは、ADAMTS13 Q97R(配列番号2)である。特定の実施形態では、野生型ADAMTS13は、米国特許出願公開第2011/0229455号に記載されているようなヒトADAMTS13またはその生物学的に活性な誘導体もしくは断片であり、この文献はあらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。一実施形態では、hADAMTS13のアミノ酸配列は、GenBankアクセッション番号NP_620594のものである。特定の実施形態では、hADAMTS13は配列番号1である。
【0039】
本明細書で使用される「アナログ」または「バリアント」は、天然に存在する分子(例えば、配列番号1)と構造が実質的に類似し、程度の差はあるものの、同じ生物学的活性を有するポリペプチド、例えば、ADAMTS13バリアントを指す。アナログまたはバリアントは、アナログまたはバリアントが派生する元の自然に存在するポリペプチドと比較して、(i)ポリペプチド(上述の断片を含む)の1つまたは複数の末端および/または天然に存在するポリペプチド配列の1つまたは複数の内部領域における、1つまたは複数のアミノ酸残基の欠失;(ii)ポリペプチドの1つまたは複数の末端(典型的には「付加」アナログまたはバリアント)および/または天然に存在するポリペプチド配列の1つまたは複数の内部領域(典型的には「挿入」アナログまたはバリアント)における1つまたは複数のアミノ酸の挿入または付加;あるいは(iii)天然に存在するポリペプチド配列における1つまたは複数のアミノ酸の他のアミノ酸による置換;に基づき、アミノ酸配列の組成が異なる。置換は、置換されるアミノ酸とそれを置換するアミノ酸の物理化学的または機能的な関連性に基づき、保存的であったり非保存的であったりする。「バリアント」は、ペプチド配列中の1つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または修飾を含むが、ただし、バリアントがネイティブなポリペプチドの生物学的活性を保持していることを条件とする。いくつかの実施形態では、「バリアント」は、1つまたは複数のアミノ酸の、類似もしくは相同のアミノ酸または異種のアミノ酸での置換を含む。アミノ酸が類似または相同であるとランク付けされ得る多くの尺度がある(Gunnar von Heijne, Sequence Analysis in Molecular Biology, p. 123-39 (Academic Press, New York, N.Y. 1987)。いくつかの態様において、「バリアント」という用語は、「変異体(mutant)」という用語と互換的に使用される。
【0040】
「保存的に修飾されたアナログ」または「保存的に修飾されたバリアント」は、アミノ酸配列と核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に修飾された核酸は、同一または本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸、あるいは核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には本質的に同一の配列を指す。遺伝コードの縮重のために、多くの機能的に同一の核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全て、アミノ酸のアラニンをコードする。よって、アラニンがコドンにより指定される全ての位置で、コドンは、コードされるポリペプチドを変化させることなく、記載される対応コドンのいずれかに変更することができる。そのような核酸変異は「サイレント変異」であり、これは保存的に修飾されたアナログまたはバリアントの1種である。ポリペプチドをコードする本明細書の全ての核酸配列はまた、核酸の全ての可能なサイレント変異も記載する。当業者は、核酸中の各コドン(AUG(通常、メチオニンに対する唯一のコドンである)およびTGG(通常、トリプトファンに対する唯一のコドンである)を除く)が、修飾されて機能的に同一の分子をもたらし得ることを認識するであろう。従って、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載される各配列に暗黙の了解として含まれている。
【0041】
アミノ酸配列に関して、コード化される配列中の単一アミノ酸または小さな割合のアミノ酸を変更、付加、または欠失させる、核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質配列に対する個々の置換、挿入、削除、付加、または切断は、その変更が化学的に類似したアミノ酸でのアミノ酸置換をもたらす「保存的に修飾されたアナログ」であることを当業者は認識するであろう。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表は、当技術分野でよく知られている。このような保存的に修飾されたバリアントは、本開示の多型バリアント、種間ホモログ、および対立遺伝子に追加され、またそれらを排除しない。
【0042】
以下の8つの群はそれぞれ、互いに保存的置換であるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リシン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton,Proteins(1984)を参照されたい)。
【0043】
本明細書で用いられる用語「対立遺伝子バリアント」は、同じ遺伝子座を占有する遺伝子の2つ以上の多型形態のいずれかを指す。対立遺伝子変異は、変異により自然に生じ、一部の態様では、集団内に表現型多型をもたらす。ある態様では、遺伝子変異はサイレント(コードされるポリペプチドに変化をもたらさない)であり、あるいは、他の態様では、改変アミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする。「対立遺伝子バリアント」は、遺伝的対立遺伝子バリアントのmRNA転写物に由来するcDNA、ならびにそれによりコードされるタンパク質を指す。
【0044】
「誘導体」という用語は、治療薬または診断薬へのコンジュゲーション、標識(例えば、放射性核種または様々な酵素による)、PEG化(ポリエチレングリコールによる誘導体化)などの共有結合性ポリマー付着、および非天然アミノ酸の化学合成による挿入または置換により、共有結合的に修飾されたポリペプチドを指す。一部の態様では、誘導体は、本来はその分子の部分ではない付加的な化学部分を含むように修飾される。ある態様では、これらの誘導体は化学修飾誘導体と称される。あるいは、そのような部分は、様々な態様において、分子の溶解性、吸収、および/または生物学的半減期を調節する。このような部分は、他の様々な態様において、その分子の毒性を低減し、その分子の任意の望ましくない副作用等を排除または低減する。そのような作用を媒介できる部分は、Remington's Pharmaceutical Sciences (1980)に開示されている。そのような部分を分子にカップリングさせる手順は、当技術分野でよく知られている。例えば、一部の態様では、ADAMTS13誘導体は、タンパク質により長いin vivo半減期をもたらす化学修飾を有するADAMTS13分子である。一実施形態では、ポリペプチドは、当技術分野で既知の水溶性ポリマーの付加によって修飾される。関連する実施形態では、ポリペプチドは、グリコシル化、PEG化、および/またはポリシアリル化によって修飾される。
【0045】
本明細書で用いられるポリペプチドの「断片」は、完全長のポリペプチドまたはタンパク質発現産物よりも小さなポリペプチドの任意の部分を指す。断片は、典型的には、完全長ポリペプチドのアミノ末端および/またはカルボキシ末端から1つまたは複数のアミノ酸残基が除去されている、完全長ポリペプチドの欠失アナログである。従って、「断片」は以下に説明する欠失アナログのサブセットである。
【0046】
用語「組換え」または「組換え発現系」は、例えば細胞に関連して用いられる場合、その細胞が、異種核酸またはタンパク質の導入、あるいはネイティブな核酸またはタンパク質の変更によって改変されている、あるいはその細胞がそのように改変された細胞に由来することを表す。従って、例えば、組換え細胞は、天然(非組換え)型の細胞内では見られない遺伝子を発現する、あるいは、さもなければ異常発現されたり低発現されたりまたは全く発現されないネイティブ遺伝子を発現する。この用語はまた、例えばプロモーターまたはエンハンサーなどの、遺伝子発現において調節作用を有する組換え遺伝子エレメントを安定に組み込んだ宿主細胞も意味する。本明細書で定義される組換え発現系は、発現されるべき内因性DNAセグメントまたは遺伝子に連結された調節エレメントの誘導により、その細胞に内在するポリペプチドまたはタンパク質を発現する。細胞は原核細胞であっても真核細胞であってもよい。
【0047】
「組換え」という用語は、ポリペプチドまたはタンパク質に言及して本明細書で用いられる場合、ポリペプチドまたはタンパク質が、組換え(例えば、微生物または哺乳動物)発現系に由来することを意味する。「微生物」の場合、細菌または真菌(例えば、酵母)発現系で作られた組換えポリペプチドまたはタンパク質を意味する。用語「組換えバリアント」は、組換えDNA技術を用いて作られた、アミノ酸の挿入、欠失、および置換により天然に存在するポリペプチドとは異なる任意のポリペプチドを指す。目的の活性を失わずにどのアミノ酸残基を置換、付加または欠失させ得るかを特定する指針は、特定のポリペプチドの配列を、相同ペプチドの配列と比較し、相同性の高い領域になされるアミノ酸配列の変化の数を最小限にすることにより見出すことができる。
【0048】
「薬剤」または「化合物」という用語は、本発明において生物学的パラメータに影響を及ぼす能力を有する任意の分子(例えばタンパク質または医薬など)を表す。
【0049】
本明細書で用いられる「対照」は、実薬対照(active control)、陽性対照、陰性対照、またはビヒクル対照を意味しうる。当業者であれば理解できるように、対照は、実験結果の関連性を確立し、試験されている状態について比較を提供するために使用される。ある態様では、対照は、活性のある予防的または治療的組成物を受けない対象である。ある態様では、対照は、SCD、および/またはVOCを経験していない対象であり、例えば、健常対象またはいずれの症状もない対象であるが、これらに限定はされない。
【0050】
SCD、および/またはSCDにおけるVOCの症状に言及するときの「重症度を軽減する」という用語は、症状の発症が遅延すること、重症度が軽減されること、頻度が低減されること、または対象に与える損傷が少ないことを意味する。一般的に、症状の重症度は、対照、例えば、活性のある予防的または治療的組成物を受けない対象と比較されるか、または、治療薬の投与前の症状の重症度と比較される。その場合、症状の対照レベルと比較して、症状が約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約100%軽減された場合(すなわち、本質的に排除された場合)に、組成物は、SCDおよび/またはSCDにおけるVOCの症状の重症度を軽減すると言うことができる。特定の態様では、症状の対照レベルと比較して、症状が約10%~約100%、約20%~約90%、約30%~約80%、約40%~約70%、または約50%~約60%の間の範囲で軽減された場合に、組成物は、SCDおよび/またはSCDにおけるVOCの症状の重症度を軽減すると言うことができる。特定の態様では、症状が、症状の対照レベルと比較して、約10%~約30%、約20%~約40%、約30%~約50%、約40%~約60%、約50%~約70%、約60%~約80%、約70%~約90%、または約80%~約100%の間で軽減される場合に、組成物は、SCDおよび/またはSCDにおけるVOCの症状の重症度を軽減すると言うことができる。いくつかの態様では、本開示の方法による治療は、SCDにおけるVOCの疼痛および/または他の症状の重症度を軽減する。
【0051】
SCDおよび/またはSCDにおけるVOCのバイオマーカー(例えば、超巨大VWFマルチマー、VWF活性、およびVWF活性/抗原比、ECHb、VCAM-1、ICAM-1、P-NF-κB/NF-κB比、ET-1、TXAS、HO-1、Hct、Hb、MCV、HDW、網状赤血球数、好中球数などが挙げられるが、これらに限定されない)に言及する際の「発現を低減する」、「レベルを低減する」、および「活性化を低減する」という用語は、バイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化が対照と比較して減少することを意味する。その場合、バイオマーカーが、対照と比較して、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約100%減少した場合(すなわち、本質的に排除された場合)に、組成物は、SCDおよび/またはSCDにおけるVOCのバイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化を低減すると言える。特定の態様では、組成物は、対照と比較して、約10%~約100%、約20%~約90%、約30%~約80%、約40%~約70%、または約50%~約60%の間の範囲で、発現、レベル、および/または活性化が減少した場合に、SCDおよび/またはSCDにおけるVOCのバイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化を低減すると言うことができる。特定の態様では、組成物は、対照と比較して、約10%~約30%、約20%~約40%、約30%~約50%、約40%~約60%、約50%~約70%、約60%~約80%、約70%~約90%、または約80%~約100%の間でバイオマーカーが減少した場合に、SCDおよび/またはSCDにおけるVOCのバイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化を低減すると言うことができる。
【0052】
SCDおよび/またはSCDにおけるVOCのバイオマーカーに言及する場合、「発現を増大させる」、「レベルを増大させる」、および「活性化を増大させる」という用語は、バイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化が対照と比較して増加することを意味する。その場合、組成物は、対照と比較して、バイオマーカーが、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約100%増加した場合(すなわち、本質的に排除された場合)に、SCDおよび/またはSCDにおけるVOCのバイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化を増大させると言うことができる。特定の態様では、組成物は、対照と比較して、約10%~約100%、約20%~約90%、約30%~約80%、約40%~約70%、または約50%~約60%の間の範囲で発現、レベル、および/または活性化が増加する場合に、SCDおよび/またはSCDにおけるVOCのバイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化を増大させると言うことができる。特定の態様では、組成物は、バイオマーカーが、対照と比較して、約10%~約30%、約20%~約40%、約30%~約50%、約40%~約60%、約50%~約70%、約60%~約80%、約70%~約90%、または約80%~約100%の間の範囲で増加する場合に、SCDおよび/またはSCDにおけるVOCのバイオマーカーの発現、レベル、および/または活性化を増大させると言うことができる。
【0053】
「有効量」および「治療有効量」という用語はそれぞれ、本明細書に記載されているように、ADAMTS13ポリペプチドの1つまたは複数の生物学的活性の観察可能なレベルを支持するために使用されるポリペプチド(例えばADAMTS13ポリペプチド)、または組成物の量を指す。例えば、有効量は、本開示のいくつかの態様において、SCDにおけるVOCの症状を治療または予防するために必要な量である。
【0054】
「対象」は、非植物、非原生生物という従来の意味が与えられる。ほとんどの態様において、対象は動物である。特定の態様では、動物は哺乳動物である。より特定の態様では、哺乳動物はヒトである。他の態様では、哺乳動物は、ペットまたはコンパニオン動物、家畜、または動物園の動物である。特定の態様では、哺乳動物は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ブタ、または非ヒト霊長類である。特定の態様では、動物はマウスである。他の態様では、哺乳動物は、ネコ、イヌ、ウマ、またはウシである。他の様々な態様では、哺乳動物は、シカ、マウス、シマリス、リス、オポッサム、またはアライグマである。
【0055】
また、本明細書に記載されている任意の数値は、下限値から上限値までの全ての値を包含することが理解されるべきであり、すなわち、列挙されている最低値と最高値の間の数値の全ての可能な組み合わせが本願に明示的に記載されていると考えるべきである。例えば、濃度範囲が約1%~50%と記載されている場合、2%~40%、10%~30%、または1%~3%などの値が本明細書に明示的に列挙されているものと考えられる。上記の値は、具体的に意図されたものの例示に過ぎない。
【0056】
様々な態様において、範囲は、本明細書において、「約」または「およそ」1つの特定値から、および/または「約」または「およそ」別の特定値までとして表されている。値が、先行詞「約」を用いて概算として表される場合、ある程度の変動がその範囲に含まれることを理解されたい。そのような範囲は、所定の値または範囲の、一桁以内、好ましくは50%以内、より好ましくは20%以内、さらにより好ましくは10%以内、もっとより好ましくは5%以内であることができる。「約」または「およそ」という用語に包含される許容変動は、検討中の特定の系に依存し、当業者であれば容易に理解することができる。
【0057】
鎌状赤血球症、および鎌状赤血球症における血管閉塞
いくつかの態様では、本開示は、SCD、特にSCDにおけるVOCの治療、改善、および/または予防におけるADAMTS13およびADAMTS13を含む組成物を含む。SCDは、βグロビン遺伝子の点突然変異により生じる世界的な遺伝性の赤血球疾患であり、病的なHbSの合成、および低酸素状態でのHbSの異常な重合を引き起こす。SCDの2つの主な臨床症状は、慢性溶血性貧血と急性VOCであり、これらはSCD患者の入院の主な原因となっている。最近の研究では、鎌状赤血球に関連する急性事象および慢性臓器合併症の発生において鎌状血管障害(sickle vasculopathy)が中心的な役割を果たしていることが強調されている(Sparkenbaugh et al, Br. J. Haematol. 162:3-14, 2013; De Franceschi et al., Semin. Thromb. Hemost. 226-36, 2011; and Hebbel et al, Cardiovasc. Hematol. Disord. Drug Targets, 9:271-92, 2009;Dutra et al., Proc Natl Acad Sci USA; 111(39): E4110-E4118;これらの各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。これら合併症の病態生理は、毛細血管および小血管における血管内鎌状赤血球化に基づいており、VOC、血流障害、血管の炎症、および/または虚血性細胞損傷を伴う血栓症を引き起こす。
【0058】
SCDの最も一般的な臨床症状はVOCである。VOCは、微小循環が鎌状赤血球により閉塞された場合に生じ、供給臓器に虚血性障害およびその結果疼痛を引き起こす。疼痛クリーゼは、SCDの最も特徴的な臨床症状であり、SCDを患う対象または患者の救急外来受診および/または入院の主な原因となっている。
【0059】
SCD対象またはホモ接合型HbS疾患の患者の約半数がVOCを経験する。クリーゼ(急性憎悪)の頻度は極めてばらつきがある。一部のSCD対象または患者は、毎年6回以上もの回数の発作(episodes)を起こすが、他の患者は大きな間隔でのみ発作を起こすか、あるいは全く発作を起こさない。それぞれの対象または患者は、典型的には、クリーゼの頻度に関して一貫したパターンを有する。
【0060】
本開示は、VOCに関連する虚血および疼痛(例えば、指炎、持続勃起症、腹痛、胸痛、および関節痛)、黄疸、骨梗塞、異常呼吸(例えば、頻呼吸および息切れ)、低酸素症、アシドーシス、低血圧、および/または頻脈などを含むがそれらに限定されない、VOCの少なくとも1つの症状を軽減する方法を含む。ある態様では、VOCは、これらの症状の1つまたは複数を含む症状として定義することができる。疼痛クリーゼは突然始まる。クリーゼ(急性憎悪)は、数時間~数日間持続し、その始まりと同様に突然終わることがある。疼痛は、体のあらゆる部分に影響し、しばしば腹部、付属器官、胸部、背部、骨、関節、および軟組織を含み、それは指炎(小児の両側性の手および/または足の痛みおよび腫れ)、急性関節壊死または虚血壊死、あるいは急性腹症として現れることがある。脾臓での繰り返される発作により、生命に関わる感染症に罹りやすくする梗塞および線維化による脾臓の萎縮(autosplenectomy)がよく生じる。肝臓も梗塞を起こし、時間とともに不全に進行し得る。乳頭壊死はVOCの一般的な腎症状であり、等張尿症(すなわち、尿の濃縮不能)につながる。
【0061】
長骨を含む、四肢に激しい深部痛がある。腹痛は激しく、急性腹症に似ている;それは、他の部位からの関連痛、あるいは腹腔内の固形臓器または軟組織の梗塞に起因し得る。反応性イレウスは腸管の膨張および疼痛を引き起こす。顔面も含まれ得る。疼痛は、発熱、倦怠感、呼吸障害、勃起時疼痛、黄疸、および白血球増加を伴う場合がある。骨の痛みは、骨髄梗塞が原因であることが多い。骨髄が最も活発に活動している骨に疼痛が生じる傾向があり、また骨髄活性は年齢とともに変化するため、特定のパターンが予測可能である。生後18か月の間、中足骨および中手骨が冒される可能性があり、指炎または手足症候群として現れる。上記のパターンは、一般的に直面する現象を記載するが、血液供給および感覚神経を有する対象の体のあらゆる領域がVOCの影響を受けるであろう。
【0062】
VOCを引き起こす原因となる憎悪原因が同定されないことがよくある。しかしながら、脱酸素化HbSは半固形化するため、最も可能性の高いVOCの生理学的誘因(トリガー)は低酸素血症である。これは、急性胸部症候群または不随する呼吸器合併症のせいであり得る。アシドーシスは酸素解離曲線のシフト(ボーア効果)をもたらし、ヘモグロビンをより迅速に脱飽和化させるため、脱水も疼痛を急に引き起こす可能性がある。血液濃縮も一般的な機序である。VOCの別の一般的な誘因は、体温の変化であり、発熱による体温の上昇も環境温度変化による体温の低下も誘因となる。体温の低下は、おそらく末梢血管収縮の結果としてクリーゼを引き起こすと思われる。
【0063】
ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、末梢好中球の増加を有するとして定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、肺血管漏出の増大(例えば、気管支肺胞洗浄(BAL)中の白血球数の増加および/またはタンパク質含量(BALタンパク質(mg/mL)の増加)として定義することができる。
【0064】
ある実施形態では、対照と比較した、臓器における血管活性化レベルの増大(例えば、VCAM-1および/またはICAM-1の発現、レベル、および/または活性の増大により測定される)は、VOCのマーカーである。ある実施形態では、対照と比較した、臓器における炎症性血管障害のレベルの上昇(例えば、VCAM-1および/またはICAM-1の発現、レベル、および/または活性の増大により測定される)はVOCのマーカーである。ある実施形態では、対照と比較した、組織における血管活性化および炎症性血管障害のレベルの上昇は、VOCのマーカーである。ある実施形態では、臓器は肺および/または腎臓である。ある実施形態では、臓器は腎臓である。
