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特表2022-537755透明遮熱微粒子、微粒子分散体、その製法及び用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-29
(54)【発明の名称】透明遮熱微粒子、微粒子分散体、その製法及び用途
(51)【国際特許分類】
   C01G 41/00 20060101AFI20220822BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220822BHJP
   C08K 9/10 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
C01G41/00 A
C08L101/00
C08K9/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021575521
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(85)【翻訳文提出日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 CN2020102162
(87)【国際公開番号】W WO2021008563
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】201910647222.5
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510087966
【氏名又は名称】中国科学院上海硅酸塩研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金平 実
(72)【発明者】
【氏名】曹 遜
【テーマコード(参考)】
4G048
4J002
【Fターム(参考)】
4G048AA01
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB01
4G048AB04
4G048AB05
4G048AC08
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
4G048AE07
4J002AA001
4J002BB031
4J002BB061
4J002BE061
4J002BF031
4J002CF051
4J002CG001
4J002CM041
4J002DE166
4J002FB286
4J002FD206
4J002GA01
4J002GK01
4J002GL00
4J002GN00
4J002GP00
(57)【要約】
本発明は、透明遮熱微粒子、微粒子分散体、その製法及び用途を提供する。前記微粒子は、コアと、前記コアを被覆するシェルを含み、前記コアの材料は、化学式がMWO3-δのタングステンブロンズ構造に窒素をドープして得られる透明遮熱材料であり、そのうち、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素の中のいずれか1種以上の元素であり、0.1≦x≦1であり、Wはタングステン、Oは酸素で、0≦δ≦0.5であり、前記シェルは炭素で、シェルの厚さは1nm~10nmである。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル構造の透明遮熱微粒子において、
前記微粒子は、コアと、前記コアを被覆するシェルを含み、
前記コアの材料は、化学式がMWO3-δのタングステンブロンズ構造に窒素をドープして得られる透明遮熱材料であり、
そのうち、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素の中のいずれか1種以上の元素であり、0.1≦x≦1であり、
Wはタングステン、Oは酸素で、0≦δ≦0.5であり、
前記シェルは炭素で、シェルの厚さが1nm~10nmであることを特徴とする、
コアシェル構造の透明遮熱微粒子。
【請求項2】
前記透明遮熱材料の成分は一般式MWOで表され、
Nは窒素で、2.5≦y+z≦3であり、
zとyの比値は1/4以下であり、好適には1/10以下、より好適には1/20以下であることを特徴とする、請求項1に記載のコアシェル構造の透明遮熱微粒子。
【請求項3】
前記コアの粒径が1nm~100nmであることを特徴とする、請求項1または2に記載のコアシェル構造の透明遮熱微粒子。
【請求項4】
(1)タングステン源とM金属源の混合物を、窒素含有雰囲気を有する真空状態において450~750℃で2~8時間保温し、透明遮熱材料を取得し、得られた透明遮熱材料を透明遮熱微粒子に粉砕し、または、
ナノ酸化タングステン粉体とM金属源が均一に分散している溶液を撹拌して乾燥させ、前駆体を取得し、得られた前駆体を、窒素含有雰囲気を有する真空状態において400~700℃で1~8時間保温し、透明遮熱微粒子を得るステップと、
(2)透明遮熱微粒子と炭素源を120~180℃の温度下で1~24時間水熱反応させるステップと、
を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のコアシェル構造の透明遮熱微粒子の調製方法。
【請求項5】
前記タングステン源は、酸化タングステン、タングステン酸、タングステン酸アンモニウムの中から選択される少なくとも1種で、好適にはタングステン酸アンモニウムであり、
前記M金属源は、M元素の炭酸塩で、好適には炭酸セシウムであることを特徴とする、
請求項4に記載の調製方法。
【請求項6】
前記窒素含有雰囲気は、アンモニアガス、窒素ガスまたはその混合ガス、または上記のガスと水素ガスの混合ガスであることを特徴とする、請求項4または5に記載の調製方法。
【請求項7】
前記炭素源が、ショ糖、ブドウ糖、グリコーゲン、及びビタミンCの中から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項4~6のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項8】