【0065】
ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、NF-κB(ここで、NF-κBの活性化は、P-NF-κB、またはP-NF-κB/NF-κB比により測定される)、VCAM-1、およびICAM-1の内の少なくとも1つの発現、レベル、および/または活性化の増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、エンドセリン-1(ET-1)、トロンボキサンシンターゼ(TXAS)、およびヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の内の少なくとも1つの発現またはレベルの増大として定義することができる。ある実施形態では、これらの増大は肺組織で見られる。ある実施形態では、これらの増大は腎臓組織で見られる。ある実施形態では、腎臓組織におけるTXAS、ET-1、およびVCAM-1の発現および/またはレベルの増大、ならびにNF-κBの活性化は、VOCのマーカーである。
【0066】
ある実施形態では、VOCは、血液学的パラメータにより定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、Hct、Hb、MCV、およびMCHの内の少なくとも1つのレベルの低減として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、Hct、Hb、MCV、およびMCHの内の少なくとも2つのレベルの低減として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、Hct、Hb、MCV、およびMCHの内の少なくとも3つのレベルの低減として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、CHCM、HDW、好中球数、およびLDHの内の少なくとも1つのレベルの増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、CHCM、HDW、好中球数、およびLDHの内の少なくとも2つのレベルの増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、CHCM、HDW、好中球数、およびLDHの内の少なくとも3つのレベルの増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、Hctレベルの低減として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、Hbレベルの低減として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、MCVの低減として定義することができる。ある実施形態では、VOC、対照と比較して、MCHの低減として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、CHCMの増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、HDWの増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、好中球数の増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、LDHの増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、Hct、Hb、MCV、およびMCHの内の少なくとも1つのレベルの低減、および/または対照と比較して、CHCM、HDW、好中球数、およびLDHの内の少なくとも1つのレベルの増大として定義することができる。ある実施形態では、VOCは、対照と比較して、Hct、Hb、MCV、およびMCHのレベルの低減、および/または対照と比較して、CHCM、HDW、好中球数、およびLDHのレベルの増大として定義することができる。
【0067】
SCDのモデル、ならびに予防または治療の有効性を試験する方法
いくつかの実施形態では、本開示は、SCDマウスを低酸素状態に曝すことによって模倣された急性SCD関連事象中のSCDのモデルマウス(ティム・タウンズ(Tim Townes)マウス)における組換えADAMTS13(すなわち、BAX930/SHP655/TAK755)の効果の研究を含む。この研究は正常酸素状態および低酸素状態で行われ、鎌状赤血球症マウスを低酸素状態に曝した後、マウスモデルにおける予防または治療投与(複数可)の有効性(全生存率の測定を含む)と、血液パラメータ、肺および腎障害、ならびに血管炎症に対するBAX930/SHP655/TAK755による処置(複数可)の生物学的効果を試験した。
【0068】
ヒト化Tim Townes SSマウスは、SCDの適切なモデルマウスとして発表されている。これはトランスジェニックマウスモデルであり、マウスのヘモグロビン遺伝子をノックアウトし、ヒトのヘモグロビンSの遺伝子をノックインしたものである(HbS、SCDマウスまたはSSマウスと呼ばれる)(Ryan et al., Science; 278(5339): 873-6, 1997; Nguyen et al., Blood, 124(21): 4916, 2014)。高用量(2940U/kg)のADAMTS13を用いたTim Townes SSマウスの単回静脈投与治療は、血管閉塞事象の重症度を有意に軽減し、これらのマウスは対照動物と比較して低酸素条件下で生き延びた(国際公開第WO/2018/027169号の実施例7を参照されたい;この文献は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0069】
いくつかの実施形態では、SCDのトランスジェニックマウスモデルが使用される(Kalish et al., Haematologica 100:870-80, 2015)。いくつかの態様では、健常対照(Hbatm1(HBA)Tow Hbbtm3(HBG1,HBB)Tow)マウスおよびSCD(Hbatm1(HBA)Tow Hbbtm2(HBG1,HBB*)Tow)マウスを、低酸素/再酸素化(H/R)ストレスに曝した(Kalish et al.,下記参照)。このようなH/Rストレスは、ヒトSCD患者の急性VOCおよび急性VOCで見られる臓器損傷を生物学的に再現することが示されている。いくつかの態様では、健常(AA)マウスおよびSCD(SS)マウスは、一定時間(例えば、約5時間)の低酸素状態(例えば、約5.5%または約7%の酸素)に続いて、一定時間(例えば、1時間)の再酸素化(例えば、約21%の酸素、室内空気状態)を受ける。
【0070】
様々な態様において、SCDモデルおよび対照は、正常酸素または低酸素の条件に曝される。正常酸素実験では、健常対照(AA)およびSCD(SS)マウスは、rADAMTS13(例えば、3,000IU/kg)または緩衝液(ビヒクル)のいずれかを固定体積(例えば、10mL/kg)で単回静脈内投与され、正常酸素状態(例えば、約21%の酸素、室内空気状態)に曝される。ADAMTS13またはビヒクルでの処置および正常酸素または低酸素への曝露の後、様々な時間にわたり動物を調べた。血液を採取し、全血算(CBC)を測定する。CBCは、総合的な健康状態を評価し、とりわけ貧血を含むさまざまな障害を検出するために用いられる血液検査である。血液学的検査、凝固パラメータ、炎症のバイオマーカー、血管障害、および病理組織学的検査を含むがそれらに限定されない、さまざまな他のエンドポイントが測定される。
【0071】
例示的な態様では、低酸素実験が実施され、健常対照(AA)マウスおよびSCD(SS)マウスに、ADAMTS13(例えば、300IU/kg、1,000IU/kg、もしくは3,000IU/kg)またはビヒクルを、固定体積(例えば、10mL/kg)で単回静脈内投与する。特定の実施形態では、ヒト対象に投与される用量は、げっ歯類(例えば、マウス)対象に投与される用量の約10%である。特定の実施形態では、ヒト対象に投与される用量は、げっ歯類(例えば、マウス)対象に投与される用量の約9%である。特定の実施形態では、ヒト対象に投与される用量は、げっ歯類(例えば、マウス)対象に投与される用量の約8%である。特定の実施形態では、ヒト対象に投与される用量は、げっ歯類(例えば、マウス)対象に投与される用量の約7%である。特定の実施形態では、ヒト対象に投与される用量は、げっ歯類(例えば、マウス)対象に投与される用量の約10%未満、例えば、約7%~約10%である。
【0072】
注射後(例えば、注射の約1~3時間後)、マウスを低酸素状態(例えば、約7%の酸素)に一定時間(例えば、約5時間)曝した後、ある時間(例えば、約1時間)再酸素化を施して、SCD関連のVOC事象を模倣する。いくつかの態様では、正常酸素試験で詳述したのと同じパラメータを評価する。
【0073】
さらなる例示的態様において、低酸素実験を実施し、そこでは、健常対照(AA)マウスおよびSCD(SS)マウスを、ある時間(例えば、約10時間)低酸素状態(例えば、約8%酸素、またはそれ以上)に曝し、その後、ある時間(例えば、約3時間)再酸素化を施してSCD関連VOC事象を模倣する。次いで、実験的に誘発させた血管閉塞事象の直後、あるいはその約1、3、6、12、24、36、48、または72時間後を含むがそれらに限定されないその後の様々な時点に、マウスに、ADAMTS13(例えば、300IU/kg、1,000IU/kg、もしくは3,000IU/kg)またはビヒクルを、固定体積(例えば、10mL/kg)で単回静脈内投与するか、あるいは12または24時間の間隔で複数回注射する。一部の態様では、正常酸素試験に関して詳述したのと同じパラメータを評価する。
【0074】
様々な態様において、in vitroもしくはin vivoモデルにおいておよび/またはVOC条件下で、ADAMTS13による治療の有効性について任意の標的組織を調べた。いくつかの態様では、臓器組織は、肺、肝臓、膵臓、皮膚、網膜、前立腺、卵巣、リンパ節、副腎、腎臓、心臓、胆嚢または消化管(GI管)を含むが、これらに限定されない。いくつかの態様では、臓器組織は、肺、肝臓、脾臓、および/または腎臓を含むが、これらに限定されない。
【0075】
例えば、いくつかの態様では、正常酸素または低酸素の条件下でADAMTS13の効果を調べるために、標的組織を採取する。組織は凍結されおよび/またはホルマリンで固定される。凍結した組織は、核内因子κB(NF-κB)、エンドセリン-1(ET-1)、ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)、細胞間接着分子-1(ICAM-1)、トロンボキサンシンターゼ(TXAS)、および血管細胞接着分子-1(VCAM-1)に対する特異的抗体を用いたイムノブロット分析に使用される。固定された臓器は標準的病理検査(H&E染色)に使用される。
【0076】
血管収縮、血小板凝集、炎症、酸化ストレス、抗酸化反応および/または組織損傷のマーカーを測定して、治療の有効性を判定してもよい。いくつかの態様では、核内因子κBが、その正常型(NF-κB)および活性化型(P-NF-κB)の両方で測定される。NF-κBは、炎症反応と抗酸化反応を調整すると言われている転写因子である。活性化型と正常型の比率を評価する。いくつかの態様では、ET-1が測定される。ET-1は、血管内皮細胞によって産生される強力な血管収縮物質である。ET-1は、心血管肥大、肺高血圧、慢性腎不全など、いくつかの病態生理学的プロセスにおいて役割を果たしている。いくつかの態様では、HO-1が測定される。HO-1は、ヘムの異化における誘導性の律速酵素であり、血管保護作用のある抗酸化物質として作用することで、血管閉塞性クリーゼおよび溶血性クリーゼの転帰の重症度を軽減する可能性がある。いくつかの態様では、ICAM-1が測定される。ICAM-1は、白血球や内皮細胞の膜に低濃度で継続的に存在している。ICAM-1は血管内皮への鎌状赤血球の接着には関与していないと思われるが、ICAM-1は白血球の接着を促進することでVOCを悪化させる可能性がある。いくつかの態様では、TXASが測定される。TXASは、プロスタグランジンH2のトロンボキサンA2への変換を触媒する小胞体膜タンパク質である。TXASは、強力な血管収縮剤であり、血小板凝集の誘導因子である。したがって、TXASは血管収縮および血小板凝集の強力な誘導因子である。TXASは、止血、心血管疾患、脳卒中など、いくつかの病態生理学的プロセスにおいて役割を果たしている。いくつかの態様では、VCAM-1が測定される。VCAM-1は、リンパ球や他の血球の血管内皮への接着を媒介するため、血管閉塞事象に寄与する可能性がある。いくつかの態様では、臓器組織における炎症性細胞の浸潤が測定される。
【0077】
例示的な態様では、NF-κB、ET-1、HO-1、ICAM-1、TXAS、およびVCAM-1に対する特異的抗体を用いたイムノブロット分析を実施して、本開示のモデルまたは対象の細胞および組織におけるこれらの酵素の発現を測定し、治療の有効性を決定する。例示的な態様では、ビヒクルまたはADAMTS13のいずれかで処置したAAマウスおよびSCDマウスの臓器組織において、NF-κB、ET-1、HO-1、ICAM-1、TXAS、および/またはVCAM-1の発現を測定する。特定の実施形態では、臓器は、肺、肝臓、膵臓、皮膚、網膜、前立腺、卵巣、リンパ節、副腎、腎臓、心臓、胆嚢または消化(GI)管を含むが、これらに限定されない。特定の実施形態では、臓器は、肺、肝臓、脾臓、および/または腎臓である。
【0078】
特定の実施形態では、ADAMTS13の投与により、対照と比較して、臓器における血管活性化および/または炎症性血管障害のレベルが低下する。特定の実施形態では、臓器は肺である。特定の実施形態では、臓器は腎臓である。
【0079】
特定の実施形態では、ADAMTS13の投与により、対照と比較して、VCAM-1、ICAM-1、NF-κB(ここで、NF-κBの活性化の低減は、P-NF-κB、またはP-NF-κB/NF-κBの比によって測定される)、ET-1、TXAS、およびHO-1のうちの少なくとも1つの発現、レベル、および/または活性化が低減される。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与により、対照と比較して、VCAM-1、ICAM-1、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1のうちの少なくとも2つの発現、レベル、および/または活性化が低減される。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与により、対照と比較して、VCAM-1、ICAM-1、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1のうち少なくとも3つの発現、レベル、および/または活性化が低減される。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与により、対照と比較して、VCAM-1、ICAM-1、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1のうちの少なくとも4つの発現、レベル、および/または活性化が低減される。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与により、対照と比較して、VCAM-1、ICAM-1、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1のうちの少なくとも5つの発現、レベル、および/または活性化が低減される。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与により、対照と比較して、VCAM-1、ICAM-1、NF-κB、ET-1、TXAS、およびHO-1の発現、レベル、および/または活性化が低減される。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与により、対照と比較して、VCAM-1の発現、レベル、および/または活性化が低減される。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与により、対照と比較して、ICAM-1の発現、レベル、および/または活性化が低減される。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与により、対照と比較して、VCAM-1およびICAM-1の発現、レベル、および/または活性化が低減される。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与により、対照と比較して、ET-1の発現および/またはレベルが低減される。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与により、対照と比較して、TXASの発現および/またはレベルが低減される。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与により、対照と比較して、HO-1の発現および/またはレベルが低減される。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与により、対照と比較して、P-NF-κB/NF-κBの比が低減される。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、P-NF-κB/NF-κB比、ET-1の発現および/またはレベル、TXASの発現および/またはレベル、ならびにHO-1の発現および/またはレベルのうちの少なくとも1つの低減をもたらす。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、P-NF-κB/NF-κB比、ET-1の発現および/またはレベル、TXASの発現および/またはレベル、ならびにHO-1の発現および/またはレベルの低減をもたらす。特定の実施形態では、臓器は肺である。特定の実施形態では、臓器は腎臓である。
【0080】
さらなる例示的な態様では、これらのマーカーの測定は、動物モデルが本明細書に記載されているような低酸素および再酸素化(H/R)の条件に曝された後に実施される。さらに例示的な態様では、これらのマーカーの測定は、対象がVOCを経験した後に実施される。
【0081】
いくつかの実施形態では、治療の有効性の指標として血流が測定される。いくつかの実施形態では、血流は、超音波、PET、fMRI、NMR、レーザードップラー、電磁式血流計、またはウェアラブルデバイスによって測定されるが、これらに限定されない。
【0082】
いくつかの実施形態では、血栓症の軽減または予防は、治療の有効性の測量である。いくつかの実施形態では、血栓症の存在は、病理組織学的検査、超音波検査、Dダイマー検査、静脈造影、MRI、またはCT/CATスキャンによって測定されるが、これらに限定されない。いくつかの態様では、血栓形成は、臓器組織において特定される。
【0083】
いくつかの実施形態では、肺血管漏出(すなわち、肺の漏出および損傷)の低減または防止は、治療の有効性の測量である。いくつかの実施形態では、(肺の損傷の程度および治療(例えば、ADAMTS13による治療)の有効性を決定するために)気管支肺胞洗浄液(BAL)の測定項目またはパラメータ(総タンパク質および白血球含有量)が、肺血管漏出のマーカーとして測定される。肺漏出は、BAL中のタンパク質および/または白血球含有量の増加をもたらす。BAL液を採取し、細胞内容物を遠心分離により回収し、以前に報告されたようにマイクロサイトメトリーによってカウントする(Kalish et al., Haematologica 100: 870-80, 2015;参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。いくつかの実施形態では、末梢好中球の増加の低減または防止は、治療の有効性の測量である。好中球の割合(%)はサイトスピン遠心分離で決定され、上澄み液は総タンパク質含有量の決定に使用される(Kalish et al.,上記参照)。
【0084】
いくつかの実施形態では、治療の有効性の指標として肺機能の改善が測定される。肺機能は、ピークフロー(最大呼気流量)検査、スパイロメトリー・可逆性試験、肺容量検査、ガス交換検査、呼吸筋検査、呼気一酸化炭素検査、または呼気一酸化窒素検査によって測定することができるが、これらに限定されない。
【0085】
いくつかの実施形態では、治療(例えば、ADAMTS13による治療)の有効性を決定するために、血液学的パラメータが測定される。以下の血液学的パラメータが測定される:細胞損傷の一般的なマーカーとしての乳酸脱水素酵素(LDH);赤血球の生存率の指標としてのヘマトクリット(Hct)および平均赤血球容積(MCV);酸素結合能の指標としてのヘモグロビン(Hb)、平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)および細胞ヘモグロビン濃度(CHCM);濃い(dense)赤血球の存在の指標としての赤血球分布の不均一性(HDW);貧血状態の指標としての網状赤血球数;および全身の炎症状態の指標としての好中球数など。
【0086】
特定の実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、血中のHct、Hb、MCVおよびMCHのうちの少なくとも1つのレベルの低下を改善する。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、血液中のHct、Hb、MCVおよびMCHのうちの少なくとも2つのレベルの低下を改善する。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、血液中のHct、Hb、MCVおよびMCHのうちの少なくとも3つのレベルの低下を改善する。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、血液中のHct、Hb、MCVおよびMCHのレベルの低下を改善する。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数のうちの少なくとも1つの上昇(増加)を改善する。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数のうちの少なくとも2つの上昇(増加)を改善する。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数のうち少なくとも3つの上昇(増加)を改善する。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与は、対照と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数の上昇(増加)を改善する。特定の実施形態では、ADAMTS13は、対照と比較して、Hct、Hb、MCV、およびMCHレベルの低下を改善し、CHCM、HDW、LDH、および好中球数のレベルの上昇を改善する。
【0087】
ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、血中のHct、Hb、MCVおよびMCHの内の少なくとも1つのレベルの増大をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、血中のHct、Hb、MCVおよびMCHのうちの少なくとも2つのレベルの増大をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、血中のHct、Hb、MCVおよびMCHのうちの少なくとも3つのレベルの増大をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、血中のHct、Hb、MCVおよびMCHのレベルの増大をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数のうちの少なくとも1つの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数のうちの少なくとも2つの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数のうちの少なくとも3つの低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13の投与は、対象と比較して、CHCM、HDW、LDH、および好中球数の低減をもたらす。ある実施形態では、ADAMTS13は、対象と比較して、Hct、Hb、MCV、およびMCHレベルの増大、ならびにCHCM、HDW、LDH、および好中球レベルの低減をもたらす。
【0088】
いくつかの実施形態では、VWFおよび超巨大VWFマルチマーのレベルを測定する方法が用いられる。SCD患者では、VWFおよび超巨大VWFマルチマーのレベルの上昇が観察されており、急性血管閉塞事象と関連している。循環VWFマルチマーのレベルの増加はADAMTS13の活性に依存しており、ADAMTS13は高い流体せん断応力の条件下で接着性の高い超巨大VWFマルチマーを切断し、止血活性と血栓症リスクとの適切なバランスを維持する上で重要な役割を果たしている。より具体的には、ADAMTS13は、プレプロ配列の切断後のアミノ酸残基842-843に相当するアミノ酸残基Tyr1605とMet1606との間でVWFを切断する。このADAMTS13媒介切断が、一次止血活性に相関するVWFマルチマーサイズに大きく関与する。VWFの発現またはレベルを測定するために、VWFに対する特異的抗体を用いた様々なタイプのイムノブロット分析を含む、VWFおよび超巨大VWFマルチマーを測定する方法が実施される。さらに、VWFを測定する他の既知の方法も本発明の様々な態様に含まれる。
【0089】
特定の実施形態では、ADAMTS13の投与は、超巨大VWFマルチマー、VWF活性およびVWF活性/抗原比のうちの少なくとも1つのレベルの低下をもたらす。VWF活性/抗原比は、血漿中のVWF活性とVWF抗原との比である。VWF活性は、VWFリストセチンコファクター活性測定法やVWFのコラーゲン結合活性を測定する酵素免疫アッセイなど、当業界で知られている様々な方法で測定することができる。VWF抗原レベルは、市販のELISAテスト(例えば、Asserachrom(登録商標)VWF:Ag)を含む免疫吸着アッセイを用いて測定することができる。特定の実施形態では、ADAMTS13の投与は、血漿中のVWF抗原のレベルを変化させない。
【0090】
特定の実施形態では、ADAMTS13の投与は、ADAMTS13媒介VWF切断の増加をもたらす。ADAMTS13媒介VWF切断は、SCD患者において、血漿中の細胞外ヘモグロビン(ECHb)のレベルが上昇することにより阻害され得る。SCD患者において、細胞外ヘモグロビンは、血漿中に20~330μg/mLの濃度で存在し、VOC中には400μg/mLを超えることがある。いくつかの実施形態では、ADAMTS13の投与により、SCD患者において、ADAMTS13媒介VWF切断が少なくとも約20%増加する。いくつかの実施形態では、ADAMTS13の投与により、SCD患者において、ADAMTS13媒介VWF切断が、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または約100%増加する。いくつかの実施形態では、ADAMTS13の投与により、SCD患者において、ADAMTS13媒介VWF切断が約20%~70%増加する。いくつかの実施形態では、ADAMTS13の投与により、SCD患者において、ADAMTS13媒介VWF切断が約80%~100%増加する。
【0091】
特定の実施形態において、ADAMTS13の投与は、血漿中の遊離ヘモグロビンのレベルの低減をもたらす。遊離ヘモグロビンは、市販のELISAアッセイを用いて測定することができる。
【0092】
いくつかの態様では、有効性は、対照またはベースラインの測定値と比較して、臓器損傷の低減によって測定される。いくつかの実施形態では、臓器損傷は、CT/CATスキャン、超音波、X線、MRI、および核医学などの放射線画像検査によって測定されるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、臓器損傷は、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン、BUN/クレアチニン比、トロポニン、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)を含むがこれらに限定されない、様々なバイオマーカーの変化によって測定される。いくつかの実施形態では、組織の変化は、病理組織学的検査によって測定される。
【0093】
当業者であれば、測定対象の臓器(上で定義)および/または体液に関連する、本明細書に開示された任意のバイオマーカーの適切な尺度を選択することができる。体液には、血液(血漿および血清を含む)、リンパ液、脳脊髄液、泌乳産物(例えば、乳)、羊水、尿、唾液、汗、涙、月経、糞便、およびこれらの分画物を含むが、これらに限定されない。
【0094】
いくつかの態様では、有効性は、対象のQOLを評価することによって測定される(例えば、Treadwell et al., Clin. J. Pain 30(10):902-915 (2016)に報告されている、Adult Sickle Cell Quality-of-Life Measurement Information System(ASCQ-Me)を用いる)。ASCQ-Meは、以下の7つのトピックスを中心に構成される:心理的影響(精神的苦痛(例えば、絶望、孤独、憂鬱、および心配)に関する5つの質問調査;疼痛発作の頻度および重症度(発作の回数、最後の発作からの時間;1~10のスケールで最近の発作での疼痛の重症度;どのくらいの長さ発作が続いたか、あなたの生活に発作がどの程度影響したか);疼痛の影響(頻度および重症度、ならびにそれが活動にどのように影響したかについて尋ねる);鎌状赤血球症の病歴チェックリスト;睡眠の影響(寝付きやすさの程度、寝付けない頻度の程度の頻度);社会生活機能への影響(他者への依存度、健康状態が活動に与える影響);および硬直の影響(不眠を引き起こす関節のこわばり、日中の動き、覚醒時の動き)。
【0095】
様々な態様において、予防および/または治療の有効性は、疼痛の重症度(例えば、疼痛評価尺度によって測定される)、疼痛緩和、薬剤の必要性の認識、治療の満足度、VOC発生の頻度、VOC発作の持続時間、入院の長さおよび/または持続期間、入院に関連する費用、および/または鎮痛剤(例えば、オピエート(アヘン剤)の静脈内投与)の要求の持続期間を測定することによって特定される。
【0096】
特定の態様では、疼痛の重症度は、対象が自分の痛みを最もよく表す1つまたは複数の単語を選択するマギル/メルザック疼痛質問表(McGill/Melzack Pain Questionnaire) (Melzack et al., Pain 1975 Sep;l(3):277-99)を用いて測定される。ある態様では、視覚的アナログスケール(Visual Analog Scale)(VAS)を用いて疼痛の重症度を測定する。VASは、一方の端が「痛みなし」で、他方の端が「想像できる最大の痛み」として固定された、10cmの黒い線である。患者は、2つのアンカーの間にその痛みのレベルを線上に印をつけるように指示される。VASスコアは、「痛みなし」アンカーと、患者の痛みのレベルを指示する患者の印との間のセンチメートル(cm)での距離を測定することにより計算され、0mm~10cmの範囲で疼痛の重症度のスコアをもたらす。ある態様では、疼痛の重症度は、数値的評価スケール(Numeric Rating Scale)(NRS)を用いて測定される。NRSは、「痛みなし」と「想像できる最大の痛み」とで固定された11段階スケールである。患者は、0が痛みなしを意味し、10が想像できる最大の痛みを意味する、0~10までのスケールで彼らの現在の痛みのレベルを報告するように指示される。
【0097】
特定の態様では、疼痛緩和は、NRSおよびVASスケールに記された変化を固定し、前回の評価から患者の疼痛がどのように変化したかのグローバル評価(すなわち、今回の評価から前回の評価を引いたもの)として測定することができる。患者は、「前回報告したときの痛みと比較して、痛みがどの程度変化したか教えて下さい」という質問に対して疼痛緩和を報告した。患者は、痛みが「かなり悪化した」、「少し悪化した」、「同じ」、「少し改善した」、または「かなり改善した」を回答する。
【0098】
特定の態様では、投薬の必要性を患者または医療従事者が報告することができる。
【0099】
特定の態様では、治療満足度を患者が報告することができる。報告は、「全く満足しない」、「多少満足した(満足)」、「非常に満足した(満足)」、または「わからない」の尺度で行うことができる。
【0100】
特定の態様では、マウスモデルにおけるVOCの予防および/または治療の有効性は、行動観察による読み出しを用いて決定される。例えば、1つまたは複数の行動症状がスクリーニングされ得る。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の行動症状は、立毛、アパシー、目の状況、皮膚の色、自発的な運動性、刺激された運動性、および呼吸数から選択される。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の行動症状は、立毛、アパシー、目の状況、刺激された運動性、および呼吸数から選択される。追加の行動症状には、Mittal et al., Blood Cells Mol Dis. 57:58-66, 2016に記載されているものが含まれ、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。行動スコアは、行動症状の重症度に基づいて作成され得る。非限定的な例として、行動スコアは、SHIRPAガイドライン(Rogers et al., Mamm Genome. 8(10):711-3, 1997;参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている評価尺度(grading scale)に従って作成され得る。例示的な実施形態では、行動症状は、より重度の症状に高い数字が割り当てられるようにスコア化される。行動スコアを対照スコアと比較して、予防および/または治療の有効性を評価することができる。いくつかの実施形態では、対照スコアは、予防および/または治療を受けていない対照対象から作成される。行動スコアが対照スコアと比較してより低い重症度を示す場合、予防および/または治療は有効であると判定され、あるいは、行動スコアが対照スコアと比較してより高いまたは同じ重症度を示す場合、予防および/または治療は有効ではないと判定され得る。
【0101】
特定の態様では、血管閉塞性クリーゼ(Vaso-occlusive crisis:VOC)からの対象の回復は、行動観察による読み出しを用いて決定され得る。例えば、VOC後の対象から、立毛、アパシー、目の状況、皮膚の色、自発的な運動性、刺激された運動性、および呼吸数から選択される1つまたは複数の行動症状が収集され得る。対象から収集された1つまたは複数の行動症状の重症度に基づいてスコアが作成され得る。スコアは対照スコアと比較され得る。対照スコアは、所定の基準、あるいは年齢および性別を一致させた健常対象、または複数のそのような対象の平均値から作成され得る。対照スコアは、VOCの前の対象、またはVOCを発症していない対照対象から作成され得る。対象からのスコアが対照スコアと比較して低いまたは同じ重症度を示す場合、対象はVOCから回復したと判定され、対象からのスコアが対照スコアと比較して高い重症度を示す場合、対象は回復していないと判定され得る。
【0102】
ADAMTS13
いくつかの態様では、本開示は、SCDの治療および予防におけるADAMTS13(「A13」としても知られる)およびADAMTS13を含む組成物を包含する。特定の態様では、本開示は、SCDにおけるVOCの治療および予防におけるADAMTS13およびADAMTS13を含む組成物を包含する。ADAMTS13プロテアーゼは、主に肝臓で産生される約180kDa~200kDaのグリコシル化タンパク質である。ADAMTS13は、血漿中のメタロプロテアーゼであり、VWFマルチマーを切断し、血小板凝集におけるVWFマルチマーの活性をダウンレギュレートする。現在までに、ADAMTS13は、遺伝性血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、後天性TTP、脳梗塞、心筋梗塞、虚血/再灌流障害、深部静脈血栓症、および播種性血管内凝固(DIC)(例えば、敗血症関連DIC)などの凝固障害に関連しているとされている。
【0103】
当技術分野で知られている全ての形態のADAMTS13が、本開示の方法および使用において使用されることが企図されている。成熟ADAMTS13は、計算上の分子量が約145kDaであるのに対し、精製された血漿由来のADAMTS13は、約180kDa~200kDaの見かけ上の分子量を有しており、これはおそらく翻訳後修飾に起因すると思われ、10個の潜在的なN-グリコシル化部位、ならびにTSP1リピートにおけるいくつかのO-グリコシル化部位および1つのC-マンノシル化部位のためのコンセンサス配列と合致する。
【0104】
本明細書で使用される「ADAMTS13」は、VWFを残基Tyr1605とMet1606の間のA2ドメインで切断するADAMTS(トロンボスポンジン1型モチーフを有するディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs))ファミリーのメタロプロテアーゼを指す。本開示の文脈において、「ADAMTS13」、「A13」、または「ADAMTS13タンパク質」は、任意のADAMTS13タンパク質、例えば、霊長類、ヒト(NP620594)、サル、ウサギ、ブタ、ウシ(XP610784)、げっ歯類、マウス(NP001001322)、ラット(XP342396)、ハムスター、スナネズミ、イヌ、ネコ、カエル(NP001083331)、ニワトリ(XP415435)などの哺乳動物に由来するADAMTS13、ならびにその生物学的に活性な誘導体を包含する。本明細書で使用される「ADAMTS13」、「A13」、または「ADAMTS13タンパク質」は、組換え型の、天然の、または血漿由来のADAMTS13タンパク質を指す。活性を有する変異およびバリアントADAMTS13タンパク質も包含され、ADAMTS13タンパク質の機能的断片および融合タンパク質も同様に包含される。一部の態様では、ADAMTS13タンパク質は、精製、検出、またはその両方を容易にするタグをさらに含む。本明細書に記載のADAMTS13タンパク質は、一部の態様では、追加の治療部分あるいはin vitroまたはin vivoでのイメージングに適した部分でさらに修飾される。
【0105】
ADAMTS13タンパク質には、ADAMTS13活性、特にVWFの残基Tyr-842とMet-843との間のペプチド結合を切断する能力を有する任意のタンパク質またはポリペプチドが含まれる。ヒトADAMTS13タンパク質には、GenBankアクセッション番号NP620594(NM139025.3)のアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはそのプロセシングされたポリペプチド、例えば、シグナルペプチド(アミノ酸1~29)および/またはプロペプチド(アミノ酸30~74)が除去されたポリペプチドが含まれるが、これらに限定されない。ある態様では、ADAMTS13タンパク質は、NP620596(ADAMTS13アイソフォーム2、プレプロタンパク質)のアミノ酸配列またはNP_620594(ADAMTS13アイソフォーム2、成熟ポリペプチド)のアミノ酸75~1371のアミノ酸配列に高い類似性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを指す。さらに別の実施形態において、ADAMTS13タンパク質は、NP620595(ADAMTS13アイソフォーム3、プレプロタンパク質)のアミノ酸配列またはNP_620595(ADAMTS13アイソフォーム1、成熟ポリペプチド)のアミノ酸75~1340のアミノ酸配列に高い類似性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを包含する。ある態様では、ADAMTS13タンパク質は、VWF切断活性を有する天然のバリアント、およびVWF切断活性を有する人工構築物を包含する。ある態様では、ADAMTS13は、いくつかの基礎活性を保持する任意の天然バリアント、代替配列、アイソフォーム、または変異タンパク質を包含する。ヒトADAMTS13の多くの天然バリアントが当技術分野で知られており、本開示の製剤に包含されるが、それらのいくつかは、R7W、V88M、H96D、R102C、R193W、T196I、H234Q、A250V、R268P、W390C、R398H、Q448E、Q456H、P457L、P475S、C508Y、R528G、P618A、R625H、1673F、R692C、A732V、E740K、A900V、S903L、C908Y、C951G、G982R、C1024G、A1033T、R1095W、R1095W、Rl123C、C1213Y、T12261、G1239V、およびR1336Wから選択される変異を含む。さらに、ADAMTS13タンパク質には、例えば、非必須アミノ酸における1つまたは複数の保存的変異により変異した天然および組換えタンパク質が含まれる。好ましくは、ADAMTS13の酵素活性に必須のアミノ酸は変異されない。それには、例えば、残基83、173、224、228、234、281および284などの金属結合に必須であることが既知であるかまたは推定される残基、ならびに酵素の活性部位に見られる残基、例えば残基225などが含まれる。同様に、本開示の文脈において、ADAMTS13タンパク質には、代替アイソフォーム、例えば、完全長ヒトタンパク質のアミノ酸275~305および/または1135~1190を欠くアイソフォームが含まれる。
【0106】
特定の実施形態では、本開示は、ADAMTS13のバリアントを含む。特定の実施形態では、ADAMTS13バリアントは、野生型アミノ酸(例えば、配列番号1)と比較して、少なくとも1つの単一アミノ酸置換を含む。特定の実施形態では、単一アミノ酸置換は、ADAMTS13の触媒ドメイン内(例えば、配列番号1のアミノ酸80~286)にある。特定の実施形態では、単一アミノ酸置換は、配列番号1で示されるI79M、V88M、H96D、Q97R、R102C、S119F、I178T、R193W、T196I、S203P、L232Q、H234Q、D235H、A250V、S263C、および/またはR268Pのうちの少なくとも1つ、またはADAMTS13の同等のアミノ酸である。特定の実施形態において、単一アミノ酸置換は、配列番号1に示されるI79M、V88M、H96D、R102C、S119F、I178T、R193W、T196I、S203P、L232Q、H234Q、D235H、A250V、S263C、および/またはR268Pではなく、またADAMTS13における同等のアミノ酸でもない。特定の実施形態では、ADAMTS13バリアントは、配列番号1に示されるQ97またはADAMTS13の同等のアミノ酸における単一アミノ酸置換を含む。特定の実施形態では、アミノ酸の変化は、QからD、E、K、H、L、N、P、またはRへの変化である。特定の実施形態では、ADAMTS13バリアントは、ADAMTS13 Q97R(配列番号2)である。
【0107】
いくつかの態様では、ADAMTS13タンパク質は、例えば、翻訳後修飾(例えば、ヒトの残基142、146、552、579、614、667、707、828、1235、1354から選択される1つまたは複数のアミノ酸またはその他の天然または操作された修飾部位でのグリコシル化)によって、あるいは、ex vivoでの化学的または酵素的修飾(グリコシル化、水溶性ポリマーによる修飾(例えば、PEG化、シアリル化、HES化など)、タグ付けなどを含むがこれらに限定されない)によって、さらに修飾されてもよい。
【0108】
一部の態様では、ADAMTS13タンパク質は、米国特許出願公開第2011/022945号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号(それぞれが、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているような、ヒトADAMTS13、あるいはその生物学的に活性な誘導体または断片である。
【0109】
特定の態様では、組換えADAMTS13は、BAX930/SHP655/TAK755であり得る。BAX930/SHP655/TAK755は、完全にグリコシル化された組換えヒトADAMTS13タンパク質である(例えば、国際公開第2002042441号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。特定の態様において、ADAMTS13タンパク質は、BAX930/SHP655/TAK755に対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列相同性を有し、ADAMTS13の活性、特にVWFの残基Tyr-842とMet-843との間のペプチド結合を切断する能力を有する任意のタンパク質またはポリペプチドを包含する。
【0110】
タンパク質分解活性な組換えADAMTS13は、Plaimauer et al, (2002, Blood. 15; 100(10):3626-32)および米国特許出願公開第2005/0266528号に記載されているように、哺乳動物細胞培養で発現させることにより調製することができ、これらの文献は、あらゆる目的のために参照によりその全てが本明細書に組み込まれる。培養細胞で組換えADAMTS13を発現させる方法は、Plaimauer B, Scheiflinger F. (Semin Hematol. 2004 Jan;41(l):24-33)および米国特許出願公開2011/0086413号に記載されており、これらの文献も、あらゆる目的のために参照によりその全てが本明細書に組み込まれる。培養細胞において組換えADAMTS13を製造する方法については、国際公開第2012/006594号を参照されたい(あらゆる目的のために参照によりその全てが本明細書に組み込まれる)。
【0111】
サンプルからADAMTS13タンパク質を精製する方法は、米国特許第8,945,895号に記載されており、この文献はあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。そのような方法は、いくつかの態様では、ADAMTS13タンパク質をヒドロキシアパタイトから溶出液または上澄み液中に出現させる条件下で、クロマトグラフィ的にサンプルをヒドロキシアパタイトと接触させることにより、ADAMTS13タンパク質を濃縮することを含む。この方法は、ADAMTS13タンパク質に結合する混合モードの陽イオン交換/疎水性相互作用樹脂を用いたタンデムクロマトグラフィをさらに含んでいてよい。さらなる任意選択のステップは、限外濾過/ダイアフィルトレーション、陰イオン交換クロマトグラフィ、陽イオン交換クロマトグラフィ、およびウイルスの不活化を含む。一部の態様では、そのような方法は、タンパク質サンプル中のウイルス汚染物質を不活化することを含み、その際にタンパク質は支持体に固定化される。また、一部の態様では、米国特許第8,945,895号に記載される方法に従って調製されるADAMTS13の組成物も提供される。