ステップ(2)において、炭素源と透明遮熱微粒子の質量比が(1~20):100であることを特徴とする、請求項4~7のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項9】
請求項8に記載の透明遮熱微粒子が媒質中に分散して形成されることを特徴とする、透明遮熱微粒子分散体。
【請求項10】
前記媒質が、樹脂を含む液体、透明樹脂フィルム、透明樹脂フィルム板材、ガラス基材、化学繊維、ファブリックの中から選択される任意の1種であることを特徴とする、請求項9に記載の透明遮熱微粒子分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性ナノ新素材分野に属し、具体的にはコアシェル構造を有する透明遮熱無機ナノ粉体及び微粒子、透明遮熱透明樹脂複合材料微粒子分散体、その製法及び用途に関し、安定性が高く、製造しやすく、透明遮熱塗料、遮熱薄膜、遮熱ガラス、及び各種の光熱転換材料の応用分野に幅広く応用することができる。
【背景技術】
【0002】
太陽光の波長範囲は約300~2500nmであり、そのうち、可視光線の波長範囲は380~780nm、近赤外波長は780~2500nmである。建築物や車両のガラス部品では、比較的高い可視光線透過率が保持されると同時に、太陽光の近赤外線部分に対しては大幅な遮蔽が行われ、省エネ及び排出削減や、居住空間の快適性の向上に役立っている。
【0003】
農業分野では、気候の温暖化の継続的な激化に伴い、温室やフィルムカバー形式を用いる農作物は、暑さの厳しい季節に温度の上がりすぎにより生育が止まり、枯れてしまうことさえある。また、農業の労働力不足や高齢化により、作業環境にも一段と高い要求が出されている。
【0004】
一部の蓄熱保温材料分野、例えば蓄熱繊維やファブリック製品では、太陽光を吸収して遠赤外線熱輻射に変換することにより、人体や生物に対する高効率の蓄熱保温を実現することができる。
【0005】
よって、市場には、透明遮熱材料及び製品に対して、非常に大きな潜在的な需要がある。中でも、無機ナノ遮熱材料を樹脂と結合させて成る新型の透明赤外線遮熱塗料やフィルム、板材、繊維製品などは、市場規模や応用分野を徐々に拡大しているところである。
【0006】
従来の無機ナノ遮熱材料には、透明導電体材料(例えばITO、ATOなど)や六ホウ化ランタン(LaB)があるが、最近発見されたタングステンブロンズ構造(ドープタングステンブロンズ)を有する一連の透明遮熱材料は、その高い可視光線透過率や優れた遮熱蓄熱保温性能によって、広く関心を集めている。
【0007】
例えば、特許文献1では、性能の優れた酸化タングステン系透明遮熱材料の製法が公開されており、その材料は一般式MxWyOzを用いて表すことができ、そのうち、M元素はアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reの中の任意の1種以上である。
【0008】
同様に、特許文献2では、金属元素をドープしたタングステンブロンズ構造の遮熱ナノ粉体が公開されており、そのドープ元素は、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Bi、Se、Te、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、CuまたはZnの中の1種または数種の混合元素である。
【0009】
しかし、タングステンブロンズ構造の遮熱材料と樹脂により形成される遮熱製品、例えば遮熱合わせフィルムや合わせガラスは、使用の過程で光学性能の安定性が不足しているという問題が見つかっており、使用時間の増加に伴って様々な度合いで光学性能の変化や劣化が現れており、具体的には、紫外線照射下での部分的な変色や、湿熱環境の中での製品の辺縁の退色などがある。
【0010】
詳細な研究結果から(非特許文献1~4参照)、性能劣化のメカニズムとは、金属ドープタングステンブロンズ構造の微粒子(例えばセシウムタングステンブロンズCWO)は、樹脂と形成する複合材料(例えばPET遮熱フィルム)において、CWO粒子表面にセシウムの欠落が発生し、かつ水素元素と反応することで可逆的な光変色(着色)が発生し、または湿熱環境でCWO粒子表面が酸化することで性能の失効(退色)が引き起こされるというものであることがわかっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005-187323号公報
【特許文献2】中国特許出願公開第107200357号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】K.Adachi,Y.Ota,H.Tanaka,M.Okada,N.Oshimura,A.Tofuku,Chromaticinstabilities in cesium-doped tungsten bronze nanoparticles,J.Appl.Phys.114(19)(2013)11.
【非特許文献2】Yunxiang Chen,Xianzhe Zeng,Yijie Zhou,Rong Li,Heliang Yao,Xun Cao,Ping Jin,Core-shell structured CsxWO3-ZnO with excellent stability and highperformance on near-infrared shielding,Ceramics International 44(2018)2738-2744.
【非特許文献3】Yijie Zhou,Ning Li,Yunchuan Xin,Xun Cao,Shidong Ji and Ping Jin,CsxWO3 nanoparticle-based organic polymer transparent foils:lowhaze,high near infraredshielding ability and excellent photochromicstability,J.Mater.Chem.C,2017,5,6251-6258.