【0112】
ADAMTS13組成物および投与
本開示の態様において、ADAMTS13は、それを必要とする対象に投与される。本明細書に記載のADAMTS13を対象に投与するために、ADAMTS13は、一部の態様では、1つまたは複数の医薬的に許容される担体を含む組成物に配合される。
【0113】
本明細書に記載された組成物に関連して使用される「医薬的に許容される」という用語は、哺乳動物(例えば、ヒト)に投与された場合に、生理学的に許容され、典型的には不都合な反応を生じない、そのような組成物の分子実体および他の成分を意味する。好ましくは、「医薬的に許容される」という用語は、連邦政府または州政府の規制機関によって承認されているか、または哺乳動物、より特にヒトに使用するために米国薬局方または他の一般に認められた薬局方に記載されていることを意味する。「医薬的に許容される担体」には、臨床的に有用な溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤などが含まれる。いくつかの態様では、組成物は、水または一般的な有機溶媒との溶媒和物を形成する。そのような溶媒和物も同様に含まれる。
【0114】
いくつかの態様では、本開示は、米国特許第8,623,352号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号に記載されているような、血漿由来のADAMTS13および組換えADAMTS13(rADAMTS13)タンパク質の安定化製剤を提供し、これら文献はあらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される製剤は、長期間保管した場合に有意なADAMTS13活性を保持する。いくつかの実施形態では、本開示の製剤は、ADAMTS13タンパク質の二量体化、オリゴマー化、および/または凝集を低減または遅延させる。
【0115】
いくつかの態様において、本開示は、治療有効量または用量のADAMTS13タンパク質、生理的濃度未満~生理的濃度の医薬的に許容される塩、安定化濃度の1つまたは複数の糖および/または糖アルコール、非イオン性界面活性剤、製剤に中性pHを提供する緩衝剤、ならびに任意選択的にカルシウムおよび/または亜鉛の塩を含む、ADAMTS13の製剤を提供する。一般に、本明細書で提供される安定化されたADAMTS13製剤は、医薬投与に適している。いくつかの態様では、ADAMTS13タンパク質は、米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号に記載されているようなヒトADAMTS13またはその生物学的に活性な誘導体もしくは断片であり、これら文献の各々は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0116】
いくつかの態様では、ADAMTS13製剤は液体製剤または凍結乾燥製剤である。他の実施形態では、凍結乾燥製剤は、米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号に記載されているように、液体製剤から凍結乾燥され、これら文献の各々は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本明細書で提供される製剤の特定の実施形態では、ADAMTS13タンパク質は、米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号に記載されているような、ヒトADAMTS13もしくは組換えヒトADAMTS13、またはその生物学的に活性な誘導体もしくは断片であり、これら文献の各々は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0117】
本開示の組成物は、様々な態様において、経口的に、局所的に、経皮的に、非経口的に、吸入スプレーによって、経膣的に、経直腸的に、または頭蓋内注射によって投与される。本明細書で用いられる非経口という用語は、皮下注射、静脈内、筋肉内、大槽内注射、または注入技術を含む。一部の実施形態では、投与は皮下である。静脈内、皮内、筋肉内、乳房内、腹腔内、髄腔内、眼球後、肺内注射および/または特定部位への外科的埋込みによる投与も同様に企図される。一部の実施形態では、投与は静脈内投与である。一般的に、組成物は、発熱物質(パイロジェン)、ならびにレシピエントにとって有害となり得る他の不純物を本質的に含まない。
【0118】
組成物または医薬組成物の製剤は、選択された投与経路に応じて変化する(例えば、溶液またはエマルジョン)。投与される組成物を含む適切な組成物は、生理学的に許容されるビヒクルまたは担体中に調製される。溶液またはエマルションの場合、適切な担体として、水溶液、またはアルコール/水溶液、エマルジョンまたは懸濁液が挙げられ、例えば生理食塩水および緩衝液などが含まれる。一部の態様では、非経口投与用のビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液または固定油が含まれる。静脈内投与用のビヒクルには、ある態様では、様々な添加剤、防腐剤、または流体、栄養分もしくは電解質補充物が含まれる。
【0119】
有効成分としてADAMTS13を含む、本開示の化合物および方法に有用な組成物または医薬組成物は、様々な態様において、投与経路に応じて医薬的に許容される担体または添加剤を含む。このような担体または添加剤の例としては、水、医薬的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルデンプンナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアガム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬的に許容される界面活性剤などが挙げられる。使用される添加剤は、投与形態(剤形)に応じて、上記またはそれらの組み合わせから適宜選択されるが、これらに限定されない。
【0120】
様々な水性担体、例えば、水、緩衝水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシン、または水性懸濁液は、様々な態様で、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混和して活性化合物を含む。そのような賦形剤は、懸濁剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガムおよびアカシアガムであり;分散または湿潤剤は、ある場合には、天然に存在するホスファチド、例えばレシチン、あるいはアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合物、例えばポリオキシエチレンステアレート、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合物、例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールから誘導される部分エステルとの縮合物、例えばポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール無水物から誘導される部分エステルとの縮合物、例えばポリエチレンソルビタンモノオレエートである。水性懸濁液は、一部の態様では、1つまたは複数の防腐剤、例えばエチル、またはn-プロピル、p-ヒドロキシベンゾエートを含む。
【0121】
いくつかの態様において、ADAMTS13またはADAMTS13組成物は、保存のために凍結乾燥され、使用前に適切な担体で再構成される。当技術分野で知られている任意の適切な凍結乾燥および再構成技術が使用される。凍結乾燥および再構成によって、様々な程度のタンパク質活性の損失が生じ、それを補うためにしばしば使用量が調整されることは当業者に理解されている。
【0122】
水を添加して水性懸濁液を調製するのに適した分散性粉末および顆粒は、分散剤または湿潤剤、懸濁剤および1つまたは複数の保存剤と混和して活性化合物を提供する。適当な分散剤、湿潤剤、懸濁剤は、上述のものが例示される。
【0123】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号に記載されているような1つまたは複数の医薬的に許容される賦形剤、担体、および/または希釈剤をさらに含んでもよく、これら文献の各々は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0124】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、米国特許出願公開第2011/0229455号明細書および/または米国特許出願公開第2014/0271611号明細書に記載されているような範囲内の張度を有し、これら文献の各々は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0125】
いくつかの態様では、本開示は、米国特許出願公開第2011/0229455号のセクションIII(「ADAMTS13 Compositions and Formulations」)に記載されている例示的な製剤を含む、ADAMTS13の製剤を提供する。米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号に記載されているADAMTS13の製造方法およびその組成物は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。さらに、非経口投与可能な製剤および組成物を調製するための実際の方法は、既知であるかまたは当業者に明らかであり、より詳細には、例えば、Remington’s Pharmaceutical Science, 15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1980)に記載されている。
【0126】
様々な態様において、医薬組成物は、滅菌注射用水溶液、油性懸濁液、分散液、あるいは滅菌注射液または分散物の即時調製のための滅菌粉末の形態である。懸濁液は、いくつかの態様において、上述した適切な分散または湿潤剤および懸濁剤を用いて公知の技術に従って配合される。滅菌注射用製剤は、ある態様では、非毒性の非経口的に許容可能な希釈剤または溶媒中の滅菌注射用溶液または懸濁液であり、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液である。いくつかの実施形態では、担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、植物油、リンゲル液、および等張塩化ナトリウム溶液を含む、溶媒または分散媒である。また、無菌固定油が、溶媒または懸濁化剤として慣習的に使用される。この目的のために、様々な態様で、合成モノ-またはジ-グリセリドを含む、あらゆるブランドの固定油が使用される。さらに、オレイン酸などの脂肪酸が注射剤の調製に使用される。
【0127】
いずれの場合も、形態は無菌でなければならず、かつ注射が容易に可能な程度に流動性でなければならない。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散液の場合は必要な粒径の維持によって、また表面活性剤の使用によって、維持される。製造および保存条件下で安定でなければならず、微生物(細菌および真菌など)の汚染作用に対して保護されなければならない。微生物の作用の防止は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チロメサールなどの様々な抗菌剤および抗真菌剤によって達成される。多くの場合、例えば、糖類または塩化ナトリウムなどの等張剤を含めることが望ましいであろう。ある態様では、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収遅延剤を組成物で使用することによって、注射用組成物の持続吸収がもたらされる。
【0128】
投与に有用な組成物は、特定の態様では、その効力を高めるために取り込みまたは吸収増強剤と配合される。そのような増強剤には、例えば、サリチレート、グリコレート/リノレート、グリコレート、アプロチニン、バシトラシン、SDS、カプレートなどが含まれる。例えば、Fix (J. Pharm. Sci., 85: 1282-1285, 1996)およびOliyai et al. (Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol, 32:521-544, 1993)を参照されたい(あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0129】
さらに、本開示の組成物および方法で使用される組成物の親水性と疎水性はバランスがうまく取れており、それによってin vitroおよび特にin vivoでの使用の両方でその有用性を高めることができるが、そのようなバランスを欠く他の組成物は実質的に有用性が低い。具体的には、本開示の組成物は、体内での吸収および生物学的利用を可能にする水性媒体への適切な溶解度を有する一方で、化合物が細胞膜を通過して想定される作用部位に到達することを可能にする程度の脂質への溶解度も有する。
【0130】
特定の態様では、ADAMTS13は、医薬用ビヒクル、賦形剤、または媒体として機能する、医薬的に許容される(すなわち、無菌かつ非毒性の)液体、半固体、または固体の希釈剤中に提供される。当技術分野で知られている任意の希釈剤が使用される。例示的な希釈剤としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシ安息香酸メチルおよびプロピル、タルク、アルギン酸塩、デンプン、ラクトース、スクロース、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、アカシアガム、リン酸カルシウム、鉱物油、カカオバター、カカオ脂などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0131】
組成物は、送達に好都合な形態にパッケージされる。組成物は、カプセル、カプレット、サシェ、カシェ、ゼラチン、紙、または他の容器内に封入される。これらの送達形態は、レシピエント生物への組成物の送達に適合する場合に好ましく、特に、組成物が単位用量形態で送達される場合に好ましい。投与単位は、例えば、バイアル、錠剤、カプセル、坐剤、またはカシェにパッケージされる。
【0132】
本開示は、対象のSCDにおけるVOCを治療、改善、および/または予防する方法であって、本明細書に記載のADAMTS13またはADAMTS13組成物の有効量を投与することを含む。組成物は、本明細書に詳細に記載されているような任意の従来の方法によって、治療すべき対象に導入される。特定の態様では、組成物は、(以下に詳細に記載するように)単回投与または複数回投与で一定期間にわたり投与される。
【0133】
いくつかの実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は、VOCの発症後、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18。19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、60、72、84、96、108、または120時間以内に、対象に投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は、VOCの発症後、約1~2時間、約1~5時間、約1~10時間、約1~12時間、約1~24時間、約1~36時間、約1~48時間、約1~60時間、約1~72時間、約1~84時間、約1~96時間、約1~108時間、または約1~120時間以内に、対象に投与される。一部の実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は、VOCの発症後、約2~5時間、約5~10時間、約10~20時間、約20~40時間、約30~60時間、約40~80時間、約50~100時間、または約60~120時間以内に、対象に投与される。一部の実施形態では、組成物は、VOCの1週間以内に投与される。一部の実施形態では、組成物は、VOC後に毎日投与される。一部の実施形態では、組成物は、VOC後に毎週投与される。一部の実施形態では、組成物は毎日投与される。一部の実施形態では、組成物は隔日で投与される。一部の実施形態では、組成物は、2日置きに投与される。一部の実施形態では、組成物は週2回投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状(例えば、症状および/またはバイオマーカー)が消失するまで投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状が消失した1日後まで投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状が消失後少なくとも2日間投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状が消失後少なくとも3日間投与される。一部の実施形態では、組成物は、臨床症状が消失後少なくとも1週間投与される。
【0134】
いくつかの態様では、ADAMTS13を含む組成物は、VOCの発症を予防するために、鎌状赤血球症を患う対象に投与される。そのような予防的処置では、VOCの発症を予防するのに有効なADAMTS13の循環レベルを維持するために、ADAMTS13は単回ボーラス注射または複数回投与で投与される。そのような態様では、ADAMTS13を含む組成物は、毎月、2週間ごと、毎週、週2回、1日おき(隔日)、または毎日投与される。特定の態様では、注射は皮下に投与される。他の態様では、注射は静脈内に投与される。
【0135】
いくつかの実施形態では、ADAMTS13を含む組成物は、VOCを予防するために、VOCの発症前に対象に投与される。本開示のそのような態様では、組成物は、対象または対象の血液中においてADAMTS13活性の有効レベルを維持するのに十分な治療有効量または用量で投与される。
【0136】
ADAMTS13組成物の投薬/治療方法
様々な態様において、投与するADAMTS13またはADAMTS13組成物の有効量は、薬物の作用を調節する多様な因子(例えば、対象の年齢、状態、体重、性別、および食事、あらゆる感染症の重症度、投与時間、投与方法、ならびにSCDのVOCの重症度を含む他の臨床的因子)に応じて変化する。
【0137】
いくつかの態様では、本開示の製剤または組成物は、最初のボーラス投与に続いて、一定期間経過後にブースター投与される。特定の態様では、本開示の製剤は、ADAMTS13の治療的循環レベルを維持するために、最初のボーラスに続いて持続的な注入によって投与される。特定の態様では、本開示のADAMTS13またはADAMTS13組成物は、長期間にわたって投与される。いくつかの態様では、ADAMTS13またはADAMTS13組成物は、VOCの急性症状を緩和するために迅速な治療レジメンで送達される。いくつかの態様では、ADAMTS13またはADAMTS13組成物は、VOCの発生を防止するために、長期的かつ多様な治療レジメンで送達される。別の例として、本開示の組成物または製剤は、1回限りの投与(one-time dose)として投与される。当業者であれば、適正な医療行為および個々の対象の臨床状態によって決定される有効な投与量および投与レジメンを容易に最適化することができる。投与頻度は、薬剤の薬物動態パラメータ、投与経路、および対象の状態に依存する。
【0138】
医薬製剤は、投与経路や所望の投与量に応じて当業者により決定される。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed.(1990, Mack Publishing Co., Easton, PA 18042) pages 1435-1712を参照されたい(その開示内容はあらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。このような製剤は、場合によっては、投与される組成物の物理的状態、安定性、in vivoでの放出速度、およびin vivoでのクリアランス速度に影響を与える。投与経路に応じて、適切な用量は、特定の態様では、体重、体表面積または臓器の大きさに応じて計算される。いくつかの態様では、適切な投与量は、適切な用量反応データと組み合わせて、血中レベルの投与量を決定するための確立されたアッセイを使用することによって確認される。特定の態様では、最適な投与量および投与レジメンを決定するために、個体の抗体価が測定される。最終的な投与レジメンは、主治医が、医薬組成物の作用を修飾する様々な因子(例えば、組成物の特異的な活性、対象の反応性、対象の年齢、状態、体重、性別、食事、感染症や悪性状態の重症度、投与時期、痛みやVOCの重症度を含む他の臨床的因子)を考慮して決定する。
【0139】
特定の態様において、ADAMTS13またはADAMTS13組成物は、対象において応答を誘起するのに十分な任意の用量のADAMTS13を含む。いくつかの実施形態では、ADAMTS13の用量は、VOCを治療するのに十分である。いくつかの実施形態では、ADAMTS13の投与量は、VOCを予防するのに十分である。治療的に使用されるADAMTS13またはADAMTS13組成物の有効量は、例えば、治療の状況および目的に依存する。当業者であれば、治療または予防のための適切な投与量レベルが、送達される分子、ADAMTS13またはADAMTS13組成物が使用される適応症、投与経路、および患者のサイズ(体重、体表面または臓器のサイズ)および状態(年齢および一般的な健康状態)に部分的に依存して変化することを理解するであろう。したがって、臨床医は、場合によっては、最適な治療効果を得るために、投与量を段階的に増やしたり、投与経路を変更したりする。
【0140】
投与量は、特に記載がない限り、国際単位で提供される。本明細書で後述するように、国際単位(IU)の使用は、ADAMTS13活性を測定するための新しい規格である。最近までは、FRETS単位(またはFRETS-VWF73試験単位)がADAMTS13活性を測定するための規格であった。20FRETS単位(FRETS U)は、およそ21.78IUに相当する。言い換えれば、20IUのADAMTS13は、約18.22FRETS UのADAMTS13に相当する。
【0141】
典型的な投与量は、様々な態様において、約10国際単位/kg体重~約10,000国際単位/kg体重までの範囲である。一部の態様では、ADAMTS13の投与量または治療有効量は、上記の因子に応じて、約10,000国際単位/kg体重まで、またはそれ以上である。他の態様では、投与量は、約20~約6,000国際単位/kg体重の範囲であり得る。一部の態様では、ADAMTS13の投与量または治療有効量は、約40~約4,000国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は、約100~約3,000国際単位/kg体重である。
【0142】