【非特許文献4】Xianzhe Zeng,Yijie Zhou,Shidong Ji,Hongjie Luo,Heliang Yao,Xiao Huang and Ping Jin,The preparation of a high performance nearinfrared shielding Cs xWO3/SiO2 composite resin coating and research on its optical stability under ultraviolet illumination,J.Mater.Chem.C,2015,3,8050-8060.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、性能が安定している新型ドープタングステンブロンズ系遮熱材料を提供し、材料及び樹脂製品の光学性能の不安定さという問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、同種の金属ドープタングステンブロンズ構造、例えばセシウムタングステンブロンズに対して、セシウム元素を含むタングステン酸素ネットワーク結晶構造の格子定数を減らすことにより、セシウムイオンとネットワーク格子定数のサイズ比を高めることで、セシウムイオンの漏出を有効に制限し、材料の安定性を高めることができることを発見した。
【0015】
また、従来のドープタングステンブロンズ構造はバンドギャップが比較的大きく、つまり紫外線に対する遮蔽能力が比較的低い。紫外線の照射量が多すぎると、遮熱樹脂製品の遮熱能力や寿命に不利であり、紫外線遮蔽添加剤を加えすぎると、コストの増加や工学及び機械性能の低下が発生する。
【0016】
よって、ドープタングステンブロンズ構造のバンドギャップを小さくすることにより、吸収端の赤方偏移を実現することで、構造の紫外線吸収率を増加させ、紫外線遮蔽効率を高めると同時に、遮熱樹脂中で光着色により生じる色の変化を有効に抑制しているのである。
【0017】
これにより、本発明者は、格子定数の減少と吸収端の赤方偏移を同時に実現することができる新しい窒素ドープタングステンブロンズ構造を設計した。
【0018】
窒素ドープタングステンブロンズナノ粒子の抗酸化性を最大限に高めるために、発明者はさらに、コアシェル構造を設計して、本発明を完成させた。
【0019】
まず、本発明ではコアシェル構造の透明遮熱微粒子を提供しており、前記微粒子は、コアと、前記コアを被覆するシェルを含み、前記コアの材料は、化学式がMWO3-δのタングステンブロンズ構造に窒素をドープして得られる透明遮熱材料であり、そのうち、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素の中のいずれか1種以上の元素であり、0.1≦x≦1であり、Wはタングステン、Oは酸素で、0≦δ≦0.5であり、前記シェルは炭素で、シェルの厚さは1nm~10nmである。
【0020】
本発明に基づき、まず従来の金属ドープタングステンブロンズ構造に対して窒素ドープを行い、窒素ドープ金属タングステンブロンズの新構造を得る。ドープした窒素が酸化タングステン骨格に入り、その中の一部の酸素に取って代わると、格子の異常が生じ、格子定数を小さくする。ドープ金属イオン(例えばセシウム)は配位空隙の中から漏出しにくいので、構造の安定性が増加する。
【0021】
それと同時に、窒素ドープ及びその酸素に対する部分的な入替が、もとの結晶構造のバンドギャップを変更し、吸収端を赤方偏移させ、紫外線の遮蔽性能を高めるので、日射の遮蔽に役立つ。
【0022】
さらに、窒素ドープ金属タングステンブロンズ微粒子(透明遮熱材料微粒子)に対して炭素コーティングを行って、コアシェル構造を形成する。Cシェルの厚さは1nm~10nmである。該厚さのCシェルのコーティングにより、窒素ドープ金属タングステンブロンズ材料の化学安定性をさらに高めることができ、しかも微粒子の透明性に対しては影響を与えすぎない。
【0023】
好適には、前記コアの粒径は1nm~100nmである。
【0024】
好適には、前記透明遮熱材料の成分は、一般式MxWOyNzで表され、Nは窒素で、2.5≦y+z≦3である。
【0025】
好適には、0.001≦z≦0.5である。
【0026】
好適には、zとyの比値は1/4以下で、1/10以下が好ましく、より好適には1/20以下である。
【0027】
第二に、本発明では、上記のいずれかのコアシェル構造透明遮熱微粒子の調製方法を提供しており、
(1)タングステン源とM金属源の混合物を、窒素含有雰囲気を有する真空状態において450~750℃で2~8時間保温し、透明遮熱材料を取得し、得られた透明遮熱材料を透明遮熱微粒子に粉砕し、または、
ナノ酸化タングステン粉体とM金属源が均一に分散している溶液を撹拌して乾燥させ、前駆体を取得し、得られた前駆体を、窒素含有雰囲気を有する真空状態において400~700℃で1~8時間保温し、透明遮熱微粒子を得るステップと、
(2)透明遮熱微粒子と炭素源を120~180℃の温度下で1~24時間水熱反応させるステップと、を含む。
【0028】
好適には、前記タングステン源は、酸化タングステン、タングステン酸、タングステン酸アンモニウムの中から選択される少なくとも1種で、好適にはタングステン酸アンモニウムである。
【0029】
好適には、前記M金属源はM元素の炭酸塩であり、好適には炭酸セシウムである。
【0030】
好適には、前記窒素含有雰囲気は、アンモニアガス、窒素ガスまたはその混合ガス、または上記のガスと水素ガスの混合ガスである。
【0031】
好適には、前記炭素源は、ショ糖、ブドウ糖、グリコーゲン、及びビタミンCの中から選択される少なくとも1種である。
【0032】
好適には、ステップ(2)において、炭素源と透明遮熱微粒子の質量比は(1~20):100である。
【0033】
第三に、本発明では透明遮熱微粒子分散体を提供しており、これは上記の透明遮熱微粒子を媒質中に分散させて形成したものである。
【0034】
好適には、前記媒質は、樹脂を含む液体、透明樹脂フィルム、透明樹脂フィルム板材、ガラス基材、化学繊維、ファブリックの中から選択される任意の1種である。
【0035】
前記媒質は、樹脂やガラス、エアロゲルなどの様々な透明体の中から選択することができる。そのうち、樹脂類媒質は透明度が高く、形式が多様で、加工がしやすい。前記媒質は、好適には各種の樹脂類媒質であり、透明度のかなり高い樹脂媒質、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、EVA(エチレン-酢酸ビニルコポリマー)、PVB(ポリビニルブチラール)、PI(ポリイミド)、PC(ポリカーボネート)などが望ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明に基づいて、性能の安定した透明遮熱微粒子と透明遮熱微粒子分散体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の実施形態における窒素ドープセシウムタングステンブロンズ粉体のXRD回折スペクトルである。
図2】本発明の実施形態における窒素ドープセシウムタングステンブロンズ粉体の透過型電子顕微鏡写真である。
図3】本発明の実施形態における炭素コーティング窒素ドープセシウムタングステンブロンズ粉体の透過型電子顕微鏡写真である。
図4】本発明の実施形態における窒素ドープセシウムタングステンブロンズ粉体の走査電子顕微鏡写真である。
図5】本発明の実施形態における遮熱合わせガラスの透過率スペクトルである。
図6】本発明の実施形態におけるPET遮熱フィルムの透過型電子顕微鏡写真である。
図7】本発明の実施形態におけるPET遮熱フィルムの分光透過率曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下では、下記の実施形態を通して本発明についてさらに説明するが、下記の実施形態は本発明の説明に用いられるものであって、本発明を限定するものではないことを理解しておかなければならない。
【0039】
本発明の実施形態におけるコアシェル構造の透明遮熱微粒子は、コアと、前記コアを被覆する炭素シェルを含み、前記コアの材料は、化学式がMWO3-δのタングステンブロンズ構造に窒素をドープして得られる透明遮熱材料である。
【0040】
そのうち、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素の中のいずれか1種以上の元素であり、0.1≦x≦1であり、Wはタングステン、Oは酸素で、0≦δ≦0.5である。
【0041】
いくつかの実施形態において、透明遮熱材料の成分は、一般式MWOで表され、Nは窒素で、2.5≦y+z≦3である。コアシェル構造の透明遮熱微粒子の成分は、一般式MxWOyNz-Cで表される。コアシェル構造中のMWOがコア、Cがシェルである。
【0042】
ドープタングステンブロンズ構造の安定性はドープ元素のイオン半径と関係しており、例えばアルカリ金属ドープタングステンブロンズ構造では、アルカリ金属イオンの半径が大きいほど構造は安定する。よって、Mがアルカリ金属を含む場合、前記アルカリ金属は、好適にはセシウムである。
【0043】
Nをドープする前のタングステンブロンズ構造は、酸素欠乏状態であってよい。Nをドープすると、NがOの位置と置き換わることができ、また酸素の空所を占拠することもできる。いくつかの実施形態では、y+x≧3-δである。
【0044】
適量の窒素ドープはタングステンブロンズの性能をある程度引き上げるが、大量のドープは工程上での困難があり、ドープ量が多すぎると、結晶構造が過度に変形し、安定性に影響が出る。よって、ドープ後の窒素酸素比(即ちz/y)は1/4を超えない方がよく、好適には1/10を超えず、より好適には1/20を超えない。また、ドープ後の窒素酸素比(即ちz/y)は、好適には1/100以上であり、これによってタングステンブロンズ性能の向上を確保することができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、0.001≦z≦0.5である。
【0046】
コアの粒径は、1nm~100nmであってよい。該粒径範囲内にある時は可視光線に対して散乱は生じず、製品のかすみ度を減らし、透明性を高めることに役立つ。
【0047】
Cシェルの厚さは1nm~10nmであってよい。上記の厚さの範囲内で、Cシェルは透明であり、炭素コーティングは微粒子の化学安定性を強化するだけでなく、微粒子の透明性に対しては影響を与えすぎない。
【0048】
上記のコアシェル構造の透明遮熱微粒子を媒質中に分散させることで、透明遮熱微粒子分散体を形成することができる。前記媒質は透明体であってよい。
【0049】
いくつかの実施形態では、透明遮熱微粒子を樹脂を含む液体中に均一に分散させて、水性または溶剤性の透明遮熱塗料を得ることができる。
【0050】
透明遮熱塗料をベース上に塗布することで、透明遮熱塗膜を得ることができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、透明遮熱微粒子をガラス基材に均一に分散させ、または塗布することで、透明遮熱ガラスを得ることができる。
【0052】
いくつかの実施形態では、透明遮熱微粒子を透明樹脂フィルム(例えばPET、PE、PI、PVBまたはEVA)、または樹脂板材(PC)に均一に分布させることで、透明遮熱フィルムまたは板材製品を得ることができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、透明遮熱微粒子を化学繊維(例えばポリエステル繊維、ナイロン、アクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ビニロン、スパンデックス、ポリオレフィン弾性糸など)の中に均一に分散させることで、蓄熱保温繊維やファブリック(衣類、布団、詰物など)製品を得ることができる。