ある態様では、投与量または治療有効量は約10~約500国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約50~約450国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約40~約100国際単位/kg体重である。一部の態様では、治療有効量は約40~約150国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約100~約500国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約100~約400国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約100~約300国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約300~約500国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約200~約300国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は、約100、約150、約200、約250、約300、約350、約400、約450、または約500国際単位/kg体重である。
【0143】
さらなる態様では、投与量または治療有効量は約50~約1,000国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約100~約900国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約200~約800国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約300~約700国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約400~約600国際単位/kg体重である。一部の態様では、投与量または治療有効量は約500国際単位/kg体重である。
【0144】
一部の態様では、投与量または治療有効量は、約10国際単位/kg体重、約20国際単位/kg体重、約30国際単位/kg体重、約40国際単位/kg体重、約50国際単位/kg体重、約60国際単位/kg体重、約70国際単位/kg体重、約80国際単位/kg体重、約90国際単位/kg体重、約100国際単位/kg体重、約120国際単位/kg体重、約140国際単位/kg体重、約150国際単位/kg体重、約160国際単位/kg体重、約180国際単位/kg体重、約200国際単位/kg体重、約220国際単位/kg体重、約240国際単位/kg体重、約250国際単位/kg体重、約260国際単位/kg体重、約280国際単位/kg体重、約300国際単位/kg体重、約350国際単位/kg体重、約400国際単位/kg体重、約450国際単位/kg体重、約500国際単位/kg体重、約550国際単位/kg体重、約600国際単位/kg体重、約650国際単位/kg体重、約700国際単位/kg体重、約750国際単位/kg体重、約800国際単位/kg体重、約850国際単位/kg体重、約900国際単位/kg体重、約950国際単位/kg体重、約1,000国際単位/kg体重、約1,100国際単位/kg体重、約1,100国際単位/kg体重、約1,200国際単位/kg体重、約1,300国際単位/kg体重、約1,400国際単位/kg体重、約1,500国際単位/kg体重、約1,600国際単位/kg体重、約1,800国際単位/kg体重、約2,000国際単位/kg体重、約2,500国際単位/kg体重、約3,000国際単位/kg体重、約3,500国際単位/kg体重、約4,000国際単位/kg体重、約4,500国際単位/kg体重、約5,000国際単位/kg体重、約5,500国際単位/kg体重、約6,000国際単位/kg体重、約6,500国際単位/kg体重、約7,000国際単位/kg体重、約7,500国際単位/kg体重、約8,000国際単位/kg体重、約8,500国際単位/kg体重、約9,000国際単位/kg体重、約9,500国際単位/kg体重、および約10,000国際単位/kg体重である。
【0145】
本明細書で使用される場合、「1単位のADAMTS13活性」または「1活性単位」は、使用されるアッセイにかかわらず、プールされた正常ヒト血漿1mL中の活性量として定義される。ただし、上記のように、ADAMTS13を測定または投与するための新しい規格は国際単位(IU)である。20FRETS試験単位または20FRETS単位(FRETS U)は、およそ21.78IUに相当する。即ち、20IUのADAMTS13は、約18.22FRETS UのADAMTS13に相当する。従って、新規規格への変更により、FRETS UからIUへの換算において約8.9%のシフトが生じる。
【0146】
いくつかの態様では、ADAMTS13の活性を測定するために、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイが使用される。FRETは、一方がドナー蛍光体で標識され、他方がアクセプター蛍光体で標識された、2つの相互作用するパートナーを必要とする。ADAMTS13のFRETアッセイは、ADAMTS13の切断部位にまたがるVWFのA2ドメインの化学的修飾断片を含む。この断片は正常な血漿では容易に切断されるが、ADAMTS13欠損血漿では切断されない。この切断はEDTAによって阻止されるので、このアッセイのためのサンプルは、EDTAではなくクエン酸塩を抗凝固剤として含むチューブに採取する必要がある。ADAMTS13のFRETS-VWF73活性の1単位は、プールされた正常ヒト血漿1mLにより切断されるのと同じ量のFRETS-VWF73基質(Kokame et al., Br J. Haematol. 2005 April; 129(1): 93-100;参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を切断するのに必要な活性量である。
【0147】
いくつかの態様では、ADAMTS13の活性を測定するために追加の活性アッセイが使用される。例えば、直接的なADAMTS13活性アッセイは、SDSアガロースゲル電気泳動を用いて、完全長VWF分子またはVWF断片のいずれかの切断を検出するために行うことができ、ADAMTS13活性の間接的な検出は、コラーゲン結合アッセイを用いて検出することができる。本明細書に記載されているFRETアッセイを含む直接アッセイは、完全長VWF分子またはADAMTS13切断部位含むVWF断片のいずれかの切断産物を検出することを含む。SDSアガロースゲル電気泳動およびウェスタンブロッティングでは、精製VWFを血漿と24時間インキュベートする。ADAMTS13によるVWFの切断が生じ、マルチマー(多量体)のサイズが縮小する。この縮小はアガロースゲル電気泳動、および続くペルオキシダーゼ結合抗VWF抗体を用いたウェスタンブロッティングにより可視化される。一連の希釈された正常血漿サンプルに照らして、試験サンプル中のADAMTS13活性の濃度を定めることができる。SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングを行うこともでき、これは、SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングの後に二量体VWF断片を可視化することを含む。そのアッセイは、SDSアガロースゲル電気泳動よりも技術的に容易であり、ADAMTS13活性レベルを測定する非常に感度の良い方法であると思われる。
【0148】
いくつかの態様では、間接アッセイは、完全長VWF分子、またはVWFのA2ドメインのADAMTS13切断部位を含むVWF断片のいずれかの切断産物を検出することを含む。そのようなアッセイにはコラーゲン結合アッセイが含まれ、正常血漿または精製VWFを、VWFを変性させるBaCl2および1.5M尿素の存在下で、試験血漿サンプルとインキュベートする。VWFはADAMTS13により切断され、残存VWFはIII型コラーゲンへの結合により測定される。コンジュゲート抗VWF抗体を用いるELISAアッセイを使用して、結合したVWFが定量化される。別の間接アッセイは、リストセチン誘発凝集アッセイである。これは、上記のコラーゲン結合アッセイに類似するが、血小板凝集計を用いて、リストセチン誘発血小板凝集によって残存VWFが測定される。別の間接アッセイは機能的ELISAである。このアッセイでは、VWF上のタグに対する抗体を用いて、組換えVWF断片がELISAプレートに固定化される。VWF断片は、A2ドメインおよびTyrl605-Metl606のADAMTS13切断部位をコードし、S-トランスフェラーゼ[GST]-ヒスチジンでタグ付けされる[GST-VWF73-His]。固定化されたGST-VWF73-His断片に血漿が添加され、固定化された断片はADAMTS13切断部位で切断される。切断されたVWF断片のみを認識し、無傷の断片は認識しない第2のモノクローナル抗体を用いることにより、切断された残存VWF断片が測定される。従って、ADAMTS13活性は、残存基質濃度に反比例する。
【0149】
ADAMTS13活性は、ADAMTS13機能的アッセイによって評価してもよい(例えば、Peyvandi et al., J Thromb Haemost; 8: 631-40, 2010を参照されたい)。例示的な機能的アッセイは、中程度の変性条件下(例えば、尿素又は塩酸グアニジンの存在下)で完全長VWFを使用して、VWF基質をアンフォールディングし、ADAMTS13による切断を受けやすくするか、あるいは短いペプチド基質(VWF73基質など)を利用することができる(Kokame et al., Blood; 103(2): 607-12, 2004; Kokame et al., Br J Haematol; 129(1): 93-100, 2005;これらの各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。そのような低分子ペプチド基質は、VWFのA2ドメインに由来し、ADAMTS13によって基質として認識されて切断されるために必要な最小限のVWFアミノ酸領域を含む(Kokame et al., Br J Haematol; 129(1): 93-100, 2005;参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0150】
特定の実施形態では、フローベースアッセイ(flow-based assay)(例えば、Han et al., Transfusion; 51(7): 1580-91, 2011を参照されたい;参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を使用して、ADAMTS13活性を評価する。このアッセイは、ADAMTS13の結合およびADAMTS13媒介切断に必要な完全長VWF基質のコンフォメーションの変化を達成するために必要なin vivoでの生理学的な流れの条件を模倣する(Shim et al., Blood; 111(2): 651-7, 2008;この内容は参照により全体が本明細書に組み込まれる)。
【0151】
特定の実施形態では、ADAMTS13は、最終製剤中、約0.05mg/mL~約10mg/mLの間の治療有効濃度で提供または投与される。他の実施形態では、ADAMTS13は、約0.1mg/mL~約10mg/mLの間の濃度で存在する。さらに他の実施形態では、ADAMTS13は、約0.1mg/mL~約5mg/mLの間の濃度で存在する。別の実施形態では、ADAMTS13は、約0.1mg/mL~約2mg/mLの間の濃度で存在する。さらに他の実施形態では、ADAMTS13は、約0.01mg/mL、または約0.02mg/mL、0.03mg/mL、0.04mg/mL、0.05mg/mL、0.06mg/mL、0.07mg/mL、0.08mg/mL、0.09mg/mL、0.1mg/mL、0.2mg/mL、0.3mg/mL、0.4mg/mL、0.5mg/mL、0.6mg/mL、0.7mg/mL、0.8mg/mL、0.9mg/mL、1.0mg/mL、1.1mg/mL、1.2mg/mL、1.3mg/mL、1.4mg/mL、1.5mg/mL、1.6mg/mL、1.7mg/mL、1.8mg/mL、1.9mg/mL、2.0mg/mL、2.5mg/mL、3.0mg/mL、3.5mg/mL、4.0mg/mL、4.5mg/mL、5.0mg/mL、5.5mg/mL、6.0mg/mL、6.5mg/mL、7.0mg/mL、7.5mg/mL、8.0mg/mL、8.5mg/mL、9.0mg/mL、9.5mg/mL、10.0mg/mL、またはそれより高い濃度で存在し得る。
【0152】
いくつかの実施形態では、比較的純粋なADAMTS13製剤の濃度は、分光法(すなわち、A280で測定される総タンパク質)または他のバルク決定法(例えば、ブラッドフォード(Bradford)アッセイ、銀染色、凍結乾燥粉末の重量など)によって決定され得る。他の実施形態では、ADAMTS13の濃度は、ADAMTS13 ELISAアッセイ(例えば、mg/mL抗原)によって決定され得る。
【0153】
いくつかの態様では、本開示の製剤中のADAMTS13の濃度は、酵素活性レベルとして表される。例えば、いくつかの実施形態では、ADAMTS13製剤は、約10単位のFRETS-VWF73活性と約10,000単位のFRETS-VWF73活性の間、または他の適切なADAMTS13酵素単位(IU)を含む。他の実施形態では、製剤は、約20単位のFRETS-VWF73(UFV73)活性と約8,000単位のFRETS-VWF73活性の間、または約30UFV73と約6,000UFV73の間、または約40UFV73と約4,000UFV73の間、または約50UFV73と約3,000UFV73の間、または約75UFV73と約2,500UFV73の間、または約100UFV73と約2,000UFV73の間、または約200UFV73と約1,500UFV73の間、あるいはそれらの中の他のおよその範囲を含み得る。
【0154】
いくつかの実施形態では、ADAMTS13は、約10UFV73/kg体重~10,000UFV73/kg体重の用量で提供または投与される。一実施形態では、ADAMTS13は、約20UFV73/kg体重~約8,000UFV73/kg体重の用量で投与される。一実施形態では、ADAMTS13は、約30UFV73/kg体重~約6,000UFV73/kg体重の用量で投与される。一実施形態では、ADAMTS13は、約40UFV73/kg体重~約4,000UFV73/kg体重の用量で投与される。一実施形態では、ADAMTS13は、約100UFV73/kg体重~約3,000UFV73/kg体重の用量で投与される。一実施形態では、ADAMTS13は、約200UFV73/kg体重~約2,000UFV73/kg体重の用量で投与される。他の実施形態では、ADAMTS13は、約10UFV73/kg体重、約20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1,000、1,100、1,200、1,300、1,400、1,500、1,600、1,700、1,800、1,900、2,000、2,100、2,200、2,300、2,400、2,500、2,600、2,700、2,800、2,900、3,000、3,100、3,200、3,300、3,400、3,500、3,600、3,700、3,800、3,900、4,000、4,500、5,000、5,500、6,000、6,500、7,000、7,500、8,000、8,500、9,000、9,500、または10,000UFV73/kg体重、あるいはそれらの中間用量または用量範囲で投与される。
【0155】
いくつかの態様では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約20~約10,000UFV73の間の活性を含む。一部の実施形態では、製剤は、約10単位のFRETS-VWF73活性、または約20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1,000、1,100、1,200、1,300、1,400、1,500、1,600、1,700、1,800、1,900、2,000、2,100、2,200、2,300、2,400、2,500、2,600、2,700、2,800、2,900、3,000、3,100、3,200、3,300、3,400、3,500、3,600、3,700、3,800、3,900、4,000、4,100、4,200、4,300、4,400、4,500、4,600、4,700、4,800、4,900、5,000、5,100、5,200、5,300、5,400、5,500、5,600、5,700、5,800、5,900、6,000、6,100、6,200、6,300、6,400、6,500、6,600、6,700、6,800、6,900、7,000、7,100、7,200、7,300、7,400、7,500、7,600、7,700、7,800、7,900、8,000、8,100、8,200、8,300、8,400、8,500、8,600、8,700、8,800、8,900、9,000、9,100、9,200、9,300、9,400、9,500、9,600、9,700、9,800、9,900、10,000、またはそれらより多い単位のFRETS-VWF73活性を含む。
【0156】
いくつかの態様では、ADAMTS13の濃度は、単位体積当たりの酵素活性、例えば1mL当たりのADAMTS13酵素単位(IU/mL)で表してもよい。例えば、一部の実施形態では、ADAMTS13製剤は、約10IU/mL~約10,000IU/mLの間を含有し得る。他の実施形態では、製剤は、約20IU/mL~約8,000IU/mLの間、または約30IU/mL~約6,000IU/mLの間、または約40IU/mL~約4,000IU/mLの間、または約50IU/mL~約3,000IU/mLの間、または約75IU/mL~約2,500IU/mLの間、または約100IU/mL~約2,000IU/mLの間、または約200IU/mL~約1,500IU/mLの間、あるいはそれらの中の他のおよその範囲を含有し得る。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約150IU/mL~約600IU/mLの間を含有する。別の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約100IU/mL~約1,000IU/mLの間を含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約100IU/mL~約800IU/mLの間を含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約100IU/mL~約600IU/mLの間を含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約100IU/mL~約500IU/mLの間を含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約100IU/mL~約400IU/mLの間を含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約100IU/mL~約300IU/mLの間を含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約100IU/mL~約200IU/mLの間を含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約300IU/mL~約500IU/mLの間を含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は約100IU/mLを含有する。一部の実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、約300IU/mLを含有する。様々な実施形態において、製剤は、約10IU/mL、または約20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1,000、1,100、1,200、1,300、1,400、1,500、1,600、1,700、1,800、1,900、2,000、2,100、2,200、2,300、2,400、2,500、2,600、2,700、2,800、2,900、3,000、3,100、3,200、3,300、3,400、3,500、3,600、3,700、3,800、3,900、4,000、4,100、4,200、4,300、4,400、4,500、4,600、4,700、4,800、4,900、5,000、5,100、5,200、5,300、5,400、5,500、5,600、5,700、5,800、5,900、6,000、6,100、6,200、6,300、6,400、6,500、6,600、6,700、6,800、6,900、7,000、7,100、7,200、7,300、7,400、7,500、7,600、7,700、7,800、7,900、8,000、8,100、8,200、8,300、8,400、8,500、8,600、8,700、8,800、8,900、9,000、9,100、9,200、9,300、9,400、9,500、9,600、9,700、9,800、9,900、10,000IU/mL、またはそれらより多くを含有する。
【0157】
いくつかの実施形態では、ADAMTS13またはADAMTS13を含む組成物を投与することにより、所望の血漿ADAMTS13濃度がもたらされる。血漿ADAMTS13濃度は、投与後のある期間(例えば、5分、1時間、3時間、または24時間)後に決定され得る。いくつかの実施形態では、ADAMTS13またはADAMTS13を含む組成物を投与することにより、対象において約0.5~約100U/mLの血漿ADAMTS13濃度がもたらされる。例えば、いくつかの実施形態では、ADAMTS13またはADAMTS13を含む組成物を投与することにより、対象において約1~約80U/mLの血漿ADAMTS13濃度がもたらされる。いくつかの実施形態では、ADAMTS13またはADAMTS13を含む組成物を投与することにより、対象において約5~約50U/mLの血漿ADAMTS13濃度がもたらされる。いくつかの実施形態では、ADAMTS13またはADAMTS13を含む組成物を投与することにより、対象において約12~約50U/mLの血漿ADAMTS13濃度がもたらされる。いくつかの実施形態では、ADAMTS13またはADAMTS13を含む組成物を投与することにより、対象において約5~約20U/mLの血漿ADAMTS13濃度がもたらされる。
【0158】
いくつかの実施形態では、ADAMTS13またはADAMTS13を含む組成物を投与することにより、対象において、約1U/mL、約2U/mL、約3U/mL、約4U/mL、約5U/mL、約6U/mL約7U/mL、約8U/mL、約9U/mL、約10U/mL、約11U/mL、約12U/mL、約13U/mL、約14U/mL、約15U/mL、約16U/mL、約17U/mL、約18U/mL、約19U/mL、約20U/mL、約21U/mL、約22U/mL、約23U/mL、約24U/mL、約25U/mL、約26U/mL、約27U/mL、約28U/mL、約29U/mL、約30U/mL、約32U/mL、約34U/mL、約36U/mL、約38U/mL、約40U/mL、約42U/mL、約44U/mL、約46U/mL、約48U/mL、約50U/mL、約52U/mL、約54U/mL、約56U/mL、約58U/mL、約60U/mL、約70U/mL、約80U/mL、または80U/mLより高い血漿ADAMTS13濃度がもたらされる。
【0159】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号に記載されているような、1つまたは複数の医薬的に許容される賦形剤、担体、および/または希釈剤をさらに含んでもよく、それら文献の各々は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。さらに、一実施形態では、本明細書で提供されるADAMTS13製剤は、米国特許出願公開第2011/0229455号および/または米国特許出願公開第2014/0271611号に記載されている範囲内の張度を有し、これら文献の各々は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0160】
投与頻度は、使用する製剤中のADAMTS13分子の薬物動態パラメータに依存する。典型的には、臨床医は、所望の効果を達成する投与量に達するまで組成物を投与する。したがって、様々な態様において、組成物は、単回投与として、または時間をかけて2回以上の投与(同じ量の所望の分子を含んでいてもいなくてもよい)として、あるいは埋め込み装置またはカテーテルを介した連続注入として投与される。いくつかの態様では、ADAMTS13を含む組成物は、単回ボーラス注射で、毎月、2週間ごと(隔週)、毎週、1週間に2回、1日おき(隔日)、毎日、12時間ごと、8時間ごと、6時間ごと、4時間ごと、または2時間ごとに投与される。本開示の予防的または防止的な処置の態様では、VOCの発症を防止するのに有効なADAMTS13の循環レベルを維持するために、ADAMTS13が複数回投与される。そのような態様では、ADAMTS13を含む組成物は、毎月、2週間ごと、毎週、週2回、1日おき、または毎日投与される。特定の態様では、注射は皮下に投与される(例えば、国際公開第2014151968号を参照されたい;参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。他の態様では、注射は静脈内に投与される。投与される適切な用量および投与タイミングをさらに改良することは、当業者によって日常的に行われており、当業者が日常的に行う作業の範囲内である。適切な投与量は、しばしば、日常的に得られる適切な用量反応データを用いて確認される。
【0161】
ADAMTS13を含むキット
さらなる態様として、本開示は、対象への投与のための使用を容易にする方法でパッケージングされた、対象へのADAMTS13またはADAMTS13組成物の投与のための1つまたは複数の医薬製剤を含むキットを包含する。
【0162】
特定の実施形態では、本開示は、単回投与単位を作製するためのキットを含む。別の実施形態では、本開示は、複数回投与単位を提供するためのキットを含む。キットは、様々な態様において、それぞれ、乾燥タンパク質を有する第1の容器と、水性製剤を有する第2の容器の両方を含む。また、本開示の範囲内には、単一および複数チャンバーのプレフィルドシリンジ(例えば、液体シリンジおよびリオシリンジ(lyosyringe))を含むキットが含まれる。
【0163】
別の実施形態では、そのようなキットは、密封されたボトルまたは容器などの容器内にパッケージされた、本明細書に記載の医薬製剤(例えば、治療タンパク質(例えば、ADAMTS13)を含む組成物)を含み、本方法を実施する際の化合物または組成物の使用について説明するラベルが容器に貼付されまたはパッケージに含まれる。一実施形態では、医薬製剤は、容器内のヘッドスペースの量(例えば、液体製剤と容器の上部との間の空気の量)が非常に小さくなるように、容器内にパッケージされる。好ましくは、ヘッドスペースの量は無視できる(すなわち、ほとんどない)。
【0164】
いくつかの態様では、医薬製剤または組成物は安定剤を含む。用語「安定剤」は、加熱または凍結時に生じるような有害な条件から組成物を保護し、および/または安定な状態の組成物または医薬組成物の安定性または保管期限を延長する物質または賦形剤を指す。安定剤の例としては、スクロース、ラクトース、およびマンノースなどの糖類;マンニトールなどの糖アルコール;グリシンまたはグルタミン酸などのアミノ酸;ヒト血清アルブミンまたはゼラチンなどのタンパク質などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0165】
いくつかの態様では、医薬製剤または組成物は、抗菌防腐剤を含む。用語「抗菌防腐剤」とは、組成物に添加され、複数回投与バイアル(そのような容器が使用される場合)の繰り返しの穿刺時に導入される可能性のある微生物の成長を阻害する任意の物質を指す。抗菌防腐剤の例としては、チメロサール、2-フェノキシエタノール、塩化ベンゼトニウム、フェノールなどの物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0166】
一態様では、キットは、治療タンパク質またはタンパク質組成物を有する第1の容器と、組成物のための生理学的に許容される再構成溶液を有する第2の容器とを含む。一態様では、医薬製剤は、単位投与形態でパッケージされている。キットは、任意選択で、特定の投与経路に従って医薬製剤を投与するのに適したデバイスをさらに含む。いくつかの態様では、キットは、医薬製剤の使用を説明するラベルを含む。
【0167】
本明細書全体が、統合された開示として関連することが意図されており、たとえ特徴の組み合わせが本明細書の同じ文、段落またはセクションに一緒に見られなくても、本明細書に記載されている全ての特徴の組み合わせが企図されていることを理解されたい。本発明はまた、例えば、上記において具体的に記載された変形よりも狭い範囲の本開示のあらゆる実施形態を包含する。
【0168】
本明細書で引用されている全ての刊行物、特許および特許出願は、本開示と矛盾しない範囲で、個々の刊行物または特許出願が参照によりその全体が組み込まれることが具体的かつ個別に示されているかのように、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0169】
本明細書に記載されている実施例および実施形態は、単に例示を目的としたものであり、それを鑑みて様々な修正または変更が当業者に示唆され、それらは本願の精神および範囲、ならびに添付の請求項の範囲に含まれることが理解される。
【実施例】
【0170】
本開示の追加の態様および詳細は、限定的ではなく例示的であることが意図された以下の実施例から明らかになるであろう。
【0171】
実施例1:
ヘモグロビンの存在下での組換えADAMTS13のタンパク質分解活性
本研究の目的は、(i)ADAMTS13媒介VWFマルチマー切断に対するヘモグロビンの阻害効果;(ii)過剰量の組換えADAMTS13(rADAMTS13[SHP655またはBAX930またはTAK755としても知られる])が阻害効果を防止または無効にできるかどうか;および(iii)この阻害効果を防止または無効にするために必要なヒトrADAMTS13(SHP655)の濃度;を評価することであった。本研究は、細胞外ヘモグロビンの上昇によりVWFマルチマーの切断が損なわれる鎌状赤血球症(SCD)患者におけるrADAMTS13の補充のin vitroでの実行可能性を示すことを目的とした。
【0172】
ADAMTS13活性は、SCDで一般的に観察される高い血漿中の遊離ヘモグロビン(Hb)濃度によって阻害される。細胞外ヘモグロビン(ECHb)はフォン・ヴィレブランド因子(VWF)のA2ドメインに結合し、ADAMTS13による切断を著しく阻害することが示されている。非変性アッセイフロー条件下でのADAMTS13によるVWFマルチマーの切断に対する細胞外ヘモグロビンの阻害効果を模倣するために、基質として完全長のVWFを用いるボルテックスベースの方法を用いた。完全長の組換えVWF(rVWF)、ヘモグロビン、凍結乾燥されたホルマリン固定血小板、および組換えADAMTS13(rADAMTS13)からなる反応混合物を一定のボルテックスでインキュベートした後、ADAMTS13媒介VWFタンパク質分解切断産物をVWF特異的イムノブロットで分析した。さらに、過剰量のrADAMTS13がヘモグロビンによる阻止効果を無効に(オーバーライド)して、超巨大VWF(ULVWF)マルチマーの分解を可能にするかどうかを調べた。
【0173】
1.ボルテックスベースのアッセイ
完全長のVWF基質を用いて流体せん断応力下でADAMTS13活性を測定するために、ボルテックスベースのアッセイが確立された(Han et al., Transfusion; 51(7): 1580-91, 2011; Shim et al., Blood; 111(2): 651-7, 2008;これらの各々は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。Hanら(Han et al., Transfusion; 51(7): 1580-91, 2011)が最初に記載したアッセイでは、rVWFをホルマリン固定洗浄血小板およびADAMTS13試験サンプルとともに一定のボルテックスでインキュベートする。生成されたVWF切断断片をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分離し、VWF特異的イムノブロット分析で検出し、デンシトメトリーで定量する。
【0174】
ボルテックスベースのアッセイは、標準的なプロトコルに従って実施した。簡単に説明すると、反応混合物(rVWF、血小板、ヘモグロビンおよびrADAMTS13をボルテックスアッセイバッファー中に含み、総量60μL)を0.2mLの薄肉反応チューブに移し、MixMateボルテクサーにおいて2500rpmの回転速度で一定のボルテックスをかけながら、室温(RT)で60分間インキュベートした。その後、最終濃度10mMまでエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を添加することにより、全ての反応混合物を停止させた。
【0175】
VWF切断断片(176kDaと140kDaの二量体断片)を非還元条件下でNuPage3-8% Tris-acetateゲルで分離し、HRP結合ポリクローナルウサギ抗VWF抗体を用いたイムノブロッティングにより可視化し、176kDaの二量体切断断片のデンシトメトリー分析により評価した。
【0176】
ヘモグロビンを添加した全ての反応混合物を、同じ方法で処理したヘモグロビンを添加しなかった反応混合物と比較した。
【0177】
1.1 血小板の調製
ホルマリン固定凍結乾燥血小板(Helena、カタログ番号5371)を3mLの血小板溶解緩衝液(20mM Tris、100mM NaCl緩衝液、pH7.4)に溶解し、RTで10分間インキュベートした後、10000rpmで5分間遠心分離した。血小板ペレットをボルテックスアッセイバッファー(50mM HEPES、150mM NaCl、0.1μM ZnCl2、5mM CaCl2、0.3% BSA、pH7.4)に再懸濁し、Sysmex PocH 100i血液分析システム(Sysmex;神戸、日本)を用いて血小板の濃度を測定した。ボルテックスアッセイバッファーに溶解した血小板は、製造元の仕様に従って、4℃で最大24時間保存した。血小板は300×103細胞/μLの最終濃度で反応混合物において使用した。
【0178】
1.2 rVWFの再構成
1バイアルのrVWF(ロット:HN4AR00)の凍結乾燥物を500μLの蒸留脱イオン水に溶解し、91IU/mLの濃度(VWF:抗原活性)にした。その後、rVWFをボルテックスアッセイバッファーで18IU/mLの濃度に予備希釈し、さらに反応混合物で1:6に希釈した。各反応混合物で使用した最終的なrVWF濃度は3 IU/mLであり、これはおよそ30μg/mLに相当する。
【0179】
1.3 ヘモグロビン溶液の調製
ヘモグロビン粉末(Sigma社、カタログ番号H7397;ヒト赤血球から調製)を100mg/mL、10mg/mL、および1mg/mLの濃度になるようにボルテックスアッセイバッファーに溶解し、最終濃度が0.1mg/mL、0.5mg/mL、1mg/mL、5mg/mL、および10mg/mLになるように目的の量を反応混合物に加えた。
【0180】
1.4 rADAMTS13の調製
rADAMTS13(ロット:HR5BK00)の社内基準製剤(277.5 U/mL)をボルテックスアッセイバッファーで希釈し、rADAMTS13の最終濃度を0.25U/mL、0.5U/mL、1U/mL、および2U/mLにした。
【0181】
1.5 サンプルの調製
各セットの実験は、以下のサンプルを含んでいた:(i)rADAMTS13およびヘモグロビンを含むVWF切断インキュベーション混合物からなる試験サンプル;(ii)ヘモグロビンは含まないでrADAMTS13を含むVWF切断インキュベーション混合物からなる対照サンプル、および(iii)ADAMTS13媒介VWF切断が期待されない(非切断VWFをもたらす)陰性対照サンプル。陰性対照サンプルは、rADAMTS13を含まないで、または二価カチオンをキレートしてADAMTS13媒介VWF切断を阻止するために10mMのEDTAを添加したrADAMTS13の存在下で、ヘモグロビンを含むインキュベーション混合物からなる。
【0182】
1.6 反応混合物
2つの異なる実験セットアップを調製した。反応混合物は、0.2mLの薄肉反応チューブ(注文番号732-0548、VWR;ウイーン、オーストリア)でインキュベートした。
【0183】
(i)精製rADAMTS13を添加する前に、血小板、rVWF、およびヘモグロビンを30分間プレインキュベートする。
【0184】
プレインキュベーションのセットアップでは、精製組換えヒトVWF(3 IU/mL)と、再構成した凍結乾燥ホルマリン固定血小板(300×103細胞/μL)を含むアッセイバッファーとの混合物を、異なる濃度の血漿精製ヒトヘモグロビンと一緒に、総量45μLでプレインキュベートした。ヘモグロビンを含まないで代わりに適切な量のボルテックスアッセイバッファーを含むそれぞれの対照サンプルを同じ方法で調製した。試験サンプルおよび対照サンプルのプレインキュベーションは、MixMateボルテクサー(注文番号732-6009、Eppendorf;ハンブルグ、ドイツ)を用いて、室温(RT)で2500rpmの一定のボルテックス下で30分間行った。プレインキュベーションは、以下の実験のために行われた:阻害性ヘモグロビン(本実施例のセクション4.1を参照)およびプレインキュベーション対直接インキュベーション(本実施例のセクション4.3を参照)。
【0185】
(ii)血小板、rVWF、ヘモグロビン、および精製rADAMTS13の同時直接インキュベーション
【0186】
ヘモグロビンが既にVWFに結合している(ADAMTS13によるVWFからの置き換えが必要な)場合と、反応成分を同時に混合してVWFの結合についてヘモグロビンがADAMTS13と競合する場合とで、VWFの切断の程度に違いがあるかどうかを調べるために、直接インキュベーションのセットアップを調製した。直接インキュベーションのセットアップでは、精製組換えヒトVWF(3 IU/mL)と、再構成した凍結ホルマリン固定血小板(300×103個/μL)を含むアッセイバッファーを、45μLの総量で異なる濃度の血漿精製ヒトヘモグロビンと混合した。ヘモグロビンを含まないそれぞれの対照サンプルを同じ方法で調製したが、代わりに適切な量のボルテックスアッセイバッファーを用いた。rADAMTS13の添加前には、さらなるインキュベーションは行わなかった。直接インキュベーションは、以下の実験のために行われた:ヘモグロビンの無効化(overriding)(本実施例のセクション4.2を参照)およびプレインキュベーション対直接インキュベーション(本実施例のセクション4.3を参照)。
【0187】
プレインキュベーションまたは直接インキュベーションのいずれかの後、15μLの異なる濃度の精製rADAMTS13を反応混合物に添加し、総量を60μLとした。非切断VWFの陰性対照として、rADAMTS13を含まないアッセイバッファーを添加した。最終反応混合物を、MixMateボルテクサーにおいて2500rpmの回転速度で一定のボルテックスをかけながら、室温(RT)で60分間インキュベートした。その後、EDTAを10mMの最終濃度まで添加することにより、全ての反応混合物を停止させた。VWF切断断片(176kDaおよび140kDaの二量体断片)を非還元条件下でNuPage 3-8% Tris-acetateゲルで分離した。
【0188】
アッセイ反応混合物のセットアップの概要を表1に示す。
【表1】
【0189】
2. SDS-PAGEおよびイムノブロット分析
2.1 SDS-PAGE/イムノブロット用の陽性対照の調製
ADAMTS13媒介VWF切断産物の陽性対照として、中程度の変性尿素アッセイ条件下(本実施例のセクション1に記載)でrADAMTS13により切断されたrVWFを各ゲル上にのせ、イムノブロット分析後に適切で明確なVWF切断断片を可視化した。
【0190】
2.2 サンプル調製、SDS-PAGE、イムノブロット検出
サンプルをNuPage 4xドデシル硫酸リチウム(LDS)サンプルバッファー(40%グリセロール、4% LDS、4% Ficoll-400、0.8M トリエタノールアミン-塩化物[pH7.6]、0.025%フェノールレッド、0.025%クーマシーG250、2mM EDTA;注文番号NP0007、Invitrogen;ウイーン、オーストリア)で希釈し、NuPage 3-8% Tris-acetateゲル(注文番号EA03755BOX、Invitrogen;ウイーン、オーストリア)に約12ng VWF/レーンの濃度でロードし、変性・非還元条件で分離した。
【0191】
各ゲルは、事前に染色されたタンパク質マーカー、尿素切断条件下で生成された陽性対照、ヘモグロビンを含まない少なくとも1つの参照対照サンプル、ヘモグロビンを含むrADAMTS13試験サンプル、および陰性対照サンプル(rADAMTS13を含まない参照サンプル、または10mMのEDTA[最終濃度]とインキュベートした参照スサンプル)を含んでいた。
【0192】
ゲル電気泳動(150ボルトで約4時間実行)の後、タンパク質をニトロセルロース膜に転写した(iBlotR gel transfer stacks nitrocellulose;注文番号IB3010-01、Invitrogen;ウイーン、オーストリア)。ブロット転写の有効性の基準として、あらかじめ染色したタンパク質の標準品がニトロセルロース膜上に明らかに見える必要があった。
【0193】
膜をブロッキング液で1時間ブロッキングした後、1:2000希釈のHRP結合ウサギ抗ヒトVWFポリクローナル抗体(製品番号:P0226;Dako Cytomation、グロストルプ、デンマーク)を含むTBSTおよび0.3%ドライミルクと共にRTで一晩インキュベートした。ブロッキング液は、0.05% Tween20(TBST;注文番号8.22184.0500、Merck;ウイーン、オーストリア)および3%ドライミルク(注文番号170-6404、Bio-Rad Laboratories、ハーキュリーズ、CA、USA)と共にトリス緩衝生理食塩水(TBS:20mM Tris(pH約7.4)、0.9% NaCl;注文番号T5912-1l、Sigma;ウイーン、オーストリア)を含んでいた。ポリクローナル抗体は、176kDa、およびより少ない程度で140kDaの二量体VWF断片を可視化する(Tan et al., Thromb Res; 121(4): 519-26, 2008)。
【0194】
抗体とのインキュベーション後、ブロットをTBSTで洗浄し、結合した抗VWF HRP結合抗体のペルオキシダーゼ活性を検出するために、超高感度増強化学発光基質(Super Signal West Femto maximum sensitivity substrate;注文番号34095、Thermo Scientific、オーストリア)を用いて、特異的なVWFタンパク質バンドを検出した。化学発光染色された膜のデジタル画像を作成するChemiDoc Imagerカメラシステム(BioRad、Hercules、CA、USA)を用いてシグナルを捕捉した。
【0195】
尿素切断条件下で作成した陽性ブロット対照サンプルのVWF切断断片(すなわち176kDaの二量体)がVWF特異的免疫ブロッティング後に検出可能であった場合に、そのブロットは有効であるとみなされた。
【0196】
記録された画像をさらにデンシトメトリーで分析し、特定の切断バンドにおけるタンパク質染色の相対量を評価した(本実施例の次のセクション3で説明する)。
【0197】
3. データ解析
3.1 画像解析
記録された画像をChemiDoc Imagerカメラシステムの評価プログラムで開き、分析すべきVWF切断産物(すなわち、176kDaの二量体断片)を識別してマークした。レーンごとのマークされた領域の色の強度(体積強度として示された)が評価プログラムによって計算された。これらの最終強度値は、さらなる分析のためにMicrosoft Office Excel 2007にエクスポートされた。
【0198】
3.2 対照サンプルの評価
ヘモグロビンを含む各試験サンプルについて、ヘモグロビンを添加していないそれぞれの対照サンプルを少なくとも1回ゲルにロードした。サンプルを二重にロードした場合には、二重の強度値から平均参照強度値を算出した。
【0199】
その後の試験サンプルとの比較評価のために、対照サンプルの強度値を100%とした。各試験サンプルについて、対照の強度値からの偏差を求めた。
【0200】
3.3 データ分析の方法
結果は%比で表し、次の式に従って計算した:
比[%]=(平均)強度値試験サンプル/(平均)強度値対照サンプル x 100
この計算を各ゲルについて別個に行った。
【0201】
4. 結果
4.1 ADAMTS13媒介VWFマルチマー切断に対するヘモグロビンの阻害効果
ADAMTS13媒介VWFマルチマー切断に対するヘモグロビンの阻害効果を、ADAMTS13の各濃度(すなわち、1U/mL、0.5U/mL、および0.25U/mL)について、ヘモグロビン濃度を増加させて(0mg/mL、0.5mg/mL、1mg/mL、5mg/mL、および10mg/mL)評価した。Hb濃度は、SCD患者で観察される血漿Hbの範囲(20~330μg/mL、血管閉塞性クリーゼ時には>400μg/mL)をカバーした。ADAMTS13の正常なヒト血漿濃度は約1U/mLである。
【0202】
図1は、ヘモグロビンなし(0mg/mL)での反応と比較して、増加する濃度のヘモグロビン(0.5mg/mL、1mg/mL、5mg/mL、および10mg/mL)の存在下において、0.25U/mL、0.5U/mL、または1U/mLのrADAMTS13濃度でVWF基質をインキュベートした後に生成された176kDaの二量体VWF切断断片の代表的な例を示す。最初の目視検査は、ヘモグロビンを添加しない対照反応と比較して、様々なrADAMTS13の力価において、切断反応に添加されたヘモグロビン濃度の増加に伴い、176kDaのVWF切断断片のシグナル(信号)が減少することを明確に示した。ヘモグロビン不在下で0.25U/mL、0.5U/mL、および1U/mLのrADAMTS13を用いた対照反応は、176kDaの二量体VWF切断断片の用量依存的な増加を示した。
【0203】
この目視検査を確認するために、176kDa断片のデンシトメトリー評価を行い、ヘモグロビンを含む試験サンプルのシグナル密度を、ヘモグロビンを含まないそれぞれの対照と比較して評価した。表2および
図2は、異なるrADAMTS13濃度(0.25U/mL、0.5U/mL、および1U/mL)のそれぞれを、4種類の異なる濃度のヘモグロビン(0.5mg/mL、1mg/mL、5mg/mL、および10mg/mL)とインキュベートした場合のデンシトメトリー評価およびグラフ評価を示す。ヘモグロビンを添加しない対照サンプルを100%とし、セクション3.2に記載したように、ヘモグロビン濃度を増加させて、それぞれのrADAMTS13濃度のサンプルと比較した。結果は、セクション3.3に記載の計算式に従って%比で表した。
【表2】
【0204】
1U/mLのrADAMTS13では、ヘモグロビン濃度を段階的に上げると(0.5mg/mL、1mg/mL、5mg/mL、および10mg/mL)、59%~11%の間の比を示した。同様に、0.5U/mLのrADAMTS13では69%~20%の間、0.25U/mLのrADAMTS13では65%~21%の間の比が得られた。表2および
図2に示された結果から、ADAMTS13媒介VWF切断に対するヘモグロビン濃度の増加による阻害効果が確認された。
【0205】
4.2 ADAMTS13媒介VWFマルチマー切断に対するヘモグロビンの阻害効果に対するrADAMTS13濃度の無効化効果
前述のパイロット実験の結果の目視検査は、ヘモグロビン濃度が一定の場合、rADAMTS13の濃度を上げることで、VWF切断に対するヘモグロビンの妨害効果を克服できることを示唆した。