【0054】
以下では、本発明の実施形態のコアシェル構造透明遮熱微粒子の調製方法について例を挙げて説明する。
【0055】
まず、透明遮熱微粒子を調製する。
【0056】
いくつかの実施形態では、タングステン源とM源(Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素の中の任意の1種以上の元素)の混合物を、窒素含有雰囲気を有する真空状態下で熱処理し、透明遮熱材料を得た後、得られた透明遮熱材料を粉砕して透明遮熱微粒子にする。
【0057】
タングステン源(タングステン元素を含む原料)は、タングステン元素と酸素元素を同時に含む物質、例えば酸化タングステン、タングステン酸、タングステン酸アンモニウムなどの中から選択できる少なくとも1種であることが望ましく、さらに、窒素元素を含む物質、例えばタングステン酸アンモニウムがより望ましい。タングステン元素と酸素が結合すると、合成過程でタングステンブロンズ構造の結晶骨格が形成され、かつ骨格の多面体の空所にドープ元素が導入されて、赤外線の吸収が生じる。タングステン酸アンモニウムにはアンモニウム根、即ち窒素元素が含まれており、スタート原料中に存在する窒素元素が、窒素のドープに有利に働く。しかも、タングステン酸アンモニウムは水中での溶解度が高く、原料の均一な混合及び化学反応にも有利である。
【0058】
M源(M元素を含む原料)は、M元素の炭酸塩、塩化物、硫酸塩、及び有機酸塩など、上記のM以外の金属を含まない塩類から選択することができる。M元素がアルカリ金属である場合、M源は好適にはアルカリ金属の炭酸塩であり、炭酸塩は価格が安く、品質が良く、水中での溶解度が高いので、高濃度のイオン分散液を形成し、原料の均一な混合及び化学反応の実現を促すことができる。より好適な実施形態では、M源は炭酸セシウムであり、それは、タングステン酸セシウム中のセシウム元素イオンは半径が大きく、比較的高い安定性を有しているからである。
【0059】
タングステン源とM源を均一に混合し、混合物を得る。その方法としては、タングステン源とM源を直接均一に混合してもよいし、タングステン源とM源でそれぞれ溶液を作り、その溶液を均一に混合してから、混合溶液を乾燥させてもよい。
【0060】
得られた混合液を反応装置内に配置する。反応装置は、好適には回転炉のような動的反応装置であり、それにより反応がより充分で、均一になる。反応装置を真空にした後、窒素元素を含む気体、例えばアンモニアガス、窒素ガスまたはその混合ガスを注入し、または需要に応じて上記のガスの中に水素ガスを加えて還元性混合ガスを形成する。ガスの総流量は10~1000標準ミリリットルであってよい。窒素元素を含むガスと水素ガスの体積比は、(1~99):(99~1)であってよい。反応装置の真空状態を保ち、かつ室温から450~750℃まで加熱して、2~8時間保温する。該プロセスでは、回転炉を開放することが望ましい。
【0061】
加熱プロセスの終了後、炉を回転状態に保持したまま室温付近まで冷却し、反応生成物を取り出して、透明遮熱材料を得る。
【0062】
得られた透明遮熱材料を、例えば100nm以下まで粉砕し、透明遮熱微粒子を得る。
【0063】
粉砕方法としては、例えば透明遮熱材料と水を混合してサンドミルに投入し、粉砕することができる。
【0064】
いくつかの実施形態では、タングステン源のナノ粉体を原料として、ナノサイズの透明遮熱微粒子を直接獲得するので、粉砕を行う必要はない。
【0065】
タングステン源のナノ粉体は、好適にはナノ酸化タングステン粉体であり、その粒径は好適には100ナノメートル以下、より好適には50ナノメートル以下である。
【0066】
M源は上記の通りでよいので、ここでは繰り返し述べない。
【0067】
M源を溶剤に溶かして溶液を調製する。採用する溶剤は、水、アルコール、エーテルの中から選択される少なくとも1種であってよく、好適にはメタノールまたはエタノールであり、揮発しやすいので乾燥効率の引き上げに役立つ。揮発したアルコールは回収システムを通して再利用されるので、環境負荷が減少する。
【0068】
タングステン源ナノ粉体をM源溶液中に分散させ、均一に混合し、一定時間、例えば5~120分間撹拌した後、乾燥させて、ナノ前駆体を得る。
【0069】
得られたナノ前駆体を反応装置内に配置する。反応装置は、好適には回転炉のような動的反応装置であり、それにより反応がより充分で、均一になる。反応装置を真空にした後、窒素元素を含む気体、例えばアンモニアガス、窒素ガスまたはその混合ガスを注入し、または需要に応じて上記のガスの中に水素ガスを加えて還元性混合ガスを形成する。ガスの総流量は毎分10~1000標準ミリリットルであってよい。窒素元素を含むガスと水素ガスの体積比は、(1~99):(99~1)であってよい。反応装置の真空状態を保ち、かつ室温から400~700℃まで加熱して、1~8時間保温する。該プロセスでは、回転炉を開放することが望ましい。
【0070】
加熱プロセスの終了後、炉を回転状態に保持したまま室温付近まで冷却し、反応生成物を取り出して、ナノサイズの透明遮熱粒子を得る。
【0071】
その後、透明遮熱微粒子に対して炭素コーティングを行う。ある実施形態では、透明遮熱微粒子と炭素源を水熱反応釜に投入し、120~180℃の温度下で1~24時間保温して、透明遮熱微粒子の表面に炭素コーティングを形成する。
【0072】
炭素源は、好適には水溶性炭素源、例えばショ糖、ブドウ糖、グリコーゲン、ビタミンCの中から選択される1種以上であってよい。これにより、透明遮熱微粒子の表面に、均一な被覆構造が形成される。
【0073】
炭素源と透明遮熱微粒子の質量比は、(1~20):100であってよい。シェルの厚さは添加量及び反応時間に関係している。該反応比率では、シェルの厚さを1~10nmにすることができ、この厚さ条件であれば、構造の光学性能に影響せず、また獲得した構造の安定性も向上させることができる。