【0206】
適切な濃度のrADAMTS13が、VWFマルチマー切断に対するヘモグロビンの阻害効果を無効にする(オーバーライドする)ことができることをより詳細に示すために、rADAMTS13について以下の濃度を選択した:0.25U/mL、0.5U/mL、1U/mL、および2U/mL、ヘモグロビンについては以下の濃度を選択した:0.1mg/mL、0.5mg/mL、および1mg/mL。
【0207】
図3は、一定のヘモグロビン濃度(0.1mg/mL、0.5mg/mL、および1mg/mL)であるが、異なるrADAMTS13濃度(0.25U/mL、0.5U/mL、1U/mL、および2U/mL)を有するサンプルのVWF特異的イムノブロットにおける得られた176kDaの二量体VWF切断断片を、同じイムノブロットで分離されたヘモグロビンを添加していないそれぞれの対照と比較して示す。
図3に示すイムノブロットに対応するデンシトメトリー評価およびグラフ評価を表3および
図4に示す。ヘモグロビンを含まない対照サンプルを100%として、ヘモグロビンを含む対応のサンプルと相関させた。結果は、176kDaの二量体VWF切断産物の比(%)として表す。
【表3】
【0208】
最も低いヘモグロビン濃度である0.1mg/mLでは、rADAMTS13濃度を増加させると、ADAMTS13媒介VWFの切断が復帰した。1U/mLのrADAMTS13での再構成の程度は、ヘモグロビン非存在下での対照サンプルでのVWF切断の程度に近かった。切断反応に0.5mg/mLのヘモグロビンが存在する場合、段階的にrADAMTS13の濃度を上げると、ヘモグロビンを含まないそれぞれの対照と比較して、VWFの切断が24%から69%まで徐々に可能になった。同様に、rADAMTS13の用量依存的な無効化効果が1mg/mLのヘモグロビン濃度で認められたが、rADAMTS13の最高濃度である2U/mLで、ヘモグロビンを含まない切断条件と比較して、約19%のVWF切断断片しか生成されなかった。これらの結果から、1mg/mLのヘモグロビン濃度では、ヘモグロビンの妨害を克服するために2U/mL超のrADAMTS13濃度が必要であることが示唆された。
【0209】
全体として、rADAMTS13はヘモグロビンによるVWF切断の阻害効果を克服する用量依存的な効力を有することが示された。
【0210】
4.3 rADAMTS13添加前のヘモグロビンとrVWFのプレインキュベーションの効果
rADAMTS13を反応混合物に添加する前に、ヘモグロビンとrVWFのプレインキュベーション(30分間、2500rpmで一定のボルテックス)を行った場合と行わなかった場合の実験も行った。その目的は、ADAMTS13の結合およびその切断を妨害するはずのVWF結合部位をヘモグロビンが事前に占有する時間があった場合に、VWFのアクセス性が影響を受けるか否かを調べることであった。
【0211】
図5は、0.5mg/mLおよび1mg/mLのヘモグロビンとrVWFとのプレインキュベーションを行った場合と行わなかった場合の、3つのrADAMTS13濃度(0.25U/mL、0.5U/mL、および1U/mL)での切断反応を示す。176kDaの二量体切断産物は、ポリクローナル抗VWF抗体HRPコンジュゲートによって可視化される。対応するデンシトメトリー評価およびグラフ評価を表4および
図6に示す。
【表4】
【0212】
ヘモグロビンとrVWFのプレインキュベーションの有無にかかわらず、rADAMTS13媒介VWF切断に対するヘモグロビンの用量依存的な阻害が示された。ヘモグロビンの妨害効果は、rADAMTS13の濃度を上げることで克服できた。
【0213】
ヘモグロビンとrVWFのプレインキュベーションを行った場合と行わなかった場合の反応混合物において生成された二量体VWF切断断片のデンシトメトリー評価は、以下のことを明らかにした:(i)ヘモグロビンとrVWFのプレインキュベーション時間後に捕足されたrADAMTS13はVWFを切断することができ、したがって、rVWFを事前に占有していたヘモグロビンがrADAMTS13によって競合的に置き換えられたことが示唆され、(ii)プレインキュベーションを行った場合と行わなかった場合の反応混合物においてrVWF切断の程度が異なっていた。
【0214】
プレインキュベーションを行うと、プレインキュベーションを行わない場合に比べて、rVWFはより高い程度切断された:0.25U/mL~1U/mLのrADAMTS13濃度で、176kDaの二量体切断産物の比は、0.5mg/mLのヘモグロビンで59%~87%、1mg/mLのヘモグロビンで44%~68%であった。一方、rADAMTS13とヘモグロビンを同時にrVWFとインキュベートした場合、より少ないrVWF切断断片が生成された;0.25U/mL~1U/mLのrADAMTS13濃度で、176kDaの二量体切断産物の比は、0.5mg/mLのヘモグロビンで23%~43%、1mg/mLのヘモグロビンで14%~38%であった。
【0215】
これらの結果は、ADAMTS13媒介切断に対するヘモグロビン濃度の増加による公表された阻害効果を確認した。ヘモグロビン濃度は、鎌状赤血球に関連する急性事象中に患者で観察される細胞外ヘモグロビン(ECHb)の範囲内であった(通常20~330μg/mL、血管閉塞性クリーゼ時には>400μg/mL)。さらに、適切な濃度のrADAMTS13によって、ヘモグロビンの阻害効果がin vitroで圧倒されることも実証された。
【0216】
実施例2:
Tim Townesマウス試験でのADAMTS13を用いた薬物動態/薬力学的試験
本研究の目的は、正常酸素条件下において、Tim Townes SSマウスに単回静脈内(IV)ボーラス投与した後のrADAMTS13(本実施例ではSHP655と表記)の薬物動態プロファイルおよび有効性を評価することであった。
【0217】
本研究では、ヒトの曝露経路として規定されている静脈内(IV)投与経路を選択した。
【0218】
SHP655のPK/PDの用量依存性を調べるための用量レベルが必要であった。トップ用量は、以前の研究でこの系統のマウスに既に投与されている(国際公開第2018/027169号の実施例7を参照;あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0219】
1.動物手順および実験計画
合計78匹の雄のTim Townes SSマウスを、表5に示す4つの試験群に割り当てた。動物はJackson Laboratories(米国)またはCharles River Laboratories(Sulzfeld、ドイツ)から入手し、引き渡し時の年齢は4~8週齢であった。動物飼育施設への到着後、全ての動物は、資格を有する獣医スタッフによる一般的な身体検査を受け、正常な健康状態であることを確認した。動物は引き渡しから少なくとも5日間は隔離された状態で飼育した。動物は隔離された換気ケージ(IVC-GM500)に収容し、目標温度20~24℃、目標相対湿度40~70%、明暗比1:1(12時間明:12時間暗、人工照明)で飼育した。動物は個別のケージに収容し、ケージは2週目ごとに交換した。空気の入れ替えは1時間に60回以上行われた。動物は、Ssniff R/M-Haltung食(Ssniff Spezialdiaten GmbH、Soest、ドイツ)と水を自由に摂取した。寝床、巣作り材料、干し草(ABEDD Lab and Vet Service GmbH、ウイーン、オーストリア)が提供された。試験開始前に体重をモニターし、ケアスタッフによる毎日の臨床観察と臨床症状を記録した。安楽死については、ヒトのエンドポイントが適用され、さらなる解析のために病理組織学的検査用のサンプルを分離し、瞬間凍結し、4%リン酸緩衝ホルムアルデヒドで固定した。予定外の死を迎えた動物は、可能であれば、あるいは必要であれば、剖検した。動物はペントバルビタールの過量投与または深い麻酔下で頸椎脱臼により安楽死させた。
【0220】
動物には個体番号が付けられ、表5に示すマーキング方式に従って、消えないインクでマーキングされた。
【表5】
【0221】
2.試験品および対照品の調製
群A~Dのための試験品および対照品は、注射当日に新鮮な状態で調製した。凍結保存されていた凍結乾燥SHP655を室温に戻した。試験品は、製剤緩衝液(塩化カルシウム(2mM)、L-ヒスチジン(20mM)、マンニトール(3%w/w)、スクロース(1%w/w)、およびポリソルベート80(0.05%w/w)、pH6.9~7.1)中にrADAMTS13を含んでいた。対照品は、SHP655の製剤緩衝液を含んでいた。SHP655は、5mLの注射用滅菌水(ロット番号VN549058、Baxalta Innovations GmbH)で再構成した。再構成後、SHP655を室温で少なくとも1分間保持した後、軽く旋回させて完全に溶解させた。注射のために、再構成されたSHP655をSHP655用の製剤緩衝液で希釈した(表6)。対照として、SHP655用の緩衝液(ビヒクル)を注入した。完了後、ゆっくりと反転させて製剤を穏やかに混合した。最終希釈液は、湿った氷を入れた箱の中で、対応する群の処置のために適切な量を充填したラベル付きチューブ(試験番号/群/用量)で供給した。最終希釈液は氷上に保持し、3時間以内に動物に用いた。
【表6】
【0222】
3.SHP655の投与
試験品および対照品は、注射の前日に記録された個々の動物の最新の体重に基づいて、意識のある拘束された動物に外側尾静脈から一度に注射した。投与体積は10mL/kgであった。投与前および投与後、製剤サンプル(100μLのアリコート)を低温冷凍(<-60℃)で保存した。
【0223】
投薬した日を0日目とした。投与後、本実施例のセクション1に記載したように、動物をモニターし、所見を記録した。
【0224】
4.採血
薬物投与の0.083時間(5分)後(5min)、3時間後(3h)、14時間後(14h)、および24時間後(24h)に血液を採取したが、ビヒクル投与では14時間後(14h)のみに採取した(各時点につきn=6)。
【0225】
4.1 眼窩静脈叢穿刺
投与の14時間後に屠殺したマウスからのみ、眼窩静脈叢血(0.3mL EDTA血)を採取した。
【0226】
採血の直前に、UNO-Univentor 400麻酔ユニットを用いてイソフルラン(ロット番号6065016、Intervet、オーストリア)で動物を麻酔した。その後、首の皮膚のしわを掴んで動物を拘束し、ガラスキャピラリーを眼球の中央の角に隣接する静脈叢に注意深く挿入した。血液が毛細管の中を流れ始めるまで、毛細管を眼球の後ろで静かに回転させた。その後、ガラス管を眼球から引き抜き、血液をEDTAチューブ(ロット番号160805、Greiner Bio-one)に採取した。目的の量に達した後、頸部の固定を緩め、滅菌綿を眼球に軽く押し当てて出血を止めた。チューブにキャップをし、ゆっくりと反転させてサンプルを混合した。
【0227】
4.2 心臓穿刺
ADAMTS13活性(全ての時点:0.083、3、14、および24時間)ならびに本実施例のセクション7に記載されているいくつかのパラメータを分析するために、終末心臓穿刺血液(0.5~0.7mLの血液)を採取した。
【0228】
この目的のために、動物を麻酔し(約100~150mgのKetasol[塩酸ケタミン;ロット番号6680115、OGRIS Pharma GmbH]+10~20mgのRompun(登録商標)[塩酸キシラジン;ロット番号KPOAGNA、Bayer、ドイツ]を塩化ナトリウム[ロット番号19HL27WB、Fresenius、オーストリア]で希釈したものを10mL/kgの量で用いた)、胸郭を開いたり肝臓を穿刺したりすることなく、25G針を装着した2mLシリンジで血液を採取した。血液は、循環/心臓虚脱を防ぐために、ゆっくりと慎重に引き抜いた。その後、シリンジから針を外し、個別にラベルを付けたヘパリンリチウムチューブ(ロット番号7071511、Sarstedt社)にサンプルを移した。チューブにキャップをした後、ゆっくりと反転させてサンプルを穏やかに混合した。このヘパリンリチウム血液を血漿調製に用いた。
【0229】
4.3 ヘパリン血漿の調製
全てのヘパリン添加血液サンプルを、できるだけ早く遠心分離した。ヘパリン血液サンプルは、2200gで10分間、室温で遠心分離した。上澄み液の血漿を、プラスチックピペットを用いて、清潔で明確にラベル表示された第2のエッペンドルフチューブに移した。上澄み液を第2のエッペンドルフチューブに移す際には、血漿と一緒に「バフィーコート」から細胞を取り出さないように注意した。2回目の遠心分離(血漿上清)を行った(2200g、5分間、室温)。血漿を再びプラスチックピペットを用いて慎重に取り出し(沈殿物から細胞を取り出さない)、明確にラベル表示されたエッペンドルフチューブに入れた。全ての時点で、ADAMTS13活性および本実施例のセクション7のいくつかのパラメータについて血漿を分析した。
【0230】
5.ADAMTS13活性の分析
FRETS-VWF73アッセイを用いて、全てのヘパリン血漿サンプルのADAMTS13活性を分析した。簡単に説明すると、FRETS-VWF73は、ADAMTS13の消光性蛍光基質である。ADAMTS13の切断部位(Y1605-M1606)を含む、ヒトVWFのA2ドメインの73アミノ酸(D1596-R1668)からなるペプチドである。非切断FRETS-VWF73の蛍光シグナルは、蛍光体とクエンチャーとの間の蛍光共鳴エネルギー移動によりクエンチャーによって消される。FRETS-VWF73基質がADAMTS13によって切断されると、蛍光体とクエンチャーとの間の空間的な距離のせいで蛍光シグナルが発生する。発光体は340nmで励起され、450nmで発光する。血漿サンプルをサンプル希釈緩衝液で希釈し、ADAMTS13の推定活性が80mU/mLから5mU/mLになるようにした。希釈した標準品(ADAMTS13活性が1U/mLと規定されている正常ヒト血漿)、対照サンプル、および血漿サンプル(いずれも1ウェルあたり100μL添加)を96ウェルマイクロプレート内の100μL/ウェルのFRETS-VWF73基質と混合し、FRETS-VWF73とADAMTS13の切断反応を開始する。この過程を1時間にわたり5分ごとに蛍光分光光度計で測定する。この期間のシグナルの増加が、サンプル中のADAMTS13活性に対応する。
【0231】
6.臓器の分離
全ての群から臓器(例えば、肺、腎臓、脾臓および肝臓)を分離した(14時間後の時点のみ)。全ての群について、一部を適切な溶液(例えば、4%リン酸緩衝ホルムアルデヒド)で固定し、他の部分を液体窒素で凍結した。
【0232】
4%リン酸緩衝ホルムアルデヒド(ロット番号16B160010、VWR Chemicals PROLABO)で固定した組織(肺、腎臓、および肝臓)を病理組織学的解析に送った。探索的解析のために液体窒素中(2mLのエッペンドルフチューブ中)の新鮮な凍結組織(肺、腎臓、および肝臓)をNMI TT(ロイトリンゲン、ドイツ)に送った。
【0233】
7.追加のパラメータ
以下のパラメータを分析した:VWF活性レベル、VWF抗原レベル、VWFマルチマー、VWF切断断片、および遊離ヘモグロビンレベル。
【0234】
7.1 VWF活性アッセイ
VWF:CBAは、ZYMUTEST VWF:CBA(Hyphen BioMed,155,rue d’Eragny,F95000 Neuville-sur-Oise,フランス)の製品リーフレットにしたがって実施した。
【0235】
最初のステップでは、希釈したキャリブレーター、対照およびサンプルを、繊維性コラーゲン(ウマ、1型および3型)でコーティングしたマイクロウェルに導入した。コラーゲンが存在すると、VWFはそのコラーゲン結合活性によって固相に捕捉された。洗浄ステップの後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)に結合したポリクローナル抗体であるイムノコンジュゲートを添加し、固定化されたVWFの遊離エピトープに結合させた。洗浄ステップの後、過酸化水素(H2O2)の存在下でペルオキシダーゼ基質である3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を加え、青色に発色させた。硫酸で反応を止めると、黄色になった。発色量は試験サンプル中のヒトVWF:CBAの濃度に正比例した。
【0236】
7.2 VWF抗原アッセイ
ASSERACHROM VWF:Ag(Diagnostica Stago,アニエール=シュル=セーヌ,フランス)の製品リーフレットに従ってアッセイを行った。
【0237】
簡単に説明すると、プラスチック製マイクロプレートのウェルにプレコートされたウサギポリクローナル抗ヒトVWF:Ag抗体によってVWFが捕捉された。次に、ペルオキシダーゼと結合したウサギ抗ヒトVWF抗体が、結合したVWFの遊離抗原決定基に結合する。結合した酵素ペルオキシダーゼは、TMB基質に作用することで顕示化された。0.5N硫酸で反応を止めた後、色の強度はサンプル中に最初に存在したVWFの濃度に正比例した。
【0238】
7.3 VWFマルチマーアッセイ
VWFのマルチマー構造を水平SDSアガロースゲル電気泳動で解析した。VWFマルチマーのサイズ分布を解析するために、低解像度(1%アガロース)の条件を用いた。サンプルを、VWF:Agの含有量に基づいて希釈し、Tris-EDTA-SDSバッファーとインキュベートた。その後、アガロースゲルにおいて非還元条件でマルチマーを分離した。VWFマルチマーは、Bio-Rad(リッチモンド、CA、US)の化学発光検出キット(Clarity Western ECL)を用いて、ポリクローナルウサギ抗ヒトVWF抗体、および続いてHRP結合ヤギ抗ウサギIgGを用いた免疫検出により可視化した。CCDカメラでVWFマルチマーを可視化し、肉眼でカウント可能なVWFマルチマーの数を記録した。
【0239】
7.4 遊離ヘモグロビンアッセイ
血漿サンプル中の遊離ヒトヘモグロビンを、Abcam社(ab157707)が提供する市販のサンドイッチ酵素結合免疫吸着法(ELISA)で分析した。ヒトヘモグロビンのin vitroアッセイの範囲は3.13ng/mL~200ng/mLであり、感度は0.845ng/mL、精度は10%以下であった。
【0240】
このアッセイでは、血漿サンプル中のヘモグロビンが、ポリスチレン製マイクロタイターウェルの表面に吸着した抗ヘモグロビン抗体と反応する。洗浄により結合していないタンパク質を除去した後、HRPを結合させた抗ヘモグロビン抗体を添加した。この酵素標識抗体は、先に結合したヘモグロビンと複合体を形成する。さらに洗浄した後、免疫吸着剤に結合した酵素を発色基質である3,3’,5,5’-TMBを添加して測定した。結合した酵素の量は、試験サンプル中のヘモグロビンの濃度によって直接変化する;したがって、450nmでの吸光度は、試験サンプル中のヘモグロビンの濃度の指標である。試験サンプル中のヘモグロビンの量は、標準サンプルから構築した標準曲線から補間し、サンプル希釈を補正して求めることができる。
【0241】
8.統計解析
統計解析は、GraphPad Prism Version 7.03を用いて行った。
【0242】
薬物動態解析は、Phoenix WinNonlin version 6.3(Pharsight)を用いて行った。薬物動態データは、スパースサンプリングデザイン、すなわち、調べる時点の1つにおいて動物あたり1つのサンプルしか採取しない逐次サンプリングデザインを用いて評価した。
【0243】
SHP655の活性濃度の薬物動態パラメータは、ノンコンパートメント法を用いて算出した。
【0244】
群B、C、Dで測定された各血漿中濃度から、(群Aで測定された)SHP655の平均ベースライン濃度値を差し引いた(表10を参照)。
【0245】
全ての時点をとおして最大平均濃度を与えた濃度を、注入後の最大濃度の推定値(Cmax)として使用し、算術平均によりまとめた。Cmax濃度に到達するために観察された最短時間をTmaxと定義した。また、0から定量可能な濃度が得られた最後の採血時点までの濃度対時間曲線下面積、濃度対時間曲線下面積の合計、終末相半減期、平均滞留時間、総クリアランス、定常状態での分布容積、および増分回収率(Cmax/投与量として算出)を算出した。実際の投与量(U/kg)を計算に用いた。
【0246】
9.結果
9.1 投与溶液の分析
投与溶液の分析結果を表7に示す。
【表7】
【0247】
9.2 年齢、体重、および臓器の重さ
平均体重および年齢の範囲を表8に報告する。
【表8】
【0248】
投与の14時間後に屠殺した動物の体重および臓器の重量を表9に報告する。
【表9】
【0249】
9.3 臨床症状および死亡率
動物B9は投与前に死亡したが、交換しなかった。
【0250】
投与後、1000IU/kgでの投与直後(5分後の採血前)に死亡した動物C36を除き、全てのマウスに臨床症状は認められなかった。
【0251】
この系統のマウスでは、病気のために自然死することが少なくない(Ryan et al., Science; 278(5339): 873-6, 1997)。病気の状態の亢進を伴う年齢上昇の間に自然死が社内で観察されている(マウスは1~2ヶ月齢で供給され、4~5ヶ月齢の実験年齢まで社内で育成される)。
【0252】
9.4 ADAMTS13活性
ADAMTS13活性を表10に報告し、また
図10A~10Bにも示す。
【表10-1】
【表10-2】
【0253】
9.5 薬物動態
SHP655の血漿中濃度対時間プロファイルを
図10Aおよび10Bに報告する。また、SHP655の薬物動態パラメータを表11に報告する。
【表11】
【0254】
AUC暴露量は直線的な用量依存性を示した。クリアランスは低く、半減期は長い。定常状態での分布容積は低いが、血漿容積を上回っており、血漿に加えて他の組織にもSHP655が分布することを示す。なお、PKパラメータは、試験デザインが限定されているため、慎重に検討する必要がある(外挿されたAUCの割合は32~42%であった)。
【0255】
9.6 VWF活性/抗原および血漿ヘモグロビン濃度
VWF活性および抗原レベルは、ZYMUTEST VWF:CBA活性アッセイおよびASSERACHROM VWF:Ag ELISAを用いて決定した。VWF活性/抗原比を
図8A~8Cに示す。
【0256】
遊離ヘモグロビンは、製造元の指示に従って市販のELISAを用いて血漿サンプル中において分析した。血漿ヘモグロビン濃度を
図9A~9Cに示す。
【0257】
9.7 病理組織学的解析
14時間後に屠殺した動物の肝臓、腎臓、および肺を解析した。
【0258】
肝臓の切片は、最低限から中程度の重症度の凝固壊死の局所的から多局所的な合体領域の存在によって特徴付けられ、これらの領域は門脈三つ組の近くにある傾向があった。いくつかの領域では、混合型の炎症(形質細胞、リンパ球、単核細胞、たまに好中球および好酸球)が壊死と関連していたが、他の領域では、この炎症は壊死領域から離れた隣接実質に隔離されていた。たまに、炎症を伴わないで凝固壊死の領域が存在することもあった。金褐色(golden brown)の色素(胆汁またはヘモジデリンと解釈される)が、壊死および炎症の領域またはその近くに存在した。他の領域では、この金褐色の色素は個々の肝細胞に存在していた(すなわち、胆汁うっ滞)。肝臓切片は、単一赤血球を識別するのが困難なほど赤血球が詰まった血管(門脈の可能性が高い)も含んでいた(うっ血というよりは止血に合致する)。一部のマウスでは、血管のびまん性病変が見られたが、他のマウスでは3~4本の血管のみが関与しており、それは門脈三つ組み領域にある傾向があったが、全てのマウスで中心静脈は温存されていた。これらの所見の重症度に、様々な異なる群の間で差はなかった。
【0259】
数匹のマウスの肝臓では、びまん性肝細胞の巨大細胞/巨大核(cytomegaly/karyomegaly)(遺伝子組換えマウスによく見られる非特異的な特徴)も観察された。
【0260】