【0074】
本発明の実施形態では、タングステンブロンズ結晶を形成する前に、窒素元素含有雰囲気の真空状態下で加熱を行い、室温から加熱し始めて最高温度に到達させ、一定時間保持し、冷却過程では常に窒素元素含有雰囲気及び真空状態を保持しているので、十分な窒素ドープを実現しやすい。一旦、タングステンブロンズ結晶が形成されてしまうと、再びタングステンブロンズ結晶に窒素含有雰囲気で熱処理を行っても、十分な窒素ドープを実現することは難しく、たとえ一定のドーピングがあったとしても、同様の熱処理条件下では、そのドープ量は本発明よりはるかに少ない。
【0075】
以下では、さらに実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。以下の実施例は本発明に対するさらなる説明に用いているにすぎず、本発明の保護範囲に対する限定と理解することはできないことを同様に理解しておかなければならない。当業者が本発明の上記の内容に基づいて行う非本質的な改良や調整は、いずれも本発明の保護範囲に属する。以下の具体的な工程パラメータなどの例示も、適切な範囲内の例のひとつであり、当業者は本文の説明を通して適切な範囲内で選択を行うことができ、下記に例示する具体的な数値を限定しているわけではない。
【0076】
[実施例1]
0.652kgの炭酸セシウムと、3.132kgのパラタングステン酸アンモニウムを混合し、容積が50Lの回転加熱炉に投入し、炉口を閉め、真空ユニットを用いて真空にした後、アンモニアガスを注入し、その流量を100SCCM(標準ミリリットル毎分)に保持し、かつ合成過程全体において一定の真空状態を保持する。炉の回転装置を起動させ、2時間以内に室温から750℃まで温度を上げ、その温度で4時間保温する。加熱を停止し、炉の温度を室温付近まで自然冷却する。回転炉の炉口を開けて材料を出し、所定のセシウムタングステンブロンズ粉体を得る。
【0077】
粉末のXRD測定によると、得られた粉体は単相のセシウムタングステンブロンズ結晶構造を有している(図1)。XRS回折ピークをさらに詳細に比較分析し、理論配合比の六方晶セシウムタングステンブロンズ(Cs0.33WO)の回折ピークと較べると、その回折ピークの位置は高角度に向かってやや偏移しており(例えば、27.8°付近に位置する(200)格子回折位置が高角度の方に約0.2°偏移している)、窒素ドープにより生じた格子定数の異常により引き起こされたと考えることができる。
【0078】
上記の反応プロセスは、以下の反応式で表すことができる。
(NH10(H1242)・4HO+CsCO+NH→Cs0.33WO:N+NH+H
反応過程で徐々に生成される水分などは、加熱の初期段階で徐々に真空から排出される。窒素含有原料及びアンモニア雰囲気中の窒素元素は、室温からセシウムタングステンブロンズ格子の形成反応プロセスに投入され、徐々に温度を上げて加熱処理した後、最終的に窒素ドープセシウムタングステンブロンズ結晶構造が形成される。
【0079】
上記の調製プロセスによって窒素ドープを実現する主な理由は次の通りである。1)窒素含有タングステン源、例えばタングステン酸アンモニウムを採用する、2)セシウムタングステンブロンズ結晶を形成する前に、窒素含有雰囲気で加熱を行い、窒素をセシウムタングステンブロンズの形成過程で常に反応物として存在させ、タングステンブロンズ格子の形成に係わらせる、3)加熱、保温及び冷却の過程で、常に反応物を一定の真空状態下の窒素含有雰囲気内に保持し、窒素元素の漏出を防止する。セシウムタングステンブロンズ結晶が一旦形成されてしまうと、窒素ドープを試みようとして、例えばセシウムタングステンブロンズ結晶粉体に窒素含有雰囲気下で熱処理を行っても、十分な窒素ドープを実現することは難しい。
【0080】
図2は、得られた窒素ドープセシウムタングステンブロンズ粉体の透過型電子顕微鏡写真であり、粉体は粒径~数百ナノメートルの粒子状を呈している。
【0081】
200グラムの上記窒素ドープセシウムタングステンブロンズ粉体を取り、6000mlの脱イオン水と25グラムのショ糖(漢方薬分析純度)とともに横型ロッドピン構造のサンドミルに投入して24時間研磨し、分散液を取り出して、容積10リットルのステンレス製磁気撹拌水熱反応容器に入れ、密封し、180℃で12時間加熱して水熱反応を行い、かつ冷却後、反応沈殿物を濾過、洗浄して乾燥させ、所定の炭素コーティング窒素ドープセシウムタングステンブロンズナノ粉体を得る。
【0082】
図3の(a)は、炭素コーティング窒素ドープセシウムタングステンブロンズナノ粉体の透過型電子顕微鏡写真であり、その平均粒径は約20nmである。図3の(b)は、その中の1つの炭素コーティング窒素ドープセシウムタングステンブロンズナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真であり、その中の炭素コーティング層の厚さは約3nmである。
【0083】
[実施例2]
0.325kgの炭酸セシウムをメタノールに完全に溶かし、炭酸セシウムメタノール溶液を得る。1.391kgのナノ酸化タングステン(市販のWO、平均粒径50nm)を該溶液に投入し、撹拌して乾燥させ、セシウムタングステンブロンズ前駆体を得る。得られたセシウムタングステンブロンズ前駆体を50Lの回転炉に投入し、炉口を閉め、真空ユニットで真空にしてから、窒素ガスと水素ガス(7:3)の混合ガスを注入し、その総流量を100SCCMに保ち、合成過程全体において炉内を一定の真空度に保持する。炉の回転装置を起動させ、2時間以内に室温から500℃まで温度を上げ、その温度下で8時間保温する。加熱を停止し、炉の温度を室温付近まで自然冷却する。回転炉の炉口を開けて材料を出し、所定の窒素ドープセシウムタングステンブロンズ粉体を得る。
【0084】
粉末のXRD分析から、得られた粉体は単相のセシウムタングステンブロンズ結晶構造を有しており、そのXRDスペクトルは図1と類似していることがわかった。上記の反応プロセスは、以下の反応式で表すことができる。