全ての群の数匹のマウスの腎臓は、皮髄境界部(cortico-medullary junction)に血管のうっ血を示した。このうっ血は、0または300IU/kgのSHP655を投与したマウスでは、軽度から中等度の重症度で観察されたが、1000または3000IU/kgのSHP655を投与したマウスでは、重症度は最低限から軽度であり、3000IU/kgのSHP655を投与したマウスは、本質的に全て最低限の重症度を示した(うっ血が見られなかった1匹のマウスを含む)。このことから、本試験におけるSHP655の高用量での治療効果が示唆された。
【0261】
残りの全ての腎臓および肺の所見は、実験用マウスで一般的に観察される典型的なバックグラウンド所見であった。
【0262】
ビヒクル群と比較して、SHP655で処置したTim Townes SSマウスは、ADAMTS13投与の14時間後に、中用量および高用量でVWF活性/抗原比の有意な減少を示した(p<0.05)。これらの結果は、超巨大VWFマルチマーの濃度の低下を示唆するSCDにおけるSHP655の提案されている作用機序と合致する。
【0263】
ビヒクル群と比較して、SHP655で処置したTim Townes SSマウスは、ADAMTS13投与の24時間後に、中用量および高用量で遊離ヘモグロビン濃度の有意な低下を示した(p<0.05)。
【0264】
ADAMTS13活性のデータと合わせて、これらの結果は、SHP655に対する薬力学的反応に遅れがあることを示す。SHP655の最大効果は、ADAMTS13の最大血漿濃度のとき(投与の5分後)ではなく、VWF活性/抗原比については14時間後であり、遊離ヘモグロビン濃度については24時間後である。
【0265】
実施例3:
鎌状赤血球症の動物モデルにおけるADAMTS13の有効性試験
この探索的有効性試験の目的は、低酸素状態において、Tim Townesマウスに組換えADAMTS13(本実施例ではSHP655と称する)を静脈内投与した後の用量依存的な有効性を調べることであった。
【0266】
SHP655の有効性を7.0%酸素でTim Townesマウスにおいて調べた。
【0267】
実施例2と同様に、静脈内投与経路を、この経路がヒトへの曝露経路として定義されているため、この試験でも選択した。SHP655の用量依存的効果を明らかにするために、以前の研究(国際公開第2018/027169号の実施例7を参照;あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に基づき、300、1000、および3000IU/kgのSHP655の用量レベルを選択した。
【0268】
1.動物手順および試験デザイン
合計24匹の雄のTim Townes SSマウス(Hbbtm2(HBG1,HBB*)Towについてホモ接合型、Hbatm1(HBA)Towについてホモ接合型)をJackson Laboratories社(米国)から購入し、全ての動物が同等の体重および年齢で予定された生活段階に入るようにした2回の異なる出荷により得た。搬入時の年齢範囲は4~8週齢であった。動物飼育施設への到着後、全ての動物は、資格を有する獣医スタッフによる一般的な身体検査を受け、正常な健康状態であることを確認した。動物は搬入から少なくとも5日間は隔離された状態で飼育された。動物は隔離された換気ケージ(IVC-GM500)に収容し、目標温度20~24℃、目標相対湿度40~70%、および明暗比1:1(12時間明:12時間暗;人工照明)で飼育した。1ケージあたり1~3匹を収容し、1週間ごとにケージを交換した。空気の入れ替えは1時間に60回以上行われた。動物は、Ssniff R/M-Haltung食(Ssniff Spezialdiaten GmbH、Soest、ドイツ)と水を自由に摂取した。寝床、巣作り材料、干し草は(ABEDD Lab and Vet Service GmbH、ウイーン、オーストリア)が提供された。搬入日から週1回動物の体重をモニターし、ケアスタッフによる毎日の臨床観察と臨床症状を記録した。安楽死については、ヒトのエンドポイントを適用し、さらなる解析のために病理組織学的検査用のサンプルを分離し、瞬間凍結し、4%リン酸緩衝ホルムアルデヒドで固定した。予定外の死を迎えた動物は、可能であれば、あるいは必要であれば剖検した。動物は、ケタミン/キシラジン(OGRIS Pharma GmbH)の過量投与で、または深い麻酔下で頸椎脱臼により安楽死させた。
【0269】
動物に個体番号が付けられ、表12に示すマーキング方式に従って、消えないインクでマーキングされた。
【表12】
【0270】
2.試験品および対照品の調製
試験品および対照品は、注射当日に新鮮な状態で調製した。+2~+8℃で保存されていた凍結乾燥SHP655を室温に戻した。試験品は、製剤緩衝液(塩化カルシウム(2mM)、L-ヒスチジン(20mM)、マンニトール(3%w/w)、スクロース(1%w/w)、およびポリソルベート80(0.05%w/w)、pH6.9~7.1)中にrADAMTS13を含んでいた。SHP655を5mLの滅菌水(sWFI、ロット番号VN549058、Baxalta Innovations GmbH)で再構成した。再構成後、試験品を室温で少なくとも1分間保持した後、軽く旋回させて完全に溶解させた。注射のために、再構成された試験品をSHP655用の製剤緩衝液で希釈した。対照として、SHP655用の緩衝液(ビヒクル)を注射した。完了後、ゆっくりと反転させて製剤を穏やかに混合した。最終希釈液は、湿った氷を入れた箱の中で、対応する群の処置のために適切な量を充填した合理的なラベル付きチューブ(試験番号/群/用量)で供給した。最終希釈液は氷上に保持し、3時間以内に動物に用いた。
【0271】
3.投薬
試験品および対照品は、注射の前日に記録された個々の動物の体重に基づいて、意識のある拘束された動物に外側尾静脈から一度に注射した。投与開始前および投与終了後、製剤(100μL)を低温冷凍(<-60℃)で保存した。
【0272】
投薬した日を0日目とした。投与後、本実施例のセクション1に記載したように、動物をモニターし、所見を記録した。
【0273】
4.低酸素試験
低酸素試験は、Biospherix Hypoxia chamber system(OxyCycler Model A84XOV、USA)を用いて、製造元のプロトコルに従って実施した。低酸素チャンバーの容量が限られていることと、低酸素チャレンジ中のTim Townes SSマウスの健全な行動評価を容易にするため、1日あたり試験するマウスの総数を12匹に制限した。そのため、異なる低酸素実験が最大3日間連続期間にわたり行われた。個々の動物の障害を「運動性」および「呼吸数」のパラメータを中心に継続的にモニターし、記録した。決められた人道的エンドポイントに達した動物は、低酸素チャンバーから取り出して安楽死させた。チャンバーの開閉は迅速に行われたが、一過性の酸素濃度の上昇を防ぐことはできなかった。
【0274】
投薬の約1時間後、Tim Townes SSマウスを低酸素チャンバーに入れ、7.0%の低酸素状態で5時間、続いて21%の酸素状態で1時間保持した。
【0275】
チャンバー内のO2が21%に達した後、ソフトウェアプログラム「Chamber O2 Profile」を停止し、チャンバーのドアを開けた。1時間の回復期の間、熟練したオペレーターが、個々の動物が回復したか、あるいは人道的エンドポイントの1つに到達したため安楽死させるべきかを決定した。生き残った動物は、終末心臓穿刺に使用された。
【0276】
5.行動観察
7.0%の低酸素に暴露した後の回復期の完了時に、行動薬理学者と獣医師による包括的な行動観察が行われた。以前にIrwin(Irwin et al., Psychopharmacologia. 13(3):222-57, 1968)によって記載されたように疾患の症状をモニターするために、SHIRPAガイドライン(Rogers et al., Mamm Genome. 8(10):711-3, 1997)に従って、各マウスについて個別に行動症状をスクリーニングした。特に、回復期の動物を検査するための行動項目(一般的な状況、姿勢、自発的および誘導された活動を含む)が選択され、そこから回復の状態を推定することができた。これらの項目は、症状が重いほど高い数になるように定量的にスコア化された(表13)。
【表13】
【0277】
6.採血
6.1 心臓穿刺
観察期間の終了時、または人道的エンドポイントに達した後、終末心臓穿刺を行った。
【0278】
この目的のために、動物を麻酔し(NaCl[ロット番号F0718、Medipharm]で希釈した、約100~150mgのケタミン[ロット番号6680117、OGRIS Pharma GmbH)+10~20mgのキシラジン[ロット番号7630217、OGRIS Pharma GmbH]/kgをi.p.)、胸部を開いたり肝臓を穿刺したりすることなく、25G針を装着したシリンジ(2mL)で血液を採取した。血液は、循環/心臓虚脱を防ぐために、ゆっくりと慎重に引き抜いた。その後、シリンジから針を外し、明確にラベル表示されたEDTAチューブ(250μL;ロット番号A18033EC、Greiner AG)、および個別にラベル表示されたヘパリンリチウムチューブ(ロット番号8073011、Sarstedt AG&Co.KG)(残りの血液量)にサンプルを移した。チューブにキャップをした後、ゆっくりと反転させてサンプルを穏やかに混合した。このヘパリンリチウム血液を血漿調製に使用した(本実施例のセクション6.2を参照)。
【0279】
6.2 ヘパリン血漿の調製
全てのヘパリン添加血液サンプルを、できるだけ早く遠心分離した。ヘパリン血液サンプルは、2200gで10分間、室温で遠心分離した。上澄み液の血漿を、プラスチックピペットを用いて、清潔で明確にラベル表示された第2のエッペンドルフチューブに移した。「バフィーコート」層の細胞が混入しないように注意しながら、サンプルをラベル付きのエッペンドルフチューブに移した。2回目の遠心分離(血漿上清)を行った(2200g、5分間、室温)。血漿を再びプラスチックピペットを用いて慎重に取り出し(沈殿物から細胞を取り出さない)、明確にラベル表示されたエッペンドルフチューブに入れた。得られた血漿は、以下のセクションで報告されている分析に供された。
【0280】
7.血漿サンプルの分析
採取したマウスサンプルを用いて、SHP655(ADAMTS13)活性および抗原、VWF活性および抗原、ならびに遊離ヘモグロビンのレベルを分析した。
【0281】
7.1 ADAMTS13活性アッセイ(FRETS-VWF73アッセイ)
FRETS-VWF73アッセイは、ヒトADAMTS13の活性を測定する蛍光アッセイである。
【0282】
FRETS-VWF73は、ADAMTS13の切断部位をカバーするVWF A2ドメイン由来の73アミノ酸からなる合成蛍光ペプチドであり、ADAMTS13活性を測定するための最小のペプチジル基質として使用される。このペプチドは、2つの蛍光発生残基(ドナーおよびアクセプター=クエンチャー)で修飾されている。非切断ペプチド基質を励起(λex=340nm)すると、ドナーとその近傍のクエンチャーとの間で蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が起こり、蛍光が発せられなくなる。ADAMTS13によってペプチド基質が切断されると、ドナーとクエンチャーが空間的に離れるため消光が起こらず、蛍光が発せられ(λem=450nm)、定量される。
【0283】
簡単に説明すると、サンプルを希釈し(総量100μL)、マイクロタイタープレートに移し、基質(100μLのFRETS-VWF73;最終濃度2μM)を添加して反応を開始した。30℃でλex=340nmおよびλem=450nmにより蛍光分光光度計を用いて、2分ごとに60分間、蛍光の変化を測定した。蛍光強度の増加は、サンプル中のADAMTS13活性濃度に比例する。希釈したプール正常ヒト血漿(作業範囲は0.08~0.005U/mL)を参照標準とし、それを対照にしてサンプルを測定した。ADAMTS13濃度が1U/mLと推定されるGeorge King Bio-Medic社のヒト血漿(プール)を参照調製物として使用した。結果として得られたFRETS-VWF73活性データはU/mLで表された。
【0284】
7.2 ADAMTS13抗原アッセイ
ADAMTS13 Ag ELISAアッセイは、自社(すなわち、Baxalta、Orth、オーストリア)で開発した抗ADAMTS13抗体を用いた定量的サンドイッチ酵素免疫測定法を採用する。簡単に説明すると、マイクロタイタープレートをポリクローナルモルモット抗ヒトADAMTS13 IgGでコーティングした後、ヒト血清アルブミンを含むブロッキング液で非特異的結合部位をブロッキングした。その後、試験サンプル、組換え標準サンプル、および品質管理サンプルを、1ウェルあたり100μLの総量でインキュベートした。数回の洗浄ステップの後、ポリクローナルウサギ抗ヒトADAMTS13抗体を添加し、続いてHRP結合ロバ抗ウサギIgGを添加し、さらにUltra TMB基質を添加して、特異的結合を検出した。1.9M H2SO4を添加して発色反応を停止させ、分光光度計で450nmおよび620nm(バックグラウンド補正)でODを読み取った。450nmにおけるODの増加は、サンプル中のADAMTS13抗原濃度に直接比例した。連続希釈され参照標準として使用された精製rADAMTS13の対照調製物を対照にして、サンプルを測定した。参照標準曲線を多項式回帰(2次)でフィットさせ、それから試験サンプルのADAMTS13抗原濃度を算出した。ADAMTS13抗原はμg/mLで表された。
【0285】
7.3 VWF活性アッセイ
実施例2のセクション7.1に記載したように、ZYMUTEST VWF:CBA(Hyphen BioMed,155,rue d’Eragny,F95000 Neuville-sur-Oise,フランス)の製品リーフレットに従ってVWF:CBAを実施した。
【0286】
7.4 VWF抗原アッセイ
実施例2のセクション7.2に記載したように、ASSERACHROM VWF:Ag(Diagnostica Stago,Asnieressur Seine,フランス)の製品リーフレットに従ってアッセイを実施した。
【0287】
7.5 VWFマルチマーアッセイ
実施例2のセクション7.3に記載したように、VWFのマルチマー構造を水平SDSアガロースゲル電気泳動で解析した。
【0288】
7.6 遊離ヘモグロビンアッセイ
実施例2のセクション7.4に記載したように、Abcam社(ab157707)が提供する市販のサンドイッチELISAにより、血漿サンプル中の遊離ヒトヘモグロビンを分析した。
【0289】
8.統計的手法
統計解析は、Graph PadPrism Version 7.03を用いて行った。一元配置分散分析(ANOVA)を用いてデータを解析し、0.05未満のp値を有する差が有意とみなされた。
【0290】
9.結果
9.1 動物の体重および年齢
指定の研究に使用したホモ接合型のTim Townes SSマウスは、Jackson Laboratories社から入手した。納入日(0週目)から開始した体重モニタリングに基づき、動物は平均体重の同様の増加を示し、平均年齢18~19週齢で探索的生存試験に含められた(表14を参照)。
【表14】
【0291】
実験遂行の過程において、3匹の動物(E37、F44、およびH52)の結果は、異常な表現型の所見(例えば、異常な血液学的プロファイル)を示した。これらの動物の死後のジェノタイピングは、ヘテロ接合型ハプロタイプが検出された。そのため、これらの動物はさらなる解析から除外した。
【0292】
9.2 7.0%酸素での実験
SHP655のin vivoでの有効性を7.0%の低酸素状態で調べた。この目的のために、1群あたり6匹のTim Townes SSマウスに、7.0%の酸素(O2)濃度への曝露を開始する1時間前に、300、1000または3000U/kgのSHP655を投与し、その後、21%のO2での1時間の回復期を設けた(試験群E~H)。低酸素期の間、個々の動物の障害を「運動性(Mobility)」と「呼吸数」という評価項目に焦点を当てて、熟練した専門家が継続的にモニターおよび記録した。決められた人道的エンドポイントに達した動物は安楽死させた。さらに、7.0%のO2の低酸素状態にした後、回復期の過程で発生したTim Townesマウスの行動症状を、SHIRPAガイドラインに基づく評価尺度に従って採点した。
【0293】
遊離ヘモグロビン、ADAMTS13およびVWFレベルの分析には、終末心臓穿刺で得られた血液サンプルを使用した。
【0294】
9.2.1 臨床症状および死亡率
全てのTim Townes SSマウスが、5時間の7.0%低酸素期の間に、評価した「運動性」および「呼吸数」パラメータの治療非依存的な重度の障害を示した。300IU/kgのSHP655で処置した1匹の動物は、人道的エンドポイントに達成したため安楽死させなければならなかった(
図11)。他の全ての動物は6時間の観察期間を生き延びた。また、1時間の回復期の間に、調べた全てのTim Townes SSマウスは、評価した「運動性」および「呼吸数」パラメータの改善を示し、3000IU/kgのSHP655で処置した全ての動物は完全に回復した。
【0295】
9.2.2 回復期における行動評価
7.0%の酸素に5時間暴露した後の回復期の後に、Tim Townes SSマウスのより包括的な行動評価を行った。この目的のために、SHIRPAガイドライン(数字が大きいほど症状が重い)に基づく評価尺度に従って動物を評価および採点した。痛みは鎌状赤血球クリーゼの際に患者が訴える最も一般的な症状の一つであることから、動物の痛み/病気の状態の独立した尺度として、立毛、アパシー、呼吸数、および目の状況を選択した(Ballas et al., Blood. 120(18):3647-56, 2012)。低酸素状態に数時間いた後に、マウスは餌や水を求めて動き回る必要性を感じると仮定して、回復の代理指標としてマウスの自発的な運動性を調べた。同様に、自発的な「逃避」反応として、刺激された運動性を評価した。
【0296】
全体として、行動スコアリングガイドを使用することにより、低酸素状態からの動物の回復に対するSHP655の効果の定量的測定を行うことができた(
図12)。特に、SHP655は、動物の回復に対して用量依存的効果を示すように思われた(300U/kg、p=0.051;1000U/kg、p<0.05;3000U/kg、p<0.01)。
【0297】
図13A~13Fは、単一行動項目の結果をまとめたものであり、いくつかのパラメータが他のパラメータよりも回復をより示すように見える。試験した動物で採点された全てのパラメータのうち、立毛(p<0.0001)および刺激された活動(p<0.001)が、低酸素状態からの回復の最良の単一予測因子であった(
図13Aおよび13F)。さらに、中用量(p<0.05)および高用量(p<0.01)のSHP655で処置されたマウスにおいて、呼吸が有意に改善された(
図13C)。さらに、統計的に有意な差は測定されなかったが、SHP655で処置されたTim Townes SSマウスにおいて、ビヒクル処置マウスと比較して、アパシー、および顔のゆがみ(grimace)(目の状況)のスコアが多少低下した。また、本研究では、単一エンドポイント観察としての自発的活動は有意差を示さなかった。
【0298】
9.2.3 血漿中の遊離ヘモグロビン
メーカーの指示に従って市販のELISAを用いて血漿中の遊離ヘモグロビンを分析した。
【0299】
遊離ヘモグロビンレベルの測定は、7.0%の低酸素チャレンジの後、SHP655で処置したTim Townes SSマウスとビヒクル群との間で有意差を示さなかった(
図14)。ただし、遊離ヘモグロビンの平均レベルは用量依存的にわずかに減少した。
【0300】
9.2.4 ADAMTS13活性および抗原
ADAMTS13活性および抗原レベルは、特異的FRETS活性アッセイおよびADAMTS13 ELISAを用いて測定した。
【0301】
SHP655でのTim Townes SSマウスの処置により、ADAMTS13の抗原および活性の血漿レベルが用量依存的に上昇した(
図15A-15B)。調査した中用量および高用量は、注射の6時間後にビヒクル群と有意に異なる平均活性レベルをもたらした(1000U/kg、p<0.05;3000U/kg、p<0.001)。
【0302】
9.2.5 VWF活性および抗原
VWF活性および抗原レベルは、ZYMUTEST VWF:CBA活性アッセイおよびASSERACHROM VWF:Ag ELISAを用いて測定した。
【0303】
図16A~16Cは、VWF活性および抗原の血漿レベル、ならびに2つの値の計算された比を表示する。ビヒクル群と比較して、SHP655で処置したTim Townes SSマウスは、中用量および高用量でVWF活性/抗原比の有意な低下を示した(p<0.05)が、VWFの総抗原濃度の違いは認められなかった。これらの結果は、超巨大VWFマルチマーの濃度低下を示唆するSCDにおけるSHP655の提案されている作用機序と合致する。
【0304】
9.2.6 VWFマルチマーの分析
さらに、VWFマルチマーのサイズ分布を水平1%SDSアガロースゲル電気泳動で分析した。サンプルは、VWF:Agの含有量に基づいて希釈された。
【0305】
試験群E~Hの個々のTim Townes SSマウスに由来する血漿サンプルの半定量的VWFマルチマー分析のゲルを
図17A~17Bに示す。ゲル分析は、対応するVWF活性/抗原値と合致しているように思われる。
【0306】
10.ディスカッションおよび結論
全てのTim Townes SSマウスは、7.0%のO2暴露の過程で、「運動性」および「呼吸数」に深刻な障害を示した。300IU/kgのSHP655で処置した1匹の動物は、5時間の7.0%低酸素期の間に安楽死させなければならなかった。
【0307】
全てのTim Townes SSマウスは、7.0%の低酸素チャレンジ後の回復期において、評価した「運動性」および「呼吸数」のパラメータの改善を示し、3000IU/kgのSHP655で処置した動物は完全に回復した。その後、SHIRPAガイドラインに基づく評価尺度に従う包括的な行動スコアリングを行ったところ、1000IU/kg(p<0.05)および3000IU/kg(p<0.01)のSHP655で処置した動物は、回復の有意な改善を示した。
【0308】
SHP655用量依存的な遊離ヘモグロビンレベルのわずかな低下が7.0%のO2に曝露した後に動物で生じた。血漿中のADAMTS13活性および抗原濃度の解析は、Tim Townes SSマウスが用量依存的な様式でSHP655に曝されたことを示した。7.0%の低酸素アプローチの動物から得られた血漿サンプルにおけるVWF活性および抗原レベルの測定は、1000U/kg(p<0.05)および3000IU/kg(p<0.05)のSHP655においてVWF活性/抗原比の有意な低下を示した。これらの知見は、SHP655で処置した後にTim Townes SSマウスの血漿中の超巨大VWFマルチマーのレベルが低下することを示す半定量的VWFマルチマー分析により確認された。
【0309】
結論として、SHP655は、1000IU/kgおよび3000IU/kgの用量で、7.0%のO2に曝露した後のTim Townes SSマウスの回復を有意に改善し、かつVWF活性/抗原比を低下させ、これは、提案されているSCDにおけるSHP655の作用機序と合致する。
【0310】
本研究は、VOC後の回復も、SCDのマウスにおける薬理学的有効性試験に情報を与えるために導入され得ることを示唆する。回復の読み出しは、SCDのヒト化マウスモデルにおいて、SHP655の用量依存的な有効性を実証した。
【0311】
本発明の実施のための特定の様式を含むことが見いだされまたは提案された特定の実施形態の観点から本発明を説明してきた。記載した発明の様々な修飾および変更が本発明の範囲および精神から逸脱せずに当業者に明らかになるであろう。本発明を特定の実施形態と関連させて説明してきたが、請求される本発明は、そのような特定の実施形態に不当に限定されるべきではないことを理解されたい。実際、本発明を実施するための記載された様式の様々な修飾は、関連分野の当業者に自明であり、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
【配列表】
【国際調査報告】