CsCO+CHOH+WO+N+H→Cs0.33WO:N+N+H+CO
【0085】
図4は、得られた粉体の走査電子顕微鏡写真であり、粉体は平均粒径が約60nmの窒素ドープセシウムタングステンブロンズナノ結晶により構成されており、その形状と粒径分布はタングステン含有原料のナノ酸化タングステンと近似している。ナノ酸化タングステンを原料として採用し、セシウムイオンアルコール溶液を用いて均一に分散させ、比較的低い温度で熱処理を行っているので、得られた窒素ドープセシウムタングステンブロンズナノ粉体は、基本的にもとのナノサイズを保持している。このような調製方法では、粉砕工程を加えることなく、ナノ粉体を直接使用してナノ遮熱製品を得ることができる。
【0086】
200グラムの上記窒素ドープセシウムタングステンブロンズナノ粉体を取り、6000mlの脱イオン水と、20グラムのビタミンC(漢方薬分析純度)とともに容積10リットルのステンレス製磁気撹拌水熱反応容器に入れて密封し、160℃で6時間加熱し、冷却後、反応沈殿物を濾過、洗浄して乾燥させ、所定の炭素コーティング窒素ドープセシウムタングステンブロンズナノ粉体を得る。
【0087】
[実施例3]
実施例2で得られた窒素ドープセシウムタングステンブロンズナノ粉体200gと15kgの可塑剤(3G8)を撹拌機で均一に混合し、混合液を35kgのPVB粉末に漏斗で徐々に加え、横型混合機内で充分に混合した後、二軸式押出機によって160℃の温度下で可塑化させ、押出成形により窒素ドープセシウムタングステンブロンズナノ粒子を含むPVB遮熱中間膜(0.38mm×1m×100m)を得る。
【0088】
[実施例4]
実施例3で得られたPVB遮熱中間膜を適量取って、2枚のガラス(3mm×30mm×30mm)の間に配置し、加熱台上に置き、95℃の加圧条件下で一定時間保持し、温度が下がってからPVB遮熱合わせガラスを得る。
【0089】
分光光度計を利用して実施例4で得られた遮熱合わせガラス(N-CWO)の光学的透過率の測定を行い、かつ窒素ドープを行っていないセシウムタングステンブロンズナノ粉体(加熱過程で水素ガスのみを使用し、窒素ドープを行わないことを除き、その製法は実施例2と同じ)を使用して、実施例3、4で同様の手段で得たセシウムタングステンブロンズ遮熱合わせガラス(CWO)との比較を行った。その結果は図5に示す通りである。
【0090】
図5に示すように、窒素ドープセシウムタングステンブロンズを使用した遮熱合わせガラスは、比較的高い赤外線遮蔽率を有しており、吸収端の部分的な赤方偏移も実現している。
【0091】
[実施例5]
図5に示す2枚の遮熱合わせガラスを高温多湿(90℃/90%相対湿度)の実験箱に入れ、24時間ごとに取り出して、その透過率スペクトルを測定し、図5のもとのスペクトルと比較した。
【0092】
比較結果から、CWO合わせガラスは、24時間放置した後、その透過率は約2%増加しているが、N-CWO合わせガラスは、72時間放置した後も、その透過率は0.5%しか増加しなかったことがわかる、前述のように、透過率の増加は、セシウムタングステンブロンズ粒子表面の酸化によるセシウム原子の漏出によるものである。よって、窒素ドープにより、セシウムタングステンブロンズ粒子の抗酸化性が増していることは明らかである。
【0093】
[比較例1]
CsとWのモル比0.33に基づいて炭酸セシウム及びタングステン酸100gを計量し、自動乳鉢で充分に混合した後、還元雰囲気(Ar:H2=97:3体積比)中で、まず600℃で120分加熱し、反応物が室温まで冷却されてから、再び純Ar雰囲気中で800℃まで温度を上げ、60分保温して、セシウムタングステンブロンズ生成物を得る。XRD測定の結果、Cs0.33WO六方晶構造を有しており、その27.8°付近に位置する(200)格子回折位置は理論値と一致している。
【0094】
上記の反応は、以下の反応式で記述することができる。
CsCO+HWO+H→Cs0 .33WO+HO+CO
上記で得られた粉体を、流量500ミリリットル/分のNH雰囲気中で、450℃の条件下で60分加熱し、セシウムタングステンブロンズ粉体生成物を得る。XRD測定によると、その27.8°付近に位置する(200)格子回折位置は、高角度の方にやや偏移しており、その偏移量は約0.05°であり、後続の熱処理後のセシウムタングステンブロンズに窒素ドープが生じていることを表しており、その反応式は以下の式で表すことができる。
Cs0.33WO+NH→Cs0.33WO:N+NH(加熱温度450℃)
但し、実施例1及び2で、反応物前駆体を窒素含有真空中で室温から加熱した情況と較べて、そのXRD回折ピークの偏移の度合いはかなり小さく、これは、比較例1の窒素のドープ量が実施例1及び2の窒素ドープ量よりはるかに少ないことを意味している。
【0095】
比較例1で得られたセシウムタングステンブロンズ生成物を、実施例4と同じ方法で遮熱合わせガラスにし、実施例5と同じ方法でテストを行った。その結果から、72時間放置した後の遮熱合わせガラスの透過率が1.2%増加していることがわかる。
【0096】
[実施例6]
実施例1で得られた炭素コーティング窒素ドープセシウムタングステンブロンズ粉体、分散剤及びポリマーマスターバッチキャリアを、高速混合機で充分に均一に撹拌した後、均一に撹拌した撹拌物を二軸式押出機によって250℃~280℃の温度下で混合し、溶融して押し出し、PETナノ遮熱マスターバッチを得る。
【0097】
分散剤は3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)であり、採用しているキャリアポリマーはポリエチレンテレフタレート(PET)であり、そのうち、炭素コーティング窒素ドープセシウムタングステンブロンズ粉体、分散剤及びキャリアポリマーPETの質量比は1:0.1:8.9である。
【0098】
得られたPETナノ遮熱マスターバッチを、適当な割合でPET原料に配合し、二軸牽引により遮熱PET薄膜を形成する。その透過型電子顕微鏡写真は図6の通りであり、ナノ粉体がPET内でナノ分散状態を形成している。
【0099】
分光スペクトル計により遮熱フィルムの透過率を測定した。結果は図7の通りである。フィルムの可視光線区間の透過率は75%を上回り、赤外線の遮蔽率は90%近くあった。
【0100】
遮熱膜を市販の耐照射試験機に入れ、国家標準の規定条件下で1000時間の紫外線照射を行った後、取り出して、分光透過率を測定し、かつ未照射試料との比較を行った。その結果は図7の通りである。
【0101】
1000時間に及ぶ紫外線強化試験の後、炭素コーティング窒素ドープセシウムタングステンブロンズ粉体を利用して調製した遮熱フィルムは、その性能に劣化はほとんど見られなかった。
【0102】
[実施例7]
実施例2で得られた炭素コーティング窒素ドープセシウムタングステンブロンズナノ粉体100g、分散剤2g及びトルエン200gをサンドミルに投入し、回転速度2600r/分で5時間保持し、取り出して、炭素コーティング窒素ドープセシウムタングステンブロンズナノ分散液を得る。
【0103】
上記の分散液25gを取り、75gのシリコーン樹脂と、4gの重合防止剤と、1gのBYK-385Nを均一に混合し、分散液Aを得る。
【0104】
トルエン50gを取り、10gの紫外線吸収剤と5gの安定剤を加えて均一に溶かし、分散液Bを得る。
【0105】
材料Aと材料Bを均一に混合し、透明な遮熱塗料を得る。スプレーやナイフコーティングなどの方法で透明基材(ガラスや高分子)に塗布し、硬化後、透明遮熱ガラスまたは透明遮熱被覆板材を得る。
【0106】
[実施例8]
実施例2で得られた炭素コーティング窒素ドープセシウムタングステンブロンズナノ粉体100g、分散剤(3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES))、キャリアポリマーのポリアミド6樹脂(PA6)を、質量比1:0.1:8.9で配合し、高速混合機で充分に均一に撹拌した後、二軸式押出機によって220℃~250℃の温度下で混合し、溶融して押し出し、蓄熱保温マスターバッチを得る。
【0107】
得られた蓄熱保温マスターバッチと繊維基体ポリマーを2:8の質量比で混ぜ、押出機によって240℃の温度下で押し出してフィラメントを作り、巻取機を使用して3500m/分の巻取速度でフィラメントを巻き取って、110D/48Fの半延伸糸を得る。最後に、摩擦式延伸仮撚り機で該半延伸糸を70D/48Fの一般的な蓄熱保温ナイロン繊維にする。
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2021-12-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル構造の透明遮熱微粒子において、
前記微粒子は、コアと、前記コアを被覆するシェルを含み、
前記コアの材料は、化学式がMWO3-δのタングステンブロンズ構造に窒素をドープして得られる透明遮熱材料であり、
そのうち、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素の中のいずれか1種以上の元素であり、0.1≦x≦1であり、
Wはタングステン、Oは酸素で、0≦δ≦0.5であり、
前記シェルは炭素で、シェルの厚さが1nm~10nmであることを特徴とする、
コアシェル構造の透明遮熱微粒子。
【請求項2】
前記透明遮熱材料の成分は一般式MWOで表され、
Nは窒素で、2.5≦y+z≦3であり、
zとyの比値は1/4以下であり、好適には1/10以下であることを特徴とする、請求項1に記載のコアシェル構造の透明遮熱微粒子。
【請求項3】
前記コアの粒径が1nm~100nmであることを特徴とする、請求項1または2に記載のコアシェル構造の透明遮熱微粒子。
【請求項4】
(1)タングステン源とM金属源の混合物を、窒素含有雰囲気を有する真空状態において450~750℃で2~8時間保温し、透明遮熱材料を取得し、得られた透明遮熱材料を透明遮熱微粒子に粉砕し、または、
ナノ酸化タングステン粉体とM金属源が均一に分散している溶液を撹拌して乾燥させ、前駆体を取得し、得られた前駆体を、窒素含有雰囲気を有する真空状態において400~700℃で1~8時間保温し、透明遮熱微粒子を得るステップと、
(2)透明遮熱微粒子と炭素源を120~180℃の温度下で1~24時間水熱反応させるステップと、
を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のコアシェル構造の透明遮熱微粒子の調製方法。
【請求項5】
前記タングステン源は、酸化タングステン、タングステン酸、タングステン酸アンモニウムの中から選択される少なくとも1種であり、
前記M金属源は、M元素の炭酸塩であることを特徴とする、
請求項4に記載の調製方法。
【請求項6】
前記窒素含有雰囲気は、アンモニアガス、窒素ガスまたはその混合ガス、または上記のガスと水素ガスの混合ガスであることを特徴とする、請求項4または5に記載の調製方法。
【請求項7】
前記炭素源が、ショ糖、ブドウ糖、グリコーゲン、及びビタミンCの中から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項4~6のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項8】
ステップ(2)において、炭素源と透明遮熱微粒子の質量比が(1~20):100であることを特徴とする、請求項4~7のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項9】
請求項8に記載の透明遮熱微粒子が媒質中に分散して形成されることを特徴とする、透明遮熱微粒子分散体。
【請求項10】
前記媒質が、樹脂を含む液体、透明樹脂フィルム、透明樹脂フィルム板材、ガラス基材、化学繊維、ファブリックの中から選択される任意の1種であることを特徴とする、請求項9に記載の透明遮熱微粒子分散体。
【国際調査報告】